(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】動作設定装置、動作設定方法及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/68 20060101AFI20240415BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20240415BHJP
【FI】
H01L21/68 F
C23C14/56 G
(21)【出願番号】P 2021209707
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 岳
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 大介
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】山本 武
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-028098(JP,A)
【文献】特開2000-232145(JP,A)
【文献】特開平09-199571(JP,A)
【文献】特開2013-239342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/68
C23C 14/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が支持されるハンドを有し、成膜室に基板を搬送するロボットの動作を設定する動作設定装置であって、
前記基板に代えて前記ハンドに支持され、計測手段が搭載された治具と、
前記治具が支持された前記ハンドが前記成膜室に対する計測位置に移動するよう、前記ロボットを制御する制御手段と、
前記成膜室に関する前記計測手段の計測結果を取得し、前記基板の搬送時における前記ハンドの移動に関する前記ロボットの動作を設定する設定手段と、を備
え、
前記計測手段は、
第1方向に存在する測定対象物との距離を計測する第1計測ユニットと、
前記第1方向と直交する第2方向に存在する測定対象物との距離を計測する第2計測ユニットと、
前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向に存在する測定対象物との距離を計測する第3計測ユニットと、を含む
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動作設定装置であって、
前記成膜室には、前記基板の位置を検知する検知手段が設けられており、
前記制御手段は、前記治具が前記検知手段の検知範囲に位置するよう、前記ロボットを制御し、
前記設定手段は、前記治具に関する前記検知手段の検知結果を取得し、前記計測結果と前記検知結果とに基づいて前記ハンドの移動に関する前記ロボットの動作を設定する、
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の動作設定装置であって、
前記成膜室に関する前記計測手段の計測は大気圧下で行われ、
前記検知手段による前記治具の検知は成膜時と同じ減圧下で行われる、
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の動作設定装置であって、
前記成膜室は、前記ハンドが進入可能な開口部を有する外壁部を備え、
前記制御手段は、前記計測位置として、前記外壁部を前記計測手段が計測可能な位置に前記ハンドが移動するよう、前記ロボットを制御する、
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動作設定装置であって、
前記制御手段は、前記計測位置として、前記外壁部に沿った位置を前記ハンドが連続的に移動するよう、前記ロボットを制御する、
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の動作設定装置であって、
前記ロボットの動作には、前記ハンドの向きに関する動作を含む、
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の動作設定装置であって、
前記制御手段は、前記計測位置として、前記成膜室の内部に配置された所定の構成を前記計測手段が計測可能な位置に前記ハンドが移動するよう、前記ロボットを制御する、
ことを特徴とする動作設定装置。
【請求項8】
基板が支持されるハンドを有し、成膜室に基板を搬送するロボットの動作を設定する動作設定方法であって、
