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特許7468966二次電池用負極、その製造方法およびそれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】二次電池用負極、その製造方法およびそれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/133 20100101AFI20240409BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240409BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240409BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20240409BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/587
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/1393
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022556652
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 KR2022002474
(87)【国際公開番号】W WO2022182072
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】10-2021-0026804
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイ、ヒュンウー
(72)【発明者】
【氏名】オー、スン ジューン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨウンスク
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジェオンキュ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、インヨウン
(72)【発明者】
【氏名】チョエ、イェオンジ
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-192361(JP,A)
【文献】特開2014-209455(JP,A)
【文献】特開2008-204829(JP,A)
【文献】特開2000-133316(JP,A)
【文献】特開2018-170222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属集電体;および
金属集電体上に形成されており、負極活物質、バインダおよび導電材を含む活物質層を含む二次電池用負極であって、
SAICAS装備を用いてマイクロブレードで前記活物質層を一定の切削速度で切削しながら下記式1により切削深さ別の剪断強度を算出した時、前記活物質層は10~40μmの切削深さで測定された剪断強度の平均値が1.6MPa以上であり、
前記負極活物質は天然黒鉛、人造黒鉛、繊維状人造黒鉛、黒鉛化ブラックおよび黒鉛化ナノ繊維からなる群より選ばれた1種以上の黒鉛系活物質を含み、
前記導電材はカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックおよびサーマルブラックからなる群より選ばれた1種以上を含み、
前記バインダはポリビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレン コポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸およびスチレンブタジエンゴム(SBR)からなる群より選ばれた1種以上を含み、
前記活物質層は前記負極活物質の80~98重量%と、前記バインダの0.5~15重量%と、前記導電材の0.1~10重量%を含む二次電池用負極:
[式1]
【数1】
前記式1において、τsは切削深さ別の剪断強度を示し、bは前記マイクロブレードの幅を示し、t0は切削深さを示し、φは剪断角度を示し、
FhおよびFvはそれぞれ前記一定の切削速度を維持するために、マイクロブレードにそれぞれ印加される水平力および垂直力の測定値を示す。
【請求項2】
前記活物質層は50~400μmの厚さを有する、請求項1記載の二次電池用負極。
【請求項3】
