(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】コード短絡検出回路及び検出方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/08 20060101AFI20240415BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20240415BHJP
【FI】
H02H3/08 T
G01R31/58
(21)【出願番号】P 2020035192
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000124591
【氏名又は名称】河村電器産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(72)【発明者】
【氏名】石川 由祐
(72)【発明者】
【氏名】水野 幸男
(72)【発明者】
【氏名】林 文移
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-061462(JP,A)
【文献】特開2011-007765(JP,A)
【文献】特開昭63-080711(JP,A)
【文献】特開2002-186168(JP,A)
【文献】特開2003-125532(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0185185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H1/00-3/07
H02H3/08-3/253
H02H7/00
H02H7/10-7/20
H02H7/22-7/30
G01R31/50-31/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コードに印加されている電圧波形の情報を入手する電圧波形検出部と、
前記コードに流れる電流波形の情報を入手する電流波形検出部と、
入手した前記電圧波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電圧歪み検出部と、
入手した前記電流波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電流歪み検出部と、
コード短絡発生を判断するコード短絡判断部とを有し、
前記コード短絡判断部は、前記電圧歪み検出部及び前記電流歪み検出部のうちの何れか一方が前記波形歪みを検出したら、その時点から電圧波形0.5~2サイクルの間の所定の時間が経過するまでに、他方の検出部が前記波形歪みを検出したら、コード短絡発生と判断することを特徴とするコード短絡検出回路。
【請求項2】
前記電圧歪み検出部は、電圧波形の正のピークに至る上昇途中で、或いは負のピークに至る下降途中で、ピーク値に対して少なくとも5%の絶対値の瞬時低下が発生したら、波形歪み発生と判断することを特徴とする請求項1記載のコード短絡検出回路。
【請求項3】
電圧波形のゼロクロス点を検出するゼロクロス検出部を有し、
前記電圧歪み検出部は、検出した前記ゼロクロス点から正のピーク或いは負のピークに至るまでの途中に設定された特定の範囲で前記瞬時低下が発生したら、波形歪み発生と判断することを特徴とする請求項2記載のコード短絡検出回路。
【請求項4】
前記電流歪み検出部は、電流波形のピーク値が50アンペア以上で、且つ電圧波形のゼロクロス付近で絶対値が1アンペア未満の状態が1ms以上継続した場合に波形歪み発生と判断することを特徴とする請求項1乃至3記載のコード短絡検出回路。
【請求項5】
コードに印加されている電圧の波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電圧歪み検出工程と、
前記コードに流れる電流の波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電流歪み検出工程と、を有し、
前記電圧歪み検出工程及び前記電流歪み検出工程のうちの何れか一方の工程で前記波形歪みを検出してから、電圧波形0.5~2サイクルの間の所定の時間が経過するまでに、他方の検出工程で前記波形歪みを検出したら、コード短絡発生と判断することを特徴とするコード短絡検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コード短絡を検出するコード短絡検出回路及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンセントに差し込まれたプラグから負荷に至るコードが踏まれたり、捩れの発生等で短絡(コード短絡)が発生する場合があり、これを検知するコード短絡検出回路がある。
