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特許7471584荷電粒子照射装置、システム、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】荷電粒子照射装置、システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H05F 3/04 20060101AFI20240415BHJP
   H01T 19/04 20060101ALI20240415BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H05F3/04 J
H01T19/04
H01T23/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019222359
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021093269
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000106900
【氏名又は名称】シシド静電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】金 天海
(72)【発明者】
【氏名】高木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】久保 勝也
(72)【発明者】
【氏名】金田 優希
(72)【発明者】
【氏名】山口 晋一
(72)【発明者】
【氏名】日吉 功
(72)【発明者】
【氏名】竹内 隆一
(72)【発明者】
【氏名】永田 秀海
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-086338(JP,A)
【文献】特表2018-500723(JP,A)
【文献】特開2017-027848(JP,A)
【文献】特開2003-217892(JP,A)
【文献】特開2016-173686(JP,A)
【文献】特開2018-073276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00 - 23/00
H05F 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射装置であって、
荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、
帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、
前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、
前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、
選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備え
前記推定帯電状態は、制御パラメータに対応する帯電状態の時間変化量である、荷電粒子照射装置。
【請求項2】
前記荷電粒子照射装置は、さらに、
所定の設定照射時間の間、前記照射前状態検出部、前記推定帯電状態生成部、前記選択部及び前記照射部を順に動作させ、それにより、複数の前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、切替部を備える、請求項1に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項3】
前記制御量は、前記照射部において荷電粒子照射のために印加される電圧である、請求項1に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項4】
前記制御パラメータは、前記照射部において荷電粒子照射のために印加される電圧のデューティ比である、請求項3に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項5】
前記荷電粒子照射装置は、さらに、
前記照射前帯電状態が、前記目標帯電状態と一致するか又は近傍した場合には、電気的に中性の荷電粒子を前記帯電物へと照射する、維持照射部を備えた請求項1に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項6】
前記帯電物の帯電状態は、前記帯電物の電位又は電流である、請求項1に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項7】
前記学習済モデルは、木構造を利用した学習モデルを機械学習することにより得られた学習済モデルである、請求項1に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項8】
前記荷電粒子照射装置は、さらに、
前記照射部により荷電粒子を照射した後、所定時間経過後の前記帯電物の帯電状態である照射後帯電状態を検出する、照射後状態検出部と、
前記照射前帯電状態と、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータと、前記照射後帯電状態とに基づいて機械学習を行い、前記学習済モデルを更新する、機械学習部と、を備える請求項1に記載の荷電粒子照射装置。
【請求項9】
帯電物に対して荷電粒子を照射する除電装置であって、
荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、
帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、
