(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】接続構造体及び接続構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/08 20060101AFI20240411BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240411BHJP
H01B 13/02 20060101ALI20240411BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240411BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20240411BHJP
C01B 32/16 20170101ALI20240411BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B13/00 501Z
H01B13/02 Z
C01B32/168
C01B32/158
C01B32/16
(21)【出願番号】P 2020059836
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-183281(JP,A)
【文献】特開2019-079813(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125348(WO,A1)
【文献】特開平02-090486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/08
H01B 13/00
H01B 13/02
C01B 32/168
C01B 32/158
C01B 32/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブ素線が撚り合わされたカーボンナノチューブ撚り線と、前記カーボンナノチューブ撚り線を挟持する接続部材とを備える接続構造体であって、
前記カーボンナノチューブ素線の密度が0.8g/cm
3以上であり、
前記カーボンナノチューブ撚り線の撚り度が30T/m以上であり、
前記カーボンナノチューブ撚り線の熱膨張係数が-0.05×10
-5/K以下であり、且つ、
前記接続部材の熱膨張係数が0/Kより大きいことを特徴とする接続構造体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ撚り線の熱膨張係数が-0.08×10
-5/K以下である、請求項1に記載の接続構造体。
【請求項3】
前記接続部材が前記カーボンナノチューブ撚り線を挿入する開口部を有し、
前記開口部の円相当直径に対する前記カーボンナノチューブ撚り線の円相当直径の比が1以上である、請求項1又は2に記載の接続構造体。
【請求項4】
前記接続部材が端子である、請求項1乃至3までのいずれか1項に記載の接続構造体。
【請求項5】
0.8g/cm
3以上の密度を有する複数のカーボンナノチューブ素線を撚り合わせて、-0.05×10
-5/K以下の熱膨張係数及び30T/m以上の撚り度を有するカーボンナノチューブ撚り線を準備する工程と、
熱膨張係数が0/Kより大きい接続部材を加熱して膨張させる工程と、
膨張した前記接続部材の開口部に前記カーボンナノチューブ撚り線を挿入
し、前記カーボンナノチューブ撚り線を熱収縮させる工程と、
前記カーボンナノチューブ撚り線が挿入された前記接続部材を収縮させる工程と、
を含むことを特徴とする接続構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続構造体及び接続構造体の製造方法に関し、特に、複数のカーボンナノチューブ素線が撚り合わされたカーボンナノチューブ撚り線と、当該カーボンナノチューブ撚り線を挟持する接続部材との接続構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機器などの様々な分野における電力線又は信号線を他の部材に接続するために、導体が端子等の接続部材に接続された端子付き電線が用いられている。導体を構成する線材の材料として、通常、電気特性の観点から銅又は銅合金等の金属線が使用されている。
【0003】
一方、近年の自動車の軽量化、車内スペースの拡大、信号線の増加等に伴い、電線の軽量化が求められている。電線の軽量化の1つに、導体としてカーボンナノチューブを用いる技術が知られている。カーボンナノチューブは、様々な特性を有する素材であり、多くの分野への応用が期待されている。例えば、カーボンナノチューブは、軽量であると共に、導電性、熱伝導性、機械的強度等の諸特性に優れるため、線材の材料として有望視されている。
【0004】
