(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】人工染色体ベクター及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/79 20060101AFI20240411BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240411BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240411BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240411BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240411BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C12N15/79 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/02 C
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2022507210
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009232
(87)【国際公開番号】W WO2021182456
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020039614
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 「新規染色体ベクター構築の検討」産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】小林 武彦
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲史
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527306(JP,A)
【文献】特開2007-075013(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0161820(US,A1)
【文献】国際公開第00/022107(WO,A1)
【文献】SASAKI, Mariko et al.,Ctf4 Prevents Genome Rearrangements by Suppressing DNA Double-Strand Break Formation and Its End Resection at Arrested Replication Forks,Mol. Cell,2017年,Vol. 66,pp. 533-545
【文献】IDE, Satoru et al.,Rtt109 prevents hyper-amplification of ribosomal RNA genes through histone modification in budding yeast,PLoS Genet.,2013年,Vol. 9; e1003410,pp. 1-14
【文献】小林武彦 ほか,I.核小体・rDNA構造とリボソームRNA転写 I-1 リボソームRNA遺伝子の不安定性と生理作用-出芽酵母を中心にして-,生化学,2013年,Vol. 85,pp. 839-844
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物の染色体に由来する人工染色体ベクターであって、人工染色体ベクターが、複数のリボソームRNA遺伝子(rDNA)の反復単位と、各反復単位間に存在する遺伝子間領域とを含み、目的遺伝子を組み込み、且つ識別するためのバーコード配列が、遺伝子間領域を構成する5S rDNA配列と非コードプロモーター(E-pro)配列との間に位置する制限酵素部位に挿入されて
おり、真核生物が酵母を含む真菌類である、人工染色体ベクター。
【請求項2】
遺伝子間領域が、rDNA遺伝子の5’側から順に、自己複製配列(ARS)、コヒーシン結合部位、5S rDNA配列、非コードプロモーター(E-pro)配列及び複製阻害(RFB)配列を含む、請求項1に記載の人工染色体ベクター。
【請求項3】
遺伝子間領域がコンデンシン結合部位を更に含む、請求項2に記載の人工染色体ベクター。
【請求項4】
テロメア配列及びセントロメア配列を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項5】
各バーコード配列が、目的遺伝子の発現を制御するためのプロモーター配列及びターミネーター配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項6】
各目的遺伝子の3’側にターミネーター配列が、5’側にプロモーター配列が配置される、請求項5に記載の人工染色体ベクター。
【請求項7】
反復単位数が2~150である、請求項1~6のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項8】
酵母が出芽酵母であり、rDNAの反復単位が出芽酵母の第12染色体に由来する、請求項
1~7のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項9】
前記プロモーターがガラクトース誘導(GAL)プロモーターである、請求項5~
8のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項10】
挿入される目的遺伝子が、前記人工染色体ベクターを導入する宿主と同種又は異種である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項11】
バーコード配列に挿入される前記目的遺伝子がそれぞれ同一であるか又は互いに異なる、請求項1~
10のいずれか一項に記載の人工染色体ベクター。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工染色体ベクターを含む、真核細胞。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工染色体ベクターを製造する方法であって、遺伝子間領域を構成する5S rDNA配列と非コードプロモーター(E-pro)配列との間に位置する制限酵素部位にバーコード配列を挿入する工程を含む、方法。
【請求項14】
バーコード配列を挿入する工程が、
1)rDNAと非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより第1のバーコード配列を第1の制限酵素部位に挿入する工程;及び
2)1)で挿入した第1のバーコード配列と非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより、第2のバーコード配列を第2の制限酵素部位に挿入する工程、
を含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
3)2)の工程で挿入した第2のバーコード配列と非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより、第3のバーコード配列を第3の制限酵素部位に挿入する工程を含み、任意に、3)と同様の工程を繰り返すことにより、第4以降のバーコード配列が第4以降の制限酵素部位に挿入される、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
相同組換えが各バーコード配列及び選択マーカー配列を含む相同組換えベクターを用いて行われる、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
選択マーカー配列がウラシル合成遺伝子又はリジン合成遺伝子である、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
複数の同一の又は異なる目的遺伝子又は当該目的遺伝子の発現産物を製造する方法であって、
1)請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工染色体ベクターのバーコード配列内に目的遺伝子を挿入する工程;及び
2)1)で得られた人工染色体ベクターを宿主内で維持し、培養する工程を含む、方法。
【請求項19】
宿主内で同一の目的遺伝子が増幅される、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
目的遺伝子が宿主にとって異種である、請求項
18又は
19に記載の方法。
【請求項21】
宿主がrDNA不安定株である、請求項
18~
20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
rDNA不安定株においてCTF4遺伝子又はRTT109遺伝子が欠損している、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
2)の工程において、宿主が製造するFob1タンパク質の発現又は抑制を行うことにより、前記目的遺伝子又は発現産物の発現量を制御する工程を含む、請求項
18~
22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
宿主細胞内において、異種の細胞に由来する複数の異なる目的遺伝子又は当該目的遺伝子の発現産物の挙動を解析する方法であって、
1)請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工染色体ベクターであって、バーコード配列内に目的遺伝子が挿入されている人工染色体ベクターを宿主内で維持し、培養する工程;及び
2)前記目的遺伝子又はその発現産物の機能、あるいはそれらの宿主内における挙動を解析する工程、
を含む、方法。
【請求項25】
2)の工程において、発現産物の発現レベルが測定される、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
発現レベルの測定が、目的遺伝子の転写産物の量又は翻訳産物の量の測定を含む、請求項
25に記載の方法。
【請求項27】
2)の工程が目的遺伝子又はその発現産物を活性化又は阻害する物質の存在下又は不在下で実施される、請求項
25~
26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記物質が宿主にとって同種又は異種である、請求項
27に記載の方法。
【請求項29】
2)の工程が、前記人工染色体ベクターが導入されていない宿主との比較を含む、請求項
24~
28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
目的遺伝子が薬剤耐性遺伝子であり、人工染色体ベクターのrDNAがヒト由来であり、宿主が酵母である、請求項
24~
29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
リポソームと、請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工染色体ベクターとを含む、人工細胞。
【請求項32】
人工細胞を製造する方法であって、リポソーム内に請求項1~
11のいずれか一項に記載の人工染色体ベクターを導入する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く、人工染色体ベクター及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノムの組成では、大小合わせると全ゲノムのおおよそ半分が反復性の配列で占められている。このような反復配列としてリボソームRNA遺伝子(rDNA)がある。リボソームは細胞中にもっとも多量に存在するタンパク質-RNA複合体であり、その遺伝子であるリボソームRNA遺伝子(rDNA)も多コピー(rDNAリピート)で存在する。
【0003】
例えば出芽酵母では約150コピーが12番染色体に直列に繰り返して存在し、ゲノム全体の約10%を占める。リボソームはすべての生物にとって必須な翻訳装置であり、多コピーのrDNAの状態を維持する機構もまた重要である。実際に出芽酵母のrDNAを人為的に2コピーに減らしても、また150まで回復する。つまり2コピー(18kb)が150コピー(1.4Mb)に伸長する。このような増幅によるコピー数の回復は他の生物でも観察される。
【0004】
rDNA上に多重に遺伝子を挿入するためのカセットとして、WO2016/027943A1号には、rDNA NTS(Nontranscript Sequence)のN末端断片遺伝子、挿入目的遺伝子、プロモーター領域を含む栄養要求性選択標識マーカー遺伝子及びサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)rDNA NTSのC末端断片遺伝子を順次に含む入カセットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
WO2016/027943A1号に記載の遺伝子多重挿入カセットでは目的遺伝子が、NTSの遺伝子間領域2(IGS2)に挿入されている(
図1a等)。しかしながら、IGS2の挿入部位には、コヒーシンというrDNAの安定性に関わる因子の結合配列が存在しており、IGS2に目的遺伝子を挿入した場合、挿入により結合配列が壊れる可能性がある。
【0007】
本発明は、多数の遺伝子を組み込むことができる人工染色体ベクター及び、人工染色体を用いた新規用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、rDNAの染色体機能の特異性を利用することで、多数の遺伝子を組み込むことができる人工染色体ベクターを完成させた。また、このような人工染色体ベクターを利用することで、人工遺伝子増幅系の提供など、新規用途の提供が可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本願発明は以下の発明を包含する。
[1]
