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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】炭化水素吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20240410BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240410BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240410BHJP
   C01B 39/20 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B01J20/18 D
F01N3/08 A
F01N3/10 A
C01B39/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019037368
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2019150822
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018037603
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中尾 圭太
(72)【発明者】
【氏名】三橋 亮
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-075327(JP,A)
【文献】特開平06-210164(JP,A)
【文献】特開平06-210163(JP,A)
【文献】特開2011-052150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00 - 20/28
B01J 20/30 - 20/34
B01D 53/92
C01B 39/20 - 39/54
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子定数が24.29Å以上24.51Å以下であり、なおかつ、二価の銅を含有し、前記銅の含有量が0.5重量%以上4.0重量%以下であるFAU型ゼオライト、を含む炭化水素吸着剤。
【請求項2】
前記FAU型ゼオライトの平均結晶径が0.45μm以上である請求項1に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項3】
前記FAU型ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比が1.25以上50.0以下である請求項1又は2に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項4】
アルカリ金属含有量が酸化物換算で1重量%以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項5】
前記FAU型ゼオライトが、800℃以上1000℃以下の還元雰囲気への暴露処理後に400℃以上600℃以下の酸化雰囲気で暴露処理された後の状態で測定されるH-TPR測定において、300℃以上500℃以下の温度にピークトップを有する水素消費ピークを有する請求項1乃至4のいずれか一項に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項6】
前記FAU型ゼオライトがESR測定において、スピン濃度が1.0×1019(spins/g)以上であり、磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合が0.25以上0.50以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素含有気体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車や船舶などの移動体に使用されている内燃機関から排出される排ガスは炭化水素を多く含み、内燃機関から排出される炭化水素は三元触媒により浄化される。ただし三元触媒が機能するためには200℃以上の温度環境が必要であるため、いわゆるコールドスタート時など、三元触媒が機能しない温度域では炭化水素吸着剤に炭化水素を吸着し、三元触媒が機能し始める温度域で吸着剤から炭化水素を放出し、これを三元触媒で分解・浄化している。
【0002】
自動車排ガスはエンジン運転状況により、排ガス温度は900℃以上に達する。また運転状況に応じて、排ガス組成は変化する。混合気体中の酸素と燃料混合物が過不足なく反応する時の空燃比(空気/燃料混合物)を理論空燃比という。実際の運転では、常に理論空燃比で燃焼しているわけではなく、理論空燃比を上回るリーンバーンと理論空燃比を下回るリッチバーンを負荷状況により使い分けている。リーンバーンは燃料混合物の完全燃焼よりも高い酸素濃度での燃焼であり、排ガスは3~15体積%の酸素を含有している。すなわち酸化雰囲気である。一方、リッチバーンは燃料過剰の燃焼であり、排ガスには未燃の炭化水素を含んでいるため還元雰囲気となる。そのため、炭化水素吸着剤には酸化・還元雰囲気における高い耐熱性が求められる。
【0003】
低温時の排ガスからの炭化水素を吸着浄化する方法として、SiO/Alモル比が50~2000であるモルデナイト、β型ゼオライト、ZSM-5などのゼオライトにPt、Pd及びRhからなる群から選ばれた少なくとも1種を含む排ガス浄化用吸着触媒(特許文献1)、Agを担持した分子篩(特許文献2)、Cu及びCuとCo,Ni,Cr,Fe,Mn,Ag,Au,Pt,Pd,Ru,Rh,Vからなる群から選ばれた少なくとも1種以上の金属でイオン交換したZSM-5ゼオライト(特許文献3)が提案されている。
【0004】
これらの吸着剤を用いた炭化水素の吸着除去方法は、いずれもが排ガス中に含まれる炭化水素をエンジン始動時の低温域で吸着剤に一旦吸着させて、且つ排ガス浄化触媒が作動する温度以上で吸着剤から脱離した炭化水素を触媒浄化するものであるが、従来の吸着剤では、何れも熱水雰囲気での耐久性、特に900℃程度の高温での耐久性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-213910号公報
【文献】特開平06-126165号公報
