(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240410BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2020017015
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住田 幸司
(72)【発明者】
【氏名】竹内 智康
(72)【発明者】
【氏名】武藤 清
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-509251(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021847(WO,A1)
【文献】特開2018-041113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する偏光フィルムの製造方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する工程と、
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加して第1架橋処理液を得る工程と、
前記第1架橋処理液を含む架橋処理液に、前記染色処理液で処理する工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する工程と、を含
み、
前記水は、純水である、偏光フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記純水は、イオン交換水、蒸留水、又は逆浸透膜水である、請求項1に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記水は、脱酸素処理が行われた脱酸素水である、請求項1又は2に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記脱酸素処理は、膜脱気処理、減圧処理、不活性気体を用いたバブリング処理、加熱処理、及び脱酸素剤を添加する処理からなる群より選ばれる1種以上である、請求項3に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記脱酸素処理は、少なくとも膜脱気処理を含む、請求項3又は4に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第1架橋処理液を得る工程において添加する前記水の温度は、5℃以上70℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記浸漬する工程は、前記架橋処理液を収容する架橋槽に、前記染色処理液で処理する工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する工程であり、
前記第1架橋処理液を得る工程は、前記架橋槽の外部にある外部槽で行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、前記架橋槽内の前記架橋処理液から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液であり、
前記抜き出される少なくとも一部の架橋処理液を、前記外部槽に供給する工程と、
前記外部槽から前記架橋槽に前記第1架橋処理液を供給する工程と、をさらに含む、請求項7に記載の偏光フィルムの製造方法。
【請求項9】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いて偏光フィルムを製造する偏光フィルムの製造装置であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する染色処理部と、
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加して第1架橋処理液を得る第1架橋処理液調製部と、
前記第1架橋処理液を含む架橋処理液に、前記染色処理部で処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する架橋槽と、を含
み、
前記水は、純水である、偏光フィルムの製造装置。
【請求項10】
さらに、前記水を得るための脱酸素処理を行う脱酸素部を含む、請求項9に記載の偏光フィルムの製造装置。
【請求項11】
さらに、前記水の温度を調整する温度調整部を含む、請求項9又は10に記載の偏光フィルムの製造装置。
【請求項12】
前記第1架橋処理液調製部は、前記架橋槽の外部に設けられている、請求項9~11のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造装置。
【請求項13】
前記架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、前記架橋槽内の架橋処理液から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液であり、
前記抜き出される少なくとも一部の架橋処理液を、前記第1架橋処理液調製部に供給する第1供給部と、
前記第1架橋処理液調製部から前記架橋槽に前記第1架橋処理液を供給する第2供給部と、をさらに含む、請求項9~12のいずれか1項に記載の偏光フィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムとして、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素のような二色性色素を吸着配向させたものが従来用いられている。一般に偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する染色処理、架橋剤で処理する架橋処理、及びフィルム乾燥処理を順次施すとともに、製造工程の間にポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して延伸処理を施すことによって製造される。
【0003】
偏光フィルムを製造する際の染色処理工程や架橋処理工程では、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを処理液と接触させて各処理が行われる(例えば、特許文献1~3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4070000号公報
【文献】特許第6054054号公報
【文献】特開2019-35956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような処理液は、偏光フィルムの製造に伴って処理液や処理液中の薬剤等が消費されるため、処理液の補給を行いながら上記の各処理を行うことがある。処理液には通常、薬剤や水が含まれるため、各処理工程で使用中の処理液に薬剤や水を添加することによって処理液を補給することがある。架橋処理工程で用いる架橋液に水の補給を行った場合に、架橋液中のヨウ素イオン(I3
-)濃度が上昇することが見い出された。架橋液中のヨウ素イオン濃度の上昇は、得られる偏光フィルムの光学性能の低下を引き起こす原因となり得ると考えられる。
【0006】
本発明は、光学性能の良好な偏光フィルムを製造することができる偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置を提供する。
〔1〕 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造する偏光フィルムの製造方法であって、