第1方向に存在する測定対象物との距離を計測する第1計測ユニットと、前記第1方向と直交する第2方向に存在する測定対象物との距離を計測する第2計測ユニットと、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向に存在する測定対象物との距離を計測する第3計測ユニットと、を含む計測手段が搭載された治具を前記ハンドに支持する工程と、
前記治具が支持された前記ハンドが前記成膜室に対する計測位置に移動するよう、前記ロボットを制御する制御工程と、
前記成膜室に関する前記計測手段の計測結果を取得し、前記基板の搬送時における前記ハンドの移動に関する前記ロボットの動作を設定する設定工程と、を備える、
ことを特徴とする動作設定方法。
【請求項9】
基板が支持されるハンドを有し、成膜室に基板を搬送するロボットの動作を設定する動作設定工程と、
前記動作設定工程で設定された動作に基づいて前記ロボットを制御し、前記成膜室に基板を搬送する工程と、
前記成膜室で前記基板に成膜する工程と、を備えた電子デバイスの製造方法であって、
前記動作設定工程は、
第1方向に存在する測定対象物との距離を計測する第1計測ユニットと、前記第1方向と直交する第2方向に存在する測定対象物との距離を計測する第2計測ユニットと、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向に存在する測定対象物との距離を計測する第3計測ユニットと、を含む計測手段が搭載された治具を前記ハンドに支持する工程と、
前記治具が支持された前記ハンドが前記成膜室に対する計測位置に移動するよう、前記ロボットを制御する制御工程と、
前記成膜室に関する前記計測手段の計測結果を取得し、前記基板の搬送時における前記ハンドの移動に関する前記ロボットの動作を設定する設定工程と、を備える、
ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を搬送するロボットの動作設定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットにより基板を搬送するシステムにおいては、搬送精度を向上するためにティーチング作業が行われる。ティーチング作業は作業者の目視確認による方法や、センサを用いて搬送誤差を計測し、制御を修正する方法が知られている。特許文献1及び2にはセンサを用いた方法の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2012-523682号公報
【文献】特開2007-142269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機ELディスプレイ等の製造においては、マスクを用いて基板上に蒸着物質が成膜される。成膜室に対する基板の搬送精度が低いと歩留まりを低下させたり、エラーの発生の要因となる。例えば、一般には成膜室内で成膜の前処理としてマスクと基板とのアライメントが行われる。アライメントにおいては、基板とマスクの位置ずれの検知と、検知結果に基づく基板とマスクとの相対位置の調整とが行われる。アライメントをスムーズに行うためには、基板の検知領域内に正確に基板を搬送する必要があるが、基板の搬送精度が低いとアライメントをスムーズに行うことができない。
【0005】
本発明は、成膜室に対する基板の搬送精度を向上する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
基板が支持されるハンドを有し、成膜室に基板を搬送するロボットの動作を設定する動作設定装置であって、
前記基板に代えて前記ハンドに支持され、計測手段が搭載された治具と、
前記治具が支持された前記ハンドが前記成膜室に対する計測位置に移動するよう、前記ロボットを制御する制御手段と、
前記成膜室に関する前記計測手段の計測結果を取得し、前記基板の搬送時における前記ハンドの移動に関する前記ロボットの動作を設定する設定手段と、を備え、
前記計測手段は、
第1方向に存在する測定対象物との距離を計測する第1計測ユニットと、
前記第1方向と直交する第2方向に存在する測定対象物との距離を計測する第2計測ユニットと、
前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向に存在する測定対象物との距離を計測する第3計測ユニットと、を含む
ことを特徴とする動作設定装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成膜室に対する基板の搬送精度を向上する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の適用例である処理システムのレイアウト図
【
図4】(A)は搬送用ロボットの側面視図、(B)はハンドの平面図。
