(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽シート
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240412BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20240412BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240412BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240412BHJP
C01B 32/159 20170101ALN20240412BHJP
【FI】
H05K9/00 W
C08L101/14
C08K3/04
C08L21/00
C01B32/159
(21)【出願番号】P 2020011905
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500039865
【氏名又は名称】株式会社 美粒
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹下 誠
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
(72)【発明者】
【氏名】中野 満
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特許第6585250(JP,B2)
【文献】特開2015-227411(JP,A)
【文献】特表2013-513737(JP,A)
【文献】特開2003-224039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
C08L 101/14
C08K 3/04
C08L 21/00
C01B 32/159
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化分散液から形成される電磁波遮蔽シートであって、
前記乳化分散液は、分散媒と、前記分散媒に非溶解性である乳化分散材料と、単層カーボンナノチューブと、薄膜グラファイトと、を含み、そして、
前記乳化分散材料は、前記薄膜グラファイトに囲まれた状態で前記分散媒中に分散し、前記薄膜グラファイトの表面に前記単層カーボンナノチューブが付着してい
て、
前記分散媒が水であり、前記乳化分散材料が非水溶性有機溶媒を含む、電磁波遮蔽シート。
【請求項2】
乳化分散液から形成される電磁波遮蔽シートであって、
前記乳化分散液は、分散媒と、前記分散媒に非溶解性である乳化分散材料と、単層カーボンナノチューブと、を含み、そして、
前記乳化分散材料は、前記単層カーボンナノチューブに囲まれた状態で前記分散媒中に分散してい
て、
前記分散媒が水であり、前記乳化分散材料が非水溶性有機溶媒を含む、電磁波遮蔽シート。
【請求項3】
前記乳化分散液が更に増粘剤を含む、請求項1又は2に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項4】
前記増粘剤が水溶性高分子である、請求項3に記載の電磁波遮蔽シート。
【請求項5】
前記乳化分散材料がゴム
を更に含む、請求項1~4の何れかに記載の電磁波遮蔽シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波遮蔽シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量であると共に、導電性及び機械的特性等に優れる材料として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)が注目されている。しかし、CNTは直径がナノメートルサイズの微細な構造体であるため、単体では取り扱い性や加工性が必ずしも良くない。
【0003】
そこで、例えば、複数本のCNTを集めることによりシート状に成形し、得られたシートを種々の用途に適用することが行われている。そしてこのようなシートの用途として、特に、電磁波を吸収及び/又は反射する等して遮蔽するシート(電磁波遮蔽シート)が注目されている。
【0004】
例えば特許文献1では、多層カーボンナノチューブ水分散塗工液を所定の塗布量となるよう基材上に塗布して、電磁波遮蔽シートを形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の電磁波遮蔽シートには、電磁波を遮蔽する性能(遮蔽性能)を更に向上させるという点において、改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、遮蔽性能に優れる電磁波遮蔽シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、単層CNTを含んでなる所定の乳化分散液を用いることで、電磁波を良好に遮蔽し得る電磁波遮蔽シートを作製可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明の第一態様は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明における第一態様の電磁波遮蔽シートは、乳化分散液から形成される電磁波遮蔽シートであって、前記乳化分散液は、分散媒と、前記分散媒に非溶解性である乳化分散材料と、単層カーボンナノチューブと、薄膜グラファイトと、を含み、そして、前記乳化分散材料は、前記薄膜グラファイトに囲まれた状態で前記分散媒中に分散し、前記薄膜グラファイトの表面に前記単層カーボンナノチューブが付着していることを特徴とする。上述した所定の乳化分散液を用いて得られる電磁波遮蔽シートは、優れた遮蔽性能を発揮し得る。