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する工程と、
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加して第1架橋処理液を得る工程と、
前記第1架橋処理液を含む架橋処理液に、前記染色処理液で処理する工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する工程と、を含む、偏光フィルムの製造方法。
〔2〕 前記水は、純水である、〔1〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔3〕 前記水は、脱酸素処理が行われた脱酸素水である、〔1〕又は〔2〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔4〕 前記脱酸素処理は、膜脱気処理、減圧処理、不活性気体を用いたバブリング処理、加熱処理、及び脱酸素剤を添加する処理からなる群より選ばれる1種以上である、〔3〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔5〕 前記脱酸素処理は、少なくとも膜脱気処理を含む、〔3〕又は〔4〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔6〕 前記第1架橋処理液を得る工程において添加する前記水の温度は、5℃以上70℃以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
〔7〕 前記浸漬する工程は、前記架橋処理液を収容する架橋槽に、前記染色処理液で処理する工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する工程であり、
前記第1架橋処理液を得る工程は、前記架橋槽の外部にある外部槽で行う、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の偏光フィルムの製造方法。
〔8〕 前記架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、前記架橋槽内の前記架橋処理液から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液であり、
前記抜き出される少なくとも一部の架橋処理液を、前記外部槽に供給する工程と、
前記外部槽から前記架橋槽に前記第1架橋処理液を供給する工程と、をさらに含む、〔7〕に記載の偏光フィルムの製造方法。
〔9〕 ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用いて偏光フィルムを製造する偏光フィルムの製造装置であって、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する染色処理部と、
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加して第1架橋処理液を得る第1架橋処理液調製部と、
前記第1架橋処理液を含む架橋処理液に、前記染色処理部で処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する架橋槽と、を含む、偏光フィルムの製造装置。
〔10〕 さらに、前記水を得るための脱酸素処理を行う脱酸素部を含む、〔9〕に記載の偏光フィルムの製造装置。
〔11〕 さらに、前記水の温度を調整する温度調整部を含む、〔9〕又は〔10〕に記載の偏光フィルムの製造装置。
〔12〕 前記第1架橋処理液調製部は、前記架橋槽の外部に設けられている、〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の偏光フィルムの製造装置。
〔13〕 前記架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、前記架橋槽内の架橋処理液から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液であり、
前記抜き出される少なくとも一部の架橋処理液を、前記第1架橋処理液調製部に供給する第1供給部と、
前記第1架橋処理液調製部から前記架橋槽に前記第1架橋処理液を供給する第2供給部と、をさらに含む、〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の偏光フィルムの製造装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学性能の良好な偏光フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルムの製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置の好ましい実施形態について説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
本実施形態に係る偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「PVA系樹脂フィルム」ということがある。)を用いて偏光フィルムを製造するものである。偏光フィルムは、例えば、原料フィルムである長尺のPVA系樹脂フィルムから連続的に長尺物として製造することができる。
【0012】
<偏光フィルムの製造方法>
図1は、本実施形態の偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルムの製造装置の一例を示す模式図である。
図1中の矢印は、フィルム搬送方向又は液の流れ方向を示す。
図1に示す偏光フィルム25の製造方法では、長尺のPVA系樹脂フィルム10から連続的に長尺の偏光フィルム25を得ることができる。具体的には、PVA系樹脂フィルム10を巻出ロール11から連続的に巻き出しつつ、膨潤槽13での膨潤処理工程、染色処理液を収容する染色槽15(染色処理部)での染色処理工程、架橋処理液を収容する架橋槽17での架橋処理工程、及び、洗浄槽19での洗浄処理工程を順に行い、最後に乾燥炉21を通すことにより乾燥処理を行って偏光フィルム25を得ることができる。長尺物として製造される偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってもよいし、巻き取ることなく、偏光フィルム25の片面又は両面に保護フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムを接着する偏光板作製工程に供されてもよい。
【0013】
本実施形態の偏光フィルム25の製造方法は、
PVA系樹脂フィルム10から偏光フィルム25を製造する偏光フィルムの製造方法であって、
PVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する工程と、
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加して第1架橋処理液を得る工程と、
第1架橋処理液を含む架橋処理液に、染色処理液で処理する工程後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬する工程と、を含む。
【0014】
上記の工程により、PVA系樹脂フィルム10の架橋処理に用いる架橋処理液の少なくとも一部となる第1架橋処理液を得、この第1架橋処理液を含む架橋処理液を用いて、染色処理が施されたPVA系樹脂フィルム10の架橋処理を好適に行うことができる。以下、各工程について説明する。
