(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】積層磁性材、および積層磁性材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/153 20060101AFI20240409BHJP
H01F 1/16 20060101ALI20240409BHJP
H01F 3/04 20060101ALI20240409BHJP
H01F 27/25 20060101ALI20240409BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240409BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240409BHJP
C22C 45/02 20060101ALI20240409BHJP
H02K 1/02 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
H01F1/153 108
H01F1/153 166
H01F1/16
H01F3/04
H01F27/25
H01F41/02 B
H01F41/02 C
B32B7/025
C22C45/02 A
H02K1/02 B
(21)【出願番号】P 2023575283
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 JP2023001418
(87)【国際公開番号】W WO2023140303
(87)【国際公開日】2023-07-27
【審査請求日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022008043
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022036711
(32)【優先日】2022-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】石川 湧己
(72)【発明者】
【氏名】野口 伸
(72)【発明者】
【氏名】相牟田 京平
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-208811(JP,A)
【文献】特開2003-7543(JP,A)
【文献】国際公開第2009/125639(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/87932(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 35/00-45/10
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44- 3/14
H01F 27/24-27/26
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
H02K 1/00- 1/16
H02K 1/18- 1/26
H02K 1/28- 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の急冷合金薄帯と、前記急冷合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材であって、
前記樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、前記樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、以下の数式で示される接着応力σ[MPa]が1.8MPa以上であること
を特徴とする積層磁性材。
σ=h1/h2×γ×{(α1―α2)×(Ta-RT)+β}
【請求項2】
前記積層磁性材は、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmが13.0W/kg以下であること
を特徴とする請求項1に記載の積層磁性材
【請求項3】
前記積層磁性材は、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmのうち、渦電流損失Peが9.5W/kg以下であること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の積層磁性材
【請求項4】
複数の急冷合金薄帯と、前記急冷合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材の製造方法であって、
前記樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、前記樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、以下の数式で示される接着応力σ[MPa]が1.8MPa以上である、前記樹脂を塗布する工程と、前記急冷合金薄帯を積層して、前記樹脂を硬化させる工程と、を有すること
を特徴とする積層磁性材の製造方法。
σ=h1/h2×γ×{(α1―α2)×(Ta-RT)+β}
