(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-11
(45)【発行日】2024-04-19
(54)【発明の名称】高温超電導線及び超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 6/06 20060101AFI20240412BHJP
【FI】
H01F6/06 110
H01F6/06 140
(21)【出願番号】P 2023555747
(86)(22)【出願日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2023017512
【審査請求日】2023-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】三浦 英明
(72)【発明者】
【氏名】殿岡 俊
(72)【発明者】
【氏名】大屋 正義
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-061135(JP,A)
【文献】特開2011-138706(JP,A)
【文献】国際公開第2011/129325(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/067335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/06
H01F 12/00-12/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状に形成された基板、
前記基板の上に配置され、中間層を介して超電導層が積層された超電導積層部材、
前記超電導積層部材に
並行に配置される金属メッキ製の安定化部材、
樹脂に対する離形処理が施され、前記基板、前記超電導積層部材、および前記安定化部材を一体として積層した積層構造体の外周を覆う絶縁部材層、
前記絶縁部材層の外周を覆うように
ギャップ巻きで巻き付けられ、前記超電導積層部材に前記絶縁部材層を固定するテープ状の固定部材、
を備えたことを特徴とする高温超電導線。
【請求項2】
前記固定部材は絶縁テープであって
、前記絶縁テープの幅方向
に隙間を介して巻き付けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線。
【請求項3】
前記固定部材は絶縁テープであって、前記絶縁テープの幅方向に前記絶縁テープの幅以上の隙間を有して巻き付けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線。
【請求項4】
前記固定部材は、前記超電導積層部材の厚みと比較して細い糸状体であることを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線。
【請求項5】
前記絶縁部材層は、フッ素加工により離形処理が施されるとともに、前記安定化部材は、前記超電導積層部材に対して基板と反対側に並行に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の高温超電導線。
【請求項6】
平板状に形成された基板、
前記基板の上に配置され、中間層を介して超電導層が積層された超電導積層部材、
前記超電導積層部材
に並行に配置され、前記超電導積層部材に
接着剤で接着された安定化部材、
前記基板、前記超電導積層部材、および前記安定化部材を一体として積層した積層構造体の外周を覆う
とともに、コイル化された際に隣接する超電導線材と接着されないよう外側部分が離形処理された絶縁部材層、
を備えたことを特徴とする高温超電導線。
【請求項7】
前記超電導層は酸化物超電導部材で構成され、前記安定化部材は銅メッキで形成されている、
ことを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載の高温超電導線。
【請求項8】
請求項1から3のいずれか1項に記載の高温超電導線により構成された超電導コイルであって、前記高温超電導線の外周を覆う絶縁テープが隣り合う高温超電導線間で重ならないように巻回して成形されている、
ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項9】
請求項1から
6のいずれか1項に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項10】
請求項
7に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項11】
請求項
8に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項12】
前記絶縁部材層は、フッ素加工により離形処理が施されるとともに、前記安定化部材は、前記超電導積層部材に対して基板と反対側に並行に配置されている、
