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特許7470080(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 11/28 20060101AFI20240410BHJP
   C07C 1/32 20060101ALI20240410BHJP
   C07C 33/048 20060101ALI20240410BHJP
   C07C 29/36 20060101ALI20240410BHJP
   C07C 33/02 20060101ALI20240410BHJP
   C07C 29/00 20060101ALI20240410BHJP
   C07C 69/145 20060101ALI20240410BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20240410BHJP
【FI】
C07C11/28 CSP
C07C1/32
C07C33/048
C07C29/36
C07C33/02
C07C29/00
C07C69/145
C07C67/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021068439
(22)【出願日】2021-04-14
(65)【公開番号】P2022163487
(43)【公開日】2022-10-26
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
(72)【発明者】
【氏名】小松 稜
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5728376(US,A)
【文献】特開平04-264037(JP,A)
【文献】特開平02-006421(JP,A)
【文献】Athula B. Attygalle et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry,1996年,Vol. 4, No. 3,pp. 305-314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C、A01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
で表される(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表す。)
で表される(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物を、下記一般式(3):
MC≡CH (3)
(式中、Mは、Na、Li、K、Ag、Cu(I)、MgZ、CaZ又はCu(II)Zを表し、Zはハロゲン原子又はエチニル基を表す。)
で表される金属アセチリドと反応させることにより、下記式(1):
【化3】
で表される(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インを得る工程
を少なくとも含む、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)の製造方法。
【請求項3】
(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)を塩基と反応させ、次に、エチレン=オキシドとの増炭反応に付すことにより、下記式(4):
【化4】
で表される(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールを得る工程
を少なくとも含む、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)の製造方法と、
前記(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)を還元反応に付することにより、下記式(5):
【化5】
で表される(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールを得る工程と
を少なくとも含む、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)の製造方法。
【請求項5】
前記還元反応が、(i)有機アルミニウム化合物による還元、(ii)バーチ還元、(iii)アンモニアフリーバーチ還元又は(iv)ベンケサー還元を使用して行われる、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)の製造方法と、
前記(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)をアセチル化することにより、下記式(6):
【化6】
(式中、Acはアセチル基を表す。)
で表される(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートを得る工程と
を少なくとも含む、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Tomato leafminer(Tuta absoluta)は、南米原産のトマトの最重要害虫である。2006年にスペインに侵入し、その後、スペイン、イタリア及びフランス等の欧州、モロッコ、チュニジア及びナイジェリア等のアフリカ、トルコ、イスラエル及びイラン等の中東諸国、並びに、インド、ネパール、中国及び台湾等のアジアにその生息域を急速に広げている。全世界で生産されるトマトの20%が本種により失われていると推計されており、その被害は甚大で、その防除は極めて重要である。生息地の温度条件にもよるが、年間世代数が最大10世代以上と世代数が多いために殺虫剤に対する抵抗性を発現しやすく、そして導入から数年で殺虫剤が効かなくなることが多いため、殺虫剤による防除が非常に困難である。この様な理由から、抵抗性を発現しにくい生物学的防除方法が注目されつつあり、その一つとして性フェロモン物質を利用した交信かく乱(Mating disruption)による本種の防除が世界的に広がりつつある。
【0003】
Tuta absolutaの性フェロモン組成は、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートと(3E,8Z)-3,8-テトラデカジエニル=アセテートとの90:10の混合物であることが報告されている(下記の非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、特に主成分である(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートの工業的な製造方法が確立されておらず、そのことがTuta absolutaの交信かく乱による防除普及の妨げとなっていた(下記の非特許文献2)。
【0005】
