(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20240410BHJP
A61K 6/818 20200101ALI20240410BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C04B35/488
A61K6/818
C01G25/02
(21)【出願番号】P 2023009455
(22)【出願日】2023-01-25
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2022010606
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】月森 貴史
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154927(JP,A)
【文献】特表2003-506309(JP,A)
【文献】特開平10-101418(JP,A)
【文献】特開平11-116328(JP,A)
【文献】特開平05-193948(JP,A)
【文献】特開平05-155622(JP,A)
【文献】特開2017-145158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42-35/447
C04B 35/46-35/515
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
A61K 6/818
A61K 6/824
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化元素及び遷移金属元素を含み、遷移金属元素/ジルコニウムを0.005間隔でプロットした元素比の頻度分布において、遷移金属元素/ジルコニウムの最小値と最大値の差が0.25未満であり、前記頻度分布における遷移金属元素/ジルコニウムが0.05以上の合計頻度が2.5%以下であり、
前記遷移金属元素が、
鉄(Fe)であり、
軽装嵩密度が1.10g/cm
3以上1.40g/cm
3以下である、ジルコニアの粉末。
【請求項2】
前記遷移金属元素
の含有量が、
0質量%超3質量%以下である請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記安定化元素がイットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、テルビウム(Tb)及びエルビウム(Er)の群から選ばれる1以上である請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)及びゲルマニア(GeO
2)の群から選ばれる1以上を含む、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項5】
BET比表面積が8m
2/g以上15m
2/g以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項6】
軽装嵩密度が1.20g/cm
3以上1.30g/cm
3以下である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項7】
前記粉末3.0gを、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して得られる円板状の成形体を、以下の条件で仮焼して仮焼体とした場合における、以下の式から求まる収縮率が4.0%未満である、請求項1又は2に記載の粉末。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
収縮率[%]={(25-仮焼体の直径)[mm]/25[mm]}×100
・・・(1)
【請求項8】
顆粒粉末である、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項9】
水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を含む組成物を乾燥して乾燥粉末を得る工程、及び、乾燥粉末を焼結温度未満で熱処理し仮焼粉末を得る工程、を有
し、前記遷移金属元素源が鉄源である請求項1に記載の粉末の製造方法。
【請求項10】
前記遷移金属元素源が、
鉄(Fe)の酸化物及び塩化物の少なくともいずれかである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理における熱処理温度が1200℃以下である、請求項9又は請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の粉末を含む成形体。
【請求項13】
請求項12に記載の成形体を仮焼する工程、を有する仮焼体の製造方法。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の粉末を含む成形体、及び、該成形体を仮焼して得られる仮焼体、の少なくともいずれかを焼結する工程、を有する焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニアを主成分とする粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
着色成分を含むジルコニア(ZrO2;二酸化ジルコニウム)の焼結体は、携帯電子機器部材、装飾部材、歯科補綴物など幅広い用途で適用されている。ジルコニアの焼結体は強度が高く加工が困難である。そのため、歯科用補綴物などの複雑な形状の焼結体を得る場合は、最初に、ジルコニア及び着色成分を含有する成形体(圧粉体)を焼結温度未満で熱処理することによって、加工に適した強度を有する状態のジルコニア、いわゆる仮焼体(半焼結体、予備焼結体)、を得る。次に、仮焼体をCAD/CAMを用いて所望の形状に切削加工した後、加工後の仮焼体を焼結することによって焼結体が作製される。
【0003】
ジルコニアの着色成分としては、ランタノイド系希土類元素や遷移金属元素が主に適用されている。安価でありながら所期の色調を呈する焼結体が得られやすいため、着色成分として遷移金属元素が広く使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、歯科用補綴物に適した呈色を有する焼結体を得るため、着色成分として鉄やコバルトからなる遷移金属の化合物と、ジルコニアとを含む粉末を成形し、これを焼結することが検討されている。
【0005】
また、特許文献2では、歯科用補綴物に適した呈色を有する焼結体を得るため、鉄イオンを含む着色溶液に多孔質状の仮焼体を浸漬し、これを焼結することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第9428422号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3892254号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示された方法は、表面から内部に着色成分が徐々に含浸する。そのため、着色成分の濃度は仮焼体の表面が高く、他方、内部が低くなり、着色成分は表面から内部にかけて傾斜した濃度で仮焼体に含まれる。その結果、得られる焼結体は表面と内部とで異なる色調となりやすい。さらに、一度加工してしまった仮焼体を再加工した場合、得られる焼結体の色調は、再加工前の色調と異なる色調として視認されうる。これに対し、特許文献1に開示された方法は、仮焼体の表面から内部にかけて、ほぼ均一に着色成分が含有された仮焼体及び焼結体を得ることができる。そのため、特許文献1の粉末から得られる仮焼体は仮焼体加工に適しており、また、特許文献2で得られる仮焼体と比較し、再加工前後の色調の変化が小さい。ところで、近年の加工技術の向上に伴い、微細な加工がなされるようになってきており、その結果、特許文献1の粉末から得られる仮焼体と比べ、より均質な加工特性を有する仮焼体が求められてきている。
【0008】
本開示は、ジルコニアを主成分とし、なおかつ、少なくとも遷移金属元素を含む粉末であって、仮焼体加工により適した機械的特性を有する仮焼体が得られる粉末、その製造方法、並びに、該粉末より得られる仮焼体、焼結体及びこれらの製造方法の少なくともいずれか、を提供することを目的とし、また、着色されたジルコニアであって、加工性に優れた仮焼体の原料に適した粉末、その製造方法の少なくともいずれかを提供すること、更には当該粉末から得られる仮焼体及び焼結体の少なくともいずれかを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示においては、ジルコニアを主成分とし、遷移金属元素を含む仮焼体の加工性について検討した。その結果、ジルコニアを主成分とし、遷移金属元素を含む仮焼体は、遷移金属元素を含まないジルコニアの仮焼体に比べて焼結収縮が促進されるだけでなく、焼結収縮が不均一に進行するため、加工性が低下していることに着目した。さらに、粉末における遷移金属元素の分散性と、得られる仮焼体の加工性との関係に着目し、粉末における遷移金属元素の分散性を制御することで、より加工性の高い仮焼体が得られること、さらにはこのような遷移金属元素の分散性を有する粉末、更には遷移金属元素の発色により着色されたジルコニアであって、加工性に優れた仮焼体の原料に適した粉末、及び、これらの粉末が得られる製造方法を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 安定化元素及び遷移金属元素を含み、遷移金属元素/ジルコニウムを0.005間隔でプロットした元素比の頻度分布において、遷移金属元素/ジルコニウムの最小値と最大値の差が0.25未満である、ジルコニアの粉末。
[2] 前記遷移金属元素が、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上である上記[1]に記載の粉末。
[3] 前記安定化元素がイットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、テルビウム(Tb)及びエルビウム(Er)の群から選ばれる1以上である上記[1]又は[2]に記載の粉末。
[4] アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)及びゲルマニア(GeO2)の群から選ばれる1以上を含む、上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の粉末。
[5] 前記頻度分布における遷移金属元素/ジルコニウムが0.05以上の合計頻度が2.5%以下である、上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の粉末。
[6] BET比表面積が8m2/g以上15m2/g以下である、上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の粉末。
[7] 軽装嵩密度が1.10g/cm3以上1.40g/cm3以下である、上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の粉末。
[8] 前記粉末3.0gを、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して得られる円板状の成形体を、以下の条件で仮焼して仮焼体とした場合における、以下の式から求まる収縮率が4.0%未満である、上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の粉末。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
収縮率[%]={(25-仮焼体の直径)[mm]/25[mm]}×100
・・・(1)
[9] 顆粒粉末である、上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の粉末。
【0011】
[10] 水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を含む組成物を乾燥して乾燥粉末を得る工程、及び、乾燥粉末を焼結温度未満で熱処理し仮焼粉末を得る工程、を有する上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の粉末の製造方法。
[11] 前記遷移金属元素源が、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上の酸化物及び塩化物の少なくともいずれかである、上記[10]に記載の製造方法。
[12] 前記熱処理における熱処理温度が1200℃以下である、上記[10]又は[11]に記載の製造方法。
[13] 上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の粉末を含む成形体。
[14] 上記[13]に記載の成形体を仮焼する工程、を有する仮焼体の製造方法。
[15] 上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の粉末を含む成形体、及び、該成形体を仮焼して得られる仮焼体、の少なくともいずれかを焼結する工程、を有する焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、ジルコニアを主成分とし、なおかつ、少なくとも遷移金属元素を含む粉末であって、より仮焼体加工に適した機械的特性を有する仮焼体が得られる粉末、その製造方法、並びに、該粉末より得られる仮焼体、焼結体及びこれらの製造方法の少なくともいずれか、を提供することができ、また、また、着色されたジルコニアであって、加工性に優れた仮焼体の原料に適した粉末、その製造方法の少なくともいずれかを提供すること、更には当該粉末から得られる仮焼体及び焼結体の少なくともいずれかを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】測定例1の焼結時における仮焼体の配置を示す模式図
【
図2】実施例1の粉末の元素頻度分布(ヒストグラム)
【
図3】比較例1の粉末の元素頻度分布(ヒストグラム)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の粉末について、実施形態の一例を示して説明する。本実施形態における用語は以下に示すとおりである。
