(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】磁性を有するCo基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20240412BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240412BHJP
C22C 30/02 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
C22C19/07 J
C22C30/00
C22C30/02
(21)【出願番号】P 2019232543
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】細見 凌平
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-061514(JP,A)
【文献】特開昭63-242490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/07
C22C 30/00
C22C 30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
C:1.0~2.70%、
Cr:15.0%~25.0%、
W:3.0~15.0%、
Si:0.01~2.00%、
Fe:1.0~25.0%を含有し、
残部は、Co及び不可避的不純物であるCo基合金であって、
ビッカース硬さが380HV以上で、かつ
強磁性であるCo基合金。
【請求項2】
請求項1に記載の化学成分に加えて、さらに、選択的付加的成分として、質量%でMo:10.0%以下、Cu:10.0%以下のいずれか1種または2種以上を添加し、残部が、Co及び不可避的不純物であるCo基合金であり、ビッカース硬さが380HV以上で、かつ
強磁性であるCo基合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶製法、粉末冶金法、粉体肉盛法、レーザー肉盛法、粉末押出法等に適したCo基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
CoCrWC系の合金は、一般的に耐食性、耐摩耗性及び耐熱性に優れている。そこで、これらの合金は、樹脂成型機の部品、エンジンバルブ、耐熱ロール等に好んで用いられている。これらの合金の特性の、さらなる向上についての検討がなされている。例えば、耐熱衝撃性、靱性、耐高温強度、耐酸化性を向上させるCo基合金を提案されている(特許文献1参照。)。
【0003】
しかし、CoCrWC系の合金を樹脂成型機の部品として使用した場合、CoCrWC系の合金が磁性を持たないことから、製品中にCoCrWC系の合金が金属不純物として混入した際に、磁選機で除去されず、金属不純物が含まれた状態で製品となる場合があるので、この点で改良が求められている。
【0004】
例えば、本発明の用途とは限らないが、高弾性変形能を示し、磁場印加で変位制御できるCo基合金が提案されている(特許文献2参照。)。もっとも、磁性を示すだけでは足りず、磁性を備えつつも樹脂成型機の部品として必要な硬度が十分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-026739号公報
【文献】国際公開第2007-066555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたCo基合金では、耐熱衝撃性、靱性、耐高温強度、耐酸化性を向上させる合金を作製しているが、磁性に関して考慮されていなかったので、断片の混入を磁選機で発見することが困難であった。
【0007】
特許文献2に開示されたCo基合金は、熱誘起または応力誘起されたε相を含む合金である。このCo基合金は磁性を有しているが硬度に関しては考慮されていなかった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、樹脂成型機の部品として必要な硬度を備え、かつ、金属不純物として混入した際などに磁選機で除去されるために十分な磁性を備えた、硬度と磁性を兼ね備えたCo基合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題を解決する第1の手段のCo基合金は、
質量%で、C:1.0%以上2.70%以下、Cr:15.0%以上25.0%以下、W:3.0%以上15.0%以下、Si:0.01%以上2.00%以下、Fe:1.0%以上25.0%以下、を含有し、残部は、Co及び不可避的不純物であるCo基合金であって、ビッカース硬さが380HV以上で、かつ磁性を有するCo基合金である。
【0010】
