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特許7470863フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法
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  • 特許-フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G09F 9/00 20060101AFI20240411BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240411BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20240411BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
G09F9/00 302
G09F9/00 342
G09F9/30 308Z
C09J7/30
C09J201/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023515661
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2022044271
(87)【国際公開番号】W WO2023112685
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021204360
(32)【優先日】2021-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】坂井 小雪
(72)【発明者】
【氏名】徳久 憲司
【審査官】川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-097595(JP,A)
【文献】国際公開第2011/125099(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110799590(CN,A)
【文献】特開2020-105061(JP,A)
【文献】特開2003-216060(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153259(WO,A1)
【文献】特開2020-125463(JP,A)
【文献】特開2018-028974(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112625623(CN,A)
【文献】特開2004-281085(JP,A)
【文献】特開2016-126130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-201/10
G09F9/00-9/46
H05B33/00-33/28
44/00
45/60
H10K50/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルフィルムと接着剤層とを積層してなり、
前記フレキシブルフィルムの表面自由エネルギーと、前記接着剤層を硬化してなる硬化層の表面自由エネルギーとの差の絶対値が30dyn/cm以下であり、前記硬化層の貯蔵弾性率が0.8~3.0GPaで
前記フレキシブルフィルムの線膨張係数と、前記硬化層の線膨張係数との差の絶対値が、20ppm/K以下であり、
前記接着剤層が、エポキシ樹脂と、該エポキシ樹脂の硬化剤と、ガラス転移温度が50~90℃のフェノキシ樹脂とを少なくとも含み、
前記フレキシブルフィルムと、機能性素子を含む積層体とを、前記接着剤層を硬化してなる硬化層を介して接着するための、フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
【請求項2】
前記接着剤層又は前記硬化層の厚みが1~100μmである、請求項1に記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
【請求項3】
前記フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートがフレキシブルディスプレイ用基材・接着剤層一体型シートである、請求項1に記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
【請求項4】
支持基材であるフレキシブルフィルムと、機能性素子を含む積層体とを、接着剤層を硬化してなる硬化層を介して接着してなるフレキシブルデバイスの該支持基材を、請求項1~のいずれか1項に記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートにより形成することを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、請求項に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート、及びフレキシブルデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルディスプレイなどのフレキシブルデバイスは、可撓性を有する支持基材(フレキシブルフィルム)上に、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子、液晶パネル、マイクロ発光ダイオード(マイクロLED)、トランジスタなどの半導体素子(これらをまとめて機能性素子と称す)を形成することにより製造される。最近では、スマートフォン、ファブレット、タブレットなどのモバイル端末のディスプレイへの適用において、折りたたんだり、丸めたりすることが可能なフォルダブルなフレキシブルデバイスが求められている。
【0003】