【
図5】(A)は治具Tの平面視図、(B)は治具Tの側面視図。
【
図6】(A)はハンドに搭載された状態での治具Tの平面視図、(B)はハンドに搭載された状態での治具Tの側面視図。
【
図7】計測ユニットが出力する計測値(測定値)の特性の例を示す図。
【
図8】制御装置が実行する処理例を示すフローチャート。
【
図9】(A)は計測ユニットによる計測例の説明図、(B)は計測結果の例を示す図。
【
図10】(A)は計測ユニットによる計測例の説明図、(B)は検知ユニットによる検知例の説明図。
【
図11】(A)は基準マークがずれている例を示す図、(B)は基準マークの位置が適切である例を示す図。
【
図12】制御装置が実行する処理例を示すフローチャート。
【
図13】(A)は計測ユニットによる計測例の説明図、(B)は計測結果の例を示す図。
【
図15】制御装置が実行する処理例を示すフローチャート。
【
図16】(A)は減圧下での撮影画像の例を示す図、(B)は撮影画像の画素の輝度変化を示す図。
【
図17】各種条件での計測結果を利用した移動経路の設定方法の概念図。
【
図18】計測ユニットの計測対象の例を示す模式図。
【
図19】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
<システムの概要>
図1は、本発明の適用例である処理システム100のレイアウト図である。処理システム100は、平行平板の基板の表面に真空蒸着により所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置である。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属などの任意の材料を選択でき、また、蒸着材料としても、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択できる。処理システム100は、例えば、有機薄膜を用いた電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。更に具体的に言うと、処理システム100は、例えば、スマートフォン用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。スマートフォン用の表示パネルの場合、例えば約1800mm×約1500mm、厚み約0.5mmのサイズの基板に有機ELの成膜を行った後、該基板をダイシングして複数の小サイズのパネルが作製される。
【0011】
処理システム100は、成膜室101と、搬送室102と、搬入室103と、搬出室104と、搬送用ロボット4と、制御装置1とを有する。成膜室101には、成膜対象である基板を載置する基板ホルダ11が設けられている。搬送室102には、基板Wを保持し搬送する搬送用ロボット4が設けられている。
【0012】
搬送用ロボット4は、成膜室101へ基板を搬送し、また、成膜室101から成膜済みの基板を搬送する。本実施形態の搬送用ロボット4は、基板が支持されるハンド6と、ハンド6を3次元で移動する多関節のロボットアーム5とを含む。本実施形態の搬送用ロボット4は二つのハンド6を備えているが、ハンド6は一つであってもよい。搬送用ロボット4は、各室への基板の搬入/搬出を行う。例えば、搬入室103においてハンド6に基板が載置され、搬送用ロボット4はこれを成膜室101へ搬送する。また、成膜室101で成膜済みの基板がハンド6に載置され、搬送用ロボット4はこれを搬出室104へ搬送する。処理システム100内における基板の各室間の移動は、搬送用ロボット4を介して自由に行うことができる。
【0013】
ここで各室の座標軸について定義する。搬送用ロボット4から見て成膜室101に向かう水平方向にY軸をとる。Y方向と直交する水平方向にX軸をとる。X軸及びY軸に直交する鉛直方向をZ軸とする。Z軸周りの回転方向の角度θとする。
【0014】
図2及び
図3を参照して成膜室101の構造を説明する。
図2は成膜室101の構造をX方向に見た模式図である。
図3は成膜室101の一部の平面視図である。成膜室101は、その外壁部101aにより内部を気密に維持可能なチャンバである。成膜室101は基板Wに対する成膜処理が行われる際には減圧されて真空チャンバとして機能し、その室内が真空雰囲気や窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される。
【0015】
外壁部101aの一部は成膜室101と搬送室102との間を区画する隔壁を形成している。この隔壁には開口部OPが形成されている。ゲートバルブ14は開口部OPを開閉する。ゲートバルブ14により成膜室101と搬送室102の雰囲気の圧力を異ならせることができる。開口部OPにはハンド6が進入可能であり、搬送用ロボット4は開口部OPを通って成膜室101へ基板Wを搬入し、また、成膜室101から基板Wを搬出する。