その第2の手段は、第1の手段に記載の化学成分に加えて、さらに、選択的付加的成分として、質量%でNi:10.0%以下、Mo:10.0%以下、Cu:10.0%以下のいずれか1種または2種以上を添加し、残部が、Co及び不可避的不純物であるCo基合金であり、ビッカース硬さが380HV以上で、かつ磁性を有するCo基合金である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るCo基合金から得られた成形体は、樹脂成型機の部品として必要な380HV以上の硬さを有しており、かつ磁性を有するため、磁選機で選別除去しやすくなるので、樹脂製品中への金属不純物の混入を発見が容易となる。そこで、金属片の混入を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の作製されたCo基合金のバルク(1)が、Mn-Al磁石(2)に付着させて磁性を確認した様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態に先立ち、本発明のCo基合金に含有される化学成分について説明する。以下での%は質量%を意味する。本発明の合金は、C、Cr、W、Si、Fe、Ni、Mo及びCuを含むCo基合金であって、残部は、Co及び不可避的不純物である。
なお、以下ではCo基合金の製造方法としてアトマイズ法を例に説明するが、他の製造法でも適宜作製することが可能である。
【0014】
[コバルト(Co)]
Coは、本発明の合金におけるマトリクスの主成分である。常温でのCo単体の安定結晶構造は六方最密充填構造(h.c.p.)である。690K以上の温度での、Co単体の安定結晶構造は、面心立方格子(f.c.c.)である。本発明に係る粉末では、マトリクス(常温)は、主としてγ相である。このマトリクスが、γ相と共に、ε相を有してもよい。γ相の結晶構造は、f.c.c.である。ε相の結晶構造は、h.c.p.である。
【0015】
[炭素(C)] C:1.0~2.70%
Cは、Cr及びWと結合して炭化物を形成する元素である。この炭化物は、合金の高硬度に寄与しうる。この観点から、Cの含有率は1.00%以上とする。より好ましいCの含有率は、1.30%以上であり、さらに好ましいCの含有率は、1.55%以上である。
他方、Cの含有率が過剰であると、合金の靱性が低下する。そこで、優れた靱性の観点からは、Cの含有率は2.70%以下とする。より好ましくはC,の含有率は1.90質量%以下である。さらに好ましくは、Cの含有率は、1.70質量%以下である。
【0016】
[クロム(Cr)] Cr:15.0~25.0%
Crは、Cと結合して炭化物を形成する元素である。この炭化物は、合金の常温硬さ、高温硬さ、耐摩耗性及び耐食性に寄与しうる。これらの観点から、Crの含有率は15.0%以上とする。好ましくはCrは17.0%以上である。さらに好ましくはCrは19.0%以上である。
他方、Crの含有率が過剰であると、合金の靱性が低下する。さらに、Crの含有率が過剰であると、非磁性となる。そこで、靱性及び磁性の観点から、Crの含有率は25.0%以下とする。好ましくは、Crは23.0%以下とする。より好ましくは、Crは22.5%以下とする。
【0017】
[タングステン(W)]W:3.0~15.0%
Wは、Cと結合して炭化物を形成する元素である。この炭化物は、高硬度及び耐摩耗性に寄与しうる。これらの観点から、Wの含有率は3.0%以上とする。好ましくは、Wは4.0%以上である。より好ましくは、Wは7.5%以上である。
他方、Wの含有率が過剰であると、合金の靱性が低下する。靱性の観点から、Wの含有率は15.0%以下とする。好ましくは、Wは14.0%以下とする。より好ましくは、Wは13.0%以下とする。
【0018】
[ケイ素(Si)]Si:0.01~2.00%
Siは、合金の耐食性及び切削性に寄与しうる元素である。この観点から、Siの含有率は0.01%以上とする。好ましくは、Siは0.20%以上とする。より好ましくは、Siは0.50%以上とする。
他方、Siの含有率が過剰であると、合金の靱性が低下する。靱性の観点から、Siの含有率は2.00%以下とする。好ましくは、Siは1.90%以下とする。より好ましくは、Siは1.80%以下とする。
【0019】
[鉄(Fe)]Fe:1.0~25.0%
Feは、後述されるγ相を生成させる元素である。このγ相は、合金の靱性に寄与しうる。Feは磁性を有する。この観点から、Feの含有率は1.0%以上とする。好ましくは、Feは3.0%以上とする。より好ましくは、Feは4.0%以上とする。
他方、Feの含有率が過剰であると、合金の耐食性が低下する。耐食性の観点から、Feの含有率は25.0%以下とする。好ましくは、Feは23.0%以下とする。より好ましくは、Feは21.0%以下とする。
【0020】
さらに、上記の化学成分に加えて選択的付加的成分として、Ni、Mo、Cuを適宜添加することができる。
【0021】
[ニッケル(Ni)]Ni:10.0%以下
Niは、マトリクスに固溶し、合金の耐食性を高める元素である。Niは、後述されるγ相を生成させる。このγ相は、合金の靱性に寄与しうる。Niの含有率が過剰であると、合金の硬度が小さくなる。これらの観点から、Niの含有率は10.0%以下とする。好ましくは、Niは、9.0%以下とする。より好ましくは、Niは8.0%以下とする。
【0022】
[モリブデン(Mo)]Mo:10.0%以下
Moは、Cと結合して炭化物を形成する元素である。この炭化物は、高硬度及び耐摩耗性に寄与しうる。Wの含有率が過剰であると、合金の靱性が低下する。これらの観点から、Moの含有率は10.0%以下とする。好ましくは、Moは9.0%以下とする。より好ましくは、Moは8.0%以下とする。
【0023】
[銅(Cu)]Cu:10.0%以下
Cuは、合金の耐食性を高める元素である。Cuの含有率が過剰であると、合金の硬度が小さくなる。硬度の観点から、Cuの含有率は10.0%以下とする。好ましくは、Cuは9.0%以下とする。より好ましくは、Cuは8.0%以下とする。
