(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】液体処理装置、培養装置、及び培養物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/02 20060101AFI20240415BHJP
G01F 23/00 20220101ALI20240415BHJP
【FI】
C12M1/02 Z
G01F23/00 Z
(21)【出願番号】P 2020045685
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将太
(72)【発明者】
【氏名】松田 博行
(72)【発明者】
【氏名】都倉 知浩
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-136928(JP,A)
【文献】特開2016-202089(JP,A)
【文献】特開平02-109973(JP,A)
【文献】特開2017-079633(JP,A)
【文献】特開平05-223623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する液体容器と、
前記液体容器を揺動させる揺動装置と、
前記液体容器に収容された前記液体が構成する液面の高さを、前記液体容器の外から検出する液面レベルセンサと、
を備え、
前記液面レベルセンサが、前記液体容器
に固定され、前記揺動装置
は、前記液面レベルセンサを固定した前記液体容器を揺動
することを特徴とする液体処理装置。
【請求項2】
前記液体容器がフィルム状容器からなり、
前記液体容器が外装容器に収容され、
前記揺動装置が、前記外装容器を介して前記液体容器を揺動
させることを特徴とする請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項3】
前記液面レベルセンサが、前記液体容器と前記外装容器との間において、前記液面の高さに相当する前記液体容器の側部に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の液体処理装置。
【請求項4】
前記液面レベルセンサが、フレキシブルな絶縁シートと、前記絶縁シートの少なくとも片面に形成された電極とを有する静電容量式の液面レベルセンサであることを特徴とする請求項1
~3のいずれか1項に記載の液体処理装置。
【請求項5】
前記外装容器に前記液体容器が2つ以上収容されていることを特徴とする請求項2
又は3に記載の液体処理装置。
【請求項6】
前記液面レベルセンサが、時間平均により前記液面の高さを検出することを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の液体処理装置。
【請求項7】
前記液体容器に対して前記液面レベルセンサが複数配置され、これらの前記液面レベルセンサの出力値の平均により前記液面の高さを検出することを特徴とする請求項1~
6のいずれか1項に記載の液体処理装置。
【請求項8】
前記液体処理装置が、前記液体容器に前記液体を供給する量を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記液面レベルセンサにより検出された前記液面の高さに基づいて、前記液体を供給する量を変更することを特徴とする請求項1~
7のいずれか1項に記載の液体処理装置。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の液体処理装置と、前記液体容器に液体培地を供給する液体培地供給部とを備えていることを特徴とする培養装置。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の液体処理装置を用いて、前記液体容器に液体培地を供給し、培養物を培養することを特徴とする培養物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体処理装置、培養装置、及び培養物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、食品、化粧品、化学物質の製造等においては、液状の原料、培地等を容器に収容して、撹拌する操作が多用されている。例えば、微生物、細胞等の培養物を培養する場合、又は、培養された微生物、細胞等が産生する物質等の培養産生物を得る場合には、培養物と液体培地を含む培養液を容器に収容して、培養液を撹拌しながら培養を進行させる。例えば、特許文献1、2には、流加培養(フェドバッチ方式)、潅流培養(パーフュージョン方式)に応用することが可能な培養装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-136928号公報