前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、
前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、
選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備え
前記推定帯電状態は、制御パラメータに対応する帯電状態の時間変化量である、除電装置。
【請求項10】
帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射システムであって、
荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、
帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、
前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、
前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、
選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備え
前記推定帯電状態は、制御パラメータに対応する帯電状態の時間変化量である、荷電粒子照射システム。
【請求項11】
帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射装置の制御方法であって、
前記荷電粒子照射装置は、
帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルを備え、
前記制御方法は、
荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出ステップと、
前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成ステップと、
前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択ステップと、
選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射ステップと、を備え
前記推定帯電状態は、制御パラメータに対応する帯電状態の時間変化量である、荷電粒子照射装置の制御方法。
【請求項12】
コンピュータを、
帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射装置であって、
荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、
帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、
前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、
前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、
選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備え
前記推定帯電状態は、制御パラメータに対応する帯電状態の時間変化量である、荷電粒子照射装置、として機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、帯電物に対してイオン等の荷電粒子を照射する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、イオン等の荷電粒子を照射する技術が普及している。一例として、静電気の除電装置がある。除電装置とは、コロナ放電等により正又は負に帯電したイオンを帯電物に対して照射することで、帯電電荷を中和する装置である(例えば、特許文献1)。除電装置は、電子デバイス、液晶又は半導体等を始めとする様々な製品の製造工程において利用されており、対象製品の歩留まり向上等に寄与している。また、荷電粒子を照射する技術は、除電装置以外でも、半導体プロセスや薄膜プロセス等様々な場面において利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-205815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、荷電粒子を照射する技術を利用したこの種の装置においては、処理の効率性と確実性の観点から、対象となる帯電物を可能な限り迅速に目標とする帯電状態へと遷移させることが望ましい。
【0005】
しかしながら、従前、この種の装置においては、単に作業開始時に設定した所定の条件で帯電物に対して荷電粒子を照射することが行われていた。そのため、必ずしも最適条件で荷電粒子の照射が行われておらず、迅速に目標とする帯電状態へと遷移させることができていなかった。
【0006】
目標とする帯電状態へと迅速に遷移させるため、対象となる帯電物の帯電状態を検出して所定のフィードバック制御を行い荷電粒子の照射を制御することも考えられる。しかしながら、フィードバック制御を行えば、外乱等により対象となる帯電物の帯電状態に急激な変動等が生じた場合には制御が発散してしまうおそれがあり、その結果、対象物の意図しない帯電等を惹起するおそれがあった。このような制御の発散を防止するためには、制御周期を大きくして制御速度を抑制することも考え得るが、制御周期を大きくすれば応答性が犠牲となり、結局、目標とする帯電状態への迅速な遷移を実現することができない。
【0007】