なお、本発明において、「乳化分散液」は、乳化させるべき材料及び/又は分散させるべき材料(乳化分散材料)が分散媒中に乳化及び/又は分散している液体(例えば、エマルジョン、サスペンション等)を意味する。
また、本発明において、ある物質が水等の「分散媒」に対して「非溶解性」であるとは、25℃において当該物質0.5gを100gの当該分散媒に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
【0010】
また、この発明の第二態様は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明における第二態様の電磁波遮蔽シートは、乳化分散液から形成される電磁波遮蔽シートであって、前記乳化分散液は、分散媒と、前記分散媒に非溶解性である乳化分散材料と、単層カーボンナノチューブと、を含み、そして、前記乳化分散材料は、前記単層カーボンナノチューブに囲まれた状態で前記分散媒中に分散していることを特徴とする。上述した所定の乳化分散液を用いて得られる電磁波遮蔽シートは、優れた遮蔽性能を発揮し得る。
【0011】
ここで、本発明の電磁波遮蔽シートにおいて、前記乳化分散液が更に増粘剤を含むことが好ましい。増粘剤を含む乳化分散液を用いれば、得られる電磁波遮蔽シートの遮蔽性能を更に向上させることができる。
【0012】
また、本発明の電磁波遮蔽シートにおいて、前記分散媒が水を含み、そして前記増粘剤が水溶性高分子であることが好ましい。分散媒として水を含み、そして増粘剤として水溶性高分子を含む乳化分散液を用いれば、得られる電磁波遮蔽シートの遮蔽性能をより一層向上させることができる。
なお、本発明において、高分子や有機溶媒が「水溶性」であるとは、25℃において当該高分子又は有機溶媒0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が5質量%未満となることをいう。
【0013】
そして、本発明の電磁波遮蔽シートにおいて、前記乳化分散材料がゴムであることが好ましい。乳化分散材料としてゴムを含む乳化分散液を用いれば、得られる電磁波遮蔽シートの遮蔽性能を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、遮蔽性能に優れる電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の電磁波遮蔽シートの形成に用いる乳化分散液の乳化分散状態の一例を模式的に説明する図である。
【
図2】実施例1の電磁波遮蔽シートにおける電磁波の周波数(横軸)に対する遮蔽量(縦軸)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の電磁波遮蔽シートは、所定の乳化分散液を用いて形成される。そして、本発明の電磁波遮蔽シートは、優れた遮蔽性能を発揮することができる。
【0017】
(乳化分散液)
本発明の電磁波遮蔽シートの形成に用いられる乳化分散液は、分散媒と、乳化分散材料と、単層カーボンナノチューブとを少なくとも含み、任意に、薄膜グラファイト及び/又はその他の成分を更に含む。
【0018】
<分散媒>
分散媒としては、特に限定されないが、水、水溶性有機溶媒を好ましく用いることができる。ここで、水溶性有機溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、エチレングリコール、及びブチルアルコールを挙げることができる。
分散媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そして分散媒としては、各種成分が良好に溶解又は分散した乳化分散液を調製して、得られる電磁波遮蔽シートの遮蔽性能を更に向上させる観点からは、水、エタノール、メタノールが好ましく、水がより好ましい。
【0019】
<乳化分散材料>
乳化分散材料としては、例えば、樹脂、ゴム、油を用いることができる。
ここで、ゴムとしては、天然ゴム;フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)などのフッ素ゴム;ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、水素化スチレン-イソプレンゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)及びその水素化物(H-SIS)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(H-NBR)などのジエンゴム;シリコーンゴム;等が挙げられる。
また、油としては、鉱物油、流動パラフィン等が挙げられる。
なお、乳化分散材料としては、トルエンなどの、水溶性ではない有機溶媒(非水溶性有機溶媒)を用いることもできる。
【0020】
上述した乳化分散材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そして、上述した乳化分散材料の中でも、乳化分散液から形成される電磁波遮蔽シートの機械的強度を高めると共に、遮蔽性能を更に向上させる観点から、ゴムがより好ましい。
