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特許7468865リン化コバルト触媒およびこれを用いた有機化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】リン化コバルト触媒およびこれを用いた有機化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/185 20060101AFI20240409BHJP
   C07C 211/27 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 209/26 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 213/00 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 211/03 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 211/17 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 211/29 20060101ALI20240409BHJP
   C07C 233/42 20060101ALI20240409BHJP
   C07F 5/04 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 307/52 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 213/127 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 213/38 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 211/52 20060101ALI20240409BHJP
   C07J 41/00 20060101ALI20240409BHJP
   C07D 317/58 20060101ALI20240409BHJP
   B01J 35/45 20240101ALI20240409BHJP
   B01J 35/54 20240101ALI20240409BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240409BHJP
【FI】
B01J27/185 Z
C07C211/27
C07C209/26
C07C213/00
C07C211/03
C07C211/17
C07C211/29
C07C233/42
C07F5/04 C
C07D307/52
C07D213/127
C07D213/38
C07D211/52
C07J41/00
C07D317/58
B01J35/45
B01J35/54
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020117515
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022022825
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】満留 敬人
(72)【発明者】
【氏名】盛 敏
(72)【発明者】
【氏名】上野 晋司
(72)【発明者】
【氏名】今仲 庸介
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0015558(US,A1)
【文献】特表2013-514306(JP,A)
【文献】Chemical Science,2020年06月09日,vol.11,p.6682-6689,SUPPLEMENTARY INFORMATION,DOI: 10.1039/dosc00247j
【文献】Nano Energy,2014年,vol.9,p.373-382,DOI:10.1016/j.nanoen.2014.08.013
【文献】Nanoscale,2016年,vol.8,p.4898-4902,DOI:10.1039/c6nr00208k
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07F 5/04
C07D 307/52
C07D 213/127
C07D 213/38
C07D 211/52
C07J 41/00
C07D 317/58
C07B 61/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化コバルトのナノ粒子を有効成分とし、ナノ粒子が棒状であることを特徴とするアンモニア源の共存下でのカルボニル化合物の還元アミノ化触媒。
