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特許7470321Sn-グラフェン複合めっき膜金属製端子とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】Sn-グラフェン複合めっき膜金属製端子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20240411BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20240411BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20240411BHJP
   H01R 13/03 20060101ALN20240411BHJP
【FI】
C25D15/02 J
C25D15/02 F
C25D7/00 H
H01R43/16
H01R13/03 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020020764
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021127468
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】呉 松竹
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164965(JP,A)
【文献】特開2014-001126(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0026086(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気接続用(または通電用)の金属製端子材と、前記金属製端子材の表面をめっきしたSn-グラフェン複合めっき膜と、を備え、前記Sn-グラフェン複合めっき膜は、Sn層と、前記Sn層中に分散した、Snが積層型グラフェンに分散したSn分散積層型グラフェンと、を含み、前記Sn分散積層型グラフェン中のSn濃度は、5~95質量%であることを特徴とするSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項2】
前記Sn-グラフェン複合めっき膜中の前記Sn分散積層型グラフェン濃度は、10~80体積%であることを特徴とする請求項に記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項3】
前記金属製端子の材質は銅又は銅合金を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子。
【請求項4】
グラファイトから剥離した積層型グラフェンを製造するグラフェン製造工程と、めっき浴中に分散した前記積層型グラフェンを含むSnめっき浴を用いた、Sn含有グラフェン粒子の泳動電着Snの電気めっきを同時に行うハイブリッドめっき工程と、を含み、前記電気めっきの条件は、電流密度が0.1~10A/dm、めっき浴の温度が5~30℃で作製された、Sn層と、前記Sn層中に分散した、Snが前記積層型グラフェンに分散したSn分散積層型グラフェンと、により表面がめっきされたことを特徴とするSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法。
【請求項5】
前記めっき浴は工業用硫酸浴、スルホン酸浴又はアルカリ浴であることを特徴とする請求項に記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sn-グラフェン複合めっき膜金属製端子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車載電装部材であるワイヤーハーネスの端子材料には、約9割が銅合金表面に錫(Sn、スズ)膜を被覆したSnめっき材、約1割が金(Au),パラジウム(Pd)のような貴金属めっき材が用いられている。
また、EV/PHV用充電装置の端子電極材料として、すべでの金属の中に導電性が最も高い貴金属純銀(Ag)めっき材の使用が進めているが、全ての端子材を貴金属であるAgめっきにするのは、コスト上および資源上に現実的に不可能である。一方、グラフェンは銀よりも導電性が高く、優れた潤滑性と熱安定性を有することが知られている。しかし、グラフェンは単体での使用ができないため、ほかの材料に複合させるしかない。また、通常の市販のグラフェン粉末は、殆ど酸化グラフェンが主体となり、水溶液中に分散しにくいので、作業と製造コストなどで実用に困難である。
【0003】
現行の一般端子としたSnめっき材は、低コストではんだ濡れ性や加工性が優れるが、Sn金属が融点は低く極めて軟質(20-50Hv)であるため、耐熱性と耐摩耗性が低いといった課題がある。そして、耐摩耗性を向上させるため、固体潤滑剤である黒鉛粉末や二硫化モリブデン、テフロン(登録商標)粒子など非金属材料との複合化に関する研究が報告されたが、いずれ耐摩耗性の改善効果が低く、加えて導電性の低下を招いていた。
【0004】
