(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】酢酸アルケニル製造用固定床多管式反応器
(51)【国際特許分類】
C07C 67/04 20060101AFI20240409BHJP
C07C 69/155 20060101ALI20240409BHJP
B01J 8/06 20060101ALI20240409BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240409BHJP
B01J 23/89 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
C07C67/04
C07C69/155
B01J8/06
C07B61/00 300
B01J23/89 Z
(21)【出願番号】P 2022565048
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027393
(87)【国際公開番号】W WO2022113423
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020197024
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】岩間 康拓
(72)【発明者】
【氏名】生嶋 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】梅原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 脩平
(72)【発明者】
【氏名】牧 利幸
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 見正
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特公昭51-027653(JP,B1)
【文献】国際公開第2017/002576(WO,A1)
【文献】特開2004-339195(JP,A)
【文献】特開2012-121842(JP,A)
【文献】特開2003-001094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸アルケニル製造用の固定床多管式反応器であって、
前記固定床多管式反応器の上部から原料ガス、及びアルカリ金属酢酸塩の水溶液のミストが供給される複数の反応管と、
前記固定床多管式反応器の下部から前記複数の反応管の少なくとも1本に挿入された温度計保護管と、
前記温度計保護管に挿入された温度計と、
を備えた固定床多管式反応器。
【請求項2】
前記アルカリ金属酢酸塩が酢酸カリウム及び酢酸セシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の固定床多管式反応器。
【請求項3】
前記温度計保護管が挿入された前記反応管の数が3~10である、請求項1又は2のいずれか一項に記載の固定床多管式反応器。
【請求項4】
前記温度計が熱電対又は抵抗温度計である、請求項1~3のいずれか一項に記載の固定床多管式反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級オレフィン、酢酸及び酸素から気相接触酸化反応により酢酸アリル、酢酸ビニルなどの酢酸アルケニルを製造する際に用いる固定床多管式反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸アリルは、溶剤、アリルアルコールなどの製造原料などに用いられる重要な工業原料の一つである。
【0003】
酢酸アリルの製造方法として、プロピレン、酢酸及び酸素を原料とし、気相反応又は液相反応を用いる方法がある。この反応に用いられる触媒としては、パラジウムを主触媒成分とし、アルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物を助触媒として、これらを担体に担持させた触媒が公知であり、広く用いられている。例えば、特開平2-91045号公報(特許文献1)には、パラジウム、酢酸カリウム、及び銅を担体に担持させた触媒を用いる酢酸アリルの製造方法が記載されている。
【0004】
一方、酢酸ビニルは、酢酸ビニル樹脂の原料、ポリビニルアルコールの原料、又はエチレン、スチレン、アクリレート、メタクリレートなどとの共重合用モノマーとして、塗料、接着剤、繊維処理剤などの広い分野に用いられる重要な工業材料である。
【0005】
酢酸ビニルの製造方法として、エチレン、酢酸及び酸素を原料とし、気相反応又は液相反応を用いる方法がある。この反応に用いられる触媒としては、パラジウムを主触媒成分とし、助触媒としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物を担体に担持させた触媒が公知であり、広く用いられている。例えば、特表2004-526553号公報(特許文献2)には、パラジウム、金、及び酢酸カリウムを担体に担持させた触媒を用いる酢酸ビニルの製造方法が記載されている。
