(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】光学ラインセンサ
(51)【国際特許分類】
H04N 1/195 20060101AFI20240410BHJP
H04N 1/028 20060101ALI20240410BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
H04N1/195
H04N1/028 Z
G02B3/00 A
(21)【出願番号】P 2020207542
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】510192019
【氏名又は名称】株式会社ヴィーネックス
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 龍太
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 修
【審査官】橋爪 正樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/146873(WO,A1)
【文献】特開2014-077964(JP,A)
【文献】特開2015-025972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/024- 1/207
G06T 1/00
G02B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
副走査方向に搬送される検査対象物を主走査方向に延びる読取ラインで読み取る光学ラインセンサであって、
主走査方向に沿って複数配置された複数の受光レンズと、
主走査方向に沿ってライン状に配置され、前記複数の受光レンズを透過した光を受光する複数の受光素子とを備え、
前記複数の受光レンズは、該受光レンズの直径以上に互いに離間して配置され、
前記複数の受光素子は、少なくとも1列以上の前記読取ラインを形成することを特徴とする光学ラインセンサ。
【請求項2】
前記複数の受光レンズは、正立像を形成することを特徴とする請求項1に記載の光学ラインセンサ。
【請求項3】
前記複数の受光レンズは、該受光レンズの視野寸法以下に互いに離間して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の光学ラインセンサ。
【請求項4】
前記複数の受光レンズは、該受光レンズの視野寸法以上に互いに離間して配置され、
前記複数の受光素子は少なくとも2列以上の前記読取ラインを形成することを特徴とする請求項2に記載の光学ラインセンサ。
【請求項5】
前記複数の受光素子は、1列のアレイ状に配置されることにより1つの受光素子アレイを構成し、
前記複数の受光レンズは、該受光レンズの直径以上に互いに離間し、かつ、該受光レンズの視野寸法以下に互いに離間して配置されていることを特徴とする請求項2に記載の光学ラインセンサ。
【請求項6】
前記複数の受光素子は、2列以上のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイを構成し、該複数の受光素子アレイの各々は、前記読取ラインに直交する方向において前記受光レンズの直径以上に互いに離間し、かつ、該受光レンズの視野寸法以下に互いに離間して配置され、
前記複数の受光レンズは、前記複数の受光素子アレイに対応した数だけ配置され、各受光レンズの光軸は、各受光素子アレイの
中央部を貫くことを特徴とする請求項2に記載の光学ラインセンサ。
【請求項7】
前記複数の受光素子は、2列以上のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイを構成し、該複数の受光素子アレイの各々は、前記読取ラインに直交する方向において前記受光レンズの視野寸法以上に互いに離間して配置され、
前記複数の受光レンズは、前記複数の受光素子アレイに対応した数だけ配置され、各受光レンズの光軸は、各受光素子アレイの
中央部を貫くことを特徴とする請求項2に記載の光学ラインセンサ。
【請求項8】
前記複数の受光素子アレイは、2列の読取ラインにそれぞれ複数配置された各読取ラインよりも短い受光素子アレイであり、一方の読取ラインに配置された受光素子アレイと他方の読取ラインに配置された受光素子アレイとが、主走査方向に沿って交互に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の光学ラインセンサ。
【請求項9】
前記複数の受光レンズは、前記2列の読取ラインの間に、前記複数の受光素子アレイに平行に1列で配置され、各受光レンズの光軸が、前記2列の読取ラインの間の副走査方向における
中央部を貫くことを特徴とする請求項8に記載の光学ラインセンサ。
【請求項10】
前記複数の受光レンズは、倒立像を形成することを特徴とする請求項1に記載の光学ラインセンサ。
【請求項11】
前記複数の受光レンズは、該受光レンズの視野寸法以上に互いに離間して配置され、
前記複数の受光素子は少なくとも2列以上の前記読取ラインを形成することを特徴とする請求項10に記載の光学ラインセンサ。
【請求項12】
前記複数の受光素子は、2列以上のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイを構成し、該複数の受光素子アレイの各々は、前記読取ラインに直交する方向において前記受光レンズの直径以上に互いに離間し、かつ、該受光レンズの視野寸法以下に互いに離間して配置され、
前記複数の受光レンズは、前記複数の受光素子アレイに対応した数だけ配置され、各受光レンズの光軸は、各受光素子アレイの
中央部を貫くことを特徴とする請求項10に記載の光学ラインセンサ。
【請求項13】
前記複数の受光素子は、2列以上のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイを構成し、該複数の受光素子アレイの各々は、前記読取ラインに直交する方向において前記受光レンズの視野寸法以上に互いに離間して配置され、
前記複数の受光レンズは、前記複数の受光素子アレイに対応した数だけ配置され、各受光レンズの光軸は、各受光素子アレイの
中央部を貫くことを特徴とする請求項10に記載の光学ラインセンサ。
【請求項14】
前記複数の受光素子アレイは、2列の読取ラインにそれぞれ複数配置された各読取ラインよりも短い受光素子アレイであり、一方の読取ラインに配置された受光素子アレイと他方の読取ラインに配置された受光素子アレイとが、主走査方向に沿って交互に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項12又は13に記載の光学ラインセンサ。
【請求項15】
前記複数の受光レンズは、前記2列の読取ラインの間に、前記複数の受光素子アレイに平行に1列で配置され、各受光レンズの光軸が、前記2列の読取ラインの間の副走査方向における
中央部を貫くことを特徴とする請求項14に記載の光学ラインセンサ。
【請求項16】
前記複数の受光素子は、2列以上のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイを構成し、該複数の受光素子アレイの各々は、前記読取ラインに直交する方向において前記受光レンズの視野寸法以上に互いに離間して配置され、
前記複数の受光レンズは、前記複数の受光素子アレイに対応した数だけ配置され、各受光レンズの光軸は、各受光素子アレイの
中央部を貫くことを特徴とする請求項10に記載の光学ラインセンサ。
【請求項17】
前記複数の受光素子アレイは、2列の読取ラインにそれぞれ複数配置された各読取ラインよりも短い受光素子アレイであり、一方の読取ラインに配置された受光素子アレイと他方の読取ラインに配置された受光素子アレイとが、主走査方向に沿って交互に千鳥状に配置されていることを特徴とする請求項16に記載の光学ラインセンサ。
【請求項18】
前記複数の受光レンズが、それぞれ正立像を形成する屈折率分布型レンズ、或いは、アクロマート、或いは、アポクロマートを含むことを特徴とする請求項2~9の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項19】
前記複数の受光レンズが、それぞれ倒立像を形成する屈折率分布型レンズ、或いは、アクロマート、或いは、アポクロマートを含むことを特徴とする請求項10~17の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項20】
