(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/32 20100101AFI20240410BHJP
H01L 33/06 20100101ALI20240410BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/06
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2021561451
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043810
(87)【国際公開番号】W WO2021106928
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2019213474
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020123823
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【審査官】大和田 有軌
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-012684(JP,A)
【文献】特開2016-219547(JP,A)
【文献】特開2015-177025(JP,A)
【文献】特開2013-065630(JP,A)
【文献】特開2013-041930(JP,A)
【文献】特開2013-038394(JP,A)
【文献】特開2012-119481(JP,A)
【文献】特開2011-198859(JP,A)
【文献】国際公開第2011/058682(WO,A1)
【文献】特表2010-541223(JP,A)
【文献】特開2008-103711(JP,A)
【文献】特開2007-123878(JP,A)
【文献】特表2005-507155(JP,A)
【文献】国際公開第03/103062(WO,A1)
【文献】特表2003-520453(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168273(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108321280(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0087142(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0072568(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0187294(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側窒化物半導体層と、
前記n側窒化物半導体層上に設けられ、窒化物半導体からなる複数の井戸層と、窒化物半導体からなる複数の障壁層とを備えた活性層と、
前記活性層上に設けられたp側窒化物半導体層と、を備え、
前記複数の井戸層は、前記n側窒化物半導体層側から順に、
前記障壁層よりも小さいバンドギャップを有し、AlとGaとNとを含む第1中間層と、
前記第1中間層より小さいバンドギャップエネルギーを有し、GaとNとを含む第2中間層と、
前記第1中間層より小さいバンドギャップエネルギーを有し、GaとNとを含む紫外光を発する発光層と、を有し、
前記第1中間層の膜厚は3nm以上7nm以下であり、
前記第2中間層の膜厚は10nm以上18nm以下であり、
前記発光層の膜厚は10nm以上18nm以下であり、
前記複数の障壁層のうち、前記第2中間層と前記発光層との間に配置される前記障壁層は、n型不純物がドープされている、窒化物半導体素子。
【請求項2】
前記複数の井戸層は、複数の前記第1中間層を備えることを特徴とする、請求項1に記載の窒化物半導体素子。
【請求項3】
前記第2中間層のバンドギャップエネルギーは、前記発光層のバンドギャップエネルギーと略同じであり、
前記第2中間層の膜厚は、前記発光層の膜厚よりも薄いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の窒化物半導体素子。
【請求項4】
前記発光層及び前記第2中間層は、Inを含み、
前記第2中間層のInの含有量は、前記発光層のInの含有量よりも少ないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項5】
前記第1中間層はAlGaNまたはAlInGaNであり、
前記第2中間層はGaNまたはInGaNであり、
前記発光層はGaNまたはInGaNであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項6】
前記障壁層はAlとGaとNとを含むことを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【請求項7】
前記第2中間層と前記発光層との間に配置される前記障壁層の膜厚は20nm以上40nm以下であることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外光を発光する発光素子の開発が盛んに進められている。例えば、特許文献1には、深紫外光の発光に適した、多重量子井戸構造を有する発光素子が開示されている。また、近紫外発光素子も樹脂硬化用や各種センシング用に開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、紫外光を発光する窒化物半導体素子は、その特性、例えば発光出力等を向上させるために改良が進められているが、未だ十分にその特性を高められていない。
【0005】
そこで、本発明は、高い発光出力で紫外光を発光する窒化物半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る窒化物半導体素子は、