【0006】
上記の触媒を用いる酢酸アルケニル製造プロセスにおいては、数千時間単位にわたる長期間の連続反応のプロセス運転中に、反応管に充填されている触媒から酢酸カリウムが少しずつ流出するため、酢酸カリウムを触媒に連続的に供給する必要があることが、特許文献1及びシリーズ「触媒と経済」解説、Vol.35、No.7(1993)、467~470頁(非特許文献1)に記載されている。
【0007】
酢酸アルケニルの製造に適用される反応器としては、固定床管式反応器が一般に用いられる。固定床管式反応器とは、反応管に固定床としての触媒(担体に担持されたもの)が充填されたものである。固定床多管式反応器とは、固定床管式反応器のうち複数の反応管を備えるものである。反応基質は気相状態で反応管に供給され、触媒層で反応し、反応生成物が反応管より排出される。反応管としては、設備製造、設備保守、触媒の充填時及び交換時の作業性、反応熱の除去等の観点から直管式反応管が多く用いられている。反応管は、触媒の充填、抜出しの作業性等の観点から鉛直方向(縦型)に設置されることが多い。
【0008】
工業的製造プロセス運転中の触媒層における反応状態を確認するため、これらの反応器の触媒層温度は一般に監視される。触媒層温度を測定する方法としては、例えば、特開2002-212127号公報(特許文献3)に記載されるように、触媒を充填する前に固定床多管式反応器全体を代表するいくつかの反応管に保護管(鞘)を設置しておき、これらの保護管内に熱電対を挿入して、反応管内の長手方向の温度を測定する方法が挙げられる。
【0009】
気相接触酸化反応は発熱反応であるため、一般に除熱のための熱媒が反応管外側に供給される。反応管外側の熱媒温度(シェル温度)と触媒層温度との温度差を監視することにより、触媒層の縦方向のどの位置で反応基質がどの程度反応しているかを観察することができる。温度分布に偏在が生じた場合、温度偏在に基づいて反応を制御することで、気相接触酸化反応が安定にかつ高効率に進行するようにプラントを操業することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平2-91045号公報
【文献】特表2004-526553号公報
【文献】特開2002-212127号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】シリーズ「触媒と経済」解説、「酢酸ビニル製造プロセスの変遷とその展望」、Vol.35、No.7(1993)、467~470頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように固定床管式反応器の反応管内部に挿入された熱電対は、プロセス流体としてガスのみを流通させる場合は、触媒層温度を正確に計測することができる。しかし、この温度測定方式を酢酸アルケニル製造用の固定床多管式反応器に適用して、数ヶ月に及ぶ長期間の連続反応を行った場合、固定床多管式反応器全体としては反応が進行して目的の反応生成物が製造される(このことは、反応熱の発生により、連続反応中に触媒層温度がシェル部(反応管外側の熱媒流通領域)の熱媒温度(シェル温度)よりも高かったことを意味する。)にも拘らず、実際には触媒層温度とシェル温度の間に温度差が観測されなくなり、固定床多管式反応器全体を代表する触媒層温度を監視できなくなることを本発明者らは見出した。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、固定床多管式反応器を用いて、低級オレフィン、酢酸及び酸素の気相接触酸化反応により酢酸アルケニルを製造するにあたり、長期間のプロセス運転を行ったときでも、反応管内部の触媒層温度を正しく測定できる反応装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の現象は、酢酸ビニル製造及び酢酸アリル製造の固定床多管式反応器に供給されるアルカリ金属酢酸塩の水溶液のミストが、反応器内に挿入された温度計保護管に付着し、その後液滴となって温度計保護管を伝って流下し、温度計保護管が挿入された反応管に選択的に供給されることにより、温度計保護管が挿入された反応管内の触媒のアルカリ金属酢酸塩担持量が過大となり、触媒活性が低下することに起因することを突き止めた。このように触媒活性が低下した触媒が充填されている反応管、すなわち熱電対が挿入された反応管では反応熱の発生量が少なくなるため、これらの反応管内の触媒層温度とシェル温度との温度差は小さくなる。一方、熱電対が挿入されていない反応管では反応が適切に進行しているので、これらの反応管内の触媒層温度はシェル温度よりも相応に高くなっているが、このことはプラントの触媒層温度の測定値には反映されない。そのため、プラントの適切な運転操作を行うことができない場合がある。
【0015】
