(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】哺乳動物細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20240412BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240412BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240412BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240412BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20240412BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
C07K16/46
C07K16/18
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020528927
(86)(22)【出願日】2018-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2018083025
(87)【国際公開番号】W WO2019106097
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-11-17
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グレップメール, カトリン
(72)【発明者】
【氏名】リンク, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シャオ, チーシン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/114164(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/051347(WO,A2)
【文献】特開2011-160802(JP,A)
【文献】特表2016-532457(JP,A)
【文献】特表2014-512185(JP,A)
【文献】特表2008-511329(JP,A)
【文献】Tomoharu Horigi et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2017年09月28日,Vol. 125, No. 2,p. 245-250
【文献】MATTHIAS BRUNNER ET AL,BIOTECHNOLOGY JOURNAL,2017年01月12日,VOL:12, NO. 1600633,p. 1-13,http://dx.doi.org/10.1002/biot.201600633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
C07K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH設定点を使用してpHを制御することを含む、哺乳動物細胞を培養するための流加方法において、
哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階であって、pH設定点が第一pHに維持される第一培養段階と;
第一pHより高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階であって、設定点が第二pHに維持される第二培養段階と
を含み、第二pHが第一pHよりも少なくとも0.1pH単位高く、第二培養段階が少なくとも6時間の持続期間を有し、
第一pHが6.5~7.5の範囲の値であり
、
第二pHが第一pHよりも0.1~0.5pH単位高
く、かつ、
方法の温度が±0.5℃以内に維持される、方法。
【請求項2】
第二培養段階が少なくとも3日の持続期間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a.第二pHが第一pHよりも0.2pH単位高い、
請求項
1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a.第一pHが、7.0であり;かつ
b.第二pHが、(i)pH7.1;(ii)pH7.2;(iii)pH7.3;(iv)pH7.4(v)pH7.5、又は(vi)7.1~7.5である、
請求項1から
3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
設定点を、(a)徐々に又は(b)即時に、第一pHから第二pHに上昇させる、請求項1から
4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
設定点を第一pHから第二pHに徐々に上昇させ、(a)設定点を連続的に上昇させるか、又は(b)設定点を一連の不連続ステップで上昇させる、請求項1から
5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
pHを、24~72時間の期間にわたって第一pHから第二pHに徐々に上昇させる、請求項1から
6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
培養培地にpHシフトアップフィード培地を添加することを含む、請求項1から
7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
設定点が±0.05pH単位の不感帯を有する、請求項1から
8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物細胞がCHO細胞である、請求項1から
9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
産生物が哺乳動物細胞によって発現され、産生物を産生するための方法である、請求項1から
10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物細胞が組換え細胞であり、産生物が組換えタンパク質である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
産生物が(a)抗体;(b)バヌシズマブ;又は(c)エマクツズマブである、請求項
11又は
12に記載の方法。
【請求項14】
産生物を単離する工程を含む、請求項
11から
13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から
14の何れか一項に記載の哺乳動物細胞を培養するための方法において、
a.産生物が哺乳動物細胞において発現される哺乳動物細胞培養物中において産生物力価を増加させるため;
b.哺乳動物細胞培養物中において細胞生存率を増加させるため;
c.哺乳動物細胞培養物の寿命を延ばすため;
d.哺乳動物細胞培養物中の乳酸蓄積を減少させるため;
e.哺乳動物細胞培養物中のアンモニウム蓄積を減少させるため;
f.哺乳動物細胞培養においてpCO
2プロファイルを改善するため;
g.哺乳動物細胞培養において浸透圧を低下させるための;
pHシフトアップフィード培地又はpH上昇剤の使用であって、pHシフトアップフィード培地又はpH上昇剤を哺乳動物細胞培養物に添加して、pHを第一pHから第二pHに上昇させる、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2017年11月30日に出願されたEP出願第17204794.6号の優先権を主張するもので、そのEP出願の内容と要素はあらゆる目的のために出典明示によりここに援用される。
【0002】
[発明の分野]
本発明は哺乳動物細胞培養に関する。特に、本発明は、治療用産生物などの産生物を産生させるための哺乳動物細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体、抗原及び他の特殊なタンパク質モダリティを含む組換え発現されたバイオ治療薬は、オンコロジー、免疫抑制、自己免疫疾患、及び炎症性疾患などの分野の疾患の治療に益々使用されている(Leader等,2008;Aggarwal,2011)。これらの治療薬、つまり「バイオ治療薬」の多くが、高用量でがん及び自己免疫疾患の治療に最近承認されているため、増大する臨床的需要を満たすために、工業的スケールでのこれらのバイオ治療薬の産生が必要とされる。
【0004】
組換え哺乳動物細胞、特にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、組換え治療薬を製造するために製薬及びバイオテクノロジー工業において広く使用されている。最適な産生物品質で更に高容量の産生物収量を達成するために、哺乳動物細胞培養方法の改善が進んでいる。(Omasa等,2010;Kim等,2012;Zhu,2012)。しかし、哺乳動物細胞における治療薬の工業的スケールでの産生は困難なままである。
【0005】
組換え治療薬の多くの産生方法は、流加培養法を使用しており、これは高細胞密度と高最終産生物濃度をもたらす。典型的な流加培養条件下では、細胞はグルコースとアミノ酸を過剰に消費してバイオマスと産生物を形成する。これにより、通常、乳酸やアンモニウムなどの多量の阻害性代謝物が生成され、培養培地に蓄積される。培養培地中に高濃度でこれらの阻害性代謝物が存在すると、細胞増殖に悪影響が及び、細胞濃度が低くなり、産生物の力価が低くなる場合がある(Zhou等,1995;Ozturk等,1992;Lao及びToth,1997)。乳酸及び/又はアンモニウムが過剰なレベルで蓄積すると、培養培地の浸透圧が高くなり、これが細胞増殖の決定的な制限要因になる場合がある。高濃度の溶存二酸化炭素もまた細胞増殖に悪影響を及ぼしうる。
【0006】
蓄積された乳酸は、細胞培養物を酸性化し、細胞増殖、細胞生産性及び最終産生物の品質に影響を与える場合がある。制御されたpH条件下でさえ、十分に高い濃度の蓄積された乳酸は、哺乳動物細胞に毒性であり得、細胞培養プロセスの中期から後期の段階で、細胞増殖とタンパク質産生を阻害する場合がある。これは、細胞密度が高い場合に特にしかりである。
【0007】
哺乳動物細胞培養の全体的な生産性を改善するためには、細胞増殖と代謝活動の効率的な制御が重要である。細胞解糖プロセス/トリカルボン酸(TCA)サイクルを制御し、培養細胞中の乳酸の蓄積を減らすために、多くの努力が払われてきた。この目的のために、次のような多くの戦略が追求されてきた:
1.解糖/TCAサイクル効率とタンパク質産生を改善するために、制限された量のグルコースを使用するか、細胞培養プロセス中にグルコースを低レベルに維持する(Xie及びWang,1993;Altamirano等,2001;Zhang等,2004;Maranga及びGoochee,2006)。しかし、Yeo等(2006)は、低いグルコースレベルはグルコース枯渇、アポトーシス、及び早期の細胞死を容易に引き起こしうると報告している。
2.乳酸の過剰な蓄積を減らすために、フルクトース、ガラクトース、及び/又は他のグルコース類似体などの代替糖を使用する(Altamirano等,2000;Altamirano等,2004;Altamirano等,2006;Walschin及びHu,2007)。しかし、この戦略はまた細胞増殖率の低下又は細胞生産性の低下につながる可能性がある。
3.解糖活性を調節するための代謝工学的アプローチ。Paredes等(1999)は、細胞によって産生されるアンモニアと乳酸の量を減らすためのハイブリドーマ細胞株の遺伝子組換えを記載している。しかし、このアプローチの主な欠点は、形質転換細胞が安定していないことである。
4.相同組換え又はsiRNA技術を介した、又はオキサミン酸などのLDH競合阻害剤の使用による、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)発現のノックダウンによる細胞性乳酸デヒドロゲナーゼ活性の調節。(Chen等,2001;Kim及びLee,2007a;Zhou等,2011)。
5.TCAサイクルへの流入を改善するための、ピルビン酸カルボキシラーゼの過剰発現又はピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)活性化因子の使用(Irani等,1999;Fogolin等,2004;Kim及びLee,2007b)。これらのアプローチは多くの場合時間がかかり、CHO細胞培養において不安定な細胞株をもたらす可能性がある。
6.乳酸の蓄積を減らすための2価の遷移金属塩(例えば、銅、亜鉛)の添加。銅は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において使用して、正味の乳酸産生から正味の乳酸消費にシフトさせ、より高い細胞増殖と生産性を達成できる(Yuk等,2014)。米国特許出願公開第20140051124号は、二価の遷移金属塩を使用して細胞培養における乳酸産生を減少させるそのような方法を記載している。
7.外因性乳酸の使用:米国特許第8470552号は、十分な濃度の外因性乳酸の存在下で動物細胞を培養して、乳酸産生を低下させる方法を記載している。
8.温度やpHなどの培養条件の制御。培養pHは、哺乳動物細胞の増殖と標的タンパク質の産生に顕著な影響を持つことが知られている重要な生理学的パラメーターの一つである(Borys等,1993;Yoon等,2005)。Oguchi等(2006)は、細胞寿命に対する低下したpH条件の影響について記載しており、pHがmRNAの安定性に影響を及ぼさないことを報告している。より低いpHと低い温度の組み合わせが細胞寿命を誘導し、mRNA安定性を向上させるために必要である。Trummer等(2006)は低下した温度での細胞代謝の制御可能な減速を報告しており、pH値の低下により、分泌産生物の品質に影響を及ぼすことなく、CHOバッチ細胞培養における容量生産性を顕著に改善できることを報告している。
【0008】
米国特許第8765413号は、pHシフトダウンと温度シフトダウンを組み合わせて細胞代謝を遅くし、それによって乳酸形成を減らし、CHO細胞培養における容量生産性を改善する類似のアプローチを記載している。米国特許第8765413号は、CHO細胞は一般に、高い値(例えばpH7.0)よりも低いpH(例えばpH6.8)で産生する乳酸が少ないことを報告しており、培養pHを低い値にシフトすると、細胞外アンモニアの濃度が低下することをまた示唆している。
【0009】
国際公開第2008/033517号は、約7.1から7.2のpHから始めて、24、48、又は72時間にわたって約6.9の最終pHに低下させる線形pH勾配の使用を含む、組換えタンパク質(特に抗TNFα又は抗インターロイキン12抗体)を産生するための方法と組成物を記載している。この方法により、細胞増殖と生産性が向上することが報告されている。
【0010】
THIOMAB 3LC形成に対する温度とpHの影響の研究において、Gomez等(2010)は、高温及び高pH条件が、低い細胞生存率と相関する乳酸蓄積を増加させることを報告している。
【0011】
要約すると、過去の研究は、温度シフトダウンと組み合わせたpHシフトダウンが、哺乳動物細胞培養における細胞生存率、細胞生産性、及び/又は最終産生物品質にプラスの影響を与えることを示している。
【0012】
乳酸に加えて、高レベルでのアンモニア蓄積が、哺乳動物細胞培養における細胞増殖、産生物力価、及び産生物の翻訳後修飾に悪影響を及ぼすこともまた知られている(Hassell等,1991;Ozturk等,1992)。
【0013】
細胞培養培地に溶解したアンモニアは、培養培地pHに依存性である反応においてアンモニウムに変換される(アンモニア+H2O⇔アンモニウム+OH-)。細胞培養方法における阻害性代謝物としてのそれらの影響を検討する場合、「アンモニア」と「アンモニウム」という用語は、一般に交換可能に使用される。
【0014】
アンモニアが14mMを超えて蓄積すると、培養増殖に有害であることが示されており(Hayter等,1991;Lao及びToth,1997)、高アンモニウム濃度が、組換えタンパク質のグリコシル化パターンに悪影響を及ぼし、ガラクトシル化とシアリル化の双方を減少させることもまた知られている(Andersen及びGoochee,1995;Borys等,1994;Gawlitzek等,2000)。
【0015】
Yang及びButler(2000)は、細胞密度が5mMアンモニアで10%減少し、CHO細胞培養ではグリコシル化パターンが10mMアンモニアで変化することを報告している。
【0016】
これにもかかわらず、流加産生法におけるアンモニア蓄積の問題に対処することを試みた公開された研究はほとんどない。
【0017】
溶存二酸化炭素レベルの上昇がまた哺乳動物細胞培養における細胞増殖とタンパク質産生に影響を与えることが知られている。バイオリアクターでの流加法では、pCO2レベルが通常の生理学的値よりも大幅に高くなる可能性がある。そのような高レベルの溶存CO2は、細胞増殖と代謝を低下させ、生産性を低下させ、最終的にはグリコシル化に悪影響をもたらしうる(Mostafa及びGu,2003;Kimura及びMiller,1997;deZengotita等,2002;Schmelzer及びMiller,2002;Zhu等,2005)。
【0018】
流加法では、細胞代謝と、培養培地中での緩衝液としてのNaHCO3/Na2CO3の使用の双方から、高pCO2濃度が通常生じる。加えて、細胞によって産生された乳酸を中和するために、更なるNaHCO3が塩基としてしばしば添加される。
【0019】
高pCO2レベルを低下させる一つのアプローチは、重炭酸塩を低減させた又は重炭酸塩を含まない緩衝液を使用することである。Goudar等(2007)は、灌流工程において重炭酸塩を含まない緩衝液を使用し、pCO2レベルの70%削減を達成し、続いて細胞増殖と比生産性に対して好ましい効果をまた達成している。にもかかわらず、pCO2の上昇による悪影響は依然として有意なままである。
【0020】
細胞培養物からCO2を除去する別のアプローチはガスストリッピングであるが、これは、一般に、CO2の溶解度が比較的高く、ヘンリーの法則の定数が低いため、バイオリアクターでは効果は限られている。通常の細胞培養操作条件下では、高レベルのCO2を除去するためには十分なガス分散と換気が必要とされる。しかし、気泡の滞留時間はスケールと共に増加するので、CO2除去の平均推進力は急速に減少する。従って、十分なCO2ストリッピングを効果的に行うには、更に高いガス流量が必要である。しかしながら、これが細胞に及ぼす有害な影響を考慮すると、スパージング流量には上限がある(Michaels等,1995a,b)。
【0021】
pCO2レベルとプロファイルのマッチングは、細胞培養プロセスのスケールアップと異なる製造設備間の移設の際にもまた望ましい。ここでの重要な問題の一つは、異なるスケールで同一又は類似のpCO2プロファイルを如何にして達成するかである。通常、スケールが大きいほど、発酵槽の静水圧、混合、及びCO2ストリッピング特性の違いにより、pCO2レベルが高くなる(Li等,2006;Mostafa及びGu,2003)。pCO2が更に上昇するとプロセスが損傷状態になるおそれがあるため、高pCO2レベルのプロセスはスケールアップが更に困難になる可能性がある。従って、pCO2に対するプロセスレバーの理解を深め、将来のスケールダウンモデルに利益をもたらすために、スケール間のpCO2プロファイルの比較可能性を改善する明確な必要性もある。