このようなフレキシブルデバイスは、上記の通り、デバイス本体の強度を高めて信頼性を付与するために、デバイス全体を支える支持基材としてフレキシブルフィルム(バックプレート)を有している。すなわち、フレキシブルフィルム上に上記の機能性素子が固定化され、フレキシブルデバイスが製造される。機能性素子は通常、その両面には種々の機能層(例えば、保護層、ガスバリア層(封止層)、偏光板、ハードコート層など)が積層されており、機能性素子を含む積層体全体が一体にフレキシブルフィルム上に配され、ペースト状又はフィルム状の接着剤を介して固定化される。フレキシブルフィルムとして、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムなどが用いられている。
【0004】
フレキシブルデバイスの製造において、積層構造の層間の接着に用いる接着性シートが提案されている。例えば特許文献1には、第1剥離フィルム及び第2剥離フィルムと、それらの挟持された接着剤層とを有するデバイス封止用接着シートが記載されている。この接着剤層は、環状エーテル基を有する化合物を含有し、23℃における貯蔵弾性率が9.5×10Pa以上3.0×10Pa以下に調整される。特許文献1記載の技術によれば、接着シートを裁断加工しても接着剤層からの剥離フィルムの剥離性に優れ、この接着剤層は被着体との接着性にも優れるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2020/251030号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、フレキシブルデバイスの層間の接着に用いる接着性シートは、接着剤層の両面に剥離フィルムを設け、使用時には両面の剥離フィルムを剥がして、両面が接着性を有する接着性フィルムとして使用される。例えば、上記支持基材であるフレキシブルフィルム上に機能性素子を設ける場合には、接着性シートから剥離フィルムを剥がして、接着剤層の一面にはフレキシブルフィルムを貼り合わせ、他面に、機能性素子を含む積層体を貼り合わせる2段階の工程を経ることになる。この場合、フレキシブルフィルムと接着剤層との組み合わせによっては、接着剤層を硬化させると、折り曲げた際にフレキシブルフィルムと接着剤層との間に剥離が生じやすい。フレキシブルフィルムと接着剤層との間に剥離が生じれば、デバイスの信頼性が大きく低下してしまう。
【0007】
本発明は、フレキシブルフィルムと接着剤層とを積層してなり、フレキシブルフィルムと接着剤層との接着性(硬化反応による接着性)に優れ、フレキシブルデバイスの支持基材として、そのまま、機能性素子を含む積層体と貼り合わせて接着することができるフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートを提供することを課題とする。また、本発明は、フレキシブルデバイスの製造工程を簡略化することができ、得られるフレキシブルデバイスの品質もより高めることを可能とするフレキシブルデバイスの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記課題は下記の手段により解決される。
〔1〕
フレキシブルフィルムと接着剤層とを積層してなり、前記フレキシブルフィルムの表面自由エネルギーと、前記接着剤層を硬化してなる硬化層の表面自由エネルギーとの差の絶対値が30dyn/cm以下であり、前記硬化層の貯蔵弾性率が5.0GPa以下である、フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
〔2〕
前記フレキシブルフィルムの線膨張係数と、前記硬化層の線膨張係数との差の絶対値が、25ppm/K以下である、〔1〕に記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
〔3〕
前記接着剤層が、環状エーテル基を有する化合物と、該化合物の硬化剤と、ポリマー成分とを少なくとも含む、〔1〕又は〔2〕に記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
〔4〕
前記接着剤層又は前記硬化層の厚みが1~100μmである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
〔5〕
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート。
〔6〕
フレキシブルデバイスの支持基材を、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートにより形成することを含む、フレキシブルデバイスの製造方法。
〔7〕
前記フレキシブルデバイスがフレキシブルディスプレイである、〔6〕に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。
【0009】
本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明において積層構造の「上」「下」の用語は、便宜上、フレキシブルフィルム側を下、接着剤層側を「上」として用いている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートは、フレキシブルデバイスの支持基材として適用可能なフレキシブルフィルムと接着剤層との積層構造を有し、フレキシブルデバイスの支持基材として、そのまま、前記接着剤層を介して機能性素子を含む積層体と貼り合わせることができ、前記フレキシブルフィルムと前記接着剤層との接着性(硬化反応による接着性)にも優れる。すなわち、本発明のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートは、フレキシブルデバイスの製造工程の簡略化に寄与し、得られるフレキシブルデバイスの品質向上にも寄与する。
また、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法によれば、フレキシブルデバイスの製造工程を簡略化することができ、得られるフレキシブルデバイスの品質もより高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートの積層構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート]