以上に鑑みて、本発明者らは、温度計保護管に付着したアルカリ金属酢酸塩の液滴が、温度計保護管が挿入された反応管へ温度計保護管を伝って供給されることを防止するため、温度計保護管を反応器下部から挿入することにより、温度計保護管が挿入された反応管に選択的にアルカリ金属酢酸塩の液滴が供給されることを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、以下の[1]から[4]を包含する。
[1]
酢酸アルケニル製造用の固定床多管式反応器であって、
前記固定床多管式反応器の上部から原料ガス、及びアルカリ金属酢酸塩の水溶液のミストが供給される複数の反応管と、
前記固定床多管式反応器の下部から前記複数の反応管の少なくとも1本に挿入された温度計保護管と、
前記温度計保護管に挿入された温度計と、
を備えた固定床多管式反応器。
[2]
前記アルカリ金属酢酸塩が酢酸カリウム及び酢酸セシウムからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]に記載の固定床多管式反応器。
[3]
前記温度計保護管が挿入された前記反応管の数が3~10である、[1]又は[2]のいずれかに記載の固定床多管式反応器。
[4]
前記温度計が熱電対又は抵抗温度計である、[1]~[3]のいずれかに記載の固定床多管式反応器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酢酸アルケニル製造時における反応管内部の触媒層温度を常時正確に測定することができるため、触媒層温度の測定値をホットスポットの検知、アルカリ金属酢酸塩の供給量調整の指標などとして用いることができる。これにより、酢酸アルケニルの製造効率を長期間にわたって高く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態の固定床多管式反応器の概略縦断面図である。
【
図1A】
図1の固定床多管式反応器の平面A-A’の下面図である。
【
図2A】反応前後の実施例1の反応管の触媒充填状態を示す模式図である。
【
図2B】反応前後の比較例1の反応管の触媒充填状態を示す模式図である。
【
図2C】反応前後の参考例1の反応管の触媒充填状態を示す模式図である。
【
図3A】実施例1における触媒層温度とシェル温度との温度差と、延運転時間との関係を示すグラフである。
【
図3B】比較例1における触媒層温度とシェル温度との温度差と、延運転時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0020】
<固定床多管式反応器>
一実施形態の酢酸アルケニル製造用の固定床多管式反応器は、固定床多管式反応器の上部から原料ガス、及びアルカリ金属酢酸塩の水溶液のミストが供給される複数の反応管と、固定床多管式反応器の下部から複数の反応管の少なくとも1本に挿入された温度計保護管と、温度計保護管に挿入された温度計とを備える。
【0021】
図1は、一実施形態の固定床多管式反応器(以下、単に「反応器」ともいう。)の概略縦断面図であり、
図1Aは、
図1の反応器1の平面A-A’の下面図である。
図1に示すように、反応器1は、複数の反応管2と、複数の反応管2の少なくとも1本に反応器1の下部から挿入された温度計保護管3と、温度計保護管3に挿入された温度計4とを備えている。温度計保護管3は、下方への脱落を防ぐための保持装置5により固定されていてもよい。保持装置5は、反応ガスの流通阻害を最小限とするように、できるだけ大きな開口部を有することが好ましい。
【0022】
反応管2の内部には、固定床としての触媒(担体に担持されたもの、不図示)が充填される。反応基質は、気相状態で原料ガスSとして、供給配管8を通って反応器1の上部にある原料ガス供給部9から反応管2に供給され、触媒層で反応して反応生成物Rが生じる。反応生成物Rは、反応管2から出た後、反応器1の下部にある反応生成物排出部10に集められて取出配管11を通って排出される。反応管2は、設備製造、設備保守、触媒の充填及び交換時の作業性、反応熱の除去等の観点から直管式であることが好ましい。反応管2は触媒の充填及び抜出しの作業性の観点から鉛直方向(縦型)に設置されることが好ましい。反応管2の上端及び下端はそれぞれ、上側固定板12及び下側固定板13により固定されている。
【0023】
酢酸アルケニルを合成する気相接触酸化反応は発熱反応であるため、反応管2の外側から反応熱を除去するシステムを要する。反応管2の内径、外径、長さ、材質及び反応熱除去設備、並びに反応熱除去方法に特に制限はないが、反応熱の除去効率、熱交換面積と反応管内部の圧力損失とのバランス等の観点から、反応管2の内径は10~40mmであることが好ましく、長さは1~8mであることが好ましい。反応熱除去のため、反応管2の内径を大きくすることに制限があるため、反応器1は複数の反応管2を備える多管式反応器として構成される。反応管2の数は、例えば1000本~20000本であることが生産量確保の観点から好ましい。反応管の材質は、耐熱性及び耐腐食性に優れていることからSUSであることが好ましい。