例えば特許文献1は、コード短絡検出回路をコンセントに組み込んで、コード短絡が発生したらそれを検知して電路を遮断するよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術は、コード短絡により発生する電圧波形の特有の歪みを検出して判断した。しかしながら、突入電流や雷サージ等の過渡現象により誤検知する場合があり、更なる検出精度の向上が求められた。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、突入電流や雷サージ等で誤動作することのないコード短絡検出回路及び検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明に係るコード短絡検出回路は、コードに印加されている電圧波形の情報を入手する電圧波形検出部と、コードに流れる電流波形の情報を入手する電流波形検出部と、入手した電圧波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電圧歪み検出部と、入手した電流波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電流歪み検出部と、コード短絡発生を判断するコード短絡判断部とを有し、コード短絡判断部は、電圧歪み検出部及び電流歪み検出部のうちの何れか一方が波形歪みを検出したら、その時点から電圧波形0.5~2サイクルの間の所定の時間が経過するまでに、他方の検出部が波形歪みを検出したら、コード短絡発生と判断することを特徴とする。
この構成によれば、電圧波形と電流波形の双方に特徴ある波形歪みが発生したらコード短絡発生と判断するため、電圧波形のみ所定の特徴を示してもコード短絡発生と判断しない。よって、突入電流や雷サージ等による誤動作を削減できる。然も、発生が同時でなくても、1サイクルが経過する時間内に双方が発生したらコード短絡発生と判断するため、確実に検出できる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成において、電圧歪み検出部は、電圧波形の正のピークに至る上昇途中で、或いは負のピークに至る下降途中で、ピーク値に対して少なくとも5%の絶対値の瞬時低下が発生したら、波形歪み発生と判断することを特徴とする。
この構成によれば、コード短絡特有の電圧波形の歪みを検出して判断でき、精度の高い検出ができる。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の構成において、波形のゼロクロス点を検出するゼロクロス検出部を有し、電圧歪み検出部は、検出したゼロクロス点から正のピーク或いは負のピークに至るまでの途中に設定された特定の範囲で瞬時低下が発生したら、波形歪み発生と判断することを特徴とする。
この構成によれば、コード短絡特有の歪み発生場所での波形歪みを検出するため、誤検知を防止できる。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1乃至3に記載の構成において、電流歪み検出部は、電流波形のピーク値が50アンペア以上で、且つ電圧波形のゼロクロス付近で絶対値が1アンペア未満の状態が1ms以上継続した場合に波形歪み発生と判断することを特徴とする。
この構成によれば、コード短絡特有の波形歪みを検出して判断でき、精度の高い検出ができる。
【0010】
請求項5の発明に係るコード短絡検出方法は、コードに印加されている電圧の波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電圧歪み検出工程と、コードに流れる電流の波形に所定の特徴を示す波形歪みが発生したら、それを検出する電流歪み検出工程と、を有し、電圧歪み検出工程及び電流歪み検出工程のうちの何れか一方の工程で波形歪みを検出してから、電圧波形0.5~2サイクルの間の所定の時間が経過するまでに、他方の検出工程で波形歪みを検出したら、コード短絡発生と判断することを特徴とする。
この方法によれば、電圧波形と電流波形の双方に特徴ある波形歪みが発生したらコード短絡発生と判断するため、電圧波形のみ所定の特徴を示す波形歪みを検出してもコード短絡発生と判断しない。よって、誤動作を削減できる。然も、発生が同時でなくても、1サイクルが経過する時間内に双方が発生したらコード短絡発生と判断するため、確実に検出できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電圧波形と電流波形の双方に特徴ある波形歪みが発生したらコード短絡発生と判断するため、電圧波形のみ所定の特徴を示してもコード短絡発生と判断しない。よって、誤動作を削減できる。然も、発生が同時でなくても、1サイクルが経過する時間内に双方が発生したらコード短絡発生と判断するため、確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るコード短絡検出回路の一例を示すブロック図であり、コンセントに組み込んだ場合を示している。
