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特許7470891高分子量ポリエチレンおよびそれよりなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】高分子量ポリエチレンおよびそれよりなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20240412BHJP
   C08J 9/24 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C08F10/02
C08J9/24 CES
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020019356
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021123673
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敬
(72)【発明者】
【氏名】大西 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鹿子木 啓介
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-193816(JP,A)
【文献】特開2018-145412(JP,A)
【文献】特開2015-017180(JP,A)
【文献】特開2016-176061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/02
C08J 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(1)~(4)及び(6)に示す特性のいずれをも満足することを特徴とする高分子量ポリエチレン。
(1)固有粘度([η])が4dL/g以上14dL/g以下。
(2)数平均分子量と重量平均分子量の比で表される、分子量分布が3以上5以下。
(3)JIS K6922-1(2018)に準拠して、190℃、荷重21.6kg重で測定したメルトフローレート(MFR)が下記(a)式を満たす。
2000[η]-5.3≦MFR≦2400[η]-5 (a)
(4)ASTM D256に準拠した方法にて、ダブルノッチ(レザーノッチ)を入れた試験片サンプルにて測定したアイゾット衝撃強さが、50kJ/m以上。
(6)JIS K6760(1995)に準拠した嵩比重が400kg/m 以上500kg/m 以下。
【請求項2】
(5)塩素含有量が0.1ppm未満又は測定検出限界以下であることをも満足することを特徴とする請求項1に記載の高分子量ポリエチレン。
【請求項3】
以下の(7)をも満足することを特徴とする請求項1又は2の高分子量ポリエチレン
(7)メジアン径(D 50 )が75μm以上400μm以下。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の高分子量ポリエチレンの溶融成形物又は焼結成形物であることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性、加工性と機械的物性とのバランスに優れる高分子量ポリエチレン及びその成形体に関するものであり、より詳細には、特定の分子量、分子量分布、メルトフローレート、耐衝撃性を有することから流動性、加工性と各種機械的物性とのバランスに優れる新規な高分子量ポリエチレン及びその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超高分子量ポリエチレンは、汎用のポリエチレンに比べ、耐衝撃性、自己潤滑性、耐摩耗性、摺動性、耐候性、耐薬品性、寸法安定性等に優れており、エンジニアリングプラスチックに匹敵する物性を有するものとして知られている。
【0003】
しかし、超高分子量ポリエチレンは、その高い分子量故に、溶融時の流動性が低く、分子量が数万から約20万の範囲にある通常のポリエチレンのように混練押出により成形することは困難である。そこで、超高分子量ポリエチレンは、重合により得られた重合体粉末を直接焼結する方法、圧縮成形する方法、間歇圧縮させながら押出成形するラム押出機による押出成形方法、溶媒等に分散させた状態で押出成形した後、溶媒を除去する方法等の方法により成形されている。しかし、これらの成形加工法は、技術的難易度が高く、成形体を得るのが困難であるという課題、さらには、その流動性の低さに起因して圧縮時に疎な部分が形成されることによりウイークポイントが発生するため、得られる成形体が本来有するはずであろう機械的強度を発現することができず、機械的強度が比較的低くなるという課題があった。
【0004】
そこで、通常のポリエチレンと超高分子量ポリエチレンの中間域のポリエチレンが、一部使用されている。しかし、これらは、超高分子量ポリエチレンと比較して、加工性が優れる反面、耐摩耗性等の、超高分子量ポリエチレンの特徴的な物性も低下したものであった。
