(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粉末の二重包装体
(51)【国際特許分類】
B65D 81/24 20060101AFI20240410BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20240410BHJP
B65D 81/26 20060101ALI20240410BHJP
B65D 77/04 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
B65D81/24 F
C01B21/064 G
B65D81/26 Q
B65D77/04 F
(21)【出願番号】P 2019155795
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2022-06-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤波 恭一
(72)【発明者】
【氏名】山本 知明
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
【審査官】吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-113628(JP,A)
【文献】特開2018-158862(JP,A)
【文献】特開平10-045161(JP,A)
【文献】特開昭59-084765(JP,A)
【文献】特開2005-255209(JP,A)
【文献】特開2016-204031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/24
C01B 21/064
B65D 81/26
B65D 77/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素粉末が収容されたポリオレフィン製内袋と、該内袋を収容しているポリオレフィン製外袋とからなり、該外袋には、前記内袋と共に乾燥剤が収容され、前記内袋の透湿度(JIS-K-7129-2:2019)が、40℃、相対湿度90%の条件で測定して1~100g/(m
2・24h)であり、同一条件で測定した前記外袋の透湿度が
0.2g/(m
2・24h)以下であり、且つ、前記内袋の透湿度が、前記外袋の透湿度よりも高い範囲にあることを特徴とする窒化ホウ素粉末の二重包装体。
【請求項2】
前記内袋と外袋との間にセパレータが設けられている請求項1に記載の二重包装体。
【請求項3】
前記内袋は、添加剤を含まないポリオレフィンにより形成されている請求項1に記載の二重包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素粉末の新規な包装体に関する。詳しくは、窒化ホウ素粉末の劣化による純度低下を長期間にわたって防止することが可能な包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素(以下BNと表記することがある)、例えば六方晶窒化ホウ素は、熱伝導性、絶縁性、化学的安定性、耐熱性等の特性に優れており、これらの性質を活かして多岐にわたる用途に用いられている。
【0003】
窒化ホウ素粉末は、高温・多湿下のような保存状態が悪い条件下で、空気中の水分を吸収して加水分解を起こし、ホウ酸(H3BO3)や酸化ホウ素(B2O3)とアンモニア(NH3)に変化してしまう場合がある。加水分解によりBNの純度が低下すると、例えば、放熱材料用の絶縁性放熱フィラーとして使用する場合に絶縁性能が低下する等、製品としての価値が下がってしまう。
【0004】
下記特許文献1には、包装材料として水分透湿度が小さい素材を用い、ヒートシールにより密封包装することにより、水分を長期間遮断しBNの加水分解を防止することについて記載されている。当該文献では、水分透湿度(g/m2・24h)が4.0以下である外層及び/または中間層からなるシートと、昜ヒートシール性の内層よりなるシートを用いてBNを密封している。
【0005】
しかしながら、包装される窒化ホウ素粉末は、その製造工程において、吸着している水分を完全に除去することが困難である。そのため、かかる水分が吸着している窒化ホウ素粉末を透湿度の低い材料からなる包装袋で包装した場合、包装袋中に水分が滞留してしまい、その水分によって窒化ホウ素粉末の加水分解が起こり、製品の純度が低下するという問題を有する。また、窒化ホウ素粉末を露点が低い(水分量が少ない)乾燥空気により搬送して包装袋に充填することも考えられるが、前記付着水分を完全に除去するまでには至らない。
窒化ホウ素粉末には、用途によっては極めて高い純度が求められることがあり、前記従来法において、保管時における純度の低下を高度に抑制するための手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、保存期間中における包装体内の窒化ホウ素粉末の加水分解を高度に抑制し、窒化ホウ素粉末を極めて高純度のまま保つことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、窒化ホウ素粉末が収容されたポリオレフィン製内袋と、該内袋を収容しているポリオレフィン製外袋とからなり、該外袋には、前記内袋と共に乾燥剤が収容され、前記内袋の透湿度(JIS-K-7129-2:2019)が、40℃、相対湿度90%の条件で測定して1~100g/(m
2
・24h)であり、同一条件で測定した前記外袋の透湿度が20g/(m
2
・24h)以下であり、且つ、前記内袋の透湿度が、前記外袋の透湿度よりも高い範囲にあることを特徴とする窒化ホウ素粉末の二重包装体が提供される。
