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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】細胞培養基材、およびその製法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240412BHJP
   C08F 220/28 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C08F220/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020052212
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151188
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】慈道 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】平床 聖也
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-027919(JP,A)
【文献】特開2018-029505(JP,A)
【文献】国際公開第2019/217661(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208777(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼータ電位が-50mV~0mVである基材の表面に、2-メトキシエチルアクリレートの繰返し単位、n-ブチルアクリレートの繰返し単位およびN-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位を含む、温度応答性ブロック共重合体覆されることを特徴とする、細胞培養基材。
【請求項2】
前記温度応答性ブロック共重合体を被覆する前の基材に対する水の接触角が、20°~110°であることを特徴とする、請求項1記載の細胞培養基材。
【請求項3】
基材の素材が、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも一種類であることを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養基材。
【請求項4】
前記温度応答性ブロック共重合体の被覆量が、0.1μg/cm~10μg/cmであることを特徴とする、請求項1~3いずれか一項に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
ゼータ電位が-50mV~0mVである基材の表面に、前記温度応答性ブロック共重合体覆されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞培養基材の製造方法。
【請求項6】
基材にプラズマ処理を施す工程と、前記温度応答性ブロック共重合体溶液を塗布して基材表面を前記温度応答性ブロック共重合体で被覆する工程とを有する、請求項に記載の細胞培養基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養基材、およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学や生物学の研究において、目的細胞を増殖する細胞培養は重要な手段である。細胞を生体外で培養する場合、多くの細胞は足場となる基材に接着させる必要がある。細胞は、インテグリンなどの接着分子となるタンパク質を介して結合しており、基材に強固に接着した状態である。従って、培養した細胞を回収する際には細胞を基材から剥離させなければならない。多くの場合、剥離にはタンパク質分解酵素が用いられる。タンパク質分解酵素は細胞表面のタンパク質を分解するため、細胞と基材間の結合を切ることで細胞を剥離することができる。一方で、細胞表面のタンパク質も同時に分解するため細胞にダメージを与えてしまう。以上のことから、細胞にダメージを与えずに基材から剥離可能な技術が求められてきた。
【0003】
細胞の接着性と剥離性を両立する基材として、刺激応答性重合体を表面に被覆した細胞培養基材について多くの研究開発が行われてきた。刺激応答性重合体としては、温度応答性、pH応答性、光応答性等を有する材料が知られている。特許文献1では、市販の細胞培養基材に温度応答性重合体を被覆することで細胞接着と冷却処理による剥離を実現した細胞培養基材が記載されている。しかしながら、一般的な細胞培養基材は培養面に他の物質を被覆することを想定したものではない。被覆する重合体の機能を十分に発揮するためには一定量以上の被覆が必要であるが、一定量以上被覆した場合は細胞の接着性が低下することで細胞増殖を妨げてしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-174919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、重合体を被覆した細胞培養基材、およびその製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以上の点を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、特定のゼータ電位である基材の表面に重合体を被覆した細胞培養基材は、細胞の接着と重合体の機能を両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は以下の態様を含包する。
<1>ゼータ電位が-50mV~0mVである基材の表面に、重合体を被覆して形成されることを特徴とする、細胞培養基材。
<2>重合体を被覆する前の基材に対する水の接触角が、20°~110°であることを特徴とする、<1>記載の細胞培養基材。