ことを特徴とする請求項2に記載の高温超電導線。
【請求項13】
前記絶縁部材層は、フッ素加工により離形処理が施されるとともに、前記安定化部材は、前記超電導積層部材に対して基板と反対側に並行に配置されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の高温超電導線。
【請求項14】
前記絶縁部材層は、フッ素加工により離形処理が施されるとともに、前記安定化部材は、前記超電導積層部材に対して基板と反対側に並行に配置されている、
ことを特徴とする請求項4に記載の高温超電導線。
【請求項15】
前記超電導層は酸化物超電導部材で構成され、前記安定化部材は銅メッキで形成されている、ことを特徴とする請求項
12から14のいずれか1項に記載の高温超電導線。
【請求項16】
請求項
12に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項17】
請求項
13に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項18】
請求項
14に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項19】
請求項
15に記載の高温超電導線を巻回して構成されている、ことを特徴とする超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、高温超電導線及び超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高温超電導線、あるいは高温超電導線により構成された超電導コイルは、当該超電導線の線材を構成するテープ状基材と、この基材の上に積層される中間層と酸化物超電導層と金属安定化層とを有する超電導積層体、の外面を覆う絶縁被覆層の全外面および全内面のうち、一方がフッ素樹脂で形成されるコーティング層で被覆されていた。また、このコーティング層が被覆された絶縁テープが前記超電導積層体に巻き付けられることにより前記絶縁被覆層が形成されていた。さらに、少なくとも1枚の前記絶縁テープが前記超電導積層体の全外面を覆うように巻き付けられていた。
すなわち、高温超電導線が幅広のテープ形状をしており、幅広方向と垂直な方向に対する応力(剥離応力)に弱いため、樹脂に対する離形処理を施したテープを巻き付けることで、樹脂が入り込んで超電導線材に付着したような場合でも、この付着した樹脂が超電導線材から容易に剥がれるようにして固定しつつ、超電導線材を保護していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記のように構成される高温超電導線の基本的な構造について、以下、
図1を用いて、詳しく説明する(例えば、非特許文献1参照)。
この
図1に示すように、高温超電導線は、全体として矩形平板状の形状を呈しており、幅Lw、例えば4mm、と比較して、厚さLtが0.17mmと十分小さくなっている。
また、
図1で基材1(以下、基板1とも呼ぶ)の上には超電導積層部材2が積層され、この基板1と超電導積層部材2の外周を銅メッキ材などで構成された安定化部材で覆っている。この安定化部材は、さらに絶縁部材層3を介して、2種類(2枚)の絶縁被覆層である絶縁テープで覆われている。2種類(2枚)の絶縁被覆層は、いずれもポリイミド製の絶縁テープで構成され(これら絶縁テープは、固定部材4および外側固定部材5とも呼ぶ。以下同様)、このうち少なくとも一方がフッ素樹脂で形成されるコーティング層で被覆されている。
これは、上述のように、高温超電導線が幅広のテープ形状をしており、線材の長手方向(以下、線材と並行な方向とも呼ぶ)である
図1のx方向と垂直なy方向(上記矩形平板状の面の法線方向)に対する応力(剥離応力)に弱いため、この剥離を防止するためである。また、少なくとも一方の絶縁テープをフッ素樹脂でコーティングするのは、絶縁テープを高温超電導線に固定するための接着剤である樹脂が、超電導線材に付着したような場合でも、この付着した樹脂が超電導線材から容易に剥がれるようにするためである(樹脂が付くと超電導線材の劣化に繋がるため)。
【0004】
また、従来の酸化物高温超電導線を用いた高温超電導コイルは、金属基板の表面に酸化物超電導層を形成したテープ状の高温超電導線材を用いて、この高温超電導線材が巻回されることにより、軸方向中心を貫通する空間を有するパンケーキ状に形成されたパンケーキコイルにおいて、軸方向の1対の端面を構成する巻線側面部の少なくとも一部を樹脂層で被覆することにより、高温超電導線材とテープを共巻きして、超電導層に働く剥離応力を軽減し、劣化しづらいコイルの製作を行っていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2013/187353号
【文献】特開2010-267887号公報
【0006】
