(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】ルシフェラーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/53 20060101AFI20240415BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240415BHJP
C12N 9/02 20060101ALI20240415BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240415BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240415BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240415BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240415BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20240415BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N15/63 Z
C12N9/02
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/26
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020529058
(86)(22)【出願日】2019-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2019026784
(87)【国際公開番号】W WO2020009215
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2018129384
(32)【優先日】2018-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 華奈子
(72)【発明者】
【氏名】一柳 敦
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-516585(JP,A)
【文献】DEMENTIEVA, EI. et al.,Physicochemical Properties of Recombinant Luciola mingrelica Luciferase and Its Mutant Forms,Biochemistry(Moscow),1996年,Vol.61, No.1,p.115-119,Abstract, TABLE1, Fig.1, p.118 left column line 21 - right column line 16
【文献】HATTORI N. et al.,Mutant Luciferase Enzymes from Fireflies with Increased Resistance to Benzalkonium Chloride,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry,2002年,Vol.66, No.12,p.2587-2593,Abstract, Materials and Methods, Fig.1-3, Table 1-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 1/00-5/28
C12Q
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)~(iii)、すなわち
(i)配列番号1のアミノ酸配列、
(ii)前記(i)のアミノ酸配列において、配列番号1の393位に対応する位置以外の位置において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、及び、
(iii)配列番号1のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むルシフェラーゼの、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸がロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含むホタルルシフェラーゼの変異体であって、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体。
【請求項2】
配列番号1の217位に対応する位置のアミノ酸がロイシン又はイソロイシンであり、
配列番号1の490位に対応する位置のアミノ酸がリシンであり、及び/又は
配列番号1の252位に対応する位置のアミノ酸がメチオニンである、
請求項1に記載のルシフェラーゼ変異体。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項
3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項
3に記載のポリヌクレオチド又は請求項
4に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
請求項
5に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体の生産方法。
【請求項7】
請求項
1又は2に記載のルシフェラーゼ変異体を含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するためのキット。
【請求項8】
請求項
1又は2に記載のルシフェラーゼ変異体を使用することを含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体、該ルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド、該ルシフェラーゼ変異体の生産方法、該ルシフェラーゼ変異体を含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するためのキット、及び該ルシフェラーゼ変異体を使用することを含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ホタルルシフェラーゼは、マグネシウムイオン及び酸素の存在下で、アデノシン三リン酸(ATP)、D-ルシフェリン及び酸素を、アデノシン一リン酸(AMP)、オキシルシフェリン及び二酸化炭素に変換し、光を生成する酵素である。ホタルルシフェラーゼの発光原理を応用すれば、微量の酵素反応基質を極めて感度良く測定することができる。そのため、ホタルルシフェラーゼは、例えば、ATPを指標とした飲食料品中の微生物検出や、手指や器具類に付着した食物残渣及び汚れの判定、又は、各種抗体技術や遺伝子増幅技術を利用した高感度測定法等に広く用いられている。
【0003】
しかしながら、一般的に、ホタルルシフェラーゼ等の甲虫類ルシフェラーゼは、熱に対して不安定なため、試薬として保存する際に失活しやすいという欠点を有する。そのため、かかる欠点を克服し、良好な熱安定性を有するルシフェラーゼを得るための試みがなされている。
【0004】
その試みのひとつは、測定試薬中に塩等を添加して、ある程度の安定性を確保するという配合組成の工夫である。しかし、この方法は、試薬組成上の制約を伴う場合があるなど広範に適用できるというものではなく、また、多くの場合、塩類の添加は、ルシフェラーゼ反応に何らかの反応障害を惹起しがちであるという欠点を有する。
【0005】
試薬組成の工夫の他に試みられている異なるアプローチのひとつは、好ましい性質を有する変異ルシフェラーゼの探索である。例えば、非特許文献1では、342位のアミノ酸がアラニンに変異された北米産ホタルルシフェラーゼが取得され、このホタルルシフェラーゼの発光持続性が向上していることが報告されている。また、特許文献1には217位のアミノ酸が疎水性アミノ酸に置換されたゲンジボタル又はヘイケボタルのルシフェラーゼが、耐熱性を有することが開示されている。特許文献2には、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているか、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有するホタルルシフェラーゼにおいて、熱安定性が向上することが開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献に開示された置換を有するルシフェラーゼについても、熱安定性は必ずしも十分なものとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-244942号