本発明のフレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シート(以下、単に「本発明の一体型シート」とも称す。)は、フレキシブルフィルムと接着剤層とを積層してなる構造を有する。本発明の一体型シートは、前記フレキシブルフィルムの表面自由エネルギーと、前記接着剤層を硬化してなる硬化層の表面自由エネルギーとの差の絶対値が30dyn/cm以下である。これにより、前記フレキシブルフィルムと前記接着剤層の硬化層との接触面の密着力を効果的に高めることができる。また、前記硬化層の貯蔵弾性率は5GPa以下である。
このような構成により、一体型シートの接着剤層を硬化反応させた後、一体型シートを繰り返し折り曲げても、硬化層の破断、硬化層の折り痕、及び硬化層とフレキシブルフィルムとの間の剥離などを効果的に抑えることができる。したがって、本発明の一体型シートをフレキシブルデバイスの支持基材として用いることにより、フレキシブルデバイスの信頼性(構造安定性等)をより高めることができる。
本発明の一体型シートを構成するフレキシブルフィルム及び接着剤層について順に説明する。
【0013】
<フレキシブルフィルム>
本発明の一体型シートを構成するフレキシブルフィルムは、可撓性を有し、フレキシブルデバイスの支持基材として用いることができれば、材質、厚み等は特に制限されない。すなわち、フレキシブルデバイスに用いられているフレキシブルフィルムを広く適用することができる。
フレキシブルフィルムは、貯蔵弾性率が10GPa以下であることが好ましく、7GPa以下がより好ましく、5GPa以下がさらに好ましい。上記貯蔵弾性率は、通常は0.01GPa以上であり、0.05GPa以上であることも好ましく、0.1GPa以上であることも好ましい。フレキシブルフィルムの貯蔵弾性率は、フレキシブルフィルムを5mm幅に切り出し、動的粘弾性測定装置RSAIII(TAインスツルメント製)を用いて、チャック間距離20mm、周波数10Hzの引張条件で、-20℃から150℃まで、昇温速度5℃/minの条件で昇温したときの、23℃における貯蔵弾性率である。
本発明において単に「貯蔵弾性率」という場合、常温(23℃)における貯蔵弾性率である。
【0014】
上記フレキシブルフィルムの好ましい材質として、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂等)、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等)、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂等が挙げられる。なかでもポリエステル樹脂又はポリイミド樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂の好ましい例として、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂などが挙げられる。
【0015】
上記フレキシブルフィルムの厚みは、通常は1~1000μmであり、5~800μmが好ましく、5~400μmであることも好ましく、5~200μmであることも好ましく、10~100μmであることも好ましい。厚みは、接触・リニアゲージ方式(卓上型接触式厚み計測装置)により測定することができる。
【0016】
上記フレキシブルフィルムは、その上の接着剤層との接触面において、表面自由エネルギーが10~200dyn/cmであることが好ましく、20~100dyn/cmであることがより好ましく、30~80dyn/cmであることも好ましく、35~75dyn/cmであることも好ましく、40~70dyn/cmであることも好ましく、45~65dyn/cmであることも好ましく、48~62dyn/cmであることも好ましい。
【0017】
本発明において「表面自由エネルギー」は、Owens and Wendt法を用いて得られた値であり、測定対象の表面の、純水及びジヨードメタンに対する接触角を測定(液滴容量:純水2μL、ジヨードメタン3μL、読み取り時間:滴下30秒後、測定雰囲気:温度23℃、相対湿度50%)し、下記式1の連立方程式を解くことで求められる。なお、下記における「固体表面」とは、測定対象表面(フレキシブルフィルム表面、接着剤層を硬化してなる硬化層表面)のことである。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、式(1)はFowkes-Owens式で、表面自由エネルギーの成分を分けたもので、表面自由エネルギーγが、表面自由エネルギーの極性成分γ (London力のみ)と表面自由エネルギーの分散成分γ (Debye力や水素結合力を含む)の和であるとするものである。上記式(2a)および(2b)は、固体sと液体lのような界面の界面張力γslについての拡張Fowkesモデルの関係式にYoungの式を組み合わせて得られた関係式であり、このうち、式(2a)は、純水の場合の関係式であり、式(2b)はジヨードメタンの場合の関係式である。
純水の表面張力γ、表面張力極性成分γ 、表面張力分散成分γ は、それぞれ順に、72.8mN/m、51.0mN/m、21.8mN/mであり、ジヨードメタンの表面張力γ、表面張力極性成分γ 、表面張力分散成分γ は、それぞれ順に、50.8mN/m、2.3mN/m、48.5mN/mであることから、上記式(2a)及び(2b)にはこれらの値を組み込んだものである。なお、「dyn/cm」は「mN/m」と同義である。
ここで、上記で測定されるフレキシブルフィルム表面の表面自由エネルギーは、本発明の一体型シートにおいて、フレキシブルフィルムと接着剤層との接触面におけるフレキシブルフィルムの表面自由エネルギーとみなすことができる。同様に、上記で測定される、接着剤層を硬化してなる硬化層表面の表面自由エネルギーは、本発明の一体型シートにおいて、フレキシブルフィルムと接着剤層の硬化層との接触面における、当該硬化層の表面自由エネルギーとみなすことができる。