【0022】
哺乳動物細胞バイオリアクターにおけるpCO2制御に取り組む少数の研究では、主にCO2添加の削減とCO2除去に焦点が当てられている。代替の、より効果的なアプローチが必要とされる。
【0023】
浸透圧は、哺乳動物細胞の培養中の別の重要なプロセス変数である。高レベルまで増加すると、浸透圧は哺乳動物細胞の培養に有害であることが見出されている(Kim及びLee,2002;deZengotita等,2002;Cherlet及びMarc,1999)。
【0024】
流加培養中のバイオリアクターのpHは予め定められた設定点に制御されるので、pHを制御する塩基として添加されたHCO3の濃度が増加する結果、pCO2が高くなると、培地浸透圧が同時に増加する(Zanghi等,1999;Schmelzer等,2000)。浸透圧とpCO2の両方が高いと、細胞死率が有意に増加し(deZengotita等,1998)、全体的な生産性の有意な低下につながる可能性がある。
【0025】
上記に鑑みて、これらの欠陥を克服する効率的な細胞培養方法が引き続き必要とされている。本発明は、この必要性に取り組むことを目的とする。
【発明の概要】
【0026】
この発明は、細胞、特に哺乳動物細胞を培養するための方法に関する。特に、本発明は、哺乳動物細胞を培養するための方法であって、pHシフトアップを含む方法に関する。
第一の態様では、本発明は、哺乳動物細胞を培養するための流加方法において、哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と、第一pHより高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階とを含む方法を提供する。
【0027】
ここに開示される方法は、有利には、望ましくない代謝物の蓄積を回避する。そのような望ましくない代謝物には、乳酸、アンモニウム及びCO2が含まれる。本発明の方法は、より高い細胞生存率、より高い細胞濃度及び/又はより高い産生物力価をもたらしうる。
【0028】
本方法は、第一pHでの第一培養段階と第二pHでの第二培養段階とを含み、第二pHは第一pHよりも高い。第二pHは、第一pHよりも少なくとも0.10pH単位高くてもよい。第二pHは、第一pHよりも約0.1~0.5、0.1~0.4、又は0.1~0.3pH単位高くてもよい。第二pHは、第一pHよりも約0.2pH単位高くてもよい。第一pHは約7.0でありうる。第一pHは約7.0であり得、第二pHは約7.2でありうる。
第一pHは、第一下限と第一上限を有する範囲でありうる。第二pHは、第二下限と第二上限を有する範囲であり得、第二下限は第一上限以上であり、又は第二下限は第一上限よりも高い。
【0029】
本方法は、設定点を使用してpHを制御することを含みうる。この文脈において、設定点は変わりうる。従って、本方法は、pH設定点群を使用してpHを制御することを含みうる。本方法は、pH設定点に対して±0.05pH単位でありうる、不感帯を使用してpHを制御することを更に含みうる。
本発明の方法はpHシフトアップを含む。本方法は、第一pHでの第一培養段階と第二pHでの第二培養段階とを含み、第二pHは第一pHよりも高い。第一培養段階は、哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種することを含みうる。pHシフトアップ段階は、第一培養段階と第二培養段階の間にある。pHシフトアップとは、第一pHから第二pHへのpHの上昇である。これは、連続的な上昇である場合もあれば、又は不連続ステップもしくは増分を含む場合もある、徐々の上昇でありうる。本方法は、pHシフトダウンを含まない方法でありうる。
【0030】
本方法は流加法でありうる。流加法では、培養工程中に一又は複数の栄養分が培養容器に添加される。細胞は、細胞培養工程全体を通じて培養容器中に残る。細胞及び/又は細胞の産生物は、工程の終わりに収集される。
本方法は、哺乳動物細胞を培養培地中に播種することを含みうる。第一pHで実施される本方法の第一培養段階は、第一pHで培養培地中に細胞を播種することを含みうる。細胞を培養培地中に播種するとは、細胞の集団でありうる一又は複数の細胞を、無菌培養培地中に添加することを意味する。播種はまたシーディングとも呼ばれる。哺乳動物細胞はCHO細胞でありうる。
【0031】
本方法の温度は、実質的に一定の値に維持されうる。温度が実質的に一定の値に維持される方法は、第一培養段階と第二培養段階との間に有意な温度シフトを含まない。実質的に一定の温度値は、±0.5℃以内でありうる。実質的に一定の温度値は、約37℃でありうる。実質的に一定の温度値は、約36.5℃でありうる。実質的に一定の温度値は、36.0~37.0℃でありうる。
【0032】
本発明の方法は、抗体を発現することができる哺乳動物細胞を培養することを含みうる。細胞は組換え細胞でありうる。抗体は組換え抗体でありうる。細胞は、誘導性プロモーターでありうるプロモーターの制御下で抗体をコードする核酸を含みうる。
【0033】
第二の態様では、本発明は、哺乳動物細胞を培養するための方法であって、第一pHで細胞を培養することを含む第一培養段階と第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階とを含み、第二pHが第一pHよりも高く、方法の温度が実質的に一定の値に維持される方法を提供する。
【0034】
第三の態様では、本発明は、抗体を発現することができる哺乳動物細胞を培養するための方法であって、第一pHで培養培地中に哺乳動物細胞を播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と、第一pHよりも高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階とを含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法の概要を示しており、14日の実行期間の持続期間中、pHは7.00±0.05に維持される。
【
図2-10】
図2A-G、3A-G、4A-G、5A-G、6A-G、7A-G、8A-G、9A-G、10A-F(
図2~10の枝番B~G)の各々において、以下に更に詳細に要約されるように、灰色の菱形は、7.00±0.05に維持される方法を示し、黒い矩形は、pHシフトアップを伴う方法を示す。
図2B、3B、4B、5B、6B、7B、8B、9B、10B(枝番B)の各々は、平均細胞生存率(%)を示し;
図2C、3C、4C、5C、6C、7C、8C、9C、10C(枝番C)の各々は、乳酸濃度(%)を示し;
図2D、3D、4D、5D、6D、7D、8D、9D、10D(枝番D)の各々は、アンモニウム濃度(%)を示し;
図2E、3E、4E、5E、6E、7E、8E、9E、10E(枝番E)の各々は、産生物力価(%)を示し;
図2F、3F、4F、5F、6F、7F、8F、9F(枝番F)の各々は、pCO
2濃度(%)を示し;及び
図2G、3G、4G、5G、6G、7G、8G、9G、10F(枝番G)の各々は、浸透圧(mOsm/kg)を示す。
図2B-G、3B-G、4B-G、5B-G、6B-G、7B-G、8B-G、9B-G(
図2-9、枝番B-Gの各々)の各々は、同一条件下での2基の2Lバイオリアクターの平均値をプロットしている。
【
図2A-2G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(Δ0.20のpH勾配)の効果を示す。
図2Aは方法の概要を示している;本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まり、これが144時間から192時間の期間にわたって線形勾配で7.20±0.05まで上昇される。これに続いて、14日の実行期間の残りの間、pH設定点は7.20±0.05に維持される。
【
図3A-3G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(Δ0.20のpH勾配)の効果を示す。
図3Aは方法の概要を示している;本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まり、これが156時間から208時間の期間にわたって線形勾配で7.20±0.05まで上昇される。これに続いて、14日の実行期間の残りの間、pHは7.20±0.05に維持される。
【
図4A-4G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(Δ0.30のpH勾配)の効果を示す。
図4Aは方法の概要を示している;本方法は、7.00±0.05の設定点に維持されたpHで始まり、これが192時間から240時間の期間にわたって線形勾配で7.30±0.05まで上昇される。これに続いて、14日の実行期間の残りの間、pHは7.30±0.05に維持される。
【
図5A-5G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(Δ0.10のpH勾配)の効果を示す。
図5Aは方法の概要を示している;本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まり、これが192時間から240時間の期間にわたって線形勾配で7.10±0.05まで上昇される。これに続いて、14日の実行期間の残りの間、pHは7.10±0.05に維持される。
【
図6A-6G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対する即時のpHシフトアップ(Δ0.20)の効果を示す。
図6Aは方法の概要を示している;本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まる。144時間で、pH設定点は即時に(単一ステップで)7.20±0.05まで上昇され、14日の実行期間の残りの間、このレベルに維持される。
【
図7A-7G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(Δ0.20の不感帯拡大)の効果を示す。
図7Aに方法の概要を示している。本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まる。144時間で、pH不感帯は0.05から0.25に拡大される。192時間で、pH設定点はpH7.20に上昇され、pH不感帯が0.05に戻る。14日間の残りの実行時間の間、pH設定点は7.20±0.05に維持される。
【
図8A-8G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(7.00から7.20まで0.05の漸進的な設定点上昇でのΔ0.20)の効果を示す。
図8Aに方法の概要を示している。本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まる。156時間で、pH設定点はpH7.05±0.05に上昇され、12時間維持される。168時間で、pH設定点はpH7.10±0.05に上昇され、12時間維持される。180時間で、pH設定点はpH7.15±0.05に上昇され、12時間維持される。最後に、192時間で、pH設定点はpH7.20±0.05に上昇され、14日の実行期間の残りの間、このレベルに維持される。
【
図9A-9G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対するpHシフトアップ(0.05から0,25までの0.05の漸進的な不感帯拡大でのΔ0.20)の効果を示す。
図9Aに方法の概要を示している。本方法は、7.00±0.05のpH設定点で始まる。152時間で、pH不感帯は±0.10に拡大され、12時間維持される。164時間で、pH不感帯は±0.15に拡大され、12時間維持される。176時間で、pH不感帯は±0.20に拡大され、12時間維持される。188時間で、pH不感帯は±0.25に拡大され、12時間維持される。最後に、200時間で、pH設定点は±0.05の不感帯でpH7.20に上昇され、14日の実行期間の残りの間、このレベルに維持される。
【
図10A-10F】抗CSF-1R抗体の産生方法に対する異なるpH設定点及び不感帯設定の影響を示す。
図10Aは、2つの方法の概要を示している。方法#1は、7.00±0.05のpH設定点で始まり、これが144時間から192時間の期間にわたって線形勾配で7.20±0.05に上昇され、その後、14日の実行期間の残りの間、このレベルに維持される。方法#2は7.00±0.05のpH設定点で始まり、これが、48時間で即時に6.80±0.05に低下され、192時間維持される。240時間で始まり、pH設定点は、240時間から288時間の期間にわたって線形勾配で6.80±0.05から7.00±0.05に上昇され、その後14日の実行期間の残りの間、このレベルに維持される。
図10Bは、平均細胞生存率(%)を示し;
図10Cは、乳酸濃度(%)を示し;
図10Dは、アンモニウム濃度(%)を示し;
図10Eは、産生物力価(%)を示し;
図10Fは、浸透圧(mOsm/kg)を示す。
図10B~10Fの各々は、一基のバイオリアクターの値をプロットしている。
【
図11A-11G】抗Ang2/VEGF二重特異性抗体の産生方法に対する温度シフトダウンの影響を示す。
図11Aに方法の概要を示している。方法Aでは、温度は36.5℃に維持され、pH設定点は14日間の実行期間全体にわたって7.00±0.05に維持される。方法Bは、36.5℃に維持された温度で始まる。6/7日後、温度は34.0℃に低下され、その後14日間の残りの実行期間はこのレベルに維持される。pHは、ずっと7.00±0.05の一定の設定点に維持される。
図11Bは、方法A(灰色の菱形)及び方法B(黒い矩形)の平均細胞生存率(%)を示す折れ線グラフである。
図11Cは、方法A(灰色の菱形)及び方法B(黒い矩形)の乳酸濃度(%)の時間経過プロファイルを示す折れ線グラフである。
図11Dは、方法A(灰色の菱形)及び方法B(黒い矩形)のアンモニウム濃度(%)の時間経過プロファイルを示す折れ線グラフである。
図11Eは、方法A(灰色の菱形)及び方法B(黒い矩形)の産生物力価(%)の時間経過プロファイルを示す折れ線グラフである。
図11Fは、方法A(灰色の菱形)及び方法B(黒い矩形)のpCO2濃度(%)の時間経過プロファイルを示す折れ線グラフである。
図11Gは、方法A(灰色の菱形)及び方法B(黒い矩形)の浸透圧の時間経過プロファイルを示す折れ線グラフである。
図11B~11Fにおいて、各プロットは、同一条件下での2基の2Lバイオリアクターの平均である。
【
図12】ここに開示される方法で産生されるタンパク質の関連したグリコシル化構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、哺乳動物細胞を培養するための方法を提供する。本発明の方法は、pHシフトアップを含む。特に、本発明の方法は、持続的なpHシフトアップを含む。これにより、乳酸やアンモニウムなどの望ましくない代謝物の蓄積が減少する。ここに開示される方法は、中程度のpCO2レベル及び/又はより低い培養浸透圧の維持を改善しうる。その結果、本方法は、より高い細胞生存率、より高い細胞濃度、より高い細胞生産性、より高い産生物力価、及び/又は改善された産生物品質をもたらしうる。
【0037】
pHシフトアップを含む本方法は、工程全体にわたってpHが同じである対照方法(第一及び第二培養段階において同じpH設定点)と比較して改善されうる。これらの改善は添付の
図2A-Gから
図9A-Gに示され、これらは、細胞生存率(一連の
図B)、乳酸レベル(
図C)、アンモニウムレベル(
図D)、産生物力価(
図E)、pCO
2プロファイル(
図F)及び浸透圧(
図G)の改善を示している。ここに開示される方法は、有利には、特に工程の後期及び工程の終わりにおける、過剰な乳酸の蓄積を回避しうる。本方法は、有利には、アンモニア生成を低減させ、及び/又は特に工程の後期及び工程の終わりにおける過剰なアンモニアの蓄積を低減しうる。
【0038】
本方法は、工業規模の細胞培養、治療用産生物を産生する細胞の培養に特に適している。そのような細胞培養のための培養容器はバイオリアクターと呼ばれる場合がある。工業規模の方法は、培養培地の容量が少なくとも約50L、100L、500L、1000L、又は10000Lである方法でありうる。工業規模の方法は、培地の容量が少なくとも約20L、30L又は40Lである方法でありうる。工業規模の方法は、培養培地の容量が約20~100L、20~500L、20~1000L、50~100L、50~500L、50~1000L、50~5000L、50~10000L、50~20000L、100~1000L、100~5000L、100~10000L、100~20000L、500~5000L、500~10000L、又は500~20000Lである方法でありうる。
【0039】
本発明の方法はpHシフトアップを含む。より具体的には、本発明の方法は、第一pHでの第一培養段階と第二pHでの第二培養段階とを含み、第二pHは第一pHよりも高い。第一培養段階は、哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種することを含みうる。第一培養段階は、工程の0日目に始まりうる。第一培養段階は初期培養段階である。第一培養段階は、細胞播種及び遅滞期の増殖が起こる段階でありうる。第一培養段階の直後にpHシフトアップが直接続き、その後に直接第二培養段階が続きうる。第二培養段階は、細胞及び/又は細胞によって産生された産生物を収集することを含みうる。本方法は、第二培養段階の終了時に終了しうる。
本方法は、工業規模の細胞培養、及び治療用産生物を産生する細胞の培養に特に適している。本方法は、第一pHで実施される第一培養段階と、第一pHより高い第二pHで実施される第二培養段階とを含む。
【0040】
ここに開示されるのは、哺乳動物細胞を培養するための流加法であり、該方法は、哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と、第一pHよりも高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階とを含む。
ここに開示されるのは、バヌシズマブなどの抗体を発現するCHO細胞を培養するための流加法であり、該方法は、哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と、第一pHよりも高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階とを含み、第一pHは約7.0であり、第二pHは第一pHよりも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、又は0.1~0.5単位高い。
【0041】
第一pHは、6.5~7.5、6.6~7.4、6.7~7.3、6.8~7.2、又は6.9~7.1の範囲の値でありうる。第一pHは約7.0でありうる。第一pHは約7.0であり得、第二pHは約7.2でありうる。
