IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧

特許7470051放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法
<>
  • 特許-放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法 図1
  • 特許-放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法 図2
  • 特許-放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法 図3
  • 特許-放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法 図4
  • 特許-放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20240410BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240410BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240410BHJP
【FI】
C04B35/01
C08L101/00
C08K3/01
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020562433
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051239
(87)【国際公開番号】W WO2020138335
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2018244647
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】中山 篤
(72)【発明者】
【氏名】竹本 克則
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-088488(JP,A)
【文献】特開2011-088759(JP,A)
【文献】特開2016-017014(JP,A)
【文献】特開2008-270678(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139642(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/065148(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/01
C08L 101/00
C08K 3/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱性樹脂組成物に使用される無機粉体であって、
粒径53μm未満の第1の無機粒子と、BET比表面積が2m/g以下である、粒径100μm以上の第2の無機粒子とを含み、
前記第2の無機粒子の含有量が30~95質量%であり、
断面SEM像において、前記第2の無機粒子の内部に存在する孔は、最大寸法40μm未満である、無機粉体。
【請求項2】
さらに、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子を含む、請求項1に記載の無機粉体。
【請求項3】
樹脂と、請求項1または2に記載の無機粉体と、を含む放熱性樹脂組成物であって、
前記樹脂100重量部に対し、前記第2の無機粒子を100重量部以上含む、放熱性樹脂組成物。
【請求項4】
放熱性樹脂組成物に使用される、無機粒子を含む無機粉体の製造方法であって、
粒径53μm未満の第1の無機粒子と、BET比表面積が2m/g以下である、粒径100μm以上の第2の無機粒子とを、前記無機粉体が前記第2の無機粒子を30~95質量%含むように混合する工程を含み、断面SEM像において、前記第2の無機粒子の内部に存在する孔は、最大寸法40μm未満である、無機粉体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の無機粒子および/または前記第2の無機粒子と、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子を混合する工程をさらに含む、請求項に記載の無機粉体の製造方法。
【請求項6】
樹脂と、無機粒子を含む無機粉体とを含む放熱性樹脂組成物の製造方法であって、
粒径53μm未満の第1の無機粒子と、BET比表面積が2m/g以下である、粒径100μm以上の第2の無機粒子と、樹脂原料とを、前記無機粉体が前記第2の無機粒子を30~95質量%含むように、かつ、前記樹脂原料100重量部に対し、前記第2の無機粒子が100重量部以上で配合されるように、混合する工程と、
得られた混合物を成形する工程と、を含む放熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記無機粉体は、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子をさらに含む、請求項に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性樹脂組成物用無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱素子と放熱部材との間に配置される熱伝導性材料として、シリコーンエラストマーと、熱伝導性フィラーと、セラミックス焼結体とを含む放熱性樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、セラミックス焼結体の平均粒径を熱伝導性フィラーの平均粒径の5倍以上とすることにより、実装寸法のばらつきが小さい放熱性樹脂組成物の形成を可能としている。
【0003】
