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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】含フッ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/35 20060101AFI20240409BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 43/17 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 41/30 20060101ALI20240409BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
C07C17/35
C07C19/08
C07C43/17
C07C41/30
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021546960
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035360
(87)【国際公開番号】W WO2021054414
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019171578
(32)【優先日】2019-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】高下 隆太
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103265403(CN,A)
【文献】国際公開第2018/228975(WO,A1)
【文献】特開平10-204004(JP,A)
【文献】特開2008-214199(JP,A)
【文献】特開平11-228454(JP,A)
【文献】国際公開第2005/075384(WO,A1)
【文献】特開2013-060417(JP,A)
【文献】特開2004-051595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/35
C07C 19/08
C07C 43/17
C07C 41/30
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(A1)又は式(A2)で表される化合物と、
グリニャール試薬とを、遷移金属化合物存在下で反応させることを含む、
含フッ素化合物の製造方法。
-CF -CH -L 式(A1)
L-CH (-CF -G -CF -CH -L 式(A2)
ただし、式中、
は、(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基、水素原子、アルキル基、又はフルオロアルキル基であり、
は、(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基、単結合、アルキレン基、又はフルオロアルキレン基であり、
Lはスルホナート基であって、式(A2)において複数あるLは、各々同一であっても異なっていてもよく、
nは0又は1である。
【請求項2】
式(A1)において、Gが(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基、又はペルフルオロアルキル基である、請求項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【請求項3】
式(A2)において、nが0であるか、又は、
nが1であって、Gが(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基、単結合、若しくはペルフルオロアルキレン基である、請求項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記グリニャール試薬が、下記式(B)で表される、請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
R-MgX 式(B)
ただし、式中、Rは置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。
【請求項5】
前記グリニャール試薬が、下記式(B1)で表される、請求項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
-CH-MgX 式(B1)
ただし、式中、Rは、水素原子であるか、又は置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。
【請求項6】
Lがトリフラート基である、請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【請求項7】
前記遷移金属化合物が銅を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化合物は、農薬、医薬、機能性材料など多様な分野で用いられており、多様な構造をより簡易な方法で合成することが求められている。
【0003】
フルオロアルキル基にアルキル基が結合した構造を有する化合物の合成方法に関し、種々の検討がなされている。
例えば特許文献1には、オレフィン化合物にペルフルオロアルキルブロミドをラジカル反応で付加する、含フッ素化合物の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献2の実施例には、求電子剤であるR-CFCHCH-I(Rはペルフルオロアルキル基)にグリニャール試薬を反応させる方法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、求電子性ペルフルオロアルキル化剤として、下式で表される化合物が開示されている。
【0006】
【化1】
ただし、Rはn-C2m+1、TfはSOCF、RはH又はFである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-43940号公報