この(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートの合成方法としては、例えば、2-(3-ブチン-1-イルオキシ)テトラヒドロ-2-ピランをTHF中でn-ブチルリチウムと反応させ、続いてTHF、N’-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)混合溶媒中、(3Z,6Z)-10-ブロモ-3,6-デカジエンとカップリング反応させることにより、テトラヒドロ-2-[(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-イルオキシ]-2-ピランを合成する。次に、該得られたテトラヒドロ-2-[(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-イルオキシ]-2-ピランをメタノール中Dowex(商標)50W-X8存在下でテトラヒドロピラン(THP)を脱保護することにより、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールを合成する。続いて、該得られた(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールを水素化リチウムアルミニウムにて還元して(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールを合成し、そして合成した(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールの水酸基を無水酢酸でアセチル化する方法が報告されている(下記の非特許文献3)。
【0006】
また、上記とは別の(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートの合成方法として、2-(3-ブチン-1-イルオキシ)テトラヒドロ-2-ピランをTHF中でn-ブチルリチウムと反応させ、続いてTHF、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)混合溶媒中、(3Z,6Z)-10-ブロモ-3,6-デカジエンとカップリング反応させることにより、テトラヒドロ-2-[(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-イルオキシ]-2-ピランを合成する。次に、該得られたテトラヒドロ-2-[(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-イルオキシ]-2-ピランをバーチ還元にて還元して、テトラヒドロ-2-[(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルオキシ]-2-ピランを合成する。続いて、該得られたテトラヒドロ-2-[(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニルオキシ]-2-ピランをメタノール中、酸触媒存在下でテトラヒドロピラン(THP)を脱保護することにより、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールを合成し、そして該合成した(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールの水酸基を無水酢酸でアセチル化する方法が報告されている(下記の非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Athula B. Attygalle et al.,1996,J.Chem.Ecol.,22(4):787-800.
【文献】Peter Witzgall et al.,2010,J.Chem.Ecol.,36(1):80-100.
【文献】Athula B. Attygalle et al.,1995,Tetrahedron Letters.,36(31):5471-5474.
【文献】Angel Guerrero et al.,2015,Synthesis,47(07):961-968.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献3及び4のいずれの製造方法においても、非常に高価な2-(3-ブチン-1-イルオキシ)テトラヒドロ-2-ピランを原料として使用している。2-(3-ブチン-1-イルオキシ)テトラヒドロ-2-ピランは、3-ブチン-1-オールを酸触媒存在下、ジヒドロピラン(DHP)と反応させることにより合成できるが、3-ブチン-1-オールとDHPのどちらも工業的に安価に購入することが難しいため、工業的生産に適さない。また、非特許文献1で述べられている通り、2-(3-ブチン-1-イルオキシ)テトラヒドロ-2-ピランを用いたカップリング反応では、2-ヒドロキシテトラヒドロピランが脱離した(8Z,11Z)-1,8,11-テトラデカトリエン-3-インを副生する可能性が高く、純度の観点から望ましくない。さらに、非特許文献3では、高価なDowexを用いているため経済的に有利でない。加えて、非特許文献4では、空気や水に敏感で空気にさらすと発火する恐れがあるために取扱いが難しいn-ブチルリチウム及び発ガン性物質であるヘキサメチルリン酸トリアミドを溶媒として大量に用いているため、工業スケールでの実施が難しい。上記の通り、非特許文献3及び4のいずれの製造方法においても、Tuta absolutaの性フェロモン(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートを製造するための合成中間体である(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールの工業的製造に問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールを工業的に製造するための合成前駆体である新規な化合物を提供することを目的とする。また、本発明は、該新規な化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インが新規な化合物であり、且つ、該(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インが(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールの製造において有用な中間体であることを見出した。そして、該(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インを用いることにより、Tuta absolutaの性フェロモンである(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートを安価な原料を使用して短工程で工業的に製造できることを見出し、本発明を為すに至った。
【0011】
本発明の一つの態様によれば、下記式(1):
【化1】
で表される(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インが提供される。
【0012】
また、本発明の他の態様によれば、下記一般式(2):
【化2】