n側窒化物半導体層と、
前記n側窒化物半導体層上に設けられ、窒化物半導体からなる複数の井戸層と、窒化物半導体からなる複数の障壁層とを備えた活性層と、
前記活性層上に設けられたp側窒化物半導体層と、を備え、
前記複数の井戸層は、前記n側窒化物半導体層側から順に、
前記障壁層よりも小さいバンドギャップを有し、AlとGaとNとを含む第1中間層と、
前記第1中間層より小さいバンドギャップエネルギーを有し、GaとNとを含む第2中間層と、
前記第1中間層より小さいバンドギャップエネルギーを有し、GaとNとを含む紫外光を発する発光層と、を有し、
前記第1中間層の膜厚は、前記第2中間層及び前記発光層の膜厚よりも薄く、
前記複数の障壁層のうち、前記第2中間層と前記発光層との間に配置される前記障壁層は、n型不純物がドープされている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子によれば、高い発光出力で紫外光を発光する窒化物半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】基板上に配置された本発明の一実施形態に係る窒化物半導体素子の構成を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す窒化物半導体素子の多重量子井戸構造を示した図である。
【
図3】
図2に示す多重量子井戸構造のバンドギャップエネルギーを示した図である。
【
図4】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、準備した第1基板の断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、準備した第1基板の上面にn側窒化物半導体層を形成したときの断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1基板の上面に形成したn側窒化物半導体層上に活性層を形成したときの断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1基板の上面にn側窒化物半導体層を介して形成した活性層上にp側窒化物半導体層を形成した、第1ウエハの断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1ウエハのp側窒化物半導体層上に、第2電極を形成するためのレジストを形成したときの断面図である。
【
図9】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1ウエハのp側窒化物半導体層上に、第2電極を形成するための金属膜を形成したときの断面図である。
【
図10】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1ウエハのp側窒化物半導体層上に形成したレジストをそのレジストの上に形成された金属膜とともに除去して、所定の形状の第2電極を形成したときの断面図である。
【
図11】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1ウエハのp側窒化物半導体層上の第2電極の間に絶縁膜を形成するために、第2電極の上にレジストを形成したときの断面図である。
【
図12】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1ウエハのp側窒化物半導体層上の第2電極の間及びレジスト上に絶縁膜を形成したときの断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、レジストをそのレジストの上に形成された絶縁膜とともに除去して、第1ウエハのp側窒化物半導体層上に第2電極及び絶縁膜を形成したときの断面図である。
【
図14】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第1ウエハのp側窒化物半導体層上に形成した第2電極及び絶縁膜上に、金属層を形成したときの断面図である。
【
図15】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、一方の面に金属層を形成した第2基板を準備し、第1ウエハと第2基板とを対向させたときの断面図である。
【
図16】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、金属層同士を接合することにより第1ウエハと第2基板とを接合した断面図である。
【
図17】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、作製された第2ウエハの断面図である。
【
図18】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、作製された第2ウエハの窒化物半導体素子の一部を除去したときの断面図である。
【
図19】本発明の一実施形態の発光装置の製造方法において、第2ウエハのn側窒化物半導体層上に、所定のパターンの第1電極を形成したときの断面図である。
【
図20】本発明の一変形例に係る窒化物半導体素子の多重量子井戸構造を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態や実施例を説明する。なお、以下に説明する窒化物半導体素子は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態や実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0010】