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばモータ用コアとして用いることのできる積層磁性材、および積層磁性材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2排出削減の世界的潮流の中、全世界の電力消費量の50%以上を占めるモータの高効率化が求められている。モータの鉄心には無方向性電磁鋼板が従来から使用されてきたが、これに代えて電磁鋼板の約1/10の低損失特性を有するアモルファス合金の応用が期待されている。モータは数百Hz以上の高周波数帯で稼働するため、鉄損特性のうち鉄心に発生する渦電流による損失を抑制することが重要である。一般的にアモルファス合金は電磁鋼板よりも体積抵抗率が高く、また厚さ25μm程度の薄帯であることから、渦電流損失が少なく有利である。しかし、極薄の厚さは製造プロセスにおいては不利となり、電磁鋼板の板厚が0.35mm程度であることから、電磁鋼板と同一サイズの鉄心をアモルファス合金で作製する場合、10倍以上の積層回数が必要になるなど、鉄心製造プロセスへの負担が過大である。この課題を解決するために、例えば特許文献1に開示されるように、アモルファス合金リボンを複数枚接着積層して板状にし、電磁鋼板と同様の取り扱いを可能とする検討が行われてきた。
実際に、アモルファス合金の接着積層体を適用したモータコアは特許文献2で公開されており、今後ますますアモルファス合金モータの技術開発が進むと予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-151316号公報
【文献】特開2005-160231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年のモータの高速回転化やインバータ駆動による高調波等の影響により、高周波数帯における鉄損の低減が求められ、特に渦電流損失の増加を抑制する必要があるが、特許文献1や特許文献2に記載された技術では、それらの要求に対応できないという問題があった。そのため、磁気特性の劣化防止に関する新しい技術が求められた。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、高周波数帯においても低い鉄損特性を備えた積層磁性材および積層磁性材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、複数の急冷合金薄帯と、前記急冷合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材であって、前記樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、前記樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、以下の数式で示される接着応力σ[MPa]が1.8MPa以上である。なお、[]は単位を表す。
σ=h1/h2×γ×{(α1―α2)×(Ta-RT)+β}
【0006】
本発明においては、前記積層磁性材は、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmが13.0W/kg以下であることが好ましい。
【0007】
本発明においては、前記積層磁性材は、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmのうち、渦電流損失Peが9.5W/kg以下であることが好ましい。
【0008】
本発明の積層磁性材の製造方法は、複数の急冷合金薄帯と、前記急冷合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材の製造方法であって、前記樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、前記樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、以下の数式で示される接着応力σ[MPa]が1.8MPa以上である、前記樹脂を塗布する工程と、前記急冷合金薄帯を積層して、前記樹脂を硬化させる工程と、を有する。
σ=h1/h2×γ×{(α1―α2)×(Ta-RT)+β}
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高周波数帯においても低い鉄損特性を備えた積層磁性材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のモータ用積層磁性材の一実施形態を示す模式的な斜視図である。
【
図2】2枚の急冷合金薄帯1の間に樹脂層2が配置されている本発明のモータ用積層磁性材の一実施形態を示す模式的な斜視図である。
【
図3】実施例3、実施例4および比較例5に関する、最大磁束密度Bm=1.0Tの時の、一周期分の鉄損Pcm/f[W/kg/Hz]のf
0.5依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、モータ用の積層磁性材を形成する上で、樹脂の諸物性および接着条件と、樹脂の諸物性で決まる接着応力σとの関係を明らかにし、高周波数帯においても優れた磁気特性を維持したモータ用の積層磁性材を見出し、本発明を完成させた。以下、詳しく説明する。
まず、本発明者等は、特許文献1に開示されるような樹脂(接着剤)が付与された磁性材を詳細に検討した。つまり、アモルファス合金リボンのような急冷合金薄帯の間に樹脂(接着剤)を塗布して積層体を製造しようとすると、樹脂(接着剤)が硬化する際に体積が減少すること、および、加熱して接着した場合にはアモルファス合金リボンと接着剤の熱膨張係数の差があることから、樹脂(接着剤)がアモルファス合金リボンに対して主に面内方向に接着応力を付与する状態となる。