(式中、Xは、ハロゲン原子を表す。)
で表される(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物を、下記一般式(3):
MC≡CH (3)
(式中、Mは、Na、Li、K、Ag、Cu(I)又はMgZ、CaZ又はCu(II)Zを表し、Zはハロゲン原子又はエチニル基を表す。)
で表される金属アセチリドと反応させることにより、下記式(1):
【化3】
で表される(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インを得る工程
を少なくとも含む、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インの製造方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明の他の態様によれば、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)を塩基と反応させ、次に、エチレン=オキシドとの増炭反応に付すことにより、下記式(4):
【化4】
で表される(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールを得る工程
を少なくとも含む、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)の製造方法が提供される。
【0014】
さらに、本発明の他の態様によれば、上記に記載の、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)の製造方法と、
該(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)を還元反応に付すことにより、下記式(5):
【化5】
で表される(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールを得る工程
を少なくとも含む、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)の製造方法が提供される。
【0015】
さらに、本発明の他の態様によれば、上記に記載の、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)の製造方法と、
該(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)をアセチル化することにより、下記式(6):
【化6】
(式中、Acはアセチル基を表す。)
で表される(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートを得る工程と
を少なくとも含む、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高価な原料を用いることなく、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)及び(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)を短工程で工業的に製造することができる。また、上記2つの化合物を製造するにあたって有用な合成中間体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)について
<(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)の製造>
下記式(1)で表される(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-インは、下記一般式(2)で表される(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物を、下記一般式(3)で表される金属アセチリドと反応させることにより、製造することができる。該反応は、(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)と金属アセチリド(3)との求核置換反応である。
【0018】
【化7】
式中、Xは、ハロゲン原子を表し、かつMは金属を表す。
【0019】
<(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)について>
まず、下記一般式(2)で表される(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物について説明する。
【化8】
【0020】
Xは、ハロゲン原子を表す。具体的には、ハロゲン原子Xとして、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられ、反応性の観点から好ましくは臭素原子及びヨウ素原子である。
【0021】
該(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)の具体例としては、下記の化合物等が挙げられる:
(3Z,6Z)-10-クロロ-3,6-デカジエン、(3Z,6Z)-10-ブロモ-3,6-デカジエン及び(3Z,6Z)-10-ヨード-3,6-デカジエン。
【0022】
該(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。
該(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)は市販されているものであってもよく、また、例えば、(4Z,7Z)-4,7-デカジエン-1-オールのハロゲン化等で独自に合成したものであってもよい。
【0023】
<金属アセチリド(3)について>
次に、下記一般式(3)で表される金属アセチリドについて説明する。
MC≡CH (3)
【0024】
Mは、Na、Li、K、Ag、Cu(I)、MgZ、CaZ又はCu(II)Zを表し、Zは、ハロゲン原子又はエチニル基を表す。ハロゲン原子として、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられ、反応性の観点から好ましくは臭素原子及びヨウ素原子である。
反応性の観点から、Mとして、Na、Li、Cu(I)及びCu(II)Zが好ましい。
【0025】
金属アセチリド(3)の具体例としては、下記の化合物等が挙げられる:ナトリウム=アセチリド、リチウム=アセチリド、カリウム=アセチリド、マグネシウム=アセチリド、カルシウム=アセチリド、カッパー=アセチリド(銅アセチリド)及びシルバー=アセチリド(銀アセチリド)。反応性の観点から、金属アセチリド化合物(3)として、ナトリウム=アセチリド、リチウム=アセチリド及びカッパー=アセチリド(銅アセチリド)が好ましい。
【0026】
金属アセチリド(3)は例えば、加熱したナトリウム若しくはマグネシウムとアセチレンとを反応させる、又はアセチレンにn-ブチルリチウムを反応させる等の方法で独自に合成したものであってもよい。
【0027】
<求核置換反応について>