【0024】
なお、以下の成分は不可避的不純物であるところ、本発明のCo基合金においては、少なくとも以下に記載の範囲については不可避的不純物として混入を許容しうるものである。
【0025】
[酸素(O)]
本発明のCo基合金において、Oは不可避的不純物である。合金の耐食性の観点から、Oの質量含有率は200ppm以下が好ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下が特に好ましい。
【0026】
[アルミニウム(Al)]
本発明における合金において、Alは不可避的不純物である。Alは、Ti又はNiと結合し、金属間化合物を形成しうる元素である。この金属間化合物は、合金の靱性を損なう。靱性の観点から、Alの含有率は0.50%以下が好ましく、0.40%以下がより好ましく、0.35%以下が特に好ましい。
【0027】
[チタン(Ti)]
本発明における合金において、Tiは不可避的不純物である。Tiは、Al又はNiと結合し、金属間化合物を形成しうる元素である。この金属間化合物は、合金の靱性を損なう。靱性の観点から、Tiの含有率は0.50%以下が好ましく、0.40%以下がより好ましく、0.35%以下が特に好ましい。
【0028】
以下に本発明のCo基合金の製造方法について説明する。
本発明に係るCo基合金は、例えば、溶製法やアトマイズ法等によって製造されうる。アトマイズ法として、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びディスクアトマイズ法が例示される。これらのうち、合金の酸素含有率が少ないとの観点から、好ましいアトマイズはガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法である。さらに合金の酸素含有率が少ないとの観点から、不活性ガス雰囲気でのアトマイズがより好ましい。
また量産性の観点からはガスアトマイズが好ましい。実施例におけるガスアトマイズは、アルミナ製坩堝を溶解に用い、坩堝下の直径5mm のノズルから合金溶湯を出湯し、これに高圧アルゴンを噴霧することで実施した。
【0029】
アトマイズ粉末から、種々の成形体が成形されうる。好ましい成形方法は、熱間静水圧プレス処理(HIP)である。
【実施例】
【0030】
具体的なCo基合金として、以下では、ガスアトマイズ法で製造された粉末をHIP成形したものを例に用いて説明する。もちろん、この実施例の記載に基づいて本発明の合金の製造方法が限定されるものではない。
【0031】
表1に実施例および比較例の化学成分、ビッカース硬さ、磁性の評価結果を示す。
[バルクの製作]
表1に示した各化学成分に基づき合金を溶解し、溶湯を得た。この溶湯を、不活性ガス雰囲気中でガスアトマイズに供し、粉末を得た。この粉末を分級に供し、粒子径を500μm以下に調整した。調整後の粉末を、カプセルに充填し、このカプセルを密封した。次にこの粉末を熱間静水圧プレス処理(HIP)に供し、成形してバルクを得た。
【0032】
[硬度]
硬さの評価方法として、バルクのビッカース硬さ試験を行った。条件として試験時の荷重を200gとした。
【0033】
[磁性]
実用的な金属不純物の混入検査の観点から、磁性の評価方法として、
図1に示すように、質量15gのバルク(1)をMn-Al磁石(2)に付け、磁石(2)がバルク(1)を持ち上げられるか否かで適切な磁性が付与されているか否かの評価を行った。磁石(2)がバルク(1)を持ち上げられた合金に対しては「合格」、持ち上げられなかった合金に対しては「不合格」とした。
もちろん、磁性の評価に関しては、所定のサイズの試験片を切り出し、振動試料型磁力計(VSM)によって飽和磁束密度を測定して確認してもよい。
【0034】
【0035】
実施例No.1から実施例No.15に係る本発明のCo基合金は、いずれもビッカース硬さが380HV以上で、かつ、適切な磁性を有することが確認された。この結果から、本発明のCo基合金については、樹脂成型機の部品に好適なCo基合金となっている。
【0036】
比較例No.1に係る合金は、Cが過小なので、炭化物の体積率が小さく、十分な硬度が得られなかった。
比較例No.2に係る合金は、Cが過剰なので炭化物の体積率が大きく、磁性相が十分に得られなかった。
【0037】
比較例No.3に係る合金は、Siが過小なので、十分な硬度が得られなかった。
比較例No.4に係る合金は、Siが過剰なので、磁性相が十分に得られなかった。
【0038】
比較例No.5に係る合金は、Crが過小なので、炭化物の体積率が小さく、十分な硬度が得られなかった。
比較例No.6に係る合金は、Crが過剰なので、磁性相が十分に得られなかった。
【0039】
比較例No.7に係る合金は、Wが過小なので、炭化物の体積率が小さく、十分な硬度が得られなかった。
比較例No.8に係る合金は、Wが過剰なので、磁性相が十分に得られなかった。
【0040】
比較例No.9に係る合金は、Feが過小なので、磁性相が十分に得られなかった。
比較例No.10に係る合金は、Feが過剰なので、十分な硬度が得られなかった。
【0041】
比較例No.11に係る合金は、Niが過剰なので、十分な硬度が得られなかった。
【0042】
比較例No.12、13に係る合金は、Mo、Cuが過剰なので、磁性相が十分に得られなかった。