特許文献1には、基体上に、カーボンナノチューブ、フラーレン及び/又はグラフェン含有コーティングを製造方法について記載されているが、スズを含有するグラフェン等の具体的構造については記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公表2012-506357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようなめっき材では自動車の電子制御が高度化に対応したワイヤーハーネスの高性能化・高耐久性化や、EV/PHVの更なる拡大に対応する充電装置の端子の高性能化、高耐久性化には不十分であるといった問題があった。そこで本発明は、低コスト且つ耐摩耗性、耐熱性の向上を実現する金属製端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)電気接続用(または通電用)の金属製端子材と、前記金属製端子材の表面をめっきしたSn-グラフェン複合めっき膜と、を備えることを特徴とするSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
「金属製端子材の表面をめっきしたSn-グラフェン複合めっき膜」とは、Sn-グラフェン複合めっき膜が、金属製端子材の表面の少なくても一部分をめっき(被覆)した状態を含む。
(2)前記Sn-グラフェン複合めっき膜は、Sn層と、前記Sn層中に分散した、前記Snが積層型グラフェンに分散したSn分散積層型グラフェンと、を含むことを特徴とする(1)に記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
「Sn分散積層型グラフェン」について、その「グラフェン」がグラフェンシートである場合には、そのグラフェンシートがSn(片)ナノ結晶を分散して含んだり、Sn(片)ナノ結晶を含んだグラフェンがSn-グラフェン粒子となったりする場合を含むことを意味する。
(3)前記Sn-グラフェン複合めっき膜中の前記Sn分散積層型グラフェン濃度は、10~80体積%であることを特徴とする(2)に記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
(4)前記Sn分散積層型グラフェン中のSn濃度は、5~95質量%であることを特徴とする(2)又は(3)の何れか1つに記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
(5)前記金属製端子の材質は銅又は銅合金を含むことを特徴とする(1)~(4)の何れか1つに記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子である。
金属製端子基材の材質が銅又は銅合金を含むことが好ましいのは、銅又は銅合金は高導電性と高強度であり、自動車端子・電子部品の電気接続材料として広く使用されているためである。また、導電性の金属材料であれば、アルミ合金や鉄鋼材料などでもよい。
(6)前記グラフェンの粒子を製造するためにグラファイトから剥離した積層型グラフェンフレークを製造するグラフェン製造工程と、製造された前記積層型グラフェンフレークを含むSnめっき浴を用いたグラフェン粒子の泳動電着Snの電気めっきを同時に行うハイブリッドめっき工程と、を含み、前記電気めっきの条件は、電流密度が0.1~10A/dm、めっき浴の温度が5~30℃であることを特徴とするSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法である。
(7)前記めっき浴は工業用硫酸浴、スルホン酸浴又はアルカリ浴であることを特徴とする(6)に記載のSn-グラフェン複合めっき膜金属製端子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高性能化・高耐久性化したワイヤーハーネスやEV/PHVに対応する充電装置の端子の高性能化、高耐久性化に応じた低コスト且つ耐摩耗性、耐熱性の向上を実現する金属製端子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る、金属合金基材の表面がSn-グラフェン複合めっき膜によりめっきされたn-グラフェン複合めっき膜金属製端子の断面の模式図を示した図である。
図2】電流密度0.1A/dm、液温5℃、めっき時間30minで作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例1)の表面FE-SEM像を、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30K、(e)×50Kのそれぞれの倍率で示した図である。
図3】電流密度0.5A/dm、液温10℃、めっき時間15minでより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例2)の表面のFE-SEMを、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30K、(e)×50Kのそれぞれの倍率で示した図である。
図4】電流密度0.1A/dm、液温10℃、めっき時間10minでにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例3)の表面のFE-SEM像を、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30Kのそれぞれの倍率で示した図である。