【0016】
成膜室101の内部には基板ホルダ11、マスクM、蒸着装置8等が設けられている。基板ホルダ11は、搬送用ロボット4から受け取った基板Wを保持する部材である。マスクMは、基板Wに形成する薄膜パターンに対応する開口パターンをもつメタルマスクであり、枠状のマスク台(不図示)の上に固定されている。成膜時にはマスクMの上に基板Wが載置される。基板W上には冷却板を設けることもできる。冷却板は、成膜時に基板Wのマスクに対向する面とは反対側の面に密着し、基板Wの温度上昇を抑えることで有機材料の変質や劣化を抑制する部材である。冷却板はマグネット板を兼ねていてもよい。マグネット板は、磁力によってマスクを引き付けることで、成膜時の基板WとマスクMの密着性を高める部材である。
【0017】
蒸着装置8は、蒸着材料、蒸着材料を収容する容器(坩堝)、ヒータ、シャッタ、蒸発装置の駆動機構、蒸発レートモニタなどから構成され、気化した蒸着材料を基板Wへ放出して成膜する。
【0018】
成膜室101には基板WとマスクMとの位置合わせを行うアライメント装置10が設けられている。アライメント装置10は基板ホルダ11に保持された基板Wと、マスクMとの位置合わせを行う。アライメント装置10は、基板WやマスクMのアライメントマークを検知する検知ユニット12と、基板ホルダ11を移動してマスクMに対する基板Wの位置を調整する位置調整機構13とを備える。
【0019】
検知ユニット12は本実施形態の場合、カメラであり、外壁部101aに設けられた透明な窓部を介して成膜室101内の基板Wを撮影する。検知ユニット12は位置調整部15に支持されており、位置調整部15によって移動可能であり、焦点距離等を調整することが出来る。検知ユニット12の撮影画像から、基板上のアライメントマークW1及びマスクM上のアライメントマークを特定し、両者のXY位置やXY面内での相対ズレを計測することができる。
【0020】
マスクMに対して基板Wを水平および回転方向にアライメントするには、少なくとも2つの検知ユニット12を設けるが、アライメントの内容によっては1つのみでもよいし、3つ以上を設けてもよい。また、短時間で高精度なアライメントを実現するために、大まかに位置合わせを行う第1アライメント(ラフアライメント)と、高精度に位置合わせを行う第2アライメント(ファインアライメント)の2段階のアライメントを実施することが好ましい。その場合、低解像だが広視野の第1アライメント用の検知ユニットと狭視野だが高解像の第2アライメント用の検知ユニットの2種類の検知ユニットを設けてもよい。
【0021】
位置調整機構13は、例えば、モータとボールねじ、モータとリニアガイドなどで構成されるアクチュエータを複数備えている。例えば、基板ホルダ11の全体をZ方向に昇降させるためのアクチュエータや、基板ホルダ11の基板保持/解除機構を開閉させるためのアクチュエータ、基板ホルダ11をX-Y方向及びθ方向に変位させるアクチュエータなどである。本実施形態の位置調整機構13は基板ホルダ11を変位させることで基板WとマスクMとの位置調整を行うが、マスクMを変位させてもよいし基板WとマスクMの双方を変位させてもよい。
【0022】
図4(A)は搬送用ロボット4の側面視図、
図4(B)はハンド6の平面図である。なお、ここで説明する搬送用ロボットの構成(ロボットアーム、ロボットハンドの構成)はあくまで一例であり、かかる構成に限定されるものではない。
【0023】
搬送用ロボット4は、概略、基板Wを担持するためのハンド6と、ハンド6をXYZ直交座標上の任意の位置へ自在に移動させるためのロボットアーム5と、を備える。
【0024】
ロボットアーム5は、搬送室102の設置面に固定されるベース510と、ベース510に対して第1ジョイント520、第2ジョイント521、第3ジョイント522を介して順次連結された第1アーム511、第2アーム512、第3アーム513と、を有する。第1アーム511は、ベース510に対し、第1ジョイント520を介して、設置面に垂直な方向(Z方向)に延びる回転軸を中心に回転可能に連結されている。第2アーム512は、第1アーム511に対して第2ジョイント521を介して、第3アーム513に対して第3ジョイント522を介して、それぞれ、設置面に垂直な方向(Z方向)に延びる回転軸を中心に回転可能に連結されている。第3アーム513の先端(両端)には、ハンド6が対になって連結されている。各アーム511~513の回転の組み合わせにより、ハンド6の水平位置(XY座標)を任意に変位させることができる。