【文献】特開2016-202089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
培養、化学反応等の操作工程では、容器の内容量が常に変動している。しかし、操作工程を長期間にわたり継続するには、容器の内容量を一定に保つことが重要である。しかし、撹拌等により、内容物の液面が変動したり、撹拌周期に対する位相変化に伴い液体を収容した容器の重心位置が変化したりして、重量計測が安定しないという問題がある。重量計測を安定化するには、液体を収容した容器だけでなく、容器を撹拌させる撹拌装置を含めた操作系全体の重量を計測することも考えられる。しかし、操作系全体の寸法に応じて重量計も大型になり、重量変化に対する分解能も低下するため、液体の内容量の変動を精度よく計測することが難しいという問題がある。
【0005】
液体タンク等の内容量を計測するため、超音波式、静電容量式、圧力式、光吸収式、光屈折式、フロート式、液面接触式等、各種の液面レベルセンサも市販されている。しかし、培養、化学反応等の操作工程においては、上述した液面の変動や重心位置の変化に加えて、液面レベルセンサの使用によって内容物の液体が汚染、変質等しないこと、また、内容物の液体に含まれる成分によって液面レベルセンサが劣化、故障等しないことが課題となる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液体の操作工程を長期間にわたり継続することが可能な液体処理装置、培養装置、及び培養物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、液体を収容する液体容器と、前記液体容器を揺動させる揺動装置と、前記液体容器に収容された前記液体が構成する液面の高さを、前記液体容器の外から検出する液面レベルセンサと、を備え、前記液面レベルセンサが、前記液体容器と同期して前記揺動装置により揺動されていることを特徴とする液体処理装置である。
【0008】
前記液体容器がフィルム状容器からなり、前記液体容器が外装容器に収容され、前記揺動装置が、前記外装容器を介して前記液体容器を揺動させ、前記液面レベルセンサが、前記液体容器又は前記外装容器に固定されていてもよい。
前記液面レベルセンサが、フレキシブルな絶縁シートと、前記絶縁シートの少なくとも片面に形成された電極とを有する静電容量式の液面レベルセンサであってもよい。
前記外装容器に前記液体容器が2つ以上収容されていてもよい。
【0009】
前記液面レベルセンサが、時間平均により前記液面の高さを検出してもよい。
前記液体容器に対して前記液面レベルセンサが複数配置され、これらの前記液面レベルセンサの出力値の平均により前記液面の高さを検出してもよい。
前記液体処理装置が、前記液体容器に前記液体を供給する量を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記液面レベルセンサにより検出された前記液面の高さに基づいて、前記液体を供給する量を変更してもよい。
【0010】
また、本発明の一態様は、前記液体処理装置と、前記液体容器に液体培地を供給する液体培地供給部とを備えていることを特徴とする培養装置である。
また、本発明の一態様は、前記液体処理装置を用いて、前記液体容器に液体培地を供給し、培養物を培養することを特徴とする培養物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体の操作工程を長期間にわたり容易に継続することが可能な液体処理装置、培養装置、及び培養物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】液体処理装置の第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】液体処理装置の第2実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0014】
