(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、電子部品、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20240411BHJP
C08L 25/06 20060101ALI20240411BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L25/06
C08K5/49
(21)【出願番号】P 2020080465
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【氏名又は名称】酒井 正己
(72)【発明者】
【氏名】小池 菜月
(72)【発明者】
【氏名】松本 光代
(72)【発明者】
【氏名】関口 良隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 明
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501953(JP,A)
【文献】特開2016-003290(JP,A)
【文献】特表2005-502757(JP,A)
【文献】特表2005-532461(JP,A)
【文献】特開2019-210397(JP,A)
【文献】特開2016-011325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 25/06
C08K 5/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともPC樹脂、PS樹脂およびリン系化合物を含有する樹脂組成物であって、
前記PC樹脂を、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上85質量部以下含有し、
前記リン系化合物は、ホスファゼン系化合物及びリン酸エステル系化合物を含み、
前記ホスファゼン系化合物を樹脂合計100質量部に対し0.1質量部以上4.0質量部以下含有し、
前記リン酸エステル系化合物を樹脂合計100質量部に対し3.5質量部以上12質量部以下含有し、
前記PC樹脂と、前記PS樹脂とは、PC樹脂が海でPS樹脂が島である海島構造を形成しており、走査型電子顕微鏡SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry)で断面を観察したときに、リン元素の存在量の海島構造の比率が、海部分と島部分で7:3~9:1である、
樹脂組成物。
【請求項2】
ABS樹脂を樹脂合計100質量部に対し1質量部以上
6質量部以下含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記PS樹脂を樹脂合計100質量部に対して、15質量部以上30質量部以下含有する請求項1または2に記載の樹脂組成物。
以下含有する請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
シャルピー衝撃強度が5kJ/m
2以上である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
引張強度が35MPa以上である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の樹脂組成物から成ることを特徴とする成形体。
【請求項7】
請求項6に記載の成形体を有することを特徴とする電子部品。
【請求項8】
請求項6に記載の成形体を有することを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、電子部品、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に有機物である高分子は火災時に燃焼するので、難燃剤を添加した難燃性樹脂が、自動車材料、電気電子機器材料、住宅材料、その他の加工分野における部品製造用材料等に幅広く使用されている。このような樹脂材料について、難燃性だけでなく機械的強度も良好である事が求められており、とりわけ衝撃強度に耐える必要がある。これを実現するためには、良好な外観を射出成形で容易に得ることができるために市場で普及しているポリカーボネート(PC)樹脂に、ABS樹脂やポリスチレン(PS)樹脂を配合した樹脂が知られている。特に、コストダウンを目的とした場合、PC樹脂とPS樹脂とのブレンド樹脂を用いることが既に知られている。
【0003】