【文献】特開2011-120559号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Biochemistry 2003年、42巻、p10429-10436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、熱安定性が改善されたホタルルシフェラーゼを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ヘイケボタルの393位のシステインをシステイン以外の非酸性アミノ酸に置換する変異が、ホタルルシフェラーゼの熱安定性を向上させることを見出した。また、本発明者は、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸を置換した場合にホタルルシフェラーゼの熱安定性が向上し得ることを見出し、本願発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明は、以下の態様を包含する。
(1)配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を含むホタルルシフェラーゼの変異体であって、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体。
(2)配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基がシステインであるアミノ酸配列を含む野生型ホタルルシフェラーゼの変異体であって、前記位置のアミノ酸がシステイン以外の非酸性アミノ酸であるアミノ酸配列を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体。
(3)ホタルルシフェラーゼの変異体であって、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸が、ロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン、トリプトファン、チロシン、セリン、グリシン、アスパラギン、リシン、トレオニン、及びアルギニンからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体。
(4)配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基がチロシンであるアミノ酸配列を含む野生型ホタルルシフェラーゼの変異体であって、前記位置のアミノ酸がチロシン及びシステイン以外のアミノ酸配列を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体。
(5)配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸が、ロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、及びアラニンからなる群から選択される、(1)~(4)のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体。
(6)配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸が、ロイシン、プロリン、又はバリンである、(5)に記載のルシフェラーゼ変異体。
(7)配列番号1の217位に対応する位置のアミノ酸がロイシン又はイソロイシンであり、
配列番号1の490位に対応する位置のアミノ酸がリシンであり、及び/又は
配列番号1の252位に対応する位置のアミノ酸がメチオニンである、
(1)~(6)のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体。
(8)ルシフェラーゼ変異体が、以下の(i)~(iii)からなる群より選択されるアミノ酸配列:
(i)配列番号1、3、5、及び7からなる群から選択されるアミノ酸配列、
(ii)前記(i)のいずれかのアミノ酸配列において、配列番号1の393位に対応する位置以外の位置において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、及び
(iii)前記(i)のいずれかのアミノ酸配列に対して全長で70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ配列番号1の以下の位置:4~5位、9~10位、13~14位、16~17位、19位、23位、25~26位、28位、35~37位、40位、42~43位、45位、47位、55位、57位、62位、65位、72~74位、80位、83~86位、90~91位、93位、98位、101位、105~106位、111位、114~116位、119位、122位、125位、129位、131~132位、137位、141位、151位、153位、155位、159位、162位、164位、169位、183位、190位、195~196位、198位、200~202位、204~205位、208~210位、212位、214位、220~223位、226~227位、230~231位、235位、237~238位、240位、242位、244~251位、253~257位、260~263位、270位、272位、275~276位、279~283位、286位、289~293位、300位、302位、305~309位、311位、313~324位、326~327位、329位、332~333位、335位、339~350位、353~355位、358位、361~362位、365~366位、368~369位、374~375位、377位、380位、382位、384~385位、387位、390~391位、396位、398位、400位、403位、406位、408~410位、414位、418~420位、423~425位、427位、429位、433~434位、436~451位、453~455位、457位、460~464位、466位、468~471位、473位、475~476位、479~483位、485位、487~488位、492~493位、497位、504位、506~508位、511~512位、514~518位、520位、522~523位、525~527位、529~531位、533位、538位、543位、及び547位のアミノ酸配列からなる領域と、ルシフェラーゼ変異体におけるこれらの位置と対応する位置のアミノ酸配列からなる領域とが90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
を含む、(1)~(7)のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体。
(9)ルシフェラーゼ変異体が、以下の(i)~(iii)からなる群より選択されるアミノ酸配列:
(i)配列番号1のアミノ酸配列、
(ii)前記(i)のアミノ酸配列において、配列番号1の393位に対応する位置以外の位置において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、及び (iii)前記(i)のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
を含む、(8)に記載のルシフェラーゼ変異体。
(10)(1)~(9)のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
(11)(10)に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
(12)(10)に記載のポリヌクレオチド又は(11)に記載のベクターを含む宿主細胞。
(13)(12)に記載の宿主細胞を培養する工程を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体の生産方法。
(14)(1)~(9)のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体を含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するためのキット。
(15)(1)~(9)のいずれかに記載のルシフェラーゼ変異体を使用することを含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出する方法。
【0012】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-129384号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、熱安定性が改善されたホタルルシフェラーゼが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1-1】
