(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ガーナイト粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 39/00 20060101AFI20240409BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240409BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
C01G39/00 Z
C08L101/00
C08K3/22
(21)【出願番号】P 2023562744
(86)(22)【出願日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2023026499
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022120425
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】清岡 隆一
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/207679(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/221372(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/148236(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102583467(CN,A)
【文献】米国特許第04729889(US,A)
【文献】高熱伝導セラミックスフィラー/樹脂複合材料,Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan,日本,2007年11月01日,14,p. 429-436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
H01B 3/12
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデン原子と、を含むガーナイト粒子であって、1GHzでの誘電正接が1.0×10
-3以下である、ガーナイト粒子。
【請求項2】
平均粒子径が0.1~15μmである、請求項1に記載のガーナイト粒子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガーナイト粒子の製造方法であって、亜鉛化合物及びアルミニウム化合物を、モリブデン化合物存在下で焼成する、ガーナイト粒子の製造方法。
【請求項4】
モリブデン化合物および亜鉛化合物を含む第1の混合物(A-1)又はモリブデン化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A-2)を加熱して中間体を調製する工程(1)と、
混合物(A-2)を用いた場合は、前記中間体を含む第2の混合物を、混合物(A-1)を用いた場合は、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物を、工程(1)で選択した加熱温度より高温で焼成してガーナイト粒子を製造する工程(2)と、を含む請求項3に記載のガーナイト粒子の製造方法。
【請求項5】
亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を、モリブデン化合物の存在下で、固溶化および晶出によりガーナイト粒子に結晶成長させる焼成工程と、更に前記焼成工程で結晶成長したガーナイト粒子を結晶化する冷却工程と、を含む請求項3に記載のガーナイト粒子の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛化合物の亜鉛原子に対する前記モリブデン化合物のモリブデン原子のモル比(モリブデン原子/亜鉛原子)が、0.012~1.5である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
焼成温度が800~1300℃である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のガーナイト粒子と樹脂とを含む樹脂組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の樹脂組成物の成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーナイト粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器の小型軽量化、高性能化が求められ、これに伴い半導体デバイスの高集積化、大容量化が進んでいる。このため、機器の構成部材に生じる発熱量が増大しており、機器の放熱機能の向上が求められてきている。
【0003】
機器の放熱機能を向上させる方法としては、例えば、絶縁部材に熱伝導性を付与する方法、より具体的には、絶縁部材となる樹脂に無機フィラーを添加する方法が知られている。この際、使用される無機フィラーとしては、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0004】
一方で、近年の情報通信量の増加に伴い、高周波数帯域での情報通信が盛んに行われるようになり、機器の構成部材における伝送損失を低減するため、優れた誘電特性(低誘電率、低誘電正接)を有する無機フィラーが求められてきている。
【0005】
特許文献1には、平均粒子径D50が0.01μm以上5μm以下であり、D90/D10が5以下であり、且つ、15μm以上の粒子の含有量が全粒子の総体積に対して0.1体積%以下である、スピネル粒子が開示されており、前記スピネル粒子は高熱伝導率と低誘電正接を併せ持つことが開示されている。しかし、この文献のスピネル粒子はMgAl2O4の化学組成で表される粒子であり、ガーナイト粒子に関しては記載されていない。
【0006】
特許文献2には、無機フィラーとして、金属原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデン原子と、を含み、かつ、[111]面の結晶子径が、100nm以上スピネル型複合酸化物粒子が開示されている。前記金属原子としては、亜鉛原子、コバルト原子又はストロンチウム原子等が記載されており、例えば、亜鉛原子を含む複合酸化物粒子の熱伝導率が1.7W/m・Kを超えた値であることが開示されている。
【0007】
特許文献3には、少なくとも、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られるMgAl2O4又はZnAl2O4を主成分とするスピネル構造を有し、かつ耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値が2%以下である熱伝導性複合酸化物が開示されている。電気絶縁性の評価を行っているものの、誘電特性に関する評価は行われておらず、また、熱伝導率は、50%含有条件において0.43~0.63W/m・Kと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2020/145342号
【文献】国際公開2018/207679号
【文献】特開2016-135841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、熱伝導性フィラーとしてスピネル型複合酸化物粒子は広く知られているが、熱伝導性と誘電特性を兼ね備えるスピネル型複合酸化物粒子の例は少ない。特に、ガーナイト粒子は、熱伝導性、耐薬品性に着目したものが多く、誘電特性については十分に検討されたものではなかった。さらに、上記文献に記載される焼成温度は高く、製造方法としても未だ改良の余地があるものである。
【0010】
