(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
C01B21/072 R
(21)【出願番号】P 2023555564
(86)(22)【出願日】2023-06-29
(86)【国際出願番号】 JP2023024097
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2022201239
(32)【優先日】2022-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 郁恵
(72)【発明者】
【氏名】御法川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輝
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/040309(WO,A1)
【文献】特開2021-075435(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235234(WO,A1)
【文献】特開平11-116213(JP,A)
【文献】特開2005-104765(JP,A)
【文献】特開2001-019575(JP,A)
【文献】特開平04-321506(JP,A)
【文献】特表平07-507760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/072
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、
前記窒化アルミニウム粒子の表面に、下記式(
3)で示される
化合物を含む有機シリコーン化合物を蒸着させて、有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を得る第1工程と、
前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程と、を有し、
前記第1工程が、窒素雰囲気下で行われ、前記窒素雰囲気中の前記有機シリコーン化合物の分圧が2.6×10
2~3.9×10
3Paであ
り、
下記式(I)より算出される前記窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P
1
)に対する、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P
2
)の変化率が10%以下である、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化3】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【数1】
(式中、P
1
及びP
2
における、D90は粒子の積算体積90%粒径であり、D50は粒子の積算体積50%粒径であり、D10は粒子の積算体積10%粒径である。)
【請求項2】
前記第1工程が、気相吸着法によって行われる、請求項
1に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は、30~200℃の温度条件下で行われる、請求項1又は2に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、熱伝導性が高く、優れた電気絶縁性を備えている。そのため、窒化アルミニウムは、放熱シート及び電子部品の封止材等の製品に使用される樹脂組成物の充填剤として有望である。しかしながら、窒化アルミニウムは、水分との反応で加水分解を引き起こし、熱伝導性の低い水酸化アルミニウムに変性する。また、窒化アルミニウムは、加水分解の際に腐食性を持つアンモニアも発生する。
【0003】
窒化アルミニウムの加水分解は、大気中の水分によっても進行する。そのため、窒化アルミニウムを添加した製品は、高温、高湿の条件下において、耐湿性、熱伝導性の低下を引き起こすだけでなく、窒化アルミニウムの加水分解によって発生したアンモニアによる腐食を招く等、性能の劣化が懸念される。
【0004】
窒化アルミニウムの耐湿性の向上を図る技術として、例えば、窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、前記窒化アルミニウム粒子の表面を特定の構造を含むシリコーン化合物により覆う第1工程と、前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を特定の温度で加熱する第2工程とを備える、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法等が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/040309号
【文献】特開2021-075435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載の製造方法では、得られる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が凝集することがあり、当該珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が凝集すると各種材料への充填性が低下するという問題がある。また、組成物の調製時に凝集した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の解砕を行うと、窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜が剥がれ、組成物の耐湿性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性に優れ、凝集が抑制された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の有機シリコーン化合物を用いて特定の方法により窒化アルミニウム粒子を被覆することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0009】
[1] 窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、
前記窒化アルミニウム粒子の表面に、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物を蒸着させて、有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を得る第1工程と、
前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程と、を有し、
前記第1工程が、窒素雰囲気下で行われ、前記窒素雰囲気中の前記有機シリコーン化合物の分圧が2.6×102~3.9×103Paである、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0010】
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が1~4のアルキル基である。)
[2] 下記式(I)より算出される前記窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P
1)に対する、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P
2)の変化率が10%以下である、上記[1]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0011】
【数1】
(式中、P
1及びP
2における、D90は粒子の積算体積90%粒径であり、D50は粒子の積算体積50%粒径であり、D10は粒子の積算体積10%粒径である。)
[3] 前記第1工程が、気相吸着法によって行われる、上記[1]又は[2]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
