(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ピレン蛍光色素
(51)【国際特許分類】
C09B 57/00 20060101AFI20240411BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240411BHJP
C09B 23/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09B57/00 X
G01N21/78 C
C09B57/00 Z
C09B23/00
(21)【出願番号】P 2019153789
(22)【出願日】2019-08-26
【審査請求日】2022-08-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁子 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】波多野 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂
(72)【発明者】
【氏名】磯江 真綺
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-051969(JP,A)
【文献】特開2011-046662(JP,A)
【文献】特開2007-063285(JP,A)
【文献】国際公開第2015/136583(WO,A1)
【文献】Synthesis and sensitization behavior of pyrenothiazole- and pyrenothiazinecarbocyanines. I.Pyreno[4'.3':4,5]-thiazolecarbocyanines,Justus Liebigs Annalen der Chemie,647,1961年04月28日,101-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 57/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されることを特徴とするピレン蛍光色素。
【化1】
[式中、
R
1は、カルボキシ基、スルホ基、アジド基、またはエチニル基で置換されていてもよいC
1-18アルキル基を示し、
X
1は、>CR
2R
3(式中、R
2とR
3は独立してC
1-18アルキル基を示す。)、-O-、または-S-を示し、
Yは、下記式(i)
または(ii)で表される基から選択されるいずれかの基を示す。
【化2】
(式中、
X
2とX
3は、独立して、>CR
10R
11(式中、R
10とR
11は独立してC
1-18アルキル基を示す。)、-O-、または-S-を示し
、
R
4
とR
5
は、独立して、カルボキシ基、スルホ基、アジド基、またはエチニル基で置換されていてもよいC
1-18アルキル基を示し、
lは、1以上、5以下の整数を
示す。)]
【請求項2】
Yが式(i)で表される基である請求項1に記載のピレン蛍光色素。
【請求項3】
X
2が>CR
10R
11である請求項2に記載のピレン蛍光色素。
【請求項4】
R
4が無置換C
1-18アルキル基である請求項2または3に記載のピレン蛍光色素。
【請求項5】
X
1が>CR
2R
3である請求項1~4のいずれかに記載のピレン蛍光色素。
【請求項6】
R
1が無置換C
1-18アルキル基である請求項1~5のいずれかに記載のピレン蛍光色素
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大吸収波長や最大蛍光波長が比較的長く、且つ光安定性に優れた蛍光色素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素は、高度にπ共役した構造を有する有機化合物であり、特定波長の光を吸収して励起されると、そのエネルギーは分子内での振動や回転運動などに費やされず、特定波長の光として放出される。蛍光発光は、このように吸収波長と発光波長が異なる他、レーザーに対する感受性や、光エネルギーと電気エネルギーを相互変換できる特性などから、光記録媒体用色素や光電変換色素などとして、銀塩写真、ディスプレイ、太陽電池など、様々な分野で応用が期待されている。また、高い視認性から、バイオ分野での蛍光標識色素としても利用されている。
【0003】
蛍光色素の吸収光としては、高いエネルギーを有する紫外光が利用されることがあるが、近年、安全性や高い透過性などから赤外光が注目されている。例えば特許文献1には、遠赤およびNIRスペクトルに該当するように選択された置換基を使用することにより十分に赤方偏移しているシラキサンテニウムコアベースの蛍光性化合物が開示されている。特許文献2には、ベンゾ[a]フェノキサチン5位置換イミノ基にピリジニウム構造を含む近赤外蛍光化合物が開示されている。特許文献3と特許文献4には、近赤外蛍光造影剤の造影成分として有用なシアニン系化合物が開示されている。しかし近年、蛍光色素は新規に開発されていない傾向がある。
【0004】