【0024】
反応器1は、反応管2を冷却(反応開始時には加熱)するための円筒状又は角筒状のジャケット6を備える。ジャケット6の側面で下側固定板13の上方には熱媒導入口14が、ジャケット6の側面で上側固定板12の下方には熱媒排出口15が、それぞれ設けられている。ジャケット6と、上側固定板12と、下側固定板13と、反応管2の外側とによって画定される空間をシェルSHと呼ぶ。反応管2の温度を制御するための熱媒HMは、熱媒導入口14から導入され、シェルSHを流通して、熱媒排出口15から排出される。シェルSHの内部に、熱媒HMの流れ方向を規定してシェルSH全体での熱媒HMの温度分布をより均一にするための1又は複数のバッフルを設けてもよい。シェルSHを流通する熱媒HMの温度はシェル温度計7によって測定される。シェル温度計7は、反応器1の中心部(円筒型反応器であれば、断面円の中央かつ円筒高さの中点付近)に測温部位が位置するように配置することが好ましい。熱媒HMは、水(スチーム)であることが好ましい。
【0025】
反応管2には、原料ガスS、及びアルカリ金属酢酸塩SAの水溶液のミストが、供給配管8を通して供給される。
【0026】
原料ガスSは、エチレン、プロピレンなどの低級オレフィン、酢酸及び酸素ガスである。低級オレフィンはエチレン又はプロピレンであることが好ましい。
【0027】
アルカリ金属酢酸塩SAの水溶液のミストは、アルカリ金属酢酸塩SAの水溶液を原料ガスS中に噴霧することにより形成することができる。アルカリ金属酢酸塩SAは、酢酸カリウム及び酢酸セシウムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。アルカリ金属酢酸塩SAの水溶液の濃度は0.1~20質量%であることが好ましい。アルカリ金属酢酸塩SAの水溶液の濃度は延べ反応時間の経過に応じて増減させてもよい。アルカリ金属酢酸塩SAの供給速度は、触媒層の体積1Lあたり2~200mg/hであることが好ましい。
【0028】
原料ガスS、及びアルカリ金属酢酸塩SAの水溶液のミスト以外に、反応管2には、供給配管8を通して水、若しくは不活性ガス、又はこれらの両方が供給されてもよい。不活性ガスは、窒素ガス、二酸化炭素、又はこれらの混合ガスであることが好ましい。
【0029】
反応生成物R、未反応ガス等は、取出配管11を通して抜き出される。反応生成物Rは、原料ガスSがエチレンのときは酢酸ビニル、プロピレンのときは酢酸アリルである。
【0030】
反応管2の少なくとも1本には、反応器1の下部から温度計保護管3が挿入されている。温度計保護管3は反応管2の上部近辺まで挿入されることが好ましい。温度計保護管3が挿入された反応管2の数は、3~10であることが好ましい。温度計保護管3が複数ある場合は、これらの温度計保護管3は、反応器1の内部で均等又は対称に配置されることが好ましい。温度計保護管3が1つの場合は、温度計保護管3は、反応器1の中央に配置されることが好ましい。
図1Aでは、中央の反応管2を含めて5つの反応管2に温度計保護管3が挿入されており、温度計保護管3のそれぞれに温度計4が挿入されている。
【0031】
温度計保護管3の直径は、反応管2の内径の1/6~1/2であることが好ましく、反応管2の内径の1/4~1/2であることがより好ましい。温度計保護管3が太すぎると、反応管2の触媒充填量が少なくなり、かつ原料ガスSが流通する断面積が減少して圧力損失が大きくなるため、温度計保護管3が挿入された反応管2の反応量が相対的に低下する、すなわち反応器1の全体の反応熱による温度上昇と温度計4の測定値とが乖離する場合がある。温度計保護管3の材質は、耐熱性及び耐腐食性に優れていることからSUSであることが好ましい。
【0032】
温度計4は温度計保護管3に挿入されている。温度計は、熱電対又は抵抗温度計であることが好ましい。多点測定が可能な熱電対を用いると、反応管2の複数の位置(高さ)で触媒層温度を測定することができる。
【0033】
<酢酸アルケニル製造用触媒>
反応管2に充填される酢酸アルケニル製造用触媒としては、固体触媒であれば特に限定されず、反応に応じて従来から知られている触媒を使用することができる。例えば、上述の特開平2-91045号公報(特許文献1)に記載されたような、パラジウムを主触媒成分とし、助触媒としてアルカリ金属又はアルカリ土類金属化合物を担体に担持させた触媒が挙げられる。
【0034】
このような触媒を調製する方法も特に限定されず、従来からよく知られている種々の方法を採用することができる。触媒の調製に用いられる原料としては特に限定されず、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。
【0035】
一実施形態で用いられる酢酸アリル製造用触媒は、(a)パラジウム、(b)金、(c)銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物、(d)アルカリ金属酢酸塩、及び(e)担体を含む。