[4] 前記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が、下記式(2)で示される化合物、及び下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0012】
【化2】
(式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R1及びR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【0013】
【化3】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
[5] 前記第1工程は、30~200℃の温度条件下で行われる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性に優れ、凝集が抑制された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、詳細に説明する。
本明細書における記載事項を任意に選択した態様又は任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
【0016】
本明細書において、「積算体積90%粒径(D90)」とは、ある粒度分布に対して体積累計の積算値が90%となる粒径を示しており、「積算体積50%粒径(D50)」とは、ある粒度分布に対して体積累計の積算値が50%となる粒径を示しており、「積算体積10%粒径(D10)」とは、ある粒度分布に対して体積累計の積算値が10%となる粒径を示している。D90、D50、及びD10は、いずれもレーザー回折散乱法による粒度分布から求められる。具体的には、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「マイクロトラックMT3300EX2」)を使用することにより、測定することができる。
【0017】
<珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法>
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、窒化アルミニウム粒子と、この窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造するものである。珪素含有酸化物被膜及び珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、詳しくは後述するが、シリカ、及び珪素元素とアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物、酸炭窒化物等が含まれる。
そして、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、窒化アルミニウム粒子の表面に、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物を蒸着させて、有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を得る第1工程と、前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程と、を有し、前記第1工程が、窒素雰囲気下で行われ、前記窒素雰囲気中の前記有機シリコーン化合物の分圧が2.6×102~3.9×103Paである、ことを特徴とする。
【0018】
【0019】
(式(1)中、Rは炭素数が1~4のアルキル基である。)
【0020】
〔第1工程〕
本工程では、窒化アルミニウム粒子の表面に、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物を蒸着させて、有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を得る。
【0021】
<窒化アルミニウム粒子>
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、原料として用いられる窒化アルミニウム粒子は、市販品等公知のものを使用することができる。窒化アルミニウム粒子の製法は、特に制限がなく、例えば、金属アルミニウム粉と窒素又はアンモニアとを直接反応させる直接窒化法、アルミナを炭素還元しながら窒素又はアンモニア雰囲気下で加熱して同時に窒化反応を行う還元窒化法等がある。
【0022】
また、窒化アルミニウム粒子として、窒化アルミニウム粒子の凝集体を焼結により顆粒状にした粒子を用いることができ、例えば、高純度窒化アルミニウム粒子を原料とした焼結顆粒を好適に用いることができる。
【0023】
ここで、高純度窒化アルミニウム粒子とは、酸素の含有量が低く、金属不純物も少ない粒子のことである。具体的には、例えば、酸素の含有量が1質量%以下であり、金属不純物(すなわち、アルミニウム以外の金属原子)の総含有量が1000質量ppm以下である高純度窒化アルミニウム粒子が、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に含まれる窒化アルミニウム粒子のより高い熱伝導性を得るためには好適である。
窒化アルミニウム粒子は、単独又は組み合わせて使用することができる。
【0024】
なお、上述した酸素の含有量は、酸素検出用赤外線検出器を付帯する、無機分析装置等で測定できる。具体的には、酸素の含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(LECOジャパン合同会社製、「ONH836」)を使用することにより、測定することができる。
【0025】
また、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置等で測定できる。具体的には、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP質量分析計(株式会社島津製作所製、「ICPMS-2030」)を使用することにより、測定することができる。
【0026】
本発明で用いられる窒化アルミニウム粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、無定形(破砕状)、球形、楕円状、板状(鱗片状)等が挙げられる。また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、フィラーとして樹脂組成物中に分散させて含有させる場合は、窒化アルミニウム粒子としては、同一の形状、構造を有する同じ種類の窒化アルミニウム粒子(単一物)のみを用いてもよいが、異なる形状、構造を持つ二種類以上の異種の窒化アルミニウム粒子を種々の割合で混合した窒化アルミニウム粒子の混合物の形で用いることもできる。
【0027】
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、樹脂組成物中に分散させて含有させる場合は、樹脂組成物に対する、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を構成する窒化アルミニウム粒子の体積比(充填量)が大きいほど、樹脂組成物の熱伝導率が高くなる。したがって、窒化アルミニウム粒子の形状は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の添加による樹脂組成物の粘度上昇の少ない球形に近いことが好ましい。
【0028】
本発明で用いる窒化アルミニウム粒子の積算体積50%粒径(D50)としては、特に制限はないが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.5μm以上200.0μm以下、さらに好ましくは0.8μm以上100.0μm以下、特に好ましくは1.0μm以上80.0μm以下である。
【0029】
窒化アルミニウム粒子のD50が、上述した範囲内であると、電力系電子部品を搭載する放熱材料に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有させた樹脂組成物を用いる場合でも、最小の厚みの薄い放熱材料の供給が可能になるとともに、被膜が窒化アルミニウム粒子の表面を均一に被覆しやすいため、窒化アルミニウム粒子の耐湿性がより向上する。