特許文献1には、難燃性、剛性、耐衝撃性に優れた難燃性樹脂組成物を提供する目的で、特定のホスファゼン誘導体と、特定のリン含有化合物との組み合わせを添加することによって、ポリカーボネートを含む樹脂組成物であり、難燃性と剛性、及び耐衝撃性に優れた樹脂組成物となっており、樹脂100質量部に対してPC樹脂:62質量部、ABS樹脂:32質量部、PS樹脂:6質量部の構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のPC樹脂とPS樹脂とのブレンド樹脂では、難燃剤含有率を高くすると機械的強度が低下してしまうという問題があった。
本発明は、PC樹脂とPS樹脂とのブレンド樹脂において機械的強度及び難燃性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の樹脂組成物は以下の通りである。
少なくともPC樹脂、PS樹脂およびリン系化合物を含有する樹脂組成物であって、
前記PC樹脂を、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上85質量部以下含有し、
前記リン系化合物は、ホスファゼン系化合物及びリン酸エステル系化合物を含み、
前記ホスファゼン系化合物を樹脂合計100質量部に対し0.1質量部以上4.0質量部以下含有し、
前記リン酸エステル系化合物を樹脂合計100質量部に対し3.5質量部以上12質量部以下含有し、
前記PC樹脂と、前記PS樹脂とは、PC樹脂が海でPS樹脂が島である海島構造を形成しており、走査型電子顕微鏡SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry)で断面を観察したときに、リン元素の存在量の海島構造の比率が、海部分と島部分で7:3~9:1である、
樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、PC樹脂とPS樹脂とのブレンド樹脂において、機械的強度及び難燃性に優れた樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、PC樹脂及びPS樹脂を含む難燃性樹脂組成物において、PC樹脂とPS樹脂と特殊な難燃剤とを組み合わせると共に、樹脂組成物中における難燃剤の存在位置の制御により、機械的強度、難燃性が低下しない樹脂組成物を提供するものである。
上記記載の本発明の特徴について、以下に詳細に説明する。
【0008】
(PC樹脂)
ポリカーボネート樹脂は、例えば、芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる、芳香族ホモポリカーボネート樹脂またはコポリカーボネート樹脂であってもよい。芳香族二価フェノール系化合物の例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、および1-フェニル-1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられ、これらを単独あるいは混合物として使用してもよい。
【0009】
ポリカーボネート樹脂は、合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、帝人化成社製の「L-1250Y」、「AD5503」、出光興産社製の「A2200」、三菱エンジニアリングプラスチック社製の「ユーピロンS2000」、「ユーピロンH-3000VR」(芳香族ポリカーボネート樹脂)等が挙げられる。
また、ポリカーボネート樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、ポリカーボネート樹脂は、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、廃CD等の廃ディスク、ウォータサーバのガロンボトル等の廃ボトル等の再生材を含んでいてもよい。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、PC樹脂を樹脂合計100質量部に対して70質量部以上85質量部以下含有する。PC樹脂の含有量が樹脂合計100質量部に対して70質量部以上85質量部以下であると、難燃性V-0を得つつ、必要な機械的強度が得られる。
なお、前記樹脂合計100質量部に対する質量部数は、樹脂組成物に含有される全ての樹脂の合計を100質量部とした時の質量部数である。
【0011】
(PS樹脂)
ポリスチレン樹脂は、下記一般式(1)で表される構成単位を有し、ゴム成分を含むことが好ましい。
【化1】
