(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】リン酸アミド、及び当該リン酸アミドを含む二酸化炭素分離組成物
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240412BHJP
C07F 9/24 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
B01D53/14 210
C07F9/24 Z
(21)【出願番号】P 2020001658
(22)【出願日】2020-01-08
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019043894
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】迫田 孝太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 靖
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107266788(CN,A)
【文献】仏国特許出願公開第02193023(FR,A1)
【文献】特表2006-528062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0256043(US,A1)
【文献】国際公開第2011/002767(WO,A2)
【文献】特開2017-159288(JP,A)
【文献】特開2018-158303(JP,A)
【文献】国際公開第2018/101944(WO,A1)
【文献】特表2004-514546(JP,A)
【文献】Goeppert, A. et al.,Regenerable high capacity organo-amine based CO2 sorbents using nano structured silica as a support,Preprints of Symposia - American Chemical Society, Division of Fuel Chemistry ,2011年,56(1),pp.270-271
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
B01D
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)又は(2)で示されるリン酸アミド、
及び水を含む二酸化炭素分離組成物。
【化1】
(一般式(1)及び(2)中、R
1~R
6は、各々独立して、-P(=O)(O
-)
2で示される基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アミノ基を有する炭素数1~4のアルキル基、又は水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を示し、R
1~R
4のうち、少なくとも一つは、-P(=O)(O
-)
2で示される基であり、R
5、及びR
6のうち少なくとも一つは、-P(=O)(O
-)
2で示される基である。nは、2~7のいずれかの整数である。)
【請求項2】
R
1~R
6が、各々独立して、-P(=O)(O
-)
2で示される基、水素原子、メチル基、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、又は2-ヒドロキシプロピル基を示し、R
1~R
4のうち、少なくとも一つが、-P(=O)(O
-)
2で示される基であり、R
5、及びR
6のうち少なくとも一つが、-P(=O)(O
-)
2で示される基である、請求項1に記載の
二酸化炭素分離組成物。
【請求項3】
リン酸アミドのカウンターカチオンが、水素イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1又は2に記載の
二酸化炭素分離組成物。
【請求項4】
水の濃度が30~95重量%であり、リン酸アミドの濃度が5~70重量%である、請求項
1に記載の二酸化炭素分離組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸アミド、及び当該リン酸アミドを含む二酸化炭素分離組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題のため、二酸化炭素の分離・回収が注目されており、二酸化炭素吸収液の開発が盛んにおこなわれている。
【0003】
二酸化炭素吸収液として、モノエタノールアミン水溶液が最も一般的である。モノエタノールアミンは、安価で工業的に入手しやすいが、低温で吸収した二酸化炭素を120℃以上の高温にしないと放散しないという特性がある。そして、二酸化炭素放散温度を水の沸点以上にすると、水の高い潜熱、比熱のため、二酸化炭素の回収に多くのエネルギーを要することになる。
【0004】
そのため、モノエタノールアミンより二酸化炭素放散温度が低く、二酸化炭素回収エネルギーの低いアミンの開発がおこなわれている。例えば、N-メチルジエタノールアミン(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のN-メチルジエタノールアミンについては、二酸化炭素の放散効率(放散量/吸収量)が十分高くないという課題があった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、二酸化炭素の放散効率(放散量/吸収量)に優れた二酸化炭素分離化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、下記のリン酸アミド化合物が、N-メチルジエタノールアミンに比べて、二酸化炭素の放散効率(放散量/吸収量)に優れるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示す化合物、その組成物、及びその用途に係る。
