(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】水陸両用車および水陸両用車の制御方法
(51)【国際特許分類】
B60F 3/00 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
B60F3/00 A
(21)【出願番号】P 2020121549
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】清水 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】梅田 綾子
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-171363(JP,A)
【文献】特表2010-506799(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1028825(KR,B1)
【文献】実開昭61-161086(JP,U)
【文献】特開昭63-232096(JP,A)
【文献】特開2016-078770(JP,A)
【文献】特開2014-108688(JP,A)
【文献】米国特許第04568294(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水陸両用車が車両として走行するための動力を推進力として伝達する車両パワートレインと、
前記水陸両用車が船舶として航行するための動力を推進力として伝達する船舶パワートレインと、
前記水陸両用車に対する浮力作用状態を調整する浮力調整機構と、
前記浮力作用状態に相関する物理量を計測し、計測結果を示すセンサデータを出力するセンサと、
前記センサデータに基づいて前記浮力調整機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記センサデータに基づいて、前記水陸両用車の運用モードが、前記車両パワートレインを用いて陸上を走行する陸上モード、前記車両パワートレインを用いて水陸境界領域を走行する水陸モード、および前記船舶パワートレインを用いて水上を航行する水上モードのいずれであるかを判定し、判定された運用モードに基づいて前記浮力調整機構を制御
し、
前記制御装置は、前記運用モードが前記水陸モードであると判定された場合には、前記センサデータに基づいて前記浮力作用状態を判定し、判定結果に基づいて前記浮力作用状態が前記車両パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする接地圧を確保する状態となるように前記浮力調整機構を制御することを特徴とする水陸両用車。
【請求項2】
前記浮力作用状態は、前記水陸両用車に作用する浮力の大きさ及びバランスであることを特徴とする請求項1に記載の水陸両用車。
【請求項3】
前記制御装置は、前記運用モードが前記水上モードであると判定された場合には、前記センサデータに基づいて前記浮力作用状態を判定し、判定結果に基づいて前記浮力作用状態が前記船舶パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする状態となるように前記浮力調整機構を制御することを特徴とする請求項1
または2に記載の水陸両用車。
【請求項4】
前記浮力調整機構は、
バラスト水を貯留可能な複数のバラストタンクと、
前記複数のバラストタンクに対して個別に前記バラスト水の注排水を行う複数のポンプと、
を備え、
前記制御装置は、前記複数のポンプによる前記複数のバラストタンクに対する前記バラスト水の注排水を制御することで、前記浮力作用状態の調整を制御することを特徴とする、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項5】
前記制御装置は、前記運用モードの判定結果が前記陸上モードから前記水陸モードに変化したときに、前記陸上モードのときよりも前記複数のバラストタンク内の前記バラスト水が増加するように前記複数のポンプに前記バラスト水を注水させることを特徴とする請求項
4に記載の水陸両用車。
【請求項6】
前記制御装置は、前記運用モードの判定結果が前記水陸モードから前記水上モードに変化したときに、前記水陸モードのときよりも前記複数のバラストタンク内の前記バラスト水が減少するように前記複数のポンプに前記バラスト水を排水させることを特徴とする請求項
4または
5に記載の水陸両用車。
【請求項7】
前記制御装置は、前記運用モードが前記陸上モードであると判定された場合には、前記複数のバラストタンク内の前記バラスト水を完全に排水するように前記複数のポンプを制御することを特徴とする請求項
4乃至
6のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項8】
前記複数のバラストタンク内のバラスト水の残量を計測するバラストセンサを更に備え、
前記制御装置は、前記運用モードが前記陸上モードであると判定された場合には、前記バラストセンサの計測結果に基づいて前記バラスト水が残存するバラストタンクに対応するポンプのみを駆動することを特徴とする請求項
7に記載の水陸両用車。
【請求項9】
前記浮力作用状態は、前記水陸両用車に作用する浮力の大きさ及びバランスであり、
前記センサは、
前記浮力の大きさに相関する物理量として水深を計測する水深センサと、
前記浮力のバランスに相関する物理量として前記水陸両用車の姿勢を計測する姿勢センサと、
を備えることを特徴とする請求項1~
8のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項10】
前記制御装置は、前記水陸両用車の速度の計測結果および前記浮力調整機構による前記浮力作用状態の調整結果の少なくとも一方に基づいて、前記車両パワートレインおよび前記船舶パワートレインの少なくとも一方の出力を制御することを特徴とする請求項1~
9のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項11】
前記制御装置は、前記水陸モードにおいて、前記車両パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする接地圧を確保するように前記浮力作用状態を調整したにもかかわらず、前記水陸両用車の位置情報に基づいて計測された前記水陸両用車の速度が車輪の回転数に応じた前記水陸両用車の速度よりも遅い場合には、前記車両パワートレインと共に、又は前記車両パワートレインに代えて前記船舶パワートレインを駆動する制御を行うことを特徴とする請求項
10に記載の水陸両用車。
【請求項12】
前記制御装置は、前記船舶パワートレインを駆動する際に、浮力が増加するように前記浮力調整機構を制御することを特徴とする請求項
11に記載の水陸両用車。
【請求項13】
水の流速を計測する流速センサを更に備え、
前記制御装置は、前記流速の計測結果を前記運用モードの判定に用いることを特徴とする請求項1~
12のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項14】
水陸両用車が車両として走行するための動力を推進力として伝達する車両パワートレインと、
前記水陸両用車が船舶として航行するための動力を推進力として伝達する船舶パワートレインと、
前記水陸両用車に対する浮力作用状態を調整する浮力調整機構と、
を備える水陸両用車の制御方法であって、
前記浮力作用状態に相関する物理量を計測するセンサから取得された前記物理量の計測結果を示すセンサデータに基づいて、前記水陸両用車の運用モードが、前記車両パワートレインを用いて陸上を走行する陸上モード、前記車両パワートレインを用いて水陸境界領域を走行する水陸モード、および前記船舶パワートレインを用いて水上を航行する水上モードのいずれであるかを判定し、判定された運用モードに基づいて前記浮力調整機構を制御
し、
前記運用モードが前記水陸モードであると判定された場合には、前記センサデータに基づいて前記浮力作用状態を判定し、判定結果に基づいて前記浮力作用状態が前記車両パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする接地圧を確保する状態となるように前記浮力調整機構を制御することを特徴とする水陸両用車の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水陸両用車および水陸両用車の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陸上においては自動車として走行し、水上においては船舶として航行する水陸両用車が知られており、主に観光車両、水難救助車、災害対策車両などとして用いられている。水陸両用車の運用モードには、陸上、水上の他に、浅瀬のような水陸の中間となるモードがあり、各モードに応じた動力の切り替えなどの操作が行われる。
【0003】
特許文献1には、モードの変更タイミングを様々な手法によって検出して、エンジン出力分配器へ出力する技術が開示されており、特許文献2には、水上から陸上へ移行するモードにおける推進装置の作動に必要なトルクを低減するために上陸専用の変速比を用いる技術が開示されている。さらに、特許文献3には、水上モードにおいて車輪が抵抗とならないように車体を水面上に押し上げるための浮力を得るためにバラストタンクを用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-171363号公報
【文献】特開2014-108688号公報
【文献】特開2005-53434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、地球温暖化などの影響により風水害の発生が増大しており、災害対策車両としての水陸両用車の役割が見直されている。
図1は、水難救助時における浸水深と流速との関係を示す図である。総務省消防庁が検討した救助マニュアルによると、成人男子の場合、水深が膝程度(0.4m~0.5m程度)であっても、流速がある程度大きくなると安定して歩行することができず、水深が股下程度(0.8m程度)の時には、わずかな流速でも影響を大きく受けて歩行困難となることが指摘されている。したがって、道路など通常時は歩行や陸上車両の走行が可能なエリアであっても、水害時には水陸両用車を用いた救助活動が望まれる。
【0006】
救助が必要なエリアの広さや、水深および流速などの諸条件は、災害によって都度異なるものであり、同じ場所であっても、水害の程度に応じて異なるモードで運用しなければならない。また、同じ運用モードであっても、水陸両用車が有する浮力や水流から受ける抵抗などの力の作用により、動力(パワー)伝達効率が悪化し、運用全体としてのエネルギー効率が大きく悪化してしまう場合がある。例えば、浅瀬を車両として走行する際に車体に作用する浮力によって接地圧が不足すると車輪が空転してパワー伝達効率が悪化することが考えられる。また、水上を航行する際に喫水が浅い場合には、プロペラの水没が不十分なことにより、パワー伝達効率が悪化することが考えられる。
【0007】
特許文献1に記載の発明においては、モードの切り替えタイミングを検出することによってモード切替を自動的に行うことができ、特許文献2に記載の発明においては、推進装置の作動に必要なトルクを低減するための上陸専用の変速比を有する変速機を備えることによってエンジンの大型化を防止することができるが、いずれの発明においても、車体に対する浮力の作用に基づくパワー伝達効率の悪化については考慮されていない。
【0008】
また、特許文献3に記載の発明においては、水上航行時におけるタイヤの抵抗を低減するために浮力を調整されており、車両としての走行時における接地圧の減少や水上航行時の喫水不足によるパワー伝達効率の悪化については考慮されていない。