【0012】
ポリスチレン樹脂の具体例としては、スチレン系単量体にゴム成分を溶解させ、塊状重合法や懸濁重合法など公知の重合法により得られたゴム変性スチレン重合体や、スチレン系単量体とゴム成分とを公知の方法にて物理混合し、スチレン系単量体とゴム成分との混合物を形成したものが挙げられる。
【0013】
上記のスチレン系単量体としては、スチレンが好適に用いられる。必要に応じて、例えば、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレンなどをスチレン系単量体としてスチレンと組み合わせて用いることもできる。2種類以上のスチレン系単量体を用いる場合はスチレンを50質量部以上含有することが好ましい。
【0014】
上記ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、スチレン-イソプレン共重合体、ブタジエン-メタアクリル酸エステル共重合体、アクリル系ゴム、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、水素添加ジエン系ゴムなどが挙げられる。これらのゴム成分は、単独もしくは2種以上を用いても良く、2種類以上のゴム成分を用いる場合、その混合比は特に限定されるものではない。
【0015】
また、ポリスチレン樹脂は、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電製品や使用済みのOA機器等の再生材を含んでいてもよい。
本発明の樹脂組成物は、PS樹脂を含有することにより、低コスト化することができる。
樹脂組成物におけるPS樹脂の含有量は、多いほど低コスト化が可能であるが、低コスト化かつ良好な機械的強度、難燃性が得られる範囲を考慮すると、樹脂合計100質量部に対して、15質量部以上30質量部以下含有することが好ましく、そのうち、20質量部以上25質量部未満がより好ましい。
【0016】
(ABS樹脂)
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性向上を目的としてABS樹脂を含んでもよい。
ABS樹脂の含有量は樹脂合計100質量部に対し1質量部以上15質量部以下であることが好ましい。
ABS樹脂の製造方法は特に制限されないが、乳化状態のゴムに乳化状態のスチレン、アクリルニトリルの単量体を混ぜて重合させる乳化重合法;ゴムをスチレン、アクリルニトリルの単量体に溶解させて塊状重合させ、重合の途中でこの重合液を水中に懸濁させて懸濁重合条件下に重合を継続する塊状懸濁重合法等により製造することができる。なお、PC樹脂、PS樹脂をアロイ化する際には、使用されるABS樹脂の特性に応じた重合方法が選択されるが、一般には、乳化重合法および塊状懸濁重合法のいずれの重合方法において製造されたABS樹脂でも、アロイ化は可能である。
【0017】
また、ABS樹脂は、市場から回収した市場回収材であってもよく、例えば、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機など家電製品や使用済みのOA機器等の再生材を含んでいてもよい。
【0018】
(その他の樹脂)
本発明の樹脂組成物は、PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂に加え、難燃性、剛性、耐衝撃性等を著しく低下させない範囲において、PP樹脂、PE樹脂等を含有することができる。
【0019】
(ホスファゼン系化合物)
前記ホスファゼン系化合物については、下記一般式(2)で表されるホスファゼン系化合物が、製造容易性及び化合物の安定性の点で好ましい。
【化2】
(上記一般式(2)中、Xは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、もしくは芳香族鎖、脂肪族鎖を表す。)
さらに、前記ホスファゼン系化合物はその製造法により、環状構造を形成するP原子及びN原子の数が増加することがあるが、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記一般式における側鎖基Xの脂肪族鎖、芳香族鎖はアルコキシ基構造を有しても良いし、末端にハロゲン元素を有しても良い。
アルコキシ基を形成する化合物は、脂肪族系化合物、芳香族系化合物など何でも良いが、芳香族環を含む化合物がホスファゼン系化合物の安定性のためとリン系化合物への溶解性のために好ましい。
これらの中でも、Xは、フェノキシ基が好ましい。
【0020】
