IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許7468662ニッケル含有水酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
<>
  • 特許-ニッケル含有水酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ニッケル含有水酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240409BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240409BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240409BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022538003
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2021026985
(87)【国際公開番号】W WO2022019273
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2020124702
(32)【優先日】2020-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀造
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-164123(JP,A)
【文献】国際公開第2019/117282(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104688(WO,A1)
【文献】特開2012-004109(JP,A)
【文献】特開2017-084628(JP,A)
【文献】特開2016-149258(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061579(WO,A1)
【文献】特開2014-063732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/00-4/62
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応前水溶液を調製する反応前水溶液調製工程と、
前記反応前水溶液を撹拌しながら、前記反応前水溶液に対して、金属塩として少なくともニッケル塩を含む金属塩水溶液と、前記金属塩と反応して金属水酸化物を生成する中和剤と、錯化剤とを供給し、バッチ式でニッケル含有水酸化物を得る晶析工程と、を有し、
前記反応前水溶液は、水と、前記中和剤とを含んでおり、前記晶析工程を開始する際、前記反応前水溶液の溶存酸素濃度が0.1mg/L以下であり、
前記晶析工程の間、前記反応前水溶液を配置した撹拌槽内の雰囲気を不活性ガス雰囲気とする、ニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記ニッケル含有水酸化物が、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、元素M(M)とを、物質量の比で、Ni:Mn:Co:M=1-x-y-z:x:y:zの割合で含有し、
前記xは0.1≦x≦0.5、前記yは0≦y≦1/3、前記zは0≦z≦0.1であり、x≦1-x-y-zの関係を満たし、前記元素Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wからなる金属群から選択される1種類以上である請求項1に記載のニッケル含有水酸化物の製造方法。
【請求項3】
ニッケル含有化合物と、リチウム化合物とを混合し、原料混合物を調製する混合工程と、
前記原料混合物を焼成する焼成工程と、を有し、
前記ニッケル含有化合物が、請求項1または請求項2に記載のニッケル含有水酸化物の製造方法で得られたニッケル含有水酸化物、および前記ニッケル含有水酸化物の酸化焙焼物から選択された1種類以上であるリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程において、前記ニッケル含有化合物と前記リチウム化合物とを、前記原料混合物中のリチウム以外の金属の物質量の和(Me)に対する、リチウムの物質量(Li)の比(Li/Me比)が、1.00より大きく1.10以下となるように混合する請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
リチウム、ニッケルを含むリチウム金属複合酸化物粒子を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
平均粒径が3μm以上6μm以下であり、かつ
以下の式(A)で算出される粒度分布指数が0.4以上0.5以下であり、
(粒度分布指数)=(D90-D10)÷体積平均粒径 ・・・(A)
リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、元素M(M)とを、物質量の比で、Li:Ni:Mn:Co:M=a:1-x-y-z:x:y:zの割合で含有し、
前記aは0.95≦a≦1.10、前記xは0.1≦x≦0.5、前記yは0≦y≦1/3、前記zは0≦z≦0.1であり、x≦1-x-y-zの関係を満たし、前記元素MはMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wからなる金属群から選択される1種類以上であり、
前記リチウム金属複合酸化物粒子の空隙率が10%以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム金属複合酸化物粒子の空隙率が1%以下である、請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル含有水酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットPCなどの小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウムイオン二次電池の需要が急激に伸びている。リチウムイオン二次電池の正極活物質として、リチウムコバルト複合酸化物や、リチウムニッケル複合酸化物等のリチウムを含有する複合酸化物が用いられている。
【0003】
上記リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物と比べて高容量であり、原料であるニッケルがコバルトと比べて安価であるといった利点を有している。このため、次世代の正極材料として期待され、リチウムニッケル複合酸化物について研究開発が続けられている。
【0004】
リチウムコバルト複合酸化物や、リチウムニッケル複合酸化物等のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法については従来から各種方法が提案されている。例えばニッケル複合水酸化物等のリチウムイオン二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、Ni塩とM塩の混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)を得る晶析工程と、
得られたニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00~1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、前記リチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、
得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程と、を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2012-119093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年ではリチウムイオン二次電池の更なる性能向上が求められている。例えば電極作製時に潰れにくく、リチウムイオン二次電池に適用した場合に、電池容量に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められていた。このため、粒子内部の空隙を抑制した密なリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められている。
【0008】
そして、リチウムイオン二次電池用正極活物質の粉体特性は、前駆体であるニッケル含有水酸化物の粉体特性の影響を強く受ける。このため、リチウムイオン二次電池用正極活物質とした場合に、空隙率を抑制できるニッケル含有水酸化物の製造方法が求められていた。
【0009】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池用正極活物質とした場合に、空隙率を抑制できるニッケル含有水酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
反応前水溶液を調製する反応前水溶液調製工程と、
前記反応前水溶液を撹拌しながら、前記反応前水溶液に対して、金属塩として少なくともニッケル塩を含む金属塩水溶液と、前記金属塩と反応して金属水酸化物を生成する中和剤と、錯化剤とを供給し、バッチ式でニッケル含有水酸化物を得る晶析工程と、を有し、
前記反応前水溶液は、水と、前記中和剤とを含んでおり、前記晶析工程を開始する際、前記反応前水溶液の溶存酸素濃度が0.1mg/L以下であり、
前記晶析工程の間、前記反応前水溶液を配置した撹拌槽内の雰囲気を不活性ガス雰囲気とする、ニッケル含有水酸化物の製造方法を提供する。

【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池用正極活物質とした場合に、空隙率を抑制できるニッケル含有水酸化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例、比較例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[ニッケル含有水酸化物の製造方法]
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法の一構成例について説明する。
【0014】
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0015】
反応前水溶液を調製する反応前水溶液調製工程。
反応前水溶液を撹拌しながら、反応前水溶液に対して、金属塩として少なくともニッケル塩を含む金属塩水溶液と、金属塩と反応して金属水酸化物を生成する中和剤と、錯化剤とを供給し、ニッケル含有水酸化物を得る晶析工程。
【0016】
そして、反応前水溶液は、水と、中和剤とを含んでおり、晶析工程を開始する際、反応前水溶液の溶存酸素濃度を0.1mg/L以下にできる。
【0017】
本発明の発明者は、リチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)とした場合に、空隙率を抑制できるニッケル含有水酸化物の製造方法について鋭意検討を行った。
【0018】
そして、本発明の発明者は、晶析工程開始時、すなわち核生成反応開始時の、反応前水溶液の溶存酸素濃度を抑制することで、得られるニッケル含有水酸化物を用いて製造した正極活物質の空隙率を抑制できることを見出した。係る原因は明らかではないが、以下のように推察している。
