(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】電気泳動回収装置、及び核酸前処理装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
G01N27/447 315C
G01N27/447 321Z
G01N27/447 325B
(21)【出願番号】P 2022551486
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020035978
(87)【国際公開番号】W WO2022064587
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 絵理
(72)【発明者】
【氏名】小野 雪夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 未真
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-290109(JP,A)
【文献】特表2002-502020(JP,A)
【文献】特開2004-170362(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159084(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
G01N 21/17
G01N 21/64
C12Q 1/00-3/00
B01D 57/02
G01N 35/00-35/10
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料を精製する電気泳動回収装置であって、
前記核酸試料の電気泳動を行うための電極と、前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、電気泳動槽と、電気泳動によって分離された前記核酸試料に励起光を照射する光源と、励起された光を検出するための検出器と、検出された光をモニタリングし定量することが可能な制御解析部と、電気泳動によって分離された前記核酸試料を回収する分注機構を備え、
前記電気泳動槽に設置された泳動ゲルは、核酸試料を注入する注入孔と、電気泳動によって分画された核酸試料を回収する回収孔を備え、
照射される励起光が前記回収孔の側面から横断的に照射されるように前記光源が設置されている、
ことを特徴とする電気泳動回収装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気泳動回収装置であって、
前記励起された光が、前記回収孔の下面から検出するように前記検出器が設置されている、
ことを特徴とする電気泳動回収装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電気泳動回収装置であって、
電気泳動によって分画された前記核酸試料が、前記回収孔で励起された前記核酸試料の励起光を検出し、分離分画された前記核酸試料の定量を行い、
前記分注機構によって分離分画された核酸試料の回収を行う、
ことを特徴とする電気泳動回収装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電気泳動回収装置であって、
前記光源から照射される励起光によって励起された光の強度の増加率によって、
前記回収孔から溶液の回収設定を行い、自動で回収が可能である、
ことを特徴とする電気泳動回収装置。
【請求項5】
請求項2に記載の電気泳動回収装置であって、
前記回収孔の側面から横断的に照射される前記光源が、両側から横断的に照射されるように光源を備える、
ことを特徴とする電気泳動回収装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電気泳動回収装置であって、
電気泳動用のゲル型を複数使用し、それぞれ分離分画し、前記回収孔に到達した前記核酸試料の検出と定量を、それぞれのゲル型の前記核酸試料で同時に行う、
ことを特徴とする電気泳動回収装置。
【請求項7】
核酸試料を精製する核酸前処理装置であって、
温調部と、マグネチックプレート部と、反応用プレートと、電気泳動回収装置を有し、
前記電気泳動回収装置は、核酸試料の電気泳動を行うための電極と、前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、電気泳動槽と、電気泳動によって分離された核酸試料に励起光を照射する光源と、励起された光を検出するための検出器と、検出された光をモニタリングし定量することが可能な制御解析部と、電気泳動によって分離された核酸試料を回収する分注機構を備え、