【0025】
また、第1アーム511は、ベース510に対して、第1ジョイント520に沿った方向に昇降移動可能に構成されている(Z方向)。第1アーム511の昇降によって第2アーム512及び第3アーム513も昇降することで、ハンド6の高さを変化させ、基板Wの高さを変化させることができる(Z方向)。ロボットアーム5の各ジョイントには、モータとエンコーダがそれぞれ設けられている。各アームの回転量及び昇降高さ、もしくは、それらの情報を換算して取得される3次元座標から、必要となるハンド6の移動量(各アームの動作量)を演算することができる。
【0026】
ハンド6は、第3アーム513の先端から延びる一対のスパインロッド21と、スパインロッドの側面からそれぞれスパインロッド21に対して直交する方向外向きに延びる複数のリブロッド22と、を有している。リブロッド22の端部には、基板Wの下面を支持するためのパッド24が設けられている。パッド24は、基板Wの表面を傷つけずに支持できるようにシリコーンゴム等の弾性部材で構成され、基板Wのたわみを考慮して基板Wの外周縁に沿って複数設けられている。なお、スパインロッド21の延びる方向における両端に配置されたリブロッド22には、スパインロッド21と平行に延在する第2リブロッド23が複数設けられており、それらの端部にもパッド24が設けられている。
【0027】
ハンド6には、基準部7aおよび基準部7bが設けられている。基準部7aおよび基準部7bは、後述する治具Tの位置決め用の係合部である。本実施形態では、基準部7aおよび基準部7bは、円筒状の穴である。
【0028】
制御装置1は、処理システム100を制御するとともに各種の設定に関する処理も行う。制御装置1は、1又は複数のプロセッサ、1又は複数の記憶デバイス、外部デバイスとプロセッサとの間のインタフェースを含む。プロセッサは、記憶デバイスに記憶されたプログラムを実行し、成膜室101の室圧制御、位置調整機構13の各種アクチュエータの制御、検知ユニット12の撮影した画像の画像処理、アライメントマークのずれ量の演算、搬送用ロボット4の動作の設定及び制御、蒸着装置8の動作制御等を行う。また、搬送用ロボット4の動作の設定には、ハンド6の移動経路の設定が含まれる。記憶デバイスには、RAM、ROM等の半導体メモリ、HDD等のストレージが含まれる。
【0029】
成膜室101での成膜プロセスについて説明する。搬送用ロボット4によって基板Wを成膜室101に搬入し、搬送用ロボット4から基板ホルダ11へ基板Wを受け渡す。搬送用ロボット4は、ハンド6に載置された基板Wを成膜室101内の基板ホルダ11に載置する際、基板WのアライメントマークW1が水平方向において検知ユニット12の画角内となる位置までハンド6を移動する。搬送用ロボット4は、ハンド6を降下して基板ホルダ11に基板を載置する。
【0030】
次に、アライメント装置10によって、基板WとマスクMの相対位置のアライメントを行う。アライメント後、基板WとマスクMとを重ね合わせる。その後、蒸着装置8から蒸着物質を基板Wへ放出して成膜を行う。成膜が終了すると、基板ホルダ11から搬送用ロボット4が基板Wを受け取り、成膜室101から搬出する。
【0031】
なお、
図1~
図3に示した処理システム100の構成は、あくまで一例であり、かかる構成に限定されるものではない。例えば、1つの処理システム100内に2つ以上の成膜室101を設けてもよい。また、スパッタリング装置が設けられた成膜室が設けられていてもよい。また、1つの成膜室101内に2つ以上の基板ホルダ11を設けてもよい。搬送用ロボット4は、1つの処理システム100内に複数設けられてもよい。
【0032】
<搬送用ロボットの動作の設定>
搬送用ロボット4に基板Wの搬送経路(ハンド6の移動経路)を設定ための構成および手順について説明する。ハンド6の移動経路の設定は、基板Wに代えてハンド6に治具を支持させて成膜室101に対する計測を行い、その計測結果に基づき行う。
【0033】
図5(A)は治具Tの平面視図、
図5(B)は治具Tの側面視図である。また、
図6(A)はハンド6に搭載された状態での治具Tの平面視図、
図6(B)はハンド6に搭載された状態での治具Tの側面視図である。
【0034】
治具Tは井桁形状を有する板状の部材である。治具Tには、ハンド6の基準部7aおよび基準部7bに対応した係合部84aおよび係合部84bが設けられている。本実施形態では、係合部84a及び84bは基準部7aおよび基準部7bに嵌合する突起である。基準部7a及び7bと、係合部84a及び84bの形態はこれに限られない。例えば、ハンド6側の係合部と治具T側の係合部にそれぞれ係合する別体の部材を用いて位置決めを行うようにしてもよい。
【0035】