真核生物の染色体に由来する人工染色体ベクターであって、複数のリボソームRNA遺伝子(rDNA)の反復単位と、各反復単位間に存在する遺伝子間領域とを含み、遺伝子間領域における遺伝子間領域1(IGS1)が、目的遺伝子を組み込み、且つ識別するためのバーコード配列を含む、人工染色体ベクター。
[2]
遺伝子間領域が、rDNA遺伝子の5'側から順に、自己複製配列(ARS)、コヒーシン結合部位、5S rDNA配列、非コードプロモーター(E-pro)配列及び複製阻害(RFB)配列を含む、[1]に記載の人工染色体ベクター。
[3]
遺伝子間領域がコンデンシン結合部位を更に含む、[2]に記載の人工染色体ベクター。
[4]
各バーコード配列が、5S rDNA配列とE-pro配列との間に位置する制限酵素部位に挿入されている、[1]~[3]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[5]
テロメア配列及びセントロメア配列を更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[6]
各バーコード配列が、目的遺伝子の発現を制御するためのプロモーター配列及びターミネーター配列を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[7]
各目的遺伝子の3'側にターミネーター配列が、5'側にプロモーター配列が配置される、[6]に記載の人工染色体ベクター。
[8]
反復単位数が2~150である、[1]~[7]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[9]
真核生物がヒト又は酵母である、[1]~[8]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[10]
酵母が出芽酵母であり、rDNAの反復単位が出芽酵母の第12染色体に由来する、[9]に記載の人工染色体ベクター。
[11]
前記プロモーターがガラクトース誘導(GAL)プロモーターである、[6]~[10]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[12]
挿入される目的遺伝子が、前記人工染色体ベクターを導入する宿主と同種又は異種である、[1]~[11]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[13]
バーコード配列に挿入される前記目的遺伝子がそれぞれ同一であるか又は互いに異なる、[1]~[12]のいずれかに記載の人工染色体ベクター。
[14]
[1]~[13]のいずれかに記載の人工染色体ベクターを含む、真核細胞。
[15]
[1]~[13]のいずれかに記載の人工染色体ベクターを製造する方法であって、IGS1内にバーコード配列を挿入する工程を含む、方法。
[16]
バーコード配列を挿入する工程が、
1)rDNAと非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより第1のバーコード配列及び選択マーカー配列を第1のIGS1内に挿入する工程;及び
2)1)で挿入した第1のバーコード配列と非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより、第2のバーコード配列及び1)の選択マーカー配列と異なる選択マーカー配列を第2のIGS1内に挿入する工程、
を含む、[15]に記載の方法。
[17]
3)2)の工程で挿入した第2のバーコード配列と非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより、第3のバーコード配列及び2)の選択マーカー配列と異なる選択マーカー配列を第3のIGS1内に挿入する工程を含み、任意に、3)と同様の工程を繰り返すことにより、第4以降のバーコード配列が第4以降のIGS1内に挿入される、[16]に記載の方法。
[18]
相同組換えが各バーコード配列及び選択マーカー配列を含む相同組換えベクターを用いて行われる、[17]に記載の方法。
[19]
選択マーカー配列がウラシル合成遺伝子又はリジン合成遺伝子である、[18]に記載の方法。
[20]
複数の同一の又は異なる目的遺伝子又は当該目的遺伝子の発現産物を製造する方法であって、
1)[1]~[13]のいずれかに記載の人工染色体ベクターのバーコード配列内に目的遺伝子を挿入する工程;及び
2)1)で得られた人工染色体ベクターを宿主内で維持し、培養する工程を含む、方法。
[21]
宿主内で同一の目的遺伝子が増幅される、[20]に記載の方法。
[22]
目的遺伝子が宿主にとって異種である、[20]又は[21]に記載の方法。
[23]
宿主がrDNA不安定株である、[20]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]
rDNA不安定株においてCTF4遺伝子又はRTT109遺伝子が欠損している、[23]に記載の方法。
[25]
2)の工程において、宿主が製造するFob1タンパク質の発現又は抑制を行うことにより、前記目的遺伝子又は発現産物の発現量を制御する工程を含む、[20]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26]
宿主細胞内において、異種の細胞に由来する複数の異なる目的遺伝子又は当該目的遺伝子の発現産物の挙動を解析する方法であって、
1)[1]~[13]のいずれかに記載の人工染色体ベクターであって、バーコード配列内に目的遺伝子が挿入されている人工染色体ベクターを宿主内で維持し、培養する工程;及び
2)前記目的遺伝子又はその発現産物の機能、あるいはそれらの宿主内における挙動を解析する工程、
を含む、方法。
[27]
2)の工程において、発現産物の発現レベルが測定される、[26]に記載の方法。
[28]
発現レベルの測定が、目的遺伝子の転写産物の量又は翻訳産物の量の測定を含む、[27]に記載の方法。
[29]
2)の工程が目的遺伝子又はその発現産物を活性化又は阻害する物質の存在下又は不在化で実施される、[26]~[28]のいずれかに記載の方法。
[30]
前記物質が宿主にとって同種又は異種である、[29]に記載の方法。
[31]
2)の工程が、前記人工染色体ベクターが導入されていない宿主との比較を含む、[26]~[30]のいずれかに記載の方法。
[32]
目的遺伝子が薬剤耐性遺伝子であり、人工染色体ベクターのrDNAがヒト由来であり、宿主が酵母である、[26]~[31]のいずれかに記載の方法。
[33]
リポソームと、[1]~[13]のいずれかに記載の人工染色体ベクターとを含む、人工細胞。
[34]
人工細胞を製造する方法であって、リポソーム内に[1]~[13]のいずれかに記載の人工染色体ベクターを導入する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、rDNAの増幅及び維持機構を利用することで、種々の用途に利用可能な人工染色体ベクターの提供が可能になる。例えば、現行のプラスミドを利用した系では挿入できる遺伝子の数に限りがあり、また挿入した遺伝子のサイズや性質によってはプラスミドの安定性(維持効率)が低下するという弱点があるが、安定性維持機構を有する人工染色体ベクターにおいては、極めて安定に多数の遺伝子の導入、維持が可能となる。
【0011】
遺伝子増幅はタンパク質を多量に生産する方法であるが、宿主細胞を用いたin vivoの系ではその制御の難しさから実用化されていない。同一遺伝子をコードする人工染色体ベクターを用いることで、宿主細胞内でその遺伝子がコードするタンパク質を連続的に合成できる系(in vivo PCR)、ひいては有用タンパク質などの多量生産系の構築が可能になる。加えて、この系は、天然の増幅系を利用するため高効率であり、複製を阻害しDNAの二本鎖切断を誘導するFob1タンパク質のON/OFFにより、増幅の制御が可能である。また、従来の多コピープラスミドによる多量生産系とは異なり、薬剤選択なども必要なく増幅遺伝子を染色体上で安定に保持させることができる。
【0012】
本発明の人工染色体ベクターによれば、RNAの大量生産も可能になる。
【0013】
ヒトに比較的近いモデル生物である酵母において人工染色体ベクターを発現することで、in vitroとin vivoの中間の位置にある新規のアッセイ系、「in yeast」実験系を構築することが可能になる。in yeast実験系とは、異なる生物の一反応に関わる一連の遺伝子群をそのまま酵母由来の人工染色体ベクターにクローニングし、酵母内で外来反応系を動かし、必要因子の同定などの機能解析を行う実験手法である。本発明の人工染色体ベクターによれば、このようなヘテロ反応系の新規解析モデルの構築が可能となる。
【0014】
例えば、ヒト型のタンパク質生産系をもつ酵母を作成し、創薬や薬剤ターゲットの解析を行うことや、酵母でヒトの修復系を再構築して、がんの発生や細胞老化のメカニズムを解析することなどが想定される。他にも、従来マウスや他の動物個体を用いて行われている研究を酵母において行うことなども期待される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、rDNAの増幅・維持機構の模式図である。
【
図2】
図2は、rDNA増幅モデルの模式図である。
【
図3】
図3は、出芽酵母のrDNAの構造の模式図である。
【
図4】
図4は、人工染色体ベクターの作成方法の一例を示す。
【
図5】
図5は、バーコードの作成方法の一例を示す。
【
図6】
図6は、バーコードの組み込みに使用したベクターp1
stBC、p2
ndBC及びp3
rdBCの構造を示す。
【
図7】
図7は、目的遺伝子の組み込みに使用したベクターの作成方法を示す。
【
図8】
図8は、2コピーrDNA株へのURA3 lacO断片の導入と、URA3 lacO断片の増幅を示す。
【
図9】
図9は、URA3 lacO断片の増幅をパルスフィールド電気泳動で解析した結果を示す。
【
図10】
図10は、蛍光顕微鏡のもとで、URA3-lacOカセットがrDNAと共に増幅されていることを確認した結果を示す。
【
図11】
図11は、ベクターとして、R-recombinase発現プラスミドYEp181GALpR(GALp-Rec)を目的遺伝子の組み込みのためのベクターとして使用したシステマティックな遺伝子の挿入系を示す。
【
図12】
図12は、人工染色体ベクターによるヒトRNAi関連タンパク質の発現を説明したものである。
【
図13】
図13は、ヒトsiRNA生産系の酵母内再構成を説明したものである。
【
図14】
図14は、ヒトsiRNAによる遺伝子のサイレンシングを説明したものである。
【
図15】
図15は、SIR2遺伝子を出芽酵母の4番染色体のTRP1遺伝子の上流に導入するプロトコールを図示したものである。
【
図16】
図16は、15個のバーコード配列の挿入を確認したPCRの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明の範囲は以下の実施形態に限定して解釈されない。
【0017】
(人工染色体ベクター)
第一の態様において、真核生物の染色体に由来する人工染色体ベクターであって、複数のリボソームRNA遺伝子(rDNA)の反復単位と、各反復単位間に存在する遺伝子間領域とを含み、遺伝子間領域における遺伝子間領域1(IGS1)が、目的遺伝子を組み込み、且つ識別するためのバーコード配列を含む、人工染色体ベクターが提供される。
【0018】
人工染色体ベクターの由来となる真核生物はヒトやその他の哺乳類のような高等哺乳動物に限定されず、ゼニゴケのような真核植物や、高等真核生物の持つ特徴を保存している酵母のような真菌類、例えば出芽酵母や分裂酵母のような単細胞生物も包含する。真核生物の中でも酵母が好ましく、特にサッカロマイセス・セレビジエのような出芽酵母が好ましい。
【0019】
本明細書で使用する場合、「人工染色体ベクター」とは、真核生物の染色体の複製機構を利用したベクターであって、宿主細胞内で自律複製や娘細胞への分配が可能であり、宿主細胞内で安定的に保持され、宿主細胞の染色体とは独立して存在することができるベクターを意味する。
【0020】
リボソームは細胞中にもっとも多量に存在するタンパク質-RNA複合体であり、その遺伝子であるrDNAも多コピー(rDNAリピート)で存在する。真核細胞のrDNAは、染色体上に100回以上繰り返して存在する反復遺伝子であり、例えば、出芽酵母では約150コピーが12番染色体に直列に繰り返して存在し、出芽酵母のゲノム全体の約10%を占める。出芽酵母の場合、1つの反復単位は9.1kbで、その内訳は約6kbが遺伝子(35S、5S rDNA)、残りの約3kbが遺伝子間領域に含まれる非コード領域である。
【0021】
リボソームはすべての生物にとって必須な翻訳装置であり、多コピーのrDNAの状態を維持する機構もまた重要である。実際に出芽酵母のrDNAを人為的に2コピーに減らしても、また150まで回復する。つまり2コピー(18kb)が150コピー(1.4Mb)に伸長する。このような増幅によるコピー数の回復は他の生物でも観察される。
【0022】
真核細胞のrDNAは、コード領域と非コード領域(Nontranscript Sequence:NTSともいう。)とで構成されている。姉妹染色分体の接着に関与するコヒーシンや染色体の凝縮に関与するコンデンシンなど、rDNAの染色体の維持に関与する因子は、rRNA遺伝子間、具体的には、遺伝子間領域(Intergenic Spacer:IGS)に存在する、タンパク質をコードしていない非コード領域に集中している(
図1)。
【0023】
rDNAの反復単位間に存在する遺伝子間領域は、2つの部位IGS1とIGS2から構成され、その間に5S遺伝子が介在している。本明細書で使用する場合、「遺伝子間領域」はIGS1、5S rDNA配列及びIGS2を含む領域を意味する。遺伝子間領域は転写の調節や転写の終結の制御に関与していると考えられる。
【0024】
rDNA特有の機能として、多コピーの状態を作り出す遺伝子増幅作用とコピーの脱落を防ぐ組換え抑制作用がある。これまでの本発明者らの研究により