【文献】国際公開第2018/228975号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Teruo Umemoto, “Electrophilic Perfluoroalkylating Agents”, Chem. Rev. 1996, 96, 1757-1777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1の手法は、オレフィンが反応するため、炭素‐炭素二重結合を有する化合物の合成には不適であり、また、求電子剤の種類が限定される。また生成物が更にラジカル反応してテロメイリゼーションし得るため、多種の副生物が生成される。
上記特許文献2の求電子剤は入手が容易でなかった。
また上記非特許文献1の求電子性ペルフルオロアルキル化剤は合成に多段階の工程が必要であり、収率が低くなり、また求電子剤として高価なものであった。
【0010】
本発明は、入手容易な化合物を用いて、比較的温和な反応条件で含フッ素化合物を製造する含フッ素化合物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を達成する構成として、本発明は下記[1]~[8]に関する。
[1] 下記式(a)で表される部分構造を有する化合物と、
グリニャール試薬とを、遷移金属化合物存在下で反応させることを含む、
含フッ素化合物の製造方法。
-CF-CH-L (a)
ただし、式中、Lはスルホナート基である。
【0012】
[2] 前記式(a)で表される部分構造を有する化合物が、下記式(A1)又は式(A2)で表される化合物である、請求項1に記載の含フッ素化合物の製造方法。
-CF-CH-L 式(A1)
L-CH(-CF-G-CF-CH-L 式(A2)
ただし、式中、
は、(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基、水素原子、アルキル基、又はフルオロアルキル基であり、
は、(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基、単結合、アルキレン基、又はフルオロアルキレン基であり、
Lはスルホナート基であって、式(A2)において複数あるLは、各々同一であっても異なっていてもよく、
nは0又は1である。
【0013】
[3] 式(A1)において、Gが(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基、又はペルフルオロアルキル基である、[2]に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【0014】
[4] 式(A2)において、nが0であるか、又は、
nが1であって、Gが(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基、単結合、若しくはペルフルオロアルキレン基である、[2]に記載の含フッ素化合物の製造方法。
【0015】
[5] 前記グリニャール試薬が、下記式(B)で表される、[1]~[4]のいずれか一項に記載の含フッ素化合物の製造方法。
R-MgX 式(B)
ただし、式中、Rは置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。
【0016】
[6] 前記グリニャール試薬が、下記式(B1)で表される、[5]に記載の含フッ素化合物の製造方法。
-CH-MgX 式(B1)
ただし、式中、Rは、水素原子であるか、又は置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。
【0017】
[7] Lがトリフラート基である、[1]~[6]のいずれかに記載の含フッ素化合物の製造方法。
【0018】
[8] 前記遷移金属化合物が銅を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の含フッ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、入手容易な化合物を用いて、反応条件も比較的温和な含フッ素化合物の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、式(a)で表される部分構造を部分構造(a)と記す。また、式(A1)で表される化合物を化合物(A1)と記す。他の式で表される化合物等もこれらに準ずる。
「(ポリ)オキシフルオロアルキレン」とは、オキシフルオロアルキレンとポリオキシフルオロアルキレンとの総称である。
ペルフルオロアルキル基とは、アルキル基の水素原子が全てフッ素原子で置換された基を意味する。またフルオロアルキル基とは、パーシャルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキル基とを合わせた総称である。パーシャルフルオロアルキル基とは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換され、かつ、水素原子を1個以上有するアルキル基である。
すなわちフルオロアルキル基は1個以上のフッ素原子を有するアルキル基である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0021】
[含フッ素化合物の製造方法]
本発明の含フッ素化合物の製造方法(以下、「本製造方法」とも記す。)は、前記式(a)で表される部分構造を有する化合物と、グリニャール試薬とを、遷移金属化合物存在下で反応させることを含む。
【0022】
グリニャール試薬を下記式(B)で表す場合、上記反応は下記スキーム(1)で表される。
R-MgX 式(B)
ただし、式中、Rは置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。
【0023】
スキーム(1)
-CF-CH-L + R-MgX → -CF-CH-R
ただし、スキーム(1)中の各符号は前述のとおりである。
【0024】
本製造方法は、グリニャール試薬と反応する部分構造(a)の脱離基Lとしてスルホナート基を用いたことにより、比較的温和な反応条件で上記スキーム(1)の反応を行うことができる。以下、本製造方法の各構成について詳細に説明する。
【0025】