代表的な蛍光色素であるシアニン色素構造は、ポリメチン骨格の両末端に窒素を含む複素環を有する。このポリメチン骨格を長くすることで、吸収波長と蛍光波長を長波長側へシフトさせ得ることが知られている。即ち、メチン基(-CH=)の数を2個増やす毎にシアニン色素の吸収波長はおおよそ100nm長波長側へシフトする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-521254号公報
【文献】特開2014-166975号公報
【文献】特開2011-46663号公報
【文献】特開2011-46662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、吸収波長と蛍光波長がより長波長側にシフトした蛍光色素が開発されている。例えばシアニン色素のポリメチン骨格を長くすることで、吸収波長と蛍光波長を長波長側へシフトさせ得ることが知られている。しかしその一方で、ポリメチン骨格を長くすると光安定性が低下し、励起光に対する蛍光強度が経時的に低下してしまうことも知られている。
そこで本発明は、励起光と蛍光の最大波長が比較的長波長であり、且つ光安定性に優れる蛍光色素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、蛍光色素の構造中にピレン環を導入することにより、吸収波長と蛍光波長が長波長側にシフトするのみならず、驚くべきことに光安定性がかえって向上することを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0008】
[1] 下記式(I)で表されることを特徴とするピレン蛍光色素。
【化1】
[式中、
R
1は、カルボキシ基、スルホ基、アジド基、またはエチニル基で置換されていてもよいC
1-18アルキル基を示し、
X
1は、>CR
2R
3(式中、R
2とR
3は独立してC
1-18アルキル基を示す。)、-O-、または-S-を示し、
Yは、下記式(i)~(iv)で表される基から選択されるいずれかの基を示す。
【化2】
(式中、
X
2とX
3は、独立して、>CR
10R
11(式中、R
10とR
11は独立してC
1-18アルキル基を示す。)、-O-、または-S-を示し、
Zは=Oまたは=Sを示し、
R
4~R
9は、独立して、カルボキシ基、スルホ基、アジド基、またはエチニル基で置換されていてもよいC
1-18アルキル基を示し、
lは、1以上、5以下の整数を示し、
mは、0以上、5以下の整数を示し、
nは、1以上、5以下の整数を示す。)]
【0009】
[2] Yが式(i)で表される基である上記[1]に記載のピレン蛍光色素。
[3] X2が>CR10R11である上記[2]に記載のピレン蛍光色素。
[4] R4が無置換C1-18アルキル基である上記[2]または[3]に記載のピレン蛍光色素。
[5] X1が>CR2R3である上記[1]~[4]のいずれかに記載のピレン蛍光色素。
[6] R1が無置換C1-18アルキル基である上記[1]~[5]のいずれかに記載のピレン蛍光色素。
【0010】
本発明において「C1-18アルキル基」とは、炭素数1以上、18以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル基、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デカン、n-ドデカン、n-テトラデカン、n-ヘキサデカン、n-オクタデカン等である。立体障害などを考慮する場合には、C1-10アルキル基が好ましく、C1-6アルキル基またはC1-4アルキル基がより好ましく、C1-2アルキル基がより更に好ましい。カルボキシ基などの置換基を有する場合には、C1-6アルキル基が好ましく、C2-4アルキル基がより好ましい。ピレン蛍光色素の脂溶性を高めたい場合には、C6-18アルキル基が好ましく、C8-18アルキル基がより好ましく、C10-16アルキル基がより更に好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るピレン蛍光色素は、最大吸収波長と最大蛍光波長が比較的長波長であり、且つ光安定性に優れている。例えば、後記の実施例によれば、ピレン環を有さない以外は同一の構造を有する従来のスクアレイン色素に対して、最大吸収波長と最大蛍光波長が約100nm長波長側にシフトしており、且つ光安定性が改善されている。よって本発明に係るピレン蛍光色素は、様々な分野で用いられている従来の蛍光色素に取って代わる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係るピレン蛍光色素の一例の
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】
図2は、本発明に係るピレン蛍光色素の一例と従来の蛍光色素の吸収波長スペクトルと蛍光波長スペクトルである。
【
図3】
図3は、本発明に係るピレン蛍光色素の一例と従来の蛍光色素の光安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るピレン蛍光色素は、当業者であれば、従来公知のシアニン色素の製造方法に準じて製造することができる。例えば、Yが式(i)で表される基である式(I)で表されるピレン蛍光色素は、以下の合成スキームにより製造することができる。以下、式(P)で表されるQを「Q(P)」と略記する場合がある。
