(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】酸化銅クロムスピネル、及びその樹脂組成物、樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C01G 37/00 20060101AFI20240409BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240409BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C01G37/00
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/013
H05K3/10 C
(21)【出願番号】P 2023554020
(86)(22)【出願日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2023019459
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2022090174
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】田淵 穣
(72)【発明者】
【氏名】関根 良輔
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】大道 浩児
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110951281(CN,A)
【文献】特表2015-501868(JP,A)
【文献】特開2018-188342(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221372(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/207679(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003481(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
B01J 21/00-38/74
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H05K 3/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折散乱法により得られる体積換算での粒度分布において、小粒径側からの累積頻度が10%、50%、90%となる粒径をそれぞれD10、D50、D90とした時、粒度分布の広がりSPAN=(D90-D10)/D50が2以下であ
り、D90が4.0μm以下である、酸化銅クロムスピネル。
【請求項2】
D50が
3.0μm以下である、請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
【請求項3】
前記酸化銅クロムスピネルの形状が八面体である、請求項1又は2に記載の酸化銅クロムスピネル。
【請求項4】
さらにモリブデンを含む請求項1に記載の酸化銅クロムスピネル。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の酸化銅クロムスピネル、
熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂、及び、
無機充填剤を含有する樹脂組成物。
【請求項6】
請求項
5に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒度分布が制御された酸化銅クロムスピネル、及び前記酸化銅クロムスピネルを含有する樹脂組成物ならびに成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス、メカトロニクスの分野において機器の小型化、軽量化、多機能化が進んでいる。特に自動車分野では、コネクト化、サービス化、自動化が進み、センサーやモジュールが増加する一方、電動化に向け車重の抑制が求められ、機械的部品と電気回路部品の軽量小型化が強く要望されている。これに対応可能な技術として、成形回路部品(MID:Molded Interconnect Device)に係る技術が注目されている。MIDとは、樹脂成形品に回路、電極等を成形する技術であり、回路、電極等が樹脂成形品と一体化されることにより、部品の小型化、軽量化を可能とすることができる。
【0003】
MIDには、樹脂成形品を表面粗化してめっきを行う1回成形法、回路形成用樹脂と絶縁部形成用樹脂とを個別に2回成形してこれを一体化する2回成形法、樹脂成形品にスタンピングダイを用いて直接回路等を形成するホットスタンピング法等がある。
【0004】
これらのうち、1回成形法の1種であるLDS(Laser Direct Structuring)技術が、製造コストを削減でき、超微細な回路が短期間で作製可能である等の観点から特に注目されている。なお、LDS技術とは、所定の添加剤を含む樹脂成形品に対し、レーザーを照射すると、レーザーを照射した部分が表面粗化および添加剤が活性化し、レーザー照射部分に強固なめっき層の形成を可能とする技術である。
【0005】
このため、LDS技術に適用できる添加剤の研究が進められている。添加剤としては、スピネル型の金属酸化物が一般的に用いられている(特許文献1、2)。特に銅を含むスピネル型の金属酸化物は、銅めっきパターンとの密着性の観点から活用されている。
【0006】
特許文献1には、熱的に高安定性があり、酸性またはアルカリ性の水性金属化浴中において耐久性があるスピネル構造を有する高酸化物、又は、簡単なd-金属酸化物またはその混合物、又は、スピネル構造に類似する混合金属酸化物を含有するコンダクタートラック構造物が示されている。
【0007】
特許文献2には、非導電性金属化合物が、スピネル型の金属酸化物、周期表第3族~第12族の中から選択されており、かつ当該族が隣接する2以上の遷移金属元素を有する金属酸化物、および錫含有酸化物からなる群から選択される一種以上を含むものである、活性エネルギー線の照射により金属核を形成する非導電性金属化合物を含むLDS用熱硬化性樹脂組成物が示されている。
【0008】
特許文献3には、めっき性能が向上した熱可塑性組成物が開示されており、前記組成物中に粗組成物の重量に対して1wt%の量の金属化合物を含み、前記金属化合物がAB2O4で表されることが示されている。
【0009】
しかしながら、前述の特許文献では市販の金属酸化物を用いるなど、金属酸化物について十分な検討がされていない。例えば、粒度分布が制御されていないと、樹脂中に金属酸化物が均一に分散しないことや、硬化物表面に粗大な粒子が存在することで表面が粗くなることに繋がり、結果的に、めっきの密着性や、めっき処理にむらが生じるといった課題がある。したがって、所定の粒度分布や粒径を有する酸化銅クロムスピネルが求められているが、従来の酸化銅クロムスピネルとその製造方法についての知見は限られており、未だ検討の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特表2004-534408号公報
【文献】国際公開第2017/199639号公報
【文献】特表2015-501868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、粒度分布が制御された酸化銅クロムスピネル、および前記酸化銅クロムスピネルを含む樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行い、酸化銅クロムスピネルの粒度分布を制御することで、得られる樹脂組成物の硬化物表面が滑らかになり、めっきが均一に形成され、かつ、密着性に優れるということを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0013】
(1) レーザー回折散乱法により得られる体積換算での粒度分布において、小粒径側からの累積頻度が10%、50%、90%となる粒径をそれぞれD10、D50、D90とした時、粒度分布の広がりSPAN=(D90-D10)/D50が2以下である、酸化銅クロムスピネル。
(2) D50が5.0μm以下である、前記(1)に記載の酸化銅クロムスピネル。
(3) D90が10.0μm以下である、前記(1)又は(2)に記載の酸化銅クロムスピネル。
(4) 前記酸化銅クロムスピネルの形状が八面体である、前記(1)~(3)のいずれかに記載の酸化銅クロムスピネル。