【0009】
本発明の水分バリア積層体においては、以下の態様が好適に採用される。
(1)前記内袋と外袋との間にセパレータが設けられていること、
(2)前記内袋は、添加剤を実質的に含まないポリオレフィンにより形成されていること。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二重包装体の外袋には乾燥剤が収容されており、外袋内の湿度が内袋内の湿度よりも相対的に低くなっている。すなわち、内袋内と外袋内との間に湿度の勾配が形成されている。この勾配により、内袋に収容された窒化ホウ素粉末に含有される前記水分が、相対的に低湿度である外袋へと移動するため、窒化ホウ素粉末の乾燥状態は極めて高度に保たれることになる。
【0011】
また、水分が外部から侵入してきた場合においても、外袋に収容された乾燥剤によって吸収されるため、優れた水分バリア性が発揮され。ゆえに、前記効果と併せて窒化ホウ素粉末の保存安定性を飛躍的に高めることができる。
【0012】
さらに、前記内袋の透湿度を比較的高く設定し、且つ、外袋の透湿度はできるだけ低く設定することにより、内袋からの水分の除去を効率的に行いながら、外袋からの水分の浸入を抑制することができ、本発明の効果をより発揮することが可能となる。
【0013】
さらにまた、前記内袋と外袋との間にセパレータを設けることにより、内袋を構成するフィルムと外袋を構成するフィルムとがブロッキングを起こして乾燥剤による前記効果が損なわれてしまうのを効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】セパレータを有する二重包装体の断面構造を示す図。
【
図3】セパレータを有する二重包装体の断面構造を示す他の図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記内袋の透湿度は、内袋に収容された窒化ホウ素粉末の水分が比較的透過しやすい透湿度に調整されていることが好ましい。具体的には、前記内袋の透湿度(JIS-K-7129-2:2019)は、40℃、相対湿度90%の条件で測定して1~100g/(m2・24h)であることが好ましく、5~80g/(m2・24h)であることがより好ましい。
【0016】
一方、前記外袋の透湿度は、外部からの水分の透過を遮断するため、できる限り低く設定しておくことが好ましい。ゆえに、前記外袋の透湿度は、10g/(m2・24h)以下であることが好ましく、5g/(m2・24h)未満であることがより好ましく、1g/(m2・24h)以下であることが更に好ましい。
【0017】
前記内袋の透湿度は、内袋に収容された窒化ホウ素粉末の水分が比較的透過しやすい透湿度に調整されているのが好ましい一方、前記外袋の透湿度は、外部からの水分の透過を遮断するため、できる限り低く設定しておくことが好ましいことから、内袋の透湿度は前記外袋の透湿度よりも高い範囲にあることが好ましいと言える。
【0018】
本発明において、前記内袋および外袋は、それ自体公知のポリオレフィン樹脂により形成されるが、一般には、成形性やコスト等の観点から、低密度ポリエチレン;高密度ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリ1-ブテン;ポリ4-メチル-1-ペンテン;あるいはエチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィンどうしのランダムあるいはブロック共重合体等により形成される。また、これらのブレンド物や、これら樹脂が適宜共重合により変性されたもの(例えば、酸変性オレフィン樹脂など)であってもよい。本発明においては、入手のし易さの観点から、低密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンにより形成されることが好ましい。
【0019】
前記内袋および外袋には、可塑剤、帯電防止剤、老化防止剤等の添加剤を、必要により従来公知の処方に従って配合することができる。
【0020】
しかし、前記内袋は、添加剤を含有しないポリオレフィンにより形成されていることが好ましい。前記内袋は内容物である窒化ホウ素粉末に直接触れるため、有機物汚染や金属汚染等の原因となるような添加剤を含有しないことが好ましいためである。
【0021】
前記外袋には、水分バリア性を高めるため、無機物質による蒸着膜を形成することができる。例えば、酸化ケイ素膜や酸窒化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜などの各種金属乃至金属酸化物により形成される蒸着膜を形成することができる。本発明においては、コストの観点から、酸化アルミニウム膜により形成される蒸着膜が形成されていることが好ましい。また透湿度をより低く抑えるという観点からは、酸化ケイ素膜により形成される蒸着膜が形成されていることが好ましい。
【0022】
外袋の場合、その表面が窒化ホウ素粉末に触れることがないため、内袋のように蒸着膜を形成する面が制限されるということはない。
【0023】
前記内袋および外袋の厚みは、0.01μm以上が好ましく、0.06μm以上がより好ましい。上記よりも厚みが小さいと、破れやすくなってしまう虞があるためである。
また、前記内袋および外袋の厚みは、0.5μm以下が好ましく、0.2μm以下がより好ましい。上記よりも厚みを大きくしたとしても、透湿性の向上には効果がなく、単にコスト増となってしまうためである。
【0024】