カーボンナノチューブの比重は、銅の比重の約1/5(アルミニウムの約1/2)であり、また、カーボンナノチューブ単体は、銅(抵抗率1.68×10-6Ω・cm)よりも高導電性を示す。よって、理論的には、複数のカーボンナノチューブを束ねてカーボンナノチューブ線材を形成すれば、更なる軽量化、高導電率の実現が可能となる。
【0005】
また、カーボンナノチューブ線材に端子等の部材を接続して接続構造体を作製する場合、車両などの移動体用の接続構造体に求められる電気的特性、機械的強度を実現するために、カーボンナノチューブ線材と端子との接合部において一定の導電性、密着性、強度等を確保する必要がある。
【0006】
このような接合部に要求される特性を確保する技術の一例として、特許文献1には、カーボンナノチューブ導体を金属製の端子に圧着接合させた接続構造体が開示されている。特許文献2には、カーボンナノチューブ導体の外表面をカーボンナノチューブよりも電気伝導性が高い金属材料でコーティングし、このカーボンナノチューブ導体を電気端子に圧着させた電線アセンブリが開示されている。
【0007】
しかしながら、カーボンナノチューブ素線は繊維状の軟らかい素線であるため、カーボンナノチューブ線材を端子等の部材に接続する場合、端子からカーボンナノチューブ素線のはみ出しが起こりやすく、端子との組み付けが煩わしくなる問題がある。また、カーボンナノチューブ素線の組み付け不良が生じて、導電性の低下を招くおそれがある。そのため、接続部における素線のはみ出しを防止し、導電性を確保できる接続構造体及びその製造方法の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願公開第2013/0217279号明細書
【文献】特開2018-170267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、接続部における組み付け不良を抑制し、導電性が良好な接続構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1] 複数のカーボンナノチューブ素線が撚り合わされたカーボンナノチューブ撚り線と、前記カーボンナノチューブ撚り線を挟持する接続部材とを備える接続構造体であって、
前記カーボンナノチューブ素線の密度が0.8g/cm3以上であり、
前記カーボンナノチューブ撚り線の撚り度が30T/m以上であり、
前記カーボンナノチューブ撚り線の熱膨張係数が-0.05×10-5/K以下であり、且つ、
前記接続部材の熱膨張係数が0/Kより大きいことを特徴とする接続構造体。
[2] 前記カーボンナノチューブ撚り線の熱膨張係数が-0.08×10-5/K以下である、[1]に記載の接続構造体。
[3] 前記接続部材が前記カーボンナノチューブ撚り線を挿入する開口部を有し、
前記開口部の円相当直径に対する前記カーボンナノチューブ撚り線の円相当直径の比が1以上である、[1]又は[2]に記載の接続構造体。
[4] 前記接続部材が端子である、[1]乃至[3]までのいずれか1つに記載の接続構造体。
[5] 0.8g/cm3以上の密度を有する複数のカーボンナノチューブ素線を撚り合わせて、-0.05×10-5/K以下の熱膨張係数及び30T/m以上の撚り度を有するカーボンナノチューブ撚り線を準備する工程と、
熱膨張係数が0/Kより大きい接続部材を加熱して膨張させる工程と、
膨張した前記接続部材の開口部に前記カーボンナノチューブ撚り線を挿入する工程と、
前記カーボンナノチューブ撚り線が挿入された前記接続部材を収縮させる工程と、
を含むことを特徴とする接続構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の接続構造体の態様によれば、複数のカーボンナノチューブ素線が撚り合わされたカーボンナノチューブ撚り線と、前記カーボンナノチューブ撚り線を挟持する接続部材とを備え、カーボンナノチューブ素線の密度が0.8g/cm3以上であり、カーボンナノチューブ撚り線の撚り度が30T/m以上であり、カーボンナノチューブ撚り線の熱膨張係数が-0.05×10-5/K以下であり、且つ、接続部材の熱膨張係数が0/Kより大きいことにより、カーボンナノチューブ素線のはみ出しが低減し、接続部における組み付け効率が向上する。また、繊維状のカーボンナノチューブ素線の毛羽立ちが低減し、カーボンナノチューブ撚り線の締まりが向上するため、接続部において導電性が確保しやすい。したがって、接続部における組み付け不良が抑制され、導電性が良好な接続構造体を提供することができる。
【0012】
本発明の接続構造体の態様によれば、カーボンナノチューブ撚り線の熱膨張係数が-0.08×10-5/K以下であることにより、接続部における組み付け不良をより改善することができる。
【0013】
本発明の接続構造体の態様によれば、接続部材が前記カーボンナノチューブ撚り線を挿入する開口部を有し、開口部の円相当直径に対するカーボンナノチューブ撚り線の円相当直径の比が1以上であることにより、導電性をより向上させることができる。