【請求項2】
リン化コバルトのナノ粒子の長辺が、短辺の10倍以上である請求項1記載の触媒。
【請求項3】
リン化コバルトのナノ粒子が、無機酸化物微粒子に担持されたものである請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
カルボニル化合物を、アンモニア源の共存下で請求項1~のいずれか1項に記載の触媒を用いて還元アミノ化することを特徴とするアミン化合物の製造方法。
【請求項5】
加熱、常圧または加圧された水素含有雰囲気のもと、アンモニア源の共存下、湿式でカルボニル化合物を、請求項1~のいずれか1項に記載の触媒を用いて還元アミノ化することを特徴とするアミン化合物の製造方法。
【請求項6】
アンモニア源がアンモニア水または酢酸アンモニウムである請求項に記載のアミン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化コバルトのナノ粒子を有効成分とする触媒およびこれを用いた有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトやニッケルを触媒として使用する場合、コバルトやニッケルをスポンジ状にした触媒を使用することが知られている。このようなスポンジ状の触媒はラネー触媒(商標登録番号第3214822号)としても知られている(特許文献1、2)。
【0003】
このスポンジ状の触媒(以下、「スポンジ触媒」という)は、コバルトやニッケルとアルミニウムからなる合金(ラネー合金ともいう)から、水酸化ナトリウム水溶液でアルミニウムのみを溶解除去したものである。
【0004】
このようなスポンジ触媒は、スポンジ状金属そのものを触媒として使用することもできるが、触媒の性能向上を目的として更にマンガン、銅、鉄、クロムおよびモリブデン等の他の元素を含有させることも知られている(特許文献2)。
【0005】
具体的に、スポンジ触媒を使用する反応としては、二重結合または三重結合を有する不飽和化合物、アルデヒド化合物、カルボニル化合物、ニトリル化合物、ニトロ化合物等の水素化、芳香族、ヘテロ環の水素化、脱ハロゲン、ラクタム精製、水素化分解、還元アミノ化等の種々の有機化合物の水素化が知られている。
【0006】
上記反応のうち、還元アミノ化、すなわち、カルボニル化合物を原料とするアミン化合物の生成においては、反応物であるカルボニル化合物と可燃性アンモニアガスを高圧条件下で触媒と反応させる必要がある。(特許文献1、2、非特許文献1)このようなアンモニアガスは一定の空気と混合したときに爆発の危険があるため、取り扱いに注意が必要である。
【0007】
また、このような元素を使用したスポンジ触媒は大気中において非常に不安定で発火の危険性が知られている(特許文献3)。そのため、触媒の調製・溶媒の置換、および反応のすべての過程において嫌気雰囲気にて行う必要があり、保管にあたっても大気に触れることは厳に避け、水やアルコール中で保存する必要があり、産業的にはコバルト等の触媒活性を有する金属と、その金属が溶解しない酸やアルカリで溶解除去される金属との合金の状態で保存される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-188126号公報
【文献】特開2002-179626号公報
【文献】特表平10-511697号公報
【文献】特開2012-179501号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】R.V. Jagadeesh et al., Science 2017, 358, 326-332
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来よりカルボニル化合物等の有機化合物の還元アミノ化に用いられているスポンジ触媒の問題点を解決した、新たな触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の形状のリン化コバルトのナノ粒子を有効成分とした触媒を用いることにより、上記問題点を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、リン化コバルトのナノ粒子を有効成分とし、ナノ粒子が棒状であることを特徴とする還元アミノ化触媒である。
【0013】
また、本発明は、有機化合物を、上記触媒を用いて還元アミノ化することを特徴とする有機化合物の製造方法である。
【0014】
更に、本発明は、加熱、常圧または加圧された水素含有雰囲気のもと、アンモニア源の共存下、湿式でカルボニル化合物を、上記触媒を用いて還元アミノ化することを特徴とするアミン化合物の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒は、大気中においても非常に安定で発火の危険性がない。