特許文献1において、好ましい熱伝導性フィラーの平均粒径は0.5μm~100μmであり、好ましいセラミックス焼結体の平均粒径は3mm以下である。好ましい配合比としては、液状シリコーンエラストマー100重量部に対して、熱伝導性フィラーが100~1200重量部、セラミックス焼結体が5~30重量部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-232190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気自動車、ロボットなど、種々のデバイスの電動化が進んでいる。各電動デバイスに含まれる電子部品(発熱体)の設置位置、設置態様などによって、発熱体と放熱部材との間の隙間の寸法は様々である。様々な隙間の寸法に適合できるように、様々な寸法形状の放熱性樹脂組成物が必要とされている。例えば、従来よりも厚い(例えば、厚さ5mm以上の)放熱性樹脂組成物が求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された放熱性樹脂組成物を厚く形成すると、平均粒径0.5~100μmの微細な熱伝導性フィラーを用いているため、互いに接触しない熱伝導性フィラーの割合が増加し、放熱性樹脂組成物の放熱性能が低下する。放熱性能を向上するために熱伝導性フィラーの配合量を増加させると、硬化前の液状樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、液状樹脂組成物の流動性が低下して成形性が悪化する問題がある。また、熱伝導性フィラーの配合量を増加させると、放熱性樹脂組成物の粘着性、接着性、柔軟性などの物性が低下する問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明は、厚い放熱性樹脂組成物の製造に適した無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、無機粉体および放熱性樹脂組成物の製造に適した製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、
放熱性樹脂組成物に使用される無機粉体であって、
粒径53μm未満の第1の無機粒子と、BET比表面積が2m/g以下である、粒径100μm以上の第2の無機粒子とを含み、
前記第2の無機粒子の含有量が30~95質量%である、無機粉体である。
【0009】
本発明の態様2は、
断面SEM像において、前記第2の無機粒子の内部に存在する孔は、最大寸法40μm未満である、態様1に記載の無機粉体である。
【0010】
本発明の態様3は、
さらに、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子を含む、態様1または2に記載の無機粉体である。
【0011】
本発明の態様4は、
樹脂と、態様1~3のいずれかに記載の無機粉体と、を含む放熱性樹脂組成物であって、
前記樹脂100重量部に対し、前記第2の無機粒子を100重量部以上含む、放熱性樹脂組成物である。
【0012】
本発明の態様5は、
放熱性樹脂組成物に使用される、無機粒子を含む無機粉体の製造方法であって、
粒径53μm未満の第1の無機粒子と、BET比表面積が2m/g以下である、粒径100μm以上の第2の無機粒子とを、前記無機粉体が前記第2の無機粒子を30~95質量%含むように混合する工程を含む、無機粉体の製造方法である。
【0013】
本発明の態様6は、
前記第1の無機粒子および/または前記第2の無機粒子と、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子を混合する工程をさらに含む、態様5に記載の無機粉体の製造方法である。
【0014】
本発明の態様7は、
樹脂と、無機粒子を含む無機粉体とを含む放熱性樹脂組成物の製造方法であって、
粒径53μm未満の第1の無機粒子と、BET比表面積が2m/g以下である、粒径100μm以上の第2の無機粒子と、樹脂原料とを、前記無機粉体が前記第2の無機粒子を30~95質量%含むように、かつ、前記樹脂原料100重量部に対し、前記第2の無機粒子が100重量部以上で配合されるように、混合する工程と、
得られた混合物を成形する工程と、を含む放熱性樹脂組成物の製造方法である。
【0015】
本発明の態様8は、
前記無機粉体は、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子をさらに含む、態様7に記載の放熱性樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、厚い放熱性樹脂組成物の製造に適した無機粉体およびそれを用いた放熱性樹脂組成物を提供することができる。また、本発明によれば、無機粉体および放熱性樹脂組成物の製造に適した製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施の形態1に係る放熱性樹脂組成物の模式断面図である。
図2図2は、無機粒子の粒度分布曲線の一例である。
図3図3は、無機粒子の粒度分布曲線の別の例である。
図4図4は、無機粒子の断面SEM像の模式図である。
図5図5(a)~図5(f)は、放熱性樹脂組成物の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施の形態1>
1.無機粉体10、樹脂30および放熱性樹脂組成物20
図1は、実施の形態1に係る放熱性樹脂組成物20の模式断面図である。図1では、シート状の放熱性樹脂組成物20を示している。放熱性樹脂組成物20は、無機粉体10と樹脂30を含んでいる。ここで「無機粉体10」とは、複数の第1の無機粒子11および複数の第2の無機粒子12から構成された粒子の集合体のことである。放熱性樹脂組成物20の内部では、複数の第1無機粒子11および複数の第2の無機粒子12の多くが隣接する他の第1の無機粒子11および/または第2の無機粒子12と接触している。樹脂30は、無機粒子の間の隙間を埋めており、これにより、第1の無機粒子11および第2の無機粒子12は固定されている。
以下に、放熱性樹脂組成物20に使用される無機粉体10、樹脂30、およびそれらを含む放熱性樹脂組成物20について説明する。