【
図2】電圧波形の説明図であり、(a)は正常な電圧波形、(b)はコード短絡発生時の電圧波形である。
【
図3】電流波形の説明図であり、(a)は正常な電流波形、(b)はコード短絡発生時の電流波形である。
【
図4】コード短絡検出の流れを示すフローチャートである。
【
図5】コード短絡検出回路を分岐ブレーカに組み込んだ場合を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係るコード短絡検出回路を備えたコンセントを示し、コード短絡検出回路をブロック図で示している。1はコンセント、2はコード短絡検出回路、3はコンセント1に接続されたコードCにより電源が供給される負荷である。
商用電源4からコンセント1に電力が供給され、コードCが接続されたコンセント1内の電路5には、電路5を開閉する接点6が設けられており、コード短絡検出回路2がコンセントの受刃11に接続されたコードC内での短絡(コード短絡)を検出したら接点6が開動作するよう構成されている。
【0014】
コード短絡検出回路2は、電圧波形検出部21、電流波形検出部22、ゼロクロス検出部23、MCU(Micro Control Unit)から成る判断部24、遮断信号生成部25等を備えている。判断部24がコード短絡発生と判断したら、遮断信号生成部25から接点6を遮断動作させる信号が出力される。
【0015】
電圧波形検出部21は、電路5に設けた電圧センサ7から電圧波形情報及び電圧値情報を入手し、判断部24へ出力する。
電流波形検出部22は、電路5に設けた電流センサ8から電流波形情報及び電流値情報を入手し、判断部24へ出力する。
判断部24は、A/D変換部(図示せず)を有し、入力された電圧波形、電流波形をデジタル変換して解析する。
【0016】
図2は判断部24がコード短絡発生を判断するための電圧波形歪みの説明図であり、(a)は正常な波形、(b)はコード短絡発生時の波形歪みを示している。商用電力の定格100V(波高値が約140V)の波形を示している。
正常時は(a)に示すように正弦波形であるが、コード短絡が発生すると(b)に示すように、正弦波形の傾斜部において波高値(ピーク値)に対して傾斜が一瞬逆転した瞬時低下が発生し、この凹部の発生を検出する。
【0017】
判断部24は、A1或いはA2に示す1/4サイクルで発生する登り傾斜或いは下り傾斜において、S1,S2に示すような逆傾斜部が発生したら、電圧歪み発生と判断する。詳しくは、例えば1サイクルを40等分して電圧値の変化を追跡し、ピーク値(絶対値で約140V)に対して7%(1V)以上の瞬時低下が発生したら、電圧歪み発生と判断する。また、A2に示す下り傾斜の場合も同様に、途中でピーク値に対して7%以上の逆傾斜となる凹みS2が発生したらと電圧歪み発生と判断する。
【0018】
但し、ここでは波形の傾斜部でも監視範囲を限定し、登り傾斜では電圧波形の30Vから100Vの間の範囲を特定範囲とし、この範囲で傾きが逆転した瞬時低下を検出したら歪み発生と判断する。また下り傾斜の場合も同様であり、電圧波形の-30Vから-100Vの間を特定範囲とし、この範囲で傾きが逆転した瞬時低下を検出したら歪み発生と判断している。
実験により、コード短絡による瞬時低下の発生は、この範囲で起こることが確認されており、この範囲で判断することで、コード短絡特有の歪み発生場所での波形歪みを検出するため、誤検知を防止できる。
尚、ここでは波形1サイクルを40分割して電圧変化を監視しているが、更に細かく分割しても良いし、30分割程度で判断しても良い。
【0019】
図3は判断部24がコード短絡発生を判断するための電流の波形歪みの説明図であり、(a)は正常な波形、(b)はコード短絡発生時の波形歪みを示している。正常な(a)の波形は、電流のピーク値は絶対値で30A程度であるが、コード短絡発生時はB1,B3に示すピーク値が絶対値で50A以上となり、不安定な形状となる。尚、コードCの定格電流を20Aとすると、これはその2.5倍以上の値となる。
また、コード短絡発生時は、ゼロクロス付近も特有の形状となり、B2に示すように1アンペア未満の状態が1ms以上継続することが実験により確認されており、このような波形歪みを検出する。尚、この継続時間は長くても3ms程度であるため、上限を設定しても良い。
【0020】
判断部24は、電圧波形の監視と同様に、例えば1サイクルを40等分して電流値の変化を追跡し、ピーク値及びゼロクロス付近の電流値を監視する。