【0010】
[1]一般式(1)又は(2)で示される、リン酸アミド。
【0011】
【0012】
(一般式(1)及び(2)中、R1~R6は、各々独立して、-P(=O)(O-)2で示される基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アミノ基を有する炭素数1~4のアルキル基、又は水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を示し、R1~R4のうち、少なくとも一つは、-P(=O)(O-)2で示される基であり、R5、及びR6のうち少なくとも一つは、-P(=O)(O-)2で示される基である。nは、2~7のいずれかの整数である。)
[2]R1~R6が、各々独立して、-P(=O)(O-)2で示される基、水素原子、メチル基、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、又は2-ヒドロキシプロピル基を示し、R1~R4のうち、少なくとも一つが、-P(=O)(O-)2で示される基であり、R5、及びR6のうち少なくとも一つが、-P(=O)(O-)2で示される基である、[1]に記載のリン酸アミド。
【0013】
[3]リン酸アミドのカウンターカチオンが、水素イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つである上記[1]又は[2]に記載のリン酸アミド。
【0014】
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載のリン酸アミド及び水を含む二酸化炭素分離組成物。
【0015】
[5]水の濃度が30~95重量%であり、リン酸アミドの濃度が5~70重量%である、上記[4]に記載の二酸化炭素分離組成物。
【0016】
[6]上記[1]~[3]のいずれかに記載のリン酸アミド及びシリカを含む二酸化炭素分離剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリン酸アミドは、従来公知の材料に比べて、二酸化炭素の放散効率(放散量/吸収量)が高い。このため、従来公知の材料に比べて、低温(低エネルギー)での二酸化炭素ガスの回収分離が可能となり、環境負荷影響を低減できる(エネルギー効率が高い)という効果を奏する。
【0018】
本発明のリン酸アミドは、従来公知の材料に比べて単位時間当たりの二酸化炭素吸収速度が速く、尚且つ単位時間当たりの放散速度も速いという特徴があり、大量の二酸化炭素を高速で吸収分離処理することができるという効果を奏する。このため、本発明は、大規模火力発電などで大量に排出される二酸化炭素を効率よく吸収分離することができるという点で、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明のリン酸アミドは、上記の一般式(1)又は(2)で示される。
【0021】
一般式(1)及び(2)において、R1~R6は、各々独立して、-P(=O)(O-)2で示される基、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アミノ基を有する炭素数1~4のアルキル基、又は水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を示し、R1~R4のうち、少なくとも一つは、-P(=O)(O-)2で示される基であり、R5、及びR6のうち少なくとも一つは、-P(=O)(O-)2で示される基である。
【0022】
R1~R6において、炭素数1~6のアルキル基については、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ヘキシル基、又はシクロヘキシル基等を挙げることができる。
【0023】
R1~R6において、炭素数1~4のアミノアルキル基については、特に限定するものではないが、例えば、アミノメチル基、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基、2-アミノプロピル基、又は4-アミノブチル基等を挙げることができる。
【0024】
R1~R6において、炭素数1~4の水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基については、特に限定するものではないが、例えば、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、2-ヒドロキシプロピル基、4-ヒドロキシブチル基、3-ヒドロキシブチル基、又は2-ヒドロキシブチル基等を挙げることができる。
【0025】
R1~R4のうち、少なくとも一つは、-P(=O)(O-)2で示される基であり、R5、及びR6のうち少なくとも一つは、-P(=O)(O-)2で示される基である。このため、一般式(1)又は(2)で表されるリン酸アミドはアニオン化合物を表すが、当該リン酸アミドのカウンターカチオンについては、特に限定するものではない。
【0026】