図5】電流密度1A/dm、液温10℃、めっき時間10minでにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例8)の表面のFE-SEM像を、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30Kのそれぞれの倍率で示した図である。
図6】Sn-グラフェン複合めっき膜(実施例8)の表面のラマン分析測定について、(a)測定部分(Snが分散した積層型グラフェン)、(b)ラマンスペクトル結果、及び(c)めっき液中のグラフェンのラマンスペクトル結果を、それぞれ示した図である。
図7】(a)電流密度1.0A/dm、液温15℃、めっき時間10minで作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例4)の表面の黒色の粒子(Snが分散した積層型グラフェン)のラマンスペクトル結果、(b)(a)の表面において黒色の粒子以外の部分のラマンスペクトル結果を、それぞれ示した図である。
図8】(a)電流密度1.0A/dmにより作製した純Snめっき膜(比較例1)のGD-OES測定の結果、(b)電流密度0.5A/dm、液温10℃により作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例2)のGD-OES測定の結果を、それぞれ示した図である。
図9】電流密度0.1A/dm、液温10℃、めっき時間20minでにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例5)の表面について、(a)団子状Sn-グラフェン集合体のある場所のSEM観察の結果、(b)めっき膜の平ら部分のSEM観察の結果、(c)(d)は、それぞれ、(a)(b)に示す写真に写る場所全体のEDS分析の結果である。
図10】電流密度0.5A/dm、液温5℃、めっき時間30minで作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例6)の表面について、(a)団子状Sn-グラフェン集合体の中心部でのSEM観察の結果、(b)((b)めっき膜の平ら部分のSEM観察の結果、(c)(d)は、それぞれ、(a)(b)に示す領域のEDS分析の結果である。
図11】実施例6のSn-グラフェン複合めっき膜の別場所の表面について、さらに拡大した、団子状Sn-グラフェン集合体の中心部とめっき膜の平ら部分のSEM観察の結果、(c)(d)はその中心部分でのEDS分析の結果を、それぞれ示した図である。
図12】電流密度1.0A/dm、液温5℃、めっき時間20minで作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例7)の表面について、(a)SEM観察の結果、(b)(a)を拡大した、ドーム状Sn-グラフェン集合体のSEM観察の結果、(c)は写真に映る試料全体、(d)はドーム状部分のEDS分析結果を、それぞれ示した図である。
図13】電流密度0.5A/dm、液温5℃、めっき時間20minで作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例7)により被覆された端子について、(a)断面SIM像(FIB加工)、(b)(a)を拡大した断面SIM像を、それぞれ示した図である。
図14図12(b)の拡大像である。
図15】表1の硬さの測定結果をグラフに示した図である。
図16】各電流密度とめっき浴温度で作製したSn-グラフェン複合めっき膜および比較例1とした純Snめっき(電流密度1A/dm、液温10℃、10min)に対する抵抗率の測定結果をグラフに示した図である。
図17】電流密度1A/dm、液温10℃、10minで作製したSn-グラフェン複合めっき膜および比較例1とした純Snめっきに対する摩耗試験結果をグラフに示した図である。なお、めっき膜が5μmに揃えるように、めっき時間を微調整した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0011】
図1には、金属合金基材2の表面が、Sn-グラフェン複合めっき膜8によりめっきされた、Sn-グラフェン複合めっき膜金属製端子1の断面の模式図を示した。Sn-グラフェン複合めっき膜8は、Sn層6と、Sn層6中に分散した、Sn(錫、スズ)4が積層型グラフェン3に分散した団子状なSn分散積層型グラフェン5とシート状のグラフェンフレーク7、を含む。積層型グラフェン3に分散したSn4は、Snのいわば極小片(ナノ結晶)として分散している。団子状な積層型グラフェン3とシート状のグラフェンフレーク7は電解剥離工程により作製したグラフェンは例えば積層して形成されたものであり、めっき液中での分散状態による異なる集合体である。一方、Sn分散積層型グラフェン5の生成は、団子状な積層型グラフェン3は純Snより導電しやすく、また表面エネルギーが大きいので、めっきにおけるSn結晶の核形成過程は成長過程より速いためであると考えられる。
【0012】
Sn-グラフェン複合めっき膜8中のSn分散積層型グラフェン5の濃度は、端子として嵌合する際の凝着を抑制し、耐摩耗性を向上する同時に、めっき膜の導電性を保持する観点から、10~80体積%が好ましく、20~60体積%がさらに好ましい。