【0019】
(1)無機粉体10
無機粉体10は、少なくとも、粒径53μm未満の第1の無機粒子11と、粒径100μm以上の第2の無機粒子12とを含んでいる。
無機粉体10を含む放熱性樹脂組成物20を形成すると、放熱性樹脂組成物20の下面20bと上面20aの間に、第1の無機粒子11および/または第2の無機粒子12が複数配置される。樹脂30に比べて第1の無機粒子11および第2の無機粒子12は熱伝導率が高いので、放熱性樹脂組成物20の放熱経路は、互いに接触または近接した第1の無機粒子11および第2の無機粒子12を優先的に通過するように形成される。放熱性樹脂組成物20の下面20bに発熱体(電子部品など)、上面20aに放熱部材(ヒートシンクなど)を配置した場合、熱は、下面20bの近傍に存在する第1の無機粒子11および/または第2の無機粒子12から、放熱性樹脂組成物20の上面20aの近傍に存在する第1の無機粒子11および/または第2の無機粒子12へと伝達される。
【0020】
図1に示す第1の伝熱路P1は、下面20bの近傍に存在する第2の無機粒子12と、放熱性樹脂組成物20の上面20aの近傍に存在する第2の無機粒子12とから形成される。それらの第2の無機粒子12は互いに接触しているため、他の無機粒子を介すことなく伝熱路P1を形成できる。第2の無機粒子12は、第1の無機粒子11に比べて粒径が大きいため、少ない個数(図1では2個)の第2の無機粒子12のみで伝熱路を形成することができる。
【0021】
また、放熱経路P1xでは、放熱経路P1xを形成する複数の無機粒子12は、互いに近接しているが、互いに接触してはいない。つまり、それら無機粒子12の間に隙間Gが生じる。図1に示すように、無機粒子12の間の隙間Gは、無機粒子に比べて熱伝導率の低い樹脂30で埋められている。放熱経路P1x上に隙間Gが存在すると、その放熱経路P1xは、隙間Gを埋める樹脂30によって、熱伝導性が低下する。そのため、放熱経路上には、隙間Gの数が少ない方が好ましい。
放熱経路を形成する無機粒子の数が多いほど、無機粒子の間の隙間Gの数は増加する。そこで、上述したように、第2の無機粒子12を用いて、放熱経路を形成する無機粒子の数を減らすことが望ましく、これにより無機粒子間の隙間Gの数を減らして、放熱性樹脂組成物20の熱伝導性を向上することができる。
【0022】
その一方で、第2の無機粒子12のみを含む放熱性樹脂組成物の場合、複数の第2の無機粒子12の間に大きな空間が生じやすい。その空間は、熱伝導率の低い樹脂30で埋められるため、放熱性樹脂組成物20の放熱性能が低下する。そこで、放熱性樹脂組成物20が、第2の無機粒子12に加えて、第2の無機粒子12と比べて粒径の小さい第1の無機粒子11も含むことにより、第2の無機粒子12と第1の無機粒子11の両方を利用した伝熱路を形成することができる。
【0023】
例えば、図1に示す第2の伝熱路P2は、下面20bの近傍に存在する第1の無機粒子11と、放熱性樹脂組成物20の上面20aの近傍に存在する第2の無機粒子12と、それら第1の無機粒子11および第2の無機粒子12の両方に接触する他の第2の無機粒子12とから形成される。
別の例では、図1に示す第3の伝熱路P3は、下面20bの近傍に存在する第1の無機粒子11と、当該第1の無機粒子11と接触する第2の無機粒子12と、当該第2の無機粒子12と接触する他の第1の無機粒子11と、当該他の第1の無機粒子11と接触する、放熱性樹脂組成物20の上面20aの近傍に存在する他の第2の無機粒子12とから形成される。
第2の無機粒子12が入ることのできない空間に、第1の無機粒子11が入ることにより、第2の伝熱路P2および第3の伝熱路P3が新たに形成されて、放熱性樹脂組成物20の放熱性能を向上することができる。
【0024】
このように、放熱性能の良好な放熱性樹脂組成物20を得るために、放熱性樹脂組成物20に使用される無機粉体は、第2の無機粒子12と、第1の無機粒子11とを共に含む。
【0025】
無機粉体10は、第1の無機粒子11と、第2の無機粒子12とを含む。
無機粉体10が第2の無機粒子12を含むことは、目開き100μmのメッシュを用いた湿式篩法により確認できる。同様に、無機粉体10が第1の無機粒子11を含むことは、目開き53μmのメッシュを用いた湿式篩法により確認できる。
本明細書において、目開き100μmのメッシュおよび目開き53μmのメッシュとして、JIS Z 8801:2006に規定された標準篩を用いることができる。
本明細書において、湿式篩法は、JIS K 0069:1992に準拠した方法で実施することができる。
【0026】
無機粉体10が第1の無機粒子11を含むことは、粒径100μm未満の粒度分布曲線を測定した場合に、粒径53μm未満の範囲に頻度を観測することでも確認できる。頻度は、粒径53μm未満の範囲に少なくとも1本のピークとして観測できることもある。頻度をピークとして観測する場合、粒度分布曲線の粒径53μm未満の範囲にピークが明確に現れる程度に、無機粉体10は第1の無機粒子11を含有していることが分かる。粒度分布曲線において、粒径53μm未満にピークが明確に現れていることにより、第1の無機粒子11による放熱性能の向上効果と、第2の無機粒子12による放熱性能の向上効果とが十分に発揮されて、放熱性樹脂組成物20の放熱性能をより向上することができる。
【0027】
粒度分布曲線の測定では、まず、目開き100μmのメッシュを用いて、湿式篩法にて第2の無機粒子12を無機粉体10から取り除く。第2の無機粒子12を含まない無機粉体10(これを「粒径100μm未満の無機粉体10」と称する)を、レーザー粒度分布測定装置〔日機装(株)製「マイクロトラック:MT-3300」〕を用いて、レーザー回折法により粒度分布を測定する。得られた粒度分布曲線において、粒径53μm未満の範囲に頻度を観測できるか否かを確認する。
【0028】
図2は、無機粉体10の粒度分布曲線の一例であり、粒径100μm未満の無機粉体10について測定している。図2の粒度分布曲線には、この粒径53μm未満の範囲に1本のピークX1が存在する。このピークX1は、粒径100μm未満の無機粉体10が第1の無機粒子11を含むことを示している。