第一pHは、約pH6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、又は7.5の値を有しうる。第二pHは、約pH6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、又は7.6の値を有しうる。第一pHは、約pH6.5~7.5の値を有しうる。第二pHは、約pH6.6~7.6の値を有し得、第二pHは第一pHよりも高い。
【0042】
第一pHは、pH6.5±0.05、6.6±0.05、6.7±0.05、6.8±0.05、6.9±0.05、7.0±0.05、7.1±0.05、7.2±0.05、7.3±0.05、7.4±0.05、又は7.5±0.05の値を有しうる。第二pHは、pH6.6±0.05、6.7±0.05、6.8±0.05、6.9±0.05、7.0±0.05、7.1±0.05、7.2±0.05、7.3±0.05、7.4±0.05、7.5±0.05、又は7.6±0.05の値を有しうる。第一pHは、pH6.5±0.05~7.5±0.05の値を有しうる。第二pHは、pH6.6±0.05~7.6±0.05の値を有し得、ここで、第二pHは第一pHよりも高い。第二pHは、第一pHよりも約0.1pH単位、又は少なくとも約0.1pH単位高くてもよい。第一pHよりも約0.1pH単位高い第二pHは、ここでは、pHΔ0.1と呼ぶことがある。第二pHは、第一pHより約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1.0pH単位、又は少なくとも約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1.0pH単位高くてもよい。第二pHは、第一pHより約0.1~0.5pH単位高く、第一pHより約0.1~0.4単位高く、又は第一pHより約0.1~0.3pH単位高くてもよい。第一pHは約7.0でありうる。第二pHは、約7.1~7.4、7.1~7.5、7.2~7.4又は約7.2~7.5でありうる。
【0043】
第一pHは、6.50~7.50、6.60~7.40、6.70~7.30、6.80~7.20、又は6.90~7.10の範囲の値でありうる。第一pHは約7.00でありうる。第一pHは約7.00であり得、第二pHは約7.20でありうる。
第一pHは、約pH6.50、6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、又は7.50の値を有しうる。第二pHは、約pH6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、7.50、又は7.60の値を有しうる。第一pHは、約pH6.5~7.5の値を有しうる。第二pHは、約pH6.6~7.6の値を有し得、ここで、第二pHは第一pHよりも高い。
【0044】
第二pHは、第一pHよりも約0.10pH単位、又は少なくとも約0.10pH単位高くてもよい。第一pHよりも約0.10pH単位高い第二pHは、ここではpHΔ0.10と呼ばれうる。第二pHは、第一pHよりも約0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位、又は少なくとも約0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位高くてもよい。第二pHは、第一pHよりも約0.10~0.50pH単位高く、第一pHよりも約0.10~0.40単位高く、又は第一pHより約0.10~0.30pH単位高くてもよい。第一pHは約7.00でありうる。第二pHは、約7.10~7.40、7.10~7.50、7.20~7.40又は約7.20~7.50でありうる。
【0045】
ここに開示される方法は、pH設定点を使用してpHを制御することを含みうる。設定点は、望ましい又は目標のpH値である。本方法は、pH設定点を使用してpHを調節するようにプログラム可能なバイオリアクター又は他の制御された培養設備においてなされうる。この文脈において、バイオリアクターは、培養pHを監視するための少なくとも一のpHプローブを含む。培養pHがその設定点から外れると、pH補正作用(又はpH調節作用)がトリガーされ、pHを設定点に近づけうる。pH補正作用は、pHを低下させる薬剤(例えばCO2、HCl又は任意の他の適切な酸)の添加、又はpHを上昇させる薬剤(例えばNaOH又は任意の他の適切な塩基)の添加を含みうる。pH補正作用は、pHを低下させる薬剤の除去(例えば、CO2ストリッピングとして知られているCO2の除去)を含みうる。pH補正作用は、pHをそれぞれ上昇させ又は低下させるために、pHを低下させ又は上昇させる薬剤の添加を減弱させること、例えば、比較的高いpHを維持するためにCO2の添加を減弱させることを含みうる。
【0046】
本方法は、不感帯を使用してpHを制御することを含みうる。不感帯は、pH補正作用がトリガーされないゾーンを定義する。不感帯によって定義されたゾーンの外にpHがドリフトした場合のみ、pH補正作用がトリガーされる。pH設定点は不感帯を有しうる。不感帯は±0.05であり得、つまり、不感帯はpH設定点に対して±0.05pH単位でありうる。
【0047】
ここに開示される方法は、pH設定点を使用してpHを制御することを含み得、第一培養段階では設定点は第一pHに設定され、第二培養段階では設定点は第二pHに設定される。第一培養段階では、設定点は第一pHに維持されうる。第二培養段階では、設定点は第二pHに維持されうる。第一培養段階では、設定点は第一pHに維持され得、第二培養段階では、設定点は第二pHに維持されうる。設定点の維持は、第一及び第二培養段階において、それぞれ第一及び第二培養段階の持続期間について以下に述べるような持続期間を有しうる。第一培養段階、又は第二培養段階、又はその両方に対する設定点は、少なくとも2、4、6、8、12、又は18時間;あるいは3~10日、4~10日、4~8日、又は4~6日;あるいは少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日間、維持されうる。第一培養段階では、設定点は、pH6.50、6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、又は7.50に設定されうる。第二培養段階では、設定点は、pH6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、7.50、又は7.60に設定され得、第二培養段階のpH設定点は第一培養段階のpH設定点よりも高い。第二培養段階のpH設定点は、第一培養段階のpH設定点よりも、約0.10pH単位、又は少なくとも約0.10pH単位高くてもよい。第一pHよりも約0.10pH単位高い第二pHは、ここではpHΔ0.10と呼ばれる場合がある。第二のpH設定点は、第一pH設定点より、約0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位、又は少なくとも約0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位高くてもよい。第二のpH設定点は、第一のpH設定点よりも約0.10~0.50pH単位高く、第一のpH設定点より約0.10~0.40単位高く、又は第一のpH設定点より約0.10~0.30pH単位高くてもよい。第一のpH設定点は約7.00でありうる。第一のpH設定点は、6.50~7.50、6.60~7.40、6.70~7.30、6.80~7.20、又は6.90~7.10の範囲の値でありうる。pH設定点には、工程全体を通じて同じである不感帯がありうる。つまり、不感帯は一定の値を持ちうる。第一培養段階におけるpH設定点は、第二培養段階におけるpH設定点の不感帯と同じである不感帯を有しうる。あるいは、第一培養段階におけるpH設定点と第二培養段階におけるpH設定点は、互いに異なる不感帯を有しうる。
【0048】
第一培養段階及び/又は第二培養段階におけるpH設定点は、±0.50の不感帯、±0.25の不感帯、±0.10の不感帯、±0.05pH単位の不感帯、±0.01の不感帯、又は±0.005pH単位の不感帯を有しうる。
【0049】
第一培養段階のpH設定点は7.00±0.05でありうる。第二培養段階のpH設定点は、7.10±0.05~7.40±0.05でありうる。第一培養段階のpH設定点は7.00±0.05で、第二培養段階のpHは7.10±0.05~7.40±0.05でありうる。第一培養段階のpH設定点は7.00±0.05であり得、第二培養段階のpH設定点は7.10±0.05でありうる。第一培養段階のpH設定点は7.00±0.05であり得、第二培養段階のpH設定点は7.20±0.05でありうる。第一培養段階のpH設定点は7.00±0.05であり得、第二培養段階のpH設定点は7.30±0.05でありうる。第一培養段階のpH設定点は7.00±0.05であり得、第二培養段階のpH設定点は7.40±0.05でありうる。
【0050】
第一pHは、第一下限と第一上限を有する範囲でありうる。第二pHは、第二下限と第二上限を有する範囲でありうる。第二下限は、第一pHの第一上限以上(≧)、又は第一pHの第一上限より高く(>)てもよい。本発明の方法において、第一培養段階は、第一下限と第一上限を有する範囲内で細胞を培養することを含み、第二培養段階は、第二下限と第二上限を有する範囲内で細胞を培養することを含む。
【0051】
第二下限は、第一pHの第一上限と等しくてもよい。例えば、第一pHは、6.95の第一下限と7.05の第一上限を有する範囲でありうる。例えば、第二pHは、7.05の第二下限と7.15の第二上限を有する範囲でありうる。第二下限は、第一pHの第一上限より大きくてもよい。例えば、第一pHは、6.95の第一下限と7.05の第一上限を有する範囲でありうる。例えば、第二pHは、7.05より高い第二下限と7.15より高い第二上限を有する範囲でありうる。
【0052】
第二下限は、第一上限よりも少なくとも0.10pH単位高くてもよい。例えば、第一pHは、6.95の第一下限と7.05の第一上限を有する範囲であり得、第二pHは、7.15の第二下限と7.25の第二上限を有する範囲でありうる。
【0053】
第二下限は、第一上限よりも少なくとも0.20pH単位高くてもよい。例えば、第一pHは、6.95の第一下限と7.05の第一上限を有する範囲であり得、第二pHは、7.25の第二下限と7.35の第二上限を有する範囲でありうる。
【0054】
第二下限は、第一上限よりも、0.10pH単位高くてもよいか、又は少なくとも0.10pH単位高くてもよい。第二下限は、第一上限よりも0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位高くてもよいか、又は少なくとも0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位高くてもよい。
【0055】
第一pH及び/又は第二pHは、1.00、0.50、0.20、0.10、0.02又は0.01pH単位の幅を有する範囲でありうる。第一pHは、pH6.50、6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、又は7.50の中点値を有する範囲でありうる。第二pHは、pH6.60、6.70、6.80、6.90、7.00、7.10、7.20、7.30、7.40、7.50、又は7.60の中点値を有する範囲でありうる。例えば、第一pHは、pH7.00の中点値と0.10の幅を有する範囲であり得、これは、pH6.95~7.05の範囲である。第二pHは、pH7.20の中点値と0.10の幅を有する範囲であり得、これは、pH7.15~7.25の範囲である。
【0056】
本方法は、pHシフトダウン(負のシフト)を含まない方法でありうる。すなわち、本方法は、pHの有意な低下を含まない方法でありうる。pHの有意な低下は、少なくとも0.10、0.20、0.30、0.40、0.50、0.60、0.70、0.80、0.90又は1.00pH単位の低下であり得、これは少なくとも1、5、又は30分持続しうる。本方法は、第一pHよりも低い任意のpHで細胞を培養することを含まない方法でありうる。
【0057】
本発明の方法はpHシフトアップを含む。pHシフトアップは、第一培養段階と第二培養段階の間にある。pHシフトアップは正のシフト又はアルカリ性シフトである。つまり、pHシフトアップはpHの上昇である。pHシフトアップは、第一pHから第二pHへのpHの上昇である。
【0058】
pHシフトアップは徐々でありうる。すなわち、pHシフトアップは、一定期間にわたるpHの徐々の上昇を含みうる。pHは、例えば、24~72時間の期間にわたって、第一pHから第二pHに徐々に上昇されうる。期間は、24~72時間、36~60時間、又は約48時間でありうる。期間は、6、12、24、36、又は48時間であり得、又は少なくとも6、12、24、36、又は48時間でありうる。pHの徐々の上昇は、pHを、1時間当たり、約0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、又は0.05pH単位、あるいは約0.001、0.002、0.003、0.004、0.005、0.006、0.007、0.008、0.009、0.01、又は0.05pH単位未満、上昇させうる。pHの徐々の上昇は、pHを、1時間当たり約0.001~0.05、0.001~0.01、0.001~0.005、又は0.002~0.008pH単位、上昇させうる。
【0059】
あるいは、pHシフトアップは「非漸進的」でありうる。そのようなpHシフトアップは、2時間未満、又は1時間未満、又は30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1分未満の期間を有しうる。pHの非漸進的な上昇は、1時間当たり、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5又は3.0pH単位、又は少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5又は3.0pH単位、上昇させうる。
【0060】
pHを徐々に上昇させることは、有利には、哺乳動物細胞への有害な影響を最小化しうる。有害な影響は、培養培地のpHの即時又は突然の上昇に関連している場合があり、その影響はpHの徐々の上昇によって回避される。pHが徐々に上昇される本発明の方法は、pHの上昇が非漸進的である方法、又は以下で検討するようにpH設定点が単一ステップで上昇される方法と比較して、改善された産生物力価及び/又は産生物品質を有しうる。
【0061】
pH設定点を使用してpHを制御することを含む本発明の方法は、設定点を(a)徐々に又は(b)即時に第一pHから第二pHに上昇させるpHシフトアップを含みうる。
pH設定点が徐々に上昇される場合、これは、ある期間にわたる第一pHから第二pHへの設定点の連続的な上昇を含みうる。あるいは、これは、ある期間にわたる第一pHから第二pHへの設定点の段階的な上昇を含みうる。この期間は、24~72時間、36~60時間、又は約48時間でありうる。この期間は、少なくとも6、12、24、36、又は48時間でありうる。
【0062】
pH設定点の徐々の連続的な上昇は、pH勾配又はpH線形勾配と呼ばれることがある。従って、本発明の方法は、設定点が第一pHから第二pHに連続的に上昇されるpH勾配であるpHシフトアップを含みうる。
【0063】
pH設定点の徐々の段階的上昇は、不連続ステップ又は増分を含みうる。これは段階的に変わる(gradated)上昇と呼ばれることがある。各不連続ステップは、pH設定点を少なくとも約0.05pH単位、上昇させうる。各不連続ステップは、pH設定点を少なくとも約0.01、0.05、0.10、0.15、0.20、又は0.25pH単位、上昇させうる。各不連続ステップは、少なくとも約12時間である期間、維持されうる。各不連続ステップは、少なくとも約1、2、4、6、8、12、18、24又は36時間、又は少なくとも約1~24又は6~18時間の期間、維持されうる。
【0064】
pH設定点が第二pHに到達するまでpH設定点を繰り返し上昇させることにより、pH設定点の徐々の段階的上昇が実施されうる。段階的な上昇は、一連の不連続ステップ又は増分でpH設定点を繰り返し上昇させうる。
例えば、pH設定点の徐々の段階的上昇は、
a)第一pHから中間pH設定点までpH設定点を漸進的に上昇させ、この中間pH設定点で所定期間、培養物を維持する;
b)pH設定点をより高い中間pH設定点まで漸進的に上昇させ、所定期間、培養物をこのより高い中間pH設定点に維持する;及び;
c)pH設定点が第二pHに達するまで、工程b)を繰り返す
ことにより、実施されうる。
【0065】
pH設定点を漸進的に上昇させることは、0.05pH単位の増分、又は少なくとも0.05pH単位の増分だけ、pH設定点を上昇させることを含みうる。増分は、約0.01、0.05、0.10、0.15、0.20、又は0.25pH単位であり得、又は少なくとも約0.01、0.05、0.10、0.15、0.20、又は0.25pH単位でありうる。中間のpH設定点は、少なくとも約12時間である期間、維持されうる。各不連続ステップ又は増分は、少なくとも約1、2、4、6、8、12、18、24又は36時間、又は少なくとも1~24又は6~18時間である期間、維持されうる。各不連続ステップは、約12時間維持される約0.05pH単位でありうる。
【0066】
段階的なpH設定点の上昇であるpH設定点の徐々の上昇が、ある状況では好ましい場合がある。例えば、技術的な制限により、連続的な上昇でpH設定点を徐々に上昇させるようにバイオリアクターをプログラムできない場合である。
【0067】
pH設定点は即時に上昇されうる。pH設定点の即時の変化は、単一ステップでの第一pHから第二pHへのpH設定点の上昇を含みうる。このようにして、pH設定点は、如何なる中間値にも設定されることなく、第一pHから第二pHに直接変えられる。pH設定点が第一pHから第二pHに即時に上昇されると、発酵のpHが非漸進的に増加しうる。発酵のpHが第一pHから第二pHに変化するのにかかる時間は、発酵の容量及び/又は撹拌速度に依存しうる。例えば、以下の実施例6はpH設定点の即時の上昇を含み、発酵が第一pHから第二pHに上昇するのにかかる時間は、2Lの発酵では約10分、1000Lの発酵では1~2時間であった。
【0068】
不感帯は、工程全体を通じて一定の値に維持されうる。例えば、不感帯は、工程全体を通じて設定点に対して±0.05pH単位でありうる。pH設定点の上昇が徐々である実施態様では、不感帯は、第一培養段階、pHシフトアップ、及び第二培養段階において一定値に維持されうる。不感帯が一定値に維持される方法の実施態様は、
図2A、3A、4A、5A、6A、8A、及び10Aに示される。
【0069】
あるいは、不感帯は拡大されうる。特に、pHシフトアップは、不感帯拡大を含みうる。不感帯は即時に拡大されうる。つまり、不感帯は単一ステップで拡大されうる。不感帯が単一ステップで拡大される方法の実施態様は
図7Aに示される。あるいは、不感帯は徐々に拡大され得、例えば、不感帯は、一連の不連続ステップ又は増分で拡大されうる。不感帯が一連の増分で拡大される方法の実施態様は
図9Aに示される。
【0070】