前記金属集電体は銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケルおよびチタンからなる群より選ばれた1種以上の金属を含む、請求項1または2に記載の二次電池用負極。
【請求項4】
負極活物質、バインダ、導電材および溶媒を含むスラリー組成物を金属集電体上に塗布する段階;および
前記スラリー組成物を1次および2次にわたって圧延する段階を含み、
下記式2で定義される圧延率をそれぞれ算出した時、1次圧延率/2次圧延率が5以上になるように前記1次および2次圧延を行う請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用負極の製造方法:
[式2]
圧延率(%)=[圧延後のスラリー組成物の厚さ減少量(μm)/圧延前のスラリー組成物の厚さ(μm)]*100
【請求項5】
前記1次圧延率は20~40%であり、前記2次圧延率は0.5~6%である、請求項に記載の二次電池用負極の製造方法。
【請求項6】
前記スラリー組成物は100~500μmの厚さで金属集電体上に塗布される、請求項またはに記載の二次電池用負極の製造方法。
【請求項7】
前記1次および2次の圧延段階の後に、前記スラリー組成物を乾燥して溶媒を除去する段階をさらに含む、請求項からのいずれか一項に記載の二次電池用負極の製造方法。
【請求項8】
正極;
請求項1からのいずれか一項に記載の二次電池用負極;および
正極および負極の間に介在するセパレータを含む、リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互引用]
本出願は2021年2月26日付韓国特許出願第10-2021-0026804号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は活物質層の剥離抵抗性および接着性が向上し、負極およびリチウム二次電池の寿命特性を向上させることができる二次電池用負極、その製造方法およびそれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器および電気自動車などに対する技術開発および需要の増加によりエネルギ源としての二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池の中でも高いエネルギ密度と電圧を有してサイクル寿命が長く、放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く使用されている。
【0004】
一般にリチウム二次電池は、金属集電体上にそれぞれ活物質が塗布されている正極と負極の間に多孔性のセパレータが介在する電極組立体にリチウム塩を含む電解質が含浸されている構造からなっており、前記各電極は活物質、バインダおよび導電材が溶媒に分散しているスラリー組成物を金属集電体上に塗布して圧延(pressing)および乾燥して製造される。
【0005】
したがって、リチウム二次電池の寿命特性は、前記電極、特に、活物質層の電気化学的特性がどれほど長く維持されるのかによって主に決定される。ところが、従来のリチウム二次電池の場合、使用期間の経過によって負極で金属集電体から活物質層が剥離されてリチウム二次電池の寿命特性が低下する場合が多く発生した。
【0006】
これは負極の活物質層が金属と異なる特性を有する黒鉛系負極活物質を主な成分として含むことにより、金属集電体との十分な接着性、密着性および剥離抵抗性が確保されにくいからであると見える。このような負極の活物質層の劣る接着性などにより、リチウム二次電池の使用期間が経過すると前記活物質層が金属集電体から剥離されやすくなる短所があり、剥離された活物質層はこれ以上リチウム二次電池の活性領域として作用できないので、リチウム二次電池の充放電サイクル特性が急激に低下する問題が発生した。
【0007】
このような問題から、負極に含まれた活物質層の接着性などをより向上させてリチウム二次電池の寿命特性を向上させることができる技術開発が継続して要請されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、金属集電体に対する活物質層の剥離抵抗性および接着性が向上し、負極およびリチウム二次電池の寿命特性を向上させることができる二次電池用負極およびその製造方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、前記二次電池用負極を含んで向上した寿命特性を示すリチウム二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は金属集電体;および
金属集電体上に形成されており、負極活物質、バインダおよび導電材を含む活物質層を含む二次電池用負極であって、
