(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】伝搬路等化および品質推定を行う通信装置、通信方法および通信プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 3/10 20060101AFI20240410BHJP
H04B 7/005 20060101ALI20240410BHJP
H04L 27/01 20060101ALI20240410BHJP
H04L 25/03 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H04B3/10 C
H04B7/005
H04L27/01
H04L25/03 C
(21)【出願番号】P 2020169935
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 正文
(72)【発明者】
【氏名】福園 隼人
(72)【発明者】
【氏名】栗山 圭太
(72)【発明者】
【氏名】上野 衆太
(72)【発明者】
【氏名】小野 優
(72)【発明者】
【氏名】林 崇文
(72)【発明者】
【氏名】前原 文明
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-345744(JP,A)
【文献】国際公開第2009/081820(WO,A1)
【文献】特表2008-503125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/76-3/44
H04B 3/50-3/60
H04B 7/00-7/015
H04L 27/00-27/38
H04L 25/00-25/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝搬路特性を推定して算出されたパラメータを用いて受信信号に含まれる前記伝搬路特性の歪みを等化する適応等化器と、
送信機から受信する予め決められた長さの既知信号に基づいて前記伝搬路特性を推定し、前記適応等化器の前記パラメータを算出するパラメータ算出部と、
前記パラメータ算出部が算出する前記パラメータの収束状況に基づいて前記適応等化器のトレーニングの終了を判定するトレーニング終了判定部と、
前記トレーニング終了判定部がトレーニングの終了を判定した場合
、前記既知信号
のうちトレーニングに使用した部分以外の残りの部分の信号を用いて伝搬路の通信品質を推定する通信品質推定部と
を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置において、
前記既知信号は、前記適応等化器の前記パラメータを算出するためのトレーニング信号と、前記通信品質推定部が伝搬路の通信品質を推定するための通信品質推定信号とを連結した信号である
ことを特徴とする通信装置。
【請求項3】
請求項2に記載の通信装置において、
前記既知信号は、最も収束が遅い場合の前記トレーニング信号の長さと、最も収束が遅い場合の前記通信品質推定信号の長さとの合計の長さより短い
ことを特徴とする通信装置。
【請求項4】
伝搬路特性を推定して算出されたパラメータを用いて受信信号に含まれる前記伝搬路特性の歪みを等化する適応等化処理と、
送信機から受信する予め決められた長さの既知信号に基づいて前記伝搬路特性を推定し、前記適応等化処理で用いる前記パラメータを算出するパラメータ算出処理と、
前記パラメータ算出処理で算出される前記パラメータの収束状況に基づいて前記適応等化処理のトレーニングの終了を判定するトレーニング終了判定処理と、
前記トレーニング終了判定処理でトレーニングの終了を判定した場合
、前記既知信号
のうちトレーニングに使用した部分以外の残りの部分の信号を用いて伝搬路の通信品質を推定する通信品質推定処理と
を実行することを特徴とする通信方法。
【請求項5】
請求項4に記載の通信方法において、
前記既知信号は、前記適応等化処理で用いる前記パラメータを算出するためのトレーニング信号と、前記通信品質推定処理で伝搬路の通信品質を推定するための通信品質推定信号とを連結した信号である
ことを特徴とする通信方法。
【請求項6】
請求項5に記載の通信方法において、
前記既知信号は、最も収束が遅い場合の前記トレーニング信号の長さと、最も収束が遅い場合の前記通信品質推定信号の長さとの合計の長さより短い