【0029】
無機物粉体10は、さらに他の粒径の無機粒子を含んでいてもよい。例えば、無機物粉体10は、粒径53μm以上、100μm未満の第3の無機粒子を含むことができる。
無機物粉体10が第3の無機粒子を含むことは、目開き100μmのメッシュと、目開き53μmのメッシュとを用いた湿式篩法により確認できる。
無機粉体10が第3の無機粒子を含むことは、粒径100μm未満の無機粉体10の粒度分布曲線において、粒径53μm以上、100μm未満の範囲に頻度を観測することでも確認できる。頻度は、粒径53μm以上、100μm未満の範囲にピークとして観測できることもある。
【0030】
図3は、粒径100μm未満の無機粉体10における粒径100μm未満の粒度分布曲線の別の例であり、4本のピークが存在する。粒径53μm未満の範囲にある3本のピークX1a、X1b、X1cは、粒径100μm未満の無機粉体10が、第1の無機粒子11を含むことを示している。粒径53μm以上、粒径100μm未満の範囲にある1本のピークX3は、粒径100μm未満の無機粉体10が第3の無機粒子を含むことを示している。
【0031】
第2の無機粒子12は、BET比表面積が2m/g以下である。BET比表面積は、無機粒子の表面の多孔性の程度を知る指標となり、BET比表面積(m/g)が大きいほど無機粒子の表面に細孔を多く含む。
無機粒子の表面の細孔は、放熱性樹脂組成物20に含まれている樹脂30の原料となる液状の樹脂原料を吸収する。そのため、表面細孔の多い無機粒子を用いると、無機粒子間を固定する樹脂30が不足して、放熱性樹脂組成物20を成形できなくなる恐れがある。放熱性樹脂組成物20を成形できるように樹脂原料の配合量を増加すると、相対的に無機粉体10の配合量が低減して、得られる放熱性樹脂組成物20の放熱性能が低下することがある。
【0032】
第2の無機粒子のBET比表面積が2m/g以下とすることにより、樹脂原料の配合量を過度に増加することなく、第2の無機粒子の配合量を増加することができ、熱伝導率の高い放熱性樹脂組成物20を成形することができる。
【0033】
無機粉体10に含まれる第2の無機粒子12のBET比表面積の測定は、次のように行う。目開き100μmのメッシュを用いて、湿式篩法にて第2の無機粒子12を、無機粉体10から捕集する。得られた第2の無機粒子12について、BET比表面積測定装置〔島津製作所社製「2300-PC-1A」〕を用いて窒素吸着法により測定する。本明細書においては、BET比表面積は、JIS Z 8830:2013に基づいて測定する。
【0034】
上述したように、無機粉体10に含まれる第2の無機粒子12が、放熱性樹脂組成物20の放熱性能に大きく影響する。放熱性樹脂組成物20の放熱性能を向上する観点から、無機粉体10に含まれる第2の無機粒子12の含有量は、無機粉体10の全量を100質量%としたときに、30~95質量%である。第2の無機粒子12の含有量は、好ましくは35~85質量%、より好ましくは40~80質量%である。
【0035】
無機粉体10に含まれる第2の無機粒子12の含有量の測定は、次のように行う。所定量(例えばP(g))の無機粉体10を取り分け、目開き100μmのメッシュを用いて、湿式篩法にて第2の無機粒子12を無機粉体10から捕集する。捕集した第2の無機粒子12の質量(g)を測定し、測定値を、最初に取り分けた無機粉体10の質量P(g)で除することで、第2の無機粒子12の含有量(質量%)を求める。
【0036】
無機粉体10は、第1の無機粒子11と第2の無機粒子12のみを含んでもよい。その場合、無機粉体10に含まれる第1の無機粒子11の含有量は、100(質量%)から、上述のように求めた第2の無機粒子12の含有量(質量%)を引いた値である。具体的には、無機粉体10に含まれる第1の無機粒子11の含有量は、無機粉体10の全量を100質量%としたときに、5~70質量%であり、好ましくは15~65質量%、より好ましくは20~60質量%である。
【0037】
無機粉体10は、第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子を含んでもよい。その場合、無機粉体10に含まれる第1の無機粒子11の含有量は、例えば4~65質量%、好ましくは5~65質量%、より好ましくは8~40質量%であり、第3の無機粒子の含有量は、1~40質量%、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~30質量%である。
【0038】
無機粉体10が、第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子を含む場合、第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子の含有量の測定は、次のように行う。
所定量(例えばP(g))の無機粉体10を取り分け、目開き100μmのメッシュを用いて、湿式篩法にて第2の無機粒子12を無機粉体10から捕集する。捕集した第2の無機粒子12の質量(g)を測定し、測定値を、最初に取り分けた無機粉体10の質量P(g)で除することで、第2の無機粒子12の含有量(質量%)を求める。
【0039】
第2の無機粒子12を除去した後の無機粉体10(粒径100μm未満の無機粉体10)について、目開き53μmのメッシュを用いて、湿式篩法にて第1の無機粒子11と第3の無機粒子とを篩別する。第1の無機粒子11の質量(g)と第3の無機粒子の質量(g)とをそれぞれ測定し、各測定値を、最初に取り分けた無機粉体10の質量P(g)で除することで、第1の無機粒子11の含有量(質量%)および第3の無機粒子の含有量(質量%)を求める。
【0040】
無機粉体10に含まれる無機粒子は、その内部に存在する空洞が小さい、または、空洞が存在しないことが好ましい。