前記屈折率分布型レンズが、ガラス或いは樹脂からなり、該レンズのレンズパラメータにおいて、軸上屈折率N
0が1.45≦N
0≦1.65であり、屈折率分布定数√Aが0.05≦√A≦0.12であり、焦点距離fが50mm≦f≦150mmであることを特徴とする請求項18又は19に記載の光学ラインセンサ。
【請求項21】
前記複数の受光レンズが、それぞれ複数枚のレンズを組み合わせたアクロマート又はアポクロマートからなり、前記複数枚のレンズとして凸レンズのみを組み合わせたレンズ系であるか、或いは、前記複数枚のレンズとして凸レンズと凹レンズを組み合わせたレンズ系であり、かつ、該複数枚のレンズの焦点距離fが50mm≦f≦250mmであり、更に該複数枚のレンズの口径Φが2mm≦Φ≦10mmであることを特徴とする請求項18又は19に記載の光学ラインセンサ。
【請求項22】
検査対象物に光を照射する複数の光源をさらに備え、
前記複数の光源は、前記読取ラインに平行に並べて配置され、前記複数の光源の光軸は、前記複数の受光レンズの光軸と交点を結び、かつ該複数の受光レンズの光軸と交差する仮想平面の任意の位置に配置され、更に互いに隣接する受光レンズの間の
中央部に光源が配置されたことを特徴とする請求項1~21の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項23】
前記複数の光源は、複数の異なる波長を有する光源を含み、該複数の異なる波長を有する光源を1単位として、該1単位の光源が主走査方向に複数並べられたことを特徴とする請求項22に記載の光学ラインセンサ。
【請求項24】
前記複数の光源からの光束を集光する集光レンズをさらに備えることを特徴とする請求項22又は23に記載の光学ラインセンサ。
【請求項25】
前記集光レンズは、主走査方向のパワーが副走査方向のパワーよりも大きい第1集光レンズと、副走査方向のパワーが主走査方向のパワーよりも大きい第2集光レンズとを含むことを特徴とする請求項24に記載の光学ラインセンサ。
【請求項26】
前記集光レンズは、1個のレンズ体であり、該レンズ体が有する主走査方向のパワーが副走査方向のパワーよりも大きいことを特徴とする請求項24に記載の光学ラインセンサ。
【請求項27】
前記集光レンズは、主走査方向のパワーを前記第1集光レンズと第2集光レンズにより調整可能であることを特徴とする請求項25に記載の光学ラインセンサ。
【請求項28】
前記集光レンズが、シリンドリカルレンズ或いはフレネルレンズであることを特徴とする請求項24~27の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項29】
前記第1集光レンズが、レンチキュラーレンズで或いはプリズム列であり、
前記第2集光レンズが、フレネルレンズ或いはシリンドリカルレンズであることを特徴とする請求項25又は27に記載の光学ラインセンサ。
【請求項30】
前記複数の光源が、白色LEDを含むことを特徴とする請求項22~29の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項31】
前記複数の光源が、赤色LED、緑色LED及び青色LEDを含むことを特徴とする請求項22~29の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項32】
前記複数の光源が、レーザダイオードを含むことを特徴とする請求項22~29の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項33】
前記複数の受光レンズを保持するレンズホルダーをさらに備え、
前記レンズホルダーの前記複数の受光素子側が筒状或いは平板状に延長されることにより、各受光レンズの視野が制限されていることを特徴とする請求項1~32の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項34】
前記複数の受光レンズを保持するレンズホルダーをさらに備え、
前記複数の受光レンズの外径が、前記レンズホルダーの内径に対してすきまばめ寸法であり、前記複数の受光レンズが俵積み或いは1列に配置されていることを特徴とする請求項1~32の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項35】
隣り合う前記受光レンズにおいて、前記レンズホルダーの前記複数の受光素子側の長さが異なることを特徴とする請求項33に記載の光学ラインセンサ。
【請求項36】
前記複数の光源が実装された光源基板と、
前記光源基板に取り付けられたヒートシンクとをさらに備えることを特徴とする請求項22~32の何れか1項に記載の光学ラインセンサ。
【請求項37】
請求項2~9の何れか1項に記載の光学ラインセンサを用いた画像合成処理方法であって、
前記複数の受光レンズの視野が重なった部分の受光素子について、該受光素子からの画素出力を減算処理することを特徴とする画像合成処理方法。
【請求項38】
請求項10~17の何れか1項に記載の光ラインセンサを用いた画像合成処理方法であって、
前記複数の受光レンズの反転像を反転させ、正立像に変換した後に画像合成処理をすることを特徴とする画像合成処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として印刷物やフィルムなど薄い検査対象物の表面のキズ・欠陥及び透明フィルムの内部のキズ・欠陥を検出する光学ラインセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣などの真贋を判別する検査機や、業務用複写機や、家庭用プリンタスキャナなどのフラットベットスキャナに用いられてきた密着型光学センサ(以下CISと記す)を、印刷物の印刷の出来のチェック、薄物・広幅のフィルム製品の製造工程における表面検査、各種の飲料容器や食品容器及び缶などに貼り付けたラベルの検査などを検査対象とした所謂面検機に応用することが検討されてきており、一部は製品化されている。
【0003】
しかしながら、依然としてSELFOCレンズを応用したCISでは作動距離(以下W.D.と記す)が短く、工程で用いる場面では接触を回避するため、W.D.の長いCISが望まれている。加えて、紙幣等の紙葉類の検査では、被写界深度は比較的浅くとも使用に耐えられたが、前記検査対象物の製造工程では該検査対象物の光軸方向への変動が大きい理由からも被写界深度が深いCISも強く望まれている。
【0004】
被写界深度の深いCISは、特許文献1~5に示されるようにミラー光学系を用いたテレセントリック光学系が代表的である。前記特許文献から、該光学系は非常に複雑であることが分かる。該光学系を製造し、商品として運用する際には、非常な困難を伴う。即ち、製造時には、工程が複雑化し、製造安定性やコストアップが問題となる。また、商品化された後にも、環境の変化や経時変化による複雑な光学系であるが故の光軸の狂いが発生し、従来の簡素な構造のCISに比べて性能の劣化を生じ易いなどの問題が残る。
【0005】
そこで、前記テレセントリック反射光学系を用いず、ガラスや樹脂を用いた屈折系のレンズを用い、W.D.や被写界深度を向上させることが考えられる。前記の屈折系の光学系については、特許文献6及び特許文献7に示されるように一定程度の解決策が提案されている。例えば、特許文献6においては、千鳥配置したラインセンサに1個のテレセントリック屈折光学系を離間させて配置し、前記屈折光学系であるレンズを離間配置してアレイ化することにより、被写界深度の深い光学系を実現しようとしている。また、特許文献7においては、離間したレンズの間に仕切り板を設けることにより、レンズ間のクロストークを防止する方法について検討されている。前記の特許文献6及び特許文献7においては、被写界深度の向上並びにレンズ間のクロストークを防止することは出来るが、通常のテレセントリック屈折光学系は、大型であり、コンパクト化は困難である。また、特許文献7に示されている仕切り板では、読み取り時に欠落画素が発生し、読み取りが不完全となる。更に、レンズが離間することにより発生する1個のレンズが原理的に有するシェーディングの解決策については、示されていない。読取ライン方向の所謂リップルの抑制方法についても言及されていない。しかも、現在までに前記の屈折光学系方式は、実現されてもいない。
【0006】