【0014】
【0015】
上記反応は、溶媒中、塩基の存在下、ピレン化合物(II)とスクアリン酸誘導体(III)を反応させることにより、ピレン-スクアレイン色素(I1)を製造するものである。
【0016】
溶媒は、ピレン化合物(II)とスクアリン酸誘導体(III)に適度な溶解性を示し、且つ反応を阻害するものでなければ特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-ブタノール等のC1-4アルコール;ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;およびこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0017】
塩基としては、キノリンやピリジン等の有機塩基や、酢酸ナトリウム等の無機塩基が挙げられる。
【0018】
反応条件は、適宜調整すればよい。例えば、スクアリン酸誘導体(III)に対するピレン化合物(II)の量は、1.9倍モル以上、2.1倍モル以下とすればよい。反応液におけるピレン化合物(II)とスクアリン酸誘導体(III)の量は、溶解度などに応じて適宜調整すればよい。塩基の使用量は、過剰量とすることが好ましい。反応温度は常温から150℃以下とすることができ、加熱還流下で反応を行ってもよい。反応時間は、薄層クロマトグラフィ等で原料化合物が消費されるまでとしたり、予備実験などで決定すればよいが、例えば1時間以上、60時間以下とすることができる。
【0019】
Yが基(ii)~(iv)であるピレン蛍光色素(I)は、以下の合成スキームにより製造することができる。以下では、Yが基(ii)であるピレン蛍光色素(I2)の合成スキームを代表的に示している。
【0020】
【0021】
ピレン-シアニン蛍光色素(I2)は、スクアリン酸誘導体(III)の代わりにポリメチン化合物(IV)を用いる以外はピレン-スクアレイン蛍光色素(I1)と同様の条件で製造することができる。また、ピレン-メロシアニン蛍光色素(I3)とピレン-LDS蛍光色素(I4)は、ポリメチン化合物(IV)の代わりにポリメチン化合物(IV)の一端がそれぞれオキソピリミジン環またはアニリン環で置換されている化合物を用い、これら化合物とピレン化合物(II)を大凡1:1のモル比で用いる以外はピレン-シアニン蛍光色素(I2)と同様にして製造することができる。
【0022】
ピレン化合物(II)は、従来公知のインドール合成法、ベンゾオキサゾール合成法、またはベンゾチオキサゾール合成法を応用して製造することができる。但し、X1が>CR2R3である場合、金属触媒を用いる以下の方法(Matyas Tursky et al.,Organic & Biomolecular Chemistry,2010,8,5576-5582)が非常に効率的である。
【0023】
【0024】
X1が-O-である場合、ヒドロキシピレンをアシル化し、得られたアシル化物からフリース転位反応によりアシルヒドロキシピレンを得、アシルヒドロキシピレンをオキシム化した後に転移環化反応に付すことによりオキサゾール環を形成する。X1が-S-である場合は、ヒドロキシピレンの代わりにピレンチオールを用いる。
【0025】
ピレン蛍光色素(I)および中間体化合物は、公知方法により精製してもよいし、中間体化合物は純度によっては精製しないか或いは粗精製のみで次反応で用いてもよい。また、反応性官能基は、適宜保護および脱保護してもよい。
【0026】
スクアレイン色素は、スクアリリウム色素とも呼ばれ、シアニン色素に分類されるものの、ポリメチン共役系の中央部にスクアリン酸(四角酸)部位を有し、且つ一分子内にカチオン性基とアニオン性基が共存した双性イオン構造という特異な構造を有する。スクアレイン色素は、電子写真感光体の電荷発生剤や、有機太陽電池の増感色素などとして利用されている。
【0027】
インドシアニン色素は、ポリメチン骨格の両末端に窒素を含む複素環を有する構造を有する。一方の窒素はカチオン構造のアンモニウムであり電子受容体としての役割を有し、他方の窒素は三級アミンであり電子供与体としての役割を有する。通常は、アニオンとの塩として存在する。アニオンとしては、ハロゲン化物イオン、スルホン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。インドシアニン色素は、光記録媒体用色素などとして利用されている。
【0028】
メロシアニン色素は、大きな吸光係数を示し、光吸収剤、増感剤、染料などとして、ディスプレイや光学レンズに用いられる光学フィルタ、感光写真材料、染物、塗料、インク、電子写真感光体、トナー、感熱記録紙、転写リボン、光学記録色素、太陽電池、光電変換素子、半導体材料、臨床検査試薬、レーザー治療用色素、染色などに広く用いられている。
【0029】
LDS色素は寿命が比較的長く、Ti:Sapphireとの置換が容易であるので、LDS色素レーザーはDIALシステムの光源として有望である。
【0030】