【0020】
なお、純水とジヨードメタンは極性成分と分散成分が異なるため表面張力が上記のように異なる。これは、純水とジヨードメタンは水素結合の有無、電気陰性度の差が異なっており、それに伴って極性が大きく異なるためである。特に、水の場合は、-OHと-O-等の水素結合が強く、極性成分の割合が大きい。
【0021】
上記フレキシブルフィルムは、熱的安定性の観点から、線膨張係数が10~200ppm/Kが好ましく、20~150ppm/Kがより好ましく、30~100ppm/Kがさらに好ましく、40~80ppm/Kであることも好ましく、50~80ppm/Kであることも好ましく、55~75ppm/Kであることも好ましく、58~72ppm/Kであることも好ましい。
本発明において線膨張係数は、線熱膨張係数と同義である。熱機械的分析装置TMA/SS6100(セイコーインスツル社製)を用い、フレキシブルフィルムを切り出した測定サンプルを、-20℃から220℃まで5℃/minで昇温させたときの、10~40℃の伸び量から算出される。なお、本発明において単に「線膨張係数」という場合、すべての方向における線膨張係数を意味する。
【0022】
<接着剤層>
本発明の一体型シートを構成する接着剤層は、硬化反応により硬化して、被着体との接着力を発現するものである。すなわち、接着剤層は、硬化性組成物からなる層である。
上記接着剤層は、硬化反応後の硬化層の貯蔵弾性率が5.0GPa以下である。貯蔵弾性率を5.0GPa以下とすることにより、フレキシブルデバイスの曲げに対して、剥離をより生じにくいものとすることができる。上記硬化層の上記貯蔵弾性率は、4.5GPa以下が好ましく、4.0GPa以下がより好ましく、3.5GPa以下がさらに好ましく、3.0GPa以下がさらに好ましく、2.5GPa以下がさらに好ましく、2.2GPa以下がさらに好ましい。また、上記硬化層の上記貯蔵弾性率は、通常は0.5GPa以上であり、0.7GPa以上であることも好ましく、0.8GPa以上であることも好ましく、0.9GPa以上であることも好ましい。上記硬化層の上記貯蔵弾性率は、0.5~5.0GPaが好ましく、0.7~5.0GPa以下がより好ましく、0.8~4.5GPaがさらに好ましく、0.8~4.0GPaがさらに好ましく、0.8~3.5GPaがさらに好ましく、0.8~3.0GPaがさらに好ましく、0.8~2.5GPaがさらに好ましく、0.9~2.2GPaがさらに好ましい。
硬化層の貯蔵弾性率は、次のように決定される。一体型シートから接着剤層を剥がして、この接着剤層のみをラミネーターを用いて70℃で厚さ1mmとなるまで積層し、後述の(i)又は(ii)の条件で硬化する。得られた硬化サンプルを5mm幅に切り出し、測定サンプルとする。測定サンプルを、上述の通り、動的粘弾性測定装置RSAIII(TAインスツルメント製)を用いて、チャック間距離20mm、周波数10Hzの引張条件で、-20℃から150℃まで、昇温速度5℃/minの条件で昇温し、23℃における貯蔵弾性率を決定する。
硬化層の貯蔵弾性率は、接着剤層の構成成分となる硬化性化合物の化学構造、官能基の種類、官能基当量、及び含有量等(例えば、環状エーテル基を有する化合物の化学構造や含有量、環状エーテル基の種類、環状エーテル基当量等)、ポリマー成分の化学構造、分子量、ガラス転移温度、及び含有量等、接着剤層中の充填材、硬化剤、及びその他の添加剤の種類や含有量等により制御することができる。
【0023】
本発明において「硬化層」とは、接着剤層を硬化反応させて得られる硬化層を意味する。本発明において硬化層の特性を規定ないし説明する場合、この硬化層は、接着剤層を、硬化剤の種類に応じて、次の(i)又は(ii)の条件により硬化反応させた硬化層である。
(i)硬化剤が光カチオン重合開始剤の場合:
水銀ランプを用いて、25℃で1000mJ/cmの照射条件で紫外線照射して得られる硬化層。
(ii)硬化剤が潜在性硬化剤又は熱カチオン重合開始剤の場合:
150℃で1時間の熱処理により得られる硬化層。
【0024】
上記接着剤層及びこの接着剤層を硬化してなる硬化層の厚みはいずれも、通常は1~100μmであり、2~80μmが好ましく、5~50μmであることも好ましく、8~40μmであることも好ましく、10~30μmであることも好ましい。
【0025】
上記接着剤層を硬化してなる硬化層は、その下のフレキシブルフィルムとの接触面において、表面自由エネルギーが10~200dyn/cmであることが好ましく、15~120dyn/cmであることがより好ましく、20~90dyn/cmであることも好ましく、20~80dyn/cmであることも好ましく、25~75dyn/cmであることも好ましく、28~70dyn/cmであることも好ましい。
硬化層の貯蔵弾性率は、接着剤層の構成成分となる硬化性化合物の化学構造、官能基の種類、官能基当量、及び含有量等(例えば、環状エーテル基を有する化合物の化学構造や含有量、環状エーテル基の種類、環状エーテル基当量等)、ポリマー成分の化学構造、分子量、ガラス転移温度、及び含有量等、接着剤層中の充填材、硬化剤、及びその他の添加剤の種類や含有量等により制御することができる。
【0026】
本発明の一体型シートは、フレキシブルフィルムの表面自由エネルギーと、接着剤層を硬化してなる硬化層の表面自由エネルギーとの差の絶対値(以下、単に「層間表面自由エネルギー差」とも称す。)が30dyn/cm以下である。層間表面自由エネルギー差を30dyn/cm以下とすることにより、フレキシブルフィルムと接着剤層との接着性をより高めることができる。層間表面自由エネルギー差は、28dyn/cm以下とすることがより好ましい。また、層間表面自由エネルギー差は通常は1dyn/cm以上であり、2dyn/cm以上であることも好ましく、4dyn/cm以上であることも好ましく、6dyn/cm以上であることも好ましい。層間表面自由エネルギー差は、1~30dyn/cmが好ましく、2~28dyn/cmであることも好ましく、4~28dyn/cmであることも好ましく、6~28dyn/cmであることも好ましく、7~27dyn/cmであることも好ましい。