【0019】
晶析工程開始時の反応前水溶液の溶存酸素濃度が高いと、析出した核が酸素と結合し、針状形状を有する核を生じ易くなる。係る針状形状の核は成長しても針状形状を維持するため、ニッケル含有水酸化物の粒子のうち、係る針状形状の核に由来する部分は密度が低くなる。そして、係る密度の低い部分は、正極活物質とした場合に空隙になると考えられる。このため、晶析工程開始直前の反応前水溶液の溶存酸素濃度を抑制することで、空隙の原因となる針状形状の核の生成を抑制し、正極活物質とした場合に空隙率を抑制できると考えられる。
【0020】
以下、本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法が有する工程について説明する。
(1)反応前水溶液調製工程
反応前水溶液調製工程では、撹拌槽内に水等を供給し、反応前水溶液を調製できる。具体的には例えば撹拌槽内に水と中和剤とを供給できる。反応前水溶液には必要に応じて、錯化剤を供給することもできる。
【0021】
反応前水溶液を調製する際、各成分の添加量は特に限定されるものではない。ただし、反応前水溶液は、反応前水溶液のpH値が、液温40℃基準において、12.0以上13.0以下となるように調製することが好ましい。
【0022】
また、反応前水溶液は、反応前水溶液中のアンモニウムイオンの濃度が、0以上15g/L以下となるように調製することが好ましく、5g/L以上12g/L以下となるように調製することがより好ましい。例えば錯化剤の添加量を調整することで反応前水溶液中のアンモニウムイオン濃度を調整できる。
【0023】
中和剤としてはアルカリ水溶液を用いることができ、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物から選択された1種類以上を含むアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、中和剤として、アルカリ水溶液に替えて、アルカリ化合物、例えばアルカリ金属水酸化物を水溶液にせずに用いることもできる。ただし、反応前水溶液のpH制御の容易さから、中和剤は水に溶解し、水溶液としてから用いることが好ましい。
【0024】
錯化剤としては特に限定されないが、アンモニウムイオン供給体を好ましく用いることができる。このため、錯化剤としては例えば、炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、塩化アンモニウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液から選択された1種類以上を好ましく用いることができる。
【0025】
そして、既述のように本発明の発明者の検討によると、正極活物質における空隙率を抑制するためには、晶析工程を開始する際の反応前水溶液中の溶存酸素濃度を0.1mg/L以下に抑制することが好ましい。
【0026】
このため、反応前水溶液について、溶存酸素濃度を0.1mg/L以下となるように酸素を低減、除去しておくことが好ましい。
【0027】
反応前水溶液中の酸素を低減、除去する方法は特に限定されないが、例えば(a)反応前水溶液を加熱する方法、(b)反応前水溶液中に不活性ガスを供給、バブリングする方法、(c)反応前水溶液に超音波をかける方法等から選択された1種類以上が挙げられる。反応前水溶液中の酸素を低減、除去する方法は1種類に限定されず、例えば上記(a)~(c)から選択された2種類以上の方法を組み合わせて用いることもできる。なお、例えば上記(a)~(c)から選択された1種類以上の方法を実施している間、反応前水溶液を撹拌していてもよい。
【0028】
また、反応前水溶液中の酸素を低減除去した後、反応前水溶液内に酸素が溶け込むことを抑制するため、併せて反応前水溶液を入れた撹拌槽内の雰囲気を不活性雰囲気に置換し、酸素濃度を低減しておくことが好ましい。
【0029】
(a)の反応前水溶液を加熱する方法を用いる場合、加熱温度、すなわち加熱後の反応前水溶液の温度は特に限定されないが、例えば30℃以上80℃以下であることが好ましく、35℃以上70℃以下であることがより好ましい。加熱温度を30℃以上とすることで、反応前水溶液内の酸素を特に低減、除去できる。また、加熱温度を80℃以下とすることで、反応前水溶液の水等の蒸発を抑制し、pH等が変動することを抑制できる。
【0030】
(b)の反応前水溶液中に不活性ガスを供給、バブリングする方法を用いる場合、その条件は特に限定されず、反応前水溶液中の溶存酸素濃度を確認しながら実施できる。例えば、バブリングは12時間以上48時間以下行うことが好ましく、20時間以上36時間以下行うことがより好ましい。バブリングを12時間以上行うことで、反応前水溶液中の酸素を特に低減、除去できる。ただし、過度に長時間行っても反応前水溶液内の溶存酸素濃度は大きく変化しないため、上述のように48時間以下とすることが好ましい。
【0031】
反応前水溶液に不活性ガスを供給、バブリングする場合、その吹込み量は特に限定されないが、反応前水溶液の体積に対して、1.0Nm/L以上吹き込むことが好ましい。
【0032】
反応前水溶液に吹き込む不活性ガスとしては特に限定されないが、例えば窒素ガスを好ましく用いることができる。
【0033】
(c)反応前水溶液に超音波をかける方法を用いる場合、超音波をかける時間は特に限定されず、反応前水溶液中の溶存酸素濃度を確認しながら調整できる。
【0034】
また、既述のように、反応前水溶液に酸素が溶け込むことを抑制するため、撹拌槽内の雰囲気を不活性雰囲気に置換することが好ましい。
【0035】
例えば、撹拌槽内に不活性ガスを所定時間供給し、撹拌槽内の雰囲気を置換する方法が挙げられる。撹拌槽内に不活性ガスを供給する時間は特に限定されないが、例えば12時間以上48時間以下行うことが好ましく、20時間以上36時間以下行うことがより好ましい。不活性ガスの供給を12時間以上行うことで、撹拌槽内の酸素を低減し、反応前水溶液中の酸素を低減、除去できる。ただし、過度に長時間行っても撹拌槽内や反応前水溶液内の溶存酸素濃度は大きく変化しないため、上述のように48時間以下とすることが好ましい。撹拌槽内の雰囲気を置換するために不活性ガスを供給する場合、撹拌槽内に不活性ガスを供給できればよく、その供給形態は特に限定されない。撹拌槽内の雰囲気を置換するための不活性ガスは、例えば撹拌槽の反応前水溶液が占有していない領域に供給してもよい。ただし、反応前水溶液の溶存酸素を特に低減する観点からは、係る撹拌槽内の雰囲気を置換するためのガスを反応前水溶液の液中に供給することもできる。
【0036】
撹拌槽内の雰囲気を置換するために不活性ガスを供給する場合、その吹込み量は特に限定されないが、反応前水溶液の体積に対して0.5Nm/L以上吹き込むことが好ましい。
【0037】
撹拌槽に供給する不活性ガスとしては特に限定されないが、例えば窒素ガスを好ましく用いることができる。
【0038】
なお、反応前水溶液を調製する際に用いる水や中和剤について、予め溶存酸素濃度を抑制しておくことが好ましい。このため、水や中和剤について、上述の反応前水溶液中の酸素を低減、除去する方法として例示した方法から選択された1種類以上の方法により、溶存酸素濃度を低減、除去しておくことが好ましい。また、後述する晶析工程に用いる金属塩水溶液や、中和剤についても同様に溶存酸素濃度を低減、除去しておくことが好ましい。
【0039】
上記反応前水溶液中の酸素を低減、除去する方法は、晶析工程を開始する直前に終了し、続けて晶析工程を実施することが好ましい。なお、晶析工程を開始する前に、反応前水溶液中の溶存酸素濃度を測定し、0.1mg/L以下になっていることを確認することが好ましい。そして、溶存酸素濃度が0.1mg/L以下になっていない場合、再度反応前水溶液中の酸素を低減、除去することが好ましい。
【0040】
晶析工程を開始する際、反応前水溶液の温度(液温)は特に限定されないが、例えば20℃以上60℃以下であることが好ましく、30℃以上50℃以下であることがより好ましい。
(2)晶析工程
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法の晶析工程はバッチ式で行うことができ、主に核生成を行う核生成工程と、粒子(核)を成長させる粒子成長工程とを有することができる。以下、核生成工程と、粒子成長工程とに分けて晶析工程を説明する。
(2-1)核生成工程
核生成工程では、撹拌槽内に、金属塩水溶液と、中和剤と、錯化剤とを供給、混合して反応水溶液を形成できる。後述する粒子成長工程での反応水溶液と区別する場合には、核生成工程での反応水溶液を第1反応水溶液とし、粒子成長工程での反応水溶液を第2反応水溶液と表記する。
【0041】
金属塩水溶液は、金属塩として少なくともニッケル塩を含む酸性の金属塩水溶液を用いることができる。
【0042】
金属塩水溶液は、例えば水に金属塩(金属化合物)を添加して調製できる。金属塩水溶液に用いる金属塩としては特に限定されるものではないが、水溶性の金属塩を用いることが好ましく、水溶性の金属塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等が挙げられる。
【0043】
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法により得られるニッケル含有水酸化物は、ニッケル以外の金属成分を含有することもできる。そして、本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法により得られるニッケル含有水酸化物が含有する金属の組成比は、撹拌槽に供給する金属塩水溶液に含まれる各金属の組成比とほぼ同じとなる。このため、撹拌槽に供給する金属塩水溶液中の各金属の組成比が、目的とするニッケル含有水酸化物における各金属の目標組成比と同じ組成比となるように水に溶解させる金属化合物の割合を調整することが好ましい。
【0044】
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法によれば、例えばニッケル以外の金属元素も含有するニッケル含有水酸化物を製造できる。
【0045】
例えば、マンガンは酸素と特に結合し易い。このため、従来マンガンを含むニッケル含有水酸化物を用いて製造した正極活物質は、その粒子内に特に空隙が生じ易かった。一方、本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法によれば、係る酸素との結合を抑制し、マンガンを含むニッケル含有水酸化物を用いて正極活物質を製造した場合でも、該正極活物質の粒子内の空隙率を抑制でき、特に高い効果を発揮できる。このため、金属塩水溶液は、ニッケル塩以外に、マンガン塩を含有することが好ましく、例えばニッケル塩、マンガン塩、およびコバルト塩を含有することがより好ましい。
【0046】
また、本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法によれば、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wからなる金属群から選択された1種類以上の元素Mをさらに含有するニッケル含有水酸化物を製造することもできる。このため、金属塩水溶液には、目的とするニッケル含有水酸化物の組成に応じて、上記金属群から選択された1種類以上の金属を含む金属塩をさらに添加しても良い。金属塩水溶液には、例えば硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等から選択された1種類以上をさらに添加することもできる。