そこで、本発明は、熱伝導性および誘電特性に優れるガーナイト粒子を提供し、前記粒子を容易に製造できる製造方法について提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、モリブデンを含むガーナイト粒子が、熱伝導性および誘電特性に優れることを見出し、さらに、製造方法が従来と比較して容易であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
(1) 亜鉛原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデン原子と、を含むガーナイト粒子であって、1GHzでの誘電正接が1.0×10-3以下である、ガーナイト粒子。
(2) 平均粒子径が0.1~15μmである、前記(1)に記載のガーナイト粒子。
(3) 前記(1)又は(2)に記載のガーナイト粒子の製造方法であって、亜鉛化合物及びアルミニウム化合物を、モリブデン化合物存在下で焼成する、ガーナイト粒子の製造方法。
(4) モリブデン化合物および亜鉛化合物を含む第1の混合物(A-1)又はモリブデン化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A-2)を加熱して中間体を調製する工程(1)と、
混合物(A-2)を用いた場合は、前記中間体を含む第2の混合物を、混合物(A-1)を用いた場合は、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物を、工程(1)で選択した加熱温度より高温で焼成してガーナイト粒子を製造する工程(2)と、を含む前記(3)に記載のガーナイト粒子の製造方法。
(5) 亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を、モリブデン化合物の存在下で、固溶化および晶出によりガーナイト粒子に結晶成長させる焼成工程と、更に前記焼成工程で結晶成長したガーナイト粒子を結晶化する冷却工程と、を含む前記(3)または(4)に記載のガーナイト粒子の製造方法。
(6) 前記亜鉛化合物の亜鉛原子に対する前記モリブデン化合物のモリブデン原子のモル比(モリブデン原子/亜鉛原子)が、0.012~1.5である、前記(3)~(5)に記載の製造方法。
(7) 焼成温度が800~1300℃である、前記(3)~(6)に記載の製造方法。
(8) 前記(1)又は(2)に記載のガーナイト粒子と、樹脂とを含む樹脂組成物。
(9) 前記(8)に記載の樹脂組成物の成形物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱伝導性および誘電特性に優れたガーナイト粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0015】
<ガーナイト粒子>
本発明において、ガーナイト粒子は、亜鉛原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデン原子と、を含むガーナイト粒子を示す。前記ガーナイト粒子の誘電正接は、1GHz下で1.0×10-3以下である。
【0016】
一般的にガーナイト粒子はZnAl2O4で表されるが、本発明のガーナイト粒子はモリブデン原子を含む粒子全体を意味する。なお、後述するようにモリブデン原子は、ガーナイト粒子の表面に配置される場合がある。一方で、モリブデン原子がガーナイト粒子の内部に配置される場合もある。なお、モリブデン原子がガーナイト粒子の表面および内部に配置される場合もあり得る。
【0017】
ここで、「表面に配置される」とは、ガーナイト粒子表面にモリブデン原子が付着、被覆、結合、その他これに類する形態で存在することを意味する。他方、「内部に配置される」とは、ガーナイト結晶に組み込まれること、またはガーナイト結晶の欠陥などの空間に存在することを意味する。ガーナイト結晶に組み込まれることとは、ガーナイトを構成する原子の少なくとも一部が、モリブデン原子に置換され、当該モリブデン原子がガーナイト結晶の一部として包含されることを意味する。この際、置換されるガーナイトの原子としては、特に制限されず、亜鉛原子、アルミニウム原子、酸素原子のいずれであってもよい。
【0018】
ガーナイト粒子の誘電率は、13以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、9.7以下であることがより好ましく、9.5以下であることが特に好ましい。前記範囲内にあると、樹脂組成物とした際に、電力消費すなわち熱発生を抑制でき、誘電損失を低減できるため好ましい。
【0019】
ガーナイト粒子の誘電正接は、1GHz下において1.0×10-3以下であり、9.0×10-4以下であることが好ましく、8.0×10-4以下であることがより好ましい。前記範囲内にあると、樹脂組成物とした際に、電力消費すなわち熱発生を抑制でき、誘電損失を低減できるため好ましい。なお、より好ましくは、誘電率と誘電正接を前記上限値以下で兼備していることである。
【0020】
ガーナイト粒子の平均粒子径は、0.1~15μmであることが好ましく、0.5~10μmであることがより好ましく、1~5μmであることが特に好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であると、樹脂と混合して得られる樹脂組成物の粘度の上昇を抑制でき好ましい。一方、平均粒子径が15μm以下であると、樹脂と混合して得られた樹脂組成物を成形した場合、得られる成形物の表面が平滑になること、または、成形物としての機械物性が優れていることから好ましい。さらに、前記範囲内であると、優れた誘電正接となり好ましい。
【0021】
本明細書において、ガーナイト粒子の「平均粒子径」とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定して得られる体積基準粒度分布によるD50の値である。
【0022】
ガーナイト粒子の形状としては、多面体状、球状、楕円状、円柱状、多角柱状、針状、棒状、板状、円板状、薄片状、鱗片状等が挙げられる。これらのうち、樹脂に分散しやすいことから多面体状、球状、楕円状、板状であることが好ましく、多面体状、球状であることがより好ましい。なお、「多面体」とは、通常、6面体以上、好ましくは8面体以上、より好ましくは10~30面体である。ガーナイト粒子の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0023】
前記粒子の形状は、質量基準又は個数基準で50%以上を占める粒子の形状を指し、その割合は、80%以上を占めることがより好ましく、90%以上を占めることがさらに好ましい。
【0024】
上述の通りガーナイト粒子は、亜鉛原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含むガーナイト粒子を表す。さらに、本発明のガーナイト粒子は、モリブデン原子を含む。また、実施形態に係るガーナイト粒子は、本発明の効果を損なわない限り、その他、不可避不純物、他の原子等が含まれていてもよい。
【0025】
<各原子の含有量>
(亜鉛原子、アルミニウム原子、酸素原子)
ガーナイト粒子中の亜鉛原子、アルミニウム原子、酸素原子の含有量は、特に制限されないが、ガーナイトの構造式をZnAlxOyで表す場合、xは1.8~2.2の範囲であることが好ましく、1.9~2.1の範囲であることがより好ましく、yは3.7~4.3の範囲であることが好ましく、3.85~4.15の範囲であることがより好ましい。上記のxは亜鉛原子に対するアルミニウムの原子のモル比(アルミニウム原子/亜鉛原子)を表している。なお、本明細書において、ガーナイト粒子中の亜鉛原子、アルミニウム原子の含有量は誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により測定された値を採用するものとする。
【0026】
(モリブデン原子)
本発明のガーナイト粒子中におけるモリブデン原子は、後述する製造方法に起因して含有されうる。なお、前記モリブデン原子には、後述するモリブデン含有化合物中のモリブデン原子を含む。
【0027】