【0009】
水陸両用車を観光車両として用いる場合においても、環境負荷や経済面からも、エネルギー効率は高い方ことが望まれる。また、水陸両用車を災害対策車両として用いた救助活動では、限られた搭載エネルギーを最大限に活用して、より多くの人を救助することが望まれる。そこで本発明は、運用モードに応じたパワー伝達効率の悪化を防止し、エネルギー効率を向上させることが可能な水陸用車両および水陸両用車の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る水陸両用車は、
水陸両用車が車両として走行するための動力を推進力として伝達する車両パワートレインと、
前記水陸両用車が船舶として航行するための動力を推進力として伝達する船舶パワートレインと、
前記水陸両用車に対する浮力作用状態を調整する浮力調整機構と、
前記浮力作用状態に相関する物理量を計測し、計測結果を示すセンサデータを出力するセンサと、
前記センサデータに基づいて前記浮力調整機構を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記センサデータに基づいて、前記水陸両用車の運用モードが、前記車両パワートレインを用いて陸上を走行する陸上モード、前記車両パワートレインを用いて水陸境界領域を走行する水陸モード、および前記船舶パワートレインを用いて水上を航行する水上モードのいずれであるかを判定し、判定された運用モードに基づいて前記浮力調整機構を制御することを特徴とする。
【0011】
前記水陸両用車において、
前記浮力作用状態は、前記水陸両用車に作用する浮力の大きさ及びバランスであってもよい。
【0012】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記運用モードが前記水陸モードであると判定された場合には、前記センサデータに基づいて前記浮力作用状態を判定し、判定結果に基づいて前記浮力作用状態が前記車両パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする接地圧を確保する状態となるように前記浮力調整機構を制御してもよい。
【0013】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記運用モードが前記水上モードであると判定された場合には、前記センサデータに基づいて前記浮力作用状態を判定し、判定結果に基づいて前記浮力作用状態が前記船舶パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする状態となるように前記浮力調整機構を制御してもよい。
【0014】
前記水陸両用車において、
前記浮力調整機構は、
バラスト水を貯留可能な複数のバラストタンクと、
前記複数のバラストタンクに対して個別に前記バラスト水の注排水を行う複数のポンプと、
を備え、
前記制御装置は、前記複数のポンプによる前記複数のバラストタンクに対する前記バラスト水の注排水を制御することで、前記浮力作用状態の調整を制御してもよい。
【0015】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記運用モードの判定結果が前記陸上モードから前記水陸モードに変化したときに、前記陸上モードのときよりも前記複数のバラストタンク内の前記バラスト水が増加するように前記複数のポンプに前記バラスト水を注水させてもよい。
【0016】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記運用モードの判定結果が前記水陸モードから前記水上モードに変化したときに、前記水陸モードのときよりも前記複数のバラストタンク内の前記バラスト水が減少するように前記複数のポンプに前記バラスト水を排水させてもよい。
【0017】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記運用モードが前記陸上モードであると判定された場合には、前記複数のバラストタンク内の前記バラスト水を完全に排水するように前記複数のポンプを制御してもよい。
【0018】
前記水陸両用車において、
前記複数のバラストタンク内のバラスト水の残量を計測するバラストセンサを更に備え、
前記制御装置は、前記運用モードが前記陸上モードであると判定された場合には、前記バラストセンサの計測結果に基づいて前記バラスト水が残存するバラストタンクに対応するポンプのみを駆動してもよい。
【0019】
前記水陸両用車において、
前記浮力作用状態は、前記水陸両用車に作用する浮力の大きさ及びバランスであり、
前記センサは、
前記浮力の大きさに相関する物理量として水深を計測する水深センサと、
前記浮力のバランスに相関する物理量として前記水陸両用車の姿勢を計測する姿勢センサと、
を備えてもよい。
【0020】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記水陸両用車の速度の計測結果および前記浮力調整機構による前記浮力作用状態の調整結果の少なくとも一方に基づいて、前記車両パワートレインおよび前記船舶パワートレインの少なくとも一方の出力を制御してもよい。
【0021】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記水陸モードにおいて、前記車両パワートレインのパワー伝達効率を適切なレベルにする接地圧を確保するように前記浮力作用状態を調整したにもかかわらず、前記水陸両用車の位置情報に基づいて計測された前記水陸両用車の速度が車輪の回転数に応じた前記水陸両用車の速度よりも遅い場合には、前記車両パワートレインと共に、又は前記車両パワートレインに代えて前記船舶パワートレインを駆動する制御を行ってもよい。
【0022】
前記水陸両用車において、