【0027】
上記接着剤層を硬化してなる硬化層は、熱的安定性の観点から、線膨張係数が10~200ppm/Kが好ましく、20~150ppm/Kがより好ましく、25~100ppm/Kがさらに好ましく、30~80ppm/Kであることも好ましく、40~80ppm/Kであることも好ましく、45~75ppm/Kであることも好ましく、46~70ppm/Kであることも好ましく、47~65ppm/Kであることも好ましい。
硬化層の線膨張係数は次のように決定する。一体型シートから接着剤層を剥がして、この接着剤層のみをラミネーターを用いて70℃で厚さ1mmとなるまで積層し、次いで上記(i)又は(ii)の条件で硬化する。得られた硬化サンプルから長さ5mm×幅5mm×厚さ1mmの角柱状試験片を切り出し、測定サンプルとする。測定サンプルを、上述の通り、熱機械的分析装置TMA/SS6100(セイコーインスツル社製)を用いて、-20℃から220℃まで5℃/minで昇温させたときの、10~40℃の伸び量から線膨張係数を算出する。
【0028】
上記フレキシブルフィルムの線膨張係数と、上記の接着剤層を硬化してなる硬化層の線膨張係数との差の絶対値(以下、単に「層間線膨張係数差」とも称す。)は、熱的安定性の観点から30ppm/K以下が好ましく、25ppm/K以下がより好ましく、20ppm/K以下がさらに好ましい。層間線膨張係数差は小さいほど好ましい(層間線膨張係数差が0ppm/Kであることが特に好ましい)が、通常は1ppm/K以上である。層間線膨張係数差は1~30ppm/Kが好ましく、1~25ppm/Kが好ましく、2~20ppm/Kも好ましく、2~18ppm/Kも好ましい。
【0029】
上記接着剤層の成分組成は、本発明で規定する要件を満たす限り特に制限されない。上記接着剤層の好ましい形態として、環状エーテル基を有する化合物と、この化合物の硬化剤とを含有する形態が挙げられる。この場合、接着剤層は通常、環状エーテル基を有する化合物とは別に、ポリマー成分(フィルム成分)を含有する。また、表面自由エネルギー、弾性率、線膨張係数などの調整等のために、必要に応じてその他の成分を含有することができる。接着剤層の構成成分について説明する。
【0030】
(環状エーテル基を有する化合物)
上記の環状エーテル基を有する化合物は、分子内に少なくとも1個(好ましくは2~20個、より好ましくは2~10個)の環状エーテル基を有する化合物である。なお、本発明では、環状エーテル基を有する化合物がポリマーであっても、上記ポリマー成分には分類せず、環状エーテル基を有する化合物に分類するものとする。したがって、一般的なエポキシ樹脂は、環状エーテル基を有する化合物として分類される。ただし、後述するフェノキシ樹脂については、環状エーテル基を有する化合物には含まれないものとする。すなわち、後述するフェノキシ樹脂はポリマー成分である。
環状エーテル基を有する化合物は、分子量が100~3000が好ましく、200~1500がより好ましい。環状エーテル基を有する化合物は、環状エーテル当量が、好ましくは100~3000g/eqであり、200~1500g/eqであることも好ましい。「環状エーテル当量」とは、1グラム当量の環状エーテル基を含む化合物のグラム数(g/eq)をいう。
【0031】
上記環状エーテル基の環構成原子数は3又は4が好ましい。上記環状エーテル基として、オキシラン基(エポキシ基)、オキセタン基(オキセタニル基)、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基などが挙げられる。なかでもオキシラン基又はオキセタン基が好ましく、オキシラン基がより好ましい。すなわち、環状エーテル基を有する化合物はエポキシ樹脂が特に好ましい。
エポキシ樹脂の骨格としては、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、クレゾールノボラック型、ジシクロペンタジエン型、ビフェニル型、フルオレンビスフェノール型、トリアジン型、ナフトール型、ナフタレンジオール型、トリフェニルメタン型、テトラフェニル型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、トリメチロールメタン型等が挙げられる。このうち、樹脂の結晶性が低く、良好な外観を有するフィルム状接着剤を得られるという観点から、トリフェニルメタン型、ビスフェノールA型、クレゾールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型が好ましい。
上記接着剤層の固形分(溶媒以外の成分)中、環状エーテル基を有する化合物の含有量は、10~70質量%が好ましく、15~65質量%が好ましく、20~60質量%がより好ましく、22~55質量%がさらに好ましい。
【0032】
(硬化剤)
上記環状エーテル基を有する化合物の硬化剤としては、アミン類、酸無水物類、多価フェノール類、カチオン重合開始剤(好ましくは光カチオン重合開始剤)の、環状エーテル基を有する化合物(エポキシ樹脂等)の硬化剤として一般的に用いられている硬化剤を広く用いることができる。フレキシブルデバイスとして有機ELデバイスを想定したとき、本発明の一体型シートに貼り合わせる被着体は熱に弱いため、硬化剤として熱カチオン重合開始剤を使用するのは適さない場合がある。また、熱カチオン重合開始剤は得られる硬化層の弾性率を高め過ぎる傾向があり、この観点でも硬化剤として熱カチオン重合開始剤を使用するのは適さない。したがって、上記硬化剤は、光カチオン重合開始、又は潜在性硬化剤が好ましい。
潜在性硬化剤としては、ジシアンジアミド化合物、イミダゾール化合物、硬化触媒複合系多価フェノール化合物、ヒドラジド化合物、三弗化ホウ素-アミン錯体、アミンイミド化合物、ポリアミン塩、およびこれらの変性物やマイクロカプセル型のものを挙げることができる。これらは1種を単独で用いても、もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。より優れた潜在性(室温での安定性に優れ、かつ、加熱により硬化性を発揮する性質)を有し、硬化速度がより速い観点から、イミダゾール化合物を用いることがより好ましい。