(5) さらにモリブデンを含む前記(1)に記載の酸化銅クロムスピネル。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載の酸化銅クロムスピネル、
熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂、及び、
無機充填剤を含有する樹脂組成物。
(7)前記(6)に記載の樹脂組成物を成形してなる樹脂成形品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒度分布が制御された酸化銅クロムスピネルを提供できる。
また、本発明によれば、めっき密着性に優れた前記酸化銅クロムスピネルを含む樹脂組成物、およびその成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図2】実施例2の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図3】実施例3の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図4】実施例4の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図5】実施例5の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図6】実施例6の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図7】比較例1の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図8】比較例2の酸化銅クロムスピネルのSEM画像である。
【
図10】実施例1のEDS線分析におけるCrのラインプロファイルである。
【
図11】実施例1のEDS線分析におけるCuのラインプロファイルである。
【
図12】実施例3のEDS線分析におけるCrのラインプロファイルである。
【
図13】実施例3のEDS線分析におけるCuのラインプロファイルである。
【
図14】実施例4のEDS線分析におけるCrのラインプロファイルである。
【
図15】実施例4のEDS線分析におけるCuのラインプロファイルである。
【
図16】比較例1のEDS線分析におけるCrのラインプロファイルである。
【
図17】比較例1のEDS線分析におけるCuのラインプロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の酸化銅クロムスピネル、及び酸化銅クロムスピネルの製造方法、前記粒子を含む樹脂組成物の実施形態を説明する。
【0017】
<酸化銅クロムスピネル>
実施形態の酸化銅クロムスピネルの、レーザー回折・散乱法により算出される粒度分布の広がりは、2以下であってもよく、1.9以下であってもよく、1.5以下であってもよい。前記範囲内にあることで、樹脂中での分散性に優れ、成形品とした際にめっきの吸着特性に優れ、好ましい。
【0018】
本明細書において、レーザー回折・散乱法により算出される粒度分布の広がりは、以下の換算式を用いて算出する。
粒度分布の広がり:SPAN=(D90-D10)/D50
なお、D10、D50、D90の各粒子径は、レーザー回折散乱法により得られる体積換算での粒度分布において、小粒径側からの累積頻度が10%、50%、90%となる粒径をいう。
【0019】
実施形態の酸化銅クロムスピネルの、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D50は、5.0μm以下が好ましく、0.5~4.0μmがさらに好ましく、1.0~3.0μmが特に好ましい。前記範囲内にあることで、LDS樹脂組成物とした際に、めっき吸着性能が向上し、好ましい。
【0020】
実施形態の酸化銅クロムスピネルの、レーザー回折・散乱法により算出されるメディアン径D90は、10μm以下が好ましく、1.0~9.0μmがさらに好ましく、2.0~8.0μmがより好ましく、2.5~4.0μmが特に好ましい。前記範囲内にあることで、LDS樹脂組成物とした際に、粗大な粒子により成形物表面の凹凸が低減され、めっき吸着性能が向上し、好ましい。
【0021】
本明細書において、粒子形状を制御することとは、粒子形状が無定形では無いことを意味する。すなわち、本明細書において、粒子形状の制御された酸化銅クロムスピネルとは、粒子形状が無定形では無い酸化銅クロムスピネルを意味する。
【0022】
実施形態の酸化銅クロムスピネルは、多角形状を有するものであってもよい。特に、直方体状、立方体状、多面体状、三角錘状、四角錘状であることが好ましく、直方体状、立方体状、多面体状であることがより好ましく、多面体状であることがさらに好ましく、八面体状であることが特に好ましい。前記形状であることにより、単結晶構造を有する高結晶性となり好ましい。実施形態の酸化銅クロムスピネルは結晶形状が制御され、多角形状の自形を有することができる。結晶形状が制御された酸化銅クロムスピネルは、例えば後述する実施形態の酸化銅クロムスピネルの製造方法により製造可能である。
【0023】
八面体の形状を有する酸化銅クロムスピネルを含む場合、質量基準又は個数基準で50%以上の粒子が八面体の形状を有することが好ましく、80%以上の粒子が八面体の形状を有することがより好ましく、90%以上の粒子が八面体の形状を有することがさらに好ましい。
【0024】
高結晶性であるか否かは、X線回折装置であるSmartLab(株式会社リガク製)を用い、検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)を用い、解析ソフトとしてPDXLを用いた測定により判断することができる。測定方法は2θ/θ法を使用し、解析はピークの半値幅からシェラー式を用いた算出法を適用することができる。
【0025】
本発明の酸化銅クロムスピネルは、さらに、モリブデン、ナトリウムやカリウムを含んでいてもよい。
【0026】
モリブデンを含む場合、酸化銅クロムスピネルに含まれるモリブデン含有量は、XRF分析により測定できる。実施形態の酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる含有率(Mo1)で、0.03質量%以上であることが好ましく、0.03~5.0質量%であることがより好ましく、0.1~2.5質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
上記のXRF分析には、蛍光X線分析装置(例えば、株式会社リガク製、PrimusIV)を用いることができる。
【0028】
MoO3換算での含有率(Mo1)とは、酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められるモリブデン含有量を、MoO3換算の検量線を用いて換算したMoO3量から求めた値をいう。なお、含有率(Mo1)は前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するものである。
【0029】
酸化銅クロムスピネルの表層に含まれるモリブデン含有量は、XPS(X線光電子分光)表面分析により測定できる。実施形態の酸化銅クロムスピネルの表層におけるモリブデン含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる含有率(Mo2)で、0.03質量%以上であることが好ましく、0.03~15.0質量%であることが好ましく、0.5~10.0質量%であることがより好ましく、0.5~7.0質量%であることがさらに好ましい。前記範囲内にあることで、レーザー照射により露出した酸化銅クロムスピネルの銅をより活性化させ、めっきが結合しやすくなるため、好ましい。
【0030】
上記の、XPS分析には、走査型X線光電子分光分析装置(例えば、アルバック・ファイ社製QUANTERA SXM)を用いることができる。
【0031】
上記の含有率(Mo2)は、酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、モリブデン含有量を酸化物換算することにより、酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO3の含有率として求めた値をいう。
【0032】
前記モリブデンは、酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることが好ましい。
【0033】
ここで、本明細書において「表層」とは、実施形態の酸化銅クロムスピネルの表面から10nm以内のことをいう。この距離は、実施例において計測に用いたXPSの検出深さに対応する。
【0034】