【文献】M.Oya et al.,“Design and Manufacture of Half-Size 3-T High-Temperature Superconducting Magnet for MRI”, IEEE TRANSACTION ON APPLIED SUPER-CONDUCTIVITY, VOL.28, NO.3, APLIL, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、このような高温超電導線、あるいは高温超電導線を用いた高温超電導コイルにおいては、フッ素コーティングを施した絶縁層を、幅広線材に対して巻き付けることで、コイル化して固定する際の樹脂が超電導層に付着したような場合でも、この付着した樹脂が超電導層から容易に剥がれるようにしていた。この場合において、巻き付け時のギャップから樹脂が侵入することを避けるために被覆テープの一部を重ねながら巻くラップ巻きを採用していた。
また、上記特許文献2では、超電導線材に絶縁テープを共巻きしたコイルを、伝熱経路でもある伝熱部材を有する樹脂層で固定して、コイル形状を維持するようにしていた。
【0008】
しかしながら、ラップ巻きをすれば超電導線材間の距離が大きくなってしまい、コイルの電流密度が下がってしまう欠点がある。また、ラップ巻きでは、線材間距離も不均一になり新たな剥離応力源となりかねない、などの課題があった。また、絶縁テープ共巻き方式では、樹脂層にはラップ巻きでは必ずしも必要ではない伝熱部材を必要としていた。
【0009】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、超電導線材間の距離を小さくすることができ、所要のコイルの電流密度が確保できるとともに、超電導線材間距離も一定にできるため、新たな剥離応力源の発生を防止することができる超電導線およびこの超電導線で構成される超電導コイルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
平板状に形成された基板、
前記基板の上に配置され、中間層を介して超電導層が積層された超電導積層部材、
前記超電導積層部材に並行に配置される金属メッキ製の安定化部材、
樹脂に対する離形処理が施され、前記基板、前記超電導積層部材、および前記安定化部材を一体として積層した積層構造体の外周を覆う絶縁部材層、
前記絶縁部材層の外周を覆うようにギャップ巻きで巻き付けられ、前記超電導積層部材に前記絶縁部材層を固定するテープ状の固定部材、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本願に開示される高温超電導線によれば、コイル化して固定する際の接着用樹脂が超電導層に到達せず、接着用樹脂が超電導層に直接触れることが無い。また、高温超電導線の外周を覆う絶縁体である固定部材の厚みを実質的に小さくすることが可能になるため、超電導線材間の距離を小さくすることができ、所要のコイルの電流密度が確保できるとともに、超電導線材間距離も一定にできるため、新たな剥離応力源の発生を防止することができる超電導線およびこの超電導線で構成される超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願の課題を説明するための高温超電導線の構造例を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1に係る高温超電導線の構造例を説明するための斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る高温超電導線の構造例を説明するための上面図である。
【
図4】実施の形態1に係る高温超電導線の超電導層の積層構造を説明するための図である。
【
図5】実施の形態1に係るギャップ巻きを行った高温超電導線の一例を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態1に係るギャップ巻きを行った高温超電導線の他の例を示す斜視図である。
【
図7】実施の形態1に係る高温超電導線により形成された超電導コイルを説明するための斜視図である。
【
図8】実施の形態1に係る超電導コイルの部分構造の一例を説明するための上面図である。
【
図9】
図8の超電導コイルの部分構造の比較例を示す図である。
【
図10】実施の形態1に係る超電導コイルの部分構造の他の例を説明するための上面図である。
【
図11】実施の形態1に係る超電導コイルの部分構造の別の例を説明するための上面図である。
【
図12】実施の形態2に係る高温超電導線の一構造例を説明するための斜視図である。
【
図13】実施の形態2に係る高温超電導線の一構造例を説明するための上面図である。
【
図14】実施の形態2に係る高温超電導線の他の構造例を説明するための上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願の実施の形態1の高温超電導線および超電導コイルについて、上記