【0014】
本発明の接続構造体の製造方法の態様によれば、0.8g/cm3以上の密度を有する複数のカーボンナノチューブ素線を撚り合わせて、-0.05×10-5/K以下の熱膨張係数及び30T/m以上の撚り度を有するカーボンナノチューブ撚り線を準備する工程と、熱膨張係数が0/Kより大きい接続部材を加熱して膨張させる工程と、膨張した接続部材の開口部にカーボンナノチューブ撚り線を挿入する工程と、カーボンナノチューブ撚り線が挿入された接続部材を収縮させる工程と、を含むことにより、接続部におけるカーボンナノチューブ素線のはみ出しが抑制される。したがって、接続部における組み付け不良が抑制され、導電性の確保が容易な接続構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る接続構造体の一例を示す概略模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る接続構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る接続構造体及びその製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
<接続構造体>
図1は、実施形態に係る接続構造体の一例を示す概略模式図である。
図1に示すように、接続構造体1は、カーボンナノチューブ撚り線(以下、「CNT撚り線」ということがある。)10と、CNT撚り線10を挟持する接続部材20とを備えている。接続部材20はCNT撚り線10を挿入するための開口部21を有しており、CNT撚り線10は開口部21を介して接続部材20に挟持されている。尚、
図1における接続構造体1において、各構成の形状、寸法等は
図1のものに限られないものとする。
【0018】
[CNT撚り線]
CNT撚り線10は、複数のカーボンナノチューブ素線(以下、「CNT素線」ということがある。)11が撚り合わされて形成されている。CNTの線材を撚り線の形態とすることで、線材を太線化することができ、強度が向上する。CNT撚り線10では、互いに隣接する各CNT素線11が直接接触している。また、CNT素線11は長手方向の導電性に優れている。そのため、CNT撚り線10は、全体で優れた導電性を発揮する。CNT撚り線10の円相当直径は、特に限定されないが、例えば0.1mm以上10mm以下である。尚、円相当直径は、断面観察から断面積を算出し、これと同じ面積となる円の直径を算出することにより求められる。
【0019】
CNT撚り線10には、異種元素がドープされていてもよい。この場合、CNT撚り線10は、CNT素線11に異種元素がドープされたカーボンナノチューブ複合体の複数が撚り合わされて形成されてもよい。異種元素のドーピングにより、CNT撚り線10の導電性を向上させることができる。異種元素として、例えば、硝酸、硫酸、ヨウ素、臭素、カリウム、ナトリウム、ホウ素及び窒素からなる群から選択される1つ以上の元素又は分子が挙げられる。
【0020】
CNT撚り線10は、複数のCNT素線11を束ねて一端を固定した状態で、もう一端を所定の回数ひねることで、撚り線として形成することができる。CNT撚り線10の撚り度は、複数のCNT素線11を撚り合わせた際のCNT撚り線10の単位長さ当たりの巻き数で表される。すなわち、撚り度は、複数のCNT素線11のひねった回数(T)をCNT撚り線10の長さ(m)で除した値(単位:T/m)で表すことができる。CNT撚り線10の撚り度は30T/m以上であり、50T/m以上であることが好ましく、100T/m以上であることがより好ましい。CNT撚り線10の撚り度が30T/m以上であることにより、CNT素線11同士がより密着してCNT素線11のはみ出しが抑制され、生産効率が向上する。そのため、接続部における組み付け不良が改善され、組み付け不良に起因する導電性の低下を抑制することができる。また、CNT撚り線10の撚り度を高くする程、組み付け不良をより改善できる傾向がある。尚、複数のCNT素線11を過剰に撚り合わせることによるCNT素線11の断線を防止するため、撚り度の上限は、3000T/m以下であることが好ましく、1000T/m以下であることがより好ましく、400T/m以下であることがさらに好ましい。
【0021】
CNT撚り線10の熱膨張係数は-0.05×10-5/K以下であり、-0.08×10-5/K以下であることが好ましい。CNT撚り線10の熱膨張係数が-0.05×10-5/K以下であることにより、接続部において繊維状のCNT素線11の毛羽立ちが低減し、CNT撚り線10の締まりが向上する。これにより、接続部における組み付け効率が向上し、導電性を確保しやすくなる。また、CNT撚り線10の熱膨張係数が-0.08×10-5/K以下であることにより、接続部における組み付け不良をより改善することができる。