【0036】
一実施形態で用いられる酢酸ビニル製造用触媒は、(a)パラジウム、(b)金、(d)アルカリ金属酢酸塩、及び(e)担体を含む。以下、これらの成分について説明する。
【0037】
(a)パラジウム
(a)パラジウムは、いずれの価数を持つものであってもよいが、好ましくは金属パラジウムである。本開示における「金属パラジウム」とは、0価の価数を持つものである。金属パラジウムは、通常、2価又は4価のパラジウムイオンを、還元剤であるヒドラジン、水素などを用いて還元することにより得ることができる。この場合、全てのパラジウムが金属状態になくてもよい。
【0038】
パラジウムの原料すなわちパラジウムを含む化合物としては、特に制限はなく、金属パラジウム又は金属パラジウムに転化可能なパラジウム前駆体を用いることができる。本開示では、金属パラジウムとパラジウム前駆体をあわせて「パラジウム原料」と呼ぶ。パラジウム前駆体としては、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム酸カリウム、塩化パラジウム酸バリウム、及び酢酸パラジウムが挙げられる。好ましくは、塩化パラジウム酸ナトリウムが用いられる。パラジウム前駆体として、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0039】
触媒中の(a)パラジウムと(e)担体との質量比は、好ましくは(a):(e)=1:10~1:1000、より好ましくは(a):(e)=1:20~1:500である。この比は、パラジウム元素の質量と担体の質量との比として定義される。
【0040】
(b)金
(b)金は、金元素を含む化合物の形で担体に担持されるが、最終的には実質的にすべてが金属金であることが好ましい。本開示における「金属金」とは、0価の価数を持つものである。金属金は、通常、1価又は3価の金イオンを、還元剤であるヒドラジン、水素ガスなどを用いて還元することにより得ることができる。この場合、全ての金が金属状態になくてもよい。
【0041】
金の原料すなわち金を含む化合物には特に制限はなく、金属金又は金属金に転化可能な金前駆体を用いることができる。本開示では、金属金と金前駆体をあわせて「金原料」と呼ぶ。金前駆体としては、例えば、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、及び塩化金酸カリウムが挙げられる。好ましくは、塩化金酸、又は塩化金酸ナトリウムが用いられる。金前駆体として、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0042】
触媒中の(b)金と(e)担体との質量比は、好ましくは(b):(e)=1:40~1:65000、より好ましくは(b):(e)=1:70~1:16000、更に好ましくは(b):(e)=1:100~1:5000である。この比は、金元素の質量と担体の質量との比として定義される。
【0043】
(c)銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の元素を有する化合物(本開示において、単に「(c)第4周期金属化合物」ともいう。)
(c)第4周期金属化合物としては、銅、ニッケル、亜鉛及びコバルトからなる群より選択される少なくとも1種の元素の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物などの可溶性塩を使用することができる。有機酸塩としては酢酸塩などが挙げられる。一般には、入手しやすく、水溶性である化合物が好ましい。好ましい化合物としては、硝酸銅、酢酸銅、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸コバルト、及び酢酸コバルトが挙げられる。これらの中では、原料の安定性、入手のしやすさの観点から、酢酸銅が最も好ましい。(c)第4周期金属化合物として、単独の化合物を用いてもよく、複数の種類の化合物を併用することもできる。
【0044】
酢酸アリル製造用触媒中の(c)第4周期金属化合物と(e)担体の質量比は、好ましくは(c):(e)=1:10~1:500、より好ましくは(c):(e)=1:20~1:400である。この比は、銅、ニッケル、亜鉛及びコバルト元素の合計質量と担体の質量との比として定義される。
【0045】
(d)アルカリ金属酢酸塩
(d)アルカリ金属酢酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群より選択される少なくとも1種のアルカリ金属の酢酸塩であることが好ましい。具体的には、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、及び酢酸セシウムが好ましく、酢酸カリウム、及び酢酸セシウムがより好ましい。
【0046】