【0033】
上記接着剤層中、上記硬化剤の含有量は、硬化剤の種類、反応形態に応じて適宜に設定すればよい。例えば、上記環状エーテル基を有する化合物100質量部に対して0.5~30質量部とすることができ、1~20質量部としてもよく、1~15質量部としてもよく、2~10質量部とすることも好ましく、3~8質量部とすることも好ましい。
【0034】
(ポリマー成分)
上記ポリマー成分としては、常温(25℃)でのフィルムタック性(少しの温度変化でもフィルム状態が変化しやすい性質)を抑制し、十分な接着性および造膜性(フィルム形成性)を付与する成分であればよい。天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6-ナイロンや6,6-ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。これらのポリマー成分は単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
フェノキシ樹脂は、環状エーテル基を有する化合物と構造が類似していることから相溶性が良好な点で、ポリマー成分として好ましい。フェノキシ樹脂は常法により得ることができる。例えば、ビスフェノールもしくはビフェノール化合物とエピクロルヒドリンのようなエピハロヒドリンとの反応、液状エポキシ樹脂とビスフェノールもしくはビフェノール化合物との反応で得ることができる。
【0036】
上記ポリマー成分として(メタ)アクリル樹脂を用いることも好ましい。(メタ)アクリル樹脂としては、ポリマーの構成成分として(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸エステル成分を含む共重合体が挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂の構成成分として、例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレートなどに由来する成分が挙げられる。また、(メタ)アクリル樹脂は構成成分として環状骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート及びジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート)成分を有してもよい。また、イミド(メタ)アクリレート成分、アルキル基の炭素数が1~18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル及び(メタ)アクリル酸ブチル等)成分を有することもできる。また酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、スチレン等との共重合体でもよい。(メタ)アクリル樹脂が水酸基を有していると、環状エーテル基を有する化合物との相溶性の観点で好ましい。
【0037】
上記ポリマー成分の重量平均分子量は、通常、10000以上である。上限値に特に制限はないが、5000000以下が実際的である。
上記ポリマー成分の重量平均分子量は、GPC〔ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)〕によるポリスチレン換算で求めた値である。
【0038】
上記ポリマー成分のガラス転移温度(Tg)は、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。ポリマー成分のTgは-30℃以上が好ましく、-10℃以上であることも好ましく、0℃以上であることも好ましく、10℃以上であることも好ましく、20℃以上であることも好ましく、30℃以上としてもよく、40℃以上としてもよく、50℃以上としてもよく、60℃以上としてもよい。ポリマー成分のTgは、-30~100℃が好ましく、-10~100℃であることも好ましく、0~100℃であることも好ましく、10~90℃であることも好ましく、20~90℃であることも好ましく、30~90℃であることも好ましく、40~90℃であることも好ましく、50~90℃であることも好ましく、60~90℃であることも好ましい。
上記ポリマー成分のTgは、動的粘弾性測定におけるtanδのピークトップ温度である。具体的には、次のようにTgを決定することができる。
ポリマー成分を溶解してなる溶液を離型フィルム上に塗布し、加熱乾燥し、離型フィルム上にポリマー成分からなる膜(ポリマー膜)を形成する。このポリマー膜から離型フィルムを剥がして取り除き、このポリマー膜を、動的粘弾性測定装置(商品名:Rheogel-E4000F、ユービーエム社製)を用いて、測定温度範囲20~300℃、昇温速度5℃/min、及び周波数1Hzの条件下で測定する。得られたtanδピークトップ温度(tanδが極大を示す温度)をTgとする。
【0039】
上記接着剤層中、上記ポリマー成分の含有量は、例えば、上記環状エーテル基を有する化合物100質量部に対して10~300質量部とすることができ、20~200質量部としてもよく、40~180質量部としてもよく、60~160質量部とすることも好ましく、70~140質量部とすることも好ましく、80~130質量部とすることも好ましい。
【0040】
(その他の成分)
上記接着剤層は無機充填材を含んでもよい。無機充填材として、例えば、シリカ、クレー、石膏、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等のセラミック類、アルミニウム、銅、銀、金、ニッケル、クロム、鉛、錫、亜鉛、パラジウム、半田等の金属、又は合金類、カーボンナノチューブ、グラフェン等のカーボン類等の種々の無機粉末が挙げられる。
無機充填材は、表面処理や表面改質されていてもよく、このような表面処理や表面改質としては、シランカップリング剤やリン酸もしくはリン酸化合物、界面活性剤が挙げられる。
無機充填材の形状は、フレーク状、針状、フィラメント状、球状、鱗片状のものが挙げられるが、高充填化及び流動性の観点から球状粒子が好ましい。