図1-1は、ヘイケボタル(Luciola lateralis)、ゲンジボタル(Luciola cruciata)、北米産ホタル(Photinus pyralis)、フォツリス・ペンシルバニカ(Photuris pennsylvanica)の野生型ルシフェラーゼのアラインメント結果を示す。図中、4つのアミノ酸配列において同一のアミノ酸残基を枠で囲んだ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ルシフェラーゼ変異体)
一態様において、本発明は、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を含むホタルルシフェラーゼ、例えば野生型ホタルルシフェラーゼの変異体に関する。一態様において、本発明は、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基がシステインであるアミノ酸配列を含むホタルルシフェラーゼ、例えば野生型ホタルルシフェラーゼの変異体に関する。一実施形態において、本発明のルシフェラーゼ変異体は、熱安定性が改善されている。
【0016】
本明細書において、「野生型」とは、同種集団内において自然界に最も多く存在する形質をいう。
【0017】
本発明のホタルルシフェラーゼとしては、任意のホタル由来のものを用いることができる。例えば、ヘイケボタル(Luciola lateralis)、ゲンジボタル(Luciola cruciata)、北米産ホタル(Photinus pyralis)、フォツリス・ペンシルバニカ(Photuris pennsylvanica)、ヨーロッパツチボタル(Lampyris noctiluca)、ミヤコマドボタル(Pyrocoelia miyako)、クリックビートル(Pyrophorus plagiophthalamus)、又はルシオラ・ミングレリカ(Luciola mingrelica)、好ましくはヘイケボタル、ゲンジボタル、北米産ホタル、又はフォツリス・ペンシルバニカ由来のホタルルシフェラーゼを用いることができる。あるいは、各種のホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子をもとに作製されたキメラタンパク質を用いてもよい。
【0018】
本明細書において、アミノ酸位置の対応関係は、例えば、既成のアミノ酸の相同性解析用ソフト、例えば、GENETYX(GENETYX社製)等を用いて、各種ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列を比較することにより、容易に特定することができる。例えば、配列番号1のアミノ酸配列の位置Xに対応するルシフェラーゼのアミノ酸位置は、該ルシフェラーゼのアミノ酸配列を配列番号1のアミノ酸配列とアラインメントすることによって特定することができる。例えば、「配列番号1の393位に対応する位置」は、配列番号3のアミノ酸配列の393位、配列番号5の391位、及び配列番号7の390位であってよい。
図1に、ヘイケボタルルシフェラーゼ、ゲンジボタルルシフェラーゼ、北米産ホタルルシフェラーゼ、及びフォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼのアラインメント結果を示す。このようなアラインメント結果を参照して各アミノ酸配列における対応する位置を定めることができる。
【0019】
一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体における配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸は、システイン以外の非酸性アミノ酸(すなわち、ロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン、トリプトファン、チロシン、セリン、グリシン、アスパラギン、リシン、トレオニン、又はアルギニン)である。この実施形態において、ルシフェラーゼ変異体はヘイケボタル由来のルシフェラーゼ変異体、又は配列番号1のアミノ酸配列と高い配列同一性、例えば95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異体であってよい。配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸は、好ましくはロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン、トリプトファン、チロシン、セリン、及びグリシンからなる群から選択され、さらに好ましくはロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、及びアラニンからなる群から選択され、より好ましくはロイシン、プロリン、又はバリンである。
【0020】
一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体における配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸(例えば、配列番号3の393位のアミノ酸)は、システイン以外のアミノ酸である。この実施形態において、ルシフェラーゼ変異体はゲンジボタル由来のルシフェラーゼ変異体、又は配列番号3のアミノ酸配列と高い配列同一性、例えば95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異体であってよい。配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸は、アスパラギン、アラニン、セリン、アルギニン、ロイシン、トレオニン、ヒスチジン、バリン、フェニルアラニン、グリシン、トリプトファン、チロシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、又はグルタミンであってよく、例えばアスパラギン、アラニン、セリン、アルギニン、ロイシン、トレオニン、ヒスチジン、又はバリンであってよい。
【0021】
一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体における配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸(例えば、配列番号5の391位のアミノ酸)は、トリプトファンである。この実施形態において、ルシフェラーゼ変異体は北米産ホタル由来のルシフェラーゼ変異体、又は配列番号5のアミノ酸配列と高い配列同一性、例えば70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む変異体であってよい。
【0022】
一態様において、本発明は、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸が、ロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン、トリプトファン、チロシン、セリン、グリシン、アスパラギン、リシン、トレオニン、及びアルギニンからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体に関する。本態様において、変異導入前のホタルルシフェラーゼ、例えば野生型ホタルルシフェラーゼにおける配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸は、上記アミノ酸のいずれか以外であれば限定しないが、例えばチロシンであってよい(ただしこの場合、置換後のアミノ酸はチロシンではないことを条件とする)。一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体における配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸は、トリプトファンではない。一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体における配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸は、好ましくはロイシン、プロリン、バリン、イソロイシン、ヒスチジン、メチオニン、及びアラニンからなる群から選択され、より好ましくはロイシン、プロリン、又はバリンである。
【0023】