図2に示すようなDNAの複製阻害に依存した増幅モデルが提唱されている(Kobayashi T, Ganley ARG (2005) Recombination regulation by transcription-induced cohesin dissociation in rDNA repeats. Science 309: 1581-1584;Kobayashi T, Horiuchi T, Tongaonkar P, Vu L, Nomura M (2004) SIR2 regulates recombination between different rDNA repeats, but not recombination within individual rRNA genes in yeast. Cell 117: 441-453)。
【0025】
図2のモデルでは、rDNAの遺伝子間領域に存在する複製阻害点(RFB:replication fork barrier)においてDNAの二本鎖切断(DSB:DNA double-strand break)が生じ、その切断末端が後戻りして隣のコピーの姉妹染色分体との相同組換えで修復される。そこから複製が再開されるため、同じ領域が2度複製されることになりコピー数が増加する(
図2右)。この「後戻り組換え修復」には非コードプロモーターからの転写によるコヒーシン、コンデンシンの乖離が必要であることが判明している。
【0026】
もう一方のコピー数維持に働く「組換え抑制作用」については、これまでに、rDNAの安定性を低下させる、つまりコピー数の変動が激しい変異株が多数同定されている。
【0027】
遺伝子間領域は、rDNA遺伝子の5'側から順に、自己複製配列(ARS)、コヒーシン結合部位、5S rDNA配列、非コードプロモーター(E-pro)配列及び複製阻害(RFB)配列を含む。
【0028】
人工染色体ベクターに含まれる構成要素としては、リボソームRNA遺伝子(rDNA)の反復単位や、各反復単位間に存在する遺伝子間領域とがある。人工染色体の由来となる真核生物にもよるが、酵母の場合、反復単位数は2~150個程度である。しかしながら、上限は150個に限定されない。酵母が出芽酵母の場合、rDNAの反復単位は出芽酵母の第12染色体に存在する。
【0029】
人工染色体は、その他にも人工染色体ベクターが自律複製するための複製開始配列(ARS)、コヒーシン結合部位(CAR)、コンデンシン結合部位、テロメア、セントロメア、非コードプロモーター、複製阻害配列(RFB)などを含んでもよい。一例として出芽酵母のrDNAの構造を
図3に示す。
【0030】
図3に記載の構造は例示であり、人工染色体ベクターは更に、薬剤耐性遺伝子、宿主で発現する選択マーカー遺伝子(ポジティブ選択マーカー遺伝子又はネガティブ選択マーカー遺伝子)等を含んでもよい。選択マーカー遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP又はEGF)等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子、β-ガラクトシダーゼ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、栄養要求性に関わる遺伝子等が挙げられる。挿入に用いた選択マーカーは相同組換えや、Cre-LoxP等のリコンビナーゼで取り除くことができる。
【0031】
遺伝子間領域1(IGS1)は、目的遺伝子を組み込み、且つ識別するためのバーコード(BC)配列を含む。本明細書で使用する場合、「バーコード配列」とは、人工染色体において目的遺伝子を挿入されるための核酸であって、複数の目的遺伝子を互いに識別するために固有の配列を有する核酸を意味する。各バーコード配列は互いに異なる配列、つまり、各rDNAコピーに固有の配列を有するが、目的によっては、一部のバーコードが同一の配列を有していてもよい。
【0032】
バーコード配列は、例えば、化学的に合成したランダムな配列を持つ一本鎖DNAをDNAポリメラーゼにより二本鎖にし、それらをつなぎ合わせて作成することができる。バーコード配列は、内部で2次構造をとりにくいもの(GCの連続した配列がない)や、クローニングに使用する制限酵素の配列を含まないものが好ましい。バーコード配列の一例を表4に示す。
【0033】
バーコード配列の挿入部位は所望とする効果に影響を及ぼさない限りIGS1内のいずれでもよいが、5S rDNA配列と非コードプロモーター(E-pro)配列との間、又はE-pro配列と複製阻害(RFB)配列との間が好ましい。
【0034】
目的遺伝子を挿入する観点から、バーコード配列は制限酵素や組換え酵素の認識部位を有していることが好ましい。このような認識部位には、例えばloxP(Creリコンビナーゼ認識部位)、FRT(Flpリコンビナーゼ認識部位)、φC31attB及びφC31attP(φC31リコンビナーゼ認識部位)、R4attB及びR4attP(R4リコンビナーゼ認識部位)、TP901-1attB及びTP901-1attP(TP901-1リコンビナーゼ認識部位)、Bxb1attB及びBxb1attP(Bxb1リコンビナーゼ認識部位)等がある。
【0035】
上記の認識部位で特異的に目的遺伝子等と組換えを起こすための酵素は、Creインテグレース(Creリコンビナーゼ)、Flpリコンビナーゼ、φC31インテグレース、R4インテグレース、TP901-1インテグレース、Bxb1インテグレース等である。
【0036】
更に、各バーコード配列は、目的遺伝子の挿入の標的としての役割を果たすことができる。バーコード配列は目的遺伝子の発現を制御するためのプロモーター配列及びターミネーター配列を含んでもよい。この場合、各目的遺伝子の3'側にターミネーター配列が、5'側にプロモーター配列が配置され得る。プロモーターは宿主で誘導可能なものであればよく、特に限定されないが、出芽酵母で使用可能なプロモーターの例として、誘導的プロモーター、例えば、ガラクトース誘導(GAL)プロモーターや、アルカリフォスファターゼプロモーター(PHO)、銅イオンの添加で活性化するCUP1プロモーター、更にはADH1等の構成的プロモーター等が挙げられる。GALプロモーターとしてはGAL1、GAL7、GAL10などがある。
【0037】
バーコード配列は、短すぎると相同組換えを利用した遺伝子の挿入効率が下がり、長すぎると作成が困難なため、およそ600bpが好ましい。
【0038】
バーコード配列は相同組換え等の当業者に公知の方法を用いて人工染色体ベクター内に挿入され得る。一例を
図4に示すと、例えば、1)rDNAリピートの横の非rDNAの配列を用いて選択マーカー遺伝子(LYS2)とユニークな約600bpの第1のバーコード配列(BC-1)が相同組換えでベクター内に導入される。続いて、2)BC-1と非rDNAの配列を利用して隣に新たなユニークな第2のバーコード配列(BC-2)と、異なる選択マーカー遺伝子であるURA3とrDNAが導入され、同時にLYS2が除かれる。3)第3のバーコード配列についても同様にBC2と非rDNAの配列間での相同組換えによりLYS2-BC-3-rDNA-断片が導入され、同時にURA3が除かれる。第4以降のバーコード配列についても2)、3)の工程をバーコード配列のみを変えて繰り返すことにより順番にユニークなバーコード配列を有するrDNAコピーが付加され、最終的に所望とする人工染色体ベクターが構築され得る。
【0039】
各バーコード配列に対しては更に、シーケンシングのためのアダプター配列のような任意の配列を付加することもできる。
【0040】
rDNAのリピートは、別の染色体にも形成・維持されることが知られている(Oakes et al, Mol Cell Biol 26: 6223-6238, 2006)。そのため、効率の観点からは、異なる細胞において短い染色体ベクターを別々に作成し、最後にそれらの染色体を交配により1つの細胞にまとめることにより、短期間で多コピーのバーコードを持つ細胞を作ることができる。
【0041】
rDNAの安定性を高める観点から、各バーコード配列は、5S rDNA配列とE-pro配列との間に位置する制限酵素部位に挿入されることが好ましい。
【0042】
バーコード配列中に挿入される目的遺伝子は、人工染色体の用途に応じて当業者が適宜決定することができる。目的遺伝子は、人工染色体ベクターを導入する宿主と同種又は異種であってもよいし、それぞれ同一であるか又は互いに異なっていてもよい。
【0043】
目的遺伝子は、適当なプロモーターの制御下に置かれ、さらに、ターミネーター、エンハンサー、マーカー等と組み合わせて人工染色体ベクター内に組み込まれてもよい。
【0044】
多数のバーコード配列に同一の遺伝子を挿入した人工染色体ベクターを作成することで、有用タンパク質などの大量生産が可能な人工遺伝子増幅系(in vivo PCR)を実現することができる。従来の多コピープラスミドによる多量生産系とは異なり、薬剤選択なども必要なく、増幅遺伝子を染色体上で安定に保持させることができるという利点もある。
【0045】
多くの生理反応には複合体を形成した複数のタンパク質が関係しており、それらすべての因子を発現しないと解析に必要な反応系の再構築はできない。プラスミドを利用した系では挿入できる遺伝子の数に限りがあり、また挿入した遺伝子のサイズや性質によってはプラスミドの安定性(維持効率)が低下するという弱点がある。一方、人工染色体ベクターは、安定性を維持する機構を有するため、極めて安定に多数の異種遺伝子の導入、維持が可能である。特に、各rDNAコピーに固有のバーコード配列を挿入することにより、導入したい遺伝子を狙ったコピーに1つずつ確実に挿入することもできる。そのため、解析を必要とするヒトのタンパク質複合体をコードする人工染色体ベクターを宿主内に導入することにより、タンパク質複合体やその反応系を異なる宿主細胞内でそのまま再構築することが可能になる。
【0046】
人工染色体ベクターを用いた目的遺伝子の増幅は、DNAの複製を阻害し、DNAの二本鎖切断を誘導するFob1タンパク質のオン、オフにより制御することができる(
図2)。Fob1は35S rDNA転写終結点近傍にある複製阻害配列(RFB)に特異的に結合し、複製開始点(ARS)から進行してくるDNA複製フォークを阻害する活性を有する。Fob1は更にDNAの二本鎖切断を引き起こし、姉妹染色体間のずれ(unequal sister-chromatid recombination)による増幅組換えを誘導する。
【0047】
RFBは、rDNA上にある双方向性非コードプロモーターのE-proと共同してrDNAの安定性維持機構に関与している。E-proは、rDNAのコピー数が減少するとその発現が誘導され、rDNAのコピー数を増大させる(
図2右下)。サーチュインタンパク質Sir2はE-proを制御することによりrDNAのコピー数を制御する(
図2左下)。
【0048】
(真核細胞)
第二の態様において、人工染色体ベクターを含む、真核細胞が提供される。
【0049】
人工染色体ベクターはrDNAの遺伝子間領域から構成されることから、人工染色体が導入された真核細胞は、内在する遺伝子を破壊することなく、一定のコピー数で安定に人工染色体を保持し得る。
【0050】
人工染色体を含む真核細胞は特に限定されないが、その例として酵母などの微生物細胞が挙げられる。酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocckera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。汎用性の観点からは、サッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、出芽酵母、特にサッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
【0051】
人工染色体ベクターを真核細胞へ導入する方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、トランスフォーメーション法、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法等の方法が挙げられる。マーカー遺伝子の発現や目的遺伝子の活性を指標として、形質転換された真核細胞が選択され得る。
【0052】
(人工染色体ベクターの製造方法)
第三の態様において、IGS1内にバーコード配列を挿入する工程を含む、人工染色体ベクターを製造する方法が提供される。
【0053】
バーコード配列の挿入部位は所望とする効果に影響を及ぼさない限りIGS1内のいずれでもよいが、5S rDNA配列と非コードプロモーター(E-pro)配列との間が好ましい。
【0054】
既に
図4を参照して説明したとおり、バーコード配列の挿入は相同組換え等の当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、以下の工程を経由することで複数のバーコード配列をそれぞれ異なるIGS1内に挿入することができる:
1)rDNAと非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより第1のバーコード配列及び選択マーカー配列を第1のIGS1内に挿入する工程;
2)1)で挿入した第1のバーコード配列と非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより、第2のバーコード配列及び1)の選択マーカー配列と異なる選択マーカー配列を第2のIGS1内に挿入する工程。
【0055】
本明細書で使用する場合、「非rDNA遺伝子領域」とは、rDNAリピートに存在する、リボソームRNA遺伝子(rDNA)配列とその遺伝子間領域以外の領域を意味する。
【0056】
第3以降のバーコード配列の挿入についても、更に以下の工程を順次繰り返すことにより行うことができる:
3)2)の工程で挿入した第2のバーコード配列と非rDNA遺伝子領域の相同組換えにより、第3のバーコード配列及び2)の選択マーカー配列と異なる選択マーカー配列を第3のIGS1内に挿入する工程。
【0057】
相同組換えは、各バーコード配列及び選択マーカー配列を含む相同組換えベクターを用いて行ってもよい。相同組換えベクターは、バーコード配列の5'側領域及び3'側領域の塩基と相同な両配列の間に、挿入すべきDNAカセットを連結して得ることができる。相同組換えベクターとしては、例えばプラスミド、ファージ、コスミド、ウイルスなどが挙げられ、好ましくはプラスミドである。相同組換えベクターを構築するための基本ベクターには、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカー遺伝子、複製開始点などの、ベクター構築において一般的に挿入される配列を含めてもよい。