前記制御装置は、前記船舶パワートレインを駆動する際に、浮力が増加するように前記浮力調整機構を制御してもよい。
【0023】
前記水陸両用車において、
水の流速を計測する流速センサを更に備え、
前記制御装置は、前記流速の計測結果を前記運用モードの判定に用いてもよい。
【0024】
本発明の一態様に係る水陸両用車の制御方法は、
水陸両用車が車両として走行するための動力を推進力として伝達する車両パワートレインと、
前記水陸両用車が船舶として航行するための動力を推進力として伝達する船舶パワートレインと、
前記水陸両用車に対する浮力作用状態を調整する浮力調整機構と、
を備える水陸両用車の制御方法であって、
前記浮力作用状態に相関する物理量を計測するセンサから取得された前記物理量の計測結果を示すセンサデータに基づいて、前記水陸両用車の運用モードが、前記車両パワートレインを用いて陸上を走行する陸上モード、前記車両パワートレインを用いて水陸境界領域を走行する水陸モード、および前記船舶パワートレインを用いて水上を航行する水上モードのいずれであるかを判定し、判定された運用モードに基づいて前記浮力調整機構を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、水陸用車両の運用モードに応じたパワー伝達効率の悪化を防止し、エネルギー効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、水難救助時における浸水深と流速との関係を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における水陸用車両の運用モードを説明する図である。
【
図3】
図3は、水陸両用車の走行時にかかる力を説明する図である。
【
図4】
図4は、本実施形態における水陸用車両の概略ハードウエア構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、制御機構のソフトウエア構成を示す機能ブロック図である。
【
図6】
図6は、制御装置において実行されるソフトウエアのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図2は、本実施形態における水陸用車両の運用モードを説明する図である。本実施形態における水陸両用車は、通常時は観光バスとして運用されており、水害時には災害救助車両として運用することが想定されているが、災害救助車両として専用的に運用されるものでもよい。
図2には、水上エリアA1、浅瀬エリアA2、および陸上エリアA3の3つのエリア、ならびに通常時水位L1および水害時水位L2が示されているが、水上エリアA1は水陸両用車を船舶として運用するエリアであり、浅瀬エリアA2および陸上エリアA3は水陸両用車を車両として運用するエリアである。
【0028】
本実施形態にかかる水陸両用車は、浅瀬エリアA2が水没していない通常時は、陸上エリアA3と同様に道路上を走行し、水上エリアA1へはスロープを用いて移動する。一方、水害時には浅瀬エリアA2まで浸水し、水陸両用車も車両として走行可能ではあるが浮力の影響を受ける程度まで水没する。本実施形態では、このような水没状態が発生した浅瀬エリアA2を車両として走行する運用モードを「水陸モード」と呼ぶものとする。また、水上エリアA1を船舶として運航する運用モードを「水上モード」と呼ぶものとし、浸水していない浅瀬エリアA2および陸上エリアA3を車両として走行する運用モードを「陸上モード」と呼ぶものとする。
【0029】
水陸モードにおいては、水陸両用車は浮力の作用によりタイヤの接地圧が低下し、車輪が空転して動力伝達効率が悪化する。そこで本実施形態では、水陸モードにおいては、水陸両用車にバラスト水を注入することによって重量を増加させ、タイヤの接地圧を増加させる。一方、陸上モードにおいてバラスト水が残っている場合は、エネルギー効率を低下させる余分な重量となるので、バラスト水を排水する。また、水上モードにおいては、水陸両用車への積載状態や外乱などにより喫水が安定せず、プロペラの推進効率が低下する場合には、バラスト水の注入および排水を制御し、喫水を安定させるものとする。
【0030】
図3は、水陸両用車の走行時にかかる力を説明する図である。この図では、質量Mの水陸両用車が速度v(t)で走行しており、車両としての駆動輪であるタイヤおよび船舶の推進器であるプロペラが水没する程度の水位ではあるが、タイヤが地面に接地している状態となっている。
【0031】
一般に、移動体における推力Fo(t) [N]と速度v(t) [km/h]との関係は、M [kg]を移動体の質量とし、Rを抵抗係数とした場合に、数式(1)の運動方程式で表される。水陸両用車の走行時の抵抗には、主に空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗、および転動抵抗の一般的な自動車の抵抗成分の他に、水没部分における水の摩擦抵抗や粘性抵抗といった成分も存在する。また、航行時には、水の摩擦抵抗や粘性抵抗などの成分が存在する。
図3においては、これらの成分からなる抵抗を総合して抵抗係数Rが決定される。
【数1】
【0032】
図3に示すように、質量Mの水陸両用車が地面方向に受ける力は、質量Mと重力加速度g [m/s
2]の積である重力Mg [N]であるが、水没している部分の容積に応じた浮力B [N]を重力Mgの逆方向に受けている。ここで車両の転動抵抗Rr [N]は、数式(2)で表され、μは摩擦係数を示す。摩擦係数μは、濡れたアスファルト(μ=0.6~0.4)、雪路(μ=0.5~0.35)、圧雪路(μ=0.35~0.2)、および氷結路(μ=0.2~0.1以下)程度と知られている。
【数2】
【0033】