発光ダイオードに用いられる半導体構造は、n型のn側窒化物半導体層と、p型のp側窒化物半導体層と、n側窒化物半導体とp側窒化物半導体の間に設けられた活性層と、を有する。また活性層には、例えば、複数の井戸層を含む多重量子井戸構造が用いられる。一般に、活性層に複数の井戸層を含む紫外光を発光する発光ダイオードでは、複数の井戸層のうち、p側窒化物半導体層側に位置する井戸層が発光に寄与し、n側窒化物半導体層側に位置する井戸層は発光に寄与しない傾向がある。またn側窒化物半導体層側に位置する井戸層は、p側窒化物半導体層側に位置する井戸層が発する光を吸収(自己吸収)して光の取り出し効率を悪化させる可能性がある。
そこで、本発明者は、窒化物半導体素子の発光出力に影響を及ぼす要素として、電子と正孔の再結合確率と、半導体層における結晶の格子緩和と、半導体層による光の自己吸収とに着目して鋭意検討を行った。
【0011】
本発明者はまず、複数の井戸層における光の自己吸収を低減させる手法を検討した。井戸層による光の自己吸収は、その井戸層を構成する半導体層のバンドギャップエネルギーが大きくなるにつれて低減される。そこで、本発明者は、n側窒化物半導体層側に位置する発光に寄与しない井戸層(中間層)のバンドギャップエネルギーを、p側窒化物半導体層側に位置する発光に寄与する井戸層のバンドギャップエネルギーよりも大きくすることで、活性層における光の自己吸収を低減させることを検討した。
【0012】
このように構成された複数の井戸層を備える窒化物半導体素子は、従来の窒化物半導体素子よりも高い発光出力を示すと期待されたが、実際には、十分に高い発光出力を得ることはできなかった。
【0013】
本発明者は、この結果について検討を重ね、発光出力を十分に向上させることができなかった原因は、発光に寄与する井戸層である発光層と中間層との組成が異なることで生じる発光層と中間層との間の結晶の格子緩和が発光出力の向上を阻害していることにあると推測した。この推測に基づき、本発明者は、発光層と中間層(第1中間層)との間に、格子緩和を抑制するために第1中間層よりバンドギャップの小さい第2中間層を配置したところ、第2中間層がない場合に比較して発光出力を向上させることができた。
【0014】
以上の、n側窒化物半導体層側から順に、バンドギャップエネルギーが大きい第1中間層と、バンドギャップエネルギーが第1中間層より小さい第2中間層と、発光層とを含む窒化物半導体素子において、さらに高い発光出力を得るために検討を進めた結果、以下の知見を得た。
(1)第1中間層の膜厚を、第2中間層及び発光層の膜厚より薄くすることにより、発光層で発光した光の第1中間層における自己吸収をより効果的に抑えることができる。
(2)発光層と第2中間層の間の障壁層にn型不純物をドープすることにより発光層における再結合をより促進することができる。
【0015】
ここで、発光層は、電子と正孔の再結合確率を考慮して、Ga及びNを含む層とし、主としてIn、Ga及びNの組成比を調整することにより所定の発光波長を設定することが好ましい。
また、第1中間層のバンドギャップエネルギーは、Al、Ga及びNを含む層とし、主としてAl、Ga及びNの組成比を調整することにより、発光層のバンドギャップエネルギーより大きくすることが好ましい。これにより、第1中間層による自己吸収を効果的に抑えることができる。
さらに第2中間層は、Ga及びNを含む層とし、主としてGa及びNの組成比を調整することにより、第1中間層のバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有する。
【0016】
本発明に係る窒化物半導体素子は、上記の知見に基づいてなされたものであり、n側窒化物半導体層と、n側窒化物半導体層上に設けられ、窒化物半導体からなる複数の井戸層と、窒化物半導体からなる複数の障壁層とを備えた活性層と、活性層上に設けられたp側窒化物半導体層と、を備えている。そして、複数の井戸層は、n側窒化物半導体層側から順に、障壁層よりも小さいバンドギャップを有し、AlとGaとNとを含む第1中間層と、第1中間層より小さいバンドギャップエネルギーを有し、GaとNとを含む第2中間層と、第1中間層より小さいバンドギャップエネルギーを有し、GaとNとを含む紫外光を発する発光層と、を有している。第1中間層の膜厚は、第2中間層及び発光層の膜厚よりも薄く、複数の障壁層のうち、第2中間層と発光層との間に配置される障壁層は、n型不純物がドープされている。
【0017】
実施形態
以下、図面を参照しながら本実施形態の窒化物半導体素子とその窒化物半導体素子を備える発光装置の製造方法について説明する。
【0018】
1.窒化物半導体素子
図1は、第2基板22上に配置された本実施形態に係る窒化物半導体素子1の構成を示す断面図である。
【0019】
本実施形態に係る窒化物半導体素子1は、
図1に示すように、第2基板22上に配置されている。窒化物半導体素子1は、第2基板22側から順に、p側窒化物半導体層13と、活性層12と、n側窒化物半導体層11とを含む。n側窒化物半導体層11には、第1電極31が電気的に接続されている。p側窒化物半導体層13には、第2電極32が電気的に接続されている。窒化物半導体素子1は、金属層40を介して第2基板22に接合されている。これにより、例えば、第2基板22として導電性を有する半導体基板又は金属からなる基板を用いることによって、第2基板22を介して窒化物半導体素子1に給電することが可能になる。このような構造を有する窒化物半導体素子1は、第1電極31と第2電極32との間に電圧を印加することにより活性層12を発光させることができる。窒化物半導体素子1が発する光は、n側窒化物半導体層11の第1電極31が設けられている面側から主に出射される。
以下、本実施形態の窒化物半導体素子1について詳細に説明する。
【0020】
<n側窒化物半導体層>
n側窒化物半導体層11は、例えば、Si等のn型不純物をドープした窒化物半導体である。n側窒化物半導体層11は、単一の層で構成されていてもよいし、複数の層を含んで構成されていてもよい。また、n側窒化物半導体層11は、例えば、アンドープの半導体層を一部に含んでいてもよい。ここで、アンドープの半導体層とは、成長させるときにn型の不純物を添加することなく成長させた層のことをいい、例えば、隣接する層から拡散等により混入する不可避的な不純物を含んでいてもよい。