金属アセチリド(3)は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該金属アセチリド化合物(3)は市販されているものを用いることができる。
金属アセチリド(3)の使用量は、(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)1molに対して、反応性の観点から、好ましくは1.0~10.0mol、より好ましくは1.0~3.0molである。
【0028】
上記求核置換反応には、必要に応じて、溶媒を用いてもよい。
該溶媒としては、一般的な溶媒、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、4-メチルテトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;トリクロロエチレン、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素系溶媒類;ジメチル=スルホキシド、γ-ブチロラクトン(GBL)、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;並びに、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル及び酢酸n-ブチル等のエステル類が挙げられ、反応性の観点から、4-メチルテトラヒドロピラン及びテトラヒドロフラン等のエーテル類;トルエン及びキシレン等の炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒類が好ましく、炭化水素類及び非プロトン性極性溶媒類がより好ましい。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該求核置換反応に用いる溶媒の使用量は、上記(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)1molに対して、好ましくは0~7000g、より好ましくは0~3000gである。
【0029】
該求核置換反応における反応温度は、用いる金属アセチリド(3)及び/又は溶媒により異なるが、反応性の観点から、好ましくは-20~180℃、より好ましくは0~100℃である。
該求核置換反応における反応時間は、用いる金属アセチリド(3)、溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5~100時間である。
【0030】
以上のようにして、(3Z,6Z)-10-ハロ-3,6-デカジエン化合物(2)及び安価な工業原料であるナトリウム等の金属とアセチレンとから製造される金属アセチリド(3)を用いて、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)を製造することができる。
【0031】
B.(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)の製造
下記式(4)で表される(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オールは、上記(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)を塩基と反応させ、次に、エチレン=オキシドとの増炭反応に付すことにより、製造することができる。
【0032】
【化9】
【0033】
増炭反応に用いる塩基としては、例えば、n-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、メチルリチウム及びフェニルリチウム等の有機リチウム試薬;メチルマグネシウム=クロリド、メチルマグネシウム=ブロミド、メチルマグネシウム=ヨージド、エチルマグネシウム=クロリド、n-プロピルマグネシウム=クロリド、n-ブチルマグネシウム=クロリド、イソプロピルマグネシウム=クロリド及びフェニルマグネシウム=クロリド等のグリニャール試薬(Grignard試薬);ナトリウム=アセチリド、リチウム=アセチリド、カリウム=アセチリド、マグネシウム=アセチリド、カルシウム=アセチリド、カッパー=アセチリド(銅アセチリド)、シルバー=アセチリド(銀アセチリド)及びアルミニウム=アセチリド等の金属アセチリド;並びに、水素化ナトリウム及び水素化カリウム等の水素化金属試薬類等が挙げられるが、安全性の観点から、有機リチウム試薬、グリニャール試薬及び金属アセチリドが好ましく、入手の容易さの観点からグリニャール試薬がより好ましい。
該塩基の使用量は、反応性の観点から、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)1molに対して、好ましくは1.0~10.0mol、より好ましくは1.0~3.0molである。
エチレン=オキシドの使用量は、反応性の観点から、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)1molに対して、好ましくは1.0~10.0mol、より好ましくは1.0~5.0molである。
【0034】
上述の増炭反応には、必要に応じて溶媒を用いてもよい。該溶媒としては、一般的な溶媒、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、4-メチルテトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;トリクロロエチレン、ジクロロメタン及びクロロホルム等の塩素系溶媒類;ジメチル=スルホキシド、γ-ブチロラクトン(GBL)、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;並びに、アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類が挙げられるが、反応性の観点から、ジエチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び4-メチルテトラヒドロピラン等のエーテル類;並びに、トルエン及びキシレン等の炭化水素類が好ましい。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量は、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)1molに対して、反応性の観点から、好ましくは20~7000g、より好ましくは50~3000gである。
【0035】
増炭反応における反応温度は、用いる塩基及び/又は溶媒により異なるが、反応性の観点から、好ましくは-40~180℃、より好ましくは-10~100℃である。
増炭反応における反応時間は、用いる塩基、溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5~100時間である。
【0036】
以上のようにして、Tuta absolutaの性フェロモン中間体として重要な(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)が、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)、安価な塩基及びエチレン=オキシドを原料として製造されることができる。