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりのモリブデン又はモリブデン化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0035】
酸化銅クロムスピネルにおいて、モリブデンが前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることは、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる前記酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するMoO3換算でのモリブデンの含有率(Mo2)が、前記酸化銅クロムスピネルをXRF(蛍光X線)分析することによって求められる前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するMoO3換算でのモリブデンの含有率(Mo1)よりも多いことで確認することができる。
【0036】
酸化銅クロムスピネルにおいて、モリブデンが前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることの指標として、実施形態の酸化銅クロムスピネルは、XRF分析により求められる含有率(Mo1)に対するXPS表面分析により求められる含有率(Mo2)であるモリブデンの表層偏在比(Mo2/Mo1)が、1.0より上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましく、300以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0037】
モリブデン又はモリブデン化合物を含有すると、所望の粒度分布を有する酸化銅クロムスピネルを容易に得ることができるだけでなく、モリブデン由来の特性を得ることができる。特に、酸化銅クロムスピネルの表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一にモリブデン又はモリブデン化合物を存在させる場合に比べて、触媒活性等の優れた特性を効率的に付与することができる。
【0038】
また、モリブデンを含有する場合、酸化銅クロムスピネルに含まれる銅含有量は、XRF分析することによって求められる含有率(Cu1)で、25.0質量%以上であることが好ましく、30.0~40.0質量%であることがより好ましく、32.0~35.0質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
CuO換算での含有率(Cu1)とは、酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる銅含有量を、CuO換算の検量線を用いて換算したCuO量から求めた値をいう。なお、含有率(Cu1)は前記酸化銅クロムスピネル100質量%に対するものである。
【0040】
酸化銅クロムスピネルの表層に含まれる銅含有量は、XPS表面分析により測定できる。酸化銅クロムスピネルの表層における銅含有量は、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる含有率(Cu2)で、50.0質量%以上であることが好ましく、50.0~80.0質量%であることが好ましく、60.0~75.0質量%であることがより好ましい。前記範囲内にあることで、レーザー照射により活性化される酸化銅クロムスピネルの銅が多く存在し、めっきが結合しやすくなるため、好ましい。
【0041】
上記の含有率(Cu2)は、酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって、各元素について存在比(atom%)を取得し、銅含有量を酸化物換算することにより、酸化銅クロムスピネルの表層100質量%に対するCuOの含有率として求めた値をいう。
【0042】
酸化銅クロムスピネルにおいて、前記銅は、前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることが好ましい。
【0043】
ここで「表層に偏在」するとは、前記表層における単位体積あたりの銅又は銅化合物の質量が、前記表層以外における単位体積あたりの銅又は銅化合物の質量よりも多い状態をいう。
【0044】
酸化銅クロムスピネルにおいて、銅が前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることは、後述する実施例において示すように、前記酸化銅クロムスピネルをXPS表面分析することによって求められる含有率(Cu2)が、前記酸化銅クロムスピネルをXRF分析することによって求められる含有率(Cu1)よりも多いことで確認することができる。
【0045】
酸化銅クロムスピネルにおいて、銅が前記酸化銅クロムスピネルの表層に偏在していることの指標として、実施形態の酸化銅クロムスピネルは、XRF分析により求められる含有率(Cu2)に対する、XPS表面分析することによって求められる含有率(Cu2)である銅の表層偏在比(Cu2/Cu1)が、1より上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましく、1.5以上であることが特に好ましく、3以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。
【0046】
銅又は銅化合物を酸化銅クロムスピネルの表層に偏在させることで、表層だけでなく表層以外(内層)にも均一に銅又は銅化合物を存在させる場合に比べて、レーザー照射により、活性化された酸化銅クロムスピネルの銅が表面に多く露出し、結果的にめっきとの結合点が増え、めっきの密着性が向上し、好ましい。
【0047】
<酸化銅クロムスピネルの製造方法>
酸化銅クロムスピネルの製造方法は、銅化合物、及びクロム化合物を焼成することを含むものである。より具体的には、銅化合物と、クロム化合物と、を混合して混合物とし、前記混合物を焼成することを含むものであってよいが、特に制限されるものではない。
【0048】
酸化銅クロムスピネルの好ましい製造方法は、銅化合物と、クロム化合物と、を混合して混合物とする工程(混合工程)と、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含む。
【0049】
[混合工程]
混合工程は、銅化合物と、クロム化合物と、を混合して混合物とする工程である。
【0050】
混合方法は、特に制限されるものではなく、銅化合物の粉体と、クロム化合物の粉体とを混ぜ合わせる簡便な混合、粉砕機等を用いた機械的な混合、乳鉢等を用いた混合、乾式状態、湿式状態での混合などを用いることができる。
【0051】
例えば、湿式状態での混合としては、液体媒質中に銅化合物の粉体と、クロム化合物の粉体と、を添加し撹拌ミルで混合する方法が挙げられる。
前記液体媒質としては、有機溶剤、油脂、水等を使用することができるが、後処理が容易なことから水が好ましい。
前記撹拌ミルとしては、媒体メディア(ビーズ、ボール、砂)を用いる媒体撹拌ミルであれば特に制限されず、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカーなどが挙げられ、取扱いが容易なことから、ボールを媒体としたペイントシェイカーが好ましい。
撹拌時間は、原料が混合できるという観点から、5~240分であってもよく、30~180分であってもよく、60~180分であってもよい。
【0052】
例えば、乾式状態での混合としては、銅化合物の粉体と、クロム化合物の粉体と、を袋の中に入れて振盪や揉みほぐし等の人的手法や、媒体メディア(ビーズ、ボール、砂)を用いる、ボールミル、チューブミル、振動ミル、遊星ミルなどが挙げられるが、取扱いが容易なことから、ボールを媒体とした遊星ミルが好ましい。
【0053】
(銅化合物)
前記銅化合物の種類は特に限定されない。例えば、前記銅化合物として、1価、又は2価のものであればよく、塩化銅、硫酸銅、硫化銅、炭酸銅、酸化銅等が挙げられ、入手容易性の観点から、炭酸銅、酸化銅が好ましい。
【0054】
焼成後の酸化銅クロムスピネルの形状は、原料の銅化合物の形状が殆ど反映されていないため、銅化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
【0055】
(クロム化合物)
前記クロム化合物の種類は特に制限されない。例えば、前記クロム化合物として、塩化クロム、硫酸クロム、硫化クロム、炭酸クロム、酸化クロム等が挙げられ、入手容易性の観点から、炭酸クロム、酸化クロムが好ましい。
【0056】