【0021】
<p側窒化物半導体層>
p側窒化物半導体層13は、例えば、Mg等のp型不純物をドープした窒化物半導体である。p側窒化物半導体層13は、単一の層で構成されていてもよいし、複数の層を含んで構成されていてもよい。また、p側窒化物半導体層13は、例えば、アンドープの半導体層を一部に含んでいてもよい。
【0022】
<活性層>
活性層12は、窒化物半導体からなる複数の井戸層と、窒化物半導体からなる複数の障壁層とを備えている。本実施形態に係る多重量子井戸構造は、
図2に示すように、n側窒化物半導体層11側から順に、複数の第1中間層6と複数の障壁層5とを含む第1層部2、第2中間層8とn型不純物ドープ障壁層7とを含む第2層部3、及び発光層10と不純物がドープされていないアンドープ障壁層9とを含む第3層部4を備えている。
【0023】
(第1層部)
第1層部2は、第1中間層6と障壁層5とが交互に積層されている部分である。n側窒化物半導体層11上には障壁層5が配置され、障壁層5の上に第1中間層6が配置されており、以降、障壁層5及び第1中間層6が交互に積層され、最も上には、障壁層5が配置されている。本実施形態に係る第1層部2は、4層の障壁層5と3層の第1中間層6とを備えている。なお、
図3に示すように、障壁層は、井戸層よりも大きいバンドギャップエネルギーを有している。これは、以下の第2層部3及び第3層部4においても同様である。
【0024】
障壁層5は、AlとGaとNとを含む窒化物半導体層である。AlとGaとNとを含む窒化物半導体層は、例えば3元化合物である。障壁層5の一般式は例えば、AlaGa1-aN(0<a<1)である。障壁層5のAlの混晶比は、好ましくは0.05≦a≦0.15である。障壁層5の膜厚は、例えば10nm以上50nm以下であり、好ましくは20nm以上40nmである。第1層部2の障壁層5は、後述する第2層部3のn型不純物ドープ障壁層7と同様に、n型の不純物がドープされていてもよい。また、複数の障壁層5のうち、一部がn型の不純物がドープされた障壁層とし、他部がn型の不純物がドープされていない障壁層としてもよい。第1層部2の障壁層5にn型の不純物をドープすることで、後述する第2層部3のn型不純物ドープ障壁層7と同様に、発光層10内での再結合確率を高めることができる。
【0025】
第1中間層6は、AlとGaとNとを含む窒化物半導体層である。第1中間層6は、
図3に示すように、第2中間層8、発光層10よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。第1中間層6は、例えば、3元化合物や4元化合物である。第1中間層6の一般式は例えば、Al
bIn
cGa
1-b-cN(0<b<1、0≦c<1、b+c<1)である。第1中間層6のAlの混晶比は、好ましくは0.03≦b≦0.1である。また、第1中間層6のInの含有量は、好ましくは0≦c≦0.03である。第1中間層6をこのような組成とすることで、発光層10から発光される光の吸収を抑制することができる。第1中間層6は、発光する発光層10とは異なり、実質的に発光しない非発光性の井戸層である。
第1中間層6の膜厚は、第2中間層8及び発光層10の膜厚よりも薄い。このような膜厚を有することで、第1中間層6による自己吸収を効果的に抑制できる。第1中間層6の膜厚は、例えば2nm以上10nm以下であり、好ましくは3nm以上7nm以下である。
上述したバンドギャップエネルギー及び膜厚を有する第1中間層6は、後述の発光層10を結晶性良く成長させるためのバッファ層としての役割を果たすとともに、発光層10から発光される光の吸収を抑制することができる。
【0026】
(第2層部)
第2層部3は、1つの第2中間層8と1つのn型不純物ドープ障壁層7とが積層されている部分である。第2中間層8は、第1層部2の最上に積層された障壁層5の上に配置されており、第2中間層8の上にn型不純物ドープ障壁層7が配置されている。
【0027】
第2層部3におけるn型不純物ドープ障壁層7は、n型の不純物がドープされた、AlとGaとNとを含む窒化物半導体層である。n型不純物ドープ障壁層7は、例えば、3元化合物である。n型不純物ドープ障壁層7の組成は、上述した障壁層5と同一の組成であってもよい。また、n型不純物ドープ障壁層7の膜厚は、例えば20nm以上40nmである。n型不純物は、例えばSiである。n型不純物ドープ障壁層7のn型不純物の濃度は、例えば1×1017原子/cm3以上1×1019原子/cm3以下である。n型不純物ドープ障壁層7を発光層10に隣接して形成することにより、第1中間層6と第2中間層の間にアンドープの障壁層を設ける場合に比較して、p側窒化物半導体層13から注入された正孔とn型不純物ドープ障壁層7を介して注入された電子との発光層10内での再結合確率を高くできる。また、発光層10内での再結合確率を高くできる結果、第2中間層8及び第1中間層6への正孔の注入を抑制でき、第2中間層8及び第1中間層6が実質的に発光しない構造とすることができる。
【0028】
第2中間層8は、GaとNとを含む窒化物半導体層であり、好ましくは、InとGaとNとを含む窒化物半導体層である。また、第2中間層8は、
図3に示すように、第1中間層6よりも小さいバンドギャップエネルギーを有する。第2中間層8の一般式は、例えばIn
dGa
1-dN(0≦d<1)である。第2中間層8のInの含有量は、発光層10のInの含有量よりも少ないことが好ましい。これにより、第2中間層8のバンドギャップエネルギーを発光層10のバンドギャップエネルギーよりも大きくし、発光層10から発光される光が第2中間層8により吸収されることを抑制できる。第2中間層8のInの含有量は、好ましくは0≦d≦0.03である。第2中間層8は、発光する発光層10とは異なり、上述した第1中間層6と同様に、実質的に発光しない非発光性の井戸層である。