【0021】
<単層カーボンナノチューブ>
乳化分散液、及び当該乳化分散液を用いて形成される電磁波遮蔽シートは、単層CNTを含む。以下、単層CNTの性状について説明するが、かかる性状は、少なくとも乳化分散液中の単層CNTについて当てはまることが好ましく、少なくとも乳化分散液中の単層CNT及び本発明の電磁波遮蔽シートに含まれる単層CNTについて当てはまることがより好ましく、乳化分散液を調製する際に用いる材料としての単層CNT、乳化分散液中の単層CNT、及び本発明の電磁波遮蔽シートに含まれる単層CNTの全てについて当てはまることが更に好ましい。
【0022】
ここで、単層CNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知の単層CNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、単層CNTは、例えば、CNT製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物及びキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)により単層CNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られる単層CNTを「SGCNT」と称することがある。
【0023】
単層CNTは、BET比表面積が、600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることがより好ましく、2000m2/g以下であることが好ましく、1800m2/g以下であることがより好ましく、1600m2/g以下であることが更に好ましい。BET比表面積が上記範囲内であれば、電磁波遮蔽シートの遮蔽性能を更に向上させることができる。なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0024】
単層CNTの平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。平均直径が上記範囲内である単層CNTは乳化分散液中において凝集しにくく、均質且つ遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得ることができる。
【0025】
また、単層CNTは、平均長さが、10μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることが更に好ましく、100μm以上であることが特に好ましく、600μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることが更に好ましい。平均長さが上記範囲内である単層CNTは、乳化分散液中において凝集しにくく、均質且つ遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得ることができる。
【0026】
更に、単層CNTは、通常、アスペクト比(長さ/直径)が10超である。
なお、単層CNTの平均直径、平均長さ及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した単層CNT100本の直径及び長さを測定することにより求めることができる。
【0027】
また、単層CNTは、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。かかる単層CNTとしては、CNTの開口処理が施されていないものがより好ましい。
【0028】
ここで、表面に細孔を有する物質では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)~(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)~(3)の過程によって、t-プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0029】
そして、上に凸な形状を示すt-プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となる。かかるt-プロットの形状を有する単層CNTは、単層CNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、単層CNTに多数の開口が形成されていることを示している。その結果として、単層CNTが乳化分散液中において凝集しにくく、均質且つ遮蔽性能に更に優れる電磁波遮蔽シートを得ることができる。
【0030】
なお、単層CNTのt-プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが更に好ましい。t-プロットの屈曲点がかかる範囲内にある単層CNTは、乳化分散液中において更に凝集しにくい。その結果、一層均質且つ遮蔽性能に優れた電磁波遮蔽シートを得ることができる。
ここで、「屈曲点の位置」は、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0031】
更に、単層CNTは、t-プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が0.05以上0.30以下であるのが好ましい。S2/S1の値がかかる範囲内である単層CNTは、乳化分散液中において更に凝集しにくい。その結果、一層均質且つ遮蔽性能に優れた電磁波遮蔽シートを得ることができる。