【0016】
また、本発明の有機化合物の製造方法は、副生成物の生成を抑制しつつ、カルボニル化合物等の有機化合物から、これらを還元アミノ化した有機化合物を、転化率や収率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例触媒1のTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)画像である。
図2】実施例触媒1のX線回折(XRD:X-Ray diffraction)の結果とJCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カード[CoP (00-054-0413)]を共に表示した図である。
図3】実施例触媒1のTEM画像である。
図4】実施例触媒1をADF-STEM(環状暗視野-走査透過型電子顕微鏡:Annular Dark Field-Scanning Transmission Electron Microscope)によりコバルトの元素マッピングを行った画像である。
図5】実施例触媒1をADF-STEMによりリンの元素マッピングを行った画像である。
図6】実施例触媒1をADF-STEMによりコバルトとリンの元素マッピングを行った図4図5を重ねた画像である。
図7】反応後の使用済み実施例触媒1のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水素化触媒(以下、「本発明触媒」という)は、リン化コバルト(CoxPy)のナノ粒子を有効成分とし、ナノ粒子が棒状のものである。また、本発明において棒状のナノ粒子とは、棒のように長辺および短辺を有し、棒の長辺および短辺がナノオーダーのものを言う。また、棒は曲がっていても真っ直ぐであってもよいが、真っ直ぐなことが好ましい。長辺は特に限定されないが、例えば、1~1000nm、好ましくは10~500nmである。短辺も特に限定されないが、例えば、0.1~100nm、好ましくは1~50nmである。ナノ粒子の長辺は、短辺の5~100倍、10倍以上であることが好ましい。棒状のナノ粒子の短辺(端面)の形状は特に限定されず、円、半円、楕円等の円形、三角、四角、六角等の多角形等のいずれでも良いが、好ましくは多角形か円形、より好ましくは四角、六角である。また、この形状は長辺方向に一様であってもなくてもよいが、一様なことが好ましい。
【0019】
本発明触媒に用いられるナノ粒子が実施例触媒1のような棒状(短辺(端面)の形状は四角:全体として四角柱状)の場合、その短辺は1~100nmが好ましく、5~50nmがより好ましく、長辺は短辺の5~1000倍程度が好ましく、10~100倍程度が好ましい。なお、本発明において短辺や長辺は透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で任意の数の粒子を観察し、それらの観察結果の平均値のことをいう。
【0020】
リン化コバルト(Co)のナノ粒子のコバルトとリンの比率は、1:0.5~1、つまりリンのモル比がコバルトに対して1以下であることが好ましく、さらに0.7以下であることが好ましく、特に0.5以下が好ましい。リン化コバルト(Co)としては、CoP、CoP等が挙げられ、これらの混合物でも良く、特にCoPが好ましい。
【0021】
上記のようなリン化コバルトナノ粒子は、公知の方法、例えば、コバルト化合物溶液とリン化合物溶液の混合溶液から沈殿物として得ることができる。
【0022】
このような沈殿物を得る方法は、文献(Junfeng Liu and Andreu Cabot et al, J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 11453-11462)にも詳しく記載されている。この方法は、コバルト化合物と、コバルト化合物を還元する際の粒子径の成長を抑制する成分と、溶媒と、前記溶媒に易溶解性なリン化合物とを、不活性ガス雰囲気中で加熱保持する方法である。
【0023】
上記方法で用いられるコバルト化合物は、特に限定されるものではないが、取り扱いが容易なものであることが好ましい。このようなコバルト化合物としては、例えば、CoClやCo(NO、Co(acac)が挙げられ、特にCo(acac)が好ましい。
【0024】