【0030】
<被覆に用いる有機シリコーン化合物>
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を構成する珪素含有酸化物被膜の原料として用いられる有機シリコーン化合物は、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物であれば、直鎖状、環状又は分岐鎖状の形態にかかわらず、特に制限なく使用できる。式(1)で表される構造は、珪素原子に直接水素が結合した、ハイドロジェンシロキサン単位である。
【0031】
上記式(1)において、炭素数が1以上4以下のアルキル基であるRとしては、シリコーン化合物を揮発させる観点から、メチル基、エチル基、プロピル基、t-ブチル基等が好ましく、特に好ましいのはメチル基である。本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、原料として用いられる有機シリコーン化合物は、例えば、式(1)で示される構造を含むオリゴマー又はポリマーである。
【0032】
有機シリコーン化合物として、例えば、下記式(2)で示される化合物、及び下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方が好適である。
【0033】
【0034】
(式(2)中、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R1及びR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【0035】
【0036】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【0037】
特に、上記式(3)においてnが4の環状ハイドロジェンシロキサンオリゴマーが、窒化アルミニウム粒子表面に均一な被膜を形成できる点で優れている。式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物の重量平均分子量は、好ましくは100以上2000以下であり、より好ましくは150以上1000以下であり、さらに好ましくは180以上500以下である。この範囲の重量平均分子量の、式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物を用いることで、窒化アルミニウム粒子表面に薄くて均一な被膜を形成しやすいと推測される。なお、式(2)において、mが1であることが好ましい。
【0038】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレン換算重量平均分子量であり、具体的には、カラム(昭和電工株式会社製、「Shodex(登録商標) LF-804」)と示差屈折率検出器(昭和電工株式会社製、「Shodex(登録商標) RI-71S」)との組み合わせで測定することができる。
【0039】
第1工程では、窒化アルミニウム粒子の表面に、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物を蒸着させる。当該蒸着は、例えば、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の蒸気単独もしくは窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスを、静置した窒化アルミニウム粒子表面に蒸着させる気相吸着法によって行ってもよい。また、窒化アルミニウム粒子を撹拌させた状態で、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の蒸気単独もしくは窒素ガス等の不活性ガスとの混合ガスを上記粒子表面に吸着させてもよい。
【0040】
第1工程は、窒素雰囲気下で行われる。窒素雰囲気中の上記有機シリコーン化合物の分圧は、2.6×102~3.9×103Paである。上記有機シリコーン化合物の分圧が2.6×102Pa以上であると、窒化アルミニウム粒子表面に適度な量の有機シリコーン化合物が蒸着し、耐湿性を向上させることができ、3.9×103Pa以下であると、粒度分布広さの変化率を低下させ、凝集を抑制することができる。このような観点から、上記有機シリコーン化合物の分圧は、好ましくは3.2×102~3.9×103Paであり、より好ましくは3.9×102~3.6×103Paであり、さらに好ましくは3.9×102~3.4×103Paである。
上記有機シリコーン化合物の分圧は、反応容器内の有機シリコーン化合物の濃度の測定管理や気化させる有機シリコーン化合物の量の管理により上記範囲内とすることができる。
【0041】
処理温度としては、式(1)で示される構造を含むシリコーン化合物の沸点、蒸気圧にも依存するため、特に限定されないが、好ましい温度は30℃以上200℃以下であり、より好ましくは40℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上100℃以下である。
また、処理時間としては、特に限定されないが、好ましくは1~12時間であり、より好ましくは2~10時間であり、さらに好ましくは3~8時間である。
【0042】
さらに必要な場合には、系内を加圧あるいは減圧させることもできる。この場合に使用できる装置としては、密閉系、かつ、系内の気体を容易に置換できる装置が好ましく、例えば、ガラス容器、デシケーター、CVD装置等を使用できる。
【0043】
上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の導入のタイミングは、当該有機シリコーン化合物の反応量が保たれれば昇温前のいずれの段階で行ってもよい。
【0044】
〔第2工程〕
本工程では、前記第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは400℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下の温度で加熱する。これにより、窒化アルミニウム粒子表面に珪素含有酸化物被膜を形成することができる。
この第2工程での加熱が低温の場合は、窒化アルミニウム粒子表面に、シリカ被膜が形成され、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子が製造できる。また、この第2工程での加熱が高温の場合は、窒化アルミニウム粒子表面に、珪素元素とアルミニウム元素との複合酸化物の被膜が形成され、珪素元素とアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が製造できる。第2工程での温度が高くなると、窒化アルミニウム粒子を構成するアルミニウムが窒化アルミニウム粒子表面に出てくることで有機シリコーン化合物に由来する珪素とともに複合酸化物を形成して、珪素元素とアルミニウム元素との複合酸化物の被膜が形成されると推測される。
第2工程では、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下で、より好ましくは400℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下の温度で加熱することができれば、すなわち、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは400℃以上900℃以下、さらに好ましくは500℃以上880℃以下の温度範囲に保持できるものであれば、一般の加熱炉を使用することができる。
【0045】
なお、シリカ被覆とは、シリカを主成分とする薄膜でコートされていることを意味する。ただし、コートされたシリカと窒化アルミニウム粒子との界面には、複数の無機複合物が存在する可能性があるので、飛行時間二次イオン質量分析(ToF-SIMS:Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry;ION-TOF社製、「TOF.SIMS5」)で分析した場合には、二次イオン同士の再結合及びイオン化の際の分解等も重なり、AlSiO4イオン、SiNOイオン等のセグメントが副成分として同時に検出される場合もある。このToF-SIMS分析で分析される複合セグメントも、窒化アルミニウムをシリカ化した場合の部分検出物と定義することができる。目安としては、シリカの2次電子量が、その他のフラクションより多い状態であれば、シリカが主成分であると見なすことができる。