ことを特徴とする通信方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の前記通信方法で行う処理をコンピュータに実行させることを特徴とする通信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝搬路等化を行う適応等化器のトレーニングおよび通信品質の推定を行う通信装置、通信方法および通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な通信装置には、伝搬路等化を行う適応等化器が搭載されている。適応等化器では、伝搬路特性を推定して符号間干渉などを等化するためのパラメータを算出する必要がある。このために、送信機から既知のトレーニング信号を送信し、受信機は、例えば受信したトレーニング信号と予め保持するトレーニング信号との誤差が最小に収束するようにパラメータを算出し、適応等化器に設定する。
【0003】
一般的な無線通信の場合、トレーニング信号は、同期信号としてフレームフォーマットの中に存在する。特にTDMA通信では、受信信号のタイミングを同期させるために、トレーニング信号がよく使われている。
【0004】
一方、通信システムでは通信品質を管理する必要があり、通信装置は伝搬路の通信品質を推定する機能を有する。例えば、送信機はSync word信号と呼ばれる既知の信号を送信し、受信機は、受信したSync word信号に基づいて、通信品質(例えばSINR(Signal to Interference and Noise power Ratio))を推定する。例えば、通信システムにおいて、通信品質を測定するためのSINR測定信号を送信する技術が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、SINR推定信号による通信品質の測定を行うためには、トレーニング信号によるトレーニングが終了していることが前提であり、トレーニング信号の後でSINR推定信号を送信する必要がある。
【0007】
ここで、トレーニング信号により適応等化器が収束するまでのビット数は状況(初期値や雑音など)により異なる。トレーニング信号のビット列を固定長にした場合、適応等化器が前半のビット列で早期に収束すると、残りのビット列が無駄になり、利用可能な通信容量が少なくなる。
【0008】
一方、SINR推定を行うためにはある程度の長さのビット数が必要であり、特に雑音が大きい場合は、SINRの測定が完了するまでのビット数が多くなる。さらに、SINRはdBで表示されるので、信号に対する雑音が大きい伝搬路の場合は少ないビット数でdB表示が可能であるが、信号に対する雑音が小さい伝搬路の場合はdB表示のために必要なビット数が多くなる。
【0009】
また、適応等化器が十分に収束している場合には精度の高くSINR推定を行う必要があるため、SINR推定信号のビット列が長くなる。SINR推定信号のビット列が固定長の場合、必要とするビット数が多い環境に合わせて、SINR推定信号のビット列を設定しなければならない。
【0010】
適応等化器のトレーニング信号のビット列およびSINR推定信号のビット列は、ともに既知の信号であるが、その重要性は異なる。通信を行うに当たって適応等化器のパラメータが収束していることが必須であるが、初期値や伝送路環境によって収束するまでに必要なビット数が異なる。また、適応等化器の出力信号のSINRを測定する場合、適応等化器がある程度収束してからでないと誤差が大きい。このため、トレーニング信号およびSINR推定信号のそれぞれに必要な長さのビット列を固定長のフィールドとして設定する場合、両方の様々な状況を想定したビット列を設定する必要があるため、ビット列が長くなり、利用可能な通信容量が少なくなる。
【0011】
本発明は、適応等化器のトレーニング信号とSINR推定信号とを連結した一つの既知信号を用いることにより、送信すべき既知信号の総ビット数を削減し、周波数リソースを有効に利用することができる伝搬路等化および品質推定を行う通信装置、通信方法および通信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る通信装置は、伝搬路特性を推定して算出されたパラメータを用いて受信信号に含まれる前記伝搬路特性の歪みを等化する適応等化器と、送信機から受信する予め決められた長さの既知信号に基づいて伝搬路特性を推定し、前記適応等化器の前記パラメータを算出するパラメータ算出部と、前記パラメータ算出部が算出する前記パラメータの収束状況に基づいて前記適応等化器のトレーニングの終了を判定するトレーニング終了判定部と、前記トレーニング終了判定部がトレーニングの終了を判定