【0015】
(染色処理液で処理する工程)
染色処理液で処理する工程は、PVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する染色処理工程であり、PVA系樹脂フィルム10にヨウ素を吸着、配向させる等の目的で行われる。染色処理液で処理するPVA系樹脂フィルム10は、
図1に示す膨潤槽13において膨潤処理が行われた後のフィルムであることが好ましい。ヨウ素を含有する染色処理液で処理する方法としては、例えば
図1に示すように、フィルム搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルム10を搬送しながら、染色処理液に所定時間浸漬した後、染色処理液から引き出すことによって行うことができる。染色処理液で処理する方法は、PVA系樹脂フィルム10に染色処理液を塗布する方法によって行ってもよい。
【0016】
(第1架橋処理液を得る工程)
第1架橋処理液を得る工程は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加する工程を含む。架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、架橋剤、ヨウ化物塩、及び液体を含む。液体としては、水;エタノール等のアルコール;これらの混合物等が挙げられるが、水を含むことが好ましい。第1架橋処理液を得る工程は、架橋槽17での架橋処理に用いる架橋処理液の一部をなす第1架橋処理液を得るために行われる。架橋処理に用いる架橋処理液は、架橋剤、ヨウ化物塩、及び水を含む。
【0017】
第1架橋処理液を得る工程は、架橋槽17で架橋処理に使用された後の架橋処理液(以下、「使用済みの架橋処理液」ということがある。)を、使用可能な架橋処理液として再利用するために行ってもよい。この場合、上記酸素溶存量の水が添加される架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、使用済みの架橋処理液であることができ、第1架橋処理液を得る工程で行う上記酸素溶存量の水の添加は、使用済みの架橋処理液を再利用して、架橋処理のために使用可能な架橋処理液を調製するための処理となり得る。使用済みの架橋処理液を用いて第1架橋処理液を得る工程を行う場合、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、例えば架橋槽17内の架橋処理液から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液であってもよく、この場合、第1架橋処理液を得る工程は、
図1に示すように、架橋槽17の外部にある外部槽31で行うことができる。外部槽31で第1架橋処理液を得る工程を行う場合、偏光フィルム25の製造方法は、架橋槽17から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液を外部槽31に供給する工程を含んでいてもよく、また、外部槽31で調製された第1架橋処理液を架橋槽17に供給する工程を含んでいてもよい。
【0018】
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に添加される水の酸素溶存量は、2.0mg/L以下であり、1.5mg/L以下であってもよく、1.0mg/L以下であってもよい。上記酸素溶存量は、通常0mg/L以上であり、0.1mg/L以上であってもよい。
【0019】
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に酸素を含む水を添加すると、水に含まれる酸素がヨウ化物塩を酸化し、得られる第1架橋処理液中のヨウ素イオン(I3
-)濃度が上昇することがある。第1架橋処理液を得る工程において、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加することにより、ヨウ化物塩の酸化が抑制されるため、第1架橋処理液中のヨウ素イオン(I3
-)濃度が上昇することを抑制することができる。これにより、良好な光学性能を有する偏光フィルム25を得ることができると考えられる。
【0020】
図1に示す染色槽15内の染色処理液は、ヨウ素を含むとともに通常、ヨウ素を水に溶解させるためにヨウ化物塩を含む。架橋槽17内の架橋処理液には、染色槽15を通過したPVA系樹脂フィルム10が浸漬されるため、架橋処理液は、当該架橋処理液に含まれる架橋剤及びヨウ化物塩に加えて、染色槽15を通過したPVA系樹脂フィルム10によって持ち込まれたヨウ素やヨウ化物塩も含むことになる。そのため、PVA系樹脂フィルム10の架橋処理が繰返し行われると、架橋槽17内の架橋処理液は、染色処理液からのヨウ素の持込みやヨウ化物塩の酸化により架橋処理液内のヨウ素イオン(I
3
-)濃度が上昇する傾向にある。それゆえ、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液が上記した使用済み架橋処理液である場合にはヨウ素イオン(I
3
-)濃度が問題となりやすいため、上記酸素溶存量の水を用いることにより、第1架橋処理液中のヨウ素イオン(I
3
-)濃度の上昇を抑制することが好ましい。
【0021】
上記酸素溶存量の水は、純水や水道水等であってもよいが、純水であることが好ましい。純水とは、塩素や塩類等の不純物を含まない又はほとんど含まない、純度の高い水をいう。純水としては、イオン交換水、蒸留水、逆浸透膜水等を挙げることができる。
【0022】
上記酸素溶存量の水は、脱酸素処理が行われた脱酸素水であることが好ましい。脱酸素処理としては、公知の脱酸素処理方法を採用することができるが、膜脱気処理、減圧処理、不活性気体を用いたバブリング処理、加熱処理、及び脱酸素剤を添加する処理からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。このうち、脱酸素処理は少なくとも膜脱気処理を含むことが好ましい。
【0023】
膜脱気処理は、気体が透過し水が透過しない微細孔を有する膜(気体分離膜)を介して減圧し、水に含まれる気体(酸素)を除去する方法である。減圧処理は、水に接する気体の酸素分圧を下げることによって、水に含まれる酸素を除去する方法である。不活性気体を用いたバブリング処理は、窒素や希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)等の不活性気体の気泡を水に供給し、水に含まれる酸素を除去する方法である。加熱処理は、水を加熱することにより、水に含まれる酸素を除去する方法である。加熱処理において加熱したときの水の温度は、50℃以上であることが好ましく、70℃以上であってもよく、90℃以上であってもよく、加熱処理は、水を沸騰させるように加熱するものであってもよい。脱酸素剤を添加する処理は、ヒドラジンや亜硫酸ナトリウム等の公知の脱酸素剤を水に添加して、水に含まれる酸素を除去する方法である。
【0024】
第1架橋処理液を得る工程において、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に添加される上記酸素溶存量の水の温度は、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、20℃以上であってもよく、30℃以上であってもよく、40℃以上であってもよく、また、70℃以下であることが好ましく、65℃以下であってもよい。上記酸素溶存量の水の温度は、後述する浸漬する工程で用いる架橋処理液の温度の±3℃とすることが好ましく、±1℃とすることがより好ましく、同じとすることがさらに好ましい。膜脱気処理において加熱処理を行った場合には、上記酸素溶存量の水の温度が上記の範囲となるように加熱又は冷却してもよく、膜脱気処理としての加熱処理を、上記酸素溶存量の水の温度が上記の温度となるように行ってもよい。