pHシフトアップは、単一ステップで、又は即時に不感帯を拡大させることを含みうる。pHシフトアップは、不感帯を、第一pHに設定された設定点について初期値から、単一ステップで第一pHに設定された設定点についてより広い値に、それが第二pHを包含するように、拡大させ、ついでpH設定点を第二pHに上昇させることを含みうる。不感帯は、pH設定点が第二pHに上昇されると同時に、pH設定点についてのその初期値に復元されうる。あるいは、不感帯はその初期値とは異なる値に復元されうる。不感帯は、第一pHを包含しない値に復元されうる。
例えば、本方法は、pH7.00での第一培養段階とpH7.20での第二培養段階を含み得;第一培養段階及び第二培養段階におけるpH設定点は、±0.05の不感帯を有し得;pHシフトアップは、第一pHに設定されている設定点についての不感帯を、それが第二pHを包含するように単一ステップで±0.05~±0.25拡大させ(pH7.00±0.05~pH7.00±0.25)、ついでpH設定点を第二pHに上昇させることを含みうる。不感帯は、pH設定点が第二pHに上昇されると同時に、第二pHに設定されたpH設定点について±0.05に復元されうる(pH7.20±0.05)。
図7Aは、この実施態様に係る方法を示す。
【0071】
pHシフトアップは、不感帯を単一ステップで±0.05から±0.25に拡大することを含みうる。pHシフトアップは、±0.01から±0.05まで、±0.05から±0.25まで、±0.05から±0.50まで、又は±0.10から±0.50まで単一ステップで不感帯を拡大することを含みうる。
不感帯は単一ステップで拡大され得、拡大された不感帯は約12、18、24、36、48、60又は72時間、又は少なくとも12、18、24、36、48、60又は72時間、維持されうる。拡大された不感帯は、36~60、40~56又は44~52時間、又は約48時間、維持されうる。拡大された不感帯は、pHが第二pHに達するまで維持されうる。
【0072】
pHシフトアップは、不感帯の徐々の拡大を含みうる。pHシフトアップは、一連の不連続ステップ又は増分で不感帯を繰り返し拡大させることを含みうる。pHシフトアップは、不感帯が第二pHを包含するまで、一連の不連続ステップ又は増分で第一pHに設定されたpH設定点についての初期値から不感帯を繰り返し拡大させ、ついでpH設定点を第二pHに上昇させることを含みうる。不感帯は、pH設定点が第二pHに増加されると同時に、第二pHに設定される設定点についてのその初期値に復元されうる。あるいは、不感帯はその初期値とは異なる値に復元されうる。不感帯は、第一pHを包含しない値に復元されうる。
【0073】
例えば、本方法は、pH7.00での第一培養段階とpH7.20での第二培養段階を含み得;第一培養段階及び第二培養段階におけるpH設定点は、±0.05の不感帯を有し得;pHシフトアップは、第一pHに設定された設定点についての不感帯を±0.05から一連の増分、例えば4つの増分でpH7.20を含む値まで徐々に拡大させることを含みうる。次に、不感帯は、pHが第二pHに増加される同時に、第二pHに設定されたpH設定点について±0.05に復元されうる(pH7.20±0.05)。
図9Aは、この実施態様に係る方法を示す。
【0074】
pHシフトアップは、一連の増分又は不連続ステップで不感帯を拡大することを含みうる。増分は0.05pH単位でありうる。増分、又は不連続ステップは、0.01、0.02、0.03、0.04、又は0.05pH単位であり得、あるいは0.01、0.02、0.03、0.04、又は0.05pH単位未満でありうる。少なくとも2、3、4、又は5の増分がありうる。増分は、互いに同じサイズでも、異なるサイズでもよい。例えば、±0.05の不感帯は、次のように、0.05pH単位の一連の4増分で、±0.25まで拡大されうる:±0.10まで、±0.15まで、±0.20まで、±0.25まで。
【0075】
不感帯は、一連の増分又は不連続ステップで拡大され得、各増分又は不連続ステップは、約12時間、又は少なくとも12時間、維持されうる。各増分又は不連続ステップは、約2、4、6、8、12、18、又は24時間、又は少なくとも2、4、6、8、12、18、又は24時間、維持されうる。増分は、互いに同じ期間、又は異なる期間を有しうる。
【0076】
pHシフトアップは、ある期間にわたる不感帯の連続的な徐々の拡大を含みうる。pHシフトアップは、第一pHに設定されたpH設定点についての初期値から、不感帯が第二pHを包含するまで、不感帯を連続的に拡大させ、次にpH設定点を第二pHまで上昇させることを含みうる。不感帯は、pH設定点が第二pHに上昇されると同時に、第二pHに設定される設定点についてのその初期値に復元されうる。あるいは、不感帯はその初期値とは異なる値に復元されうる。不感帯は、第一pHを包含しない値に復元されうる。
【0077】
例えば、本方法は、pH7.00での第一培養段階とpH7.20での第二培養段階を含み得;第一培養段階と第二培養段階におけるpH設定点は、±0.05の不感帯を有し得;pHシフトアップは、第一pHに設定される設定点についての不感帯を、±0.05からpH7.20を包含する値に連続的に拡大することを含みうる。次に、不感帯は、pHが第二pHに上昇されると同時に、第二pHに設定されたpH設定点についての±0.05に復元されうる(pH7.20±0.05)。
【0078】
不感帯が連続的に拡大される期間は、24~72時間、36~60時間、又は約48時間でありうる。この期間は、少なくとも6、12、24、36、又は48時間でありうる。
ある状況では、不感帯の漸進的な上昇が好ましい場合がある。例えば、技術的な制限により、連続的な上昇でpH設定点を徐々に上昇させるようにバイオリアクターをプログラムできない場合や、技術的な制限により、不感帯を連続的に拡大するようにバイオリアクターをプログラムできない場合などである。
【0079】
pHシフトアップは、設定点の上昇と不感帯の拡大を、上記の任意の作用可能な組み合わせで含みうる。幾つかの状況では、
図2A~9Aに示される実施態様における組み合わせは、例えば、pHの変動(pHの乱れ)を最小限に抑えるために好ましい場合がある。
【0080】
pHはオンライン又はオフラインで測定されうる。ここで検討されるpH値は、特に明記しない限り、オンライン値を意味する。pHは37.0±1.0℃で測定されうる。pHは36.5±1.0℃で測定されうる。pHは、製造用発酵のためのバイオリアクターにおいて使用される温度で測定されうる。オンライン測定の場合、pHはバイオリアクター内のプローブによって測定される。オンライン測定に適したpHプローブには、Mettler-Toledo InProのpHセンサーが含まれる。オフライン測定の場合、例えば温度制御されたサンプル容器内において、pHはバイオリアクターからのサンプルにおいてプローブによって測定される。オフライン測定に適した装置には、Knick Portavo907のpHメーター、pH3310WTW、及びMettler-Toledo InPro Semi-Micro pH電極が含まれる。適切なサンプリング装置には、S-S-MONOVETTE(登録商標)9mL(Sarstedt)が含まれる。
【0081】
オフラインpH測定の手順は次の通りでありうる:測定温度の水浴に又はアルミニウムブロックを浸漬することにより、ベンチトップpH電極を測定温度(例えば、37.0±1.0℃)に予熱する;次に、サンプルを測定温度(例えば、37.0±1.0℃)に加熱し、サンプルが測定温度に到達したら直ぐ(例えば、3分後)pHを測定する;次に、安定したpH値に達するまで待つ(例えば、1分未満);安定なpH値はオフライン測定値として使用される。較正緩衝液、例えばデュラカル緩衝液(Hamilton)を、pH測定装置を較正するために使用することができる。
【0082】
オンライン測定値がオフライン測定値と大幅に異なる場合、オンライン測定値は再校正されうる。例えば、オンライン測定値が0.05pH単位を超えて異なる場合である。再校正手順は、最初のサンプルがオンライン値と0.05pH単位を超えて異なるオフラインpH値を有していると測定された場合、バイオリアクターから第二のサンプルを採取することを含みうる。第二のサンプルもまたオンライン値と0.05pH単位を超えて異なるオフラインpH値を有する場合、オンライン(内部)pHプローブは、オフライン(外部)pHプローブで決定されたpH値に設定することによって再校正される。
【0083】
本発明の方法は、培養培地へのpHシフトアップフィード培地の添加を含みうる。pHシフトアップフィード培地は、培養培地に対してアルカリ性(塩基性)pHを有しうる。あるいは、又は加えて、pHシフトアップフィード培地は、細胞によって代謝されたときに培養培地のpHを上昇させる栄養分などの因子を含みうる。例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸及びアラニンなどの所定のアミノ酸は、細胞によって代謝されてアンモニウムを生じる。pHシフトアップフィード培地は、グルタミン酸、アスパラギン酸及び/又はアラニンを含みうる。
【0084】
あるいは、又は加えて、pHシフトアップは、NaOH、Na2CO3、又はNaHCO3などのアルカリ剤(塩基)を培養培地に添加することを含みうる。アルカリ剤は、塩基、アルカリ、及びアルカリ塩と呼ばれる場合がある。
【0085】
あるいは、又は加えて、pHシフトアップは、細胞培養が培養培地のpHを上昇させる細胞代謝物を蓄積することを可能にすることを含みうる。
あるいは、又は加えて、pHシフトアップは、例えばバイオリアクターからCO2をストリッピングすることにより、培養培地から溶存CO2を除去することを含みうる。バイオリアクターからCO2を取り除くと、溶存CO2が培養培地から排出される。培養培地のpHは溶存CO2と重炭酸塩(HCO3
-)のバランスに依存するため、培養培地からの溶存CO2の除去は、培養培地のpHが変化させうる。
【0086】
pHシフトアップフィード培地の添加及び/又は細胞培養が培養培地のpHを上昇させる代謝物を蓄積することを可能にすることを含む幾つかの実施態様では、本方法は、24時間当たり0.15、0.20、0.25、又は0.5pH単位より速い速度でのpHの上昇を含まない。
pHシフトアップフィード培地の添加及び/又は細胞培養が培養培地のpHを上昇させる代謝物を蓄積することを可能にすることを含む幾つかの実施態様では、本方法は、また、培養培地へのアルカリ試薬(塩基)、例えばNaOH、Na2CO3、NaHCO3の濃溶液の添加を含まない。アルカリ試薬(塩基)の濃溶液は、例えば、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、又は1.0Mを超える濃度を有するものである。pHシフトアップが塩基の濃溶液の添加を含まない方法は、有利には培養浸透圧の増加を最小限に抑えうる。
【0087】
pHシフトアップフィード培地の添加は、単一の工程ステップで細胞培養のフィードと細胞培養のpHの上昇の両方を効率的に可能にするので、本発明の流加法では有利である。所定の期間にわたるpHシフトアップフィード培地の添加はまた所定の期間にわたるpHの漸進的な上昇を促進し、これは、上で検討されたように有利でありうる。
【0088】
本発明の方法は、培養培地に細胞を播種することを含む。細胞を培養培地に播種するとは、一又は複数の細胞又は細胞の集団を無菌培養培地に添加することを意味する。播種はシーディングと呼ばれる場合もある。培養工程の期間とタイミングの文脈では、培養培地への細胞の播種は、工程の0日目を定義する。
【0089】
本発明の方法は、流加法でありうる(Whitford,2006)。流加法は、細胞が培養容器又はバイオリアクターで培養され、培養工程中にバイオリアクターに細胞増殖又は産生物形成に必要な一又は複数の栄養分が添加される細胞培養方法又は発酵方法である。栄養分は培養容器に連続的又は断続的に添加されうる。栄養分はフィード培地の形態で添加されうる。栄養分には、糖及びアミノ酸、並びにビタミン、ヌクレオシド、有機化合物、及び無機金属塩が含まれる。フィード培地は、糖(単糖又は二糖)、アミノ酸、ビタミン、ヌクレオシド、有機化合物、及び無機金属塩を含みうる。細胞は、細胞及び/又は細胞産生物が収集されるまで、細胞培養工程全体を通じてバイオリアクター中に残る。
【0090】
対照的に、バッチ法は、細胞と全ての必要な培養培地成分が発酵工程の初めに培養容器に添加され、その後は栄養分が培養容器に添加されない細胞培養方法である。流加法とは異なり、バッチ法では、培養物へのフィード培地の添加はない。例えば、バッチ法では、糖(例えば、グルコース)の添加も、及び/又はアミノ酸の添加もない。
本発明の流加法は、バッチ法ではない。本発明の流加法は、培養培地への糖の添加を含みうる。本発明の流加法は、培養培地へのフィード培地の添加を含みうる。
【0091】
細胞は培養培地に播種される。培養培地は、市販の培地でありうる。培養培地は化学的に既知組成であり、タンパク質や血清を含まず、例えばCD CHO AGT(商標)培地(Thermo Fisher Scientific,フォーミュラ番号A15649)でありうる。
本発明の流加法では、フィード培地(「フィード1」)が培養培地に添加される。この文脈において、初期培養培地は、流加培養法中にフィード培地が補充される基本培地と呼ばれうる。基本培地は、化学的に既知組成であり、タンパク質や血清を含まず、例えばCD CHO AGT(商標)培地(Thermo Fisher Scientific,フォーミュラ番号A15649)でありうる。基本培地は、供給業者又は製造業者の説明書に従って使用される、カスタム培地を含む、任意の適切な市販培地でありうる。
【0092】
フィード培地は、追加のメチオニン、スレオニン、セリン、チロシン及びグリシンを含みうる。フィード培地は、約0.5g/l~約1.5g/lの範囲の各濃度で、追加のメチオニン、スレオニン、セリン、チロシン及びグリシンを含みうる。
フィード培地は、1日当たりの初期培養重量の約2.0~約3.0重量%の範囲で培養培地に添加されうる。
【0093】
フィード培地は、例えば、フィードベース5培地(Thermo Fisher Scientific,カタログ番号074-91011DW)、フィードベース2培地(Thermo Fisher Scientific,カタログ番号074-91007MV)、フィードベース6培地(Thermo Fisher Scientific,カタログ番号074-91012MW)、最小必須培地ビタミン(MEM100×、Thermo Fisher Scientific,カタログ番号074-91008BX)、CD CHO AGT(商標)培地(Thermo Fisher Scientific,フォーミュラ番号A15649)、及びSPE(Lonza Verviers Sprl,カタログ番号BESP531F)を含むフィード培地でありうる。フィード培地は、特定の比率のフィードベース5培地、フィードベース2培地、フィードベース6培地、最小必須培地ビタミン、SPE及びCD CHO AGT培地を含む培地でありうる。フィード培地は、フィードベース5培地、フィードベース2培地、及びフィードベース6培地を組み合わせてフィード培地を提供することにより調製され得、最小必須培地ビタミン、SPE及びCD CHO AGT培地の何れもまたフィード培地に含めることができる。フィード培地は、供給業者又は製造業者の説明書に従って使用される、カスタム培地を含む、任意の適切な市販培地でありうる。
【0094】
本発明の流加法は、pHシフトアップフィード培地(「フィード2」)の添加を更に含みうる。pHシフトアップフィード培地は、細胞によって代謝されるとpHを上昇させる栄養分を含みうる。pHシフトアップフィード培地は、フィード培地と比較して高レベルのグルタミン酸、アスパラギン酸及び/又はアラニンを含みうる。pHシフトアップフィード培地は、追加のリジン、スレオニン、セリン、バリン、ロイシン及びトリプトファンを含みうる。pHシフトアップフィード培地は、約0.5g/l~約6.0g/lの範囲の各濃度で、追加のリジン、スレオニン、セリン、バリン、ロイシン及びトリプトファンを含みうる。
【0095】
pHシフトアップフィード培地は、例えば、フィードベース8培地(Thermo Fisher Scientific,カタログ番号074-91013RW)及びフィードベース9培地(Thermo Fisher Scientific,カタログ番号074-91014EW)を含むフィード培地でありうる。pHシフトアップフィード培地は、フィードベース8培地とフィードベース9培地を組み合わせてpHシフトアップ培地を提供することにより調製されうる。pHシフトアップ培地は、約10~11のpHを有しうる。フィードベース8培地とフィードベース9培地の相対的な比率は、例えば実験方法の準備デザインにおいて、常套的な手法を使用して、任意の細胞培養において所望されるpHシフトアップを達成する効果について調整され試験されうる。
【0096】
pHシフトアップフィード培地は、培養培地に対して塩基性(アルカリ性)pHを有しうる。pHシフトアップフィード培地は、10.0を超えるpHを有しうる。pHシフトアップ培地は、8.0、9.0、又は10.0を超えるpHを有しうる。pHシフトアップ培地は約8.0~12.0、約10.0~11.0、又は約10~11のpHを有しうる。pHシフトアップフィード培地は約10.0、10.5又は11.0のpHを有しうる。pHシフトアップフィード培地は、約10又は約11のpHを有しうる。
シフトアップフィード培地は、1日当たり約0.5~約1.5重量%の範囲の初期培養重量で培養培地に添加されうる。
【0097】
本発明の流加法は、第一培養段階中に培養培地にフィード培地を添加し、その後、培養培地にpHシフトアップ培地を添加することを含みうる。フィード培地は、以下で検討されるように、所定の日数の後に、pHシフトアップ培地で置換されうる。培養物へのpHシフトアップ培地の添加は、以下で検討されるように、pHシフトアップの数日前に行われうる。
追加のグルコースフィード溶液が、適切なグルコース濃度、例えば≧3g/lを維持するために培養物に添加されうる。
【0098】
以下の実験例は、(pHシフトアップ培地の成分ではなく)本発明に従って実施される方法において有利な効果を引き起こすのは、pHシフトアップ自体であることを証明している。これは、本発明に係る方法の各実施例が、pHシフトアップ培地が発酵槽に添加されるが、pHの如何なる上昇もCO2の添加により抵抗を受ける対照方法と比較されるためである(例えば、実施例1に記載されたプロトコルを参照)。これは、実施例2~9及び実施例10の方法#1において観察された有利な効果が、本発明の方法に係るpHシフトアップに直接起因することを意味する。本発明の方法に係るpHシフトアップは、任意の適切な培養培地を使用して実施されうる。
【0099】
実施例10はまた本発明に係るpHシフトアップ(pHシフトアップの後に第一培養段階よりも高いpHでの第二培養段階が続く、方法#1)が、pHシフトアップがあるが、第一培養段階(細胞が培地に播種された培養段階、又は0日目で始まる培養段階)より高いpHでの培養段階がない方法(方法#2)と比較して有利であることを実証する。
培養工程の期間とタイミングの文脈において、培養培地への細胞の播種は、工程の0日目を定義する。
【0100】