した場合、前記既知信号のうちトレーニングに使用した部分以外の残りの部分の信号を用いて伝搬路の通信品質を推定する通信品質推定部とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る通信方法は、伝搬路特性を推定して算出されたパラメータを用いて受信信号に含まれる前記伝搬路特性の歪みを等化する適応等化処理と、送信機から受信する予め決められた長さの既知信号に基づいて伝搬路特性を推定し、前記適応等化処理で用いる前記パラメータを算出するパラメータ算出処理と、前記パラメータ算出処理で算出される前記パラメータの収束状況に基づいて前記適応等化処理のトレーニングの終了を判定するトレーニング終了判定処理と、前記トレーニング終了判定処理でトレーニングの終了を判定した場合、前記既知信号のうちトレーニングに使用した部分以外の残りの部分の信号を用いて伝搬路の通信品質を推定する通信品質推定処理とを実行することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る通信プログラムは、前記通信方法で実行する処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る伝搬路等化および品質推定を行う通信装置、通信方法および通信プログラムは、適応等化器のトレーニング信号とSINR推定信号とを連結した一つの既知信号を用いることにより、送信すべき既知信号の総ビット数を削減し、周波数リソースを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態に係る通信装置の構成例を示す図である。
【
図2】従来のトレーニング信号およびSINR推定信号の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る通信装置における既知信号の一例を示す図である。
【
図4】収束の速さと信号の長さの関係の一例を示す図である。
【
図5】トレーニングおよびSINR推定における収束速度に対する必要な信号の長さと発生確率の一例を示す図である。
【
図6】トレーニングの収束速度とSINR推定の収束速度との組み合わせの一例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る通信装置における既知信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る伝搬路等化および品質推定を行う通信装置、通信方法および通信プログラムの実施形態について説明する。
【0018】
以降の実施形態で説明する通信装置は、トレーニング信号と通信品質推定信号とを連結した一つの既知信号を送信して、適応等化器のトレーニングと通信品質の推定とを連続して行うことができる。これにより、送信すべき既知信号の長さが削減され、周波数リソースの有効利用が可能になる。ここで、実施形態では、通信品質は、適応等化器で等化された信号のSINRを推定することにより得られる。
【0019】
図1は、実施形態に係る通信装置100の構成例を示す。
図1において、通信装置100は、受信部101、適応等化器102、復号部103、トレーニング終了判定部104およびSINR推定部105を有する。ここで、SINR推定部105は、通信品質推定部に対応する。
【0020】
受信部101は、送信機から送信された信号を伝搬路を介して受信する。例えば、無線システムの場合、受信部101は、送信機から送信された無線信号をアンテナで受信し、受信信号に変換する処理を行う。ここで、受信信号は、トレーニング信号と通信品質推定信号とを連結した既知信号、ユーザーデータを通信するためのデータ信号、などである。
【0021】
適応等化器102は、等化フィルタ201とパラメータ算出部202とを有し、伝搬路特性の歪みを等化する処理を行う(適応等化処理に対応)。
【0022】
等化フィルタ201は、パラメータ算出部202により算出されるパラメータを係数として受信信号に含まれる伝搬路特性の歪みを等化するフィルタであり、例えばトランスバーサル型のフィルタで構成される。ここで、送信機は、先に説明したように、トレーニング信号と後述のSINR推定信号とが連結された一つの既知信号を送信する。
【0023】