焼成後の酸化銅クロムスピネルの形状は、原料のクロム化合物の形状が殆ど反映されていないため、クロム化合物としては、例えば、球状、無定形、アスペクトのある構造体(ワイヤ、ファイバー、リボン、チューブなど)、シートなども好適に用いることができる。
【0057】
本発明の酸化銅クロムスピネルの製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中の銅に対するクロムのモル比(Cu/Cr)は2を基本とするが、過剰な生成物あるいは原料は、後に詳述する精製工程にて容易に除去可能であることから、前記Cu/Crは1.5~2.5の範囲であってもよい。
【0058】
酸化銅クロムスピネルの製造方法は、さらにモリブデン化合物を焼成時に使用してもよい。製造方法としては、焼成工程に先立ち、銅化合物、クロム化合物、並びにモリブデン化合物を混合して混合物とする工程(混合工程)を含むことができ、前記混合物を焼成する工程(焼成工程)を含むことができる。
【0059】
モリブデン化合物の存在下で、銅化合物、及びクロム化合物を焼成することにより、モリブデン化合物を使用しない場合と比較して、高結晶性の多面体形状粒子を得ることができ、後述する粉砕及び/又は分級工程を経ることなく所望の粒子径、粒度分布の酸化銅クロムスピネルを得ることができ、製造工程の簡素化の点で好ましい。
【0060】
(モリブデン化合物)
前記モリブデン化合物としては、酸化モリブデン、モリブデン酸、硫化モリブデン、ケイ化モリブデン、ケイモリブデン酸、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸塩化合物等が挙げられ、酸化モリブデンが好ましい。
【0061】
前記酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン(MoO2)、三酸化モリブデン(MoO3)等が挙げられ、三酸化モリブデンが好ましい。
【0062】
前記モリブデン酸塩化合物は、MoO4
2-、Mo2O7
2-、Mo3O10
2-、Mo4O13
2-、Mo5O16
2-、Mo6O19
2-、Mo7O24
6-、Mo8O26
4-等のモリブデンオキソアニオンの塩化合物であれば限定されない。モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩であってもよく、アルカリ土類金属塩であってもよく、アンモニウム塩であってもよい。
【0063】
前記モリブデン酸塩化合物としては、モリブデンオキソアニオンのアルカリ金属塩が挙げられ、例えば、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム又はモリブデン酸ナトリウムである。
【0064】
前記モリブデン酸塩化合物は、水和物であってもよい。
【0065】
モリブデン化合物は、三酸化モリブデン、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸カリウム、及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であること好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸カリウム及びモリブデン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることがより好ましく、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウムであることが特に好ましい。
【0066】
モリブデン酸塩化合物を用いる場合、酸化モリブデンと金属塩化物(例えば、金属炭酸塩、ハロゲン塩、硫酸塩など)の混合物を予め焼成して、形成したモリブデン酸塩化合物を使用してもよい。例えば、モリブデン酸ナトリウムの場合、酸化モリブデンと炭酸ナトリウムとの混合物を焼成して、形成したモリブデン酸ナトリウムを使用することができる。
【0067】
酸化銅クロムスピネルの製造方法において、モリブデン化合物はフラックス剤として用いられる。本明細書中では、以下、フラックス剤としてモリブデン化合物を用いたこの製造方法を単に「フラックス法」ということがある。なお、かかる焼成により、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物とが高温で反応し、一部がモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムを形成する。このモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが、更に高温で酸化銅クロムスピネルの形成に伴い分解され、その際に一部の酸化モリブデンは酸化銅クロムスピネル内に取り込まれるものと考えられる。一部の酸化モリブデンは蒸発して系外に取り除かれるが、モリブデン化合物としてモリブデン酸ナトリウムなどを用いた場合には、アルカリ金属化合物と酸化モリブデンは化合しやすく、再度モリブデン酸塩を形成して系外にはほとんど排出されずに系内に残ると考えられる。
【0068】
フラックス法において、例えばモリブデン酸ナトリウムを使用すると、液相のモリブデン酸ナトリウムの存在下でモリブデン酸銅およびモリブデン酸クロムが分解し、亜クロム酸銅を形成した後に結晶成長させることで、上述のフラックスの蒸発(MoO3の昇華)を抑制しつつ、凝集の程度の低い又は凝集の無い酸化銅クロムスピネルを容易に得ることができると考えられる。前述の効果は、モリブデン化合物等でも同様に得られると想定される。
【0069】
酸化銅クロムスピネルの製造方法において、使用する銅化合物、クロム化合物、及びモリブデン化合物の配合量は、特に限定されるものではないが、原料中、例えば前記混合物中において、銅化合物およびクロム化合物の総配合量100質量部に対し、モリブデン化合物を、1~1000質量部で配合してもよく、5~100質量部で配合してもよい。
【0070】
酸化銅クロムスピネルの製造方法において、原料中の、例えば前記混合物中のモリブデン化合物中のモリブデン原子と、銅化合物およびクロム化合物中の銅およびクロム原子とのモル比(モリブデン/(銅+クロム))の値は、0.001以上であることが好ましく、0.003以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましく、0.02以上であることが特に好ましい。
【0071】
原料中の、例えば前記混合物中のモリブデン化合物中のモリブデン原子と、銅化合物およびクロム化合物中の銅およびクロム原子とのモル比の上限値は、適宜定めればよいが、使用するモリブデン化合物の削減と製造効率向上の観点から、例えば、上記モル比(モリブデン/(銅+クロム))の値は、1以下であってもよく、0.5以下であってもよく、0.2以下であってもよく、0.1以下であってもよい。
【0072】
原料中の、例えば前記混合物中の上記モル比(モリブデン/(銅+クロム))の数値範囲の一例としては、例えば、モリブデン/(銅+クロム)の値が0.001~1であってもよく、0.003~0.5であってもよく、0.01~0.2であってもよく、0.02~0.1であってもよい。
【0073】
上記の範囲で各種化合物を使用することで、得られる酸化銅クロムスピネルは、後述する粉砕及び/又は分級工程を経ることなく、所望の粒子径、粒度分布とすることができる。
【0074】
(その他添加剤)
酸化銅クロムスピネルの製造方法において、さらに、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物とを使用しても良い。
【0075】
製造方法において、ナトリウム化合物及び/又はカリウム化合物を併用することで、製造される酸化銅クロムスピネルの粒子径の調整が容易であり、凝集の程度の少ない又は凝集のない酸化銅クロムスピネルを容易に製造可能である。
【0076】
ここで、モリブデン化合物をフラックス剤として使用している場合は、少なくとも一部のモリブデン化合物及びナトリウム化合物に代えて、モリブデン酸ナトリウムのような、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物を使用することもできる。同様に、少なくとも一部のモリブデン化合物及びカリウム化合物に代えて、モリブデン酸カリウムのような、モリブデンとカリウムとを含有する化合物を使用することもできる。
【0077】
フラックス剤として好適な、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びナトリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとナトリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びナトリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びナトリウム化合物の存在下とみなす。