当該カウンターカチオンについては、特に限定するものではないが、水素イオン、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン等)、アルカリ土類金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等)、遷移金属イオン、又は有機物カチオン(例えば、アンモニウムイオン、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、コリン、イミダゾリウムイオン、ピラジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン等)、又はアンモニウムイオン等を挙げることができる。
【0027】
当該R1~R6については、二酸化炭素の放散効率に優れる点で、各々独立して、-P(=O)(O-)2で示される基、水素原子、メチル基、2-アミノエチル基、3-アミノプロピル基、2-ヒドロキシエチル基、又は2-ヒドロキシプロピル基を示し、R1~R4のうち、少なくとも一つが、-P(=O)(O-)2で示される基であり、R5、及びR6のうち少なくとも一つが、-P(=O)(O-)2で示される基であることが好ましい。
【0028】
リン酸アミドのカウンターカチオンについては、二酸化炭素の放散効率に優れる点で、水素イオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、及びアンモニウムイオンからなる群から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0029】
一般式(1)において、nは、2~7のいずれかの整数を表す。当該nについては、二酸化炭素の放散効率に優れる点で、3、4、5、及び6のいずれかの整数であることが好ましく、3、4又は5であることがより好ましい。
【0030】
また、一般式(1)で表されるリン酸アミドについては、R1~R4のうち、1~(3+n)個のR1~R4が-P(=O)(O-)2で示される基であることを意味するが、二酸化炭素の放散効率に優れる点で、1~(2+n)個のR1~R4が-P(=O)(O-)2で示される基であることが好ましく、1~(1+n)個のR1~R4が-P(=O)(O-)2で示される基であることがより好ましく、1個又は2個のR1~R4が-P(=O)(O-)2で示される基であることがより好ましく、1個のR1~R4が-P(=O)(O-)2で示される基であることがより好ましい。
【0031】
一般式(2)で表されるリン酸アミドについては、R5、及びR6のうち、どちらか1つ又は両方が、-P(=O)(O-)2で示される基であることを意味するが、二酸化炭素の放散効率に優れる点で、R5、及びR6のうち、どちらか1つが-P(=O)(O-)2で示される基であるであることが好ましい。
【0032】
本発明において、一般式(1)又は(2)で示されるリン酸アミドとしては、特に限定するものではないが、例えば、以下のような構造式で表される化合物を例示することができる。
【0033】
【0034】
本発明のリン酸アミドは、エチレンアミン類を誘導して得られる。本発明のリン酸アミドに誘導できるエチレンアミン類を例示すると、ジエチレントリアミン(本発明のn=2の前駆体に該当)、ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、トリエチレンテトラミン(本発明のn=3の前駆体に該当)、テトラエチレンペンタミン(本発明のn=4の前駆体に該当)、ペンタエチレンヘキサミン(本発明のn=5の前駆体に該当)、又はヘキサエチレンヘプタミン(本発明のn=6の前駆体に該当)等が挙げられる。
【0035】
ジエチレントリアミン、ピペラジン、N-(2-アミノエチル)ピペラジンは工業的に単一化合物として入手することができるが、トリエチレンテトラミン以上のポリエチレンポリアミンは、単一化合物を用いることもできるし、複数の構造異性体の混合物として、又複数の化合物の混合物としても用いることができる。なお、トリエチレンテトラミン以上のポリエチレンポリアミンについては、混合物として一般に流通しているため、このようなエチレンアミン類から誘導される本発明のリン酸アミドについても混合物であることが好ましい。
【0036】
なお、トリエチレンテトラミンは、直鎖状のトリエチレンテトラミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、N,N’-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、及びN-(3,6-ジアザヘキシル)ピペラジンで示されるアミノ基数4のアミン化合物の混合物として流通していることが多く、テトラエチレンペンタミンは、直鎖状のテトラエチレンペンタミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)ジエチレントリアミン、N-(3,6-ジアザヘキシル)-N’-(3-アザプロピル)ピペラジン、及びN-(3,6,9-トリアザノニル)ピペラジンで示されるアミノ基数5のアミン化合物の混合物として流通していることが多い。
【0037】
ペンタエチレンヘキサミン以上の沸点のポリエチレンポリアミンは更に多くのアミンの混合物となって流通していることが多いが、本発明のリン酸アミドにおいては、上記の通り、混合物としてリン酸アミドにしても一向に差し支えない。また、他の留分のポリエチレンポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミンとペンタエチレンヘキサミンを混合してこれをリン酸アミドにしても一向に差し支えない。
【0038】
これらのエチレンアミン類については、窒素原子上に、炭素数1~6のアルキル基、アミノ基を有する炭素数1~4のアルキル基、又は水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基の置換基を有していてもよい。当該炭素数1~6のアルキル基、アミノ基を有する炭素数1~4のアルキル基、及び水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基の定義については、上述の通りである。