【0025】
第1架橋処理液の酸素溶存量は、後述する架橋処理液の酸素溶存量(2.0mg/L以下)と同じか、架橋処理液の酸素溶存量少ないことが好ましい。第1架橋処理液を得るために架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に添加する水の酸素溶存量も、後述する架橋処理液の酸素溶存量と同じか、架橋処理液の酸素溶存量よりも少ないことが好ましい。
【0026】
第1架橋処理液を得る工程は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、架橋剤やヨウ化物塩、架橋剤及びヨウ化物塩以外の化合物等の薬剤を供給する工程を含んでいてもよい。薬剤を供給する工程は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液を、架橋処理を行う架橋処理液に含まれる薬液濃度に調整するために行うことができる。薬剤が供給される架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、使用済みの架橋処理液であってもよい。この場合、薬剤を供給する工程は、使用済みの架橋処理液を、架橋処理のために使用可能な架橋処理液として再利用できるように必要な薬剤を補給すればよい。外部槽31で第1架橋処理液を得る工程を行う場合、外部槽31に薬剤を供給すればよい。
【0027】
第1架橋処理液を得る工程を、
図1に示すように外部槽31で行う場合には、外部槽31内で第1架橋処理液を調製することができる。この場合、偏光フィルム25の製造方法は、得られた第1架橋処理液を外部槽31から架橋槽17に供給する工程をさらに含んでいてもよい。
【0028】
(浸漬する工程)
浸漬する工程は、第1架橋処理液を含む架橋処理液に、染色処理液で処理する工程後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬する工程であり、PVA系樹脂フィルム10に架橋処理を行う架橋処理工程とすることができる。架橋処理工程は、架橋による耐水化や色相調整等の目的で行われる。架橋処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬する方法としては、架橋槽17に収容されている、上記した第1架橋処理液を得る工程で得た第1架橋処理液を含む架橋処理液に、PVA系樹脂フィルムを浸漬する方法を挙げることができる。
【0029】
第1架橋処理液を得る工程で得られた第1架橋処理液は、上記酸素溶存量の水が添加されているため、ヨウ素イオン(I3
-)濃度の上昇が抑制されている。そのため、第1架橋処理液を含む架橋処理液においても、ヨウ素イオン(I3
-)濃度の上昇が抑制されている。これにより、この架橋処理液を用いて染色処理が行われたPVA系樹脂フィルム10の架橋処理を行っても、光学性能が良好な偏光フィルム25を得ることができる。
【0030】
架橋処理液では、偏光フィルムの光学特性の低下を抑制し、偏光フィルムの透過率を調整しやすくするために、ヨウ素イオン(I3
-)濃度を小さく保つことが好ましい。そのため、第1架橋処理液を含む架橋処理液のヨウ素イオン(I3
-)濃度は、通常0.5mM以下とすることが好ましく、0.3mM以下であることがより好ましく、0.1mM以下であることがさらに好ましい。
【0031】
架橋処理液の酸素溶存量は、2.0mg/L以下であることが好ましく、1.8mg/L以下であってもよく、通常0mg/L以上であり、0.1mg/L以上であってもよい。
【0032】
本実施形態の偏光フィルム25の製造方法における第1架橋処理液を得る工程は、
図1に示す架橋槽17中で行ってもよく、
図1に示すように架橋槽17の外部、例えば外部槽31で行ってもよい。また、第1架橋処理液を得る工程は、浸漬する工程(架橋処理を行う工程)と並行しながら行ってもよく、架橋槽17と外部槽31との間で架橋処理液や第1架橋処理液を循環させながら行ってもよい。例えば、
図1に示すように、架橋槽17内の架橋処理液の抜き出し、外部槽31での第1架橋処理液の調製、得られた第1架橋処理液の架橋槽17への供給を連続的に行いつつ、架橋槽17では、染色処理液で処理する工程後のPVA系樹脂フィルム10を、第1架橋処理液を含む架橋処理液に浸漬して架橋処理を行ってもよい。
【0033】
<偏光フィルムの製造装置>
本実施形態の偏光フィルム25の製造装置は、上記した偏光フィルム25の製造方法に用いる装置である。
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、長尺のPVA系樹脂フィルム10に対して連続的に、膨潤槽13内の膨潤処理液、染色槽15(染色処理部)内の染色処理液、架橋槽17内の架橋処理液、及び、洗浄槽19内の洗浄処理液に順次浸漬する処理を行い、最後に乾燥炉21を通すことにより乾燥処理を行って、長尺の偏光フィルム25を得ることができる。
【0034】
偏光フィルム25の製造装置は、例えば
図1に示すように、フィルム搬送経路(PVA系樹脂フィルム10及び偏光フィルム25が搬送される経路)の上流側から順に、膨潤槽13、染色槽15(染色処理部)、架橋槽17、洗浄槽19、及び乾燥炉21を含む。偏光フィルム25の製造装置は、さらに第1架橋処理液調製部30及び水調製部を有する。第1架橋処理液調製部30は、外部槽31、水供給部32、及び、薬剤供給部33を有することができる。水供給部32は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に添加される、酸素溶存量が2.0mg/L以下の水を供給するためのものである。薬剤供給部33は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、当該液に含まれる架橋剤やヨウ化物塩、架橋剤及びヨウ化物塩以外の化合物等の薬剤を補給するためのものである。水調製部は、上記酸素溶存量の水を得るための脱酸素処理を行う脱酸素部や、上記酸素溶存量の水の温度を調整する温度調整部を含むことができ、第1架橋処理液調製部30に設けられていてもよい。
【0035】
偏光フィルム25の製造装置は、さらに架橋槽17内の架橋処理液を外部槽31に供給する第1供給部35、及び、外部槽31から架橋槽17に第1架橋処理液を供給する第2供給部36を含むことができる。これらを備えることにより、架橋槽17と第1架橋処理液調製部30との間を架橋処理液及び第1架橋処理液が循環することができる。製造装置は、得られた偏光フィルム25の片面又は両面に保護フィルム等を貼合して偏光板を作製する偏光板作製部を有していてもよい。
【0036】
上記したように、偏光フィルム25の製造装置は、長尺のPVA系樹脂フィルム10を搬送しながら各種の処理を行うものであり、フィルム搬送経路には、上記した各槽や各部を通るように、搬送中のフィルムを支持・案内する複数のロールが設けられている。複数のロールは、フィルムの片面を支持しフィルムに駆動力を与えないガイドロール、フィルムの両面に配置されてフィルムを挟み込む1対のロールからなるニップロール(通常は、フィルムに駆動力を与えることができる駆動ロール)を含む。