特に、第2の無機粒子12内部に存在する空洞が小さい、または、空洞が存在しないと、放熱性樹脂組成物20の放熱性能を向上する効果が高い。図4に示すように、第2の無機粒子12の断面SEM像には、内部の空洞が孔151、152として観察されることがある。この断面SEM像において、第2の無機粒子12の内部に存在する孔151、152は、寸法40μm未満であることが好ましい。ここで「寸法」とは、断面に現れた孔の面積に等しい面積を有する円の直径、すなわち円相当径を指す。また、「第2の無機粒子12の内部に存在する孔151、152は、寸法40μm未満」には、孔の寸法が0μmの場合(つまり、孔が存在しない場合)を含む。
【0041】
孔151、152の断面SEM像での観察では、まず、無機粉体10を樹脂埋めした樹脂試料を作成し、その樹脂試料の表面を研磨して無機粉体10の無機粒子(第1の無機粒子11および第2の無機粒子12を含み、第3の無機粒子を含んでもよい)の断面を露出させる。樹脂試料の研磨面の任意位置でSEM像を撮影し、無機粒子の断面を観察する。そして、それらの無機粒子のうち、第2の無機粒子12の断面SEM像に対し、その粒子内で観察される孔の面積を求め、その面積の円相当径を算出することにより、孔の寸法を測定することが可能である。
【0042】
具体的には、無機粉体10を樹脂埋めした樹脂試料を、クロスセクションポリッシャ(CP)で加工して、無機粉体10中の無機粒子の断面を露出させる。この研磨断面をSEMで観察し、第2の無機粒子12を探して、測定対象を決定する。ここで、第2の無機粒子12は、粒子の最大寸法(最大直径)が100μm以上の粒子として観察される。例えば、倍率300倍で、縦300μm×横420μmの視野で、測定対象の第2の無機粒子12内に存在する個々の孔151、152が明確に確認できるように、SEM像を撮像する。得られた断面SEM像を、ImageJなどの画像解析ソフトを用いて、無機粒子内の孔が抽出されるように二値化する。得られた二値化像から孔の面積を算出し、その面積の円相当径を求めることで、孔の寸法を測定することが可能である。この方法にて、無作為に抽出した15個の第2の無機粒子12について孔を観察し、15個全ての第2の無機粒子12で、内部に寸法40μm以上の孔がない場合に「第2の無機粒子12の内部に存在する孔151、152は、寸法40μm未満」の要件を満たすと判断する。
【0043】
第2の無機粒子12の粒径が大きい場合(例えば3mm以上)、CP加工で、ひとつの第2の無機粒子12の全体の断面を露出することが困難である。その場合、研磨紙を用いて粗研磨を行い、その後、研磨剤を用いて鏡面仕上げを行ってもよい。超音波洗浄により孔に詰まった研磨くずを取り除いた後、この研磨断面を用いて、SEM観察から孔の有無および寸法の測定を行ってもよい。
【0044】
無機粉体10が含む第1の無機粒子11、第2の無機粒子12、第3の無機粒子などの無機粒子としては、熱伝導性の高い無機材料から成る粒子が好ましく、特に、熱伝導性が15W/mK以上の無機材料から成る粒子が好ましい。そのような無機材料としては、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックスが好適である。無機粒子は、セラミックス粒子であることが好ましい。セラミックスは高い熱伝導率を有するので、セラミックス粒子を用いると、放熱性樹脂組成物20の放熱性能を向上することができる。また、絶縁性のセラミックスを無機粒子として用いる場合は、発熱体と放熱部材の間に放熱性樹脂組成物20を配置したときに、発熱体と放熱部材の短絡を抑制できる。そのため、無機粒子は絶縁性のセラミックス粒子であることがより好ましく、具体的には、アルミナ粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ホウ素、窒化ホウ素、窒化ケイ素であることがより好ましい。なかでも、価格が安価であることから、アルミナがさらに好ましい。
【0045】
また、無機粉体10が含む第1の無機粒子11、第2の無機粒子12、第3の無機粒子などの無機粒子として、水酸化アルミニウム粒子を用いることができる。水酸化アルミニウムは、熱伝導率はセラミックスに劣るものの、難燃性であることから、高温環境下で使用する放熱性樹脂組成物20を製造するのに好適である。
【0046】
無機粉体10には、少なくとも第1の無機粒子11と第2の無機粒子12が含まれるが、それらの無機粒子は、同じ無機材料から成っても、異なる無機材料から成ってもよい。例えば、第1の無機粒子11はアルミナ粒子から成り、第2の無機粒子12は窒化ケイ素粒子から成ってもよい。また、無機粉体10が、さらに第3の無機粒子を含む場合に、第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子の全てが同じ無機材料から成ってもよく、いずれも異なる無機材料から成ってもよく、または、それら3つの無機粒子のうち2つが同じ無機材料から成り、残りの1つは異なる無機材料から成ってもよい。さらには、第1の無機粒子11が、異なる無機材料から成る2種以上の無機粒子(いずれも、粒径53μm未満)を含んでいてもよく、第2の無機粒子12が、異なる無機材料から成る2種以上の無機粒子(いずれも、粒径100μm以上)を含んでいてもよい。
【0047】
無機粉体10は、無機材料以外の成分(例えば、有機化合物)を含んでいてもよい。例えば、無機粒子は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤;チタネートカップリング剤;オレイン酸、ステアリン酸などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸およびそれらの脂肪酸エステル;メチルシリケート、エチルシリケートなどのシリケート化合物;リン酸;リン酸化合物;界面活性剤などによる処理が挙げられる。特に、シランカップリング剤が好ましく、表面処理によって無機粒子と樹脂との親和性を向上できる。無機粒子と樹脂との親和性が高くなると、無機粒子を樹脂原料に添加したときの樹脂原料の粘度上昇が小さくなり、無機粒子の配合量を増加させることができる(無機粒子の充填性の向上)。
【0048】