SAICAS装備を用いてマイクロブレードで前記活物質層を一定の切削速度で切削しながら下記式1により切削深さ別の剪断強度を算出した時、前記活物質層は10~40μmの切削深さで測定された剪断強度の平均値が1.6MPa以上の二次電池用負極を提供する:
[式1]
【数1】
前記式1において、τsは切削深さ別の剪断強度を示し、bは前記マイクロブレードの幅を示し、t0は切削深さを示し、φは剪断角度を示し、
FhおよびFvはそれぞれ前記一定の切削速度を維持するために、マイクロブレードにそれぞれ印加される水平力および垂直力の測定値を示す。
【0011】
本発明はまた、負極活物質、バインダ、導電材および溶媒を含むスラリー組成物を金属集電体上に塗布する段階;および
前記スラリー組成物を1次および2次にわたって圧延する段階を含み、
下記式2で定義される圧延率をそれぞれ算出した時、1次圧延率/2次圧延率が5以上になるように前記1次および2次圧延を行う前記二次電池用負極の製造方法を提供する:
[式2]
圧延率(%)=[圧延後のスラリー組成物の厚さ減少量(μm)/圧延前のスラリー組成物の厚さ(μm)]*100
【0012】
また、本発明は前記二次電池用負極を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、負極の製造工程中の圧延工程の進行条件を制御する簡単な方法により、金属集電体に対する活物質層の剥離抵抗性および接着性が大きく向上した二次電池用負極が製造および提供されることができる。
【0014】
このような二次電池用負極ではリチウム二次電池を長期間使用しても、活物質層が金属集電体から剥離される現象を大きく減らすことができ、その結果、リチウム二次電池の優れた充放電サイクル特性を長時間維持することができる。
【0015】
そのため、前記二次電池用負極を含むリチウム二次電池は大きく向上した寿命特性を示し、モバイル機器および電気自動車などの電源供給手段として非常に好ましく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】SAICAS装備を用いてマイクロブレードで活物質層を切削しながら切削深さ別の剪断強度を測定する一例を示す模式図である。
図2】比較例1~5(サンプル番号:1および5~8)と、実施例1~3(サンプル番号:2~4)でそれぞれ製造された負極に対して、活物質層の切削深さ別の剪断強度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、発明の一実施形態による二次電池用負極およびその製造方法と、それを含むリチウム二次電池についてより具体的に説明する。
【0018】
発明の一実施形態によれば、金属集電体;および
金属集電体上に形成されており、負極活物質、バインダおよび導電材を含む活物質層を含む二次電池用負極であって、
SAICAS装備を用いてマイクロブレードで前記活物質層を一定の切削速度で切削しながら下記式1により切削深さ別の剪断強度を算出した時、前記活物質層は10~40μmの切削深さで測定された剪断強度の平均値が1.6MPa以上の二次電池用負極が提供される:
[式1]
【数2】
前記式1において、τsは切削深さ別の剪断強度を示し、bは前記マイクロブレードの幅を示し、t0は切削深さを示し、φは剪断角度を示し、
FhおよびFvはそれぞれ前記一定の切削速度を維持するために、マイクロブレードにそれぞれ印加される水平力および垂直力の測定値を示す。
【0019】
本発明者らは従来の負極製造工程を大きく変化させない単純化された方法により、負極の活物質層の金属集電体に対する接着性および剥離抵抗性を向上させるための研究を継続して行った。
【0020】
このような研究を重ねた結果、本発明者らは前記負極活物質、バインダおよび導電材を含む活物質層の表面部および金属集電体との界面部を除いて、前記活物質層の中央部(すなわち、活物質層の10~40μmの切削深さ)で測定された切削に対する剪断強度を一定の水準以上に達成することにより、前記金属集電体に対する活物質層の接着性および剥離抵抗性を大きく向上させ得ることを確認した。これは前記中央部で切削に対する高い剪断強度を有する活物質層は物理的にバインダ、導電材および負極活物質がより緻密に結合されることにより、前記金属集電体の表面により高い結合力で密着できるからであると見える。
【0021】
また、本発明者らは上記のような発見に基づいて、前記中央部で切削に対するより高い剪断強度を有する活物質層の形成を可能にする負極の製造方法に対する研究を継続して行った。このような研究の結果、負極の製造工程中に、圧延を1次および2次を含む複数回で行うが、1次および2次の圧延率の範囲が一定の範囲になるように複数回の圧延工程を行うことにより、より高い剪断強度を有する活物質層およびそれを含む負極を製造できることを明らかにして発明を完成した。