【0046】
さらに精度を上げてシリカの純度を確認する実験として、窒化アルミニウム多結晶基板上に同様の方法でシリカ被膜を形成させた試料表面を、光電子分光測定装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy;アルバック・ファイ社製、「Quantera II」)で測定し、検出されるSi由来の光電子の運動エネルギーがシリカの標準ピーク103.7eVとほぼ一致することから、ほとんどがSiO2構造になっていると推測される。なお、加熱温度によっては、有機成分が残るケースもありうる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機シロキサン成分が混在することは十分ありうる。
【0047】
炭素原子の含有量は、管状電気炉方式による非分散赤外吸収法を用いた炭素・硫黄分析装置等で測定できる。具体的には、炭素・硫黄分析装置(Carbon Anlyzer;株式会社堀場製作所製、「EMIA-821」)を使用することにより測定することができる。
【0048】
第2工程の加熱温度(熱処理温度)は、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下であり、より好ましくは400℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは500℃以上880℃以下である。この温度範囲で行うことで、耐湿性、及び熱伝導性の良好な珪素含有酸化物被膜が形成される。具体的には、300℃以上で加熱すると、珪素含有酸化物被膜が緻密化し水分を透過し難くなるためか、耐湿性が良好になる。また、1000℃未満、好ましくは950℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは880℃以下で加熱すると熱伝導性が良好になる。他方、1000℃以上であると、耐湿性、及び熱伝導性が悪くなる。また、加熱温度が、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下であり、より好ましくは400℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは500℃以上880℃以下であれば窒化アルミニウム粒子の表面に均一に珪素含有酸化物被膜が形成される。また、加熱温度が300℃以上であれば、珪素含有酸化物被膜は絶縁性に優れたものになり、1000℃未満、好ましくは950℃以下、より好ましくは900℃以下、さらに好ましくは880℃以下であれば、エネルギーコスト的にも有効である。加熱温度は、好ましくは500℃以上である。
【0049】
加熱時間としては、好ましくは30分間以上12時間以下であり、より好ましくは1時間以上10時間以下であり、さらに好ましくは2時間以上8時間以下である。熱処理時間は、30分間以上であれば有機シリコーン化合物の有機基(炭素数4以下のアルキル基)の分解物の残存がなく、窒化アルミニウム粒子表面に炭素原子の含有量の非常に少ない珪素含有酸化物被膜が得られる点で好ましい。また、加熱時間を12時間以下とすることが、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を生産効率よく製造することができる点で好ましい。
【0050】
第2工程の熱処理の雰囲気は特に限定されず、例えば、N2、Ar、He等の不活性ガス雰囲気下、H2、CO、CH4等の還元ガスを含む雰囲気下でもよく、酸素ガスを含む雰囲気下、例えば大気中(空気中)で行ってもよい。
【0051】
また、耐湿性をより高めるために、第2工程の熱処理後に、さらに、第1工程及び第2工程を順に行ってもよい。すなわち、第1工程及び第2工程を順に行う工程を、繰り返し実行してもよい。
【0052】
第1工程において気相吸着法により窒化アルミニウム粒子の表面を有機シリコーン化合物により覆う被覆方法は、液体処理で行う被覆方法と比較して、均一で薄い珪素含有酸化物被膜を形成することが可能である。したがって、第1工程及び第2工程を順に行う工程を複数回、例えば2~5回程度繰り返しても、窒化アルミニウム粒子の良好な熱伝導率を発揮させることができる。
【0053】
一方、耐湿性に関しては、第1工程及び第2工程を順に行う工程の回数と耐湿性との間には、正の相関が認められる。したがって、実際の用途で求められる耐湿性のレベルに応じて、第1工程及び第2工程を順に行う工程の回数を自由に選択することができる。
【0054】
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法で得られた、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、下記式(I)より算出される前記窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P1)に対する、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P2)の変化率が好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。
【0055】
【0056】
式中、P1及びP2における、D90は粒子の積算体積90%粒径であり、D50は粒子の積算体積50%粒径であり、D10は粒子の積算体積10%粒径である。
【0057】
上記式(I)より算出される粒度分布広さの変化率は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の凝集の度合いを示す指標である。上記変化率が小さいほど、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の凝集は抑制される。上記変化率が10%以下であると、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の凝集が抑えられ、各種材料への充填性が良好となる。また、上記粒子の凝集が少ないと組成物の調製時に凝集粒子の解砕を行う必要がないため、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性が維持され、耐湿性に優れた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子となる。
上記式(I)より算出される粒度分布広さの変化率は、窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物の分圧を適宜調整することにより上記範囲内とすることができる。
【0058】
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法で得られた、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子本来の高熱伝導性を維持し、かつ、耐湿性にも優れているため、電気・電子分野等で使用される放熱材料用途のフィラーとして広く適用できる。
【0059】
<珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子>
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、すなわち、窒化アルミニウム粒子と窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。珪素含有酸化物被膜及び珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、上記シリカ、及び珪素元素とアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物、酸炭窒化物等が含まれる。
【0060】