図1に、液体処理装置の第1実施形態を示す。この液体処理装置10は、液体11を収容する液体容器12と、液体容器12を揺動させる揺動装置13と、液体容器12に収容された液体11が構成する液面14の高さを検出する液面レベルセンサ15とを備えている。液体容器12は、培養、化学反応等の操作工程において、液体11の操作容器として用いることができる。
【0015】
液体11としては、水性液体、油性液体、溶液、電解液、分散液、乳濁液など各種の液体が挙げられる。液体11中には、気泡、粒子、粉末、粒状物、細胞、微生物などが含まれていてもよい。液面14上には気体16が存在している。液体容器12は、外気に開放された構造であってもよいが、外気から密閉されていることが好ましい。液体容器12が外気に開放されている場合は、気体16は外気から構成される。液体容器12が外気から密閉されている場合は、液体容器12内の液面14上に気体16が充填されている。
【0016】
液体容器12内で、液体11が気体16と接して液面14を構成することにより、液体11が揺動したとき、液面14を介して液体11と気体16とが混合して、液体11を撹拌する効果、又は気体16に含まれる特定の成分を液体11に溶解させる効果を向上させることができる。液体11と気体16との容量比(気液容量比)は特に限定されず、液体11が気体16より多くても、液体11より気体16が多くてもよく、液体11及び気体16が半々程度でもよい。気液容量比は、例えば1:9~9:1の範囲が好ましい。
【0017】
気体16としては、N2,O2,CO2,NH3,H2O(水蒸気),H2S等、又はこれらの2種類以上の混合気体が挙げられる。気体16がHe,Ar等の不活性ガスを含んでもよい。また、気体16の組成が空気又は乾燥空気を主体として調整されてもよい。気体16を液体容器12に供給するときは、液面14より下側から気体16が供給されてもよく、液面14より上側に気体16が供給されてもよい。
【0018】
液体容器12は、液体11を収容する容器であれば特に限定されず、箱、瓶、袋、缶、タンク等が挙げられる。液体容器12の材質は、液面レベルセンサ15が液体容器12の外から液面14の高さを検出することができる限り、特に限定されず、樹脂、ゴム、ガラス、金属等から構成することができる。液体容器12の内面は液体11に接触することから、液体11に含まれる成分の吸収、液体11の汚染等を低減することが好ましい。液体容器12の容量(大きさ)は特に限定されないが、例えば0.1L~5000Lの大きさとすることができる。液体容器12は、シングルユース(使い捨て)であってもよい。
【0019】
揺動装置13は、液体容器12の外から液体容器12を介して液体11を揺動させる。これにより、揺動装置13の部分を液体11に接触させることなく、液体11を撹拌することができる。撹拌翼、撹拌棒、磁気撹拌子等の撹拌部材を液体11中に配置する場合と比べて、撹拌部材の損傷、劣化等による液体11の汚染、撹拌部材の交換の手間等を回避することができる。
【0020】
揺動装置13は、液体容器12を往復運動させることにより液体11を揺動させてもよい。揺動装置13は、液体容器12を回転運動させることにより液体11を揺動させてもよい。往復運動又は回転運動の方向は、水平方向(左右方向)、鉛直方向(上下方向)、又はこれらの間の傾斜方向であってもよい。回転運動においては、回転軸が液体11の重心を通る自転運動であってもよく、回転軸が液体11の重心から離れた位置を通る公転運動であってもよい。揺動装置13は、運動の種類又は方向が異なる2種類以上の運動を同時に重ね合わせて液体容器12に作用させてもよい。また、揺動装置13は、時間軸に対して周期的又は不定期に、運動の種類又は方向を変更してもよい。
【0021】
液面レベルセンサ15は、液体容器12の外から液面14の高さを検出する。これにより、液面レベルセンサ15の使用による液体11の汚染、変質等、また、液体11に含まれる成分による液面レベルセンサの劣化、故障等を抑制することができる。この場合、液面レベルセンサ15は液体11に対して非接触で液面14の高さを検出する必要がある。また、液面レベルセンサ15は、液面14との間に液体容器12の壁面が介在する条件でも液面14を検出する必要がある。