【0041】
上記接着剤層が無機充填材を含む場合、上記接着剤層中の無機充填材の含有量は、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下とすることも好ましく、40質量%以下とすることも好ましい。上記接着剤層が無機充填材を含む場合、上記接着剤層中の無機充填材の含有量は1質量%以上とすることができ、2質量%以上としてもよく、4質量%以上とすることも好ましい。上記接着剤層が無機充填材を含む場合、上記接着剤層中の無機充填材の含有量は、1~70質量%とすることができ、2~60質量%とすることもでき、4~50質量%とすることもでき、4~40質量%とすることも好ましい。
【0042】
上記接着剤層は、上記無機充填材とは別に、シランカップリン剤を含んでもよい。シランカップリング剤は、ケイ素原子にアルコキシ基、アリールオキシ基のような加水分解性基が少なくとも1つ結合したものであり、これに加えて、アルキル基、アルケニル基、アリール基が結合してもよい。アルキル基は、アミノ基、アルコキシ基、エポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものが好ましく、アミノ基(好ましくはフェニルアミノ基)、アルコキシ基(好ましくはグリシジルオキシ基)、(メタ)アクリロイルオキシ基が置換したものがより好ましい。
シランカップリング剤は、例えば、2-(3,4-エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0043】
上記接着剤層は、有機溶媒、イオントラップ剤(イオン捕捉剤)、硬化触媒、粘度調整剤、酸化防止剤、難燃剤、着色剤等をさらに含有していてもよい。例えば、国際公開第2017/158994号のその他の添加物を含むことができる。
【0044】
上記接着剤層中に占める、環状エーテル基を有する化合物、その硬化剤、ポリマー成分の各含有量の合計の割合は、例えば、30質量%以上とすることができ、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。当該割合は60質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。
【0045】
<フレキシブルデバイス用基材・接着剤層一体型シートの製造>
本発明の一体型シートは、接着剤層の各構成成分を混合してなる組成物(ワニス)を調製し、この組成物を、フレキシブルフィルム上に塗工し、必要に応じて乾燥させて形成することができる。接着剤層の各構成成分を混合してなる組成物(ワニス)は、通常は有機溶媒を含有する。
塗工方法としては、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、ロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーター等を用いた方法が挙げられる。
乾燥は、硬化反応を実質的に生じずに有機溶媒を除去して接着剤層を形成できればよく、例えば、80~150℃の温度で1~20分保持することにより行うことができる。
【0046】
本発明の一体型シートは、フレキシブルフィルムと接着剤層とからなる構成でもよく、接着剤層の、フレキシブルフィルム側とは反対側の面に、上述の離型処理された基材フィルムが貼り合わされてなる形態であってもよい。また、フレキシブルフィルムの、接着剤層側とは反対側の面に、保護フィルムなどが設けられてもよい。また、本発明の一体型シートは、適当な大きさに切り出した形態であってもよく、ロール状に巻いてなる形態であってもよい。
【0047】
本発明の一体型シートは、接着剤層の硬化反応(環状エーテル基を有する化合物の硬化反応)を抑制する観点から、使用前(硬化反応前)には10℃以下の温度条件下で保管されることが好ましい。
【0048】
[フレキシブルデバイスの製造方法]
本発明の一体型シートは、一体型シートを構成するフレキシブルフィルムを、フレキシブルデバイス全体を支える支持基材(バックプレート)とし、一体型シートの接着剤層を、当該支持基材と、その上の機能性素子を含む積層体(機能性素子と、その片面又は両面に配された種々の機能層との積層体)を接着するための層として機能させることができる。したがって、本発明のフレキシブルデバイスの製造方法は、フレキシブルデバイスの支持基材を、本発明の一体型シートにより形成すること、すなわち、本発明の一体型シートの接着剤層側と、機能性素子を含む積層体とを貼り合わせ、接着剤層を硬化反応させる工程を含む。
この硬化反応の条件は、硬化剤の種類、機能性素子の耐熱性等を考慮して適宜に設定することができる。例えば、硬化剤として光カチオン重合開始剤を用いる場合には、水銀ランプ等を用いて、100~3000mJ/cmの紫外線を照射することにより、接着剤層を十分に硬化させることができる。また、潜在性硬化剤や熱カチオン重合開始剤を用いる場合には、例えば、150℃以上の温度で1時間以上加熱することにより、接着剤層を十分に硬化させることができる。
【実施例
【0049】
実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例の形態に限定されるものではない。また、室温とは25℃を意味し、MEKはメチルエチルケトン、PETはポリエチレンテレフタレート、UVは紫外線である。「%」、「部」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0050】
[実施例1]
1000mLのセパラブルフラスコ中において、環状エーテル基を有する化合物として828(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)50質量部、ポリマー成分としてYP-50(フェノキシ樹脂、Tg84℃、日鉄ケミカル&マテリアル社製)50質量部及びMEK30質量部を、温度110℃で2時間、加熱攪拌し、樹脂ワニスを得た。さらに、この樹脂ワニスを800mLのプラネタリーミキサーに移し、硬化剤としてWPI-113(UVカチオン重合開始剤、富士フイルム和光純薬社製)2質量部を加えて、室温で1時間攪拌混合した後、真空脱泡して混合ワニスを得た。次いで、得られた混合ワニスを、厚み20μmのPETフィルム(フレキシブルフィルム、23℃の貯蔵弾性率5GPa)上に塗布して、130℃で10分間加熱乾燥し、縦300mm、横200mm、接着剤層の厚み20μmの一体型シートを得た。