更に、前記方式と別方式であるラインカメラなどのカメラレンズを用いた検査機は、大型であり、製造現場の広幅の検査対象物に対応させるためには、多くの台数が必要である。そのため、装置全体が非常に大型になり、しかもそのコストも莫大なものとなるため、工場の各工程に配備することは困難である。
【0007】
上記の問題を解決するために、工場の各工程に対しても導入可能な小型で安価であり、かつ、W.D.が長く被写界深度の深い新たな屈折系レンズを用い、かつ個々のレンズの有するシェーディングに起因する受光センサ上の光学的ムラであるリップルに対し、新たな抑制方法を用いた照明系からなる光学ラインセンサが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-019334号公報
【文献】特開2018-152713号公報
【文献】特開2009-244500号公報
【文献】特開2018-019334号公報
【文献】特開2018-022948号公報
【文献】特開2009-246623号公報
【文献】特開平5-14600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~5においては、ミラー方式の複雑なテレセントリック光学系を用いている。該光学系は複雑であるがゆえに製造安定性、コストアップ、周囲環境に対する光軸の狂い易さ、経時変化量の増大や耐久性などの諸問題が存在する。また、特許文献6及び7においては、屈折系の離間レンズアレイを用いているが、テレセントリック屈折光学系は大きく、コンパクト化が困難である。また、個々のレンズに起因するシェーディングを抑制し、読取ライン方向の光強度分布の強弱(リップル)の発生への抑制対策が不完全であり、ラインセンサのダイナミックレンジを確保するにあたって不満が残る。
【0010】
そこで、本発明は、複雑な光学系を排し、簡素な光学系により作動距離(W.D.)が長くかつ解像度の高い性能を確保し、経時変化量が少なく耐久性のある光学ラインセンサを実現することを目的とする。また、屈折光学系を用いた際にもラインセンサのダイナミックレンジをより有効に確保できる照明光学系を実現することも本願発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光学ラインセンサは、副走査方向に搬送される検査対象物を主走査方向に延びる読取ラインで読み取る光学ラインセンサであって、複数の受光レンズと、複数の受光素子とを備える。前記複数の受光レンズは、主走査方向に沿って複数配置されている。前記複数の受光素子は、主走査方向に沿ってライン状に配置され、前記複数の受光レンズを透過した光を受光する。前記複数の受光レンズは、該受光レンズの直径以上に互いに離間して配置されている。また、前記複数の受光素子は、少なくとも1列以上の前記読取ラインを形成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来の多眼レンズの俵積み方式に比べ、任意の受光レンズに着目した場合に、該受光レンズの光軸に他の受光レンズの光軸が交差しない。また、視野が重ならないように受光レンズの配列方向に視野寸法程度離間して配置するか、或いは、画像合成において重畳した個所の出力を補正すれば、一個の受光レンズ固有の被写界深度が確保できる。故に、被写界深度が深い光学ラインセンサを実現出来る。また、複数列の受光素子アレイを、主走査方向に平行に、かつ副走査方向に各受光レンズの視野以上に離間して配置すれば、受光レンズの有効径を適宜大きくして配置出来るため、受光光量を確保でき、従来では実現出来なかった被写界深度を確保することが可能になる。しかも、受光レンズ系を縮小光学系とした場合、該縮小光学系を同様に受光レンズの視野寸法程度に離間して、受光素子の画素寸法を倍率に応じてサイズダウンすれば、被写界深度を増大させると同時に、解像度を等倍光学系よりも向上させることが可能になる。即ち、検査対象物の検出分解能が従来技術よりも一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】CIS用ライン状照明光学系の分解斜視図である。
【
図3】各受光レンズが単眼レンズとして作用するように配置した場合、各受光レンズの視野がほぼ重ならないようにした受光系の模式図である。
【
図5】複数の受光素子アレイが配置された受光系の一例を示した模式図である。
【
図6A】複数の受光素子アレイが配置された受光系の他の例を示した模式図である。
【
図6B】複数の受光素子アレイが配置された受光系のさらに他の例を示した模式図である。
【
図6C】1列の受光レンズが、千鳥配置された2列の受光素子アレイの間に配置された場合の受光系の模式図である。
【
図7】各波長に対するN.A.と回折限界の関係を表すグラフである。
【
図8A】SELFOCレンズAの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図8B】SELFOCレンズBの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図8C】SELFOCレンズCの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図9A】ロッドレンズAの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図9B】ロッドレンズBの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図9C】ロッドレンズCの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図9D】ロッドレンズDの有効径と錯乱円径の関係を示したグラフである。
【
図10】受光レンズを当該受光レンズの視野寸法以上離間させ、かつ、読取ラインに直交する方向に各受光素子アレイを該受光レンズの視野寸法以上離間させて配置した場合の模式図である。
【
図11】縮小レンズの有効径と錯乱円形の関係をそれぞれ示したグラフである。
【
図12A】RGB-LED、或いは、RGB-LD(レーザダイオード;半導体レーザ)を光源として用いる場合の配置方法の1例を示した模式図である。
【
図12B】LDを光源として用いる場合の配置方法の具体例を示した側面図である。
【
図13A】光源と受光系の位置関係の一例を示す側面図である。
【
図13B】光源と受光系の位置関係の他の例を示す側面図である。
【
図14A】光源と受光レンズの位置関係を示した模式図であり、受光素子アレイが1列の場合である。
【
図14B】光源と受光レンズの位置関係を示した模式図であり、受光素子アレイが2列の場合である。
【
図14C】主走査方向における光源(検査面上)の光量分布、受光素子面上の光量分布、受光レンズのシェーディングの関係を示した図である。
【
図14D】レンズ径別の受光系MTFのグラフ(√A=0.077)である。
【
図14E】レンズ径別の受光系MTFのグラフ(√A=0.154)である。
【
図14F】屈折率分布定数√Aが√A=0.1027の受光光学系のMTFのグラフである。
【
図15】デフォーカス時のMTF特性を示すグラフである。
【
図16A】
図14Aの1列離間レンズアレイ方式におけるクロストーク防止方法について説明するためのレンズホルダーを示した図であり、筒状アパチャーにより視野を制限した場合の模式図を示している。
【
図17A】焦点距離fをf=100mmとした場合の有効径と錯乱円径の関係を示したグラフ(√A=0.154)である。
【
図17B】焦点距離fをf=100mmとした場合の有効径と錯乱円径の関係を示したグラフ(√A=0.1027)である。
【
図17C】焦点距離fをf=100mmとした場合の有効径と錯乱円径の関係を示したグラフ(√A=0.077)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.光学ラインセンサの全体構成
典型的なCISを
図1に、同様にCIS用ライン状照明光学系を
図2に示す。
図1においては、CISの長手方向中央部近傍における断面図が示されている。一方、
図2は分解斜視図である。X方向が主走査方向であり、Y方向が副走査方向である。Z方向は、X方向及びY方向に直交している。ライン状の光源部10は、主走査方向に細長い光量分布を有する照明光学系である。
【0015】