【0022】
上述の観点からは、液面レベルセンサ15が、液体11と気体16との光吸収性の差を利用して液面14を検出する光吸収式、液体11と気体16との屈折率の差を利用して液面14を検出する光屈折式、液体11と気体16との誘電率の差を利用して液面14を検出する静電容量式などであることが好ましい。光吸収式又は光屈折式の液面レベルセンサ15を用いる場合は、液体容器12の材質は透明性の高い材質が好ましい。静電容量式の液面レベルセンサ15を用いる場合は、液体容器12の材質が非金属、電気絶縁体であれば、透明でも不透明でもよい。液面レベルセンサ15が、液体容器12と同期して揺動装置13により揺動されているので、揺動が液面14の高さ検出に与える影響を抑制することができる。
【0023】
液面レベルセンサ15を液体容器12に設置する場合、液面14の高さに相当する液体容器12の側部に配置することが好ましい。従来、液面レベルセンサ15の設置方法としては、液体容器12の側部に液面14から上下に離れた2箇所を接続するゲージ管に形成し、ゲージ管に液面レベルセンサ15を配置して、ゲージ管の内部の液面の高さを検出する場合がある。液体容器12内の液体11が静止している場合には、サイフォンの原理により、ゲージ管の液面と液体容器12の本体部の液面との差が生じにくい。しかし、液体容器12内の液体11が揺動している場合は、液体容器12の液面14が上下に激しく変化するため、ゲージ管を設けても、液体容器12の平均的な液面14の高さを検出することが困難である。このため、液体容器12の液面14の高さを検出するには、液体容器12の内部を分割することなく、液面14が全体的に連続する構造の液体容器12とすることが好ましい。
【0024】
液面14の高さから液体11の量を換算する際の誤差を抑制するため、液体容器12の液面14付近における液体容器12の水平断面積が高さに関する特定の関数であること、特に、液体容器12の水平断面積が高さ方向に略一定であることが好ましい。前記特定の関数としては、例えば液体容器12の内面が直立筒状の場合における略定数関数、液体容器12の内面がテーパ状(台形状、錐状等)の場合における一次関数又は二次関数が挙げられる。
【0025】
揺動装置13により液体11が揺動されると、静止した状態の水平な液面14に対して、上下に傾斜した液面14A,14Bが異なる位置に形成される。時間軸に対して液面14,14A,14Bの位置が連続的に変化する場合がある。このため、液面レベルセンサ15が、時間平均により液面14の高さを検出することが好ましい。また、液面レベルセンサ15が液面14,14A,14Bの時間的変化に応じて異なる出力値を出力する場合は、液面レベルセンサ15の出力値を受信する制御装置21において、液面レベルセンサ15の出力値の時間平均値を取り、制御装置21が、時間平均値に応じた液面14の高さを、液面14の高さの推定値とみなすことが好ましい。なお、図面では、液面14の変化を模式的に表現するため、少数の位置で液面14,14A,14Bを示し、液体11の存在確率に応じて下側ほど網点を濃く表現したが、実際の揺動中は液面14の位置が連続的に変化し得る。
【0026】
また、液体容器12の周囲に複数の液面レベルセンサ15を配置してもよい。この場合は、複数の液面レベルセンサ15が液面14,14A,14Bの時間的変化に応じて異なる出力値を出力する。そこで、液面レベルセンサ15の出力値を受信する制御装置21において、複数の液面レベルセンサ15の出力値の平均値を取り、制御装置21が、この平均値に応じた液面14の高さを、液面14の高さの推定値とみなすことが好ましい。
【0027】
液面レベルセンサ15から制御装置21に出力値を伝送する伝送線路22は、有線でも無線でもよい。液面レベルセンサ15から制御装置21に送信される液面レベルセンサ15の出力値は、伝送線路22が有線である場合、例えば電流値、電圧値、空気圧、油圧等により伝送することができる。伝送線路22が無線である場合、液面レベルセンサ15の出力値は、数値がデジタル的に符号化された信号であってもよい。
【0028】