ガーナイト粒子中のモリブデンの含有量は、特に制限されないが、亜鉛原子に対するモリブデン原子のモル比(モリブデン原子/亜鉛原子)が0.001以上が好ましく、0.07以下がより好ましい。亜鉛原子に対するモリブデン原子のモル比が0.001以上であるとガーナイト粒子の熱伝導性が向上するため好ましく、0.07以下であると高結晶のガーナイト粒子が得られるためより好ましい。なお、本明細書において、ガーナイト粒子中のモリブデン原子の含有量は誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により測定された値を採用するものとする。
【0028】
(他の原子)
本発明のガーナイト粒子中における亜鉛原子、アルミニウム原子、酸素原子、モリブデン原子以外の他の原子としては、本発明の効果を阻害しない範囲において、着色、発光、ガーナイト粒子の形成制御等を目的として意図的にガーナイト粒子中に包含されうる。具体例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、クロム、ニッケル、鉄、銅、マンガン、チタン、ジルコニウム、ガドミウム、イットリウム、ランタン、ガリウム、インジウム等が挙げられる。これらの他の原子は単独で含まれていても、2種以上を混合して含まれていてもよい。
【0029】
なお、ガーナイト粒子中における亜鉛原子、アルミニウム原子、酸素原子、モリブデン原子以外の他の原子の含有量は、ガーナイト粒子中の亜鉛原子量に対して10mol%以下であることが好ましく、5mol%以下であることがより好ましく、2mol%以下であることが最も好ましい。
【0030】
(不可避不純物)
不可避不純物は、原料中に存在したり、製造工程において不可避的にガーナイト粒子に混入するものであり、本来は不要なものであるが、微量であり、ガーナイト粒子の特性に影響を及ぼさない不純物を意味する。
【0031】
不可避不純物としては、特に制限されないが、ケイ素、鉄、カリウム、ナトリウム、カルシウム、カドミウム、鉛等が挙げられる。これらの不可避不純物は単独で含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0032】
ガーナイト粒子中の不可避不純物の含有量は、ガーナイト粒子の質量に対して、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、10ppm以上500ppm以下であることがさらに好ましい。
【0033】
<ガーナイト粒子の製造方法>
ガーナイト粒子の製造方法は、モリブデン化合物および亜鉛化合物を含む第1の混合物(A-1)又はモリブデン化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A-2)を加熱して中間体を調製する工程(1)を含む。この工程(1)の焼成温度は後述する工程(2)で選択する温度より低温で行われる。
【0034】
[中間体の調製工程(I)]
(第1の混合物)
第1の混合物は、モリブデン化合物および亜鉛化合物を必須成分として含む。本発明の製造方法における第1の混合物としては、大別すると、ガーナイト粒子の原料としてモリブデン化合物および亜鉛化合物のみを含む第1の混合物(A-1)、又はモリブデン化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A-2)を用いることが出来る。
【0035】
(モリブデン化合物)
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、金属モリブデン、酸化モリブデン、硫化モリブデンモリブデン、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、H3PMo12O40、H3SiMo12O40等のモリブデン化合物が挙げられる。この際、前記モリブデン化合物は、異性体を含む。例えば、酸化モリブデンは、二酸化モリブデン(IV)(MoO2)であっても、三酸化モリブデン(VI)(MoO3)であってもよい。これらのうち、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムであることが好ましく、三酸化モリブデンであることがより好ましい。
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
(亜鉛化合物)
亜鉛化合物としては、特に制限されないが、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸・水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛化合物が挙げられる。これらのうち、酸化亜鉛であることがより好ましい。
なお、上述の亜鉛化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせ用いてもよい。
【0037】
前記亜鉛化合物の亜鉛原子に対するモリブデン化合物のモリブデン原子のモル比(モリブデン原子/亜鉛原子)は、0.012~1.5であることが好ましく、0.05~1.3であることがより好ましい。前記モル比が0.012以上であると、結晶成長が好適に進行しうることから好ましい。一方、前記モル比が1.5以下であると、モリブデン化合物の使用量が削減でき生産性、製造コストの観点から好ましい。
【0038】
(アルミニウム化合物)
アルミニウム化合物としては、特に制限されないが、金属アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウム、硫化アルミニウム、窒化アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム等のアルミニウム誘導体;硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、アルミン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等のアルミニウムオキソ酸塩;酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等のアルミニウム有機塩;アルミニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム;およびこれらの水和物等が挙げられる。これらのうち、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびこれらの水和物を用いることが好ましく、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムを用いることがより好ましい。
なお、上述のアルミニウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
混合物(A-2)を用いる場合に配合する前記アルミニウム化合物のアルミニウム原子に対する亜鉛化合物の亜鉛原子のモル比(アルミニウム原子/亜鉛原子)は、2.2~1.8の範囲であることが好ましく、2.1~1.9の範囲であることがより好ましい。前記モル比が2.2~1.8の範囲であると、未反応の酸化亜鉛、酸化アルミニウムが抑制されることから好ましい。
【0040】
≪第1の混合物の焼成≫
混合物(A-1)を用いる場合は、亜鉛化合物およびモリブデン化合物の焼成により、モリブデン酸亜鉛化合物を得ることができる。
【0041】
この際、焼成温度は、モリブデン酸亜鉛化合物を得ることができれば特に制限されないが、500~1300℃であることが好ましく、600~1100℃であることがより好ましく、700~900℃であることがさらに好ましい。焼成温度が700℃以上であると、モリブデン化合物と亜鉛化合物とを効率よく反応できることから好ましい。
一方、焼成温度が900℃以下であると、工業的に実施しやすいことから好ましい。
【0042】
焼成時間についても特に制限されないが、0.1~100時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。
【0043】
焼成後は、いったん冷却してモリブデン酸亜鉛化合物を単離してもよいし、そのまま後述する焼成工程を行ってもよい。