Sn-グラフェン複合めっき膜7は、さらに積層型でないグラフェンシート(Sn分散積層型グラフェン7)を含んでもよい。めっき層全体の耐摩耗性を向上するためである。Sn-グラフェン複合めっき膜7に含まれる積層型でないグラフェン濃度は、2~50質量%が好ましく、5~30質量%がさらに好ましい。
【0013】
金属合金基材2としてはアルミ合金、鉄―ニッケル合金(例えば42アロイ)、SUS類材料等を使用することができるが、端子全体の導電性の観点からCu(銅)又はCu(銅)合金が好ましい。
Sn-グラフェン複合めっき膜の作製には、Snの電気めっきとグラフェン(Graphene)粒子の泳動電着とを組み合わせたハイブリッドめっき法を利用することができる。なお、グラフェン粒子とは、グラフェンシートを数枚~数十枚で積層して団子状またフレーク状として存在することである。
【実施例
【0014】
(Sn-グラフェン複合めっき膜の作製)
Cu合金板(20×50×0.2mm)を基材(金属製端子材)とし、前処理としてアルカリ電解脱脂および酸洗いを行った。ハイブリッドめっきは、硫酸系光沢Snめっき浴を基本液とし、電解剥離したグラフェン分散液を15ml/L添加しためっき液を用い、ハイブリッド電気めっき法によりSn-グラフェン複合めっき膜を作製した。
すなわちハイブリッドめっきは、グラフェン分散液に含まれる、電解剥離したグラフェンの粒子を泳動電着する過程と、Snによって金属製端子材の電気めっきを行う過程と、を含む。Snによる電気めっき条件の要素としては、電流密度、めっき浴の液温、(撹拌)、めっき時間等を考慮した。
【0015】
Cu合金基材に対する前処理として、アルカリ電解脱脂と酸洗いを行ったが、処理条件は特に規定しない。一方、電解剥離は次のようにして行った。グラファイトを水溶液中に浸漬し、強力の電場作用および電気化学反応によりグラファイトを層状に分解し、積層型のグラフェンフレークを作製した。
【0016】
めっき条件の電流密度、液温、めっき時間を次のようにして、Cu合金板上にSn-グラフェン複合めっき膜(実施例1~6)を作製した。電流密度0.1A/dm、液温5℃、30min(実施例1)、電流密度0.5A/dm、液温10℃、15min(実施例2)、電流密度0.1A/dm、液温10℃、10min(実施例3)、電流密度1.0A/dm、液温15℃、10min(実施例4)、電流密度0.1A/dm、液温10℃、20min(実施例5)、電流密度0.5A/dm、液温5℃、30min(実施例6)、電流密度1.0A/dm、液温5℃、20min(実施例7)、電流密度1A/dm、液温10℃、めっき時間10min(実施例8)。
一方、Sn-グラフェン複合めっき膜の作製において、グラフェン分散液を添加ないめっき液を用い、電流密度1.0A/dm、液温10℃でSn(純Sn)めっき膜(比較例1)を作製した。
純Snめっきは光沢のある平滑な膜が得られた一方、Sn-グラフェン複合めっきは半光沢で凹凸のある膜が得られた。
【0017】
図2には、電流密度0.1A/dm、液温5℃、めっき時間30minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例1)の表面のFE-SEMを、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30K、(e)×50Kのそれぞれの倍率で示した。
図2(a)から、Sn(Sn膜)でめっき(被覆)されたCu合金板12の表面上に、Sn分散積層型グラフェン15が存在していたことが分かった。(d)から、Sn分散積層型グラフェン15には、グラフェン(グラフェンシート)13が含まれていたことが分かった。そして、(e)から、Sn(14、14´、14´´等)がグラフェン(グラフェンシート)13に分散していたことが分かった。
なお、FE-SEM観察と、後出するエネルギー分散型X線分析(EDS)の分析条件は次のようであった。装置名:電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子/JXA-8230)、加速電圧7.0kVであった。エネルギー分散型X線分析(EDS)では、面分析を行った。また、面分析の際に写真の全面または示された領域で分析した。
【0018】
図3には、電流密度0.5A/dm、液温10℃、めっき時間15minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例2)の表面のFE-SEMを、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30K、(e)×50Kのそれぞれの倍率で示した。
図3(c)、(d)から、Sn(24、24´、24´´等)がグラフェン(グラフェンシート)23に分散していたことが分かった。なお、(d)から(c)に向けて引かれた直線は、(d)の拡大箇所を示したものである。
【0019】
図4には、電流密度0.1A/dm、液温10℃、めっき時間10minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例3)の表面のFE-SEMを、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30Kのそれぞれの倍率で示した。