本発明においては、前記内袋と前記外袋が直接接触してブロッキングしてしまうと、外部から侵入した水分が内袋へ移動し易くなってしまう。このような現象を防止するため、前記内袋と前記外袋との間にセパレータを設けることが好ましい。
【0025】
前記セパレータの素材としては、樹脂など任意の素材を用いることができる。
【0026】
前記セパレータの形状、構造は、前記内袋と前記外袋のブロッキングを防止できるのであれば、特に制限されない。
例えば、
図2に示すように板状を成した複数のセパレータを内袋と外袋の間に配置(例えば外袋内面に貼付)してもよいし、
図3に示すように袋状にして内袋を包んでもよい。また、セパレータは網状であってもよいし、複数の穴が空いた穿孔シートをセパレータとして用いてもよい。
【0027】
また、ブロッキング防止のための他の対策として、前記内袋または前記外袋を形成しているポリオレフィン製フィルムが、前記内袋または前記外袋との接触面において、粗面化されていることが好ましい。具体的には、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは1μm以上の算術平均表面粗さRa(JIS-B-0601-1994)を有する。
【0028】
前記ポリオレフィン製フィルムの粗面化は、ブラスト加工やエンボス加工等任意の方法で行うことができる。
【0029】
乾燥剤としては、公知の乾燥剤を用いることができる。
例えば、シリカゲル;ゼオライト、アルミナ、モンモリロナイト等の粘土鉱物;活性炭などの物理的乾燥剤を用いてもよいし、酸化カルシウム(生石灰);硫酸マグネシウム;塩化カルシウム;五酸化二リンなどの化学的乾燥剤を用いてもよい。
【0030】
また、乾燥剤の形状としては、粉状、粒状、塊状、シート状など任意の形状をとることができる。また、乾燥剤が粉状、粒状のように飛散し易いものは、公知の通気性シートにより形成された容器に、特に、乾燥剤が潮解性を有する場合は、公知の非透水性・通気性シートにより形成された容器に内蔵せしめて使用することも可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(B2O3量の測定方法)
50ccのビーカーに、0.5mol/Lの濃度の硫酸水溶液50g、六方晶窒化ホウ素粉末2gを投入し、液の温度を25℃に調整しながら、振盪撹拌した。120分静置した後、得られた液中のホウ素をICP発光分光分析装置(THERMO FISHER社製iCAP6500)により分析して溶出ホウ素量をB2O3に換算し、これを前記六方晶窒化ホウ素粉末の質量で除してB2O3量(ppm)を求めた。
【0033】
(六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法)
酸化ホウ素14kg、カーボンブラック6kg、酸化カルシウム4kg、炭化ホウ素2kgを含む混合物26kgを、ボールミルを使用して混合した。該混合物20kgを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、1800℃で4時間保持することで窒化処理した。
次いで、副生成物含有窒化ホウ素を解砕して容器に投入し、該副生成物含有窒化ホウ素の5倍量の塩酸(7質量%HCl)を加え、回転数700rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過した。この操作を5回繰り返した後、200℃で6時間真空乾燥させた。
乾燥後に得られた粉末を目開き90μmの篩にかけて、白色の六方晶窒化ホウ素粉末を得た。得られた六方晶窒化ホウ素粉末のB2O3量は59ppmであった。
【0034】
(実施例1)
得られた六方晶窒化ホウ素粉末5kgを透湿度6.1g/(m2・24h)の福助工業株式会社製ニューポリ規格袋No.19に入れてヒートシールし、内袋とした。前記内袋を乾燥剤である富士ゲル産業株式会社製シリカゲルFA20gとともに外袋である透湿度4.4g/(m2・24h)の昭和パックス株式会社製サンテックLD(グレードF2004)に入れてヒートシールした。
作製した六方晶窒化ホウ素粉末二重包装体を気温23℃、湿度50%の環境下で保管した。1年経過後に二重包装体を開封し、六方晶窒化ホウ素粉末をサンプリングしB2O3量を測定したところ、64ppmであった。
【0035】
(実施例2)
外袋を透湿度0.04g/(m2・24h)の三菱ガス化学株式会社製PTS袋PB600700Pとした以外は実施例1と同様にして包装体の作製および保管を行った。1年経過後のB2O3量は61ppmであった。
【0036】
(実施例3)
外袋を透湿度0.05g/(m2・24h)の凸版印刷株式会社製GX-P-Fとした以外は実施例1と同様にして包装体の作製および保管を行った。1年経過後のB2O3量は62ppmであった。
【0037】
(実施例4)
外袋を透湿度0.2g/(m2・24h)の凸版印刷株式会社製GL-RDとした以外は実施例1と同様にして包装体の作製および保管を行った。1年経過後のB2O3量は62ppmであった。
【0038】
(実施例5)
乾燥剤を三菱ガス化学株式会社製RP-20ANとした以外は実施例1と同様にして包装体の作製および保管を行った。1年経過後のB2O3量は59ppmであった。
【0039】
(比較例1)
実施例1における包装を内袋のみとし、すなわち乾燥剤および外袋の無い状態とし、実施例1と同様の環境下で保管した。1年経過後のB2O3量は195ppmであった。
【0040】
(比較例2)
実施例1における包装を外袋のみとし、すなわち乾燥剤および内袋の無い状態とし、実施例1と同様の環境下で保管した。1年経過後のB2O3量は182ppmであった。
【符号の説明】
【0041】
1:外袋
3:内袋
5:窒化ホウ素粉末
7:乾燥剤
9:セパレータ