【0044】
なお、混合物(A-2)を用いる場合は、亜鉛化合物およびモリブデン化合物、アルミニウム化合物の焼成により、モリブデン酸亜鉛化合物とモリブデン酸アルミニウム化合物を得ることができる。
【0045】
(中間体)
第1の混合物を焼成して得られる中間体は、モリブデン酸亜鉛化合物を必須成分として含むものであり、第1の混合物が混合物(A-1)である場合は、実質的にモリブデン酸亜鉛化合物を主成分として含有するものとなり、第1の混合物が混合物(A-2)である場合は、実質的にモリブデン酸亜鉛化合物とモリブデン酸アルミニウム化合物とを主成分として含有するものとなる。
【0046】
(モリブデン酸亜鉛化合物)
モリブデン酸亜鉛化合物は、後述する焼成工程において、モリブデンの蒸気の発生源となるとともに、アルミニウム化合物のアルミニウム原子と結晶を形成する金属原子を提供する機能を有する。
【0047】
モリブデン酸亜鉛化合物は、亜鉛原子、モリブデン原子、および酸素原子を含み、一般的には、ZnMoO4で表される。
ただし、その他の組成を有していてもよく、例えば、亜鉛原子に対するモリブデン原子のモル比が1:1以外である場合は、焼成後過剰な未反応の亜鉛化合物またはモリブデン化合物が存在する。この場合はモリブデン酸亜鉛化合物と亜鉛化合物との混合物またはモリブデン化合物との混合物となる。また、モリブデン酸亜鉛化合物に他の原子が含まれていてもよい。
【0048】
(モリブデン酸アルミニウム化合物)
モリブデン酸アルミニウムは、アルミニウム原子、モリブデン原子、および酸素原子を含み、一般的には、Alx(MoO4)yで表される。ここで、xとyは共に1以上の整数または小数である。モリブデン酸アルミニウム化合物は分解により、α化度の高いアルミナを形成し得る。
【0049】
[ガーナイト粒子を製造する工程]
(第2の混合物)
第2の混合物は、前記中間体およびアルミニウム化合物を含む。ここで、ガーナイト粒子を合成するのに必要な量のアルミニウム化合物が、第1の混合物に既に含まれている場合は、後述のその他化合物を添加する場合を除いて、第2の混合物は前期中間体と同一のものである。
すなわち、第1の混合物として混合物(A-2)を用いた場合は、この第2の混合物としては、前記中間体を含む第2の混合物を、一方、第1の混合物として混合物(A-1)を用いた場合は、この第2の混合物として、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物が、それぞれ用いられる。
【0050】
混合物(A-1)を用いる場合に配合するアルミニウム化合物は、上述したアルミニウム化合物と同様のものを用いることができ、配合した際のアルミニウム原子に対するモリブデン酸亜鉛化合物の亜鉛原子のモル比(アルミニウム原子/亜鉛原子)は、2.2~1.8の範囲であることが好ましく、2.1~1.9の範囲であることがより好ましい。
なお、モリブデン酸亜鉛は上述の中間体調製工程(I)によって調製されたものを使用しても、市販品を使用してもどちらでもよい。
【0051】
≪第2の混合物の焼成≫
前記中間体、又は前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物を、中間体調製工程(I)で選択した温度よりも高温で焼成することで、ガーナイト粒子を得ることができる。
【0052】
焼成温度は、所望のガーナイト粒子を得ることができれば特に制限されないが、800~1300℃であることが好ましく、900~1200℃であることがより好ましく、1000~1100℃であると特に好ましい。焼成温度が800℃以上であると、高結晶なガーナイト粒子を得る事ができるため好ましく、一方、焼成温度が1300℃以下であると、亜鉛化合物の揮発がないため好ましい。
【0053】
焼成時間は、特に制限されないが、0.1~120時間であることが好ましく、1~50時間であることがより好ましい。焼成時間が0.1時間以上であると、高結晶なガーナイト粒子を得ることができるため好ましい。一方、焼成時間が120時間以内であると、製造コストが低くなり得ることから好ましい。
【0054】
焼成雰囲気は、空気雰囲気であっても、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であっても、酸素雰囲気であっても、アンモニアガス雰囲気であっても、二酸化炭素雰囲気であってもよい。この際、製造コストの観点からは空気雰囲気であることが好ましい。
【0055】
焼成時の圧力についても特に制限されず、常圧下であっても、加圧下であっても、減圧下であってもよいが、製造コストの観点から常圧下で行う事が好ましい。
【0056】
加熱手段としては、特に制限されないが、焼成炉を用いることが好ましい。この際使用されうる焼成炉としては、箱型炉、トンネル炉、ローラーハース炉、ロータリーキルン、マッフル炉等が挙げられる。
【0057】
従来のスピネル型複合酸化物粒子の合成は、通常、高温で焼成するものであることから、欠陥構造等が生じやすく結晶構造を精密に制御することが困難であった。特に、1300℃以上の高温域においては、亜鉛化合物の昇華が始まる温度でもあり、合成されるガーナイト粒子の亜鉛サイトに一部欠陥が生じているものと想定される。これにより、誘電特性が低下していたと考えられる。
【0058】
また、1300℃以下の低温領域においては、ガーナイト結晶内のアルミニウム原子と亜鉛原子の比率が不均一となり、高い結晶性を得ることができず、誘電特性が低下していたものと想定される。しかしながら、モリブデン化合物を所定量同時に焼成することで、理由は定かではないが、ガーナイト結晶内のアルミニウム原子と亜鉛原子の比率が均一となり、高い結晶性を有するガーナイト粒子が得られたものと考えられる。
【0059】
[固溶化および晶出による焼成工程]
本発明の一実施形態によれば、亜鉛含有化合物およびアルミニウム化合物の第3の混合物をモリブデン原子の存在下で焼成して、固溶化および晶出によりガーナイト粒子を製造することができる
【0060】
ここでアルミニウム源およびモリブデン化合物を含む第3の混合物を焼成することで、中間化合物であるモリブデン酸アルミニウムを経由し、前記モリブデン酸アルミニウムが分解し、モリブデン化合物が蒸発することで、モリブデンを含むアルミニウム化合物が生成する。この際、前記モリブデン化合物の蒸発がモリブデンを含むアルミニウム化合物の結晶成長の駆動力となる。
【0061】
前記固溶化および晶出は、通常、いわゆる固相法により行われる。具体的には、亜鉛含有化合物およびアルミニウム化合物が界面において反応して核を形成し、亜鉛原子および/またはアルミニウム原子が、前記核を介して固相拡散し、アルミニウム化合物および/または上記亜鉛原子含有化合物と反応する。これにより、緻密な結晶体、すなわちガーナイト粒子を得ることができる。この際、前記固相拡散において、亜鉛原子のアルミニウム化合物への拡散速度は、アルミニウム原子の亜鉛原子含有化合物への拡散速度よりも相対的に高いため、アルミニウム化合物の形状が反映されたガーナイト粒子が得られる傾向がある。このため、アルミニウム化合物の形状や平均粒径を適宜変更することで、ガーナイト粒子の形状および平均粒径を制御することが可能となりうる。
【0062】
ここで、上述の固相反応は、モリブデン存在下で行われる。金属成分を複数有するガーナイト粒子では、焼成過程において、欠陥構造等が生じやすいため、結晶構造を精密に制御することが困難であるが、モリブデンを用いることにより、ガーナイト結晶の結晶構造を制御することができる。なお、固相反応は、モリブデン存在下で行われるため、得られるガーナイト粒子には、モリブデンが含まれうる。
【0063】