図1について説明した内容と比較しながら、以下、図を用いて詳しく説明する。
【0014】
実施の形態1.
図2は、実施の形態1に係る高温超電導線100の構成の一例を説明するための図である。以下、実施の形態1の高温超電導線100について、
図2を用いて詳しく説明する。なお、実施の形態1の高温超電導線100においては、矩形の筒状体である絶縁部材層3の外周を覆う固定部材4は1種類(1枚)であって、フッ素樹脂でコーティングされていなくても良い。言い換えると、本実施の形態では、固定部材は1つでよく、上述の2種類の固定部材(固定部材4、および外側固定部材5)が両方とも必要となることは無い。
【0015】
図2に示したように、実施の形態1に係る高温超電導線100は、全体として平板状であって、矩形の安定化部材6(例えば、銅メッキによって構成されている)の筒状部内(の空間)には、平板状の基板1、この基板1の上に超電導層と中間層を介して超電導層が積層された超電導積層部材2、およびフッ素加工により樹脂に対する離形処理がされた絶縁部材層3が一体化されて積層され(以下、積層構造体とも呼ぶ)、配置されている。
さらに、上記超電導積層部材2に安定化部材6を固定するため、上記絶縁部材層3の外周を覆うように、絶縁テープ(例えばポリイミド製)などのテープ状の固定部材4が、一定の大きさの隙間(
図2参照)を介して巻回される(以下、このような隙間を隔てた巻き方を簡略化してギャップ巻きと呼ぶ)。ここで、前記隙間は絶縁テープの幅方向に形成され、隙間の大きさは、例えば、ゼロ(隙間が無い)か、あるいは、絶縁テープ幅の5%程度の微小なサイズに設定される。
【0016】
次に、
図3は、実施の形態1に係る高温超電導線100の上面図である。すなわち、上記実施の形態1に係る高温超電導線100を上面から見た場合(
図2の矢印A方向に高温超電導線100を見た場合)の図が
図3である。
図3において、中空の矩形状の絶縁部材層3(例えば、厚さ20μm)の中空部分には、下側から順に、例えばNi合金製の基板1(例えば厚さ75μm)、超電導積層部材2、および安定化部材6が配置されている。
【0017】
以上のように高温超電導線100を構成することで、絶縁テープに対して、高温超電導線の長手方向であるx方向に対して直交する方向である
図2のy方向(高温超電導線の符号3を付した矩形面の法線方向)に加わる応力(剥離応力)を抑制し、ひいては、超電導積層部材2からの絶縁部材層3の剥がれを防止できる。
また、絶縁部材層3には離形処理が施されていることから、絶縁テープを固定するために使用した接着剤が超電導積層部材2に付着したような場合でも、離形効果により超電導積層部材に付着したままの状態になることを防止でき(離形効果により剥がれるため)、接着剤侵入による超電導層の性能劣化を防止できる。
【0018】
そして、上述の高温超電導線100を同心状に重ねて巻回して、上から見たときに(
図7の矢印A方向参照)ドーナツ状(例えば、外径が数100mm)に形成することで、例えばパンケーキ状の、超電導性能に優れた超電導コイル200を製作することが可能である(
図7参照)。
【0019】
この場合において、高温超電導線100の外周を覆う絶縁テープは隣り合う巻き線間で互いに重ならないように巻回して成形されている(この構造については、後程、詳しく
説明する)。
【0020】
次に、実施の形態1に係る高温超電導線100の超電導積層部材2の詳細構造について、
図4を用いて説明する。ここで、
図4は、超電導積層部材2の詳細構造を説明するための立体模式図である。
【0021】
図4に示したように、超電導積層部材2は、基板1と安定化部材6によって挟まれるように積層されており、基板1側に積層された中間層22と、安定化部材6側に積層された超電導層21とで構成されている。なお、基板1、超電導積層部材2、および安定化部材6が積層された積層構造体は、上述したように、矩形筒状の絶縁部材層3で周囲を覆われており、この絶縁部材層3は、さらに矩形筒状の固定部材4によって、その外周が覆われている。また、超電導層21として、例えば、酸化物超電導部材が採用される。
【0022】
そこで、上述のような高温超電導線100を超伝導コイルの線材として用いた場合の作用について、次に説明する。高温超電導線100においては、絶縁部材層3はフッ素加工されており、また、安定化部材6は超電導積層部材2に巻き付けずに並行に沿わせて配置されているため、コイル化して固定する際の接着用樹脂が超電導層21に到達せず、接着用樹脂が超電導層21に直接触れることが無い。
【0023】
従って、絶縁部材層3の外周を覆うように、配置されているテープ状の固定部材4(ここでは、例えば絶縁テープ)をギャップ巻きすることが可能になり、このため、後ほど詳しく説明するように、高温超電導線100の外周を覆う絶縁体である固定部材の厚みを実質的に小さくすることが可能になるため、超電導線材(超電導層)間の距離が大きくならず、結果として、上記高温超電導線100を用いた超電導コイルにおいて、所要の電流密度が確保できる。
