(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20240410BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B29C45/14
B32B15/08 Z
(21)【出願番号】P 2020031142
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019137605
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博之
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025868(JP,A)
【文献】特開2013-035950(JP,A)
【文献】特開2002-301737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 - 45/84
B32B 1/00 - 43/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(1)工程~(3)工程を経ることを特徴とする金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法。
(1)工程;射出成形金型内の金属部材に対し、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出成形により直接一体化し、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とし、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の重量を測定する工程。
(2)工程;(1)工程により重量を測定済の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に浸透探傷試験用浸透液を接触し、該接合面に浸透探傷試験用浸透液を浸透し、その重量を測定する工程。
(3)工程;(2)工程で測定した重量より、重量増加率を算出し、該重量増加率が基準値内の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を選別・回収する際に、基準値を接合面積1平方センチメールあたり2ミリグラム以下とする工程。
【請求項2】
金属部材が、物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体
の製造方法。
【請求項3】
ポリアリーレンスルフィド樹脂部材が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対し、さらに、エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体及び無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種以上の変性エチレン系共重合体1~40重量部を含んでなるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体
の製造方法。
【請求項4】
前記(2)工程において、接合面に浸透探傷試験用浸透液を浸透する際に、1mmHg以下の減圧下又は0.1MPa以上の加圧下とし、その後、大気圧下でその重量を測定すること、を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法。
【請求項5】
前記(3)工程における重量増加率の基準値が、接合面積1平方センチメールあたり2ミリグラムであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法。
【請求項6】
前記(3)工程において、該重量増加率が基準値外の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体が発生した際に、(1)工程における射出成形条件であるポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥温度、ポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥時間、射出成形温度、射出成形金型温度、射出成形時間、射出成形金型保圧力、射出成形金型保圧時間、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体冷却時間のいずれか1種以上の成形条件を制御することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合面の特性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、耐衝撃性、軽量性、力学特性及び量産性に優れ、特に自動車や航空機などの輸送機器の部品用途に有用な金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との気密性にも優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体及び金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機などの輸送機器の部品を軽量化するため、金属の一部を樹脂に置き換える方法が検討されている。また、樹脂と金属を複合一体化する方法として、金型内に物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材をインサートし、樹脂を射出成形して直接一体化する方法(以下、射出インサート成形法と表記する場合がある)が、良量産性、少部品点数、低コスト、高設計自由度、低環境負荷の観点から注目されており、スマートフォン等の携帯電子機器の製造プロセスなどに提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【0003】
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPSと略記することもある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略記することもある。)は、優れた機械的特性、熱的特性、電気的特性、耐薬品性を有し、多くの電気・電子機器部材や自動車機器部材、その他OA機器部材等、幅広く使用されている。
【0004】
また、PASは溶融流動性に優れることから、物理的処理及び/又は化学処理を施した表面を有する金属部材との射出インサート成形法において、優れた接合強度を発現する。
【0005】
一方、浸透探傷試験は、材料の表面に開口している欠陥に毛細管現象を利用し液体を浸透させ、該欠陥に浸透した液体を現像することによって、欠陥の位置及び大きさを検出する方法として一般に適用されており、例えば、金属複合板の検査方法、金属溶接部の検査方法、金属同士の接合界面の検査方法として提案されている(例えば、特許文献4~6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5701414号公報
【文献】特許第5714193号公報
【文献】特許第4020957号公報
【文献】特許第3200296号公報
【文献】特開2001-141667号公報
【文献】特許第6346888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1~3に提案された射出インサート成形法により得られる金属部材-樹脂部材複合体においては、一定の接合強度や気密性を有するものを得ることが可能ではあるが、射出インサート成形では装置の動作不良や条件設定のミス、射出成形機シリンダ内での樹脂滞留時間の長短などにより金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との接合不良が発生し、接合面に空隙などの欠陥を生じる場合があり、個々の性能差のバラつきが発生し易く、安定的な製品とする際には課題のあるものであった。また、得られた複合体の接合面の接合状態や気密状態に関する情報を得るために、複合体の引張試験により接合強度を評価するといった破壊試験による検査が一般的であり、このような方法は製品の信頼性確認には採用することができない。その対処法として、抜き取りによる試験も採用されているが、歩留まりが低下し、量産性に乏しいといった課題が発生する。そこで、工業的な量産、品質管理を考慮した場合、複合体の接合面の接合状態、例えば欠陥発生状況が非破壊試験によって定量的に数値化された金属部材-樹脂部材複合体が望まれていた。
【0008】
また、特許文献4~6に提案された浸透探傷試験による検査については、金属同士の複合体に関するものであり、金属部材と樹脂部材との複合体といった異種部材の接合に関してはなんら検討のなされていないものであった。
【0009】