図4(a)から、Sn(Sn膜)にめっき(被覆)されたCu合金板32の表面上に、Sn分散積層型グラフェン35が存在していたことが分かった。(d)から、Sn分散積層型グラフェン35には、グラフェン(グラフェンシート)33が含まれていたことが分かった。そして、同(d)から、Sn(34、34´、34´´等)がグラフェン(グラフェンシート)33に分散していたことが分かった。
【0020】
図5には、電流密度1A/dm、液温10℃、めっき時間10minでにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例8)の表面のFE-SEMを、(a)×1K、(b)×5K、(c)×10K、(d)×30Kのそれぞれの倍率で示した。
表面がSnでおおわれているが、粒径が少し小さくなっていることが分かった。ドーム部分の下にはグラフェンがあると推定された。後述の断面SIMS像にはSn殻の下に積層型のグラフェンが確認される。
【0021】
図6には、Sn-グラフェン複合めっき膜(実施例8)の表面のラマン分析測定について、(a)測定部分(Sn分散積層型グラフェン)、(b)ラマンスペクトル結果、及び(c)めっき液中のグラフェンのラマンスペクトル結果を、それぞれ示した。
同(c)のラマンスペクトルのピークと同(b)のラマンスペクトルのピークは一致した。グラフェンのラマンスペクトルは、D、G(C六環の欠陥構造に由来するD-band、C原子のsp結合の存在を示唆するG-band)及び2Dとして特徴的なピークが検出された。グラファイトに特有なDバンドとGバンド(D/G<1)が検出され、特にグラフェンの証とした2Dバンドのピークも示されたため、測定部分にはグラフェンが存在していたことが分かった。なお、Dバンドは欠陥構造に由来し、GバンドはC原子のsp結合の存在を示唆していた。
なお、、その測定条件は次のようであった。機種名:レーザーラマン分光光度計(NRS-3300)、測定範囲:254.896cm-1~3899.87cm-1、中心波数:2301.01cm-1、励起波長:532.08nm、レーザ゛強度:7.9mWであった。
【0022】
図7には、(a)電流密度1.0A/dm、液温15℃、めっき時間10minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例4)の表面の黒色の粒子(Sn分散積層型グラフェン15に類似すると推定したもの)のラマンスペクトル結果、(b)(a)の表面において黒色の粒子以外の部分のラマンスペクトル結果を、それぞれ示した。
(a)から、C六環の欠陥構造に由来するD-band、C原子のsp結合の存在を示唆するG-band及びグラフェンの証とした2D-bandとして特徴的なピークが検出され、グラフェンとの複合化をできたことがわかる。なお、ここでは、強度比D/G>1なので、めっき膜表面に顔を出したグラフェンは一部酸化グラフェンになったと推察される。一方、(b)から、めっき膜の平ら部分には、グラフェンに帰属するピークが検出されていないため、その場所は単なるSn膜であることが分かった。
【0023】
図8には、(a)電流密度1.0A/dmにより作製した純Snめっき膜(比較例1)のGD-OES測定の結果、(b)電流密度0.5A/dm、液温10℃により作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例2)および実施例8のGD-OES測定の結果を、それぞれ示した。(b)から、炭素は最表面が一番多かったが、破線領域で囲まれた内部およびめっき界面からも検出され、炭素はグラフェン由来であるから、グラフェンすなわちSn分散積層型グラフェンが内部にも存在していたことが分かった。(c)には破線は示していないが、(b)と同様であった。
なお、GD-OESの測定条件は次のようであった。機種名:グロー放電発光表面分析装置(GD-OES、堀場GD-profiler 2-MN),測定面積:直径8mm.ガスフロー:窒素ガスであった。
【0024】
図9には、電流密度0.1A/dm、液温10℃、めっき時間10minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例5)の表面について、(a)SEM観察の結果、(b)(a)を拡大したSEM観察の結果、(c)(a)のXRD測定の結果、(d)(b)のXRD測定の結果を、それぞれ示した。
(c)、(d)から、Sn以外に多くの炭素を検出し、純Snめっきと比べてCの濃度が顕著に高いため、Sn-グラフェン複合めっき膜が形成されたことが分かった。また、(c)から、Cの濃度は2.49質量%で19.1原子%、Snの濃度は97.51質量%で80.9原子%、(d)から、Cの濃度は0.71質量%で6.21原子%、Snの濃度は99.29質量%で93.8原子%であることが分かった。
【0025】
図10には、電流密度0.5A/dm、液温5℃、めっき時間30minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例6)の表面について、(a)SEM観察の結果、(b)(a)を拡大したSEM観察の結果、(c)(a)のXRD測定の結果、(d)(b)のXRD測定の結果を、それぞれ示した。
(c)から、Cの濃度は6.23質量%で38.0原子%、Snの濃度は93.77質量%で62.0原子%、(d)から、Cの濃度は、0.44質量%で3.9原子%、Snの濃度は99.56質量%で96.1原子%であることが分かった。
【0026】