本発明は、上述の技術的課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、所定の帯電状態にある帯電物を迅速に目標帯電状態へと近付けることが可能な荷電粒子照射装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術的課題は、以下の構成を有する荷電粒子照射装置等により解決することができる。
【0009】
すなわち、本実施形態に係る荷電粒子照射装置は、帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射装置であって、荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備えている。
【0010】
このような構成によれば、目標帯電状態に最も近い推定帯電状態に対応する制御パラメータに基づいて前記帯電物へと荷電粒子を照射するので、所定の帯電状態にある帯電物を迅速に目標帯電状態へと近付けることが可能となる。
【0011】
前記荷電粒子照射装置は、さらに、所定の設定照射時間の間、前記照射前状態検出部、前記推定帯電状態生成部、前記選択部及び前記照射部を順に動作させ、それにより、複数の前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、切替部を備える、ものであってもよい。
【0012】
前記制御量は、前記照射部において荷電粒子照射のために印加される電圧であってもよい。
【0013】
前記制御パラメータは、前記照射部において荷電粒子照射のために印加される電圧のデューティ比であってもよい。
【0014】
前記推定帯電状態は、制御パラメータに対応する帯電状態の時間変化量であってもよい。
【0015】
前記荷電粒子照射装置は、さらに、前記照射前帯電状態が、前記目標帯電状態と一致するか又は近傍した場合には、電気的に中性の荷電粒子を前記帯電物へと照射する、維持照射部を備えてもよい。
【0016】
前記帯電物の帯電状態は、前記帯電物の電位又は電流であってもよい。
【0017】
前記学習済モデルは、木構造を利用した学習モデルを機械学習することにより得られた学習済モデルであってもよい。
【0018】
前記荷電粒子照射装置は、さらに、前記照射部により荷電粒子を照射した後、所定時間経過後の前記帯電物の帯電状態である照射後帯電状態を検出する、照射後状態検出部と、前記照射前帯電状態と、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータと、前記照射後帯電状態とに基づいて機械学習を行い、前記学習済モデルを更新する、機械学習部と、を備えてもよい。
【0019】
本発明は、除電装置としても観念することができる。すなわち、本発明に係る除電装置は、帯電物に対して荷電粒子を照射する除電装置であって、荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備えている。
【0020】
本発明は、荷電粒子照射システムとして観念することができる。すなわち、本発明に係る荷電粒子照射システムは、帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射システムであって、荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備えている。
【0021】
本発明は、荷電粒子照射方法として観念することができる。すなわち、本発明に係る荷電粒子照射方法は、帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射装置の制御方法であって、前記荷電粒子照射装置は、帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルを備え、前記制御方法は、荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出ステップと、前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成ステップと、前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択ステップと、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射ステップと、を備えている。
【0022】
本発明は、コンピュータプログラムとして観念することができる。すなわち、本発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータを、帯電物に対して荷電粒子を照射する荷電粒子照射装置であって、荷電粒子を照射する前の帯電物の帯電状態である照射前帯電状態を検出する、照射前状態検出部と、帯電物の帯電状態とその帯電物に対して照射される荷電粒子の制御に用いられる制御量に関する制御パラメータを入力することにより、荷電粒子を前記制御パラメータの下で制御して照射した後の前記帯電物の帯電状態である推定帯電状態を生成する、学習済モデルと、前記学習済モデルへと、前記照射前帯電状態と複数の制御パラメータを入力して、前記照射前帯電状態と前記複数の制御パラメータに対応する複数の推定帯電状態を生成する、推定帯電状態生成部と、前記複数の推定帯電状態から、目標帯電状態と最も近い推定帯電状態を選択する、選択部と、選択された前記推定帯電状態に対応する前記制御パラメータに基づいて荷電粒子を制御して前記帯電物へと照射する、照射部と、を備える荷電粒子照射装置、として機能させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所定の帯電状態にある帯電物を迅速に目標帯電状態へと近付けることが可能な荷電粒子照射装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、除電装置のブロック図である。