一態様において、本発明は、配列番号1の393位に対応する位置(例えば、配列番号7の390位)のアミノ酸残基がチロシンであるアミノ酸配列を含むホタルルシフェラーゼの変異体であって、前記位置のアミノ酸がチロシン及びシステイン以外のアミノ酸配列(例えば、チロシン、システイン及びトリプトファン以外のアミノ酸配列)を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体に関する。本態様において、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基は、プロリン、アスパラギン、アルギニン、グリシン、セリン、リシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン、トレオニン、グルタミン酸、イソロイシン、又はアラニンであってよく、例えばプロリン、アスパラギン、アルギニン、グリシン、セリン、リシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン、又はトレオニンであってよい。
【0024】
一実施形態において、配列番号1の393位に対応する位置の変異は、人為的に導入されたものである。これは、ルシフェラーゼをコードする遺伝子の配列に変異を人為的に導入することによりなされ得る。
【0025】
一実施形態において、本発明のホタルルシフェラーゼ変異体は、上記393位、又は393位に対応する位置の変異以外の変異をさらに含んでもよい。前記変異は、何らかの特定の効果を意図して人為的に導入されたものでもよく、ランダムに、又は非人為的に導入されたものでもよい。特定の効果を意図して導入される変異としては、例えば、ホタルルシフェラーゼの発現量を増強するための配列の付加や改変、ホタルルシフェラーゼの精製効率を向上させるための改変等の他、ホタルルシフェラーゼに実用上好ましい特性を付与する各種の変異も含まれ得る。そのような公知の変異の例としては、特開2000-197484号公報に記載されるような発光持続性を高める変異、特開平3-285683号公報又は特表2003-512071号公報に記載されるような発光波長を変化させる変異、特開平11-239493号公報に記載されるような界面活性剤耐性を高める変異、国際公開第99/02697号パンフレット、特表平10-512750号公報又は特表2001-518799号公報に記載されるような基質親和性を変化させる変異、特開平5-244942号公報、特開2011-120559号公報、特開2000-197487号公報、特表平9-510610号公報又は特表2003-518912号公報に記載されるような、安定性を高める変異、又は特開2011-188787に記載されるような、発光持続性、安定性及び発光量を改善する変異等が挙げられる。例えば、特開2011-120559号公報には、ヘイケボタルルシフェラーゼの287位に相当するアミノ酸がアラニンに変異されているか、392位に相当するアミノ酸がイソロイシンに変異されているアミノ酸配列を有するホタルルシフェラーゼにおいて、熱安定性が向上することが開示されている。特開2011-120559号公報には、これらの変異と、326位のアミノ酸がセリンに置換された変異、及び/又は467位のアミノ酸がイソロイシンに置換された変異を組み合わせることにより、さらに安定性が向上したホタルルシフェラーゼを得ることができることが記載されている。
【0026】
例えば、本発明のルシフェラーゼ変異体において、配列番号1の217位に対応する位置のアミノ酸はロイシン又はイソロイシンであり、及び/又は配列番号1の490位に対応する位置のアミノ酸はリシンであってよい。また、本発明のルシフェラーゼ変異体において、配列番号1の252位に対応する位置のアミノ酸はメチオニンであってよい。
【0027】
本発明のホタルルシフェラーゼ変異体の例として、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ(配列番号1)に対し、配列番号1の217位に対応する位置にロイシンを導入し、かつ490位に対応する位置にリシンを導入した変異体(アミノ酸配列を配列番号9で示す);野生型ゲンジボタルルシフェラーゼ(配列番号3)に対し、配列番号1の217位に対応する位置(配列番号3の217位)にイソロイシンを導入した変異体;及び野生型フォツリス・ペンシルバニカホタルルシフェラーゼ(配列番号7)に対し、配列番号1の252位に対応する位置(配列番号7の249位)にメチオニンを導入した変異体が挙げられる。これらの変異体は、上記393位、又は393位に対応する位置の変異をさらに含んでいてもよい。
【0028】
一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体は、配列番号1の393位に対応する位置におけるアミノ酸変異(及び任意に本明細書に記載の他のアミノ酸変異)を含み、かつ以下の(i)~(iii)からなる群より選択されるアミノ酸配列:
(i)配列番号1、3、5、及び7からなる群から選択されるアミノ酸配列、
(ii)前記(i)のいずれかのアミノ酸配列において、配列番号1の393位に対応する位置以外の位置において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、及び
(iii)前記(i)のいずれかのアミノ酸配列に対して全長で70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、かつ配列番号1の以下の位置:4~5位、9~10位、13~14位、16~17位、19位、23位、25~26位、28位、35~37位、40位、42~43位、45位、47位、55位、57位、62位、65位、72~74位、80位、83~86位、90~91位、93位、98位、101位、105~106位、111位、114~116位、119位、122位、125位、129位、131~132位、137位、141位、151位、153位、155位、159位、162位、164位、169位、183位、190位、195~196位、198位、200~202位、204~205位、208~210位、212位、214位、220~223位、226~227位、230~231位、235位、237~238位、240位、242位、244~251位、253~257位、260~263位、270位、272位、275~276位、279~283位、286位、289~293位、300位、302位、305~309位、311位、313~324位、326~327位、329位、332~333位、335位、339~350位、353~355位、358位、361~362位、365~366位、368~369位、374~375位、377位、380位、382位、384~385位、387位、390~391位、396位、398位、400位、403位、406位、408~410位、414位、418~420位、423~425位、427位、429位、433~434位、436~451位、453~455位、457位、460~464位、466位、468~471位、473位、475~476位、479~483位、485位、487~488位、492~493位、497位、504位、506~508位、511~512位、514~518位、520位、522~523位、525~527位、529~531位、533位、538位、543位、及び547位のアミノ酸配列からなる領域(以下、「同一領域」とも記載する)と、ルシフェラーゼ変異体におけるこれらの位置と対応する位置のアミノ酸配列からなる領域とが90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0029】
一実施形態において、上記(iii)のアミノ酸配列は、前記(i)のいずれかのアミノ酸配列に対して全長で71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、好ましくは80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、より好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、さらに好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、さらにより好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する。また、上記(iii)のアミノ酸配列における「同一領域」は、
図1に示す4つのホタルルシフェラーゼ(ヘイケボタル、ゲンジボタル、北米産ホタル、及びフォツリス・ペンシルバニカ)において同一のアミノ酸残基が保存されている領域として特定することができる。上記(iii)のアミノ酸配列において、上記同一領域とルシフェラーゼ変異体における同一領域と対応する領域とは、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有する。
【0030】