上記方法で用いられるコバルト化合物を還元する際の粒子径の成長を抑制する成分としては、例えば、金属コバルトの成長を抑制する成分として知られている、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オレイルアミン等のアミン基を有する化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上のキャッピング成分(特表2014-514451号公報)等が挙げられる。このような金属コバルトの成長を抑制するキャッピング成分が、リン化コバルトの粒子成長も抑制できることは、一見その作用が異なるように思われるが、後述するように、本発明者らの検証によればリン化コバルトにおけるコバルトの電子状態は0価である金属コバルトと同様であることが確認されており、前述の金属コバルトの成長抑制と同様の作用により、生成中の粒子成長が抑制されるものと思われる。
【0025】
上記方法で用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、高沸点な有機溶媒であることが好ましい。このような溶媒としては1-オクタデセン等が挙げられる。
【0026】
上記方法で用いられる、上記溶媒に易溶解性なリン化合物は、特に限定されるものではないが、取り扱いが容易なものであることが好ましい。このようなリン化合物としてはトリフェニルホスファイト等の3級のホスファイトやトリフェニルホスフィン等の3級のホスフィン等が挙げられる。なお、易溶解性とは、原料リン化合物と溶媒の組み合わせはCoP沈殿の生成時の加熱温度以下で原料リン化合物が完全に溶解可能な溶解度であることが好ましく、例えば100℃において14g/L以上の原料リン化合物の溶解が可能である組み合わせが好ましい。
【0027】
上記方法においては、溶媒中に、コバルト化合物と、コバルト化合物を還元する際の粒子径の成長を抑制する成分と、前記溶媒に易溶解性なリン化合物とを、それぞれのモル換算で、コバルト化合物を0.1~10としたとき、また好ましくは1~5としたとき、前記抑制する成分は1~100、好ましくは10~50、リン化合物は1~100、好ましくは10~50使用し、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気中で250~350℃、好ましくは280~320℃で加熱し、これを2~6時間程度保持して沈殿を得る。この沈殿は、洗浄・濾過してもよい。この洗浄・濾過後には、更に、乾燥等をしてもよい。
【0028】
上記方法において、本発明触媒の作用の促進を目的として、コバルト化合物の一部に代えて、ニッケル、マンガン、銅、鉄、クロム、モリブデン等の金属成分の塩を添加しても良い。
【0029】
斯くして得られる本発明触媒は、従来のスポンジ触媒に代えて水素化に利用することができる。その理由は定かではないが、リン化コバルト中のコバルトがメタル(0価)と同じ状態であり、かつナノサイズであることが考えられる。本発明のリン化コバルトを得る方法は特に限定されるものでは無いが、原料としてのリン化合物の仕込量を調整することによっても得ることができる。このようにリン化合物の仕込量を調整する場合、[リン化合物中のリンのモル数/コバルト化合物中のコバルトのモル数]は2~50であることが好ましく、2~35であることがより好ましく、2.5~25であることが特に好ましい。
【0030】
本発明触媒におけるコバルトの価数は、例えば、X線吸収微細構造(X-ray absorption fine structure:XAFS)により解析することができる。具体的には、金属原子に対し高強度X線、好適にはエネルギーを連続的に変化させた高強度X線を照射することにより、金属原子の内殻電子を非占有軌道以上のエネルギー準位に励起することにより、励起された金属原子は入射X線の励起エネルギーと内殻電子の結合エネルギーとの差に相当する運動エネルギーをもつ光電子を放出し、当該金属原子のX線吸収スペクトルにおける吸収端の近傍に微細構造が現れ、これを解析することによって、金属原子の電子状態を特定することができる。
【0031】
このようなXAFSのエネルギー領域の内、吸収端近傍数10eV程度に現れる微細構造をX線吸収端近傍構造(XANES:X-ray absorption near edge structure)という。XANESは非占有軌道への励起に起因し、金属原子の酸化数や配位構造等に依存したスペクトル構造である。XANESスペクトルにおける吸収端のエネルギーは、金属原子の電子状態(価数)によって異なる。
【0032】
本発明触媒をXANESにより解析したところ、金属としての0価のCoとCoPおよびCoPのCoは吸収端のエネルギーがほぼ等しく、他の化合物中におけるCoの価数、すなわち2価、2.6価、3価のCoのXANESスペクトルの吸収端のエネルギーに比べより低エネルギーであった。このことにより、本発明の製法により得られたコバルト化合物のCoは金属としてのCo同様であることが分かった。即ち、x軸にX線光子エネルギー(単位eV)、y軸に規格化された吸光度(normalized xμ(E)、単位無次元)をプロットした場合、金属CoとバルクのCoPおよび本発明の製法によって得られたコバルト化合物の3種のCo種はいずれも0価であることが示唆された。
