(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】光反応性組成物、光反応性組成物を用いた液晶セル、及び液晶セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 19/38 20060101AFI20240415BHJP
C09K 19/54 20060101ALI20240415BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20240415BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C09K19/38
C09K19/54 Z
G02F1/1337 520
G02F1/13 500
(21)【出願番号】P 2020531375
(86)(22)【出願日】2019-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2019028391
(87)【国際公開番号】W WO2020017622
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018136600
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097102
【氏名又は名称】吉澤 敬夫
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】川月 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】近藤 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】小野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 友之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一世
(72)【発明者】
【氏名】後藤 耕平
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008583(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/008581(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/102068(WO,A1)
【文献】特開2007-304215(JP,A)
【文献】国際公開第2017/102053(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/026272(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/102076(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/122457(WO,A1)
【文献】特開2014-097938(JP,A)
【文献】特開2010-285499(JP,A)
【文献】特開平11-153787(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195396(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216605(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009222(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180852(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 19/38
C09K 19/54
G02F 1/13
G02F 1/1334
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び
(B)低分子液晶;
を有する光反応性組成物
であって、
前記(A)化合物が下記式MCB2Aで表され、
前記(B)低分子液晶が、前記光反応性組成物中、前記光反応性組成物中の前記(A)化合物の配向性にしたがって配向する、上記光反応性組成物。
【化1】
【請求項2】
(A)光反応性化合物と(B)低分子液晶との重量比((A)光反応性化合物:(B)低分子液晶)が0.3:99.7~15:85である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の光反応性組成物を有して形成される液晶セル。
【請求項4】
請求項
3記載の液晶セルを有する液晶素子。
【請求項5】
I)(A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び(B)低分子液晶;を有する光反応性組成物をセルに封入する工程;
II)前記(B)低分子液晶が等方相となる温度に前記セルを昇温する工程;
III)昇温した状態のセルに偏光照射する工程;及び
IV)昇温状態のセルを室温まで徐冷する工程;