前記電気泳動槽に設置された泳動ゲルは、核酸試料を注入する注入孔と、電気泳動によって分画された核酸試料を回収する回収孔を備え、前記光源から照射される励起光が前記回収孔の側面から横断的に照射されるように前記光源が設置されている、
ことを特徴とする核酸前処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸前処理装置であって、
前記励起された光が、回収孔の下面から検出するように検出器が設置されている、
ことを特徴とする核酸前処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸前処理装置であって、
電気泳動によって分画された核酸試料が、
回収孔で励起された核酸試料の励起光を検出し、
分離分画された核酸試料の定量を行い、
分注機構によって分離分画された核酸試料の回収を行う、
ことを特徴とする核酸前処理装置。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸前処理装置であって、
光源から照射される励起光によって励起された光の強度の増加率によって、
回収孔から溶液の回収設定を行い、自動で回収が可能である、
ことを特徴とする核酸前処理装置。
【請求項11】
請求項8に記載の核酸前処理装置であって、
回収孔の側面から横断的に照射される光源が、
両側から横断的に照射されるように光源を備える、
ことを特徴とする核酸前処理装置。
【請求項12】
請求項8に記載の核酸前処理装置であって、
電気泳動用のゲル型を複数使用し、それぞれ分離分画し、前記回収孔に到達した核酸試料の検出と定量を、それぞれのゲル型の核酸試料で同時に行う、
ことを特徴とする核酸前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気泳動により核酸を精製し回収する核酸回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な生物試料の解析において、遺伝子診断や遺伝子解析などDNAやRNAなどの核酸を分析する需要は近年ますます高まってきている。核酸を分析する際の試料前処理には核酸試料をサイズ分画し、精製する工程が含まれる。核酸の分離精製には、磁気ビーズやスピンカラムを用いる手法が用いられる。核酸の分画するサイズによっては、同様の磁気ビーズやスピンカラムを用いる手法を用いる場合があるが、分画する試料によっては使用できない場合もある。そのため、より精度を求めるサイズ分画では一般的に電気泳動法が使用されることが多い。電気泳動は主にキャピラリ電気泳動とゲル電気泳動がある。
【0003】
例えば特許文献1には、キャピラリ電気泳動を用いた生体物質の分画、分取が開示されている。また、ゲル電気泳動を用いた分取では、電気泳動によって分離した目的のバンドをゲルごと切り出し回収する方法が一般的である。特許文献2にはゲルを切り出すのではなく、ゲルに回収孔を設け、小さいサイズのDNAは回収孔を通過させ、目的サイズのDNAを電気泳動での分離を目視で確認し回収する方法や、電気泳動での分離を監視することなく回収孔に到達した生体物質をフィルタで分取し、回収する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-144532号公報
【文献】特開2004-290109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
様々な核酸分析、例えば、次世代DNAシーケンサによる塩基配列解析において、配列解析を行う試料の前処理工程の一つにDNAライブラリの調製がある。一般に、DNAライブラリの調製は、試料である細胞や血液から抽出したDNAを増幅・断片化した後、DNA両端にアダプタ配列を付加して増幅・精製し、DNAライブラリを得る工程である。この際、DNA断片の両端にアダプタを付加したものが目的物である。しかし同時に、片端だけアダプタ配列が付加したDNA断片やアダプタ配列の二量体など、目的物よりもサイズの小さいDNA配列が夾雑物として生成される。これら夾雑物が除去されずにシーケンシングされると、目的物の配列がシーケンスされる機会が奪われ、得られるデータ量が少なくなる。これは、解析の成否にも関係することになる。そのため、これら夾雑物はシーケンシングの前に除去されることが望ましく、簡便にかつ精度よく核酸試料のサイズ分画をし、分取する手段が必要とされている。また、前処理を行う核酸試料は、処理容量が多い場合もあり、一度の処理で多くの核酸量が分離可能であることも望まれている。
【0006】