図1に示す製造装置では、フィルム搬送経路に、ガイドロール1a~1k及びニップロール2a~2fが設けられている。ガイドロールの一部やニップロールの一部は、駆動ロールとすることができるサクションロール(吸引ロール)であってもよい。これら複数のロールは、フィルム搬送経路の任意の位置に設けることができる。
【0037】
本実施形態の偏光フィルムの製造装置は、
PVA系樹脂フィルム10を用いて偏光フィルム25を製造する偏光フィルム25の製造装置であって、
PVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する染色槽15(染色処理部)と、
架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、酸素溶存量が2.0mg/L以下である水を添加して第1架橋処理液を得る第1架橋処理液調製部30と、
第1架橋処理液を含む架橋処理液に、染色槽15で処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する架橋槽17と、を含む。
【0038】
偏光フィルムの製造装置は、上記したように、さらに上記酸素溶存量の水を調製するための水調製部を含んでいてもよい。
【0039】
上記の製造装置は、上記した偏光フィルム25の製造方法に用いることができる。上記の製造装置によれば、PVA系樹脂フィルム10の架橋処理に用いる架橋処理液の少なくとも一部となる第1架橋処理液を調製し、この第1架橋処理液を含む架橋処理液を用いて、染色処理が施されたPVA系樹脂フィルム10の架橋処理を好適に行うことができる。以下、偏光フィルム25の製造装置の各部について説明する。
【0040】
(染色槽)
図1に示す染色槽15は、偏光フィルム25の製造方法における、PVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する工程を行うために用いることができる。染色槽15は、その内部に染色処理液を収容しており、例えば膨潤槽13で膨潤処理されたPVA系樹脂フィルム10を染色処理液に浸漬するために用いられる。PVA系樹脂フィルム10は、染色槽15内の染色処理液内に設けられたガイドロール1d,1eに支持されて搬送されながら、染色処理液により染色処理される。染色処理液で処理されて染色槽15から引き出されたPVA系樹脂フィルム10は、ガイドロール1f、ニップロール2cを順に通過して架橋槽17に導入される。
【0041】
PVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素を含有する染色処理液で処理する工程を、PVA系樹脂フィルム10に染色処理液を塗布することによって行う場合、染色槽15に代えて、スプレー等の塗布装置を用いればよい。
【0042】
(第1架橋処理液調製部)
第1架橋処理液調製部30は、偏光フィルム25の製造方法における第1架橋処理液を得る工程を行うために用いることができ、第1架橋処理液調製部30は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、上記酸素溶存量の水を添加することができる。これにより、第1架橋処理液調製部30は、架橋槽17での架橋処理に用いる架橋処理液の一部をなす第1架橋処理液を調製する。第1架橋処理液調製部30は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に上記酸素溶存量の水を添加するための水供給部や、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、架橋剤やヨウ化物塩等の架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に含まれる薬剤を添加するための薬剤供給部33を備えることができる。
【0043】
第1架橋処理液調製部30は、架橋槽17で用いる架橋処理液の一部となる第1架橋処理液を調製するものであるため、架橋槽17に設けられていてもよいが、架橋槽17の外部に設けられていてもよい。例えば、
図1に示す第1架橋処理液調製部30は、架橋槽17の外部に設けられており、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液を内部に収容する外部槽31と、外部槽31内の架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、上記酸素溶存量の水を添加するための水供給部32とを備えている。
【0044】
上記したように、第1架橋処理液調製部30で用いる架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液は、使用済みの架橋処理液であってもよく、架橋槽17内の架橋処理液から抜き出される少なくとも一部の架橋処理液であってもよい。そのため、例えば
図1に示すように、第1架橋処理液調製部30が架橋槽17の外部に設けられている場合には、偏光フィルム25の製造装置は、架橋槽17内の架橋処理液を外部槽31に供給するための第1供給部35、及び、外部槽31から架橋槽17に第1架橋処理液を供給する第2供給部36を有することができる。第1供給部35及び第2供給部36は、例えば架橋槽17と外部槽31とを繋ぐ配管としてもよい。また、第1供給部35は、架橋槽17から溢流した架橋処理液を、直接又は配管等を介して外部槽31に供給するものであってもよく、第2供給部36は、外部槽31から溢流した第1架橋処理液を、直接又は配管等を介して架橋槽17に供給するものであってもよい。
【0045】
図1に示す外部槽31は、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液として、架橋槽17内の架橋処理液から、第1供給部35を通じて抜き出される少なくとも一部の架橋処理液を収容することができる。外部槽31は、その内部に収容する架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に、上記酸素溶存量の水を添加して混合するために用いることができる。外部槽31には、内部の液を撹拌するための撹拌羽根やスターラ等の撹拌装置が設けられていてもよい。外部槽31は、架橋処理液を所定の温度に維持することができるように、断熱材料で被覆されていてもよく、架橋処理液を所定の温度とするための加熱部又は冷却部等の温度調整装置を備えていてもよい。
【0046】
図1に示す水供給部32は、外部槽31内の架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に添加する上記酸素溶存量の水を供給することができる。水供給部32は、必要量の上記酸素溶存量の水を外部槽31内に供給することができる。水供給部32からの上記酸素溶存量の水の供給量は、例えば、第1架橋処理液調製部30で調整される第1架橋処理液の架橋剤やヨウ化物塩の濃度が、架橋槽17内の架橋処理液に必要とされている架橋剤やヨウ化物塩の濃度となるように予め設定されていてもよく、外部槽31内の架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液について測定された架橋剤やヨウ化物塩の濃度に基づいて調整されるようになっていてもよい。水供給部32は、所定の温度に調整された上記酸素溶存量の水を供給することができるように、断熱材料で被覆されていてもよく、上記酸素溶存量の水を所定の温度とするための加熱部又は冷却部等の温度調整装置を備えていてもよい。
【0047】