部分構造(a)のLはスルホナート基(-O-SO-R)であり、グリニャール試薬との反応により脱離する。Rは有機基である。スルホナート基の具体例としては、トシラート基(OTs)、メシラート基(OMs)、トリフラート基(OTf)、ノナフラート基(ONf)などが挙げられる。中でも、スキーム(1)の反応収率の点から、トリフラート基が好ましい。
【0026】
部分構造(a)を有する化合物(以下、化合物(A)ともいう)は、部分構造(a)を1個以上有する化合物である。化合物(A)中の部分構造(a)の数は、反応収率の点から、1~6個が好ましく、1~4個がより好ましく、1~2個がより好ましい。
【0027】
化合物(A)の構造は、本製造方法により得られる含フッ素化合物の用途等に応じて適宜選択すればよい。
n5個の部分構造(a)を有する化合物(A)としては、下式(An5)で表される化合物が挙げられる。
G(-CF-CH-L)n5 式(An5)
ただし、式中
Gは、水素原子(ただしn5=1)、又はn5価の有機基であり、
n5は、1以上の整数であり、
Lは、前述のとおりである。
【0028】
Gにおける有機基は、1個以上の炭素原子を含む置換基である。有機基としては、置換基を有していてもよく、炭素鎖中又は部分構造(a)と結合する末端に、ヘテロ原子又は炭化水素基以外の結合を有してもよい炭化水素基が挙げられる。
当該炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びこれらの組み合わせが挙げられる。炭化水素基は炭素鎖中に二重結合又は三重結合を有していてもよい。組み合わせとしては、例えばアルキル基とアリール基が直接、ヘテロ原子を介して、又は炭化水素基以外の結合を介して結合したものなどが挙げられる。
ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子などが挙げられる。
ヘテロ原子は環構造の一部を構成していてもよい。また、ヘテロ原子のうち、窒素原子、硫黄原子、及びケイ素原子は、3つ以上の炭素原子と結合する分岐点を構成していてもよい。
炭化水素基以外の結合としては、例えば、アミド結合、ウレア結合、ウレタン結合などが挙げられる。
炭化水素基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基などが挙げられ、本製造方法における化合物の安定性の点から、ハロゲン原子が好ましく、中でもフッ素原子がより好ましい。
【0029】
有機基が、シクロアルキル基、アリール基などの環構造を有する場合、当該環構造としては、3~8員環の脂肪族環、6~8員環の芳香族環、3~8員環のヘテロ環、及びこれらの環のうちの2つ以上からなる縮合環などが挙げられ、下式に示す環構造が好ましい。
環構造は、置換基として、ハロゲン原子、エーテル結合を有していてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリル基、アルコキシ基、オキソ基等を有してもよい。
【0030】
【化2】
【0031】
化合物(A)のうち、環構造を含む化合物の好適な具体例としては、以下のものなどが挙げられる。
【0032】
【化3】
ただし、Lは前述のとおりである。
【0033】
本製造方法の高収率化の点から、前記化合物(A)が、下記式(A1)又は式(A2)で表される化合物であることが好ましい。
-CF-CH-L 式(A1)
L-CH(-CF-G-CF-CH-L 式(A2)
ただし、式中、
は、(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基、水素原子、アルキル基、又はフルオロアルキル基であり、
は、(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基、単結合、アルキレン基、又はフルオロアルキレン基であり、
Lはスルホナート基であって、式(A2)において複数あるLは、各々同一であっても異なっていてもよく、
nは0又は1である。
【0034】
のアルキル基又はフルオロアルキル基の炭素数は、本製造方法の高収率化などの点から、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~6が特に好ましい。
【0035】
における(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基は、式(A1)において、CFに結合する末端に-O-を有するか、炭素数2以上の炭素鎖の炭素-炭素原子間に-O-を有するか、又はこれらの両方を含むフルオロアルキル基である。製造の容易性などの点から、Gは下式(G1-1)で表される構造が好ましい。
f0O-[(Rf1O)m1(Rf2O)m2(Rf3O)m3(Rf4O)m4(Rf5O)m5(Rf6O)m6]-(Rf7m7- 式(G1-1)
ただし、
f0は、炭素数1~20のフルオロアルキル基であり、
f1は、炭素数1のフルオロアルキレン基であり、
f2は、炭素数2のフルオロアルキレン基であり、
f3は、炭素数3のフルオロアルキレン基であり、
f4は、炭素数4のフルオロアルキレン基であり、
f5は、炭素数5のフルオロアルキレン基であり、
f6は、炭素数6のフルオロアルキレン基であり、
f7は、炭素数1~6のフルオロアルキレン基であり、
m1、m2、m3、m4、m5、m6は、それぞれ独立に0又は1以上の整数を表し、m7は0又は1の整数であり、m1+m2+m3+m4+m5+m6+m7は0~200の整数である。
なお、式(G1-1)における(Rf1O)~(Rf6O)の結合順序は任意である。
式(G1-1)のm1~m6は、それぞれ、(Rf1O)~(Rf6O)の個数を表すものであり、配置を表すものではない。例えば、(Rf5O)m5は、(Rf5O)の数がm5個であることを表し、(Rf5O)m5のブロック配置構造を表すものではない。同様に、(Rf1O)~(Rf6O)の記載順は、それぞれの単位の結合順序を表すものではない。
m7が0のとき、GのCFに結合する末端は-O-である。m7が1のとき、GのCFに結合する末端は炭素原子(Rf7の末端の炭素原子)である。
【0036】
