(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】石炭の流動性向上用改質剤の選定方法、改質剤、石炭の改質方法、及びコークスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/06 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
C10B57/06
(21)【出願番号】P 2020137108
(22)【出願日】2020-08-14
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】坪内 直人
(72)【発明者】
【氏名】篠原 祐治
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴
(72)【発明者】
【氏名】野間 洋人
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-040270(JP,A)
【文献】特開2014-043545(JP,A)
【文献】59.石炭軟化溶融時の流動性に対する多環芳香族炭化水素類の添加効果,第43回 石炭科学会議発表論文集,一般社団法人日本エネルギー学会,2006年10月12日,p.119-120
【文献】Effect of Hydrocarbon Addition on Increase in Dilatation of Coal,ISIJ International,vol.59,No.8,2019年,p1404-1412
【文献】No.1-22石炭軟化溶融時の流動性に対する各種添加剤の影響評価,第54回石炭科学会議発表論文集,一般社団法人日本エネルギー学会,2017年10月,p.44-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 57/04-57/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子表面積Sが200Å
2以上であり、分子体積Vが190Å
3以上であり、かつ分極率αが125a.u.以上である化合物を、石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤の選定方法。
【請求項2】
4,4-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル、N,N-ビス(3-メチルフェニル)-N,N-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4-ジアミン、4,4-ビス[N-(スピロ-9,9-ビフルオレン-2-イル)-Nフェニルアミノ]ビフェニル、4-フェニル-4-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン、4-フェニル-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、4,4-ジフェニル-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、4-(1-ナフチル)-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-トリフェニルアミン、4,4-ジ(1-ナフチル)-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン、9,9-ジメチル-N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-フルオレン-2-アミン、N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]スピロ-9,9-ビフルオレン-2-アミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’,N’’-トリフェニル-1,3,5-ベンゼントリアミン
、1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン、4,4-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル、3,6-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)-9-フェニルカルバゾール、3,3-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール)
、ヘキサフェニルベンゼン、および9,10-ビス(2-ナフチル)アントラセンからなる群より選択される
化合物を含む、石炭の流動性向上用改質剤。
【請求項3】
請求項
2に記載の石炭の流動性向上用改質剤を、石炭に対して、0.1質量%以上30質量%以下の含有量となるように混合し、得られた混合物を350℃以上の温度に加熱することを特徴とする、石炭の改質方法。
【請求項4】
前記混合物を、高炉用コークスの原料として用いる、請求項
3に記載の石炭の改質方法。
【請求項5】
請求項
2に記載の石炭の流動性向上用改質剤と石炭との混合物を乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
【請求項6】
前記石炭の流動性向上用改質剤が、石炭に対して0.1質量%以上30質量%以下の含有量となるように添加された前記混合物を乾留する、請求項