【0078】
フラックス剤として好適な、モリブデンとカリウムとを含有する化合物は、例えば、より安価かつ入手が容易な、モリブデン化合物及びカリウム化合物を原料として焼成の過程で生じさせることができる。ここでは、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、モリブデンとカリウムとを含有する化合物をフラックス剤として用いる場合、の両者を合わせて、モリブデン化合物及びカリウム化合物をフラックス剤として用いる場合、即ち、モリブデン化合物及びカリウム化合物の存在下とみなす。
【0079】
(ナトリウム化合物)
ナトリウム化合物としては、特に制限されないが、炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、金属ナトリウム等が挙げられる。これらのうち、工業的に容易入手と取扱いし易さの観点から炭酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0080】
なお、上述のナトリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
また、上記と同様に、モリブデン酸ナトリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0082】
(カリウム化合物)
カリウム化合物としては、特に制限されないが、塩化カリウム、亜塩素酸カリウム、塩素酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、酸化カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、水酸化カリウム、珪酸カリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、モリブデン酸カリウム、タングステン酸カリウム等が挙げられる。この際、前記カリウム化合物は、モリブデン化合物の場合と同様に、異性体を含む。これらのうち、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、モリブデン酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0083】
なお、上述のカリウム化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
また、上記と同様に、モリブデン酸カリウムは、モリブデンを含むため、上述のモリブデン化合物としての機能も有しうる。
【0085】
(金属化合物)
酸化銅クロムスピネルの製造方法において、さらに、金属化合物を所望により焼成時に使用しても良い。
【0086】
金属化合物としては、特に制限されないが、第II族の金属化合物、第III族の金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0087】
前記第II族の金属化合物としては、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物等が挙げられる。
【0088】
前記第III族の金属化合物としては、スカンジウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物、セリウム化合物等が挙げられる。
【0089】
なお上述の金属化合物は、金属元素の酸化物、水酸化物、炭酸化物、塩化物を意味する。例えば、イットリウム化合物であれば、酸化イットリウム(Y2O3)、水酸化イットリウム、炭酸化イットリウムが挙げられる。これらのうち、金属化合物は金属元素の酸化物であることが好ましい。なお、これらの金属化合物は異性体を含む。
【0090】
これらのうち、第3周期元素の金属化合物、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物、第6周期元素の金属化合物であることが好ましく、第4周期元素の金属化合物、第5周期元素の金属化合物であることがより好ましく、第5周期元素の金属化合物であることがさらに好ましい。具体的には、カルシウム化合物、イットリウム化合物、ランタン化合物を用いることが好ましく、カルシウム化合物、イットリウム化合物を用いることがより好ましく、イットリウム化合物を用いることが特に好ましい。
【0091】
金属化合物は、混合工程で使用されるクロム化合物の総量に対して、例えば、0~1.2質量%(例えば、0~1モル%)の割合で使用することが好ましい。
【0092】
[焼成工程]
焼成工程は、前記混合物を焼成する工程である。実施形態に係る前記酸化銅クロムスピネルは、前記混合物を焼成することで得られる。
【0093】
焼成する時の、銅化合物と、クロム化合物と、の状態は特に限定されず、同一の空間に存在すれば良い。
【0094】
焼成温度の条件は特に限定はなく、目的とする酸化銅クロムスピネルの粒子径、粒度分布、形状等を考慮して、適宜決定される。焼成温度は、800℃以上であっても良く、900℃以上であっても良く、1200℃以上であっても良い。焼成温度が高くなると、酸化銅クロムスピネルの形状が制御され、好ましい。
【0095】
昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、100~400℃/hであってもよく、200~400℃/hであってもよい。
【0096】
焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。酸化銅クロムスピネルの形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることがさらに好ましく、2~15時間の焼成温度保持時間であることが特に好ましい。
【0097】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0098】
焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。例えば、ローラーハースキルン、プッシャースキルン、ロータリーキルン、トンネルスキルン、シャトルキルン等が挙げられる。
【0099】
モリブデン化合物をフラックス剤として使用する場合、従来のフラックス法と同様に、対象化合物の融点よりもはるかに低い温度で結晶成長をさせることができ、結晶形状や粒度分布を精密に制御できるメリットを有する。
【0100】
モリブデン化合物を使用する場合、焼成する時の、銅化合物と、クロム化合物と、モリブデン化合物と、の状態は特に限定されず、モリブデン化合物が、銅化合物とクロム化合物とに作用できる同一の空間に存在すれば良い。
【0101】
モリブデン化合物を使用する場合、焼成温度の条件に特に限定はなく、目的とする酸化銅クロムスピネルの粒子径、粒度分布、形状等を考慮して、適宜決定される。焼成温度は、800℃以上であっても良く、800℃以上であっても良く、900℃以上であっても良い。
【0102】
モリブデン化合物を使用する場合、例えば、銅化合物と、クロム化合物と、を焼成する最高焼成温度が1500℃以下の条件であっても、酸化銅クロムスピネルの形成を低コストで効率的に行うことができる。
焼成温度が1500℃よりもはるかに低い温度であっても、前駆体の形状にかかわりなく、自形をもつ酸化銅クロムスピネルを形成することができる。また、酸化銅クロムスピネルを効率よく製造するとの観点からは、上記焼成温度は、1500℃以下であってよく、1000℃以下であってよい。
【0103】
モリブデン化合物を使用する場合、焼成工程における、銅化合物と、クロム化合物とを焼成する焼成温度の数値範囲は、一例として、700~1500℃であってもよく、800~1200℃であってもよく、900~1000℃、950~1000℃であってもよい。
【0104】
モリブデン化合物を使用する場合、昇温速度は、製造効率の観点から、20~600℃/hであってもよく、40~500℃/hであってもよく、100~400℃/hであってもよく、200~400℃/hであってもよい。
前記範囲であることにより、粒度分布の狭い粒子となる傾向にある。
【0105】
モリブデン化合物を使用する場合、焼成の時間については、所定の焼成温度への昇温時間を15分~10時間の範囲で行うことが好ましい。焼成温度における保持時間は、5分以上とすることができ、5分~30時間の範囲で行うことが好ましい。酸化銅クロムスピネルの形成を効率的に行うには、2時間以上の焼成温度保持時間であることがさらに好ましく、2~15時間の焼成温度保持時間であることが特に好ましい。