図1に示すCISでは、焦点面(検査面)20を挟んで2つの筐体16が対向配置されている。各筐体16内には、焦点面20上にある検査対象物を照明するためのライン状の光源部10が設けられている。一方の筐体16内には、受光レンズ11及び受光部12が設けられており、照明された検査対象物からの光は、受光レンズ11により受光部12へと導かれる。受光レンズ11は、検査対象物からの光を受光部12に結像する光学素子である。
図1に示すCISでは、焦点面20を基準にして、2つの光源部10のうちの一方が受光部12側に配置され、他方が受光部12側とは反対側に配置されている。
【0016】
受光部12は、一方の筐体16に固定された基板13に実装されている。受光レンズ11を通過した光は、受光部12の受光面12Aで受光され、その受光量に応じた信号が受光部12から出力される。検査対象物が焦点面20に沿って一方向Yに搬送されることにより、検査対象物からの光が連続的に受光部12で受光され、受光部12からの出力信号に基づいて検査対象物の画像(カラー画像や蛍光画像など)が得られる。このように、副走査方向(Y方向)に搬送される検査対象物は、主走査方向(X方向)に延びる受光部12によって、該受光部12の受光面12Aにより構成される読取ラインで読み取られる。
【0017】
一方の光源部10から出射された光B3は、筐体16に固定された保護ガラス14を透過して、他方の筐体16に固定された保護ガラス14Aの内面に設けられている反射部材17Aで反射し、焦点面20に導かれる。焦点面20から受光部12までの任意の位置には、受光部12に紫外光が入射するのを阻止する紫外光遮断フィルタ(UVカットフィルタ)15が設けられている。また、受光部12と紫外光遮断フィルタ15との間には、特定波長範囲の可視光を通過させるカラーフィルタ18が設けられている。一方の筐体16内における光源部10の底面に対向する位置には、光源部10に備えられた光源103(紫外光源や可視光源など)を固定するための基板5が設置されている。
【0018】
図1及び
図2に示す例では、光源部10は、長手方向Lに沿って延びる透明な導光体101と、長手方向Lの一方の端面付近に設けられた光源103と、導光体101の各側面を保持するためのカバー部材102とを備えている。光源103から出射した光は、導光体101に入射し、該導光体101中を伝搬しながら光拡散パターンPにより適宜反射され、光出射面から矢印方向に出射し、ライン状の照明光となって検査対象物を照明する。このようなCISの被写界深度は浅く、検査対象物に厚みがある場合は厚み方向全体の検査は困難であり、かつ、W.D.が狭いため、検査対象物に接触し、検査そのものが成立しない場合が多い。
【0019】
前記のようなCISでは、受光レンズ11として、例えばSELFOC(日本板硝子株式会社製)レンズアレイが用いられる。SELFOCレンズアレイは、正立等倍のレンズアレイである。該レンズアレイでは、円柱状のSELFOCレンズを俵積みし、多眼レンズとしている。多眼レンズの利点は、レンズ単体よりも所謂レンズの明るさを明るくすることが可能であることである。即ち、レンズ単体のFナンバーよりも単体レンズを複数個並べて多眼レンズとした場合のFナンバーのほうが小さい。これは、任意の位置にある1個のレンズの焦点位置と該レンズの周囲のレンズの焦点位置が一致した箇所で、有効Fナンバーが小さくなるからである。逆に言えば、正立レンズ系においては、開口数(以下N.A.と記す)がレンズ単体よりもアレイ化したほうが大きくなることを意味する。この性質が、CISにSELFOCレンズアレイが用いられる大きな理由となっている。
【0020】
前記のようなCISの利点は、被写界深度及び焦点深度の観点からは、逆に不利となる。単眼レンズでもそうであるように、開口数が大きくなれば、被写界深度は浅くなる。例えば顕微鏡対物レンズでは、倍率が大きくなり、即ちN.A.が大きくなるに従い、被写界深度が浅くなることは、よく知られていることである。また、カメラレンズにおいても、遠景と近景とでは、被写界深度の長短が如実に示され、被写界深度を確保するために絞りで調整している。即ち、N.A.を変化させ、所望の被写界深度を得ている。加えて、SELFOCレンズに代表される正立多眼レンズは、各レンズの光軸が異なり交差するため、単眼レンズと比べ、検査対象物が光軸方向に変化した場合に像がボケ易い構造となっている。上記が俵積み方式の多眼SELFOCレンズアレイの大きな欠点である。そこで、如何にすれば、コンパクトな光学ラインセンサの被写界深度を深くすることが可能であるかを検討した結果、得られた実施例を以下に記す。
【0021】
2.受光系の実施例
まず、第一の方法は、
図3に示すように光学ラインセンサを単眼レンズ化したと見做せるアレイ構造とすることである。
図3は、各受光レンズ11の視野111がほぼ重ならないようにした受光系の模式図である。すなわち、
図3では、各受光レンズ11の視野111がほぼ重ならないように、各受光レンズ11を主走査方向(X方向)に離間して配置している。
【0022】
即ち、俵積み方式ではなく、主走査方向(X方向)に沿って複数配置された複数の受光レンズ11同士が、その直径以上に互いに離間して配置されている。これを
図4に示す。
図4では、
図3の受光系の一部が側面図で示されているが、視覚的に分かりやすくするために、該受光系の一部の平面図も示されている。複数の受光レンズ11は、レンズホルダー110により一体的に保持されている。複数の受光レンズ11に対してZ方向に対向する位置には、複数の受光素子(図示せず)が主走査方向(X方向)に沿ってライン状に配置されることにより構成される受光素子アレイ120が配置されている。すなわち、複数の受光素子が、1列のアレイ状に配置されることにより1つの受光素子アレイ120が構成されている。これにより、複数の受光素子は、1列の読取ラインLを形成している。各受光素子は、各受光レンズ11を透過した光を受光する。
【0023】
複数の受光レンズ11は、該受光レンズ11の視野寸法以下(視野範囲内)に互いに離間して配置されていることが好ましい。この例では、複数の受光レンズ11が、それぞれの視野寸法と略同寸法で互いに離間して配置されているが、各受光レンズ11の視野半径を重畳させてもよい。この場合は、複数の受光レンズ11の視野111が重なった部分の受光素子について、該受光素子からの画素出力を減算処理すればよい。例えば、該受光素子より出力されたデータから一方の受光レンズ11の画像(一方の受光レンズ11を透過した光の受光量)を除外するか、或いは、画像合成する際に該受光素子からの画素出力を略半分の出力値とすればよい。
【0024】
また、複数の受光素子列(受光素子アレイ120)を用いれば、画素欠落の発生を1ラインの受光素子列の場合よりも確実に防止できる。複数の受光素子アレイ120を用いる場合は、受光素子アレイ120を副走査方向(Y方向)に離間して配置してもよい。この場合、複数の受光素子が、複数列(例えば2列)のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイ120が構成され、複数列の読取ラインLを形成する。該複数の受光素子アレイ120は、複数ライン方式でもよいし、短い受光素子列を千鳥配置した方式でもよい。
【0025】
図5は、複数の受光素子アレイ120が配置された受光系の一例を示した模式図である。
図5の例では、主走査方向(X方向)において、複数の受光レンズ11の少なくとも一部が、該受光レンズ11の視野寸法以上に互いに離間して配置されており、複数ライン方式により少なくとも2列(この例では2列)の読取ラインLが形成されている。副走査方向(Y方向)における受光素子アレイ120の離間距離は、
図5に示す如く受光レンズ11の視野寸法よりも大きくすることが好ましい。但し、複数の受光レンズ11が正立像を形成する正立レンズ系の場合は、視野111が重ってもよい。この場合は、視野111が重なり合った位置に、受光素子からの画素出力を補正するための補正チャートなどで予め補正しておけばよい。こうすることにより、視野111が重畳してもよくなり、光学ラインセンサのコンパクト化が実現可能になる。
【0026】
図6Aは、複数の受光素子アレイ120が配置された受光系の他の例を示した模式図である。
図6Aでは、副走査方向(Y方向)に受光レンズ11の視野111以上離間させて、短尺センサからなる各受光素子アレイ120が千鳥状に配置されている。この