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、下記式(I)より算出される前記窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P1)に対する、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P2)の変化率が好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。
【0061】
【0062】
式中、P1及びP2における、D90は粒子の積算体積90%粒径であり、D50は粒子の積算体積50%粒径であり、D10は粒子の積算体積10%粒径である。
【0063】
上記変化率が10%以下であると、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の凝集が抑えられ、各種材料への充填性が良好となる。また、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性に優れた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子となる。
【0064】
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、例えば、pH4に調整した塩酸水溶液に投入し、60℃又は85℃で2時間の処理(すなわち、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、pH4に調整した塩酸水溶液に60℃又は85℃で2時間浸漬)したとき、塩酸水溶液中に抽出されたアンモニアの濃度を10mg/L以下とすることができ、極めて耐湿性に優れる。なお、酸性溶液中では加水分解反応が空気中よりも促進されるため、粒子をpH4に調整した塩酸水溶液に晒すことで、耐湿性の加速試験ができる。したがって、pH4の塩酸水溶液を用いることで、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性を評価することができ、上記アンモニアの濃度が10mg/L以下であれば、耐湿性が良いと言える。また、pH4の塩酸水溶液を用いることで、併せて耐薬品性の比較もできる。
上記抽出されたアンモニアの濃度は、好ましくは8mg/L以下、より好ましくは6mg/L以下、さらに好ましくは5mg/L以下、特に好ましくは4mg/L以下である。
耐湿性の観点から、炭素原子の含有量は低いほど好ましい。ここで、上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法では原料として式(1)で示される構造を有する有機シリコーン化合物を用いているため、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は炭素原子を含有する場合が多く、例えば50質量ppm以上、さらには60質量ppm以上含む場合がある。
【0065】
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)は、耐湿性をより優れたものとする観点から、好ましくは20~2000質量ppmであり、より好ましくは30~1900質量ppmであり、さらに好ましくは40~1850質量ppmである。
上記ΔSi量は、ICP法により測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0066】
〔樹脂組成物の製造方法〕
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を用いて、樹脂組成物を製造することができる。すなわち、本発明における樹脂組成物の製造方法は、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法により珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造する製造工程と、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と樹脂とを混合する混合工程と、を有する。珪素含有酸化物被膜及び珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、上記シリカ、及び珪素元素とアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物、酸炭窒化物等が含まれる。
上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、凝集が抑制され樹脂組成物への充填性が良好となるため、上記樹脂組成物を容易に製造することができる。また、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性が向上するため、上記樹脂組成物の製造方法で得られる樹脂組成物は、耐湿性及び熱伝導性に優れる。
【0067】
混合工程では、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と、樹脂とを混合する。
【0068】
混合工程で混合する樹脂は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物であることが、得られる樹脂組成物が耐熱性に優れる点で好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニールアルコールアセタール樹脂等が挙げられ、単独又は二種類以上を混ぜ合わせて使用することができる。さらに、熱硬化性樹脂に硬化剤、及び硬化促進剤を加えた混合物を使用してもよい。特に、硬化後の耐熱性、接着性、電気特性の良い点でエポキシ樹脂が好ましく、柔軟密着性を重視する用途ではシリコーン樹脂が好ましい。
【0069】
なお、シリコーン樹脂には、付加反応硬化型シリコーン樹脂、縮合反応硬化型シリコーン樹脂、有機過酸化物硬化型シリコーン樹脂等があり、単独又は粘度の異なる二種類以上を組み合わせても使用することができる。特に、得られる樹脂組成物が柔軟密着性を重視する用途において使用される場合には、シリコーン樹脂として、例えば、気泡等の原因物質となり得る副生成物の生成がない付加反応硬化型液状シリコーン樹脂が挙げられ、ベースポリマーであるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと架橋剤であるSi-H基を有するオルガノポリシロキサンとを硬化剤の存在下で、常温又は加熱により反応させることでシリコーン樹脂硬化物を得ることができる。なお、ベースポリマーであるオルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、アルケニル基として、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基等を有するものがある。特に、ビニル基は、オルガノポリシロキサンとして好ましい。また、硬化触媒は、例えば、白金金属系の硬化触媒を用いることができ、目的とする樹脂硬化物の硬さを実現するため、添加量を調整して使用することもできる。
【0070】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等の2官能グルシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグルシジルエステル型エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環型エポキシ樹脂;N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、4-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン、3-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン等のグルシジルアミン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等の多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂;等が挙げられる。上述したエポキシ樹脂は、単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。