の具体例としては、CH-、CHCH-、CHCHCH-、CHCHCHCH-、CHCHCHCHCH-、CHCHCHCHCHCH-、CF-、CFCF-、CFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、CFCFCFCFCFCF-、CFCFCF-O-[(CF-O)m1(CFCF-O)m2]-、CFCFCF-O-CFCF-O-[(CF-O)m1(CFCF-O)m2]-、CF-O(-CFCF-O-CFCFCFCF-O)m8-CFCF-O-CFCF-、F(-CFCFCF-O)m3-CF-などが挙げられる(ただし、m8は1~100の整数である)。
【0037】
本製造方法においては、収率などの点から、式(A1)において、Gが(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する1価の基、又はペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0038】
のアルキレン基又はフルオロアルキレン基の炭素数は、本製造方法の高収率化などの点から、1~30が好ましく、1~20がより好ましく、1~10がさらに好ましく、1~6が特に好ましい。
【0039】
における(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基は、式(A2)において、CFに結合する2つの末端が各々独立に-O-を有するか、炭素数2以上の炭素鎖の炭素-炭素原子間に-O-を有するか、又はこれらの組み合わせであるフルオロアルキレン基である。製造の容易性などの点から、Gは下式(G2-1)で表される構造が好ましい。
-(O)m0-[(Rf1O)m1(Rf2O)m2(Rf3O)m3(Rf4O)m4(Rf5O)m5(Rf6O)m6]-(Rf7m7- 式(G2-1)
ただし、m0は0又は1の整数であり、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4、Rf5、Rf6、Rf7、m1、m2、m3、m4、m5、m6、及びm7は、前記Gにおけるものと同様である。なお、式(G2-1)における(Rf1O)~(Rf6O)の結合順序は任意であり、前記式(G1-1)で説明したとおりである。
m7が0のとき、GのCFに結合する片側末端は-O-である。m7が1のとき、GのCFに結合する片側末端は炭素原子(Rf7の末端の炭素原子)である。また、m0が1のとき、GのCFに結合する片側末端は-O-である。m0が0のとき、GのCFに結合する片側末端は炭素原子(Rf1~Rf7のいずれかの末端の炭素原子)である。なお、m0とm7は各々独立に0又は1である。
【0040】
の具体例としては、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCH-、-CHCHCHCHCH-、-CHCHCHCHCHCH-、-CF-、-CFCF-、-CFCFCF-、-CFCFCFCF-、-CFCFCFCFCF-、-CFCFCFCFCFCF-、-O-[(CF-O)m1(CFCF-O)m2]-などが挙げられる。
【0041】
なお、式(A2)において、nが0の場合、化合物(A)はL-CH-CF-CH-Lである。また、式(A2)において、nが1で、Gが単結合の場合、化合物(A)はL-CH-CF-CF-CH-Lである。
【0042】
本製造方法においては、収率などの点から、式(A2)において、nが0であるか、又は、nが1であって、Gが(ポリ)オキシフルオロアルキレン鎖を有する2価の基、単結合、若しくは、ペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。
【0043】
化合物(A)の好適な具体例としては、以下のものなどが挙げられる。
【0044】
【化4】
ただし、n1、n2、n3、及びn4は、1~100の整数である。
【0045】
なお、式(A1)において、Gがフッ素原子である場合、即ち、化合物(A)がCF-CH-Lの場合でも本製造方法を適用することが可能である。しかしながら本製造方法は、脱離基Lに対するβ炭素にフッ素原子が2個結合し、さらに炭素鎖等が伸びた構造に対して優れた反応性を有することを特徴の一つとするものであり、Gとしてはフッ素原子の場合を除いている。
【0046】
化合物(A)は、例えば、トリエチルアミンやピリジンなどの有機アミン化合物存在下で、下式(A1-2)又は式(A2-2)で表される化合物に、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、トシルクロリド、メシルクロリドなどを反応させて、スルホナート化する方法などにより製造できる。
-CF-CH-OH 式(A1-2)
HO-CH(-CF-G-CF-CH-OH 式(A2-2)
ただし、式中のG、G及びnは前述のとおりである。
【0047】
グリニャール試薬は、前記部分構造(a)と反応し得るものであればよい。本製造方法においては、副反応などを抑制する点からグリニャール試薬は下記式(B)で表される化合物であることが好ましい。
R-MgX 式(B)
ただし、式中、Rは置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。
【0048】
Rは前記化合物(A)に導入する所望の構造を有するものの中から適宜選択して用いることができる。
Rにおける炭化水素基は、直鎖アルキル基、分岐を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びこれらの組み合わせからなる基を基本骨格として、ヘテロ原子を有していてもよく、置換基を有していてもよく、二重結合又は三重結合を有していてもよい。
ヘテロ原子としては、窒素原子(N)、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si)などが挙げられ、化合物の安定性の点から、N、O又はSが好ましい。また置換基としては、フッ素原子が好ましい。本製造方法における収率を向上するなどの点から、Rの炭素数は1~30が好ましく、1~20がより好ましく1~15がさらに好ましい。
【0049】
Xにおけるハロゲン原子は、反応性の点から、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子が好ましく、中でも塩素原子又は臭素原子がより好ましい。
【0050】