また、上述のアルミニウム化合物はモリブデンを含むことが好ましい。この際、前記モリブデンを含むアルミニウム化合物のモリブデン含有形態は、特に制限されないが、ガーナイト粒子と同様に、モリブデンがアルミニウム化合物表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態、これらの組み合わせが挙げられる。この際、「モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態」としては、アルミニウム化合物を構成する原子の少なくとも一部がモリブデンに置換する形態、アルミニウム化合物の結晶内部に存在しうる空間(結晶構造の欠陥により生じる空間等を含む)にモリブデンが配置される形態等が挙げられる。なお、前記置換する形態において、置換されるアルミニウム化合物を構成する原子としては、特に制限されず、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
【0064】
上述のアルミニウム化合物のうち、モリブデンを含むアルミニウム化合物を用いることが好ましく、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物を用いることがより好ましい。
【0065】
モリブデンを含むアルミニウム化合物が好ましい理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推察される。すなわち、アルミニウム化合物に含まれるモリブデンが固相界面における核形成の促進、アルミニウム原子と亜鉛原子の固相拡散の促進等の機能を果たし、アルミニウム化合物と亜鉛化合物との固相反応がより好適に進行するものと考えられる。すなわち、後述するように、モリブデンを含むアルミニウム化合物は、アルミニウム化合物、かつ、モリブデンとしての機能を有しうるのである。特に、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物は、反応点に直接または近接した部分にモリブデンが配置されることとなり、モリブデンによる効果をより効果的に発揮しうる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムで所望の効果が得られる場合であっても、技術的範囲に含まれる。
上述のモリブデンを含むアルミニウム化合物は、前記フラックス法により調製することができる。
【0066】
[冷却工程]
冷却工程は、焼成工程において結晶成長したガーナイト粒子を冷却し、結晶化して粒子状とする工程である。
【0067】
冷却速度についても特に制限されないが、1~1000℃/時間であることが好ましく、5~500℃/時間であることがより好ましく、50~100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。
【0068】
冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0069】
本発明の製造方法は、後処理工程を含んでいてもよい。当該後処理工程は、添加剤等を除去する工程である。後処理工程は、上述の焼成工程の後に行ってもよく、上述の冷却工程の後に行っても良く、焼成工程および冷却工程の後に行ってもよい。また、必要に応じて、2度以上繰り返し行ってもよい。
【0070】
後処理の方法としては、洗浄及び高温処理が挙げられる。これらは組み合わせて行うことができる。
【0071】
前記洗浄方法としては、特に制限されないが、例えば、水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液等で洗浄することにより除去することができる。
【0072】
この際、使用する水、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、酸性水溶液の濃度、使用量、ならびに洗浄部位および洗浄時間等を適宜変更することで、モリブデン含有量を制御することができる。
【0073】
また、高温処理の方法としては、添加剤の昇華点または沸点以上に昇温する方法が挙げられる。
【0074】
[粉砕工程]
焼成により得られるガーナイト粒子は凝集し、本発明に好適な粒子径の範囲を満たさない場合がある。この場合、必要に応じて、本発明に好適な粒子径の範囲を満たすように粉砕してもよい。
【0075】
粉砕の方法は特に限定されず、ボールミル、ジョークラッシャー、ジェットミル、ディスクミル、スペクトロミル、グラインダー、ミキサーミル等の従来公知の粉砕方法を適用できる。
【0076】
[分級工程]
ガーナイト粒子は、平均粒子径を調整し、粉体の流動性を向上するため、またはマトリックスを形成するためのバインダーに配合した時の粘度上昇を抑制するたえに、好ましくは分級処理される。「分級処理」とは、粒子の大きさによって粒子をグループ分けする操作をいう。
【0077】
分級の方法は湿式、乾式のいずれでも良いが、生産性の観点からは、乾式の分級が好ましい。乾式の分級には、篩による分級のほか、遠心力と流体抗力の差によって分級する風力分級等があるが、分級精度の観点からは、風力分級が好ましく、コアンダ効果を利用した気流分級機、旋回気流式分級機、強制渦遠心式分級機、半自由渦遠心式分級機等の分級機を用いて行うことができる。
【0078】
上述した粉砕工程や分級工程は、後述する有機化合物層形成工程の前後を含めて、必要な段階において行うことができる。これら粉砕や分級の有無やそれらの条件選定により、例えば、得られるガーナイト粒子の平均粒子径を調整することができる。
【0079】
<樹脂組成物>
本発明の一形態によれば、ガーナイト粒子と、樹脂とを含む、組成物が提供される。この際、前記組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、粘度調節剤、可塑剤等をさらに含んでいてもよい。
【0080】
(ガーナイト粒子)
ガーナイト粒子としては、上記「ガーナイト粒子」において説明したものが用いられ得ることから、ここでは説明を省略する。
【0081】
なお、前記ガーナイト粒子としては、さらに、後述の方法により表面処理されたものを用いても良い。表面処理することにより、ガーナイト粒子の熱伝導性を更に改善することが可能である。
【0082】
例えば、上記の様にして得られたガーナイト粒子は、ガーナイト粒子表面の少なくとも一部に有機化合物を含む表面処理層を付着させることで、表面処理ガーナイト粒子を製造することができる。
【0083】
具体的には、未処理ガーナイト粒子と、有機化合物を含む表面処理層を形成しうる表面処理剤とを混合し、未処理ガーナイト粒子の表面の少なくとも一部に当該表面処理剤を付着させた後に、例えば、乾燥や硬化等を行うことで、表面処理ガーナイト粒子を製造することができる。
【0084】
表面処理剤自体が反応性を有しないが吸着性を有する有機化合物であったり、表面処理剤が液媒体に溶解又は分散した様な溶液又は分散液である場合は、吸着を促進したり液媒体を除去する目的で乾燥を行えば良いし、表面処理剤が反応性を有する有機化合物である場合は、当該化合物の反応性基に基づく硬化を行うことで、前記した表面処理層を形成させることができる。なお、未処理ガーナイト粒子の表面全体に当該表面処理剤を付着させた場合は、表面処理層で未処理ガーナイト粒子は被覆されることになる。
【0085】
前記表面処理剤としては、無極性シラン化合物であることが好ましい。無極性であると、極性置換基を有さないため、誘電特性の悪化を抑制することができる。極性置換基とは、水素結合しうる基、または、イオン性解離基を言う。このような極性置換基としては、特に限定されないが、例えば、-OH、-COOH、-COOM、-NH3、-NR4
+A-、-CONH2等が挙げられる。ここで、Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、4級アンモニウム塩等のカチオンであり、Rは、Hまたは炭素数8以下の炭化水素基、Aはハロゲン原子等のアニオンである。
【0086】
表面処理剤の処理方法としては、公知慣用の方法で行えばよく、例えば、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌、ボールミル、ミキサー等の乾式法、水系または有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。せん断力を利用した表面処理は、フィラーの破壊が起こらない程度にして行うことが望ましい。
【0087】