【0015】
「組成物」とは、一定の組成を有する物質であり、例えば、粉末、成形体、仮焼体及び焼結体の群から選ばれる1以上が挙げられる。「ジルコニア組成物」とは、ジルコニアを主成分とする組成物であり、更には本質的にジルコニアからなる組成物である。
【0016】
「粉末」とは、粉末粒子(一次粒子及び二次粒子の少なくともいずれかの粒子)の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物である。「ジルコニア粉末」とは、ジルコニアを主成分とする粉末であり、本質的にジルコニアからなる粉末である。
【0017】
「顆粒粉末」とは、粉末粒子の凝集物(顆粒粒子)の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物であり、特に粉末粒子が緩慢凝集した状態の組成物である。「ジルコニア顆粒粉末」とは、ジルコニアを主成分とする顆粒粉末であり、本質的にジルコニアからなる顆粒粉末である。
【0018】
「成形体」とは、物理的な力で凝集した粉末粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、特に、該形状の付与後(例えば成形後)に熱処理が施されていない状態の組成物である。「ジルコニア成形体」とは、ジルコニアを主成分とする成形体であり、本質的にジルコニアからなる成形体である。また、成形体は「圧粉体」と互換的に使用される。
【0019】
「仮焼体」とは、融着粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、焼結温度未満の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア仮焼体」とは、ジルコニアを主成分とする仮焼体であり、本質的にジルコニアからなる仮焼体である。
【0020】
「焼結体」とは、結晶粒子から構成される一定の形状を有する組成物であり、焼結温度以上の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア焼結体」とは、ジルコニアを主成分とする焼結体であり、本質的にジルコニアからなる焼結体である。
【0021】
「主成分」とは、組成物の組成における主相(マトリックス、母材、母相)となる成分であり、好ましくは組成物に占める質量割合が75質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上であり、また、100質量%以下又は100質量%未満となる成分である。
【0022】
「安定化元素」とは、ジルコニアに固溶することでジルコニアの結晶相を安定化する元素である。
【0023】
「BET比表面積」は、JIS R 1626に準じ、吸着ガスに窒素を使用したBET多点法(5点)により測定される比表面積[m2/g]であり、特に以下の条件で測定されるBET比表面積である。
【0024】
吸着媒体 :N2
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
BET比表面積は、一般的な比表面積測定装置(例えば、トライスターII 3020、島津製作所社製)を使用して測定することができる。
【0025】
「平均粒子径」は、湿式法で測定される粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的な装置(例えば、MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料は、超音波処理などの分散処理により緩慢凝集を除去した粉末を純水に分散させ、スラリーとしたものを使用すればよい。湿式法による体積粒子径分布の測定は、スラリーをpH=3.0~6.0にして測定することが好ましい。
【0026】
「平均顆粒径」は、乾式法で測定される顆粒粉末の体積粒子径分布におけるD50であり、一般的な装置(例えば、MT3100II、マイクロトラック・ベル社製)を使用して測定することができる。測定試料は、超音波処理などの分散処理を施さず、緩慢凝集の状態の顆粒粉末をそのまま使用すればよい。
【0027】
「軽装嵩密度」とは、JIS R 1628に準じた方法により測定される密度(Bulk Density)である。
【0028】
「平均結晶粒径」は、焼結体を構成する結晶粒子の平均径であり、焼結体の表面を走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察して得られるSEM観察図を画像解析することで得られる。
【0029】
平均結晶粒径の測定におけるSEM観察は一般的な走査電子顕微鏡(例えば、JSM―IT500LA、日本電子社製)により行えばよい。画像解析する結晶粒子(SEM観察図において結晶粒界が途切れずに観察される結晶粒子(後述))の数が450±50個となるように、SEM観察は、観察倍率を適宜設定して行えばよい。SEM観察個所の相違による、観察される結晶粒子のバラツキを抑制するため、観察される結晶粒子の合計が上述の結晶粒子数となるように、2以上、更には3以上5以下、SEM観察図から平均結晶粒径を求めてもよい。SEM観察の条件は、以下の条件であればよい。
加速電圧 :15kV
照射電流 :40nA
観察倍率 :5000倍~10000倍
【0030】
SEM観察図の画像解析は、画像解析ソフト(例えば、Mac-View Ver.5、MOUNTECH社製)により行えばよい。具体的には、SEM観察図において結晶粒界が途切れずに観察される結晶粒子を抽出し、抽出した各結晶粒子の面積[μm2]を求める。求まった面積から、該面積と等しい面積を有する円の直径[μm]を換算し、得られる直径(heywood径;以下、「円相当径」ともいう。)を各結晶粒子の結晶粒径とみなせばよい。抽出した結晶粒子の円相当径の平均値をもって、焼結体の平均結晶粒径とすればよい。
【0031】
「粉末X線回折パターン」とは、以下の条件の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)測定により得られる組成物のXRDパターンを、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)で平滑化処理及びバックグラウンド除去処理して得られるXRDパターンである。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 2°/分
測定範囲 : 2θ=26°~33°
2θ=72°~76°
加速電圧・電流 : 40mA・40kV
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
ゴニオメータ半径 : 185mm
【0032】
XRD測定は、一般的なX線回折装置(例えば、Ultima IV、RIGAKU社製)を使用して行うことができる。仮焼体は、JIS R 6001-2に準じた粒度#400のサンドペーパーを用いて表面を研磨した後、粒度3μmのダイヤモンド研磨剤を用いてラップ研磨したものを測定試料とし、ラップ研磨後の表面をXRD測定すればよい。焼結体は、その表面を表面粗さRa≦0.02μmまで研磨したものを測定試料とし、研磨後の表面をXRD測定すればよい。
【0033】
「XRDピーク」とは、上述のXRD測定において得られるXRDパターンにおいて検出される2θにピークトップを有するピーク、である。本実施形態において「XRDピークを有さない」とは、上述のXRD測定で得られるXRDパターンにおいて、該XRDピークが検出されないことである。
【0034】
ジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークとして、以下の2θにピークトップを有するXRDピークであることが挙げられる。
単斜晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
立方晶(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=30±0.5°
【0035】
正方晶(111)面に相当するXRDピーク、及び、立方晶(111)面に相当するXRDピークは、重複したひとつのピークとして測定される。
【0036】
「T+C相率」とは、上述のXRD測定で得られるXRDパターンにおける、正方晶、立方晶及び単斜晶のジルコニアのXRDピークの合計面積強度に対する、正方晶及び立方晶のジルコニアのXRDピークの面積強度の割合であり、また、「M相率」とは、上述のXRD測定において得られるXRDパターンにおける、正方晶、立方晶及び単斜晶のジルコニアのXRDピークの合計面積強度に対する、単車晶のジルコニアのXRDピークの面積強度の割合であり、それぞれ、以下の式から求められる。
【0037】
fT+C=[It(111)+Ic(111)]
/[Im(111)+Im(11-1)+It(111)+Ic(111)] fM=1-fT+C
上式において、fT+CはT+C相率、fMはM相率、It(111)は正方晶(111)面の面積強度、Ic(111)は立方晶(111)面の面積強度、Im(111)は単斜晶(111)面の面積強度、Im(11-1)は単斜晶(11-1)面の面積強度であり、It(111)+Ic(111)は、2θ=30±0.5°にピークトップを有するXRDピークの面積強度に相当する。
【0038】
各XRDピークの面積強度は、X線回折装置付属の解析プログラム(例えば、統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL Ver.2.2、RIGAKU社製)を使用してXRDパターンを解析することで得られる値である。
【0039】
「実測密度」は、試料体積[cm3]に対する質量[g]から求められる値[g/cm3]である。質量は、試料を秤量して得られた質量を使用し、また、体積は、成形体及び仮焼体については形状測定により求まる体積を使用し、焼結体についてはJIS R 1634に準じたアルキメデス法により求める体積を使用すればよい。アルキメデス法は、溶媒とてイオン交換水を使用し、また、前処理は煮沸法により行えばよい。
【0040】
「全光線透過率」は、試料厚さ1.0±0.1mmの測定試料について、JIS K 7361-1に準じて測定される、入射光に対する透過光(直線透過光及び拡散透過光の合計)の割合[%]である。測定試料は、試料厚さ1.0±0.1mm、かつ、両面の表面粗さRa≦0.02μmである円板状の焼結体を使用し、測定装置は、光源にD65光源を備えたヘーズメータ(例えば、ヘーズメータ NDH4000、日本電色社製)を使用すればよい。
【0041】
「色調(L*、a*、b*)」及び「彩度C*」は、JIS Z 8722の幾何条件cに準拠した照明・受光光学系を備えた分光測色計(例えば、CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用し、SCI方式で測定された値を使用し、求まる値である。具体的な測定方法として、測定試料の上にゼロ校正ボックスを配置し、以下の条件で測定する方法(いわゆる黒バック測定)が挙げられる。
光源 : D65光源
視野角 : 2°
測定方式 : SCI
【0042】
焼結体の色調は、焼結体の任意の個所を水平方向に切り出し、これを試料厚み1.0±0.1mmとなるように加工した測定試料を測定すればよい。
【0043】
「明度L*」は明るさを示す指標であり0以上100以下の値を有する。「色相a*」及び「色相b*」は色味を示す指標であり、それぞれ、-100以上100以下の値を有する。「彩度C*」は鮮やかさを示す指標であり、色相a*及びb*から、C*={(a*)2+(b*)2}0.5により求められる。
【0044】
「三点曲げ強度」は、JIS R 1601に準じた方法で測定される値である。測定試料は、幅4mm、厚み3mm及び長さ45mmの柱形状を使用し、支点間距離30mmとし、測定試料の水平方向に荷重を印加して測定すればよい。
【0045】
「ビッカース硬度」は、加工性を示す指標のひとつであり、ダイヤモンド製の正四角錘の圧子を備えた一般的なビッカース試験機(例えば、Q30A、Qness社製)を使用して測定される値である。測定は、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを計測する。得られた対角長さを使用して、以下の式からビッカース硬度を求めればよい。
【0046】
Hv=F/{d2/2sin(α/2)}
上の式において、Hvはビッカース硬度(HV)、Fは測定荷重(1kgf)、dは押込み痕の対角長さ(mm)、及び、αは圧子の対面角(136°)である。
【0047】
ビッカース硬度の測定条件として、以下の条件が挙げられる。
測定試料 : 厚み3.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
【0048】
測定に先立ち、測定試料は#800の耐水研磨紙で測定面を研磨し0.1mmを超える凹凸を除去し、前処理とすればよい。
【0049】
「常圧焼結」とは、焼結時に被焼結物(成形体や仮焼体など)に対して外的な力を加えずに焼結温度以上で加熱することにより該被焼結物を焼結する方法である。
【0050】
<粉末>
本実施形態の粉末は、安定化元素及び遷移金属元素を含み、遷移金属元素/ジルコニウムを0.005間隔でプロットした元素比の頻度分布において、遷移金属元素/ジルコニウムの最小値と最大値の差が0.25未満である、ジルコニアの粉末、であり、遷移金属元素により着色された、着色ジルコニアの粉末である。
【0051】
本実施形態の粉末は、安定化元素及び遷移金属元素を含む、ジルコニアの粉末であり、ジルコニア、安定化元素及び遷移金属元素を含み、ジルコニアを主成分とする粉末、更には安定化元素及び遷移金属元素を含むジルコニア粉末とみなしてもよい。本実施形態の粉末は、遷移金属元素を含む、安定化元素固溶ジルコニアの粉末であることが好ましい。
【0052】
本実施形態の粉末はジルコニアの粉末、すわなち、ジルコニアを主成分とする粉末である。本実施形態の粉末において、ジルコニアは、安定化元素が固溶したジルコニア(以下、「安定化元素固溶ジルコニア」ともいう。)であることが好ましい。
【0053】
ジルコニアはハフニア(HfO2)等の不可避不純物を含んでいてもよい。本実施形態における組成や密度等の組成に基づく値の算出において、ハフニアはジルコニアとみなして計算すればよい。
【0054】