治具Tには、基準マークT1が設けられている。基準マークT1は、ハンド6が基板ホルダ11に対する基板Wの受け渡し位置まで移動した際に、検知ユニット12の画角内および被写界深度内に入る位置に設けられている。検知ユニット12によって基準マークT1を撮影し、その画像から基準マークT1の位置を確認することで、ハンド6が基板ホルダ11に対して適切な位置に移動しているか否かを判定することができる。
【0036】
なお、基準マークT1は、ハンド6が基板ホルダ11に対する基板Wの受け渡し位置まで移動した際に基板WのアライメントマークW1と、水平方向において設計上同一位置に設けられていることが望ましい。また、基準マークT1は、本実施形態では十字状のマークであるが、検知ユニット12にて撮像した際に、作業者もしくは画像処理部にて精度良く位置を認識することができる特徴的な形状であれば前記以外でもよい。
【0037】
治具Tは、基板Wと同じ重量、同じ重心位置であることが望ましい。すなわち、実際に基板Wをハンド6に搭載したときと、同じ重量バランスを再現できるように治具Tが構成されていることが望ましい。一方、重量バランスを再現できれば、治具Tの形状は特定の形状に限定されるものではない。
【0038】
治具Tには計測ユニット84X~84Zが搭載されている。本実施形態の場合、計測ユニット84X~84Zはいずれもレーザ変位計である。しかし、計測ユニット84X~84Zは測定対象物との距離を計測可能であればよく、例えば、カメラであってもよい。計測ユニット83X~83Xは、制御装置1と通信可能に接続されており、制御装置1は計測ユニット83X~83Zの計測結果を取得可能である。
【0039】
計測ユニット83X、計測ユニット83Z、計測ユニット83Yは、それぞれ、治具Tに対してX方向、Z方向、Y方向に存在する測定対象物との距離を測定する。
図7は計測ユニット83X~83Zが出力する計測値(測定値)の特性の例を示している。
図7は横軸に各計測ユニット83X~83Zと測定対象物との間のGap(距離)を、縦軸にその測定値をとったグラフである。計測ユニット83X~83Zには所定の検出範囲があり、その検出範囲内であれば測定値を返すが、それ以外の領域では検出不能の信号を返す。測定値はGapに線形な特性である。
【0040】
ハンド6を移動させたときに、ハンド6の位置と、計測ユニット83X~83Xの計測結果とからハンド6に対する測定対象物の位置を特定できる。より具体的には例えばハンド6を成膜室101内に進入させるときの、成膜室101の外壁部101aとハンド6との相対位置関係を特定できる。また、検知ユニット12による治具Tの基準マークT1の検知結果から、成膜室101内でのハンド6の位置を特定できる。これらの計測結果、検知結果を用いて、ハンド6の移動経路に関する搬送用ロボット4の動作の設定を行うことができる。
【0041】
<移動経路の設定例1>
搬送用ロボット4が基板Wを、成膜室101内の基板ホルダ11まで搬送するためには、成膜室101の外壁部101aに基板Wや搬送用ロボット4が干渉することなく、開口部OPを基板W及びハンド6が通過する必要がある。治具T及び計測ユニット83X~83Zを用いて予め開口部OPの周辺の外壁部101aを計測しておくことで、成膜室101に対する基板Wの搬送精度を向上することができる。
【0042】
図8は制御装置1のプロセッサが実行する処理例を示すフローチャートであり、特に搬送用ロボット4の基板搬送時の動作を設定する処理例を示すフローチャートである。ハンド6の移動経路及びその移動経路を実現する搬送用ロボット4の動作は、まず、処理システム100の設計情報等に基づいて仮設定される。具体的には、ハンド6が搬送室102内のホームポジションから成膜室101内の基板ホルダ11までの移動経路Zth1及びそのための搬送用ロボット4の動作が、処理システム100の設計情報等に基づいて仮設定される。そして、移動経路Zth1を
図8の処理により補正して最終的な移動経路及び動作を設定する。ここでは主に移動経路のZ方向の補正について説明する。
【0043】
S1では、治具Tを支持したハンド6を成膜室101に対する所定の計測位置に移動する。
図9(A)はその一例を示している。
図9(A)は、外壁部101aのうち、開口部OPに隣接する外壁部101aに対向する位置(搬送室102内)にハンド6が移動された態様を例示している。ハンド6は、治具Tに搭載された計測ユニット83Yの計測範囲Msに外壁部101aの表面が含まれる位置に移動される。なお、
図8の処理例は成膜室101及び搬送室102が大気圧の状態で行われることを想定している。
【0044】
図8のS2ではハンド6を外壁部101aに沿って連続的に移動しつつ、測距を行う。