このホスファゼン系化合物は、前記樹脂組成物100質量部に対し、0.1質量部以上4.0質量部未満含有される。好ましくは、樹脂合計100質量部に対し、1.0質量部以上2.0質量部以下である。
前記含有率が、0.1質量部未満では、含有量が少なくて本発明の目的を達成できない。
また、4.0質量部を超えて含有すると、混練時に難燃性樹脂の中で凝集しやすくなるので好ましくない。前記含有率が、4.0質量部未満であると、難燃性樹脂の中で凝集しにくくなり、本発明の目的を達成しやすくなる。
【0021】
(ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物)
本発明においてリン系化合物は、これまで述べたホスファゼン系化合物の凝集を防ぐためにホスファゼン系化合物以外のリン系化合物を併用することが好ましい。
ホスファゼン系化合物以外のリン系化合物としてはリン酸エステルを用いる。
【0022】
(リン酸エステル系化合物)
ホスファゼン系化合物の凝集を防ぐために併用される本発明で併用されるリン酸エステル系化合物としては樹脂の混練温度で溶融するものが好ましい。
リン酸エステルは融点(Tm)を持つ化合物で、Tmは300℃未満が好ましく、200℃未満がさらに好ましく、100℃未満が特に好ましい。最も好ましいTmの下限は0℃以上であるが混練時に溶融状態になれば、Tmの下限については本発明で制限しない。しかしTmが-40℃未満であると樹脂に分散したときに時間が経過すると表面へ浮き出る現象(ブリードアウト)が激しくなるので好ましくない。
前記リン酸エステルの中には、3次元化し混練時に溶融せずTmを持たない化合物も存在し、本発明でこのような化合物は好適ではない。
【0023】
リン酸エステル系化合物は樹脂中の酸素原子を取り込むことでより難燃性を発揮するため、あらかじめPC樹脂と混練することで、PC樹脂中のリン酸エステル系化合物の存在率を高め、より効果を発揮することができる。
このため、リン酸エステルの難燃性樹脂組成物への添加は、あらかじめリン酸エステルとPC樹脂とを混練して樹脂組成物を作製しておき、この樹脂組成物を難燃性樹脂組成物の混練時に他の成分と混練することによって行う。
後述する表2-1~表3-2に記載の「マスターバッチ」とは予めPC樹脂とリン酸エステル系化合物及び/又はホスファゼン系化合物とを混練したものをいう。
この場合、添加するリン酸エステル系化合物のうち、半分以上をマスターバッチ化することが好ましい。
また、2段投入が可能な混練機を用いる場合、まず、一つ目のフィーダーからPC樹脂及びリン酸エステル系化合物を投入し、次いで、二つ目のフィーダーからその他の樹脂、添加剤を投入しても良いが、予めPC樹脂とリン酸エステル系化合物とをマスターバッチ化してからその他の樹脂、添加剤と溶融混練することが好ましい。
【0024】
次に前記リン酸エステルを例示するが、この例示は本発明を特に制限するものではない。
例えばトリ(アルキルフェニル)ホスフェート、ジ(アルキルフェニル)モノフェニルホスフェート、ジフェニルモノ(アルキルフェニル)ホスフェートまたはトリフェニルホスフェートの中の一つまたは2種以上の混合物、あるいは下記一般式(3)で表される化合物の一つまたは2種以上の混合物である。
【化3】
前記一般式(3)中、R
3~R
7は、それぞれ独立して、芳香族環を含む基を表す。nは、1~10,000を表す。
【0025】
R3からR7までは、アリールまたはアルキル置換されたアリール基が好ましく、好ましいR3、R4、R6及びR7はフェニル基、またはメチル、エチル、イソプロピル、t-ブチル、イソブチル、イソアミル、t-アミルなどのアルキル基が置換されたフェニル基であり、この中でも、フェニル基、またはメチル、エチル、イソプロピルまたはt-ブチル基が置換されたフェニル基がより好ましく;R5は、アリールまたはアルキル置換されたアリール基誘導体が好ましく、レゾルシノール、ヒドロキノンまたはビスフェノール-Aから誘導されたものがより好ましい。
前記リン酸エステルの含有量は、樹脂合計100質量部に対して5質量部以上12質量部未満が好ましく、7質量部以上10質量部未満がより好ましい。
【0026】
(その他添加剤)
本発明の一例の難燃性樹脂組成物は、難燃性、剛性、耐衝撃性等を著しく低下させない範囲において、安定剤、染顔料等のその他の添加剤を含んでよい。
【0027】
樹脂組成物から、含有される樹脂等を同定する方法としては、赤外分光法を用い、組成像により樹脂構造、リン系化合物を観察し、それぞれのスペクトルを取得することにより樹脂、リン系化合物を同定する方法等が挙げられる。