ここで、複数の急冷合金薄帯と、前記急冷合金薄帯の間に配置された樹脂(接着剤)からなる樹脂層を考えた場合、樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、その接着応力σ[MPa]は、以下の数1で表される。なお、[]は単位を表す。ここで、室温のRTは296[K]とする。
【0012】
【0013】
アモルファス合金リボンは、磁歪が大きいことから、接着応力によりアモルファス合金リボンの磁区構造が乱れ、アモルファス合金リボンの磁気特性が変化する。特に、アモルファス合金リボンを積層して積層磁性体とし、それら積層磁性体からなる積層コアを、モータ用コアとして使用する場合、求められている特性は、高周波数帯における低い鉄損であり、そのためには渦電流損失をできる限り低減する必要性がある。渦電流損失を低減するためには、アモルファス合金リボンの磁区幅を小さくすることが有効である。樹脂(接着剤)からの接着応力はアモルファス合金リボン表面上で様々な方向に働いているため、一定以上の応力を加えれば磁気弾性効果によって局所的な磁気異方性が発生し、さらにその異方性の方向が場所場所で異なる状態となる。その結果、そのような局所的異方性に磁化方向が影響され、磁化も場所場所で様々な方向を向くことになる。すなわち、磁区細分化が可能となる。結果として渦電流損失を低減することができる。
よって、アモルファス合金リボンに生じる接着応力はある一定以上に大きく制御することが重要である。
また、その応力の許容限度を把握することで、鉄損を低減するために使用可能な樹脂を選定する上において有用な知見が得られる。この接着応力は、硬化する際に体積が減少すること、加熱して接着した場合にはアモルファス合金リボンと接着剤の熱膨張係数の差があること、および接着剤の弾性率の三点に起因し、接着剤を構成している樹脂の種類によって異なる。つまり、積層のための樹脂層の種類によって磁気特性、特に鉄損Pcmや渦電流損失Peが大きく異なり得ることが分かった。なお、鉄損Pcmは、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損(以下、Pcm10/2000と示す。)[W/kg]、渦電流損失Peは、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける渦電流損失(以下、Pe10/2000と示す。)[W/kg]を表す。この知見に基づき、本発明者は、新規な磁性材を想到した。
【0014】
すなわち、本発明は、複数の急冷合金薄帯と、急冷合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材であって、樹脂から急冷合金薄帯に対して作用する接着応力σが1.8MPa以上である積層磁性材である。
【0015】
本発明の樹脂は、熱硬化性樹脂とすることが好ましい。その理由は、熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂に比べて耐熱性が高いという特性が得られるからである。さらに、本発明では、接着応力σを1.8MPa以上とする必要がある。その理由は、接着応力σを1.8MPa以上とすることで、急冷合金薄帯の磁区を十分に細分化でき、渦電流損失の低減が可能となるからである。
以下、本発明の積層磁性材、および積層磁性材の製造方法の実施形態について、図を用いて詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明の積層磁性材の実施形態について説明する。
図1(a)は、本実施形態の積層磁性材の一実施形態を示す模式的な斜視図である。本実施形態の積層磁性材11は、複数の急冷合金薄帯1と、複数の急冷合金薄帯1間に配置された樹脂層2とを備える。尚、図中の形態は模式的に示したものであり、実際の寸法とは必ずしも一致しない。
図1(b)は、急冷合金薄帯1の一実施形態を示す模式的な斜視図であり、向かい合う2つの主面1a、1bが存在している。
【0017】
[急冷合金薄帯]
本実施形態の積層磁性材11を構成する、急冷合金薄帯1の材質は、特に問わないが、例えば、非晶質合金薄帯(アモルファス合金薄帯)、日立金属株式会社製の2605HB1M(登録商標)などのFe系アモルファス合金薄帯を用いることができる。
【0018】
急冷合金薄帯1の幅は、特に限定されないが、例えば、100mm以上とすることができる。リボンの幅は、125mm以上であることがより好ましい。一方、リボンの幅の上限は特に限定されないが、例えば、幅が300mmを超えると、幅方向に均一な厚さのリボンを得られないことがあり、その結果、形状が不均一な為に部分的に脆化したりする可能性がある。リボンの幅は、275mm以下であることがより好ましい。
【0019】
急冷合金薄帯1の厚さは、10μm以上50μm以下であることが好ましい。厚さが10μm未満であると、急冷合金薄帯1の機械的強度が不十分となる傾向がある。厚さは、15μm以上であることがより好ましく、さらに、20μm以上であることがより好ましい。一方、リボンの厚さが50μmを超えると、アモルファス相を安定して得ることが難しくなる傾向がある。厚さは、35μm以下であることがより好ましく、さらに、30μm以下であることがより好ましい。
【0020】
急冷合金薄帯1は、結晶構造に由来する異方性がなく、磁壁の移動を妨げる結晶粒界が存在しないため、高磁束密度でありながら高透磁率、低損失の優れた軟磁気特性を有する。
【0021】
急冷合金薄帯1は、種々の公知の方法により製造することができる。例えば、上述した組成を有する合金溶湯を用意し、冷却ロール表面に合金溶湯を吐出させることによって、冷却ロールの表面に合金溶湯の膜を形成させ、表面にて形成された急冷合金薄帯1を、剥離ガスの吹きつけによって冷却ロールの表面から剥離し、巻き取りロールによってロール状に巻き取ることにより得られる。