【0005】
そこで、これら物性の改良を目的に、メタロセン触媒等の触媒を用いた分子量分布の狭い高分子量ポリエチレンが提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許WO2013/146825
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1等に提案された高分子量ポリエチレンは、耐摩耗性は優れるものの、成形性と成形体物性のバランスという点では、まだ満足できるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、流動性に優れ、成形性と樹脂物性のバランスを兼ね備えた高分子量ポリエチレンの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の分子量、分子量分布、流動性、耐衝撃性等を有する新規な高分子量ポリエチレンが、成形性に優れ、かつ、強度、耐衝撃性に優れる成形体の提供を可能とするものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、少なくとも下記(1)~(4)に示す特性のいずれをも満足することを特徴とする高分子量ポリエチレンおよびそれよりなる成形体に関するものである。
(1)固有粘度([η])が4dL/g以上14dL/g以下。
(2)数平均分子量と重量平均分子量の比で表される、分子量分布が3以上5以下。
(3)JIS K6922-1(2018)に準拠して、190℃、荷重21.6kg重で測定したメルトフローレート(MFR)が下記(a)式を満たす。
2000[η]-5.3≦MFR≦2400[η]-5 (a)
(4)ASTM D256に準拠した方法にて、ダブルノッチ(レザーノッチ)を入れた試験片サンプルにて測定したアイゾット衝撃強さが、50kJ/m以上。
【0011】
以下、本発明の高分子量ポリエチレンについて、説明する。
【0012】
本発明の高分子量ポリエチレンは、少なくとも、(1)固有粘度([η])が4dL/g以上14dL/g以下、(2)数平均分子量(以下、Mnと記すこともある。)と重量平均分子量(以下、Mwと記すこともある。)の比で表される、分子量分布(以下、Mw/Mnと記すこともある。)が3以上5以下、(3)JIS K6922-1(2018)に準拠して、190℃、荷重21.6kg重で測定したメルトフローレート(以下、MFRと記すこともある。)が、下記(a)式
2000[η]-5.3≦MFR≦2400[η]-5 (a)
を満たす、(4)ASTM D256に準拠した方法にて、ダブルノッチ(レザーノッチ)を入れた試験片サンプルにて測定したダブルノッチアイゾット衝撃強さが、50kJ/m以上、というそれぞれの特性を満足するものである。
【0013】
本発明の高分子量ポリエチレンは、(1)固有粘度([η])が4dL/g以上14dL/g以下という特定の範囲にあることにより、成形性、加工性を維持したまま優れた性能を発現する成形体を提供することを可能とするものである。ここで、4dL/g未満である場合、得られる成形体は、耐衝撃性、耐摩耗性等に劣るものとなる。また、14dL/gを超える場合、加工性、成形性に劣り、得られる成形体は本来有するはずの物性を発現できなくなるばかりか、成形体そのものとすることも困難となる。ここで、固有粘度([η])は、例えばウベローデ型粘度計を用い、デカヒドロナフタレンを溶媒としたポリマー濃度0.0005~0.01%の溶液にて、135℃において測定する方法により測定することが可能である。なお、分子量を粘度平均分子量(以下、Mvと記すこともある。)で論じる際には、デカリン溶媒で測定した固有粘度(以下、[η]と記す場合もある。)からMv=38200[η]1.43の式にて算出することができる。
【0014】
また、本発明の高分子量ポリエチレンは、MnとMwの比で表される、(2)Mw/Mnが3以上5以下、という適度な分子量分布を有することによっても、成形性、加工性を維持したまま優れた性能を発現する成形体を提供することを可能とするものである。ここで、Mw/Mnが3未満である場合、加工性が劣り、得られる成形体は本来有するはずの物性を発現できなくなるばかりか、成形体そのものとすることも困難となる。一方、5を超える場合、耐衝撃性、耐摩耗性等の物性に劣るものとなる。なお、Mw、Mnの測定は、例えばゲル・パーミエイション・グロマトグラフィ(以下、GPCと記すこともある。)により測定することが可能である。
【0015】
本発明の高分子量ポリエチレンは、適度な流動性を有し、MFRの測定が可能であり、また、成形性、加工性を維持したまま優れた性能を発現する成形体を提供することを可能とすることから、(3)JIS K6922-1(2018)に準拠して、190℃、荷重21.6kg重で測定したMFRと固有粘度([η])が下記(a)式をも満たすものである。
2000[η]-5.3≦MFR≦2400[η]-5 (a)