触媒中の(d)アルカリ金属酢酸塩と(e)担体の質量比は、好ましくは(d):(e)=1:2~1:50、より好ましくは(d):(e)=1:3~1:40である。この比は、使用するアルカリ金属酢酸塩の質量と担体の質量との比として定義される。
【0047】
(e)担体
(e)担体として、特に制限はなく、触媒用担体として一般に用いられている多孔質物質を使用することができる。好ましい担体として、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、珪藻土、モンモリロナイト、チタニア及びジルコニアが挙げられ、より好ましくはシリカである。担体としてシリカを主成分とするものを用いる場合には、担体のシリカ含有量は、担体の質量に対して、好ましくは少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも90重量%である。
【0048】
担体は、BET法で測定した比表面積が10~1000m2/gの範囲であることが好ましく、100~500m2/gの範囲であることがより好ましい。担体の嵩密度は、50~1000g/Lの範囲であることが好ましく、300~500g/Lの範囲であることがより好ましい。担体の吸水率は、0.05~3g-水/g-担体であることが好ましく、0.1~2g-水/g-担体であることがより好ましい。担体の細孔構造については、その平均細孔直径が1~1000nmの範囲であることが好ましく、2~800nmの範囲であることがより好ましい。平均細孔直径が1nm以上であると、ガスの拡散を容易にすることができる。一方、平均細孔直径が1000nm以下であると、触媒活性を得るために必要な担体の比表面積を確保することができる。
【0049】
担体の形状には特に制限はない。具体的には、粉末状、球状、ペレット状などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。用いられる反応形式、反応器などに対応させて、最適な形状を選択することができる。
【0050】
担体の粒子の大きさにも特に制限はない。担体が球状である場合、その粒子直径は1~10mmの範囲であることが好ましく、2~8mmの範囲であることがより好ましい。反応管2に触媒を充填して反応を行うときに、粒子直径が1mm以上であると、ガスを流通させるときの圧力損失の過度の増大を防止して、有効にガス循環を行うことができる。一方、粒子直径が10mm以下であると、触媒内部まで原料ガスを拡散させることが容易となり、有効に触媒反応を進行させることができる。
【0051】
<酢酸アルケニル製造用触媒の反応管2への充填>
反応器1の反応管2に酢酸アルケニル製造用触媒を均一に充填してもよく、アルカリ金属塩量の異なる酢酸アルケニル製造用触媒を含む2以上の触媒層を、原料ガスの流れ方向(反応方向)に沿って、アルカリ金属酢酸塩の担体への担持量が反応器1の入口側から出口側に向かって順次低くなるように配置してもよい。
【0052】
<酢酸アルケニルの製造>
酢酸アルケニルを製造するための反応は、低級オレフィン、酢酸及び酸素を原料として気相で行われる。例えば、低級オレフィンがエチレンの場合、反応式は式(1)のとおりであり、プロピレンの場合、反応式は式(2)のとおりである。
CH2=CH2+CH3COOH+1/2O2→
CH2=CHOCOCH3+H2O (1)
CH2=CHCH3+CH3COOH+1/2O2→
CH2=CHCH2OCOCH3+H2O (2)
【0053】
原料ガス中の酢酸、低級オレフィン及び酸素の比率は、モル比として酢酸:低級オレフィン:酸素=1:0.08~16:0.01~4であることが好ましい。低級オレフィンがエチレンの場合は、酢酸:エチレン:酸素=1:0.2~9:0.07~2であることが好ましい。低級オレフィンがプロピレンの場合は、酢酸:プロピレン:酸素=1:1~12:0.5~2であることが好ましい。
【0054】
原料ガスは、低級オレフィン、酢酸及び酸素ガスを含み、更に必要に応じて窒素ガス、二酸化炭素、又は希ガスなどを希釈剤として含んでもよい。低級オレフィン、酢酸及び酸素ガスを反応原料と定義したときに、反応原料と希釈剤との比率は、モル比として反応原料:希釈剤=1:0.05~9であることが好ましく、反応原料:希釈剤=1:0.1~3であることがより好ましい。
【0055】
原料ガスは、水を0.5~25mol%含むことが好ましく、1~20mol%含むことがより好ましい。いかなる理論に拘束される訳ではないが、反応系内に水が存在することによって、触媒からの(d)アルカリ金属酢酸塩の流出が減少すると考えられている。25mol%を超える大量の水が存在しても上記効果は向上せず、生成した酢酸アルケニルの加水分解が進むおそれがある。
【0056】
原料ガスは、標準状態において、空間速度10~15000hr-1で反応器1に供給されることが好ましく、300~8000hr-1で反応器1に供給されることがより好ましい。空間速度を10hr-1以上とすることにより、反応熱の除去を適切に行うことができる。一方、空間速度が15000hr-1以下とすることにより、コンプレッサー等の設備を実用的な大きさとすることができる。