パラメータ算出部202は、等化フィルタ201の処理後の既知信号と、予め内部に保持されている既知信号との誤差を最小にするアルゴリズム(例えばLMS(Least MeanSquare))により等化フィルタ201の係数(パラメータ)を算出する処理を行う(パラメータ算出処理に対応)。そして、パラメータ算出部202は、パラメータの収束状況を示す情報をトレーニング終了判定部104に出力する。なお、収束状況を示す情報は、例えばパラメータ算出時の誤差であってもよいし、パラメータ値であってもよい。なお、等化処理は周波数領域で行ってもよい。この場合、パラメータ算出部202は、受信部101が出力する既知信号により伝搬路の伝達関数を求め、その逆特性の伝達関数をパラメータとして等化フィルタ201で受信信号に乗算する。
【0024】
復号部103は、適応等化器102により等化された受信信号を予め決められた復号方式により受信データに復号する処理を行う。
【0025】
トレーニング終了判定部104は、適応等化器102から受け取る収束状況を示す情報に基づいて、トレーニングの終了を判定する処理を行う(トレーニング終了判定処理に対応)。そして、トレーニング終了判定部104は、トレーニングが終了したと判定した場合、SINR推定部105にSINR推定処理の開始を指示する。例えば収束状況がパラメータ算出時の誤差である場合、誤差が予め決められたしきい値以下に収束したとき、トレーニングが終了したと判定される。或いは、収束状況がパラメータ値である場合、パラメータ値の変動が予め決められたしきい値の範囲内にあるとき、トレーニングが終了したと判定される。なお、SINR推定を開始するためのトリガは、上記の例に限らず、トレーニングの終了を判定できる条件であれば他の条件でも構わない。
【0026】
SINR推定部105は、伝搬路から受信するSINR推定信号に基づいて伝搬路の通信品質を推定する処理を行う(通信品質推定処理に対応)。ここで、伝搬路の通信品質の推定は、例えば受信信号のSINRを推定することにより行われる。なお、送信機は、先に説明したように、トレーニング信号とSINR推定信号とが連結された既知信号を送信する。SINR推定部105は、トレーニング終了判定部104の開始指示によりSINRの推定処理を開始するので、既知信号のうち適応等化器102がトレーニングを終了したタイミングで既知信号の残りの部分を用いてSINRを推定する。なお、SINR推定結果は、例えば通信品質に基づいた伝送方式の切り替えなど通信装置100の制御に利用される。なお、実施形態では、SINR推定結果を利用した制御などのアプリケーションの説明は省略する。
【0027】
このようにして、実施形態に係る通信装置100は、適応等化器102のトレーニング信号と、SINR推定部105の通信品質推定信号とを連結した一つの既知信号を用いる。そして、適応等化器102の収束状況に基づいてトレーニングの終了を判定し、トレーニングが終了した時点で、SINR推定部105が処理を開始する。SINR推定部105は、既知信号のうち適応等化器102のトレーニング終了後の残りの信号に基づいてSINRを推定する。つまり、トレーニングの収束の速さにかかわらず、トレーニングとSINR推定とが連続して行われる。これにより、トレーニング信号とSINR推定信号とを別々に送信する場合に比べて、送信すべき既知信号の長さ(総ビット数)が削減され、周波数リソースの有効利用が可能になる。
【0028】
ここで、実施形態では、トレーニング信号、SINR推定信号、既知信号などの信号の長さとして説明するが、各信号は予め決められた複数のビット列で構成されるので、信号の長さは、ビット列の長さやビット数に対応する。
【0029】
図2は、従来のトレーニング信号およびSINR推定信号の一例を示す。
図2において、横軸は時間を示す。
図2の(a)において、従来は、送信機から固定長のトレーニング信号と固定長のSINR推定信号とを別々に送信し、受信側で適応等化器102のトレーニングとSINR推定部105のSINR推定とが別々に行われる。
図2の(a)の例では、トレーニング信号は、適応等化器102の収束の状況にかかわらず時刻T1から時刻T2までの期間に送信される。同様に、SINR推定信号は、トレーニング信号とは別に、時刻T3から時刻T4までの期間に送信される。なお、時刻T2と時刻T3は同じであってもよいが、トレーニング信号の長さと、SINR推定信号の長さは固定長である。
【0030】
ここで、トレーニング信号により適応等化器102のパラメータが収束する時間は、様々な状況(初期値、雑音など)により異なる。このため、従来は、様々な状況においてトレーニングが完了するように、想定される最長のトレーニング信号が用いられていた。ところが、トレーニング信号を固定長にすると、適応等化器102のトレーニングが早期に収束した場合、収束後の残りのトレーニング信号が有効に使われず、周波数リソースが無駄になるという問題が生じる。同様に、SINR推定信号についても、様々な状況においてSINR推定が完了するように、想定される最長のSINR推定信号が用いられていた。ところが、SINR推定信号を固定長にすると、SINR推定が早期に収束した場合、収束後の残りのSINR推定信号が有効に使われず、周波数リソースが無駄になるという問題が生じる。