【文献】特開平06-210163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温高湿の還元雰囲気下への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、主として内燃機関の排ガスの炭化水素吸着に供する炭化水素吸着剤及びその特性について検討した。その結果、FAU構造のゼオライトの物性を制御することで高温高湿の還元雰囲気下への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤を見出した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 格子定数が24.29Å以上であり、なおかつ、銅を含有するFAU型ゼオライト、を含む炭化水素吸着剤。
[2] 前記FAU型ゼオライトの平均結晶径が0.45μm以上である上記[1]に記載の炭化水素吸着剤。
[3] 前記銅の含有量が0.5重量%以上4.0重量%以下である上記[1]又は[2]に記載の炭化水素吸着剤。
[4] アルカリ金属含有量が酸化物換算で1重量%以下である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の炭化水素吸着剤。
[5] 前記FAU型ゼオライトが、800℃以上1000℃以下の還元雰囲気への暴露処理後に400℃以上600℃以下の酸化雰囲気で暴露処理された後の状態で測定されるH-TPR測定において、300℃以上500℃以下の温度にピークトップを有する水素消費ピークを有する上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の炭化水素吸着剤。
[6] 前記FAU型ゼオライトがESR測定において、スピン濃度が1.0×1019(spins/g)以上であり、磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合が0.25以上0.50以下である上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の炭化水素吸着剤。
[7] 上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素含有気体の処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高温高湿の還元雰囲気下への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す炭化水素吸着剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】格子定数と還元耐久処理後の炭化水素吸着率の関係を示すグラフ
図2】SiO/Al比と還元耐久処理後の炭化水素吸着率の関係を示すグラフ
図3】銅含有量と還元耐久処理後の炭化水素吸着率の関係を示すグラフ
図4】実施例1のH-TPR測定結果
図5】比較例3のH-TPR測定結果
図6】実施例3のESR測定結果
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の炭化水素吸着剤の実施態様について説明する。
【0012】
本発明の実施態様において、炭化水素吸着剤はFAU型ゼオライトを含む。FAU型ゼオライトはFAU構造を有するゼオライトであり、FAU構造を有する結晶性アルミノシリケートであることが好ましい。FAU構造は、国際ゼオライト学会で「FAU」として定義された構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)である。当該構造はCollection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition(2007)に記載の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンによって確認することができる。
【0013】
FAU型ゼオライトの結晶構造は酸素4員環及び酸素6員環からなるソーダライトケージ、並びに、二重酸素6員環(以下、「D6R」ともいう。)の構造ユニットからなり、これらの構造ユニットが三次元的に結合して形成された酸素12員環からなる細孔(以下、「酸素12員環細孔」ともいう。)を有する。酸素12員環細孔を有することにより、FAU型ゼオライトは芳香族炭化水素などの嵩高い炭化水素であっても吸着できる。また銅と、構造ユニットを構成するアルミニウムとは強く相互作用する。FAU型ゼオライトにおいては、D6Rを構成するアルミニウムと銅とが特に強く相互作用する。これにより、銅を分散性の高い状態でゼオライト中、主として結晶構造中、に保持し、FAU型ゼオライトの炭化水素吸着特性が低下しにくくなる。
【0014】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトは、格子定数が24.29Å以上であり、24.30Å以上であることが好ましい。格子定数が24.29Å未満であるFAU型ゼオライトは、その結晶構造にD6Rを含んでいるにも関わらず、結晶構造の骨格を構成するアルミニウムと銅との相互作用が弱い。その結果、高温高湿の還元雰囲気下への暴露による銅の凝集が進行しやすい。その結果、高温高湿の還元雰囲気下への暴露後、炭化水素吸着特性が著しく低下する。FAU構造の耐熱安定性を向上させる観点から、格子定数は24.55Å以下であることが好ましく、24.51Å以下であることがより好ましく、24.50Å以下であることが更に好ましく、24.48Å以下であることが特に好ましい。実施態様のひとつとして、格子定数は24.40Å以上24.50Å以下であることが好ましく、24.45Å以上24.50Å以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明の実施態様において、格子定数は、ASTM D3942-80に準拠したFAU型ゼオライトの格子定数の測定方法により求まる値である。
【0016】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトは上述の格子定数を有していれば、そのアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO/Al比」ともいう。)は任意である。一般的に、ゼオライトのSiO/Al比と格子定数とは直接的な相関関係を有する。これに対し、本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトのSiO/Al比と格子定数とは直接的な相関を有さない。本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトのSiO/Al比として1.25以上50.0以下を挙げることができ、3.0以上30.0以下であることが好ましい。特に好ましいSiO/Al比として3.0以上25.0以下が挙げられ、4.0以上12.0以下であることが好ましく、4.5以上9.5以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトは銅を含有する。銅を含有するFAU型ゼオライト(以下、「銅含有FAU型ゼオライト」ともいう。)と比べ、銅を含有しないFAU型ゼオライトは炭化水素の保持力が著しく低い。銅を含有しないFAU型ゼオライトに吸着された殆どの炭化水素は、容易にFAU型ゼライトから再放出される。FAU型ゼオライトが銅を含有することで炭化水素とFAU型ゼオライトの相互作用がより強くなり、吸着した炭化水素がFAU型ゼオライトから再放出されにくくなる。