第2中間層8のバンドギャップエネルギーを発光層10のバンドギャップエネルギーとほぼ同じとする場合には、第2中間層8の膜厚を発光層10の膜厚よりも薄くすることが好ましい。これにより、発光層10から発光される光が第2中間層8により吸収されることを抑制できる。第2中間層8の膜厚を薄くすることにより第2中間層8による自己吸収が抑制される。第2中間層8の膜厚は、第1中間層6よりも厚い。第2中間層8の膜厚は、例えば5nm以上20nm以下であり、好ましくは10nm以上18nm以下である。
上述したバンドギャップエネルギー及び膜厚を有する第2中間層8は、第1中間層6と後述する発光層10との間に生じる結晶の格子緩和を抑制する。ここで、格子緩和は格子定数が異なる結晶の境界部分に転位を発生させることにより歪を分散させる現象であるが、一方で格子緩和が生じることで転位が発生し結晶性を低下させる傾向がある。そこで、本実施形態の窒化物半導体素子では、第2中間層8を設けることで、Alを含む窒化物半導体から構成された第1中間層6を積層することによって低下した結晶性を回復させることができる。
【0029】
(第3層部)
第3層部4は、1つの発光層10と1つのアンドープ障壁層9とが積層されている部分である。発光層10は、第2層部3のn型不純物ドープ障壁層7の上に配置されており、発光層10の上にアンドープ障壁層9が配置されている。
【0030】
第3層部4におけるアンドープ障壁層9は、n型の不純物がドープされていない窒化物半導体層である。アンドープ障壁層9は、例えば、3元化合物である。アンドープ障壁層9は、上述した障壁層5やn型不純物ドープ障壁層7と同一の組成であってもよい。アンドープ障壁層9の膜厚は、障壁層5及びn型不純物ドープ障壁層7より厚い。アンドープ障壁層9の膜厚は、例えば30nm以上50nm以下である。アンドープ障壁層9は、n型の不純物を含んでいないため、p側窒化物半導体層13から移動してきた正孔はアンドープ障壁層9を通過し発光層10に移動する。これ故、発光層10への正孔の供給が効率よく行われ、発光層10の発光効率が向上する。
【0031】
発光層10は、GaとNとを含む窒化物半導体層であり、紫外光を発光する。本明細書では、紫外光は、波長が400nm以下の光を意味する。発光層10の一般式は、例えば、In
eGa
1-eN(0≦e<1)である。Inの含有量は、好ましくは0≦e≦0.05である。このような組成を有する発光層10は、紫外光を発光する。発光層10が発する光のピーク波長は、例えば、365nm以上400nm以下である。発光層10のピーク波長の例としては、約365nmや約385nmである。また、発光層10は、
図3に示すように、例えば、第2中間層8と略同一のバンドギャップエネルギーを有する。なお、発光層10にAlなどを含有させることで、発光層10のピーク波長を、例えば、250nm以上365nm以下とすることもできる。発光層10を、例えば、Al
fGa
1-fN(0<f<1)とする場合、Alの含有量は、0<f≦0.6とすることができる。
発光層10の膜厚は、第2中間層8の膜厚以上である。発光層10の膜厚は、例えば10nm以上18nm以下である。このような膜厚を有する発光層10は、電子と正孔の再結合を促進することができる。
【0032】
2.発光装置の製造方法
次に、本実施形態の窒化物半導体素子を備える発光装置の製造方法について説明する。
【0033】
<第1ウエハ準備工程>
第1ウエハ準備工程では、
図4に示すように、例えば、サファイアからなる第1基板21を準備する。その後、
図5に示すように、第1基板21上に、例えば、n型コンタクト層、n型クラッド層を成長させることにより、第1基板21側から順にn型コンタクト層、n型クラッド層を含むn側窒化物半導体層11を形成する。尚、第1基板21上にバッファ層を介してn側窒化物半導体層11を形成するようにしてもよい。
【0034】
次に、
図6に示すように、n側窒化物半導体層11の上に、活性層12を形成する。活性層12は、以下の工程により形成される。
【0035】
まず、Al原料ガス、Ga原料ガス、及びN原料ガスを含む原料ガスを用いてn側窒化物半導体層11の上に障壁層5を成長させる(障壁層成長工程)。障壁層5の組成が、例えば、AlGaNである場合は、Al原料ガスの流量を1~2sccmの範囲に設定し、Ga原料ガスの流量を30~50sccmの範囲に設定し、N原料ガスの流量を5~10slmに設定することで、障壁層5を形成することができる。
【0036】
次に、Al原料ガス、In原料ガス、Ga原料ガス、及びN原料ガスを含む原料ガスを用いて障壁層5の上に第1中間層6を成長させる(第1中間層成長工程)。第1中間層6の組成が、例えば、AlInGaNである場合は、Al原料ガスの流量を0.2~1.5sccmに設定し、In原料ガスの流量を0.1~25sccmの範囲に設定し、Ga原料ガスの流量を30~50sccmの範囲に設定し、N原料ガスの流量を5~10slmに設定することで、第1中間層6を形成することができる。
【0037】
障壁層成長工程及び第1中間層成長工程を交互に繰り返すことで、複数の障壁層5及び第1中間層6を有する第1層部2が形成される。なお、第1層部2を形成する工程は、障壁層成長工程で終了される。
【0038】
次に、In原料ガス、Ga原料ガス、及びN原料ガスを含む原料ガスを用いて障壁層5の上に第2中間層8を成長させる(第2中間層成長工程)。第2中間層8の組成が、例えば、InGaNである場合は、In原料ガスの流量を0.1~25sccmの範囲に設定し、Ga原料ガスの流量を30~50sccmの範囲に設定し、N原料ガスの流量を5~10slmの範囲に設定することで、第2中間層8を形成することができる。
【0039】