図6Aに示すように、1つの受光素子アレイ120に対し、1つの受光レンズ11を対応させることにより、複数の受光素子アレイ120に対応した数だけ複数の受光レンズ11が配置されてもよい。各受光レンズ11の光軸は、1対1に対応する各受光素子アレイ120の主走査方向(X方向)の略中央部を貫いてもよい。この方式では、複数の受光素子アレイ120を副走査方向(Y方向)に複数列並べる。即ち受光素子の配列方向(X方向)に対して直角方向(Y方向)に離間して、複数列の受光素子アレイ120が配置される。
【0027】
図6Bは、複数の受光素子アレイ120が配置された受光系のさらに他の例を示した模式図である。
図6Bでは、副走査方向(Y方向)に受光レンズ11の視野111以上離間させて、長尺センサ(主走査方向全長に対応した長さ)からなる各受光素子アレイ120が同じ長さのラインセンサとして配置している。この
図6Bに示すように、主走査方向(X方向)に並ぶ複数の受光レンズ11に対し、1つの受光素子アレイ120を対応させることにより、副走査方向(Y方向)の受光レンズ11の列の数だけ複数の受光素子アレイ120が配置されてもよい。
【0028】
図6A及び
図6Bのいずれにおいても、複数の受光素子アレイ120の各々は、読取ラインLに直交する副走査方向(Y方向)において受光レンズ11の視野寸法以上に互いに離間して配置されている。ただし、このような構成に限らず、複数の受光素子アレイ120の各々が、読取ラインLに直交する副走査方向(Y方向)において受光レンズ11の直径以上に互いに離間し、かつ、該受光レンズ11の視野寸法以下に互いに離間して配置されていてもよい。上記のように、短尺の受光素子アレイ120を千鳥状配列して用いるか(
図6A参照)、或いは、2列の受光素子アレイ120を離間して配置して用いてもよいが(
図6B参照)、これに限らず、更に多くの複数の受光素子アレイ120を副走査方向(Y方向)に離間して配置してもよい。
【0029】
更に、1列の受光レンズ11が、千鳥配置された2列の受光素子アレイ120の副走査方向(Y方向)の略中央部に、受光素子アレイ120に平行に配置された場合を
図6Cに示す。
図6Cでは、千鳥配置の受光素子アレイ120において、副走査方向(Y方向)に共通の受光レンズ11が配置されている。
図6Cにおいて、2列の読取ラインLにそれぞれ複数配置された受光素子アレイ120は、各読取ラインLよりも短く、主走査方向(X方向)に互いに離間している。また、一方の読取ラインLに配置された受光素子アレイ120と他方の読取ラインLに配置された受光素子アレイ120とが、主走査方向(X方向)に沿って交互に千鳥状に配置されている。2列の読取ラインLの間には、複数の受光素子アレイ120に平行に複数の受光レンズ11が1列で配置され、各受光レンズ11の光軸が、2列の読取ラインLの副走査方向(Y方向)における略中央部を貫いている。この場合、受光レンズ11が1列でも、各受光レンズ11を透過した光を2列の受光素子アレイ120で受光することができる。
【0030】
3.受光レンズの長焦点化
次に、受光レンズの長焦点化について述べる。従来のSELFOCレンズはCISのコンパクト化やコストダウンに重きを置き、共役長のより短いレンズが求められてきた。しかしながら、この流れは、許容される被写界深度を減じてしまうことを助長する要因となっている。しかもレンズ径は益々小さくなってきいる。受光レンズを長焦点化する場合、従来の受光レンズを利用すると、N.A.が極端に小さくなる。故に回折の影響が大きくなり、受光レンズ自身の有する幾何光学的な収差によるボケよりも回折限界によるボケが光学的分解能劣化の支配要因となる。従来方式のCISは、N.A.が大きいため、回折限界による像のボケが生じることを無視出来ていた。しかし、W.D.を長くとるためには、受光レンズの焦点距離を延ばすことが必要であり、即ち、N.A.が小さくなってしまうため、従来のレンズ径では、焦点距離が増大すればするほど回折の影響もそれに伴い増大する。本実施形態では、レンズ径を大きくすることでW.D.を長くし、回折限界による像のボケを減じた場合においても、光学的分解能を劣化させない方法を提案する。
【0031】
アッベの回折限界dは、開口数N.A.に逆比例する。光学系は空気中にあるため、空気中の波長λを用いて下記式1が成り立つ。
d=λ/N.A. (式1)
図7に各波長に対するN.A.と回折限界の関係を表す。同じレンズパラメータの受光レンズ11においては、受光レンズ11自身の所謂ピッチを短くすれば焦点距離は伸び、収差の影響も少なくなる。
【0032】
以上より、受光レンズ11を長焦点化するためには、レンズ径をより大きくする必要があることが分かる。N.A.を同一に保てば、回折の影響を短い焦点の受光レンズ11と同等にできる。しかしながら、レンズ径を大きくすると幾何光学的収差が大きくなる。そこで、レンズパラメータの異なる受光レンズ11において、レンズ径を大きくした場合の最小錯乱円径を検討する必要がある。波長λは、回折限界径の大きいλ=630nmとした。
【0033】
本願発明者による検討の結果、ある受光レンズ11の各焦点距離に対する最小錯乱円の関係を考えればよいことが判明した。例えば、焦点距離fがf=50mmの場合を
図8A~
図8Cに示す。ここでは、受光レンズ11として3種類のSELFOCレンズ(SELFOCレンズA、SELFOCレンズB及びSELFOCレンズC)を用いた場合に、
図8AはSELFOCレンズAの有効径と錯乱円径の関係、
図8BはSELFOCレンズBの有効径と錯乱円径の関係、
図8CはSELFOCレンズCの有効径と錯乱円径の関係をそれぞれ示している。
図8A~
図8Cにおいて、実線はトータルの錯乱円、破線は回折による錯乱円、一点鎖線は幾何光学的錯乱円をそれぞれ示している。
【0034】
図7と
図8Aによれば、最小錯乱円と回折限界の関係、即ち、あるレンズ径と焦点距離における光学的分解能が分かる。故に、
図8Aに示した受光レンズ11の場合は、有効径Φが大きくなるほど、錯乱円径が小さくなり、有効径Φが1.0mm≦Φ≦3.0mmであれば良いことが分かる。
【0035】
一方、
図7と
図8Bによれば幾何光学的錯乱円が大きく、回折による依存度が少なくなるため、Φ=1.0mmの錯乱円径が一番小さい。しかも、Φ=1.0mmのときでも、
図8Aに示した受光レンズ11の倍近くの錯乱円径となる。
図8Aに示した受光レンズ11は、
図8Bに示した受光レンズ11よりも収差が小さく、有効径が大きいSELFOCレンズであり、
図8Aの受光レンズ11を選択すべきであることが分かる。更に、同じ焦点距離である
図8Aの受光レンズ11は、
図8Bの受光レンズ11よりもN.A.が少なくとも3倍は大きくでき、即ち、受光光量は、9倍以上になり、故に、受光素子の出力も9倍以上になる。それに伴い受光素子の受光光量に依存するショットノイズも1/3に減じられるため、ノイズ抑制の観点からも
図8Aに示した受光レンズ11が好ましい。また、同じノイズ量が許容される場合は、
図8Aの受光レンズ11が
図8Bの受光レンズ11に比べ、9倍に走査速度を向上させることが出来るとも言える。
【0036】
図8Cによれば、SELFOCレンズCもSELFOCレンズAと同様に収差が少なく、有効径を大きくとることが可能である。
【0037】
次に、
図8A~
図8Cに示したSELFOCレンズA~Cのパラメータを下記表1に示す。表1に示した中で最も重要なパラメータは屈折率分布定数である。有効径を拡大し、焦点距離を伸ばした際に収差が少ない受光レンズ11は、屈折率分布定数が最も小さいSELFOCレンズAであり、次に収差が少ない受光レンズ11は、SELFOCレンズCである。高解像度で高速検査を目指すには、有効径が大きくて明るく、収差の少ない受光レンズ11が好ましいことは言うまでもない。
【表1】
【0038】
更に、受光レンズ11として4種類のプラスチックロッドレンズ(プラスチック屈折率分布型レンズ)を用いた場合に、
図9AはロッドレンズAの有効径と錯乱円径の関係、
図9BはロッドレンズBの有効径と錯乱円径の関係、
図9CはロッドレンズCの有効径と錯乱円径の関係、
図9DはロッドレンズDの有効径と錯乱円径の関係をそれぞれ示している。
図9A~
図9Dにおいて、実線はトータルの錯乱円、破線は回折による錯乱円、一点鎖線は幾何光学的錯乱円をそれぞれ示している。また、
図9A~
図9Dに示したロッドレンズA~Dのパラメータを下記表2に示す。プラスチックロッドレンズにおいてもSELFOCレンズと同様の傾向があることが分かる。プラスチックロッドレンズの屈折率、及びガラスレンズの屈折率を考慮すると、軸上屈折率は、1.45程度から1.65程度が好ましい。
