(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/01 20230101AFI20240411BHJP
H10N 10/856 20230101ALI20240411BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
H10N10/01
H10N10/856
C08G61/12
(21)【出願番号】P 2022205368
(22)【出願日】2022-12-22
(62)【分割の表示】P 2017159838の分割
【原出願日】2017-08-23
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】岸 直希
(72)【発明者】
【氏名】日比 聡
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181680(JP,A)
【文献】特開2016-001711(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034258(WO,A1)
【文献】特開2012-084821(JP,A)
【文献】国際公開第2016/142850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/01
H10N 10/856
C08G 61/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)と、界面活性剤と、第1溶媒と、前記第1溶媒の沸点より高い沸点の第2溶媒と、を有する分散液を、基材上に塗布し、前記第1溶媒の沸点以上、前記第2溶媒の沸点プラス50℃以下の温度で、前記第1溶媒および前記第2溶媒を揮発させ、前記第1溶媒および前記第2溶媒を含有しない熱電変換材料の、スピンコートによる製造方法であって、
前記第1溶媒の沸点および前記第2溶媒の沸点が、60℃以上250℃以下、前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤であり、前記基材の材質はポリエチレンテレフタレートまたはホウケイ酸ガラスであり、前記陰イオン界面活性剤としてはドデシル硫酸ナトリウムであり、前記第1溶媒としては、水、前記第2溶媒としては、エチレングリコールであり、前記ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)を基準1としたとき、前記分散液における前記水の構成比は95で前記エチレングリコールの構成比は0.91~4.53であり、前記水および前記エチレングリコールを含有しない熱電変換材料における前記ドデシル硫酸ナトリウムの構成比が0.023であり、室温におけるパワーファクター(μW/mK
2)が21.5以上25.0以下であり、
前記ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)は、前記ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液に含まれ、前記ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液と、前記ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液に前記エチレングリコールを3%の割合で混合した別の分散液の、それぞれ前記ポリエチレンテレフタレート基板および前記ホウケイ酸ガラス基板に対する濡れ性を比較したとき、前記ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液の濡れ性が、前記別の分散液の濡れ性よりそれぞれ高く、
前記分散液と、前記分散液において前記ドデシル硫酸ナトリウムの構成比が0.907であって前記エチレングリコールを含まないさらに別の分散液の、それぞれ前記ポリエチレンテレフタレート基板および前記ホウケイ酸ガラス基板に対する濡れ性を比較したとき、前記分散液の濡れ性が、前記さらに別の分散液よりそれぞれ高
く、前記濡れ性が高いことは、前記ポリエチレンテレフタレート基板および前記ホウケイ酸ガラス基板に対する接触角が小さいことにより確認されることを特徴とする熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエチレンテレフタレート基板および前記ホウケイ酸ガラス基板に対する前記分散液の接触角の、前記さらに別の分散液の前記ポリエチレンテレフタレート基板および前記ホウケイ酸ガラス基板に対する接触角への割合が0.73~0.46であることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜からなる熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する熱電発電は、クリーンなエネルギー源として期待されている。これまで熱電変換材料としては、テルル化ビスマスをはじめとする無機材料を対象とし活発に研究が行われてきた。