【0039】
本発明において、必要であれば、上述したエチレンアミン類以外に、他のアミンを併用しても差し支えない。他のアミンとしては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、上記以外の環状アミンが挙げられる。
【0040】
また、本発明のリン酸アミドに誘導できるエチレンアミン類は市販の物でもよいし、公知の方法により合成したものを用いればよく、特に限定されない。
【0041】
本発明のリン酸アミドの製造に用いる原料エチレンアミン類の純度としては、特に限定はないが、精製工程での精製のしやすさを考えると、95%以上が好ましく、98%以上が特に好ましい。
【0042】
本発明のリン酸アミドは、リン酸源を用いて上記のエチレンアミン類をアミド化することによって製造することができるが、当該製造方法としては、既存のものを利用又は応用することができ、特に限定するものではないが、例えば、リン酸との脱水反応、オキシハロゲン化リンとの脱ハロゲン化反応、リン酸エステルとの脱アルコール反応等を挙げることができる。さらには、特表2006-512385号公報に記載の方法等によってハロゲン化リン酸エステル類をエチレンアミン類と反応させた後にエステル部分の加水分解を行うことによって本発明のリン酸アミドを製造することもできる。 本発明のリン酸アミドの製造においては、反応を行う際には溶媒を用いても差し支えない。溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,2-ジクロロエタン等を用いることが可能である。また、これらの溶媒は、1種単独のみならず、必要に応じて2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
本発明のリン酸アミドの製造において、反応温度、反応圧力は特に限定されないが、通常、反応温度としては-20~100℃、反応圧力は常圧~1MPaの範囲で行われる。好ましい反応温度は0℃~50℃である。上記範囲より反応温度が低い場合、反応速度が極めて遅いため実用的ではなく、上記の範囲より高い場合、生成物の分解や腐食等による装置の劣化が加速されるという問題が生じる。
【0044】
本発明のリン酸アミドの製造において、原料濃度は特に限定されないが、生産効率を高くするため5重量%以上の濃度で行うのが好ましい。
【0045】
本発明のリン酸アミドの製造において、反応の雰囲気は特に限定されず、例えば空気中、もしくは不活性雰囲気化で行われる。
【0046】
本発明のリン酸アミドは、上記の通り、アルキル化したエチレンアミン類から誘導することもできる。アルキル化したエチレンアミンから誘導すると、無修飾のエチレンアミン類から誘導するより、選択的にリン酸アミドを得ることができ、またリン酸アミドを二酸化炭素吸収剤として使用したとき、低エネルギーで二酸化炭素を分離することができる。
【0047】
本発明のリン酸アミドの製造において、アルキル化は、メチル化、エチル化、プロピル化、i-プロピル化、ブチル化、sec-ブチル化、i-ブチル化、t-ブチル化、シクロヘキシル化から選択することができる。アルキル化の方法に特に制限はなく、ハロゲン化アルキル、炭酸ジアルキル、硫酸ジアルキルによるアルキル化、アルデヒドによる水添アルキル化、ギ酸によるアルキル化、オレフィン付加によるアルキル化が一般的である。
【0048】
本発明のリン酸アミドは、二酸化炭素吸収組成物又は二酸化炭素分離剤(又は二酸化炭素吸収剤)等として使用することができる。
【0049】
化学吸収法として広く知られた二酸化炭素分離方法に対しては、下記の様な本発明のリン酸アミドを含有する二酸化炭素分離組成物を適用することができる。
【0050】
本発明のリン酸アミドを、化学吸収法向けの二酸化炭素分離組成物として使用するときは、操作性に優れる点で、上記の通り溶液として使用することが好ましく、当該二酸化炭素分離組成物に用いる溶媒については、特に限定するものではないが、例えば、水、公知のアミン化合物、アルコール化合物、ポリオール化合物(エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール)等を挙げることができ、これらの混合物を用いてもよい。これらの溶媒うち、二酸化炭素ガスを重炭酸塩として吸収分離する効率性に優れる点、吸収剤や分離剤の粘度上昇や固形分生成抑制に優れる点、二酸化炭素の放散エネルギーがあまり高くならない点で、水がもっとも好ましい。
【0051】
本発明の二酸化炭素分離組成物については、液の粘度や二酸化炭素吸収能力の観点から、水の濃度が30~95重量%であり、上記のリン酸アミドの濃度が5~70重量%であることが好ましく、より好ましくは、水の濃度が50~90重量%であり、リン酸アミドの濃度が10~50重量%である。
【0052】
当該化学吸収法は、リン酸アミドを含む液状の二酸化炭素分離組成物と二酸化炭素を含む気体を接触させ、二酸化炭素を選択的に吸収させた後、加熱昇温又は減圧することにより吸収された二酸化炭素を放散させる方法を表す。化学吸収法では、一般的に二酸化炭素を放散させる温度は100℃以上とされるが、本発明の二酸化炭素分離組成物を使用する場合には、特に温度に関する制約は無く、100℃未満の温度としてもよい。
【0053】
また、本発明のリン酸アミドについては、担体に担持して、二酸化炭素分離剤(又は二酸化炭素吸収剤)として使用することもできる。
【0054】