【0037】
C.(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)の製造
下記式(5)で表される(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オールは、上記(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)を還元反応に付すことにより、製造することができる。該還元反応により、該(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)中の炭素-炭素三重結合が二重結合に還元される。
【0038】
【化10】
【0039】
(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)を製造する還元反応としては、(i)有機アルミニウム化合物による還元、(ii)バーチ還元(Birch還元)、(iii)アンモニアフリーバーチ還元及び(iv)ベンケサー還元(Benkeser還元)等が挙げられる。
【0040】
(i)有機アルミニウム化合物による還元
該有機アルミニウム化合物による還元は、溶媒中、有機アルミニウム化合物を用いたヒドロアルミニウム化、そして、引き続き加水分解を行うことによって行われる。
【0041】
【化11】
【0042】
上記ヒドロアルミニウム化に用いる上記有機アルミニウム化合物としては、水素化アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム(Red-Al)及び水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)等が挙げられる。
【0043】
該ヒドロアルミニウム化に用いる該有機アルミニウム化合物の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは0.25~100mol、より好ましくは0.50~20molである。
該ヒドロアルミニウム化に用いる上記溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、4-メチルテトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル、1,4-ジオキサン及びジエチレン=グリコール=ジメチル=エーテル等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類が挙げられるが、反応性の観点からテトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン及びジエチレン=グリコール=ジメチル=エーテル等のエーテル類;並びに、ヘキサン及びトルエン等の炭化水素類が好ましい。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは20~20000g、より好ましくは50~9000gである。
【0044】
該ヒドロアルミニウム化における反応温度は、用いる有機アルミニウム化合物及び/又は溶媒により異なるが、反応性の観点から、好ましくは0~250℃、より好ましくは60~150℃である。
該ヒドロアルミニウム化における反応時間は、用いる有機アルミニウム化合物、溶媒及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.1~100時間、より好ましくは0.1~5時間である。
【0045】
上記ヒドロアルミニウム化に続いて、加水分解が、溶媒中、酸又は塩基を用いて行われる。
該ヒドロアルミニウム化に続く加水分解に用いる酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ピバル酸、ヘプタン酸、トリフルオロ酢酸、クロロ酢酸、ギ酸及びシュウ酸等のカルボン酸;p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;並びに、硫酸、塩酸、硝酸及びリン酸等の鉱酸を挙げることができるが、反応性の観点から、酢酸等のカルボン酸;及び塩酸等の鉱酸が好ましい。
該酸の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは0.00010~100.0molである。
ヒドロアルミニウム化に続く加水分解に用いる塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
該塩基の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは0.00010~100.0molである。
該加水分解に用いる溶媒及びその使用量は、加水分解がヒドロアルミニウム化に続いて同一の反応系内で行われるため、ヒドロアルミニウム化に用いる溶媒及びその使用量と同じである。
【0046】
該加水分解の反応温度は、用いる試薬により異なるが、反応速度の観点から、好ましくは0℃~80℃である。
該加水分解の反応時間は、反応温度及び/又は反応のスケールによって変動するが、反応性の観点から、好ましくは0.5~100時間である。
【0047】
(ii)バーチ還元
該バーチ還元は、アンモニア中、金属を用いて行われる。
【0048】
【化12】
【0049】
アンモニアの使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~10000mol、より好ましくは10~3000molである。
【0050】
該金属としては、カリウム、ナトリウム及びリチウム等のアルカリ金属;並びに、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。
該金属は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。
【0051】
該金属の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~1000mol、より好ましくは1.0~100molである。
【0052】
該バーチ還元では、アンモニアに加えてプロトン源を添加しておくことが好ましい。該プロトン源としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
該プロトン源とは、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該プロトン源は、市販されているものを用いることができる。
該プロトン源の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~10000mol、より好ましくは1.0~3000molである。
【0053】
該バーチ還元における反応温度は、反応性の観点から、好ましくは-78~0℃、より好ましくは-78~-33℃である。