組成が一致した場合は、GCMSを用いて各樹脂の検量線を作成し、各樹脂を定量することができる。
リン系化合物は溶媒抽出し、樹脂同様にGCMSにより定量することができる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、成形した試験片の23℃におけるシャルピー衝撃強度が5.0kJ/m2以上であることが好ましい。シャルピー衝撃強度が5.0kJ/m2以上であると、靭性が高いと言える。シャルピー衝撃強度は、より好ましくは、7.0kJ/m2以上であり、さらに好ましくは11.0kJ/m2以上である。
シャルピー衝撃強度は、ノッチ付き衝撃試験片を作製し、ISO179-1に準拠して、シャルピー衝撃試験機を用いて23℃で測定を行った。
また、本発明の樹脂組成物は、成形した試験片の23℃における引張強度が35MPa以上であることが好ましい。引張強度が35MPa以上であると、剛性が高いと言える。引張強度は、より好ましくは45MPa以上であり、さらに好ましくは50MPa以上である。
引張強度は、ISO527-2に準拠して23℃で測定を行った。
【0029】
(成形体について)
本発明の一例の成形体(以下、「一例の成形体」ともいう)は、本発明の一例の樹脂組成物から成る。
一例の成形体としては、例えば、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器の部材等が挙げられる。特に、耐熱性を要する外装部材に好適に用いられる。
一例の成形体は、例えば、一例の樹脂組成物を常法に従って射出成形することによって得ることができる。
【0030】
(電子部品、電子機器)
本発明の一例の電子部品は、本発明の前記成形体を有する。
本発明の一例の電子機器は、本発明の前記成形体を有する。
【0031】
前記電子部品としては、例えば、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器の電子部品等が挙げられる。
前記電子機器としては、例えば、コンピューター、ノートブック型パソコン、タブレット端末、スマートフォン、携帯電話等の情報・モバイル機器やプリンター、複写機等のOA機器、テレビ、冷蔵庫、掃除機等の家庭電化製品等が挙げられる。
【0032】
(樹脂組成物の製造方法)
前記リン酸エステル系化合物の難燃メカニズムは主にチャー(炭化層)形成であり、樹脂中の酸素原子を取り込むことでよりチャー形成が促進されるため、酸素原子の少ない樹脂には効果が小さい。
従って、リン酸エステル系化合物は酸素原子を含むPC樹脂に存在することでよりチャー形成の効果が得られる
そこで、本発明の樹脂組成物を製造するには、あらかじめPC樹脂と前記リン酸エステル系化合物とを混練し、この組成物を樹脂組成物の混練時に添加することで、PC樹脂に多くリン酸エステル系化合物を存在させることが好ましい。
本発明の樹脂組成物は、PC樹脂を樹脂合計100質量部に対し70質量部以上85質量部以下含有することから、PC樹脂のマトリックス中にPS樹脂が分散している海島構造を形成している。
難燃性を向上させる観点から、海島構造の海であるPC樹脂中に多くリン酸エステルが存在していることが好ましい。
前記ホスファゼン系化合物はPC樹脂に馴染みやすいため本発明の樹脂組成物の混練時に添加してもよいし、あらかじめPC樹脂と混練し、この組成物を樹脂組成物の混練時に添加してもよい。
【0033】
本発明の樹脂組成物の製造方法の一例(以下、「一例の製造方法」ともいう)は、例えば、PC樹脂、PS樹脂、ABS樹脂、リン系化合物、及び任意選択的に加えられる成分、並びに必要に応じて加えられるその他の添加剤を、溶融混練する溶融混練工程を含む。
【0034】
<溶融混練工程>
一例の製造方法では、初めに、本発明に必要な成分、及び任意選択的に加えられる成分、並びに必要に応じて加えられるその他の添加剤を、溶融混練する(溶融混練工程)。
上記工程によれば、各成分を均一に混合することができる。
この工程では、上記各成分を、タンブラー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等の当該技術分野において公知の混練機を用いて、混練速度、混練温度、混練時間等の条件を適宜調節しながら、混練する。
【0035】
(マスターバッチ作製工程)
難燃性樹脂組成物は、まず、マスターバッチを作製した後、このマスターバッチとその他の樹脂及び添加剤とを溶融混練することによって製造することができる。