【0058】
選択マーカー遺伝子はウラシル合成遺伝子又はリジン合成遺伝子であってもよい。
【0059】
限定することを意図するものではないが、人工染色体ベクターの製造方法の一例を以下に記載する。
【0060】
第一のバーコード配列の挿入
35SrDNAの3'配列からIGS1までの領域と非rDNA配列の間に、ユニークな約600bpの第1のバーコード配列(BC-1)と選択マーカー遺伝子(LYS2)とを挟んだプラスミド(1stBC)を作成し、そのベクター部分を切り離して低コピーのrDNAを有する宿主に導入する。リジンを含まない培地で選択すると35SrDNAと非rDNA配列が、それぞれ宿主の相同領域と相同組換えを起こして入れ替わり、結果的にBC-1とLYS2がrDNAの末端領域に導入された株が単離される。
【0061】
第二のバーコード配列の挿入
続いてBC-1と非rDNA配列間に、第2のバーコード配列(BC-2)、選択マーカー遺伝子(URA3)とハイグロマイシン耐性の変異を持ったrDNA1コピーを挟んだプラスミド(2ndBC)を作成し、ベクター部分を切り離して、BC-1とLYS2がrDNAの末端領域に挿入された株に導入する。ウラシルを含まない培地で選択するとBC-1と非rDNA配列が、それぞれ宿主の相同領域と相同組換えを起こして入れ替わり、結果的にLYS2が取り除かれ、BC-2、rDNAとURA3がrDNAの末端領域に導入された株が単離される。
【0062】
第三のバーコード配列の挿入
続いてBC-2と非rDNA配列間に、第3のバーコード配列(BC-3)、選択マーカー遺伝子(LYS2)とハイグロマイシン耐性の変異を持ったrDNA1コピーを挟んだプラスミド(3rdBC)を作成し、ベクター部分を切り離して、BC-2とURA3がrDNAの末端領域に挿入された株に導入する。リジンを含まない培地で選択するとBC-2と非rDNA配列が、それぞれ宿主の相同領域と相同組換えを起こして入れ替わり、結果的にURA3が取り除かれBC-3、rDNAとLYS2がrDNAの末端領域に導入された株が単離される。
【0063】
第2と第3のバーコード配列の挿入で行った操作をバーコード配列のみを変えて繰り返すことにより、第一から順番にユニークなバーコード配列を有するrDNAコピーが付加された染色体ベクターを構築することができる。
【0064】
染色体ベクターに挿入するバーコード配列の数が増大すると、リボソームRNA遺伝子が不安定化し、コピーの脱落が生じる場合がある。そのため、挿入されるバーコード配列が多い場合、例えばバーコード配列が10以上の場合、リボソームRNA遺伝子をより安定化することが好ましい。例えば、サーチュインタンパク質Sir2はリボソームRNA遺伝子のコピー数を制御しており、Sir2をコードするSIR2遺伝子を過剰に発現させるとリボソームRNA遺伝子が安定化することが知られている(Ganley, A.R.D., Ide, S., Saka, K., and Kobayashi, T. (2009). The effect of replication initiation on gene amplification in the rDNA and its relationship to aging. Molecular Cell , 35, 683-693)。また、酵母NuA4アセチルトランスフェラーゼ複合体のサブユニットの一つをコードするEAF3遺伝子を破壊することでもリボソームRNA遺伝子を安定化することができる(Wakatsuki, T., Sasaki, M., and Kobayashi, T. (2019) Defects in the NuA4 acetyltransferase complex increases stability of the ribosomal RNA gene and extends replicative lifespan. Genes Genet. Systems, 94, 197-206)。
【0065】
そのため、人工染色体ベクターに含めるバーコード配列の数が多い場合、例えばその数が10個以上の場合、宿主細胞にSIR2遺伝子を導入するか、宿主細胞のEAF3遺伝子を破壊することにより、リボソームRNA遺伝子を安定化するとともに、コピーの脱落を防ぐことができる。SIR2遺伝子の導入部位は特に限定されないが、例えば出芽酵母を宿主とする場合、4番染色体のTRP1遺伝子の上流にSIR2遺伝子を導入してもよい。SIR2遺伝子の導入に代えて、宿主細胞においてプラスミド ベクターにクローンしたSIR2遺伝子を用いて過剰発現させてもよい。EAF3遺伝子の破壊は常法により行うことができる。例えば、EAF3遺伝子の一部又は全部を欠失させたり、その途中に別の遺伝子を挿入する等してその機能を失わせればよい。
【0066】
(人工染色体ベクターの用途)
第四の態様において、人工染色体を用いた種々の方法が提供される。
【0067】
例えば、rDNAリピートを有する人工染色体ベクターは、各rDNAコピーに固有のバーコード配列が挿入されているため、導入したい目的遺伝子を狙ったコピーに1つずつ確実に挿入することができる。そのため、人工染色体ベクターを用いることで複数の同一の又は異なる目的遺伝子又はその発現産物を製造することが可能になる。
【0068】
目的遺伝子又はその発現産物の製造は、
1)人工染色体ベクターのバーコード配列内に目的遺伝子を挿入する工程;及び
2)1)で得られた人工染色体ベクターを宿主内で維持し、培養する工程、
を含んでもよい。
【0069】
培養工程において、宿主はFob1等の複製阻害タンパク質を発現し、これによりrDNAの増幅が誘導されると、挿入された目的遺伝子もrDNAと一緒に増幅される。増幅の確認は、サザン解析、定量PCR、パルスフィールド電気泳動などを用いて行うことができる。
【0070】
目的遺伝子又はその発現産物を大量に製造する場合、同一の目的遺伝子が人工染色体ベクター中に挿入される。
【0071】
宿主やその培養条件は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。例えば、目的遺伝子を大量に生産する観点からは、rDNAのコピー数を増大させる宿主が好ましい。例えば、酵母においては、DNA複製に関わるCTF4や組換えに関わるRTT109の欠損株ではrDNAが不安定化(rDNAのコピー数の変動頻度が上昇)し、且つコピー数が通常の3倍程度に上昇することが知られている。
【0072】
CTF4はレプリソームの構成タンパク質である。レプリソームは、鋳型DNAを巻きもどすCMGヘリカーゼ、リーディング鎖の合成を担うDNAポリメラーゼε、ラギング鎖の合成を開始するDNAポリメラーゼα-プライマーゼ複合体、ラギング鎖の伸長を担うDNAポリメラーゼδ及びアクセサリータンパク質から構成される。
【0073】
CTF4の欠損により、DNA二本鎖切断の末端は削り込みをうけて相同組換え経路により修復されるようになり、rDNAのコピー数が異常に増幅する。
【0074】
RTT109はヒストンアセチル化酵素であり、その遺伝子はクロマチン構造の変化に関与している。RTT109遺伝子の発現が低下すると、rDNAがローリングサークル型DNA複製を開始し、コピー数が増大することが知られている。
【0075】
rDNA不安定株はその他の方法によっても作成することができる。例えば、Fob1を多量発現したり、DNA複製開始点の一部を欠損させて開始活性を弱めることによりrDNAを不安定化することができる。不安定化は、rDNAが存在している12番染色体の長さが細胞ごとに変化し、泳動後のバンドがブロード(スミア)になることで判定できる。あるいは、rDNAから組換えによって切り出される環状分子(環状rDNA)の量はrDNAの不安定化と相関があることが報告されており、この量を測定することによっても不安定化を確認することができる。
【0076】
目的遺伝子又は発現産物の発現量の制御は当業者に公知の手法により行うことができる。例えば、宿主がDNAの複製を阻害し、DNAの二本鎖切断を誘導するFob1のようなタンパク質又はその遺伝子を産生する場合、そのタンパク質又は遺伝子のオン、オフにより発現量を制御することができる。
【0077】
人工染色体ベクターを用いる実験系は、精製タンパク質を用いたin vitroの実験系では活性が見られないような生理作用の解析を可能にする。例えば、DNAの複製や組換え反応は関係する因子が多く、in vitroでの再構築が難しく、必要十分な因子が未だ確定されていない。そのような場合でも例えばヒトのDNA修復反応に関わる一連の遺伝子を酵母染色体ベクターに入れて、ヒトの修復系を酵母で動かし解析することが可能となる。
【0078】
限定することを意図するものではないが、人工染色体ベクターは、以下のような解析方法に使用することができる。
・ヒトのDNA修復系に関わる遺伝子を人工染色体ベクターに導入し、酵母でヒトの修復系を再構築して、がんの発生や細胞老化のメカニズムを解析する。
・マウスや他の動物個体を用いて行われている研究に関わる遺伝子を人工染色体ベクターに導入し、これを導入した酵母などの宿主でそれらの遺伝子や機能を解析する。
・複数のタンパク質が集合して働く複合体に関わる遺伝子を人工染色体ベクターに導入し、酵母内で再構成してその機能を解析する。
・人工染色体ベクターに導入した遺伝子の変異体を宿主の酵母を変異原処理し、その挙動を解析する。
・人工染色体ベクターに異種生物の遺伝子を導入し、それらの機能を解析する。
・人工染色体ベクターに光合成に関わる遺伝子を導入し光エネルギーを利用できる酵母を作成し、その挙動を解析する。
・人工染色体ベクターにヘテロクロマチンの生成に関わる遺伝子を導入し、その挙動を解析する。
・人工染色体ベクターにヒトのヒストン、転写関連因子、翻訳関連因子、タンパク質修飾因子に関わる遺伝子を導入し、ヒト型のタンパク質生産系をもつ酵母を作成し、創薬や薬剤ターゲットの解析を行う。
・人工染色体ベクターにヒトや有用生物の病気に関わる遺伝子とその代謝系に関わる遺伝子導入し、創薬や薬剤ターゲットの解析を行う。
【0079】
上記の解析は、例えば、宿主細胞内において、同種又は異種の細胞に由来する複数の異なる目的遺伝子又は当該目的遺伝子の発現産物の挙動を解析する方法であって、
1)バーコード配列内に目的遺伝子が挿入されている人工染色体ベクターを宿主内で維持し、培養する工程;及び
2)前記目的遺伝子又はその発現産物の機能、あるいはそれらの宿主内における挙動を解析する工程、
を含む、方法により行うことができる。
【0080】
上記の工程はあくまでも例示であり、解析の目的に応じて1)又は2)の工程において、あるいはそれらの工程の前後に適宜必要な工程を含めることができる。例えば、2)の工程において、更に発現産物の発現レベルを測定してもよい。発現レベルは、目的遺伝子の転写産物の量又は翻訳産物の量のいずれを測定してもよい。
【0081】
更に、2)の工程は、目的遺伝子又はその発現産物を活性化又は阻害する物質の存在下又は不在化で実施することもできる。また、2)の工程は、人工染色体ベクターが導入されていない宿主と比較する工程を含んでもよい。
【0082】
(人工細胞)
第五の態様において、人工染色体ベクターをリポソーム等の人工細胞膜に含む人工細胞が提供される。
【0083】
rDNAは、すべての生物が持っている基本遺伝子で代謝の中心である。そのrDNAを土台とした人工染色体ベクターに、例えば、約80種あるリボソームタンパク質の遺伝子をすべてクローニングすることも可能である。このような人工染色体ベクターをリポソームと組み合わせることで人工細胞の作成が可能になる。
【0084】
機能性タンパク質をコードする遺伝子を人工染色体ベクターにクローニングすることで、人工細胞に生理活性を持たせることもできる。
【0085】
人工細胞膜としてはリポソームやミセルなどが挙げられる。リポソームは脂質二重膜小胞であり、当業者に公知の手法により作成することができる。ミセルは脂質と界面活性剤とから成る混合ミセルが好ましい。
【0086】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0087】
1.バーコードの作成
バーコードの作成は、合成した一本鎖DNAオリゴを二本鎖化したDNA断片同士を連結後、Polymerase Chain Reaction (PCR)によって複数のDNA断片をつなぎ合わせる(アッセンブリ)ことで合成する。使用した合成DNAオリゴは、表1~3に示す。
【0088】
【0089】
PCRは、C1000 Touch サーマルサイクラー (BIO-RAD:1851148JA)とDNAポリメラーゼKOD FX neo (東洋紡:KFX-201)キットを用いた各オリゴプライマー濃度1 μMの反応系で行った。PCR産物やDNA断片の分離で使用するアガロース電気泳動は、電気泳動緩衝液1xTAE (40 mM Tris, 20 mM Acetic acid, 1 mM EDTA)または1xTBE (89 mM Tris, 89 mM Boric acid, 2.5 mM EDTA)で0.5~2%アガロースゲル(Star Agarose:RIKAKEN, RSV-AGRP-500g)を作成し、電気泳動装置Mupid-exU(Mupid:EXU-1)によって行った。
【0090】
アガロースゲルからのDNA断片の精製は、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up (Takara:U0609C)キットを用いた。プラスミドの作成と増幅は、大腸菌株JM109 (e14-(mcrA-), recA1, supE44, endA1, hsdR17(rk
-, mk
+), gyrA96, relA1, thi-1, D(lac-proAB), F' [traD36, proAB, lacIq, lacZDM15])で行い、NucleoSpin Plasmid Quick Pure (Takara:U0615B)キットを用いてプラスミド精製を行った。
【0091】