図1に示す薬剤供給部33は、外部槽31内の架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に添加する架橋剤やヨウ化物塩、架橋剤及びヨウ化物塩以外の化合物等の薬剤を供給することができる。薬剤供給部33から添加する薬剤の供給量は、例えば、第1架橋処理液調製部30で調整される第1架橋処理液の薬剤の濃度が、架橋槽17内の架橋処理液に必要とされている薬剤の濃度となるように予め設定されていてもよく、外部槽31内の架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液について測定された薬剤の濃度に基づいて調整されるようになっていてもよい。
【0048】
(水調製部)
水調製部は、上記酸素溶存量の水を得るための脱酸素処理を行う脱酸素部や、上記酸素溶存量の水の温度を調整する温度調整部を含むことができる。
【0049】
脱酸素部としては、脱酸素処理を行うための公知の装置を採用することができるが、膜脱気処理部、減圧処理部、不活性気体を用いたバブリング処理部、加熱処理部、及び脱酸素剤を添加する脱酸素剤供給部からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。このうち、脱酸素部は少なくとも膜脱気処理部を含むことが好ましい。
【0050】
膜脱気処理部は、気体が透過し水が透過しない微細孔を有する気体分離膜を備えることが好ましい。減圧処理部は、水に接する気体の酸素分圧を下げることができる減圧装置を備えることが好ましい。バブリング処理部としては、不活性気体を送気することができるガス管チューブ、エアストーン、ディフューザ(散気管、散気板)等の散気装置が挙げられる。加熱処理部としては、公知の加熱装置を挙げることができ、例えば、水を所定の温度以上に加熱したり水を沸騰させたりできるものが挙げられる。脱酸素剤供給部は、脱酸素剤を水に供給できる装置であれば特に限定されない。
【0051】
温度調整部としては、上記酸素溶存量の水を所定の温度に調整するための公知の装置を採用することができ、加熱部であってもよく、冷却部であってもよく、加熱部及び冷却部の両方を備えるものであってもよい。温度調整部は、上記酸素溶存量の水を、後述する架橋槽17に収容された架橋処理液の温度に調整するものであることが好ましい。脱酸素部が加熱処理部を含む場合は、加熱処理部によって上記酸素溶存量の水の温度調整を行うようにしてもよい。
【0052】
図1に示す第1架橋処理液調製部30で調製された第1架橋処理液は、第2供給部36を通じて、外部槽31から架橋槽17に供給することができる。第2供給部36が配管である場合、所定の温度に調整された架橋処理液を架橋槽17に供給することができるように、配管は、断熱材料で被覆されていてもよく、架橋処理液を所定の温度とするための加熱部又は冷却部等の温度調整装置を備えていてもよい。
【0053】
(架橋槽)
架橋槽17は、偏光フィルム25の製造方法における、第1架橋処理液を含む架橋処理液に、染色処理液で処理する工程後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬する工程を行うために用いることができる。架橋槽17は、その内部に第1架橋処理液を含む架橋処理液を収容しており、染色槽15で染色されたPVA系樹脂フィルム10を架橋処理液に浸漬するために用いられる。PVA系樹脂フィルム10は、架橋槽17内の架橋処理液内に設けられたガイドロール1g,1hに支持されて搬送されながら、架橋処理液で処理される。架橋処理液で処理されて架橋槽17から引き出されたPVA系樹脂フィルム10は、ガイドロール1i、ニップロール2dを順に通過して洗浄槽19に導入される。
【0054】
本実施形態の偏光フィルム25の製造装置における第1架橋処理液調製部30は、
図1に示す架橋槽17に設けてもよく、
図1に示すように架橋槽17の外部に設けてもよい。また、第1架橋処理液調製部30での第1架橋処理液の調製は、架橋槽17での架橋処理と並行しながら行ってもよく、第1架橋処理液調製部30が架橋槽17の外部にある場合は、架橋槽17と第1架橋処理液調製部30との間で架橋処理液や第1架橋処理液を循環させるようにしてもよい。例えば、
図1に示すように、架橋槽17からの架橋処理液の抜き出し、第1架橋処理液調製部30での第1架橋処理液の調製、得られた第1架橋処理液の架橋槽17への供給を連続的に行いつつ、架橋槽17では、染色槽15から引き出されたPVA系樹脂フィルム10を架橋処理液に浸漬して架橋処理を行ってもよい。
【0055】
以下、偏光フィルムの製造方法をなす各工程、及び、偏光フィルムの製造装置をなす各部材等について詳細に説明する。
【0056】
(PVA系樹脂フィルム)
本実施形態の偏光フィルムの製造方法で用いるPVA系樹脂フィルム10は、ポリビニルアルコール系樹脂を用いて形成されたフィルムである。ポリビニルアルコール系樹脂とは、ビニルアルコール由来の構成単位を50質量%以上含む樹脂をいう。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂の鹸化度は、JIS K 6727(1994)に準拠して求めることができ、例えば80.0~100.0モル%の範囲とすることができる。
【0057】
ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体等を挙げることができる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等を挙げることができる。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。その他の「(メタ)」を付した用語においても同様である。
【0058】
PVA系樹脂フィルム10の一例は、ポリビニルアルコール系樹脂を製膜してなる未延伸フィルムであってもよく、この未延伸フィルムを延伸した延伸フィルムであってもよい。PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合、縦一軸延伸された延伸フィルムであることが好ましく、乾式延伸された延伸フィルムであることが好ましい。PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合の延伸倍率は、通常は1.1~8倍である。
【0059】
本実施形態の偏光フィルムの製造方法で用いるPVA系樹脂フィルム10の厚みは、通常10~150μmであり、得られる偏光フィルム25の薄膜化の観点から、100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましく、30μm以下であってもよい。
【0060】
(偏光フィルム)
本実施形態の偏光フィルムの製造方法で得られる偏光フィルム25は、延伸されたPVA系樹脂フィルムにヨウ素が吸着配向されているものである。偏光フィルム25の厚みは、通常2~40μmであり、偏光フィルムの薄膜化の観点から、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。
【0061】
得られる偏光フィルム25の視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮して、40~47%であることが好ましく、41~45%であることがより好ましい。視感度補正偏光度Pyは、99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。Ty及びPyは、積分球付き吸光光度計を用いて、得られた透過率、偏光度に対してJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行うことによって求めることができる。
【0062】
(膨潤処理工程及び膨潤槽)