を有することにより、液晶セルが形成される液晶セルの製造方法
であって、
前記(A)化合物が下記式MCB2Aで表される、上記製造方法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光反応性組成物、光反応性組成物を用いた液晶セル、及び液晶セルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の液晶表示素子は、高分子分散型液晶(Polymer Dispersed Liquid Crystal、PDLC)などの一部の素子を除いて、液晶を均一配向させるために配向処理を施した液晶配向膜を用いている(非特許文献1)。液晶配向膜の配向処理は液晶配向膜を塗布した後に、一般的にはラビング処理と呼ばれる、布を巻きつけたローラーで膜表面を擦る手法がとられているが、本手法は膜表面を物理的に擦る手法であるため、ラビングによる傷や削れカスが液晶表示素子の表示性能を低下させる問題点がある。さらに、この配向処理には、液晶配向膜形成工程、液晶配向処理工程、液晶配向膜の洗浄工程と数多くの工程を経る必要があり、製造工程を煩雑化していた。
そのため、該液晶配向膜を用いずに、液晶の配向性が制御できる液晶セルが作製できるとプロセス面及びコスト面で大きなメリットとなる。
【0003】
実際に、液晶配向膜を用いずに、光学素子及び表示素子を提供できる光反応性液晶組成物を、特許文献1は開示する。特許文献1開示の光反応性液晶組成物は、(A)(A-1)光架橋及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる光反応性側鎖を有する光反応性高分子液晶;及び(B)低分子液晶;を有する。該組成物をセルに注入し、偏光紫外線を照射することにより、(A)光反応性高分子液晶及び(B)低分子液晶が配向性を示し、光学素子及び/又は表示素子を提供することができる。また、特許文献2では、(A)シロキサン骨格を備え且つ光反応性基を有する光反応性化合物;及び(B)低分子液晶;を有する光反応性液晶組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1開示の光反応性液晶組成物は、(A)光反応性高分子液晶と(B)低分子液晶との均一混合性が良好ではない場合が生じる。特に、(A)光反応性高分子液晶の量を多くすると、(B)低分子液晶との均一混合性が低下し、光反応性液晶組成物自体が製造できないという問題、ひいては光学素子及び/又は表示素子が提供できないという問題が生じる。
また特許文献2開示の光反応性液晶組成物は、均一な液晶配向を実現するためには(A)シロキサン骨格を備えた光反応性化合物の混合量を5重量%以上とする必要があり、製造コストが増加する問題がある。また、配向処理のための紫外線照射後に光反応性化合物が残存することで、表示特性に悪影響を与える問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2015/114864A1号公報。
【文献】WO2017-195396A1号公報。
【非特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、液晶配向膜を用いずに、液晶の配向性を液晶バルク内で制御して得られる液晶セルを作製するための光反応性組成物を提供することにある。
また、本発明の目的は、光反応性組成物に用いる(B)低分子液晶との均一混合性が高く、その混合量が少ない場合においても、液晶配向膜を用いずに、(B)低分子液晶が均一に配向できる光反応性化合物を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記目的に加えて、又は上記目的以外に、光反応性組成物を有する液晶セルの製造方法、液晶配向膜を用いずに、液晶の配向性を液晶バルク内で制御して得られる素子、具体的には表示素子及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下の発明を見出した。
<1> 少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物。
<2> 上記<1>において、光反応性部位は、ケイ皮酸由来の基を有するのがよい。
【0009】
<3> 上記<2>において、ケイ皮酸由来の基を有する光反応性部位は、下記一般式(I)
(式中、A、Bはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH2-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す。
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す。
Y1は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR0(式中、R0は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO2、-CN、-CH=C(CN)2、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い。