5に記載のコークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度のコークスを製造するべく石炭(非微粘結炭を含む)の軟化溶融特性(以下、「流動性」と呼ぶこともある)を向上するにあたり、石炭の改質剤の選定方法、前記選定方法を用いた改質剤、また、前記改質剤を用いた石炭の改質方法及びコークスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉に装入されるコークスは高強度であることが求められている。高強度のコークスを製造するためには、コークス用原料として、粘結性が高い石炭を使用することが望ましい。しかしながら、粘結性が高い石炭のみが採掘されることはなく、粘結性が低い石炭も採掘される。よって、性質の異なる複数種類(銘柄)の石炭を配合して配合炭を作製し、該配合炭をコークス用原料とすることが通常行われている。
【0003】
一般に、粘結性が高い石炭は価格が高く、粘結性が低い石炭は価格が低いため、コークス用原料に、粘結性が低い石炭であるいわゆる非微粘結炭を使用することが原料コストを抑える点で有効である。
【0004】
石炭の粘結性とは、石炭が乾留される際に融けて固まる性質であり、コークスを製造するうえで不可欠な性質である。粘結性は、石炭が軟化溶融した際の特性によって決定されるため、或る銘柄の石炭がコークス用原料として適しているか否かを評価する場合、石炭の軟化溶融特性に関する値(測定値や推定値)を指標にすることが有効となる。
また、高炉用コークスを製造する際には、通常、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭を用いており、そのため従来から、配合炭を原料として製造されるコークスの強度推定法が検討されてきた。そのなかで、特に、「基質強度と流動性を指標としたコークス強度推定法」による方法が一般的に行われている。この方法は、石炭の性状のうちビトリニット平均最大反射率(Roの平均値)とギーセラープラストメーターの最高流動度(MF)との2つの指標をパラメータとして用いてコークス強度を推定する方法である。
【0005】
具体的には、石炭を乾留してコークスを製造する際の因子として、石炭の石炭化度を示すビトリニット平均最大反射率(Ro)と、石炭の粘結性(特に流動性)を示す最高流動度(MF)との2つの特性を組み合わせ、この2つの特性の組み合わせに基づいて、製造されるコークスの強度を推定するという方法である。つまり、製造されるコークスの強度を確保するために、配合炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)及び最高流動度(MF)が所定の範囲になるように原料炭を配合するという方法である。尚、石炭の流動性を示す最高流動度(MF)は、試験方法の特性から試験用攪拌棒の回転数(ddpm)またはその対数値(logMF=log[ddpm])で表されている。ここで、「ddpm」はDial Division per Minute(目盛分割流動度)の略であり、その測定方法はJIS M8801:2008(以下、同改定年)に規定されている。
【0006】
配合炭の最高流動度の具体的な数値としては、配合炭の最高流動度の対数値(logMF)、つまり、混合する各原料炭の最高流動度の対数値(logMF)の加重平均値が1~4の範囲内になるように、好ましくは2.3~3.0の範囲内になるように、各種石炭が配合されているのが一般的である(非特許文献1)。但し、配合炭の最適な最高流動度(logMF)の範囲は、使用するコークス炉の特性や製造条件ごとに異なるので、上記の範囲を外れる場合も発生する。
【0007】
高炉用コークスは、良質粘結炭(強粘結炭)と、この良質粘結炭に比べて安価である非微粘結炭とを混合・配合して製造されている。近年、高炉用コークス製造のために有利である良質粘結炭が世界的に不足しているため、非微粘結炭を良質粘結炭と同等或いは類似の特性に改質できれば、良質粘結炭の不足を補うことが可能となる。また、コークスの製造コストを低減することも可能となる。そこで、粘結性の低い石炭(非微粘結炭)を使用して、強度の高いコークスを製造する技術の開発が進められている。
【0008】
例えば、特許文献1には、タール重質留分を原料炭に添加して混合し、このタール重質留分が混合された原料炭を乾留して、高強度のコークスを製造する方法が提案されている。
【0009】
特許文献2には、粘結性の低い石炭の改質及び利用方法として、非微粘結炭を良質粘結炭に比べてより細かく粉砕したのち、乾燥し、タール、重質油、ピッチ類などのバインダーと混練して擬似粒子化する原料炭の事前処理方法が提案されている。特許文献3には、非粘結炭を非水素供与性溶剤と混合してスラリーとし、該スラリーを300~420℃に加熱して溶剤抽出を行い、加熱後の前記スラリーを液部と非液部とに分離し、液部から溶剤を分離して抽出炭を得るとともに、前記非液部から非抽出炭を得て、軟化流動性に優れた前記抽出炭を前記非抽出炭と適宜配合してコークス用原料とする非粘結炭の改質方法が提案されている。また、特許文献4及び特許文献5には、多量の酸素原子を含む低品位炭を重質油類とともに所定温度で加熱し、低品位炭の表面に重質油類の分解生成物を付着させ、処理過程で水を多量に発生させることなく、効率良く低品位炭を人造粘結炭に改質する方法が記載されている。また、特許文献6には、フェノチアジンやカルバゾールなどの芳香族環を有する1級もしくは2級のアミン系化合物を添加して石炭を改質する方法が記載されている。