【0018】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトに含有される銅の状態は、二価の銅(Cu2+)であることが好ましく、分散性の高い二価の銅(以下、「分散銅」ともいう。)であることがより好ましい。分散銅としてCu2+イオン又はCuOクラスターの少なくともいずれかが挙げられ、Cu2+イオンであることが好ましい。
【0019】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトが含有する銅の状態はH-TPR測定における、銅の還元に伴う水素消費ピークにより確認できる。H-TPR測定において、二価の銅は200℃を超え500℃以下の温度にピークトップを有する水素消費ピーク(以下、「二価銅ピーク」ともいう。)として確認される。さらに、Cu2+イオンなどの分散銅は300℃以上500℃以下の温度にピークトップを有する水素消費ピーク(以下、「分散銅ピーク」ともいう。)として確認され、酸化銅(CuO)などの分散性が低く凝集した二価の銅(以下、「凝集銅」ともいう。)は200℃を超え300℃未満の温度にピークトップを有する水素消費ピーク(以下、「凝集銅ピーク」ともいう。)として確認される。さらに、一価の銅は500℃を超える温度にピークトップを有する水熱消費ピークとして確認される。
【0020】
本発明の実施態様におけるH-TPR測定の条件として以下の条件を挙げることができる。
【0021】
測定雰囲気 : 水素5体積%含有ヘリウム雰囲気
流量 : 30mL/分
昇温速度 : 10℃/分
測定温度 : 50~700℃
サンプル量 : 0.3g
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトは、高温の還元雰囲気下へ暴露された後に、高温の酸化雰囲気へ暴露された場合であっても、分散銅を有することが好ましく、800℃以上1000℃以下の還元雰囲気への暴露処理後に400℃以上600℃以下の酸化雰囲気で暴露処理した後の状態で測定されるH-TPR測定において、分散銅ピークを有することがより好ましい。特に、FAU型ゼオライトは、以下の条件による、高温の還元雰囲気への暴露処理(以下、「高温還元処理」ともいう。)、次いで高温の酸化雰囲気への暴露処理(以下、「高温酸化処理」ともいう。)を経た後のH-TPR測定において、分散銅ピークを有することが好ましい。
【0022】
高温還元処理 :処理雰囲気 5体積%水素含有ヘリウム流通雰囲気
流量 30~100mL/分
処理温度 850℃以上950℃以下
処理時間 10分以上1時間以下
サンプル量 0.2~0.4g
高温酸化処理 :処理雰囲気 大気雰囲気
処理温度 450℃以上550℃以下
処理時間 30分以上2時間以下
サンプル量 0.2~0.4g
高温還元処理及び高温酸化処理後の分散銅ピークの存在は、これらの高温処理後も、銅が高度に分散した状態でFAU型ゼオライトに含有されていることを確認する指標となる。
【0023】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトが含有する銅の状態はESRスペクトルからも確認することができる。例えば、ESRスペクトルの測定方法として以下の条件を挙げることができる
マイクロ波周波数:9.2~9.5GHz
観測範囲 :0~1000mT
掃引磁場幅 :±500mT
磁場変調 :90~110kHz
レスポンス :0.05~0.5sec.
磁場掃引時間 :1~10min.
マイクロ波出力 :0.1~5mW
前処理温度 :300~500℃
前処理時間 :30分~5時間
ESRスペクトルの二回積分強度(以下、「スピン濃度」ともいう。)は試料中に存在する孤立した二価銅濃度に比例する。スピン濃度が高いことは高分散な二価銅を多く含んでいることを意味し、HCの吸着サイトが増えることで、吸着量が増加する。
【0024】
また多くの二価銅を含んでいるとき、磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合が特定の範囲にある場合は耐熱性が特に高くなりやすい。磁場260mT以上270mT以下のピークと、磁場300mT以上320mT以下のピークとは、それぞれ、D6Rと相互作用している分散銅と、分散銅種全体と、を反映している。そのため、磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合は、分散銅種全体に対するD6Rと相互作用している分散銅の存在割合の指標となる。
【0025】
好ましいスピン濃度は1.0×1019(spins/g)以上であり、より好ましくは1.5×1019(spins/g)以上、更に好ましくは2.0×1019(spins/g)以上である。
【0026】
好ましい磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合は0.25以上0.50以下、より好ましくは0.30以上0.45以下、更に好ましくは0.30以上0.40以下である。
【0027】
FAU型ゼオライトの銅含有量は、0.5重量%以上4.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以上3.0重量%以下であることがより好ましい。特定の実施態様においては、FAU型ゼオライトの銅含有量は1.5重量%以上2.8重量%以下であることが好ましい。また、別の実施態様においては、FAU型ゼオライトの銅含有量は1.0重量%以上2.8重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以上1.8重量%以下であることがより好ましい。
【0028】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトの銅含有量は、FAU型ゼオライトに含有される金属を酸化物換算した重量に対する、銅の重量割合である。例えば、銅(Cu)及びアルカリ金属(M)を含有するFAU型ゼオライトの銅含有量は以下の式から求めることができる。
【0029】
銅含有量(重量%)=W’Cu/(WAl+WSi+W+WCu)×100