【0003】
一方で、近年、新たな熱電変換材料として導電性高分子をはじめとする有機系材料が注目されている。特にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)(以下、「PEDOT:PSS」と言う)は、高分子材料の中でも高い導電性、高いゼーベック係数を示すことが知られており、有機系熱電変換材料として期待されている。またPEDOT:PSSは、スピンコートやディップコートなどのPEDOT:PSS水分散液(PEDOT:PSSを水で溶解したもの)を用いた湿式プロセスによる簡易な薄膜形成が可能であり、低コストプロセスによる熱電変換素子の製造が期待されている。
【0004】
しかしながら従来の無機熱電変換材料と比べ、その導電性やゼーベック係数が低く、熱電特性の改善のためにそれらを向上させる技術が求められていた。このような背景のもと、 PEDOT:PSSに添加材料を複合することによる熱電特性の向上が試みられている。非特許文 献1では、PEDOT:PSSにジメチルスルホオキシドを添加することにより、ゼーベック係数は維持しながらその導電性を向上させることが報告されている。また特許文献1では、PEDOT:PSSにエチレングリコールを複合化することによっても同様にPEODT:PSSの熱電性能指数の向上が期待できることが報告されている。
【0005】
スピンコート法やディップコート法などのPEDOT:PSS水分散液を用いた湿式プロセスによるPEDOT:PSS薄膜形成においては、PEDOT:PSS水分散液の濡れ性の低い材料を基板に用いた場合、成膜時にPEDOT:PSS水分散液が基板にはじかれ、均一なPEDOT:PSS薄膜を得ることが困難であった。そのため、PEDOT:PSS水分散液の種々の基板への濡れ性の改善を同時に満たす熱電特性の改善手法の開発が望まれていた。
【0006】
本発明者らは特許文献2において、種々の基材に対し高い濡れ性を有するPEDOT:PSS水分散液を用いた湿式プロセスによるPEDOT:PSS熱電変換材料の製造方法を開示している。しかし、熱電変換性能については更なる向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-168463公報
【文献】特開2016-181680公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】G. H. Kim et al., “Engineered doping of organic semiconductors for enhanced thermoelectric efficiency”Nature Materials, 12 (2013) 719-723, Macmillan publishers
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、様々な基材上に形成可能な高い熱電特性を有する熱電変換材料とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明1は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)と、界面活性剤と、第1溶媒と、第1溶媒の沸点より高い沸点の第2溶媒と、を有する分散液を、基材上に塗布し、第1溶媒の沸点以上、第2溶媒の沸点プラス50℃以下の温度で、第1溶媒および第2溶媒を揮発させ、第1溶媒および第2溶媒を含有しない熱電変換材料の、スピンコートによる製造方法であって、第1溶媒の沸点および第2溶媒の沸点が、60℃以上250℃以下、界面活性剤が陰イオン界面活性剤であり、基材の材質はポリエチレンテレフタレートまたはホウケイ酸ガラスであり、陰イオン界面活性剤としてはドデシル硫酸ナトリウムであり、第1溶媒としては、水、第2溶媒としては、エチレングリコールであり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)を基準1としたとき、分散液における水の構成比は95でエチレングリコールの構成比は0.91~4.53であり、水およびエチレングリコールを含有しない熱電変換材料におけるドデシル硫酸ナトリウムの構成比が0.023であり