本明細書において、アミノ酸配列及び遺伝子配列の同一性は、GENETYX(GENETYX社製)のマキシマムマッチングやサーチホモロジー等のプログラム、又はCLUSTAL Wのマルチプルアラインメント、BLASTによるペアワイズアラインメント等のプログラムにより計算することができる。アミノ酸配列同一性を計算するために、2以上のルシフェラーゼをアラインメントしたときに、該2以上のルシフェラーゼにおいて同一であるアミノ酸の位置を調べることができる。こうした情報を基に、アミノ酸配列中の同一領域を決定できる。ここで2以上のアミノ酸配列について、同一性%とは、アミノ酸配列を対象としたBLAST(BLASTP)等を利用して2以上のアミノ酸配列のアラインメントを行った際に、アラインメント可能であった領域の総アミノ酸数を分母とし、そのうち同一のアミノ酸によって占められる位置の数を分子としたときのパーセンテージをいう。故に、通常、2以上のアミノ酸配列に同一性が全く見られない領域がある場合、例えばC末端に同一性が全く見られない付加配列が一方のアミノ酸配列にある場合、当該同一性のない領域はアラインメント不可能であるため、同一性%の算出には利用されない。
【0031】
本明細書において、「1又は数個」の範囲は、1から10個、好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個又は2個である。
【0032】
一実施形態において、ルシフェラーゼ変異体は、配列番号1の393位に対応する位置におけるアミノ酸変異(及び任意に本明細書に記載の他のアミノ酸変異)を含み、かつ以下の(i)~(iii)からなる群より選択されるアミノ酸配列:
(i)配列番号1のアミノ酸配列、
(ii)前記(i)のアミノ酸配列において、配列番号1の393位に対応する位置以外の位置において1又は数個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列、及び (iii)前記(i)のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列、
を含む。
【0033】
一実施形態において、本発明のルシフェラーゼ変異体は、ルシフェラーゼ活性を有する。ルシフェラーゼ活性の有無は、例えば実施例に記載の方法に従って、ルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ社製)を使用して測定することができる。
【0034】
本明細書において、「熱安定性」は、例えば、ホタルルシフェラーゼを所定の温度で所定の時間の熱処理を行った時の残存活性を指標に評価することができる。具体的には、本発明におけるホタルルシフェラーゼの熱安定性は、ホタルルシフェラーゼを高温条件下、例えば、通常30~50℃、例えば35~45℃又は35~40℃の反応温度下で、一定時間、通常5~180分又は10~180分、例えば60~180分又は約90分熱処理後の活性残存率を比較することにより評価することができる。本発明におけるホタルルシフェラーゼの活性残存率は、上述の高温条件で作用させる前のホタルルシフェラーゼ活性に対する熱処理後の活性の比で算出する。本発明における熱安定性改善とは、ホタルルシフェラーゼ変異体を上記条件で作用させた際の活性残存率が、本発明の変異(配列番号1の393位に対応する位置の変異)を導入しないルシフェラーゼ、例えば野生型ルシフェラーゼ又は本発明の変異以外のアミノ酸配列が同一であるルシフェラーゼに対して1.01倍以上、1.02倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上又は1.5倍以上の改善を示す場合を言う。
【0035】
(ポリヌクレオチド)
一態様において、本発明は、本発明のルシフェラーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド(以下、「ルシフェラーゼ遺伝子」とも記載する)に関する。ポリヌクレオチドの配列は、ホタルルシフェラーゼ変異体のアミノ酸配列に基づいて容易に定めることができる。例えば、配列番号1、3、5、及び7のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとして、それぞれ配列番号2、4、6、及び8のポリヌクレオチドが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは、例えば、
(i)配列番号2、4、6、及び8からなる群から選択されるヌクレオチド配列、
(ii)前記(i)のいずれかのヌクレオチド配列において、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失又は付加されたヌクレオチド配列、及び
(iii)前記(i)のいずれかのヌクレオチド配列に対して全長で70%以上、71%以上、72%以上、73%以上、74%以上、75%以上、76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、好ましくは80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、より好ましくは90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、さらに好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、さらにより好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含んでよい。
【0036】
これらのルシフェラーゼをコードするヌクレオチドを得るには、通常一般的に用いられている遺伝子のクローニング方法が用いられる。例えば、ルシフェラーゼ生産能を有するホタルの組織又は細胞から常法、例えば、Current Protocols in Molecular Biology(WILEY Interscience,1989)記載の方法により、染色体DNA又はmRNAを抽出することができる。さらにmRNAを鋳型としてcDNAを合成することができる。このようにして得られた染色体DNA又はcDNAを用いて、染色体DNA又はcDNAのライブラリーを作製することができる。
【0037】
次いで、上記ルシフェラーゼのアミノ酸配列に基づき、適当なプローブDNAを合成して、これを用いて染色体DNA又はcDNAのライブラリーからルシフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを選抜する方法、又は、上記アミノ酸配列に基づき、適当なプライマーDNAを作製して、5’RACE法や3’RACE法などの適当なポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction、PCR法)により、ルシフェラーゼをコードする目的のヌクレオチド断片を含むDNAを増幅させ、これらのDNA断片を連結させて、目的のルシフェラーゼをコードするヌクレオチドの全長を含むDNAを得ることができる。
【0038】
また、例えば配列番号2、4、6、及び8に示されるヌクレオチド配列のように、ルシフェラーゼをコードするヌクレオチド配列が既知の場合には、該ヌクレオチド配列を人工的に合成してもよい。このような人工遺伝子合成サービスは、例えば、Integrated DNA Technologies社から提供されている。
【0039】
(ルシフェラーゼ遺伝子の作製方法)
ルシフェラーゼ遺伝子の変異処理は、企図する変異形態に応じた、公知の任意の方法で行うことができる。すなわち、ルシフェラーゼ遺伝子又は当該遺伝子の組み込まれた組換え体DNAと変異原となる薬剤とを接触、作用させる方法;紫外線照射法;遺伝子工学的手法;又は蛋白質工学的手法を駆使する方法等を広く用いることができる。
【0040】
上記変異処理に用いられる変異原となる薬剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン、蟻酸、若しくは5-ブロモウラシル等を挙げることができる。
【0041】
この接触、作用の諸条件は、用いる薬剤の種類等に応じた条件を採ることが可能であり、現実に所望の変異をルシフェラーゼ遺伝子において惹起することができる限り特に限定されない。通常、好ましくは0.5~12Mの上記薬剤濃度において、20~80℃の反応温度下で10分間以上、好ましくは10~180分間接触、作用させることで、所望の変異を惹起可能である。紫外線照射を行う場合においても、上記の通り常法に従い行うことができる(現代化学、024~30、1989年6月号)。
【0042】