シランカップリング剤としては、エポキシシラン、アミノシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、フルオロシランなどを適宜選択して使用できる。具体的なシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2 - (3 , 4 - エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3 - グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3 - グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3 - グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3 - グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N - 2 - ( アミノエチル) - 3 - アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N - 2 - ( アミノエチル) - 3 - アミノプロピルトリメトキシシラン、N - 2 - ( アミノエチル) - 3 - アミノプロピルトリエトキシシラン、3 - アミノプロピルトリメトキシシラン、3 - アミノプロピルトリエトキシシラン、3 - トリエトキシシリル- N - ( 1 , 3- ジメチル-ブチリデン) プロピルアミン、N - フェニル- 3 - アミノプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどがある。
【0049】
また、無機粒子を表面処理する方法としては特に限定されず、乾式および湿式のいずれの処理方法でも行うこともでき、または、あらかじめ樹脂30に表面処理剤を混合するインテグラル法で行うこともできる。表面処理により、無機粒子と樹脂との親和性向上、および無機粒子の充填性の向上が可能となる。
【0050】
(2)樹脂30
図1に示すように、樹脂30は、無機粉体10に含まれる第1の無機粒子11および第2の無機粒子12の間の隙間を埋めており、これにより、第1の無機粒子11および第2の無機粒子12は固定されている。
樹脂30に適した樹脂材料は特に限定されないが、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドなどのポリイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリフタルアミド、ポリアセタール、ポリウレタン、ナイロン樹脂などを好ましく挙げることができる。特に、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴムが好ましい。
【0051】
放熱性樹脂組成物20に含まれる樹脂30と無機粉体10は、好ましい配合比で配合することができる。例えば、樹脂100重量部に対して、無機粉体105重量部以上であることが望ましい。
なお、無機粉体10に含まれる第2の無機粒子12は、放熱性樹脂組成物20の放熱性能に対する影響が大きい。よって、樹脂30に対する第2の無機粒子12の配合比を十分に高くすることにより、放熱性樹脂組成物20の放熱性能を向上することができる。樹脂100重量部に対して、第2の無機粒子12は、好ましくは100重量部以上であり、より好ましくは200重量部以上であり、更に好ましくは500重量部以上であり、特に好ましくは1000重量部以上である。
【0052】
(3)放熱性樹脂組成物20
放熱性樹脂組成物20に含まれる樹脂30と無機粉体10の配合比は、あらかじめ測定した放熱性樹脂組成物20の質量と、放熱性樹脂組成物20から樹脂30を取り除いて得られる無機粉体10の質量と、から求めることができる。
放熱性樹脂組成物20に含まれる樹脂30と第2の無機粒子12の配合比は、放熱性樹脂組成物20から樹脂30を取り除いて得られる無機粉体10の質量と、目開き100μmのメッシュを使用して、湿式篩別により無機粉体10から捕集される第2の無機粒子12の質量と、から求めることができる。
【0053】
放熱性樹脂組成物20に含まれる無機粉体10について、粒度分布の測定、第2の無機粒子12のBET比表面積の測定、および第2の無機粒子12の含有量を測定するには、以下のような手順で行うことができる。
まず、放熱性樹脂組成物20から樹脂30を取り除いて、無機粉体10を得る。放熱性樹脂組成物20から樹脂30を取り除く具体的な方法としては、溶剤で樹脂30を溶解して除去する方法、放熱性樹脂組成物20を灰化して樹脂30を除去する方法などが挙げられる。得られた無機粉体10について、目開き100μmのメッシュを用いて湿式篩別することにより、第2の無機粒子12が得られる。第2の無機粒子12について、BET比表面積の測定を行う。また、篩別前の無機粉体10と、篩別した第2の無機粒子12とをそれぞれ秤量して、無機粉体10に含まれる第2の無機粒子12の含有量の割合を求めることができる。
【0054】
2.製造方法
(1)無機粉体10の製造方法
無機粉体10の製造方法は、第1の無機粒子11と第2の無機粒子12とを混合する工程を含む。必要に応じて、第3の無機粒子を混合する工程をさらに含んでもよい。
第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子を混合する場合には、それらを順次混合しても、または同時に混同してもよい。例えば、それら3種の無機粒子から2種を選択して混合し、得られた混合物に、残り1種の無機粒子を混合してもよい。あるいは、それら3種の無機粒子を同時に混合してもよい。
【0055】
第2の無機粒子12としては、BET比表面積が2m/g以下であるものを使用する。また、得られた無機粉体10が第2の無機粒子12を30~95質量%含むように、各無機粒子の配合量を決定する。
【0056】
無機粒子(第1の無機粒子11、第2の無機粒子12、および第3の無機粒子)は、いずれも市販されているものを利用してもよい。特に、第2の無機粒子12としては、粉砕用無機材料ボールが好適である。
【0057】