【0022】
このように、発明の実施形態によれば、比較的簡単な方法により、金属集電体に対する活物質層の剥離抵抗性および接着性が大きく向上した二次電池用負極が製造および提供されることができる。このような二次電池用負極ではリチウム二次電池を長期間使用しても、活物質層が金属集電体から剥離される現象を大きく減らすことができ、その結果、リチウム二次電池の寿命特性が大きく向上することができる。
【0023】
以下、このような一実施形態の二次電池用負極についてより具体的に説明する。
【0024】
一実施形態の二次電池用負極は基本的に金属集電体と、このような金属集電体上に形成された活物質層を含む。
【0025】
前記金属集電体としては、以前からリチウム二次電池などの電極集電体として使用されていた任意の金属集電体、例えば、電池に化学的変化を誘発せず、かつ導電性を有する金属集電体を特に制限なく使用することができる。このような金属集電体の具体的な例としては、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケルおよびチタンからなる群より選ばれた1種以上の金属を含む集電体が挙げられる。このような金属集電体の中でも、二次電池用負極の優れた伝導性および活物質層との優れた接着性などを考慮して、銅集電体を使用することができる。
【0026】
前記金属集電体の厚さは特に制限されないが、通常適用される3~500μm、あるいは5~100μm、あるいは7~50μmの厚さを有することができる。
【0027】
また、前記活物質層は、例えば、黒鉛系活物質を含む負極活物質、バインダおよび導電材を含むことができる。
【0028】
この中で、前記負極活物質の具体的な例としては、天然黒鉛、人造黒鉛、繊維状人造黒鉛、黒鉛化ブラックおよび黒鉛化ナノ繊維からなる群より選ばれた1種以上の黒鉛系活物質が挙げられ、このような黒鉛系活物質の他にシリコン系活物質などの追加的な活物質をさらに含むこともできる。
【0029】
また、前記バインダとしてはポリビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム(SBR)、またはその他多様な共重合体などの様々な高分子バインダを使用することができる。この中でも、前記金属集電体に対する優れた接着性、そして前記負極活物質および導電材に対する優れた分散性などを考慮して、ポリビニリデンフルオリド系重合体または共重合体を好ましく使用することができる。
【0030】
また、前記導電材は当該電池に化学的変化を誘発せず、かつ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック系導電材;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フルオロカーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などを使用することができる。
【0031】
ただし、前記負極活物質として黒鉛系活物質が主に使用される場合、これとの優れた分散性および電気的特性などを考慮して、カーボンブラック系導電材が適切に使用されることができる。
【0032】
一方、前記活物質層は前記負極活物質の80~98重量%、あるいは85~98重量%、あるいは90~97重量%と、前記バインダの0.5~15重量%、あるいは0.7~10重量%、あるいは1~5重量%と、前記導電材の0.1~10重量%、あるいは0.2~5重量%、あるいは0.3~2重量%を含むことができる。
【0033】
前記活物質層が前記負極活物質、バインダおよび導電材をこのような含有量の範囲で含むことにより、前記金属集電体に対する活物質層の接着性がより向上することができながらも、負極活物質および導電材の均一な分散性が達成されることができ、二次電池用負極の優れた電気化学的特性が達成されることができる。
【0034】
なお、一実施形態の二次電池用負極は上述した負極活物質、バインダおよび導電材と、これらを分散させる溶媒を含むスラリー組成物をその金属集電体上に塗布した後、後述する複数回の圧延工程により圧延および乾燥して形成されたものである。
【0035】
このような工程により、前記活物質層はSAICAS装備を用いてマイクロブレードで前記活物質層を一定の切削速度で切削しながら前記式1により切削深さ別の剪断強度を算出した時、10~40μmの切削深さで測定された剪断強度の平均値が1.6MPa以上、あるいは1.6~3MPa、あるいは1.65~2MPaになるように形成されたものである。
【0036】