lは1~12、好ましくは2~6の整数を表す。
mは、0~2の整数を表す。
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す。
P、Qは炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基を表し、s、tは0~4の整数を表す。)
で表されるのがよい。
【0010】
【0011】
<4> 上記<1>~<3>のいずれかにおいて、少なくとも1つの重合性基が(メタ)アクリレート基であるのがよい。
<5> 上記<1>~<4>のいずれかにおいて、化合物が下記式MCB2Aで表される化合物であるのがよい。
【0012】
【0013】
<6> (A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び
(B)低分子液晶;
を有する光反応性組成物。
<7> 上記<6>において、光反応性部位は、ケイ皮酸由来の基を有するのがよい。
<8> 上記<7>において、ケイ皮酸由来の基を有する光反応性部位は、上記一般式(I)(式中、A、B、X、Y1、l、m、n、P、Q、s、tは上記と同じ定義を有する)で表されるのがよい。
【0014】
<9> 上記<6>~<8>のいずれかにおいて、少なくとも1つの重合性基が(メタ)アクリレート基であるのがよい。
<10> 上記<6>~<9>のいずれかにおいて、(A)化合物が上記式MCB2Aで表されるのがよい。
【0015】
<11> (A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び
(B)低分子液晶;
を有する光反応性組成物を有して形成される液晶セル。
なお、「(A)化合物」、「(B)低分子液晶」及び「光反応性組成物」は上記と同じ定義を有する。
【0016】
<12> 上記<11>記載の液晶セルを有する液晶素子。
<13>
I)(A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び(B)低分子液晶;を有する光反応性組成物をセルに封入する工程;
II)前記(B)低分子液晶が等方相となる温度に前記セルを昇温する工程;
III)昇温した状態のセルに偏光照射する工程;及び
IV)昇温状態のセルを室温まで徐冷する工程;
を有することにより、液晶セルが形成される液晶セルの製造方法。
なお、「(A)化合物」、「(B)低分子液晶」及び「光反応性組成物」は上記と同じ定義を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、液晶配向膜を用いずに、液晶の配向性を液晶バルク内で制御して得られる液晶セルを作製するための光反応性組成物を提供することができる。
また、本発明により、上記効果に加えて、光反応性組成物に用いる(B)低分子液晶との均一混合性が高く、その混合量が少ない場合においても、液晶配向膜を用いずに、(B)低分子液晶が均一に配向できる光反応性化合物を提供することができる。
さらに、本発明により、上記効果に加えて、又は上記効果以外に、光反応性組成物を有する液晶セルの製造方法、液晶配向膜を用いずに、液晶の配向性を液晶バルク内で制御して得られる素子、具体的には表示素子及び光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1の液晶セルZ-1中の石英基板の偏光UV-vis吸収スペクトルを示す図である。
図1中、実線は、液晶セルに照射した偏光紫外線の偏光電界に対して平行な方向の吸収スペクトルを、点線は、垂直な方向の吸収スペクトルを示す。
【
図2】実施例2の液晶セルZ-2中の石英基板の偏光UV-vis吸収スペクトルを示す図である。
図2中、実線は、液晶セルに照射した偏光紫外線の偏光電界に対して平行な方向の吸収スペクトルを、点線は、垂直な方向の吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本願は、光反応性化合物、光反応性組成物、光反応性組成物を用いた液晶セル、及び液晶セルの製造方法を提供する。
以下、順に説明する。
<光反応性化合物>
本発明の光反応性化合物は、少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有する化合物であって、該重合性基により重合して得られたポリマーが液晶性を示す化合物である。
なお、本願において、「重合性基により重合して得られたポリマー」又は「重合性基が重合したポリマー」の「ポリマー」とは、光反応性化合物をモノマーとし、該光反応性化合物の「重合性基」の重合反応により、該モノマーが2以上重合したものをいい、いわゆる2量体以上のもの、いわゆるオリゴマーも含む。
<<光反応性部位>>
光反応性部位は、(A-1)光架橋、及び(A-2)光異性化からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応を生じる部位であるのがよい。
【0020】
光反応性部位の構造は、特に限定されないが、上記(A-1)及び/又は(A-2)に示す反応を生じる構造を有し、(A-1)光架橋反応を生じる構造を有するのが好ましい。(A-1)光架橋反応を生じる構造は、その反応後の構造が、熱などの外部ストレスに曝されたとしても、光反応性化合物の配向性を長期間安定に保持できる点で好ましい。