図2図2は、除電装置の原理図である。
図3図3は、デューティ比の定義に関する説明図である。
図4図4は、学習処理に関するフローチャートである。
図5図5は、除電装置による除電動作に関するゼネラルフローチャートである。
図6図6は、推定処理に関する詳細フローチャートである。
図7図7は、推定動作の概要について示す説明図である。
図8図8は、除電対象物の電位の遷移に関する概念説明図である。
図9図9は、除電対象物の電位遷移に関する実験結果の説明図である。
図10図10は、除電対象物の電位維持に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について添付の図1図10を参照しつつ詳細に説明する。
【0026】
(1.第1の実施形態)
(1.1 除電装置の構成)
図1図3を参照しつつ、本実施形態に係る除電装置100の構成について説明する。
【0027】
図1は、本実施形態に係る除電装置100と、除電対象物5について示すブロック図である。同図から明らかな通り、除電装置100は、制御用マイコン1、交流矩形波出力回路2、高電圧電源3、コロナ放電電極4、表面電位計6、A/Dコンバータ7及び機械学習演算部8を備える。
【0028】
制御用マイコン1は、CPU等の演算部、ROM/RAM等から成る記憶部等を備え、後述するように、コロナ放電電極4へと印加する電圧に関する情報、すなわち電圧とそのデューティ比を出力する。
【0029】
交流矩形波出力回路2は、制御用マイコン1からの印加電圧に関する情報を受けて対応する交流矩形波形(例えば、図10を参照)を生成し出力する。この生成された電圧矩形波形は、高電圧電源3を介してコロナ放電電極4へと提供される。
【0030】
コロナ放電電極4は印加された電圧に応じて正又は負のイオンを発生させる。この発生したイオンは除電対象物5へと提供され、電荷の中和作用、すなわち帯電物5の除電作用が生じる。
【0031】
一方、除電対象物5には表面電位計6が備えられており、除電対象物5の表面電位は、A/Dコンバータ7を介して、デジタルデータとして機械学習部8へと提供される。機械学習部は、CPU等の演算部、ROM/RAM等から成る記憶部を備え、後述の要領で学習処理又は推定処理を行い、制御用マイコン1へと所定の出力を行う。
【0032】
図2は、除電装置の原理図である。同図左側には、高電圧電源3、圧縮空気ノズル10針電極4及び環状電極14を備えた除電装置100の一部が描かれており、同図右側には除電対象物5を表す帯電電極11が描かれている。
【0033】
同図から明らかな通り、高電圧電源3により印加される交流矩形波形を有する電圧に応じて針電極4と環状電極14の間で生じた荷電粒子、すなわち、正又は負のイオンは、圧縮空気ノズル10からの圧縮空気に吹かれて、除電対象物5たる帯電電極11へと到達する。このとき、帯電電極11においては、除電装置100からの正又は負のイオンにより、電気的な中和作用、すなわち除電作用が生じる。除電対象物5の電位は、帯電電極11における表面電位計6の出力電位VA1として観測される。
【0034】
なお、図3は、本実施形態におけるデューティ比の定義に関する説明図である。同図から明らかな通り、本実施形態において、デューティ比は、矩形波の有する2値のうち、小さい方の値の継続時間をtNEG、大きい方の値の継続時間をtPOS、1周期をtcycleとしたとき、百分率にて、(tNEG-tPOS)/tcycle×100[%]として計算される。
【0035】
なお、除電装置100の構成は、本実施形態に記載されたものに限定されない。従って、例えば、各構成をネットワークを介して接続したり、複数の構成を所定の装置等に分離又は統合してもよい。また、制御部1で行われる動作の一部、例えば、機械学習処理等を他の装置等で実行してもよい。
【0036】
(1.2 除電装置の動作)
(1.2.1 学習動作)
【0037】
図4を参照しつつ、除電装置100における推定処理動作の前提として行われる学習処理について説明する。
【0038】
図4は、機械学習演算部8において行われる学習処理に関するフローチャートである。同図から明らかな通り、学習処理が開始すると、機械学習演算部8の記憶部から学習モデルのパラメータや学習対象となる入出力データセットを読み出す処理が行われる(S1)。ここで、本実施形態においては、機械学習アルゴリズムとして、学習木(例として、特開2016-173686を参照)が採用される。
【0039】
学習木を用いて学習処理を行う際には、入力されるデータが、階層的に分割された各状態空間に対応付けられ、蓄積されていくこととなる。推定出力は、学習後に各状態空間に内包される各データに対応する出力値又は出力ベクトルの相加平均をとることにより算出される。このような構成により、学習木は、逐次的な学習(オンライン学習)に好適である。
【0040】
学習処理が開始すると、階層数、次元又は分割数等の学習木に関するパラメータと、予め取得された学習対象となる入出力のデータセット、より詳細には、除電対象物5の電位と、当該除電対象物5に対して提供される荷電粒子(イオン)を発生させた電極への印加電圧のデューティ比を入力とし、そのときの除電対象物5における電位変化率を出力(教師データ)としたデータセットが、複数読み出される(S1)。このとき、学習対象データセットは、1つの初期電位に対して少なくとも複数のパターンのデューティ比を用いた場合、例えば、20%から90%までを10%刻みとした場合等を含んでいる。
【0041】