上式において、W’Cuは銅(Cu)の含有量である。WAl、WSi、WNa及びWCuは、それぞれ、アルミニウム(Al)を酸化物換算(Al)した重量、WSiはケイ素(Si)を酸化物換算(SiO)した重量、Wはアルカリ金属(M)を酸化物換算(MO)した重量、及び、WCuは銅を酸化物換算(CuO)した重量である。
【0030】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトはアルカリ金属を含有してもよく(すなわち、アルカリ金属含有量が0重量%を超えていてもよく)、アルカリ金属含有量が1.0重量%以下であることが好ましい。これにより、本発明の実施態様の炭化水素吸着剤は、高温高湿の酸化雰囲気への暴露後であっても、高い炭化水素吸着特性を示す傾向がある。アルカリ金属含有量は0重量%以上0.5重量%以下であることが好ましく、0重量%以上0.3重量%以下であることがより好ましく、0重量%以上0.25重量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトが含有するアルカリ金属はカリウム(K)又はナトリウム(Na)の少なくともいずれかであることが挙げられ、特にアルカリ金属がナトリウムであることが挙げられる。
【0032】
本発明の実施態様において、アルカリ金属含有量は、FAU型ゼオライトの重量に対するアルカリ金属を酸化物換算した重量の割合である。カリウム及びナトリウムの酸化物換算は、それぞれ、酸化カリウム(KO)及び酸化ナトリウム(NaO)である。
【0033】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトは平均結晶径が0.1μm以上であることが挙げられ、0.3μm以上であることが好ましい。還元雰囲気のみならず高温高湿の酸化雰囲気への暴露後における炭化水素吸着特性が高くなる傾向があるため、FAU型ゼオライトの平均結晶径は0.4μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましい。
【0034】
吸着剤担体への塗布性などの操作性を改善する観点からFAU型ゼオライトの平均結晶径は2.5μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましい。還元雰囲気と酸化雰囲気の何れの高温高湿雰囲気への暴露後においても高い炭化水素吸着特性を示すため、FAU型ゼオライトは、上述の格子定数を有し、なおかつ、FAU型ゼオライトの平均結晶径が0.4μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.6μm以上0.9μm以下であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の実施態様において、平均結晶径は一次粒子の平均粒子径である。一次粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察により得られたSEM観察像で確認された一次粒子の粒子径であり、平均結晶径は当該一次粒子の粒子径の平均値である。平均結晶径の測定方法として、3,000倍~20,000倍の倍率で観察された一次粒子80個~150個を無作為に抽出し、当該一次粒子の粒子径を計測し、その平均値を平均結晶径とする方法が挙げられる。粒子径を計測する一次粒子の抽出にあたり、SEM観察像は1以上であればよい。
【0036】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトの一次粒子は倍率3,000~20,000倍のSEM観察において独立した粒子として観察される粒子である。
【0037】
本発明の実施態様において、FAU型ゼオライトはBET比表面積が500m/g以上900m/g以下であることが好ましく、600m/g以上800m/g以下であることがより好ましい。
【0038】
本発明の実施態様において、炭化水素吸着剤は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤として、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロェン及びセピオライトの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0039】
本発明の実施態様において、炭化水素吸着剤は炭化水素の吸着方法に使用でき、炭化水素吸着剤が高温に暴露される環境下における炭化水素の吸着方法に使用することが好ましく、内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することがより好ましく、移動体の内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着方法に使用することが更に好ましい。
【0040】
本発明の実施態様において、炭化水素吸着剤と炭化水素含有気体を接触させる工程(以下、「接触工程」ともいう。)、を有する方法により、炭化水素吸着剤を炭化水素の吸着方法に使用することができる。
【0041】
接触工程において、炭化水素吸着剤の形状は任意であり、粉末又は成形体の少なくともいずれかを挙げることができる。
【0042】
炭化水素吸着剤の形状が粉末である場合、炭化水素吸着剤含むスラリーを基材に塗布し、これを含む吸着部材として使用することができる。炭化水素吸着剤の形状が成形体である場合、例えば、転動造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形の群から選ばれる少なくとも1種、などの任意の成形方法で任意の形状として使用することができる。成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形状及び花弁状の群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0043】
炭化水素含有気体は炭化水素を含有する気体であり、該炭化水素は脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素の少なくともいずれかであればよく、炭素数6以上15以下の炭化水素であることが好ましく、芳香族炭化水素であることがより好ましく、ベンゼン、トルエン及びキシレンの群から選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
【0044】
炭化水素含有気体の炭化水素濃度は、メタン換算で0.001体積%以上5体積%以下であることが挙げられ、0.005体積%以上3体積%以下であることが好ましい。また、炭化水素含有気体は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び水の群から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0045】