【0032】
ここで、単層CNTの全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt-プロットから求めることができる。具体的には、まず、(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0033】
そして、単層CNTの吸着等温線の測定、t-プロットの作成、及び、t-プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)-mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0034】
なお、吸着等温線から得られるt-プロットが上に凸な形状を示す単層CNTは、上述のスーパーグロース法において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造することができる。
【0035】
ここで、乳化分散液中の単層CNTの量は、特に限定されないが、遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得る観点から、乳化分散材料100質量部当たり、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましく、60質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。
【0036】
<薄膜グラファイト>
乳化分散液は、任意に、薄膜グラファイトを含むことができる。乳化分散液が薄膜グラファイトを含むことで、後述する所期の乳化分散状態を良好に達成することができ、得られる電磁波遮蔽シートの遮蔽性能を更に向上させることができる。
【0037】
ここで、薄膜グラファイトは、グラフェンシートが複数積層してなるグラファイトが層間剥離し、上述した乳化分散材料の表面を囲むことができる程度に薄膜化した物質である。薄膜グラファイトを構成するグラフェンシートの層数は、例えば、1層(即ち、グラフェンシート)~数十層であり、好ましくは1層~数層である。より具体的には、薄膜グラファイトを構成するグラフェンシートの層数は4層以上30層以下であることが特に好ましい。
なお、薄膜グラファイトの平均長さは、10μm以上20μm以下であることが好ましい。薄膜グラファイトの平均長さは、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した薄膜グラファイト100個の長さを測定することにより求めることができる。
【0038】
乳化分散液中の薄膜グラファイトの量は、特に限定されないが、遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得る観点から、乳化分散材料100質量部当たり、1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることが更に好ましく、60質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることが更に好ましい。
【0039】
<その他の成分>
乳化分散液は、更に、上述した分散媒、単層CNT、及び薄膜グラファイト以外の成分を含むことができる。このようなその他の成分としては、例えば、増粘剤が挙げられる。乳化分散液が増粘剤を含めば、乳化分散液中において単層CNTが凝集しにくくなり、均質且つ遮蔽性能に更に優れる電磁波遮蔽シートを得ることができる。
ここで、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、キサンタンガム等が挙げられる。なお増粘剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そして、上述した増粘剤が水を含む場合、増粘剤は水溶性高分子であることが好ましい。
【0040】
なお、乳化分散液中の増粘剤の量は、特に限定されないが、遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得る観点から、乳化分散材料100質量部当たり、2質量部以上であることが好ましく、7質量部以上であることがより好ましく、14質量部以上であることが更に好ましく、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることが更に好ましい。
【0041】
<乳化分散状態>
ここで、本発明の電磁波遮蔽シートの形成に用いる乳化分散液は、乳化分散材料と、単層CNTと、任意に用いられる薄膜グラファイトとが、以下の第一態様、第二態様の何れかの乳化分散状態を呈することが必要である。
【0042】
<<第一態様>>
本発明の第一態様の電磁波遮蔽シートの形成に用いられる乳化分散液中において、乳化分散材料は、薄膜グラファイトに囲まれた状態で分散媒中に分散し、薄膜グラファイトの表面には単層CNTが付着している。このような分散状態となることで、表面に存在する単層CNTがスペーサーの機能を果たして乳化分散材料を囲む薄膜グラファイト同士が接触することを妨げ、薄膜グラファイト同士の凝集が抑制可能となる。
図1に、第一態様の乳化分散状態を模式的に示す。
図1では、粒子状を呈した乳化分散材料1の表面を薄膜グラファイト2が覆い、薄膜グラファイト2の表面(薄膜グラファイト2により乳化分散材料1の表面が覆われてなる粒子の外表面)に、単層カーボンナノチューブ3が付着している。なお、薄膜グラファイト2は、乳化分散材料1の表面の一部を覆っていても、全部を覆っていてもよい。