【0047】
このように金属塩水溶液に、マンガン塩や、コバルト塩、上記金属群から選択された1種類以上の元素Mを含む金属塩を添加することで、ニッケル含有水酸化物の粒子の内部に、係る金属塩に含まれる金属元素を均一に分散させた状態で共沈させることができる。このため、ニッケル以外の金属元素についても、粒子内に均一に分散したニッケル含有水酸化物の核が得られる。
【0048】
金属塩水溶液中の金属塩の合計の濃度は特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、金属塩水溶液中の、上述の金属塩の合計の濃度が、1.0mol/L以上2.6mol/L以下であることが好ましい。特に、金属塩水溶液中の上記金属塩の合計の濃度が、1.5mol/L以上2.2mol/L以下であることがより好ましい。
【0049】
これは、金属塩水溶液中の上述の金属塩の合計の濃度を1.0mol/L以上とすることで撹拌槽当たりの晶析物量を十分に確保することができ、生産性を高めることができるからである。ただし、金属塩水溶液の上述の金属塩の合計の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超える場合があり、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせる等の恐れがあるため、2.6mol/L以下であることが好ましい。
【0050】
金属塩水溶液を調製する際、複数種の金属塩を用いる場合、1つの金属塩水溶液とする必要はない。例えば、複数の金属塩を混合することで、特定の金属塩同士が反応して不要な化合物が生成される場合には、金属塩の種類ごとに金属塩水溶液を調製することができる。そして、反応前水溶液や、反応水溶液に、調製した個々の金属塩水溶液を、所定の割合で同時に添加してもよい。この場合には、個別に添加した金属塩水溶液中の合計の金属塩の濃度が、上述した金属塩水溶液の濃度の範囲内となるように、調整、添加することが好ましい。
【0051】
中和剤、錯化剤については、反応前水溶液調製工程で説明したものと同じものを用いることができるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
核生成工程では、撹拌槽内の反応前水溶液、第1反応水溶液を、撹拌手段により撹拌しながら、既述の金属塩水溶液を添加できる。
【0053】
反応前水溶液に、金属塩水溶液を添加、混合して第1反応水溶液を調製することで、該第1反応水溶液中においてニッケル含有水酸化物の微細な核が生成される。
【0054】
核生成工程において、反応前水溶液に、金属塩水溶液を添加し、粒子の核を生成する際、核生成に伴い、第1反応水溶液のpH値、およびアンモニウムイオンの濃度が変化する。このため、第1反応水溶液には、金属塩水溶液とともに、既述の中和剤や、必要に応じて既述の錯化剤を添加することができる。
【0055】
第1反応水溶液のpH値(設定pH値)は、上述の反応前水溶液と同じ範囲、すなわち液温40℃基準において12.0以上13.0以下の範囲に維持されていることが好ましい。
【0056】
これは核生成工程の間、第1反応水溶液のpH値を上述の範囲に維持することにより、生成した核がほとんど成長せず、核の生成が優先的に生じるからである。
【0057】
また、核生成工程において、均一なサイズの核を生成する観点から、第1反応水溶液のpH値の変動幅を抑制することが好ましく、第1反応水溶液のpH値の変動幅が設定pH値±0.1以内であることが好ましく、設定pH値±0.05以内であることがより好ましい。
【0058】
第1反応水溶液のアンモニウムイオンの濃度(設定アンモニウムイオン濃度)についても上述の反応前水溶液と同じ濃度、すなわち0以上15g/L以下に維持するように制御することが好ましく、5g/L以上12g/L以下に維持するように制御することがより好ましい。
【0059】
核生成工程において、第1反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度はその変動幅が小さいことが好ましく、特に一定であることがより好ましい。これは、第1反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度が変動すると、該水溶液中の金属イオンの溶解度が変動し、均一なニッケル含有水酸化物の核の生成が阻害される恐れがあるからである。
【0060】
核生成工程において、第1反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、例えば設定アンモニウムイオン濃度±2.0g/L以内にあることが好ましく、設定アンモニウムイオン濃度±1.0g/L以内にあることがより好ましい。
【0061】
上記第1反応水溶液に対して、金属塩水溶液、さらには必要に応じて中和剤や、錯化剤を供給することで、第1反応水溶液中には、連続して新しい核の生成が継続される。
【0062】
金属塩水溶液や、中和剤、錯化剤を撹拌槽の反応前水溶液や、第1反応水溶液に添加する方法については、特に限定されるものではなく、任意の方法により添加することができる。例えば反応前水溶液や、第1反応水溶液を撹拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、第1反応水溶液のpH値等が所定の範囲に保持されるように添加できる。
【0063】
第1反応水溶液の温度は特に限定されないが、核生成工程の間、20℃以上60℃以下に維持されていることが好ましく、30℃以上50℃以下に維持されていることがより好ましい。これは、第1反応水溶液の温度を20℃以上60℃以下とすることで、核生成反応を十分に進行させつつ、第1反応水溶液を加温するためのエネルギーを最小限度に抑制でき、好ましいからである。
【0064】
そして、第1反応水溶液中に、所定の量の核が生成されると、核生成工程を終了することができる。所定量の核が生成したか否かは、第1反応水溶液に添加した金属塩の量によって判断できる。
【0065】
反応前水溶液や、第1反応水溶液、後述する第2反応水溶液中のpH値、アンモニウムイオン濃度については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータによって測定することが可能である。
(2-2)粒子成長工程
粒子成長工程では、核生成工程で得られた第1反応水溶液のpH値を所定の範囲に調整できる。その後、pH調整後に得られた反応水溶液である第2反応水溶液に、金属塩水溶液を添加できる。第2反応水溶液に金属塩水溶液を添加する際、第2反応水溶液のpH値やアンモニウムイオン濃度を調整、維持するために中和剤や、必要に応じて錯化剤等を併せて添加することもできる。
【0066】
粒子成長工程においては、第2反応水溶液のpH値が、40℃基準において11.0以上12.0以下であることが好ましい。そこで、粒子成長工程を開始する際、第2反応水溶液のpH値を液温40℃基準において11.0以上12.0以下となる様に調整することが好ましく、11.0以上12.0未満になるように調整することがより好ましい。
【0067】
核生成工程終了時の第1反応水溶液のpH値を調整し、第2反応水溶液とする際に用いる溶液は特に限定されないが、例えば酸性の材料を用いることができ、硫酸、塩酸等や、その水溶液を用いることができる。なお、金属塩水溶液の添加を開始する前の第2反応水溶液のpH以外のパラメータ、すなわち温度(液温)や、アンモニウムイオン濃度は、核生成工程で説明した範囲内にあることが好ましい。
【0068】
そして、粒子成長工程では、上述のようにpH調整後の第2反応水溶液に対して、金属塩水溶液や、中和剤、錯化剤等を添加できる。
【0069】
粒子成長工程では、第2反応水溶液のpH値(設定pH値)が、40℃基準で11.0以上12.0以下であることが好ましく、11.0以上12.0未満であることがより好ましい。第2反応水溶液のpH値を12.0以下とすることで、粒子成長反応を十分に進行させることができ、また晶析物中への不純物カチオンの残留を特に抑制できるため好ましい。また、第2反応水溶液のpH値を11.0以上とすることで、晶析物中への不純物アニオンの残留を特に抑制することができるため、好ましい。
【0070】
従って、粒子成長工程において、第2反応水溶液のpH値を上述の範囲とすることによって、粒子成長反応を十分に促進しつつ、不純物残量の少ないニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【0071】
第2反応水溶液のpHの値の制御方法は特に限定されるものではないが、例えば第2反応水溶液に中和剤を添加し、その添加量を調整することで制御できる。
【0072】
粒度分布が広いリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となり、充放電を繰り返すと正極活物質の粒子が選択的に劣化し、容量が低下する場合がある。そして、通常、正極活物質の粒度分布は、該正極活物質を生成する際に用いたニッケル含有水酸化物の粒度分布の特性を引き継いでいる。このため、正極活物質の前駆体として用いることができる本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法で得られるニッケル含有水酸化物についても粒度分布が狭いことが好ましい。そして、本発明の発明者の検討によれば、粒子成長工程における第2反応水溶液のpH値の変動幅を抑制することで、得られるニッケル含有水酸化物の粒度分布の幅を特に抑制できる。このため、第2反応水溶液のpH値の変動幅を抑制することが好ましく、例えば、粒子成長工程において、第2反応水溶液のpH値の変動幅が設定pH値±0.1以内であることが好ましく、設定pH値±0.05以内であることがより好ましい。
【0073】
また、第2反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度(設定アンモニウムイオン濃度)についても特に限定されないが、例えば、0以上15g/L以下に維持するように制御することが好ましく、5g/L以上12g/L以下に維持するように制御することがより好ましい。
【0074】
これは、第2反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を0以上15g/L以下とすることで、特に均質にニッケル含有水酸化物の核を成長させることができるからである。
【0075】
粒子成長工程において、第2反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度はその変動幅が小さいことが好ましく、特に一定であることがより好ましい。これは、第2反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度が変動すると、該水溶液中の金属イオンの溶解度が変動し、均一なニッケル含有水酸化物の成長が阻害される恐れがあるからである。
【0076】
粒子成長工程において、第2反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、例えば設定アンモニウムイオン濃度±2.0g/L以内にあることが好ましく、設定アンモニウムイオン濃度±1.0g/L以内にあることがより好ましい。
【0077】
第2反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度を例えば上述の範囲に制御するために、第2反応水溶液に対して、既述のように必要に応じて錯化剤を添加できる。
【0078】