【0057】
反応温度は、100~300℃の範囲であることが好ましく、120~250℃の範囲であることがより好ましい。反応温度を100℃以上とすることにより、反応速度を実用的な範囲とすることができる。反応温度を300℃以下とすることにより、反応熱の除去を適切に行うことができる。
【0058】
反応圧力は、0~3MPaG(ゲージ圧)の範囲であることが好ましく、0.1~1.5MPaGの範囲であることがより好ましい。反応圧力を0MPaG以上とすることにより、反応速度を実用的な範囲とすることができる。反応圧力を3MPaG以下とすることにより、反応管等の設備に係る費用の増大を抑制することができる。
【0059】
原料ガスに含まれるエチレン、プロピレン等の低級オレフィンには特に制限はない。一般には高純度のものを用いることが好ましいが、メタン、エタン、プロパン等の低級飽和炭化水素が混入していてもよい。
【0060】
酸素ガスに特に制限はない。窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガスで希釈されたもの、例えば、空気の形でも供給できるが、反応後のガスを循環させる場合には、一般には高濃度の酸素、好適には99容量%以上の純度の酸素を用いることが有利である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されない。
【0062】
<製造例1 触媒Aの製造>
シリカ球状担体(球体直径5mm、比表面積155m2/g、吸水率0.85g-水/g-担体、以下単に「シリカ担体」という。)を用い、以下の手順で触媒Aの製造を行った。
【0063】
工程1
塩化パラジウム酸ナトリウム199g及び塩化金酸ナトリウム四水和物4.08gを含有する水溶液4.1Lを調製し、A-1溶液とした。これにシリカ担体(嵩密度473g/L、吸水量402g/L)12Lを加え、A-1溶液を含浸させて、全量を吸収させた。
【0064】
工程2
メタケイ酸ナトリウム九水和物427gを純水に溶解させ、メスシリンダーを用い、全量が8.64Lとなるように純水で希釈して、A-2溶液とした。工程1で得た金属担持担体(A-1)にA-2溶液を含浸させて、室温(23℃)で20時間静置した。
【0065】
工程3
工程2で得られたアルカリ処理シリカ担体(A-2)のスラリーにヒドラジン一水和物300gを添加し、緩やかに撹拌した後、室温で4時間静置した。得られた触媒を濾過後、ストップコック付のガラスカラムに移し、40時間純水を流通させて洗浄した。次いで、空気気流下、110℃で4時間乾燥を行い、金属担持触媒(A-3)を得た。
【0066】
工程4
酢酸カリウム624g、及び酢酸銅一水和物90gを純水に溶解させ、メスシリンダーを用い、全量が3.89Lとなるように純水で希釈した。これに工程3で得られた金属担持触媒(A-3)を加え、全量を吸収させた。次いで、空気気流下、110℃で20時間乾燥を行い、酢酸アリル製造用触媒Aを得た。
【0067】
(a)パラジウム、(b)金、(c)第4周期金属化合物(銅)及び(d)アルカリ金属酢酸塩(酢酸カリウム)の質量比は、(a):(b):(c):(d)=1:0.024:0.39:8.5であった。この質量比は、(a)、(b)及び(c)については成分元素の質量、(d)についてはアルカリ金属酢酸塩の質量に基づく。(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属酢酸塩の担持量(g)は0.110g/gであった。
【0068】
触媒中のアルカリ金属酢酸塩である酢酸カリウムの量は、触媒を粉砕し均一な粉末とした後、成形し、蛍光X線分析(XRF)を用い、絶対検量線法を用いてK(カリウム)原子の含有量(質量%)として定量した。
【0069】
<製造例2 触媒Bの製造>
工程4において、酢酸カリウムの量を624gから396gに変更した以外は製造例1の操作を繰り返して、触媒Bの製造を行った。(a)、(b)、(c)及び(d)の質量比は、(a):(b):(c):(d)=1:0.024:0.39:5.4であった。(e)担体1gあたりの(d)アルカリ金属酢酸塩(酢酸カリウム)の担持量(g)は0.069g/gであった。
【0070】
実施例1
図1に示すような固定床多管式反応器1を用いて酢酸アリルの製造を行った。反応管2の数は約5000であり、各反応管2は六方格子状に配列されていた。反応管2の長さは約6.3m、内径は34mmであった。反応管2に、原料ガスの入口側(上方)から出口側に向かって順に、イナートボールを原料ガス入口側で触媒の上流側に層長0.8m、酢酸カリウム担持量が多く活性の高い触媒Aを層長3.3m、酢酸カリウム担持量が少なく活性の低い触媒Bを層長2.2mとなるように充填した。
【0071】