そこで、本発明は、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との力学特性、気密性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体及び接合強度に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を安定的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、浸透探傷試験用浸透液を接合面に浸透させた時の重量増加率がある一定の割合以下である金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体が、優れた気密性を有するものとなること、気密の信頼性に優れること、さらに耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れる部材、部品、製品等となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とを射出成形により直接一体化してなる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材の接合面に浸透探傷試験用浸透液を含む金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体であって、該浸透探傷試験用浸透液による金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の重量増加率が接合面積1平方センチメールあたり2ミリグラム以下であることを特徴とする金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体及び金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法に関するものである。
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体は、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とを射出成形により直接一体化してなる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体であり、その接合面に浸透探傷試験用浸透液を接触させることにより、該浸透探傷試験用浸透液を含むものであり、該浸透探傷試験用浸透液による重量増加率が接合面積1平方センチメールあたり2ミリグラム以下、特に好ましくは、重量増加率が接合面積1平方センチメールあたり1ミリグラム以下のものである。ここで、浸透探傷試験用浸透液による重量増加率が接合面積1平方センチメールあたり2ミリグラムを超える場合、接合面に空隙あるいは欠損が存在する可能性が高く、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体は、気密性、接合強度等に劣る等の不具合が見られるものとなる。
【0014】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を構成する金属部材としては、金属部材の範疇に属するものであればいかなる材質よりなる部材でもよく、その中でもポリアリーレンスルフィド樹脂部材との複合体とした際に各種用途への適用が可能となることから、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材、銅合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、鉄製部材、チタン製部材、チタン合金製部材、ステンレス製部材である金属部材が好ましく、とりわけ軽量化に優れる、アルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、マグネシウム製部材、マグネシウム合金製部材、チタン製部材、チタン合金製部材、銅製部材、銅合金製部材である金属部材が好ましく、より好ましくはアルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材である。また、該金属部材は、板に代表される展伸材であっても、ダイカストに代表される鋳造材であっても、鍛造材からなる金属部材であってもかまわない。
【0015】
該金属部材は、表面を物理的処理及び/又は化学処理した金属部材とすることが好ましく、該物理的処理及び/又は化学処理を施すことにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂部材と直接一体化した際に、浸透探傷試験用浸透液の浸透が抑制された気密性、接合強度等の優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体が得られるものとなる。そして、金属部材の表面を物理的処理及び/又は化学処理する方法としては如何なる方法を用いて物理的処理及び/又は化学処理を施すことも可能であり、物理的処理としては、例えば表面に微小固体粒子を接触又は衝突させる方法、また高エネルギー電磁線を照射する方法等を挙げることができ、より具体的にはサンドブラスト処理、液体ホーニング処理、レーザ加工処理等を挙げることができる。更に、サンドブラスト処理、液体ホーニング処理の際の研磨剤としては、例えばサンド、スチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、炭化ケイ素、金属スラグ、ガラスビーズ、プラスチックビーズ等を挙げることができる。また、レーザ加工処理としては、WO2007/072603号公報、特開平2015-142960号公報に提案の方法等をも挙げることができる。
【0016】
また、化学処理としては、例えば陽極酸化処理法、酸又はアルカリの水溶液で化学処理する方法、等を挙げることができる。そして、陽極酸化処理としては、例えば金属部材を陽極として電解液中で電化反応を行いその表面に酸化被膜を形成する方法であってもよく、メッキ等の分野において陽極酸化法として一般的に知られている方法を用いることができる。より具体的には、例えば1)一定の直流電圧をかけて電解を行う直流電解法、2)直流成分に交流成分を重畳した電圧をかけることにより電解を行うバイポーラ電解法、等を挙げることができる。陽極酸化法の具体的例示としては、WO2004/055248号公報等に提案の方法等を挙げることができる。また、酸又はアルカリの水溶液で化学処理する方法としては、例えば金属部材を酸又はアルカリの水溶液に浸せきし金属部材表面を化学処理する方法であってもよく、その際の酸又はアルカリの水溶液としては、例えばリン酸等のリン酸系化合物;クロム酸等のクロム酸系化合物;フッ化水素酸等のフッ化水素酸系化合物;硝酸等の硝酸系化合物;塩酸等の塩酸系化合物;硫酸等の硫酸系化合物;水酸化ナトリウム、アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液;トリアジンチオール水溶液、トリアジンチオール誘導体水溶液により化学処理する方法等を挙げることができ、より具体的例示としては、特開平10-096088号公報、特開平10-056263号公報、特開平04-032585号公報、特開平04-032583号公報、特開平02-298284号公報、WO2009/151099号公報、WO2011/104944号公報等に提案の方法、等を挙げることができる。
【0017】
該物理的処理及び/又は化学処理は、単独で処理しても両者を併用して処理しても良く、例えば、表面に物理的処理を施した後に化学処理を施した金属部材を用いて金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体としたものであっても良い。
【0018】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を構成するポリアリーレンスルフィド樹脂としては、一般にポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであればよく、該ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルフォン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ビフェニレンスルフィド単位からなる単独重合体又は共重合体を挙げることができ、該ポリアリーレンスルフィド樹脂の具体的例示としては、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフェニレンスルフィドケトン、ポリフェニレンスルフィドエーテル等が挙げられ、その中でも、特に耐熱性、強度特性に優れるポリアリーレンスルフィド樹脂部材となることから、ポリ(p-フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0019】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、接合強度、気密性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を効率良く得ることが可能となることから、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が50~2000ポイズのポリアリーレンスルフィド樹脂であることが好ましい。