光反応性部位となる光反応性基として、下記構造及びその誘導体を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0021】
【0022】
光反応性化合物は、i)250nm~400nmの波長範囲の光で反応し、かつ重合性基が重合したポリマーが50~300℃の温度範囲で液晶性を示すのがよい。
光反応性化合物は、ii)250nm~400nmの波長範囲の光、特に偏光紫外線に反応する光反応性基を有することが好ましい。
光反応性化合物は加熱などで重合した場合、iii)50~300℃の温度範囲で液晶性を示し、かつ液晶の配向を安定させることができるためメソゲン基を有することが好ましい。
【0023】
メソゲン成分として、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルベンゾエート基、アゾベンゼン基などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0024】
光反応性化合物の重合性基の構造として、例えば、(メタ)アクリレート、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができるがこれに限定されない。
【0025】
光反応性部位は、ケイ皮酸由来の基を有するのがよい。
ここで、ケイ皮酸由来の基を有する光反応性部位は、下記一般式(I)で表されるのがよい。
【0026】
【0027】
一般式(I)中、A、Bはそれぞれ独立に、単結合、-O-、-CH2-、-COO-、-OCO-、-CONH-、-NH-CO-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す。
Xは、単結合、-COO-、-OCO-、-N=N-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH=CH-CO-O-、又は-O-CO-CH=CH-を表す。
Y1は、1価のベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環、フラン環、ピロール環および炭素数5~8の脂環式炭化水素から選ばれる環を表すか、それらの置換基から選ばれる同一又は相異なった2~6の環が結合基Bを介して結合してなる基であり、それらに結合する水素原子はそれぞれ独立に-COOR0(式中、R0は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す)、-NO2、-CN、-CH=C(CN)2、-CH=CH-CN、ハロゲン基、炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基で置換されても良い。
lは1~12、好ましくは2~6の整数を表す。
mは、0~2の整数を表す。
nは0~12の整数(ただしn=0のときBは単結合である)を表す。
P、Qは炭素数1~5のアルキル基、又は炭素数1~5のアルキルオキシ基を表し、s、tは0~4の整数を表す。
【0028】
<<少なくとも1つの重合性基>>
本発明の光反応性化合物は、少なくとも1つの重合性基を有する。ここで「重合性基」とは、熱や光によって成長活性種となって、連鎖的に反応を進めることができる基をいう。
重合性基として、例えば、(メタ)アクリレート基、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレン、ビニル、マレイミド、ノルボルネン等のラジカル重合性基およびシロキサンからなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができるがこれらに限定されない。少なくとも1つの重合性基は、好ましくは(メタ)アクリレート基、イタコネート、フマレート、マレエート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレンからなる群から選択される少なくとも1種であるのがよく、より好ましくは(メタ)アクリレート基、イタコネート、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、スチレンからなる群から選択される少なくとも1種であるのがよい。さらに好ましくは、前述の工程II)(詳細は後述する)の(B)低分子液晶が等方相となる温度に加熱する工程で重合が進行する重合性基が良く、(メタ)アクリレートであるのが良い。
【0029】
<<液晶性>>
本発明の光反応性化合物は、少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有する化合物であり、該重合性基により重合して得られたポリマーが液晶性を示す。ここで「液晶性」とは、ある温度で液晶状態となる性質をいう。
【0030】
本発明の光反応性化合物は、下記式MCB2Aで表される化合物であるのがよい。
【0031】
【0032】
<光反応性組成物>
本願は、光反応性組成物を提供する。
本発明の光反応性組成物は、(A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び(B)低分子液晶;を有する。