<3>基材の素材が、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも一種類であることを特徴とする、<1>または<2>に記載の細胞培養基材。
<4>重合体の被覆量が、0.1μg/cm~10μg/cmであることを特徴とする、<1>~<3>いずれか一項に記載の細胞培養基材。
<5>重合体が、温度応答性ブロック共重合体であることを特徴とする、<1>~<4>いずれか一項に記載の細胞培養基材。
<6>細胞培養基材を製造する方法であって、ゼータ電位が-50mV~0mVである基材の表面に、重合体を被覆して形成されることを特徴とする、細胞培養基材の製造方法。
<7>基材にプラズマ処理を施す工程と、重合体溶液を塗布して基材表面を重合体で被覆する工程とを有する、<6>記載の細胞培養基材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の、重合体を被覆した細胞培養基材は、細胞の接着と重合体の機能を両立できる。
特に重合体を被覆する前の基材の表面特性が、重合体を被覆した細胞培養基材の細胞の接着に関連することを見出し、また重合体の被覆後に、細胞接着面に表面処理をすることなく任意の刺激応答性を得ることが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0010】
本発明における基材とは、重合体を被覆していない材料のことであり、適宜に表面処理を行うことでその表面特性を制御することができる。
【0011】
本発明における細胞培養基材とは、前記基材に重合体を被覆し、細胞の接着と重合体の機能を兼ね備えた材料のことである。
【0012】
本発明の効果を得るためには特定のゼータ電位を有する基材が必要であり、具体的には-50mV~0mV、好ましくは-50mV~-20mVである。基材が板状である場合、ゼータ電位の測定には平板試料用セルを用いる。セルに基材を設置した状態で、セル内部にモニター粒子溶液を注入し、モニター粒子の電気移動度を測定することで、ゼータ電位を求めることができる。電気移動度からゼータ電位を求めるには、一般的には下記のSmoluchowskiの式が用いられる。
【0013】
ζ=(4πηU)/ε
(上記式において、ζはゼータ電位、ηは溶媒の粘度、εは溶媒の誘電率、Uは電気移動度を示す。)
特定のゼータ電位を有する基材は、後述するプラズマ処理等の親水化処理を施すことにより得ることができる。
【0014】
基材に対する水の接触角(以下、接触角という)とは、基材の表面に水滴を滴下し、液滴が静止しているときの液面と基材面とのなす角である。接触角の測定にはθ/2法、接線法、カーブフィッティング法などがあり、一般的にはθ/2法が用いられる。θ/2法による接触角は下記の式で求めることができる。
【0015】
θ=2arctan(h/r)
(上記式において、θは接触角、hは液滴の高さ、rは液滴の半径を示す。)
接触角が小さい値であるほど表面が親水性であることを示す。細胞は疎水性の表面に接着しにくく、適度な親水性を有する表面には接着しやすい。本発明の効果を得るためには接触角が20°~110°であることが好ましく、40°~60°であることがより好ましい。
【0016】
上述のような表面物性を有する基材を用いることで、重合体を被覆した後も基材表面の性質である細胞接着性を維持したまま、細胞接着面に表面処理することなく基材表面の重合体の機能も付与することができる。本発明において、重合体を基材に被覆する方法としては、浸漬法、バーコート法、スリットダイコート法、グラビアコート法、キャスト法、スプレーコート法、スピンコート法等で塗布する方法が挙げられる。重合体の塗布は片面のみに施してもよく、基材の全ての面に施してもよい。また、乾燥方法は自然乾燥であってもよく、加熱乾燥であってもよい。
【0017】
重合体を基材に塗布するためには、重合体を溶媒に溶解させ、重合体溶液として使用する必要がある。用いる溶媒として特に限定はなく、重合体が溶解し、かつ基材を溶解しないものであればよい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、2-メトキシエタノール等が例示できる。溶媒は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
重合体溶液中の重合体の含有量は、0.01~10質量%であることが好ましく、0.05~5重量%であることがより好ましい。重合体の含有量が少ない場合、基材表面が十分に被覆されない。重合体の含有量が多い場合、重合体溶液の粘度が上昇し塗布性が悪化する。
【0019】
本発明において、重合体の被覆量は0.1~10μg/cmであることが好ましく、2~8μg/cmであることがより好ましい。被覆量の測定は一般的に知られる方法で行えばよく、一例として全反射型フーリエ変換型赤外分光(FT-IR/ATR)法を用いることができる。
【0020】
本発明における基材の素材としては、ゼータ電位が制御可能であり、成型加工が容易な素材が好ましい。このような素材として、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラートなどが挙げられる。ポリオレフィンは内部に炭化水素の二重結合を有する重合体の総称であり、ポリオレフィンの中でも汎用的であるポリエチレンやポリプロピレンを用いることが好ましい。また、これらの素材の混合物、共重合体であってよく、可塑剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0021】
本発明における基材の形状としては、フィルムであることが好ましい。フィルム状の基材を用いて作製した細胞培養基材は、シャーレやプレートに敷いて使用することや、フィルムを溶着して細胞培養バッグの形態で使用することができる。また、フィルムは単層でもよく、多層構造であってもよい。