図1に示す液体処理装置10は、液体容器12に液体11を供給する供給管路24と、供給管路24を流れる液体11の流量を変更する流量変更手段25を備えている。制御装置21は、伝送線路23を介して制御信号を流量変更手段25に送信し、液体11の流量を変更する。流量変更手段25としては、例えばポンプ、バルブ等が挙げられる。ポンプの動作を変更することにより、液体11の流量を変更してもよい。バルブの開閉又は流路断面積の変更等により、液体11の流量を変更してもよい。伝送線路23の構成は特に限定されないが、上述した伝送線路22の構成と同様に選択してもよい。伝送線路23の構成が伝送線路22の構成と同一でもよく、互いに異なってもよい。
【0029】
制御装置21は、液面レベルセンサ15により検出された液面14の高さに基づいて、供給管路24から液体11を供給する量を変更することができる。上述したように、変動する液面14の高さを平均値により推定する場合、液面14の高さの推定値に基づいて、液体11を供給する量を変更することが好ましい。供給管路24から供給する液体11としては、例えば溶媒や溶液等であり、具体例としては、化学反応に用いる水や有機溶媒等、あるいは生理食塩水、培養に用いる液体培地等が挙げられる。
【0030】
供給管路24は、フレキシブルなチューブ、ホース等でもよく、硬質のパイプ等でもよい。供給管路24の材質としては、樹脂、ゴム、エラストマー、金属等が挙げられる。供給管路24には、フィルター、フローモニター、流量計等を設けてもよい。特に図示しないが、液体容器12に液体11、気体16、固形物、混合物等を供給する目的に限らず、液体容器12から液体11、気体16、固形物、混合物等を取り出す目的でも、液体容器12にチューブ、ホース、パイプ等の管路を接続することができる。
【0031】
液体容器12に液体11、気体16、固形物、混合物等を供給する量が、例えば1回あたり所定の量又は適宜の量等である場合は、管路を介した流量制御によらず、シリンジ、計量器等を用いて注入口から供給してもよい。また、液体容器12から液体11、気体16、固形物、混合物等を取り出す量が、例えば1回あたり所定の量又は適宜の量等である場合は、管路を介した流量制御によらず、シリンジ、計量器等を用いて注出口から取り出してもよい。注入口又は注出口は、栓、蓋、コック等を用いて開閉可能に構成してもよく、シリンジ針を挿抜可能なゴム栓等を用いて常時閉鎖した状態を維持してもよい。
【0032】
培養、化学反応等の操作工程を継続する間に、液体容器12に収容されている液体11の量が変動する場合がある。供給管路24から液体11を供給する場合には、液体容器12内の液体11の量が増加する。また、液体容器12内に薬剤、原材料、添加剤等を供給する場合も、これらを含む溶液、分散液等の液体として供給されることから、液体容器12内の液体11の量が増加する。操作工程が培養である場合には、液体容器12内にpH調整剤、消泡剤等を添加する場合や、細胞等を播種する場合などにおいて、液体を含む状態で液体容器12に供給される。
【0033】
液体容器12から液体11の一部を取り出す場合や、液体11が蒸発して気体16の循環経路を通じて液体容器12から排気される場合は、液体容器12内の液体11の量が減少する。液体容器12から液体11の一部を取り出す目的としては、液体11に含まれる製品を回収する場合や、液体容器12に収容されている液体11を検査するためにサンプリングする場合等が挙げられる。
【0034】
また、培養中における細胞等の培養物の代謝や、化学反応等により、気体16中の成分が液体11中の成分となり、あるいは液体11中の成分が気体16中の成分となることがある。このようにして液体11の量が変動すると、揺動装置13による揺動状態も変化する等、操作工程を継続するのに好適な条件から外れるおそれがある。そこで、液体処理装置10では、制御装置21を用いたフィードバック制御により、液体容器12中の液体11の量を推測し、必要に応じて供給管路24から液体11の不足分を補充する。これにより、操作工程を長期間にわたり継続することが容易になる。
【0035】
図2に、液体処理装置の第2実施形態を示す。この液体処理装置20は、液体11を収容する液体容器12と、液体容器12を収容する外装容器17と、外装容器17を揺動させる揺動装置13と、液体容器12に収容された液体11が構成する液面14の高さを検出する液面レベルセンサ15とを備えている。第2実施形態において、第1実施形態の構成と対応する構成には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0036】