大腸菌の形質転換体の選択と培養は、アンピシリンナトリウム(Wako:014-23302)を100 mg/L含む LB培地で行った。LB培地は、1%トリプトン(BD Bacto Tryptone:211705)、0.5%酵母エキス(BD Bacto Yeast Extract:212750)、1%塩化ナトリウム(Wako:191-01665)を含み、プレート培地(寒天培地)ではさらに2%寒天(BD Bacto Agar:214010)を含む。
【0092】
一本鎖DNAオリゴの二本鎖化は、ランダム配列を含む約100塩基の一本鎖DNAオリゴに対し、相補配列を持つ17~22塩基のDNAオリゴをプライマーとして相補鎖をKOD FX neo DNAポリメラーゼを用いて合成した(
図5:2.Strand synthesis)。DNA合成は、OLI002とOLI003(A
1断片)、OLI004とOLI005(B
1断片)、OLI006とOLI007(B
2断片)、OLI008とOLI009(C
1断片)、OLI010とOLI011(C
2断片)、OLI012とOLI013(D
1断片)をそれぞれ3 μM含む反応液を調製し、94°C 2分、98°C 30秒、48°C 30秒、68°C 10分間保温し反応を行った。二本鎖化反応後に残存している一本鎖DNAは、反応液に0.2 u/μlとなるようにExonuclease I (GEヘルスケア: E70073Z)を加え37°Cで15分間保温し分解した。
【0093】
合成したA
1、B
1、B
2、C
1、C
2、D
1断片は、1xTBE 2%アガロースゲル電気泳動により分離精製し、A
1とB
1、B
2とC
1、C
2とD
1をそれぞれ混合した溶液DNA 50 ng分を最終体積2 μlで調製した。DNA断片の連結は、DNA断片混合液2 μl、Quick ligation kit (NEW England BioLabs:M2200S)の2xQuick Ligation反応バッファー1.8 μl、Quick T4 DNAリガーゼ0.2 μlを混合したのち室温で2時間静置し行った(
図5:3.Ligation)。各連結DNA断片は、連結反応液を0.02?0.04 μl/μlとなるように各オリゴDNAプライマーセット、OLI002とOLI005(A
1-B
1断片)、OLI007とOLI009(B
2-C
1断片)、OLI011とOLI013(C
2-D
1断片)を含むPCR反応液を調製し、94°C 2分、[98°C 10秒、48°C 15秒、68°C 30秒]x 10サイクルで反応し増幅した。
【0094】
増幅したA
1-B
1、B
2-C
1、C
2-D
1断片は、それぞれ1xTBE 2%アガロースゲル電気泳動により分離精製した。NGSバーコード配列を付加したA
1-B
1断片(AB断片)は、OLI005とOLI014のオリゴDNAプライマーと、OLI001を0.5 μMとA
1-B
1断片1 ng/μlとなるように調製したPCR反応を、94°C 2分、[98°C 5秒、48°C 15秒、68°C 45秒]x 9サイクルで行い増幅した(
図5:4. 1
stPCR assembly左)。
【0095】
B
2-C
1とC
2-D
1断片のアッセンブリ(BD断片)は、OLI007とOLI013のオリゴDNAプライマーを含むPCR反応液に、B
2-C
1とC
2-D
1断片をそれぞれ1 ng/μlとなるように加え、94°C 2分、[98°C 5秒、48°C 15秒、68°C 45秒]x 9サイクルの反応で行った(
図5:4. 1
stPCR assembly右)。
【0096】
増幅したAB断片とBD断片は、それぞれ1xTBE 2%アガロースゲル電気泳動により分離精製した。AB断片とBD断片のアッセンブリ(バーコード断片)は、OLI013とOLI014のオリゴDNAプライマーを含むPCR反応液に、ABとBD断片をそれぞれ2 ng/μlとなるように加え、94°C 2分、[98°C 5秒、48°C 15秒、68°C 1分]x 7サイクルの反応で行った(
図5:5. 2
ndPCR assembly)。
【0097】
得られたバーコード断片は、1xTBE 1.5%アガロースゲル電気泳動により分離精製した。バーコード断片のクローニングに使用するベクター断片(pUC-vector断片)は、プラスミドpUC19(Gene 1985, 33, 103-)を鋳型として、OLI015とOLI016のオリゴDNAプライマーを含むPCR反応液を調製し、94°C 2分、[95°C 20秒、48°C 20秒、68°C 3分30秒]x 30サイクルの反応で増幅後、1xTAE 2%アガロースゲル電気泳動により分離精製した。
【0098】
バーコード断片とベクター断片のアッセンブリは、バーコード断片0.13 pmolとpUC-vector断片0.03 pmolを含む5 μl溶液と5 μlのNEBuilderマスターミックス液(NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix NEW England BioLabs: E2621S)を混合し、50°Cで1時間保温し反応を行った。アッセンブリ反応液は、2.5 μlを50 μlの大腸菌JM109コンピテントセルと混合したのち、LBアンピシリンプレート培地に塗布し、37°Cで一晩培養し形質転換を行った。
【0099】
バーコードプラスミド(pBC)は、37°Cで生育した各コロニーをLBアンピシリン液体培地で培養後、プラスミド精製キットにより精製し、サンガーシークエンス法によるバーコード配列の決定を行った(
図5:6. Plasmid cloning)。得られたpBCクローンのうち、バーコード領域の配列に共通の構造を持っているもの、シトシン(C)やグアニン(G)が6個以上連続した配列を持っていないもの、制限酵素AvrII、BamHI、Eco47III、PstIの認識配列を持たないものを選抜し、バーコードとした。実施例に使用したバーコード配列を表4に示し、それぞれを含むバーコードプラスミドをpBC1、pBC2、pBC3とする。
【0100】
【0101】
バーコードの組み込みに使用するベクターを作成するために、リボソーム RNA遺伝子近傍の配列RDN1L (SGD,S288CゲノムchrXII:450760..451418)と栄養要求性マーカー遺伝子URA3またはLYS2を有するプラスミドpUC_RDN1L_URA3とpUC_RDN1L_LYS2を構築した。また、プラスミドpUCEco47RDNheadBamHIとpUCEco47RDNhyg1BamHIを作成し、ハイグロマイシンB耐性リボソーム RNA遺伝子(rDNA)配列を供与するプラスミドとした。
【0102】
プラスミドの骨格部分(vector断片)は、OLI017とOLI026オリゴDNAプライマーと鋳型プラスミドpUC19を用いて、94°C 2分、[95°C 20秒、48°C 20秒、68°C 3分30秒]x 33サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。URA3断片は、OLI033とOLI034オリゴDNAプライマーと鋳型プラスミドYIplac211(Gene 1988,74, 527-)を用いて、94°C 2分、[95°C 20秒、48°C 20秒、68°C 1分30秒]x 33サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0103】
RDN1L断片、LYS2-1断片、rDNA_SmaI-BamHI断片、rDNA_NheI-Eco47III断片は、出芽酵母菌株BY4743(Yeast 1988, 14,115-)から精製したゲノムDNAを鋳型とし、それぞれオリゴDNAセットOLI020とOLI025、OLI022とOLI023、OLI029とOLI030、OLI027とOLI028を用いて、94°C 2分、[95°C 20秒、48°C 20秒、68°C 1分30秒]x 33サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0104】
LYS2-2断片は、出芽酵母菌株BY4743(Yeast 1988, 14,115-)のゲノムDNAを鋳型とし、オリゴDNAセットOLI021とOLI024を用いて、94°C 2分、[95°C 20秒、48°C 20秒、68°C 3分30秒]x 33サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。0.05 pmolのvector断片、0.1 pmolのRDN1L断片と0.1 pmol URA3断片の計2.5 μlを2.5 μlのNEBuilderマスターミックス液と混合しpUC_RDN1L_URA3のアッセンブリ反応液とした。また、0.05 pmolのvector断片、0.1 pmolのRDN1L断片、0.1 pmol LYS2-1断片と0.1 pmol LYS2-2断片の計2.5 μlを2.5 μlのNEBuilderマスターミックス液と混合しpUC_RDN1L_LYS2アッセンブリ反応液とした。pUCEco47RDNheadBamHIのアッセンブリ反応は、0.05 pmolのvector断片、0.1 pmolのrDNA_SmaI-BamHI断片と0.1 pmol rDNA_NheI-Eco47III断片の計2.5 μlを2.5 μlのNEBuilderマスターミックス液と混合し調製した。
【0105】
各アッセンブリ反応液は、50°Cで1時間保温した後、50 μlの大腸菌JM109にLBアンピシリン培地を用いて形質転換し、pUC_RDN1L_URA3、pUC_RDN1L_LYS2とpUCEco47RDNheadBamHIを得た。pUCEco47RDNhyg1BamHIは、pUCEco47RDNheadBamHIを制限酵素SmaI (Takara: 1085A)とNheI (Takara: 1241A)で切断したプラスミド骨格と、ハイグロマイシンB耐性型リボソームRNA遺伝子断片(RDN-hyg1-1断片とRDN-hyg1-2断片)を連結し作成した。RDN-hyg1-1断片とRDN-hyg1-2断片は、プラスミドpRDN-hyg1 (Nucl Acids Res 2000, 28, 3524-)を制限酵素PaeI (Thermo Fisher Scientific: FD0604)と、NheI (Thermo Fisher Scientific: FD0973)またはSmaI (Thermo Fisher Scientific: FD0664)で処理し約4 kbのDNA断片を精製し調製した。
【0106】
SmaIとNheI処理により得たプラスミド骨格断片10 ng、25 ngのRDN-hyg1-1断片と25 ngのRDN-hyg1-2断片を含む溶液2.5 μlに2xQuick Ligation反応バッファー2.5 μl、Quick T4 DNAリガーゼ0.5 μlを混合したのち室温で30分間静置した後、2 μlの連結反応液を50 μlの大腸菌JM109にLBアンピシリン培地を用いて形質転換し、pUCEco47RDNhyg1BamHIを得た。
【0107】
バーコードの組み込みに使うベクターp1
stBC、p2
ndBC、p3
rdBC(
図6)は、pUC_RDN1L_LYS2またはpUC_RDN1L_URA3を制限酵素SalI (Thermo Fisher Scientific: FD0644)とPstI (Thermo Fisher Scientific: FD0614)で処理したプラスミド骨格と、リボソームRNA遺伝子断片、バーコード配列断片を各0.01 pmol混合した2.5 μlの溶液に2.5 μlのNEBuilderマスターミックス液と混合し50°Cで1時間アッセンブリ反応を行い50 μlの大腸菌JM109にLBアンピシリンプレート培地30°Cで形質転換を行い作成した。
【0108】
各バーコード配列は、各バーコードプラスミドpBC1、pBC2、pBC3を鋳型に、オリゴDNAプライマーセットOLI040とOLI041(BC_SalI断片)、OLI044とOLI045(BC_PstI断片)を用いて、94°C 2分、[98°C 10秒、49°C 20秒、68°C 1分]x 33サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。リボソームRNA遺伝子末端の断片RDN1-end断片は、プラスミドpUCEco47RDNheadBamHIを鋳型に、オリゴDNAプライマーOLI042とOLI043を用いて、94°C 2分、[98°C 10秒、49°C 20秒、68°C 2分]x 33サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0109】
全長のリボソームRNA遺伝子断片RDNhyg1は、プラスミドpUCEco47RDNhyg1BamHIを制限酵素AfeI(NEW England BioLabs: R0652)とBamHI(NEW England BioLabs: R3136S)で処理し、約9.1 kbのDNA断片としてアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。ベクターp1
stBCは、SalI-BC1断片、RDN1-end断片とpUC_RDN1L_LYS2骨格断片をアッセンブルし作成した(
図6左)。ベクター2
ndBCは、PstI-BC1断片、SalI-BC2断片、RDNhyg1断片とpUC_RDN1L_URA3骨格断片をアッセンブルし作成した(
図6中央)。ベクターp3
rdBCは、PstI-BC2断片、SalI-BC3断片、RDNhyg1断片とpUC_RDN1L_LYS2骨格断片をアッセンブルし作成した(
図6右)。
【0110】
システマティックな目的遺伝子の組み込みに使用するベクターとして、R-recombinase発現プラスミドYEp181GALpR (
図11:GALp-Rec)、ガラクトース誘導型発現カセットプラスミドpUC_AsiSI-GAL1pCYC1t-rSURA3Rs-NotI、発現カセットバーコードプラスミド(
図7上)pBC1GAL、pBC2GAL、pBC3GALを作成した。
【0111】