このような乳化分散状態の形成には、薄膜グラファイトの親油性(疎水性)が寄与しているものと推察される。即ち、薄膜グラファイトが親油性を有するため、乳化分散材料の表面に容易に付着しつつ、それと共に薄膜グラファイトが単層CNTとも良好に付着する。そのため、上述した乳化分散状態の形成が可能となると考えられる。換言すると、薄膜グラファイトは、所謂乳化剤として機能していると考えられる。
【0043】
<<第二態様>>
本発明の第二態様の電磁波遮蔽シートの形成に用いられる乳化分散液中において、乳化分散材料は、単層CNTに囲まれた状態で分散媒中に分散する。単層CNTが乳化分散材料の回りを囲み、乳化分散材料を分散媒中に良好に分散させることができる。この態様においては、単層CNTがスペーサーとしての役割を果たしつつ、第一態様の薄膜グラファイトと同様に乳化剤として機能していると考えられる。
【0044】
<乳化分散液の調製方法>
そして、上記乳化分散状態を有する乳化分散液は、分散媒と、乳化分散材料と、単層CNTと、任意に用いられる(薄膜グラファイトの原料としての)グラファイト及び/又はその他の成分とを含む粗分散液を、解繊効果が得られる分散処理に供することで得ることができる。
この解繊効果が得られる分散処理では、粗分散液にせん断力を与えて単層CNTの凝集体を解繊・分散させ、更に粗分散液に背圧を負荷し、また必要に応じ、粗分散液を冷却することで、気泡の発生を抑制しつつ、単層CNT等の成分を、分散媒中に均一に分散させることができる。
なお、粗分散液に背圧を負荷する場合、粗分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
【0045】
ここに、粗分散液にせん断力を与えて単層CNT等の成分を更に分散させるには、例えば、以下のような構造の分散器を有する分散システムを用いればよい。
すなわち、分散器は、粗分散液の流入側から流出側に向かって、内径がd1の分散器オリフィスと、内径がd2の分散空間と、内径がd3の終端部と(但し、d2>d3>d1である。)、を順次備える。
そして、この分散器では、流入する高圧(例えば10~400MPa、好ましくは50~250MPa)の粗分散液が、分散器オリフィスを通過することで、圧力の低下を伴いつつ、高流速の流体となって分散空間に流入する。その後、分散空間に流入した高流速の粗分散液は、分散空間内を高速で流動し、その際にせん断力を受ける。その結果、粗分散液の流速が低下すると共に、単層CNT等の成分が良好に分散する。そして、終端部から、流入した粗分散液の圧力よりも低い圧力(背圧)の流体が、乳化分散液として流出することになる。
【0046】
なお、粗分散液の背圧は、粗分散液の流れに負荷をかけることで粗分散液に負荷することができ、例えば、多段降圧器を分散器の下流側に配設することにより、粗分散液に所望の背圧を負荷することができる。
そして、粗分散液の背圧を多段降圧器により多段階で降圧することで、最終的に乳化分散液を大気圧に開放した際に、乳化分散液中に気泡が発生するのを抑制できる。
【0047】
また、この分散器は、粗分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。というのは、分散器でせん断力を与えられて高温になった粗分散液を冷却することにより、粗分散液中で気泡が発生するのを更に抑制できるからである。
なお、熱交換器等の配設に替えて、粗分散液を予め冷却しておくことでも、乳化分散液中で気泡が発生することを抑制できる。
【0048】
以上のような構成を有する分散システムとしては、例えば、特許第5791142号、特許第59772434号、及び特許第6585250号に記載された分散システムが挙げられ、より具体的には、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)などが挙げられる。
そして、解繊効果が得られる分散処理は、このような分散システムを用い、分散条件を適切に制御することで、実施することができる。
【0049】
なお、上述の分散処理に供する、分散媒と、乳化分散材料と、単層CNTと、任意に用いられるグラファイト及び/又はその他の成分とを含む粗分散液の調製方法は特に限定されない。
例えば、その他の成分として増粘剤を使用する場合、粗分散液は、分散媒と、単層CNTと、増粘剤と、任意に用いられるグラファイトを含む混合液に対して予分散処理を施し、予分散処理を経て得られた予分散液に乳化分散材料を添加して調製することが好ましい。このように、乳化分散材料の添加に先んじて単層CNT等と増粘剤を予分散処理に供することで、得られる乳化分散液中において単層CNTが凝集しにくくなり、均質且つ遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得ることができる。
なお、予分散処理の方法としては、特に限定されないが、上述した分散処理と同様、解繊効果が得られる分散処理を用いることが好ましい。
【0050】
そして、上述の方法等により得られる乳化分散液は、遮蔽性能に更に優れた電磁波遮蔽シートを得る観点から、固形分濃度が、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
(電磁波遮蔽シート)