【0033】
一方、XAFSのエネルギー領域の内、吸収端から約1000eV高エネルギー側まで続く変調構造を広域X線吸収微細構造(EXAFS:Extended X-ray absorption fine structure)という。EXAFSは、励起電子と近接原子からの散乱電子の相互作用に起因して得られる振動構造であり、フーリエ変換により得られる動径分布関数は、金属原子の局所構造(周囲の原子種、配位原子の数、原子間距離)に関する情報を含む。
【0034】
本発明触媒をEXAFSにより解析したところ、CoPナノ粒子とCoPナノ粒子はそれぞれCo-P結合とCo-Co結合に対応する1.8Åと2.3Åの距離に2つのメインピークを示した。
【0035】
本発明触媒は、そのままでも後述する種々の触媒として利用することができるが、反応系からの触媒の分離が容易になり、触媒の耐久性も向上する場合があり、産業的に有利となるため、担体に担持させてもよい。
【0036】
本発明触媒を担持することのできる担体としては、特に限定されず、比表面積値の大きく、広く触媒の用途に使用される多様な担体が使用可能である。このような担体としては無機酸化物微粒子、活性炭等が挙げられる。これらの担体の中でも無機酸化物微粒子が好ましい。無機酸化物微粒子としては、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、マグネシアのような金属酸化物の微粒子の他、これら酸化物の組み合わせたものや、ハイドロキシアパタイト(HAP)、ハイドロタルサイト(HT)のような複合酸化物等の微粒子であってもよい。なお、ここで微粒子とは、ナノサイズのCoPよりも粒子径が大きな粒子であれば特に限定されるものではなく、例えば、粒子径が体積基準で10~100μm程度の粉体や、0.5~5mm程度の球状のもの等が挙げられる。
【0037】
また、上記担体の比表面積値も特に限定されないが、例えば、100~500m/gであることが好ましい。また、本発明の実施例のように、担体としてアルミナを使用する場合の比表面性値は100~500m/gが好ましく、ハイドロタルサイトを使用する場合は5~150m/gが好ましく、ハイドロキシアパタイトの場合は30~100m/gが好ましい。
【0038】
更に、本発明触媒を担体に担持させる方法も特に限定されず、例えば、リン化コバルトを調製する際のコバルト化合物やリン化合物を含有する溶液に、担体を投入して、コバルト化合物やリン化合物を担体に含侵させた後、還元や乾燥や焼成を加えてリン化コバルトを担体へ担持させる方法、リン化コバルトのナノ粒子が分散した溶液を担体に含侵させる方法、リン化コバルトのナノ粒子が分散した溶液と担体を混合する方法等が挙げられる。
【0039】
本発明触媒を用いれば、有機化合物を還元アミノ化して有機化合物を製造することができる。還元アミノ化の条件は特に限定されず、従来のスポンジ触媒を用いた還元アミノ化において、本発明触媒を用いるだけでよく、従来の設備に大規模な修正を加える必要もなく、オートクレーブ等の汎用の合成装置を用いることもできる。また、本発明触媒の有効成分であるリン化コバルトのナノ粒子は棒状であることにより、還元アミノ化による有機化合物の収率が急激に向上する。
【0040】
本発明触媒は従来のスポンジ触媒に代わる安全な触媒であり、還元アミノ化にその有効性が期待できる。還元アミノ化される有機化合物と、還元アミノ化される化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。としては、例えば、カルボニル化合物を
<有機化合物> <還元アミノ化化合物>
カルボニル化合物 第一級アミン化合物
【0041】
カルボニル化合物としては、例えば、アルデヒド化合物、ケトン化合物等が挙げられる。これらのカルボニル化合物の中でも特にハロゲンやカルバメート、メトキシ、ボロン酸エステル等の官能基は反応せずにカルボニル基のみを選択的に還元アミノ化ができる。
【0042】
具体的に、本発明触媒を用いてカルボニル化合物を還元アミノ化して第一級アミン化合物を製造する場合、アンモニア源の共存下で、加熱、常圧または加圧された水素含有雰囲気のもと、湿式でカルボニル化合物を、本発明触媒を用いて還元アミノ化すればよい。また、コバルトのスポンジ触媒を使用したカルボニル化合物の還元アミノ化反応として知られている(非特許文献1)ものと同じものである。
【0043】
この反応においては、系内に本発明触媒を有機化合物の還元アミノ化に十分な量で存在させ、加熱条件は60~180℃、好ましくは100~150℃である。常圧または加圧条件は0.1~10MPa、加圧する場合は0.2~5MPaが好ましい。水素含有雰囲気は、水素ガスまたは水素ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスが挙げられ、水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスとの混合ガスが好ましい。上記アンモニア源は、特に限定されないが安全性等の観点からアンモニア水などの水溶液や酢酸アンモニウム等が好ましい。