図3に示すように、水陸両用車が浮力Bを受けている状態では重力成分が減少し、タイヤと路面の間に侵入する水によって摩擦係数μも減少するため、全体として転動抵抗Rrが低下することがわかる。そして、転動抵抗Rrがタイヤの回転による駆動力Fw [N]よりも小さくなると、タイヤが地面をグリップする力が低下することによってスリップが発生し、車両全体のパワーの伝達効率が悪化する。ここで、推力Fo(t)を得て速度v(t)で走行する水陸両用車の走行パワーP
T(t) [W]は、数式(3)で表される。
【数3】
【0034】
後に
図4を参照しながら詳しく説明するように、本実施形態においては、水陸両用車を車両として運用する(走行させる)ための動力を推進力として伝える機構である車両パワートレインと、水陸両用車を船舶して運用する(航行させる)ための動力を推進力として伝える機構である船舶パワートレインとが独立して動作可能な構成となっており、運用モードに応じていずれか一方のみを用いることも、同時に両方を用いることも可能となっている。
図3に示すようなタイヤが水没した状態での走行では、先に説明したように推力の低下が発生する。また、プロペラから水面までの距離が短い場合にはプロペラの回転に応じて空気を吸い込んで空転するベンチレーションと呼ばれる現象が発生し、推力の低下が発生する。
【0035】
数式(4)は、タイヤおよびプロペラの回転から得られる推力の低下に基づく損失パワーP
L(t) [W]を表すものであり、Tp (t) [N]はプロペラの回転により得られる推力を示し、ηはプロペラ推進係数を示す。
【数4】
【0036】
数式(4)から、タイヤの回転によって得られる駆動力Fw(t)と転動抵抗Rr(t)の差分が推力のスリップ分であり、プロペラの回転によって得られるTp (t)にプロペラスリップ分の係数(1-η)を乗じたものがパワーの損失に寄与する推力の損失分となることがわかる。
【0037】
車両パワートレインおよび船舶パワートレインは、後に説明するように、いずれもエンジンや電動モータ等の動力源によって駆動されるが、これら動力源から出力される総パワーP
A(t) [W]は、数式(5)に示すように、走行パワーP
T(t)と損失パワーP
L(t)の和となる。
【数5】
【0038】
このとき、水陸両用車のパワー伝達効率ΔPは数式(6)によって表すことができ、パワー伝達効率を向上させるためには、損失パワーP
L(t)を低減する必要があることがわかる。
【数6】
【0039】
数式(2)に示したように、水陸両用車の質量Mを増加させることによって転動抵抗Rrが増加するので、損失パワーPL(t)を低減することができる。一方、浮力Bを受けない陸上モードにおいては、質量Mの増加は必要な推力Fo(t)の増加につながるので望ましいことではない。また、ボートの運用では、バラストを利用してプロペラ付近の質量を増加させてトリムを調整することによって、ペンチレーションの発生を防止している。そこで、本実施形態では、水陸両用車にバラスト水を貯留可能な複数のバラストタンクを設け、運用モードに応じて、バラスト水の注排水を制御することによって、パワー伝達効率の向上を図っている。
【0040】
図4は、本実施形態における水陸用車両の概略ハードウエア構成を示す機能ブロック図である。本実施形態にかかる水陸両用車は、車両として走行するための動力を推進力として伝達する機構である車両パワートレイン100、船舶して航行するための動力を推進力として伝達する機構である船舶パワートレイン200、水陸両用車に対する浮力作用状態を調整する機構である浮力調整機構300、およびこれらの機構を制御する機構である制御機構400を備える。ここで、浮力作用状態とは、水陸両用車に作用する浮力の大きさ及びバランスである。
【0041】
浮力作用状態のうち、水陸両用車に作用する浮力の大きさは、水陸両用車が移動しているエリアに影響される。具体的には、水陸両用車が車両として陸上を走行している場合(すなわち、陸上モードの場合)は、水陸両用車が水から受ける圧力はゼロであるので浮力はゼロである。水陸両用車が車両として水陸境界領域を走行している場合(すなわち、水陸モードの場合)は、水陸両用車が接地できる程度に水深が浅いことで水陸両用車が水から受ける圧力は小さいので、浮力は小さい。水陸両用車が船舶として水上を航行している場合(すなわち、水上モードの場合)は、水陸両用車が接地できない程度に水深が深いことで水陸両用車が水から受ける圧力は大きいので、浮力は大きい。水陸両用車に作用する浮力の大きさは、水深の計測結果に基づいて判断することができる。
【0042】
一方、浮力作用状態のうち、水陸両用車に作用する浮力のバランスは、水陸両用車の姿勢として計測することができる。具体的には、浮力調整機構300を構成する複数のバラストタンクは、水陸両用車の互いに異なる位置に分散して配置される。そして、異なるバラストタンク間での水量の大小関係、水陸両用車に搭載される人や物の重量の分布、車体の重量の分布、走行環境(例えば、地面の傾き)等に応じて、水陸両用車の各位置に位置毎の大きさの浮力が作用し、位置毎の浮力の大きさの差に応じた浮力のバランスが生じる。水陸両用車に作用する浮力のバランスが良い場合、水陸両用車は水平状態に近い姿勢となり、バランスが悪い場合、水陸両用車は水平に対して傾いた姿勢となる。このため、制御機構400は、水陸両用車の姿勢の計測結果に基づいて水陸両用車に作用する浮力のバランスを判定し、判定結果に基づいて浮力のバランスが良くなるように各バラストタンク内の水量を調整する制御を行う。すなわち、浮力調整機構300は、浮力作用状態の判定結果に基づいて、浮力作用状態を好適な状態に調整する。
【0043】
車両パワートレイン100は、本実施形態では内燃機関によって発生させた動力を伝達する機構として構成されており、化石燃料を蓄える燃料タンク110、内燃機関であるエンジン120、車軸の回転を伝達あるいは遮断するクラッチ130、および駆動輪であるタイヤ141、142、143、144(以下、総称してタイヤ140と呼ぶ場合がある。)を備える。なお、本実施形態では、車両パワートレイン100を4輪駆動として構成しているが、前輪あるいは後輪の2輪駆動であってもよい。
【0044】