【0010】
尚、コークス製造業界において、良質粘結炭と非微粘結炭との境界は明確には定義付けられていない。しかしながら、上述のように、高炉用コークスを製造する際には、最高流動度(logMF)が1~4の範囲内になるように石炭を配合する場合が多いことを考慮すると、最高流動度(logMF)が1.0以下の範囲に該当する石炭は、それ単独では高炉用コークスに不向きな低品位な石炭であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平11-43675号公報
【文献】特開平10-183136号公報
【文献】特開2006-70182号公報
【文献】特開2009-13222号公報
【文献】特開2009-13221号公報
【文献】特開2014-43545号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】宮津ら,「日本鋼管技報」,1975年6月,第67巻,p.125-137
【文献】J.N.Isrealachvili著,近藤保,大島広行訳,「分子間力と表面力」,第二版,朝倉書店,1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
低品位炭を改質し、改質した低品位炭を原料炭の一部または全部として高炉用コークスを製造する場合、生産性向上の観点から、低品位炭の改質工程とコークス製造工程とを同時に行うことが望ましい。また、石炭の改質剤として、石炭と同様な固体状物質、望ましくは粉体を石炭に配合または投入する方法が簡便であり、より好ましい。しかし、石炭と同様な固体状物質の改質剤は、これまで経験的に選定する方法しかなく、ある特定の物性条件を考慮して選択する方法がなかった。また、ある特定の物性条件を考慮して改質剤を選択する方法があれば、添加工程において必要な添加条件を満たす改質剤を短時間で選定でき、コスト面や製造時間でも有利となる。
【0014】
この観点から上記従来技術を検証すると、特許文献1は、タールを原料炭に添加して原料炭と混合する必要があり、単純な工程ではあるものの、液体のタールを改質剤として使用することから、専用の混合容器を用いた混合工程という事前処理が必要である。特許文献2、3、4、5は、コークスを製造する前段階で石炭に事前処理を行う技術である。特許文献6は、石炭と同様な固体状物質を石炭に配合する技術であるが、改質剤は経験的に選定されており物性条件に基づく選定方法は記載されておらず、ごく一部の化合物に限定されるものである。つまり、上記従来技術には、改善すべき点がある。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、高強度のコークスを製造するべく石炭の特性である流動性を向上させるにあたり、固体状物質として使用でき、且つ、石炭の改質工程とコークス製造工程とを同時に行うことができる石炭の改質剤を、ある特定の物性条件の下で簡単かつ効率的に選択し提供することである。つまり、石炭の流動性を向上させる効果を有する固体状物質を改質剤として簡単かつ効率的に選定する選定方法及びその改質剤を提供することである。また、この改質剤を用いた石炭の改質方法及びそれを用いた高強度のコークスを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、コークス原料となる石炭または配合炭に添加し、石炭の流動性を向上させるための改質剤を選定するための特定の物性条件及びその特定の物性条件を有する改質剤を見出し、以下の本発明の完成に至った。上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
【0017】
(1)分子表面積S、分子体積V及び分極率αのすべてが予め定められたそれぞれの閾値以上である化合物を、石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤の選定方法。
【0018】
(2)前記分子表面積S、分子体積V及び分極率αの、予め定められたそれぞれの閾値が
Sの閾値=200(Å2)
Vの閾値=190(Å3)
αの閾値=125(a.u.)
である、上記(1)に記載の石炭の流動性向上用改質剤の選定方法。
【0019】
(3)分子表面積S、分子体積V及び分極率αが、それぞれ次式
S≧200(Å2)
V≧190(Å3)
α≧125(a.u.)
を同時に満たす化合物を含むことを特徴とする、石炭の流動性向上用改質剤。
【0020】
(4)上記(3)に記載の石炭の流動性向上用改質剤を、石炭に対して、0.1質量%以上30質量%以下の含有量となるように混合し、得られた混合物を350℃以上の温度に加熱することを特徴とする、石炭の改質方法。
【0021】
(5)前記混合物を、高炉用コークスの原料として用いる、上記(4)に記載の石炭の改質方法。
【0022】
(6)上記(3)に記載の石炭の流動性向上用改質剤と石炭との混合物を乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
【0023】