【0106】
焼成の雰囲気としては、本発明の効果が得られるのであれば特に限定されないが、例えば、空気や酸素といった含酸素雰囲気や、窒素やアルゴン、又は二酸化炭素といった不活性雰囲気が好ましく、コストの面を考慮した場合は空気雰囲気がより好ましい。
【0107】
モリブデン化合物を使用する場合、焼成するための装置としても必ずしも限定されず、いわゆる焼成炉を用いることができる。焼成炉は昇華した酸化モリブデンと反応しない材質で構成されていることが好ましく、さらに酸化モリブデンを効率的に利用するように、密閉性の高い焼成炉を用いることが好ましい。
【0108】
[冷却工程]
酸化銅クロムスピネルの製造方法は、冷却工程を含んでいてもよい。当該冷却工程は、焼成工程において結晶成長した酸化銅クロムスピネルを冷却する工程である。
【0109】
冷却速度は、特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0110】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0111】
[後処理工程]
酸化銅クロムスピネルの製造方法においてモリブデンを使用する場合、焼成工程後、必要に応じてモリブデンの少なくとも一部を除去する後処理工程をさらに含んでいてもよい。
【0112】
方法としては、洗浄および高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0113】
モリブデンは、酸化銅クロムスピネルの表面に付着しうる。当該モリブデンは水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄することにより除去することができる。
【0114】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液の濃度、使用量、及び洗浄部位、洗浄時間等を適宜変更することで、酸化銅クロムスピネルにおけるモリブデン含有量を制御することができる。
【0115】
また、高温処理の方法としては、モリブデン化合物の昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる
【0116】
[粉砕工程]
焼成工程を経て得られる焼成物は、酸化銅クロムスピネルが凝集して、検討される用途における好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。そのため、酸化銅クロムスピネルは、必要に応じて、好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
焼成物の粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0117】
[分級工程]
焼成工程により得られた酸化銅クロムスピネルを含む焼成物は、粒子径の範囲の調整のために、適宜、分級処理されてもよい。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0118】
分級は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。
乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級などがあるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機などの分級機を用いて行うことができる。
【0119】
上記した粉砕工程や分級工程は、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られる酸化銅クロムスピネルの平均粒径を調整することができる。
【0120】
実施形態の酸化銅クロムスピネル、或いは実施形態の製造方法で得られる酸化銅クロムスピネルは、凝集の程度が少ない或いは凝集していないものであるので、本来の性質を発揮しやすく、それ自体の取扱性により優れており、また被分散媒体に分散させて用いる場合において、より分散性に優れる観点から、好ましい。
【0121】
なお、酸化銅クロムスピネルの製造方法においてモリブデンを使用する場合、凝集の程度が少ない又は凝集のない酸化銅クロムスピネルを容易に製造可能であるので、上記の粉砕工程や分級工程は行わなくとも、目的の優れた性質を有する酸化銅クロムスピネルを、生産性高く製造することができるという優れた利点を有する。
【0122】
(用途)
本発明の酸化銅クロムスピネルは、粒子径や粒度分布が精密に制御されていることから、触媒や樹脂組成物に好適に使用可能であり、具体的には、合成反応触媒、排気ガス浄化触媒、耐熱顔料、LDS用樹脂組成物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0123】
<樹脂組成物>
本発明の酸化銅クロムスピネルは、樹脂組成物に好適に使用でき、特にLDS用樹脂組成物として好適に使用できる。具体的には、本発明の酸化銅クロムスピネルから樹脂組成物を得る方法としては、前記酸化銅クロムスピネルと、熱可塑性樹脂と、無機充填剤とを必要に応じて押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで十分に溶融混錬し、混錬物を冷却することで得られる。なお得られる樹脂組成物の形状は、熱可塑性樹脂を用いる場合、ペレット状など任意の形状であってもよく、熱硬化性樹脂を用いる場合は、適当な大きさに粉砕し、打錠成型機等によりタブレット形状にしてもよい。
前記LDS用樹脂組成物には、更に、粘土鉱物、充填剤、カップリング剤、その他の添加剤を任意成分として含有していてもよい。
【0124】
樹脂組成物における、酸化銅クロムスピネルの含有量は、樹脂組成物100質量部に対し、下限としては、0質量部を超えて含まれていればよく、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、上限としては、好ましくは30質量部未満、より好ましくは20質量部未満であればよい。前記範囲内にあることで、得られる成形品のめっき性を良好にすることができる。
【0125】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂が好ましく、めっきの密着力を維持する観点からレーザー感応性が高い、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂が特に好ましい。
【0126】
前記熱硬化性樹脂としては、特に制限されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上組み合わせ用いてもよい。これらの中でも、硬化性、保存性、耐熱性、耐湿性、および耐薬品性を向上させる観点からエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0127】
前記熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂の配合率は、前記樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは10質量%以上から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下までの範囲である。前記樹脂組成物の全質量に対する前記熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂の配合率が5質量%以上であると、得られる成形品のめっき析出速度を向上できることから好ましい。また、得られる成形品のめっきの密着力の観点、充填性や成形安定性の観点からは40質量%以下が好ましい。
【0128】
前記無機充填剤としては、溶融シリカ、結晶シリカ、クリストバライト、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化チタン、ガラス繊維、アルミナ繊維、酸化亜鉛、タルク、炭化カルシウム等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。樹脂組成物の分散性向上の観点から、溶融シリカ、結晶シリカがより好ましく、成形品の機械的強度向上の観点から、ガラス繊維がより好ましい。
【0129】
前記樹脂組成物は粘土鉱物を任意成分として配合することができる。前記粘土鉱物は、本発明の酸化銅クロムスピネルと相乗効果を発揮して、得られる成形品のめっき性、めっき層の接合強度を向上させる機能を有する。得られる成形品について実用的なめっき析出速度を得る点から、前記粘土鉱物は酸化銅クロムスピネルと同じく前記樹脂組成物中に均一に含有されていることが好ましい。