【0022】
CNT素線11は、1層以上の層構造を有する長尺なカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある。)の束であり、複数のCNTが纏められて構成されている。CNTの長手方向がCNT素線11の長手方向を形成している。ここで、CNT撚り線10はCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。尚、CNT撚り線におけるCNT割合の算定においては、メッキとドーパントは除かれる。CNT素線11の長手方向が、CNT撚り線10の長手方向を形成しているため、CNT素線11は線状となっている。
【0023】
CNT素線11の本数は、10本以上1000本以下であることが好ましく、50本以上300本以下であることがより好ましく、100本以上200本以下であることがさらに好ましい。CNT素線11の本数が多い程、CNT撚り線10の強度を向上させることができる。そのため、強度の向上と生産性のバランスの観点から、複数のCNT素線11の本数は10本以上1000本以下であることが好ましい。
【0024】
CNT素線11の密度は、0.8g/cm3以上であり、1.0g/cm3以上であることが好ましく、1.3g/cm3以上であることがより好ましい。CNT素線11の密度が0.8g/cm3以上であることにより、CNT素線11同士が密着しやすくなり、CNT素線11のはみ出しが抑制され、生産効率が向上する。そのため、接続部における組み付け不良が改善され、組み付け不良に起因する導電性の低下を抑制することができる。また、CNT素線11の密度が高い程、CNT撚り線10の強度をより向上させることができる。
【0025】
CNT素線11を構成するCNTは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれSWNT(Single-walled nanotube)、MWNT(Multi-walled nanotube)と呼ばれる。例えば、2層構造を有するCNTは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0026】
CNTの性質は、上記筒状体のカイラリティ(chirality)に依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びそれ以外のカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、カイラル型は半導体性、ジグザグ型はその中間の挙動を示す。よってCNTの導電性はいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なる。
【0027】
[接続部材]
接続部材20は、CNT撚り線10と電気的に接続している。CNT撚り線10が接続部材20の開口部21の内部に挿入され、接続部材20が収縮することによりCNT撚り線10が接続部材20に挟持される。これにより、接続部材20とCNT撚り線10とが組み付けられた接続部(図示せず)が形成される。接続部材20は高温下(例えば200℃)で膨張する筒状体であり、冷却により膨張した接続部材20が収縮する。すなわち、接続部材20は熱膨張性を示す材料で形成されており、0/Kより大きい熱膨張係数を有する。また、CNT撚り線10と電気的に接続するため、接続部材20は導電性を有する金属部材であることが好ましい。導電性が高い金属部材の材料として、例えば、銅、アルミニウム、スズ、鉛、鉄、亜鉛、ニッケル、タンタル、パラジウム、金及び銀からなる群から選択される金属、又はその合金が挙げられる。これらの特性を満たす接続部材20として、端子が好ましく、筒状端子がより好ましい。
【0028】
<開口部の円相当直径に対するCNT撚り線の円相当直径の比>
本実施形態に係る接続構造体1において、接続部材20が有する開口部21の円相当直径に対するCNT撚り線10の円相当直径の比が0.9以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、1.05以上あることがさらに好ましい。これにより、接続部材20の熱膨張性を利用してCNT撚り線10と接続部材20との接続がより強固になり、導電性をより確保しやすくなる。特に、接続部材20が有する開口部21の円相当直径に対するCNT撚り線10の円相当直径の比が1.05以上あることにより、導電性がより向上する。尚、膨張した接続部材20の開口部21にCNT撚り線10を挿入しやすくするため、開口部21の円相当直径に対するCNT撚り線10の円相当直径の比の上限は1.2以下であることが好ましい。
【0029】