【0071】
上述したエポキシ樹脂を使用した場合には、硬化剤、硬化促進剤を配合していてもよい。硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物;ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物;無水フタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類;フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン共重合体樹脂等のフェノール樹脂類;ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド;等が挙げられ、硬化触媒としては、例えば、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、及びその誘導体等のアミン類;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、及びその誘導体等のイミダゾール類;等が挙げられる。これらは、単独又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
混合工程では、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外に通常使用される窒化硼素、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛等のフィラーを併用してもよい。
【0073】
混合工程において、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子及び上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーは、所望の樹脂組成物になる量を混合すればよい。
得られる樹脂組成物における上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子及び上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーの総含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、より好ましくは60質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上95質量%以下である。総含有量が、50質量%以上であれば良好な放熱性を発揮でき、99質量%以下であれば樹脂組成物の使用時に良好な作業性が得られる。
【0074】
また、得られる樹脂組成物における珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の含有量は、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子及び上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーの総含有量の30質量%以上100質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上100質量%以下である。総含有量は、30質量%以上で良好な放熱性を発揮できる。
【0075】
混合工程では、さらに、必要に応じてシリコーン、ウレタンアクリレート、ブチラール樹脂、アクリルゴム、ジエン系ゴム及びその共重合体等の可撓性付与剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、無機イオン補足剤、顔料、染料、希釈剤、溶剤等を適宜添加することができる。
【0076】
混合工程における混合方法は、特に限定されず、例えば珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、樹脂、その他添加剤等を、一括又は分割して、らいかい器、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサー、ニーダー、ロールミル等の分散・溶解装置を単独又は適宜組み合わせ、必要に応じて加熱して混合、溶解、混練する方法が挙げられる。
【0077】
また、得られた樹脂組成物は、シート状に成形、必要に応じて反応させて、放熱シートとすることもできる。上述した樹脂組成物及び放熱シートは、半導体パワーデバイス、パワーモジュール等の接着用途等に好適に使用することができる。
【0078】
放熱シートの製造方法としては、基材フィルムで両面を挟む形で樹脂組成物を圧縮プレス等で成形する方法、基材フィルム上に樹脂組成物をバーコーター、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、コンマコーター等の装置を用いて塗布する方法等が挙げられる。さらに、成形・塗布後の放熱シートは、溶剤を除去する工程、加熱等によるBステージ化、完全硬化等の処理工程を追加することもできる。上述したように、工程により様々な形態の放熱シートを得ることができ、対象となる用途分野、使用方法に広く対応することが可能となる。
【0079】
樹脂組成物を基材フィルム上に塗布又は形成する際に、作業性をよくするために溶剤を用いることができる。溶剤としては、特に限定するものではないが、ケトン系溶剤のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン;エーテル系溶剤の1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム;グリコールエーテル系溶剤のメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル;その他ベンジルアルコール;N-メチルピロリドン;γ-ブチロラクトン;酢酸エチル;N,N-ジメチルホルムアミド;等を単独あるいは二種類以上混合して使用することができる。
【0080】
樹脂組成物をシート状に形成するためには、シート形状を保持するシート形成性が必要になる。シート形成性を得るために、樹脂組成物に、高分子量成分を添加することができる。例えば、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、アクリルゴム等が挙げられ、その中でも、耐熱性及びフィルム形成性に優れる観点から、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴム、シアネートエステル樹脂、ポリカルボジイミド樹脂等が好ましく、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴムがより好ましい。それらは、単独又は二種類以上の混合物、共重合体として使用することができる。
【0081】
高分子量成分の重量平均分子量としては、好ましくは10000以上100000以下、より好ましくは20000以上50000以下である。
【0082】
なお、取扱い性のよい良好なシート形状は、上述したような範囲の重量平均分子量成分を添加することで、保持することができる。
【0083】
高分子量成分の添加量は、特に限定されないが、シート性状を保持するためには、樹脂組成物に対し、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下である。なお、0.1質量%以上20質量%以下の添加量で、取り扱い性もよく、良好なシート、膜の形成が図られる。
【0084】
放熱シートの製造時に使用する基材フィルムは、製造時の加熱、乾燥等の工程条件に耐えるものであれば、特に限定するものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の芳香環を有するポリエステルからなるフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルム等が挙げられる。上述したフィルムは、二種類以上を組み合わせた多層フィルムであってもよく、表面がシリコーン系等の離型剤処理されたものであってもよい。なお、基材フィルムの厚さは、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0085】