このようなグリニャール試薬としては、例えば、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムクロリドなど、マグネシウム結合する炭素原子が第1級炭素原子である第1級アルキルグリニャール試薬;イソプロピルマグネシウムクロリドなどの第2級アルキルグリニャール試薬;tert-ブチルマグネシウムクロリドなどの第3級アルキルグリニャール試薬;フェニルマグネシウムクロリドなどのアリールグリニャール試薬や、ビニルマグネシウムクロリドなどが挙げられる。
【0051】
本製造方法においては、目的物が高収率で得られる点から、グリニャール試薬が下記式(B1)で表されるグリニャール試薬であることが好ましい。
-CH-MgX 式(B1)
ただし、式中、Rは、水素原子であるか、又は置換基を有していてもよく、炭素鎖中にヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基であり、Xはハロゲン原子である。Rは、Rから-CHを除いた残基であることが好ましい。
【0052】
マグネシウム結合する炭素原子が第1級炭素原子であることで本製造方法が比較的穏やかな反応条件で実施できる。
【0053】
式(B1)の好適な具体例としては、以下のものなどが挙げられる。
【0054】
【化5】
【0055】
グリニャール試薬は、例えば、下式(B2)と金属マグネシウムとを反応させることにより製造できる。また、所望の構造を有する市販品を用いてもよい。
R-X 式(B2)
ただし、R及びXは前述のとおりである。
【0056】
スキーム(1)の反応において、グリニャール試薬の使用量は、目的物の収率向上の観点から、化合物(A)が有する脱離基Lの総数に対して、1当量から30当量が好ましく、3当量から20当量がより好ましく、5当量から15当量がさらに好ましい。
【0057】
遷移金属化合物はグリニャール反応に用いられる公知の触媒の中から適宜選択して用いることができる。遷移金属化合物としては、遷移金属として周期表3族~12族の元素を含む化合物が好ましく、中でも、8族~11族元素を含む化合物が好ましい。8族~11族元素としては、中でも、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、鉄より選択される1種以上の元素を含むことが好ましく、更に銅を含むことがより好ましい。
【0058】
遷移金属化合物が銅を含む場合、当該銅は0価、1価、2価、3価のいずれの化合物であってもよいが、触媒能の点から中でも1価又は2価の銅の塩又は錯塩が好ましい。更に入手の容易性などの点から、塩化銅がより好ましい。塩化銅は、CuCl、CuClのいずれも好適に用いることができる。なお、塩化銅は無水物であっても水和物であってもよいが、触媒能の点から、塩化銅無水物がより好ましい。遷移金属化合物の使用量は、化合物(A)が有する脱離基Lの総数に対して、例えば、0.1~50モル%、好ましくは1~30モル%、さらに好ましくは2~20モル%である。
【0059】
本製造方法の反応においては、必要に応じて触媒となる遷移金属化合物に配位子を組み合わせて用いてもよい。配位子を用いることで目的物の収率が向上する。一方、本製造方法においては配位子を用いなくても十分な収率が得られるため、当該配位子は使用しなくてもよい。
上記配位子としては、例えば、1,3-ブタジエン、フェニルプロピン、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)などが挙げられる。配位子を使用する場合、使用量は目的物の収率向上の点から、化合物(A)が有する脱離基Lの総数に対して、0.01~2.0当量用いることが好ましく、0.1~1.2当量がより好ましい。
【0060】
また本製造方法の反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒は、化合物(A)及びグリニャール試薬を溶解し得る溶媒の中から適宜選択して用いることができる。溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせた混合溶媒であってもよい。
例えば、化合物(A)が比較的フッ素原子含有量(化合物分子の分子量に占めるフッ素原子の割合)の低い化合物である場合、溶媒としては反応に不活性な溶媒であれば特に限定されない。反応に不活性な溶媒としては、中でも、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒が好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。
また、化合物(A)が比較的フッ素原子含有量の高い化合物である場合には、前記エーテル系溶媒と、フッ素系溶媒とを組み合わせた混合溶媒が好ましい。
フッ素系溶媒としては、例えば、ハイドロフルオロカーボン類(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、2H,3H-ペルフルオロペンタン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン類(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(HCFC-225cb)等)、ハイドロフルオロエーテル類(CFCHOCFCFH(AE-3000)、(ペルフルオロブトキシ)メタン、(ペルフルオロブトキシ)エタン等)、ハイドロクロロフルオロオレフィン類((Z)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(Z)体)、(E)-1-クロロ-2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ-1-ペンテン(HCFO-1437dycc(E)体)、(Z)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(Z)体)、(E)-1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(HCFO-1233yd(E)体)等)、含フッ素芳香族化合物類(ペルフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(SR-ソルベント)、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等)等が挙げられる。