【0031】
例えば
図2の(b)の場合、
図2の(a)と同様に、トレーニング信号は時刻T1から時刻T2までの期間の固定長で送信される。しかし、時刻T12で適応等化器102のパラメータが収束するので、時刻T12から時刻T2までの期間のトレーニング信号が無駄になる。同様に、SINR推定信号は時刻T3から時刻T4までの期間の固定長で送信される。しかし、時刻T34でSINR推定部105のSINR推定処理が収束するので、時刻T34から時刻T4までの期間のSINR推定信号が無駄になる。
【0032】
そこで、実施形態に係る通信装置100では、トレーニング信号とSINR推定信号とを連結した一つの既知信号を用いる。そして、トレーニングが終了したタイミングで、残りの既知信号を用いてSINR推定を行う。特に、実施形態に係る通信装置100では、収束速度の発生確率に基づいて、必要とされる最長のトレーニング信号と最長のSINR推定信号との合計の長さよりも短い既知信号を用いることにより、無駄な周波数リソースの削減が可能である。なお、発生確率に基づいて既知信号を短くする方法については後述する。
【0033】
このように、トレーニング信号およびSINR推定信号のそれぞれにおいて発生確率の低い余剰信号を確保する従来の方法と比較して、実施形態に係る通信装置100は、余剰信号を確率的に減らすことが可能である。
【0034】
図3は、実施形態に係る通信装置100における既知信号の一例を示す。
図3において、横軸は時間を示す。
図3の(a)および(b)において、既知信号は、時刻T5から時刻T7までの固定の長さを有する。
【0035】
図3の(a)は、適応等化器102の収束が遅い場合の例を示し、時刻T5から時刻T6までの既知信号が適応等化器102のトレーニングに使用される。そして、時刻T6で適応等化器102が収束してトレーニングが終了した後、SINR推定部105がSINR推定を開始し、時刻T6から時刻T7までの既知信号がSINR推定に使用される。例えば
図1において、トレーニング終了判定部104は、時刻T6でトレーニングの終了を判定し、SINR推定の開始指示をSINR推定部105に出力する。そして、SINR推定部105は、時刻T6以降の既知信号によりSINR推定を行う。
【0036】
図3の(b)は、適応等化器102の収束が速い場合の例を示し、時刻T5から時刻T6aまでの既知信号が適応等化器102のトレーニングに使用される。そして、時刻T6aで適応等化器102が収束してトレーニングが終了した後、SINR推定部105がSINR推定を開始し、時刻T6aから時刻T7までの既知信号がSINR推定に使用される。例えば
図1において、トレーニング終了判定部104は、時刻T6aでトレーニングの終了を判定し、SINR推定の開始指示をSINR推定部105に出力する。そして、SINR推定部105は、時刻T6a以降の既知信号によりSINR推定を行う。
【0037】
このように、実施形態に係る通信装置100は、トレーニング信号とSINR推定信号とを連結した一つの既知信号を用いて、トレーニング終了後の残りの既知信号を用いてSINR推定を行う。これにより、
図2で説明したような無駄な期間が無くなり、周波数リソースを有効に利用することができる。特に、実施形態に係る通信装置100では、既知信号の前半部を適応等化器102のトレーニング信号として使用し、収束したと判定するまでトレーニングを行うので、通信装置100に必須のトレーニング処理を十分に行うことができる。
【0038】
ここで、適応等化器102のトレーニングは、通信装置100が正常に動作するために必須の処理であるため、既知信号のうちトレーニング信号を
図2(a)のように想定される最長の長さとし、残りの信号をSINR推定信号としてもよい。なお、SINR推定は、既知信号であれば推定可能であり、トレーニング信号の後半部分でSINR推定を行うことができる。但し、高い精度のSINR推定を行うためには、例えば多値信号の信号点が広く分散されている方がよいので、既知信号の後半部分にはSINR推定に適したSINR推定信号を連結するのが望ましい。
【0039】
図4は、収束の速さと信号の長さの関係の一例を示す。