また表面処理剤の乾式法における系内温度ないしは湿式法における処理後の乾燥または硬化の温度は、表面処理剤の種類に応じ熱分解しない領域で適宜決定される。例えば80~230℃の温度で加熱することが望ましい。
【0088】
未処理ガーナイト粒子に対する表面処理層中の表面処理剤の不揮発分または硬化物の量は、特に制限されるものではないが、未処理ガーナイト粒子の質量換算100部当たり、表面処理剤における不揮発分または硬化物が、0.01~10部となる様にすることが、上記した様な熱伝導性等の機能向上の点では好ましい。
【0089】
未知のガーナイト粒子が、本発明の表面処理ガーナイト粒子に相当するかどうかは、例えば、当該未知のガーナイト粒子を、表面処理剤の不揮発分または硬化物を溶解する溶媒に浸漬したり煮沸する等して抽出した抽出液やそのガーナイト粒子表面自体に、指標である、表面処理剤自体やその硬化物に対応する化学構造や、珪素原子、チタン原子或いは燐原子の存在が、赤外線吸収分析(IR)や原子吸光分析(AA)にて観察できるか否かで、確認することができる。
【0090】
未処理ガーナイト粒子の表面の少なくとも一部に、表面処理層が付着されている状態とすることで、樹脂組成物に含まれる樹脂との濡れ性が向上し、ガーナイト粒子との密着性が向上することから、ガーナイト粒子表面に生じやすい空隙(ボイド)の生成が抑えられるため、熱伝導率のロスが低くなることから、例えば、樹脂組成物の成形物の熱伝導性を改善することができる。この様な技術的効果は、ガーナイト粒子の表面の一部に、有機化合物に基づく表面処理剤またはその硬化物に基づく表面処理層が付着していることで発現するものであり、例えば、表面処理後に焼成を行う等して、表面処理剤を当該ガーナイト粒子から除去した場合には、発現させることはできない。
【0091】
また、複数種のガーナイト粒子を用いる場合、これら複数種のうち一種以上として、表面処理層を有するガーナイト粒子を用いることができる。
【0092】
(樹脂)
樹脂としては、特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0093】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂。ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体等が挙げられる。
【0094】
前記熱硬化性樹脂としては、加熱又は放射線や触媒等の手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂であり、一般的には、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、トリアジン環を有する樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ビニル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等が挙げられる。レゾール型フェノール樹脂としては、例えば、未変性のレゾールフェノール樹脂、油変性レゾールフェノール樹脂等が挙げられる。油変性に用いられる油としては、例えば、桐油、アマニ油、クルミ油等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等が挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂としては、例えば、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等が挙げられる。トリアジン環を有する樹脂としては、例えば、メラミン樹脂等が挙げられる。ビニル樹脂としては、例えば、ビニルエステル樹脂等が挙げられる。
【0095】
上述の樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この際、熱可塑性樹脂を2種以上使用してもよく、熱硬化性樹脂を2種以上使用してもよく、熱可塑性樹脂を1種以上及び熱硬化性樹脂を1種以上使用してもよい。
【0096】
(硬化剤)
硬化剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。硬化剤として具体的には、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物等が挙げられる
【0097】
前記アミン系化合物としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
【0098】
前記アミド系化合物としては、例えば、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0099】
前記酸無水物系化合物としては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0100】
前記フェノール系化合物としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミン等でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物等が挙げられる。
【0101】
上述の硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、樹脂組成物を硬化する際に硬化を促進させる機能を有する。
【0103】
前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
上述の硬化促進剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
(硬化触媒)
硬化触媒は、前記硬化剤の代わりに、重合性官能基を有する化合物の硬化反応を進行させる機能を有する。
【0105】
硬化触媒としては、特に制限されず、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が用いられうる。
なお、硬化触媒は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
(粘度調節剤)
粘度調節剤は、樹脂組成物の粘度を調整する機能を有する。
【0107】
粘度調節剤としては、特に制限されず、例えば、有機ポリマー、ポリマー粒子、無機粒子等が用いられうる。
上述の粘度調節剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
(可塑剤)
可塑剤は、熱可塑性合成樹脂の加工性、柔軟性、耐候性を向上させる機能を有する。
【0109】
可塑剤としては、特に制限されず、例えば、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシロキサン等が用いられうる。
上述の可塑剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
[混合]
本発明の樹脂組成物は、ガーナイト粒子と樹脂、さらに必要に応じてその他の配合物を混合することにより得られる。その混合方法に特に限定はなく、公知慣用の方法により、混合される。
【0111】
前記樹脂が熱硬化性樹脂である場合、一般的な熱硬化性樹脂とガーナイト粒子等との混合方法としては、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、ガーナイト粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、三本ロール等で混練し、流動性ある液状の組成物を得る方法が挙げられる。また、別の実施形態における熱硬化性樹脂とガーナイト粒子等との混合方法として、所定の配合量の熱硬化性樹脂と、ガーナイト粒子、必要に応じてその他の成分をミキサー等によって充分に混合した後、ミキシングロール、押出機等で溶融混練した後、冷却することで、固形の組成物として得る方法が挙げられる。混合状態に関して、硬化剤や触媒等を配合した場合は、硬化性樹脂とそれらの配合物が充分に均一に混合されていればよいが、ガーナイト粒子も均一に分散混合された方がより好ましい。
【0112】