次に、Al原料ガス、Ga原料ガス、N原料ガス、及びn型不純物原料ガスを含む原料ガスを用いて第2中間層8の上にn型不純物ドープ障壁層7を成長させる(n型不純物ドープ障壁層成長工程)。n型不純物ドープ障壁層7の組成が、例えば、AlGaNであり、n型不純物がSiである場合は、Al原料ガスの流量を1~2sccmの範囲に設定し、Ga原料ガスの流量を30~50sccmの範囲に設定し、N原料ガスの流量を5~10slmの範囲に設定し、n型不純物のドープ量を1×1017原子/cm3以上1×1019原子/cm3以下の範囲に設定することで、n型不純物ドープ障壁層7を形成することができる。
【0040】
第2中間層成長工程とn型不純物ドープ障壁層成長工程を行うことで、第2中間層8及びn型不純物ドープ障壁層7を有する第2層部3が形成される。
【0041】
次に、In原料ガス、Ga原料ガス、及びN原料ガスを含む原料ガスを用いてn型不純物ドープ障壁層7の上に発光層10を成長させる(発光層成長工程)。発光層10の組成が、例えば、InGaNまたはGaNである場合は、In原料ガスの流量を0~45sccmの範囲に設定し、Ga原料ガスの流量を30~50sccmの範囲に設定し、N原料ガスの流量を5~10slmの範囲に設定することで、発光層10を形成することができる。
【0042】
次に、Al原料ガス、Ga原料ガス、及びN原料ガスを含む原料ガスを用いて発光層10の上にアンドープ障壁層9を成長させる(アンドープ障壁層成長工程)。アンドープ障壁層9の組成が、例えば、AlGaNである場合は、Al原料ガスの流量を1~2sccmの範囲に設定し、Ga原料ガスの流量を30~50sccmの範囲に設定し、N原料ガスの流量を5~10slmの範囲に設定することで、アンドープ障壁層9を形成することができる。
【0043】
発光層成長工程とアンドープ障壁層成長工程を行うことで、発光層10及びアンドープ障壁層9を有する第3層部4を形成される。
【0044】
そして、第1層部2、第2層部3、及び第3層部4を有する活性層12の上に、例えば、p型クラッド層及びp型コンタクト層を成長させることにより、活性層12側から順にp型クラッド層とp型コンタクト層とを含むp側窒化物半導体層13を形成する。このような工程により、
図7に示すように、第1基板21の上に、n側窒化物半導体層11、活性層12、及びp側窒化物半導体層13を有する半導体構造1aが形成された第1ウエハ100を準備する。
【0045】
<第2ウエハ準備工程>
第2ウエハ準備工程では、まず、第1ウエハ100のp側窒化物半導体層13上に、所定のパターンの第2電極32を例えば以下のようにして形成する。
最初に、
図8に示すように、第1ウエハ100のp側窒化物半導体層13上に、レジスト51を形成する。ここでは、例えば、p側窒化物半導体層13上の、第2電極を形成しない部分にレジスト51を形成する。
次に、
図9に示すように、p側窒化物半導体層13の上面全体に、例えば、Agを含む金属膜(32、32a)を形成する。これにより、レジスト51が形成されていないp側窒化物半導体層13上に第2電極32が形成される。
そして、
図10に示すように、レジスト51を、レジスト51上に形成された金属膜32aと共に除去する。
以上のようにして、第1ウエハ100のp側窒化物半導体層13上に、所定のパターンの第2電極32を形成する。
ここでは、リフトオフプロセスにより所定のパターンの第2電極32を形成する方法について説明した。しかしながら、リフトオフプロセスを用いることなく、例えば、レジスト51を形成することなくp側窒化物半導体層13の上面全体に、金属膜を形成して、その金属膜の上にレジストを形成してそのレジストをマスクとして金属膜を除去することにより、所定のパターンの第2電極32を形成するようにしてもよい。
【0046】
次に、
図11に示すように、第2電極32上にレジスト52を形成する。レジスト52を形成した後、
図12に示すように、p側窒化物半導体層13の上の第2電極32が形成されていない部分及びレジスト52の上に絶縁膜35aを形成する。そして、
図13に示すように、レジスト52を、レジスト52上に形成された絶縁膜35aとともに除去する。このようにして、p側窒化物半導体層13の上の第2電極32が形成されていない部分に絶縁膜35を形成する。絶縁膜35は、例えば、後記する切断位置CL上に設けられる。このように配置することで、絶縁膜35により第2電極32が発光装置の側面から露出しない構成とすることができる。その結果、発光装置の側面における短絡の発生が抑制され、信頼性を向上させることができる。
【0047】
次に、
図14に示すように、p側窒化物半導体層13上に形成された第2電極32及び絶縁膜35上に、金属層40aを形成する。別途、
図15に示すように、一方の面に金属層40bが形成された第2基板22を準備し、その金属層40bと金属層40aとを接合する。これにより、
図16に示すように、p側窒化物半導体層13上に第2電極32と絶縁膜35とを介して第2基板22を接合する。第2基板22を接合した後、
図17示すように、第1基板21を除去する。以上のように、第1ウエハ100のp側窒化物半導体層13上に第2基板22を接合して、その第1ウエハ100の第1基板21を除去する。第1基板21の除去は、例えば、第1基板21とn側窒化物半導体層11との界面付近にレーザ光を照射し第1基板21とn側窒化物半導体層11とを分離するレーザリフトオフにより行う。または、第1基板21をエッチングできる溶液を用いて除去するウェットエッチングを行うことにより行う。以上のようにして、第1基板21上に形成した半導体構造1aを第2基板22上に金属層40と第2電極32及び絶縁膜35とを介して転写する。このようにして、
図17示すように、第2基板22上に、表面にn側窒化物半導体層11が露出した半導体構造1aを備えた第2ウエハ200を準備する。すなわち、第2ウエハ200において、第2基板22上には、金属層40と第2電極32及び絶縁膜35とを介してp側窒化物半導体層13、活性層12、n側窒化物半導体層11とが第2基板22側から順に積層されている。ここで、第2基板22は、Siからなるシリコン基板であることが好ましく、第2基板22をシリコン基板とすることで、後記する切断工程において、第2基板22を容易に分割することができる。
【0048】