前記の担体としては、特に限定するものではないが、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、多孔性ガラス、活性炭、多孔性樹脂、又は繊維などを用いることができる。
【0055】
前記のシリカとしては、結晶性と非結晶性(アモルファス)があり、細孔を有するゼオライト状のシリカ、メソポーラスシリカなど多種知られている。本発明の二酸化炭素吸収剤(又は二酸化炭素分離剤)において、使用できるシリカには特に制限はなく、工業的に流通しているものを使用することができるが、表面積が大きいシリカが好ましい。表面積が大きいほどポリエチレンポリアミンが効率的に作用する。なお、本発明の二酸化炭素分離剤においては、用いるリン酸アミドに応じて最適のシリカを適宜選択することが好ましい。
【0056】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収剤(又は二酸化炭素分離剤)においては、更に水を含有させてもよい。
【0057】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収剤(又は二酸化炭素分離剤)のリン酸アミドの量は、担体重量に対し5~70重量%でありが好ましく、更に好ましくは10~60重量%である。リン酸アミドの量が5重量%以上であると、二酸化炭素の吸収量が優れる点で好ましく、70重量%以下であると、リン酸アミドの担持操作に優れる点で好ましい。
【0058】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収剤(又は二酸化炭素分離剤)に含まれる水の量は、吸収する二酸化炭素に対し等モル以上が好ましい。水の量が二酸化炭素に対し等モル以上であると、二酸化炭素の放散エネルギーが余り大きくならない点で好ましい。
【0059】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収剤(又は二酸化炭素分離剤)は固体吸収法として広く知られた二酸化炭素分離方法に適用できる。固体吸収法は、二酸化炭素分離剤(又は二酸化炭素分離剤)と二酸化炭素を含む気体を接触させ、二酸化炭素を選択的に吸収させた後、高温又は減圧することにより吸収された二酸化炭素を放散させる方法を表す。固体吸収法では、一般的に二酸化炭素を放散させる温度は100℃以上とされるが、本発明の二酸化炭素分離組成物を使用する場合には、特に温度に関する制約は無く、100℃未満としてもよい。
【実施例】
【0060】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
【0061】
MDEA:N-メチルジエタノールアミン(富士フイルム和光純薬社製)
TEPA:テトラエチレンペンタミン混合物(東ソー株式会社製)
TEPA-5M:N-ペンタメチル-テトラエチレンペンタミン混合物
参考例1(TEPA-5M(ペンタメチル化TEPA)の合成)
TEPA 88g、純水 440g、ギ酸(キシダ化学社製) 215gを1L丸底フラスコに入れ、100℃に昇温した後、38%ホルムアルデヒド水溶液 187g(キシダ化学社製)6時間かけて滴下し、さらに10時間反応させた。室温まで冷却した後、35%塩酸水溶液(富士フイルム和光純薬社製) 242gを添加し、ロータリーエバポレーター(30mmHg)で濃縮した後、30%水酸化ナトリウム水溶液 440gで中和した。当該混合物をMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)(東京化成工業社製)各62gを用いて2回抽出し、得られた有機層をロータリーエバポレーターで濃縮し、茶褐色液体のTEPA-5M 94gを得た。収率78%。
【0062】
目的物のNMR装置(日本電子製JNM‐ECZ400)による分析結果は以下の通り。
【0063】
1H-NMR(400MHz、D2O)δ 2.17~2.33(m,16.2H), 2.48~3.65(m,15.5H),2.65~2.90(m,1.4H)。
【0064】
13C-NMR(100MHz、D2O)δ 35.3,36.1,38.6,40.3,42.6,45.2,46.5,51.8,52.0,53.0,54.2,54.6,54.9,55.1,55.6,55.7,56.1,56.8,59.3。
【0065】
実施例1(リン酸アミド(A)の合成)
塩化ホスホリル(キシダ化学社製) 18gを100mLナスフラスコに入れ0℃に冷却しながら、これに水 4.2gを10分かけて加え、クロロホスホン酸を得た。当該クロロホスホン酸を、0℃に冷却したTEPA-5M 30gとジクロロメタン 152gの混合物に、撹拌しながら10分かけて滴下した。その後、室温に昇温し1時間熟成した後、炭酸リチウム(関東化学製) 13g及び水 303gを加えて中和した。2層に分離した反応混合物のうち、ジクロロメタン層を除去し、水層を濃縮して濃縮固体 63gを得た。当該固体について、ブフナーロート上で、ジクロロメタン 66g、エタノール 550gの順に用いて洗浄し、固体残渣を減圧乾燥して目的物(「リン酸アミド(A)」とする) 16gを得た。収率41%。
【0066】
目的物をNMR装置(日本電子製JNM‐ECZ400)を用いて分析した。結果は以下の通り。
【0067】
1H-NMR(400MHz、D2O)δ 2.26~2.42(m,2.2H),2.74(br s,2.9H), 2.79~3.04(m,11.4H),3.11(br s,4.3H),3.14~3.38(m,9.8H),3.38~3.59(m,4.3H)。
【0068】
13C-NMR(100MHz、D2O)δ 33.8,36.8,37.0,39.2,41.0,41.5,44.0,46.3,50.3,50.8,51.0,51.4,52.5,53.4-55.4(m),61.4