なお、(A)化合物は、上述の「光反応性化合物」であり、詳細は上述したとおりである。
【0033】
<<(B)低分子液晶>>
本発明の光反応性組成物に含まれる(B)低分子液晶は、従来、液晶表示素子などに用いられているネマチック液晶や強誘電性液晶などをそのまま用いることができる。
具体的には、(B)低分子液晶として、4-シアノ-4’-n-ペンチルビフェニル、4-シアノ-4’-n-フェプチロキシビフェニル等のシアノビフェニル類;コレステリルアセテート、コレステリルベンゾエート等のコレステリルエステル類;4-カルボキシフェニルエチルカーボネート、4-カルボキシフェニル-n-ブチルカーボネート等の炭酸エステル類;安息香酸フェニルエステル、フタル酸ビフェニルエステル等のフェニルエステル類;ベンジリデン-2-ナフチルアミン、4’-n-ブトキシベンジリデン-4-アセチルアニリン等のシッフ塩基類;N,N’-ビスベンジリデンベンジジン、p-ジアニスアルベンジジン等のベンジジン類;4,4’-アゾキシジアニソール、4,4’-ジ-n-ブトキシアゾキシベンゼン等のアゾキシベンゼン類;以下に具体的に示すフェニルシクロヘキシル系、ターフェニル系、フェニルビシクロヘキシル系などの液晶;などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
本発明の光反応性組成物において、(A)光反応性化合物と(B)低分子液晶との重量比((A)光反応性化合物:(B)低分子液晶)は、0.3:99.7~15:85、好ましくは0.5:99.5~10:90、より好ましくは0.7:99.3~7:93であるのがよい。
(A):(B)における(A)の比率が、上記範囲であると、i)液晶を配向させるために必要な配向性基の量が確保できる、ii)均一な液晶配向を得ることができる、iii)光反応性化合物(A)が偏光紫外線で反応した後の高分子マトリックスの密度が所望の値となる、iv)電圧を印可した際の低分子液晶(B)が所望の応答を行う、などの点で良い。
【0038】
本発明の光反応性組成物は、上述した(A)光反応性化合物;及び(B)低分子液晶;以外の成分を含んでもよい。
そのような「他の成分」として、光反応性を示さない重合性基を少なくとも1つ有する重合性化合物、ヒンダートアミンやヒンダートフェノールなどの光酸化防止剤などを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0039】
<光反応性組成物を有して形成される液晶セル、及び該液晶セルの製造方法>
本発明は、上述の光反応性組成物を有して形成される液晶セル及びその製造方法を提供する。
本発明の液晶セルは、セルに上記の光反応性組成物を充填して形成することができる。
具体的には、本発明の液晶セルは、次の工程により製造することができる。
本発明の液晶セルの製造方法は、
I)(A)少なくとも1つの重合性基、及び光反応性部位を有し、重合性基が重合したポリマーが液晶性を有する化合物;及び(B)低分子液晶;を有する光反応性組成物をセルに封入する工程;
II)前記(B)低分子液晶が等方相となる温度に前記セルを昇温する工程;
III)昇温した状態のセルに偏光照射する工程;及び
IV)昇温状態のセルを室温まで徐冷する工程;
を有することにより、液晶セルが形成される。
【0040】
I)工程は、上述の光反応性組成物をセルに封入する工程である。
セルは、平行離間配置された基体間に形成される空間として提供される。
平行離間配置された基体の少なくとも一方は、後述の偏光を照射するため、該偏光を透過する基体からなる。
基体は、後述の偏光を照射するため、該偏光を透過する基体であり、上記II)工程での昇温温度に耐性があれば特に限定されないが、例えば、ガラス;アクリルやポリカーボネート、PET、ポリアミド、ポリイミド等のプラスチック等;を用いることができる。基体は、形成する液晶セルに依存して、可撓性を有してもよい。
【0041】
基体は、形成する液晶セルに依存して、空間側に、種々の膜、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエーテル、ポリエチレン、PET、ポリアミド、ポリイミド、アクリル、ポリカーボネート、ポリウレアなどから形成される膜を形成してもよい。
なお、ここで用いる膜は、例えば、次のような作用を奏するのがよい。即ち、後述のII)工程において、(A)光反応性化合物の光反応を誘起するためには、(A)光反応性化合物の分子長軸が偏光を吸収するように、該(A)光反応性化合物を液晶セル内に配置するのがよい。また、光反応性化合物の光反応を効率良く進行させるためには、偏光紫外光の入射光の方向が、(A)光反応性化合物の分子長軸の方向と垂直に近くなるように、偏光紫外光を露光するのがよい。
例えば、偏光紫外光を該液晶セルの法線方向から露光する場合、光反応性組成物中の(A)光反応性化合物の分子長軸が基体面と水平な方向に配置させるのがよく、基体が有する膜はそのような膜であれば材料に限定されない。
また、(A)光反応性化合物の分子長軸が、上述の基体面と水平な方向ではない場合には、該分子長軸の配置状態に合わせて、偏光紫外光の入射角を決めるのがよい。
【0042】