該バーチ還元における反応時間は、反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5~100時間である。
【0054】
(iii)アンモニアフリーバーチ還元
該アンモニアフリーバーチ還元は、クラウンエーテル中、金属を用いて行われる。
【0055】
【化13】
【0056】
該クラウンエーテルとしては、12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6及びジアザ-18-クラウン-6等が挙げられる。
該クラウンエーテルとは、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該クラウンエーテルは、市販されているものを用いることができる。
【0057】
該クラウンエーテルの使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~100.0mol、より好ましくは1.0~20.0molである。
【0058】
該金属としては、カリウム、ナトリウム及びリチウム等のアルカリ金属;並びに、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。
該金属は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。
【0059】
該金属の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~100.0mol、より好ましくは1.0~20.0molである。
【0060】
該アンモニアフリーバーチ還元は、クラウンエーテルに加えてプロトン源を添加しておくことが好ましい。該プロトン源としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール及び2-メチル-2-プロパノール等のアルコール;並びに、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
該プロトン源とは、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該プロトン源は、市販されているものを用いることができる。
該プロトン源の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~100.0mol、より好ましくは1.0~20.0molである。
【0061】
該アンモニアフリーバーチ還元における反応温度は、用いる金属及び/又はクラウンエーテルにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは-78~100℃、より好ましくは-40~40℃である。
該アンモニアフリーバーチ還元における反応時間は、用いる金属及び/又はクラウンエーテル及び/又は反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.1~100時間、より好ましくは0.1~5時間である。
【0062】
(iv)ベンケサー還元
該ベンケサー還元は、アルキルアミン中、金属を用いて行われる。
【0063】
【化14】
【0064】
該アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン及び1,3-プロパンジアミン等の低級アミンが挙げられる。
【0065】
該アルキルアミンの使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~5000mol、より好ましくは1.0~1000molである。
【0066】
該金属としては、カリウム、ナトリウム及びリチウム等のアルカリ金属;並びに、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。
該金属は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。
【0067】
該金属の使用量は、反応性の観点から、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)1molに対して、好ましくは1.0~1000mol、より好ましくは1.0~100molである。
【0068】
該ベンケサー還元における反応温度は、反応性の観点から、好ましくは-78~100℃、より好ましくは-78~60℃である。
該ベンケサー還元における反応時間は、反応スケールにより異なるが、反応性の観点から、好ましくは0.5~100時間である。
【0069】
D.(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)の製造
下記式(6)で表される(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテートは、上記(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)のアセチル化により、製造することができる。
【0070】
【化15】
【0071】
上記アセチル化は、アセチル化剤を用いて行うことができる。
該アセチル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物、アセチル=クロリド、アセチル=ブロミド及びアセチル=ヨージド等のアセチル=ハライド化合物;並びに、酢酸メチル及び酢酸エチル等の酢酸エステル化合物が挙げられるが、汎用性の観点から、無水酢酸及びアセチル=ハライド化合物が好ましい。
該アセチル化剤の使用量は、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)1molに対して、反応性及び経済性の観点から、好ましくは1.0~10.0mol、より好ましくは1.0~5.0molである。
【0072】
該アセチル化には、必要に応じて、酸又は塩基を用いてもよい。
該酸としては、塩酸、硫酸及び硝酸等の鉱酸;ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸;並びに、三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド及び酸化チタン(IV)等のルイス酸が挙げられる。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。
該酸の使用量は、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)1molに対して、反応性及び経済性の観点から、好ましくは0.001~3.00mol、より好ましくは0.01~1.50molである。
【0073】
該塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン等のトリアルキルアミン化合物;ピペリジン、ピロリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)等の環状アミン化合物;ピリジン、ルチジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジブチルアニリン及び4-ジメチルアミノピリジン等の芳香族アミン化合物;並びに、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、ナトリウム=t-ブトキシド、ナトリウム=t-アミロキシド、リチウム=メトキシド、リチウム=エトキシド、リチウム=t-ブトキシド、リチウム=t-アミロキシド、カリウム=メトキシド、カリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及びカリウム=t-アミロキシド等の金属アルコキシド類が挙げられる。
該塩基は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。
該塩基の使用量は、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)1molに対して、反応性及び経済性の観点から、好ましくは0.010~10.0mol、より好ましくは1.0~5.0molである。
【0074】
該アセチル化には、必要に応じて、溶媒を用いてもよい。
該溶媒としては、一般的な溶媒、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、4-メチルテトラヒドロピラン、テトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;トリクロロエチレン、ジクロロメタン及びクロロホルム等の塩素系溶媒類;ジメチル=スルホキシド、γ-ブチロラクトン(GBL)、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;並びに、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル及び酢酸n-ブチル等のエステル類が挙げられるが、反応性の観点からトルエン及びキシレン等の炭化水素類が好ましい。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該アセチル化は、必要に応じて溶媒を用いてもよいが、無溶媒で反応を行ってもよい。
該アセチル化に用いる溶媒の使用量は、上記(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)1molに対して、好ましくは0~5000g、より好ましくは0~2000gである。
【0075】
以上のようにして、合成中間体である(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)から、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)を短工程で且つ効率良く製造することができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下において、「純度」は、特に明記しない限り、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた面積百分率を示し、「生成比」はGC分析によって得られた面積百分率の相対比を示す。また「収率」は、GC分析によって得られた面積百分率を基に算出した収率を示す。
各実施例において、反応のモニタリング及び収率の算出は、次のGC条件に従って行った。
GC条件:GC:島津製作所 キャピラリガスクロマトグラフ GC-2014,カラム:DB-WAX,0.25μmx0.25mmφx30m,キャリアーガス:He(1.55mL/分)、検出器:FID,カラム温度:150℃ 5℃/分昇温 230℃。
収率は、原料及び生成物の純度(%GC)を考慮して、以下の式に従い計算した。
収率(%)={[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]
÷[(反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]}×100
なお、THFはテトラヒドロフラン、及びDMFはN,N-ジメチルホルムアミドを表す。
【0077】
実施例1
<(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)の製造>
【0078】
【化16】
【0079】
室温にて、反応器にナトリウム=アセチリド(3:M=Na)のキシレン溶液(125.09g、ナトリウム=アセチリドとして0.60mol)及びDMF(122.80g)を加えて、38~42℃にて32分間撹拌した。撹拌終了後、(3Z,6Z)-10-ブロモ-3,6-デカジエン(2:X=Br)(119.18g、0.46mol、純度83.48%)を38~42℃にて滴下した。滴下終了後、38~42℃にて17時間撹拌した。その後、反応液に水(137.31g)を加えて分液し、水層を除去して、有機層を得た。該得られた有機層を減圧下濃縮し、そして残留物を減圧蒸留することにより、(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)(71.15g、0.35mol、純度80.53%、95.2~99.0℃/1.87kPa(14.0mmHg))が収率77.05%で得られた。
【0080】
上記で得られた(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.97(3H,t,J=7.7Hz),1.60(2H,dt,J=7.3Hz,7.3Hz),1.95(1H,t,J=2.7Hz),2.08(2H,quin-like,J=7.3Hz),2.16-2.23(4H,m),2.80(2H,dd,J=6.9Hz,6.9Hz),5.27-5.45(4H,m);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=14.27,17.84,20.52,25.51,26.10,28.34,68.32,84.35,127.15,128.61,129.22,131.88
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 161(M-1),147,133,119,105,91,79,67,55,41
〔赤外吸収スペクトル〕(D-ATR):ν=3309,3010,2963,2934,1456,1274,718,632
【0081】
実施例2
<(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)の製造>
【0082】
【化17】
【0083】
室温にて、反応器にメチルマグネシウム=クロリドのTHF溶液(58.79g、メチルマグネシウム=クロリドとして0.15mol)を加えて、実施例1で得られた(6Z,9Z)-6,9-ドデカジエン-1-イン(1)(22.51g、0.11mol、純度80.53%)を25~60℃にて滴下した。滴下終了後、60~65℃にて3.5時間撹拌した。その後、エチレン=オキシド(7.56g、0.17mol)を50~60℃にて滴下した。滴下終了後、50~60℃にて3時間撹拌し、反応率が100%であることをGCで確認した後、反応液に酢酸水溶液(酢酸(23.48g)及び水(44.03g))を加えて分液し、そして水層を除去して、有機層を得た。該得られた有機層を減圧下で濃縮し、そして残留物を減圧蒸留することにより、(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)(26.52g、0.11mol、純度84.01%、b.p.=111.7~120.2℃/0.40kPa(3.0mmHg))が収率96.66%で得られた。