接触工程において、炭化水素吸着剤と炭化水素含有気体とを接触させる条件は任意である。接触条件として以下の条件を例示することができる。
【0046】
空間速度 : 100hr-1以上500000hr-1以下
接触吸着 : -30℃以上~200℃以下
本発明の実施態様において、炭化水素吸着剤は格子定数が24.29Å以上のFAU型ゼオライトに銅が含有できる方法であれば、任意の方法で製造することができる。
【0047】
本発明の実施態様における炭化水素吸着剤の製造方法として、格子定数が24.29Å以上のFAU型ゼオライトと銅源とを接触させる工程(以下、「金属含有工程」ともいう。)、及び、該工程後のFAU型ゼオライトを焼成する工程(以下、「焼成工程」ともいう。)、を有する炭化水素吸着材の製造方法が挙げられる。
【0048】
金属含有工程において、銅源との接触によりFAU型ゼオライトの格子定数が変化する場合がある。そのため、金属含有工程に供するFAU型ゼオライトの格子定数は24.29Å以上24.60Å以下であることが好ましく、24.29Å以上24.57Å以下であることがより好ましい。
【0049】
銅源は銅(Cu)を含む化合物であり、銅の塩であることが好ましく、銅を含む硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物及び複合酸化物の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、硝酸銅、硫酸銅及び酢酸銅の群から選ばれる少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0050】
FAU型ゼオライトと銅源との接触方法は公知の方法を適用することができ、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法及び物理混合法の群から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、イオン交換法又は含侵担持法の少なくともいずれかであることが好ましく、含侵担持方法であることがより好ましい。
【0051】
FAU型ゼオライトと銅源との接触後、FAU型ゼオライトは任意の方法で洗浄及び乾燥してもよい。洗浄方法として十分量の水による洗浄が挙げられ、乾燥方法として空気中100℃~150℃以下で5時間~30時間以下処理することが挙げられる。
【0052】
焼成工程における焼成条件は任意であるが、以下の条件を挙げることができる。
【0053】
焼成雰囲気 : 酸化雰囲気、好ましくは空気中
焼成温度 : 400℃以上600℃以下
焼成時間 : 30分以上5時間以下
焼成工程は空気流通下で行うことが好ましく、流通させる空気は低含水率であることが好ましい。低含水率の空気中で焼成することで、銅と結晶構造の骨格を構成するアルミニウムとの相互作用が強くなる傾向があり、耐熱性が向上しやすくなる。流通させる空気の好ましい含水率としては0.7体積%以下、より好ましくは0.5体積%以下、更に好ましくは0.3体積%以下である。
【実施例
【0054】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、断りのない限り用いた試薬等は市販品を用いた。
【0055】
(平均結晶径)
一般的な走査型電子顕微鏡(装置名:JSM-6390LV型、日本電子社製)を使用し、以下の条件で試料を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」とする。)観察し、観察率5,000倍、及び、15,000倍で、それぞれ2視野、計4視野のSEM観察像を得た。得られたSEM観察像から、無作為に100個の一次粒子を抽出し、その水平フェレ径の平均値を求め、平均結晶径とした。
【0056】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定し、得られた各元素の測定値から組成を求めた。
(炭化水素吸着率の測定)
炭化水素吸着剤を加圧成形及び粉砕した後、凝集径20~30メッシュの凝集粒子とした。当該凝集粒子0.1g常圧固定床流通式反応管に充填し、窒素流通下、500℃で1時間処理した後、50℃まで降温することにより前処理した。前処理後の炭化水素吸着剤に炭化水素含有気体を流通させ、炭化水素吸着率を測定した。
【0057】
炭化水素含有気体の組成及び炭化水素吸着測定の条件を以下に示す。
【0058】
炭化水素含有気体 :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
酸素 1体積%
水 3体積%
窒素 残部
ガス流量 :200mL/分
昇温速度 :10℃/分
測定温度 :50~200℃
測定時間 :15分
水素イオン化検出器(FID)を使用し、炭化水素吸着剤を通過した後のガス中の炭化水素を連続的に定量分析した。常圧固定床流通式反応管の入口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「入口濃度」とする。)と、常圧固定床流通式反応管の出口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「出口濃度」とする。)を測定した。
【0059】
入口濃度の積分値に対する出口濃度(メタン換算濃度)の積分値の割合を炭化水素吸着率として求めた。
(還元水熱耐久処理)
前処理後の炭化水素吸着剤に以下の条件で処理ガスを流通させたこと以外は、(炭化水素吸着率の測定)と同様な方法で炭化水素吸着剤を処理し、還元水熱耐久処理とした。
【0060】
処理ガス :プロピレン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 10体積%
窒素 残部
ガス流量 :300mL/分
空間速度 :6000hr-1
処理温度 :900℃
処理時間 :2時間
(酸化水熱耐久処理)
前処理後の炭化水素吸着剤に以下の条件で処理ガスを流通させたこと以外は、(炭化水素吸着率の測定)と同様な方法で炭化水素吸着剤を処理し、酸化水熱耐久処理とした。
【0061】
処理ガス :水 10体積%
窒素 残部
ガス流量 :300mL/分
空間速度 :6000hr-1
処理温度 :900℃
処理時間 :2時間
実施例1