<窒化物半導体素子分離工程>
次に、
図18に示すように、第2ウエハ200の半導体構造1aの一部を除去することで複数の窒化物半導体素子1に分離する。この工程により、半導体構造1aは、後述する切断工程で得られるそれぞれの発光装置に対応するように分離される。半導体構造1aの一部の除去は、例えば、反応性イオンエッチングなどのドライエッチングにより行う。
【0049】
<第1電極形成工程>
次に、
図19に示す第2ウエハ200のn側窒化物半導体層11上に、所定のパターンの第1電極31を形成する。第1電極31は、上述した第2電極32の形成方法と同様に、レジストを用いたリフトオフプロセスやエッチングプロセスにより形成することができる。
【0050】
<切断工程>
最後に、第1電極31が形成された第2ウエハ200を、所望の大きさの個々の発光装置に分割する。この分割は、ダイシングなどにより、
図19に示す所定の切断位置CLに沿って行う。
【0051】
3.窒化物半導体素子の変形例
以下、窒化物半導体素子1の変形例について説明する。
【0052】
上述した実施形態の窒化物半導体素子1に係る第3層部4は1つの発光層10と1つのアンドープ障壁層9を備えているが、これに限られるものではなく、複数の発光層10と複数のアンドープ障壁層9とを備えていてもよい。例えば、
図20に示すように、本発明に係る一変形例の窒化物半導体素子101は、3つの発光層10と3つのアンドープ障壁層9とを含む第3層部104を備える。また複数のアンドープ障壁層9のうち、p側窒化物半導体層13に接して設けられるアンドープ障壁層9の膜厚を他のアンドープ障壁層9の膜厚よりも厚くしてもよい。
【0053】
さらに、上述した窒化物半導体素子1に係る第1層部2は、4層の障壁層5と3層の第1中間層6を備えているが、第1層部2が備える第1中間層6の層数は、これに限られるものではない。例えば、第1層部2は1つの第1中間層6を備えていてもよいし、2層又は4層以上の複数の第1中間層6を備えていてもよい。そして、障壁層5の層数も、第1中間層6の層数に応じて異なり得る。
【実施例】
【0054】
実施例1.
実施例1の窒化物半導体素子を以下のように作製した。
【0055】
まず、サファイアからなる第1基板21を準備し、その上にn型コンタクト層、n型クラッド層を成長させることにより、第1基板21側から順にn型コンタクト層、n型クラッド層を含むn側窒化物半導体層11を形成した。
【0056】
次に、n側窒化物半導体層11の上に、Al0.095Ga0.905Nからなり、n型不純物を含む障壁層5と、Al0.03In0.005Ga0.965Nからなる第1中間層6とを積層した。本実施例では、4層の障壁層5とその4層の障壁層5の間にそれぞれ配置される3層の第1中間層6とを形成した。障壁層5の膜厚は29nmの厚さに成長させ、第1中間層6の厚さは5nmになるように成長させた。障壁層5を成長させる際の各原料ガスの流量は、Al原料ガスを1.5sccmに設定し、Ga原料ガスを38.7sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。また、障壁層5に含まれるn型不純物はSiであり、Siのドープ量が1×1018原子/cm3になるように設定した。第1中間層6を成長させる際の各原料ガスの流量は、Al原料ガスを0.2sccmに設定し、In原料ガスを6sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。
【0057】
次に、障壁層5の上に、In0.005Ga0.995Nからなる第2中間層8と、Al0.095Ga0.905Nからなり、n型不純物としてSiを含むn型不純物ドープ障壁層7と、を1層ずつ積層した。第2中間層8の厚さは15nmの厚さに成長させ、n型不純物ドープ障壁層7の膜厚は29nmの厚さに成長に成長させた。第2中間層8を成長させる際の各原料ガスの流量は、In原料ガスを16sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。n型不純物ドープ障壁層7を成長させる際の各原料ガスの流量は、Al原料ガスを1.5sccmに設定し、Ga原料ガスを38.7sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。また、n型不純物ドープ障壁層7に含まれるn型不純物はSiであり、Siのドープ量が1×1018原子/cm3になるように設定した。
【0058】
次に、n型不純物ドープ障壁層7の上に、In0.005Ga0.995Nからなる発光層10と、Al0.095Ga0.905Nからなるアンドープ障壁層9と、を1層ずつ積層した。発光層10の厚さは15nmに成長させ、アンドープ障壁層9の膜厚は40nmの厚さに成長させた。発光層10を成長させる際の各原料ガスの流量は、In原料ガスを16sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。アンドープ障壁層9を成長させる際の各原料ガスの流量は、Al原料ガスを1.5sccmに設定し、Ga原料ガスを38.7sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。
【0059】
このように成長させた活性層12を形成した後、p型クラッド層とp型コンタクト層とを含むp側窒化物半導体層13を形成し、第1ウエハ100を準備した。
【0060】
次に、第1ウエハ100のp側窒化物半導体層13上に、所定のパターンの第2電極32を形成し、金属層40を介して第2基板22に転写する。その後、第1基板21を除去して、n側窒化物半導体層11上に所定のパターンの第1電極31を形成した。
【0061】
以上のように形成された実施例1の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力を評価した。
その結果、実施例1の窒化物半導体素子の発光出力は1605.4mWであった。
【0062】
実施例2.