図11には、電流密度0.5A/dm、液温5℃、めっき時間30minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例6)の別の表面について(a)SEM観察の結果、(b)(a)を拡大したSEM観察の結果、(c)(a)のXRD測定の結果、(d)(b)のXRD測定の結果を、それぞれ示した。
(c)から、Cの濃度は22.84質量%で68原子%、Oの濃度は3.72質量%で38.0原子%、Snの濃度は73.43質量%で23.74原子%、(d)から、Cの濃度は1.52質量%で12.5原子%、Snの濃度は98.48質量%で87.4原子%であることが分かった。
【0027】
図12には、電流密度1.0A/dm、液温5℃、めっき時間20minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例7)の表面について、(a)SEM観察の結果、(b)(a)を拡大したSEM観察の結果、(c)(a)のXRD測定の結果、(d)(b)のXRD測定の結果を示した。
(c)から、Cの濃度は0.42質量%で3.7原子%、Snの濃度は99.58質量%で96.3原子%、(d)から、Cの濃度は0.67質量%で5.9原子%、Snの濃度は99.33質量%で94.1原子%であることが分かった。
【0028】
以上の図9~12に基づき、また、耐摩耗性向上と導電性保持の観点から、Cの濃度やSnの濃度を定めることができる。
【0029】
図13には、電流密度0.5A/dm、液温5℃、めっき時間20minにより作製したSn-グラフェン複合めっき膜(実施例7)によりめっき(被覆)された端子について、(a)断面SIM像(FIB加工)、(b)(a)を拡大した断面SIM像を、それぞれ示した。(a)から、粒子状の大きなSn分散積層型グラフェン粒子45が、Cu合金基板12を被覆したSn-グラフェン複合めっき膜に嵌っていることが分かった。(b)から、Sn分散積層型グラフェン粒子45にSn46が入っている。
【0030】
図14には、図12(b)の拡大図を示した。Cu合金基板の上にCu-Sn合金層が積層し、Sn-グラフェン複合めっき層(膜)中にGraphene flakeが多い場所を確認することができた。
【0031】
比較例1、実施例8、実施例2、実施例3に対して次のようにして硬度(ビッカース硬度)を測定した。なお、めっき膜厚は、5imになるように、めっき時間を調整した。測定条件は、島津製製作所製、型式:HMV-1ADWJを使用し、測定荷重は1Nでそれぞれ5つの試験片に対する硬度、それらの平均値を表1に示した。表1から、実施例8/比較例1=74.9/44.7=1.68、実施例2/比較例1=53.8/44.7=1.20、実施例3/比較例1=76.71.72/44.7=1.72となった。これらから次のことが分かった。いずれも、グラフェンとの複合化によりSnめっき膜は硬くなった。
【0032】
【表1】
【0033】
図15には、表1の硬さの測定結果をグラフに示した。
【0034】
図16は実施例1~5、比較例1の導電率の測定結果を示した。なお、表1は実施例1~5及び比較例1のそれぞれの導電率を5回測定で平均した数値データを示した。測定方法を簡潔に説明すると次のようである。機種名:抵抗計/シート抵抗測定器(ナプソンRT-70V/RG-7G)、4端子法によりバルク抵抗式で5点測定し、その平均値を図15に示した。その結果により、Sn-複合めっきは純Snと同じレベルの導電性を保持できたことがわかる。
【0035】
図17には、純Snめっき膜とSn―グラフェン複合めっき膜の摩耗試験結果の一例を示す。Sn-C複合めっき(すなわちSn-グラフェン複合めっき膜)と純Snめっきは、それぞれ1A/dmで作製しためっき膜を使用した。グラフより、純Snめっきは初期に大きな摩擦係数の上昇が現れ、相手材のAgめっき膜とは凝着現象が発生したことに対し、Sn-C複合めっき膜は初期に摩擦係数の上昇が見られなく、摩耗における凝着現象に抑制できたことがわかる。また、摩耗の全体領域においてもSn-C複合めっきの摩擦係数は純Snめっきより低く、耐摩耗性が向上されたことがわかる。また、摩耗試験の条件は次のようであった。評価装置:直線往復式摩擦摩耗試験機(Optimal Instruments-SRV-4)、荷重5N、摺動距離200μm、周波数1Hz、25℃、乾式(潤滑油なし)。相手材(Emboss)は市販の一般Agめっき(110Hv)材、凸部分は半径5mmのものを基準試料として用いた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
自動車特に更なる拡大が予想されるEV/PHVの電子制御の高度化に伴うワイヤーハーネスの高性能化、高耐久性化を実現することができる。
【符号の説明】
【0037】
1:Sn-グラフェン複合めっき膜金属製端子
2:金属合金基材
3、13、23、33:積層型グラフェン
5、15、35、45:Sn分散積層型グラフェン
6、26:Sn層
7:シート状のグラフェンフレーク
8:Sn-グラフェン複合めっき膜
12、32:Snによりめっき(被覆)されたCu合金基板
13、23:グラフェン(グラフェンシート)
14、14´、14´´、24、24´、24´´、34、34´、34´´、46:Sn
42:Cu合金基板

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17