第2実施形態で用いられる液体容器12は、フィルム状容器から構成することができる。フィルム状容器としては、平坦なフィルムを2枚重ね合わせて周囲を封止した平袋、平坦なフィルム2枚の間に2つ折り状のガゼット部を接合して封止したガゼット袋、両端が開口した筒状フィルムの少なくとも一方の開口部に平坦なフィルムを接合して封止した筒状フィルム容器などが挙げられる。
【0037】
筒状フィルム容器は、ドラム缶ライナーのように、円筒状フィルムの両端に円形の平坦なフィルムを接合した構造であってもよい。筒状フィルムの一方の開口部のみに平坦なフィルムを接合する場合は、反対側の開口部において筒状フィルムを径方向に潰して、筒状フィルムの内面同士を直接接合してもよい。筒状フィルム容器は、円筒状に限らず、水平面上の断面形状が四角形等の多角形である角筒状に構成してもよい。液体容器12を二重袋や三重袋など多重の袋で構成すると、液体11が漏れにくくなるので好ましい。
【0038】
前記フィルム状容器を構成するフィルムの材質は特に限定されないが、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、アクリル等の熱可塑性樹脂や、これらの積層体が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、高分子構造が脂肪族構造でも芳香族構造でもよく、あるいは環状構造でも非環状構造でもよい。前記フィルム状容器は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の汎用性の高い熱可塑性樹脂を主体とする場合、大型容器でも比較的安価に製造でき、シングルユースの需要にも応じやすくなるので好ましい。
【0039】
前記フィルム状容器に各種の管路等として、チューブ、ホース、注出口、注入口等の付属部品を接続する場合は、付属部品の材質が前記フィルム状容器にヒートシール可能な樹脂、ゴム、エラストマー等の有機材料であることが好ましい。これにより、付属部品をヒートシールにより容易にフィルム状容器に接続することができる。また、付属部品を含めたフィルム状容器をシングルユースに構成することも容易になる。
【0040】
外装容器17は、液体容器12を収容できる容器であれば特に限定されず、箱、瓶、袋、缶、タンク等が挙げられる。外装容器17の材質は特に限定されず、樹脂、ゴム、ガラス、金属、木材、繊維強化プラスチック等から構成することができる。外装容器17の内面は、液体容器12に接触することから、液体容器12を損傷しにくいように平滑にしてもよく、液体容器12を保持しやすいように、凹凸等を形成してもよい。外装容器17に、液体容器12を収容する個数は特に限定されず、外装容器17に1つの液体容器12を収容してもよく、外装容器17に2つ以上の液体容器12を収容してもよい。
【0041】
外装容器17は、液体容器12を機械的に保護することが可能な硬さ(剛性)を有することが好ましい。液体容器12の周囲を外装容器17で保護することにより、柔軟(フレキシブル)な液体容器12であっても、液体容器12の形状を容易に維持することができる。液体容器12の側面が外装容器17の内面に密着して、液体容器12の重量が外装容器17に支持されてもよい。外装容器17は、液体容器12に収容された液体11の温度を調整するため、加熱器、冷却器、放熱器、熱媒体を流通させる熱交換器、温度計等を備えてもよい。
【0042】
揺動装置13が、外装容器17を介して液体容器12を揺動させる。外装容器17により液体容器12を支持する構成が、局所的な接着、係合等による固定であると、揺動に際し液体容器12の重量が固定箇所に集中するおそれがある。液体容器12の損傷、劣化等を抑制するには、局所的な固定を避けて、広範囲な接触、摩擦力等を利用した支持により、外装容器17に対する液体容器12の位置ズレを許容することが好ましい。
【0043】
液面レベルセンサ15が、フレキシブルな絶縁シート15Aと、絶縁シート15Aの少なくとも片面に形成された電極15Bとを有する静電容量式の液面レベルセンサ15Cであることが好ましい。この場合、液面レベルセンサ15Cを液体容器12と外装容器17との間に配置することにより、外装容器17が不透明な金属製容器であっても、液面14の高さを検出することが可能になる。また、液面レベルセンサ15Cが薄型、軽量、かつ柔軟になり、外装容器17及び液体容器12が揺動される間の耐久性を確保しやすい。