YEp181GALpRは、出芽酵母シャトルベクターYEplac181 (Gene 1988,74, 527-)の制限酵素サイトSalI-EcoRIに、ガラクトース誘導型R-recombinase遺伝子断片(GALpR断片)を挿入し作成した。GALpR断片は、pRINT (Science 276,1997, 806-) を制限酵素EcoRI (NEW England BioLabs: R3136S)、SalI (NEW England BioLabs: R3138S)、PstI (NEW England BioLabs: R3140S)、PflFI (NEW England BioLabs: R0595S)で処理し、約2.6 kbのDNA断片としてアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0112】
pUC_AsiSI-GAL1pCYC1t-rSURA3Rs-NotIは、GAL1p断片、CYC1t断片、rS-URA3-Rs断片とpUC-vector断片をアッセンブルし作成した。GAL1p断片とCYC1t断片は、pAGプラスミドシリーズ(Yeast 2007, 24, 913-)由来のプラスミドpAG413Gal-Ago2 (NAR 2001, 39, e43)を鋳型に、それぞれオリゴDNAプライマーセットOLI059とOLI060(GAL1p断片)、OLI061とOLI062(CYC1t断片) を用いて、94°C 2分、[98°C 10秒、49°C 15秒、68°C 1分5秒]x 31サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0113】
rS-URA3-Rs断片は、YIplac211を鋳型に、オリゴDNAプライマーOLI063とOLI064を用いて、94°C 2分、[98°C 10秒、49°C 15秒、68°C 1分5秒]x 31サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。pBC1GAL、pBC2GAL、pBC3GALは、それぞれバーコードプラスミドpBC1、pBC2、pBC3の制限酵素サイトSfaI-NotIに、ガラクトース誘導型発現カセット断片(GAL1pCYC1t-rSURA3Rs断片)を挿入し作成した。
【0114】
GAL1pCYC1t-rSURA3Rs断片は、プラスミドpUC_AsiSI-GAL1pCYC1t-rSURA3Rs-NotIを制限酵素SfaAI (Thermo Fisher Scientific: FD2094)、NotI (Thermo Fisher Scientific: FD0593)で処理し、約2 kbのDNA断片としてアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0115】
In yeast実験系を用いたRNA干渉機構再構成では、オワンクラゲ由来GFP遺伝子を発現するレポーター遺伝子ベクターYIp128PDA1pGFPと、GFP遺伝子断片を含むヘアピンRNA発現ベクターYIp211TEF1p-GFPhairpinを作成し使用した。YIp128PDA1pGFPは、出芽酵母シャトルベクターYIplac128(Gene 1988, 74, 527)をEcoRI (Thermo Fisher Scientific: FD0274)とHindIII (Thermo Fisher Scientific: FD0504)で処理して得られたプラスミド骨格と、出芽酵母PDA1遺伝子プロモーター断片(PDA1p断片)、GFP遺伝子断片(NLS-GFP-adh1t断片)をアッセンブルし作成した。
【0116】
YIp211TEF1p-GFPhairpinは、出芽酵母シャトルベクターYIplac211をEcoRI (FD0274)とHindIII (FD0504)で処理して得られたプラスミド骨格と、出芽酵母TEF1遺伝子プロモーター断片(TEF1p断片)、GFP遺伝子の一部を含むpfg1断片、gfp2断片、出芽酵母CYC1遺伝子ターミネーター断片(cyc1t断片)をアッセンブルし作成した。PDA1p断片、TEF1p断片、cyc1t断片は、出芽酵母菌株BY4741のゲノムDNAを鋳型とし、それぞれオリゴDNAセットOLI073とOLI074、OLI065とOLI066、OLI071とOLI072を用いて、94°C 2分、[98°C 10秒、48°C 20秒、68°C 1分]x 30サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0117】
NLS-GFP-adh1t断片、pfg1断片、gfp2断片は、GFPカセットプラスミドpKT127 (Yeast 2004, 661-)を鋳型に、それぞれオリゴDNAセットOLI075とOLI076、OLI067とOLI068、OLI069とOLI070を用いて、94°C 2分、[98°C 10秒、48°C 20秒、68°C 1分]x 30サイクルのPCRで増幅しアガロースゲル電気泳動により分離後精製した。
【0118】
2.人工染色体ベクターの作成
低コピーrDNAを有する宿主は、出芽酵母菌株YTT399 (MATa his3Δ1 ura3Δ0 leu2Δ0 met15Δ0 lys2Δ0 fob1Δ0 RDN1-15)とYTT401 (MATα his3Δ1 ura3Δ0 leu2Δ0 met15Δ0 lys2Δ0 fob1Δ0 RDN1-15)を使用した。各バーコード組み込みベクタープラスミドは、制限酵素PstI (NEW England BioLabs: R3140S)とAvrII (NEW England BioLabs: R0174S)で処理することでベクター断片とし、宿主酵母にp1stBC、p2ndBC、p3rdBCの順で形質転換により導入した。
【0119】
形質転換は、約2.5x108個の対数増殖期の細胞を、ベクター断片を含む形質転換液[0.1 M酢酸リチウム(Wako: 123-01542)、15%ポリエチレングリコール3350 (Sigma:P4338-500G)、熱変性したサケ精子DNA (Sigma:D1626) 278 μg/mL] 45 μlに懸濁後、30°Cで1時間保温することで行った。形質転換液は、30°Cの保温後、5 μlのジメチルスルホキシド(Wako: 043-07216)を加え再懸濁し、42°Cで15分間熱ショック処理をして選択培地に塗布し30°Cで3~4日培養することで、バーコードがrDNAに導入された細胞を選択した。
【0120】
p1stBCとp3rdBCのベクター断片の導入は選択培地HC-Lys [0.17% YNB (BD Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate:233520)、2% D-グルコース (Wako:049-31165)、2% 寒天(BD Bacto Agar:214010)、20 mg/L L-アルギニン(Wako: 017-04612)、60 mg/L L-チロシン(Wako: 202-03562)、80 mg/L L-イソロイシン(Wako: 121-00862)、50 mg/L L-フェニルアラニン(Wako: 161-01302)、100 mg/L L-グルタミン酸(Wako: 070-00502)、100 mg/L L-アスパラギン酸(Wako: 010-04842)、150 mg/L L-バリン(Wako: 228-00082)、200 mg/L L-トレオニン(Wako: 204-01322)、400 mg/L L-セリン(Wako: 199-00402)、40 mg/L L-トリプトファン(Wako: 204-03382)、60 mg/L L-ロイシン(Wako: 124-00852)、20 mg/L L-ヒスチジン(Wako: 084-00682)、20 mg/L L-メチオニン(Wako: 133-01602)、40 mg/L アデニン硫酸塩(ナカライテスク: 01990-94)、20 mg/Lウラシル(Wako: 212-00062)] を用いて行った。
【0121】
p2ndBCのベクター断片の導入は選択培地HC-URA [0.17% YNB (BD Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate:233520)、2% D-グルコース (Wako:049-31165)、2% 寒天(BD Bacto Agar:214010)、20 mg/L L-アルギニン(Wako: 017-04612)、60 mg/L L-チロシン(Wako: 202-03562)、80 mg/L L-イソロイシン(Wako: 121-00862)、50 mg/L L-フェニルアラニン(Wako: 161-01302)、100 mg/L L-グルタミン酸(Wako: 070-00502)、100 mg/L L-アスパラギン酸(Wako: 010-04842)、150 mg/L L-バリン(Wako: 228-00082)、200 mg/L L-トレオニン(Wako: 204-01322)、400 mg/L L-セリン(Wako: 199-00402)、40 mg/L L-トリプトファン(Wako: 204-03382)、60 mg/L L-ロイシン(Wako: 124-00852)、20 mg/L L-ヒスチジン(Wako: 084-00682)、20 mg/L L-メチオニン(Wako: 133-01602)、40 mg/L アデニン硫酸塩(ナカライテスク: 01990-94)、120 mg/L L-リジン塩酸塩(ナカライテスク: 20809-52)]を用いて行なった。
【0122】
BC1、BC2とBC3の3種のバーコードを導入した人工染色体ベクター菌株はYTT430(YTT399+BC1,2,3-LYS2)とYTT431(YTT401+BC1,2,3-LYS2)とした。
【0123】
3.人工遺伝子増幅系の作成
すでに小林らにより単離されたrDNAを2コピーのみもつ出芽酵母株(Kobayashi et al., 2001)のIGS1領域にURA3-lacOカセットを挿入し、複製阻害点に結合して組換を活性化するFob1タンパク質を発現させてrDNAの増幅を誘導させた結果、URA3-lacOカセットもrDNAと一緒に100コピー程度まで増幅させることに成功した。
【0124】
方法:(酵母株、プラスミドおよびプライマーは表5~7を参照のこと)
lacOリピートを250コピー持つプラスミドpAFS52を制限酵素EcoRIで処理して再結合することでlacOリピートを50コピーまで減らしたpAFS52-lacO50を作成した。プライマーTM3とTM4を使いrDNAのIGS1のDNAの一部を増やしpAFS52-lacO50の制限酵素KpnI-XhoI サイトに挿入しプラスミドpTM1を作成した。プライマーTM-HindとTM-SphによりrDNAのIGS2の一部を増やし、pTM1のHindIII-SphIに挿入しpTM2を作成した。URA3遺伝子はプラスミドpJJ242からプライマーTM7とTM8で増幅し、pTM2のSphI-SalIに挿入し、URA3-lacOカセットを持つpTM-lacO50を構築した。
【0125】
pTM-lacO50をKpnI-HindIIIで切断した後、rDNAを2コピーもつ酵母株TAK201に導入し、ウラシルを除いた合成選択培地(SG-Ura)で選択してrDNAのIGS1にURA3-lacOカセットを持つ酵母株を作成した(
図8)。さらにlacI-GFPを発現するpAFS144-ADE2プラスミドをade2に挿入し、アデニンを除いた合成選択培地(SG-Ade)で選択して、rDNAの増幅が生きたまま蛍光で検出できる酵母株TMY1を完成した。
【0126】
TMY1にFob1を発現するプラスミドpTAK101を導入し合成選択培地(SG-Ade, -Leu)で培養し、その後時間をおって細胞を回収し、交配によりFob1プラスミドを欠失させてrDNAの増幅を停止させた。それらの細胞をアガロースゲルプラグに包埋した状態でDNAを精製し、rDNA内に認識配列を持たない制限酵素BamHIで処理し、パルスフィールド電気泳動で解析した(
図9)。BamHIによりほとんどの酵母のDNAは小さな断片にまで分解されてしまうが、rDNAリピートはBamHIに切断されないため、大きなDNAとして検出することができる。その結果、Fob1の発現時間に応じてrDNAのコピー数が増幅していることが確認された。またそのURA3-lacOカセットがrDNAと共に増幅していることは、蛍光顕微鏡の観察でlac0-LacIGFPがrDNA全体に結合して蛍光を発することにより確認された(
図10)。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
4.in yeast実験系の確立
短い二本鎖RNA(siRNA)を介したRNAiによる遺伝子発現抑制機構は、人工染色体ベクター供与菌である出芽酵母S. cerevisiaeには存在しない。ヒト細胞で見られるRNAi機構は、精製したDicer (HsDicer)、Argonaute (HsAgo2)とTRBP (HsTRBP)と二本鎖RNAを試験管内で混ぜることにより、配列特異的な標的RNAの切断反応を再構成することができる(Nature 2006, 436, 740-)。また、S. cerevisiae細胞内でHsDicer、HsAgo2とHsTRBPを導入しアンチセンスRNAを転写することにより標的遺伝子の発現抑制を観察した報告があるが (NAR 2011, 39, e43)、実際にsiRNAの生成がなされているかなどは確認されていない。
【0131】
そこで、HsDicer、HsAgo2とHsTRBPを染色体ベクターに導入し、in yeast実験系を用いてヘアピンRNA依存的なヒトRNAiによる標的遺伝子の発現抑制が起こるかを検討した。HsTRBP、HsAgo2とHsDicerは、それぞれBC1、BC2とBC3にガラクトース誘導性プロモーターの下流にURA3マーカー遺伝子と共に導入し、遺伝子導入後、R-recombinaseによってマーカー遺伝子を除去した。
【0132】
各遺伝子の導入は、染色体ベクター菌株YTT431にあらかじめR-recombinase誘導プラスミドYEp181GALpRを導入してある菌株(YTT431-R)に、プラスミドから切り出したヒトRNAi遺伝子断片と、pBC1~3GALを鋳型に94°C 2分、[98°C 10秒、49°C 15秒、68°C 1分]x 33サイクルのPCRで増幅した1/2BCプロモーター断片と1/2BCマーカー遺伝子断片をアガロースゲル電気泳動により分離後精製したのち形質転換し行なった(
図11)。
【0133】