【0020】
該ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法として知られている方法により製造することが可能であり、例えば極性溶媒中で硫化アルカリ金属塩、ポリハロ芳香族化合物を重合することにより得る事が可能である。その際の極性有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等を挙げる事ができ、硫化アルカリ金属塩としては、例えば硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化リチウムの無水物又は水和物を挙げる事ができる。また、硫化アルカリ金属塩としては、水硫化アルカリ金属塩とアルカリ金属水酸化物を反応させたものであってもよい。ポリハロ芳香族化合物としては、例えばp-ジクロロベンゼン、p-ジブロモベンゼン、p-ジヨードベンゼン、m-ジクロロベンゼン、m-ジブロモベンゼン、m-ジヨードベンゼン、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、4,4’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジクロロジビフェニル等を挙げる事ができる。
【0021】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、直鎖状のもの、重合時にトリハロ以上のポリハロゲン化合物を少量添加して若干の架橋又は分岐構造を導入したもの、ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子鎖の一部及び/又は末端を例えばカルボキシル基、カルボキシ金属塩、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基等の官能基により変性したもの、窒素などの非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものなどが挙げられ、さらにこれらポリアリーレンスルフィド樹脂の混合物であってもかまわない。また、該ポリアリーレンスルフィド樹脂は、酸洗浄、熱水洗浄あるいはアセトン、メチルアルコールなどの有機溶媒による洗浄処理を行うことによってナトリウム原子、ポリアリーレンスルフィド樹脂のオリゴマー、食塩、4-(N-メチル-クロロフェニルアミノ)ブタノエートのナトリウム塩などの不純物を低減させたものであってもよい。
【0022】
さらに、接合面の欠陥が少なく、耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とすることが可能となることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂部材は、変性エチレン系共重合体を配合してなるものが好ましい。該変性エチレン系共重合体としては、例えばエチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-酢酸ビニル共重合体,エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-α-オレフィン共重合体を挙げることが出来る。該変性エチレン系共重合体の配合量としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、1~40重量部であることが好ましい。
【0023】
ポリアリーレンスルフィド樹脂部材としては、特に強度、耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、さらにガラス繊維を配合してなるものが好ましい。該ガラス繊維としては、一般にガラス繊維と称すものであれば如何なるものを用いてもよい。該ガラス繊維の具体的例示としては、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、繊維断面のアスペクト比が2~4の扁平ガラス繊維からなるチョップドストランド、ミルドファイバー、ロービング等のガラス繊維;シラン繊維;アルミノ珪酸塩ガラス繊維;中空ガラス繊維;ノンホーローガラス繊維等が挙げられ、その中でもとりわけ接合面の欠陥が少なく、耐衝撃性に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、平均繊維径が6~14μmのチョップドストランド、ないしは、繊維断面のアスペクト比が2~4である扁平ガラス繊維からなるチョップドストランドであることが好ましい。これらのガラス繊維は2種以上を併用することも可能であり、必要によりエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物又はポリマーで、予め表面処理したものを用いてもよい。該ガラス繊維の配合量としては、とりわけ接合面の欠陥が少なく耐衝撃性に優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体となることから、ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部に対して、5~120重量部であることが好ましい。
【0024】
ポリアリーレンスルフィド樹脂部材は、さらに、例えば炭酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、マイカ、シリカ、タルク、クレイ、硫酸カルシウム、カオリン、ワラステナイト、ゼオライト、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化スズ、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、ガラスパウダー、ガラスバルーン、ガラスフレークが添加されたものであっても構わない。また、従来公知のタルク、カオリン、シリカなどの結晶核剤;ポリアルキレンオキサイドオリゴマー系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤;酸化防止剤;熱安定剤;滑剤;紫外線防止剤;発泡剤などの通常の添加剤を1種以上添加するものであってもよい。さらに、各種熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、シアン酸エステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアルキレンオキサイド等の1種以上を混合して使用してなるものであってもよい。
【0025】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に含まれる浸透探傷試験用浸透液としては、該浸透探傷試験用浸透液として知られているものであれば制限はなく、例えば市販の浸透液、インク、有機溶剤等を挙げることが出来、中でも、接合面以外に付着した該浸透液を目視で容易に除去できることから、染料ないしは顔料を含み赤色等に着色されたものである事が好ましく、その中でもとりわけ有機溶剤に溶けて接合面の空隙あるいは欠損に浸透しやすいことから染料を用いたものが好ましい。さらに、該浸透探傷試験用浸透液としては、浸透探傷試験前後の複合体の重量増加率を精度よく測定することが可能となることが比重の大きいものであることが好ましく、0.8以上の比重を有するものがより好ましく、比重0.9以上を有するものが特に好ましい。また、接合面の空隙あるいは欠損に浸透しやすく、かつ、接合面に滞留しやく重量増加率を精度よく測定できることから、室温で1~500mm2/secの動粘度を有する浸透探傷試験用浸透液である事が好ましい。該浸透探傷試験用浸透液の具体的例示として、(商品名)ミクロチェック浸透液((株)イチネンケミカルズ製)、(商品名)カラーチェックFP-S((株)タセト製)、(商品名)Xスタンパー染料系インキX-200(シャチハタ(株)製)などが挙げられる。
【0026】
そして、浸透探傷試験用浸透液による接触前後のそれぞれの複合体の重量の測定方法としては、例えば接触前後のそれぞれの複合体の重量を電子天秤や高精度計量センサー等で秤量する方法を挙げることができる。そして、重量増加率は、浸透探傷試験用浸透液による接触後の複合体の重量と接触前の複合体の重量の差を接合面積で除し、接合面積1平方センチメールあたりの重量増加率として得ることが出来る。
【0027】