開口部21の円相当直径の範囲は、例えば、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。尚、開口部21の円相当直径は、開口部21の開口部分の面積と同じ面積の円の直径であり、開口部分の面積は、例えば、マイクロスコープによる開口部の観察画像から測定される。
【0030】
<接続構造体の製造方法>
図2は、本実施形態に係る接続構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示されるように、本実施形態係る接続構造体の製造方法は、0.8g/cm
3以上の密度を有する複数のカーボンナノチューブ素線を撚り合わせて、-0.05×10
-5/K以下の熱膨張係数及び30T/m以上の撚り度を有するカーボンナノチューブ撚り線を準備する工程(ステップS1)と、熱膨張係数が0/Kより大きい接続部材を加熱して膨張させる工程(ステップS2)と、膨張した接続部材の開口部にカーボンナノチューブ撚り線を挿入する工程(ステップS3)と、カーボンナノチューブ撚り線が挿入された接続部材を収縮させる工程(ステップS4)と、を含んでいる。
【0031】
(ステップS1)
まず、CNTを作製し、得られた複数のCNTからCNT素線を作製する。次いで、得られた複数のCNT素線を撚り合わせてCNT撚り線を作製する。CNTは、例えば、浮遊触媒法(特許第5819888号)、基板法(特許第5590603号)等の方法で作製することができる。また、CNT素線は、例えば、乾式紡糸(特許第5819888号、特許第5990202号、特許第5350635号)、湿式紡糸(特許第5135620号、特許第5131571号、特許第5288359号)、液晶紡糸(特表2014-530964)等の方法で作製することができる。
【0032】
例えば、CNT素線の密度は、湿式紡糸、液晶紡糸におけるカーボンナノチューブ分散液の濃度で調整することができ、CNT撚り線の熱膨張係数は、原料として使用するCNTのアスペクト比で調整することができる。また、複数のCNT素線を所望の本数で撚り合わせ、CNT撚り線の単位長さ(1m)当たりの巻き数を調整することで、CNT撚り線の撚り度を制御できる。
【0033】
(ステップS2)
続いて、接続部材を高温下で加熱して膨張させる。加熱温度は使用する接続部材の材料に応じて異なるが、150℃~400℃であることが好ましい。接続部材の熱膨張係数が0/Kより大きいため、接続部材が加熱により膨潤し、開口部の内部にCNT撚り線を円滑に挿入できるようになる。
【0034】
(ステップS3)
続いて、膨張した接続部材の開口部にCNT撚り線を挿入する。高温下に曝した接続部材からの熱がCNT撚り線に伝導し、-0.05×10-5/K以下の熱膨張係数を有するCNT撚り線はその熱により収縮する。これにより、繊維状のCNT素線の毛羽立ちが低減し、CNT撚り線の締まりが向上する。また、CNT撚り線の円相当直径が開口部の円相当直径よりも大きい場合にも、接続部材の膨潤により開口部の直径が一時的に大きくなり、CNT撚り線の円相当直径は収縮により一時的に小さくなるため、開口部の内部にCNT撚り線を挿入することができる。尚、開口部に挿入されるCNT撚り線として、事前にCNT撚り線を熱収縮させ、その状態のCNT撚り線を使用してもよい。
【0035】
(ステップS4)
最後に、CNT撚り線が挿入された接続部材を冷却し収縮させる。これにより、接続部材とCNT撚り線とが組み付けられた接続部が開口部の内部で形成され、CNT撚り線は開口部を介して接続部材に挟持される。接続部材の冷却は、特に限定されるものではなく、空冷等が挙げられる。こうして、接続部におけるCNT素線のはみ出しに起因する接続不良が防止され、導電性を確保することができる。
【0036】
本実施形態における接続構造体1は、自動車、電気機器、制御機器等の様々な分野における電力線、信号線としての電線を他の部材に接続するための接続構造体として使用することができ、特に、自動車用ワイヤハーネスに接続するための接続構造体としての使用に好適である。
【0037】
以上、本発明の実施形態に係る接続構造体及びその製造方法について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はその趣旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1~10及び比較例1~3]
実施例1~10及び比較例1~3について、以下の製造工程により接続構造体を作製した。
【0040】
<CNT撚り線の作製>
先ず、浮遊触媒法で作製したCNTを用いて、湿式紡糸で表1に示す密度を有するCNT素線(素線径:50μm)をそれぞれ作製した。次いで、得られたCNT素線を表1に示す本数及び撚り数にて撚り合わせてCNT撚り線をそれぞれ作製した。尚、CNT撚り線の熱膨張係数は、使用するCNTのアスペクト比を調整することで制御した。
【0041】
<接続構造体の作製>
(実施例1~10及び比較例1~3)