(7)前記石炭の流動性向上用改質剤が、石炭に対して0.1質量%以上30質量%以下の含有量となるように添加された前記混合物を乾留する、上記(6)に記載のコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、分子表面積S、分子体積V及び分極率αを指標に簡単な方法で改質剤を選定でき、しかも、コークス用原料として用いる石炭を、入手時とは異なる流動性つまり入手時に比べて高い最高流動度(MF)を有する石炭へ改質することが実現できる。さらに、コークス炉でコークスを製造する際に同時に石炭を改質することも可能であり、従来に比較して簡単且つ効率的に石炭を改質することが実現される。この改質により、最高流動度(MF)の高い石炭を確保しているのと同様の効果が生じ、これにより、高強度コークスの製造に必要な複数銘柄の石炭配合時の配合設計の自由度を高めることが実現される。また、流動性の乏しい低品位な石炭を用いても、石炭を改質できるため、従来、高品位の石炭を使用して製造されていたコークスと同等品質のコークスを製造することができ、コークスの製造コストを削減することが達成される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】改質剤AD-1の添加量と最高流動度(logMF)との関係を示す図である。
【
図2】改質剤AD-4の添加量と最高流動度(logMF)との関係を示す図である。
【
図3】改質剤AD-4を添加した石炭を乾留して得たコークスの強度(DI 150/15)を示す図である。
【
図4】改質剤AD-4をコークスに添加した場合の添加量と最高流動度(logMF)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施形態の代表例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変形して実施することができる。
【0027】
[改質剤の選定方法]
本発明の石炭の流動性向上用改質剤の選定方法は、分子表面積S、分子体積V及び分極率αのすべてが予め定められたそれぞれの閾値以上である化合物を、石炭の流動性を向上させる改質剤として選定することを特徴とする。
【0028】
本発明の選定方法が、改質剤として使用できる化合物を、分子表面積S、分子体積V及び分極率αに基づいて選定できる理由は、以下のように推察される。
石炭の分子間における熱膨張性や粘性などの力学特性を分子論的に考察すると、目的生成物であるコークスの品質には、それを構成する石炭と改質剤の組み合わせの分子間力(ファンデルワールス力や静電相互作用)の強さが影響していると考えられる。改質剤による石炭分子への特性の寄与は、前記改質剤が石炭を構成する分子種との分子間力がどれほど強いかで見積もることができる。
【0029】
石炭分子は、カルボニル基や水酸基など分極率が高い部分を持っており、分極率の大きな改質剤は石炭分子の間に入り込んだとき、石炭分子を排斥することによって、石炭分子同士が凝集しにくくなり、軟化溶融時の粘性が低下して流動性が向上すると考えられる。また分子表面積や分子体積の大きな改質剤は石炭分子の間に入り込んだとき軟化溶融時の石炭分子同士の凝集を緩和し、粘性が低下する原因である石炭分子同士の熱重合を防ぐ効果ももたらすと考えられる。以上のような視点に立って、非特許文献2を参考に改質剤の表面積、体積及び分極率に着目して、改質剤の分子表面積、分子体積及び分極率について解析した結果、以下の条件を満たす改質剤が石炭の流動性の改質に有効であることを見出した。以下のような特性を有する化合物が石炭の改質作用を有していることは従来知られておらず、本発明はこのような化合物の新たな用途を提供する。
【0030】
<改質剤の分子表面積S、分子体積V及び分極率α>
本発明において、前記改質剤の分子表面積S、分子体積V及び分極率αは、文献値を用いてもよいが、計算で求めることもできる。計算で求める方法としては、例えば、分子軌道法による計算があげられる。より具体的には、分子軌道法による計算として制限Hartree-Fock(ハートリー-フォック)法計算(A.SzaboおよびN.S.Ostlund,“Modern Quantum Chemistry”,(米),McGraw-Hill publishing company,NewYork,1989年を参照)を用いた構造最適化計算による方法があげられる。ここでは、上記計算方法により改質剤分子の安定構造を求めてその時の分子表面積Scalc、分子体積Vcalc及び分極率αcalcを算出し、その値をそれぞれ分子表面積S、分子体積V及び分極率αとした。この時、基底関数系として6-31Gに分極関数を加えた6-31G(d,p)を用いた。
【0031】
同様の計算手法としては、P.C.HariharanおよびJ.A.Pople,“Molecular Physics”,(英),1974年,vol.27,p.209-214を参考にすることができる。
【0032】
本明細書において、基底関数系として6-31G(d,p)を用いたHartree-Fock法計算を「制限HF/6-31G(d,p)」と記述する。また、前記改質剤の分子表面積Scalc及び分子体積Vcalcの算出には、ファンデルワールス半径を用いた。本発明における改質剤の計算に用いたプログラムは、「スパルタン’18ウインドウズ用(64ビット)バージョン1.3.0」(Spartan’18 for Windows (64-bit) Version 1.3.0(Wavefunction,Inc.))である。
【0033】
改質剤として選定される化合物の分子表面積Sは、例えば200Å2(2.0nm2)以上であり、粘性・流動性向上の観点から、260Å2(2.6nm2)以上が好ましく、280Å2(2.8nm2)以上がさらに好ましい。分子表面積Sが200Å2未満の場合、分子自体の表面積の大きさによる効果から周辺の石炭分子を排斥する効果が弱くなり十分でない。前記分子表面積Sの上限値は、特に限定されないが、化合物の入手容易性の観点から、1000Å2(10.0nm2)以下が好ましく、600Å2(6.0nm2)以下がより好ましい。