本発明の方法は、3、4、5又は6日の持続期間、又は少なくとも3、4、5又は6日の持続期間を有する第一培養段階を含みうる。第一培養段階は、1、2、4、6、8、12、又は18時間、又は少なくとも1、2、4、6、8、12、又は18時間の持続期間を有しうる。第一培養段階は、3~10日、4~10日、4~8日又は4~6日の持続期間を有しうる。第一培養段階は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日、又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日の持続期間を有しうる。第一培養段階は、細胞培養培地への細胞の播種で始まりうる。哺乳動物細胞がCHO細胞である場合、第一培養段階は6、7、8又は9日の持続期間を有しうる。所定の期間を有する第一培養段階への言及は、培養がその持続期間の間、第一pHにあるか、又はそれに維持されることを特に意味しうる。この文脈において、「維持される」は「連続的に維持される」を意味しうる。すなわち、本発明の方法は、1、2、4、6、8、12、又は18時間の間、又は少なくとも1、2、4、6、8、12、又は18時間の間;あるいは3~10日、4~10日、4~8日、又は4~6日の間;あるいは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日の間、又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日の間、細胞を第一pHで培養し、又は第一pHを維持し、又は第一pHに設定される設定点を維持することを含む第一培養段階を含みうる。
【0101】
本発明の方法は持続性pHシフトアップを含む。持続性pHシフトアップは、所定の持続期間、維持されるpHシフトアップである。例えば、持続性pHシフトアップは、少なくとも1時間、又は第一及び/又は第二培養段階に対する持続期間としてここに開示される持続期間の間、維持されるpHシフトアップでありうる。本発明の方法は、4、5、又は6日又は少なくとも4、5、又は6日の持続期間を有する第二培養段階を含みうる。第二培養段階は、1、2、4、6、8、12、又は18時間、又は少なくとも1、2、4、6、8、12、又は18時間の持続期間を有しうる。第二培養段階は、3~10日、4~10日、4~8日又は4~6日の持続期間を有しうる。第二培養段階は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日、あるいは少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日の持続期間を有しうる。第二培養段階は、工程の終了まで継続しうる。第二培養段階は、細胞及び/又は細胞によって発現された産生物の収集で終了しうる。哺乳動物細胞がCHO細胞である場合、第二培養段階は、6、7、8又は9日の持続期間を有しうる。所定の持続期間を有する第二培養段階への言及は、培養がその持続期間の間、第二pHにあるか又はそれに維持されることを特に意味しうる。この文脈において、「維持される」は「連続的に維持される」を意味しうる。すなわち、本発明の方法は、1、2、4、6、8、12、又は18時間の間、又は少なくとも1、2、4、6、8、12、又は18時間の間;あるいは3~10日、4~10日、4~8日、又は4~6日の間;あるいは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日の間、又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日の間、細胞を第二pHで培養し、又は第二pHを維持し、又は第二pHに設定される設定点を維持することを含む第二培養段階を含みうる。
【0102】
本発明の方法は、哺乳動物細胞を培養するための方法であり得、該方法は、第一培養段階と第二培養段階を含み、第一培養段階は、第一pHであるか又はそれに維持され、第二培養段階は、第一pHよりも高い第二pHにあるか又はそれに維持される。第一培養段階は、哺乳動物細胞を第一pHの培養培地中に播種することを含みうる。本方法は流加法でありうる。本方法は、温度が実質的に一定の値に維持される方法でありうる。本方法は、哺乳動物細胞が抗体を発現することができる方法でありうる。
【0103】
本発明の方法は、pH設定点を使用してpHを制御することを含み得、本方法は、設定点が第一pHに設定される第一培養段階と、設定点が第二pHに設定される第二培養段階とを含む。第一培養段階は、哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種することを含みうる。第一培養段階は、設定点がその持続期間の間、第一pHで維持される、上記のように特定の持続期間を有しうる。第二培養段階は、設定点がその持続期間の間、第二pHで維持される、上記のように特定の持続期間を有しうる。
【0104】
本開示の文脈において、「細胞を培養する」とは、特定の持続期間、特定のpHで細胞を培養することを意味しうる。これは、より具体的には、特定の持続期間、維持される特定のpHで細胞を培養することを意味しうる。これは、特定の持続期間、特定のpH設定点を使用して細胞を培養することを意味しうる。例えば、「第二pHで細胞を培養する」ことを含む第二培養段階への言及は、第二pHに設定された設定点を使用して特定の持続期間、第二pHで細胞を培養することを意味しうる。
【0105】
本発明の方法は、6~8日目(144~192時間)での、又はそこから始まるpHシフトアップを含みうる。本発明の方法は、5~9日目又は4~10日目のpHシフトアップを含みうる。本方法は、4、5、6、7、8、9、又は10日目、又は4、5、6、7、8、9、又は10日目以降にpHシフトアップを含みうる。哺乳動物細胞がCHO細胞である場合、本方法は、6日目(144時間)、156時間、7日目(168時間)、又は8日目(192時間)にpHシフトアップを含みうる。
【0106】
pHシフトアップの最適なタイミングは、一連の準備、実験デザイン、過程において決定されうる。例えば、pHシフトアップのタイミングは、重要な産生物品質パラメーターを望ましい範囲内に保持しながら(例えば、その治療用産生物の承認においてFDA又はEMEAによって指定された特定の範囲内に重要品質特性を維持しながら(以下を参照))、最終産生物の力価を最大化するように選択されうる。pHシフトアップのタイミングは、臨床的用途に適した産生物品質プロファイルで最大の産生物力価を生じるpHシフトアップのタイミングを決定するために一連の準備、実験デザイン、過程において最終産生物の力価を測定することにより、決定されうる。このような場合、産生物の力価と品質は、pHシフトアップのタイミングが変化させられ、pHシフトアップのタイミングが、最大の産生物力価と臨床的用途に適した産生物品質プロファイルを生じる方法を提供するために決定される日に起こるように選択される、一連の準備方法(これは本方法のスケールを縮小したバージョンでありうる)で測定できる。産生物品質プロファイルは、グリコシル化、IECパターン、電気泳動パターン、質量分析、クロマトグラフィー、又はキャリパーデータを測定することによって決定されうる。
【0107】
臨床的用途に適した産生物品質プロファイルは、特定の治療用産生物についてFDA又はEMEAによって承認されたものでありうる。例えば、承認された産生物は、サイズ関連バリアント、電荷関連バリアント、トリスルフィド含有量、Fcグリコシル化、微小不均一性、グリケーション、作用機序関連の生体機能、配列バリアント、細胞年齢に関連する産生物修飾及びプロセス関連の不純物の何れか又は全てに関して所定の特性を有していることが必要とされうる。細胞レベルでの治療用産生物の特定の作用機序(MoA)は、通常十分に記載されている。MoA、非臨床的安全性データ、臨床試験の登録、及び臨床試験結果の初期段階に基づいて、任意の特定の薬物に対する一連の品質パラメーターは明確に定められうる。後期の原薬の製造では、原薬は、望ましい治療効果を達成するために、類似又は同等の品質を維持すべきである。重要な原薬の品質パラメーターは、薬物ごとに異なりうる。これらの品質パラメーターには通常、グリコシル化、グリケーション、アミノ酸誤取り込み、C末端リジン除去、C末端アミド化、システインへの付加、不正確なジスルフィドペアリング、トリスルフィド形成、脱アミド化、スクシンイミド形成、硫酸化、リン酸化、Met/Trp酸化、γ-カルボキシル化、β-ヒドロキシル化などが含まれる。
【0108】
所定の特性は、産生物の安全性又は有効性に影響を与える可能性があるため、製造及び保管時に管理されなければならない重要品質特性(CQA)として分類される。治療用抗体などの治療用タンパク質の製造は、一貫した産生物品質を提供するために、明確化された限界内にCQAの望ましいレベルを管理するように設計されている。
【0109】
ここに開示される方法において、pHシフトアップのタイミング、適切な全工程持続期間、又は収集時間などの変数は、臨床応用のための許容可能な産生物品質プロファイルを伴う最大最終産生物力価の基準によって決定されうる。
【0110】
本発明の流加法は、フィード培地を培養物に添加することを含みうる。フィード培地は、1~3日目に添加されうる。フィード培地は、1~3日目、1~4日目、1~5日目、又は1~6日目に添加されうる。図中、フィード培地は「フィード-1」と記載される。
【0111】
本発明の流加法は、pHシフトアップフィード培地を培養物に加えることを含みうる。pHシフトアップフィード培地は4~14日目に添加されうる。pHシフトアップフィード培地は、工程の4、5、6、又は7日目とその後の各日に添加されうる。フィード培地は、工程の4日目、5日目、6日目、又は7日目以降に、pHシフトアップフィード培地で置き換えることができる。図中、pHシフトアップフィード培地は「フィード-2」と記載される。pHシフトアップフィード培地は、例えば、細胞によって産生される酸性代謝物を中和することによって、細胞培養培地のpHのシフトダウンを防止しうる。あるいは、pHシフトアップフィード培地は、細胞培養培地のpHを上昇させうる。
【0112】
本発明の流加法は、適切なグルコース濃度を維持するために、pHシフトアップ培地が培養物に添加される日に、培養物にグルコース溶液を補充することを含みうる。
【0113】
本発明の方法は、少なくとも6日、又は少なくとも7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18日の持続期間を有しうる。全持続期間は、播種の日(0日目)から細胞及び/又は細胞によって発現された産生物の収集の日までの持続期間でありうる。哺乳動物細胞がCHO細胞である場合、本方法は14日の持続期間を有しうる。工程の合計日数は、「実行期間(ランタイム)」とも呼ばれる。本方法の実行期間は、最大産生物力価、又は産生物品質プロファイルが一定の最大産生物力価に対して選択されうる。産生物品質プロファイルは、臨床応用のために予め定義されうる。産生物品質プロファイルは、グリコシル化、及び/又はイオン交換クロマトグラフィー(IEC)パターンを測定することによって決定されうる。
【0114】
第一培養段階は、1~5、1~4又は1~3日の持続期間を有しうる。pHシフトアップは、約10又は30分、又は約1、2、3、4、5、6、7、8、12、24、36、48、52、又は60時間の持続期間を有し得、又は約2~72、2~60、2~52、2~48、8~52、12~52、12~48、24~52又は24~48時間の持続期間を有しうる。pHシフトアップは、少なくとも約10又は30分、又は少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、12、24、36、48、52、又は60時間の持続期間を有し得、又は少なくとも約2~72、2~60、2~52、2~48、8~52、12~52、12~48、24~52又は24~48時間の持続期間を有しうる。第二培養段階は、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14日、又は約4~14、5~14、6~14、7~14、又は8~14日の持続期間を有しうる。
【0115】
本方法は、収集工程を含みうる。収集工程では、細胞及び/又は産生物が収集される。収集工程は本方法を終結させる。収集工程は、10~18日目、例えば14日目でありうる。
【0116】
収集工程のタイミングは、細胞生存率を毎日測定することによって決定されうる。収集工程は、細胞生存率が85%、80%、75%又は70%未満となる工程の最初の日に実施されうる。
【0117】
本発明の方法における収集工程のタイミングは、対照方法における乳酸の蓄積を測定することにより決定されうる。対照方法は、第一pHが工程全体にわたって(第一及び第二培養段階の両方を通じて)維持されることを除いて、本発明の方法と同一である。乳酸は、対照方法において毎日測定される。収集工程は、乳酸の少なくとも4日、少なくとも5日、又は少なくとも6日連続の増加が測定された後の対照方法の第二培養段階の最初の日に対応する日数で実施されうる。本発明の方法において、前日と比較して乳酸の増加が測定されない日にのみ収集工程が実施されうるという追加の基準が適用されうる。
【0118】
収集工程のタイミングは、産生物力価を測定することによって決定されうる。収集工程のタイミングは、どのタイミングが臨床応用に適した産生物品質プロファイルを備えた最高の産生物力価をもたらすかを決定するために一連の準備、実験デザイン、過程において最終産生物力価を測定することによって決定されうる。そのような場合、産生物力価及び品質は、準備過程(本発明の方法の縮小バージョンである場合もあれば、本発明の方法と同一である場合もある)において毎日測定することができ、収集工程は臨床応用に適した産生物品質プロファイルを備えた最高の産生物力価の日に行われるように選択されうる。
【0119】
収集工程のタイミングは、産生物品質を測定することにより決定されうる。産生物品質は、グリコシル化(例えば、ガラクトシル化、高マンノース構造)の点から、又はそれを超えると産生物が最適ではない閾値を有するインビトロ又はインビボ活性の点から、測定できる。そのような場合、産生物品質は、準備過程(本発明の方法の縮小バージョンである場合もあれば、本発明の方法と同一である場合もある)において毎日測定することができ、収集工程は、産生物品質が準備過程において最適ではないと決定された日の前日に行われる。
【0120】
本発明の方法の温度は、実質的に一定の値に維持されうる。
温度が実質的に一定の値に維持されている場合、有意な温度シフトはない。有意な温度シフトは、約0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、4.0、又は5.0℃以上のシフトとして定義されうる。実質的に一定の値は、目標値の±0.1℃、±0.2℃、±0.3℃、±0.4℃、±0.5℃、±1.0℃、±1.5℃、又は±2.0℃以内でありうる。目標値は35.0、35.5、36.0、36.5、37.0、又は37.5℃でありうる。
【0121】
実質的に一定の値の温度は、36.0~37.0℃でありうる。すなわち、温度は36.0℃と37.0℃の値の間に維持されうる。同様に、実質的に一定の値の温度は、36.4~36.6℃でありうる。実質的に一定の値の温度は、36.5℃でありうる。温度は、バイオリアクターのオンライン温度センサーを使用して測定されうる。
【0122】
本方法の温度を実質的に一定の値に維持することは、本方法中の有意な温度シフトによって引き起こされる問題を有利に回避することができる。組換えタンパク質の産生のための細胞培養方法における温度の低下は、産生物品質に望ましくない変化(例えば、グリコシル化の変化)を引き起こし得、又は細胞生産性の損失を引き起こしうる。温度の低下は、細胞生産性の指標であり、従って最終産生物力価と一般的に相関する積分生細胞密度を低下させうる。
【0123】
哺乳動物細胞は組換え細胞でありうる。組換え細胞は、異種タンパク質をコードする核酸配列を含みうる。哺乳動物細胞はCHO細胞、より具体的には組換えCHO細胞でありうる。哺乳動物細胞はCHO K1でありうる。哺乳動物細胞はCHO K1SVでありうる。哺乳動物細胞は、BHK細胞、より具体的には組換えBHK細胞でありうる。哺乳動物細胞は、BHK-21細胞でありうる。哺乳動物細胞は、PER.C6細胞でありうる。哺乳動物細胞は、骨髄腫細胞株に由来しうる。哺乳動物細胞は、HEK293及びその派生体並びにPER.C6などのヒト細胞株でありうる。哺乳動物細胞は、抗体を発現することができる可能性がある。哺乳動物細胞は、抗体をコードする核酸を含みうる。抗体をコードする核酸は、構成的プロモーター又は誘導性プロモーターに作用可能に連結されうる。抗体は、多重特異性抗体、抗体断片、多重特異性機能を有する抗体断片、融合抗体、又は融合抗体断片でありうる。抗体はモノクローナル抗体でありうる。抗体は治療用抗体でありうる。抗体は二重特異性抗体でありうる。抗体はヒト化抗体でありうる。抗体は抗Ang2/VEGF-CrossMab(Schaefer 2011;Fenn 2013)でありうる。
【0124】
本方法は、哺乳動物細胞によって発現される産生物を産生するための方法でありうる。
【0125】
哺乳動物細胞は、産生物を発現するように操作されうる。細胞を遺伝子操作して目的のタンパク質を発現させるための発現系、方法、及びベクターは、当業者によく知られている;例えば、Sambrook等, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 3版(2001)に様々な技術が例証されている。哺乳動物細胞は、GS遺伝子発現系(Lonza Biologics plc,Slough UK)を使用して産生物を発現するように操作されうる。
【0126】
産生物は組換えタンパク質でありうる。産生物は抗体でありうる。抗体は、多重特異性抗体、抗体断片、多重特異性機能を有する抗体断片、融合抗体、又は融合抗体断片でありうる。抗体はモノクローナル抗体でありうる。抗体は治療用抗体でありうる。抗体は二重特異性抗体でありうる。抗体は、CrossMAb抗体などの二価の二重特異性抗体でありうる(Schaefer等,2011;Fenn等,2013)。抗体は、抗体の生物学的に機能的な断片でありうる。抗体断片には、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、dAb、相補性決定領域(CDR)断片、線状抗体、単鎖抗体分子、ミニボディ、ダイアボディ、及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。
【0127】