一方、船舶パワートレイン200は、本実施形態では電動モータで発生させた動力を伝達する機構として構成されており、エンジン120を原動機とし、クラッチ130を介して伝達された動力に基づいて発電を行う発電機210、発電機210で発電した電力や図示せぬ充電手段から充電した電力を蓄える蓄電システム220、蓄電システム220から供給される電力で駆動される推進モータ230、動力伝達と舵との役割を備え、チルトアップ・ダウンが可能なアウトドライブ241、および推進器であるプロペラ242を備える。アウトドライブ241を用いずにプロペラ242をシャフトに直結する構成でもよい。プロペラ242に代えてウォータージェットを推進器として備えてもよい。
【0045】
なお、水陸両用車は、車両パワートレイン100および船舶パワートレイン200の双方の動力発生源を内燃機関あるいは電動モータとする構成であってもよく、あるいは、車両パワートレイン100に電動モータを用いて、船舶パワートレイン200に内燃機関を用いる構成であってもよい。また、発電手段としては、内燃機関を原動機とする発電機に限らず、燃料電池や太陽光発電などの他の手段であっても構わない。
【0046】
本実施形態においては、現在の法規制上、水陸両用車については自動車としての規制と船舶の規制とをそれぞれ順守するために車両パワートレイン100と船舶パワートレイン200とを独立した系統の機構として構成しているが、規制上の問題がクリアされた場合には、エネルギーストレージや原動機を共通させて、モードに応じて動力の伝達ルートを切り替えるような構成にしてもかまわない。
【0047】
浮力調整機構300は、バラスト水を蓄える4つのバラストタンク311、312、313、314(以下、総称してバラストタンク310と呼ぶ場合がある。)および各バラストタンクに対して個別にバラスト水の注排水を行うポンプ321、322、323、324(以下、総称してポンプ320と呼ぶ場合がある。)を備えている。各バラストタンク311~314は、各タイヤ141~144のそれぞれの近傍に配置されている。各ポンプの駆動する電力は蓄電システム220から供給される構成となっているが、船舶パワートレイン200とは異なる電力系統を構成してもよい。
【0048】
制御機構400は、車両パワートレイン100、船舶パワートレイン200、および浮力調整機構に対する制御を行う制御装置410、浮力作用状態に相関する各種の物理量を計測して計測結果を出力するセンサ群420、車両パワートレイン100に対する操縦者の指示を入力するハンドルやアクセルなどを含む操縦装置430、船舶パワートレインに対する操縦者の指示を入力する舵輪やスロットルなどを含む操船装置440、バラスト水の注排水に関する操縦者の指示を入力するバラスト操作装置450、ならびに運用モードや各機構の状態などの情報を操縦者に対して提示するとともに操縦者からの指示を入力するタッチパネルディスプレイなどの表示装置460を備える。センサ群420は、例えばエコーサウンダや水圧計などの水深センサ421、ジャイロセンサや傾斜計などの姿勢センサ422、および水位計などのバラストセンサ423を備える。水深センサ421は、浮力作用状態のうち浮力の大きさに相関する物理量として、水深を計測する。なお、浮力の大きさに相関する物理量として、バラストセンサ423で計測されたバラストタンク310内のバラスト水の水量を用いてもよい。姿勢センサ422は、浮力作用状態のうち浮力のバランスに相関する物理量として、水陸両用車の姿勢を計測する。制御装置410は、このような浮力作用状態に相関する物理量を計測するセンサ群420から取得された物理量の計測結果を示すセンサデータに基づいて、浮力調整機構30を制御する。より具体的には、制御装置410は、複数のポンプ321~324による複数のバラストタンク311~314に対するバラスト水の注排水を制御することで、浮力調整機構300による浮力作用状態の調整を制御する。
【0049】
図5は、制御装置410のソフトウエア構成を示す機能ブロック図である。制御装置410は、車両パワートレイン制御部411、船舶パワートレイン制御部412、表示制御部413、センサデータ取得部414、モード判定部415、および浮力制御部416を備えており、これらの機能部は、コンピュータプログラムを実行することによって実現する機能をブロックとして表現したものである。
【0050】
車両パワートレイン制御部411は、操縦装置430から入力された操縦情報に基づいて車両パワートレイン100の動作を制御する。操縦情報には、ハンドル操作、アクセル操作、ブレーキ操作、およびギアチェンジなどが含まれる。
【0051】
船舶パワートレイン制御部412は、操船装置440から入力された操船情報に基づいて船舶パワートレイン200の動作を制御する。操船情報には、舵輪操作、スロットル操作などが含まれる。本実施形態では、トルク制御が可能な推進モータ230を用いており、船舶パワートレインには変速ギアを設けていないが、変速ギアを設ける構成でもかまわない。
【0052】
表示制御部413は、表示装置460への画像表示を制御するとともに、表示装置460から入力される情報を処理する。表示される情報には、現在の運用モード、車両パワートレイン100および船舶パワートレイン200の状態を示す情報、バラストタンク310内のバラスト水の残量、水陸両用車の位置情報、速度、水深などのナビゲーション情報などがある。入力される情報には、表示事項の変更や各種の設定パラメータなどがある。
【0053】
センサデータ取得部414は、水深センサ421、姿勢センサ422、およびバラストセンサ423などのセンサ群420で計測されたデータを取得する。なお、データ形式については、各センサで取得する情報に応じて決定すればよく、特に限定されるものではない。
【0054】