MFRが、2000[η]-5.3未満であると、圧縮成形においては融着性に劣り、押出成形においては押出負荷が高い、等の成形性に課題が発生する。一方、MFRが、2400[η]-5を超えると、本発明の高分子量ポリエチレンの特性である、耐衝撃性をはじめとする、成形体強度が不十分となる。
【0016】
さらに、本発明の高分子量ポリエチレンは、(4)ASTM D256に準拠した方法にて、ダブルノッチ(レザーノッチ)を入れた試験片サンプルにて測定したアイゾット衝撃強さが、50kJ/m以上、より好ましくは70kJ/m以上のものである。ダブルノッチアイゾット衝撃強さが、50kJ/m未満であると、高い耐衝撃性も要求される用途への展開が困難となる。本発明の高分子量ポリエチレンは、適度な流動を有し、成形性に優れ、また、従来のチーグラー触媒系ポリエチレンに比べて、分子量分布が狭く、強度が高いことから、分子量が低いにもかかわらず、超高分子量ポリエチレン並みの耐衝撃性を発現するものである。
【0017】
また、本発明の高分子量ポリエチレンは、成形加工の際の成形機の腐食、中和剤等による金型汚染等の課題を発生しにくくなることから、(5)塩素含有量が0.1ppm以下、または、測定検出限界以下であるものであることが好ましい。なお、塩素の含有量は、化学滴定法、蛍光X線分析装置、イオンクロマトグラフィー等による測定により求めることができる。
【0018】
また、本発明の高分子量ポリエチレンは、成形加工時の取扱い性、輸送の観点から粒子状であってもよく、その際は(6)嵩比重が300kg/m以上550kg/m以下であることが好ましく、特に400kg/m以上500kg/m以下の範囲にあることが好ましい。ここで、高分子量ポリエチレンの嵩比重が300kg/m以上である場合、粒子の流動性が良好であり、保存容器、ホッパーでの充満率が高い等、操作性が良好なパウダーとなる。一方、嵩比重が550kg/m以下の場合、流動性に優れ、また、成形加工時における溶融、溶媒等への溶解が良好で、未溶融部の発生が少なくなるため、良好な外観の成形体が得られる。本発明における嵩比重は、例えばJIS K6760(1995)に準拠した方法で測定することが可能である。
【0019】
また、特に成形性に優れるものとなることから(7)メジアン径が50μm以上400μm以下であることが好ましく、特に100μm以上250μm以下であることが好ましい。なお、メジアン径とは、粒度分布を求めたときの、累積重量が50%となる粒径であり、一般に平均粒径の目安とされ、D50とも表記される。粒度分布は、例えばJIS Z8801で規定された標準篩を用いたふるい分け試験法、レーザー回折法、光学もしくは電子顕微鏡により観察したパウダーの粒度分布を画像解析により解析する方法等を例示することができる。
【0020】
本発明の高分子量ポリエチレンは、成形性に優れ、得られる成形体の物性も良好な高分子量ポリエチレンとなることから、(8)粒子径分布の幾何標準偏差が0.05以上0.25以下であることが好ましく、特に0.08以上0.15以下であることが好ましい。
【0021】
なお、幾何標準偏差に関しては、メジアン径の測定に記載の方法により粒子径分布を測定し、粒子径と重量分率を対数確率紙にプロットし、目開きの小さい側から累積した重量分率が50%に相当する粒子径(メジアン径、D50)、目開きの小さい側から累積した重量分率84%に相当する粒子径(D84)から、下記関係式(b)で求められる。
標準偏差=log(D84/D50) (b)
本発明の高分子量ポリエチレンは、必要に応じて公知の各種添加剤を含んでいても良く、例えばテトラキス(メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート)メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤;ビス(2,2’,6,6’-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、2-(2-ヒドロキシ-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等の耐候安定剤等が挙げられる。また、着色剤として無機系、有機系のドライカラーを添加しても良い。また、滑剤や塩化水素吸収剤等として公知であるステアリン酸カルシウム等のステアリン酸塩も、好適な添加剤として挙げることができる。
【0022】
次に、本発明の高分子量ポリエチレンを製造方法について説明する。
【0023】