【0034】
改質剤として選定される化合物の分子体積Vは、例えば190Å3(0.19nm3)以上であり、粘性・流動性向上の観点から、250Å3(0.25nm3)以上が好ましく、300Å3(0.30nm3)以上がさらに好ましい。分子体積Vが190Å3未満の場合、分子自体の体積の大きさによる効果から周辺の石炭分子を排斥する効果が弱くなり十分でない。前記分子体積Vの上限値は、特に限定されないが、化合物の入手容易性の観点から、1000Å3(1.00nm3)以下が好ましく、600Å3(0.60nm3)以下がより好ましい。
【0035】
改質剤として選定される化合物の分極率αは、例えば125a.u.(2.06×10-39 C2m2J-1)以上であり、粘性・流動性向上の観点から、170a.u.(2.80×10-39 C2m2J-1)以上が好ましく、200a.u.(3.30×10-39 C2m2J-1)以上がさらに好ましい。125a.u.未満の場合、石炭分子からの誘起力が弱く効果が不十分である。前記分極率αの上限値は、特に限定されないが、化合物の入手容易性の観点から、800a.u.(13.2×10-39 C2m2J-1)以下が好ましく、400a.u.(6.59×10-39 C2m2J-1)以下がより好ましい。
【0036】
<改質剤>
本発明の上記パラメータを満たす改質剤となりうる有機化合物の構造の例としては、1級もしくは2級のアミン系化合物誘導体、フェノチアジン誘導体、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。特に、4,4-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)、N,N-ビス(3-メチルフェニル)-N,N-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4-ジアミン(略称:TPD)、4,4-ビス[N-(スピロ-9,9-ビフルオレン-2-イル)-Nフェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)、4-フェニル-4-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)、4-フェニル-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBA1BP)、4,4-ジフェニル-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBBi1BP)、4-(1-ナフチル)-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)-トリフェニルアミン(略称:PCBANB)、4,4-ジ(1-ナフチル)-4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)、9,9-ジメチル-N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-フルオレン-2-アミン(略称:PCBAF)、N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]スピロ-9,9-ビフルオレン-2-アミン(略称:PCBASF)、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’,N’’-トリフェニル-1,3,5-ベンゼントリアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミンなどの芳香族アミン骨格を有する化合物や、1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン(略称:mCP)、4,4-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、3,6-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)-9-フェニルカルバゾール(略称:CzTP)、3,3-ビス(9-フェニル-9H-カルバゾール)(略称:PCCP)などのカルバゾール骨格を有する化合物は、流動性向上効果が高く改質剤として好ましい。
【0037】
また、分子内のπ共役系が広がるほど、化合物の分極率αが大きくなる傾向がある。そのため、好ましい改質剤の例としては、平面性及び置換基による立体効果を考慮した上で、広いπ共役系を有する芳香族多環化合物または縮合環化合物等の芳香族炭化水素を含む構造を有する有機化合物、例えば、ペリレン、コロネン、ヘキサフェニルベンゼン、9,10-ビス(2-ナフチル)アントラセン等が挙げられる。
【0038】
また、改質剤として選択される化合物の分子量には特に制限はない。ただし、改質剤の溶融による石炭への影響を抑えるために、改質剤の構造の側鎖はアルキル鎖等の鎖式有機化合物置換基で終端させた化合物より、環式有機化合物置換基で終端させた化合物がより好ましい傾向がある。
なお、改質剤として好適な有機化合物の具体例を上述したが、分子表面積S、分子体積V及び分極率αが本願所定の範囲の化合物であれば、固体状物質として取り扱うことができる上、本発明の改質剤としての効果も十分に発揮できる。