例えば、マスターバッチ成分を、タンブラー、ヘンシェルミキサー等を用いて、予め混合した後、このマスターバッチを他の成分と共にバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等の混練機で溶融混練してもよい。また、例えば、各成分を予め混合せずに、これらの成分をフィーダーを用いて押出機に投入し、溶融混練してもよい。
【0036】
ここで、この工程では、特に限定されることなく、任意選択された成分を予め溶融混合させた後に、二軸混練押出機に添加することも好ましい。リン酸エステルが室温で液体である場合、ホスファゼン系化合物をこの成分に室温で溶解させることが可能である。また、リン酸エステルが室温で固体(例えば、粉末)である場合、これらの成分を乳鉢で混ぜた後、混合物を90℃以上に加熱して溶融させ、この溶融状態の混合物を二軸混練押出機に添加することが可能である。
【0037】
なお、上記リン酸エステルとホスファゼン系化合物の予混合は、溶融混練工程の例示であり、リン系化合物の分散性を高める観点から、好ましい実施形態となるが、本発明の樹脂組成物の製造方法において必須となるものではない。また、上記乳鉢を用いた混合は、混合方法の例示であり、本発明の樹脂組成物の製造方法における混合方法は、これに限定されるものではなく、いかなる方法を採用してもよい。
【0038】
特に、混練温度は、PC樹脂の溶融温度(Tm)を基に決められる。Tmの測定については、ガラス転移点(Tg)と同様にDSC、TMA、DTA、温度を変えられる粘弾性装置など、どのような測定値を用いても良いが、これらの装置を用いて測定されたTm付近で混練すれば本発明の樹脂組成物が容易に得られる。
【0039】
また、このTm未満では、剪断流動が効果的に働き、ホスファゼン系化合物のドメイン形成を阻害するので好ましい。特に混練温度をTm未満からTg+20℃の温度領域とすることで本発明の好適な結果を得ることが可能である。
【0040】
TmやTgについては測定方法で変わることが知られている。本発明では、DSCで計測されたTmやTgの値を用いるのが好ましい。
【0041】
なお、本発明は下記(1)に記載の樹脂組成物に係るものであるが、下記(2)~(8)を発明の実施形態として含む。
(1)少なくともPC樹脂、PS樹脂およびリン系化合物を含有する樹脂組成物であって、
前記PC樹脂を、樹脂合計100質量部に対し70質量部以上85質量部以下含有し、
前記リン系化合物は、ホスファゼン系化合物及びリン酸エステル系化合物を含み、
前記ホスファゼン系化合物を樹脂合計100質量部に対し0.1質量部以上4.0質量部以下含有し、
前記リン酸エステル系化合物を樹脂合計100質量部に対し3.5質量部以上12質量部以下含有し、
前記PC樹脂と、前記PS樹脂とは、PC樹脂が海でPS樹脂が島である海島構造を形成しており、走査型電子顕微鏡SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry)で断面を観察したときに、リン元素の存在量の海島構造の比率が、海部分と島部分で7:3~9:1である、
樹脂組成物。
(2)ABS樹脂を樹脂合計100質量部に対し1質量部以上15質量部以下含有することを特徴とする上記(1)に記載の樹脂組成物。
(3)前記PC樹脂を樹脂合計100質量部に対し70質量部以上85質量部以下含有する上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
(4)シャルピー衝撃強度が5kJ/m2以上である上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(5)引張強度が35MPa以上である、上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(6)上記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の樹脂組成物から成ることを特徴とする成形体。
(7)上記(6)に記載の成形体を有することを特徴とする電子部品。
(8)上記(6)に記載の成形体を有することを特徴とする電子機器。
【実施例】
【0042】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(マスターバッチの作製)
マスターバッチとして、PC樹脂にホスファゼン系化合物(SPS100)及びリン酸エステル(PX-200)を配合したマスターバッチMB1、MB2、MB3、MB4を作製した。各マスターバッチの成分割合を表1に示す。
【表1】
【0044】
(実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-5)