本実施形態の粉末は安定化元素を含む。安定化元素は希土類元素などが挙げられ、具体的には、イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、テルビウム(Tb)及びエルビウム(Er)の群から選ばれる1以上が挙げられ、イットリウム、テルビウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上であることが好ましい。安定化元素は、ジルコニアの色調に影響しない元素、具体的にはイットリウム、カルシウム及びマグネシウムの群から1以上が好ましく、更にはイットリウムがより好ましい。
【0055】
安定化元素は、少なくともその一部がジルコニアに固溶していることが好ましく、安定化元素がジルコニアに固溶していること(すなわち本実施形態の粉末が未固溶の安定化元素を含まないこと)がより好ましい。しかしながら、本実施形態の粉末の効果を奏する範囲であれば、本実施形態の粉末は、ジルコニアに未固溶の安定化元素を含んでいてもよい。
【0056】
本実施形態において、未固溶の安定化元素を含まないことは、XRDパターンが安定化元素の化合物に由来するXRDピークを有さないこと、により確認できる。
【0057】
本実施形態の粉末の安定化元素の量(以下、「安定化元素量」ともいい、安定化元素がイットリウム等である場合、それぞれ「イットリウム量」等ともいう。)は、ジルコニアの結晶相が部分安定化する量であればよく、ジルコニアが正方晶及び立方晶を主相とする結晶相となる量であればよい。安定化元素量として2mol%以上又は2.5mol%以上であり、かつ、15mol%以下又は7.5mol%以下であることが例示でき、2mol%以上15mol%以下、2.5mol%以上15mol%以下、又は3.5mol%以上5.9mol%以下であることが好ましい。安定化元素がイットリウムである場合、安定化元素量(イットリウム量)は、3mol%以上、3.3mol%以上、3.5mol%以上又は3.6mol%以上であり、また、6.5mol%以下、6mol%以下、5.5mol%以下又は5.2mol%以下であればよい。遷移金属元素がより均一に分散しやすいため、好ましい安定化元素量として、2mol%以上6.5mol%以下、3mol%以上6.5mol%以下、3.3mol%以上6mol%以下、3.5mol%以上5.5mol%以下、3.6mol%以上5.1mol%以下、又は、4.8mol%以上5.5mol%以下が挙げられる。
【0058】
安定化元素量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計[mol]に対する、酸化物換算した安定化元素[mol]の割合[mol%]として求めればよい。各安定化元素の酸化物換算として、それぞれ、イットリウムがY2O3、カルシウムがCaO、マグネシウムがMgO、テルビウムがTb4O7及びエルビウムがEr2O3であることが挙げられる。
【0059】
本実施形態の粉末は、遷移金属元素を含む。本実施形態の粉末における遷移金属元素は、特に、着色成分として粉末に含まれている遷移金属元素を意味する。これにより、本実施形態の粉末から得られる焼結体が遷移金属元素に由来する所期の色調、特にランタノイド希土類元素等では呈色し難い色調、を示す。
【0060】
本実施形態の粉末に含まれる遷移金属元素は、ジルコニアを着色しうる遷移金属元素、好ましくはジルコニウム及びハフニウム以外の遷移金属元素、より好ましくは3d遷移金属元素(3d遷移元素)及びジルコニウム以外の4d遷移金属元素(4d遷移元素)の少なくともいずれか、更には好ましくは3d遷移金属元素、更により好ましくはバナジウム以外の3d遷移金属元素である。なお、便宜的に、本実施形態において、遷移金属元素はランタノイド希土類元素を含まないものとし、ランタノイド希土類元素以外の遷移金属元素を意味する。具体的な遷移金属元素として、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及び銀(Ag)の群から選ばれる1以上が挙げられ、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び銅の群から選ばれる1以上であることが好ましく、チタン、マンガン、鉄及びコバルトの群から選ばれる1以上であることがより好ましく、チタン、鉄及びマンガンの群から選ばれる1以上であることがさらに好ましく、鉄及びチタンの少なくともいずれかであることが更により好ましく、鉄であることが特に好ましい。
【0061】
例えば、黄色系の呈色を示す焼結体を得る場合、遷移金属元素はクロム、鉄及びバナジウムの群から選ばれる1以上が挙げられ、鉄が好ましい。また、緑色系の呈色を示す焼結体を得る場合、遷移金属元素はニッケルであること、灰色系の呈色を示す焼結体を得る場合、遷移金属元素はマンガンであること、また、青色系の呈色を示す焼結体を得る場合、遷移金属元素はコバルトであること、が挙げられる。歯科補綴物に適した色調を呈する焼結体を得るため、本実施形態の粉末に含まれる遷移金属元素は、ニッケル、コバルト、マンガン及び鉄の群から選ばれる1以上であってもよく、ニッケル、コバルト、マンガン又は鉄であってもよく、コバルト、マンガン及び鉄の群から選ばれる1以上であってもよく、コバルト、マンガン又は鉄であってもよく、コバルト及び鉄の少なくともいずれかであってもよく、コバルト又は鉄であってもよく、鉄であることが好ましい。
【0062】
大気雰囲気におけるジルコニアの結晶相が変態しやすくなるため、本実施形態の粉末がバナジウム(V)を含む場合、その含有量が0質量%以上0.005質量%以下、更には0質量%超0.005質量%以下であればよく、バナジウムを含まないこと(測定限界以下であること)が好ましい。
【0063】
本実施形態の粉末の遷移金属元素の含有量(以下、「遷移金属量」ともいい、遷移金属元素が鉄等である場合、それぞれ「鉄量」等ともいう。)は、本実施形態の粉末から得られる焼結体において遷移金属化合物の結晶粒子が析出しない量であればよく、例えば、0質量%超、0.01質量%以上、0.04質量%以上又は0.1質量%以上であり、また、3質量%以下、2質量%以下、2質量%未満、1質量%以下又は0.5質量%以下であること、が挙げられる。好ましい遷移金属量として0質量%超3質量%以下、0.01質量%以上3質量%以下、0.04質量%以上2質量%以下、0.04質量%以上2質量%未満、0.04質量%以上1質量%以下、又は、0.1質量%以上2質量%以下、が挙げられる。
【0064】
例えば、本実施形態の粉末の鉄量は、0.01質量%以上又は0.1質量%以上であり、また、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下又は0.5質量%以下が挙げられ、好ましい鉄量として0.01質量%以上3質量%以下、0.1質量%以上3質量%以下、0.1質量%以上2質量%以下、又は、0.1質量%以上0.5質量%以下が挙げられる。また例えば、本実施形態の粉末のコバルト量、ニッケル量及びマンガン量は、それぞれ、0.01質量%以上又は0.03質量%以上であり、また、1質量%以下、0.5質量%以下又は0.1質量%以下が挙げられ、0.01質量%以上0.5質量%以下、又は、0.03質量%以上0.1質量%以下が好ましい。
【0065】
遷移金属量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、及び、酸化物換算した金属元素の合計質量[g]に対する、酸化物換算した遷移金属元素[g]の質量割合[質量%]として求めればよい。各遷移金属元素の酸化物換算は、それぞれ、チタンがTiO2、クロムがCr2O3、マンガンがMn3O4、鉄がFe2O3、コバルトがCo3O4、ニッケルがNiO、銅がCuO、ニオブがNb2O3、バナジウムがV2O5、モリブデンがMo2O3、テクネチウムがTc2O3、ルテニウムがRuO2、ロジウムがRhO2、パラジウムがPd2O3、及び、銀がAg2O、である。
【0066】
本実施形態の粉末は、遷移金属元素/ジルコニウムを0.005間隔でプロットした元素比の頻度分布(以下、単に「元素頻度分布」ともいう。)において、遷移金属元素/ジルコニウムの最小値と最大値の差が0.25未満であり、0.2以下、0.16以下、0.12以下、0.11以下又は0.1以下あることが好ましい。本実施形態の粉末はジルコニアを主成分とするため、ジルコニアはほぼ均一に分散した状態である。一方、ジルコニアの着色、特に歯科補綴材として使用されるジルコニアの着色、に必要とされる遷移金属元素の量はジルコニアに対して極めて少量である。少量の遷移金属元素は凝集しやすいが、M/Zrの最小値と最大値の差(以下、「M/Zr範囲」ともいい、遷移金属元素が鉄等である場合は、それぞれ、「Fe/Zr範囲」等ともいう。)が上述の値を満たすことにより、従来の遷移金属元素を着色成分として含むジルコニアの粉末と比べ、遷移金属元素が均一に分散した状態で含まれていると考えられる。これにより、本実施形態の粉末を熱処理した場合の遷移金属元素の凝集が従来の粉末のそれより抑制されると考えられる。その結果、加工(特に、歯科補綴材用のCAD/CAM加工)に適した硬度を有する仮焼体が得られる。これに加え、得られる仮焼体中に局所的な固い領域が生じにくくなり、より均一な加工性を示す仮焼体となると考えられる。M/Zr範囲が小さいほど遷移金属元素の均一性が高くなるが、本実施形態の粉末において、遷移金属元素一定の範囲の分布を有する(すなわちM/Zrの最小値と最大値が異なる)。そのため、M/Zr範囲は0超、0.03以上又は0.06以上であることが挙げられる。好ましいM/Zr範囲として0超0.25未満、0超0.2以下、0.03以上0.16以下、0.03以上0.12以下、0.03以上0.1以下、又は、0.06以上0.1以下が挙げられる。
【0067】
遷移金属元素の偏析を避けるため、本実施形態の粉末は、遷移金属元素の過度な凝集が少ないことが好ましく、元素頻度分布におけるM/Zrの最大値は、0.3以下、0.2以下、0.1以下、又は、0.08以下であることが挙げられる。一方、後述するEPMA測定における元素毎の検出感度が相違するため、M/Zrの最大値は遷移金属元素の種類により異なる場合がある。例えば、遷移金属元素が鉄である場合のM/Zr(Fe/Zr)の最大値は0.03以上0.2以下、0.05以上0.12以下、又は0.05以上0.1以下が例示できる。同様に、遷移金属元素がコバルトである場合のM/Zr(Co/Zr)の最大値は0.03以上0.2以下、又は、0.1以上0.15以下が、遷移金属元素がマンガンである場合のM/Zr(Mn/Zr)の最大値は0.03以上0.2以下、又は、0.05以上0.12以下が、遷移金属元素がニッケルである場合のM/Zr(Ni/Zr)の最大値は0.03以上0.2以下、又は、0.12以上0.18以下が、それぞれ、例示できる。
【0068】
同様に、遷移金属元素が鉄である場合、元素頻度分布において、M/Zrが0.05以上の合計頻度(以下、「高金属頻度」ともいう。)は、2.5%以下であり、2%以下、1.5%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.1%以下又は0.05%以下であることが好ましい。高金属頻度は0%以上、0%超又は0.02%以上であってもよい。遷移金属元素が鉄である場合において、高金属頻度がこの範囲であることで、本実施形態の粉末から得られる仮焼体が固くなりすぎず、より加工に適した硬度を有する。遷移金属元素が鉄である場合の好ましい高金属頻度として0%以上2.5%以下、0%以上1.5%以下、0%以上0.1%以下、0%超0.1%以下、又は、0%超0.05%以下が例示できる。
【0069】
得られる仮焼体がより均質な機械的特性を有しやすくなるため、遷移金属元素が鉄である場合、本実施形態の粉末は、元素頻度分布において、M/Zrが0.005未満の合計頻度(以下、「低金属頻度」ともいう。)が6.5%以下又は5%以下であり、また、0%以上、0%超、又は3%以上であることが挙げられ、0%以上6.5%以下、0%以上5%以下、又は、0%超5%以下であることが好ましい。
【0070】
本実施形態における元素頻度分布は、粉末のEPMAスペクトルから得られる分布、であり、EPMA測定による遷移金属元素及びジルコニウムの元素マッピングから得られる。
【0071】
具体的に、元素頻度分布は以下の方法で求めればよい。まず、本実施形態の粉末のSEM観察図を50,000~66,000の領域に分割し、得られる各領域を測定点とする。各測定点のジルコニウム及び遷移金属元素の特性X線を測定し、元素マッピングを得る。次いで、各測定点のジルコニウム(Zr)の特性X線の強度に対する、遷移金属元素(M)の特性X線の強度割合(M/Zr)を求める。求まったM/Zrから、階級がM/Zr、階級の幅(各階級におけるM/Zrの最大値と最小値)が0.005、及び、度数(頻度)が各階級に対応する測定点の数、とするヒストグラムを作成し、該ヒストグラムを元素頻度分布とする。具体的に、M/Zrを、0以上0.005未満の階級、0.005以上0.010未満の階級、・・・・と、階級の幅を0.005間隔として、0からM/Zrの最大値を含む階級に分け、各階級の頻度をプロットすることで得られるヒストグラムを、元素頻度分布とすればよい。
【0072】
元素頻度分布の測定におけるSEM観察及びEPMAの条件は、以下の条件が挙げられる。
加速電圧 :15kV
照射電流 :50nA
ビーム径 :1μm
取込時間 :50msec
倍率 :5000倍
【0073】
SEM観察及びEPMA測定は、電子線マイクロアナライザーを備えた走査型電子顕微鏡(例えば、EPMA1610、島津製作所社製や、JXA-iHP200F、日本電子社製)が使用できる。測定試料は樹脂包埋した粉末(粉末粒子)を使用し、これを切断して得られる切断面をSEM観察及びEPMA測定すればよい。正確な元素マッピングを得るため、測定試料として使用する粉末(粉末粒子)は顆粒粉末(顆粒粒子)であることが好ましい。
【0074】
M/Zr範囲は、該元素頻度分布において、M/Zrの最大値と、M/Zrの最小値と、の差の絶対値である。なお、M/Zrの最大値は、元素頻度分布において、M/Zrが最大となる階級の次の階級のM/Zrにおける最も小さい値であり、例えば、最大の階級のM/Zrが0.100以上0.105未満である場合、次の階級(0.105以上0.110未満)の最小値である0.105がM/Zrの最大値に相当する。一方、M/Zrの最小値は、元素頻度分布において、最小となる階級のM/Zrの最小値であり、例えば、最小の階級のM/Zrが0以上0.005未満である場合、0がM/Zrの最小値に相当し、最小の階級のM/Zrが0.005以上0.010未満である場合、0.005がM/Zrの最小値に相当する。