蛋白質工学的手法を駆使する方法としては、一般的に、Site-Specific Mutagenesisとして知られる手法を用いることができる。例えば、Kramer法(Nucleic Acids Res., 12, 9441 (1984): Methods Enzymol., 154, 350 (1987): Gene, 37, 73 (1985))、Eckstein法(Nucleic Acids Res., 13, 8749 (1985): Nucleic Acids Res., 13, 8765 (1985): Nucleic Acids Res, 14, 9679 (1986))、Kunkel法(Proc. Natl. Acid. Sci. U.S.A., 82, 488 (1985): Methods Enzymol., 154, 367 (1987))等が挙げられる。また、Site-Specific Mutagenesisは市販のキット、例えば、QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent Technologies社製)を利用して実施することもできる。
【0043】
また、一般的なPCR法として知られる手法を用いることもできる(Technique, 1, 11(1989)参照)。なお、上記遺伝子改変法の他に、有機合成法又は酵素合成法により、直接所望の改変ルシフェラーゼ遺伝子を合成することもできる。
【0044】
上記方法により得られるルシフェラーゼ遺伝子のDNA塩基配列の決定若しくは確認を行う場合には、例えば、マルチキャピラリーDNA解析システムApplied Biosystems 3130xlジェネティックアナライザ(Thermo Fisher Scientific社製)等を用いることにより行うことができる。
【0045】
(ベクター、宿主細胞)
一態様において、本発明は、上記ポリヌクレオチドを含むベクターに関する。これらのルシフェラーゼ遺伝子は、常法に従って各種ベクターに連結されていることが、取扱い上好ましい。本発明において用いることのできるベクターとしてはプラスミドが挙げられるが、それ以外の、例えば、バクテリオファージ、コスミド等の当業者に公知の任意のベクターを用いることができる。ベクターの種類は宿主細胞に応じて選択することができ、具体的には、例えばpET16-b又はpKK223-3等が好ましい。
【0046】
一態様において、本発明は、上記ポリヌクレオチド又はベクターを含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、限定されないが、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等であり、好ましくは大腸菌等の細菌細胞である。
【0047】
(形質転換及び形質導入)
上述のように得られたルシフェラーゼ遺伝子を、常法により、バクテリオファージ、コスミド、又は原核細胞若しくは真核細胞の形質転換に用いられるプラスミド等のベクターに組み込み、各々のベクターに対応する宿主を常法により、形質転換又は形質導入をすることができる。例えば、宿主として、エッシェリシア属に属する微生物、例えば得られた組換え体DNAを用いて、例えば、大腸菌K-12株、又は大腸菌B株、好ましくは大腸菌JM109株、大腸菌DH5α株、大腸菌BL21株、大腸菌BL21(DE3)株(ともにタカラバイオ社製)等を形質転換又はそれらに形質導入してそれぞれの菌株を得ることができる。
【0048】
(ルシフェラーゼ変異体の生産方法)
一態様において、本発明は、上記宿主細胞を培養する工程を含む、熱安定性が改善されたルシフェラーゼ変異体の生産方法に関する。培養は各種公知の方法で行うことができ、固体培養法でもよいが、好ましくは液体培養法により培養する。
【0049】
本発明の方法は、上記宿主細胞を、ルシフェラーゼタンパク質を発現しうる条件下で培養する工程、及び任意に培養物又は培養液からルシフェラーゼを単離する工程を含んでよい。ここでルシフェラーゼタンパク質を発現しうる条件とは、ルシフェラーゼ遺伝子が転写、翻訳され、当該遺伝子によりコードされるポリペプチドが産生されることをいう。
【0050】
一実施形態において、本発明の方法は、培養工程前に、ルシフェラーゼタンパク質の配列番号1の393位に対応する位置の変異を、人為的に導入することを含む。これは、ルシフェラーゼをコードする遺伝子の配列に変異を人為的に導入することによりなされ得る。
【0051】
また、上記宿主細胞を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、トリプトン、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー又は大豆若しくは小麦ふすまの浸出液等の1種以上の窒素源に、塩化ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄又は硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、さらに必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
【0052】
培地の初発pHは、pH7~9に調整するのが適当である。培養は、20~42℃の培養温度、好ましくは25~37℃前後の培養温度で4~24時間、さらに好ましくは25~37℃前後の培養温度で8~16時間、通気攪拌深部培養、振盪培養、静置培養等により実施するのが好ましい。
【0053】
培養終了後、該培養物よりルシフェラーゼを採取するには、通常の酵素採取手段を用いて得ることができる。例えば、常法により菌体を、超音波破壊処理、磨砕処理等するか、又はリゾチーム等の溶菌酵素を用いて本酵素を抽出するか、又はトルエン等の存在下で振盪若しくは放置して溶菌を行わせ、本酵素を菌体外に排出させることができる。そして、この溶液を濾過、遠心分離等して固形部分を除去し、必要によりストレプトマイシン硫酸塩、プロタミン硫酸塩、若しくは硫酸マンガン等により核酸を除去したのち、これに硫安、アルコール、アセトン等を添加して分画し、沈澱物を採取し、ルシフェラーゼの粗酵素を得る。
【0054】
上記ルシフェラーゼの粗酵素よりさらにルシフェラーゼ精製酵素を得るには、例えば、セファデックス、スーパーデックス若しくはウルトロゲル等を用いるゲル濾過法、イオン交換性担体、疎水性担体、ヒドロキシアパタイトを用いる吸着溶出法、ポリアクリルアミドゲル等を用いる電気泳動法、蔗糖密度勾配遠心法等の沈降法、アフィニティクロマトグラフィー法、分子ふるい膜若しくは中空糸膜等を用いる分画法等を適宜選択し、又はこれらを組み合わせて実施することにより、精製されたルシフェラーゼ酵素を得ることができる。このようにして、所望のルシフェラーゼを得ることができる。
【0055】
本発明の方法により生産されたルシフェラーゼは本明細書に記載のキット、又はATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するための方法において使用することができる。
【0056】
(ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するためのキット)
一態様において、本発明は、本明細書に記載のルシフェラーゼ変異体を含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するためのキットに関する。本発明のキットは、ルシフェラーゼ変異体に加えて、ルシフェリンを含んでよい。この場合、マグネシウム、マンガン、カルシウムなどの金属イオンもキットに含まれうる。当業者であれば用いる酵素に応じて金属イオンの濃度を決定することができる。ルシフェラーゼによりATP、O2及びルシフェリンはAMP、ピロリン酸、CO2及びオキシルシフェリンに変換され、このとき発光がもたらされる。このとき生じる反応は、以下の通り表される。
【0057】
ルシフェリン+ATP+O2→オキシルシフェリン+アデノシン一リン酸(AMP)+ピロリン酸(PPi)+CO2+光
【0058】
一実施形態において、本発明のキットは、ADPからATPを生成する反応を触媒する酵素をさらに含む。該ADPからATPを生成する反応を触媒する酵素は、ピルビン酸キナーゼ(PK)、酢酸キナーゼ(AK)、クレアチンキナーゼ(CK)、ポリリン酸キナーゼ(PPK)、ヘキソキナーゼ、グルコキナーゼ、グリセロールキナーゼ、フルクトキナーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、リボフラビンキナーゼ、及びフルクトースビスホスファターゼからなる群より選択され得る。別の実施形態において、本発明のキットはさらにピルベートオルトホスフェートジキナーゼ(PPDK)、アデニル酸キナーゼ(ADK)又はピルビン酸ウォータージキナーゼ(PWDK)を含む。
【0059】