試料のサイズ分画には、従来から電気泳動法が広く知られている。特にゲルによる電気泳動法は、生体試料の一度の処理能力はキャピラリ電気泳動に比べ、一般的に多くの試料を処理することが可能である。しかし、ゲル電気泳動によるサイズ分画を行う場合、従来の切り出しによる手法は、泳動後のゲルから目的部位を切り出し、試料を抽出する工程があり、熟練度を要し手間がかるという課題がある。また、前述した特許文献2の方法は、夾雑物と目的の分画サイズが近い場合、分離分取する精度が悪くなり、対応できない可能性がある。また、夾雑物が多い場合は、回収孔を夾雑物が通過しきる時間によっては目的の分画サイズが混合する可能性がある。
【0007】
そこで、本発明では、これらの課題を解決するゲル電気泳動による核酸回収装置、及び核酸前処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、上記目的を達成するために、本発明の核酸回収装置の一例は、核酸試料を精製する電気泳動回収装置であって、核酸試料の電気泳動を行うための電極と、電極に電圧を印加する電圧印加部と、電気泳動槽と、電気泳動によって分離された核酸試料に励起光を照射する光源と、励起された光を検出するための検出器と、検出された光をモニタリングし定量することが可能な制御解析部と、電気泳動によって分離された核酸試料を回収する分注機構を備え、電気泳動槽に設置された泳動ゲルは、核酸試料を注入する注入孔と、電気泳動によって分画された核酸試料を回収する回収孔を備え、照射される励起光が回収孔の側面から横断的に照射されるように光源が設置されている。
【0009】
また、上記の目的を達成するため、核酸試料を精製する核酸前処理装置であって、温調部と、マグネチックプレート部と、反応用プレートと、電気泳動回収装置を有し、電気泳動回収装置は、核酸試料の電気泳動を行うための電極と、前記電極に電圧を印加する電圧印加部と、電気泳動槽と、電気泳動によって分離された核酸試料に励起光を照射する光源と、励起された光を検出するための検出器と、検出された光をモニタリングし定量することが可能な制御解析部と、電気泳動によって分離された核酸試料を回収する分注機構を備え、電気泳動槽に設置された泳動ゲルは、核酸試料を注入する注入孔と、電気泳動によって分画された核酸試料を回収する回収孔を備え、光源から照射される励起光が回収孔の側面から横断的に照射されるように光源が設置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の核酸回収装置によれば、夾雑物が残存した核酸試料から目的とするサイズ分布の核酸試料を、簡便にかつ精製度よく分取することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1に係る、核酸回収装置の概略側面図。
【
図2】実施例1に係る、ゲル型の電気泳動槽の設置図。
【
図5】実施例1に係る、複数のゲル型設置における概略斜視図。
【
図6】実施例1に係る、複数のゲル型設置における2光源の概略斜視図。
【
図7】実施例1に係る、複数のゲル型を電気泳動槽に設置する場合の設置図。
【
図8】実施例1に係る、核酸試料回収ワークフローを示すワークフロー図。
【
図9】実施例1に係る、検出される蛍光強度と泳動時間の相関図。
【
図10】実施例2に係る、核酸前処理装置の全体構成平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に従い本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0013】
本実施例は、核酸試料の電気泳動を行うための電極と、電極に電圧を印加する電圧印加部と、電気泳動槽と、電気泳動によって分離された核酸試料に励起光を照射する光源と、励起された光を検出するための検出器と、検出された光をモニタリングし定量することが可能な制御解析部と、電気泳動によって分離された核酸試料を回収する分注機構を備え、電気泳動槽に設置された泳動ゲルは、核酸試料を注入する注入孔と、電気泳動によって分画された核酸試料を回収する回収孔を備え、照射される励起光が回収孔の側面から横断的に照射されるように光源が設置されている電気泳動回収装置、及び核酸前処理装置の実施例である。
【0014】
はじめに、核酸回収装置によって処理が必要な核酸試料について説明する。核酸の前処理が必要な解析として、例えば配列解析を行うための試料としてDNAライブラリがある。配列解析に使用するDNAライブラリは、配列解析を行う方法によって作製方法は異なる。DNAライブラリの調製に使用する酵素類は、様々な試薬メーカーから市販されている。そのため、詳細な手順等については各試薬のプロトコルによる。詳細の記載は省略し、概要を説明する。
【0015】
はじめに配列解析を行う試料の前処理工程の一つである、サイズ分画する前のDNAライブラリの調製法の概要を示す。
【0016】