格子定数が24.53ÅであるFAU型ゼオライト10gと、硝酸銅水溶液4.58g(硝酸銅三水和物0.58g含有)と混合した後、空気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後のFAU型ゼオライトを含水率0.1体積%の空気流通中、550℃で2時間焼成することで銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0062】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.49Å、SiO/Al比が7.4、銅含有量が1.51重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.81μmであった。
【0063】
実施例2
格子定数が24.31ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0064】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.31Å、SiO/Al比が29.0、銅含有量が1.59重量%、ナトリウム含有量が0.12重量%、及び、平均結晶径が0.71μmであった。
【0065】
実施例3
格子定数が24.52ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量0.98g)4.98gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0066】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.48Å、SiO/Al比が7.1、銅含有量が2.62重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0067】
実施例4
格子定数が24.52ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量0.38g)4.38gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0068】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.47Å、SiO/Al比が7.1、銅含有量が1.02重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0069】
実施例5
硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量1.16g)5.16gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0070】
得られた銅含有ゼオライトは格子定数が24.49Å、SiO/Al比が7.4、銅含有量が2.99重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.81μmであった。
【0071】
実施例6
格子定数が24.48ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0072】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.43Å、SiO/Al比が6.1、銅含有量が1.56重量%、ナトリウム含有量が0.24重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0073】
実施例7
格子定数が24.48ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0074】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.46Å、SiO/Al比が5.4、銅含有量が1.59重量%、ナトリウム含有量が4.02重量%、及び、平均結晶径が0.36μmであった
実施例8
格子定数が24.37ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例1と同
様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0075】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.34Å、SiO/Al比が6.0、銅含有量が1.59重量%、ナトリウム含有量が0.30重量%、及び、平均結晶径が0.36μmであった。
【0076】
実施例9
格子定数が24.63ÅであるFAU型ゼオライトに50gに対して、20%塩化アンモニウム水溶液125gにてイオン交換、1Lの純水にて洗浄した後、110℃にて一晩乾燥させた。前記乾燥粉を60体積%水含有空気中、600℃で4時間、焼成した。前記焼成粉20gを1.6%塩酸100gに投入した後、60℃で1時間の加熱処理を行った。その後、1Lの純水で洗浄し、更に20%塩化アンモニウム600gにてイオン交換、1Lの純水にて洗浄し、24.55ÅのFAU型ゼオライトを得た。
【0077】
上記FAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例3と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0078】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.51Å、SiO/Al比が7.0、銅含有量が2.51重量%、ナトリウム含有量が0.29重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0079】
実施例10
格子定数が24.63ÅであるFAU型ゼオライトに50gに対して、10%塩化アンモニウム水溶液125gにてイオン交換、1Lの純水にて洗浄した後、110℃にて一晩乾燥させた。前記乾燥粉を60体積%水含有空気中、740℃で2時間、焼成した。前記焼成粉20gを1.6%塩酸100gに投入した後、60℃で1時間の加熱処理を行った後、1Lの純水で洗浄し、24.50ÅのFAU型ゼオライトを得た。
【0080】
上記FAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例3と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0081】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.48Å、SiO/Al比が6.1、銅含有量が2.47重量%、ナトリウム含有量が0.73重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0082】
参考例