【0044】
湿式条件の溶媒は特に限定されるものではなく、テトラヒドロフラン(THF)などの非プロトン性極性溶媒、トルエンなどの非極性溶媒、2-プロパノール、エタノール等の各種アルコール、水等に代表されるプロトン性極性溶媒等が使用でき、アンモニア源としてアンモニア水等の液体を使用する場合はアンモニア水のみでもよい。また、これら溶媒は1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、このような溶媒の中でもプロトン性極性溶媒が特に好ましい。
【0045】
上記カルボニル化合物は、特に限定されず、アルデヒド化合物であってもよいし、ケトン化合物であってもよく、種々のカルボニル基を有する化合物を用いることができる。
【0046】
なお、本発明触媒は上記した還元アミノ化だけでなく、従来のスポンジ触媒において促進可能な水素化反応全てにその有効性が期待できる。水素化反応としては、例えば、二重結合または三重結合を有する不飽和化合物、アルデヒド化合物、カルボニル化合物、ニトリル化合物、ニトロ化合物等の水素化、芳香族、ヘテロ環の水素化、脱ハロゲン、ラクタム精製、水素化分解等の水素化等の種々の有機化合物の水素化が挙げられる。
【0047】
上記水素化反応に好ましい有機化合物と、水素化により製造される水素化有機化合物としては以下のものが挙げられる。また、これらの反応条件は上記した還元アミノ化に準じて行うことができる。
<有機化合物> <水素化有機化合物>
ニトリル化合物 第一級アミン化合物
アルデヒド化合物 アルコール化合物
不飽和化合物 飽和化合物
【0048】
本発明触媒を産業用途に使用することを想定した場合、使用する反応装置は特に限定されるものでは無く、産業用に使用される様々な装置に使用可能である。このような産業用反応装置は大きく分けて回分式(バッチ式ともいう)と連続式とに分類されることがある。回分式は基質や触媒の投入、反応、生成物の分離回収等の工程が一つずつ順番に行われるもので、実験施設で使用されることも多い。これに対して連続式と言われる反応器は、産業用設備として多く採用されている装置であり、各反応工程を連続的かつ同時に行うことが可能になるもので、大量生産に適した産業上有利な反応装置であるといえる。
【0049】
連続式反応装置には大きく分けて流動床反応装置と固定床反応装置の二種類に分けられることがある。流動床反応装置中では基質を含む反応物中に触媒を浮遊させた状態で混合され、反応物分子と触媒活性点との接触し易さの点で優れているが、反応後は触媒と生成物の分離が必要になる。また、触媒を粒子として浮遊させる必要が有るため使用する触媒粒子は粒子径が小さなものになる。
【0050】
一方で固定床反応装置では流体として反応装置中を移動するのは反応物のみで、触媒は装置中で固定され、反応物は固定された触媒床を通過する際に反応して生成物が得られる。得られた生成物は触媒と分離された状態で反応装置から排出される。このため、反応後に反応系からの触媒の除去が不要で連続運転に向いており、産業用途向きの装置であるともいえる。固定床反応装置では反応物は触媒床を適切な流速で通過する空隙が必要であり、固定床反応装置に使用される触媒は粒状やハニカム状に成型したり、粒状やハニカム状に成型された担体に本発明触媒を担持あるいは含侵させたものを使用することが多い。
【0051】
また、このような装置を使用した反応では、液相反応物の状態で反応と気相反応に分けられることがある。液相反応は反応物あるいは基質と溶媒の混合反応溶液を液体のまま触媒と接触させることにより反応を行うものである。液相反応では反応物や反応溶液を気化させる必要が無い分、反応に要するエネルギーを少なくすることができる。一方で、気相反応では反応物が気体であることから反応に必要な分子同士の衝突が容易であり反応速度に優れている。
【0052】
このような反応装置、反応機構を踏まえると、本発明触媒は固定床反応装置を使用した気相反応によって使用されることが好ましい。
【実施例
【0053】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。なお、特にことわりの無い限り、以下の実施例における収率は内部標準法ガスクロマトグラフィー(GC)定量分析によって求めたものである。
【0054】
実施例触媒1
CoP NR(ナノロッド)の生成:
【0055】