なお、浸透探傷試験用浸透液を金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に接触させて、該浸透探傷試験用浸透液を接合面に浸透させる方法としては、例えば複合体の接合面に該浸透探傷用試験用浸透液を塗布する方法、該浸透探傷試験用浸透液を浸した容器に複合体の接合面を浸漬する方法などが挙げられる。そして、該浸透探傷試験用浸透液を複合体の接合面に接触させた後は、接合面の空隙あるいは欠損に存在した空気等の影響を除去するために減圧下又は加圧下とすることが好ましい。減圧下とする際には、例えば該浸透探傷試験用浸透液の付着した複合体をデシケータや真空缶等の容器に入れ減圧下、例えば1mmHg以下の減圧にする事が好ましく、とりわけ重量増加率を精度よく検出できることから0.5mmHg以下の減圧にすることが好ましい。複合体を減圧下で保持する時間としては3分以上が好ましく、とりわけ重量増加率を精度よく検出できることから、5分以上である事が好ましい。また、加圧下とする際には、例えば該浸透探傷試験用浸透液の付着した複合体を圧力容器等に入れ加圧下、例えば0.1MPa以上の加圧にする事が好ましく、とりわけ重量増加率を精度よく検出できることから0.5MPa以上の加圧にすることが好ましい。複合体を加圧下で保持する時間としては3分以上が好ましく、とりわけ重量増加率を精度よく検出できることから、5分以上である事が好ましい。
【0028】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の製造方法としては、如何なる方法を用いてもよく、中でも効率よく本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を製造することが可能となることから、少なくとも下記(1)工程~(3)工程を経る製造方法であることが好ましい。
(1)工程;射出成形金型内の金属部材に対し、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を射出成形により直接一体化し、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とし、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の重量を測定する工程。
(2)工程;(1)工程により重量を測定済の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に浸透探傷試験用浸透液を接触し、該接合面に浸透探傷試験用浸透液を浸透し、その重量の測定する工程。
(3)工程;(2)工程で測定した重量より、重量増加率を算出し、該重量増加率が基準値内の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を選別・回収する工程。
【0029】
上記(1)工程は、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とを直接一体化した金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体とし、その重量を測定する工程であり、金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とを射出成形により直接一体化することが可能であれば如何なる方法をも用いることができ、その中でも特に効率よく複合体を製造することが可能となることから射出インサート成形法により一体化することが好ましい。そして、該射出インサート成形法としては、例えば金型内に金属部材を装着し、該金属部材に溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂を充填し、ポリアリーレンスルフィド樹脂部材とし、該金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材とが直接一体化された複合体とする方法を挙げることができる。この際のポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融温度としては280~340℃を挙げることができ、インサート成形を行う際の成形機としては、とりわけ生産性に優れることから射出成形機を用いて射出インサート成形を行うことが好ましい。またとりわけ、浸透探傷試験用浸透液を接合面に浸透させた時の重量増加率の少ない金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を効率良く製造することが可能となることから、インサート成形を行う際の金型温度としては130℃以上が好ましく、保圧は1MPa以上であることが好ましい。
【0030】
また、射出成形の際のポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥温度、ポリアリーレンスルフィ樹脂乾燥時間、射出成形時間、射出成形金型保圧時間、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体冷却時間等の射出成形条件は適宜選択可能であり、射出成形金型保圧時間は1秒以上である事が好ましく、射出成形時間は0.3~5秒の間が好ましく、冷却時間は4秒以上である事が好ましい。
【0031】
そして、得られた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の重量の測定方法としては、上記した方法を挙げることが出来る。
【0032】
上記(2)工程は、(1)工程により重量を測定した金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の接合面に浸透探傷試験用浸透液を接触し、該接合面に浸透探傷試験用浸透液を浸透し、その重量を測定する工程である。その際の浸透方法及び重量の測定方法は上記した方法を挙げることが出来る。
【0033】
上記(3)工程は、上記(1)及び(2)工程で測定したそれぞれの重量より、浸透探傷試験用浸漬液による重量増加率を算出すると共に、該重量増加率が基準値内の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を選別・回収することにより、目的とする性能を有する金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を得る工程である。その際の重量増加率の算出方法としては上記した方法を挙げることが出来る。また、基準値としては、目的とする金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の性能により適宜選択が可能であり、特に気密性、接合強度等に優れる金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を得ることを目的とする際には、増加率の基準値を接合面積1平方センチメールあたり2ミリグラム以下とすることが好ましく、特に重量増加率が接合面積1平方センチメールあたり1ミリグラム以下とすることが好ましい。そして、該基準値内の重量増加率を有する金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を選別・回収することにより、優れた金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体のみを破壊による検査を経ることなく安定的に製造することが可能となる。
【0034】
そして、前記(3)工程において、該重量増加率が基準値外の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体が発生した際には、(1)工程における射出成形条件であるポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥温度、ポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥時間、射出成形温度、射出成形金型温度、射出成形時間、射出成形金型保圧力、射出成形金型保圧時間、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体冷却時間のいずれか1種以上の成形条件を制御することにより成形条件の最適化をはかる製造方法とすることが好ましい。この際の制御としては、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融流動性付与、溶融樹脂から発生するガスの接合面への巻き込み抑制、溶融樹脂が固化し収縮する前に成形品を取出そうとした際に発生する離型不良の抑制等の対処を行うことが好ましく、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融流動性付与の具体的例示としては、射出成形温度の上昇、射出成形金型温度の上昇、射出成形金型保圧力の上昇、射出成形金型保圧時間の延長等による対応を挙げることができ、溶融樹脂から発生するガスの接合面への巻き込み抑制の具体的例示としては、射出時間の延長、ポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥温度の上昇、ポリアリーレンスルフィド樹脂乾燥時間の延長による対応を挙げることができ、溶融ポリアリーレンスルフィド樹脂が固化し収縮する前に成形品を取出そうとした際に発生する離型不良の抑制の具体的例示としては、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体冷却時間の延長による対応を挙げることができる。