【0044】
電極15Bは、液面14の高さを検出するために必要な形状及び個数が設定される。例えば、絶縁シート15A上に間隔を介して少なくとも2つの電極15Bを形成し、これらの電極15B間の静電容量の変化に基づいて液面14の高さを検出してもよい。絶縁シート15Aの液体容器12側の面に電極15Bが配置されてもよく、絶縁シート15Aの液体容器12側とは反対側の面に電極15Bが配置されてもよい。
【0045】
液面レベルセンサ15Cの位置を液面14付近で安定させるため、液面レベルセンサ15Cを、液体容器12又は外装容器17の少なくとも一方に固定することが好ましい。上述した外装容器17に対する液体容器12の位置ズレを許容する観点からは、液面レベルセンサ15Cを液体容器12に固定する場合には、液面レベルセンサ15Cと外装容器17との間で位置ズレを許容し、また、液面レベルセンサ15Cを外装容器17に固定する場合には、液面レベルセンサ15Cと液体容器12との間で位置ズレを許容することが好ましい。液面レベルセンサ15Cを液体容器12の外面に密着させてもよく、液面レベルセンサ15Cと液体容器12との間に隙間を開けてもよい。
【0046】
図3に、培養装置の一例を示す。この培養装置30は、上述の液体処理装置10と、液体処理装置10の液体容器12に液体培地31を供給する液体培地供給部32とを備えている。この培養装置30の説明において、液体処理装置10の構成と対応する構成には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、液体処理装置10として、第2実施形態の外装容器17を備える液体処理装置20を用いてもよい。
【0047】
液体培地供給部32は、液体培地31を収容する液体培地容器33と、液体培地容器33の量を測定する液体培地計量器34を含む。液体培地計量器34が液体培地容器33の重量、体積等を測定することで、液体培地容器33の量を管理することができる。液体培地容器33と液体容器12との間は供給管路24により接続されている。供給管路24には、流量変更手段25とともに、流量計、圧力計等の流路計測器26を有してもよい。
【0048】
培養装置30は、液体培地供給部32から液体培地31を液体容器12に供給し、液体処理装置10を用いて、培養物を培養する。制御装置21は、揺動装置13に接続された伝送線路27を介して、揺動装置13の回転数等を制御してもよい。また、液体容器12に液体培地31を供給し、微生物、細胞等の培養物の培養を行うと、液体容器12に収容された液体11が培養液35となる。培養液35の一部を、サンプリング管路28を介して接続されたサンプリング装置29により採取してもよい。サンプリングした培養液35の検査、分析等により培養液35の状態を確認することができる。
【0049】
培養される微生物、細胞等の培養物としては、特に限定されないが、菌類、細菌類、ウイルス、酵母、藻類、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞、バイオ医薬製造用のCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞や、HeLa細胞、COS細胞、再生医療用途のiPS細胞、間葉系幹細胞を始めとした幹細胞、分化させた組織細胞などの動物細胞、などが挙げられる。
【0050】
液体容器12内で培養された微生物、細胞等の培養物を培養液35から回収するため、培養装置30は、培養物回収装置40を含むことができる。培養物回収装置40は、液体容器12から送出された培養液35を流通させる培養物回収管路41と、培養物回収管路41において培養液35から特定の培養物を分離する細胞分離膜42と、細胞分離膜42を通過して培養液35から分離された培養物を含む細胞分離液43を収容する培養物回収容器44を有する。
【0051】
培養物回収管路41には、培養液35及び細胞分離液43を培養物回収管路41内で輸送するポンプ等の送液装置45、流量計、圧力計等の流路計測器46などを設けることができる。培養物回収管路41を介して回収された細胞分離液43の流量を計測する場合、流路計測器46の測定値を、伝送線路47を介して制御装置21に送信し、制御装置21による培養条件の制御に利用してもよい。例えば、細胞分離液43の流量に応じて液体容器12内の培養液35の量が減少することから、培養液35の量を一定にするように、液体培地31を液体容器12に供給してもよい。