第2反応水溶液の温度は特に限定されないが、粒子成長工程の間、20℃以上60℃以下に維持されていることが好ましく、30℃以上50℃以下に維持されていることがより好ましい。これは、第2反応水溶液の温度を20℃以上60℃以下とすることで、粒子成長反応を十分に進行させつつ、第2反応水溶液を加温するためのエネルギーを最小限度に抑制でき、好ましいからである。
【0079】
ここまで説明したように、核生成工程、および粒子成長工程の間、すなわち晶析工程の間、反応水溶液の温度を20℃以上60℃以下に維持していることが好ましく、30℃以上50℃以下に維持していることがより好ましい。
【0080】
粒子成長工程で用いる金属塩水溶液や、中和剤、錯化剤は、反応前水溶液調製工程や、核生成工程で既に説明したものと同様の材料を用いることができる。このため、ここでは説明を省略する。
【0081】
核生成工程と、粒子成長工程とでは、金属塩水溶液、中和剤、錯化剤は、それぞれ濃度および溶質が同じ水溶液を用いることもできるが、金属塩水溶液、中和剤、および錯化剤のうち、一部または全部の水溶液について、濃度および溶質のいずれか、または両方が異なっていてもよい。ただし、本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法では、得られるニッケル含有水酸化物におけるニッケルや、その他の各金属の組成比は、金属塩水溶液における各金属の組成比と同様となる。このため、粒子成長工程において用いる金属塩水溶液中の各金属の組成比は核生成工程と同様にすることが好ましい。
【0082】
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法の晶析工程では、晶析工程が完了するまで生成物であるニッケル含有水酸化物を回収しない、バッチ式の晶析装置を用いることが好ましい。すなわち、晶析工程をバッチ式の晶析法により実施することが好ましい。
【0083】
バッチ式の反応槽等の晶析工程を完了するまで生成物を回収しないタイプの反応槽を用いることで、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題の発生を防げる。このため、粒度分布が特に狭く、粒径の揃った粒子を得ることができる。
【0084】
反応前水溶液調製工程や、晶析工程は酸素の混入を抑制して実施することが好ましいため、密閉式の装置等の雰囲気を制御することが可能な装置を用いることが好ましい。
【0085】
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法は、上述の晶析工程に加えて、任意の工程を有することもできる。以下、任意の工程の構成例について説明する。
(3)被覆工程
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法は、晶析工程で得られたニッケル含有水酸化物を、添加元素である元素Mで被覆する被覆工程を有することもできる。
【0086】
なお、ここでの元素Mは特に限定されないが、例えばMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wからなる金属群から選択される1種類以上が挙げられる。
【0087】
被覆工程において、ニッケル含有水酸化物の表面を元素Mにより被覆する具体的な方法、条件は特に限定されるものではない。被覆工程において、ニッケル含有水酸化物を、元素Mで被覆する方法としては例えば以下の(a)~(c)の何れかの方法を用いることができる。
(a)pHが制御されたニッケル含有水酸化物の粒子が懸濁したスラリーに、元素Mを含む水溶液を添加して、ニッケル含有水酸化物の粒子表面に元素Mを析出させる方法(析出法)。
析出法により被覆工程を実施する場合、ニッケル含有水酸化物の粒子が懸濁したスラリーに、元素Mを含む水溶液を添加する際、上記スラリーと元素Mを含む水溶液との混合水溶液のpHが、5.5以上8.0以下となるように上記スラリーのpHを制御しておくことが好ましい。
(b)ニッケル含有水酸化物と、元素Mを含有する化合物とが懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる方法(噴霧乾燥法)。
(c)ニッケル含有水酸化物と元素Mを含有する化合物とを固相法で混合する方法(固相法)。
【0088】
上述の析出法で用いる元素Mを含む水溶液については特に限定されないが、例えば核生成工程で説明した元素Mを含有する化合物を水に溶解した水溶液を用いることができる。また、被覆工程では、元素Mを含む水溶液に替えて、元素Mを含むアルコキシド溶液を用いることもできる。
【0089】
上述の噴霧乾燥法や、固相法で用いる元素Mを含有する化合物についても特に限定されないが、例えば核生成工程で説明した元素Mの金属群から選択された1種類以上の金属を含む金属塩を用いることができる。
【0090】
既述のように核生成工程や、粒子成長工程で、混合水溶液に元素Mを含有する金属塩を添加し、かつ被覆工程でニッケル含有水酸化物の粒子表面を、元素Mで被覆する場合、核生成工程、粒子成長工程で金属塩水溶液中に添加する元素Mを含有する金属塩の量を、被覆工程で被覆する量の分だけ少なくしておくことが好ましい。これは、金属塩水溶液への元素Mを含有する化合物の添加量を、被覆工程で被覆する量の分だけ少なくしておくことで、得られるニッケル含有水酸化物に含まれる元素Mと、他の金属成分との物質量比を所望の値とすることができるからである。
【0091】
被覆工程は、粒子成長工程終了後、例えば後述する乾燥工程等を実施した後に実施することもできる。
(4)洗浄工程
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法は、得られたニッケル含有水酸化物を洗浄する洗浄工程を有することもできる。
【0092】
洗浄工程では、例えば既述の晶析工程や、被覆工程で得られたニッケル含有水酸化物を含むスラリーを洗浄できる。
【0093】
洗浄工程を実施する場合、まずニッケル含有水酸化物を含むスラリーを濾過することができる(濾過工程)。
【0094】
次いで、濾過したニッケル含有水酸化物を水洗し、再度濾過することができる(水洗・再濾過工程)。
【0095】
濾過工程や、水洗・再濾過工程における濾過は、通常用いられる方法で行えばよく、例えば、遠心機、吸引濾過機等を用いて濾過を実施することができる。
【0096】
また、水洗・再濾過工程における水洗は、通常行われる方法で行えばよく、ニッケル含有水酸化物に含まれる余剰の塩を除去できればよい。水洗で用いる水は、不純物の混入を防止するため、可能な限り不純物の含有量が少ない水を用いることが好ましく、純水を用いることがより好ましい。
(5)乾燥工程
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法は、乾燥工程を有することができる。
【0097】
乾燥工程では、具体的には例えば、洗浄工程で洗浄したニッケル含有水酸化物を乾燥できる。
【0098】
乾燥工程において、ニッケル含有水酸化物を乾燥する際の条件は特に限定されないが、例えば乾燥温度を100℃以上200℃以下として、洗浄済みのニッケル含有水酸化物を乾燥し、ニッケル含有水酸化物を得ることができる。
【0099】
乾燥工程の雰囲気は特に限定されないが、例えば真空雰囲気下で乾燥を行うことができる。
(本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法により得られるニッケル含有水酸化物について)
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法により得られるニッケル含有水酸化物について説明する。
(1)組成
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法、すなわち例えば晶析工程により得られる、ニッケル含有水酸化物の組成等については特に限定されない。ニッケル含有水酸化物は、ニッケルを含有する水酸化物とすることができ、既述のようにさらにマンガンを含有することが好ましい。また、ニッケル含有水酸化物は必要に応じてさらに元素Mを含有することもできる。
【0100】
このため、ニッケル含有水酸化物は、例えばニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、元素M(M)とを、物質量の比で、Ni:Mn:Co:M=1-x-y-z:x:y:zの割合で含有し、
xは0.1≦x≦0.5、yは0≦y≦1/3、zは0≦z≦0.1であり、x≦1-x-y-zの関係を満たすことが好ましい。元素Mは特に限定されないが、例えばMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wからなる金属群から選択される1種類以上が挙げられる。
【0101】
本実施形態のニッケル含有水酸化物の製造方法により得られるニッケル含有水酸化物は、例えば、一般式:Ni1-x-y-zMnCo(OH)2+αで表すことができる。
【0102】
x、y、z、元素Mについては既に説明したため、ここでは説明を省略する。αは、例えば-0.2≦α≦0.2とすることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)の構成例について、以下に説明する。
【0103】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0104】
ニッケル含有化合物と、リチウム化合物とを混合し、原料混合物を調製する混合工程。
【0105】
原料混合物を焼成する焼成工程。
【0106】
上記混合工程に供するニッケル含有化合物としては、既述のニッケル含有水酸化物の製造方法で得られたニッケル含有水酸化物、およびニッケル含有水酸化物の酸化焙焼物から選択された1種類以上を用いることができる。
【0107】
以下、本実施形態の正極活物質の製造方法の工程について説明する。
(1)混合工程
混合工程では、ニッケル含有化合物と、リチウム化合物とを混合して原料混合物を調製できる。
【0108】
ニッケル含有化合物としては、既述のニッケル含有水酸化物の製造方法で得られたニッケル含有水酸化物、および該ニッケル含有水酸化物の酸化焙焼物から選択された1種類以上を用いることができる。
【0109】
混合工程において、ニッケル含有化合物とリチウム化合物とは、原料混合物中のリチウム以外の金属の物質量の和(Me)に対する、リチウムの物質量(Li)の比(Li/Me比)が、0.95以上1.10以下となるように混合することが好ましく、1.00より大きく1.10以下となるように混合することがより好ましい。
【0110】
後述する焼成工程の前後でLi/Me比はほとんど変化しないので、焼成工程に供する原料混合物中のLi/Me比が、得られる正極活物質におけるLi/Me比とほぼ同じになる。このため、混合工程で調製する原料混合物におけるLi/Me比が、得ようとする正極活物質におけるLi/Me比と同じになるように混合することが好ましい。このため、例えば原料混合物中のLi/Me比は0.95以上1.10以下にできる。
【0111】
ただし、上述のように、原料混合物中のLi/Me比は1.00より大きいことがより好ましい。Li/Me比を1.00より大きくすることで、得られる正極活物質中の未反応成分を抑制できる。そして、得られた正極活物質をリチウムイオン二次電池に適用した場合に充放電容量を高めることができる。
【0112】