【0035】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体は、気密性に優れ、その気密の信頼性に優れ、さらに耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れる特性を併せ持つものであり、特にこれら特性、信頼性を必要とする自動車や航空機などの輸送機器の部品用途に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体は、接合面の気密性、さらには、耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れ、特に自動車や航空機などの輸送機器の部品用途に有用な信頼性の高い金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体を安定的に製造するものであり、その産業的価値は極めてたかいものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】;実施例で用いた気密性評価用の容器の概略図。
【符号の説明】
【0038】
1;金属部材。
2;金属部材。
3;ポリアリーレンスルフィド樹脂部材。
4;金属製蓋板。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例において用いた、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)、変性エチレン系共重合体(B)、ガラス繊維(C)を以下に示す。
【0041】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-1)と記す。):溶融粘度190ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-2)と記す。):溶融粘度400ポイズ。
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(以下、PPS(A-3)と記す。):溶融粘度80ポイズ。
【0042】
<変性エチレン系共重合体(B)>
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル-無水マレイン酸共重合体(B-1)(以下、変性エチレン系共重合体(B-1)と記す。):アルケマ(株)製、(商品名)ボンダインAX8390。
エチレン-α、β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル-α、β-不飽和カルボン酸アルキルエステル共重合体(B-2)(以下、変性エチレン系共重合体(B-2)と記す。):住友化学(株)製、(商品名)ボンドファースト7M。
【0043】
<ガラス繊維(C)>
ガラス繊維(C-1);オーウェンス コーニング ジャパン(株)製、(商品名)RES03-TP91;繊維径10μm、繊維長3mm。
ガラス繊維(C-2);日東紡株式会社製チョップドストランド、(商品名)CSG-3PA 830、繊維断面のアスペクト比4。
【0044】
<合成例1(PPS(A-1)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(Na2S・2.9H2O)1814g、30%苛性ソーダ溶液(30%NaOHaq)48g及びN-メチル-2-ピロリドン3679gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、380gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2107g、N-メチル-2-ピロリドン985gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、さらに250℃にて3時間重合を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p-フェニレンスルフィド)の洗浄を合計2回行った。得られたポリフェニレンスルフィドを105℃で一昼夜乾燥した。次いで、乾燥したポリフェニレンスルフィドをバッチ式ロータリーキルン型焼成装置に充填し、窒素雰囲気下で240℃まで昇温し、1時間の保持による硬化処理を行うことによって、溶融粘度が190ポイズのPPS(A-1)を得た。
【0045】
<合成例2(PPS(A-2)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(Na2S・2.9H2O)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、340gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2107g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。次いで、この系に250℃で蒸留水509gを圧入し、255℃まで昇温してさらに1時間重合反応を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p-フェニレンスルフィド)の洗浄を合計2回行った。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が400ポイズのPPS(A-2)を得た。
【0046】
<合成例3(PPS(A-3)の合成)>
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(Na2S・2.9H2O)1814g、粒状の苛性ソーダ(100%NaOH:和光純薬特級)8.7g及びN-メチル-2-ピロリドン3232gを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、339gの水を留去した。190℃まで冷却した後、p-ジクロロベンゼン2085g、N-メチル-2-ピロリドン1783gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を2時間かけて225℃に昇温し、225℃にて1時間重合させた後、25分かけて250℃に昇温し、250℃にて2時間重合を行った。重合後、減圧下で重合スラリーからN-メチル-2-ピロリドンを蒸留操作で回収した。最終到達温度は170℃で圧力は4.7kPaであった。得られたケーキに80℃の温水を加えスラリー濃度20%として洗浄し、再度、同様に温水を加え175℃まで昇温してポリ(p-フェニレンスルフィド)を洗浄した。得られたポリ(p-フェニレンスルフィド)を105℃で一昼夜乾燥することによって、溶融粘度が80ポイズのPPS(A-3)を得た。
【0047】
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂、金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体の評価・測定方法を以下に示す。
【0048】
~ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度測定~
直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスター((株)島津製作所製、商品名CFT-500)にて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で溶融粘度の測定を行った。
【0049】
~浸透探傷試験用浸透液による増加率及び力学特性の測定~
金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との複合体は、ISO19095に従い作製した接合面積が50mm2の引張せん断試験片を調製した。最初に引張せん断試験片の重量を電子天秤(メトラー・トレド(株)製、(商品名)XS205DUV)を用いて秤量し、赤色の染料系インク(シャチハタ(株)製、(商品名)XR-2N、比重1.0、粘度400Pa・sec)をビーカーに入れ、次いで、引張せん断試験片の接合端面が浸かるようにインクへ浸漬した後、該ビーカーをガラス製デシケータに入れ油回転真空ポンプ(アルバック(株)製、(商品名)GLD-201B)を用いて0.2mmHgで10分間減圧した。次いで、該デシケータを大気開放し、引張せん断試験片に付着した余剰のインクをアセトンで除去した後に引張せん断試験片の重量を電子天秤(メトラー・トレド(株)製(商品名)XS205DUV)を用いて秤量し、接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率を求めた。