図4の(a)は収束が速い場合のトレーニング信号の一例を示し、長さaのトレーニング信号で収束する。
図4の(b)は収束が遅い場合のトレーニング信号の一例を示し、収束が速い場合よりもbだけ長いa+bの長さのトレーニング信号が必要である。
【0040】
同様に、
図4の(c)は収束が速い場合のSINR推定信号の一例を示し、長さcのSINR推定信号で収束する。
図4の(d)は収束が遅い場合のトレーニング信号の一例を示し、収束が速い場合よりもdだけ長いc+dの長さのSINR推定信号が必要である。
【0041】
図5は、トレーニングおよびSINR推定における収束速度に対する必要な信号の長さと発生確率の一例を示す。なお、収束速度と必要な信号の長さは、
図4で説明した内容と同じである。
【0042】
図5の(a)は、適応等化器102のトレーニングの場合の例を示し、収束速度が速い場合、長さaの信号が必要であり、収束速度が遅い場合、長さa+bの信号が必要である。ここで、一般的な通信システムは、通信可能な環境を想定して運用されるため、トレーニングの収束速度が速い場合の発生確率は高く、遅い場合の発生確率は収束速度が速い場合に比べて低くなる。
【0043】
図5の(b)は、SINR推定部105のSINR推定の場合の例を示し、収束速度が速い場合、長さcの信号が必要であり、収束速度が遅い場合、長さc+dの信号が必要である。
図5(a)と同様の理由により、SINR推定の収束速度が速い場合の発生確率は高く、遅い場合の発生確率は収束速度が速い場合に比べて低くなる。
【0044】
図6は、
図5で説明したトレーニングの収束速度とSINR推定の収束速度との組み合わせの一例を示す。例えば
図6において、トレーニングの収束速度が速く、SINR推定の収束速度も速い場合に必要とされるトレーニング信号とSINR推定信号の合計の長さはa+cである。また、トレーニングの収束速度が速く、SINR推定の収束速度が遅い場合に必要とされるトレーニング信号とSINR推定信号の合計の長さはa+b+cである。同様に、トレーニングの収束速度が遅く、SINR推定の収束速度が速い場合に必要とされるトレーニング信号とSINR推定信号の合計の長さはa+c+dである。また、トレーニングの収束速度が遅く、SINR推定の収束速度も遅い場合に必要とされるトレーニング信号とSINR推定信号の合計の長さはa+b+c+dである。
【0045】
図6において、トレーニングおよびSINR推定の両方の収束速度が速い場合の発生確率が最も高く、トレーニングおよびSINR推定の両方の収束速度が遅い場合の発生確率が最も低く、稀にしか起こらない。
【0046】
このように、想定される最長のトレーニング信号と最長のSINR推定信号とを別々に使用する場合の発生確率が稀な条件であるにもかかわらず、最長の信号を送信しなければならないため、周波数リソースを有効に利用することができない。そこで、実施形態に係る通信装置100は、発生確率を考慮した長さの既知信号を用いる。
【0047】
ここで、
図5および
図6の例では、収束速度が速いか遅いかの二つの場合について、必要な信号の長さを二分化して説明したが、本来は「必要な信号の長さ」は二分化されるとは限らない。状況に応じて、2以上の複数の信号の長さの場合が考えられる。なお、実施形態では単純化のため二分化して説明する。
【0048】
図7は、実施形態に係る通信装置100における既知信号の一例を示す。
【0049】
図7の(a)は、
図6で説明した発生確率が稀な場合のトレーニング信号とSINR推定信号とを連結した信号の例を示す。この場合、収束が遅い場合を想定した最長のトレーニング信号および最長のSINR推定信号を合せた合計a+b+c+dの長さが必要である。
【0050】
図7の(b)は、実施形態に係る通信装置100の既知信号の一例を示す。実施形態における既知信号は、収束が遅い場合と収束が速い場合との差分の長さ(b+d)をe倍した長さに短縮する。ここで、eは0<e<1である。
【0051】
従来の方法では、
図7(a)に示すように、SINR推定やトレーニングに利用する信号はそれぞれ別に設定される。そのため、発生確率が低くてもそれぞれにおいてその分の長さの信号を確保する必要があった。これに対して、実施形態に係る通信装置100の方法では、SINR推定やトレーニングの両方の信号を共用する一つの既知信号を用いるため、一方の収束が遅くても他方の収束が速ければ両方の値を収束させることが可能である。
【0052】