格子定数が24.63ÅであるFAU型ゼオライトに50gに対して、10%塩化アンモニウム水溶液50gにてイオン交換、1Lの純水にて洗浄した後、110℃にて一晩乾燥させた。前記乾燥粉を60体積%水含有空気中、600℃で4時間、焼成した。前記焼成粉20gを1.6%塩酸100gに投入した後、60℃で1時間の加熱処理を行った。その後、1Lの純水で洗浄し、更に20%塩化アンモニウム600gにてイオン交換、1Lの純水にて洗浄し、24.60ÅのFAU型ゼオライトを得た。
【0083】
上記FAU型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量0.98g)4.98gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本参考例の炭化水素吸着剤とした。
【0084】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.52Å、SiO/Al比が7.1、銅含有量が2.50重量%、ナトリウム含有量が0.57重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0085】
実施例11
格子定数が24.52ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量2.00g)6.00gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0086】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.50Å、SiO/Al比が7.1、銅含有量が4.73重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.75μmであった。
【0087】
比較例1
格子定数が24.53ÅであるFAU型ゼオライトを本比較例の炭化水素吸着剤とした。得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.53Å、SiO/Al比が7.4、銅含有量が0重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.81μmであった。
【0088】
比較例2
格子定数が24.25ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0089】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.25Å、SiO/Al比が14.9、銅含有量が1.57重量%、ナトリウム含有量が検出限界以下、及び、平均結晶径が0.38μmであった。
【0090】
比較例3
格子定数が24.28ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0091】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.27Å、SiO/Al比が28.0、銅含有量が1.60重量%、ナトリウム含有量が0.10重量%、及び、平均結晶径が0.60μmであった。
【0092】
比較例4
MFI型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量0.58g)4.58gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有MFI型ゼオライトを得、これを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0093】
得られた銅含有MFI型ゼオライトはSiO/Al比が38、銅含有量が1.52重量%、及び、ナトリウム含有量が0.02重量%であった。
【0094】
比較例5
BEA型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量0.58g)4.58gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有BEA型ゼオライトを得、これを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0095】
得られた銅含有BEA型ゼオライトはSiO/Al比が40、銅含有量が1.47重量%、及び、ナトリウム含有量が0.04重量%であった。
【0096】
比較例6
MFI型ゼオライト15gを硝酸銀水溶液(硝酸銀濃度3.2重量%)135gに添加し、撹拌しながら60℃で一晩混合することでイオン交換した。イオン交換後のMFI型ゼオライトを濾過、洗浄、及び、空気中110℃で一晩乾燥することで銀含有MFI型ゼオライトを得、これを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0097】
得られた銀含有MFI型ゼオライトはSiO/Al比が38.0、及び、銀含有量が4.50重量%、及び、ナトリウム含有量が検出限界以下であった。
【0098】
比較例7
格子定数が24.26ÅであるFAU型ゼオライトを使用したこと、及び、硝酸銅水溶液(硝酸銅三水和物含有量0.98g)4.98gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で銅含有FAU型ゼオライトを得、これを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0099】
得られた銅含有FAU型ゼオライトは格子定数が24.26Å、SiO/Al比が103、銅含有量が2.53重量%、ナトリウム含有量が0.09重量%、及び、平均結晶径が0.77μmであった。
【0100】
測定例1
実施例1、実施例2、並びに、比較例1乃至3の炭化水素吸着剤を、それぞれ、還元水熱耐久処理した。還元水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。結果を下表に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例1及び比較例1より、銅を含有しない炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率が著しく低いことが確認できる。
【0103】
実施例1、2、比較例2及び3はいずれも同程度の銅を含有する。しかしながら、格子定数が24.29Å未満である比較例2及び3の炭化水素吸着剤と比べ、格子定数が24.31Å以上である実施例1及び2の炭化水素吸着剤は、顕著に高い炭化水素吸着率を示すことが確認できる。
【0104】
銅を含有する炭化水素吸着剤に関し、それぞれ、炭化水素吸着率と格子定数の関係を図1に、炭化水素吸着率とSiO/Al比の関係を図2に示した。図1より、格子定数が24.29Å以上で顕著に炭化水素吸着率が高くなっていることが確認できる。また、図2より、炭化水素吸着率とSiO/Al比との相関関係は確認できなかった。