、室温におけるパワーファクター(μW/mK2)が21.5以上25.0以下であり、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)は、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液に含まれ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液と、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液にエチレングリコールを3%の割合で混合した別の分散液の、それぞれポリエチレンテレフタレート基板およびホウケイ酸ガラス基板に対する濡れ性を比較したとき、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)水分散液の濡れ性が、別の分散液の濡れ性よりそれぞれ高く、分散液と、分散液においてドデシル硫酸ナトリウムの構成比が0.907であってエチレングリコールを含まないさらに別の分散液の、それぞれポリエチレンテレフタレート基板およびホウケイ酸ガラス基板に対する濡れ性を比較したとき、分散液の濡れ性が、さらに別の分散液よりそれぞれ高いことを特徴とする熱電変換材料の製造方法である。発明2は、濡れ性が高いことは、ポリエチレンテレフタレート基板およびホウケイ酸ガラス基板に対する接触角が小さいことにより確認されることを特徴とする発明1に記載の熱電変換材料の製造方法である。発明3は、ポリエチレンテレフタレート基板およびホウケイ酸ガラス基板に対する分散液の接触角の、さらに別の分散液のポリエチレンテレフタレート基板およびホウケイ酸ガラス基板に対する接触角への割合が0.73~0.46であることを特徴とする発明2に記載の熱電変換材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
第2溶媒を用いることで、界面活性剤11の使用量が少なくてもポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)を十分結晶化させ高い熱電特性を有する熱電変換材料とその製造方法を提供することかできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】熱電変換材料1中の界面活性剤の割合とパワーファクターPの関係を示す図。
【
図2】分散液3などの種々基材に対する濡れ性(接触角)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0014】
(実施形態)
まず本発明の実施形態の熱電変換材料1を製造するために用いる分散液3を構成するポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)5(以下、「PEDOT:PSS5」と言う)と、界面活性剤11と、第1溶媒13と、第1溶媒の沸点より高い沸点の第2溶媒15とを順に説明する。
【0015】
(PEDOT:PSS5)
PEDOT:PSS5として、PEDOT:PSS5に第1溶媒13として水(沸点100℃)を加えたPEDOT:PSS水分散液7(Orgacon社 ICP1050)を用いた。PEDOT:PSS水分散液7の構成は、重量比でPEDOT:PSS5:第1溶媒13(水)が 1.1 : 98.9である。
【0016】
(界面活性剤11)
界面活性剤11として、陰イオン界面活性剤または非イオン性界面活性剤が好ましい。陰イオン性界面活性剤としてはスルホン酸塩または硫酸エステル塩が特に望ましい。非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルエーテル型が特に好ましい。具体的には、スルホン酸塩の陰イオン性界面活性剤である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸エステル塩の陰イオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム、またエーテル型の非イオン性界面活性剤であるTriton Xが挙げられる。また、界面活性剤11は電気的に絶縁体である。
【0017】
(第1溶媒13)
第1溶媒13は、PEDOT:PSS5及び界面活性剤11を溶かす溶媒である。第1溶媒13の沸点は、第2溶媒15の沸点より低い。第1溶媒13は、例えば、水(沸点100℃)、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点78.4℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃)である。よって、第1溶媒の沸点は、60℃以上がよい。また、代表的な第1溶媒は水である。尚、PEDOT:PSS水分散液7は、PEDOT:PSS5を第1溶媒13の水のみで溶解させている。