アセチルアセトンコバルト(Co(acac))(1.0mmol)、ヘキサデシルアミン(10mmol)、トリフェニルホスファイト(10mmol)、1-オクタデセン(10.0mL)をシュレンクフラスコに加えて撹拌した。混合液をアルゴンフロー下で150℃1時間加熱した。続いて、温度を300℃で2時間維持した後、室温まで冷却し黒色生成物を得た。得られた黒色生成物をアセトンで沈殿させて、更にクロロホルムとアセトンの混合溶媒(1:1)を用いて洗浄を行い、沈殿を大気中で一晩減圧乾燥させて本発明の実施例触媒1を得た。本発明の実施例触媒1を大気中で一晩放置したが、スポンジ触媒で懸念されるような発火は生じなかった。実施例触媒1のTEM(Transmission Electron Microscope;透過型電子顕微鏡)画像を図1に示した。
【0056】
また、本発明の実施例触媒1についてその構造解析を行った。結果を図2に示す。図2は実施例触媒1に関するX線回折の結果とJCPDSカード[CoP (32-0306)]を共に表示した図である。図2中の縦の棒グラフで示してあるのがJCPDSカードに記載のCoPピークである。本発明の実施例触媒1ではCoP固有の(121)面と(002)に強く特徴的なピークが確認された。これにより、実施例触媒1にはCoPが含まれていることが分かる。同様に後述する比較例触媒2についてもX線回折の結果とJCPDSカードからその構造を特定しCoPが含まれていることを確認した。
【0057】
図1図3は透過型電子顕微鏡により観察された実施例触媒1の画像である。この結果から、実施例触媒1は幅(短辺)として約10nm、長さ(長辺)として約50~150nmというナノサイズで整った、断面形状が四角の棒状(四角柱)の結晶を形成していることが分かった。
【0058】
図4~6はADF-STEMにより元素マッピングを行った画像である。図4はCo元素の分布を表した画像であり、図5はP元素の分布を表した画像であり、図6はCo元素分布とP元素分布を複合した画像である。この結果から、実施例触媒1ではCo元素とP元素が偏りなく粗均一に分布していることがわかった。
【0059】
XRD、BF-STEM、ADF-STEMによる解析結果から、実施例触媒1の触媒は、CoPを構成要素としたナノサイズの整った棒状の結晶構造を有することが分かった。
【0060】
実施例触媒2
CoP NP(ナノ六角柱)の生成
CoPは文献(Junfeng Liu and Andreu Cabot et al, J. Mater. Chem. A, 2018, 6, 11453-11462)に記載の方法に準じて生成した。まず、塩化コバルト(CoCl)(1.0mmol)、ヘキサデシルアミン(10mmol)、トリフェニルホスファイト(10mmol)、1-オクタデセン(10.0mL)をシュレンクフラスコに加えて撹拌した。混合液をアルゴンフロー下で150℃1時間加熱した。続いて、温度を20分間で溶媒沸点(約290℃)まで上昇させ、その後2時間維持した後、200℃まで冷却し、水浴で急速に室温まで冷却し黒色生成物を得た。得られた黒色生成物をアセトンで洗浄し、沈殿させて回収し、更にクロロホルムとアセトンを用いて洗浄を行い、本発明の実施例触媒2を得た。得られた実施例触媒2を大気中で一日放置して乾燥させたが、スポンジ触媒で懸念されるような発火は生じなかった。
【0061】
文献記載の手法により調製されたCoPは、長さが約30nm、幅が約6nmの棒状(六角柱状)であることが報告されており、本実施例により調製された実施例触媒2も同様の形状とサイズのナノ粒子で直径(短辺)は概ね10nmで均一であり、長さ(長辺)は20~40nmの棒状(六角柱状)であった。
【0062】
比較例触媒1
粉状CoP:
市場から試薬のCoPを入手して比較例触媒1とした。比較例触媒1の平均粒子径は体積基準で測定されたメディアン径で70μmであった。
【0063】
比較例触媒2
CoPナノ粒子の調製:
アルゴン雰囲気下で1mmolのCo(acac)、5mL(15.6mmol)の1-オクタデセンと10mLのオレイルアミンをシュレンクフラスコ中に加えて120℃で攪拌後、5mL(11mmol)トリフェニルホスフィンを加えて340℃で4時間加熱した。混合物を室温まで冷やした後ヘキサンとエタノール(1:1)の混合溶液で上澄み液が透明になるまで洗浄し、得られた粉末を室温で一晩真空乾燥して比較例触媒2を得た。
【0064】
比較例触媒3
ラネーCo:
富士フイルム和光純薬株式会社製ラネーコバルト(約48%)(製品コード189-00462)を比較例触媒3とした。
【0065】
試験例1
アンモニアによるアルデヒド化合物の還元アミノ化反応:
アルデヒド化合物の還元アミノ化反応はオートクレーブにて行った。オートクレーブに0.004gのCoP NR触媒、基質として0.5mmolのベンズアルデヒド、アンモニア源として3mlの25wt%のNH水溶液を加え、その後、水素の加圧雰囲気に切り替えて加熱し、反応を行った。
【0066】