なお、ガーナイト粒子の含有量は、樹脂組成物の体積に対して、5容量%以上95容量%以下であることが好ましく、20容量%以上90容量%以下であることがより好ましく、30容量%以上80容量%が特に好ましい。ガーナイト粒子の含有量が上記下限値以上であると、樹脂組成物により優れた熱伝導性および誘電特性を付与できる。一方、ガーナイト粒子の含有量が上記上限値以下であると、成形してコンパウンドとしてより優れた高熱伝導性、流動性に優れ容易に成形することができる。
【0113】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である場合の一般的な熱可塑性樹脂とガーナイト粒子等との混合方法としては、熱可塑性樹脂、ガーナイト粒子、及び必要に応じてその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー等の各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー、混合ロール等の混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常100℃以上320℃以下の範囲である。
【0114】
樹脂組成物の流動性やガーナイト粒子等のフィラー充填性をより高められることから、樹脂組成物にカップリング剤を外添してもよい。なお、カップリング剤を外添することで、樹脂とガーナイト粒子の密着性が更に高められ、樹脂とガーナイト粒子の間での界面熱抵抗が低下し、樹脂組成物の熱伝導性が向上しうる。
【0115】
前記カップリング剤としては、有機シラン化合物等が挙げられる。
【0116】
前記有機シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキルトリメトキシシラン類;3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン;トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン等のアルキル基の炭素数が1以上22以下のアルキルトリクロロシラン類;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p-クロロメチルフェニルトリエトキシシラン;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類;γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン類;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類;p-スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン等のビニルシラン類;さらに、1,3-ジフェニルテトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン類、エポキシ系、アミノ系、ビニル系の高分子タイプのシランが挙げられる。なお、上記有機シラン化合物は、単独で含まれていてもよく、2種以上を含んでいてもよい。
【0117】
上述のカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
カップリング剤の添加量は特に制限されないが、樹脂の質量に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0119】
<用途>
本発明の一実施形態によれば、本発明の樹脂組成物は、低誘電放熱材料に使用される。
【0120】
一般的に、熱伝導性材料としては、コストの観点からアルミナがよく使用されており、その他、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が使用されていた。しかしながら、これら材料は、例えば、酸化アルミニウムは誘電特性が十分ではなく、窒化ホウ素は結晶構造に由来する異方性を有しそのため樹脂組成物中で均一な誘電特性が得られず、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムは耐水性が低いため誘電特性は十分なものではなかった。したがって、熱伝導性と誘電特性の両方を兼ね備える材料は見いだせていなかった。
【0121】
これに対し、本発明のガーナイト粒子は、従来にはない高い結晶性を有し、かつ結晶内のアルミニウム原子と亜鉛原子の比率が均一になっていると考えられ、これにより熱伝導性と誘電特性の両方を兼ね備え、本発明の樹脂組成物は、低誘電放熱材料に好適に用いられる。
【0122】
本発明の樹脂組成物が、熱伝導性、及び誘電特性に優れることから、単層又は多層であるプリント基板、フレキシブルプリント基板等の基材・基板として用いることができる。また、配線用、特に高周波信号の配線用の絶縁材料として、例えばカバーレイ、ソルダーレジスト、ビルドアップ材、層間絶縁剤、ボンディングシート、層間接着剤、フリップチップボンダー用のバンプシートとして好適に用いることができる。
【0123】
その他、ガーナイト粒子は、宝石類、触媒担体、吸着剤、光触媒、光学材料、蛍光体、耐熱絶縁材料、基板、センサー等の用途にも使用することができる。
【0124】
本発明の一形態によれば、上述の樹脂組成物を成形してなる成形物が提供される。成形物に含有される、本発明のガーナイト粒子は熱伝導性および誘電特性に優れることから、当該成形物は、好ましくは低誘電放熱部材として使用される。これにより、機器の放熱機能を向上させることができ、機器の小型軽量化、高性能化に寄与できるだけでなく、高周波回路において通信機能の高機能化に寄与することができる。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳述するが、本記述は本発明を限定するものではない。実施例中、特に断りのない限り質量換算である。
【0126】
(ガーナイトの同定)
ガーナイト粒子の同定は、粉末X線回折(XRD)装置を用いてXRD分析し、対応組成のJCPDSカードの単結晶チャートと比較することにより行うことが出来る。
【0127】
(ガーナイト粒子の合成)
<実施例1>
三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)13.8gと、酸化亜鉛(関東化学株式会社製、特級)61.1gと、ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、BMT-3LV、平均粒子径2.6μm)90.0gと、をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で1100℃まで昇温し、1100℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、144gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、2N NaOH水溶液でモリブデン化合物を除去し、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトであることを確認した。
【0128】
<実施例2>
三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)13.8gと、酸化亜鉛(ハクスイテック株式会社製、酸化亜鉛2種)61.1gと、ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、BMT-3LV、平均粒子径2.6μm)90.0gと、をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で900℃まで昇温し、900℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、144gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、2N NaOH水溶液でモリブデン化合物を除去し、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトであることを確認した。