【表2】
【0039】
以上より、屈折率分布定数が収差の支配要因であることが分かる。理想的な屈折率分布型レンズであれば、屈折率が緩やかに変化すればするほど収差は少なくなる。これは、通常の球面レンズであっても急激な角度変化が収差の発生要因であるのと同様である。急激な角度変化は、Snell’Lawを多項式展開した際の高次の非線形効果の増大を意味する。即ち、近軸光学からの逸脱が大きくなるために収差が大きくなるのである。本願発明者は、焦点距離、或いは、W.D.を略50mm以上、有効径Φが略Φ≧1.0mmにおいて、解像度が400dpi以上の画素分解能を達成するために、屈折率分布定数を0.12以下にすることが好ましいことを見出した。
【0040】
4.受光レンズの変形例
次に、更に被写界深度を増大させる方法を記す。
図10は、受光レンズ11を正立等倍多眼レンズに代えて正立縮小多眼レンズとした場合の模式図である。
図10では、受光レンズ11を該受光レンズ11の視野寸法以上離間させ、かつ、読取ラインLに直交する方向に各受光素子アレイ120を該受光レンズ11の視野寸法以上離間させて配置した場合の模式図を示している。
図10では、受光系の一部が平面図で示されているが、視覚的に分かりやすくするために、該受光系の一部の側面図も示されている。
【0041】
この場合、前記の正立等倍レンズと比べ、各段に被写界深度を深くできる。例えば、横倍率を4倍とすると、被写界深度は2倍に増大する。横倍率が9倍の場合は、被写界深度は3倍になる。この場合、受光素子の画素寸法も縮小倍率に応じて、また、所望の解像度に応じて等倍系における画素寸法よりも小さくする。但し、解像度によっては、等倍系と同じ画素寸法を用いてもよい。
【0042】
図11に縮小レンズの有効径と錯乱円径の関係を示す。縮小レンズの縮小倍率は1:4である。また波長はλ=630nmである。
図8Aと
図11を比較すれば、縮小レンズの錯乱円が等倍系よりも小さく、レンズ径Φ=2mmからΦ=2.5mmの間で、等倍系の錯乱円が約40μmであるのに対し、縮小系は、半分以下の14μmから18μmとなっている。故に被写界深度並びに解像度を向上させることが出来ることが分かる。
【0043】
更に、本願発明における受光レンズ11は、SELFOCレンズやプラスチックロッドレンズなどの屈折率分布型のレンズに限らず、他のレンズ、例えば、アクロマート(色消し)、アポクロマートなどにおいて、コストを考慮し、前記の屈折率分布型レンズにおける非線形効果による収差を同等にした、即ち球面収差、コマ収差、非点収差を同等にしたレンズ、或いは、テレセントリック屈折光学系を前記の屈折率分布型レンズにおける非線形効果による収差および回折限界が同等のSELFOCレンズやプラスチックロッドレンズなどの屈折率分布型のレンズに代えて同様な配置や寸法(口径)で用いることも可能である。これは、後述する倒立像を形成する受光レンズ11においても同様である。
【0044】
前述した光学系は、正立レンズを中心にした場合であるが、視野111が重ならない場合においては倒立光学系であってもよい。すなわち、複数の受光レンズ11が、倒立像を形成するような構成であってもよい。2列方式のレンズアレイであれば、倒立光学系の採用も可能である。倒立光学系の場合は、像が光軸を中心に反転対称となるため、画像合成する際に画像処理によって倒立像を正立像に変換すればよい。すなわち、複数の受光レンズ11の反転像を反転させ、正立像に変換した後に画像合成処理をすればよい。また、その操作の過程で、補正アルゴリズムから重なり合った部分の要又は不要を決定及び補正し、決定した画素間の関係から正立像に変換すればよい。或いは、画像を構築しない場合の検査においては、キズ又は欠陥を検出するのみでよいため、画像合成並びに画像処理の必要はなく、検査面における検出部分が重畳していてもよい。重畳する場合は、予め補正チャートによる位置の補正をしておく。
【0045】
更に、倒立型屈折光学系の場合は、各受光素子に対する信号処理において、例えば、副走査方向に離間するように千鳥配置された2列の受光素子アレイの一方から得たデータを長めに取得し、他方の受光素子アレイから得たデータを短めに取得し、取得した像の正立像への反転操作を行った後に、画像合成してもよい。或いは、各受光素子の倒立像データを正立像に各々変換した後に、画像合成する際に重なり合った部分に補正係数を掛けるか減算してもよい。
【0046】
具体的には、倒立型屈折光学系において、複数の受光素子アレイが、2列の読取ラインにそれぞれ複数配置された各読取ラインよりも短い受光素子アレイであってもよい。また、一方の読取ラインに配置された受光素子アレイと他方の読取ラインに配置された受光素子アレイとが、主走査方向に沿って交互に千鳥状に配置されていてもよい。このような構成は、
図6Aにおいて説明した正立型屈折光学系の場合と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0047】
この場合、
図6Aに示すように、複数の受光素子は、2列以上のアレイ状に配置されることにより複数の受光素子アレイ120を構成している。また、複数の受光素子アレイ120の各々は、読取ラインLに直交する方向において受光レンズ11の視野寸法以上に互いに離間して配置されている。複数の受光レンズ11は、複数の受光素子アレイ120に対応した数だけ配置され、各受光レンズ11の光軸は、各受光素子アレイ120の略中央部を貫く。
【0048】
5.照明光学系の構成
本実施例において、受光レンズ11の焦点距離fは、f=50mm、N.A.は、N.A.=0.01、0.02、0.025、0.03とし、屈折率分布定数√Aは、√A=0.077とした。光源103に関しては、W.D.が従来のCISに比べて10倍以上長いため、等倍系では、検査面照度は100倍以上を必要とする。そのため、光源103として、例えば高輝度の白色LEDアレイを用いる。すなわち、複数の光源103が、白色LEDを含む構成であってもよい。可視域の半導体レーザを光源103として用いる場合は、出射ビームを主走査方向に拡大し、副走査方向にコリメーションすることで照射時の光量ムラを低減する。
【0049】
RGB-LED、或いは、RGB-LD(レーザダイオード;半導体レーザ)を光源103として用いる場合の配置方法の1例を
図12Aに示す。このように、複数の光源103が、赤色LED(R)、緑色LED(G)及び青色LED(B)を含む構成であってもよいし、レーザダイオードを含む構成であってもよい。
図12Aにおいて、複数の光源103は光源基板134に実装されており、光源基板134にはヒートシンク135が取り付けられている。各光源103から出射されたビームは、主走査方向と副走査方向とでレンズパワーが異なる楕円体形状の集光レンズ104でコリメートされ、検査対象物に照射される。ここでは、楕円体形状の集光レンズ104を示したが、主走査方向と副走査方向とで適宜レンズパワーが異なるレンズであればよい。なお、レンズのパワーとは、焦点距離の逆数であり、レンズの屈折力を表す尺度である。
【0050】
或いは、LDに関しては、LD自身の出射ビームの拡がり角が水平方向及び垂直方向で異なる端面発光型のLDを用いれば、通常のコリメータレンズでもよい。
図12Bは、LDを光源103として用いる場合の配置方法の具体例を示した側面図である。この場合は、拡がり角が大きいほうのLDを主走査方向に対して平行に配置する。光源103を構成する赤色LD131、緑色LD132及び青色LD133から出射されたビームは、それぞれに対応付けられた集光レンズ104でコリメートされた後、シリンドリカルレンズ105により検査面に絞り込まれる。こうすることで、RGBの各色が副走査方向においてほぼ同じ位置に照射され、副走査方向に対する色ムラを低減することが可能になる。一方、LEDやLDなどの光源103により照射され、検査面で拡散反射された光は、受光レンズ系で受光素子アレイに結像される。受光素子は、等倍光学系では、400dpi相当の62μmの素子サイズから600dpi相当の42μmの素子サイズを用いる。600dpi以上の素子サイズを用いる場合は、照明光のパワーをそれに応じて増大させればよい。このように、複数の光源103が、複数の異なる波長を有する光源131~133を含み、該光源131~133を1単位として、該1単位の光源103が主走査方向(X方向)に複数並べられた構成であってもよい。
【0051】