【0084】
上記で得られた(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.97(3H,t,J=7.3Hz),1.55(2H,dt,J=7.3Hz,7.3Hz),1.89(1H,br.s),2.07(2H,quin-like,J=7.5Hz),2.15(2H,t,J=6.5Hz),2.17(2H,ddt,J=2.3Hz,2.3Hz,7.3Hz),2.42(2H,ddt,J=2.3Hz,2.3Hz,6.5Hz),2.78(2H,dd,J=6.5Hz,6.5Hz),3.67(2H,t,J=6.5Hz),5.26-5.41(4H,m);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=14.24,18.19,20.50,23.13,25.48,26.24,28.79,61.33,76.55,82.31,127.17,128.80,129.02,131.87
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 205(M-1),175,159,145,119,105,91,67,41
〔赤外吸収スペクトル〕(D-ATR):ν=3336,2962,2933,1455,1434,1337,1045,849,718
【0085】
実施例3
<(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)の製造>
【0086】
【化18】
【0087】
室温にて、反応器に水素化アルミニウムリチウム(7.73g、0.20mol)及びジエチレン=グリコール=ジメチル=エーテルを加えて、15~20℃にて24時間撹拌した。その後、実施例2で得られた(8Z,11Z)-8,11-テトラデカジエン-3-イン-1-オール(4)(15.02g、0.061mol、純度84.01%)を25~50℃にて滴下した。滴下終了後、120~125℃にて3時間撹拌した後、50℃に冷却しTHF(532.23g)、水(34.05g)、水酸化ナトリウム水溶液(4.65g、水酸化ナトリウムとして0.029mol)及びセライト(96.31g)を加えてろ過、続いて分液し、そして水層を除去して、有機層を得た。該得られた有機層を減圧下で濃縮し、そして残留物を減圧蒸留することにより、(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)(10.70g、0.37mol、純度72.01%、b.p.=111.7~114.1℃/0.40kPa(3.0mmHg))が収率60.49%で得られた。
【0088】
上記で得られた(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.97(3H,t,J=7.7Hz),1.43(2H,tt,J=7.3Hz,7.3Hz),1.54(1H,t-like,J=5.4Hz),1.98-2.11(6H,m),2.26(2H,q-like,J=6.7Hz),2.76(2H,t-like,J=6.5Hz),3.61(2H,q-like,J=6.1Hz),5.29(1H,dtt,J=10.7Hz,7.3Hz,1.6Hz),5.32-5.43(4H,m),5.55(1H,dtt,J=15.3Hz,6.9Hz,1.2Hz);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=14.25,20.50,25.48,26.63,29.33,32.18,35.95,61.99,126.06,127.25,128.32,129.63,131.78,133.82
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 208(M),190,163,149,135,121,107,93,79,67,55,41
〔赤外吸収スペクトル〕(D-ATR):ν=3336,2962,2929,1455,1398,1048,968,914,718
【0089】
実施例4
<(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)の製造>
【0090】
【化19】
【0091】
室温にて、反応器に(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエン-1-オール(5)(119.16g、0.46mol、純度80.08%)、ピリジン(39.85g、0.50mol)及びトルエン(120.00g)を加えて、15~25℃にて10分間撹拌した。撹拌終了後、無水酢酸(AcO)(65.71g、0.64mol)を20~40℃にて滴下し、30~35℃にて2時間撹拌した。次に、反応液に水(138.54g)を加えて分液し、そして水層を除去して、有機層を得た。該得られた有機層を炭酸水素ナトリウム水溶液(炭酸水素ナトリウム(5.22g)及び水(104.15g))で洗浄した。該有機層を減圧下で濃縮し、そして残留物を減圧蒸留することにより、3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)(125.85g、0.44mol、純度86.60、b.p.=134.0~141.1℃/0.40kPa(3.0mmHg))が収率95.04%で得られた。
【0092】
上記で得られた(3E,8Z,11Z)-3,8,11-テトラデカトリエニル=アセテート(6)のスペクトルデータを以下に示す。
〔核磁気共鳴スペクトル〕H-NMR(500MHz,CDCl):δ=0.97(3H,t,J=7.3Hz),1.41(2H,tt,J=7.3Hz,7.3Hz),1.98-2.10(6H,m),2.03(3H,s),2.31(2H,dq,J=1.2Hz,6.9Hz),2.76(2H,dd,J=6.5Hz,6.5Hz),4.06(2H,t,J=6.9Hz),5.28(1H,dtt,J=10.7Hz,6.9Hz,1.5Hz),5.32-5.41(4H,m),5.51(1H,dtt,J=15.3Hz,6.9Hz、1.5Hz);13C-NMR(500MHz,CDCl):δ=14.25,20.50,20.95,25.49,26.58,29.26,31.91,32.11,64.07,125.34,127.27,128.30,129.65,131.78,133.14,171.08
〔マススペクトル〕EI-マススペクトル(70eV):m/z 250(M),190,161,147,122,108,93,79,65,43
〔赤外吸収スペクトル〕(D-ATR):ν=2962,2931,1743,1456,1364,1237,1035,969,720