本発明の高分子量ポリエチレンの製造方法としては、本発明の高分子量ポリチレンの製造が可能であれば如何なる方法を用いても良く、例えばポリエチレン製造用触媒を用い、エチレンの単独重合、エチレンと他のオレフィンとの共重合を行う方法を挙げることができ、その際のα-オレフィンとしては、例えばプロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等を挙げることができる。また、重合方法としては、例えば溶液重合法、塊状重合法、気相重合法、スラリー重合法等の方法を挙げることができ、その中でも、特に粒子形状が整った高分子量ポリエチレンの製造が可能となると共に、高融点、高結晶化度を有し、機械的強度、耐熱性、耐摩耗性に優れる成形体を提供しうる高分子量ポリエチレンを効率よく安定的に製造することが可能となることからスラリー重合法であることが好ましい。また、スラリー重合法に用いる溶媒としては、一般に用いられている有機溶媒であればいずれでもよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、イソブタン、プロパン等の液化ガス、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン、1-ヘキセンなどのオレフィンを溶媒として用いることもできる。
【0024】
また、本発明の高分子量ポリエチレンを製造する際に用いる、ポリエチレン製造用触媒として、分子量分布が狭いポリエチレンを製造できる、遷移金属化合物を用いた触媒系が好ましい。
【0025】
具体的には、(置換)シクロペンダジエニル環,(置換)インデニル環,(置換)フルオレニル環,(置換)アズレニル環等のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子から選ばれる、2個の配位子と中心金属によりサンドイッチ構造を形成する錯体であるメタロセン錯体;1個の(置換)シクロペンダジエニル環、(置換)インデニル環、(置換)フルオレニル環等を有する錯体であるハーフメタロセン錯体;シリルアミド錯体,シクロペンタジエニル骨格を有さず、アルコキシ基、アミド基、イミノ基等の配位子を有するフェノシキイミド錯体,ピリジルイミノ錯体等のポストメタロセン錯体;等を例示することができる。
【0026】
そして、これら遷移金属化合物を助触媒であるイオン化イオン性化合物、粘土化合物、アルミノオキサンを担持した担体等の粒子、もしくは、これら助触媒が粒子状の場合は、その粒子に、遷移金属化合物を担持した担持触媒を用いて、気相重合、もしくは、ポリエチレンが重合溶媒に溶解しない条件における懸濁重合にて重合する方法を例示することができる。
【0027】
適度な分子量分布を有する高分子量ポリエチレンを製造する遷移金属化合物を用いた触媒系として、一例を挙げれば、少なくとも遷移金属化合物(A)、脂肪族塩にて変性した有機変性粘土(B)及び有機アルミニウム化合物(C)より得られるメタロセン系触媒等を例示できる。
【0028】
該遷移金属化合物(A)としては、例えば(置換)シクロペンタジエニル基と(置換)フルオレニル基を有する遷移金属化合物錯体、(置換)シクロペンタジエニル基と(置換)インデニル基を有する遷移金属化合物錯体、(置換)インデニル基と(置換)フルオレニル基を有する遷移金属化合物錯体等を挙げることができ、その際の遷移金属としては、例えばジルコニウム、ハフニウム等を挙げることができる。
【0029】
該脂肪族塩にて変性した有機変性粘土(B)としては、脂肪族アンモニウム塩、脂肪族ホスフォニウム塩等の脂肪族塩により変性された粘土を挙げることができる。
【0030】
また、該有機変性粘土(B)を構成する粘土化合物としては、粘土化合物の範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、天然品、または合成品でもよく、例えば、カオリナイト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母、脆雲母、縁泥石等を例示することができ、その中でも、スメクタイト、特に、ヘクトライトまたはモンモリロナイトが好ましい。
【0031】
該有機変性粘土(B)は、該粘土化合物の層間に該脂肪族塩を導入し、イオン複合体を形成することにより得る事が可能である。
【0032】
該有機アルミニウム化合物(C)としては、有機アルミニウム化合物と称される範疇に属するものであれば如何なるものも用いることができ、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウムなどを挙げることができる。
【0033】
該有機遷移金属化合物触媒の調製方法に関しては、該(A)成分、該(B)成分および該(C)成分を含む触媒を調製することが可能であれば如何なる方法を用いてもよく、例えば各(A)、(B)、(C)成分に関して不活性な溶媒中あるいは重合を行うモノマーを溶媒として用い、混合する方法などを挙げることができる。また、これら(A)、(B)、(C)成分を互いに反応させる順番に関しても制限はなく、この処理を行う温度、処理時間も制限はない。また、(A)成分、(B)成分、(C)成分のそれぞれを2種類以上用いて触媒を調製することも可能である。
【0034】