その後、機械学習演算部8は、読み出した学習対象データセットのうちの1つを選択して学習モデルへと入力する処理を行う(S2)。機械学習演算部8は、この入力された所定の除電対象物5の初期電位とデューティ比に基づいて、始端ノードから末端ノードまで対応するノードを特定して経路を特定し、当該経路上の各ノードに対して入出力のデータセットを関連付けて記憶させる処理を行う(S4)。
【0042】
その後、すべての学習対象データセットについて学習が行われたか否かを判定し(S6)、未学習の学習対象データセットが存在する場合には(S6NO)、学習対象を未学習の学習対象データセットへと変更して、再度一連の学習処理(S2~S6)を繰り返す。一方、すべての学習対象データセットについて学習が完了した場合には(S6YES)、学習処理は終了する。
【0043】
このような構成によれば、除電対象物5の初期電位とデューティ比を入力することで、除電対象物5における電位変化率を推定することが可能な学習済モデルを生成することができる。
【0044】
なお、本実施形態においては、学習処理は機械学習演算部8において行われるものとしたが、外部の情報処理装置において予め行ってもよい。
【0045】
また、本実施形態においては、学習対象データセットは予め複数用意されるものとして記載したが、除電装置100を動作させつつ、逐次的に学習処理(オンライン学習)を行ってもよい。
【0046】
(1.2.2 除電動作)
次に、図5図10を参照しつつ、除電装置100による除電動作について説明する。
【0047】
図5は、除電装置100による制御に関するゼネラルフローチャートである。同図から明らかな通り、処理が開始すると、表面電位計6及びA/Dコンバータ7を介して除電対象物5の電位を取得する処理が行われる(S21)。この電位のセンシング処理が完了すると、所定の推定処理が行われる(S22)。
【0048】
図6は、推定処理(S22)に関する詳細フローチャートである。同図から明らかな通り、処理が開始すると、センシングされた除電対象物5の電位と、複数の候補デューティ比のうちから選択された一のデューティ比を学習済モデルへと入力する処理が行われる(S222)。候補デューティ比は、本実施形態においては、20%、30%、50%、70%及び90%である。
【0049】
その後、入力された除電対象物5の電位と選択されたデューティ比に基づいて始端ノードから末端ノードまで対応するノード、すなわち経路が特定される(S223)。この特定処理の後、経路上の一のノードを出力ノードとして特定する処理が行われ(S224)、当該出力ノードに記憶されているデータに対応する出力(電位変化率)の相加平均をとることにより推定電位変化率が計算される(S225)。その後、この推定電位変化率は所定のデューティ比に対応する推定電位変化率として、機械学習演算部8の記憶部へと記憶される(S226)。
【0050】
記憶処理が完了すると、候補デューティ比のすべてについて推定処理が行われたか否かが判定され(S228)、未だ推定処理が行われていない候補デューティ比が存在する場合には(S228NO)、入力するデューティ比を他の候補デューティ比へと変更する処理が行われ(S229)、再度一連の処理(S222~228)が繰り返される。一方、候補デューティ比のすべてについて推定処理が行われたと判定される場合(S228YES)、処理は終了する。
【0051】
すなわち、以上の処理により、候補デューティ比毎に推定電位変化率が生成されて記憶されることとなる。
【0052】
図5に戻り、推定処理が完了すると、候補デューティ比毎に生成された推定電位変化率から、目標電位に最も早く近づくデューティ比を選択する処理が行われる(S24)。この選択処理の後、選択されたデューティ比で電圧を印加し、除電対象物5へと荷電粒子を照射する処理が行われる(S25)。その後、電圧を印加しつつ所定時間ステップだけ待機する処理が行われる(S26)。
【0053】
待機時間経過後、再び除電対象物5の電位を測定し、除電対象物5の電位が目標電位へと到達したか否かが判定される(S28)。未だ目標電位に到達していない場合、再度一連の処理が繰り返される(S21~S28)。
【0054】
一方、目標電位に到達している場合、電気的に中性な正負バランスのとれた荷電粒子を照射する処理が行われる(S29)。この照射により除電状態を維持することができる。正負バランスのとれた荷電粒子の照射処理を行いつつ、照射後においても電位が目標値又はその近傍にあるか否か、すなわち、除電状態が維持されているかを判定し(S30)、除電状態が維持されていない場合(S30NO)、再度一連の処理が行われる(S21~S30)。一方、除電状態が維持されている場合(S30YES)、処理は終了する。
【0055】
図7は、推定動作の概要について示す説明図である。横軸は時間t、縦軸は除電対象物の電位[V]を示している。
【0056】
同図から明らかな通り、まず、時間ステップが0の状態において除電対象物5の電位が計測される(S21)。同図において計測された電位は、-1000[V]である。この電位を計測した後、候補デューティ比(20%、30%、50%、70%及び90%)毎に、推定電位変化率が生成される(S22)。同図において、各推定電位変化率は直線の傾きとして表現されている。
【0057】
その後、推定電位変化率のうち、最も早く目標電位(=0[V])に到達する候補デューティ比が選択される(S24)。具体的には、図8からも明らかな通り、デューティ比が90%の場合が最も早く目標電位である0[V]に到達するため、デューティ比として90%が選択される。この選択処理の後、デューティ比90%にて電圧印加処理を行いつつ(S25)、所定時間、同図においては0.44秒間、待機する処理が行われる(S26)。
【0058】