図9(A)の例では、ハンド6をZ方向に移動(上昇)しつつ、計測ユニット83Yによる測距を行う。計測ユニット83Yにより、ハンド6から外壁部101aまでのY方向の距離(より正確には計測ユニット83Yから外壁部101aまでのY方向の距離)が計測される。
【0045】
図8のS3ではS2の計測結果から開口部OPのZ方向のエッジ(
図9(A)に示す上側のエッジOP-U及び下側のOP-D)の位置が特定される。
図9(B)は計測ユニット83Yの計測結果の例を示す。計測ユニット83Yが開口部OPに対向している場合、測定範囲Msに外壁面101aが存在しないので計測ユニット83Yは測定不能信号を返す。この測定不能信号のある領域から開口部OPの下側エッジOP-Dおよび上側エッジOP-Uの位置を検出することが出来る。
【0046】
図8のS4では開口部OPへのハンド6の進入高さを設定する。下側エッジOP-Dおよび上側エッジOP-Uの位置の関係から開口部OPを通過する高さを、仮設定した移動経路Zth1に対して補正して、移動経路Zth2を仮設定する。そして、移動経路Zth2の高さにハンド6を移動する。
【0047】
図8のS5ではハンド6を成膜室101に対する次の計測位置に移動する。本実施形態では、次の計測位置は開口部OPの内部である。移動経路Zth2にしたがってハンド6をY方向に移動して
図10(A)に示すように開口部OP内にハンド6及び治具Tを進入する。ハンド6は計測ユニット83Zが開口部OPの天面に対向する位置まで移動される。このとき、計測ユニット83Zの計測範囲Msに開口部OPの天面が含まれる。
【0048】
図8のS6では、計測ユニット83Zによる測距を行う。計測ユニット83Zにより、ハンド6から開口部OPの天面までのZ方向の距離(より正確には計測ユニット83Zから天面までのZ方向の距離)が計測される。
図8のS7では仮設定した移動経路Zth2をS6の測距結果に基づいて必要に応じて補正する。この段階で設定される補正後又は補正なしの移動経路を移動経路Zth3とする。
【0049】
図8のS8では、移動経路Zth3にしたがってハンド6をY方向に移動する。ここでは
図10(B)に示すように、次の計測位置として基板ホルダ11に対する基板の受け渡し位置(検知ユニット12の検知範囲内の位置)までハンド6を移動する。そして、S9では検知ユニット12によって治具Tの基準マークT1を検知し、その位置を確認する。基準マークT1が検知されない場合、検知されたが基準マークT1の位置が適切でない場合は移動経路Zth3を補正する。
【0050】
図11(A)は検知ユニット12の撮影画像の例を示しており、基準マークT1が基準位置Cからずれている例を示している。こうした場合、移動経路Zth3を補正する。
図11(B)は検知ユニット12の撮影画像の例を示しており、基準マークT1が基準位置Cに収まっている例を示している。こうした場合、移動経路Zth3を補正する必要はない。
【0051】
以上の補正を必要に応じて行い、
図8のS10でハンド6の最終的な移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を確定する。
【0052】
以上の手順を経ることでハンド6を精度よく、検知ユニット12の画角まで自動的に搬送することが出来る。特に、最初の段階で、成膜室101の開口部OPにハンド6が進入することなくその開口部OPの領域を計測できることから、ハンド6と成膜室101が干渉して互いに破損・故障するリスクが抑制できる。
【0053】
さらに、開口部OP内部でも再度搬送高さの補正を行うことでさらに精度よく検知ユニット12の画角内にハンド6および治具Tを搬送することが出来ることから、基準マークT1を検知ユニット12の焦点深度上最適な高さに運ぶことが可能になる。そのため検知ユニット12による基準マークT1の測定誤差が小さくなる。また、一連の作業が自動化されることで作業時間の短縮にもつながる。
【0054】
<移動経路の設定例2>
上記の設定例1では、開口部OPの上下のエッジを検出する際、ハンド6をZ方向に移動したが、X方向に移動して開口部OPを検出し、移動軌道を補正することもできる。
【0055】
図12は制御装置1のプロセッサが実行する処理例を示すフローチャートであり、特に搬送用ロボット4の基板搬送時の動作を設定する処理例を示すフローチャートである。ここでは主に移動経路のX方向及びハンド6の向きの補正について説明する。
【0056】
S11では、治具Tを支持したハンド6を成膜室101に対する所定の計測位置に移動する。
図13(A)はその一例を示している。
図13(A)は、外壁部101aのうち、開口部OPに隣接する外壁部101aに対向する位置(搬送室102内)にハンド6が移動された態様を例示している。ハンド6は、治具Tに搭載された計測ユニット83Yの計測範囲Msに外壁部101aの表面が含まれる位置に移動される。なお、