本発明の高分子量ポリエチレンの製造方法としては、本発明の高分子量ポリチレンの製造が可能であれば如何なる方法を用いても良く、例えばポリエチレン製造用触媒を用い、エチレンの単独重合、エチレンと他のオレフィンとの共重合を行う方法を挙げることができ、その際のα-オレフィンとしては、例えばプロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等を挙げることができる。また、重合方法としては、例えば溶液重合法、塊状重合法、気相重合法、スラリー重合法等の方法を挙げることができ、その中でも、特に粒子形状が整った高分子量ポリエチレンの製造が可能となると共に、高融点、高結晶化度を有し、機械強度、耐熱性、耐摩耗性に優れる成形体を提供しうる高分子量ポリエチレンを効率よく安定的に製造することが可能となることからスラリー重合法であることが好ましい。また、スラリー重合法に用いる溶媒としては、一般に用いられている有機溶媒であればいずれでもよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、イソブタン、プロパン等の液化ガス、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン、1-ヘキセンなどのオレフィンを溶媒として用いることもできる。
【0035】
本発明の高分子量ポリエチレンを製造する際の重合温度、重合時間、重合圧力、モノマー濃度などの重合条件については任意に選択可能であり、その中でも、重合温度0~100℃、重合時間10秒~20時間、重合圧力常圧~100MPaの範囲で行うことが好ましい。また、重合時に水素などを用いて分子量の調節を行うことも可能である。重合はバッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であり、重合条件を変えて、2段以上に分けて行うことも可能である。また、重合終了後に得られるポリエチレンは、従来既知の方法により重合溶媒から分離回収され、乾燥して得ることができる。
【0036】
本発明の高分子量ポリエチレンからなる成形体は、公知の成形方法により得られる。具体的には、ラム押出等の押出成形、圧縮成形、粉体塗装、シート成形、圧延成形、各種溶媒に溶解又は混合させた状態での延伸成形等の方法を例示することができる。得られる成形体は、成形後も強度が高く、ライニング材、食品工業のライン部品、機械部品、人工関節部品、スポーツ用品、微多孔膜、ネット、ロープ、手袋等に用いることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の高分子量ポリエチレンは、加工性と成形体物性のバランス、特に、耐衝撃性に優れるポリエチレンであるため、ライニング材、食品工業のライン部品、機械部品、人工関節部品、スポーツ用品、微多孔膜、ネット、ロープ、手袋等として優れた特性を有するものとなる。
【実施例
【0038】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0039】
なお、断りのない限り、用いた試薬等は市販品、あるいは既知の方法に従って合成したものを用いた。
【0040】
有機変性粘土の粉砕にはジェットミル(セイシン企業社製、(商品名)CO-JET SYSTEM α MARK III)を用い、粉砕後の粒径はマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、(商品名)MT3000)を用いてエタノールを分散剤として測定した。
【0041】
ポリエチレン製造用触媒の調製、ポリエチレンの製造および溶媒精製は全て不活性ガス雰囲気下で行った。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(20wt%)は東ソーファインケム(株)製を用いた。
【0042】
さらに、実施例における高分子量ポリエチレンの諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0043】
~固有粘度の測定~
ウベローデ型粘度計を用い、デカリンを溶媒として、135℃において、高分子量ポリエチレン濃度0.005wt%で測定した。
【0044】
~Mw、Mnの測定~
Mw、Mn、およびMw/Mnは、GPCによって測定した。GPC装置((株)センシュー科学製 (商品名)SSC-7110)およびカラム(東ソー(株)製、(商品名)TSKguardcolumnHHR(S)HT×1本、東ソー(株)製、(商品名)TSKgelGMHHR-H(S)HT×2本)を用い、カラム温度を210℃に設定し、溶離液として1-クロロナフタレンを用いて測定した。測定試料は0.5mg/mlの濃度で調製し、0.2ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。なお、分子量はQファクターを用いてポリエチレンの分子量に換算し値を求めた。
【0045】
~MFRの測定~
JIS K6922-1(2018)に準拠して、190℃、荷重 21.6kg重にて、メルトフローレートを測定した。
【0046】
~塩素含有量の測定~
高分子量ポリエチレンを燃焼炉において完全燃焼し、燃焼ガスを吸収液に吹き込み、塩素イオンを吸収させた。この吸収液を用いて、イオンクロマトグラフィー(東ソー(株)製、(商品名)IC2010)により、ポリエチレン中の塩素含有量を測定した。
【0047】
~嵩比重の測定~
JIS K6760(1995)に準拠した方法で測定した。