【0039】
以下の表1に、本発明に好適な改質剤の例であるAD-1~AD-9及び対照例の改質剤AD-10~AD-12の構造、ならびにそれぞれの制限HF/6-31G(d,p)による構造最適化計算の結果から得られた分子表面積Scalc、分子体積Vcalc及び分極率αcalcを示す。以下の構造は本発明をより具体的にするために例示するものであり、本発明の概念を逸脱しない限りは下記構造に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限りはいかなる公知の化合物を用いてもよい。
【0040】
【0041】
後述の実施例において、表1記載の化合物を石炭に添加した場合のギーセラー流動性の向上効果を測定したところ、所定の分子表面積S、分子体積V及び分極率αを有する化合物が石炭を改質する効果を有することを確認することができた。
【0042】
前記改質剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
<石炭の改質方法>
本発明の石炭の改質方法では、石炭と前記改質剤との混合物を、350℃以上の温度で乾留する。高炉コークス用石炭は350℃以上に加熱されると流動する(軟化溶融する)現象が発現し、この流動性が、改質剤の添加によって向上する。また、上記では、常温で石炭と改質剤とを混合しているが、昇温した石炭中に改質剤を添加しても構わない。
前記改質剤の改質対象の石炭100質量%(100質量部)に対する配合量は、0.1質量%(0.1質量部)未満では効果が充分ではなく、30質量%(30質量部)を超えてはコスト的に非常に高いものになってしまうため、0.1質量%以上30質量%以下が好ましい。種類の異なる2種以上の、改質剤を混合して使用する場合には、それらの合計量が上記範囲にあればよい。
【0044】
本発明に係る石炭の改質方法において、改質の対象となる石炭は、限定されず、例えば、強粘結炭、非微粘結炭などの高炉用コークスの原料として供される石炭の全てを対象とすることができる。特に、低い最高流動度(MF)を有する非微粘結炭を、1種類(1銘柄)単独で(単味炭)、または数種類の非微粘結炭を配合した配合炭として、その石炭に改質剤がよく接触するように改質剤を添加することが有効である。
【0045】
流動性改善対象の石炭は、粒径5.0mm以下(目開き寸法5.0mmの篩いを通過した篩下)に粉砕することが好ましく、より好ましくは粒径5.0mm以下で且つそのうちの少なくとも70質量%以上が粒径3.0mm以下(目開き寸法3.0mmの篩いを通過した篩下)となるように粉砕する。この粉砕した石炭に改質剤を混合する。
【0046】
前記改質剤を固体状物質、例えば粉末として用いる場合の粒度は、特に規定されるものではないが、効率的に改質したい場合には、粒径は細かく、例えば10mm以下とすることが好ましい。
【0047】
上述のように、改質剤は粉末状にして添加してもよいが、添加する際の形態は特に制限されるものではない。例えば、タブレットに成形した状態で添加してもよく、溶剤などに溶解して溶液として添加してもよく、更に、スラリー状で添加してもよい。溶剤は、石炭の改質で一般に用いられているものを使用できる。
【0048】
前記改質剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、改質剤の効果を阻害しない範囲で、他の化合物が改質剤に混合されたものを流動性改善剤として使用してもよい。
【0049】
<コークスの製造方法>
上述の配合量で混合した石炭と改質剤との混合物を、高炉用コークスの原料として用いてコークスを製造してもよい。
【0050】
更に、複数の銘柄の石炭を混合した配合炭をコークス炉に装入してコークスを製造する際に、1種以上の或る銘柄の石炭に改質剤の粉末を添加して混合し、この改質剤との混合物を、配合炭を構成する石炭としてコークスを製造してもよい。改質剤の粉末と混合された石炭は、コークス炉での乾留時、加熱され昇熱する際に改質剤によって流動性が改善され、他の銘柄の石炭と反応してコークスが製造される。
【0051】
また、粘結性の低い非微粘結炭を含む配合炭に改質剤を添加して乾留することもできる。この場合には、非微粘結炭に改質剤を添加する場合に比べて非微粘結炭と改質剤の接触が減少するが、改質剤は粘結性の高い石炭の粘結性をさらに高める効果もあるため、配合炭全体を改質する効果によって高強度のコークスを製造することおよび、安価な非微粘結炭の使用量を増やすことが可能になる。
【0052】
コークスを製造する際の乾留温度は、一般的に700~1300℃と高温であるが、改質剤添加による流動性改善効果は350℃以上550℃以下の温度範囲で発現するものであり、コークス製造のための乾留時の昇熱過程で石炭は十分に改質される。石炭をコークスに乾留しないで改質剤による石炭の流動性向上のみを目的とする場合には、乾留温度は350~550℃で十分である。また、この場合の乾留時間は、石炭の種類などによっても左右されるので、流動性を改善しようとする石炭の少量を用いた予備実験を行うことで、適宜決定することができる。
【実施例】
【0053】
以下で、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
【0054】
[実施例1]
改質剤AD-1(ヘキサフェニルベンゼン)を添加して、石炭の流動性を改質した例を説明する。