【0061】
本製造方法は、例えば、化合物(A)を含む溶液を準備し、遷移金属化合物と、必要に応じて配位子を添加した後、別途調製したグリニャール試薬溶液を添加することで実施できる。
化合物(A)とグリニャール試薬との反応温度は、化合物(A)とグリニャール試薬との組み合わせに応じて適宜調整すればよい。例えば、-20℃~66℃(テトラヒドロフランの沸点)とすればよく、-20℃~40℃が好ましい。
【実施例
【0062】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、例1、例3~10及び例12~13が実施例であり、例2及び例11が比較例である。
【0063】
[合成例:化合物(A1-1)の合成]
1H,1H-Tridecafluoro-1-heptanol(10.5g)、ジクロロメタン(100mL)、トリエチルアミン(6.0mL)を加え、0℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(5.6mL)を加え、室温で撹拌した。水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を留去し、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーを行うことで、下記化合物(A1-1)の4.73gを得た。
化合物(A1-1)のNMR測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,Chloroform-d)δ 4.84(t,J=12.3Hz,2H).
19F-NMR(376MHz,Chloroform-d)δ -74.50,-81.04~-81.61(m),-120.19(t,J=14.3Hz),-122.08~-122.94(m),-122.94~-123.72(m),-126.21~-126.94(m).
【0064】
【化6】
OTfはトリフラート:-O-S(=O)(-CF)である。
【0065】
[例1:含フッ素化合物(1)の製造]
前記化合物(A1-1)(241mg)、CuCl(12.1mg)、1,3-ブタジエンTHF溶液(2.0M,0.25mL)を加え、10℃に冷却した後、n-ブチルマグネシウムクロリドのTHF溶液(0.88M,5.1mL)を滴下し、室温で撹拌した。0℃に冷却した後、1M塩酸を加え、AE-3000で抽出した。硫酸ナトリウムを加え乾燥させた後、ろ過と濃縮を行い、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーによって、下記含フッ素化合物(1)を84.0mg得た。なお、THFはテトラヒドロフランである。
含フッ素化合物(1)のNMR測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,Chloroform-d)δ 2.49~1.84(m,2H),1.63~1.11(m,6H),1.00~0.81(m,3H).
19F-NMR(376MHz,Chloroform-d)δ -81.57(t,J=9.7Hz),-115.20(ddd,J=18.7,14.6,4.6Hz),-122.73,-123.65,-124.35,-126.92.
【0066】
【化7】
【0067】
[例2~9:含フッ素化合物(1)の製造方法]
上記例1において、n-ブチルマグネシウムクロリド、1,3-ブタジエン、CuClの配合量を下表1のように変更した以外は、例1と同様にして、含フッ素化合物(1)を製造した。
【0068】
[例10:含フッ素化合物(1)の製造方法]
上記例1において、CuClの代わりにCuClを用い、配合量を下表1のよう変更した以外は例1と同様にして、含フッ素化合物(1)を製造した。
【0069】
[例11:含フッ素化合物の製造]
下記化合物(X1)を用いて、前記含フッ素化合物(1)の製造を試みた。
1H,1H-Tridecafluoro-1-heptanolにトリフェニルホスフィン、四臭化炭素を加え、ジクロロメタン中で反応させて、下記化合物(X1)を合成したが、当該化合物(X1)は不安定で精製時に分解しアルコールに戻った。そのため含フッ素化合物(1)の合成には不適であることが分かった。
【0070】
【化8】
【0071】
例1~例10の合成における、各成分の配合比率と、得られた目的物の収率を表1に示す。
なお、表1中のe.q.(当量)及びmol%は、求電子剤のトリフラート基の数を基準とする。表中のハイフン(-)は添加していないことを示す。
また、収率は、目的物を19F-NMRを用いて内部標準法(内部標準:ヘキサフルオロベンゼン)により定量し、下式により求めた。例1については単離収率も求めた(表1カッコ内)。
収率 = 目的物 / 化合物(A1-1) ×100[%]
【0072】
【表1】
【0073】
表1の通り、前記式(a)で表される部分構造を有する化合物である化合物(A1-1)とグリニャール試薬とを、遷移金属化合物存在下で反応させることを含む、例1、例3~10の製造方法によれば、目的とする含フッ素化合物を比較的温和な反応条件で合成することができることが示された。
下記例12~13では、本製造方法により種々の化合物が合成できることを示す。
【0074】
[例12:含フッ素化合物(2)の製造]
(合成例12-1:化合物(12-1)の合成)
2,2,3,3-Tetrafluoro-1,4-butanediol(1.58g)、ジクロロメタン(100 mL)、ピリジン(2.2mL)を加え、0℃に冷却した。トリフルオロメタンスルホン酸無水物(7.18g)を加え、室温で3時間撹拌した。水で2度洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を留去し、ヘキサンを加えた。30分撹拌後、ろ過、減圧乾燥を行うことで、下記化合物(12-1)の3.70gを得た。
化合物(12-1)のNMR測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,Chloroform-d)δ:4.93~4.75(m,4H).