【0050】
更に、引張せん断試験片はISO19095の接合強度測定方法に従い破壊し、破断強度を測定すると共に、破壊した接合面を目視で観察し、接合面へのインクの侵入を目視にて観察した。
○;インクの侵入がなし、又はごく微量のもの。
×;インクの侵入が明らかにみられるもの。
【0051】
~気密試験及び気密性の評価~
蒸留水を上部が開放されたアルミニウム製容器に入れ、容器と
図1に示す蓋材とを溶接して密閉し、
図2に示す気密性評価用容器を作製した。該気密性評価用容器を90℃で200時間保持した後、室温とし、金属部材、蓋材とポリアリーレンスルフィド樹脂部材との界面を検査用液体で浸した。該容器内を0.5MPaに昇圧して1分間保持し、気密性を評価した。なお、該蓋材の浸透探傷試験用浸透液による評価は上記と同様に行い判定を行った。
○:検査用液体に浸された界面から気泡が発生しない場合、気密性に優れると判断した。
×:検査用液体に浸された界面から気泡が発生した場合、気密性に劣ると判断した。
【0052】
実施例1
アルミニウム合金(A5052)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をアセトンに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を10重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、次いで10重量%硝酸水溶液に浸漬し、さらに30重量%燐酸水溶液中で電流密度2A/dm2で20分間陽極酸化処理することにより、アルミニウム合金表面を化学処理したアルミニウム合金(A5052)製試験片を得た。
【0053】
合成例1で得られたPPS(A-1)100重量部に対し、エチレン系共重合体(B-1)15重量部を予め均一に混合し、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-1)をPPS(A-1)100重量部に対して30重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を作製した。
【0054】
得られた該アルミニウム合金(A5052)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度310℃、金型温度150℃、保圧を70MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm
2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を作製すると共に、
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材を作製し、アルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の浸透探傷試験用浸透液による浸透評価を行ったところ、試験片形状のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.5ミリグラムであり、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.6ミリグラムであった。
【0055】
得られた試験片形状のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をISO19095に従い破断したところ、43MPaの破断強度を示し、破断面へのインクの侵入は極わずかであった。また、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の気密性評価の結果、気泡の発生は見られず良好であった。
【0056】
実施例2
アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をアセトンに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を、波長1.064μmのレーザを用いハッチング幅0.06mm、周波数9KHz、速度80mm/秒で直交方向に1000回走査するレーザ処理を行うことにより、アルミニウムダイカスト合金表面を物理的処理したアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を得た。
【0057】
合成例3で得られたPPS(A-3)100重量部に対し、エチレン系共重合体(B-1)10重量部を予め均一に混合し、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-2)をPPS(A-3)100重量部に対して110重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を作製した。
【0058】
得られた該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度310℃、金型温度150℃、保圧を30MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm
2のせん断接合強度評価用試験片でアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を作製すると共に、
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材を作製し、アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の浸透探傷試験用浸透液による浸透評価を行ったところ、試験片形状のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.8ミリグラムであり、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.9ミリグラムであった。
【0059】
得られた試験片形状のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をISO19095に従い破断したところ、44MPaの破断強度を示し、破断面へのインクの侵入は極わずかであった。また、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の気密性評価の結果、気泡の発生は見られず良好であった。
【0060】
実施例3
アルミニウム(A1050)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をエタノールに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を0.1mmのアルミナ粉を用いたサンドブラスト処理にて粗化し、次いで該試験片を1重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、さらに1重量%硫酸水溶液に浸漬し、最後に該試験片を95℃のエタノールアミン1重量%を含有する蒸留水混合液に10分間浸漬し、表面にベーマイト処理を施すことにより、アルミニウム表面を物理的処理後に化学処理したアルミニウム(A1050)製試験片を得た。
【0061】
合成例2で得られたPPS(A-2)100重量部に対し、エチレン系共重合体(B-2)25重量部を予め均一に混合し、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-1)をPPS(A-2)100重量部に対して15重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を作製した。
【0062】
得られた該アルミニウム(A1050)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度310℃、金型温度160℃、保圧を70MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm
2のせん断接合強度評価用試験片であるあるアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体を作製すると共に、
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材を作製し、アルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の浸透探傷試験用浸透液による浸透評価を行ったところ、試験片形状のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.7ミリグラムであり、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.5ミリグラムであった。