また、第2の無機粒子12は、例えば、無機粒子を、造粒機を用いて造粒し、得られた緻密な造粒物を、乾燥、焼結する方法で製造することができる。具体的には、例えば、第2の無機粒子12がアルミナ粒子の場合、粒径が1μm以下のαアルミナ種粒子のスラリーを作製し、当該スラリーとαアルミナ前駆体とを混合し、得られた混合物を乾燥し、乾燥後の混合物を高温焼成する方法により、第2の無機粒子12としてのアルミナ粒子を製造することができる。なお、αアルミナ前駆体とは、焼成することによりαアルミナに転移する化合物であり、αアルミナ前駆体として、水酸化アルミニウムやγアルミナ、δアルミナ、θアルミナなどの遷移アルミナなどが挙げられる。
また、第2の無機粒子12は、無機粒子を電気溶融法で溶融固化し、得られた固化物を粉砕する方法でも製造することができる。具体的には、例えば、第2の無機粒子12がアルミナ粒子の場合、バイヤー法などで得られたアルミナを電気炉にて高温溶融した後、溶融物を固化し、得られたインゴットを粉砕する方法により、第2の無機粒子12としてのアルミナ粒子を製造することができる。
このような方法によって第2の無機粒子12を製造すると、断面SEM像において、内部に存在する孔の寸法が40μm未満である第2の無機粒子12が得られる。
【0058】
(2)放熱性樹脂組成物20の製造方法
放熱性樹脂組成物20の製造方法は、以下の工程1~2を含む。
工程1:第1の無機粒子11と第2の無機粒子12とを含む無機粉体10と、樹脂原料と、を混合する工程
工程2:得られた混合物を成形する工程
図5(a)~(f)を参照しながら、各工程について詳述する。
【0059】
(工程1:混合工程)
工程1では、第1の無機粒子11と第2の無機粒子12とを含む無機粉体10と、樹脂原料300とを混合して、混合物200を得る工程である。第2の無機粒子12としては、BET比表面積が2m/g以下であるものを使用する。無機粉体10は、第3の無機粒子13をさらに含んでもよい。
第2の無機粒子12と樹脂原料300との配合比については、無機粉体10の全量を100質量%としたときに第2の無機粒子が30~95質量%となるように、また、樹脂原料300が100重量部に対して第2の無機粒子12を100重量部以上となるように、配合する。
【0060】
図5(a)~(c)は、工程1の一例を図示している。図5(a)および(b)に示すように、第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子13を混合して、無機粉体10を得る。図5(c)に示すように、得られた無機粉体10と、液状の樹脂原料300とを、適切な手段(例えば攪拌機)を用いて混合して混合物200を得る。
なお、図5(a)~(c)では、まず無機粉体10を準備し、無機粉体10と樹脂原料300とを混合しているが、これに限定されず、最終的に混合物200が得られるのであれば、異なる手順を用いてもよい。例えば、第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子13を、樹脂原料300に順次添加してもよい。
【0061】
(工程2:成形工程)
工程2では、工程1で得られた混合物200を、型90に入れて硬化させることにより、放熱性樹脂組成物20を得る工程である。図5(d)~(f)は、工程2の一例を図示している。
図5(d)に示すように、混合物200を所望の型90に入れる。図5(e)に示すように、型90に入れた状態で混合物200を硬化させる。これにより、放熱性樹脂組成物20が得られる。樹脂原料300が熱硬化性樹脂の場合には、混合物200を硬化温度まで加熱して硬化させる。樹脂原料300が熱可塑性樹脂の場合には、混合物200における樹脂原料300は高温の溶融状態であるので、その混合物200を冷却することにより、混合物200における樹脂原料を固化させる。最後に、放熱性樹脂組成物20を型90から取り出す(図5(f))。
【実施例
【0062】
表1に示す第1の無機粒子11、第2の無機粒子12および第3の無機粒子(粒子A~M)を使用し、表2に示す割合で無機粒子を混合して、無機粉体を得た。得られた無機粉体と、樹脂原料(エポキシ樹脂)、添加物(硬化剤、硬化触媒、表面処理剤)を、表2に示す割合となるように配合して、自転・公転ミキサーで混練し、混合物を得た。離型処理をしたポリエステルフィルム上に置いた型枠に混合物を投入し、もう一枚の離型処理したポリエステルフィルムを載せることで成形した。なお、仕込み充填率が95質量%以上の場合は、さらにプレス成形機を用いて加圧成形した。その後、120℃、120分の条件下で加熱硬化させることにより、放熱性樹脂組成物を得た。
なお、表2の「仕込み充填率」とは、混合物中の無機粉体の含有量(質量%)である。
【0063】
使用した粒子A~J(表1および2)は以下の通りであった。
(第2の無機粒子12:粒子A~F)
・粒子A:平均粒径1mmの粉砕用アルミナボール(ニッカトー製、商品名:HD-1)
・粒子B:平均粒径0.3mmの粉砕用アルミナボール(アズワン製、商品名:AL9-0.3)
・粒子C:平均粒径0.2mmの粉砕用アルミナボール(アズワン製、商品名:AL9-0.2)
・粒子D:平均粒径15mmのルミナボール(ニッカトー製、商品名:HD-15)
・粒子E:平均粒径2mmのアルミナ粒子(住友化学社製、商品名:AKQ-10)
・粒子F:平均粒径0.3mmの炭化ケイ素粒子(太平洋ランダム製、商品名:RC-24)
【0064】
(第3の無機粒子13:粒子G~H)
・粒子G:平均粒径70μmのアルミナ粒子(デンカ社製、商品名:DAW-70)
・粒子H:炭化ケイ素粒子(太平洋ランダム製、商品名:RC-100F)を105μmメッシュで乾式篩別し、平均粒径を80μmに調整した炭化ケイ素粒子
なお、粒子GおよびHは、第3の無機粒子13(粒径が53μm以上、100μm未満)だけでなく、第3の無機粒子13以外の無機粒子(粒径が53μm未満、または100μm以上)も含み得るが、本実施例では、便宜上、粒子GおよびHを第3の無機粒子13に分類した。
【0065】
(第1の無機粒子11:粒子I~M)
・粒子I:平均粒径45μmのアルミナ粒子(デンカ社製、商品名:DAW-45)