【0022】
基材のゼータ電位を制御する方法は特に限定はないが、一例としてプラズマ処理が挙げられる。プラズマ処理とは、酸素原子または窒素原子を含むガス雰囲気下で放電して、電離作用によって生じるプラズマを照射することにより、基材表面の親水性を向上させる方法である。プラズマ処理における放電としては、コロナ放電(高圧低温)、アーク放電(高圧高温)、グロー放電(低圧低温)、大気圧プラズマがあり、フィルムのような薄い基材に対してはダメージが少ないことからグロー放電もしくは大気圧プラズマを用いることが好ましい。
【0023】
本発明において、被覆する重合体の構造に特に限定はないが、一例としてブロック共重合体が挙げられる。ブロック共重合体とは、2種類以上の繰り返し単位からなる重合体で、それぞれ同種の繰り返し単位からなる高分子鎖が、1本の鎖の中に結合している重合体をいう。
【0024】
重合体の特徴に限定はないが、刺激応答性を有することが好ましく、一例として温度応答性を有することが挙げられる。温度応答性ブロック共重合体とは、繰返し単位の少なくとも1種類が温度応答性の繰返し単位を含むブロック共重合体をいう。温度応答性の繰返し単位は、それぞれ特有の下限臨界溶解温度(LCST;Lower Critical Solution Temperature)を有する。LCSTとは、この温度よりも低い温度では高分子が水に溶解して透明の溶液になるが、この温度よりも高い温度では不溶化して白濁するか沈殿が生じ、相分離する温度である。LCSTを示すことと、温度応答性を有するということは同義として取り扱うことができる。LCSTは20℃~40℃の範囲にあることが好ましく、25℃~35℃の範囲にあることがさらに好ましい。温度応答性の繰返し単位とその水に対するLCSTは、例えば、N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=22℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST=28℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(LCST=35℃)、N,N-ジエチルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=28℃)、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST=35℃)、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=23℃)、又はN-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=20℃)等が例示できる。LCSTは水溶液の濃度で発現する温度が前後するが、N-イソプロピルアクリルアミドはLCST発現の濃度依存性が低いため好ましい。本発明における温度応答性ブロック共重合体に用いる温度応答性の繰返し単位は、1種類のみでもよく、2種類以上を組み合わせてあってもよい。
【0025】
温度応答性ブロック共重合体を基材に被覆する場合は、温度応答性の繰返し単位の他に基材に固定するための繰返し単位を含むことが好ましい。例えばスチレンやその誘導体、2-メトキシエチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート等を例示でき、2-メトキシエチルアクリレートの繰返し単位とn-ブチルアクリレートの繰返し単位とN-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位とを含んでなる温度応答性ブロック共重合体が特に好ましい。 前記重合体は特に限定は無いがその合成方法としては、株式会社エヌ・ティー・エス発行、“ラジカル重合ハンドブック”、p.161~225(2010)に記載のリビングラジカル重合技術を用いて、合成する方法を用いることができる。
【実施例
【0026】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0027】
<ブロック共重合体の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名:JNM-ECZ400S/L1)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析より求めた。
【0028】
<ブロック共重合体の分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー製HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー製TSKgelSuperAWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む2,2,2-トリフルオロエタノール溶液を用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(ポリマーラボラトリーズ製)を用いた。
【0029】
<ブロック共重合体の合成例>
200mL2口フラスコに2-メトキシエチルアクリレート(MEA)0.650g(5mmol)を加え、さらにシアノメチルドデシルトリチオカルボナトを31.8mg(100μmol)とアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)とtert-ブチルアルコール10mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
【0030】
1回目の加熱撹拌後、n-ブチルアクリレート(BA)3.845g(30mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)とtert-ブチルアルコール5mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