【0130】
前記粘土鉱物としては、層状かつ劈開性を有するものが用いられる。当該粘土鉱物としては、特に制限されないが、炭酸塩鉱物、ケイ酸塩鉱物が挙げられる。
【0131】
前記充填剤としては、特に制限されないが、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ケイ酸カルシウム(ウォラストナイト)等の繊維状充填剤;ガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤等が挙げられる。これらの充填剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら充填剤は、成形品にさらに機械的強度を付与する等の機能を有する。
【0132】
前記カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらカップリング剤は、成形品に異種材料との接着性を付与する他、機械的強度を付与する機能を有する。
【0133】
前記その他添加剤としては、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、難燃剤、光安定剤、熱安定剤、アルカリ、エラストマー、酸化チタン、酸化防止剤、耐加水分解性改良剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0134】
<樹脂成形品>
本発明の樹脂組成物から樹脂成形品を得る方法としては、特に限定されず、公知の方法を適宜採用することができるが、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、トランスファー成形等の金型成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法、溶融成形法などが挙げられる。
【0135】
得られた成形品は、表面または内部をレーザーダイレクトストラクチャリングにより、成形品表層を粗化させ、めっき処理を施すことで、粗化領域にのみめっきを析出させることができることから、内蔵アンテナやタッチセンサー、チップパッケージの回線回路に好適に使用できる。
【0136】
表層を粗化させる方法としては、レーザーが挙げられる。レーザーの波長は、150~12000nmの範囲から適宜選択でき、好ましくは、185nm,248nm、254nm、308nm、355nm、532nm、1,064nm又は10,600nmである。
【0137】
めっき処理としては、電解めっき又は無電解めっきのいずれであってもよい。前述のレーザー照射により、成形品の表層が粗化され、樹脂組成物中の活性化された酸化銅クロムスピネルの一部が露出する。これにより、めっき処理時に、めっきが粗化領域にのみ析出し、回路等を形成することが可能となる。めっき液としては、特に制限はなく、公知のめっき液を適宜使用することができ、Cu、Ni、Agなどの必要とする金属成分を含有しためっき液を用いることができる。
【0138】
本発明の酸化銅クロムスピネルがLDS用途に好適に使用できるか確認する方法は特に限定されるものではないが、例えば、分散液の凝集粒子観察や、分散液の金属元素分布観察、樹脂硬化物の表面粗度を測定することで評価することができる。
【0139】
分散液の凝集粒子を直接観察する方法としては、本発明の酸化銅クロムスピネル、樹脂、溶媒を含有する分散液を作製後、前記分散液を目視で観測し、当該酸化銅クロムスピネルの凝集物の有無を確認する方法が挙げられる。凝集物が観測されない時は「分散性良好(以下、〇)」、凝集物が観測される時は「分散性不良(以下、×)」として評価することができる。
【0140】
前記樹脂としては、特に制限されるものではなく、例えば、上述の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が用いられる。また、樹脂の代わりに分散剤を用いることもできる。分散剤としては、公知のものを適宜使用できるが、例えば、ウレタン系分散剤、アクリル系分散剤、ポリエチレンイミン系分散剤、ポリアリルアミン系分散剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系分散剤、ポリオキシエチレンジエステル系分散剤、ポリエーテルリン酸系分散剤、ポリエステルリン酸系分散剤、ソルビタン脂肪族エステル系分散剤、脂肪族変性ポリエステル系分散剤等の高分子分散剤が挙げられる。なお、樹脂と分散剤は併用してもよく、樹脂や分散剤を用いずに、溶媒と酸化銅クロムスピネルのみで分散液を作製してもよい。
【0141】
前記溶媒としては、有機溶剤であってもよく、水であってもよい。有機溶剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、エチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ベンジル等のエステル類、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のエーテルアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N-ジメチルホルムアミド等の酸アミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン等の有機塩素化合物類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、トリメチルペンタン等の長鎖アルカン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン等の環状アルカン等が挙げられる。
【0142】
分散方法としては、ペイントコンディショナー、ビーズミル、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロールミル、超音波ホモジナイザー等の分散機を用いて混合する方法等を用いることができる。
【0143】
また、分散状態は、樹脂硬化物を作製し、該硬化物表面の粗さを算出することで確認することができる。硬化物表面に凹凸が生じていることは、粒子径や粒度分布の制御が不十分なことにより、凝集物(二次粒子)あるいは粗大な粒子(一次粒子)が存在することを意味する。
【0144】
前記樹脂硬化物は、上述の樹脂組成物ならびに樹脂成形品に記載した方法に基づき、作製することができる。
【0145】
表面の粗さを測定する方法としては、JISB0601(1994)に従って行うことができる。
【0146】
また、酸化銅クロムスピネルと、水溶性バインダーと、分散剤と、消泡剤と、を混合した展色用組成物を基材に滴下あるいは塗布し、硬化させて得られる塗膜の表面状態を観測することによって評価することもできる。
【0147】
前記水溶性バインダーとしては、スチレンアクリル樹脂エマルション、(メタ)アクリル酸エステル樹脂エマルション、ポリブタジエン樹脂エマルションなどが挙げられる。
【0148】
前記分散剤としては、リン酸塩系が挙げられ、中でも、ヘキサンメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0149】
前記消泡剤としては、シリコーン消泡剤が好ましく挙げられ、乳化分散型及び可溶化型などのいずれも使用することができる。
【0150】
分散性の評価方法としては、目視による評価、又は金属元素分析のいずれであってもよい。前者の場合、塗膜に縦筋(色ムラ)が生じていれば、分散性不良と判定することができる。後者の場合、Cu、Crのピーク強度を示すプロファイルから元素のばらつきを評価し、一部に偏在していれば、分散性不良と判定することができる。
【実施例】
【0151】
次に本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、以下において、「部」および「%」は特に断りのない限り質量基準である。なお、以下に示す条件にて、酸化銅クロムスピネルを合成し、以下の条件にて測定または計算し、評価を行った。
【0152】
<酸化銅クロムスピネルの合成>
(実施例1)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.20部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)1.16部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて950℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.2質量%、Mo2は5.4質量%、Cu1は33.7質量%、Cu2は62.7質量%であった。