また、両方の収束が遅い場合は発生確率が低いので、両方が起こる発生確率は稀である。そのため、最長の信号の長さ(a+b+c+d)を確保せずに、それより短い信号の長さ(a+c+(b+d)×e)を確保することで、ほとんどの場合においてトレーニングとSINR推定との両方の値を収束させることが可能である。
【0053】
このように、実施形態に係る通信装置100は、トレーニング信号とSINR推定信号とを連結した既知信号を用い、既知信号の長さを最長のトレーニング信号および最長のSINR推定信号を合せた合計の長さよりも短くする。これにより、使われない無駄な期間を少なくし、周波数リソースを有効に利用することができる。
【0054】
図8は、
図1で説明した実施形態に係る通信装置100の他の構成例を示す。
図8において、通信装置100aは、受信部101、適応等化器102、復号部103、トレーニング終了判定部104、SINR推定部105およびデータ切り分け部106を有する。なお、
図8において、
図1と同符号の受信部101、適応等化器102、復号部103、トレーニング終了判定部104およびSINR推定部105は、
図1と同様に動作するので重複する説明は省略する。
図1と異なる点は、データ切り分け部106が適応等化器102の等化フィルタ201と復号部103との間に配置されていることである。そして、データ切り分け部106からSINR推定部105に等化後の既知信号が出力され、トレーニング終了判定部104の判定結果がデータ切り分け部106に出力される。
【0055】
データ切り分け部106は、通常、適応等化器102の等化フィルタ201から出力される信号を復号部103に出力するが、トレーニング終了判定部104から出力される判定結果がトレーニングの終了を示す場合は、等化フィルタ201から出力される信号をSINR推定部105に出力する。
【0056】
例えば、先に説明した
図3(a)の場合、トレーニング終了判定部104は、時刻T6でトレーニングの終了を示す判定結果をデータ切り分け部106に出力する。そして、データ切り分け部106は、時刻T6以降の既知信号をSINR推定部105に出力し、SINR推定部105によりSINR推定が行われる。同様に、
図3(b)の場合、トレーニング終了判定部104は、時刻T6aでトレーニングの終了を示す判定結果をデータ切り分け部106に出力する。そして、データ切り分け部106は、時刻T6a以降の既知信号をSINR推定部105に出力し、SINR推定部105によりSINR推定が行われる。
【0057】
このように、
図8の実施形態に係る通信装置100aは、先の実施形態の通信装置100と同様に、適応等化器102のトレーニング信号と、SINR推定部105の通信品質推定信号とを連結した一つの既知信号を用いる。そして、通信装置100aでは、トレーニング終了判定部104がトレーニングの終了を判定したタイミングで、データ切り分け部106がトレーニング終了後の残りの既知信号をSINR推定部105に出力する。つまり、トレーニングの収束の速さにかかわらず、トレーニングが終了したタイミングでトレーニングに連続してSINR推定が行われる。これにより、トレーニングとSINR推定とを独立して別々に行う場合に比べて、送信すべき既知信号の長さが削減され、周波数リソースの有効利用が可能になる。特に、先の実施形態で説明したように、既知信号の長さは、発生確率に基づいて、最長のトレーニング信号および最長のSINR推定信号を合せた合計の長さよりも短く設定される。これにより、既知信号のうち使われない無駄な期間が少なくなり、周波数リソースの有効利用が可能になる。
【0058】
以上説明したように、本発明に係る伝搬路等化および品質推定を行う通信装置、通信方法および通信プログラムは、適応等化器のトレーニング信号とSINR推定信号とを連結した一つの既知信号を用いることにより、送信すべき既知信号の総ビット数を削減し、周波数リソースを有効に利用することができる。
【0059】
ここで、
図1または
図8で説明した通信装置100または通信装置100aの各ブロックで実行される処理に対応するプログラムを汎用のコンピュータもしくはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路で実行するようにしてもよい。また、プログラムは、記憶媒体に記録して提供されてもよいし、ネットワークを通して提供されてもよい。
【符号の説明】
【0060】
100,100a・・・通信装置;101・・・受信部;102・・・適応等化器;103・・・復号部;104・・・トレーニング終了判定部;105・・・SINR推定部;106・・・データ切り分け部;201・・・等化フィルタ;202・・・パラメータ算出部