II)工程は、(B)低分子液晶が等方相となる温度にセルを昇温する工程である。
「等方相」とは、低分子液晶が透明点を超え、液体となった状態のことをいう。
等方相となる温度は、用いる(B)低分子液晶に依存するが、例えば、(B)低分子液晶がメルク株式会社製のZLI-4792であれば、昇温温度は、93℃以上であるのが好ましい。また、(B)低分子液晶が等方相となる温度が(A)光反応性化合物の重合性基が反応し得る温度の場合、重合した(A)光反応性化合物が基板界面に堆積することで、III)工程における偏光光反応の効率が向上し、低分子液晶の配向が良化するため好ましい。
【0043】
III)工程は、昇温した状態のセルに偏光照射する工程である。
偏光は、用いる(A)光反応性化合物、用いる(B)低分子液晶、用いる基板などに依存するが、波長100nm~400nmの範囲の偏光紫外線を使用することができる。好ましくは、使用する塗膜の種類によりフィルター等を介して最適な波長を選択する。そして、例えば、選択的に光架橋反応を誘起できるように、波長290nm~400nmの範囲の偏光紫外線を選択して使用することができる。紫外線としては、例えば、高圧水銀灯から放射される光を用いることができる。
【0044】
(B)低分子液晶が等方相となる温度で偏光紫外線を照射すると、液晶セル内で、次のようなメカニズムが生じるものと考えられる。即ち、液晶セル内の(A)光反応性化合物は、該偏光紫外線に応じた配向性を有することとなる。
また、(B)低分子液晶は、(A)光反応性化合物の配向性にしたがって、配向する。
これにより、(A)光反応性化合物及び(B)低分子液晶は、偏光紫外線に応じて、配向性を有することとなる。(B)低分子液晶が等方相となる温度の場合、液晶の複屈折や散乱による偏光紫外線の偏光状態への悪影響が抑制され、(A)光反応性化合物に所望の偏光光反応を誘起できる。また、(B)低分子液晶の等方相となる温度が、(A)光反応性化合物が重合する温度より高い場合、重合した(A)光反応性化合物が基板界面に堆積するため、上述したように重合した(A)光反応性化合物の偏光光反応の効率が向上するため好ましい。
【0045】
IV)工程は、昇温状態のセルを室温まで徐冷する工程である。
用いる(A)光反応性化合物、用いる(B)低分子液晶などに依存するが、(A)光反応性化合物と(B)低分子液晶を混合した光反応性組成物は、徐冷の際、自己組織的に偏光紫外線の露光方向に平行、又は直交方向に配向することで、(B)低分子液晶の配向性が向上する。このような工程を用いることにより、(B)低分子液晶が一軸に配向した液晶素子を作成することができる。また、(B)低分子液晶の等方相となる温度が、(A)光反応性化合物が重合する温度より高い場合、重合した(A)光反応性化合物が基板界面に堆積すると共に液晶状態となっているため、より効率よく自己組織的に偏光紫外線の露光方向に平行、又は直交方向に配向することで、(B)低分子液晶の配向性がさらに向上するため、好ましい。
本発明の液晶セルの製造方法は、上記I)~IV)工程を有するが、上記工程以外の工程を設けてもよい。例えば、IV)工程後に再度、液晶セルを(B)低分子液晶が等方相となる温度まで昇温し、その状態のセルに無偏光紫外線を照射する工程を設けることができる。
【0046】
上記方法などにより、本発明の光反応性組成物から得られた液晶セルは、種々の光学素子に用いることができ、例えば表示素子、光学素子や調光素子などに用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0048】
(合成例1)
<化合物MCB2Aの合成>
【0049】
【0050】
三口フラスコに4,4’-ビフェノール62.0g(0.33mol)、エタノール、水酸化カリウム22gを加え、1,2-ジブロモエタン55.1g(0.29mol)を加えた後、75℃で18時間加熱攪拌した。反応終了後、反応溶液をろ過し、減圧留去した。得られた白色固体を水酸化ナトリウムで洗浄し、その後、pHが7になるまで水洗した。回収した白色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーと再結晶により精製することで化合物(A)を得た。
続いて、三口フラスコに化合物(A)2.9g(9.7mmol)、アクリル酸リチウム0.9g(11.8mmol)とHMPAを加え、40℃で48時間加熱攪拌した。反応終了後、1Lの水に反応液を滴下することで白色個体を析出させた。得られた白色固体をろ過分別し、水で洗浄することで化合物(B)を得た。
その後、三口フラスコ中で化合物(B)3.0gをTHFに溶解させ、トリエチルアミン1.9g(18.7mmol)を加えた。続いて、4-メトキシ桂皮酸クロリドを氷浴中で滴下し、48時間室温で攪拌した後、溶媒を減圧留去することで白色個体を得た。得られた白色個体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーと再結晶により精製し、化合物MCB2Aを得た。
【0051】
(実施例1)
上記式MCB2Aで表される化合物1重量部に対して、ZLI-4792(メルク株式会社製)99重量部を混合して、光反応性組成物X-1を調製した。