【0018】
(第2溶媒15)
第1溶媒13は、PEDOT:PSS5及び界面活性剤11を溶かす溶媒である。第2溶媒15の沸点は、第1溶媒13の沸点より高い。第2溶媒15は、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、ジメチルスルホオキシド(沸点189℃)である。第2溶媒の沸点は、250℃以下がよい。PEDOT:PSS5の熱劣化を発生させないためには、300℃以下がよいからである。
【0019】
(分散液3、追加液10)
分散液3は、PEDOT:PSS5、界面活性剤11、第1溶媒13、及び第2溶媒15を有する。ここで、分散液3は、PEDOT:PSS水分散液7に追加液10を混合して作成した。追加液10は、界面活性剤11、第1溶媒13、及び第2溶媒15を混合させている。表1にその配合を示す。また、参考に従来の分散液103(第2溶媒15を含まない)の配合を示す。
【表1】
【0020】
(基材20)
次に、熱電変換材料1は、分散液3を、基材20の上に塗布し、第1溶媒13の沸点以上、第2溶媒15の沸点プラス50℃以下の温度で、第1溶媒13および第2溶媒15を揮発させて製造する。基材20、揮発温度について説明する。基材20の形状は、平板状の基板、円筒状、球状等の形状でよい。基材20の材質としては、ガラス、合成樹脂、紙、布が挙げられる。このうち合成樹脂としてはポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と言う)やポリエチレンナフタレートが良い。
【0021】
(揮発温度)
揮発温度の下限は、第1溶媒13の沸点以上がよい。また、第1溶媒の沸点は、60℃以上がよい。第1溶媒13の沸点以上であれば、第1溶媒13は揮発される。また、第2溶媒15の沸点以下であっても、第2溶媒15は、量的に多い第1溶媒13の揮発に伴い揮発する。まず第1溶媒13が揮発を開始し、次に第1溶媒13と第2溶媒15が同時に揮発し、第1溶媒が揮発を完了すると第2溶媒15のみが揮発する。揮発温度の上限は、第2溶媒15の沸点プラス50℃以下がよい。第2溶媒15の沸点プラス50℃以上では、PEDOT:PSS5の熱劣化が大きくなるからである。
【0022】
(実施例)
(分散液3の製造)
本実施例において分散液3は、PEDOT:PSS5、界面活性剤11、第1溶媒13、及び第2溶媒15を有する。発明者らは、分散液3を、PEDOT:PSS水分散液7に追加液10を混合して作成した。表2に示すように、界面活性剤11、第1溶媒13、及び第2溶媒15の割合を変えて追加液10(1)から(6)を作成した。界面活性剤11としてドデシル硫酸ナトリウム、第1溶媒13として水(沸点100℃)、第2溶媒としてエチレングリコール(沸点197℃)を用いた。追加液10(1)から(6)の割合は、第1溶媒13(水)を基準1として比率で示す。尚、追加液10 (1)から(4)の界面活性剤11の濃度0.5%、追加液10 (5),(6)の界面活性剤11の濃度20%である。また、表2に従来例の追加液110として、界面活性剤11としてドデシル硫酸ナトリウム、第1溶媒13として水を用いた水溶液の割合を示す。
【表2】
【0023】
表3に示すように、PEDOT:PSS水分散液7に追加液10(1)から(6)を20:1の割合で混合させて分散液3(1)から(6)を作成した。またPEDOT:PSS水分散液7に従来追加液12(1)、(2)を20:1の割合で混合させて、従来の分散液103(1)、(2)を製造した。分散液3(1)から(6)、分散液103(1)、(2)の割合は、第1溶媒13(水)を基準1として比率で示す。
【表3】
【0024】
(熱電変換材料1の製造)
熱電変換材料1は、分散液3を基材20に塗布する湿式プロセスにより成膜形成する。湿式プロセスとしてはスピンコート法、ディップコート法、スプレー法、ドロップキャスト法、印刷法、インクジェット法が挙げられる。成膜後、基材20を加熱して、膜中に含まれる第1溶媒13、第2溶媒15を揮発させて除去すると共に、PEDOT:PSS5の結晶化を促進する。加熱温度は第1溶媒13の沸点以上、第2溶媒15の沸点プラス50℃以下が好ましい。加熱処理を行う雰囲気としては空気中、あるいは窒素中が好ましい。
具体的には、チタン/金の積層膜からなる電極がパターニングされたソーダライムガラスの基材20上に、分散液3(1)~(6)、分散液103(1)、(2)を滴下し、回転数1500rpmでスピンコートし、その後、試料を200℃で5分間、空気中で熱処理することにより熱電変換材料1(1)~(6)、熱電変換材料101(1)、(2)を製造した。