19F-NMR(376MHz,Chloroform-d)δ:-74.68,-120.99~-121.24(m).
【0075】
【化9】
【0076】
(合成例12-2:含フッ素化合物(2)の合成)
上記化合物(12-1)(213mg)、CuCl(1.3mg)、を加え、10℃に冷却した後、n-ブチルマグネシウムクロリドのTHF溶液(0.88M, 5.1mL)を滴下し、室温で1時間撹拌した。0℃に冷却した後、1M塩酸を加え、AE-3000で抽出した。硫酸ナトリウムを加え乾燥させた後、ろ過と濃縮を行い、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーによって、下記含フッ素化合物(2)を30.1mg得た。
化合物(2)のNMR測定結果を以下に示す。
H-NMR(400MHz,Chloroform-d)δ:2.17~1.88(m,4H),1.60~1.31(m,12H),0.99~0.83(m,6H).
19F-NMR(376MHz,Chloroform-d)δ:-116.28~-116.59(m).
【0077】
【化10】
【0078】
[例13:含フッ素化合物(3)の製造]
(合成例13-1:化合物(13-1)の合成)
国際公開2013/121984号の実施例7に記載の方法に従い、下記化合物(13-1)を得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)(CFCFO)-CFCFCF-CHOH ・・・式(13-1)
繰り返し単位数nの平均値は13である。
【0079】
(合成例13-2:化合物(13-2)の合成)
前記化合物(13-1)(6.80g)、2,6-ルチジン(0.759g),AE-3000(28.0g)を加え、0℃で撹拌した。無水トリフルオロメタンスルホン酸(0.987g)を加えた後、室温で撹拌した。水で洗浄した後、溶媒を留去し、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーを行うことで、下記化合物(13-2)を6.81g得た。
CF-O-(CFCFO-CFCFCFCFO)(CFCFO)-CFCFCF-CHOTf ・・・式(13-2)
繰り返し単位数nの平均値は13であり、OTfはトリフラート:-O-S(=O)(-CF)である。
【0080】
化合物(13-2)のNMRスペクトル;
H-NMR(400MHz,Chloroform-d) δ(ppm):4.78(t,J=12.3Hz,2H).
19F-NMR(376MHz,Chloroform-d) δ(ppm):-55.28,-74.11,-82.86,-88.07,-90.20,-119.84,-125.28,-126.16.
【0081】
(合成例13-3:化合物(13-3)の合成]
DiethylDiallylmalonate(60.0g)、塩化リチウム(23.7g)、水(6.45g)、ジメチルスルホキシド(263g)を加え、160℃で撹拌した。室温まで冷却した後、水を加え、酢酸エチルで抽出した。ヘキサンを有機層に加え、飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を留去することで、下記化合物(13-3)を39.5g得た。
【0082】
【化11】
【0083】
化合物(13-3)のNMRスペクトル;
H-NMR(400MHz,Chloroform-d) δ(ppm):(ddt,J=17.1,10.1,7.0Hz,2H),5.06~4.94(m,4H),4.09(q,J=7.1Hz,2H),2.47(ddd,J=14.0,8.0,6.1Hz,1H),2.33(dt,J=14.9,7.5Hz,2H),2.22(dt,J=14.1,6.5Hz,2H),1.21(t,J=7.1Hz,3H).