【0031】
2回目の加熱撹拌後、上記にN-イソプロピルアクリルアミド(IPAAm LCST=32℃)7.355g(65mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)とtert-ブチルアルコール85mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
【0032】
3回目の加熱撹拌後、反応液を水で再沈精製し、減圧乾燥することで黄色固体を得た。得られた黄色固体をクロロホルムに溶解し、分液ロートを用いクロロホルム相を回収した。回収したクロロホルム相をエバポレーターで濃縮し、ヘプタンで再沈精製した。沈殿物をろ過で回収し、減圧乾燥することで、ブロック共重合体poly(MEA-BA-IPAAm)を8.295g得た。得られたブロック共重合体の組成はMEA:BA:IPAAm=5:30:65(mol%)、Mnは11.8×10、Mw/Mnは1.45であった。
【0033】
<基材のゼータ電位>
基材のゼータ電位はゼータ電位計(大塚電子製、ELS-2)を用いて測定した。平板用セルユニットに試料をセットした。モニター粒子溶液(大塚電子製)を10mMの塩化ナトリウム(和光純薬製)水溶液で100倍に希釈して、モニター用の電気泳動液とした。Smoluchowski法を用いてゼータ電位を算出した
<基材に対する水の接触角>
基材に対する水の接触角は接触角計(協和界面科学(株)製、DMs-401)を用いて測定した。純水1μLを試料表面に着液させ、θ/2法で解析して接触角を測定した。
【0034】
<ブロック共重合溶液の調製>
ブロック共重合体30mgにエタノールを29.970g添加し、撹拌で全て溶解させ、0.10wt%のブロック共重合体溶液1を調製した。
【0035】
ブロック共重合体15mgにエタノールを29.985g添加し、撹拌で全て溶解させ、0.05wt%のブロック共重合体溶液2を調製した。
【0036】
<ブロック共重合体の被覆量>
ブロック共重合体の被覆量は全反射型フーリエ変換型赤外分光(ATR/FT-IR)法により測定した。基板に特有のピークとブロック共重合体に特有のピークの強度比を解析した。被覆量が既知のモデルサンプルを用いて検量線を作成し、ブロック共重合体の被覆量を測定した。
【0037】
(実施例1)
低密度ポリエチレンフィルム(東ソー製)を直径5cmの円形にカットし、ソフトプラズマエッチング装置(メイワフォーシス製、SEDE-P)を用いて、空気中、10Pa、10mAで5分間のプラズマ処理を施した。このフィルムのゼータ電位を測定した所、-33mVであった。また、このフィルムに対する水の接触角を測定した所、38°であった。
【0038】
上記フィルムを、ブロック共重合体溶液1中に含侵し、自然乾燥することでフィルムにブロック共重合体を塗布し、細胞培養基材を作製した。この細胞培養基材表面のブロック共重合体の被覆量を測定した所、7.3μg/cmであった。
【0039】
上記方法で作製した細胞培養基材を、浮遊細胞用無処理ディッシュ(AGCテクノグラス製、1010-060)に設置し、骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(ロンザジャパン製、Product Code:PT-2501、Lot Number:0000603525)を1.0×10cells/dish播種し、37℃、CO濃度5%で培養した。培養液にはウシ胎児血清(コロンビア産)を10vol%含むダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(10vol%FBS/DMEM)を用いた。6日間培養後、培養液を抜き、新たに4℃に冷却した培養液を加え、室温で20分間冷却した。20分後、ピペッターを用いて培養面の全面に培養液を当てるようにピペッティングした後、細胞ごと培養液を回収した。細胞数を測定したところ、冷却処理によって回収できた細胞数(冷却後回収細胞数)は1.11×10cellsであった。また、冷却処理後に基材に残った細胞をトリプシン処理で回収し、前記冷却後回収細胞数と足し合わせて全細胞数を求めたところ、1.99×10cellsであった。以上より、冷却処理による細胞回収率は56%であった。また、初期播種数に対する増殖後の細胞数より細胞増殖率を求めたところ、199%であった。
【0040】
(実施例2)
ブロック共重合体溶液2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を作製した。ブロック共重合体を被覆する前のフィルムのゼータ電位は-33mVであり、接触角は38°であった。ブロック共重合体の被覆量は、3.0μg/cmであった。実施例1と同様の方法で細胞培養および冷却による回収を行った。その結果、冷却処理による細胞回収率は46%であった。また、細胞増殖率は161%であった。
【0041】
(比較例1)
フィルムにプラズマ処理を施していないこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を作製した。ブロック共重合体を被覆する前のフィルムのゼータ電位は-51mVであり、接触角は119°であった。ブロック共重合体の被覆量は、3.8μg/cmであった。実施例1と同様の方法で細胞培養を行ったが、細胞が基材に接着しなかったため、増殖もしなかった。
【0042】
(比較例2)
ブロック共重合体溶液を塗布しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で細胞培養基材を作製した。ブロック共重合体を被覆する前のフィルムのゼータ電位は-33mVであり、接触角は38°であった。実施例1と同様の方法で細胞培養および冷却による回収を行った。その結果、冷却処理による細胞回収率は10%であった。また、細胞増殖率は192%であった。
【0043】
【表1】