膨潤処理工程は、PVA系樹脂フィルム10の異物除去、可塑剤除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化等の目的で必要に応じて実施される処理である。
図1に示すように、膨潤処理工程は、PVA系樹脂フィルム10を、膨潤処理液を収容する膨潤槽13に所定時間浸漬した後、引き出すことによって実施することができる。
【0063】
膨潤槽13に収容される膨潤処理液は、例えば水(純水等)であってもよく、アルコール等の水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。膨潤処理液は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物、塩化物、無機酸、無機塩等を含有していてもよい。膨潤処理液の温度は、通常10~70℃であり、15~50℃であることが好ましく、15~35℃であることがより好ましい。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(膨潤処理液中での滞留時間)は、通常10~600秒であり、15~300秒であることが好ましい。PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合、膨潤処理液の温度は、例えば20~70℃程度であり、30~60℃であってもよい。
【0064】
膨潤処理中に、PVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。その場合の延伸倍率は、通常1.2~3倍であり、1.3~2.5倍であることが好ましい。
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、例えば、ニップロール2aとニップロール2bとの周速差を利用して膨潤槽13中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0065】
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、膨潤槽13から引き出されたフィルムは、ガイドロール1c,ニップロール2bを順に通過して染色槽15へ導入される。
【0066】
(染色処理工程及び染色槽)
染色処理工程及び染色槽15について、上記で説明した以外の点について説明する。染色処理工程で用いる染色処理液としては、ヨウ素及びヨウ化物塩を含有する水溶液を用いることができる。ヨウ化物塩としては、例えば、アルカリ金属のヨウ化物塩、アルカリ土類金属のヨウ化物塩、ヨウ化亜鉛等が挙げられ、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛であることが好ましく、ヨウ化カリウムであることがより好ましい。ヨウ化カリウムと他のヨウ化物塩とを併用してもよい。
【0067】
染色処理液は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物、塩化亜鉛、塩化コバルト等のヨウ化物塩以外の化合物を含んでいてもよい。ホウ素化合物を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理液と区別される。例えば、水溶液が水100質量部に対し、ヨウ素を約0.003質量部以上含んでいるものであれば、染色処理液とみなすことができる。染色処理液におけるヨウ素の含有量は、水100質量部あたり、通常0.003~1質量部である。染色処理液におけるヨウ化カリウム等のヨウ化物塩の含有量は、水100質量部あたり、通常0.1~20質量部である。
【0068】
染色処理液の温度は、通常10~45℃であり、10~40℃であることが好ましく、20~35℃であることがより好ましい。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(染色処理液中での滞留時間)は、通常20~600秒であり、30~300秒であることが好ましい。
【0069】
偏光フィルム25の製造装置は、染色槽15を2槽以上含んでいてもよい。この場合、各染色処理液の組成及び温度は、それぞれ独立して互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0070】
ヨウ素の染色性を高めるために、染色処理に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度の延伸処理(通常は一軸延伸処理)が施されていることが好ましい。染色処理前の延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の延伸処理に加えて、染色処理を行いながら延伸処理を施してもよい。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸工程がない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常1.6~4.5倍であり、1.8~4倍であることが好ましい。
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、例えば、ニップロール2bとニップロール2cとの間の周速差を利用して染色槽15中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0071】
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、染色槽15から引き出されたフィルムは、ガイドロール1f,ニップロール2cを順に通過して架橋槽17へ導入される。
【0072】
(架橋処理工程及び架橋槽)
染色処理工程及び染色槽15について、上記で説明した以外の点について説明する。架橋処理工程で用いる架橋処理液は、ヨウ化物塩及び架橋剤を含有する液(通常は水溶液)を用いることができる。ヨウ化物塩としては、例えば、アルカリ金属のヨウ化物塩、アルカリ土類金属のヨウ化物塩、ヨウ化亜鉛等が挙げられ、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛であることが好ましく、ヨウ化カリウムであることがより好ましい。ヨウ化カリウムと他のヨウ化物塩とを併用してもよい。架橋剤としては、例えば、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げることができ、ホウ酸であることが好ましい。2種以上の架橋剤を併用することもできる。
【0073】
架橋処理液は、ヨウ化物塩及び架橋剤以外の化合物を含有していてもよい。該化合物としては、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0074】
架橋処理液におけるヨウ化物塩の含有量は通常、水100質量部あたり、通常0.1~20質量部であり、5~15質量部であることが好ましい。架橋処理液における架橋剤の含有量は通常、水100質量部あたり、通常0.1~15質量部であり、1~12質量部であることが好ましい。架橋処理液の温度は、通常20~85℃であり、30~70℃であることが好ましい。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(架橋処理液中での滞留時間)は、通常10~600秒であり、20~300秒であることが好ましい。
【0075】
偏光フィルム25の製造装置は、架橋槽17を2槽以上含んでいてもよい。この場合、各架橋処理液の組成及び温度は、それぞれ独立して互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。架橋槽17を複数含む場合、それぞれの架橋槽に、第1架橋処理液調製部を設けてもよい。