【0105】
測定例2
実施例3乃至5、及び実施例11の炭化水素吸着剤を、それぞれ、還元水熱耐久処理した。還元水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。測定例1の実施例1の結果と合わせ、結果を下表及び図3に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
本測定例より、銅含有量が多くなるに伴って、還元水熱耐久処理後の炭化水素吸着率が高くなる傾向が確認できる。
【0108】
測定例3
実施例6乃至8の炭化水素吸着剤を、それぞれ、還元水熱耐久処理した。還元水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。測定例1の比較例3の結果と合わせ、結果を下表に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
本測定例より、平均結晶径が小さくなること、及び、ナトリウム含有量が多くなることで炭化水素吸着率が低下する傾向が確認できる。しかしながら、格子定数が24.29Å未満である比較例3の炭化水素吸着剤と比べ、いずれの実施例の炭化水素吸着剤であっても炭化水素吸着率が高くなることが確認できる。
【0111】
測定例4
比較例4乃至6の炭化水素吸着剤を、それぞれ、還元水熱耐久処理した。還元水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。測定例1の実施例4の結果と合わせ、結果を下表に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
金属含有量が少ないにもかかわらず、従来の炭化水素吸着剤として使用されているBEA型ゼオライト及びMFI型ゼオライトと比べ、実施例4の炭化水素吸着剤は顕著に高い炭化水素吸着率を示すことが確認できる。
【0114】
測定例5
実施例1、実施例2、実施例3、実施例6、実施例8、比較例3及び比較例6の炭化水素吸着剤を、それぞれ、酸化水熱耐久処理した。酸化水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。結果を下表に示す。
【0115】
【表5】
【0116】
本測定例より、銅を含有する炭化水素吸着剤に関し、格子定数が24.29Å未満である炭化水素吸着剤と比べ、格子定数が24.29Å以上である炭化水素吸着剤は酸化水熱耐久処理後の炭化水素吸着率が高くなることが確認できる。また、実施例8と比較例3より、格子定数が24.29Å以上の炭化水素吸着剤は平均結晶径が小さくとも、格子定数が24.29Å未満のFAU型ゼオライトより酸化水熱耐久処理後の炭化水素吸着率が高くなることが確認できた。
【0117】
さらに、従来の炭化水素吸着剤である比較例6と比べた場合であっても、実施例8の炭化水素吸着剤よりも平均結晶径が大きい炭化水素吸着剤は、酸化水熱耐久処理後の炭化水素吸着率が高いことが確認できる。
【0118】
測定例6
実施例9、実施例10、及び参考例の炭化水素吸着剤を、それぞれ、酸化水熱耐久処理した。酸化水熱耐久処理後の各炭化水素吸着剤の炭化水素吸着率を測定した。結果を下表に示す。
【0119】
【表6】
【0120】
本測定例における実施例9より、格子定数が24.51Å以下である炭化水素吸着剤は、酸化水熱耐久処理後の炭化水素吸着率が高くなることが確認できる。
【0121】
測定例7
実施例1及び比較例3の炭化水素吸着剤を、それぞれ、加圧成形及び粉砕した後、凝集径12~20メッシュの凝集粒子とした。当該凝集粒子を、それぞれ、0.3gを秤量し、高温還元処理した後、高温酸化処理した。高温還元処理及び高温酸化処理の条件は以下の通りである。
【0122】
高温還元処理 : 処理雰囲気 水素5体積%含有ヘリウム雰囲気
処理温度 900℃
処理時間 0.5時間
高温酸化処理 : 処理雰囲気 大気雰囲気
処理温度 500℃
処理時間 1時間
処理後の各炭化水素吸着剤を前処理した後、H-TPR測定した。前処理及びH-TPRの条件を以下に示し、実施例1の結果を図4に、比較例3の結果を図5に示す。
【0123】
前処理 : 雰囲気 ヘリウム雰囲気
処理温度 300℃
処理時間 0.5時間
-TPR : 雰囲気 水素5体積%含有空気
昇温速度 10℃/時間
測定温度 100℃~700℃
図4及び5より、高温還元処理及び高温酸化処理を経た後において、実施例1の炭化水素吸着剤は400℃付近にピークトップを有する水素消費ピークが確認できるのに対し、比較例3の炭化水素吸着剤は、300℃以上にピークトップを有する水素消費ピークが確認できなかった。
【0124】
測定例8
実施例1、実施例3、実施例5、実施例11、及び比較例7の炭化水素吸着剤について、以下の条件にてESR測定を行った。
【0125】
測定装置 :日本電子社製 JES-TE200
マイクロ波周波数:9.4GHz
観測範囲 :200~400mT
磁場変調 :100kHz
レスポンス :0.3sec.
磁場掃引時間 :4min.
マイクロ波出力 :1.0mW
サンプル(炭化水素吸着剤)は、それぞれ粉末10mgを直径5mmの石英管に充填し、400℃で5時間乾燥した後、封管した。
【0126】
ESR測定の結果得られた実施例3についてのESRスペクトルを図6に示した。
【0127】
スピン濃度は解析ソフトES-IPRITS DATA SYSTEM version 6.2にて、磁場220~380mTの範囲で二回積分することで求めた。
【0128】
得られたESRスペクトルから磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合を算出した。ここで、以下において、磁場260mT以上270mT以下のピークを「ピーク1」、磁場300mT以上320mT以下のピークを「ピーク2」、磁場260mT以上270mT以下のピーク強度の磁場300mT以上320mT以下のピーク強度に対する割合を「ピーク1/ピーク2強度比」ともいう。
【0129】
【表7】

【0130】
本測定例における実施例1、実施例3及び実施例5と実施例11及び比較例7の比較より、スピン濃度が1.0×1019(spins/g)以上、かつ、ピーク1/ピーク2強度比が0.25以上0.50以下のとき、酸化水熱耐久後の炭化水素吸着率が高い。

【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の炭化水素吸着剤は、高温高湿下に暴露される環境下における炭化水素の吸着方法に使用することができ、特に自動車排ガス等の内燃機関の排ガス中の炭化水素を吸着する方法に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6