まず細胞や血液、ホルマリン固定パラフィン包理組織などの生体試料から抽出された核酸試料を断片化する。核酸試料の断片化には超音波を用いる手法もあるが、ここでは一例として酵素を用いる手法の手順を示す。生体試料から抽出された核酸試料を酵素などの反応試薬と共にチューブに分注し、反応温度でインキュベートし断片化する。反応温度と反応時間は使用する試薬により異なる。所定の反応時間経過後、断片化の反応を停止する。配列解析のプライマー配列や解析用基板などに設置するために、断片化した核酸試料にアダプタ配列を付加する必要があるため、核酸試料の末端修飾を行う。例えば、核酸試料の末端の平滑化や突出塩基を付加する酵素処理を行う。断片化された核酸試料の入ったチューブに、酵素等を含む反応液を添加し、所定の時間にてインキュベートする。この末端修飾は、核酸試料の断片化で目的の末端に修飾されている場合は行われない場合もある。末端処理の反応終了後、アダプタ配列を付加する。アダプタ配列は解析方法によって異なっている。アダプタ配列と酵素等の反応溶液をチューブに添加し、インキュベートすることで、DNAライブラリを作製する。通常は作製したDNAライブラリをアダプタ配列で増幅することで、精製用のDNAライブラリを作製する。上記各反応の溶液置換、精製は磁性ビーズやエタノール沈殿などの方法による精製を行う。
【0017】
次に、DNAライブラリのサイズ分画に使用する電気泳動ゲルの作製について、一例を示す。電気泳動用のゲルは様々あるが多くはアガロースゲルやポリアクリルアミドゲルが使用される。ゲルによるサイズ分画は、ゲルの成分であるアガロースやアクリルアミドの濃度によって分離度は異なり、目的に応じて使用する。下記に一例としてポリアクリルアミドゲルの作製について、
図3、
図4を用いて説明する。
【0018】
図3はゲル型の垂直断面図、
図4はゲル型の上から見た平面図を示す。注入孔15及び回収孔16を有するポリアクリルアミドゲルを作製する。
図3に示すゲル型14は注入孔15及び回収孔16を備える。ゲル型14は、泳動時に複数本を並列に配置する場合があるため、絶縁素材で熱に強い素材が好ましい。また、少なくとも側面と底面の回収部で光源からの励起光や、蛍光などの光が通過するため、透過率の高い素材が好ましい。例えばPS、PMMA、硝子や石英等の様々な素材があげられる。ゲル型14には、例えば40%アクリルアミド/ビス溶液19:1のゲル溶液をゲル型14へ流し入れる。注入孔15および回収孔16は、ゲル溶液が固まる前にコームを差し込むことでそれぞれ成型する。ゲル溶液が固まった後、コームを抜き取り、回収孔側の側面に膜19を付加する。膜19は核酸試料が通り抜けなけない半透膜などが好ましい。
【0019】
上述したゲル型14は、両電極側は電流が流れるように絶縁素材は無く一部あるいは全面が開放され、両電極側とは異なる両側面には絶縁素材で囲われた構造を示している。異なる例として、両側面が開放した構造でも良い。その場合、フィルム等を貼り、ふさいだ後に、同様にゲル溶液を流し込み成型する。
【0020】
続いて、
図1、
図2、
図5、
図6および
図7を用いて、本実施例の核酸回収装置について説明する。
図1は核酸回収装置を示す概略図である。
図2はゲル型の電気泳動槽の設置図、
図5は複数のゲル型設置における概略斜視図、
図6は複数のゲル型設置における2光源の概略斜視図、
図7は複数のゲル型を電気泳動槽に設置する場合の設置図である。
【0021】
図1に示すように本発明の核酸回収装置は、核酸試料の電気泳動を行うための正極1および負極2と、電極に電圧を印加する電圧印加装置3と、印加電圧を制御する電圧制御部4と、電気泳動槽5と、電気泳動によって分離された核酸試料に励起光を、電気泳動槽の側面から照射する光源6と、励起された光を検出するための検出器7が電気泳動
槽5の下面に備えている。なお、光源6が側面に
、検出器7が下面に配置されている理由は、分注プローブ9が電気泳動用ゲルの上面からアクセスするため、アクセスしやすいように効果的な配置をとっているためである。
【0022】
また、核酸試料、試薬類を保持する試料・試薬保持部12と緩衝液、蒸留水等を保持するバッファー槽13を有する。さらに、核酸試料を電気泳動用ゲルに注入し、分離した核酸試料を回収する分注機構を備え、前記分注機構は分注プローブ9と、分注機構駆動部10と、分注機構制御部11からなる。正極1及び負極2は、電気泳動槽5に入れられる緩衝液と接触している。制御解析部8は、検出された光をモニタリングし、解析を行い、検出した光から量を算出することが可能である。また、分注機構を制御し、注入孔への核酸試料の注入、回収孔へ溶液の分注、回収、洗浄や、電気泳動を制御して電気泳動の開始、停止といった制御も可能である。
【0023】
図2は電気泳動
槽5とゲル型14の配置を簡略化して示した図である。