モード判定部415は、センサデータ取得部414が取得した各センサのデータに基づいて、水陸両用車に対する浮力作用状態を判断し、上述した運用モードを判定する。制御装置410は、判定された運用モードに基づいて浮力調整機構300を制御する。運用モードの判定および浮力調整機構300の制御の詳細については
図6を参照しながら後述するものとする。
【0055】
浮力制御部416は、モード判定部415における運用モードの判定に基づいてポンプ320の動作を制御し、バラストタンク310へのバラスト水の注排水量を調整する。
【0056】
図6は、制御装置410において実行されるソフトウエアのフローチャートであり、浮力制御処理の内容を示したものである。以下に説明する処理ルーチンは所定のサイクルで実施されるものとする。
【0057】
浮力制御処理の実行において制御装置410は、まずセンサ群420からセンサデータを取得する(S100)。そして、制御装置410は、取得されたセンサデータに基づいて、水陸両用車の運用モードが、車両パワートレイン100を用いて陸上を走行する陸上モード、車両パワートレイン100を用いて水陸境界領域を走行する水陸モード、および船舶パワートレイン200を用いて水上を航行する水上モードのいずれであるかを判定するモード判定を行う(S200)。具体的には、制御装置410は、水深センサ421から取得した水深データに基づいて、タイヤ140が接地しているか否かを検出する。浮力によってタイヤ140が接地している状態から離れる水深は、水陸両用車の製造時などに予め把握して登録しており、この登録された水深値(登録水深値)を用いて運用モードの判定が行われる。
【0058】
また、
図2に示すように、浸水している傾斜地を走行する場合には、水陸両用車も傾斜する。ここで、水深センサ421から取得される水深データは、水深センサ421が設置されている位置に応じて、水陸両用車が水平な状態である場合と比較して、大きな値となる場合と、小さな値となる場合がある。そこで、本実施形態では、姿勢センサ422から取得する姿勢データを用いて水陸両用車の傾きを判定し、水平状態に補正した水深データ(水平水深値)を算出する。水平水深値が登録水深値よりも大きな場合は、水陸両用車は水上を航行しているものとして、水上モードと判定される。逆に、水平水深値が0である場合には、水陸両用車は陸上を走行しているものとして陸上モードと判定される。水平水深値が登録水深値よりも小さいが0ではない場合には、水陸モードを判定される。
【0059】
ステップS200において運用モードが陸上モードであると判定した場合、制御装置410は、バラストセンサ423から取得したバラストデータに基づいて、バラストタンク310内にバラスト水があるか否かを判定する(S310)。ここで、バラスト水があると判定された場合には(S310;Yes)、制御装置410は、ポンプ320の動作を制御してバラストタンク310からバラスト水を排水し(S320)、処理を終了する。このとき、車重を軽くして燃費を向上させるため、全てのバラストタンク311~314のバラスト水を完全に排水することが望ましい。また、制御装置410は、バラストセンサ423の計測結果に基づいて、バラスト水が残存するバラストタンク311~314に対応するポンプ321~324のみを駆動してもよい。ステップS310においてバラスト水がないと判定した場合(S310;No)も、処理を終了する。
【0060】
ステップS200において運用モードが水陸モードであると判定した場合、制御装置410は、姿勢センサ422から取得した姿勢データに基づいて、水陸境界領域の走行時における水陸両用車の接地圧を確保するための浮力のバランスを判定する接地バランス判定を行う(S410)。具体的には、接地バランス判定において、制御装置410は、姿勢データに示される水陸両用車の傾きに基づいて、各タイヤ141~144に対する浮力作用状態を判定する。接地バランス判定には、姿勢センサ422に加えて、更に、タイヤ141~144のそれぞれの接地圧を計測する圧力センサ等の接地圧センサが用いられてもよい。タイヤ141~144のそれぞれの接地圧は、タイヤ141~144のそれぞれが接する地面に働く単位面積当たりの力であり、この力は、水陸両用車の重量に基づいてタイヤ141~144に働く加重と、水によってタイヤ141~144に働く浮力との合力である。したがって、タイヤ141~144に働く加重が浮力よりも十分に大きくなければ、十分な接地圧が確保できずに地面をグリップする力が低下するため、浮力に対して十分に大きな加重が得られるようにバラスト水の水量を調整することを要する。制御装置410は、接地バランス判定の判定結果に基づいて、浮力作用状態が車両パワートレイン100のパワー伝達効率を適切なレベルにする接地圧を確保する状態となるように浮力調整機構30を制御する。具体的には、制御装置410は、各タイヤ141~144において適切な接地圧が得られるように各ポンプ321~324の動作を制御して各バラストタンク311~314にバラスト水を注水させることで接地圧調整を行う(S420)。接地圧調整の後、制御装置410は処理を終了する。
【0061】
水陸モードにおいては、走行中の地面の傾斜に応じて車体も傾斜するので、水陸両用車自身の重力や浮力作用状態は、水陸両用車の前後左右において必ずしも一様ではない。そこで、制御装置410は、タイヤ141、142、143、および144において適正な加重が得られるように、バラストタンク311、312、313、および314に対する個別の注排水を行う。適正加重については、水陸両用車の構造や重量などに基づいて予め計算されており、制御部410に登録された数値を用いるようにしてもよい。また、水陸両用車は、陸上走行時よりも水陸境界領域走行時の方が、浮力に抗して接地圧を確保するために大きな加重を要するので、運用モードの判定結果が陸上モードから水陸モードに変化したときに、制御装置410は、陸上モードのときよりも各バラストタンク311~314内のバラスト水が増加するように各ポンプ321~324にバラスト水を注水させる。
【0062】