反応管2のうち3本に、外径8mm、内径6mmの温度計保護管3を反応器1の下部から挿入した。各温度計保護管3の中には、温度計4として、高さの異なる位置(触媒層の上部、中部及び下部)の温度測定が可能な多点式熱電対を挿入し、反応中の触媒層温度を監視した。シェル温度は、反応器1の中央部にシェル温度計7として配置した熱電対により測定した。
【0072】
表1に示す組成の原料ガスを空間速度2000h-1で流通させ、反応温度160℃、反応圧力0.75MPaG(ゲージ圧)の条件で反応を行った。原料ガス中に酢酸カリウム水溶液(1.5質量%)を供給量24g/hでスプレーノズルより噴霧した。
【0073】
【0074】
反応を7000時間継続して、酢酸アリルを連続的に製造した。
【0075】
反応終了後、温度計保護管3が反応器1の下部から挿入された反応管2から、触媒を原料ガス入口側から3:2に分割して抜き出し、反応管2の入口側を触媒G、反応管2の出口側を触媒Hとした。
図2Aに、反応前後の実施例1の反応管の触媒充填状態を模式的に示す。
【0076】
比較例1
温度計保護管3を反応管2に反応器1の上部から挿入したことを除き、実施例1と同様にして酢酸アリルの製造を行った。
【0077】
反応終了後、温度計保護管3が反応器1の上部から挿入された反応管2から、触媒を原料ガス入口側から3:2に分割して抜き出し、反応管2の入口側を触媒E、反応管2の出口側を触媒Fとした。
図2Bに、反応前後の比較例1の反応管の触媒充填状態を模式的に示す。
【0078】
参考例1
実施例1において、反応終了後、温度計保護管3が挿入されていない反応管2から、触媒を原料ガスの入口側から3:2に分割して抜き出し、反応管2の入口側を触媒C、反応管2の出口側を触媒Dとした。
図2Cに、反応前後の参考例1の反応管の触媒充填状態を模式的に示す。
【0079】
図3A及び
図3Bにそれぞれ、実施例1及び比較例1における、反応中の反応器1の中央部の反応管2内部の触媒層温度とシェル温度との温度差(触媒層温度-シェル温度)を示す。酢酸アリルを合成する気相接触酸化反応は発熱反応であるため、反応が正常に進行していれば、触媒層温度の方が高くなる、すなわちプラスの温度差が観測される。
【0080】
比較例1(
図3B)では、相当量の酢酸アリルが製造されたにも拘わらず、反応開始から1000時間~1300時間で温度差が観測されなくなった。このことは、温度計保護管3が挿入された反応管2の触媒が過度の酢酸カリウムの存在により失活し、当該反応管では発熱を伴う反応が起こらなくなったため、反応管2の外部の温度であるシェル温度との差がなくなったことが理由であると推定される。温度計保護管3が挿入されていない反応管2では反応が正常に進行しているため、反応器1の全体としては酢酸アリルを製造することができた。
【0081】
一方、反応器1の下部から温度計保護管3が反応管2に挿入された実施例1(
図3A)では、反応開始から1000時間以降も温度差が観測され続けた。このことから、反応器下部から温度計保護管を反応管に挿入することにより、触媒層温度を正しく継続的に監視可能であることが分かる。
【0082】
表2に実施例1、比較例1、及び参考例1の触媒のカリウム(K)担持量を示す。
【0083】
反応開始時において、触媒AのK担持量は3.8質量%、触媒BのK担持量は2.5質量%であった。
【0084】
反応後の触媒については、実施例1において、反応器1の下部から温度計保護管3が挿入された反応管2から抜き出した触媒GのK担持量は2.9質量%、触媒HのK担持量は8.0質量%であった。比較例1において、反応器1の上部から温度計保護管3が挿入された反応管2から抜き出した触媒EのK担持量は12.6質量%、触媒FのK担持量は12.1質量%であり、過剰のカリウムが担持されていた。参考例1において、温度計保護管3が挿入されていない反応管2から抜き出した触媒CのK担持量は3.8質量%、触媒DのK担持量は8.5質量%であった。
【0085】
以上の結果より、K担持量について、反応器1の上部から温度計保護管3が挿入された反応管2から抜き出した触媒は、温度計保護管3が挿入されていない大部分の反応管2とは大きく異なる挙動を示しており、触媒層全体の代表性を示していないことが分かる。一方、反応器1の下部から温度計保護管3が挿入された反応管2から抜き出した触媒は、温度計保護管3が挿入されていない大部分の反応管2と類似の挙動を示し、触媒層の代表性を示していることが分かる。
【0086】
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、酢酸アルケニルを工業的に安定して製造することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 固定床多管式反応器
2 反応管
3 温度計保護管
4 温度計
5 保持装置
6 ジャケット
7 シェル温度計
8 供給配管
9 原料ガス供給部
10 反応生成物排出部
11 取出配管
12 上側固定板
13 下側固定板
14 熱媒導入口
15 熱媒排出口
S 原料ガス
R 反応生成物
SA アルカリ金属酢酸塩
HM 熱媒
SH シェル