図2に示すように、ポリアクリルアミドゲルを有するゲル型14を電気泳動装置に水平に設置する。この時、光源6から照射される励起光17が回収孔16の側面から横断的に照射されるように設置される。横断的に照射される電気泳動ゲルは少なくとも一つであるが、電気泳動ゲルを多数配置する場合は
図5のようなゲル型14の配置となり、光源の位置は反対側であっても良い。また、
図6に示すように回収孔16の両側面から横断的に照射されるように光源を二つ備えて良い。特に複数のゲル型を設置する場合、両側からの光源による励起光の照射が片側から照射の場合に比べ、励起された光は安定した検出が可能となる。
図5と
図6では、ゲル型14を並べ、光源とゲル型14、検出器7の位置関係を示すために簡略化して示しており、電気泳動
槽5や電極1、電極2の配置は
図2、
図7のようになる。複数のゲル型14を並べる場合、両電極側とは異なる両側面には絶縁素材で囲われた構造のゲル型14を使用することで、他試料の混入を防ぐことが可能である。
【0024】
検出器7はフォトダイオードやCCDカメラ、CMOSなどの二次元センサでも良い。検出器7がフォトダイオードの場合、各ゲル型14からそれぞれ検出できるように、ゲル型1つに少なくとも1つのフォトダイオードを設置することが好ましい。CCDカメラ、CMOSなどの二次元センサの場合は、複数のゲル型14に対して全ての回収孔から検出できるように、複数のゲル型14に対して、1つ以上であれば良い。その場合、各回収孔の領域に応じて検出した光の解析を行う。フォトダイオードの場合、フォトダイオードのサイズに応じて、検出可能なゲル型14のサイズは検出範囲に応じておおよそ固定される。しかし、CCDカメラ、CMOSなどの二次元センサの場合は、ゲル型14のサイズが異なっていても検出領域を設定することで対応が可能である。そのため、ゲルサイズのバリエーションは多くなる利点がある。
【0025】
緩衝液は例えば1×TBE緩衝液(Tris Borate EDTA Buffer)を電気泳動槽5に入れる。緩衝液はゲル型14の上面ぎりぎりまで満たす。注入孔15及び回収孔16の内部もTBE緩衝液を入れる。回収孔16に入れた緩衝液とゲル型14の周辺に満たした緩衝液が混合しない液量とする。緩衝液の一例としてTBE緩衝液を使用しているが、他の電気泳動用の緩衝液でも良い。
【0026】
図8は、分注機構により注入孔15へ試料を分注し、電気泳動によりサイズ分画し、目的物の核酸試料を回収するまでのフロー図であり、同図に示すように、ステップ
S81~S92からなる。
【0027】
すなわち、核酸検出用の蛍光色素等を混合したサイズ分画を行う核酸試料を、
図1の試料・試薬保持部12にセットし、分注機構により注入孔15へ試料を分注する。分注機構駆動部10により分注プローブ9が試料・試薬保持部12に配置されている試料溶液の座標まで移動し、試料溶液を吸引した後、再び分注機構により分注プローブ9が注入孔15の座標まで移動し、注入孔15へ核酸試料を吐出する。
【0028】
試料の分注後、100Vの電圧を印加し電気泳動を開始する。電圧を印加することで注入孔15内の試料は回収孔16に向かって電気泳動し、核酸試料がサイズ分画される。核酸試料には夾雑物と目的物が含まれている。前述した核酸試料調製方法で作製した核酸試料の場合、DNA断片の両端にアダプタを付加したものが目的物である。主に除去すべき夾雑物は、片端だけアダプタ配列が付加したDNA断片やアダプタ配列の二量体など、目的物よりもサイズの小さいDNA配列が夾雑物として含まれている。目的物に比べてサイズが小さい場合、泳動速度が速い。回収孔16には、光源6より励起光17が照射され、試料が回収孔16に到達すると、試料から発せられる蛍光を検出器7が検出する。
【0029】
図9は検出器にて検出される蛍光強度と泳動時間の相関を示す図である。まず先にサイズが小さく泳動速度の速い夾雑物が回収孔16へ到達し、蛍光強度が増加し始める。さらに時間が経過し、蛍光強度の増加速度が緩まった時点を、夾雑物が回収孔へ到達しきったと検知し、電圧の印加を停止する。この夾雑物が到達しきったとする検知は、夾雑物と目的物がゲル電気泳動で分離できることを前提としている。また、上述した電圧の印加を停止する蛍光強度の増加が緩まった時点とは、蛍光強度の増加の傾きが小さくなる場合を示すが、泳動条件によっては蛍光強度が減少する場合もある。そのため、電圧印加を停止するタイミングは、夾雑物が回収孔へ到達した後、目的物が回収孔へ到達することによる蛍光強度の増加が始まるまでの間に停止することを含んでいる。夾雑物の混入を減らすために目的物が回収孔へ到達し始める蛍光強度の再増加が始まったタイミングで停止する場合もある。
【0030】