ステップS200において運用モードが水上モードであると判定した場合、制御装置410は、姿勢センサ422から取得した姿勢データに基づいて、水上航行時において水陸両用車に作用する浮力のバランスを判定する姿勢判定を行う(S510)。具体的には、姿勢判定において、制御装置410は、前後の喫水差であるトリムおよび左右の喫水差である傾きを判断する。そして、制御装置410は、姿勢判定の判定結果に基づいて浮力作用状態が船舶パワートレイン200のパワー伝達効率を適切なレベルにする状態となるように浮力調整機構30を制御する。具体的には、制御装置410は、水陸両用車が水平状態を保って航行できるように各ポンプ321~324の動作を制御し、各バラストタンク311~314に対する適切な量のバラスト水の注排水を行わせることで水陸両用車の姿勢調整を行う(S520)。姿勢調整の後、制御装置410は処理を終了する。なお、水陸両用車は、水陸境界領域走行時よりも水上航行時の方が浮力を確保するために加重の削減を要するので、運用モードの判定結果が水陸モードから水上モードに変化したときに、制御装置410は、水陸モードのときよりも各バラストタンク310内のバラスト水が減少するように各ポンプ320にバラスト水を排水させる。
【0063】
船舶の航行においては、トリムが適切でない場合にはプロペラの推進効率が低下し、傾きが適切でない場合には安定した航行の妨げになるとともに、復元力に対しても悪影響を与えることが知られており、航行時における前後左右のバランスを調整することは、パワー伝達効率と安全面の双方から重要である。
【0064】
なお、上述の実施形態においては、バラスト水を注排水するための制御は自動的に行うものとしているが、各バラストタンク311、312、313、および314における適切なバラスト水の量を表示装置460に表示する構成として、操縦者がバラスト操作装置450を操作することによって各ポンプ321、322、323、および324を個別に操作するようにしてもよい。これにより、操縦者の判断による細かな浮力調整が可能となる。また、実施形態においてはバラストタンク310を前後左右4か所に設ける構成としたが、ブイ陸両用車の大きさや形状に応じて適宜数は変更して構わない。
【0065】
実施形態においては、水深センサ421および姿勢センサ422を用いて浮力作用状態を判定したが、これに限らず、複数の水深センサを設けて、水深センサ毎の計測値の差に基づいて浮力作用状態を判定する構成としてもよいし、喫水位置を把握する何等かの手段に基づいて浮力作用状態を判定する構成としてもよい。
【0066】
また、制御装置410は、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)センサで取得された水陸両用車の位置情報に基づいて計測された水陸両用車の速度の計測結果と、浮力調整機構300による浮力作用状態の調整結果との少なくとも一方に基づいて、車両パワートレイン100および船舶パワートレイン200の少なくとも一方の出力を制御してもよい。例えば、水陸モードにおける接地圧調整(S420)にもかかわらず、GNSSによる位置情報に基づいて計測された水陸両用車の速度が、車輪の回転数(すなわち、アクセル操作量)をセンサで検出した検出結果に基づいて計測された水陸両用車の速度よりも遅い場合には、制御装置410は、水陸両用車がスリップしていると判断してもよい。水陸両用車がスリップしていると判断された場合、制御装置410は、車両パワートレイン100と共に、又は車両パワートレイン100に代えて船舶パワートレイン200を駆動する制御を行ってもよい。そして、船舶パワートレイン200を駆動する際に、制御装置410は、各バラストタンク310のバラスト水を排水するように各ポンプ320を制御してもよい。これにより、スリップによって水陸境界領域で適切に走行できない場合に、喫水線を下げて水陸境界領域での航行安定性を確保することができる。
【0067】
なお、都市部等の建物の多い地域では、GNSSアンテナは衛星からの電波を適切に受信できず、自己の位置情報を正しく判断できない場合がある。そこで、携帯電話の基地局等から発信される電波を補助的に用いた補助GPS(Assisted GPS:A-GPS)、ジャイロセンサ、LiDAR(Light Detection and Ranging)や光学カメラなどと空間地図とに基づいて自己の位置情報を把握するような、他の自己位置推定手段を用いるようにしてもよい。
【0068】
また、水陸両用車は、水の流速を計測する流速センサを更に備え、制御装置410は、流速の計測結果を運用モードの判定に用いてもよい。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、水陸両用車は、車両として走行するための動力を推進力として伝達する機構である車両パワートレイン100と、船舶して航行するための動力を推進力として伝達する機構である船舶パワートレイン200と、水陸両用車に対する浮力作用状態を調整する機構である浮力調整機構300と、浮力作用状態を検出するセンサ群420から取得するセンサデータに基づいて浮力調整機構300を制御する制御機構400とを備え、制御機構400は、センサデータに基づいて浮力作用状態を判定し、車両パワートレイン100を用いて陸上を走行する陸上モード、車両パワートレイン100を用いて水陸境界領域を走行する水陸モード、および船舶パワートレイン200を用いて水上を航行する水上モードのいずれかの運用モードを判定し、判定された運用モードに基づいて浮力調整機構300を制御するので、運用モードに応じたパワー伝達効率の悪化を防止し、エネルギー効率を向上することが可能となる。また、水陸モードでは、浮力作用状態の調整によって十分な接地圧を確保することができるので、水陸境界領域における走行安定性および速度を確保することができる。
【符号の説明】
【0070】
100…車両パワートレイン、200…船舶パワートレイン、300…浮力調整機構、制御機構…400。