既に前述したように、前記活物質層がこのような切削深さ別の平均剪断強度を有するように形成されることにより、このような活物質層は金属集電体に対する優れた剥離抵抗性および接着性を示し得、その結果、活物質層が長期間の間電気化学的特性を維持し、それを含むリチウム二次電池は優れた寿命特性を示すことができることが確認された。
【0037】
図1にはSAICAS装備を用いてマイクロブレードで活物質層を切削しながら切削深さ別の剪断強度を測定する一例が単純化されて示されている。
【0038】
図1に示すように、前記活物質層の切削深さ別の剪断強度を測定することにおいては、SAICAS装備に備えられたマイクロブレードを用いて、一定の剪断角度(φ)を与えて活物質層を一定の切削速度で切削することができる。このような切削を行いながら、一定の切削速度を維持するために前記マイクロブレードに印加される水平力(Fh)および垂直力(Fv)をそれぞれ測定する一方で、このような測定結果から前記式1により切削深さ別の剪断強度(τ)を算出することができる。
【0039】
このような算出結果から、例えば、図2のような形態で切削深さ別の剪断強度の関係を導き出すことができ、このような測定を複数回、例えば、3~5回繰り返して、前記切削深さ別の平均剪断強度を導き出すことができる。
【0040】
発明者らの実験を重ねた結果、切削深さが10μm以下である区間では、切削前の押されおよび切削抵抗が発生することにより、データの信頼性が落ちることが確認された。また、発明者は実験を重ねた結果、活物質層の中央部、すなわち、10~40μmの厚さ(切削深さ)区間で導き出された平均剪断強度値が高いほど活物質層の金属集電体に対する剥離抵抗性および接着性が最も優れることを確認した。
【0041】
したがって、前記10~40μmの厚さ(切削深さ)区間で導き出された平均剪断強度値が高い活物質層を含む一実施形態の負極は金属集電体および活物質層の間の接着性と、剥離抵抗性に優れ、リチウム二次電池の寿命特性を大きく向上させることができる。ただし、前記平均剪断強度値が過度に高い場合、これは圧延工程が過度に進行されることを示すものとして、活物質層自体の電気化学的性質が低下し得、接着性の追加的な向上効果も実質的に観察されないことが確認された。
【0042】
一方、上述した平均剪断強度の具体的な測定方法は「2019年韓国自動車工学会光州湖南支会春季学術大会、高分子薄膜のSAICAS測定法」などにも記載されており、Daipla社などによって商品化された一般的なSAICAS装備を用いて測定することができる。
【0043】
以上のように、一実施形態の負極は所定の切削深さ別の平均剪断強度の範囲を満たす活物質層を含むことにより、前記活物質層が金属集電体に対する優れた接着性および剥離抵抗性を示すことができる。
【0044】
例えば、前記活物質層は前記金属集電体上に30gf/20mm~50gf/20mm、あるいは31gf/20mm~40gf/20mmの接着力で付着して長期間優れた電気化学的性質を維持することができ、リチウム二次電池の優れた長期寿命特性を担保することができる。
【0045】
上述した一実施形態の負極は所定の圧延条件を含む製造方法により製造されることができる。そのため、発明の他の実施形態によれば、負極活物質、バインダ、導電材および溶媒を含むスラリー組成物を金属集電体上に塗布する段階;および
前記スラリー組成物を1次および2次にわたって圧延する段階を含み、
下記式2で定義される圧延率をそれぞれ算出した時、1次圧延率/2次圧延率が5以上になるように前記1次および2次圧延を行う前記二次電池用負極の製造方法が提供される:
[式2]
圧延率(%)=[圧延後のスラリー組成物の厚さ減少量(μm)/圧延前のスラリー組成物の厚さ(μm)]*100
【0046】
前記発明の他の実施形態によれば、活物質層を形成するためのスラリー組成物を金属集電体に塗布した後、圧延工程を1次および2次を含む複数回で行うが、前記式2で定義される1次および2次の圧延率の範囲が5以上、あるいは5~30あるいは5~25の範囲になるように複数回の圧延工程を行って二次電池用負極を形成する。
【0047】
このような条件下に複数回の圧延工程を行うことにより、負極活物質および導電材が損傷することを抑制して優れた電気化学的性質を維持できながらも、活物質層が緻密化されて一実施形態の平均剪断強度の範囲およびそれに伴う優れた接着性と、剥離抵抗性を示す活物質層と、負極が製造されることが確認された。ただし、前記1次および2次の圧延率の範囲が過度に小さい場合、一実施形態の負極による優れた接着性などが十分に達成することができず、逆に前記1次および2次の圧延率の範囲が過度に大きくなる場合、負極活物質などが損傷して負極の電気化学的性質が低下し得る。
【0048】