急冷合金薄帯1は、鋳造時に発生したひずみを解消する目的で、結晶化しない程度の高温下で熱処理されたものがモータ用のリボンとして有効である。そのような急冷合金薄帯を得るための方法として、熱処理する場合に、例えば、張架した状態で熱処理(テンションアニール)する方法、又は薄帯長手方向に磁界をかけた状態で熱処理する方法、張架しながら薄帯長手方向に磁界をかけた状態で熱処理する方法、等が好適である。このような熱処理を施された急冷合金薄帯1に樹脂層2を形成して、他の急冷合金薄帯1を接合して積層磁性材11を構成すればよい。
【0022】
[樹脂層]
本実施形態の積層磁性材11の樹脂層2は、急冷合金薄帯1の2つの主面1a、1bのうち、少なくとも一面に配置されている。
図2は、2枚の急冷合金薄帯1の間に樹脂層2が配置されている積層磁性材12を示す模式的な斜視図である。ここで、樹脂層2を構成する樹脂は、樹脂の弾性率をγ[MPa]、樹脂の線膨張率をα1[1/K]、樹脂の硬化温度をTa[K]、樹脂の硬化時の線収縮率をβ、アモルファス合金リボンの線膨張率をα2[1/K]、室温をRT(=296K)、樹脂の硬化時の線収縮率をβとするとき、上述の式1で算出される接着応力σ[MPa]が1.8MPa以上である、熱硬化性樹脂を用いて形成されることが好ましい。
【0023】
ここで、接着応力の計算に用いる樹脂の物性は、以下の物性値を使用する。
樹脂の弾性率γ[MPa]は、室温(=296K)における曲げ弾性率を使用する。曲げ弾性率の測定は、短冊形状(ストリップ形状)の型に樹脂を流し込んで樹脂を硬化させることで作製した、厚さTが2mm、幅Wが25mm、長さLが40mmの短冊形状(ストリップ形状)をした試験片に対し、JISK7171法に準拠した測定装置を用いて、三点曲げ試験を行う。支点間距離Lは、樹脂の曲げ弾性率が700MPaを超える場合は30mm、曲げ弾性率が70MPa以上700MPa以下の場合は14mm、曲げ弾性率が70 MPa未満の場合には、支点間距離は8mmとする。試験速度は、0.48mm/minとし、下記の式2から導き出される曲げひずみεが0.0025を超えるまで連続的に試料にかかる荷重F[N]と、その時のたわみD[mm]を測定する。測定した荷重とたわみから以下の数式(数2および数3)を用いて、曲げ応力τおよび曲げひずみεを算出し、応力ひずみ曲線を取得する。応力ひずみ曲線の曲げひずみ区間0.0005≦ε≦0.0025における応力曲線に対して最小二乗法による線形回帰を行い、その傾きを曲げ弾性率[MPa]とする。
【0024】
【0025】
【0026】
樹脂の室温における線膨張率α1[1/K]は、熱機械分析装置(TMA)を用いて測定を行う。樹脂の硬化時の線収縮率βは、未硬化樹脂の比重sg1と樹脂硬化物の比重sg2から以下の数式を用いて算出する。
【0027】
【0028】
また、未硬化樹脂の比重および樹脂硬化物の比重の測定は、JISK6833比重カップ法およびJISK7122水中置換法に準じて測定を行う。
なお、二液混合型の接着剤の場合の未硬化の比重sgは、以下の方法で計算する。二液混合型の接着剤をA剤およびB剤とすると、A剤の未硬化時の比重sgAおよびB剤の未硬化時の比重sgBをJISK6833比重カップ法を用いて測定する。その二液混合型接着剤の推奨混合質量割合をもとにA剤およびB剤の混合する質量(A剤の質量MA及びB剤の質量MB)を決定し、以下の数式に従って計算する。
【0029】
【0030】
樹脂の接着応力σが1.8MPa以上であれば、Pcm10/2000が13.0W/kg以下の良好な磁気特性を有したモータ用の積層磁性材が得られる。
接着応力の大きさσが1.8MPa以上であれば、いかなる成分の樹脂であっても上記の良好な磁気特性の磁性材が得られる。しかし、モータ用コアは使用時の温度上昇も避けられない。一般に、熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂に比べて耐熱性が低い。従って、熱可塑性樹脂では長期的な信頼性に懸念があった。このため、耐熱性に優れた熱硬化性樹脂を使用することが望ましい。さらに、樹脂硬化物のガラス転移温度は90℃以上であることが好ましい。熱硬化性樹脂は、反応前は比較的低分子量の液体化合物であるが、加熱、硬化剤との混合、触媒との反応、紫外線照射、空気中の水分との接触、酸素の遮断かつ活性金属との接触等によって重合反応が開始し、分子鎖が三次元に架橋することで、硬化して固体となる高分子化合物の樹脂である。特に、エポキシ樹脂は、最も広く用いられている熱硬化性樹脂であり、種類も多く、経済面も含めて実用性が高いので特に好ましい。
【0031】
樹脂層2の厚さについては、占積率を可能な限り高めることが積層体の優れた磁気特性を実現するために重要であることから、例えば1.0~6.0μm程度が好ましく、さらに占積率を高めるためには1.0~3.0μmが好ましい。
【0032】
樹脂層2は、容易に剥離しないように、急冷合金薄帯1の主面1a、1bの少なくとも一面に接着されていることが好ましい。樹脂層2は、急冷合金薄帯1の2つの主面1a、1bにそれぞれ配置されていてもよい。樹脂層2は、主面1a、1bの全体に配置されていてもよいし、主面1a、1b上にストライプ状、ドット状等、樹脂層2が配置される領域と、樹脂層2が配置されない領域と、を含む所定のパターンで設けられていてもよい。
【0033】