改質剤AD-1による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、JIS M8801に従って粒径425μm以下に粉砕した石炭と市販のAD-1の粉末とを混合し、石炭とAD-1との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するAD-1粉末の混合量は、石炭100質量%に対するAD-1の質量比が10質量%となるように調製した。この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで加熱することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。
【0055】
また、併せてAD-1を混合しない原炭(本願実施例では複数の銘柄を混合しない1銘柄の石炭単独、すなわち、単味炭を使用した)での最高流動度(logMF)の測定も行った。改質試験に供した石炭の最高流動度(logMF)を表2に示す。表2に「原炭の最高流動度(logMF)」として示すように、改質試験に供した石炭の最高流動度(logMF)は0.60であって、このままでは高強度コークスの製造が不可能な低い流動度を有する低品位な石炭である。
【0056】
[実施例2~9]
改質剤AD-1を、それぞれ制限HF/6-31G(d,p)による構造最適化計算の結果から得られた分子表面積Scalc、分子体積Vcalc及び分極率αcalcがそれぞれScalc≧200(Å2)、Vcalc≧190(Å3)及びαcalc≧125(a.u.)を満たす表1に示す改質剤AD-2~AD-9に変更した以外は、実施例1と同様に最高流動度(logMF)の測定を行った。
【0057】
また、併せて実施例1と同様に改質剤を混合しない原炭での最高流動度(logMF)の測定も行った。測定結果を表2に「原炭の最高流動度(logMF)」として示す。
【0058】
[比較例1~3]
比較例として、AD-1の代わりに、制限HF/6-31G(d,p)による構造最適化計算の結果から得られた分子表面積Scal、分子体積Vcalc及び分極率αcalcが、それぞれScalc<200(Å2)、Vcalc<190(Å3)及びαcalc<125(a.u.)であるAD-10、AD-11又はAD-12を、石炭100質量%に対して10質量%となるように石炭に添加し、これらの混合試料についても、JISM8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。
【0059】
また、併せて実施例1と同様に改質剤を混合しない原炭での最高流動度(logMF)の測定も行った。測定結果を表2に「原炭の最高流動度(logMF)」として示す。
【0060】
【0061】
改質前後の最高流動度差(ΔlogMF)は、改質後の最高流動度(logMF)の値から原炭の最高流動度(logMF)の値を差し引いて求めた。表2で、改質前後の最高流動度差(ΔlogMF)が1.50(log[ddpm])以上の場合を◎、0.50(log[ddpm])以上かつ1.50(log[ddpm])未満の場合を○、0.50(log[ddpm])未満の場合を×と評価した。
【0062】
表2に示すように、実施例のAD-1~AD-9を石炭に添加することで、何れにおいても流動性が著しく向上し、最高流動度(logMF)が上昇することがわかった。このことは、原料石炭の最高流動度(logMF)の大小に拘らず、AD-1~AD-9は最高流動度(logMF)の向上に有効であることを示している。更に、AD-1~AD-7の改質剤添加後の最高流動度(logMF)は2.0を上回っており、高強度コークス製造にとって適正な流動度であり、コークス化性が向上していることがわかった。
【0063】
これに対して、比較例のAD-10、AD-11及びAD-12の添加では、石炭の流動性の変化はほとんどなく、流動性の向上効果は認められなかった。
【0064】
以上の結果から、制限HF/6-31G(d,p)による構造最適化計算の結果から得られた分子表面積Scalc、分子体積Vcalc及び分極率αcalcが、それぞれScalc≧200(Å2)、Vcal≧190(Å3)及びαcalc≧125(a.u.)を満たす改質剤は、石炭の流動性向上をもたらす効果のある物質であることがわかった。
【0065】
[実施例10]
制限HF/6-31G(d,p)による構造最適化計算の結果から得られた分子表面積Scalc、分子体積Vcalc及び分極率αcalcが、それぞれScalc≧200(Å2)、Vcalc≧190(Å3)及びαcalc≧125(a.u.)を満たす改質剤AD-1の添加量を変えて添加し、石炭の流動性を改質した例を説明する。改質試験に用いた石炭は、最高流動度(logMF)が0.6であり、単独では高強度なコークスを製造することが困難な流動性の低い低品位な石炭である。
【0066】
AD-1の添加による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、JIS M8801に従って粒径425μm以下に粉砕した石炭とAD-1を混合し、石炭とAD-1との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するAD-1の粉末の混合量は、石炭100質量%に対するAD-1の質量比が5質量%又は10質量%となるように調製した。
【0067】
この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで加熱することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。また、併せてAD-1を混合しない原炭のみでの最高流動度(logMF)の測定も行った。