一方、前記他の実施形態の製造方法では、先に、上述した負極活物質、導電材およびバインダと、これらを分散させるための溶媒を混合してスラリー組成物を形成する。この時、前記負極活物質、導電材およびバインダの種類については既に上述したとおりであり、これらの含有量の範囲も最終形成された活物質層に含まれる各成分の含有量の範囲について上述したとおりであるため、これに関する追加的な説明は省略する。
【0049】
また、前記溶媒としては、以前から負極スラリー組成物を使用するために使用されていた一般的な溶媒、例えば、N-メチルピロリドン、アセトン、水などを使用することができ、前記スラリー組成物はこのような溶媒を固形分濃度が30~70重量%、あるいは40~60重量%になるように混合および攪拌して形成することができる。
【0050】
このようなスラリー組成物を形成した後には、一般的なコート方法により前記スラリー組成物を負極集電体に塗布することができる。このようなコート方法は特に限定されず、例えば、スロットダイを用いたコート法を適用するか、その他メーヤバーコート法、グラビアコート法、浸漬コート法、または噴霧コート法などを特に制限なくすべて適用することができる。
【0051】
また、前記スラリー組成物は最終形成される活物質層の厚さ、例えば、50~400μm、あるいは100~300μmの厚さ範囲と、上述した1次および2次の圧延率の範囲を考慮して、100~500μm、あるいは150~400μmの厚さで金属集電体上に塗布することができる。
【0052】
このような塗布工程後には、例えば、ロールプレス(roll pressing)などの圧延装置を用いて、前記スラリー組成物に対して1次および2次圧延工程を含む複数回の圧延工程を行う。特に、他の実施形態の製造方法では、前記式2のように、圧延工程前の初期厚さに対する圧延工程後の厚さ減少量の比率で定義される圧延率を1次および2次圧延工程に対してそれぞれ算出した時、1次圧延率/2次圧延率が5以上、あるいは5以上、あるいは5~30あるいは5~25の範囲を満たすように前記1次および2次圧延工程を行う。
【0053】
このような1次および2次の圧延率比率を達成するために、1次および2次圧延工程でスラリー組成物に印加される圧力を制御することができ、例えば、前記1次圧延率は20~40%、あるいは22~35%、あるいは25~30%であり、前記2次圧延率は0.5~6%、あるいは0.7~5.5%、あるいは0.9~5.2%になるようにそれぞれの圧延工程を行うことができる。
【0054】
このような1次および2次の圧延率を達成するために、例えば、1次圧延工程では0.5~50MPa、あるいは1~20MPaの圧力をスラリー組成物に印加することができる。また、前記1次および2次圧延工程の圧延率の範囲を考慮して、2次圧延工程では、1次圧延工程より減少した比率、例えば、前記1次圧延工程で印加された圧力の1/3以下、あるいは1/5以下の圧力で圧力を印加することができる。ただし、このような各圧延工程の印加圧力の範囲は各スラリー組成物の組成や、圧延装置の特性などを考慮して異なるように制御されることができ、これは当業者にとって自明に調節されることができる。
【0055】
また、前記1次および2次圧延工程を含む複数回の圧延工程は15~30℃の温度で行われることができる。
【0056】
上述した圧延工程を行った後には、前記スラリー組成物を乾燥して溶媒を除去する段階をさらに行うことができ、このような乾燥工程は、例えば、赤外線乾燥装置などを適用した一般的な方法で行うことができる。
【0057】
上述した方法で製造された二次電池用負極は、活物質層が金属集電体に対して優れた接着性および剥離抵抗性を示すことができ、その結果、それを含むリチウム二次電池が大きく向上した寿命特性を示すことができる。
【0058】
一方、発明のまた他の実施形態によれば、上述した二次電池用負極を含むリチウム二次電池が提供される。このようなリチウム二次電池は正極、上述したような負極、およびその間に介在するセパレータを含む電極組立体にリチウム塩含有電解質を注入して製造および提供されることができる。
【0059】
前記正極は正極活物質、導電材、バインダおよび溶媒を混合してスラリー組成物を製造した後それを金属集電体に直接コートするか、別途の支持体上にキャスティングしてこの支持体から剥離させた正極活物質フィルムを金属集電体にラミネーションして正極を製造することができる。
【0060】
正極に使用される活物質としてはLiCoO、LiNiO、LiMn、LiCoPO、LiFePOおよびLiNi1-x-y-zCoM1M2(M1およびM2は互いに独立してAl、Ni、Co、Fe、Mn、V、Cr、Ti、W、Ta、MgおよびMoからなる群より選ばれたいずれか一つであり、×、yおよびzは互いに独立して酸化物組成元素の原子分率として0≦x<0.5,0≦y<0.5,0≦z<0.5,0<x+y+z≦1である)からなる群より選ばれたいずれか一つの活物質粒子またはこれらのうち2種以上の混合物を含むことができる。