本実施形態における積層磁性材料の製造方法は、複数の急冷合金薄帯と、前記急冷合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材の製造方法であって、前記樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、前記樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、上述の数式(数1)で示される接着応力σ[MPa]が1.8MPa以上である、前記樹脂を塗布する工程と、前記急冷合金薄帯を積層して、前記樹脂を硬化させる工程と、を有する。
【0034】
樹脂を塗布する工程は、急冷合金薄帯1の片面、または両面に、樹脂を配置して樹脂層2を形成する工程のことである。樹脂層2を形成するための方法は特に限定はしないが、例えば、フレキソ印刷方式による樹脂の塗布方法、または樹脂と溶媒を含む接着剤を作製し、その接着剤をスプレーやコーターで塗布し、その後、溶媒を蒸発させる方法がある。
【0035】
フレキソ印刷方式を使用して樹脂の塗布する方法で樹脂層2を構成する場合、特に溶媒を含まない熱硬化性樹脂を塗布する際によく用いられる。つまり、熱硬化性樹脂をフレキソ印刷方式によって急冷合金薄帯1の一方の面に塗布し、熱硬化性樹脂が塗布された急冷合金薄帯1の面に、他の急冷合金薄帯1を重ね、ローラー等で圧着する。その後、熱硬化性樹脂の硬化温度まで加熱して硬化させることで、モータ用の積層磁性材11となる。
【0036】
樹脂を硬化させる工程は、樹脂を塗布する工程の後、樹脂が塗布された急冷合金薄帯1の面に、他の急冷合金薄帯1を重ね、ローラー等で圧着し、樹脂の硬化温度まで加熱して硬化させる工程のことである。
【実施例】
【0037】
急冷合金薄帯1は、日立金属株式会社製の2605HB1M材で、長さ120mm、幅25mm、厚さ25μmのものを用意した。
ここで、2605HB1Mの線膨張率は、4.3×10-6[1/K]である。
また、急冷合金薄帯の磁性特性である、Pcm10/2000およびPe10/2000は、Pcm10/2000=13.9 [W/kg]、Pe10/2000=10.5[W/kg]であることを確認した。
【0038】
上述の急冷合金薄帯の二枚を、種々の接着応力を有する樹脂を用いて接着したモータ用の積層磁性材の実施例と比較例を作製し、それぞれについてPcm10/2000およびPe10/2000を測定した。
ここで、樹脂は、7種の樹脂a1、b1、c1、d1、e1、f1、g1を用意した。樹脂a1、b1、c1、d1が実施例に用い、樹脂e1、f1が比較例に用いた。各樹脂の硬化タイプ、デュロメータ硬さ、ガラス転移温度、硬化温度を表1に、試料作製時における樹脂層の厚さ、弾性率、熱収縮率、硬化時の線収縮率、接着応力を表2に示す。ここで、弾性率、線膨張率、硬化時の線収縮率は、上述した測定方法により測定した結果に基づくものである。また、熱収縮率δは、樹脂の線膨張率をα1、樹脂の硬化温度をTa、急冷合金薄帯の線膨張率をα2、室温をRT(=296K)とするとき、以下の数5で表される。
【0039】
【数6】
ここで、急冷合金薄帯の線膨張率α2は、4.3×10
-6[1/K]を用いた。
【0040】
硬化タイプについては、あらかじめ硬化剤を含んでいて加熱によって硬化する1液タイプ、使用時に硬化剤と本剤を調合して硬化する2液タイプがある。
デュロメータ硬さとは、デュロメータ硬さ試験機(ゴム硬度計)を用いて、タイプD(A)の形状の押針を、規定のスプリングの力で試験片表面に押し付け、そのときの押針の押込み深さから得られる硬さであり、JIS K7215で規定される試験方法によって測定される値をいう。
なお、接着応力σ[MPa]は、表1にある各樹脂の弾性率、線膨張率、硬化時の線収縮率、樹脂の硬化温度を用い、急冷合金薄帯の線膨張率は4.3×10-6[1/K]、室温は296[K]として、上述の数式(数1)から算出した値である。
【0041】
【0042】
【0043】
[試料の作製]
まず、表1および表2に示したa1からg1の樹脂を、フレキソ印刷方式を用いて急冷合金薄帯上の全面に塗布し、他方の急冷合金薄帯を重ね合わせ、ローラーで圧着した。ここで、2液タイプ樹脂については、硬化剤と本剤を均一になるまで混ぜ合わせた後、フレキソ印刷方式で塗布した。圧着後は、各硬化温度で加熱または室温硬化のものは室温で放置して硬化させ、実施例1~4、比較例1~3の試料を作製した。また、樹脂層を形成せずに、急冷合金薄帯を2枚、自重で積層した試料を比較例7として用意した。
【0044】
さらに、急冷合金薄帯1について、急冷合金薄帯1の長手方向に張力を印加しながら熱処理(以下、テンションアニールと示す。)を行い、このテンションアニールを施された2枚の急冷合金薄帯1を、表1の樹脂a1、b1、c1を用いて接着した試料を実施例5、6、7として作製した。また、表1の樹脂e1、f1、g1を用いて接着した試料を比較例4、5、6として作製した。具体的には、接着前に、急冷合金薄帯1の長手方向に40MPaの張力を印加し、450℃で熱処理を施すテンションアニールを行い、当該方向が磁化容易方向となる誘導磁気異方性を付与した。このようにテンションアニールを行った急冷合金薄帯2枚について、表1の樹脂a1、b1、c1、e1、f1、g1を用いて作製した実施例1~3、比較例1~3と同様に、フレキソ印刷方式で急冷合金薄帯上の全面に塗布し、他方の急冷合金薄帯1を重ね合わせ、ローラーで圧着した。その後、硬化温度まで加熱し、樹脂を硬化させて実施例5~7、比較例4~6を作製した。また、樹脂層を形成せずに、テンションアニールを施された急冷合金薄帯を2枚、自重で積層した試料を比較例8として用意した。