近年、充放電を繰り返した時に粒子が崩れにくくサイクル特性に優れた正極活物質も求められるようになっている。本発明の発明者の検討によれば、原料混合物中のLi/Me比を1.00より大きくすることで、後の焼成工程での結晶成長を十分に進行させ、空隙率を特に抑制した正極活物質が得られる。このため、充放電を繰り返した場合でも粒子が崩れにくくサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。よって、上述のように、原料混合物中のLi/Me比は1.00より大きく1.10以下であることがより好ましい。
【0113】
原料混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、および炭酸リチウムから選択された1種類以上を用いることができる。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、リチウム化合物としては、水酸化リチウム、および炭酸リチウムから選択された1種類以上を用いることがより好ましい。
【0114】
混合工程において、ニッケル含有化合物とリチウム化合物とを混合する際の混合手段としては、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
(焼成工程)
焼成工程は、上記混合工程で得られた原料混合物を焼成して、リチウム金属複合酸化物を生成する工程である。焼成工程において原料混合物を焼成すると、ニッケル含有化合物に、リチウム化合物中のリチウムが拡散するので、リチウム金属複合酸化物が形成される。
【0115】
焼成工程において、原料混合物を焼成する焼成温度は特に限定されないが、例えば600℃以上1150℃以下であることが好ましく、700℃以上1100℃以下であることがより好ましい。
【0116】
焼成温度を600℃以上とすることで、ニッケル含有化合物中へのリチウムの拡散を十分に進行させることができ、得られるリチウム金属複合酸化物の結晶構造を均一にすることができる。そして、生成物を正極活物質として用いた場合に電池特性を特に高めることができるため好ましいからである。また、反応を十分に進行させることができるため、余剰のリチウムの残留や、未反応の粒子が残留することを抑制できるからである。
【0117】
焼成温度を1150℃以下とすることで、生成するリチウム金属複合酸化物の粒子間で焼結が進行することを抑制することができる。また、異常粒成長の発生を抑制し、得られるリチウム金属複合酸化物の粒子が粗大化することを抑制することができる。
【0118】
焼成工程における焼成温度までの昇温速度は特に限定されないが、ニッケル含有化合物とリチウム化合物との反応を均一に行わせる観点から、昇温速度を3℃/min以上10℃/min以下として上記温度まで昇温することが好ましい。
【0119】
また、熱処理温度まで昇温する過程で、用いたリチウム化合物の融点付近の温度にて1時間以上5時間以下程度保持することで、より反応を均一に行わせることができ、好ましい。
【0120】
焼成工程における焼成時間のうち、所定温度、すなわち上述の焼成温度での保持時間は特に限定されないが、1時間以上とすることが好ましく、より好ましくは2時間以上である。これは焼成温度での保持時間を1時間以上とすることで、リチウム金属複合酸化物の生成を十分に促進し、未反応物が残留することをより確実に防止することができるからである。
【0121】
焼成温度での保持時間の上限値は特に限定されないが、生産性等を考慮して24時間以下であることが好ましい。
【0122】
焼成温度での保持時間終了後の条件は特に限定されるものではないが、原料混合物を匣鉢に積載して焼成する場合には匣鉢の劣化を抑止するため、降下速度を2℃/min以上10℃/min以下として、200℃以下になるまで雰囲気を冷却することが好ましい。
【0123】
焼成時の雰囲気は特に限定されないが、酸化性雰囲気とすることが好ましい。酸化性雰囲気としては、酸素含有ガス雰囲気を好ましく用いることができ、例えば酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
【0124】
これは焼成時の雰囲気中の酸素濃度を18容量%以上とすることで、リチウム金属複合酸化物の結晶性を特に高めることができるからである。
【0125】
酸素含有ガス雰囲気とする場合、該雰囲気を構成する気体としては、例えば大気や、酸素、酸素と不活性ガスとの混合気体等を用いることができる。
【0126】
なお、酸素含有ガス雰囲気を構成する気体として、例えば上述のように酸素と不活性ガスとの混合気体を用いる場合、該混合気体中の酸素濃度は上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0127】
特に、焼成工程は、酸素含有ガス気流中で実施することが好ましく、大気、または酸素気流中で行うことがより好ましい。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0128】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、所定の雰囲気中で原料混合物を焼成できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0129】
焼成工程によって得られたリチウム金属複合酸化物粒子は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウム金属複合酸化物粒子を得ることができる。
【0130】
ここで、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0131】
また、リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用した場合には、焼成工程の前に、仮焼成を実施することが好ましい。
【0132】
仮焼成を実施する場合、仮焼成温度は特に限定されないが、焼成工程における焼成温度より低い温度とすることができる。仮焼成温度は、例えば250℃以上600℃以下することが好ましく、350℃以上550℃以下とすることがより好ましい。
【0133】
仮焼成時間、すなわち上記仮焼成温度での保持時間は、例えば1時間以上10時間以下程度とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
【0134】
仮焼成後は、一旦冷却した後、焼成工程に供することもできるが、仮焼成温度から、焼成温度まで昇温して連続して焼成工程を実施することもできる。
【0135】
なお、仮焼成を実施する際の雰囲気は特に限定されないが、例えば焼成工程と同様の雰囲気とすることができる。
【0136】
仮焼成することにより、ニッケル含有化合物へのリチウムの拡散が十分に行われ、特に均一なリチウム金属複合酸化物粒子を得ることができる。
【0137】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、上述の混合工程、焼成工程に加えて、任意の工程を有することもできる。以下、任意の工程の構成例について説明する。
(3)焙焼工程
本実施形態の正極活物質の製造方法は、ニッケル含有水酸化物を焙焼する焙焼工程を有することもできる。
【0138】
焙焼工程は、晶析工程の後、混合工程を実施する前に行うことができる。焙焼工程で得られたニッケル含有水酸化物の酸化焙焼物は、既述の混合工程に供することができる。
【0139】
焙焼工程では、ニッケル含有水酸化物を熱処理することができ、例えばニッケル含有水酸化物中の水分を除去し、ニッケル含有水酸化物の少なくとも一部を酸化物とすることができる。
【0140】
なお、ニッケル含有水酸化物としては、既述のニッケル含有水酸化物の製造方法により得られたニッケル含有水酸化物を用いることができる。
【0141】
焙焼工程における熱処理温度は特に限定されないが、熱処理によりニッケル含有水酸化物が含有する水分を除去し、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物中のリチウムや、その他の金属の物質量の割合がばらつくことを防ぐことができるように選択することが好ましい。
【0142】
焙焼工程では、例えば既述のニッケル含有水酸化物の製造方法の乾燥工程における乾燥温度より高く、かつ600℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。特に、熱処理温度は105℃以上600℃以下であることが好ましい。
【0143】
これは、焙焼工程での熱処理温度を105℃以上とすることで、ニッケル含有水酸化物中の余剰水分を十分に除去し、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物中のリチウムや、その他の金属の物質量の割合のばらつきを抑制できるからである。
【0144】
また、熱処理温度が600℃以下とすることで、焙焼による粒子の焼結を抑制し、より均一な粒径のリチウム金属複合酸化物を得られるからである。
【0145】
なお、焙焼工程では、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物中のリチウム等の金属の物質量の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全てのニッケル含有水酸化物をニッケル含有酸化物に転換する必要はない。しかしながら、得られるリチウム金属複合酸化物中の金属の物質量のばらつきを、より少なくするためには、熱処理温度を500℃以上としてニッケル含有水酸化物をニッケル含有酸化物に全て転換することが好ましい。
【0146】
このため、焙焼工程における熱処理温度は例えば500℃以上600℃以下とすることがより好ましい。
【0147】
なお、焙焼工程での所定の熱処理温度による熱処理後のニッケル含有水酸化物中に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、混合工程における、ニッケル含有水酸化物の酸化焙焼物と、リチウム化合物との混合比を決めておくことが好ましい。このように、所定の熱処理温度により得られるニッケル含有水酸化物の酸化焙焼物中の各金属比を分析し、最適なリチウム化合物との混合比を決めておくことで、最終的に得られるリチウム金属複合酸化物中のリチウムや、その他の金属の物質量の割合のばらつきを抑制でき、好ましい。
【0148】
焙焼工程において熱処理する際の雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0149】
また、焙焼工程における熱処理時間(焙焼時間)は特に制限されないが、1時間未満ではニッケル含有水酸化物の余剰水分の除去が十分に行われない場合があるので、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。熱処理時間の上限についても特に限定されないが、生産性等を考慮して15時間以下が好ましい。
【0150】
そして、焙焼に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、ニッケル含有水酸化物を非還元性雰囲気中、好ましくは空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の一構成例について説明する。
【0151】
本実施形態の正極活物質は、既述の正極活物質の製造方法により製造できる。このため、既に説明した事項については説明を一部省略する。
(1)空隙率
本実施形態の正極活物質は、リチウム、ニッケルを含むリチウム金属複合酸化物粒子を含有できる。なお、本実施形態の正極活物質は、上記リチウム金属複合酸化物粒子から構成することもできる。ただし、この場合でも不可避不純物を含有することを排除するものではない。
【0152】