【0061】
一方、導電材、バインダおよび溶媒は前記負極製造時に使用されたものと同一に使用することができる。
【0062】
前記セパレータは従来のセパレータとして用いられる通常の多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルムを単独またはこれらを積層して使用することができる。また、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が使用することができる。前記セパレータはセパレータの表面にセラミック物質が薄くコートされた安定性強化セパレータ(SRS,safety reinforced separator)を含むことができる。その他にも通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を使用することができるが、これに制限されるものではない。
【0063】
前記電解質はリチウム塩およびこれを溶解させるための有機溶媒を含むことができる。
【0064】
前記リチウム塩は二次電池用電解質に通常使用されるものであれば、制限なく使用することができ、例えば、前記リチウム塩の陰イオンとしてはF、Cl、I、NO 、N(CN) 、BF 、ClO 、PF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF 、(CFPF、(CF、CFSO 、CFCFSO 、(CFSO、(FSO、CFCF(CFCO、(CFSOCH、(SF、(CFSO、CF(CFSO 、CFCO 、CHCO 、SCNおよび(CFCFSOからなる群より選ばれる1種を使用することができる。
【0065】
前記電解質に含まれる有機溶媒としては通常使用されるものであれば制限なく使用することができ、代表的にプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ビニレンカーボネート、スルホラン、ガンマ-ブチロラクトン、プロピレンサルファイトおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる1種以上を使用することができる。
【0066】
特に、前記カーボネート系有機溶媒のうち環状カーボネートであるエチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートは高粘度の有機溶媒として誘電率が高くて電解質内のリチウム塩をよく解離させるので好ましく使用することができ、このような環状カーボネートにジメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートのような低粘度、低誘電率線状カーボネートを適当な比率で混合して使用すると高い電気伝導率を有する電解質を作ることができるためより好ましく使用することができる。
【0067】
選択的に、前記電解質は通常の電解質に含まれる過充電防止剤などのような添加剤をさらに含むこともできる。
【0068】
前記リチウム二次電池は正極と負極の間にセパレータを配置して電極組立体を形成し、前記電極組立体を例えば、パウチ、円筒型電池ケースまたは角型電池ケースに入れた後に、電解質を注入して製造することができる。または、前記電極組立体を積層した後、これを電解質に含浸させ、得られた結果物を電池ケースに入れて密封するとリチウム二次電池が完成されることができる。
【0069】
前記リチウム二次電池はスタック型、巻き取り型、スタック・アンド・フォールディング型またはケーブル型であり得る。
【0070】
上述したリチウム二次電池は小型デバイスの電源として使用される電池セルに使用できるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても好ましく使用することができる。前記中大型デバイスの好ましい例としては電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電力貯蔵用システムなどが挙げられ、特に高出力が求められる領域であるハイブリッド電気自動車および新再生エネルギ貯蔵用バッテリなどに有用に使用することができる。
【0071】
以下、発明の理解を深めるために好ましい実施例が提示される。しかし、下記の実施例は発明を例示するためのものであり、発明はこれらに限定するものではない。
【0072】
実施例1~3(サンプル番号:2~4)および比較例1~5(サンプル番号:1および5~8):二次電池用負極の製造