硬化後の樹脂層2の厚さは、表2をみてもわかるように、実施例1~7は、2.3μmから5.3μmの間となり、比較例1~6は、1.9μm~4.9μmの間となった。
【0045】
(磁気特性)
作製した試料について、Pcm10/2000を測定した。Pcm10/2000は、各試料を周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tで励磁させ、その時の鉄損(W/kg)を測定した。
ここで、Pe10/2000の大きさは、以下の方法で算出した。
最大磁束密度Bm=1Tで一定とし、各周波数f=50、100、200、400、500、700、1000、2000Hzにおける鉄損Pcmを測定し、次に各周波数の鉄損Pcmをその周波数で除し、一周期分の鉄損Pcm/f[W/kg/Hz]を算出した。このPcm/fは、Pcm/f=Ke×f0.5+Khに従う。ここで、Keは渦電流損失に関する係数、Khは直流時のヒステリシス損失である。
上記で算出した各周波数におけるPcm/fとその時のf0.5を用いて、最小二乗法による直線近似を行い、KeおよびKhを算出した。各周波数における渦電流損失はKe×f1.5で算出できることから、Ke×20001.5により渦電流損失であるPe10/2000を算出した。
【0046】
それぞれの測定には、岩崎通信機株式会社製BHループアナライザSY8218の交流磁気特性測定装置を使用し、アンプにはPMK社製SY-5001を使用した。また、測定治具として、JISC2556 「単板試験器による電磁鋼帯の磁気特性の測定方法」を参考にした測定用の枠を製作して使用した。治具の構成は、MnZnフェライトヨーク、樹脂ボビンおよびポリウレタン被覆銅線から成る。樹脂ボビンにポリウレタン被覆銅線で一次巻線(励磁コイル)(線径0.5mm)と二次巻線(Bコイル)(線径0.5mm)をそれぞれ57、100ターン施し、ボビンの間にリボンを挿入してボビン長36.2mm分のリボンに磁界を印加した。測定の際は、上下のMnZnフェライトヨークで急冷合金薄帯1を挟み込んで測定を行った。MnZnフェライトヨークで急冷合金薄帯1を挟み込むことで磁束の流れを閉磁路にし、急冷合金薄帯1に反磁界が発生するのを防ぐことができる。また、MnZnフェライトヨークおよびコイルと磁性材の間の空隙に起因して発生するバックグラウンドは、治具とSY8218の間に補償コイルを接続し、8000A/mの磁界を印加した際の無試料時の出力がゼロになるよう補償コイルの巻線数を調整し、補正を行った。
表3に各試料の測定結果を示す。
【0047】
【0048】
表1、表2及び表3から分かるように、接着応力が1.8MPa以上の実施例1~7は、Pcm10/2000が13.0[W/kg]以下であり、5000rpm以上の高速回転モータ用途として、良好な鉄損特性を有した。特に接着を行っていない比較例7に対して、約8~39%も鉄損が小さい。また、実施例1~7のPe10/2000は、比較例1~3と比較して非常に小さな値となっており、接着応力が2.0MPa以上で、急冷合金薄帯1の磁区を十分に細分化することが可能である。ここで、実施例1~7のように、樹脂の弾性率が2600MPa以上の樹脂を使用した場合に、良好な磁気特性が得られることが分かった。特に、樹脂の弾性率が2700MPa以上の樹脂を使用した場合、より優れた磁気特性が得られることが分かった。さらに、表1及び表2から、樹脂の硬化時の線収縮率は、0.6%以上であることが好ましいことが分かる。また、樹脂の熱収縮率δは、0.7%以上が好ましいことが分かる。
【0049】
表3からわかるように、テンションアニールを行った急冷合金薄帯1を用いた、実施例5、6、7は、同じ樹脂a1、b1、c1を用いた実施例1、2、3よりも、さらに、Pcm10/2000が約15%以上、Pe10/2000が約17%以上低減し、良好な鉄損特性を示している。
【0050】
ここで、樹脂c1を用いて、熱処理なし、およびテンションアニール処理ありのそれぞれの急冷合金薄帯1について、樹脂厚さを変化させて、同じ樹脂c1を用いた実施例7と同じ方法で積層磁性材を作製した。そして、樹脂厚さが1.2μm以上の積層磁性材について、熱処理なしの急冷合金薄帯1を用いた積層磁性材を実施例8~12、テンションアニール処理を行った急冷合金薄帯1を用いた積層磁性材を実施例13~17とした。さらに、樹脂厚さが1.2μmよりも小さい積層磁性材について、熱処理なしの急冷合金薄帯1を用いた積層磁性材を比較例9、テンションアニール処理を行った急冷合金薄帯1を用いた積層磁性材を比較例10とした。そして、作製した全ての試料について、二層積層体のPcm10/2000およびPe10/2000を測定し、その結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
表4から分かるように、樹脂厚さが厚くなるにしたがって、Pcm
10/2000およびPe
10/2000は減少傾向にあることが確認できる。これは、樹脂厚さが厚くなることによって、接着応力が増加するため、磁区細分化による渦電流損失の低減効果が大きくなるためと考えられる。実施例8~17より、接着応力が1.8MPa以上であると、Pcm
10/2000が13.0[W/kg]以下であり、5000rpm以上で高速に回転するモータ用として、良好な鉄損特性を有することがわかる。
【0052】
次に、実施例1、2、3、実施例5、6、7および比較例7について、最大磁束密度Bm=1.0Tの時の、一周期分の鉄損Pcm/f[W/kg/Hz]のf
0.5依存性を
図3に示す。測定周波数は、f=50、100、200、400、500、700、1000、1500、2000Hzである。