【0075】
高金属濃度は、元素頻度分布において、度数の合計(全測定点数)に占める、M/Zrが0.05以上の階級における度数の合計(M/Zrが0.05以上である測定点数)の割合(%)であり、また、低金属濃度は、該元素頻度分布において、度数の合計(全測定点数)に占める、M/Zrが0.005未満の階級における度数の合計(M/Zrが0.005未満である測定点数)の割合(%)である。そのため、高金属頻度は、EPMA測定による元素マッピングにおける全測定点数に占める、ジルコニウムの特性X線に対する遷移金属元素の特性X線の強度が0.05以上である測定点数の割合としてみなすことができ、また、低金属頻度は、EPMA測定による元素マッピングにおける全測定点数に占める、ジルコニウムの特性X線に対する遷移金属元素の特性X線の強度が0.005未満である測定点数の割合として、みなすことができる。
【0076】
焼結性を調整するため、本実施形態の粉末はアルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)及びゲルマニア(GeO2)の群から選ばれる1以上(以下、「添加成分」ともいう。)、更にはアルミナを含んでいてもよい。添加成分を含むことで、焼結時の温度を低下させることができる。添加成分の含有量(以下、「添加成分量」ともいい、添加成分がアルミナ等である場合、それぞれ、「アルミナ量」等ともいう。)は、所期の焼結性に応じて適宜調整すればよく、0質量%以上、0質量%超、0.005質量%以上、0.01質量%以上又は0.03質量%以上であり、また、0.2質量%未満、0.15質量%未満、0.1質量%未満又は0.08質量%以下であることが挙げられる。好ましい添加成分量として、0質量%以上0.2質量%未満、0質量%以上0.08質量%以下、0質量%以上0.04質量%以下、0質量%以上0.08質量%以下、0質量%超0.2質量%未満、又は、0.005質量%以上0.08質量%以下が例示できる。
【0077】
添加成分量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素及び酸化物換算した金属元素の合計[g]に対する、酸化物換算した添加成分[g]の割合[質量%]として求めればよい。
【0078】
本実施形態の粉末は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤を含むことで本実施形態の粉末を成形して得られる成形体(圧粉体)の保形性がより高くなる。結合剤は、セラミックスの成形に使用される公知の結合剤であればよく、有機結合剤であることが好ましい。有機結合剤として、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラート、ワックス及びアクリル系樹脂の群から選ばれる1種以上、好ましくはポリビニルアルコール及びアクリル系樹脂の1種以上であり、より好ましくはアクリル系樹脂である。本実施形態において、アクリル系樹脂は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくともいずれかを含む重合体である。具体的なアクリル系樹脂として、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸共重合体及びメタクリル酸共重合体の群から選ばれる1種以上、並びに、これらの誘導体、が例示できる。具体的なアクリル系樹脂の結合剤として、セラミックス粉末用に使用されるアクリル系樹脂、更にはAS-1100,AS-1800及びAS-2000の群から選ばれる1以上(いずれも製品名。東亜合成社製)が例示できる。
【0079】
粉末における結合剤の含有量は、粉末が所期の保形性を示す任意の量であればよいが、粉末の質量に対する、結合剤の質量割合として、0.5質量%以上又は1質量%以上であり、また、10質量%以下又は5質量%以下が例示でき、0.5質量%以上10質量%以下、又は、1質量%以上4質量%以下であることが好ましい。
【0080】
例えば、本実施形態の粉末が、安定化元素としてイットリウム及びエルビウム、遷移金属元素として鉄及びコバルト、添加成分としてアルミナを含むジルコニアの粉末である場合、その組成は以下から求められる。
安定化元素量[mol%]={(Y2O3+Er2O3)/(Y2O3+Er2O3+ZrO2)}×100、
イットリウム量[mol%]={Y2O3/(Y2O3+Er2O3+ZrO2)}×100、
エルビウム量[mol%]={Er2O3/(Y2O3+Er2O3+ZrO2)}×100、
遷移金属量[質量%]={(Fe2O3+Co3O4)/(Y2O3+Er2O3+ZrO2+Al2O3+Fe2O3+Co3O4}×100、
鉄量[質量%]={Fe2O3/(Y2O3+Er2O3+ZrO2+Al2O3+Fe2O3+Co3O4}×100、
コバルト量[質量%]={Co3O4/(Y2O3+Er2O3+ZrO2+Al2O3+Fe2O3+Co3O4}×100、及び
添加成分量(アルミナ量)={Al2O3/(Y2O3+Er2O3+ZrO2+Al2O3+Fe2O3+Co3O4}×100
【0081】
結合剤の含有量[質量%]は、大気中、250℃以上400℃以下で熱処理前後の本実施形態の粉末の質量から、[{(熱処理前の粉末の質量)-(熱処理後の粉末の質量)}/(熱処理前の粉末の質量)]×100により、求められる。なお、結合剤を含む粉末における安定化元素量、遷移金属量及び添加成分量も上述の方法で求めればよい。
【0082】
本実施形態の粉末は、そのXRDパターンにおいて、ジルコニアのXRDピークを有する。また、本実施形態の粉末は、そのXRDパターンにおいて、ジルコニア以外のXRDピークを有さないこと、すなわち、XRDパターンがジルコニアのXRDピークのみを有することが好ましい。本実施形態の粉末は、そのXRDパターンにおいて、遷移金属元素の化合物のXRDピークを有さないことがより好ましく、安定化元素の化合物及び遷移金元素の化合物のいずれのXRDピークも有さないことが更に好ましい。
【0083】
本実施形態の粉末のXRDパターンにおけるジルコニアのXRDピークは、正方晶、立方晶及び単斜晶の少なくともいずれかのジルコニアのXRDピークであればよく、少なくとも正方晶及び立方晶のジルコニアのXRDピークを有し、主として正方晶及び立方晶のジルコニアのXRDピークを含むことが好ましい。
【0084】
本実施形態の粉末のT+C相率は、50%以上(0.5以上)、55%以上、60%以上、90%以上又は92%以上であり、また、99%以下(0.99以下)又は95%以下であればよい。好ましいT+C相率として50%以上99%以下、90%以上99%以下、又は、92%以上99%以下が挙げられる。
【0085】
本実施形態の粉末におけるジルコニアの結晶相に占める単斜晶の割合(以下、「M相率」ともいう。)は、T+C相率及びM相率の和が1(100%)となる値であり、1%超又は5%超であればよく、また、50%未満、45%未満、40%未満又は10%未満であればよい。
【0086】
本実施形態の粉末のBET比表面積は8m2/g以上、9m2/g以上、9.5m2/g以上又は10m2/g以上であり、また、15m2/g以下、14m2/g以下又は13m2/g以下であればよい。歯科補綴材作製用のCAD/CAM加工に適した硬度を有する仮焼体が得られやすくなるため、好ましいBET比表面積として8m2/g以上15m2/g以下、9m2/g以上14m2/g以下、10m2/g以上13m2/g以下、又は、10m2/g以上12m2/g以下、が挙げられる。
【0087】
本実施形態の粉末の平均粒子径は0.35μm以上又は0.4μm以上であり、また、0.55μm以下又は0.5μm以下であればよい。好ましい平均粒子径として0.35μm以上0.55μm以下、又は、0.4μm以上0.5μm以下が例示できる。
【0088】
本実施形態の粉末は、軽装嵩密度が1.10g/cm3以上又は1.15g/cm3以上であればよく、また、1.40g/cm3以下又は1.35g/cm3以下であればよい。好ましい軽装嵩密度として、1.10g/cm3以上1.40g/cm3以下、1.20g/cm3以上1.30g/cm3以下、又は、1.25g/cm3以上1.30g/cm3以下が挙げられる。
【0089】
本実施形態の粉末は、粉末粒子及び顆粒粒子の少なくともいずれかを含む粉末であればよく、顆粒粒子を主成分とする粉末あってもよい。粉末粒子を構成する一次粒子及び二次粒子の形状は任意であり、不定形、略球形及び略多面形の群から選ばれる1以上が例示できる。
【0090】
本実施形態の粉末は、顆粒粉末であることが好ましい。顆粒粉末であることで、成形性及び操作性がより向上する。顆粒粉末は、平均顆粒径が30μm以上80μm以下、更には40μm以上50μm以下が例示できる。
【0091】
従来の遷移金属元素を含むジルコニアの粉末と比べ、本実施形態の粉末は、遷移金属元素を含んでいるにも関わらず、仮焼時、すなわち焼結温度未満における熱処理時の収縮が抑制されていることが好ましく、該粉末3.0gを、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して得られる円板状の成形体を、以下の条件で仮焼して仮焼体とした場合における、以下の式から求まる収縮率が4.0%未満であることが好ましく、3.9%以下、更には3.7%以下であることが好ましい。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
【0092】
収縮率[%]={(25-仮焼体の直径)[mm]/25[mm]}×100
・・・(1)
このようにして得られる仮焼体は、直径25mm以下、厚み2±0.5mmの円板状を有する。(1)式において、仮焼体の直径は、公知の方法で測定でき、ノギスを使用して円板の直径方向の長さを4点測定して得られる値の平均値を使用すればよい。
【0093】
本実施形態の粉末は、該収縮率が3.0%以上、3.3%以上又は3.5%以上であることが挙げられる。好ましい収縮率は、3.0%以上4.0%未満、3.3%以上3.9%以下、又は、3.5%以上3.9%以下が例示できる。
【0094】
本実施形態の粉末は公知のジルコニア粉末の用途に使用することができ、例えば、構造材料、光学材料、装飾材料、歯科材料、通信材料及び生体材料の群から選ばれる1以上の用途に使用される焼結体の前駆体として使用することができ、更には歯科材料の前駆体、また更には歯科補綴材の前駆体、また更にはクラウン及びブリッジの少なくともいずれかの歯科補綴材用の前駆体として適している。
【0095】
<粉末の製造方法>
本実施形態の粉末は上述の構成を有していれば、その製造方法は任意である。本実施形態の粉末の好ましい製造方法として、水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を含む組成物を乾燥して乾燥粉末を得る工程、及び、乾燥粉末を焼結温度未満で熱処理し仮焼粉末を得る工程、を有する粉末の製造方法、が挙げられる。
【0096】
本実施形態の製造方法は、水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を含む組成物を乾燥して乾燥粉末を得る工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)、を有する。これにより、水和ジルコニア(ZrO2・nH2O;但し、nは整数)の水和水及び溶媒が組成物から除去され、乾燥粉末(安定化元素源及び遷移金属元素源を含む、ジルコニアの粉末、すなわち、安定化元素源及び遷移金属元素源を含み、ジルコニアを主成分とする粉末)が得られる。
【0097】
乾燥工程では、水和ジルコニアと、安定化元素源及び遷移金属元素源とを共存させ、これを乾燥する。これにより、水和ジルコニアの前駆体と遷移金属元素源とを混合して水和ジルコニアを生成させる工程と異なり、水和ジルコニア生成に伴う難溶性の遷移金属元素化合物の生成が著しく抑制される。そのため、遷移金属元素源を0.05質量%以上、更には0.1質量%以上含む場合であっても、難溶性の遷移金属化合物の凝集が生じにくく、その結果、均質な加工性を有する仮焼体が得られると考えられる。乾燥工程を経て得られる乾燥粉末は、安定化元素及び遷移金属元素の局在が非常に少ないと考えられる。さらに、熱処理による安定化元素のジルコニアへの固溶に先立ち、遷移金属元素をジルコニアと共存させることができる。これらにより、安定化元素源及びジルコニアからなる乾燥粉末に遷移金属元素源を混合して得られる乾燥粉末と比べ、乾燥粉末中における遷移金属元素の凝集が著しく抑制されると考えられる。
【0098】
乾燥工程には、水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を供する。原料組成物に含まれる水和ジルコニア、安定化元素源及び遷移金属元素源は、それぞれ、ジルコニア、安定化元素及び遷移金属元素の量が上述の粉末の組成と同様な量であればよい。
【0099】
原料組成物の安定化元素源の含有量として2mol%以上又は2.5mol%以上であり、かつ、15mol%以下又は7.5mol%以下であることが例示でき、2mol%以上15mol%以下、2.5mol%以上15mol%以下、又は3.5mol%以上5.9mol%以下であることが好ましい。例えば、安定化元素源がイットリウム源である場合、安定化元素源の量(イットリウム源量)は、3mol%以上、3.3mol%以上、3.5mol%以上又は3.6mol%以上であり、また、6.5mol%以下、6mol%以下、5.5mol%以下又は5.2mol%以下であればよい。好ましい安定化元素源の量として、2mol%以上6.5mol%以下、3mol%以上6.5mol%以下、3.3mol%以上6mol%以下、3.5mol%以上5.5mol%以下、3.6mol%以上5.1mol%以下、又は、4.8mol%以上5.5mol%以下が挙げられる。
【0100】
原料組成物の遷移金属元素源の含有量として、0質量%超、0.01質量%以上、0.04質量%以上又は0.1質量%以上であり、また、3質量%以下、2質量%以下、2質量%未満、1質量%以下又は0.5質量%以下であること、が例示できる。好ましい遷移金属量として0質量%超3質量%以下、0.01質量%以上3質量%以下、0.04質量%以上2質量%以下、0.04質量%以上2質量%未満、又は、0.1質量%以上2質量%以下、が挙げられる。