ピーク値が絶対値で50A以上で、且つゼロクロス付近の電流値が上述した特有の現象、例えば絶対値1アンペア未満が2ms継続したら歪み発生と判断する。ゼロクロス点は、ゼロクロス検出部23から入手した電圧波形のゼロクロス点を基準にその前後の電流値から判断される。
【0021】
図4はコード短絡検出の流れを示している。電圧歪み、電流歪みのどちらを先に検出しても良いが、ここでは電圧歪みを先に検出するフローを示している。
まず電圧波形を分割した電圧値情報から電圧歪みの有無を判断(S1)する。電圧歪みを検出しなければ、次に電流波形の分割した電流値情報から電流歪みの有無を判断(S2)する。
一方、電圧歪発生と判断(S1でYes)したら、その時点から電圧波形1サイクルに想到する時間のカウントをスタート(S3)し、その間に電流歪みが発生(S4でY、S5でN)していないか監視する。この間に電流歪みを検出したら、コード短絡発生と判断して遮断信号生成部25にトリップ信号を出力(S9)させる。
【0022】
しかし、電圧歪発生と判断(S1でYes)しても、電流歪みを検出することなく1サイクルの時間が経過(S5でY)したら、リセット信号を出力せず電圧歪み発生の判断をリセットし、新たな電圧歪みの有無の判断(S1)から再スタートする。
【0023】
また、電圧歪みを検知せず(S1でNo)、電流歪み発生と判断(S2でY)したら、その時点から電圧波形1サイクルの時間のカウントをスタート(S6)し、その間に電圧歪みが発生(S7でYes)したら、コード短絡発生と判断して遮断信号生成部25にトリップ信号を出力(S9)させる。
【0024】
しかし、電流歪み発生と判断(S2でY)しても、電圧歪みを検出することなく(S7でNo)1サイクルの時間が経過(S8でYes)したら、リセット信号を出力せず電流歪み発生をリセットし、新たな電圧歪みの有無の判断(S1)から再スタートする。
【0025】
このように、電圧波形と電流波形の双方に特徴ある波形歪みが発生したらコード短絡発生と判断するため、電圧波形のみ所定の特徴を示してもコード短絡発生と判断しない。よって、突入電流や雷サージ等による誤動作を削減できる。然も、発生が同時でなくても、波形1サイクルが経過する時間内に双方が発生したらコード短絡発生と判断するため、確実に検出できる。
また、コード短絡特有の電圧波形及び電流波形の歪みを検出して判断するため、精度の高い検出ができる。
加えて、コード短絡検出回路2をコンセント1に組み込むことで、コード短絡の発生ヶ所に近い場所で判断でき、精度の高い検出を実施できる。
【0026】
図5は、コード短絡検出回路2を分電盤30に組み込んだ構成を示している。
図5において、31は主幹ブレーカ、32は分岐ブレーカ、1aはコンセントであり、分電盤30内の分岐ブレーカ32にコード短絡検出回路2が組み込まれている。
このように、分電盤30の分岐ブレーカ32にコード短絡検出回路2を組み込んでも良く、分岐ブレーカ32にはコンセント1aに至る電路5aを開閉する接点及び遮断機構部(図示せず)が組み込まれているため、コード短絡検出回路2を組み込むだけで、コード短絡発生を受けて電路5aを遮断することができる。
【0027】
尚、上記実施形態では、電圧波形1サイクルの時間が経過する間に電圧歪み及び電流歪みの双方を検出したらコード短絡発生と判断しているが、こ時間間隔に限定するものではない。例えば、2分の1サイクルの時間が経過する間に双方が発生した場合に限定しても良いし、時間を広げて2サイクルの時間の経過を待って判断しても良い。判断する時間間隔を短くすれば、より精度の高い判断が可能となる。逆に、時間間隔を長くすれば初期の段階のコード短絡の検出が可能となる一方で、誤検知する可能性が高まる。
また、電圧歪みの判断を、定格100Vの電路として、電圧の上昇部(或いは下降部)の30V~100V(-30V~-100V)の範囲で判断しているが、検出する電圧範囲はこの範囲に限定するものでは無く、例えば50V~90Vと狭めても良い。また、200V電路の場合は、例えば60V~200Vの範囲で判断すれば良い。
更に、ピーク値に対して7%以上の瞬時低下を基準に判断しているが、5%以上の瞬時低下を基準に判断しても良い。
また、電流歪みの判断を、ピーク値が50A以上で、且つゼロクロス付近で1アンペア未満が2ms以上継続したら電流歪み発生と判断しているが、ピーク値はコードCの定格電流、或いは電路電圧を加味して設定すれば良いし、1アンペア未満が継続する最小時間は、1msとしても良い。
【符号の説明】
【0028】
1,1a・・コンセント、2・・コード短絡検出回路、3・・負荷、4・・商用電源、5,5a・・電路、6・・接点、7・・電圧センサ、8・・電流センサ、21・・電圧波形検出部、22・・電流波形検出部、23・・ゼロクロス検出部、24・・判断部(電圧歪み検出部、電流歪み検出部、コード短絡判断部)、25・・遮断信号生成部、C・・コード。