図3から分かるように、実施例1、2、3は、周波数が700Hzよりも高いと、つまり、f
0.5が26.46よりも大きいと、比較例7より鉄損が小さくなる。
【0053】
さらに、
図3から、実施例5および6は、周波数が200Hzよりも高いと、つまり、f
0.5が14.14よりも大きいと、実施例7は、周波数が100Hzよりも高いと、つまり、f
0.5が10.00よりも大きいと、比較例7よりも鉄損が小さくなることが分かった。従って、テンションアニールを行った、複数の急冷合金薄帯に対し、前記樹脂の室温における弾性率をγ[MPa]、前記樹脂の室温における線膨張率をα1[1/K]、前記樹脂の硬化温度をTa[K]、前記樹脂の硬化時の線収縮率をβ、前記樹脂の樹脂厚さをh1[um]、急冷合金薄帯の厚さをh2[um]、急冷合金薄帯の線膨張率をα2[1/K]、室温をRT、とするとき、上述した数1の式で示される接着応力σ[MPa]を1.8MPa以上とすることで、これまでにない広い周波数帯域で鉄損低減効果を得ることが可能となる。
つまり、複数の張架熱処理合金薄帯(テンションアニールした急冷合金薄帯)と、前記張架熱処理合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材であって、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmが、10.5W/kg以下であることを特徴とする積層磁性材は、テンションアニール由来の異方性の影響が小さくなり、5000rpm以上の高速回転モータ用途として良好な磁気特性を有することが可能である。より好ましくは、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmが、7.5W/kg以上である。
【0054】
次に、実施例3、実施例7、比較例7、比較例8について、急冷合金薄帯の長手方向および幅方向の比透磁率(以下、リボン長手方向の比透磁率、及びリボン幅方向の比透磁率と示す)、長手方向の比透磁率に対する幅方向の比透磁率(以下、リボン長手方向と幅方向の比透磁率比と示す)をそれぞれ算出した。その結果を表4に示す。なお、比透磁率μrは、周波数2000Hz、最大磁束密度Bm=1.0Tで励磁した時の最大磁界Hm[A/m]について、以下の数7で表される。
【0055】
【0056】
【0057】
急冷合金薄帯1に対してテンションアニールを行うと、張力の印加方向が磁化容易方向となり、張力の印加方向に対して垂直方向は磁化困難方向となる。比較例8は、リボン長手方向が磁化容易方向、幅方向が磁化困難方向となる。よって、リボン長手方向と幅方向で透磁率に差が生じ、異方性が生じることになる。
モータ用途においては、モータ内部で生じる回転磁界によって様々な向きに磁界が印加されるため、一般的に、異方性、つまり、リボン長手方向と幅方向の比透磁率比は小さいほうが好ましいとされている。表5からわかるように、テンションアニールを行った比較例8は、未熱処理の比較例7よりも比透磁率の比が大きくなってしまっているので、モータ用として使用することは難しい。
一方、樹脂c1を用いて接着を行った実施例7では、テンションアニールを行ったにもかかわらず、比透磁率の比は比較例7よりも小さくなり、モータ用途として良好であるといえる。これは、樹脂からの接着応力によって場所場所に局所的に異方性が生じたことにより、テンションアニール由来の異方性の影響が小さくなったためと考えられる。
実施例7とは異なる樹脂a1、b1を用いた実施例5および実施例6について、リボン長手方向の比透磁率を表6に示す。
【0058】
【表6】
実施例5および6についても、接着応力によって長手方向の比透磁率が実施例7と同程度まで減少し、テンションアニール由来の異方性の影響が小さくなっていると考えられ、モータ用途として良好であるといえる。
つまり、複数の張架熱処理合金薄帯(テンションアニールした急冷合金薄帯)と、前記張架熱処理合金薄帯の間に配置された樹脂からなる樹脂層とを備えた積層磁性材であって、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmが、10.5W/kg以下であり、前記張架熱処理合金薄帯の長手方向の比透磁率が、10000以上、15000以下であることを特徴とする積層磁性材は、テンションアニール由来の異方性の影響が小さくなり、5000rpm以上の高速回転モータ用途として良好な磁気特性を有する。より好ましくは、周波数2000Hz、最大磁束密度1.0Tにおける鉄損Pcmが、8.0W/kg以上である。
【0059】
(磁区構造)
上述の実施例1~7、比較例1、4、5、6、7、8の各試料に対して、磁区観察を行った結果を説明する。装置は、ネオアーク社製の磁区観察装置を使用した。視野は14×10.5mm2に固定し、試料の長手方向に向かって磁界を印加しながら、磁気Kerr効果を利用して試料の磁区を観察した。印加磁界は、磁化がリボン長手方向に飽和している状態から、180°反対方向に磁化がすべて飽和するまでの磁区の動きを観察できるように磁界の強さを設定し、―200、―100、―50、―25、0、25、50、100、200A/mとした。
【0060】
図4~
図9に、実施例1~4、及び比較例1、7の各試料の磁界0A/mの時の磁区構造写真を示す。ここで、磁区構造写真において、コントラストの明るい部分(白色部)と暗い部分(黒色部)は磁区を表しており,その境界が磁壁を表している。また、磁区構造写真の横方向が、急冷合金薄帯1の長手方向を表している。
比較例1、7(