【0063】
得られた試験片形状のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をISO19095に従い破断したところ、45MPaの破断強度を示し、破断面へのインクの侵入は極わずかであった。また、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の気密性評価の結果、気泡の発生は見られず良好であった。
【0064】
実施例4
金型温度を130℃、保圧を25MPaとした以外は、実施例2と同様の方法により得たPPS樹脂組成物、アルミニウム合金(A5052)製試験片を用いて、実施例1と同様の方法によりアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を作製し、アルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の浸透探傷試験用浸透液による浸透評価を行ったところ、試験片形状のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は1.0ミリグラムであり、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.9ミリグラムであった。
【0065】
得られた試験片形状のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をISO19095に従い破断したところ、41MPaの破断強度を示し、破断面へのインクの侵入は極わずかであった。また、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の気密性評価の結果、気泡の発生は見られず良好であった。
【0066】
実施例5
実施例1と同様の方法により得たPPS樹脂組成物、アルミニウム合金(A5052)製試験片を用い、該アルミニウム合金(A5052)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度310℃、金型温度140℃、保圧を40MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を100点作製した。そして、射出成形工程で得た該試験片をサーボロボット(ユーシン精機製、(商品名)YC)により取出し、ベルトコンベアにて搬送した。該複合体のそれぞれを多軸ロボット(ファナック製)により、電子天秤(エー・アンド・デイ製、(商品名)AD-4212D)により秤量した。
【0067】
次いで、該複合体のそれぞれを赤色の染料系インク(シャチハタ(株)製、(商品名)XR-2N、比重1.0、粘度400Pa・sec)の入った真空容器に浸漬し、減圧装置を用いて0.1mmHgで5分間減圧した。次いで、真空容器を常圧にし、該複合体の接合面以外に付着している余剰のインクをアセトンで除去し、該複合体のそれぞれを電子天秤(エー・アンド・デイ製、(商品名)AD-4212D)により秤量した。
【0068】
そして、計100点のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率を求めた。さらに、該アルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を、予め重量増加率によって部品保管箱(基準値以下)または排除箱(基準値を超える)へ搬送するように設定した多軸ロボット(ファナック製)により取出し、次いで、基準値以下のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を保管する部品保管箱に移送した。その際の基準値は接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率2ミリグラムと設定した。
【0069】
部品保管箱に移送されたアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体は全て40MPa以上の破断強度を示すと共に、破断面へのインクの侵入は極僅かなものであった。因みに、排除箱の複合体は、破断強度は30MPa以下と低く、破断面には明らかなインクの侵入が確認された。
【0070】
【0071】
比較例1~3
金型温度、保圧を表2に示す条件とした以外は、実施例1と同様の方法により得たPPS樹脂組成物、アルミニウム合金(A5052)製試験片を用いて、実施例1と同様の方法により複合体を製造し、評価を行った。
【0072】
得られた複合体は、接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率に大きく、力学特性、気密性に劣るものであった。
【0073】
【0074】
実施例6
実施例5と同様の条件でアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の製造を行った際に排除箱への搬送が見られたことから、金型温度を140℃から160℃、保圧力を40MPaから50MPaに成形条件を制御し、120℃で5時間乾燥したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を射出成形し、再度アルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の成形を繰り返した。
【0075】
部品保管箱に移送されたアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体は全て40MPa以上の破断強度を示すと共に、破断面へのインクの侵入は極僅かなものであった。因みに、排除箱の複合体は、わずか1個であった。
【0076】
実施例7
アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)をアセトンに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を、波長1.064μmのレーザを用いハッチング幅0.08mm、周波数9KHz、速度80mm/秒で直交方向に1000回走査するレーザ処理を行うことにより、アルミニウムダイカスト合金表面を物理的処理したアルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片および蓋材を得た。
【0077】
合成例3で得られたPPS(A-3)100重量部に対し、エチレン系共重合体(B-1)10重量部を予め均一に混合し、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-2)をPPS(A-3)100重量部に対して110重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を作製した。
【0078】
該ペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物は、ペレット乾燥機(松井製作所製、(商品名)スピードドライヤーPO-80)を用いて、120℃で5時間乾燥した。
【0079】
得られた該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度310℃、金型温度150℃、保圧を1MPaに設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いて射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm
2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を冷却時間30秒で作製した。射出成形を20サイクル繰り返し、試験片形状のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体20本作製した。さらに、試験片と同じ成形条件で
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材を作製し、射出成形を20サイクル繰り返し、蓋材のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体20個作製した。そして、アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の浸透探傷試験用浸透液による浸透評価を行った。その際の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率の基準値は2.0ミリグラムと設定した。試験片形状のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は1.9~3.2ミリグラムの範囲のバラツキを示し、基準値2.0ミリグラムを超えるものとして18本を検出・排除した。蓋材のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は1.9~3.9ミリグラムの範囲のバラツキを示し、基準値2.0ミリグラムを超えるものとして19個を検出・排除した。