所定の待機時間経過後、再度、除電対象物5の電位を計測し、目標電位と一致しているか又は十分に接近しているかが検出される。同図の例にあっては、0.44秒後の時点においても未だ目標電位である0[V]に到達していないため(S28NO)、再び、一連の処理が繰り返される(S21~S28)。一方、除電対象物5の電位へと到達したと判断された場合には、電気的に中性な照射を行い(S29)、処理は終了する。
【0059】
図8は、除電対象物5の電位の遷移に関する概念説明図である。横軸は時間、縦軸は除電対象物5の電位を示している。また、実線は10%のデューティ比で印加した場合の除電対象物5の電位遷移、細かい破線は55%のデューティ比で印加した場合の除電対象物5の電位遷移、及び、目の大きい破線は10%から55%へとデューティ比を切り替えた場合の除電対象物5の電位遷移を表している。なお、前提として、除電対象物の帯電状態は正の帯電、制御周波数は1[kHz]、圧力は7[kPa]である。
【0060】
10%のデューティ比で電圧印加を行うと、10%のデューティ比で電圧印加を行った場合の電位遷移に沿って急降下する。その後、0[V]を通り過ぎて遷移するより前に本実施形態に記載の手法によりデューティ比を切り替えると、今度は緩やかに降下する55%のデューティ比の場合の電位遷移に沿って0へと漸近するように変化する。すなわち、10%のデューティ比で電圧印加を行った後に55%のデューティ比により電圧印加を行うことで、対象物電位を迅速に目標電位、すなわち、0[V]へと近付けることができる。
【0061】
以上のような構成によれば、目標帯電状態に最も近い推定帯電状態に対応する制御パラメータに基づいて前記帯電物へと荷電粒子を照射するので、所定の帯電状態にある帯電物を迅速に目標帯電状態へと近付けることが可能となる。
【0062】
(1.3 実験例)
図9は、除電対象物10の電位遷移に関する実験結果の説明図である。図9(a)は、第1の実験例、図9(b)は、第2の実験例である。いずれの図においても、横軸は時間、縦軸は除電対象物5の電位を示している。また、前提として、除電対象物5の帯電状態は正の帯電、印加電圧は8[kV]、制御周波数は1[kHz]、圧力は7[kPa]である。さらに、いずれの図にも、比較のため、50%のデューティ比で荷電粒子の照射を行った場合の電位推移が示されている。
【0063】
また、図10は、図9と対応する印加電圧の遷移を示す説明図である。横軸は時間、縦軸は印加電圧[kV]を示している。図10(a)は、図9(a)と対応する印加電圧であり、図10(b)は、図9(b)と対応する印加電圧である。
【0064】
図9(a)から明らかな通り、機械学習(AI)を利用した本実施形態に係る印加電圧制御によれば、デューティ比を10%として急速に0[V]へと近付け、その後にデューティ比を50%へと切り替えることにより、単に50%のデューティ比を印加するよりも迅速に目標電位である0[V]へと近付けることができることが確認される。このときの印加電圧の遷移(デューティ比10%→50%)が図10(a)に示されている。
【0065】
また、図9(b)から明らかな通り、機械学習(AI)を利用した本実施形態に係る印加電圧制御によれば、デューティ比を10%として急速に0[V]へと近付け、その後に照射状態をオフ状態へと切り替えることにより、単に50%のデューティ比を印加するよりも迅速に目標電位である0[V]へと近付けることができる。このときの印加電圧の遷移(デューティ比10%→オフ状態)が図10(b)に示されている。なお、この例にあっては、電気的に中性な照射を行っても照射をオフ状態としても除電状態の維持においては大差がない。
【0066】
(2.変形例)
上述の実施形態においては、機械学習モデルとして学習木を利用したが、本発明はこのような構成に限定されない。従って、例えば、ニューラルネットワークやサポートベクターマシーン(SVM)等の他の学習モデルを利用してもよい。
【0067】
上述の実施形態においては、制御量としてコロナ放電電極4への印加電圧、及び、制御パラメータとしてデューティ比を例示したが、本発明はそのような構成に限定されない。従って、例えば、荷電粒子の流入量を調整できる制御量であれば他の対象でもよく、例えば、印加電圧の波高値、周波数、或いは、ガス圧等を採用することができる。
【0068】
上述の実施形態においては、除電装置を例示したため、目標値は0[V]としたが、本発明はそのような構成に限定されない。従って、荷電粒子照射装置の応用に合わせて、例えば、0[V]ではない所望の目標電位を採用することができる。
【0069】
上述の実施形態においては、事前に学習(図4)を行った後に、学習済モデルによる推定処理を含む除電処理(図6)を行う構成について言及したものの、本発明はこのような構成に限定されない。従って、例えば、除電処理を行いつつ逐次的に追加学習を行ってもよい。この場合、電荷照射前の帯電状態と、選択されたデューティ比、電荷値印加処理から所定時間経過後の帯電状態(推定電位変化率)に基づいて、機械学習を行い学習済モデルを更新する。このような構成によれば、除電装置100を動作させつつ、さらに、推定精度を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、少なくとも荷電粒子照射装置等を製造する産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 制御用マイコン
2 交流矩形波出力回路
3 高電圧電源
4 コロナ放電電極(針電極)
5 除電対象物(帯電物)
6 表面電位計
7 A/Dコンバータ
8 機械学習演算部
10 圧縮空気ノズル
11 帯電電極
14 環状電極
100 除電装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10