基材フィルム上に形成された放熱シートの厚さは、20μm以上500μm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。放熱シートの厚さは、20μm以上では均一な組成の放熱シートを得ることができ、500μm以下では良好な放熱性を得ることができる。
【実施例】
【0086】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0087】
<物性の測定算出方法>
[積算体積50%粒径(D50)]
積算体積50%粒径(D50)は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「マイクロトラックMT3300EX2」)を用いて測定した粒度分布において積算体積が50%となる粒径から求めた。
【0088】
[粒度分布広さ]
上記積算体積50%粒径(D50)の測定と同様にして、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、「マイクロトラックMT3300EX2」)を用いて、積算体積90%粒径(D90)及び積算体積10%粒径(D10)を求めた。得られたD10、D50及びD90を用いて、下記式より窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P1)及び珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P2)を算出した。
【0089】
【0090】
[粒度分布広さの変化率]
上記[粒度分布広さ]で得られたP1及びP2より、窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P1)に対する、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の粒度分布広さ(P2)の変化率を下記式(I)より算出した。
【0091】
【0092】
[粒子の耐湿性の評価]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子等の粒子の耐湿性は、50mLのサンプル管にpH4に調整した塩酸水溶液を17gと珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子3gとを投入して密封した後、振とう式恒温槽で85℃、80rpm、2時間の条件で振とうし、静置後、室温(25℃)まで冷却し、上澄み液中のアンモニア濃度を、25℃の温度条件でアンモニア電極(株式会社堀場製作所製、「5002A」)を用いて測定した。なお、測定結果は、表において「耐湿性アンモニア濃度」欄に記載した。
【0093】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)の算出方法]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)は、以下の手順で算出した。
(1)20mLのテフロン(登録商標)容器に、97質量%の硫酸(超特級、和光純薬工業株式会社製)とイオン交換水とを1:2(体積比)で混合した溶液10mLと、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子サンプル0.5gとを投入した。
(2)テフロン(登録商標)容器ごとステンレスの耐圧容器に入れ、230℃で15時間維持し、投入した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子サンプルを溶解させた。
(3)(1)で混合した溶液を取り出し、ICP(株式会社島津製作所製、「ICPS-7510」)を用いて珪素原子の濃度を測定し、この測定した珪素原子の濃度から、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)(単位:質量ppm)を算出した。
【0094】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)の算出方法]
上記算出方法にて算出した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量(Si量)から、同方法にて算出した窒化アルミニウム原料のみのケイ素含有量を差し引くことにより、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に被覆された珪素含有酸化物の珪素原子の含有量(ΔSi量)(単位:質量ppm)を算出した。
【0095】
[樹脂成形体の熱伝導率]
熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製、「TPS 2500 S」)を用いたホットディスク法により、ISO 22007-2:2015に準拠して、以下の方法で作成した樹脂成型体試験片、並びに各実施例及び比較例で作製した樹脂成型体試験片の熱伝導率(単位:W/m・K)を測定した。
(樹脂成形体の製造)
ポリジメチルシロキサンゲル(ダウ・東レ株式会社製、「DOWSILTM EG-3100」)のA液とB液を合計100質量部に対してそれぞれ50質量%ずつ容器に計量し、表1に記載の組成(質量部)となるようにフィラー各種を計量し、自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、「ARV-310P」)にて、回転数1000rpmで30秒間、減圧をしながら撹拌混合した。一旦、室温(25℃)まで冷却した。PET基材上に組成物1~6をそれぞれ載せてPET基材で挟み、圧延ロールにて2mm厚みに延伸後、100℃15分間の熱処理で硬化させ、樹脂成型体試験片1~6を得た。
但し、表1中の各成分の詳細を以下に表す。
・窒化アルミニウム粒子A:東洋アルミニウム株式会社製、「N01P」;D50=1.3μm
・窒化アルミニウム粒子B:東洋アルミニウム株式会社製、「JM」;D50=2.8μm
・窒化アルミニウム粒子C:東洋アルミニウム株式会社製、「TFZ-N15P」;D50=17.0μm
・窒化アルミニウム粒子D:古河電子株式会社製、「FAN-f30-A1」;D50=32.8μm
・窒化アルミニウム粒子E:古河電子株式会社製、「FAN-f50-A1」;D50=45.5μm
・窒化アルミニウム粒子F:古河電子株式会社製、「FAN-f80-A1」;D50=77.6μm
・AA-3:アドバンストアルミナ(住友化学株式会社製、「スミコランダム(登録商標)」;D50=3μm)
・AKP-30:高純度アルミナ(住友化学株式会社製、「AKP-30」;D50=0.3μm)
・EG-3100(A):ポリジメチルシロキサンゲル(ダウ・東レ株式会社製、「DOWSILTM EG-3100」)のA液(ビニルオイルと白金触媒の混合物、粘度420mPa・s)
・EG-3100(B):ポリジメチルシロキサンゲル(ダウ・東レ株式会社製、「DOWSILTM EG-3100」)のB液(ビニルオイルと架橋剤の混合物、粘度320mPa・s)
【0096】
【0097】
(実施例1)
[シリカ被覆窒化アルミニウム粒子の製造]
第1工程は、反応槽内容積250Lの大型オーブンをもとにした反応装置を使用し、窒化アルミニウム粒子の表面被覆を行った。反応槽内に、窒化アルミニウム粒子A、窒化アルミニウム粒子B、窒化アルミニウム粒子C、窒化アルミニウム粒子D、窒化アルミニウム粒子E、及び窒化アルミニウム粒子Fを各50g、別のステンレストレーに均一に広げて静置した。次に、反応槽内に式(3)においてn=4である有機シリコーン化合物A(環状メチルハイドロジェンシロキサン4量体;東京化成工業株式会社製、「D4H」)を84g、21gずつ4つのガラス製シャーレ(内径150mm×高さ20mm)に入れて静置し、反応槽を閉じた。反応により水素ガスが発生するため事前に爆発限界である8体積%以下の酸素濃度になるまで反応槽内を真空引きしたのち、ドライ窒素ガスを反応槽へと流入させ、内部圧を常圧(0.1MPa)に戻した。その後、反応槽を80℃へ加熱し、有機シリコーン化合物Aを気化させ、温度が安定してから7.5時間反応を行った。なお、第1工程開始時の反応槽内部の窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物Aの分圧は、3.3×103Paであった。