産生物は、Ang2とVEGFに結合する二価の二重特異性抗体でありうる。産生物は、Ang2とVEGFに結合する二価の二重特異性CrossMab抗体でありうる。産生物は、抗体抗Ang2/VEGF-CrossMabでありうる(Schaefer等 2011;Fenn等 2013)。産生物はバヌシズマブであり得、すなわち、産生物は、INNバヌシズマブを有する抗体抗Ang2/VEGF-CrossMabでありうる。産生物は、国際公開第2011/117329号に記載されている抗Ang2/VEGF-CrossMab抗体であり得、又は国際公開第2011/117329号に記載されている抗Ang2/VEGF-CrossMabの第一及び第二抗原結合部位の、重鎖及び軽鎖CDRアミノ酸配列を有するか、又はVH及びVLドメインアミノ酸配列を有する抗体、又は国際公開第2011/117329号に記載されている抗Ang2/VEGF-CrossMabの断片でありうる。産生物は、バヌシズマブの第一及び第二抗原結合部位の、重鎖及び軽鎖CDRアミノ酸配列を有するか、又はVH及びVLドメインアミノ酸配列を有する抗体、又はバヌシズマブの治療的に活性な断片でありうる。産生物は、CSF-1Rに結合するモノクローナル抗体でありうる。産生物は、INNエマクツズマブを有する抗CSF-1R抗体でありうる。産生物は、国際公開第2011/070024号に記載されている抗CSF-1R抗体であり得、又は国際公開第2011/070024号に記載されている抗体の(又はエマクツズマブの)、重鎖及び軽鎖CDR配列、又はVH及びVLドメインアミノ酸配列を有する抗体、又は国際公開第2011/070024号に記載されている抗CSF-1R抗体の(又はエマクツズマブの)断片でありうる。あるいは、産生物は治療用タンパク質、ペプチド又は酵素でありうる。産生物は、組換えヒトグルクロニダーゼ、組換えヒト酸性αグルコシダーゼ、又は組換えヒトインスリンでありうる。本方法は、抗TNFα抗体ではない抗体を産生するための方法でありうるか、又は抗TNGα抗体を産生するための方法ではない方法でありうる。
【0128】
治療用抗体には、抗VEGF抗体抗;抗Ang2抗体;抗CSF-1R抗体;抗HER2抗体 抗CD20抗体;抗IL-8抗体;抗CD40抗体、抗CD11a抗体;抗CD11b抗体;抗CD11c抗体;抗CD18抗体;抗lgE抗体;抗Apo-2受容体抗体;抗Apo2:/TRAIL抗体;抗組織因子(TF)抗体;抗ヒトα4β7インテグリン抗体;抗EGFR抗体;抗CD3抗体;抗CD25抗体;抗CD4抗体;抗CD52抗体;抗Fc受容体抗体;抗癌胎児抗原(CEA)抗体;乳房上皮細胞に対する抗体;大腸癌細胞に結合する抗体;抗CD38抗体;抗CD33抗体;抗CD22抗体;抗EpCAM抗体;抗Gpllb/IIIa抗体;抗RSV抗体;抗CMV抗体;抗HIV抗体;抗肝炎抗体;抗CA125抗体;抗αvβ3抗体;抗ヒト腎細胞癌抗体;抗ヒト17-1A抗体;抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体;GD3ガングリオシドに対する抗ヒト黒色腫抗体R24;抗ヒト扁平上皮癌;及び抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体、抗HLA DR抗体;抗IgE抗体;抗HER3抗体;抗HER4抗体;抗DR5抗体;抗ICAM抗体;抗VLA-4抗体;抗VCAM抗体、及び抗IL17A抗体が含まれるが、これらに限定されない。
産生物は、Epo-Fcではないタンパク質又は抗体でありうる。
【0129】
本発明の方法は、産生物を単離するか、又は産生物を精製する工程を更に含みうる。産生物を単離し又は精製する工程は、イオン交換クロマトグラフィーを含みうる。産生物を単離し又は精製する工程は、産生物を含む組成物をイオン交換クロマトグラフィー材料上にロードし、場合によってはイオン交換クロマトグラフィー材料を洗浄し、及び産生物をイオン交換クロマトグラフィー材料から溶出させることを含みうる。産生物を含む組成物は、細胞培養物からの培養培地を含み得、及び/又は溶解した哺乳動物細胞でありうる哺乳動物細胞を含みうる。産生物を単離し又は精製する方法は、産生物を含む組成物を調製する工程を含みうる。産生物を含む組成物を調製する工程は、細胞を収集し、及び/又は細胞を溶解し、及び/又は細胞培養培地を収集することを含みうる。産生物を含む組成物を調製する工程は、プロテインAクロマトグラフィーを含みうる。組成物を調製する工程は、産生物を凍結乾燥することを含みうる。組成物を調製する工程は、薬学的に許容される担体(例えば、生理食塩水)中に産生物を処方し、及び/又は一又は複数の薬学的賦形剤を含む溶液中に産生物を処方することを含みうる。
【0130】
本発明は本発明の方法により産生された産生物及び組成物を更に提供する。
本発明の方法は、乳酸及びアンモニウムなどの望ましくない代謝物の過剰な蓄積を回避しうる。本発明の方法は、中程度のpCO2レベル及び/又はより低い培養浸透圧の維持を改善しうる。
【0131】
本発明の方法は、対照方法に対して改善されたパラメーターを有する方法であり得、ここで、対照方法は、第一pHが本方法全体にわたって(第一及び第二培養段階の両方を通して)維持されることを除いて、本発明の方法と同一である。例えば、対照方法は、第一培養段階のpHが7.00であり、第二培養段階のpHが7.00である方法でありうる。
【0132】
パラメーターは、収集工程で、又は収集工程の日に決定されうる。哺乳動物細胞がCHO細胞である場合、パラメーターは14日目に決定されうる。
本発明の方法は、細胞生存率が対照方法よりも少なくとも10%、15%又は20%高い方法でありうる。
本発明の方法は、乳酸レベルが対照方法よりも少なくとも10%、20%、30%、40%、又は50%低い方法でありうる。
本発明の方法は、アンモニウムレベルが対照方法よりも少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%又は80%低い方法でありうる。
本発明の方法は、産生物力価が対照方法よりも少なくとも5%、10%又は15%高い方法でありうる。
本発明の方法は、浸透圧が対照方法より少なくとも5%低い方法でありうる。本発明の方法は、浸透圧が収集工程で500Osm/kg未満である方法でありうる。
本発明の方法は、実施例2~9と添付図によって示されるように、(実施例1におけるように)本方法全体を通してpHが同じ値に維持される方法と比較して改善される。
【0133】
本発明の方法は、実施例10の方法#1及び#2によって示されるように、初期値からのpHシフトダウンとその後の初期値へのpHシフトアップを含む方法と比較してまた改善される。初期値からのpHシフトダウンとその後の初期値へのpHシフトアップを含む方法は、米国特許第8765413号に開示されている。
【0134】
本発明は、哺乳動物細胞培養物の寿命を延ばす方法であって、上記の本発明の方法を含む方法を更に提供する。本発明は、哺乳動物細胞培養における細胞生存率を増加させる方法であって、上記の本発明の方法を含む方法を提供する。本発明は、哺乳動物細胞培養において積分生細胞密度(IVCD)を増加させる方法であって、上記の本発明の方法を含む方法を提供する。本発明は、哺乳動物細胞培養物における乳酸蓄積を低下させる方法であって、上記の本発明の方法を含む方法を提供する。本発明は、哺乳動物細胞培養物におけるアンモニウム蓄積を低下させる方法であって、上記の本発明の方法を含む方法を提供する。本発明は、哺乳動物細胞培養においてpCO2プロファイルを改善する方法であって、上記の本発明の方法を含む方法を提供する。本発明は、哺乳動物細胞培養において浸透圧を低下させる方法であって、上に開示された本発明の方法を含む方法を提供する。
【0135】
本発明は、上で開示された本発明の方法又はプロセスを実施することにより、哺乳動物細胞培養物の寿命を延ばすため;哺乳動物細胞培養における細胞生存率を増加させるため;哺乳動物細胞培養におけるIVCDを増加させるため;哺乳動物細胞培養における乳酸蓄積を低下させるため;哺乳動物細胞培養におけるアンモニウム蓄積を低下させるため;哺乳動物細胞培養におけるpCO2プロファイルを改善するため;又は哺乳動物細胞培養における浸透圧を低下させるための、pHシフトアップフィード培地、又はpH上昇剤(例えば、アルカリ剤、又は塩基)の使用を更に提供する。本方法は、pHシフトアップ培地又はpH上昇剤を哺乳動物細胞培養物に添加して、pHを第一pHから第二pHに上昇させることを含む。すなわち、本発明が特定の目的を達成するためのpHシフトアップ培地又はpH上昇剤の使用である場合、その使用は、哺乳動物細胞培養の培養培地にpHシフトアップ培地又はpH上昇剤を添加して、第一培養段階と第二培養段階の間に生じるpHシフトアップを行うことを含む。本発明は、哺乳動物細胞培養における産生物力価を増加させるための、pHシフトアップフィード培地、又はpH上昇剤(例えば、アルカリ剤、又は塩基)の使用を更に提供する。例えば、本発明は、ここに開示される哺乳動物細胞を培養するための方法において産生物力価を増加させるためのpH上昇剤の使用を提供し、ここで、産生物は、哺乳動物細胞によって発現され、例えば抗体などの組換えタンパク質である。産生物力価の増加は、哺乳動物細胞培養物にpH上昇剤が添加されない哺乳動物細胞培養物に対するものである。本発明は、ここに開示される産生物(組換えタンパク質産生物など)を産生するための方法における産生物力価を増加させるためのpH上昇剤の使用を提供する。第二の態様では、本発明は、哺乳動物細胞を培養するための方法であって、第一pHで細胞を培養することを含む第一培養段階と、第二pHで細胞を培養することを含み、第二pHが第一pHよりも高い第二培養段階とを含み、方法の温度が実質的に一定の値に維持される方法を提供する。
【0136】
第三の態様では、本発明は、哺乳動物細胞が抗体を発現することができる哺乳動物細胞を培養する方法であって、第一pHで培養培地中に哺乳動物細胞を播種し、細胞を第1pHで培養することを含む第一培養段階と、第一pHよりも高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階とを含む方法を提供する。
本発明の第二及び第三の態様は、本発明の第一の態様に関連して上で検討された本発明の方法の特徴の何れも含みうる。
【0137】
上記の実施態様のありとあらゆる互換性のある組み合わせは、そのような組み合わせが明らかに許容されないか又は明示的に回避される場合を除いて、ありとあらゆる組み合わせが個別にかつ明示的に記載されたかのように、ここで明示的に開示される。
ここで使用されているセクションの見出しは、整理を目的としたものであり、記載されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
本発明の様々な更なる態様及び実施態様は、本開示を考慮すれば当業者には明らかであろう。
【0138】
以下の特許請求の範囲を含む本明細書全体を通して、文脈が他の定義を必要としない限り、「含む(comprise)」という語、及び「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形語は、記載された整数又は工程あるいは整数又は工程の群の包含を意味し、任意の他の整数又は工程あるいは整数又は工程の群の除外を意味するものではないことが理解される。「及び/又は」は、ここで使用される場合、他のものの有無を問わず、二つの特定された特徴又は構成要素のそれぞれの特定の開示として解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、あたかもそれぞれがここで個別に記載されているかのように、(i)A、(ii)B及び(iii)A及びBのそれぞれの特定の開示とみなされるべきである。
【0139】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他の定義を指し示していない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。範囲は、「約」一特定値のから、及び/又は「約」別の特定値までとしてここでは表されうる。そのような範囲が表される場合、別の実施態様は、ある特定の値から及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、先行詞「約」を使用することにより、値が近似値として表される場合、特定の値が別の実施態様を形成することが理解される。例えば、約7.2のpHは、7.2のpHでありうる。
「約」所定の数値であるpH値は、それが表される精度の程度に従って解釈されうる。例えば、「約7.0」のpHは、pH6.95~7.05を意味し得、「約10」のpHは、pH9.5~10.5を意味しうる。
pHスケールで相対的に高いpH値は相対的にアルカリ性で、相対的に低いpH値は相対的に酸性である。従って、本開示の文脈におけるより高いpHは、よりアルカリ性のpHを指す。
【0140】
文脈が他の内容を指し示さない限り、上記の特徴の説明及び定義は、本発明の如何なる特定の態様又は実施態様にも限定されず、説明される全ての態様及び実施態様に等しく適用される。
次に、本発明の所定の態様及び実施態様を、実施例によって、上記の図を参照して例証する。実施例は、この発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。実施例は例示の目的で含められており、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。更なる態様及び実施態様は、当業者には明らかであろう。この明細書において言及されている全ての文書は、出典明示によりここに援用される。
【実施例】
【0141】
行った実験と達成した結果を含む次の実施例は、例証のみを目的として提供されており、全ての可能な実施態様を、特許請求の範囲により権利が与えられる均等物の全範囲と共に含んでいると解釈されなければならない。
【0142】
[細胞株、培養培地、及び培養方法]
次の実施例の全てにおいて、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1SVを宿主細胞株として使用した(GS遺伝子発現系,Lonza Brochures,Lonza Biologics plc,Slough UK)。GS発現ベクター系はLonza Biologicsから提供された。実施例1~9及び11において、一方の腕でVEGF-Aを、他方でAng2を認識する(Schaefer等,2011;Fenn等,2013)二重特異性モノクローナル抗体である抗Ang2/VEGF-CrossMab(抗A2V;バヌシズマブ、又はRG7221;国際公開第2011/117329号に記載)を発現するように、CHO K1SV細胞を操作した。実施例10において、CSF-1受容体(CSF-1R)活性化を阻害する(Ries等,2014)ヒト化モノクローナル抗体(抗CSF-1R;エマクツズマブ、又はRG7155;国際公開第2011/070024号に記載)を発現するように、CHO K1SV細胞を操作した。コロニー刺激因子1(CSF-1)とその受容体であるCSF-1Rは、マクロファージとその前駆体の移動、分化、生存を調節する(Hume及びMacDonald,2012)。
【0143】
全ての場合において、市販されている無血清の既知組成のCD CHO AGT(商標)培地基本培地(Thermo Fisher Scientific,フォーミュラ番号A15649)を使用して、CHO K1SV細胞を培養した。解凍後、細胞をこの培地中において50μMのメチオニンスルホキシミン(MSX;Bedford Laboratories,Bedford,Ohio)の存在下で3~4日のスケジュールで振盪フラスコ中で継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuehner AG,Birsfelden,Basel,Switzerland)を使用して125mL及び500mLフラスコに対して、36.5℃、7%CO2、及び160rpmであった。
【0144】
培養細胞を使用して、MSXなしで約3.0×105細胞/mLでN-1工程の播種を行った。製造用バイオリアクターに、MSXなしで約6.0×105細胞/mLで播種した。細胞は、予め定められたpH、溶存酸素、温度及び栄養分供給戦略での流加培養条件下、製造用バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、初期培養容量が1.2Lの2Lバイオリアクターを用いた。
【0145】
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌速度を約213rpmに設定した。空気、CO2、及びO2を含むガス混合物を提供した。溶存二酸化炭素濃度(dCO2)を1日1回オフラインで測定した。溶存酸素濃度(DO)はオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変えることにより25%に調整した。特に断りのない限り、CO2又は1.0MのNaHCO3を添加することにより、pHを定められた設定点又は定められた不感帯内に維持した。
【0146】
フィード培地(図では「フィード-1」と記載)とpHシフトアップフィード培地(図では「フィード-2」と記載)には、グルコース、グルタミン、アミノ酸、増殖因子、ヌクレオシド、ビタミン、微量元素、及び塩の組み合わせを含めた。
【0147】
フィード培地には、フィードベース5培地(カタログ番号074-91011DW)、フィードベース2培地(カタログ番号074-91007MV)、フィードベース6培地(カタログ番号074-91012MW)、最小必須培地ビタミン(MEM 100×,カタログ番号074-91008BX)、CD CHO AGT(商標)培地(フォーミュラ番号A15649)、及びSPE(Lonza Verviers Sprl,カタログ番号BESP531F)を含めた。
【0148】
pHシフトアップフィード培地には、フィードベース8培地(カタログ番号074-91013RW)及びフィードベース9培地(カタログ番号074-91014EW)を含めた。
【0149】
フィード培地とpHシフトアップ培地の処方は、Lonza Verviers Sprlから入手できる。
オフライン分析のために、約10mlのサンプルをシリンジで毎日採取した。典型的には、製造期間は約14日続いた。
【0150】
[細胞分析とオフライン測定]
細胞濃度と生存率は、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH,Germany)を使用してトリパンブルー排除法によって測定した。オフライン測定は、グルコース、グルタミン、グルタミン酸、乳酸、アンモニウム、及び産生物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400プラス(Roche Diagnostics GmbH,Germany)で実施した。
溶存二酸化炭素及び酸素は、Cobas b221アナライザー(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz, Switzerland)で分析した。浸透圧は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH,Berlin,Germany)での凝固点降下によって測定した。
【0151】
実施例1:対照方法-全体を通して同一のPH(一定のpH設定点)
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00の一定pH設定点で、開始した。つまり、上で検討したように、培養培地(CD CHO培地AGT(商標)培地)に約6.0×105細胞/mLを播種して工程を開始した(0日目)。
【0152】
フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0153】
オンラインpH設定点は7.00±0.05で、二酸化炭素ガス注入を使用するか、又は1Mの炭酸ナトリウムを追加することで維持した。オフラインpH測定値がオンライン測定値から0.05pH単位以上ずれている場合、オンラインpH測定値をオフラインpH測定値と等しくなるように再校正した。