光反応性組成物X-1はZLI-4792に対するMCB2Aの析出も見られず、均一に混合されていることを確認した。
【0052】
光反応性組成物X-1の調製とは別に、セルを調製した。
基板の両面にITOを備えるガラス基板(2×1.5cm)2枚を用意し、ITOが向かい合うように且つ基板間の離間距離が6μmとなるように6μmの粉末スペーサーを用いて、該基板を平行配置し、セルを作製した。
作製したセルに光反応性組成物X-1をキャピラリー法により注入した。
その後、セルを100℃まで昇温し、該昇温度で維持した状態で、高圧水銀ランプを用いて313nmの直線偏光紫外線(10mW/cm2)を0.2J/cm2照射した。
光照射後、室温まで20℃/minで徐冷し、液晶セルY-1を得た。
【0053】
<光反応性組成物の配向状態>
Y-1作製後、偏光顕微鏡観察によって、室温における低分子液晶の配向状態を確認したところ、均一に配向していることを確認した。即ち、液晶セルの光学軸が偏光子と検光子に対して45度傾いた場合に明状態となり、偏光子と検光子のいずれかに対して、0度か90度に配置された場合に暗状態となることから、液晶セル内の低分子液晶が一軸に配向していることが分かった。
【0054】
<基板上に形成された光反応性化合物由来の重合体の配向状態>
石英基板(2×1.5cm)2枚を用いて、上記Y-1と同様の方法で液晶セルZ-1を作成した後、得られた液晶セルZ-1を解体し、ヘキサンで洗浄した後、液晶セルZ-1中の石英基板の偏光UV-vis吸収スペクトルを測定した。結果を
図1に示す。
図1から、250nm付近をピークとする、液晶セルに照射した偏光紫外線の偏光電界に対して平行な方向の吸収スペクトル(実線)と垂直な方向の吸収スペクトル(点線)とから、セル化後に(A)光反応性化合物からポリマーが形成され、該ポリマーが異方性を有する膜の状態で基板上に存在していることが分かる。この結果、均一な液晶の配向が得られることが分かる。
【0055】
(実施例2)
上記式MCB2Aで表される化合物0.9重量部に対して、ZLI-4792(メルク株式会社製)99重量部、下記式に示すEGDA0.1重量部、及びIRGACURE 819(BASF社製)0.01重量部を混合して、光反応性組成物X-2を調製した。
【0056】
【0057】
光反応性組成物X-2はZLI-4792に対するMCB2Aの析出も見られず、均一に混合されていることを確認した。
【0058】
実施例1と同じように作製したセルに、実施例1と同様に、光反応性組成物X-2を注入し、実施例1と同様に、昇温、直線偏光紫外線照射し、徐冷することにより、液晶セルY-2を得た。ただし、直線偏光紫外線照射は、実施例1での「313nmの直線偏光紫外線(10mW/cm2)を0.2J/cm2」照射した代わりに、「405nmの直線偏光紫外線(10mW/cm2)を18J/cm2」照射した。
【0059】
<光反応性組成物の配向状態>
Y-2作製後、実施例1と同様に、偏光顕微鏡観察によって、室温における低分子液晶の配向状態を確認したところ、均一に配向していることを確認した。
即ち、液晶セルの光学軸が偏光子と検光子に対して45度傾いた場合に明状態となり、偏光子と検光子のいずれかに対して、0度か90度に配置された場合に暗状態となることから、液晶セル内の低分子液晶が一軸に配向していることが分かった。
【0060】
<基板上に形成された光反応性化合物由来の重合体の配向状態>
石英基板(2×1.5cm)2枚を用いて、上記Y-2と同様の方法で液晶セルZ-2を作成した後、得られた液晶セルZ-2を解体し、ヘキサンで洗浄した後、液晶セルY-2中の石英基板の偏光UV-vis吸収スペクトルを測定した。結果を
図2に示す。
図2から、250nm付近をピークとする、液晶セルに照射した偏光紫外線の偏光電界に対して平行な方向の吸収スペクトル(実線)と垂直な方向の吸収スペクトル(点線)とから、セル化後に(A)光反応性化合物からポリマーが形成され、該ポリマーが異方性を有する膜の状態で基板上に存在していることが分かる。この結果、均一な液晶の配向が得られることが分かる。
【0061】
(比較例1)
下記式で表されるSi-1化合物2重量部に対して、ZLI-4792(メルク株式会社製)98重量部を混合して、光反応性組成物X-3を調製した。
【0062】
【0063】
光反応性組成物X-3はZLI-4792に対するSi-1の析出も見られず、均一に混合されていることを確認した。
実施例1と同じように作製したセルに、実施例1と同様に、光反応性組成物X-3を注入し、実施例1と同様に、昇温、直線偏光紫外線照射し、徐冷することにより、液晶セルY-3を得た。ただし、直線偏光紫外線照射は、実施例1での「313nmの直線偏光紫外線(10mW/cm2)を0.2J/cm2」照射した代わりに、「313nmの直線偏光紫外線(50mW/cm2)を500mJ/cm2」照射した。
Y-3作製後、実施例1と同様に、偏光顕微鏡観察によって、室温における低分子液晶の配向状態を確認したところ、液晶の配向は誘起できるが、欠陥などの配向不良が多数見られ、配向が均一でないことが分かった。すなわち、Si-1を用いた場合、ZLI-4792に対する混合量が2重量部とMCB2Aより多いにも関わらず、液晶セルの配向性はMCB2Aよりも著しく劣っていることが分かる。