【0101】
水和ジルコニアがより分散しやすくなるため、原料組成物のpHは7以下であることが好ましく、1以上又は3以上であり、また、7以下又は5以下であることがより好ましい。
【0102】
水和ジルコニアは、ジルコニウム塩を加水分解、共沈及び中和の群から選ばれる1以上により得られる水和ジルコニアであることが好ましく、加水分解により得られる水和ジルコニアあることがより好ましく、加水分解で得られる状態の水和ジルコニアであることが更に好ましい。加水分解等に供するジルコニウム塩は、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムの群から選ばれる1以上が例示でき、オキシ塩化ジルコニウムであることが好ましい。
【0103】
水和ジルコニアは、水和ジルコニアゾルとして原料組成物に含まれていることが好ましい。
【0104】
安定化元素源(以下、安定化元素がイットリウム等である場合は、それぞれ、「イットリウム源」等ともいう。)は、安定化元素を含む塩及び化合物の少なくともいずれであればく、上述の安定化元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が挙げられ、安定化元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物の群から選ばれる1以上、更には、安定化元素を含む水酸化物及び塩化物の少なくともいずれかであることが好ましい。さらに、安定化元素源は、上述の安定化元素の塩及び化合物の少なくともいずれかを含む溶液であってもよい。該溶液における溶媒は、アルコール及び水の少なくともいずれか、更には水、であればよい。
【0105】
イットリウム源として、例えば、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム、塩化イットリウム、炭酸イットリウム、硫酸イットリウム、硝酸イットリウム及び酢酸イットリウムの群から選ばれる1以上、更には酸化イットリウム、水酸化イットリウム、オキシ水酸化イットリウム及び塩化イットリウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化イットリウム及び塩化イットリウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0106】
エルビウム源として、例えば、酸化エルビウム、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム、塩化エルビウム、炭酸エルビウム、硫酸エルビウム、硝酸エルビウム及び酢酸エルビウムの群から選ばれる1以上、更には酸化エルビウム、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム及び塩化エルビウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化エルビウム及び塩化エルビウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0107】
テルビウム源として、例えば、酸化テルビウム、水酸化テルビウム、オキシ水酸化テルビウム、塩化テルビウム、炭酸テルビウム、硫酸テルビウム、硝酸テルビウム及び酢酸テルビウムの群から選ばれる1以上、更には酸化テルビウム、水酸化テルビウム、オキシ水酸化テルビウム及び塩化テルビウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化テルビウム及び塩化テルビウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0108】
カルシウム源として、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、オキシ水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム及び酢酸カルシウムの群から選ばれる1以上、更には酸化カルシウム、水酸化カルシウム、オキシ水酸化カルシウム及び塩化カルシウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化カルシウム及び塩化カルシウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0109】
マグネシウム源として、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、オキシ水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及び酢酸マグネシウムの群から選ばれる1以上、更には酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、オキシ水酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの群から選ばれる1以上、また更には酸化マグネシウム及び塩化マグネシウムの少なくともいずれか、が挙げられる。
【0110】
原料組成物は遷移金属元素源(以下、遷移金属元素が鉄等である場合は、それぞれ、「鉄源」等ともいう。)を含む。遷移金属元素源に含まれる遷移金属元素は上述の遷移金属元素であればよい。これにより、ジルコニアの粉末や、安定化元素含有ジルコニアの粉末に遷移金属元素源を混合する場合と比べて、遷移金属元素の粗大な凝集が抑制される。
【0111】
遷移金属元素源は、原料組成物の溶媒に溶解する遷移金属元素の塩及び化合物の少なくともいずれかであればよく、上述の遷移金属元素の酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上が例示でき、上述の遷移金属元素の水酸化物、オキシ水酸化物、塩化物及び酢酸塩の群から選ばれる1以上、更には上述の遷移金属元素の酸化物及び塩化物の少なくともいずれかであることが好ましい。さらに、遷移金属元素源は、上述の遷移金属元素の塩及び化合物の少なくともいずれかを含む溶液であってもよい。該溶液における溶媒は、アルコール及び水の少なくともいずれか、更には水、であればよい。遷移金属元素源は、3d遷移金属元素及びジルコニウム以外の4d遷移金属元素の少なくともいずれかを含む塩又は化合物であればよく、例えば、チタン源、クロム源、マンガン源、鉄源、コバルト源、ニッケル源及び銅源の群から選ばれる1つ以上、更にはチタン源、クロム源、マンガン源、鉄源、コバルト源、ニッケル源又は銅源が挙げられる。好ましい遷移金属源として、マンガン源、鉄源、コバルト源及びニッケル源の群から選ばれる1つ以上、更にはマンガン源、鉄源、コバルト源又はニッケル源、また更にはコバルト源及び鉄源の少なくともいずれか、また更にはコバルト源及び鉄源、また更には鉄源が挙げられる。
【0112】
チタン源として、例えば、酸化チタン(TiO2)、水酸化チタン(Ti(OH)2)、オキシ水酸化チタン(TiOOH)、塩化チタン(II)(TiCl2)、塩化チタン(III)(TiCl3)、塩化チタン(IV)(TiCl4)、硫酸チタン(TiSO4)、硝酸チタン(Ti(NO3)2)及び酢酸チタン(TiCOOH)の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0113】
クロム源として、例えば、酸化クロム(II)(CrO)、酸化クロム(III)(Cr2O3)、二酸化クロム(CrO2)、四三酸化クロム(Cr3O4)、オキシ水酸化クロム(CrOOH)、塩化クロム(II)(CrCl2)、塩化クロム(III)(CrCl3)、炭酸クロム(Cr2(CO3)3)、硫酸クロム(CrSO4)、硝酸クロム(Cr(NO3)2)及び酢酸クロム(Cr(COOH)2)の群から選ばれる1以上、更には水酸化クロム及び酢酸クロムの少なくともいずれかが挙げられる。
【0114】
マンガン源として、例えば、酸化マンガン(II)(MnO)、酸化マンガン(III)(Mn2O3)、二酸化マンガン(MnO2)、四三酸化マンガン(Mn3O4)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)、塩化マンガン(MnCl2)、炭酸マンガン(MnCO3)、硫酸マンガン(MnSO4)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)及び酢酸マンガン(Mn(COOH)2)の群から選ばれる1以上、更には酸化マンガン、二酸化マンガン、四三酸化マンガン、水酸化マンガン及び酢酸マンガンの群から選ばれる1つ以上、また更には二酸化マンガン、四三酸化マンガン及び水酸化マンガンの群から選ばれる1つ以上、また更には四三酸化マンガンが挙げられる。
【0115】
鉄源として、例えば、酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、四三酸化鉄(Fe3O4)、水酸化鉄(II)(Fe(OH)2)、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3)、塩化鉄(II)(FeCl2)及び塩化鉄(III)(FeCl3)、炭酸鉄(FeCO3)の群から選ばれる1以上が挙げられ、水酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)、塩化鉄(III)及び塩化鉄(II)の群から選ばれる1以上であることが好ましく、塩化鉄(III)であることがより好ましい。
【0116】
コバルト源として、例えば、酸化コバルト(II)(CoO)、酸化コバルト(IV)(CoO2)、四三酸化コバルト(Co3O4)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)、塩化コバルト(CoCl2)、炭酸コバルト(CoCO3)、硫酸コバルト(CoSO4)、硝酸コバルト(Co(NO3)2)及び酢酸コバルト(CoCOOH)の群から選ばれる1以上が挙げられ、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(IV)及び四三酸化コバルトの群から選ばれる1つ以上が好ましく、四三酸化コバルトがより好ましい。
【0117】
ニッケル源として、例えば、酸化ニッケル(II)(NiO)、酸化ニッケル(IV)(NiO2)、四三酸化ニッケル(Ni3O4)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、塩化ニッケル(NiCl2)、炭酸ニッケル(NiCO3)、硫酸ニッケル(NiSO4)、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)及び酢酸ニッケル(NiNIOH)の群から選ばれる1以上が挙げられ、酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(IV)及び水酸化ニッケルの群から選ばれる1以上が好ましく、酸化ニッケル(II)がより好ましい。
【0118】
銅源として、例えば、酸化銅(II)(CuO)、酸化銅(IV)(CuO2)、四三酸化銅(Cu3O4)、水酸化銅(Cu(OH)2)、オキシ水酸化銅(CuOOH)、塩化銅(CuCl2)、炭酸銅(CuCO3)、硫酸銅(CuSO4)、硝酸銅(Cu(NO3)2)及び酢酸銅(CuCUOH)の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0119】
原料組成物は溶媒を含み、水和ジルコニア、安定化元素源及び遷移金属元素源が溶媒中に分散した状態であればよい。原料組成物は、いわゆる水和ジルコニア溶液、更には水和ジルコニア水溶液、また更には水和ジルコニアスラリーとみなしてもよい。
【0120】
溶媒は、水和ジルコニアが分散する溶媒であればよく、極性溶媒及び非極性溶媒の少なくともいずれかであればよく、アルコール及び水の少なくともいずれか、更にはエタノール及び水の少なくともいずれか、また更には水であることが好ましい。原料組成物に含まれる水として、純水及びイオン交換水少なくともいずれかが例示できる。さらに、乾燥工程において、ジルコニウム塩を加水分解、共沈及び中和の群から選ばれる1以上により得られる水和ジルコニア及びその溶媒を含む溶液を、水和ジルコニア及び溶媒として供してもよい。
【0121】
原料組成物の製造方法は、水和ジルコニア、安定化元素源及び遷移金属元素源が均一に混合される方法であれば任意であり、例えば、(1)水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を混合する方法、(2)水和ジルコニア溶液と、安定化元素源及び遷移金属元素源と、を混合する方法、(3)水和ジルコニア溶液と、安定化元素源を含む溶液と、遷移金属元素源を含む溶液と、を混合する方法、(4)水和ジルコニア溶液と、安定化元素源を含む溶液と、遷移金属元素源と、を混合する方法、(5)水和ジルコニア溶液と、安定化元素源と、遷移金属元素源を含む溶液と、を混合する方法、が例示できる。遷移金属元素源の分散性が高くなりやすいため、好ましい原料組成物の製造方法として、水和ジルコニア溶液と、遷移金属元素源を含む溶液と、安定化元素源と、を混合する工程を有する製造方法、更にはジルコニウム塩を加水分解して得られる水和ジルコニア溶液と、遷移金属元素源を含む溶液と、安定化元素源と、を混合する工程を有する製造方法、が挙げられる。
【0122】
乾燥工程における乾燥方法は、原料組成物から溶媒及び水和ジルコニアの水和水が除去される方法であればよい。乾燥条件として以下の条件が挙げられる。
乾燥雰囲気 : 大気雰囲気、好ましくは大気流通雰囲気
乾燥温度 : 150℃以上、160℃以上又は180℃以上、かつ、
210℃以下、200℃以下又は190℃以下
【0123】
原料組成物の乾燥時間は、乾燥工程に供する原料組成物の量及び乾燥炉の特性により適宜設定すればよいが、例えば、5時間以上又は10時間以上であり、また、75時間以下又は50時間以下であることが挙げられる。
【0124】
好ましい乾燥条件として、
乾燥雰囲気 : 大気雰囲気
乾燥温度 : 160℃以上200℃以下
が挙げられる。
【0125】
本実施形態の製造方法は、乾燥粉末を焼結温度未満で熱処理し仮焼粉末を得る工程、(以下、「粉末仮焼工程」ともいう。)、を有する。粉末仮焼工程を経ることにより、安定化元素がジルコニアに効率よく固溶する。これに加え、成形体(圧粉体)とする前にこのような熱履歴を経ることで、成形後の熱処理における遷移金属元素の凝集が抑制される。