銅製又はアルミニウム製の筒状端子を300℃で加熱し、筒状端子を膨張させた。膨張した筒状端子の内部に作製したCNT撚り線を挿入し、次いで空冷で冷却して筒状端子を収縮させることにより、CNT撚り線が筒状端子の内部に挟持された接続構造体を作製した。尚、筒状端子の熱膨張係数は、JIS Z 2285:2003に記載の方法に準拠して測定した。
【0042】
このように作製した接続構造体について以下の測定及び評価を行った。
【0043】
<CNT素線の密度>
CNT素線1cmを、密度勾配管(柴山科学器械製作所社製)に投入し、CNT素線の密度を測定した。
【0044】
<CNT撚り線の熱膨張係数>
熱機械分析(TMA:Thermomechanical Analysis)を用いて、CNT撚り線の試験片(3cm)の温度を変化させながら、一定荷重を与えた状態で求めたTMA曲線(変位量)より算出した。
【0045】
<開口部の円相当直径に対するCNT撚り線の円相当直径の比>
断面のマイクロスコープ写真からCNT撚り線の断面積を求め、その値からCNT撚り線の円相当直径(以下、「CNT線材径」ともいう)を算出した。また、マイクロスコープ写真から筒状端子の開口部分の面積を計測し、同じ面積になる円の直径を算出し、これを開口部の円相当直径(以下、「端子径」ともいう)とした。得られたCNT線材径、端子径に基づき、端子径に対するCNT線材径の比を算出した。
【0046】
<接続抵抗>
四端子法により接続抵抗を計測した。接続抵抗が10mΩ以下であれば、導電性が良好であると評価した。
【0047】
<組み付け不良>
接続部のマイクロスコープ観察によりCNT素線が端子からはみ出した割合を計測した。CNT撚り線を構成するCNT素線のうち、はみ出したCNT素線の割合が5%未満の場合には「〇」、5%以上10%未満の場合には「△」、10%以上の場合には「×」とそれぞれ判断し、「△」以上であれば組み付け不良が抑制されていると評価した。
【0048】
各実施例及び比較例作製した接続構造体の測定及び評価結果を、下記表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、CNT撚り線が筒状端子の内部に挟持された接続構造体において、CNT素線の密度が0.8g/cm3以上であり、CNT撚り線の撚り度が30T/m以上であり、且つCNT撚り線の熱膨張係数が-0.05×10-5/K以下である実施例1~10では、いずれも、接続抵抗が5mΩ以下であり、得られた接続構造体は良好な導電性を示した。また、CNTのはみ出しについてもCNT撚り線を構成するCNT素線のうち、はみ出したCNT素線の割合が10%未満であった。そのため、実施例1~10では、接続部における組み付け不良が抑制され、導電性が良好な接続構造体を得ることができた。特に、端子径に対するCNT線材径の比が1.08である実施例9では、導電性がより向上した接続構造体を得ることができた。
【0051】
一方、CNT素線の密度が0.7g/cm3である比較例1では、接続抵抗が12mΩであり、実施例1~10と比較して導電性が劣っていた。また、比較例1では、CNTのはみ出しについてCNT撚り線を構成するCNT素線のうち、はみ出したCNT素線の割合が10%以上であったため、接続部における組み付け不良が生じていた。
【0052】
また、CNT撚り線の撚り度が20T/mである比較例2では、接続抵抗が10mΩであり、実施例1~10と比較して導電性が劣っていた。また、比較例2では、CNTのはみ出しについてCNT撚り線を構成するCNT素線のうち、はみ出したCNT素線の割合が10%以上であったため、接続部における組み付け不良が生じていた。
【0053】
また、CNT撚り線の熱膨張係数が-0.04×10-5/Kである比較例3では、接続抵抗が7mΩであり、良好な導電性を示すものの、実施例1~10と比較して導電性がやや劣っていた。一方、比較例3では、CNTのはみ出しについてCNT撚り線を構成するCNT素線のうち、はみ出したCNT素線の割合が10%以上であったため、接続部における組み付け不良が生じていた。
【0054】
このように、カーボンナノチューブ撚り線が接続部材に挟持された接続構造体において、CNT素線の密度が0.8g/cm3以上であり、CNT撚り線の撚り度が30T/m以上であり、且つCNT撚り線の熱膨張係数が-0.05×10-5/K以下であることにより、接続部における組み付け不良を抑制し、導電性が良好な接続構造体を提供することができる。また、このような接続構造体を、接続部材の熱膨張を利用して作製することにより、接続部におけるカーボンナノチューブ素線のはみ出しが抑制される。これにより、接続部における組み付け不良が抑制され、導電性の確保が容易な接続構造体の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 接続構造体
10 カーボンナノチューブ撚り線
20 接続部材
21 開口部