【0025】
(熱電特性評価)
熱電変換材料1(1)~(6)、熱電変換材料101(1)、(2)の室温におけるゼーベック係数S、および四探針法を用いて導電率σの評価を行った。次に、ゼーベック係数S、導電率σから熱電変換材料1の性能指標であるパワーファクターPを求めた。パワーファクターPは、以下の式1により求められる。
(数1)
【0026】
熱電変換材料1は、分散液3から第1溶媒13及び第2溶媒を揮発させ、PEDOT:PSS5、界面活性剤11により構成される。よって、表3の分散液3をPEDOT:PSS5を基準1として表4に示す。
【表4】
【0027】
表5に、表4の分散液3(1)から(6)から製造した熱電変換材料1(1)から(6)の熱電特性の評価結果、及び分散液103(1)、(2)から製造した熱電変換材料101(1)、(2)の熱電特の性評価結果を示す。第1溶媒13及び第2溶媒15は揮発されているので、熱電変換材料1及び熱電変換材料101は、PEDOT:PSS5、界面活性剤11から構成される。熱電変換材料1(1)から(6)、熱電変換材料101(1)、(2)の材料構成比を表4に示す。PEDOT:PSS5を1とした場合、熱電変換材料1(1)から(4)、熱電変換材料101(1)における界面活性剤11の比率は、0.023(2.2%)である。また、熱電変換材料1(5)、(6)、熱電変換材料101(2)における界面活性剤11の比率は、0.907(47.6%)である。従来の第2溶媒15を使用しないで製造した熱電変換材料101(1)、(2)のパワーファクターPは、熱電変換材料101(2)を基準1とすると、熱電変換材料101(1)は0.015と非常に小さくなる。これは、導電率σが、355から約4と小さくなっているからである。これは、界面活性剤11が多いことで、PEDOT:PSS5が十分に結晶化されたことによる。逆に、界面活性剤11が少ないと、PEDOT:PSS5が十分に結晶化されず、導電率σが小さくなる。
【0028】
ここで、界面活性剤11は絶縁物であり熱電変換材料101(2)における割合は47.6%ある。本発明は、絶縁物である界面活性剤11の比率を下げるとともに、PEDOT:PSS5を十分に結晶化させるために、第1溶媒13の沸点より高い沸点の第2溶媒15を用いたことである。
第2溶媒15の比率を0.91、2.7、4.53、9.97とした分散液3(1)から(4)から作成した熱電変換材料1(1)から(4)は、界面活性剤11の比率は、2.2%である。そのパワーファクターPは、順に21.5、25.0、21.7、17.8となる。熱電変換材料101(2)を1とすると、向上比は、順に1.17、1.37、1.19.0.97となる。よって、第2溶媒15の比率には上限がある。
第2溶媒15の比率を0.91、2.7とした分散液3(5)から(6)から作成した熱電変換材料1(5)から(6)は、界面活性剤11の比率は、47.6%である。そのパワーファクターPは、17.5、12.3となる。熱電変換材料101(2)を1とすると、向上比は、0.96、0.67となる。よって、界面活性剤11の比率が多いと第2溶媒15の効果はない。
【表5】
【0029】
図1に、熱電変換材料1中の界面活性剤の割合とパワーファクターPの関係を示す。黒丸の熱電変換材料1は第2溶媒15有り、黒三角の熱電変換材料101は第2溶媒15無しで製造されている。パワーファクターPは、熱電変換材料101(1)の0.276から熱電変換材料101(2)の18.3に増加する。これは界面活性剤11の割合を2.2%から47.6%としてPEDOT:PSS5が十分に結晶化されたことによる。一方、パワーファクターPは、熱電変換材料101(1)の0.276から熱電変換材料1(2)の25.0に増加する。これは界面活性剤11の割合は2.2%で同一であるが、第2溶媒15を加えることによりPEDOT:PSS5が十分に結晶化され、導電率σが4.12から403へ約100倍増加されたことによる。第2溶媒15は、界面活性剤11の使用量を約21分の1に減らしてもPEDOT:PSS5を十分に結晶化し導電率σを増加させている。また、熱電変換材料1(6)は、界面活性剤11の割合を47.6%とし第2溶媒15を加えているが、PEDOT:PSS5は既に界面活性剤11により十分結晶化されているので、第2溶媒15の効果は無い。逆に、パワーファクターPは12.3と絶縁物である界面活性剤11が増えることにより減少する。