この実施例及び比較例では樹脂成分としてPC樹脂及びPS樹脂を用いた。
表2-1及び表2-2に示す組成(質量部)で原料を配合し、原材料をスクリュー径25mm、スクリュー有効長L/D=26の二軸溶融混練押出機(テクノベル製)を用いて、シリンダ温度230℃で混練して実施例1-1~1-8及び比較例1-1~1-5の樹脂組成物を得た。
次に得られた樹脂組成物を用いて、設定温度240℃で溶融し、射出成形して評価用の試験片を得た。
【0045】
(実施例2-1~2-8、比較例2-1~2-5)
この実施例及び比較例では樹脂成分としてPC樹脂、PS樹脂に加えてABS樹脂を用いた。
表3-1及び表3-2に示す組成(質量部)で原料を配合し、実施例1-1と同様にして、実施例2-1~2-8及び比較例2-1~2-5の樹脂組成物及び評価用の試験片を得た。
【0046】
表3-1及び表3-2に記載の原材料は以下の通りである。
尚、表3-1~表3-2においては、「部数」の欄は、配合した原料の質量部数を、「比率」の欄は、樹脂合計100質量部に対する質量部数を示す。
[原材料]
(樹脂)
PC樹脂:H-3000VR(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
PS樹脂:H650(東洋スチレン社製)
ABS樹脂:250-X10(東レ社製)
(リン系化合物)
ホスファゼン系化合物:SPS100
(大塚化学社製、主成分として、6員環の環状構造を有し、その6個の
側鎖全てがフェノキシ基である芳香族ホスファゼン化合物)
リン酸エステル:PX-200
(大八化学社製、芳香族縮合リン酸エステル、融点92℃以上)
【0047】
[評価試験方法]
得られた試験片を用いて、以下の評価を行った。
(シャルピー衝撃強度)
ISO179-1に準拠して、シャルピー衝撃試験機を用いて、23℃において、衝撃試験を行った。なお、試験片にはノッチ(切れ目)を付けた。測定値(kJ/m2)が高い値であるほど、耐衝撃性に優れていると評価した。
[評価基準]
ランク 測定値(kJ/m2)
◎ : 11.0以上
〇 : 7.0以上11.0未満
△ : 5.0以上7.0未満
× : 5未満
【0048】
(引張強度)
ISO527-2に準拠して、23℃において、引張試験を行った。測定値(MPa)が高い値であるほど、剛性(引張強度)に優れていると評価した。
[評価基準]
ランク 測定値(MPa)
◎ : 50以上
〇 : 45以上50未満
△ : 35以上45未満
× : 35未満
【0049】
(難燃性)
米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めるUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して、難燃試験を行なった。試験片の厚みtは1.5mmとした。
まずUL94V試験を行い、「V-0」、「V-1」、「V-2」の判定を行った。
次に、前記UL94V試験において、「V-0」、または「V-1」ランクに適合した材料について、UL94-5V試験を行い、「5V-A」、「5V-B」の判定を行った。
前記UL94-5V試験において「5V-A」、「5V-B」のいずれの基準も満たすことができなかった場合、表1において、UL94-5V試験の結果を「-」と示した。
前記UL94-5V試験において「5V-A」、「5V-B」である場合が合格であり、UL94V試験の結果が「V-0」、「V-1」であっても、UL94-5V試験において「5V-A」、「5V-B」のいずれの基準も満たすことができなかった場合は、不合格とした。
【0050】
(リン含有率)
海島構造の各構造中のリン元素の存在比率は走査型電子顕微鏡SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectrometry)を用いて断面を観察し、海島構造を確認し、リン元素の存在位置を確認し、リン元素の存在量の海島構造の比率を面積比にて評価した。
【0051】
(PS樹脂比率)
PS樹脂の比率の数値により、コストについて評価した。
[評価基準]
ランク 配合比率(樹脂100質量部に対する配合質量部数)
◎ :25以上
〇 :15以上25未満
△ :15未満
【0052】
表2-1、表2-2、表3-1、表3-2に実施例及び比較例の樹脂組成物についての樹脂組成、燐含有率、シャルピー衝撃強度、引張強度、難燃性についての数値を示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】