【0048】
~平均粒径の測定~
JIS Z8801で規定された9種類の篩(目開き:710μm、500μm、425μm、300μm、212μm、150μm、106μm、75μm、53μm)を用いて、100gのポリエチレンを分級した際に得られる各篩に残った粒子の重量を目開きの大きい側から積分した積分曲線において、50%の重量になる粒子径を測定することにより平均粒径を求めた。
【0049】
~アイゾット衝撃強さの測定~
ポリエチレンを150mm×150mmの金枠に充填し、ポリエチレンテレフタレートフィルムに挟んで、190℃で、5分間予熱した後、190℃、プレス圧力20MPaの条件にて加熱圧縮した。その後、金型温度120℃、10分間冷却し、厚さ8mmのプレスシートを得た。
【0050】
この圧縮成形体から、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ6.35mmの試験片を切り出し、後加工でダブルノッチ(レザーノッチ、ノッチ間距離3.56mm)を付与した試験片を用いて、ASTM D256に準拠して、ハンマー容量4J、温度23℃におけるダブルノッチアイゾット衝撃強さを測定した。
【0051】
~引張破壊強度の測定~
上記アイゾット衝撃強さの測定と同じ方法で成形した圧縮成形体から切り出した試験片を用い、JIS K 6922-2(2005)に準拠した方法で測定した。
【0052】
実施例1
(1)有機変性粘土の調製
1リットルのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製、(商品名)エキネンF-3)300ml及び蒸留水300mlを入れ、濃塩酸15.0g及びジオレイルメチルアミン(ライオン株式会社製、(商品名)アーミンM20)64.2g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(ビックケミ-・ジャパン社製、(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mlで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより160gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を7μmとした。
【0053】
(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
温度計と還流管が装着された300mlのフラスコを窒素置換した後に(1)で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108ml入れ、次いでジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2-(ジメチルアミノ)-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライドを0.600g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mlを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mlのヘキサンにて2回洗浄後、ヘキサンを200ml加えてポリエチレン製造用触媒の懸濁液を得た(固形重量分:12.5wt%)。
【0054】
(3)高分子量ポリエチレンの製造
エチレンの積算流量計を取り付けた、2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(2)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を315mg(固形分39.4mg相当)加え、70℃に昇温後、エチレン分圧が0.9MPa、オートクレーブの気相の水素濃度がエチレンに対して5000ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給し、180分間、エチレンのスラリー重合を行った。オートクレーブを50℃まで急冷し、その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、203gの高分子量ポリエチレンを得た。得られた高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0055】
比較例1
(1)有機変性粘土およびポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
有機変性粘土の調製、および、ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製は、実施例1と同様に実施した。
【0056】
(2)ポリエチレンの製造
実施例1において、触媒として(1)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を280mg(固形分35.0mg相当)、オートクレーブの気相の水素濃度がエチレンに対して2.7%となるよう維持したことを除き、実施例1と同様に、エチレンのスラリー重合を行い、204gのポリエチレンを得た。得られたポリエチレンの物性を表1に示す。