更に、単位面積当たりの放射輝度が同じであっても受光素子のサイズが異なれば、発光部の面積が異なることと同義になるため、受光素子面積のほぼ二乗に逆比例して受光光量が低下する。以上を考慮し、照明光量を決定する。素子サイズが小さくなると、同じ蓄積時間では、素子面積に逆比例して受光光量が減少する。これは半導体受光素子の物理的な性質であり、S/Nを維持するためには、照明光を増大させて、パワー密度を増大させ、単位時間に発生する生成電子数を同数にすればよい。これにより、ショットノイズを受光素子のサイズが減少しても大きなサイズの受光素子と同等に維持できる。また、受光素子が受光する光は、検査面の照度だけでなく、受光する際に受光素子の見ている範囲にも依存する。言うまでもなく受光立体角が異なり、その角度が減少すれば、受光量も減少し、検査面が完全拡散面であれば、所謂cosθ則に応じた受光光量となる。検査面上から拡散反射された光は、受光レンズにより補足され受光素子に集光され、その出力信号が、受光素子から出力される。また、受光素子列からの出力信号は、シリアルからパラレルに分岐されて、処理速度を向上させ、画像処理装置に伝達される。
【0052】
本実施形態において、受光レンズ系は、視野寸法程度離間して配置されている。そのため、レンズのビグネッティングに起因する光量ムラが発生し易い。そのため、光源配置に工夫が必要となる。
図13A及び
図13Bに光源103と受光系の位置関係を示す。
図13Aは、光源103と受光系の位置関係の一例を示す模式図であり、受光レンズ11の視野111よりも大きく離間させて、2列の受光素子アレイ120を短尺センサでは千鳥状に、或いは、長尺センサ(主走査方向全長に対応した長さ)では同じ長さのラインセンサとして配置した場合を表している。また、
図13Bは、光源103と受光系の位置関係の他の例を示す模式図であり、受光レンズ11の視野111がほぼ重ならないように受光レンズ11を主走査方向に配置していることを表している。
【0053】
図14Aは、光源103と受光レンズ11の位置関係を示した模式図であり、受光素子アレイ120が1列の場合である。
図14Aの実施例においては、光源103の照明光の検査面上のムラの最小値が受光素子アレイ120の略中央部に位置するように光源103の位置を決定している。概ね光源103は、主走査方向(X方向)において、互いに隣接する受光レンズ11の間の略中央部を含む主走査方向と直角をなす仮想平面の何れかの位置に、検査面における絶対的な放射照度を考慮して決定される。各光源103は、読取ラインLに平行に並べて配置されている。また、各光源103の光軸は、各受光レンズ11の光軸と交点を結び、かつ各受光レンズ11の光軸と交差する仮想平面の任意の位置に配置されている。
図14Aでは、互いに隣接する受光レンズ11の間の略中央部に光源103が配置されている。本実施例においては、受光レンズ11の焦点距離fがf=50mm、レンズ径ΦがΦ=4mm(但し、幾何光学的収差を考慮し、アパーチャーを用いて有効径Φ’はΦ’=2.5mmとした)であり、故に、光源103は、主走査方向(X方向)に略4mmの間隔をもって離間配置されている。本実施例では、検査面に対して、約45度の角度で光源103から光が照射される。そのため、受光レンズ11のW.D.を考慮し、光源103と検査面との距離は70mmとした。本実施例では、LDを用いたが、各波長のLEDを用いてもよい。
【0054】
図14Bは、光源103と受光レンズ11の位置関係を示した模式図であり、受光素子アレイ120が2列の場合である。レンズパラメータは
図14Aの場合と同じである。
図14Bでは、2列に配列した受光レンズ11並びに受光素子アレイ120に対する光源103の配置が示されている。本実施例では、光源103が2列の読取ラインLの略中央部に配置されている。
図14Aの場合と異なる部分は、受光レンズ11の配列ピッチがレンズ径よりも広く離間配置されてもよいため、光源103の配列ピッチもレンズ間距離に合わせ、互いに隣接する受光レンズ11の間の略中央部であると同時に2列の読取ラインLの略中央部である位置に光源103が配置されている。こうすることにより検査面上の画素の欠落をより防止出来ると同時に、受光レンズ11のシェーディング並びに光源103の光量ムラをより低減出来る。光源103と検査面の位置関係は
図14Aの場合と同じである。各列の受光レンズ11間のレンズピッチを7mmとした。この場合、実質的なレンズピッチは、3.5mmとなる。
【0055】
図14Cは、主走査方向における光源103(検査面上)の光量分布、受光素子面上の光量分布、受光レンズ11のシェーディングの関係を示した図である。
図14A並びに
図14Bのレイアウトにおいて、受光素子アレイ120上の光量分布は、模式的に
図14Cで示すようにフラットになり、受光素子のダイナミックレンジを有効に用いることが可能になる。
【0056】
6.リップルの抑制方法
次に、個々の受光レンズ11に起因するシェーディングが読取ラインL方向に対するリップルを発生させ、ひいては、受光素子のダイナミックレンジを狭くすることに繋がるのであるが、この抑制方法について述べる。
【0057】
まず、予め照明系により負の強度分布を有する照明光を検査対象物に照射しておく。例えば、隣接する受光レンズ11の間に光源103を配置する方法では、完全に各種の受光レンズ11に対応したシェーディング抑制方法にはならない。即ち、個々の受光レンズ11に特有のシェーディングが存在し、受光レンズ11が異なれば、それに応じた照明光学系を用いなければならない。本実施形態では、主走査方向に大きいパワーを有する集光レンズ104が配置される。該集光レンズ104を透過した光束は、次にシリンドリカルレンズ105などの収束レンズにより検査対象物に導かれ、受光レンズ11のシェーディングに応じた光強度を検査対象物上に形成する。そして、受光レンズ11のシェーディングに応じて、集光レンズ104の光軸方向の位置を適宜変更することで、例えば、検査対象物がキャリブレーション用の白色基準板であれば受光素子上の光強度分布を平滑化出来る。前記の集光レンズ104は副走査方向にパワーを有していてもよい。要するに、受光レンズ11のシェーディングを完全なまでに抑制し、かつ検査対象物に対し受光レンズ11の焦点距離を考慮した有効な光強度分布が同時に実現出来ればよい。即ち、主走査方向のレンズパワーが副走査方向のレンズパワーよりも大きい光学素子が好ましい。集光レンズ104としては、例えば、シリンドリカルレンズ、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、又は、プリズムシートと球面レンズの組み合わせなどが好ましい。光源103の主走査方向に対する位置関係は、各受光レンズ11の中間位置に配置してもよいし、受光レンズ11の光軸上に配置してもよい。更には、受光レンズ11の外周の位置に光源103を配置してもよい。また更に主走査方向にパワーの分布を有するレンズであればより好ましい。
【0058】
本実施形態では、複数の光源103からの光束を集光する集光レンズ104が、1個のレンズ体として設けられており、該レンズ体が有する主走査方向のパワーが副走査方向のパワーよりも大きい。ただし、集光レンズ104が、1個のレンズ体ではなく、第1集光レンズ及び第2集光レンズを含む構成であってもよい。この場合、第1集光レンズは、主走査方向のパワーが副走査方向のパワーよりも大きく、第2集光レンズは、副走査方向のパワーが主走査方向のパワーよりも大きくてもよい。また、主走査方向のパワーを第1集光レンズと第2集光レンズにより調整可能であってもよい。
【0059】
上記のような第1集光レンズ及び第2集光レンズを備えた集光レンズ104において、第1集光レンズ及び第2集光レンズは、シリンドリカルレンズ、レンチキュラーレンズ、フレネルレンズ、又は、プリズム列などにより構成することができる。例えば、第1集光レンズは、レンチキュラーレンズ或いはプリズム列であってもよい。また、第2集光レンズは、フレネルレンズ或いはシリンドリカルレンズであってもよい。
【0060】
7.受光レンズのパラメータ
本実施形態におけるレンズ径別の受光系MTFのグラフを
図14Dに示す。比較例として、
図14Eに屈折率分布定数√A=0.154の場合を示す。実線、短破線、長破線、一点鎖線の順番に、有効径ΦがΦ=1.0、1.5、2.0、2.5、3.0mmの場合を示している。尚、受光素子の画素寸法は、600dpi相当に合わせ主走査方向、副走査方向とも42.3μmとしている。
【0061】