【0084】
(合成例13-4:化合物(13-4)の合成)
THF(260mL)、ジイソプロピルアミン(29.8g)を加えた後、溶液を-78℃まで冷却した。n-ブチルリチウムヘキサン溶液(2.76M,96.6mL)を加え、0℃まで昇温した。撹拌した後、-78℃まで冷却し、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)のTHF溶液を調製した。上記化合物(13-3)(39.5g)をTHF溶液に加え、撹拌した後、臭化アリル(24.1mL)を加えた。0℃に昇温し、1M塩酸(100mL)を加え、THFを減圧留去した。ジクロロメタンで抽出した後、硫酸ナトリウムを加えた。ろ過後、溶媒を留去し、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーを行うことで、化合物(13-4)を45.0g得た。
【0085】
【化12】
【0086】
化合物(13-4)のNMRスペクトル;
H-NMR(400MHz,Chloroform-d) δ(ppm):5.74~5.62(m,3H),5.04(dd,J=13.6,1.9Hz,6H),4.10(q,J=7.1Hz,2H),2.29(d,J=7.4Hz,6H),1.22(t,J=7.1Hz,3H).
【0087】
(合成例13-5:化合物(13-5)の合成)
上記化合物(13-4)(45.0g)をTHF(620mL)に溶解させ、0℃に冷却した。水素化リチウムアルミニウムのTHF溶液(104mL)を加え、撹拌した。水、15%水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温で撹拌した後、ジクロロメタンで希釈した。ろ過後、溶媒を留去し、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーを行うことで、下記化合物(13-5)を31.3g得た。
【0088】
【化13】
【0089】
化合物(13-5)のNMRスペクトル;
H-NMR(400MHz,Chloroform-d) δ(ppm):5.90~5.76(m,3H),5.10~5.02(m,6H),3.38(s,2H),2.03(dt,J=7.5,1.2Hz,6H),1.45(s,1H).
【0090】
(合成例13-6:化合物(13-6)の合成)
アセトニトリル(380mL)、前記化合物(13-5)(31.3g)、トリフェニルホスフィン(64.3g)、四塩化炭素(33.9g)を加え、90℃で撹拌した。濃縮後、酢酸エチル/ヘキサンを加え撹拌した。ろ過、濃縮後、蒸留によって、下記化合物(13-6)を28.2g得た。
【0091】
【化14】
【0092】
化合物(13-6)のNMRスペクトル;
H-NMR(400MHz,Chloroform-d) δ(ppm):5.83~5.67(m,3H),5.16~5.01(m,6H),3.32(s,2H),2.05(dt,J=7.5,1.1Hz,6H).
【0093】
(合成例13-7:化合物(13-7)の合成)
マグネシウム(2.36g)にTHF(35mL)、ヨウ素(0.180g)を加えて、室温で撹拌した。前記化合物(13-6)(14.0g)のTHF(35mL)溶液を加え、2時間加熱還流することで、下記化合物(13-7)の溶液(1.0M)を調製した。
【0094】
【化15】
【0095】
(合成例13-8:含フッ素化合物(3)の合成)
CuCl(16.0mg)、1-フェニル-1-プロピン(0.052g)、1,3-ビストリフルオロメチルベンゼン(24mL)、前記化合物(13-1)(4.00g)を加えた後、前記化合物(13-7)(5.0mL,1.0M)を加えた。室温で撹拌した後、1M塩酸で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過後、溶媒を留去し、AC-6000を加えた。MeOHで洗浄した後、シリカゲルを用いたフラッシュカラムクロマトグラフィーを行うことで、下記含フッ素化合物(3)を0.139g得た。なお、AC-6000はC13である。
【0096】
【化16】
繰り返し単位の平均値(n):10
【0097】
化合物(3)のNMRスペクトル;
H-NMR(400MHz,Chloroform-d) δ(ppm):5.77(ddt,J=14.9,10.7,7.4Hz,3H),5.07~4.99(m,6H),2.19~2.05(m,2H),1.97(d,J=7.4Hz,6H),1.59~1.50(m,2H).
19F-NMR(376MHz,Chloroform-d) δ(ppm):-55.29,-82.90,-88.13,-90.24(d,J=8.0Hz),-114.62,-125.34,-126.49.
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、農薬、医薬、機能性材料など多様な分野で用いられる含フッ素化合物を、入手容易な化合物を用いて、比較的温和な反応条件で合成することができる。また、例えば炭素-炭素二重結合を有するグリニャール試薬を用いることで、化合物(A)に容易に二重結合を付加することができ、様々な化合物を合成するための原料としても有用な化合物を得ることができる。
【0099】
この出願は、2019年9月20日に出願された日本出願特願2019-171578を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。