31P-NMR(161MHz、D2O)δ -9.84(d,0.16P),-10.35(s,0.73P), -21.54(s,0.03P),-22.45(t,0.08P)。
【0069】
実施例2(リン酸アミド(A)の二酸化炭素吸収放散性能評価)
実施例1で合成したリン酸アミド(A) 15gに純水 35gを加え、二酸化炭素吸収液を調製した。これを125mLのムインケ式ガス吸収瓶に入れ、水浴で40℃にした。これに200mL/分の二酸化炭素ガスと300mL/分の窒素ガスの混合気体を4分吹き込み、ガス流量計で二酸化炭素ガスの吸収量を測定したところ、標準状態換算で165mLであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素を3.3L吸収した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス吸収量は、吸収液1kg当たり825mL/分であった。
【0070】
次に、ガス吸収瓶を80℃の水浴に入れ、300mL/分の窒素ガスを4分吹き込み、ガス流量計で二酸化炭素ガスの放散量を測定したところ、標準状態換算で123mLであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素ガスを2.46L放散した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス放散量は、吸収液1kg当たり615mL/分であった。二酸化炭素ガスの放散効率(放散量/吸収量)は0.75であった。
【0071】
実施例3(リン酸アミド(B)の合成)
塩化ホスホリル(キシダ化学社製) 49.1gを100mLナスフラスコに入れ0℃に冷却しながら、これに水 8.7gを10分かけて加え、クロロホスホン酸を得た。当該クロロホスホン酸を、0℃に冷却したTEPA 60gとジクロロメタン 420gの混合物に、撹拌しながら10分かけて滴下した。その後、室温に昇温し1時間熟成した後、炭酸リチウム(関東化学製) 35g及び水 840gを加えて中和した。2層に分離した反応混合物のうち、ジクロロメタン層を除去し、水層を濃縮して濃縮固体 134gを得た。当該固体について、ブフナーロート上で、ジクロロメタン 196g、及びエタノール 1623gを、この順に用いて洗浄し、固体残渣を減圧乾燥して目的物(「リン酸アミド(B)」とする) 36gを得た。収率33%。
【0072】
目的物をNMR装置(日本電子製JNM‐ECZ400)を用いて分析した。結果は以下の通り。
【0073】
1H-NMR(400MHz、D2O)δ 2.76~2.94(m,4H),3.10~3.40(m,17.3H),3.40~3.54(m,2.7H)。
【0074】
13C-NMR(100MHz、D2O)δ 34.9,36.2,36.3,37.1,43.7,44.4,44.6,44.7,45.2,45.3,45.6,45.8,49.7,49.9,50.6,50.8,51.2。
【0075】
31P-NMR(161MHz、D2O)δ -1.70~-1.90(m,0.11P),-10.20~-10.60(m,0.67P), -22.30~-23.20(m,0.22P)。
【0076】
実施例4(リン酸アミド(B)の二酸化炭素吸収放散性能評価)
実施例3で合成したリン酸アミド(B) 15gに純水 35gを加え、二酸化炭素吸収液を調製した。これを125mLのムインケ式ガス吸収瓶に入れ、水浴で40℃にした。これに200mL/分の二酸化炭素ガスと300mL/分の窒素ガスの混合気体を4分吹き込み、ガス流量計で二酸化炭素ガスの吸収量を測定したところ、標準状態換算で35mLであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素を0.7L吸収した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス吸収量は、吸収液1kg当たり175mL/分であった。
【0077】
次に、ガス吸収瓶を80℃の水浴に入れ、300mL/分の窒素ガスを4分吹き込み、ガス流量計で二酸化炭素ガスの放散量を測定したところ、標準状態換算で31mLであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素ガスを0.62L放散した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス放散量は、吸収液1kg当たり155mL/分であった。二酸化炭素ガスの放散効率(放散量/吸収量)は0.89であった。
【0078】
比較例1
リン酸アミド(A) 15gの代わりにMDEA 15gを使用した以外は、実施例2と同じ方法で二酸化炭素吸収液を調製し、同じ条件で二酸化炭素の吸収放散実験を行った。この液の4分時点での二酸化炭素ガスの吸収量は標準状態換算で55mLであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素ガスを1.1L吸収した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス吸収量は、吸収液1kg当たり275mL/分であった。更に窒素ガス4分吹き込み後の二酸化炭素ガスの放散量は、標準状態換算で23mLであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素ガスを0.45L放散した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス放散量は、吸収液1kg当たり113mL/分であった。二酸化炭素ガスの放散効率(放散量/吸収量)は0.41であった。