本実施形態では、有効径Φにおいて、屈折率分布定数√Aが√A=0.077の条件では、600dpi相当の12ライン/mmで30%程度の性能であれば、Φ1.0mmからΦ3.0mmまでの範囲のMTF特性を満足している。それに対し、比較例は、有効径Φについてすべての範囲でMTF特性を満足していない。これは、√Aが√A=0.077の場合の方が√A=0.154の場合よりも収差特性が優れていることを示している。また、焦点距離f=50mmの場合について、屈折率分布定数√Aが√A=0.1027の場合の受光光学系のMTFを求め、
図14Fに示す。
図14Fによれば、√Aが√A=0.1027の場合においても、600dpiの解像度に相当する12ライン/mmでΦ1.0mmからΦ3.0mmまでの範囲においてMTF特性を満足している。
【0062】
受光レンズ11が屈折率分布型レンズである場合、該レンズはガラス或いは樹脂からなることが好ましい。この場合、受光レンズ11のレンズパラメータにおいて、軸上屈折率N0が1.45≦N0≦1.65であり、屈折率分布定数√Aが0.05≦√A≦0.12であり、焦点距離fが50mm≦f≦150mmであることが好ましい。
【0063】
受光レンズ11は、それぞれ複数枚のレンズを組み合わせたアクロマート又はアポクロマートであってもよい。この場合、複数枚のレンズとして凸レンズのみを組み合わせたレンズ系であるか、或いは、複数枚のレンズとして凸レンズと凹レンズを組み合わせたレンズ系であってもよい。また、複数枚のレンズの焦点距離fが50mm≦f≦250mmであり、更に複数枚のレンズの口径Φが2mm≦Φ≦10mmであることが好ましい。
【0064】
次に、被写界深度並びに解像度を向上させるために、受光レンズ系を縮小光学系としたものを例示する。光学系の構成は
図14Aや
図14Bと同様であり、受光レンズ11の倍率を変化させている。即ち、受光レンズ11の物点と像点の横倍率の関係を9:1や4:1のように変化させる。こうすることにより、被写界深度は、横倍率が9:1の場合は等倍系の3倍に、横倍率が4:1の場合は等倍系の2倍に増大する。被写界深度を3倍とする場合には、受光素子のサイズは等倍系の受光素子の1/9のサイズとする。また、被写界深度を2倍とする場合には、受光素子のサイズは等倍系の受光素子の1/4のサイズとする。本実施形態においては、1/4のサイズの受光素子を用いて、被写界深度を2倍とした。
【0065】
本実施形態における縮小光学系のデフォーカス時のMTF特性を
図15のグラフ(実線)に示す。比較例として、等倍系のデフォーカス時のMTF特性を
図15のグラフ(破線)に示す。図の縮小系と等倍系の比較から、縮小光学系の被写界深度が等倍系よりも約2倍深いことが分かる。また、受光レンズ11のN.A.は、縮小比をSとすれば、その逆数である1/Sだけ増大する。そのため、受光レンズ11のレンズ径が小さい場合においても、焦点距離に応じて縮小率を増せば、実効的なN.A.は維持されるため、回折効果によるボケも一定に出来る。
【0066】
本実施形態では、焦点距離をf=50mm、横倍率比を1/4としたため、レンズ径Φは原理的にはΦ=0.25mmまで用いることが可能である。
図14A及び
図14Bの場合と同じレンズを用いるので、レンズ径ΦはΦ=4mmであり、有効径Φ’はΦ’=2.5mmである。N.A.は、等倍系である
図14A及び
図14Bの場合と比べて4倍になる。故に受光光量は16倍になり、受光素子サイズを1/4にサイズダウンしたことによる受光光量の1/16の減少を相殺出来る。
【0067】
8.クロストークの防止方法
図14Aの場合において、視野111の重畳によりクロストークの発生があった際の防止方法について説明する。
図14Aの場合において、レンズ径ΦはΦ=4mmであり、レンズホルダー110に収めて用いる。そこで、
図16Aにレンズホルダー110の受光素子アレイ120側を筒状に延長した視野制限ホルダーの構成を示す。以下にその効果について説明する。
【0068】
図16Bに詳細図を示す。レンズホルダー110には、複数の受光レンズ11が挿入されており、各受光レンズ11における受光素子アレイ120側には、貫通孔からなるアパチャー112が形成されている。複数の受光レンズ11の外径は、レンズホルダー110の内径に対してすきまばめ寸法であり、各受光レンズ11がレンズホルダー110に挿入されることにより、すきまばめされる。各アパチャー112は、各受光レンズ11の外径よりも小さい内径を有しており、各受光レンズ11の光軸に沿って延びている。すなわち、各アパチャー112により、レンズホルダー110の複数の受光素子側(受光素子アレイ120側)が筒状に延長されており、これにより、各受光レンズ11の視野111が制限されている。上記筒状とは、筒状に形成された貫通孔によりアパチャー112が延長された構成を意味しているが、これに限らず、突出する平板により、アパチャー112が平板状に延長された構成であってもよい。隣り合う受光レンズ11において、レンズホルダー110の複数の受光素子側(受光素子アレイ120側)の長さ、すなわち各アパチャー112の長さが異なっていてもよい。
【0069】
図16Bにハッチングで示す光束は視野111内にあるため、アパチャー112による視野制限を受けず、受光素子アレイ120により受光することが可能であるが、これよりも外側(受光レンズ11の光軸に対して外側)の光束は、受光素子アレイ120に到達しない。即ち、受光レンズ11の視野111内にある光束は、該受光レンズ11に対向する受光素子に到達するが、視野111外にある光束は、該受光レンズ11に対向する受光素子及び隣接する受光素子のいずれにも到達しない。言い換えれば、任意の受光素子に着目した場合に、該受光素子に対向する受光レンズ11の視野111以外の光束は該受光素子には到達せず、故に隣接画素間のクロストークの防止が可能になる。しかも、アパチャー112がレンズホルダー110に形成されているため、精度の高いクロストーク防止アパチャーを実現可能となる。
【0070】
複数のアパチャー112において、アパチャー径を一つ一つ変更してもよく、1対の大小の径の異なるアパチャー112を用いることで、隣接画素間の検査面上の検出画素の欠落を防止できる。即ち、任意のアパチャーに着目した場合、例えば本実施形態においては該アパチャー径ΦをΦ=2.4mmとし、隣り合うアパチャー径Φ’をΦ’=2.6mmとすることで、隣接画素間の検出画素の欠落を防止できる。前記のアパチャー112は円筒状でなくともよい。例えば、受光レンズ11間の中間位置に仕切りを設けて、お互いの受光レンズ11が受光した光を他の受光レンズ11に受光させないようにしてもよい。
【0071】
また、複数の受光レンズ11は、1列に配置された構成に限らず、予め受光レンズ11単体を円筒状のホルダーに挿入・固定し、後に前記円筒状のホルダーを俵状に積み上げることにより、俵積みで配置されてもよい。また、L字型の位置決め治具により複数の受光レンズ11を位置決めし、接着固定した後、矩形のレンズホルダーに収めてもよい。
【0072】
上記のアパチャー112は、受光素子アレイ120側に設けたが、W.D.を損なわない程度の長さで検査面側に設けてもよい。そして、検査面側のアパチャーと受光素子側のアパチャーの組み合わせにより、より効果のある視野制限が可能になる。
【0073】
図17A~
図17Cには、焦点距離fをf=100mmとした場合の有効径と錯乱円径の関係が示されている。有効径Φは
図14Aの場合と同じ態様である。
図17Aは√A=0.154の場合、
図17Bは√A=0.1027の場合、
図17Cは√A=0.077の場合をそれぞれ示している。
図17A~
図17Cにおいて、実線はトータルの錯乱円、破線は回折による錯乱円、一点鎖線は幾何光学的錯乱円をそれぞれ示している。なお、
図17A~
図17Cのいずれにおいても、N
0は、N
0=1.654である。
図17A~
図17Cの各図によれば、焦点距離fがf=100mmの場合においても、有効径ΦがΦ≧1.5mmにおいて、回折も含めた錯乱円径が600dpiの解像度を目指した場合の約43μmよりもはるかに小さくなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0074】
10 光源部
11 受光レンズ
12 受光部
20 焦点面
103 光源
104 集光レンズ
105 シリンドリカルレンズ
110 レンズホルダー
111 視野
112 アパチャー
120 受光素子アレイ
131 赤色LD
132 緑色LD
133 青色LD
134 光源基板
135 ヒートシンク