図1中にパワーファクターP=19を破線で示す。この値は、従来の熱電変換材料101(2)の18.3の同等以上である。この破線と、熱電変換材料1(2)と熱電変換材料1(6)を結ぶ線との交点の界面活性剤11の割合は約20%である。従って、界面活性剤11の割合を20%以下にすることでパワーファクターPを19以上とすることができる。
【0030】
(濡れ性評価)
PEDOT:PSS水分散液7、PEDOT:PSS水分散液7に第2溶媒であるエチレングリコールを3%の割合で混合した分散液、分散液103(1)、及び分散液3(2)の基材20に対する濡れ性を、接触角を測定することにより評価した。基材20は、基板状のホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、PETを用いた。接触角測定の結果を
図2に示す。PEDOT:PSS水分散液7、およびPEDOT:PSS水分散液7にエチレングリコールを混合した分散液では、PET基板において接触角が大きくなり、濡れ性が低いことが確認された。一方で、界面活性剤を含む分散液3(2)および分散液103(1)では、すべての基板に対し接触角が小さく、高い濡れ性を持つことが確認された。よって、分散液3(2)を用いれば熱電変換材料1を薄膜化することができる。
【0031】
(成膜性の評価)
PEDOT:PSS水分散液7および分散液3(2)をPET基板上(2cm×2cm)にスピンコートを行い、成膜性の評価を行った。スピンコートの回転数は1500rpmとした。PEDOT:PSS水分散液7では、均一な薄膜は得られなかった。一方で分散液103(2)においては、基板全面に薄膜が形成された。以上から濡れ性の高い分散液3の成膜性はPEDOT:PSS水分散液7に比べ高いことを確認した。
【0032】
(フレキシブル性の評価)
フレキシブル性の評価として、
図3に示す通りPET基材上に形成した熱電変換材料1を折り曲げ、電気抵抗の折り曲げ角度依存性を測定した。測定結果を
図4に示す。抵抗値は折り曲げ角度0度での値を1として規格化した。
図4より約180度までの折り曲げ範囲に対して、抵抗値の変化が±2%以内に収まることがわかる。よって、本発明の熱電変換材料1は高いフレキシブル性を持つこと確認した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
(熱電変換素子の製造)
本発明の製造方法により得られる高分子の薄膜である熱電変換材料1は、熱電変換素子に利用することができる。熱電変換材料1を用いた熱電変換素子の製造プロセスとして、2つ挙げられる。まず製造プロセス1として、電極をパターニングした基材上に熱電変換材料1をパターニング形成する手法が挙げられる。製造プロセス2としては、基材上に熱電変換材料1をパターニング形成した後、パターニングした電極を形成する方法が挙げられる。電極材料としては、金、銀、銅、チタン、アルミニウム、ニッケル、炭素を含む単層または積層した膜が挙げられる。電極のパターニング手法としては、パターンが加工された金属マスクを用いたパターニング、フォトリソグラフィー、印刷法、インクジェット法が挙げられる。熱電変換材料1のパターニング手法としては、印刷法、インクジェット法が挙げられ、また、自己組織化単分子膜を用いた分子テンプレートパターニングを施した基材上へのスピンコート、ディップコート、スプレー、ドロップキャストを行うことによっても可能である。
【0034】
(スタンドアロン発信機)
熱電変換材料1を用いた熱電変換素子を利用したスタンドアロン発信機50について説明する。
図5に構造を示す。スタンドアロン発信機50は、熱電変換材料1を用いた熱電変換素子である発電素子51、バッテリー53、およびセンサ発信部55からなる。発電素子51はスタンドアロン発信機50を設置した箇所での温度差を利用し発電し、バッテリー53は複数の発電素子51で発電した電力を蓄える働きをする。センサ発信部55はセンサ素子と発信機からなり、センサ素子で得た電気的な情報を電磁波として発信機から送信する。センサとしては、例えば、生体センサ、温度センサ、光センサ、ガスセンサ、圧力センサ、加速度センサが挙げられる。
【符号の説明】
【0035】
1 熱電変換材料
3 分散液
5 ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸)
又はPEDOT:PSS
7 PEDOT:PSS水溶液(PEDOT:PSS:第1溶媒(水)= 1.1 : 98.9)
10 追加液
11 界面活性剤
13 第1溶媒
15 第2溶媒
20 基材
50 スタンドアロン発信機
51 熱電変換素子
53 バッテリー
55 センサ発信部
P パワーファクター(μW/mK2)
S ゼーベック係数(μV/K)
σ 導電率(S/cm)