HsTRBP遺伝子は、pBC1GALを鋳型に、オリゴDNAプライマーセットOLI013とOLI086、OLI014とOLI087でそれぞれ1/2BCプロモーター断片と1/2BCマーカー遺伝子断片を合成し、HsTRBP供与プラスミドpAG415Gal-TRBP (NAR 2011, 39, e43)を制限酵素BamHI (Thermo Fisher Scientific: FD0544)とEco32I (Thermo Fisher Scientific: FD0303)処理して得たHsTRBP断片を用いてバーコードBC1に導入した。HsAgo2遺伝子は、pBC2GALを鋳型に、オリゴDNAプライマーセットOLI013とOLI084、OLI014とOLI085でそれぞれ1/2BCプロモーター断片と1/2BCマーカー遺伝子断片を合成し、HsAgo2供与プラスミドpAG413Gal-Ago2 (NAR 2011, 39, e43)を制限酵素BamHI (Thermo Fisher Scientific: FD0544)とEcoRI (Thermo Fisher Scientific: FD0274)処理して得たHsAgo2断片を用いてバーコードBC2に導入した。
【0134】
HsDicer遺伝子は、pBC3GALを鋳型に、オリゴDNAプライマーセットOLI013とOLI082、OLI014とOLI083でそれぞれ1/2BCプロモーター断片と1/2BCマーカー遺伝子断片を合成し、HsDicer供与プラスミドpAG416Gal-Dicer (NAR 2011, 39, e43)を制限酵素HindIII (Thermo Fisher Scientific: FD0504)とBcuI (Thermo Fisher Scientific: FD1253)処理して得たHsDicer断片を用いてバーコードBC3に導入した。各遺伝子は、HC-Ura Leuプレート培地[0.17% YNB (BD Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate:233520)、2% D-グルコース (Wako:049-31165)、2% 寒天(BD Bacto Agar:214010)、20 mg/L L-アルギニン(Wako: 017-04612)、60 mg/L L-チロシン(Wako: 202-03562)、80 mg/L L-イソロイシン(Wako: 121-00862)、50 mg/L L-フェニルアラニン(Wako: 161-01302)、100 mg/L L-グルタミン酸(Wako: 070-00502)、100 mg/L L-アスパラギン酸(Wako: 010-04842)、150 mg/L L-バリン(Wako: 228-00082)、200 mg/L L-トレオニン(Wako: 204-01322)、400 mg/L L-セリン(Wako: 199-00402)、40 mg/L L-トリプトファン(Wako: 204-03382)、20 mg/L L-ヒスチジン(Wako: 084-00682)、20 mg/L L-メチオニン(Wako: 133-01602)、40 mg/L アデニン硫酸塩(ナカライテスク: 01990-94)、120 mg/L L-リジン塩酸塩(ナカライテスク: 20809-52)]で選択した。その後、遺伝子導入が確認された細胞を1 mLのHCGal-Leu培地 [0.17% YNB (BD Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate:233520)、2% D-ガラクトース (Wako: 075-00035)、20 mg/L L-アルギニン(Wako: 017-04612)、60 mg/L L-チロシン(Wako: 202-03562)、80 mg/L L-イソロイシン(Wako: 121-00862)、50 mg/L L-フェニルアラニン(Wako: 161-01302)、100 mg/L L-グルタミン酸(Wako: 070-00502)、100 mg/L L-アスパラギン酸(Wako: 010-04842)、150 mg/L L-バリン(Wako: 228-00082)、200 mg/L L-トレオニン(Wako: 204-01322)、400 mg/L L-セリン(Wako: 199-00402)、40 mg/L L-トリプトファン(Wako: 204-03382)、20 mg/L L-ヒスチジン(Wako: 084-00682)、20 mg/L L-メチオニン(Wako: 133-01602)、40 mg/L アデニン硫酸塩(ナカライテスク: 01990-94)、120 mg/L L-リジン塩酸塩(ナカライテスク: 20809-52)、20 mg/Lウラシル(Wako: 212-00062)] 30°Cで一晩培養し、R-recombinaseによるURA3遺伝子の除去を行なった(
図11: URA3の除去)。
【0135】
URA3除去細胞は、HC-Leu+5FOAプレート培地 [0.17% YNB (BD Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate:233520)、2% D-グルコース (Wako:049-31165)、2% 寒天(BD Bacto Agar:214010)、20 mg/L L-アルギニン(Wako: 017-04612)、60 mg/L L-チロシン(Wako: 202-03562)、80 mg/L L-イソロイシン(Wako: 121-00862)、50 mg/L L-フェニルアラニン(Wako: 161-01302)、100 mg/L L-グルタミン酸(Wako: 070-00502)、100 mg/L L-アスパラギン酸(Wako: 010-04842)、150 mg/L L-バリン(Wako: 228-00082)、200 mg/L L-トレオニン(Wako: 204-01322)、400 mg/L L-セリン(Wako: 199-00402)、40 mg/L L-トリプトファン(Wako: 204-03382)、20 mg/L L-ヒスチジン(Wako: 084-00682)、20 mg/L L-メチオニン(Wako: 133-01602)、40 mg/L アデニン硫酸塩(ナカライテスク: 01990-94)、120 mg/L L-リジン塩酸塩(ナカライテスク: 20809-52)、20 mg/Lウラシル(Wako: 212-00062)、1 g/L 5-フルオロオロチン酸 (fluoroChem: 003234)] 30°Cで選抜した。
【0136】
得られた遺伝子導入細胞は、他のヒトRNAi遺伝子の導入に利用し、HsDicer (YTT431-D)、HsAgo2 (YTT431-A)、HsTRBP (YTT431-T)の単一発現菌株、二遺伝子発現菌株(YTT431-DA、-DT、-AT)、三遺伝子発現株(YTT431-DAT)を作成した。
【0137】
ヒトRNAi機構による遺伝子抑制を評価するGFPレポーター遺伝子は、YIp128PDA1pGFPを制限酵素AccI (NEW England BioLabs: R0161S)で処理し、染色体ベクター菌株YTT430のADH1遺伝子のターミネーター領域に挿入した(GFPレポーター菌株:YTT430-GFP)。さらに、ヒトRNAi機構の誘導に必要なヘアピンRNA遺伝子は、GFPヘアピンベクターYIp211TEF1p-GFPhairpinを制限酵素HindIII (Thermo Fisher Scientific: FD0504)で処理し、YTT430-GFPのCYC1遺伝子のターミネーター領域に挿入した(GFPヘアピン菌株:YTT430-GFPhp)。
【0138】
接合型αのYTT431とYTT431-D~DAT株は、接合型aのYTT430-GFPとYTT430-GFPhpと接合させ、ヒトRNAi遺伝子、GFPレポーター遺伝子とGFPヘアピンRNAを発現する二倍体菌株セットを作成した。
【0139】
ヒトRNAi遺伝子の発現は、YTT431とYTT431-D~DATとYTT430-GFPhpを接合させた二倍体菌株を、HCGal-Leu培地 [0.17% YNB (BD Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids and Ammonium Sulfate:233520)、2% D-ガラクトース (Wako: 075-00035)、20 mg/L L-アルギニン(Wako: 017-04612)、60 mg/L L-チロシン(Wako: 202-03562)、80 mg/L L-イソロイシン(Wako: 121-00862)、50 mg/L L-フェニルアラニン(Wako: 161-01302)、100 mg/L L-グルタミン酸(Wako: 070-00502)、100 mg/L L-アスパラギン酸(Wako: 010-04842)、150 mg/L L-バリン(Wako: 228-00082)、200 mg/L L-トレオニン(Wako: 204-01322)、400 mg/L L-セリン(Wako: 199-00402)、40 mg/L L-トリプトファン(Wako: 204-03382)、20 mg/L L-ヒスチジン(Wako: 084-00682)、20 mg/L L-メチオニン(Wako: 133-01602)、40 mg/L アデニン硫酸塩(ナカライテスク: 01990-94)、120 mg/L L-リジン塩酸塩(ナカライテスク: 20809-52)、20 mg/Lウラシル(Wako: 212-00062)] 30°Cで対数増殖期まで培養した細胞の抽出液をSDS-PAGEで分離後、ウエスタンブロットにより確認した。
【0140】
OD600=1.0となるよう集菌した菌体を250 μLの滅菌水に懸濁後、37.5 μLのアルカリ変性溶液[1 N 水酸化ナトリウム(Wako: 198-13765)、7.5% 2-メルカプトエタノール(Wako: 137-07521)]を加え氷上で5分間冷却し、37.5 μLの50% トリクロロ酢酸溶液(Wako: 208-08081)を加え氷上でさらに5分間冷却し全タンパク質を沈殿させた。タンパク質は、4°C、10,000 gで5分間遠心し沈殿させ、30 μLの1xサンプルバッファー[75 mM トリス(Sigma-Aldrich: T1503)、100 mM 2-メルカプトエタノール (Wako: 137-07521)、2% ドデシル硫酸ナトリウム(Wako: 196-08675)、5% グリセリン(Wako: 075-00611)、0.001% BPB (Wako: 029-02912)]に懸濁後65°Cで5分間変性し、ウエスタンブロット用サンプル溶液とした。
【0141】
SDS-PAGEは、5 μlのサンプル溶液を5-20%ポリアクリルアミドゲル(ATTO: EHR-T/R520L)とスラブ型電気泳動装置(ATTO: WSE-1150PageRunAce)を用いて行なった。電気泳動条件は、1x泳動バッファー[25 mM トリス(Sigma-Aldrich: T1503)、192 mM グリシン (Wako: 077-00735)、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム(Wako: 196-08675)]、定電流10 mA 30分間、20mA 90分間で行なった。SDS-PAGEによって分離したタンパク質は、ミニトランスブロットセル(BIO-RAD: 1703930JA)を用いて、トランスファーバッファー[0.302% トリス(Sigma-Aldrich: T1503)、1.44% グリシン (Wako: 077-00735)、10% メタノール(Wako: 137-01823)] 4°C、定電圧150 V、30分間の条件で、PVDFメンブレン(Immobilon-P Merck-Millipore: PVH00010)に転写した。
【0142】
転写したメンブレンは、5% スキムミルク(Wako: 190-12865)を含むPBS-T [140 mM 塩化ナトリウム、2.7 mM 塩化カリウム、10 mM リン酸、0.05% Tween20 (Sigma-Aldrich: P7949)]に浸し、室温で1時間振盪しブロッキングを行なった。チューブリン、HsAgo2とHsTRBPの検出に使用した抗体は、Peroxidase Labeling Kit-NH2 (DOJINDO: LK11)で標識し使用した。HsDicer、HsAgo2、HsTRBPとチューブリンは、それぞれ抗Dicer抗体(Santa Cruz Biotechnology: sc-30226)を1/300、抗Ago2抗体(clone11A9 Merck-Millipore: MABE253) を1/1,000、抗TRBP抗体(clone46D1 フナコシ: bsm-50266M) を1/10,000、抗Tubulin Alpha抗体(cloneYL1/2 AbD Serotec: MCA77G) を1/2,500の割合で5% スキムミルクを含むPBS-Tで希釈し、一晩4°Cで振盪し検出した(一次抗体結合)。一次抗体結合したメンブレンは、PBS-Tで室温30分間振盪する洗浄を2回行なった。HsDicerの検出は、洗浄したメンブレンをさらにペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG抗体(GEヘルスケア: NA934)1/10,000の割合で0.5% スキムミルクを含むPBS-Tで希釈し,室温で1時間振盪後、PBS-Tで室温30分間振盪する洗浄を2回行なった。
【0143】
タンパク質の検出は、洗浄したメンブレンを化学発光基質(Merck-Millipore: WBKLS0500)と室温で5分間保温したのち、ケミルミイメージングシステム(Vilber-Lourmat:Fusion SL)で行なった。ウエスタンブロットの結果から、各ヒトRNAiタンパク質は、バーコード配列に導入した遺伝子から細胞内で十分に検出できる量発現することが確認された(
図12)。
【0144】
ヒトRNAi機構が、in yeast実験系で機能しているかは、ヒトRNAi遺伝子、GFPレポーター遺伝子とGFPヘアピンRNAを発現する二倍体菌株から全RNAを抽出し、ヘアピンRNA由来のsiRNAの生成とレポーター遺伝子転写産物の解析をノーザン法により行なった。また、レポーター遺伝子転写産物量は、逆転写定量PCR (RT-qPCR)によって行い、ヒトRNAi機構による遺伝子発現抑制について解析した。