【0153】
(実施例2)
三酸化モリブデンの使用量を2.32部に変更した以外は、実施例1と同様にして、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.3質量%、Mo2は3.9質量%、Cu1は33.4質量%、Cu2は71.7質量%であった。
【0154】
(実施例3)
モリブデン酸ナトリウム・二水和物(関東化学製試薬)38.6部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)14.4部との混合物を、坩堝に入れ、セラミック電気炉にて700℃で5時間焼成を行なった。49.0部のNa2Mo2O7を得た。
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.20部と、前記Na2Mo2O72.32部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて950℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.1質量%、Mo2は0.8質量%、Cu1は33.3質量%、Cu2は64.4質量%であった。
【0155】
(実施例4)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.20部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)1.16部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.1質量%、Mo2は0.3質量%、Cu1は32.9質量%、Cu2は55.9質量%であった。
【0156】
(実施例5)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.20部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)2.32部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて950℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.2質量%、Mo2は2.7質量%、Cu1は33.2質量%、Cu2は61.6質量%であった。
【0157】
(実施例6)
モリブデン酸ナトリウム・二水和物(関東化学製試薬)38.6部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)14.4部との混合物を、坩堝に入れ、セラミック電気炉にて700℃で5時間焼成を行なった。49.0部のNa2Mo2O7を得た。
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.20部と、前記Na2Mo2O72.32部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.1質量%、Mo2は0.9質量%、Cu1は33.4質量%、Cu2は51.2質量%であった。
【0158】
(比較例1)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)7.95部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.20部とイオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、深緑色の粉末を得た。続いて、前記深緑色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、深緑色の粉末を得た。
【0159】
(比較例2)
酸化銅(II)(関東化学株式会社製試薬、CuO)4.78部と、酸化クロム(III)(関東化学株式会社製試薬、Cr2O3)15.00部と、三酸化モリブデン(日本無機化学工業製)0.02部と、酸化亜鉛(関東化学株式会社製試薬、ZnO)0.20部と、イオン交換水30部と、5mmφジルコニアビーズ120部とを、100mlポリプロピレン瓶に仕込み、ペイントシェイカーを用いて120分間混合及び粉砕し、混合物を得た。得られた混合物を金属バットに移して120℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物をミキサー(大阪ケミカル製)で粉砕した。粉砕した原料を坩堝に入れ、セラミック電気炉にて900℃で10時間焼成を行なった。なお、昇温は5℃/分で行った。降温後、坩堝を取り出し、黒色の粉末を得た。続いて、前記黒色の粉末を0.25%アンモニア水300mLに分散し、分散溶液を室温(25~30℃)で2時間攪拌後、100μm篩を通し、ろ過によりアンモニア水を除き、水洗浄と乾燥を行う事で、酸化銅クロムスピネルを得た。なお、前記粒子をXRF、XPS分析した結果、Mo1は0.1質量%、Mo2は10.0質量%であった。
【0160】
[粒度分布測定]
レーザー回折式乾式粒度分布計(株式会社日本レーザー製 HELOS(H3355)&RODOS)を用いて、分散圧3bar、引圧90mbarの条件で、乾式で試料粉末の粒度分布を測定した。体積積算%の分布曲線が50%の横軸と交差する点の粒子径をD50として求めた。なお、D10、D90も同様の方法により求めた。
【0161】
[SPAN値]
粒度分布の広がりは以下の換算式により求めた。
SPAN=(D90-D10)/D50
【0162】
[展色物の外観評価]
<展色用組成物の調製>
試料粉末2.0部と、スチレンアクリル樹脂エマルション10部(星光PMC株式会社製、ハイロスーX,X-436、樹脂を40質量%含む水分散液)と、ヘキサンメタリン酸ナトリウム水溶液0.6部(富士フイルム和光純薬株式会社製、5質量%水溶液)と、VOCフリーシリコン系消泡剤0.5部(ビックケミー・ジャパン株式会社製、BYK-028、5質量%水溶液)と、をシンキー社製泡取練太郎にて混合し、インキ組成物を得た。
得られたインキ組成物を、バーコーター#20、Φ10mm(アズワン株式会社製)を用いて、インクジェット紙に展色した後、1時間乾燥(室温、大気下)させ、展色物を得た。
【0163】
<展色物の外観評価>
得られた展色物について、以下の項目に従って目視による評価を行った。
[インキ展色物の評価基準]
A(優秀):展色物は色ムラがなく一様な塗膜で、かつ分散不良によるスジが無い。
B(良好):展色物は色ムラがなく一様な塗膜であるが、分散不良によるスジが僅かに有る。
C(不可):展色物にはスジまたは色ムラが見られる。
【0164】
[金属元素分析評価]
<サンプルの作製>
上記で得られた展色物をアルミニウム板に固定し、マグネトロスパッタ装置(株式会社真空デバイス製)にて、展色物の塗膜表面に金をコートし、測定サンプルとした。
【0165】
<サンプル測定方法>
上記測定サンプルを卓上SEM(JCM-7000、JEOL社製)を用いて、加速電圧15kVの条件で表面を約1mm分直線上に走査しながら Cr-Kα、Cu-Kαの特性X線に相当するエネルギー領域の強度を測定した。
【0166】
<金属元素分析評価>
得られたサンプル表面の各地点でのCr、Cuのピーク強度を示すプロファイルについて、以下の項目に従って評価を行った。
[プロファイルの評価基準]
A(優秀):Cr、Cuのピークが偏在しておらず、かつピーク強度のばらつきが小さい。
B(良好):Cr、Cuのピークが一部偏在しているが、ピーク強度のばらつきが小さい。
C(不可):Cr、Cuのピークが偏在しており、ピーク強度のばらつきが大きい。
【0167】
【0168】
【0169】
特許文献3によると、市販の酸化銅クロムスピネル(Balck 1G、Sherpherd Color Company社製)は、記載されている粒子径より、SPAN値が比較例1、比較例2と同様に2を上回ることが推察される。
【符号の説明】
【0170】
100 インクジェット紙
110 展色物
120 SEMの走査方向
【要約】
樹脂組成物中での分散性に優れ、かつ、めっきとの密着性に優れる酸化銅クロムスピネル、及び前記酸化銅クロムスピネルを含む樹脂組成物、樹脂成形品を提供することを目的とする。具体的には、レーザー回折散乱法により得られる体積換算での粒度分布において、小粒径側からの累積頻度が10%、50%、90%となる粒径をそれぞれD10、D50、D90とした時、粒度分布の広がりSPAN=(D90-D10)/D50が2以下である、酸化銅クロムスピネルを提供する。