【0024】
一方、先行技術においては、上述の課題において説明したように、被覆するテープの一部を重ねながら巻くラップ巻きをする必要があることから、超電導線材(超電導層)間の距離が大きくなり、超電導コイルにおいて、コイルの電流密度が下がってしまう結果となる。また、ラップ巻きでは、超電導線材(超電導層)間距離も不均一となるため、新たな剥離応力の発生源となりかねない恐れがある。
【0025】
そこで、次に、上述のギャップ巻きをした高温超電導線の具体例について、以下、図を用いて詳しく説明する。
【0026】
図5に、実施の形態1に係るギャップ巻きをした高温超電導線の一例である高温超電導線101の構造を斜視図で示す。ここでは、この高温超電導線101について、上述の高温超電導線100との相違点を中心に、以下説明する。
【0027】
高温超電導線101は高温超電導線100とほぼ同様の構造であるが、絶縁部材層3の外周に配置されているテープ状の固定部材の巻き付けの形態(巻き付けられた状態)が異なる。すなわち、高温超電導線101の固定部材4aは、隙間(隙間のサイズはwg。
図5参照)を持つギャップ巻きになっている点は高温超電導線100の固定部材4と同様であるが、当該隙間は、固定部材4aの幅wt以上のサイズ、すなわち、wg≧wtの関係の下で、絶縁部材層3の外周に巻き付けられている点が異なる。なお、隙間のサイズは、固定部材の幅の方向のサイズである。また、この場合、
図5に示した角度θは、固定部材が巻き付けられた複数の底辺を繋ぐ線と、1つの固定部材の巻き付け部分の長手方向とのなす角で定義され、例えば、60度から90度の間の値となっている。
【0028】
また、次の
図6には、実施の形態1に係るギャップ巻きをした高温超電導線の他の例である高温超電導線102の構造を斜視図で示す。この高温超電導線102も、高温超電導線101と同様、高温超電導線100とほぼ同様の構造であるが、絶縁部材層3の外周に配置されているテープ状の固定部材4bの巻き付けの形態(巻き付けられた状態)が異なっている。
具体的には、テープ状の固定部材4bの巻き付け位置と隙間位置との(左右の)配置関係が、上述の高温超電導線101と逆になっている点が、高温超電導線101と異なる。
【0029】
これらの高温超電導線101と高温超電導線102とを組み合わせて1組(セット)として用いて、当該1組単位で同心状に巻いて超電導コイル200aとして組み立てた場合(例えば
図7参照)、その超電導コイル200aの高温超電導線1組分の上面図は、
図8のように示される。
【0030】
この
図8において、2点鎖線で囲んだ下側部分が高温超電導線101に相当する部分であり、2点鎖線で囲んだ上側部分が高温超電導線102に相当する部分である。
ここで、図中のLs1は、隣接する2つの高温超電導線101、102の固定部材が互いに対向する部分の距離を示している。
なお、この場合には、固定部材の隙間wgと固定部材の幅wtとの関係は、wt>wgとなっている。
【0031】
上記超電導コイル200aに対する比較として、先行技術における高温超電導線(
図1参照)の1組分、すなわち、高温超電導線301と高温超電導線302の1組分の(同様の)上面図を
図9に示す。
【0032】
この場合には、高温超電導線301と高温超電導線302ともに、2種類の絶縁テープを安定化部材に巻回しているので、隣接する2つの高温超電導線301、302の絶縁テープが互いに対向する部分の距離は、図中に示したLs3で表される。
ここで、仮に、高温超電導線101、102の固定部材の厚さと、高温超電導線301、302の厚さが等しいと仮定すると、Ls3の大きさは上記Ls1の大きさの2倍になることが判る。
【0033】
従って、高温超電導線101と高温超電導線102の超電導層間の距離は、Ls3とLs1の差分であるLs1分だけ、高温超電導線301と高温超電導線302の超電導層間の距離より小さくでき、結果として、上記高温超電導線101、102をセットで用いた超電導コイルにおいては、高温超電導線301と高温超電導線302を用いた場合よりも、所要の電流密度が得やすくなることが判る。
【0034】
そこで、
図8に示したケースをさらに発展させ、例えば、高温超電導線101と高温超電導線102の双方において、固定部材の隙間wgと固定部材の幅wtとが等しい場合には、これらの高温超電導線101と高温超電導線102とを組み合わせて1組(セット)として用いて、当該1組単位で同心状に巻いて超電導コイル200bとして組み立てた場合、その超電導コイル200bの高温超電導線1組相当分の上面図は、
図10のようになることが判る。
【0035】
この場合においては、隣接する2つの高温超電導線101、102の固定部材が互いに対向する部分の距離はLs2となる(