【0145】
全RNAは、YPGal [2%トリプトン(BD Bacto peptone:211677)、1%酵母エキス(BD Bacto Yeast Extract:212750) 2% D-ガラクトース (Wako: 075-00035)]で対数増殖期まで培養した約5x108個の細胞を冷却した滅菌水で洗浄後、400 μLのTES液[10 mM Tris-Cl pH7.5 (Tris Sigma-Aldrich: T1503/ 塩酸 Wako: 080-01066)、10 mM EDTA-Na pH8.0 (EDTA2Na DOJINDO: 345-01865/ NaOH Wako: 198-13765)、0.5% ドデシル硫酸ナトリウム(Wako: 196-08675)]と400 μLの酸性フェノールpH4.0 (フェノール Wako: 160-12725/グリシン Wako: 077-00735/ 塩酸 Wako: 080-01066)に懸濁し、ヒートミキサ(Eppendorf ThermoMixer C Eppendorf: 5382000023/ Eppendorf SmartBlock Eppendorf: 5362000035)を用いて65°C 30分間保温・攪拌し抽出した。抽出した400 μlのRNA溶液は、20,000 g 4°C 10分間の遠心の後、水層画分として回収後、酸性フェノール/クロロホルム(1:1 pH4.0)[酸性フェノールpH4.0/ クロロホルム(Wako: 308-026069)]抽出で精製し、50 μlの3 M酢酸ナトリウムpH5.2、1 μl アルコール沈殿用共沈剤(Ethachinmate ニッポンジーン: 312-01791)と1 mLのエタノール(Wako: 057-00456)を加え-20°Cで一晩保管しエタノール沈殿を行った。
【0146】
全RNAは、20,000 g 4°C 40分間の遠心の後、80%エタノール(Wako: 057-00456)で洗浄・乾燥して、滅菌水に溶解したものをノーザン解析用サンプルとした。siRNAを検出するノーザン解析では、5 μgの全RNA(3 μl溶液)を3 μlのホルムアミド(Wako: 066-02301)と混合し、65°C 10分間熱変性したものを変性アクリルアミドゲル[0.5xTBE、8M 尿素(Wako: 219-00175)、12%アクリルアミド(BIO-RAD: 1610144)、0.1%過硫酸アンモニウム(Wako: 018-03282)、0.1%テトラメチレンジアミン(Wako: 202-04003)]で電気泳動分離した。
【0147】
電気泳動は、スラブ型電気泳動装置(バイオクラフト: BE-140G)を用いて、0.5xTBEで定電流7 mA 2時間 室温で行った。分離したRNAは0.5xTBEとセミドライ型転写装置(トランスブロットSDセル BIO-RAD: 1703940JA)、極厚濾紙(BIO-RAD: 1703968)を用いた4°C 定電流400 mA 2時間の電気泳動で、ナイロンメンブレン(Hybond-N+ GEヘルスケア: RPN303B)に転写した(siRNAブロット)。siRNAブロットは、UVクロスリンカー(Stratagene: StrataLinker 1800)を用い120,000 μJ/cm2で架橋後、5xSSC [75 mMクエン酸ナトリウム(Wako: 191-01785)、0.75 M塩化ナトリウム(Wako:191-01665)]で洗浄後乾燥させ保存した。
【0148】
siRNAのノーザン解析は、siRNAブロットを滅菌水で湿らせた後、10 mlのRapid-Hybバッファー(GEヘルスケア: RPN1635) 42°C 2時間のプレハイブリダイゼーション、32Pで末端標識した5 pmolのオリゴDNAプローブを加えた一晩25°Cのハイブリダイゼーション、洗浄バッファー1(5xSSC、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム)室温10分間の洗浄2回、洗浄バッファー2(2xSSC、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム)室温10分間の洗浄1回、洗浄バッファー2(2xSSC、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム)42°C 10分間の洗浄1回を行い、siRNAブロットをイメージングプレートに感光させFLA7000(GEヘルスケア)を用いてsiRNAシグナルを検出した。オリゴDNAプローブの標識は、siGFP01~13を等量混合した溶液から調製したDNAオリゴ5 pmol (16.5 μL)を3 μLのT4ポリヌクレオチドキナーゼ(Takara: 2021S)、3 μLの10xPNKバッファー(Takara)、7.5 μL γ-32P-ATP (6000Ci/mmol PerkinElmer: NEG502Z)と混合した後、37°C 30分間保温、7.5 μLの50 mM EDTA pH8.0を加えた熱変性(95°C 5分間)を行い、マイクロスピンカラムG-25 (GEヘルスケア: 27532501)で精製した。
【0149】
siRNAのノーザン解析では、GFP配列に対応するsiRNAがHsDicerとGFPヘアピンRNAを発現する細胞のサンプルで検出され、siRNAの量はHsDicerに加えてHsTRBPとHsAgo2を共発現する細胞で増加することが示された(
図13)。このことは、試験管内で示されているHsTRBPやHsAgo2がHsDicerの働きを助ける機能が(Nature 2005, 436, 740-)、in yeast実験でも再現された事を示唆している。
【0150】
GFPレポーター遺伝子転写産物とヘアピンRNAの検出は、一般的なノーザン解析によって行った。DNAプローブは、100 ngのgfp2断片、5 μlのα-32P-dCTP (3000Ci/mmol PerkinElmer: NEG513H)とランダムプライマーラベリングキット(Takara: 6045)用いて標識し、マイクロスピンカラムG-50 (GEヘルスケア: 28903408)で精製して調製した。
【0151】
ノーザンブロットは、5 μgの全RNA(3 μl溶液)を4 μlのホルムアミド、2 μLのホルムアルデヒド溶液(Wako: 061-00416)、10xMOPSバッファー[0.2 M MOPS-NaOH pH7 (MOPS DOJINDO: 345-01804/ 水酸化ナトリウム Wako: 198-13765)、2 mM 酢酸ナトリウム、10 mM EDTA] 1 μL、400 μg/mLの臭化エチジウム(Wako: 315-90051) 1 μLと混合し65°C 10分間熱変性したものを、サブマリン電気泳動装置(バイオクラフト: BE-527)を用いて変性アガロースゲル(1.2% Star Agarose 、1xMOPS、6%ホルムアルデヒド)と1xMOPS変性バッファー(1xMOPS、6%ホルムアルデヒド)で定電圧100 V 1時間と定電圧150 V 45分間の電気泳動を行い分離した。
【0152】
分離したRNAは、ゲルを滅菌水で30分間洗浄した後、10xSSCを用いた一晩のキャピラリートランスファーによりナイロンメンブレン(Hybond-N+ GEヘルスケア: RPN303B)に転写した(RNAブロット)。RNAブロットは、UVクロスリンカー(Stratagene: StrataLinker 2400)を用い120,000 μJ/cm2で架橋後、5xSSCで洗浄後乾燥させ保存した。
【0153】
ノーザン解析は、RNAブロットを10 mlのRapid-Hybバッファー(GEヘルスケア: RPN1635) 65°C 2時間のプレハイブリダイゼーションした後、
32Pで標識したgfp2断片プローブを加えた2時間65°Cのハイブリダイゼーション、洗浄バッファー2(2xSSC、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム) 65°C 30分間の洗浄1回、洗浄バッファー3(0.1xSSC、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム) 65°C 30分間の洗浄2回を行い、RNAブロットをイメージングプレートに感光させFLA7000(GEヘルスケア)を用いてGFPレポーター遺伝子RNAとGFPヘアピンRNAのシグナルを検出した。GFPヘアピンRNA由来のsiRNAが検出されたHsDicer発現細胞においても、HsDicerを発現しない細胞と同程度の量のGFPヘアピンRNAがされ、HsDicerによるGFPヘアピンの分解は、GFPヘアピンRNAの合成に比べて効率が高くないことが示唆された(
図14)。
【0154】
また、GFPレポーター遺伝子のRNAが、GFPヘアピンRNA、HsDicer、HsAgo2とHsTRBPの四者を発現する細胞において僅かながら減少していることから、ヒトRNAi機構がヘアピンRNAの発現によって機能し、遺伝子発現抑制を行う可能性が示唆された。
【0155】
GFPレポーター遺伝子のRNAは、RT-qPCRを用いてより定量的に解析した。RT-qPCRは、定量PCRシステム(Illumina: Eco Real Time PCR System)とRT-qPCRキット(KAPA SYBR FAST One-Step qRT-PCR Kit KAPA Biosystem: KK4650)を用いて行った。RT-qPCRは、qPCR Master Mix (1x)、各オリゴDNAプライマー0.2 μM、 KAPA RTMix (1x)、ROX low Dye (1x)、0.8 ng/μl全RNAの混合液12.5 μlを反応液とした。内部標準としたACT1遺伝子RNAは、20 ngの全RNA、オリゴDNAプライマーセットOLI1126とOLI1127を用いて、42°C 10分、95°C 3分[95°C 5秒、50°C 20秒、72°C 30秒]x 40サイクルのRT-qPCRで解析した。
【0156】
GFPレポーター遺伝子RNAは、20 ngの全RNA、オリゴDNAプライマーセットpPCRsplitGFPFwとpPCRsplitGFPRvを用いて、42°C 10分、95°C 3分[95°C 5秒、52°C 20秒、72°C 30秒]x 40サイクルのRT-qPCRで解析した。各反応は、ROX low Dyeで補正したのちサイクル値(Ct値)を求め、ACT1遺伝子RNAのCt値とGFPレポーター遺伝子RNAのCt値を用いて比較Ct法によって、GFPレポーター遺伝子の発現を定量解析した。ノーザン解析と同様にRT-qPCR解析においても、GFPヘアピンRNA、HsDicer、HsAgo2とHsTRBPの四者を発現する細胞で僅かながらGFPレポーター遺伝子のRNAが減少しており、ヒトRNAi機構がin yeast実験系で機能する事を確認した。
【0157】
5.人工染色体の安定化
上記2.の方法に従い、バーコードの数を更に増やした人工染色体ベクターを作成したところ、BACの数が10個を過ぎたあたりでリボソームRNA遺伝子が不安定化し、コピーの脱落が生じ得ることが明らかとなった。宿主の4番染色体にあるTRP1遺伝子の上流にSIR2遺伝子を導入した結果、バーコードの挿入確率が増大するとともに、リボソームRNA遺伝子が安定化し、コピーの脱落も減少した。SIR2遺伝子を導入するプロトコール以下に示す。
【0158】
出芽酵母BY4741株の染色体DNAを鋳型として、プライマーMN2509 (Table 1)とMN2510およびMN2511とMN2512を用いて、PCR法により出芽酵母4番染色体の動原体とTRP1遺伝子の間の領域をそれぞれ増幅する。
図15に示すように、それぞれの領域を5'-UP_5' (約250塩基対)と5'-UP_3'(約410塩基対)と呼ぶ。
【0159】
5'-UP_5'断片を制限酵素SalIとEcoRIで切断したのち、前もって同じ制限酵素で切断しておいたプラスミドpTA2に挿入した。得られた組換えプラスミドを制限酵素PstIとBamHIで切断した。5'-UP_3' 断片をやはりPstIとBamHIで切断して、このプラスミドに挿入した。
【0160】
得られた組換えプラスミドpTA-5'-UP_5'+3'(
図15)を制限酵素EcoRIとPstIで切断した。出芽酵母BY4741株の染色体DNAを鋳型として、プライマーMN2515とMN2503を用いてPCR法によりプロモーターとターミネーター領域を含むSIR2遺伝子(約2600塩基対)を増幅した。
【0161】
Candida glabrata由来のHIS3遺伝子(CgHIS3)を含むプラスミドp3009(NBRP::Yeast ID BYP3009)を鋳型として、プライマーMN2517とMN2518を用いてPCR法によりCgHIS3遺伝子を増幅した。プライマーの設計を変えることによりCgHIS3以外の任意のマーカー遺伝子を使用することができる。
【0162】
EcoRIとPstIで切断したプラスミドpTA-5'-UP_5'+3'、上記のSIR2遺伝子およびCgHIS3遺伝子を混合し(約1:2:2のモル比)、等量のNEBuilder試薬(New England Biolab社)を加え、50oCで1時間保持することにより、3種のDNA断片を結合させる。大腸菌DH5?株を形質転換して、目的とする組換えプラスミドを得た(
図15)。
【0163】
使用したプライマー配列を以下の表に示す。
【表8】
太字はそれぞれの断片の結合に必要な重複配列を示す。
【0164】
得られたプラスミドを制限酵素SalIとNotIで切断し、DNA精製キット (MACHEREY-NAGEL社 タカラバイオ)で精製後、バーコードをすでに10個もつ酵母株MFY2010SAH (MATα his3Δ1 ura3delta0 leu2Δ0 met15Δ0 lys2Δ0 fob1Δ0 RDN1-15 BC1-10-URA3)を形質転換した。
【0165】
目的部位への挿入は、酵母形質転換株より染色体DNAを抽出し、プライマーMN2509とMN2512を用いてPCR反応を行い、組換え体から期待される約4800塩基対のDNA断片が得られることを確認した。
【0166】
上記の方法でSIR2遺伝子を出芽酵母の4番染色体に導入することにより、合計15個のバーコード(BAC1~BAC15)を含む、安定性の高い人工染色体ベクターが得られた(
図16)。
【配列表】