そして、本実施形態の正極活物質は、含有するリチウム金属複合酸化物粒子の空隙率を10%以下とすることが好ましく、4%以下とすることがより好ましく、1%以下とすることがさらに好ましい。
【0153】
本実施形態の正極活物質は、既述のニッケル含有水酸化物を原料として用いることができるため、リチウム金属複合酸化物粒子の空隙率を低くすることができ、上述のように空隙率を10%以下とすることができる。
【0154】
特に、既述の混合工程において、Li/Me比が1.00を超えて1.10以下となるようにニッケル含有化合物とリチウム化合物とを混合することで、リチウム金属複合酸化物粒子の空隙率を抑制できる。
【0155】
リチウム金属複合酸化物粒子の空隙率は、例えばリチウム金属複合酸化物二次粒子の任意断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、画像解析することによって測定できる。具体的には、複数のリチウム金属複合酸化物二次粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより断面試料を作製し、走査型電子顕微鏡により二次粒子の断面観察を行う。得られた二次粒子の断面画像について、画像解析ソフト(WinRoof 6.1.1など)により、任意の20個以上の二次粒子に対して画像処理を行い、二次粒子中の空隙の部分(空間部)を黒で検出し、二次粒子の輪郭内の緻密部を白で検出する。そして、上記20個以上の二次粒子の黒部分および白部分の合計面積を測定し、[黒部分/(黒部分+白部分)]の面積比を計算することで空隙率を算出することができる。上記のようにして評価対象の二次粒子の空隙率をそれぞれ算出し、評価対象とした二次粒子の空隙率の平均値を該正極活物質が有するリチウム金属複合酸化物粒子の空隙率とすることができる。
(2)平均粒径
本実施形態の正極活物質の平均粒径は、例えば3μm以上6μm以下とすることが好ましい。
【0156】
本実施形態の正極活物質の平均粒径を6μm以下とすることで、十分に小さい平均粒径を有していることになり、リチウムイオン二次電池の正極の材料に用いた場合に、電解質との接触面積を十分に高められる。このため、該リチウムイオン二次電池の正極抵抗を抑制し、出力特性を向上できる。
【0157】
平均粒径の下限値は特に限定されないが、例えば3μm以上とすることが好ましい。
【0158】
本明細書において平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径、すなわちD50を意味する。以下、本明細書における平均粒径とは同様の意味を有する。
(3)粒度分布指数
既述のニッケル含有水酸化物の製造方法では、バッチ式の晶析法により、晶析工程を実施できる。このため、得られるニッケル含有水酸化物の粒度分布の幅を、連続式で製造した場合と比較して狭くできる。そして、係るニッケル含有水酸化物を原料とした本実施形態の正極活物質についても、その粒度分布のばらつきを抑制できる。
【0159】
例えば、本実施形態の正極活物質は、粒度分布のばらつきを示す指数である、以下の式(A)により算出される粒度分布指数が、0.4以上0.5以下であることが好ましい。
【0160】
(粒度分布指数)=[(D90-D10)÷体積平均粒径] ・・・(A)
なお、上記式(A)中のD10(累積10%粒子径)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値10%での粒径を意味する。
【0161】
また、上記式(A)中のD90(累積90%粒子径)は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値90%での粒径を意味する。
【0162】
上記式(A)中の体積平均粒径は、粒子体積で重み付けした平均粒径であり、粒子の集合において、個々の粒子の直径にその粒子の体積を乗じたものの総和を粒子の総体積で割ったものである。体積平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布計を用いたレーザー回折・散乱法によって、測定することが可能である。
【0163】
リチウムイオン二次電池の正極に用いる正極活物質の粒度分布の拡がりが大きいと、微粒子や、粗大粒子が存在することになる。そして、例えば微粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を作製した場合、微粒子が選択的に劣化してリチウムイオン二次電池の容量が低下、すなわちサイクル特性が低下する場合がある。
【0164】
正極活物質の粒度分布指数を0.5以下とすることで、該正極活物質の粒度分布の拡がり幅が十分に狭いことを意味している。そして、正極活物質の粒度分布の拡がりを抑制することで、該正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を高めることができる。
【0165】
ただし、粒径のばらつきを完全に抑制することは困難であるため、正極活物質の粒度分布指数は、例えば0.4以上とすることができる。
(4)組成
本実施形態の正極活物質の組成等については特に限定されない。例えば、リチウムとニッケルとを含有できる。
【0166】
また、既述のように、マンガンは特に酸素と結合し易く、従来マンガンを含有する正極活物質では、その粒子内に特に空隙が生じ易かった。一方、本実施形態の正極活物質によれば、係る酸素との結合を抑制し、マンガンを含む正極活物質とした場合でも、該正極活物質の粒子内の空隙率を抑制でき、特に高い効果を発揮できる。このため、本実施形態の正極活物質は、例えばリチウムとニッケルとマンガンとを含有することができる。また、リチウムとニッケルとマンガンとコバルトとを含有することもできる。
【0167】
本実施形態の正極活物質は、例えばリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、コバルト(Co)と、場合によってはさらに元素M(M)を含有できる。そして、上記各元素を物質量の比で、Li:Ni:Mn:Co:M=a:1-x-y-z:x:y:zの割合で含有できる。
【0168】
aは0.95≦a≦1.10、xは0.1≦x≦0.5、yは0≦y≦1/3、zは0≦z≦0.1であり、x≦1-x-y-zの関係を満たすことができる。元素Mは特に限定されないが、例えばMg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wからなる金属群から選択される1種類以上が挙げられる。aは、空隙率を特に抑制し、充放電を繰り返した場合でも粒子が特に崩れにくくサイクル特性に優れた正極活物質とする観点から、1.00<a≦1.10であることがより好ましい。
【0169】
本実施形態の正極活物質は、例えば、一般式:LiNi1-x-y-zMnCo2+βで表すことができる。
【0170】
a、x、y、z、元素Mについては既に説明したため、ここでは説明を省略する。βは、例えば-0.2≦β≦0.2とすることができる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
【0171】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0172】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合剤とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合剤ペーストを作製することができる。
【0173】
正極合剤中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合剤の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0174】
得られた正極合剤ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0175】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0176】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0177】
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合剤に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合剤には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0178】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合剤をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合剤を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0179】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微小な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0180】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶剤に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0181】
有機溶剤としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0182】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0183】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0184】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0185】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO-LiPO、LiSiO-LiVO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B-ZnO、Li1+XAlTi2-X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2-X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3-XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0186】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0187】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0188】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0189】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【実施例
【0190】
以下、本発明の実施例について、比較例との対比により、より具体的に説明をおこなうが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0191】
ここではまず、以下の実施例、比較例で得られたニッケル含有水酸化物、正極活物質の評価方法について説明する。
(評価方法)
(1)ニッケル含有水酸化物の評価
(1-1)組成