【0126】
粉末仮焼工程では、焼結温度未満の熱処理温度で、乾燥後の組成物を熱処理すればよい。熱処理における熱処理温度は、安定化元素のジルコニアへの固溶が促進する温度であればよいが、所期のBET比表面積に応じて、焼結温度未満の任意の温度を適用すればよい。熱処理温度が高くなるほど、BET比表面積が低下する傾向がある。このような熱処理温度として1200℃以下、1200℃未満又は1150℃以下が例示できる。安定化元素のジルコニアへの固溶がより促進されるため、熱処理温度は1000℃以上、1025℃以上又は1050℃以上であることが好ましい。焼結時に遷移金属元素の局所的な凝集が生じにくくなるため、熱処理温度は1025℃以上、1075℃以上、又は、1100℃以上であることが好ましい。
【0127】
熱処理温度以外の熱処理条件は、安定化元素のジルコニアへの固溶が促進される条件で行えばよく、以下の条件が例示できる。
熱処理雰囲気 :酸化雰囲気、好ましくは大気雰囲気、
熱処理温度 :1000℃以上、1000℃超、1025℃以上、1050℃以上又は1100℃以上、かつ、
1200℃以下又は1150℃以下
【0128】
なお、大気雰囲気とは、主として窒素及び酸素からなり、酸素濃度が18~23体積%である窒素雰囲気であることが挙げられ、水分を含んでいてもよい。
【0129】
熱処理時間は、熱処理に供する乾燥粉末の量及び使用する熱処理炉の特性に応じて適宜調整すればよいが、30分以上又は1時間以上であり、かつ、10時間以下又は5時間以下であることが例示できる。
【0130】
好ましい熱処理条件として、
熱処理雰囲気 :大気雰囲気
熱処理温度 :1075℃以上1150℃以下、更には1100℃以上1150℃以下
が挙げられる。
【0131】
粉末仮焼工程により得られる仮焼粉末を本実施形態の粉末としてもよい。
【0132】
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、仮焼粉末を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」ともいう。)、及び、仮焼粉末を顆粒化し顆粒粉末を得る工程(以下、「顆粒化工程」ともいう。)の少なくともいずれか、を有していてもよい。
【0133】
粉砕工程では、仮焼粉末を粉砕する。これにより、粉末の粒子径を調整することができる。粉砕は、仮焼粉末が所期の粒子径となる方法を適宜使用することができ、乾式粉砕及び湿式粉砕の少なくともいずれかであればよい。粉砕効率が高いことから、粉砕は湿式粉砕、更には振動ミル、ボールミル及びビーズミルの群から選ばれる1以上による粉砕、また更にはボールミル及びビーズミルによる粉砕、また更にはボールミルであることが好ましい。
【0134】
粉砕時間は粉砕工程に供する仮焼粉末の量及び粉砕方法により適宜設定すればよい。粉砕時間が長くなるほど平衡に達するまで粒子径は小さくなる。
【0135】
なお、乾燥工程に変えて、又は、乾燥工程に加え、粉砕工程及び顆粒化工程の少なくともいずれかにおいて、仮焼粉末と添加成分源を混合してもよく、粉砕工程において仮焼粉末と添加成分源とを混合してもよい。
【0136】
アルミナ等の添加成分を含む粉末を製造する場合、乾燥工程、粉末仮焼工程、粉砕工程及び顆粒化工程の群から選ばれる1以上の工程において、該添加成分及びその前駆体の少なくともいずれか(以下、添加成分源」ともいい、添加成分源がアルミナ等である場合、それぞれ「アルミナ源」等ともいう。)を混合すればよく、乾燥工程に供する原料組成物及び粉砕工程に供する仮焼粉末の少なくともいずれかに添加成分源を混合することが好ましく、粉砕工程に供する仮焼粉末に添加成分源を混合することがより好ましい。
【0137】
添加成分源として、添加成分、その水和物及びそのゾル、並びに、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)の群から選ばれる1以上を含む水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩及び酢酸塩の群から選ばれる1以上、が例示できる。
【0138】
アルミナ源として、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム及び硫酸アルミニウムの群から選ばれる1以上が挙げられ、アルミナが好ましい。
【0139】
原料組成物が含む添加成分源の量は、上述の添加成分量と同等の量であればよく、例えば、0質量%以上、0質量%超、0.005質量%以上、0.01質量%以上又は0.03質量%以上であり、また、0.2質量%未満、0.15質量%未満、0.1質量%未満又は0.08質量%以下であればよい。好ましい添加成分源の量として0質量%以上0.2質量%未満、0質量%以上0.1質量%未満、又は、0質量%超0.08質量%以下が例示できる。
【0140】
添加成分源量は、原料組成物中の、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素及び酸化物換算した金属元素の合計[g]に対する、酸化物換算した添加成分[g]の割合[質量%]として求めればよい。
【0141】
顆粒化工程では、仮焼粉末(粉砕工程を有する場合は粉砕工程後の仮焼粉末)を顆粒化し顆粒粉末を得る。これにより、粉末の流動性を制御することができ、更には粉末の成形性が向上する。顆粒化は、粉末が緩慢凝集し顆粒粉末となる任意の造粒法であればよく、噴霧造粒法が例示できる。
【0142】
噴霧造粒法は、仮焼粉末(粉砕工程を有する場合は粉砕工程後の仮焼粉末)を溶媒に分散させてスラリーを得、これを造粒すればよい。所期の成形性を示す顆粒粉末とするため、必要に応じて、該スラリーは上述の結合剤を含んでいてもよい。
【0143】
<仮焼体・焼結体>
本実施形態の粉末は、仮焼体及び焼結体の少なくともいずれかの前駆体として使用することができる。
【0144】
仮焼体は、本実施形態の粉末を含む成形体を仮焼する工程(以下、「仮焼工程」ともいう。)、を有する仮焼体の製造方法、により得られる。また、焼結体は、本実施形態の粉末を含む成形体、及び、該成形体を仮焼して得られる仮焼体の少なくともいずれかを焼結する工程(以下、「焼結工程」ともいう。)、を有する焼結体の製造方法、により得られる。
【0145】
仮焼工程及び焼結工程の少なくともいずれか(以下、「仮焼工程等」ともいう。)に供する成形体は、本実施形態の粉末を含む成形体、更には本実施形態の粉末を主成分とする成形体であり、本実施形態の粉末からなる成形体であることが好ましい。
【0146】
成形体の形状は、円板状、立方体状、直方体状、多面体状、略多面体状、円柱状及び錐体状の群から選ばれる1以上、その他、目的や用途に応じた任意の形状であればよい。
【0147】
成形体の実測密度は、2.4g/cm3以上又は3.1g/cm3以上であり、また、3.7g/cm3以下又は3.5g/cm3以下が例示できる。例えば、仮焼工程等に供する成形体の実測密度は、2.4g/cm3以上3.7g/cm3以下、又は、3.2g/cm3以上3.5g/cm3以下が挙げられる。
【0148】
成形体は、本実施形態の粉末を成形する工程、を含む製造方法、により製造することができる。成形方法は、本実施形態の粉末を圧粉体とし得る任意の成形方法であればよく、一軸加圧成形、冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)処理、スリップキャスティング、シート成形、泥漿鋳込み成形及び射出成形の群から選ばれる1以上の方法が例示でき、スリップキャスティング、射出成形、一軸加圧成形及びCIP処理の群から選ばれる1以上が好ましい。簡便であるため、成形方法は、一軸加圧成形及びCIP処理の少なくともいずれかであることが好ましく、本実施形態の粉末を一軸加圧成形し、得られる一次成形体をCIP処理する方法、がより好ましい。一軸加圧成形における圧力は15MPa以上150MPa以下であり、CIPの圧力は90MPa以上400MPa以下が例示できる。
【0149】
仮焼体は、成形体が焼結温度未満の温度で熱処理され状態の組成物であればよく、本実施形態の粉末の融着粒子から構成される一定の形状を有する組成物である。本実施形態の粉末から得られる仮焼体は、従来の粉末から得られる仮焼体と比べ、焼結炉の温度ムラの影響を受けにくい。その結果、複数の仮焼体を一度に焼結した場合であっても、得られる焼結体間の色調差が小さくなりやすい。例えば、当該仮焼体を同一のロットで焼結して得られる焼結体間の彩度C*の色調差が0以上0.1以下、0以上0.08以下、0超0.08以下、又は、0.01以上0.07以下であることが挙げられる。
【0150】
仮焼体の実測密度は、2.3g/cm3以上又は3.0g/cm3以上であり、また、3.6g/cm3以下又は3.4g/cm3以下であることが例示できる。好ましい仮焼体の実測密度として、3.0g/cm3以上3.4g/cm3以下、又は、3.3g/cm3以上3.4g/cm3以下が例示できる。
【0151】
仮焼体のビッカース硬度は20HV(=kgf/mm2)以上、25HV以上、30HV以上又は50HV以上であり、また、70HV以下、65HV以下又は60HV以下が挙げられる。歯科補綴材用のCAD/CAM加工に供する際に適した加工性を有するため、好ましいビッカース硬度として50HV以上70HV以下、50HV以上65HV以下、又は、50HV以上60HV以下が挙げられる。
【0152】
仮焼体の結晶相は、正方晶及び立方晶の少なくともいずれかを主相とすることが好ましい。
【0153】
仮焼方法は、所期の特性を有する仮焼体が得られれば任意の方法であればよい。以下の方法及び条件が例示できる。
仮焼雰囲気: 還元性雰囲気以外の雰囲気、好ましくは酸化雰囲気、より好ましくは大気雰囲気
仮焼温度 : 800℃以上、900℃以上又は950℃以上、かつ、
1200℃以下、1150℃以下又は1100℃以下
昇温速度 : 10℃/時間以上又は30℃/時間以上、かつ、
120℃/時間以下又は80℃/時間以下
【0154】
仮焼温度における保持時間(以下、「仮焼時間」ともいう。)は、仮焼に供する成形体の大きさ、量及び仮焼炉の特性により適宜調整すればよく、例えば、0.5時間以上又は1時間以上であり、また、7時間以下又は3時間以下であればよい。
【0155】
好ましい仮焼条件として、
仮焼雰囲気: 大気雰囲気
仮焼温度 : 900℃以上1100℃以下
が挙げられる。
【0156】
焼結体は、成形体及び仮焼体の少なくともいずれか(以下、「成形体等」ともいう。)を焼結することで得られる。
【0157】
焼結体の全光線透過率は所望の色調と視認されうる値であればよく、10%以上、15%以上又は25%以上であり、また、40%以下、35%以下又は30%以下であることが例示できる。
【0158】
焼結体の色調は所望の色調であればよく、その透光性により視認される色調は異なるが、黄色系、緑色系、灰色系及び青色系の群から選ばれる1以上の呈色が例示できる。例えば、上述の全光線透過率の範囲における黄色系の色調として、以下のL*、a*及びb*を満足する色調が挙げられる。
L* :55以上、60以上又は63以上、かつ、
85以下、80以下又は77以下
a* :-5以上、-4以上又は-3以上、かつ、
7以下、6以下又は5以下
b* :5以上、6以上又は7以上、かつ、
35以下、30以下又は25以下
【0159】
焼結体の三点曲げ強度は、550MPa以上、600MPa以上又は800MPa以上であり、また、1250MPa以下、1200MPa未満、1100MPa未満又は1000MPa以下であることが例示できる。歯科用補綴材として使用できるため、三点曲げ強度は600MPa以上1200MPa以下であることが好ましい。
【0160】
焼結方法は、成形体等の焼結が進行すれば任意の焼結方法が適用でき、加圧焼結、真空焼結及び常圧焼結の群から選ばれる1以上の焼結方法であればよいが、歯科補綴材として適した焼結体を製造する場合、焼結方法は、常圧焼結が好ましい。常圧焼結により、常圧焼結体が得られる。
【0161】
常圧焼結の条件として、以下の条件が例示できる。
熱処理雰囲気 :還元雰囲気以外の雰囲気、好ましくは酸化雰囲気、
より好ましくは大気雰囲気
熱処理温度 :1200℃超、1300℃以上又は1400℃以上、かつ、
1600℃以下、1550℃以下又は1500℃以下
【0162】
熱処理温度での保持時間は、焼結に供する成形体等の大きさ及び量、熱処理温度、並びに、焼結炉の特性に応じて任意に設定すればよく、例えば、30分以上又は1時間以上であり、また、5時間以下、3時間以下又は2.5時間以下であること、が挙げられる。
【0163】
熱処理温度までの昇温速度は50℃/時間以上、100℃/時間以上又は150℃/時間以上であり、また、800℃/時間以下又は700℃/時間以下が例示できる。
【0164】
短時間で焼結可能な焼結炉を使用して焼結する場合、熱処理温度での保持時間は1分以上又は5分以上であり、また、1時間以下又は30分以下であること、が挙げられる。この場合、熱処理温度までの昇温速度は30℃/分以上又は50℃/分以上であり、また、300℃/分又は250℃/分が挙げられる。
<付記>
本開示の要旨は、以下の[1’]乃至[14’]群から選ばれるいずれか1つ以上とみなしてもよい。
[1’] 安定化元素及び遷移金属元素を含むジルコニアの粉末であって、該粉末3.0gを、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して得られる円板状の成形体を、以下の条件で仮焼して仮焼体とした場合における、以下の式から求まる収縮率が4.0%未満である、粉末。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
収縮率[%]={(25-仮焼体の直径)[mm]/25[mm]}×100
・・・(1)
[2’] 前記遷移金属元素が、3d遷移金属元素及びジルコニウム以外の4d遷移金属元素の少なくともいずれかである、上記[1’]に記載の粉末。
[3’] 前記遷移金属元素が、ニッケル、コバルト、マンガン又は鉄である、上記[1’]に記載の粉末。
[4’] 前記遷移金属元素が鉄である、上記[1’]に記載の粉末。
[5’] 遷移金属元素の含有量が0質量%超、0.01質量%以上、0.04質量%以上である、上記[1’]乃至[4’]のいずれかひとつに記載の粉末。
[6’] 前記安定化元素がイットリウム(Y)である上記[1’]乃至[5’]のいずれかひとつに記載の粉末。