図10参照)。この場合、Ls2は固定部材の厚さのサイズに等しくなるので、超電導コイル200bにおける超電導層間の距離は、超電導コイル200aにおける超電導層間の距離よりも、さらに小さくすることが可能となり、その結果、所要の電流密度が
図8に示したケースに比べ、さらにより得やすくなることが判る。
【0036】
なお、
図8においては、隣接する高温超電導線として、異なる2つの高温超電導線101、102を組み合わせて用いた超電導コイルについて説明したが、これに限らず、1種類の高温超電導線101を2つ組み合わせて用いた超電導コイル200c(
図11参照)であっても、
図8と同様、隣接する2つの高温超電導線101の固定部材が互いに対向する部分の距離はLs1となるため、
図8の超電導コイル200aと同様の効果を奏する。
【0037】
また、
図10においては、固定部材の隙間wgと固定部材の幅wtとが等しい場合であったが、これに限らず、固定部材(例えば絶縁テープ)を固定部材の幅wt以上のギャップを持って巻き(この場合、wg>wtとなる)、超電導コイル化する場合に固定部材が重ならないように固定部材の巻き付け位置を調整することにより、超電導コイル化した場合に、超電導層間の距離を小さくできる。言い換えると、超電導層の密度を上げることが可能となる。すなわち、このような超電導コイルにおいても、
図8で説明した超電導コイルと同様の効果を奏する。
【0038】
なお、フッ素加工された絶縁部材層が固定される条件においては、外周を覆う絶縁テープの隙間は大きいほど良く、好ましくは80%以上であることが好ましい。このような条件を満足する固定子の例として、例えば、超電導積層部材の厚さHt(
図3参照)と比べ、十分に細い糸状体を挙げることができる。具体的には、例えば糸状体の最大径をTdとして10Td≦Htである。
【0039】
なお、超電導コイルにおける線材位置の均一度向上のため、厚みを増したい箇所については、隣り合う線材の固定部材(絶縁テープ)が重なるように配置することも可能となり、超電導積層部材間の距離を微調整することも可能となる(超電導コイル200cを用いた場合。
図11参照)。
【0040】
実施の形態2.
実施の形態2の高温超電導線103について、実施の形態1の高温超電導線と異なる点を中心に、以下、図を用いて詳しく説明する。
【0041】
図12は、実施の形態2の高温超電導線103を説明するための斜視図である。
図12に示したように、実施の形態2の高温超電導線103は、実施の形態1の高温超電導線が備えていた絶縁テープで構成された固定部材を備えていない点が、実施の形態1の高温超電導線と最も異なる。本実施の形態では、超電導積層部材2と並行に安定化部材6が最初から接着により固定されているため、高温超電導線に対する絶縁処理を確実に行うことができる。言い換えれば、上述のギャップ巻きにおいて、隙間を100%にした場合と同様である。
【0042】
上記以外の異なる点として、実施の形態2の高温超電導線103の矩形筒状の絶縁部材層3の内部には、超電導積層部材2、安定化部材6以外に、超電導積層部材2と安定化部材6とを接着するための接着剤7(接着剤の層7)が構成されている点が異なる(
図13参照)。実施の形態2の高温超電導線103を巻回して形成された超電導コイルも実施の形態1の超電導コイルと同様の効果を奏する。
なお、絶縁部材層の外側部分は離形処理がなされている。絶縁部材層自体がコイル化された際に、隣接する超電導線材と接着されないようにするために、離形処理をする必要があるからである。
【0044】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。
例えば、以上の説明では、高温超電導線として、固定部材を用いた場合について説明したが、これに限らず、高温超電導線に対する絶縁処理を確実に行うため、絶縁部材層3を最初からに超電導層に固定しておいてもよい。これは、以上の説明において、絶縁テープの巻線間の隙間を100%にした場合とも言える。
【符号の説明】
【0045】
1 基板、2 超電導積層部材、3 絶縁部材層、4、4a、4b 固定部材(絶縁テープ)、5 外側固定部材、6 安定化部材(銅メッキ体)、7 接着剤、8 粘着性を有する絶縁テープ(粘着性絶縁テープ)、21 超電導層、22 中間層、100、101、102、103、104 高温超電導線、200 超電導コイル、200a、200b、200c 超電導コイル(部分)
【要約】
高温超電導線が、平板状に形成された基板(1)、基板(1)の上に積層された中間層(22)および超電導層(21)を有する超電導積層部材(2)、この超電導積層部材(2)に重ねて配置される金属メッキ製の安定化部材(6)、樹脂に対する離形処理が施され、基板(1)、超電導積層部材(2)、および安定化部材(6)を一体として積層した積層構造体の外周を覆う絶縁部材層(3)、絶縁部材層(3)の外周を覆うように巻き付けられ、超電導積層部材(2)に絶縁部材層(3)を固定するテープ状の固定部材(4)、を備えるようにした。