【0051】
[実施例2]
実施例1において、硬化剤を2E4MZ(イミダゾール系熱硬化剤、四国化成工業社製)2質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0052】
[実施例3]
実施例1において、混合ワニス中にKBM-402(シランカップリング剤、信越化学工業社製)1質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0053】
[実施例4]
実施例2において、混合ワニス中にKBM-402(シランカップリング剤、信越化学工業社製)1質量部を加えた以外は、実施例2と同様にして一体型シートを得た。
【0054】
[実施例5]
実施例1において、混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)10質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0055】
[実施例6]
実施例2において、混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)80質量部と、KBM-402(シランカップリング剤、信越化学工業社製)1質量部とを加えた以外は、実施例2と同様にして一体型シートを得た。
【0056】
[実施例7]
実施例1において、環状エーテル基を有する化合物をEPPN-501H(トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、日本化薬社製)50質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0057】
[実施例8]
実施例2において、環状エーテル基を有する化合物を、828(ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)25質量部とEPPN-501H(トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、日本化薬社製)25質量部の混合物に代えた以外は、実施例2と同様にして一体型シートを得た。
【0058】
[比較例1]
実施例1において、混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)300質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0059】
[比較例2]
実施例4において、混合ワニス中にSIRMEK50WT%-M01(シリカスラリーフィラー、CIKナノテック社製)450質量部を加えた以外は、実施例4と同様にして一体型シートを得た。
【0060】
[比較例3]
実施例1において、混合ワニス中にKY-1271(フッ素化合物、信越化学工業社製)1質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0061】
[比較例4]
実施例7において、ポリマー成分をYX7200B35(フェノキシ樹脂、Tg150℃、三菱ケミカル社製)50質量部に代えた以外は、実施例7と同様にして一体型シートを得た。
【0062】
[比較例5]
実施例7において、硬化剤をSI-B3(熱カチオン重合開始剤、三新化学工業社製)2質量部に代えた以外は、実施例7と同様にして一体型シートを得た。
【0063】
[比較例6]
実施例1において、ポリマー成分をYX7200B35(フェノキシ樹脂、Tg150℃、三菱ケミカル社製)50質量部に代え、硬化剤をSI-B3(熱カチオン重合開始剤、三新化学工業社製)2質量部に代えた以外は、実施例1と同様にして一体型シートを得た。
【0064】
各実施例及び各比較例で得られた一体型シートを用いて、下記の通りマンドレルを用いた耐屈曲性試験を実施した。結果を下表に示す。なお、各物性値ないしマンドレル試験における硬化条件は、硬化剤の種類に応じて上述した(i)又は(ii)を採用した。採用した硬化条件も下表に示す。
【0065】
<耐屈曲性試験>
一体型シートを幅25mm、長さ10cmに切り出し、上述の(i)又は(ii)の硬化条件で接着剤層を硬化反応させ、試験片とした。長手方向の中間地点を基準に、試験片を、接着剤層をマンドレルとは逆側にセットし、180°折り曲げる操作を1000回繰り返した。接着剤層の破断、接着剤層の折り痕、又は接着剤層とフレキシブルフィルムとの間の剥離が生じたマンドレルの径(mm)を下記評価基準に当てはめ、耐屈曲性を評価した。結果を表1に示す。
(評価基準)
A:4mm以下
B:5mm以上15mm以下
C:16mm以上
【0066】
【表1】
【0067】
上記表中、接着剤の各成分の配合量を質量部である。
上記表に示されるように、接着剤層を硬化してなる硬化層の貯蔵弾性率が本発明で規定するよりも高い場合には、繰り返しの屈曲に対して接着剤層の破断、接着剤層の折り痕、ないしは接着剤層とフレキシブルフィルムとの間の剥離を生じやすく、耐屈曲性に劣っていた(比較例1、2、4~6)。また、層間表面自由エネルギー差が本発明で規定するより大きい場合も、耐屈曲性に劣っていた(比較例3)。
これに対し、本発明の規定を満たす実施例1~8の一体型シートはいずれも優れた耐屈曲性を示した。本発明の一体型シートをフレキシブルデバイスの支持基材として適用することにより、工数の削減と、フレキシブルデバイスの信頼性の向上に寄与することがわかる。
【0068】
本願は、2021年12月16日に日本国で特許出願された特願2021-204360に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0069】
1 接着剤層(フィルム状接着剤)
2 フレキシブルフィルム(支持基材)


図1