回収孔16内の夾雑物溶液を分注プローブ9により吸引回収し、除去する。また、サイズ分画された夾雑物が、目的物の前に複数存在する場合は、まとめて取り除いても良い。あるいは、夾雑物ごとに取り除いても良い。夾雑物ごとに取り除く場合は、夾雑物を回収、除去後、プローブ9によって回収孔16に緩衝液を注入する。夾雑物と目的物の区別については、例えば、目的物が回収孔16に到達する時刻をあらかじめ推定し、経過時間によって区別して良い。また、あらかじめ電気泳動で確認した泳動像から、上述した蛍光強度の増加、電圧停止のタイミングの回数を指定し、目的物を区別することも可能である。使用者によって目的物が異なる場合があるため、当業者が適宜設定し、自動で回収することが可能である。
【0031】
夾雑物を廃棄後、目的物を回収する電気泳動を開始する前に、回収孔16を洗浄液による洗浄を行う。洗浄液はバッファー槽13に備えた緩衝液や蒸留水などが用いられ、プローブ9によって回収孔16へ洗浄液の注入と廃棄を行うことによって洗浄を行う。複数回洗浄して良い。これによって、夾雑物の混入リスクを減らすことが可能である。
【0032】
回収孔16の洗浄後、回収孔16に目的物回収用の溶媒としてバッファー槽13に備えた蒸留水をプローブ9によって、注入し、電圧の印加を再開する。目的物回収用の溶媒は、目的物の用途に応じて緩衝液に変更してよい。目的物が回収孔16に到達し、蛍光強度が増加し始める。さらに時間が経過し、蛍光強度の増加速度が緩まった時点で、電圧の印加を停止する。電圧の印加を停止する蛍光強度の増加が緩まった時点とは、
図9の蛍光強度と時間のグラフで増加の傾きが小さくなる場合を示すが、泳動条件によっては蛍光強度が減少する場合も含む。一般に蛍光強度と時間のグラフで増加の傾きがゼロになった点での回収が、精製度と回収量を考慮する場合最適である。DNA試料にもよるが、精製度を重視して目的物を回収する場合、場合によっては95%以上の精製度で目的物が得られる。
【0033】
回収孔16内の目的物を分注機構により回収し、回収用に備えられた試料・試薬保持部12に分取する。目的物回収用の溶媒の液量はゲルサイズによるが、電気泳動が可能な液量であり、目的物が回収できる液量であればよい。回収用溶媒の液量と回収孔16で検出された蛍光強度によって、回収された目的物の量、濃度を算出することが可能である。得られた目的物溶液は、次に使用する目的に応じて必要量の分取、調整することが可能である。この回収された目的物溶液に含まれる目的物の量、濃度が明らかになっているということは、目的物溶液を使用した次の操作を行う場合、適正の量で分注が可能であり、最終的な配列解析時の検出エラーなどのトラブルを回避することが可能である。
【0034】
以上説明した本実施例によれば、DNAの量が限られた核酸試料の損失を防ぎ、より信頼性の高い結果を得ることが可能となる。
【実施例2】
【0035】
実施例2の核酸前処理装置の一例として、
図10を用いて説明する。本実施例における核酸前処理装置は前処理工程の一つであるDNAライブラリなどの調製が可能であり、さらに
調製したDNAライブラリなどの核酸試料をサイズ分画し、夾雑物を除去し、目的の核酸試料を分取することが可能な、実施例1で示した核酸回収装置の構成を含んでいる前処理装置である。
【0036】
核酸前処理装置27は、核酸試料の電気泳動を行うための正極1および負極2と、電気泳動槽5と、電気泳動によって分離された核酸試料に励起光を照射する光源6と、励起された光を検出するための検出器と、分注プローブ9と、X軸の分注機構駆動部10aと、Y軸の分注機構駆動部10bと、核酸試料、試薬類を保持する試料・試薬保持部12と緩衝液、蒸留水を保持するバッファー槽13、温調部20、マグネチックプレート部21、反応用プレート22、廃液槽23、ピペットチップラック24、ピペットチップ廃棄ボックス25、試料の登録、装置内の動作制御や操作指示、検出された光をモニタリングし、解析を行い、検出した光から量を算出、保存等を行うことが可能な制御解析部26を備える。
【0037】
核酸試料の前処理が必要な解析として、例えば配列解析を行うための試料がある。配列解析を行う試料の前処理工程の一つであるDNAライブラリの調製法を示す。細胞や血液などの生体試料からのDNA抽出については、抽出する生体試料によって操作が様々あるため本実施例においては説明を省略し、抽出されたDNA試料を用いて説明する。
【0038】
配列解析に使用するDNAライブラリは、配列解析を行う方法によって作製方法は異なる。DNAライブラリの調製に使用する酵素類は、様々な試薬メーカーから市販されているため、酵素類の名称や詳細な手順等については各試薬のプロトコルによるため記載は省略する。
【0039】
まず血液や唾液、細胞、ホルマリン固定パラフィン包理組織などから抽出されたDNA試料を断片化する。DNA試料の断片化には超音波を用いる手法もあるが、ここでは一例として酵素を用いる手法の手順を示す。