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9000)を用いて、ニッケル含有水酸化物の組成の分析を行った。
(2)正極活物質の評価
(2-1)組成
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9000)を用いて、正極活物質の組成の分析を行った。
(2-2)平均粒径
レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、正極活物質の平均粒径であるD50を算出した。
(2-3)粒度分布指数
レーザー光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて粒度分布を測定し、D10、D90、および体積平均粒径を算出した。そして、以下の式(A)により粒度分布指数を算出した。
【0192】
(粒度分布指数)=[(D90-D10)÷体積平均粒径] ・・・(A)
(2-4)空隙率
得られた正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物粒子を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工により断面試料を作製し、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジース製、S-4700)により二次粒子の断面観察を行った。得られた二次粒子の断面画像を画像解析ソフト(WinRoof 6.1.1)により、倍率5000倍で撮影した任意の100個の二次粒子に対して、二次粒子中の空隙の部分(空間部)を黒で検出し、二次粒子の輪郭内の緻密部を白で検出した。そして、算出した二次粒子の黒部分および白部分の合計面積を測定し、[黒部分/(黒部分+白部分)]の式により面積比を計算することで空隙率を算出した。上記のようにして評価対象の二次粒子の空隙率をそれぞれ求め、算出した100個の二次粒子の空隙率の平均値を該正極活物質が有するリチウム金属複合酸化物粒子の空隙率とした。
(2-5)粒子の潰れにくさ(平均圧壊強度)
得られたリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の潰れやすさは次のように評価した。微小圧縮試験機(島津製作所製)を用いて粒子径5μm程度の二次粒子を20個選定し、1つ1つの圧壊強度を測定し、その平均値を平均圧壊強度として算出し、粒子の潰れやすさの指標とした。平均圧壊強度が大きい粒子の方が潰れにくいと判断できる。
(3)リチウムイオン二次電池
(3-1)初期放電容量
以下の実施例、比較例で得られた正極活物質を用い、2032型コイン電池を製造し、初期放電容量の評価を行った。
【0193】
図1を用いて製造したコイン型電池の構成について説明する。なお、図1は、製造したコイン型電池の断面模式図を示している。
【0194】
図1に示すように、製造したコイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0195】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0196】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0197】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0198】
このコイン型電池10を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)7.5mgを溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンと共に混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極121を作製した。作製した正極121を、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極121、負極123、セパレータ122、および電解液を用いて、コイン型電池10を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0199】
なお、負極123には、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンとを溶剤であるN-メチル-2-ピロリドンと共に混合した負極合剤ペーストを銅箔に塗布、乾燥した負極シートを用いた。また、セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0200】
得られたコイン型電池10の初期放電容量を以下のようにして測定した。
【0201】
初期放電容量は、コイン型電池10を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.05Cとしてカットオフ電圧4.65Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.35Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
(3-2)10サイクル後容量維持率
初期放電容量測定と同様の方法で2032型コイン電池を製造した。コイン型電池10を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.05Cとしてカットオフ電圧4.65Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧2.35Vまで放電した。以後この充放電を10回繰り返し、初回の放電容量に対する10回目の放電容量の比を容量維持率(%)として測定した。
(実験条件)
以下の各実験例でのニッケル含有水酸化物、正極活物質の実験条件を説明する。
[実施例1]
以下の手順により、ニッケル含有水酸化物、および正極活物質を調製した。
(1)反応前水溶液調製工程
撹拌槽内に、水15Lと、中和剤である水酸化ナトリウム水溶液136mLとを供給し、15.136Lの反応前水溶液を調製した。
【0202】
そして、晶析工程を開始するまで、反応前水溶液を撹拌翼により撹拌しながら、反応前水溶液の液中に窒素ガスを0.02m/分の流速で24時間供給し、バブリングを行った。
【0203】
また、撹拌槽の反応前水溶液が占有していない空間にも窒素ガスを0.01m/minの流速で24時間供給し、撹拌槽内の雰囲気も窒素雰囲気に置換した。撹拌槽に供給した上記窒素ガスは、反応前水溶液の液面に向かって供給した。なお、以下の晶析工程開始後も撹拌槽内には窒素ガスの供給を継続して行い、窒素雰囲気に保った。
【0204】
以下の晶析工程を開始する直前の反応前水溶液は、pH値(40℃基準)が12.3、温度が40℃であり、溶存酸素濃度は0.1mg/L以下であった。反応前水溶液中の溶存酸素濃度は、デジタル溶存酸素計(FUSO製、DO-5510)により測定を行った。以下の他の実施例、比較例でも同じ装置により溶存酸素濃度の測定を行っている。
(2)晶析工程
金属塩水溶液と、中和剤である水酸化ナトリウム水溶液と、錯化剤であるアンモニア水と、を撹拌槽内に供給、混合して反応水溶液を形成し、バッチ式の晶析法によりニッケル含有水酸化物を得た。なお、晶析工程の間、反応水溶液を撹拌翼により撹拌した。
【0205】
晶析工程は、核生成工程と、粒子成長工程に分けて実施した。
(2-1)核生成工程
核生成工程では、反応前水溶液に対して、金属塩水溶液を添加し、反応水溶液とした。核生成工程の間、中和剤である水酸化ナトリウム水溶液、および錯化剤であるアンモニア水も撹拌槽に供給し、反応水溶液のpH値(40℃基準)を12.3、アンモニア濃度を12g/L、反応水溶液の温度を40℃に維持した。
【0206】
金属塩水溶液は、溶質濃度、すなわち金属塩濃度が2mol/Lとなるように、また、得られるニッケル含有水酸化物の組成がNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)となるように、純水に硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを添加して予め調製した。なお、金属塩水溶液中の、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比が、上記組成となるように、金属塩水溶液を調製した。
(2-2)粒子成長工程
核生成工程終了後、粒子成長工程を開始する前に、反応水溶液に硫酸を添加してpH値を11.2に調整した。
【0207】
そして、粒子成長工程においても、核生成工程と同じ金属塩水溶液を反応水溶液に添加した。核生成工程の間、中和剤である水酸化ナトリウム水溶液、および錯化剤であるアンモニア水も撹拌槽に供給し、反応水溶液のpH値(40℃基準)を11.2、アンモニア濃度を12g/L、反応水溶液の温度を40℃に維持した。
【0208】
粒子成長工程後、ニッケル含有水酸化物を回収し、水洗、濾過、乾燥させてニッケル含有水酸化物を得た。
【0209】
得られたニッケル含有水酸化物について、既述の組成の評価を行ったところ、組成がNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)であることを確認できた。
(混合工程)
晶析工程で得られたニッケル含有水酸化物と、水酸化リチウムとを、原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.0となるように混合して原料混合物を調製した。混合は、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて行った。
(焼成工程)
混合工程で得られた原料混合物を、酸素濃度が87容量%、残部が窒素である酸素含有雰囲気下、975℃で3時間焼成した後冷却し、解砕して正極活物質を得た。
【0210】
得られた正極活物質について既述の評価を行った。その結果、組成がLi1.0Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。その他の評価結果を表1に示す。
[実施例2]
反応前水溶液調製工程において、晶析工程を開始するまで、反応前水溶液を撹拌翼により撹拌しながら、反応前水溶液の温度を70℃に加温し、かつ窒素ガスを0.02m/分の流速で24時間供給し、バブリングを行った。なお、以下の晶析工程を開始する際に反応前水溶液の温度が40℃になるように、晶析工程開始1時間前に反応前水溶液の加熱は止め、放冷した。放冷している間も窒素ガスによるバブリングは継続した。
【0211】
また、撹拌槽にも窒素ガスを0.01m/minの流速で24時間供給し、撹拌槽内の雰囲気も窒素雰囲気に置換した。撹拌槽に供給した上記窒素ガスは、反応前水溶液の液面に向かって供給した。なお、以下の晶析工程開始後も撹拌槽内には窒素ガスの供給を継続して行い、窒素雰囲気に保った。
【0212】
晶析工程を開始する直前の反応前水溶液は、pH値(40℃基準)が12.3、温度が40℃であり、晶析工程を開始する際の溶存酸素濃度は0.1mg/L以下であった。
【0213】
以上の点以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0214】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。
【0215】
評価結果を表1に示す。
[実施例3]
反応前水溶液調製工程において、晶析工程を開始するまで、反応前水溶液を撹拌翼により撹拌しながら、反応前水溶液に超音波を照射し、かつ窒素ガスを0.02m/分の流速で24時間供給し、バブリングを行った。