【0057】
得られたポリエチレンは、固有粘度が低く、分子量が低いものであった。そして、物性評価の結果、引張破壊強度、アイゾット衝撃強さが低いものであった。
【0058】
比較例2
(1)固体触媒成分の調製
温度計と還流管が装着された1リットルのガラスフラスコに、金属マグネシウム粉末50g(2.1モル)およびチタンテトラブトキシド210g(0.62モル)を入れ、ヨウ素2.5gを溶解したn-ブタノール320g(4.3モル)を90℃で2時間かけて加え、さらに発生する水素ガスを排除しながら窒素シール下において140℃で2時間撹拌し、均一溶液とした。次いで、ヘキサン2100mlを加えた。
【0059】
この成分90g(マグネシウムで0.095モルに相当)を別途用意した500mlのガラスフラスコに入れ、ヘキサン59mlで希釈した。45℃でイソブチルアルミニウムジクロライド0.29モルを含むヘキサン溶液106mlを2時間かけて滴下し、さらに70℃で1時間撹拌し、固体触媒成分を得た。ヘキサンを用いて傾斜法により残存する未反応物および副生成物を除去し、組成を分析したところチタニウム含有量は8.6wt%であった。
【0060】
(2)ポリエチレンの製造
2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(1)で得られた固体触媒成分を6.9mg加え、80℃に昇温後、水素分圧を分圧で0.05MPaとなるように加え、その後、エチレン分圧が0.6MPaとなるように、エチレンの供給を続け、90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで202gのポリエチレンを得た。得られたポリエチレンの物性は表1に示す。
【0061】
得られたポリエチレンは、分子量分布が広いものであった。物性評価の結果、引張破壊強度、アイゾット衝撃強さが低いものであった。
【0062】
実施例2
(1)有機変性粘土およびポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
有機変性粘土の調製、および、ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製は、実施例1と同様に実施した。
【0063】
(2)ポリエチレンの製造
実施例1において、触媒として(1)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を218mg(固形分27.3mg相当)、オートクレーブの気相の水素濃度がエチレンに対して3000ppmとなるよう維持したことを除き、実施例1と同様に、エチレンのスラリー重合を行い、205gの高分子量ポリエチレンを得た。得られた高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0064】
実施例3
(1)有機変性粘土の調製
有機変性粘土の調製は、実施例1と同様に実施した。
【0065】
(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
温度計と還流管が装着された300mlのフラスコを窒素置換した後に(1)で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108ml入れ、次いでジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2-(ジメチルアミノ)-9-フルオレニル)ハフニウムジクロライドを0.786g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mlを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mlのヘキサンにて2回洗浄後、ヘキサンを200ml加えてポリエチレン製造用触媒の懸濁液を得た(固形重量分:11.5wt%)。
【0066】
(3)ポリエチレンの製造
実施例1において、触媒として(2)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を260mg(固形分29.9mg相当)、オートクレーブの気相の水素濃度がエチレンに対して3200ppmとなるよう維持したことを除き、実施例1と同様に、エチレンのスラリー重合を行い、195gの高分子量ポリエチレンを得た。得られた高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0067】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の高分子量ポリエチレンは、加工性と成形体物性のバランスに優れており、特に、耐衝撃性に優れる成形体を提供することが可能であり、その産業上の利用可能性は極めて高いものである。