【0154】
培養物から工程サンプルを毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
図1は、培養方法のpH設定点と不感帯設定、及びフィードスケジュールを示している。
【0155】
実施例2:pH勾配(144時間と192時間の間でΔ0.20)
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0156】
図2Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約144時間から開始して、pH設定点を、約48時間の期間にわたって、pH勾配で7.00から7.20に徐々に上昇するように設定した。約192時間で、pH設定点はpH7.20±0.05に達し、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0157】
図2B-Gは、
図2A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
図2Bは、14日間の製造工程の最後に、pH勾配を伴う方法(144~192時間の間でΔpH0.20単位)での細胞生存率が、そのようなpH勾配を伴わない方法よりも高かったことを示している。
図2Cは、pH勾配を伴う方法では、乳酸レベルが4~5日目の間に約88%の高い値に達した後、約72%に低下し、そこで工程の最後まで維持されることを示している。工程の最後に、pH勾配を伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpH勾配の設定で生成される。
図2Dは、アンモニウムレベルが約100時間で約80%の高い値に達した後、約20%まで低下し、そこで工程の最後まで維持されることを示している。pH勾配を伴わない方法と比較して、pH勾配の設定では更に少ない量のアンモニウムが生成される。
図2Eは、工程の最後に、pH勾配を伴う方法での産生物力価が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも高いことを示している。
図2Fは、pH勾配を伴う方法では、pCO
2レベルが適度に増加したが、工程の終了まで約18%未満に維持されていたことを示している。対照的に、pH勾配を伴わない方法では、特に160~320時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図2Gは、工程の最後に、pH勾配を伴う方法での培養浸透圧が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0158】
実施例3:pH勾配(156時間と208時間の間でΔ0.20)
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目の間に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0159】
図3Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約156時間から開始して、pH設定点を、約52時間の期間にわたって、pH勾配で7.00から7.20に徐々に上昇するように設定した。約208時間で、pH設定点はpH7.20±0.05に達し、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0160】
図3B-Gは、
図3A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0161】
図3Bは、14日間の製造工程の最後に、pH勾配を伴う方法(156~208時間の間でΔpH0.20単位)での細胞生存率が、pH勾配を伴わない方法よりも高かったことを示している。
図3Cは、pH勾配を伴う方法では、乳酸レベルが約140時間で約88%の高い値に達した後、約70%に低下し、そこで工程の最後まで維持されることを示している。工程の最後に、pH勾配を伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpH勾配の設定で生成される。
図3Dは、アンモニウムレベルが約110時間で約100%の高い値に達した後、約20%まで低下し、そこで工程の最後まで維持されることを示している。pH勾配を伴わない方法と比較して、pH勾配の設定では更に少ない量のアンモニウムが生成される。
図3Eは、工程の最後に、pH勾配を伴う方法での産生物力価が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも高いことを示している。
図3Fは、pH勾配を伴う方法では、pCO
2レベルが適度に増加したが、工程の終了まで約19%以下に維持されていたことを示している。対照的に、pH勾配を伴わない方法では、特に160~320時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図3Gは、工程の最後に、pH勾配を伴う方法での培養浸透圧が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0162】
実施例4:pH勾配(192時間と240時間の間でΔ0.30)
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0163】
図4Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約192時間から開始して、pH設定点は、約48時間の期間にわたって、pH勾配で7.00から7.30に徐々に上昇するように設定した。約240時間で、pH設定点はpH7.30±0.05に達し、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0164】
図4B-Gは、
図4A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0165】
図4Bは、14日間の製造工程の最後に、pH勾配を伴う方法(192~240時間の間でΔpH0.30単位)での細胞生存率が、pH勾配を伴わない方法よりも高いことを示している。
図4Cは、pH勾配を伴う方法では、乳酸レベルが約140時間で約90%の高い値に達した後、約60%に低下し、その後、工程の終わりの90%未満まで徐々に上昇することを示している。工程の最後に、pH勾配を伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpH勾配の設定で生成される。
図4Dは、pH勾配を伴う方法においてアンモニウムレベルが約110時間で約97%の高い値に達した後、約28%まで急に低下し、その後、工程の終わりに約15%の低レベルまで低下し続けることを示している。pH勾配を伴わない方法と比較して、pH勾配の設定では更に少ない量のアンモニウムが生成される。
図4Eは、工程の最後に、pH勾配を伴う方法での産生物力価が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも高いことを示している。
図4Fは、pH勾配を伴う方法では、pCO
2レベルが約200時間で約24%まで穏やかに増加した後、工程の終了までに約15%未満まで低下したことを示している。対照的に、pH勾配を伴わない方法では、特に160~320時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図4Gは、工程の最後に、pH勾配(192時間と240時間の間でΔpH0.30単位)を伴う方法での培養浸透圧が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0166】
実施例5:pH勾配(192時間と240時間の間でΔ0.10)
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0167】
図5Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約192時間から開始して、pH設定点は、約48時間の期間にわたって、pH勾配で7.00から7.30に徐々に上昇するように設定した。約240時間で、pH設定点はpH7.30±0.05に達し、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0168】
図5B-Gは、
図5A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0169】
図5Bは、14日間の製造工程の最後に、pH勾配を伴う方法(192~240時間でΔpH0.10単位)での細胞生存率が、pH勾配を伴わない方法よりも高かったことを示している。
図5Cは、pH勾配を伴う方法では、乳酸レベルが約110時間で約90%の高い値に達した後、約55%に低下し、プロセスの終わりに80%未満まで徐々に上昇することを示している。工程の最後に、pH勾配を伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpH勾配の設定で生成される。
図5Dは、pH勾配を伴う方法においてアンモニウムレベルが約110時間で約97%の高い値に達した後、約27%まで急に低下し、工程の最後に約42%の低レベルまで増加することを示している。pH勾配を伴わない方法と比較して、pH勾配の設定では更に少ない量のアンモニウムが生成される。
図5Eは、工程の最後に、pH勾配を伴う方法での産生物力価が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも高いことを示している。
図5Fは、pH勾配を伴う方法では、pCO
2レベルが約200時間で中程度の約26%まで増加した後、工程の終了までに約20%未満に低下したことを示している。対照的に、pH勾配を伴わない方法では、特に160~320時間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図5Gは、工程の最後に、pH勾配(192時間と240時間の間でΔpH0.10単位)のある方法での培養浸透圧が、pH勾配を伴わない方法におけるよりも僅かに高いことを示している。
【0170】
実施例6:即時のpHシフトアップ(144時間にΔ0.20)
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0171】
図6Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約144時間で、pH設定点を、単一のステップで、pH±0.05の同じ不感帯で7.00から7.20に上昇させ、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0172】
図6B-Gは、
図6A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0173】
図6Bは、14日間の製造工程の最後に、即時のpHシフトアップを伴う方法(144時間にΔpH0.20単位)における細胞生存率が、pHシフトアップを伴わない方法における細胞生存率に匹敵することを示している。
図6Cは、即時のpHシフトアップを伴う方法では、乳酸レベルが約200時間で約78%の高い値に達した後、工程の終わりに40%未満まで徐々に低下することを示している。工程の最後に、pHシフトアップを伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸が即時のpHシフトアップの設定で生成される。
図6Dは、即時のpHシフトアップを伴う方法においてアンモニウムレベルが約110時間で約90%の高い値に達し、ついで約20%まで急に低下した後、工程の最後までこの低レベルに維持されることを示している。pHシフトアップを伴わない方法と比較して、即時のpHシフトアップの設定では少ない量のアンモニウムが生成される。
図6Eは、工程の最後に、即時のpHシフトアップを伴う方法での産生物力価が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも高いことを示している。
図6Fは、即時のpHシフトアップを伴う方法では、工程の終了までにpCO
2レベルが次第に穏やかに増加して約26%になることを示している。対照的に、pHシフトアップを伴わない方法では、特に160~320時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図6Gは、工程の最後に、即時のpHシフトアップを伴う方法での培養浸透圧が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりもほんの僅かに高いことを示している。
【0174】
実施例7:pH不感帯拡大を通してのpHシフトアップ
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0175】
図7Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約144時間で、pH設定点は7.00のままで、pH不感帯を±0.05から±0.25に拡大した。約192時間で、pH設定点を7.00から7.20に上昇させ、不感帯を±0.05に戻した。pH設定点は、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0176】
図7B-Gは、
図7A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0177】
図7Bは、14日間の製造工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法(144時間と192時間の間でpH不感帯を拡大することによるΔpH0.20単位)における細胞生存率が、pHシフトアップを伴わない方法における細胞生存率よりも高いことを示している。
図7Cは、pHシフトアップを伴う方法では、乳酸レベルが約240時間で約70%の高い値に達した後、工程の終わりに45%まで徐々に低下することを示している。工程の最後に、pHシフトアップを伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpHシフトアップの設定で生成される。
図7Dは、pHシフトアップを伴う方法においてアンモニウムレベルが約110時間で約90%の高い値に達し、ついで約22%まで急に低下した後、工程の最後まで22~32%の間に維持されることを示している。pHシフトアップを伴わない方法と比較して、pHシフトアップの設定では少ない量のアンモニウムが生成される。
図7Eは、工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法における産生物力価が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも少なくとも10%高いことを示している。
図7Fは、pHシフトアップを伴う方法では、pCO
2レベルが約140時間で約16%まで徐々に増加し、その後、工程の終了までこのレベルに維持されることを示している。対照的に、pHシフトアップを伴わない方法では、特に160~280時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図7Gは、工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法における培養浸透圧が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0178】
実施例8:漸進的なpH設定点の上昇
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0179】
図8Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約156時間で、pH設定点は7.05±0.05に上昇させ、12時間維持した。約168時間で、pH設定点をpH7.10±0.05に上昇させ、12時間維持した。約180時間で、pH設定点をpH7.15±0.05に上昇させ、更に12時間維持した。最後に、約192時間で、pH設定点をpH7.20±0.05に上昇させ、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルは培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0180】
図8B-Gは、
図8A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0181】
図8Bは、14日間の工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法(156時間と192時間の間でpH設定点を段階的に上昇させることによるΔpH0.20単位)における細胞生存率が、pHシフトアップを伴わない方法の細胞生存率よりも高いことを示している。
図8Cは、pHシフトアップを伴う方法では、乳酸レベルが約140時間で約70%の高い値に達し、その後、工程の終わりに約58%まで徐々に低下することを示している。工程の最後に、pHシフトアップを伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpHシフトアップの設定で生成される。
図8Dは、pHシフトアップを伴う方法においてアンモニウムレベルが約116時間で約90%の高い値に達し、約188時間後に約25%まで急に低下し、その後、工程の終わりまで21~24%の間に維持されることを示している。pHシフトアップを伴わない方法と比較して、pHシフトアップの設定では少ない量のアンモニウムが生成される。
図8Eは、工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法における産生物力価が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも少なくとも15%高いことを示している。図は、pHシフトアップを伴う方法では、pCO
2レベルが約210時間で約17%まで徐々に増加し、その後、工程の終了までこのレベルに維持されることを示している。対照的に、pHシフトアップを伴わない方法では、特に160~280時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図8Gは、工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法における培養浸透圧が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0182】
実施例9:漸進的なpH不感帯の拡大
抗Ang2/VEGF細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0183】