第1工程を終了した後、反応槽から取り出したA~Fのサンプルをそれぞれアルミナ製のるつぼに入れ、大気中で、サンプルA~Cは700℃、3時間の条件で、サンプルD~Fは850℃、6時間の条件で第2工程の熱処理を行うことで、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 1-A~1-Fを得た。
また、上述の(樹脂成形体の製造)において、表1中の窒化アルミニウム粒子A~Fをそれぞれシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 1-A~1-Fに変更したこと以外は、上記(樹脂成形体の製造)と同様にして、組成物 1-A~1-Fを調製し、さらに樹脂成型体試験片 1-A~1-Fを得た。
【0098】
(実施例2)
実施例1において、第1工程における窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物Aの分圧を3.3×103Paから1.6×103Paに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子 2-A~2-Fを得た。また、上述の(樹脂成形体の製造)において、表1中の窒化アルミニウム粒子A~Fをそれぞれシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 2-A~2-Fに変更したこと以外は、上記(樹脂成形体の製造)と同様にして、組成物 2-A~2-Fを調製し、さらに樹脂成型体試験片 2-A~2-Fを得た。
【0099】
(実施例3)
実施例1において、第1工程における窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物Aの分圧を3.3×103Paから8.1×102Paに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子 3-A~3-Fを得た。また、上述の(樹脂成形体の製造)において、表1中の窒化アルミニウム粒子A~Fをそれぞれシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 3-A~3-Fに変更したこと以外は、上記(樹脂成形体の製造)と同様にして、組成物 3-A~3-Fを調製し、さらに樹脂成型体試験片 3-A~3-Fを得た。
【0100】
(実施例4)
実施例1において、第1工程における窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物Aの分圧を3.3×103Paから4.1×102Paに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子 4-A~4-Fを得た。また、上述の(樹脂成形体の製造)において、表1中の窒化アルミニウム粒子A~Fをそれぞれシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 4-A~4-Fに変更したこと以外は、上記(樹脂成形体の製造)と同様にして、組成物 4-A~4-Fを調製し、さらに樹脂成型体試験片 4-A~4-Fを得た。
【0101】
(比較例1)
実施例1において、第1工程における窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物Aの分圧を3.3×103Paから1.32×104Paに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子 5-A~5-Fを得た。また、上述の(樹脂成形体の製造)において、表1中の窒化アルミニウム粒子A~Fをそれぞれシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 5-A~5-Fに変更したこと以外は、上記(樹脂成形体の製造)と同様にして、組成物 5-A~5-Fを調製し、さらに樹脂成型体試験片 5-A~5-Fを得た。
また、得られたシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 5-A及び5-Bを、それぞれ自転・公転混合ミキサー(株式会社シンキー製、「ARV-310P」)にて、回転数2000rpmで30秒間、減圧をしながら撹拌混合した。一旦、室温(25℃)まで冷却した。これを複数セット繰り返し、適宜サンプリングをして粒度分布を確認ののち、粒度分布広さの変化率が10%以下になるまでメカノケミカル的に解砕を繰り返すことでシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 5-A1及び5-B1を得た。
【0102】
(比較例2)
実施例1において、第1工程における窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物Aの分圧を3.3×103Paから2.06×102Paに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子 6-A~6-Fを得た。また、上述の(樹脂成形体の製造)において、表1中の窒化アルミニウム粒子A~Fをそれぞれシリカ被覆窒化アルミニウム粒子 6-A~6-Fに変更したこと以外は、上記(樹脂成形体の製造)と同様にして、組成物 6-A~6-Fを調製し、さらに樹脂成型体試験片 6-A~6-Fを得た。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
実施例1~4では、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法における第1工程において、窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物の分圧を、請求項1で規定する範囲内とすることにより、粒度分布広さの変化率を10%以下とすることができ、凝集の抑制された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が得られることがわかる。また、実施例1~4の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、高い熱伝導性を有し、耐湿性に優れる。
一方、窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物の分圧が1.32×104Paであり、上記範囲より大きい比較例1は、粒度分布広さの変化率が10%よりも大きく、得られた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が凝集しているといえる。また、当該粒子を解砕すると粒度分布広さの変化率は低下するものの耐湿性が低下する(5-A1及び5-B1参照)。また、第1工程において、窒素雰囲気中の有機シリコーン化合物の分圧が2.06×102Paであり、上記範囲より小さい比較例2は、耐湿性が低い。
【要約】
窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性に優れ、凝集が抑制された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を提供する。窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、前記窒化アルミニウム粒子の表面に、特定の構造を含む有機シリコーン化合物を蒸着させて、有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を得る第1工程と、前記有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程と、を有し、前記第1工程が、窒素雰囲気下で行われ、前記窒素雰囲気中の前記有機シリコーン化合物の分圧が2.6×102~3.9×103Paである、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。