図8、9)には、急冷合金薄帯が元来もつ磁区が画像一面に観察される。この時の磁区幅は大きいもので約2mm以上である。一方で、接着応力が1.8MPa以上である実施例1~4(
図4~
図7)では、比較例1や比較例7のような磁区は観察されなくなり、磁壁も観察できない。よって、1.8MPa以上の接着応力によって磁区構造が変化し、磁区が観察されなくなるなるほど細分化され、結果として渦電流損失の低減に寄与し、高周波数帯における低鉄損特性を示すことができると考えられる。
【0061】
図10~
図16に、実施例5~7、及び比較例4、5、6、8の各試料の磁界0A/mの時の磁区構造写真を示す。
図13~16の比較例4、5、6、8には、テンションアニール由来の長手方向に配向した磁壁(180°磁壁)をもつ磁区が観察される。この時の磁区幅は約2mm以上あり、大きいもので約6mmであった。一方で、実施例5~7(
図10~
図12)のように、接着応力が1.8MPa以上では、長手方向に配向した磁区が乱れ、比較例8のような磁区は観察されなくなり、磁壁も観察できない。よって、1.8MPa以上の接着応力によって磁区構造が変化し、磁区が観察されなくなるなるほど細分化され、結果として渦電流損失の低減に寄与し、高周波数帯における低鉄損特性を示すことができると考えられる。
さらに、テンションアニールを行った急冷合金薄帯を用いた実施例5~7、及び比較例4、5、6、8について、各試料の各磁界条件(-200、-100、-50、-25、0、25、50、100、200A/m)の磁区画像に対する画像解析を行って特徴量を抽出し、接着応力との関係を確認した。
【0062】
以下に、磁区画像に対する画像解析の方法を示す。まず、画像をグレースケール画像に変換し、最小の輝度値を0、最大の輝度値を255として各ピクセルの輝度値を取得した。この時の画像データは、画像の最も左上のピクセルを原点(1行目,1列目)として、画像の縦ピクセル数と画像の横ピクセル数の行列データとなる。本画像解析の場合は、縦ピクセルが768個、横ピクセル数が1024個であったため、768行×1024列の行列データとなった。
【0063】
次に、1行目のすべての輝度データの平均値をとり、各行に対して同様の処理を行った。次に、各行の行番号をx成分、各行の輝度平均値をy成分として、(x、y)=(行番号、輝度平均値)とする点群データとした。この点群データに対して、最小二乗法による線形回帰を行い、近似直線を算出した。
続いて、各点のx成分を上記の近似直線に代入することで得られるy’成分を取得し、各点のy成分とy’成分の残差を取得した。取得した各点の残差の標準偏差を算出し、これを行方向の特徴量として、sigma_hとした。一試料につき、各磁界条件(-200、-100、-50、-25、0、25、50、100、200A/m)のsigma_hを算出した。
【0064】
さらに、列方向にも上記の行方向の処理と同様の処理を行った。つまり、1列目のすべての輝度データの平均値をとり、各列に対して同様の処理を行った。次に、各列の列番号をx成分、各列の輝度平均値をy成分として、(x、y)=(列番号、輝度平均値)とする点群データとした。この点群データに対して、最小二乗法による線形回帰を行い、近似直線を算出した。続いて、各点のx成分を上記の近似直線に代入することで得られるy’成分を取得し、各点のy成分とy’成分の残差を取得した。取得した各点の残差の標準偏差を算出し、これを列方向の特徴量として、sigma_wとした。一試料につき、各磁界条件(-200、-100、-50、-25、0、25、50、100、200A/m)のsigma_wを算出した。
【0065】
各試料について、各磁界条件のsigma_hとsigma_wの比sigma_h/ sigma_wを算出し、その中で最も大きいsigma_h/ sigma_wを磁区画像の特徴量として、(sigma_h/ sigma_w)_maxとした。各試料の(sigma_h/ sigma_w)_maxの数値と接着応力の関係を表6に示す。
【0066】
【0067】
表7を見てわかるように、接着を行っていない比較例4、5、6、8は、テンションアニール由来の長手方向に配向した180°磁壁をもつ磁区が観察されるため、磁界を-200A/mから200A/mまでの変化させる間に上述の磁区が観察され、白色部分である磁区と黒色部分である磁区のコントラストの差が大きくなり、(sigma_h/ sigma_w)_maxは大きな値をとる。
一方、実施例5、6、7では、接着応力が大きく磁区が細分化され、白色部分である磁区と黒色部分である磁区のコントラストの差は小さくなるため、(sigma_h/ sigma_w)_maxは小さくなる。
磁区画像の特徴量である(sigma_h/ sigma_w)_maxは、テンションアニール由来の長手方向に配向した磁区が細分化されている程度の尺度となり、(sigma_h/ sigma_w)_maxが4以下では、大きな接着応力により磁区が細分化されるため、渦電流損失が低減し、高周波数帯における低鉄損特性を示すことになり、良好な磁気特性を得ることができる。
よって、本実施形態によれば、耐熱性に優れ、高周波数帯において低い鉄損特性を備えたモータ用の積層磁性材及びモータ用の積層磁性材の製造方法を提供することができる。
【0068】
以上、本発明について、上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明の技術範囲は、上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0069】
1 急冷合金薄帯
1a,1b 急冷合金薄帯の主面
2 樹脂層
11、12 積層磁性材