【0076】
架橋処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、例えば、ニップロール2cとニップロール2dとの間の周速差を利用して架橋槽17中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0077】
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、架橋槽17から引き出されたフィルムは、ガイドロール1i、ニップロール2dを順に通過して洗浄槽19へ導入される。
【0078】
(洗浄処理工程及び洗浄槽)
洗浄処理工程は、架橋処理工程後のPVA系樹脂フィルム10に付着した余分な薬剤を除去する等の目的で実施される処理である。
図1に示すように、洗浄処理工程は、架橋処理工程(架橋槽17に浸漬された)後のPVA系樹脂フィルム10をフィルム搬送経路に沿って搬送させ、洗浄処理液を収容する洗浄槽19に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
【0079】
洗浄処理工程は、
図1に示す洗浄槽19に浸漬する処理に代えて、架橋処理工程後のPVA系樹脂フィルム10に対して洗浄処理液を例えばシャワーとして噴霧する処理であってもよい。また、洗浄処理工程は、洗浄槽19への浸漬と洗浄処理液の噴霧とを組み合わせて行ってもよい。
【0080】
洗浄処理液は、例えば水(純水等)であることができるほか、アルコール類等の水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。洗浄浴の温度は、例えば2~40℃である。
【0081】
洗浄処理工程を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、例えば、ニップロール2dとニップロール2eとの間の周速差を利用して洗浄槽19中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0082】
図1に示す偏光フィルム25の製造装置では、洗浄槽19から引き出されたフィルムは、ガイドロール1l、ニップロール2eを順に通過して乾燥炉21へ導入される。
【0083】
(延伸処理工程及び延伸処理部)
上記した膨潤処理工程、染色処理工程、架橋処理工程、及び洗浄処理工程の少なくとも1つの工程で処理を行いながら延伸処理を行ってもよい。これらの工程で行われる延伸処理は、湿式延伸であり、通常一軸延伸である。延伸処理工程は、架橋処理工程又はそれより前の1又は2以上の段階で行われることが好ましい。ヨウ素の染色性を高めて良好な偏光特性を有する偏光フィルム25を得るために、染色処理工程に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度延伸処理が施されていることがより好ましい。
【0084】
延伸処理工程における延伸倍率は、得られる偏光フィルム25の偏光特性の観点から、偏光フィルム25の最終的な累積延伸倍率(原反フィルムとしてのPVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合には、この延伸も含めた累積延伸倍率)が3~8倍となるように調整される。
【0085】
延伸処理工程を実施するために、偏光フィルムの製造装置は、PVA系樹脂フィルム10を延伸するための延伸処理部を含む。延伸処理部は、ロール間で延伸を行うものであることが好ましく、例えば
図1に示す各槽の前後に配置される2つのニップロールを挙げることができる。
【0086】
(乾燥処理工程及び乾燥炉)
乾燥処理部は、PVA系樹脂フィルム10のフィルム搬送経路上であって、
図1に示す製造装置では、洗浄槽19の下流側に配置され、洗浄処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を乾燥させるためのゾーンである。乾燥処理工程では、洗浄処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を引き続き搬送させながら、乾燥炉21に当該フィルムを導入することによって乾燥処理を施すことができ、これにより偏光フィルム25が得られる。
【0087】
乾燥炉21は、例えば、熱風の供給等により炉内温度を高めることができる熱風オーブンである。乾燥炉21に代えて、湿式処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を密着させる凸曲面を有する1又は2以上の加熱体や、ヒーター等を用いて乾燥処理を行ってもよい。加熱体としては、熱源(例えば、温水等の熱媒や赤外線ヒーター)を内部に備え、表面温度を高めることができるロール(例えば熱ロールを兼ねたガイドロール)を挙げることができる。ヒーターとしては、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等を挙げることができる。乾燥処理の温度(例えば、乾燥炉21の炉内温度、熱ロールの表面温度等)は、通常30~100℃であり、50~90℃であることが好ましい。
【実施例】
【0088】
以下、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0089】
[酸素溶存量の測定]
各参考例で用いた脱酸素水について、酸素溶存量を測定した。酸素溶存量は、溶存酸素計(B-506、飯島電子工業(株)製)を用いて行った。
【0090】
[吸光度の測定]
参考例で得た水溶液について、波長380nmにおける吸光度を測定した。吸光度は、吸光光度計(UV-2450、(株)島津製作所製)を用い、試料充填部の厚みが10mmの液体セルを使用して測定した。波長380nmにおける吸光度は、水溶液中のヨウ素イオン(I3
-)の含有量(I3
-の濃度)に略比例し、波長380nmにおける吸光度の値が大きいほど、ヨウ素イオン(I3
-)濃度が高いことを示す。
【0091】
〔参考例1〕
イオン交換水に窒素ガスのバブリング処理を行って脱酸素水を得た。得られた脱酸素水の39.5±1℃の範囲内の温度における酸素溶存量を測定した。結果を表1に示す。得られた脱酸素水8Lに、ホウ酸400g及びヨウ化カリウム(KI)1200gを添加し、これを4分間撹拌して水溶液を得た。得られた水溶液について、吸光度の測定を行った。結果を表1に示す。水溶液調整から吸光度測定までの間、液の温度は39.5±1℃の範囲内に維持した。
【0092】
〔参考例2~4〕
膜脱気装置による脱酸素処理量を調整して、表1に記載の酸素溶存量である脱酸素水を用いたこと以外は、参考例1と同様にして水溶液を得た。得られた水溶液について、吸光度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
表1に示す結果から、架橋剤及びヨウ化物塩を含有する液に水を添加する場合において、添加する水の酸素溶存量が大きいほど、得られる第1架橋処理液中のヨウ素イオン(I3
-)濃度が上昇しやすいことが示唆される。
【符号の説明】
【0095】
1a~1l ガイドロール、2a~2f ニップロール、10 ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(PVA系樹脂フィルム)、11 巻出ロール、13 膨潤槽、15 染色槽、17 架橋槽、19 洗浄槽、21 乾燥炉、25 偏光フィルム、27 巻取りロール、30 第1架橋処理液調製部、31 外部槽、32 水供給部、33 薬剤供給部、35 第1供給部、36 第2供給部。