図9Aは、培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。オンラインpH設定点は、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約152時間で、pH不感帯を±0.10に拡大し、12時間維持した。約164時間で、pH不感帯を再び±0.15に拡大し、12時間維持した。約176時間で、pH不感帯を±0.20に拡大し、更に12時間維持した。約188時間で、pH不感帯を±0.25に拡大し、12時間維持した。最後に、約200時間で、pH設定点をpH7.20±0.05に上昇させ、製造工程が終了するまでこの値に維持した。工程サンプルは培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
【0184】
図9B-Gは、
図9A(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図1(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0185】
図9Bは、14日間の工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法(152時間と200時間の間でpH不感帯を段階的に拡大させることによるΔpH0.20単位)における細胞生存率が、pHシフトアップを伴わない方法における細胞生存率よりも高いことを示している。
図9Cは、pHシフトアップを伴う方法では、乳酸レベルが約140時間で約80%の高い値に達し、工程の終わりに約42%まで徐々に低下することを示している。特に、工程の最後に、pHシフトアップを伴わない方法と比較して、より少ない量の乳酸がpHシフトアップの設定を伴う方法で生成される。
図9Dは、pHシフトアップを伴う方法においてアンモニウムレベルが約116時間で約90%の高い値に達し、その後、約190時間後に約25%まで急に低下し、ついで工程の最後まで21~28%の間に維持されることを示している。pHシフトアップを伴わない方法と比較して、pHシフトアップの設定を伴う方法では少ない量のアンモニウムが生成される。
図9Eは、14日間の工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法における産生物力価が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも約15%高いことを示している。
図9Fは、pHシフトアップを伴う方法では、pCO
2レベルが約210時間で約22%まで徐々に上昇し、その後、工程の終了まで22~25%の間に維持されたことを示している。対照的に、pHシフトアップを伴わない方法では、特に160~280時間の間で、更に高いpCO
2レベルが観察された。
図9Gは、工程の最後に、pHシフトアップを伴う方法における培養浸透圧が、pHシフトアップを伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0186】
実施例10:異なるpH制御戦略
抗CSF-1R細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃、±0.05pH単位の不感帯の7.00のpH設定点で、開始した。0.25Lのバイオリアクターを、0.2Lの初期培養容量で、用いた。フィード培地を溶液で調製し、1~3日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、4~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、4~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0187】
図10Aは、二つの異なる培養方法のpH設定点と不感帯設定及びフィードスケジュールを示している。
産生方法#1では、オンラインpH設定点を、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。約144時間から開始して、pH設定点を約48時間以内に7.00から7.20に徐々に上昇するように設定した。約192時間で、pH設定点はpH7.20±0.05に達し、該産生方法の終了までこの値に維持された。
【0188】
産生方法#2では、オンラインpH設定点を、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムを添加することにより、最初は7.00±0.05に維持した。48時間の時点で、pH設定点を6.80±0.05に下げ、240時間までこの値に維持した。約240時間から開始して、pH設定点を約48時間以内に6.80±0.05から7.00±0.05に徐々に上昇するように設定した。約288時間で、pH設定点はpH7.00±0.05に達し、該産生方法の終了までこの値に維持された。
【0189】
工程サンプルを培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
図10B-Fは、
図10Aの方法#1(黒い矩形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、及び浸透圧に対する効果を、
図10Aの方法#2(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0190】
図10Bは、二つの培養方法(黒い矩形の方法#1;灰色の菱形の方法#2)の間の細胞生存率の差異を示している。14日後、方法#1(144時間と192時間の間でΔpH0.20単位のpH勾配)における細胞生存率は、方法#2におけるよりも高い。
図10Cは、方法#1において、乳酸レベルが14日間の産生方法の終了時に約68%に達することを示している。本発明に係るpHシフトアップを伴わない方法と比較して、本発明の方法に係るpHシフトアップを伴う方法では、より少量の乳酸が生成される。方法#2では、pHは上昇するが、この方法には、第一pHで細胞を播種し、その第一pHで細胞を培養することを含む第一培養段階と、続く細胞を第一pHよりも高い第二pHで培養する第二培養段階は含まれない。方法#1とは異なり、方法#2はpHシフトダウンを含む。
図10Dは、方法#1において、115時間後にアンモニウムレベルが約90%の高い値に達し、約15%に低下した後、産生工程の最後に約80%に増加することを示している。本発明に係るpHシフトアップを伴わない方法と比較して、本発明に係るpHシフトアップを含む方法では、より少量のアンモニウムが生成される。
図10Eは、14日間の産生工程の終了時に、方法#1の抗CSF-1R産生物力価が方法#2のものよりも高いことを示している。
図10Fは、工程の終わりに、本発明に係るpHシフトアップを伴う方法における培養浸透圧は、本発明に係るpHシフトアップを伴わない方法におけるよりも低いことを示している。
【0191】
実施例11:低下した温度
抗Ang2/VEGF発現CHO KSV細胞を振盪フラスコで増殖させ、数回継代した。製造用発酵の実行は、約6.0×105細胞/mLの初期細胞数で、36.5℃の初期温度、±0.05pH単位の不感帯を持つ7.00のpH設定点で、開始した。
フィード培地を溶液で調製し、3~6日目に、1日当たり約2.0~約3.0重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。
pHシフトアップフィード培地を溶液で調製し、7~14日目に、1日当たり約0.5~約1.5重量%の初期培養重量の範囲の量で培養物に連続的に添加した。追加のグルコースフィード溶液を調製し、7~14日目の間に培養物に連続的に添加して、グルコース濃度を約≧3g/lに維持した。
【0192】
図11Aは、二つの異なる培養方法に対する温度設定、pH設定点及び不感帯設定、並びにフィードスケジュールを示している。
【0193】
産生方法Aでは、オンラインpH設定点を、工程の全持続期間にわたって、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムの添加により、7.00±0.05に一定に維持した。工程の全持続期間中、温度は36.5℃に一定に維持した。
産生方法Bでは、オンラインpH設定点を、工程の全持続期間にわたって、二酸化炭素ガス注入を使用するか又は1Mの炭酸ナトリウムの添加により、7.00±0.05に一定に維持した。温度は最初は36.5℃に維持した。約144時間で、温度を34.0℃に低下させ、産生方法の終わりまでこの値に維持した。
【0194】
工程サンプルは培養物から毎日採取し、必要とされるパラメーターについて分析した。
生細胞密度(VCD)は、Cedex HiResアナライザー(資料番号:05650216001,Roche Diagnostics GmbH,Germany)を使用するトリパンブルー色素排除法で測定した。生細胞密度の積分値(IVCD)は、次の方程式を使用して計算した:
ここで、t=培養期間、VCD=生細胞密度。
主要な培養産生工程の最後に、遠心分離により細胞培養液を収集した。上清をプロテインAを用いた更なる小規模精製に供した。
【0195】
精製した抗体のグリコシル化パターンを、2AB標識N-グリカンを用いたESI-MSと組み合わせたRP-HPLCを使用して分析した(Chen及びFlynn,2007)。
【0196】
図11B-Gは、
図11Aの方法A(灰色の菱形)に係るpH設定を有する培養方法における細胞生存率、乳酸濃度、アンモニウム濃度、産生物力価、pCO
2、及び浸透圧に対する効果を、
図11Aの方法B(黒の矩形)に係るpH設定を有する培養方法と比較して、示している。
【0197】
図11Bは、二つの培養方法(灰色の菱形の方法A;黒の矩形の方法B)の間の細胞生存率の差異を示している。14日後、方法A(一定の36.5℃の温度)における細胞生存率は、方法B(144時間で36.5℃から34.0℃への温度シフトダウン)よりも僅かに低い。
図11Cは、方法Aにおいて、乳酸レベルが14日間の産生工程の終わりに約34%に達し、方法Bでは同じ時点で100%の乳酸レベルが生成されたことを示している。
図11Dは、方法Aにおいて、115時間後にアンモニウムレベルが約97%の高い値に達し、約33%に低下した後、産生工程の終わりに約72%に増加することを示している。対照的に、方法Bでは同じ時点で約85%ものアンモニウムレベルが生成された。
図11Eは、14日間の工程の終了時に、方法Aにおける産生物力価が方法Bにおけるよりも約20%高いことを示している。
図11Fは、方法Aにおいて、pCO
2レベルが約200時間で29%超まで増加し、ついで工程の終わりまでこの高レベルに維持されたことを示している。方法Bでは、pCO
2レベルは約200時間で29%超まで増加し、約260時間までこの高レベルに維持され、その後工程の終わりに約6%に低下した。
図11Gは、工程の終わりに、方法Aにおける培養浸透圧が方法Bにおけるよりも僅かに低いことを示している。
【0198】
36.5℃から約34.0℃への温度シフトは、細胞により産生される抗Ang2/VEGF-CrossMabの品質を変化させた。例えば、G0F抗体の含有量は約3%増加し、G1F構造は幾つかの変化を示した(
図12)。温度シフトによって引き起こされる産生物品質の変化に関連する問題は、実質的に一定の温度を維持することによって、本発明の方法において有利に回避されうる。
【0199】
36.5℃から約34.0℃への温度シフトは、細胞能力の指標であり、一般に最終産生物力価と相関する、積分生細胞密度(IVCD)を減少させた。培養温度を下げると、細胞の最終的な生存率が改善されうるが、IVCDの低下や産生物力価の低下の問題をまた引き起こす(表1)。これらの問題は、温度を実質的に一定の値に維持することにより、ここに開示される方法において有利に回避されうる。
【0200】
【0201】
[参考文献]
本発明と本発明が関係する最新技術をより完全に説明し開示するために、多くの刊行物を上で引用している。これら参考文献の完全な引用文献を以下に示す。これら参考文献のそれぞれの全体がここに援用される。
【0202】
標準的な分子生物学技術については、Sambrook, J., Russel, D.W. Molecular Cloning, A Laboratory Manual. 3版 2001, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと
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【0203】
[特許引用文献]
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【0204】
次のステートメントは、本開示の態様に関し、明細書の一部を構成する
1. 哺乳動物細胞を培養するための流加方法において、
哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と;
第一pHより高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階と
を含む、方法。
2. pH設定点を使用してpHを制御することを含む、哺乳動物細胞を培養するための流加方法において、
哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階であって、pH設定点が第一pHに維持される第一培養段階と;
第一pHより高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階であって、設定点が第二pHに維持される第二培養段階と
を含み、第二pHが第一pHよりも少なくとも0.1pH単位高く、第二培養段階が少なくとも6時間の持続期間を有する、方法。
3. 第二培養段階が少なくとも3日の持続期間を有する、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
4. 方法の温度が±0.5℃以内に維持される、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
5. 場合によっては第一pHが6.5~7.5の範囲の値であり、かつ
a.第二pHが第一pHよりも少なくとも0.1pH単位高いか;
b.第二pHが第一pHよりも約0.1~0.5pH単位高いか;又は
c.第二pHが第一pHよりも約0.2pH単位高い、
前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
6. a.第一pHが約7.0であり;かつ
b.第二pHが、約(i)pH7.1;(ii)pH7.2;(iii)pH7.3;(iv)pH7.4(v)pH7.5、又は(vi)7.1~7.5であり、
あるいは、
a.第一pHが約7.0±0.05であり;かつ
b.第二pHが、(i)pH7.1±0.05;(ii)pH7.2±0.05;(iii)pH7.3±0.05;(iv)pH7.4±0.05(v)pH7.5±0.05、又は(vi)7.1~7.5±0.05である、
前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
7. pH設定点を使用してpHを制御することを含み、
第一培養段階において設定点が第一pHに設定され、かつ
第二培養段階において設定点が第二pHに設定される、
前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
8. 設定点を、(a)徐々に又は(b)即時に、第一pHから第二pHに上昇させる、ステートメント7に記載の方法。
9. 設定点を第一pHから第二pHに徐々に上昇させ、(a)設定点を連続的に上昇させるか、又は(b)設定点を一連の不連続ステップで上昇させる、ステートメント8に記載の方法。
10. pHを、約24~72時間の期間にわたって第一pHから第二pHに徐々に上昇させる、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
11. 培養培地にpHシフトアップフィード培地を添加することを含む、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
12. 設定点が±0.05pH単位の不感帯を有する、ステートメント7から11の何れか一に記載の方法。
13. 哺乳動物細胞がCHO細胞である、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
14. 産生物が哺乳動物細胞によって発現され、場合によっては哺乳動物細胞が組換え細胞であり、産生物が組換えタンパク質である、産生物を産生するための方法である、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
15. 産生物が(a)抗体;(b)バヌシズマブ;又は(c)エマクツズマブである、ステートメント14に記載の方法。
16. 産生物を単離する工程と、場合によっては産生物を含む組成物を調製する工程とを含む、ステートメント14から15の何れか一に記載の方法。
17. ステートメント16の方法により産生された産生物又は組成物。
18. 哺乳動物細胞の培養培地中への播種が0日目であり、10~18日目の何れか一が、細胞及び/又は産生物を収集することにより方法を終結させることを含む収集工程を含む、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
19. 細胞及び/又は産生物を収集することにより方法が終結される、収集工程を含み、収集工程では、
a.細胞生存率が、対照方法よりも少なくとも20%高く;
b.乳酸レベルが、対照方法よりも少なくとも20%低く;
c.アンモニウムレベルが、対照方法よりも少なくとも40%低く;及び/又は
d.産生物力価が、対照方法よりも少なくとも5%高く;
対照方法は、第二培養段階が細胞を第一pHで培養することを含むことを除いて、ステートメントに開示された方法と同じである、前記ステートメントの何れか一に記載の方法。
20. 哺乳動物細胞を培養するための方法において、
細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と;
第二pHで細胞を培養することを含み、第二pHが第一pHより高い第二培養段階と
を含み、方法の温度が実質的に一定の値に維持される、方法。
21. 抗体を発現することができる哺乳動物細胞を培養するための方法において、
哺乳動物細胞を第一pHで培養培地中に播種し、細胞を第一pHで培養することを含む第一培養段階と;
第一pHより高い第二pHで細胞を培養することを含む第二培養段階と
を含む、方法。
22. 前記ステートメントの何れか一に記載の哺乳動物細胞を培養するための方法において、
a.産生物が哺乳動物細胞において発現される哺乳動物細胞培養物中において産生物力価を増加させるため;
b.哺乳動物細胞培養物中において細胞生存率を増加させるため;
c.哺乳動物細胞培養物の寿命を延ばすため;
d.哺乳動物細胞培養物中の乳酸蓄積を減少させるため;
e.哺乳動物細胞培養物中のアンモニウム蓄積を減少させるため;
f.哺乳動物細胞培養においてpCO2プロファイルを改善するため;
g.哺乳動物細胞培養において浸透圧を低下させるための;
pHシフトアップフィード培地又はpH上昇剤の使用であって、pHシフトアップフィード培地又はpH上昇剤を哺乳動物細胞培養物に添加して、pHを第一pHから第二pHに上昇させる、使用。