実施例1の窒化物半導体素子において、第1中間層6の膜厚を8nmに成長させた以外は、実施例1の窒化物半導体素子と同様にして実施例2の窒化物半導体素子を作製した。
以上のようにして作製した実施例2の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力は、1576.0mWであった。
【0063】
実施例3.
実施例1の窒化物半導体素子において、第2中間層8の膜厚を8nmに成長させた以外は、実施例1の窒化物半導体素子と同様にして実施例3の窒化物半導体素子を作製した。
以上のようにして作製した実施例3の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力は、1594.3mWであった。
【0064】
実施例4.
実施例1の窒化物半導体素子において、第1中間層6を成長させる際の原料ガスの流量について、Al原料ガスを0.4sccmに設定し、In原料ガスを6sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定し、第1中間層6の組成をAl0.045In0.005Ga0.95Nとした以外は、実施例1の窒化物半導体素子と同様にして実施例4の窒化物半導体素子を作製した。
以上のようにして作製した実施例4の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力は、1614.2mWであった。
【0065】
実施例5.
実施例1の窒化物半導体素子において、第1中間層6を成長させる際の原料ガスの流量について、Al原料ガスを0.6sccmに設定し、In原料ガスを6sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定し、第1中間層6の組成をAl0.06In0.005Ga0.935Nとした以外は、実施例1の窒化物半導体素子と同様にして実施例5の窒化物半導体素子を作製した。
以上のようにして作製した実施例5の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力は、1595.6mWであった。
【0066】
参考例1.
実施例1の窒化物半導体素子において、第1中間層6をIn0.005Ga0.995Nから構成し、膜厚を15nmに成長させた以外は、実施例1の窒化物半導体素子と同様にして参考例1の窒化物半導体素子を作製した。In0.005Ga0.995Nから構成された第1中間層6を成長させる際の各原料ガスの流量は、In原料ガスを16sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。
以上のようにして作製した参考例1の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力は、1523.2mWであった。
【0067】
参考例2.
実施例1の窒化物半導体素子において、第2中間層8をAl0.03In0.005Ga0.965Nから構成し、膜厚を5nmに成長させた以外は、実施例1の窒化物半導体素子と同様にして参考例2の窒化物半導体素子を作製した。Al0.03In0.005Ga0.965Nから構成された第2中間層8を成長させる際の各原料ガスの流量は、Al原料ガスを0.2sccmに設定し、In原料ガスを6sccmに設定し、Ga原料ガスを43.6sccmに設定し、N原料ガスを7slmに設定した。
以上のようにして作製した参考例2の窒化物半導体素子について1000mAの電流を流したときの発光出力は、1572.0mWであった。
【0068】
これらの実施例1~5、参考例1、2の結果を表1に記載する。なお、表1において、第1中間層6の膜厚を膜厚T1、第2中間層8の膜厚を膜厚T2と表している。
<表1>
【0069】
これらの結果から、第1中間層6のバンドギャップエネルギーが、第2中間層8のバンドギャップエネルギー及び発光層10のバンドギャップエネルギーよりも大きく、かつ、第1中間層6の膜厚が、第2中間層8の膜厚及び発光層10の膜厚より薄い構成を有する実施例1~5の窒化物半導体素子は、参考例1、2の窒化物半導体素子よりも高い発光出力を示すことが明らかになった。また、第1中間層6の膜厚をより薄くすることで高い発光出力が得られることが分かった。さらにまた、第1中間層6を成長させる際のAl原料ガスを一定の値から多くする、または少なくするにつれて発光出力が低下する傾向があることが分かった。
第1中間層6及び第2中間層8の組成をInGaNとした参考例1の窒化物半導体素子は、実施例1~5の窒化物半導体素子よりも発光出力が低いことが分かった。これは、第1中間層6による自己吸収が実施例1~5の窒化物半導体素子よりも多く発生していることが影響していると考えられる。また第1中間層6及び第2中間層8の組成をAlInGaNとした参考例2の窒化物半導体素子は、実施例1~5の窒化物半導体素子よりも発光出力が低いことが分かった。これは、第2中間層8による格子緩和を抑制する効果が得られていないことが影響していると考えられる。
【0070】
以上、本発明の実施形態及び実施例を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施形態及び実施例における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0071】
1、101 窒化物半導体素子
1a 半導体構造
2 第1層部
3 第2層部
4、104 第3層部
5 障壁層
6 第1中間層
7 n型不純物ドープ障壁層
8 第2中間層
9 アンドープ障壁層
10 発光層
11 n側窒化物半導体層
12 活性層
13 p側窒化物半導体層
21 第1基板
22 第2基板
31 第1電極
32 第2電極
35 絶縁膜
100 第1ウエハ
200 第2ウエハ