【0129】
<実施例3>
三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)13.8gと、酸化亜鉛(ハクスイテック株式会社製、酸化亜鉛2種)61.1gと、ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、BMB-2、平均粒子径1.2μm)90.0gと、をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で900℃まで昇温し、900℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、144gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、2N NaOH水溶液でモリブデン化合物を除去し、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトであることを確認した。
【0130】
<実施例4>
三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)13.8gと、酸化亜鉛(ハクスイテック株式会社製、酸化亜鉛2種)61.1gと、ベーマイト(大明化学工業株式会社製、C06、平均粒子径0.7μm)90.0gと、をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で1000℃まで昇温し、1000℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、144gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、2N NaOH水溶液でモリブデン化合物を除去し、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトであることを確認した。
【0131】
<比較例1>
三酸化モリブデン(日本無機化学工業株式会社製)13.8gと、酸化亜鉛(関東化学株式会社製、特級)61.1gと、ベーマイト(河合石灰工業株式会社製、BMT-3LV、平均粒子径2.6μm)90.0gと、をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で1500℃まで昇温し、1500℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、141gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトであることを確認した。
【0132】
<比較例2>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製、BF103、平均粒子径1.0μm)100gと、硫酸亜鉛七水和物(関東化学株式会社製、特級)184gと、炭酸ナトリウム84.8gと、水1000gとを加えて撹拌し、得られた沈殿物を水で洗浄し、120℃で乾燥し粉末を得た。粉末をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で1300℃まで昇温し、1300℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、117gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトであることを確認した。
【0133】
<比較例3>
アルミナ(デンカ社製、DAW-05、平均粒子径6.8μm)76.5gと、酸化亜鉛(関東化学株式会社製、特級)61.1gと、をアブソルートミル(大阪ケミカル株式会社製)で混合し、混合物を得た。得られた混合物をアルミナ製角型匣鉢に入れ、電気炉にて5℃/分の条件で1000℃まで昇温し、1000℃で5時間保持し焼成を行った。その後5℃/分の条件で室温まで降温後、匣鉢を取り出し、141gの白色の焼成物を得た。得られた焼成物は、焼成物100gに対して直径10mmのアルミナビーズ200gと200ccの水を加えて60分間ボールミルにて解砕した後、120℃で乾燥して粉末を得た。乾燥した粉末を125μmの篩に通した。XRD分析によりガーナイトと遷移アルミナの混合物であることを確認した。
【0134】
[評価方法]
下記方法に従って、得られたガーナイト粒子の測定および評価を行った。
【0135】
(誘電特性の測定)
実施例および比較例で得られたガーナイト粒子を試験片として、EMラボ社空洞共振器CP-001-PWに充填し、Keysight社ネットワークアラナイザ P9373Aにて測定し、1GHzの誘電率・誘電正接を測定した。
【0136】
(平均粒子径)
実施例および比較例で得られたガーナイト粒子粉末を少量ビーカーに取り、0.5%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を50mL添加し、その後、超音波分ホモジナイザー ソニファイアー450D(BRANSON社製)を用いて2分間分散処理して測定用サンプルを調製した。この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、体積累積基準D50を測定した。
【0137】
(ガーナイト粒子内に含まれるアルミニウム原子、亜鉛原子、モリブデン原子の含有量の分析)
アルミニウム原子、亜鉛原子、モリブデン原子の含有量は、ICP発光分光分析装置iCAP 6300 DUO(Thermo Fisher Scientific製)を用いて定量した。なお検出限界以下の場合はN.D.(Not Detected)とし、モリブデン原子が検出限界以下である場合はモリブデン原子/亜鉛原子のモル比は0とした。
【0138】
【0139】
(樹脂組成物の調製)
<実施例5>
熱可塑性樹脂としてDIC-PPS LR100G(X-1、DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂、密度1.35g/cm3)の30.7g、実施例1で得られたガーナイト粒子の69.3gを均一にドライブレンドした後、樹脂溶融混練装置ラボプラストミルにより混練温度300℃、回転数80rpmの条件で溶融混練処理し、前記粒子の含有量が40容量%のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。樹脂組成物中のフィラー含有量(容量%)は、熱可塑性樹脂の密度と熱伝導性フィラーの密度より計算した。
【0140】
(熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率の測定方法)
得られた樹脂組成物を卓上の射出成形機(Xplore社製 Injection Moulding IM 12)を用いてシリンダー温度320℃、金型温度140℃で射出成型し、直径10mm厚み0.2mmの試験片を作製した。熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における熱伝導率の測定を行った。なお、熱伝導率としては、0.5W/m・K以上であれば実用上問題が無く、好ましくは0.7W/m・K以上であり、より好ましくは0.9W/m・K以上である。
【0141】
(比較例4~6)
実施例2と同様にして、含有量が40容量%のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を作製し、および、熱伝導率の測定を行った。
【0142】
【要約】
熱伝導性および誘電特性に優れる金属複合酸化物、および当該金属複合酸化物を含み、優れた熱伝導性および誘電特性を発現しうる樹脂組成物、その成形物を提供することを目的とする。具体的には、亜鉛原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデン原子と、を含み、1GHzでの誘電正接が1.0×10-3以下である、ガーナイト粒子を用いることを特徴とする。