試料にATPが含まれると、これはルシフェラーゼによりAMPに変換されるとともに発光が生じる。ADPからATPを生成する反応を触媒する酵素が存在する系において試料にADPが含まれると、該酵素によりADPがATPに変換され、その後ATPが発光反応に供される。これにより系に存在するATP及びADPの総量を測定することができる。さらにPPDKが存在する系において、試料にAMPが含まれると、これはPPDK、PEP、PPiによりATPに変換される。あるいは、PWDKが存在する系において、試料にAMPが含まれると、これはPWDK、PEP、リン酸によりATPに変換される。生成したATPは再度、ルシフェラーゼにより発光する。発光は安定して維持され、発光量は系に存在するATP及びAMPの総量と相関することから、ATP及びAMPの定量が可能となる。ADPからATPを生成する反応を触媒する酵素とPPDK、ADK又はPWDKが存在すると、ATP、ADP及びAMPの総量を測定することができる。
【0060】
ルシフェリンは、用いるルシフェラーゼにより基質として認識されるものであればどのようなものでもよく、天然のもの又は化学合成されたものでもよい。また任意の公知のルシフェリン誘導体を用いることもできる。ルシフェリンの基本骨格はイミダゾピラジノンであり、多くの互変異性体がある。ルシフェリンとしては、ホタルルシフェリンが挙げられる。ホタルルシフェリンはホタルルシフェラーゼ(EC 1.13.12.7)の基質である。ルシフェリン誘導体は特開2007-91695号公報、特表2010-523149号公報(国際公開2008/127677号)等に記載されているものであり得る。
【0061】
本発明のキットには、上記成分に加え、安定化剤、バッファー、及び説明書の少なくとも一つを含んでもよい。
【0062】
(ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するための方法)
一態様において、本発明は、本明細書に記載のルシフェラーゼ変異体を使用することを含む、ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出する方法に関する。本方法は、本明細書に記載のルシフェラーゼ変異体を用いてルシフェリンの酸化反応を触媒する工程、及び該酸化反応により生じる発光を測定する工程を含んでよい。
【0063】
ルシフェラーゼ変異体によるルシフェリンの酸化反応の触媒については、「ATP、ADP、及びAMPの少なくとも一つを検出するためのキット」において記載した通りである。本明細書に記載のルシフェラーゼ変異体及びルシフェリンと試料を反応させることにより行うことができる。試料にATPが含まれると、これはルシフェラーゼによりAMPに変換されるとともに発光が生じるためATPを測定することができる。ADPからATPを生成する反応を触媒する酵素が存在する系では系に存在するATP及びADPの総量を測定することができる。また、PPDK又はPWDKが存在する系においては、ATP及びAMPの定量が可能となる。ADPからATPを生成する反応を触媒する酵素とPPDK、ADK又はPWDKが存在すると、ATP、ADP及びAMPの総量を測定することができる。
【0064】
ルシフェラーゼの発光量の測定は、公知の方法により行うことができ、例えば適当な発光測定装置、例えば、ルミノメーター(ベルトールド社製、CentroLB960又はLumat3 LB9508、キッコーマンバイオケミファ社製、ルミテスターC-110、ルミテスターC-100、ルミテスターPD-20、ルミテスターPD-30等)を用いて得られる相対発光強度(RLU)を指標に評価することができる。通常、ルシフェリンからオキシルシフェリンへの変換の際に生じる発光を測定する。発光測定装置としては、高感度測定が可能であり、光電子増倍管を備えた装置(3M社製等)やフォトダイオードを備えた装置(Hygiena社、Neogen社製等)を使用することもできる。
【0065】
以下、実施例を参照して本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
<実施例1:ヘイケボタルルシフェラーゼの変異体の耐熱性試験>
(材料と方法)
ベクター構築
pET16-b(Novagen)のMCS(マルチクローニングサイト、Nde1-BamH1サイト)に、HLK(野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ(配列番号1)に熱安定性向上のためのA217L、及びE490K変異を導入したもの(アミノ酸配列:配列番号9、ヌクレオチド配列:配列番号10)の遺伝子配列が挿入されたプラスミド(HLK pET-16b)をテンプレートとし、各変異体をコードする配列を増幅するためのプライマーを用いたPCRにより、C393位のシステインを各種アミノ酸に置換した各変異体をコードするプラスミドベクターを作製した。
【0067】
各プラスミドベクターを作製するために用いたリバースプライマーの配列は共通であり、配列番号11(AACTTCTCCACGTCTGTTCGGGCCCAAAG)である。393位に各アミノ酸を含むルシフェラーゼをコードするプラスミドベクターを作製するために用いた各フォワードプライマーの配列及び配列番号を以下の表に示す。
【0068】
【0069】
続いて、10×KOD plus buffer(東洋紡) 2.0μl、2mM dNTPs 2.0μl、25mM MgSO4 1.2μl、2μM primer Fw 3.0μl、2μM primer Rv 3.0μl、KOD-plus-Neo(東洋紡) 0.4μl、40μg/ml HLK pET16-b 0.5μl、dH2O 7.9μlを混合して合計20μlの溶液とし、これをPCR反応に供した。PCR反応は、94℃で2分加熱後、94℃15秒、55℃30秒、68℃3分のサイクルを14回繰り返すことによって行い、反応後は15℃で放置した。
【0070】
形質転換
上記で得られたPCR産物に、制限酵素DpnI(NewEngland Biolabs Japan)を1μl添加して37℃で1時間インキュベートし、反応産物を形質転換に用いた。
【0071】
氷上でコンピテントセル(ECOSTM competent E.coli BL21(DE3))(株式会社ニッポンジーン)30μlを融解し、直ちに3μlの上記反応産物を添加した。タッピング後、5分間氷上に置き、続いて42℃で30秒間加温した。加温後、タッピングし、全量をLB(Luria-Bertani)+Amp(アンピシリン)プレートにまき、37℃で終夜培養しコロニーを形成させた。
【0072】
耐熱性変異体の調製
上記で得たコロニーを終濃度が50μg/mlとなるようにAmpを添加した2mlのLB培地において終夜振盪培養(レシプロ)した。続いて、終濃度が50μg/mlとなるようにAmpを添加した2mlのLB培地に上記培養液を2μl添加し、28℃で22時間振盪培養(レシプロ)し、振盪開始時に終濃度が0.1mMとなるようにIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を添加して発現誘導を行った。
【0073】
集菌した後、1mlのルシフェラーゼbuffer(5%トレハロース、10mM Tris、4.4mM コハク酸、1mM EDTA、1mM DTT(pH7.6))に懸濁した。ソニケーター astrason ULTRASONIC PROCESSOR XL(Misonix社製)を用いて菌体破砕(10s pulse、20s rest、total pulse 1min)を行った。遠心して得た上清を0.45μm又は0.20μmのPVDF膜で濾過し、粗酵素液とした。
【0074】
評価の際のコントロールとして、A217L、及びE490K変異を導入したHLK(配列番号9)は、特開平8-98680号公報に記載の方法に従って発現し、予め精製済のものを使用した。
【0075】
熱安定性試験
調製した酵素を37℃で保存する前に、冷蔵から室温に戻すため、25℃で5分間プレインキュベートした。続いて、ウォーターバスを用いて酵素を37℃で90分間保存し、希釈buffer(500mlあたり、4.48g Tricine、185mg EDTA・Na2・2H2O、25g glycerol、5g BSA(pH7.8))を使用して、必要に応じて希釈し、ルミテスターC-110の測定範囲内に収まるように酵素を調製した。調製した粗酵素液100μl又は精製済みのHLK100μlを、以下に示す発光試薬100μlと等量混和して、ルミテスターC-110(キッコーマンバイオケミファ社製)を使用して発光量を測定した。
【0076】
発光試薬として、2.0ml 50mM Tricine-NaOH buffer(pH7.8)、0.5ml 40mM ATP solution、2.0ml 5.0mM Luciferin、及び0.5ml 0.1M MgSO4を混合した溶液を用いた。
【0077】
測定条件は以下の通りである。
測定開始時間:発光試薬を酵素液に添加してから10秒後
測定時間:積算で10秒間