[7’] 前記安定化元素の含有量が3.5mol%以上5.5mol%以下、である上記[1’]乃至[6’]のいずれひとつに記載の粉末。
[8’] BET比表面積が8m2/g以上15m2/g以下である、上記[1’]乃至[7’]のいずれかひとつに記載の粉末。
[9’] 軽装嵩密度が1.10g/cm3以上1.40g/cm3以下である、上記[1’]乃至[8’]のいずれかひとつに記載の粉末。
[10’] 顆粒粉末である、上記[1’]乃至[9’]のいずれかひとつに記載の粉末。
[11’] 遷移金属元素/ジルコニウムを0.005間隔でプロットした元素比の頻度分布において、遷移金属元素/ジルコニウムの最小値と最大値の差が0.25未満である、上記[1’]乃至[10’]のいずれかひとつに記載の粉末。
[12’] 水和ジルコニア、安定化元素源、遷移金属元素源及び溶媒を含む組成物を、大気雰囲気、乾燥温度160℃以上200℃以下で乾燥して乾燥粉末を得る工程、及び、乾燥粉末を1200℃以下で熱処理し仮焼粉末を得る工程、を有し、前記安定化元素源がイットリウム源、前記遷移金属元素源が3d遷移金属元素及びジルコニウム以外の4d遷移金属元素の少なくともいずれかを含む塩又は化合物、溶媒が水である、上記[1’]乃至[11’]のいずれかひとつに記載の粉末の製造方法。
[13’] 上記[1’]乃至[11’]のいずれかひとつに記載の粉末を含む成形体。
[14’] 上記[13’]に記載の成形体を仮焼する工程、を有する仮焼体の製造方法。
[15’] 上記[1’]乃至[11’]のいずれかひとつに記載の粉末を含む成形体、及び、該成形体を仮焼して得られる仮焼体、の少なくともいずれかを焼結する工程、を有する焼結体の製造方法。
【実施例】
【0165】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0166】
(組成分析)
組成はICP分析により測定した。分析の前処理として、試料粉末は大気雰囲気、1000℃で1時間、熱処理した。
【0167】
(BET比表面積)
BET比表面積は、自動比表面積自動測定装置(装置名:トライスターII 3020、島津製作所製)を使用し、JIS R 1626に準じ、BET5点法により測定した。測定条件を以下に示す。
吸着媒体 :N2
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
【0168】
(平均粒子径)
平均粒子径は、マイクロトラック粒度分布計(装置名:MT3300EXII、マイクロトラック・ベル社製)を使用し、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定により測定した。測定条件を以下に示す。
【0169】
光源 :半導体レーザー(波長:780nm)
電圧 :3mW
測定試料 :粉砕スラリー
ジルコニアの屈折率 :2.17
溶媒(水)の屈折率 :1.333
計算モード :HRA
前処理として、試料粉末を蒸留水に懸濁させてスラリーとした後、これを超音波ホモジナイザー(装置名:US-150T、日本精機製作所製)を用いて3分間分散処理した。
【0170】
(実測密度)
実測密度[g/cm3]は、試料体積[cm3]に対する質量[g]から求めた。質量は、試料を秤量して得られた質量を使用した。体積は、成形体及び仮焼体については形状測定により求まる体積を使用し、焼結体についてはJIS R 1634に準じたアルキメデス法により求める体積を使用した。アルキメデス法は、溶媒としてイオン交換水を使用し、また、前処理は煮沸法により行った。
【0171】
(収縮率)
粉末の収縮率は、粉末3.0gを、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して得られる円板状の成形体を、以下の条件で仮焼して作製された、直径25mm以下、厚み2±0.5mmの円板状を有する仮焼体を使用して測定した。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時;
【0172】
収縮率[%]={(25-仮焼体の直径)[mm]/25[mm]}×100
・・・(1)
仮焼体の直径は、ノギスを使用して円板の直径方向の長さを4点測定して得られた値の平均値を使用した。
【0173】
(全光線透過率)
全光線透過率は、ヘーズメータ(装置名:NDH4000、日本電色社製)を用い、D65光源を使用して、JIS K 7361-1に準拠した方法によって測定した。測定試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように両面研磨した、厚み1.0±0.1mmの円板状の焼結体を使用した。
【0174】
(色調)
色調は分光測色計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ製)を使用し、D65光源を使用して、SCIモードにて測定した。測定試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように両面研磨した、厚み1.0±0.1mmの円板状の焼結体を使用した。測定試料を黒色板の上に配置し、研磨後の両表面を評価面とし、それぞれ、色調(L*、a*及びb*)を測定した(いわゆる黒バック測定)。また、a*及びb*から彩度C*を求めた。
【0175】
(三点曲げ強度)
JIS R 1601に準じた方法によって、三点曲げ強度を測定した。測定試料は、幅4mm、厚み3mm及び長さ45mmの柱形状とした。測定は、支点間距離30mmとし、測定試料の水平方向に荷重を印加して行った。
【0176】
(ビッカース硬さ)
ビッカース硬度は、ビッカース試験機(装置名:Q30A、Qness社製)を使用し、以下の条件で、圧子を静的に測定試料表面に押し込み、測定試料表面に形成した押込み痕の対角長さを計測した。得られた対角長さを使用して、上述のビッカース硬度の式からを求めた。
【0177】
測定試料 : 厚み3.0±0.5mmの円板状
測定荷重 : 1kgf
測定に先立ち、測定試料は#800の耐水研磨紙で測定面を0.1mm研磨した仮焼体を使用した。
【0178】
(元素頻度分布)
元素頻度分布は、波長分散型電子線マイクロアナライザー(装置名:EPMA1610、島津製作所製)、又は、電界放出型波長分散型電子線マイクロアナライザー(装置名:JXA-iHP200F、日本電子社製)を使用し、以下の条件により得られるEPMAスペクトルから求めた。
加速電圧 :15kV
照射電流 :50nA
ビーム径 :1μm
取込時間 :50msec
倍率 :5000倍
分析面積 :45.32μm×45.32μm~51.20μm×51.20μm
【0179】
粉末試料をエポキシ樹脂で包埋後、イオンミリングにより切断した。切断後に露出した粉末の断面を観察面とし、これに金(Au)蒸着することで測定試料とした。
【0180】
EPMAスペクトルは、SEM観察図を50,000~66,000の領域に分割し、分割後の各領域を測定点とし、各測定点のEPMAスペクトルのジルコニウム及び遷移金属元素(M)の特性X線の強度からM/Zrを求めた。得られたM/Zrの頻度を上述のようにプロットし、元素頻度分布を得た。得られた元素頻度分布からM/Zr範囲、M/Zrの最小値、M/Zrの最大値、高金属頻度及び低金属頻度を求めた。
【0181】
(標準試料)
標準試料として、市販のジルコニア粉末を使用して焼結体を作製した。すなわち、市販のジルコニア粉末(製品名:Zpex、東ソー社製)を3.0g秤量し、直径25mmの金型に充填し、圧力19.6MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して円板状の成形体を得た。
【0182】
得られた成形体を、以下の条件で仮焼して仮焼体を得た。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
【0183】
得られた仮焼体を、以下の条件で焼結して全光線透過率が42%である焼結体を得、これを標準試料とした。
焼結方法 :常圧焼結
焼結温度 :1450℃
焼結時間 :2時間
昇温速度 :600℃/時
焼結雰囲気:大気雰囲気
【0184】
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解して得られた水和ジルコニアの水溶液5Lに、イットリウム濃度が4.0mol%となるように塩化イットリウムを添加及び混合して混合水溶液を得た。混合後、鉄濃度がFe2O3換算で0.2質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加及び混合し、原料組成物(ゾル水溶液)を得た。
【0185】
原料組成物を、大気雰囲気、180℃で乾燥して水分を除去して得られた乾燥粉末を大気雰囲気、1125℃で焼成することにより、仮焼粉末(0.2質量%の鉄を含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリウム含有ジルコニアの粉末)を得た。
【0186】
得られた仮焼粉末199.9g、α-アルミナ粉末0.1g及び純水を、直径2mmのジルコニアボールを粉砕媒体とするボールミルで粉砕混合してスラリーを得た。該スラリーに、スラリー中の粉末の質量に対する結合剤の質量割合が3質量%となるようにアクリル系樹脂を添加した後、大気雰囲気、180℃で噴霧乾燥し、3質量%のアクリル系樹脂、0.2質量%の鉄及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0187】
得られた顆粒粉末3.0gを、直径25mmの金型に充填し、圧力49MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196MPaでCIP処理して円板状の成形体(圧粉体)を得た。
【0188】
得られた成形体の実測密度は3.32g/cm3であった。当該成形体を、以下の条件で仮焼して本実施例の仮焼体を得た。
仮焼温度 :1000℃
仮焼時間 :1時間
昇温速度 :50℃/時
仮焼雰囲気:大気雰囲気
降温速度 :300℃/時
【0189】
参考例1
鉄の代わりにコバルト濃度がCo3O4換算で0.05質量%となるように、四三酸化コバルトを添加したこと、及び、仮焼温度を1140℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.05質量%のコバルト及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本参考例の粉末とした。
【0190】
本参考例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0191】
参考例2
鉄の代わりにマンガン濃度がMn3O4換算で0.05質量%となるように、四三酸化マンガン(Mn3O4)を添加したこと、及び、仮焼温度を1140℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.05質量%のマンガン及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本参考例の粉末とした。
【0192】
本参考例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0193】
参考例3
塩化鉄の代わりにニッケル濃度がNiO換算で0.05質量%となるように、酸化ニッケル(NiO)を添加したこと、及び、仮焼温度を1140℃にしたこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.05質量%のニッケル及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本参考例の粉末とした。
【0194】
本参考例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0195】
比較例1
塩化鉄(III)水溶液を加えなかったこと、及び、仮焼温度を1175℃にしたこと以外は実施例1と同様な方法で原料組成物を得、これを乾燥及び仮焼して仮焼粉末を得た。
【0196】
得られた仮焼粉末と、水酸化酸化鉄(III)をボールミルで混合し、0.2質量%の鉄を含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末を得た。
【0197】
得られた粉末199.9gを使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.2質量%の鉄及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本比較例の粉末とした。
【0198】
本比較例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.33g/cm3であった。
【0199】
比較例2
水酸化酸化鉄(III)の代わりに、Co3O4換算でコバルト含有量0.05質量%となるように四三酸化コバルト(Co3O4)を使用したこと以外は比較例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.05質量%のコバルト及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末を得、これを本比較例の粉末とした。
【0200】
本比較例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0201】
比較例3
水酸化酸化鉄(III)の代わりに、Mn3O4換算でマンガン含有量が0.05質量%となるように四三酸化マンガン(Mn3O4)を使用したこと以外は比較例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.05質量%のマンガン及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が4.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末を得、これを本比較例の粉末とした。
【0202】
本比較例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0203】
実施例、参考例及び比較例について、粉末の評価結果を表1及び表2に示した。
【0204】
【0205】