【0068】
測定結果を
図1に示す。
図1は、AD-1の添加量と最高流動度(logMF)との関係を示す。
【0069】
図1に示すように、石炭100質量%に対してAD-1の5質量%の添加で流動性が向上することがわかった。更に添加量を増やしていくことで、添加量に応じて流動性が著しく向上することがわかった。また、添加量と最高流動度(logMF)との関係が比例関係になることがわかった。
【0070】
[実施例11]
制限HF/6-31G(d,p)による構造最適化計算の結果から得られた分子表面積Scalc、分子体積Vcalc及び分極率αcalcが、それぞれScalc≧200(Å2)、Vcalc≧190(Å3)及びαcalc≧125(a.u.)を満たす改質剤AD-4(N,N'-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン)の添加量を変えて添加し、石炭の流動性を改質した例を説明する。改質試験に用いた石炭は、最高流動度(logMF)が1.04であり、単独では高強度なコークスを製造することが困難な流動性の低い低品位な石炭である。
【0071】
AD-4の添加による石炭の流動性向上は、以下の手順で確認した。先ず、JIS M8801に従って粒径425μm以下に粉砕した石炭とAD-4を混合し、石炭とAD-4との混合試料を作製した。このとき、石炭に対するAD-4の粉末の混合量は、石炭100質量%に対するAD-4の質量比が0.2~10質量%となるように調製した。
【0072】
この混合粉末を、JIS M8801のギーセラープラストメーター法で定められた所定の容器内に装入し、この混合粉末を装入した容器を、JIS M8801に基づいて300℃に予熱した炉内に装入し、3℃/minで550℃まで加熱することによって、混合粉末を石炭の軟化溶融温度域に昇温した。この混合試料に対して、JIS M8801に準拠して石炭の最高流動度(logMF)の測定を行った。また、併せてAD-4を混合しない原炭のみでの最高流動度(logMF)の測定も行った。
【0073】
測定結果を
図2に示す。
図2は、AD-4の添加量と最高流動度(logMF)との関係を示す。
【0074】
図2に示すように、石炭100質量%に対してAD-4の添加は0.2質量%の添加でも流動性が向上することがわかった。更に添加量を増やしていくことで、添加量に応じて流動性が著しく向上し、10質量%では急激に向上することがわかった。
【0075】
このように、本発明を適用することで、石炭の流動性向上用の改質剤の選定が容易になること、また、実際にそれら改質剤おいて石炭の流動特性の向上効果が発現することがわかった。つまり、石炭への本発明により選択された改質剤の添加によって、石炭の流動特性を改質できることが確認できた。
なお、本発明において、石炭の流動性は、加熱された石炭が示す流動性を評価している。石炭が流動性を示す温度は350℃であるので、改質剤を石炭に添加した混合物を350℃以上に加熱することにより石炭が改質されることが明らかとなった。
【0076】
[実施例12]
石炭に改質剤AD-4を1質量%添加した混合物を乾留して製造されたコークスの強度を、改質剤を含まない同じ石炭を乾留して製造されたコークスの強度と比較した結果を
図3に示す。改質剤は石炭100質量%に対して外枠で添加した。
石炭100質量%に対して改質剤1質量%の添加で、JIS K2151:2004に規定されているコークス強度の指標であるドラム試験の150回転の15mm指数(DI 150/15)の値は、改質剤を添加しない(添加量0質量%)場合の強度に比べて6.1ポイント向上した。これは、改質剤によって混合物のギーセラー流動性が向上したためと考えられ、本発明の改質剤は、特にコークス製造用の石炭の改質方法として優れていることが明らかとなった。
【0077】
[比較例4]
改質剤の効果をより明確に示すための比較実験として、改質剤と粉コークスの混合物のギーセラー流動性を評価した。粉コークスは石炭を約1000℃に加熱乾留して得たコークスを1mm以下の粒度に微粉砕したものであり、粉コークスを再度加熱しても軟化溶融することはない。粉コークスに改質剤AD-4を添加して、JIS M8801に準拠してコークスのギーセラー最高流動度(logMF)の測定を行った結果を
図4に示す。石炭の場合と異なり、粉コークス100質量%に対してAD-4を10質量%まで添加しても流動性はみられなかった。
この結果は、改質剤として添加した物質が単に融解することによって混合物の流動性が向上したのではなく、改質剤が石炭と相互作用した結果として混合物の流動性が向上したことを示している。つまり、本発明の改質剤を石炭に添加することにより、石炭の改質が起こっていることの裏付けが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、分子表面積S、分子体積V及び分極率αを指標に簡単な方法で改質剤の選定ができる。さらに、選定された改質剤を石炭に添加するという簡単な方法で、コークス用原料として用いる石炭の流動性を、入手時とは異なる流動性、つまり入手時に比べて最高流動度(logMF)の高い特性を有する石炭に改質することが実現できる。しかも、コークス炉でコークスを製造する際に合わせて改質することも可能であり、従来に比較して簡単且つ効率的に石炭の流動性を向上させ、且つ、高強度のコークスを製造することが実現される。