なお、粒子Iは、第1の無機粒子11(粒径が53μm未満)だけでなく、第1の無機粒子11以外の無機粒子(粒径が53μm以上)も含み得るが、本実施例では、便宜上、粒子Iを第1の無機粒子11に分類した。
・粒子J:平均粒径12μmのアルミナ粒子(デンカ社製、商品名:DAW-10)
・粒子K:平均粒径5μmのアルミナ粒子(デンカ社製、商品名:DAW-05)
・粒子L:平均粒径0.4μmのアルミナ粒子(住友化学社製、商品名:AA-03)
・粒子M:平均粒径0.3μmのアルミナ粒子(デンカ社製、商品名:AFSP-20)
【0066】
使用した樹脂原料、硬化剤、硬化触媒、表面処理剤(表2)は以下の通りであった。
・樹脂原料300:エポキシ樹脂(epoxy828)
・硬化剤:脂環式骨格酸無水物(新日本理化社製、商品名:MH-700)
・硬化触媒:イミダゾール系硬化促進剤(四国化成社製、商品名:1B2PZ)
・表面処理剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、商品名:Z-6040)
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
得られた無機粉体、および放熱性樹脂組成物について、以下の項目について測定または評価した。
(1)第2の無機粒子12の含有量
表2の配合で得られた無機粉体10gを取り分け、目開き100μmのメッシュを用いて、湿式篩法にて第2の無機粒子12を捕集した。
捕集した無機粒子の質量(g)を測定し、測定値を、最初に取り分けた無機粉体の質量10gで除することで、無機粉体中の第2の無機粒子12の含有量(質量%)を求めた。結果を表2に示す。
(2)粒度分布曲線
「(1)第2の無機粒子12の割合」において、第2の無機粒子12が除去された後の無機粉体10(粒径100μm未満の無機粉体10)について、粒度分布を測定し、粒度分布曲線を作成した。
粒径100μm未満の無機粉体10を、レーザー粒度分布測定装置〔日機装(株)製「マイクロトラック:MT-3300」〕を用いて、レーザー回折法により粒度分布を測定した。
得られた粒度分布曲線において、粒径53μm未満の範囲と、粒径53μm以上100μm未満の範囲との各々において、頻度が観測されるか否かを確認した、表2に示した。
【0070】
(3)成形性
表2の配合で得られた混合物について、成形性の評価試験を行った。評価基準は以下の通りとした。表2の「成形性」の欄に、評価試験を示す。
「○」:問題なく成形できた。
「△」:成形はできたものの、成形体中に気泡を多く含んでいた。
「×」:無機粒子と樹脂との混合物の粘度が高くなり過ぎて成形できなかった、または、混合物が粉状で成形できなかった。
【0071】
(4)熱伝導率
表2の配合で得られた混合物を、幅10mm×長さ10mm×厚さ1mmに成形し、その後に樹脂を固化させて、放熱性樹脂組成物(測定用の試料)を作成した。レーザーフラッシュ法による熱抵抗測定機(NETZSCH社製、LFA467)を用いて、試料の熱伝導率を測定した。熱伝導率が5W/mK未満を「不可」、5W/mK以上10W/mK未満を「良」、10W/mK以上を「優」とする。なお、比較例2および4は、混合物の成形性が悪く、測定用の試料を調製できなかったため、熱伝導率の測定を行わなかった。
【0072】
実施例1~7および比較例1~6について、以下に考察する。
実施例1~7は、使用した第2の無機粒子12(平均粒径200μm~15000の粒子A~DおよびF)のBET比表面積が2m/g以下であった。また、篩別した第2の無機粒子12も、BET比表面積が2m/g以下であった。
実施例1~7の無機粉体は、第2の無機粒子12を30~95質量%含んでいた。それらの無機粉体の粒度分布曲線を確認すると、粒径53μm未満の範囲に頻度が観測された。これにより、実施例1~7の無機粒子は、第1の無機粒子11を含むことが確認された。なお、実施例5および6では、さらに、粒度分布曲線の粒径53μm以上、100μm未満の範囲に頻度が観測された。これにより、実施例5および6の無機粒子は、第3の無機粒子13を含むことが確認された。
【0073】
実施例1~7の放熱性樹脂組成物(測定用の試料)では、樹脂100重量部に対する第2の無機粒子12の配合量は100重量部以上であり、得られた測定用試料の熱伝導率が5W/mK以上と良好であった。特に、実施例2、4および6では、樹脂100重量部に対する第2の無機粒子12の配合量は1000重量部以上であり、得られた測定用試料は、10W/mK以上と優れた熱伝導率を示した。
【0074】
比較例1の無機粉体は、粒度分布曲線の粒径53μm未満の範囲に頻度が観測されなかった。つまり、比較例1の無機粉体は、第1の無機粒子11を含んでいない。そのため、放熱性樹脂組成物の保形性が悪く、成形体中に大きな気泡を含んでおり、放熱性樹脂組成物(測定用の試料)の熱伝導率が5W/mK未満となった。
【0075】
比較例2の無機粉体は、使用した第2の無機粒子12(平均粒径2000μmの粒子E)のBET比表面積が2m/g以上であった。また、篩別した第2の無機粒子12も、BET比表面積が2m/g以上であった。そのため、第2の無機粒子12が樹脂原料を吸収して、混合物が粉状となった。その結果、混合物の成形性が著しく悪化して、放熱性樹脂組成物(測定用の試料)を調製することができなかった。
【0076】
比較例3、5および6の無機粉体は、第2の無機粒子12を含んでいなかった。そのため、放熱性樹脂組成物(測定用の試料)の熱伝導率が5W/mK未満となった。
比較例4の無機粉体は、第2の無機粒子12を含んでいなかった。さらに、放熱性樹脂組成物(測定用の試料)を調製する際の仕込み充填率が高かったため、無機粉体と樹脂との混合物の粘度が高くなり過ぎた。そのため、混合物の成形性が著しく悪化して、放熱性樹脂組成物(測定用の試料)を調製することができなかった。
【符号の説明】
【0077】
10 無機粉体
11 第1の無機粒子
12 第2の無機粒子
13 第3の無機粒子
20 放熱性樹脂組成物
200 混合物
30 樹脂
300 樹脂原料
90 型
151、152 孔
図1
図2
図3
図4
図5