遷移金属元素として鉄を含む実施例1及び比較例1、遷移金属元素としてコバルトを含む参考例1及び比較例2、並びに、遷移金属元素としてマンガンを含む参考例2及び比較例3は、それぞれ、同様な粉末物性を有することが確認できた。
【0206】
また、比較例の仮焼体は、実施例の仮焼体と比べ、収縮率が大きく、仮焼により緻密化がより進行していることが確認できる。これより実施例の粉末は、比較例の粉末と比べて、仮焼時の熱収縮が抑制されていることが確認できる。
【0207】
【0208】
上表より、実施例1
、参考例1乃至
3の粉末は、いずれもM/Zr範囲が0.25未満、更には0.2以下であり、比較例の粉末と比べて遷移金属元素が均一に分散していることが確認できる。
さらに、実施例1の粉末遷移金属元素(鉄)の元素マッピング(鉄マッピング)は、ほぼ均一な分布状態を示しており(
図4)、鉄の凝集粒子を有さないことが確認できる。一方、比較例1の粉末の遷移金属元素の元素マッピング(鉄マッピング)では、不定形状の多数のスポットが確認され、鉄の凝集粒子が存在することが確認できる(
図5)。また、鉄と同様に、コバルト(
図6、
参考例1)、マンガン(
図7、
参考例2)及びニッケル(
図8、
参考例3)はそれぞれ均一に分布していることが確認できる。
【0209】
実施例、参考例及び比較例の仮焼体の評価結果を表3に示した。
【0210】
【0211】
上表より、実施例及び参考例の粉末から得られた仮焼体のビッカース硬度は65Hv以下であり、比較例1の粉末から得られた仮焼体よりビッカース硬度が低いことが確認できる。これより、実施例及び参考例の粉末により、加工性が高い仮焼体が得られることが分かる。
【0212】
測定例1(焼結体の作製)
実施例及び比較例と同様な方法で仮焼体を、それぞれ、5個作製した。得られた仮焼体を
図1に示すようにアルミナ製の匣鉢に配置して焼結炉に入れ、以下の条件で焼結し、焼結体を5個ずつ得た。
焼結方法 :常圧焼結
焼結温度 :1500℃
焼結時間 :2時間
昇温速度 :600℃/時
焼結雰囲気:大気雰囲気
【0213】
下表に得られた焼結体の結果を示す。なお、下表における全光線透過率は標準試料の値に対する実施例、参考例(又は比較例)の全光線透過率の割合を示している。下表における各値は、いずれも5個の焼結体の平均値である。
【0214】
【0215】
実施例1と比較例1の対比、参考例1と比較例2の対比、及び、参考例2と比較例3の対比より、得られた焼結体はいずれも同様な審美性及び機械的強度を示すことが確認できる。
【0216】
次に、実施例、参考例及び比較例の焼結体5個の彩度C*の標準偏差を下表に示す。
【0217】
【0218】
上表より、比較例の焼結体と比べ、実施例及び参考例の焼結体はC*の標準偏差が小さく、焼結炉の温度分布(温度ムラ)による色調変化が小さいことが確認でき、実施例及び参考例の粉末及び仮焼体から、同様な審美性を示す焼結体を再現性高く製造できることが確認された。
【0219】
実施例5
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.18質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を混合水溶液に添加したこと、及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.18質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0220】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0221】
実施例6
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.21質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を混合水溶液に添加したこと、及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.21質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0222】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0223】
実施例7
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.23質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を混合水溶液に添加したこと、及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.23質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0224】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0225】
得られた粉末の評価結果を表6に示し、仮焼体の評価結果を表7に示した。
【0226】
実施例8
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.25質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.25質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0227】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0228】
実施例5乃至8の粉末は、平均粒子径が0.43μm~0.45μm、BET比表面積が10.6~10.9m2/g、平均顆粒径が42μm~46μm、軽装嵩密度が1.27~1.29g/cm3、T+C相率が95%、及び、収縮率が3.5%であり、いずれの粉末も、同様な粉末物性を有していた。
【0229】
また、実施例8の粉末は、M/Zr範囲(Fe/Zr範囲)が0.058、M/Zrの最大値が0.060、高金属頻度が0.04%、及び、低金属頻度が0.01%であった。実施例8の鉄の元素マッピングを
図9に示す。実施例5乃至9の仮焼体は、比較例1の仮焼体と比べ、遷移金属元素(鉄)が均一に分散していた。
【0230】
実施例5乃至8の仮焼体の評価結果を下表に示す。
【0231】
【0232】
上表より、遷移金属元素の含有量の増加によって、ビッカース硬度の増加傾向があるが、増加度合いは非常に小さいことが確認された。一方、遷移金属元素の含有量による実測密度及び収縮率への影響はほとんど確認できなかった。
【0233】
測定例2(焼結体の作製)
実施例5乃至8と同様な方法で、それぞれ、5個ずつ仮焼体を作製したこと以外は測定例1と同様な方法で焼結体を作製及び評価した。結果を下表に示す。
【0234】
【0235】
上表より、遷移金属元素の増加に伴い、透過率の低下傾向、並びに、L*の低下及びa*の増加により、色調が濃くなる傾向があることが確認できる。
【0236】
次に、実施例5乃至8の焼結体5個の彩度C*の標準偏差を、比較例1の評価結果と合わせて下表に示す。
【0237】
【0238】
上表より、遷移金属元素の含有量の変化による色調のバラツキは非常に小さく、特に、実施例6乃至8は、比較例1と比べて遷移金属元素(鉄)を多く含有するにも関わらず、C*の標準偏差が小さいことが確認できる。
【0239】
実施例9
イットリウム濃度が3.0mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.15質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、及び、乾燥粉末を大気雰囲気、1135℃で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.15質量%の鉄及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が3.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0240】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.31g/cm3であった。
【0241】
実施例10
イットリウム濃度が4.8mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.25質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、乾燥粉末を大気雰囲気、1095℃で焼成したこと及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.25質量%の鉄を含み、イットリウム量が4.8mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0242】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.27g/cm3であった。
【0243】
実施例11
イットリウム濃度が5.0mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.25質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、乾燥粉末を大気雰囲気、1095℃で焼成したこと及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.25質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.0mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0244】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.27g/cm3であった。
【0245】
実施例12
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.25質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、乾燥粉末を大気雰囲気、1095℃で焼成したこと及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.25質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0246】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.27g/cm3であった。
【0247】
実施例13
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.25質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、乾燥粉末を大気雰囲気、1080℃で焼成したこと、及び、α-アルミナ粉末を使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂及び0.25質量%の鉄を含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0248】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.26g/cm3であった。
【0249】
実施例14
イットリウム濃度が5.2mol%となるように塩化イットリウムを添加したこと、鉄濃度がFe2O3換算で0.25質量%となるように、FeCl3濃度が45質量%である塩化鉄(III)水溶液を該混合水溶液に添加したこと、及び、乾燥粉末を大気雰囲気、1100℃で焼成したこと以外は実施例1と同様な方法で、3質量%のアクリル系樹脂、0.25質量%の鉄及び0.05質量%のアルミナを含み、イットリウム量が5.2mol%であるイットリア含有ジルコニアの粉末からなる顆粒粉末を得、これを本実施例の粉末とした。
【0250】
本実施例の粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で、成形体及び仮焼体を得た。得られた成形体の実測密度は3.30g/cm3であった。
【0251】
実施例9乃至14の粉末は、平均粒子径が0.41μm~0.45μm、平均顆粒径が43μm~46μm、及び、軽装嵩密度が1.26~1.28g/cm3であった。
【0252】
実施例12及び13の粉末及び仮焼体の評価結果を、実施例8の評価結果と合わせて下表に示す。
【0253】
【0254】
上表より、粉末のBET比表面積の増加に伴い、得られる仮焼体の実測密度及びビッカース硬度が上昇することに加え、実測密度の上昇幅に比べてビッカース硬度の上昇幅が大きいことが確認できる。
【0255】
次に、実施例9乃至12の粉末及び仮焼体の評価結果を下表に示す。
【0256】
【0257】
実施例10乃至12の仮焼体は、実施例9の仮焼体と比べてビッカース硬度が高いことが確認できる。実施例9と実施例10乃至12のビッカース硬度の差は6HV程度であるため、ビッカース硬度の差は、BET比表面積及び遷移金属量(鉄含有量)の影響と考えられる。また、実施例10乃至12の仮焼体のビッカース硬度は同程度であり、安定化元素量の影響は確認できなかった。
【0258】
なお、実施例9の粉末は、M/Zr範囲(Fe/Zr範囲)が0.115、M/Zrの最大値が0.115、高金属頻度が0.06%、及び、低金属頻度が0.45%であった。実施例9の鉄の元素マッピングを
図10に示す。実施例9乃至14の仮焼体は、比較例1の仮焼体と比べ、遷移金属元素(鉄)が均一に分散していた。
【0259】
測定例3(焼結体の作製)
実施例9乃至14と同様な方法で、それぞれ、5個ずつ仮焼体を作製したこと以外は測定例1と同様な方法で焼結体を作製及び評価した。結果を下表に示す。
【0260】
【0261】
次に、実施例9乃至14の焼結体5個の彩度C*の標準偏差を、比較例1の評価結果と合わせて下表に示す。
【0262】
【0263】
実施例9乃至14のC*の標準偏差は、いずれも比較例1よりも小さく、なおかつ、互いに同程度であった。これにより、粉末のBET比表面積、安定化元素量及びアルミナの有無によらず、従来の焼結体と比べ、焼結温度のバラツキに対する色調の再現性が高いことが確認できる。
【符号の説明】
【0264】
1:仮焼体
2:匣鉢