【0216】
また、撹拌槽にも窒素ガスを0.01m/minの流速で24時間供給し、撹拌槽内の雰囲気も窒素雰囲気に置換した。撹拌槽に供給した上記窒素ガスは、反応前水溶液の液面に向かって供給した。なお、以下の晶析工程開始後も撹拌槽内には窒素ガスの供給を継続して行い、窒素雰囲気に保った。
【0217】
晶析工程を開始する直前の反応前水溶液は、pH値(40℃基準)が12.3、温度が40℃であり、晶析工程を開始する際の溶存酸素濃度は0.1mg/L以下であった。
【0218】
以上の点以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0219】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。
【0220】
評価結果を表1に示す。
[実施例4]
晶析工程で用いる金属塩水溶液を、溶質濃度、すなわち金属塩濃度が2mol/Lとなるように、また、得られるニッケル含有水酸化物の組成がNi0.55Mn0.15Co0.30(OH)となるように、純水に硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを添加して調製した。なお、金属塩水溶液中の、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比が、上記組成となるように、金属塩水溶液を調製した。
【0221】
以上の点以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0222】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.55Mn0.15Co0.30(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.55Mn0.15Co0.30であった。
【0223】
評価結果を表1に示す。
[実施例5]
晶析工程で用いる金属塩水溶液を、溶質濃度、すなわち金属塩濃度が2mol/Lとなるように、また、得られるニッケル含有水酸化物の組成がNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)となるように、純水に硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを添加して調製した。なお、金属塩水溶液中の、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比が、上記組成となるように、金属塩水溶液を調製した。
【0224】
以上の点以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0225】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.8Mn0.1Co0.1であった。
【0226】
評価結果を表1に示す。
[実施例6]
混合工程における原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.03となるように混合した以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.03Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例7]
混合工程における原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.03となるように混合した以外は、実施例4と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.55Mn0.15Co0.30(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.03Ni0.55Mn0.15Co0.30であった。評価結果を表1に示す。
[実施例8]
混合工程における原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.03となるように混合した以外は、実施例5と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.03Ni0.8Mn0.1Co0.1であった。評価結果を表1に示す。
[実施例9]
混合工程における原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.06となるように混合した以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.06Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例10]
混合工程における原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.06となるように混合した以外は、実施例4と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.55Mn0.15Co0.30(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.06Ni0.55Mn0.15Co0.30であった。評価結果を表1に示す。
[実施例11]
混合工程における原料混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との物質量の比であるLi/Me比が1.06となるように混合した以外は、実施例5と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.06Ni0.8Mn0.1Co0.1であった。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
反応前水溶液調製工程において、晶析工程を開始するまで、反応前水溶液を撹拌翼により撹拌しながら、撹拌槽にのみ窒素ガスを0.01m/minの流速で1時間供給し、撹拌槽内の雰囲気を窒素雰囲気に置換した。撹拌槽に供給した上記窒素ガスは、反応前水溶液の液面に向かって供給した。なお、晶析工程開始後も撹拌槽内には窒素ガスの供給を継続して行い、窒素雰囲気に保った。ただし、本比較例では反応前水溶液の液中への窒素ガスの供給、バブリングは行っていない。
【0227】
晶析工程を開始する直前の反応前水溶液は、pH値(40℃基準)が12.3、温度が40℃であり、晶析工程を開始する際の溶存酸素濃度は0.2mg/Lであった。
【0228】
以上の点以外は、実施例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0229】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.5Mn0.3Co0.2(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。
【0230】
評価結果を表1に示す。
[比較例2]
晶析工程で用いる金属塩水溶液を、溶質濃度、すなわち金属塩濃度が2mol/Lとなるように、また、得られるニッケル含有水酸化物の組成がNi0.55Mn0.15Co0.30(OH)となるように、純水に硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを添加して調製した。なお、金属塩水溶液中の、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比が、上記組成となるように、金属塩水溶液を調製した。
【0231】
以上の点以外は、比較例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0232】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.55Mn0.15Co0.30(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.55Mn0.15Co0.30であった。
【0233】
評価結果を表1に示す。
[比較例3]
晶析工程で用いる金属塩水溶液を、溶質濃度、すなわち金属塩濃度が2mol/Lとなるように、また、得られるニッケル含有水酸化物の組成がNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)となるように、純水に硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを添加して調製した。なお、金属塩水溶液中の、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比が、上記組成となるように、金属塩水溶液を調製した。
【0234】
以上の点以外は、比較例1と同じ条件でニッケル含有水酸化物、正極活物質の製造、評価を行った。
【0235】
なお、得られたニッケル含有水酸化物の組成はNi0.8Mn0.1Co0.1(OH)であり、正極活物質の組成はLi1.0Ni0.8Mn0.1Co0.1であった。
【0236】
評価結果を表1に示す。
【0237】
【表1】

表1によると、晶析工程開始時の反応前水溶液の溶存酸素濃度を0.1mg/L以下とした実施例1~実施例11では、晶析工程で得られたニッケル含有水酸化物を用いて調製した正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物粒子の空隙率は10%以下となった。実施例1~実施例11で得られた正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物粒子は、平均圧壊強度が100MPa以上であり、電極作製時等に潰れにくい粒子であることを確認できた。また、Li/Me比を1.03とした実施例6~実施例8、1.06とした実施例9~実施例11はさらに空隙率が小さく、平均圧壊強度が大きかった。
【0238】
これに対して、晶析工程開始時の反応前水溶液の溶存酸素濃度が0.1mg/Lを超えていた比較例1~比較例3では得られたニッケル含有水酸化物を用いて調製した正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物粒子の空隙率が10%を大きく超えることが確認できた。また、係るリチウム金属複合酸化物粒子の平均圧壊強度は100MPaを下回り、実施例1~実施例11と比較して、電極作製時等に潰れやすい粒子であることを確認できた。
【0239】
そして、例えば実施例1~実施例3、実施例6、実施例9と、比較例1とのように組成が同じ正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の初期放電容量を比較した場合、実施例1~実施例3、実施例6、実施例9の方が比較例1よりも高くなることを確認できた。これは、上述のように実施例1~実施例3、実施例6、実施例9では、電極作製時に潰れにくい粒子になっているためと考えられる。実施例4、実施例7、実施例10と比較例2、実施例5、実施例8、実施例11と比較例3との比較でも同様のことが言える。
【0240】
以上にニッケル含有水酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0241】
本出願は、2020年7月21日に日本国特許庁に出願された特願2020-124702号に基づく優先権を主張するものであり、特願2020-124702号の全内容を本国際出願に援用する。
図1