生体試料から抽出されたDNA試料と、断片化するための酵素などの反応試薬を試料・試薬保持部12に設置し、反応用チューブに分注し、温調部20でインキュベートする。反応温度と反応時間は使用する試薬により異なる。所定の反応時間経過後、断片化の反応を停止する。断片化反応の停止においては、使用する断片化試薬によって停止試薬を加える場合や過熱による酵素の熱変性など、反応停止方法は異なる。断片化の後に反応溶液の置換を行う場合は、断片化されたDNA試料溶液に磁性ビーズを添加し、マグネチックプレート部21で磁力による吸着、精製を行う。以下の操作においても、溶液の置換が必要な場合は、磁性ビーズを添加し、同様に精製を行う。
次にDNA試料の末端修飾を行う。この末端修飾は、配列解析用のアダプタを付加するために必要な末端になっていない場合、DNA試料の末端の平滑化や突出塩基を付加する酵素処理を行う。DNA試料の断片化処理によって、配列解析用のアダプタが付加可能な末端形状になっている場合は行われない。末端修飾は、断片化されたDNA試料に、末端修飾用の酵素、塩基等を含む反応液を添加し、所定の時間にて温調部20でインキュベートする。
【0040】
末端修飾の反応終了後、アダプタを付加する。アダプタ配列は解析方法によって異なっている。試料・試薬保持部12に設置されたアダプタ配列溶液と酵素等の反応用溶液を反応チューブに添加し、温調部20でインキュベートする。アダプタ付加の反応後、DNA試料に磁性ビーズを添加し、マグネチックプレート部21で磁力による吸着、精製を行う。DNA試料の精製後に、核酸増幅用の試薬やプライマー等を追加し、温調部20でPCRを行い、DNA試料を増幅し、反応溶液を精製することで、サイズ分画を行うためのDNAライブラリを作製する。
【0041】
次に、DNAライブラリのサイズ分画を行う。サイズ分画に使用する電気泳動ゲルは、実施例1と同様であるため、電気泳動ゲルの作製方法の説明は省略する。また、DNAライブラリのサイズ分画と、目的物溶液の回収については実施例1と同様の方法で行われる。サイズ分画され、回収された目的物溶液は試料・試薬保持部12の指定されたチューブに取得する。回収用溶媒の液量と回収孔16で検出された蛍光強度によって、回収された目的物の量、濃度を算出することが可能である。得られた目的物溶液は、次に使用する目的に応じて必要量の分取、調整することが可能である。
【0042】
また、本実施例では複数のDNA試料を同時に処理することが可能である。生体試料から抽出されたDNA試料が複数あり、試料・試薬保持部12に入れることができない場合は、反応用プレート22に、複数の生体試料から抽出されたDNA試料を設置し対応することができる。また、サイズ分画し、回収された目的物溶液も同様に反応用プレート22で取得することができる。
【0043】
また、同一解析を行う多種類のDNA試料の場合、DNA試料に応じて付加するアダプタ配列を変更することで、異なるDNAライブラリであっても、サイズ分画を行う場合は混合して処理を行うことも可能である。これによって、処理時間の短縮が可能である。
【0044】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明のより良い理解のために詳細に説明したのであり、必ずしも説明の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0045】
更に、上述した各構成、機能、制御解析部等は、それらの一部又は全部を実現するプログラムを作成する例を中心に説明したが、それらの一部又は全部を例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現しても良いことは言うまでもない。すなわち、処理部の全部または一部の機能は、プログラムに代え、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路などにより実現してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 正極
2 負極
3 電圧印加装置
4 電圧制御部
5 電気泳動槽
6 光源
7 検出器
8、26 制御解析部
9 分注プローブ
10 分注機構駆動部
10a 分注機構駆動部(X軸)
10b 分注機構駆動部(Y軸)
11 分注機構制御部
12 試料・試薬保持部
13 バッファー槽
14 ゲル型
15 注入孔
16 回収孔
17 励起光
18 ゲル(分離媒体)
19 膜
20 温調部
21 マグネチックプレート部
22 反応用プレート
23 廃液槽
24 ピペットチップラック
25 ピペットチップ廃棄ボックス
26 制御解析部
27 核酸前処理装置