更に本発明に係るピレン-スクアレイン色素(I1)、ピレン-シアニン蛍光色素(I2)、ピレン-メロシアニン蛍光色素(I3)、およびピレン-LDS蛍光色素(I4)は、最大吸収波長と最大蛍光波長が長波長側にシフトしており、且つ優れた光安定性を示す。また、C1-18アルキル基にカルボキシ基やスルホ基が置換している等して水溶性の高い本発明のピレン蛍光色素は、バイオイメージングや光線力学治療など、生体での使用も可能であり得る。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0032】
実施例1: ピレン-スクアレイン色素の合成
【化6】
【0033】
(1)化合物1の合成
ナスフラスコに1-アミノピレン(3g,13.8mmol)、RuCl3・H2O(28.6mg,0.138mmol)、およびキサントホス(239.6mg,0.414mmol)を入れ、フラスコ内の気相をアルゴン置換した後、2,3-ブタンジオール(1.27mL,13.8mmol)を加え、110℃で1時間加熱し、更に180℃まで昇温し2日間加熱した。反応物の温度を室温に戻した後、クロロホルムに溶解させ、不溶分を濾別した。濾液を減圧濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム)にて黄色固体である目的物を単離した(収量:2.62g,収率:70%)。目的物の生成は、1H-NMRにより確認した。
【0034】
(2)化合物2の合成
二口ナスフラスコにPd2(dba)3(170.3mg,0.186mmol)、およびP(2-furyl)3(85.9mg,0.37mmol)を入れ、フラスコ内の気相をアルゴン置換した。更にアリルメチルカーボネート(1.69mL,14.9mmol)、および脱水ジクロロメタン(18.6mL)を加え、室温で10分間撹拌した。この溶液を、別途用意していた化合物1(2g,7.43mmol)の脱水ジクロロメタン(18.6mL)溶液に加え、室温で3時間撹拌した。エバポレーターにて溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン=1/3)にて、オレンジ色~茶色の粘性液体である目的物を単離した(収量:1.25g,収率:55%)。目的物の生成は、1H-NMRにより確認した。
【0035】
(3)化合物3の合成
二口ナスフラスコに化合物2(1.2g,3.88mmol)、およびPd/C(120mg,10w%)を入れ、フラスコ内の気相を水素置換した後、メタノール(19.4mL)を加えた。更に同溶液に水素ガスをバブリングし、室温で4時間撹拌した。ひだ折り濾紙で不溶物を除去した後、濾液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)にてオレンジ色固体である目的物を単離した(収量:954mg,収率:79%)。目的物の生成は、1H-NMRにより確認した。
【0036】
(4)化合物4の合成
ナスフラスコに化合物3(694mg,2.23mmol)、ヨードメタン(2mL)、およびアセトニトリル(11.2mL)を入れ、80℃で24時間加熱した。析出物を濾取することにより、黄色粉末固体である目的物を得た(収量:512mg,収率:51%)。目的物の生成は、1H-NMRにより確認した。
【0037】
(5)ピレン-スクアレイン色素(PYSQ)の合成
ナスフラスコに化合物4(200mg,0.44mmol)、3,4-ジエトキシ-3-シクロブテン-1,2-ジオン(32μL,0.22mmol)、および1-ブタノール/ピリジン=1/1の混合物(1.1mL/1.1mL)を入れ、120℃で21時間加熱還流した。反応液を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/メタノール=99/1)により単離した。更に熱メタノールで洗浄することにより、緑色粉末固体である目的物を得た(収量:40.6mg,収率:13%)。得られたPYSQの
1H-NMRスペクトルを
図1に示す。
【0038】
試験例1: 蛍光特性
実施例1で合成したピレン-スクアレイン色素(PYSQ)の蛍光特性を評価した。比較のために、従来公知のスクアレイン色素(SQ)の蛍光特性も同様に評価した。結果を表1と
図2に示す。
【0039】
【0040】
表1および
図2に示される結果の通り、PYSQは、SQと比べて100nm近く長波長化した光吸収・蛍光波長を示した。また、その輝度(モル吸光係数と蛍光量子収率の積)は、高輝度性色素と呼ばれるSQとほぼ同程度であった。
【0041】
試験例2: 光安定性試験
実施例1で合成したピレン-スクアレイン色素(PYSQ)をトルエンに溶解させ、657nmの励起光を照射し、蛍光強度の時間変化をモニターした。また、比較のために、従来公知のスクアレイン色素(SQ)についても、657nmにおける吸光度が一致するよう溶液の濃度調整した上で、同様に蛍光強度の時間変化をモニターした。結果を
図3に示す。
図3に示される結果の通り、3時間の光照射後、SQの蛍光強度は初期状態に対して83%程度まで減衰した一方で、PYSQでは90%以上が維持された。したがって、PYSQの光安定性はSQよりも優れていることが判明した。なお、SQは、市販色素のNile Redなどと比べて遥かに光安定性に優れた色素である。