黒鉛系活物質(QCG-X2;黒鉛)、負極導電材としてカーボンブラック(Super C65)、増粘剤(Daicel2200:カルボキシメチルセルロース(CMC))およびバインダ(ADB22D;スチレンブタジエンゴム(SBR)系高分子)を96.5:0.5:1.1:2.8の比率で85分間混合した後、スラリー形成用溶媒(水)に添加して固形分濃度55.5重量%の負極スラリー組成物を形成した。
【0073】
負極集電体として銅集電体(厚さ8μm、幅260mm)を使用し、その一面に前記負極スラリー組成物を15mg/cmのローディング量でコート(コートした後の厚さ300μm)した。
【0074】
このように、銅集電体上に塗布されたスラリー組成物に対して、下記表1に整理された条件下に、常温でロールプレス装備を用いて、1次および2次圧延工程をそれぞれ行った(比較例1は1次圧延工程のみを行う)。参考までに、スラリー組成物の初期コートの厚さ、1次および2次の圧延工程進行後のスラリー組成物の厚さ、そして、式2により算出された各圧延率の範囲を表1に共に示した。
【0075】
このような圧延工程以後に、50~100℃で15~100分間蒸発量605g/分の速度で中赤外線乾燥を行って、実施例1~3(サンプル番号:2~4)および比較例1~5(サンプル番号:1および5~8)の負極を製造した。
【0076】
【表1】
【0077】
試験例1:切削深さ別の剪断強度および平均剪断強度の導出
前記製造された実施例および比較例の負極で、活物質層の切削深さ別の剪断強度および平均剪断強度は次の方法で測定および算出した。
【0078】
先に、SAICAS(Daipla社、日本)装備を用いた。このようなSAICAS装備のサンプルステージの上に各負極サンプルを位置させた。その後、1mmの幅を有するMicro-blade edgeを活物質層の表面に逃げ角10°および切削角20°で接触させた状態で、一定の垂直(0.05μm/sec)および水平速度(0.5μm/sec)でmicro-bladeを移動させながら、前記活物質層を切削した。この時、逃げ角および切削角の定義は「2019年韓国自動車工学会光州湖南支会春季学術大会、高分子薄膜のSAICAS測定法」などにより公知されており、切削過程中の剪断角度φは上記文献により公知されたように、前記逃げ角および切削角などから算出することができる。
【0079】
このような切削を行いながら、前記切削のための水平および垂直速度を一定に維持するために、micro-bladeに印加される垂直力(F)および水平力(F)をそれぞれ測定した。
【0080】
このような垂直力および水平力の測定結果から、下記式1により、切削深さ別の剪断強度を算出した。
[式1]
【数3】
【0081】
前記式1において、τsは切削深さ別の剪断強度を示し、bは前記マイクロブレードの幅を示し、t0は切削深さを示し、φは剪断角度を示し、
FhおよびFvはそれぞれ前記一定の切削速度を維持するために、マイクロブレードにそれぞれ印加される水平力および垂直力の測定値を示す。
【0082】
このような切削深さ別の剪断強度の測定および算出は各サンプルに対して3回繰り返し行い、このような算出結果を図2に示した。参考までに、図2には各実施例および比較例の負極が表1および2のサンプル番号別に整理されている。
【0083】
このような切削深さ別の剪断強度の算出結果から、データの定量性および活物質層の接着性との関連性が落ちる切削深さ(厚さ)の領域を除いて、10~40μmの切削深さに対して測定および算出された剪断強度の平均値を取って、各実施例および比較例に対する活物質層の剪断強度の平均値を算出して、下記表2に整理して示した。
【0084】
【表2】
【0085】
前記表2を参照すると、1次圧延率/2次圧延率の範囲が5以上、あるいは5~30で1次および2次圧延工程が行われた実施例1~3で1.6MPa以上の剪断強度の平均値がはじめて達成されることが確認された。
【0086】
試験例2:活物質層の接着力測定
前記製造された実施例および比較例の負極で、活物質層と、金属集電体の接着力を次の方法で測定した。
【0087】
先に、各負極サンプルを所定の大きさ(20mm×100mm)に切断してslide glassに固定させた後、銅集電体から負極活物質層に対する180°接着力を測定した。各サンプル別に3回の接着力を測定して平均値を算出した。このように算出された接着力を下記表3に整理して示した。
【0088】
【表3】
【0089】
前記表3を参照すると、実施例の活物質層は比較例に比べて銅集電体に対して優れた接着性を示すことが確認された。これにより外力による活物質層の破断抵抗性および機械的耐久性が増加して、活物質層/金属集電体の界面への外力伝達が減少し、活物質層の剥離抵抗性が増加する効果が現れるものと見られる。
図1
図2