【0080】
次に、該浸透探傷試験を行った試験片を、ISO 19095に従い接合強度を評価した。接合強度は30MPa~40MPaであった。一方、排除した複合体の接合強度は11~28MPaであり金属との接合強度に劣る複合体であり、破断面へのインクの侵入が認められた。また、蓋材のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の気密性評価は良好であった。一方、排除した複合体は、気泡の発生が認められ、気密性に劣る複合体であった。
【0081】
そこで、次に、保圧1MPaから50MPaへ上昇し、該アルミニウムダイカスト合金(ADC12)製試験片を金型温度150℃の金型内にセットし、シリンダー温度310℃、保圧時間5秒に成形条件を制御し、120℃で5時間乾燥したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を射出時間1秒で射出成形し、該アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体を冷却時間30秒にて射出成形を繰り返し、アルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をさらに20本作製した。さらに、試験片と同じ成形条件で
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材の射出成形を20サイクル繰り返し、蓋材のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体をさらに20個作製した。
【0082】
得られたアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.4~1.2ミリグラムの範囲で安定しており、基準値を超えるものは見られなかった。接合強度は37MPa~40MPaの範囲で安定したものであり、破断面へのインクの侵入は極わずかであった。また、蓋材のアルミニウムダイカスト合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.5~1.3ミリグラムの範囲で安定しており、該蓋材の気密性評価の結果、気泡の発生は見られず良好であった。
【0083】
実施例8
アルミニウム(A1050)製試験片(40mm×18mm×1.5mm厚さ)および
図1に示す形状のアルミニウム(A1050)製部材および蓋板をエタノールに浸漬することにより表面の洗浄を行った後、該試験片を0.1mm次いで0.01mmのアルミナ粉を用いたサンドブラスト処理にて粗化し、次いで該試験片を1重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液、さらに1重量%硫酸水溶液に浸漬し、最後に該試験片を95℃のエタノールアミン1重量%を含有する蒸留水混合液に10分間浸漬し、表面にベーマイト処理を施すことにより、アルミニウム表面を物理的処理後に化学処理したアルミニウム(A1050)製試験片および蓋材を得た。
【0084】
合成例2で得られたPPS(A-2)100重量部に対し、エチレン系共重合体(B-2)25重量部を予め均一に混合し、シリンダー温度300℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。一方、ガラス繊維(C-1)をPPS(A-2)100重量部に対して15重量部となるように該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーから投入し、溶融混練してペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を作製した。
【0085】
該ペレット化したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物は、ペレット乾燥機(松井製作所製、(商品名)スピードドライヤーPO-80)を用いて、120℃で5時間乾燥した。
【0086】
得られた該アルミニウム(A1050)製試験片を、金型内にセットし、シリンダー温度310℃、金型温度150℃、保圧力50MPa、保圧時間5秒に設定した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75S)を用いてポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を射出時間0.1秒で射出成形し、ISO19095に従い、接合面積が50mm
2のせん断接合強度評価用試験片であるアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体を冷却時間30秒で作製した。射出成形を20サイクル繰り返し、試験片形状のアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体20本作製した。さらに、試験片と同じ成形条件で
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材を作製し、射出成形を20サイクル繰り返し、蓋材のアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体20個作製した。そして、アルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の浸透探傷試験用浸透液による浸透評価を行った。その際の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率の基準値は2.0ミリグラムと設定した。試験片形状のアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は1.6~2.5ミリグラムの範囲のバラツキを示し、基準値2.0ミリグラムを超えるものを9本検出・排除した。蓋材のアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は1.6~2.9ミリグラムの範囲のバラツキを示し、基準値2.0ミリグラムを超えるものを11個検出・排除した。
【0087】
次に、該浸透探傷試験を行った試験片を、ISO 19095に従い接合強度を評価した。接合強度は33MPa~43MPaであった。一方、排除した複合体の接合強度は16~28MPaであり金属との接合強度に劣る複合体であり、破断面へのインクの侵入が認められた。また、蓋材のアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の気密性評価の結果は良好であった。一方、排除した複合体は、気泡の発生が認められ、気密性に劣る複合体であった。
【0088】
そこで、次に、射出時間を0.1秒から1秒へ延長し、該アルミニウム(A1050)製試験片を金型温度150℃の金型内にセットし、シリンダー温度310℃、保圧力50MPa、保圧時間5秒に成形条件を制御し、120℃で5時間乾燥したポリ(p-フェニレンスルフィド)樹脂組成物を射出時間1秒で射出成形し、該アルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体を冷却時間30秒にて射出成形を繰り返し、アルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体をさらに20本作製した。さらに、試験片と同じ成形条件で
図1に示す形状にインサート成形を行ない蓋材の射出成形を20サイクル繰り返し、蓋材のアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体をさらに20個作製した。
【0089】
得られたアルミニウム部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.4~1.0ミリグラムの範囲で安定しており、基準値を超えるものは見られなかった。接合強度は38MPa~40MPaの範囲で安定したものであり、破断面へのインクの侵入は極わずかであった。また、蓋材のアルミニウム合金部材-PPS樹脂組成物部材複合体の接合面積1平方センチメートルあたりの重量増加率は0.5~1.2ミリグラムの範囲で安定しており、該蓋材の気密性評価の結果、気泡の発生は見られず良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属部材-ポリアリーレンスルフィド樹脂部材複合体は、接合面に空隙等の欠陥が無く、接合面における気密性に優れ、さらに耐衝撃性、軽量性及び量産性に優れるものであり、特に自動車や航空機などの輸送機器の複合体として有用なものである。