【0078】
(結果)
各ルシフェラーゼについて、3回の試験を行って測定値の平均値を求め、37℃保管時間0分のときの値を1とした場合の、37℃保管時間90分での相対値、及び変異なしの場合の90分後の残存活性を1とした場合の各変異体の残存活性比(90分後残存活性比)を以下の表に示す(表2)。
【0079】
【0080】
表2に示される通り、C393を酸性アミノ酸(E、D)以外のアミノ酸に置換した場合、耐熱性の向上が見られ、特にG(グリシン)、S(セリン)、Y(チロシン)、W(トリプトファン)、Q(グルタミン)、F(フェニルアラニン)、A(アラニン)、M(メチオニン)、H(ヒスチジン)、I(イソロイシン)、V(バリン)、P(プロリン)、又はL(ロイシン)で置換した場合には、耐熱性向上の効果が著しかった。
【0081】
上記試験系において、コントロールとして使用しているHLKはHisタグを含まない精製酵素、C393変異体は配列のN末端にHisタグを10個含む粗精製の酵素である。そこで、Hisタグ及び精製の有無で熱安定性が変化しないことを確認するため、HLKの精製酵素、N末端にHisタグを10個含む精製又は粗精製のHLKを上記と同様の方法で調製し、その耐熱性を、42℃で30分又は60分加温し試験した。その結果、HLKの精製酵素、Hisタグを含むHLKの精製酵素、Hisタグを含むHLKの粗精製酵素の3つにおいて安定性に差がなかったことから、Hisタグの有無及び精製の有無は熱安定性に影響しないと考えられた(データ示さず)。
【0082】
<実施例2:他のホタルルシフェラーゼの変異体の耐熱性試験>
(材料と方法)
野生型北米産ホタルルシフェラーゼ(アミノ酸配列:配列番号5、ヌクレオチド配列:配列番号6)の遺伝子配列をpET16-bのMCSサイト(Nde1-BamH1サイト)に導入した。得られたプラスミドは、Ppy pET16-bとした。
【0083】
また、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼ(アミノ酸配列:配列番号3、ヌクレオチド配列:配列番号4)にT217I変異を導入したもの、及び野生型フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼ(アミノ酸配列:配列番号7、ヌクレオチド配列:配列番号8)にT249M変異を導入したものの遺伝子配列を、pKK223-3のMCSサイト(EcoR1-HindIIIサイト)に導入した。得られたプラスミドは、それぞれLucT pKK223-3、及びPpeT249M pKK223-3とした。なお、ゲンジボタルルシフェラーゼをコードする遺伝子としては、配列番号4のヌクレオチド配列を、T217I変異が含まれるよう変異を導入し、Hisタグ(6個のHis)をコードする配列を終止コドンの直前に付加した配列番号74のヌクレオチド配列を用いた。フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼをコードする遺伝子としては、配列番号8のヌクレオチド配列をコドン最適化し、T249M変異が含まれるよう変異を導入し、かつHisタグ(6個のHis)をコードする配列を終止コドンの直前に付加した配列番号31のヌクレオチド配列を用いた。
【0084】
LucT pKK223-3、PpeT249M pKK223-3、及びPpy pET16-bを用いて、ゲンジボタルルシフェラーゼのC393位、フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼのY390位、及び北米産ホタルルシフェラーゼのC391位を各種アミノ酸に置換した各変異体をコードするプラスミドベクターを、以下のプライマーを用いて、実施例1に従ってそれぞれ作製した。
【0085】
ゲンジボタルルシフェラーゼの393位に各アミノ酸を含むルシフェラーゼをコードするプラスミドベクターを作製するために用いたリバースプライマーの配列は共通(配列番号32(AACTTCTCCACGTCTGTTAGGACCTAAAG))であり、各フォワードプライマーの配列及び配列番号を以下の表に示す。
【表3】
【0086】
フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼの390位に各アミノ酸を含むルシフェラーゼをコードするプラスミドベクターを作製するために用いたリバースプライマーの配列は、390位にアスパラギン酸を導入する場合以外は共通(配列番号52(CAGTTCACCGGTTTCGTTCGGGCCCAGG))である。各フォワードプライマー、及び390位にアスパラギン酸を導入する場合のリバースプライマーの配列、及び配列番号を以下の表に示す。
【表4】
【0087】
北米産ホタルルシフェラーゼの391位にトリプトファンを導入したプラスミドベクターを作製するために用いたフォワードプライマーの配列は配列番号72(CAGAGAGGCGAATTATGGGTCAGAGGACC)であり、リバースプライマーの配列は配列番号73(TAATTCGCCTCTCTGATTAACGCCCAGCG)である。
【0088】
ベクター構築の詳細、形質転換、及び耐熱性変異体の調製は実施例1に従った。
【0089】
熱安定性試験も実施例1に従ったが、以下の変更を加えた。ウォーターバスによる加温時間、ゲンジボタルルシフェラーゼでは90分、フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼでは5分、北米産ホタルルシフェラーゼでは20分とした。また、コントロールとして、ゲンジボタルルシフェラーゼについては野生型ゲンジボタルルシフェラーゼにT217I変異を導入したもの(LucT)を、フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼについては野生型フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼにT249M変異を導入したもの(PpeT249M)を、北米産ホタルルシフェラーゼについては野生型北米産ホタルルシフェラーゼ(Ppy)を用いた。これらのコントロールの調製方法は、上記と同様である。なお、T217IとT249Mはいずれも耐熱性を向上させる既知の変異である。
【0090】
(結果)
ゲンジボタルルシフェラーゼについて、3回の試験を行って測定値の平均値を求め、37℃保管時間0分のときの値を1とした場合の、37℃保管時間90分での相対値、及び変異なしの場合の90分後の残存活性を1とした場合の各変異体の残存活性比(90分後残存活性比)を以下の表に示す。
【表5】
【0091】
フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼについて、3回の試験を行って測定値の平均値を求め、37℃保管時間0分のときの値を1とした場合の、37℃保管時間5分での相対値、及び変異なしの場合の5分後の残存活性を1とした場合の各変異体の残存活性比(5分後残存活性比)を以下の表に示す。
【表6】
【0092】
北米産ホタ
ルルシフェラーゼについて、3回の試験を行って測定値の平均値を求め、37℃保管時間0分のときの値を1とした場合の、37℃保管時間20分での相対値、及び変異なしの場合の20分後の残存活性を1とした場合の各変異体の残存活性比(20分後残存活性比)を以下の表に示す。
【表7】
【0093】
表5~7に示される通り、ゲンジボタルルシフェラーゼ、フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼ、及び北米産ホタルルシフェラーゼについても、配列番号1の393位に対応する位置のアミノ酸残基を置換した場合に、耐熱性が向上し得ることが示された。
【0094】
ゲンジボタルルシフェラーゼで耐熱性向上の効果が特に著しかったのは、393位をアスパラギン、アラニン、セリン、アルギニン、ロイシン、トレオニン、ヒスチジン、バリン(残存活性70%以上);又はフェニルアラニン、グリシン、トリプトファン、チロシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、グルタミン(残存活性60%以上)に置換した場合であった。
【0095】
フォツリス・ペンシルバニカルシフェラーゼで耐熱性向上の効果が特に著しかったのは、390位をプロリン、アスパラギン、アルギニン、グリシン、セリン、リシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン、トレオニン(残存活性90%以上);グルタミン酸、イソロイシン、アラニン(残存活性80%以上);又はバリン、メチオニン、ロイシン、ヒスチジン(残存活性70%以上)に置換した場合であった。
【0096】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】