【0052】
また、培養物回収装置40は、培養物回収容器44に収容された細胞分離液43の重量、体積等を測定する培養物計量器48を有してもよい。培養物計量器48の測定値は、伝送線路49を介して制御装置21に送信し、制御装置21による培養条件の制御に利用してもよい。例えば、細胞分離液43の回収量に応じて液体容器12内の培養液35の量が減少することから、培養液35の量を一定にするように、液体培地31を液体容器12に供給してもよい。
【0053】
また、微生物、細胞等の培養物が産生した酵素、抗体、化学物質等の産生物を培養液35から回収するため、培養装置30は、培養液循環装置50と産生物回収装置60とを含むことができる。なお、培養の目的等に応じて、培養装置30が培養物回収装置40を有する場合は、培養液循環装置50及び産生物回収装置60を省略してもよく、培養装置30が培養液循環装置50及び産生物回収装置60を有する場合は、培養物回収装置40を省略してもよい。
【0054】
培養液循環装置50は、液体容器12から培養液35の一部を細胞分離装置52に向けて流通させ、さらに細胞分離装置52から液体容器12に戻す培養液循環管路51を有する。細胞分離装置52は、産生物を培養液35から分離する細胞分離膜53を有する。培養液35に含まれる細胞等は、細胞分離膜53を透過することなく、培養液循環管路51を介して液体容器12に戻される。
【0055】
培養液循環管路51には、培養液35を培養液循環管路51内で輸送するポンプ等の送液装置54、流量計、圧力計等の流路計測器55,56などを設けることができる。流路計測器55,56は、培養液35が液体容器12から細胞分離装置52に送出される経路と、細胞分離装置52を経た培養液35が液体容器12に戻される経路との少なくとも一方に設けてもよい。
【0056】
産生物回収装置60は、細胞分離装置52において細胞分離膜53を透過した産生物含有液61を回収する装置である。産生物含有液61は、産生物回収管路62を介して産生物回収容器63に回収される。産生物含有液61は、微生物、細胞等の培養物から分離された状態の産生物を含有する。また、産生物含有液61には、培養液35に含まれていた水、液体培地31等の成分が含まれる。
【0057】
産生物回収管路62には、産生物含有液61を産生物回収管路62内で輸送するポンプ等の送液装置64、流量計、圧力計等の流路計測器65などを設けることができる。産生物回収管路62を介して回収された産生物含有液61の流量を計測する場合、流路計測器65の測定値を、伝送線路66を介して制御装置21に送信し、制御装置21による培養条件の制御に利用してもよい。例えば、産生物含有液61の流量に応じて液体容器12内の培養液35の量が減少することから、培養液35の量を一定にするように、液体培地31を液体容器12に供給してもよい。
【0058】
また、産生物回収装置60は、産生物回収容器63に収容された産生物含有液61の重量、体積等を測定する産生物計量器67を有してもよい。産生物計量器67の測定値は、伝送線路68を介して制御装置21に送信し、制御装置21による培養条件の制御に利用してもよい。例えば、産生物含有液61の回収量に応じて液体容器12内の培養液35の量が減少することから、培養液35の量を一定にするように、液体培地31を液体容器12に供給してもよい。
【0059】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
図3において、サンプリング管路28、培養物回収管路41、培養液循環管路51、産生物回収管路62としては、液体培地31の供給管路24と同様に、各種のチューブ、ホース、パイプ等を採用することができる。また、各種の伝送線路22,23,27,47,49,66,68は、上述したように、有線でも無線でもよい。
【符号の説明】
【0060】
10,20…液体処理装置、11…液体、12…液体容器、13…揺動装置、14,14A,14B…液面、15,15C…液面レベルセンサ、15A…絶縁シート、15B…電極、16…気体、17…外装容器、21…制御装置、24…供給管路、25…流量変更手段、30…培養装置、31…液体培地、32…液体培地供給部、33…液体培地容器、34…液体培地計量器、35…培養液。