上記のようにして得られた各触媒について、上記アルデヒド化合物の還元アミノ化反応条件に従い、以下のとおり還元アミノ化反応の評価を行った。アンモニア源、水素の圧力、反応に要した時間、温度、収率について表1に記す。アンモニア源が酢酸アンモニウムの場合は酢酸アンモニウム0.05gと溶媒としてエタノール3mL、アンモニアガスの場合はガス圧0.25MPaと溶媒としてエタノール3mLである。
【0067】
【化1】
【0068】
【表1】
【0069】
表1の結果から、本発明触媒は棒状であることによりアルデヒド化合物の還元アミノ化において高い性能を発揮するもので、特に水素の圧力が低い条件でも高い収率で第一級アミン化合物を得ることができることが確認できた。また、同じ棒状のCoP NR触媒であっても、長辺が、短辺の10倍以上のものの方が収率がよいことも分かった。
【0070】
試験例2
触媒の耐久性:
実施例触媒1を使用して、本発明触媒の耐久性を評価するため、反応に使用した触媒を濾過した後、前記の試験例1の例4と同じ反応を繰り返し、本発明触媒の耐久性を検証した。結果を表2に記す。
【0071】
【化2】
【0072】
【表2】
【0073】
表2の結果から、本発明触媒は優れた耐久性を有することが分かった。従来の非貴金属触媒は一般に空気に対して不安定であり、リサイクル中に嫌気性条件を必要とするが、本発明触媒は空気下での単純なろ過によって簡単に回収され、5回目以降でも活性を失うことなく再利用され、高い耐久性を示した。反応後の使用済み触媒のTEM画像(図7)から、CoP NR触媒(実施例触媒1)は凝集せず、サイズや棒状の形状は変化しないことがわかった。
【0074】
試験例3
基質多様性:
続いて、CoP NR触媒(実施例触媒1)を使用して、本発明触媒の基質多様性について評価を行った。反応条件は以下のとおり前記の試験例1の条件と同様である。結果を表3に記す。
【0075】
【化3】
【0076】
【表3】
【0077】
表3の結果から、本発明触媒は多様なアルデヒド化合物に対して優れた選択的還元アミノ化性能を発揮し、高い収率で第一級アミン化合物が得られることが分かった。このような穏やかな反応条件下では、ハロゲンやカルバメート、メトキシ、ボロン酸エステルなどの官能基は反応せずにアルデヒド基の選択的還元アミノ化ができることがわかった。
【0078】
このようなアルデヒド化合物の選択的還元アミノ化反応が、スポンジ触媒のような自然発火のリスクなく実現できることは、特に産業規模でみた場合、極めて価値の高い触媒技術であるといえる。
【0079】
試験例4
ケトン化合物の還元アミノ化
続いて、立体障害のあるイミン中間体の水素化が困難なため、アルデヒドよりも還元アミノ化が困難なケトンについて、CoP NR触媒(実施例触媒1)を使用して、本発明触媒の還元アミノ化性能について評価を行った。結果を表4に記す。
【0080】
【化4】
【0081】
【表4】
【0082】
表4の結果から、本発明触媒はケトン化合物に対しても優れた還元アミノ化性能を発揮し、高い収率で第一級アミン化合物が得られることが分かった。
【0083】
試験例5
基質(ケトン化合物)多様性
続いて、CoP NR触媒(実施例触媒1)を使用して、本発明触媒のケトン化合物が基質の場合の基質多様性について評価を行った。反応条件は以下のとおり前記の試験例4の条件と同様である。結果を表5に記す。
【0084】
【化5】
【0085】
【表5】
【0086】
表5に表された結果から、本発明触媒は多様な基質に対して優れた活性を発揮しているのみならず、0.1MPa、100℃という低圧低温条件下でも高い収率を維持していることが分かる。このような穏やかな反応条件下では、ジケトンを含む脂肪族および脂環式ケトンもハロゲン基やアミド基、メトキシ基、メチル基、スルホ基などの官能基は反応せずにカルボニル基を対応する一級分岐アミンに選択的還元アミノ化ができた。さらに、本発明触媒は、例15や16などのステロイド骨格を含む構造的に複雑なケトンをアミノ化でき、高い適用性が示された。
【0087】
試験例6
基質多様性:
続いて、CoP NR(実施例触媒1)を使用して、本発明触媒の基質多様性について評価を行った。結果を表6に示す。
【0088】
【化6】
【0089】
【表6】
【0090】
水素圧0.1MPaの条件下でもアルデヒド化合物およびケトン化合物を対応する第一級アミンに高収率でえることができ、本発明触媒は多様な基質に対して優れた選択性を発揮していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明触媒は、従来の危険なスポンジ触媒に換えて使用するだけで、従来の設備に大規模な修正を加えることなく、有機化合物の還元アミノ化に用いることができるため、産業利用が容易な価値ある技術である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7