本発明の電磁波遮蔽シートは、上述した乳化分散液から形成される。具体的には、本発明の電磁波遮蔽シートは、上述した乳化分散液から少なくとも分散媒の一部を除去することで、乳化分散液中の固形分をシート化することで得られる。
ここで、分散媒を除去する方法としては、濾過、乾燥等の既知の方法が挙げられる。
【0052】
濾過の方法としては、特に限定されることなく、自然濾過、減圧濾過(吸引濾過)、加圧濾過、遠心濾過などの既知の濾過方法を用いることができる。
乾燥の方法としては、熱風乾燥法、真空乾燥法、熱ロール乾燥法、赤外線照射法等の既知の乾燥方法を用いることができる。乾燥温度は、特に限定されないが、通常、室温~200℃、乾燥時間は、特に限定されないが、通常、1時間以上48時間以内である。また、乾燥は、特に限定されないが、既知の基材上で行うことができる。
【0053】
これらの中でも、分散媒の除去には少なくとも乾燥を採用することが好ましい。即ち、本発明の電磁波遮蔽シートは、上述した乳化分散液の乾燥物であることが好ましい。
なお、上記濾過と乾燥を組み合わせて用いることができる。例えば、乳化分散液を濾過して得られた膜状の濾物(一次シート)を、更に乾燥することにより、電磁波吸収シートを得ることができる。
【0054】
ここで、本発明の電磁波遮蔽シートの厚みは、5μm以上であることが好ましく、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。厚みが5μm以上であれば、電磁波遮蔽シートは十分な機械的強度を有し得ると共に、優れた遮蔽性能を発揮することができる。一方、厚みが150μm以下であれば、電磁波遮蔽シートを薄型化および軽量化することができる。
なお、電磁波遮蔽シートの「厚み」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において、電磁波遮蔽シートの厚み及び遮蔽性能は、それぞれ以下の方法を使用して測定又は評価した。
【0056】
<厚み>
電磁波遮蔽シートの厚みは、ミツトヨ社製「デジマチック標準外側マイクロメータ」を用いて測定した。
<遮蔽性能>
ASTM規格(ASTM D4935)に基づき、同軸導波管を対向させて、接合部に電磁波遮蔽シートを挿入し、ベクトルネットワークアナライザ(VNA)を用いて、試料挿入時と非挿入時のレベル差から透過損失(S21パラメータ)を求め、S21から遮蔽量を計算した。接合部に電磁波遮蔽シートを挿入した際のS21と封入していない空の状態のS21をそれぞれ測定し、dBで表した両者の振幅の差から遮蔽量(dB)を算出した。なお、測定波長は100kHz~3GHzの範囲とした。
【0057】
(実施例1)
<乳化分散液の調製>
99gの水と、1gのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)とを、スターラーを用いて撹拌することによりCMCを水に溶解させた。このCMC水溶液100gに、単層CNTとしてのSGCNT(ゼオンナノテクノロジー社製、「ZEONANO(登録商標)SG101」、開口処理なし、BET比表面積:1,050m
2/g、平均直径:3.3nm、平均長さ:400μm、t-プロットは上に凸(屈曲点の位置:0.6nm)、内部比表面積S2/全比表面積S1:0.24)0.6gと、グラファイト(伊藤黒鉛社製、製品名「Z-5F」)0.6gとを加え、分散時に背圧を負荷する多段圧力制御装置(多段降圧器)を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名「BERYU SYSTEM PRO」)に充填し、100MPaの圧力で予分散処理を行った。なお、この予分散処理を合計3回繰り返した。得られた予分散液に、180gの水と、乳化分散材料としてのブタジエンゴム(日本ゼオン社製、製品名「Nipol(登録商標)BR 1250H」)1.68g及びトルエン(富士フィルム和光純薬(株)社製造、製品名「和光特級トルエン」)3.12gとを添加し、上記と同様の高圧ホモジナイザーに充填し、100MPaの圧力で分散処理を行った。この分散処理を合計3回繰り返し、乳化分散液(固形分濃度:1.4質量%)を得た。得られた乳化分散液を顕微鏡で観察し、乳化分散材料が薄膜グラファイトに囲まれた状態で水中に分散し、薄膜グラファイトの表面に単層CNTが付着していることを確認した。
<電磁波遮蔽シートの作製>
上記のようにして得られた乳化分散液を基材上に塗布した。基材上の塗膜を温度80℃で24時間にわたり真空乾燥した。その後基材から剥離して、厚み100μmの電磁波遮蔽シートを得た。
得られた電磁波遮蔽シートについて、上記方法に従って、遮蔽性能を評価した。結果を
図2に示す。
図2から分かるように、実施例1の電磁波遮蔽シートは、広い周波数領域で優れた遮蔽性能(例えば、20dB以上の遮蔽量)を発揮し得ることがわかる。
【0058】
(比較例1)
単層CNTに代えて多層CNT(Nanocyl社製、製品名「NC7000」)1gを用いた以外は、実施例1と同様にして乳化分散液を調製した。そして、当該乳化分散液を用いて実施例1と同様の操作により電磁波遮蔽シートを作製したが、得られたシートは穴だらけであり、電磁波遮蔽シートとして優れた遮蔽性能を発揮し得るものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、遮蔽性能に優れる電磁波遮蔽シートを提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 乳化分散材料
2 薄膜グラファイト
3 単層カーボンナノチューブ