図12の処理例は成膜室101及び搬送室102が大気圧の状態で行われることを想定している。
【0057】
図13(A)に例示するように、仮設定した移動経路Zth1の段階では、設計情報に基づく移動経路であるため、ハンド6のX軸と成膜室101の外壁面101aは必ずしも平行ではない。成膜用の基板Wは長辺が2mを超える大きなものもあるため、θ方向の角度ずれはわずかであっても基板Wと成膜室101の外壁部101aが衝突する要因になり得る。また、開口部OPはなるべく小さいほうが装置設計上も容易であることから、ハンド6および基板Wと成膜室101開口部OPとの間の隙間には余裕が無い。
【0058】
図12のS12ではハンド6を外壁部101aに沿って連続的に移動しつつ、測距を行う。
図13(A)の例では、ハンド6をX方向に移動しつつ、計測ユニット83Yによる測距を行う。計測ユニット83Yにより、ハンド6から外壁部101aまでのY方向の距離(より正確には計測ユニット83Yから外壁部101aまでのY方向の距離)が計測される。
【0059】
図12のS13ではS12の計測結果から開口部OPのX方向のエッジ(
図13(A)に示す右側のエッジOP-R及び左側のOP-L)の位置が特定される。
図13(B)は計測ユニット83Yの計測結果の例を示す。計測ユニット83Yが開口部OPに対向している場合、測定範囲Msに外壁面101aが存在しないので計測ユニット83Yは測定不能信号を返す。この測定不能信号のある領域から開口部OPの右側エッジOP-Rおよび左側エッジOP-Lの位置を検出することが出来る。更に、各測距点の距離の推移から、外壁面101aに対するハンド6の傾きθを演算することができる。
【0060】
図12のS14では開口部OPへのハンド6のX方向及びY方向の進入位置と向きを設定する。向きは傾きθが0となるように移動経路Zth1が補正される。その上で、開口部OPのX方向の中央をハンド6が通過できるように進入位置が補正されて補正後の移動経路Zth2が仮設定される。
【0061】
図12のS15ではハンド6を成膜室101に対する次の計測位置に移動する。本実施形態では、次の計測位置は開口部OPの内部である。移動経路Zth2にしたがってハンド6をY方向に移動して
図14に示すように開口部OP内にハンド6及び治具Tを進入する。ハンド6は計測ユニット83Xが開口部OPの側面に対向する位置まで移動される。このとき、計測ユニット83Xの計測範囲Msに開口部OPの側面が含まれる。
【0062】
図12のS16では、計測ユニット83Xによる測距を行う。計測ユニット83Xにより、ハンド6から開口部OPの側面までのX方向の距離(より正確には計測ユニット83Xから側面までのX方向の距離)が計測される。
図12のS17では仮設定した移動経路Zth2をS16の測距結果に基づいて必要に応じて補正する。この段階で設定される補正後又は補正なしの移動経路を移動経路Zth3とする。
【0063】
図12のS18では、移動経路Zth3にしたがってハンド6をY方向に移動する。ここでは
図10(B)に示した例と同様に、基板ホルダ11に対する基板の受け渡し位置(検知ユニット12の検知範囲内の位置)までハンド6を移動する。そして、S19で検知ユニット12によって治具Tの基準マークT1を検知し、その位置を確認する。基準マークT1が検知されない場合、検知されたが基準マークT1の位置が適切でない場合は移動経路Zth3を補正し、S20で最終的な移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を確定する。
【0064】
以上の手順を経ることでハンド6を精度よく検知ユニット12の画角まで自動的に搬送することが出来、経路情報を補正して教示することが出来る。特に、水平面内の経路補正を成膜室101の外壁部101aを基準として補正しつつ検知ユニット12の位置まで搬送できるため誤差が小さい。また、一連の作業が自動化されることで作業時間の短縮にもつながる。
【0065】
<第二実施形態>
図8や
図12の処理によって治具Tをハンド6に搭載してハンド6の移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を設定した後、さらに、治具Tに代えて基板Wをハンド6に搭載して設定した移動経路でハンド6を移動させてもよい。そして、基板ホルダ11に対する基板の受け渡し位置(検知ユニット12の検知範囲内の位置)までハンド6を移動したときに、基板WのアライメントマークW1を検知ユニット12で検知する。治具Tの基準マークT1の検知結果とアライメントマークW1の検知結果とを比較し、ハンド6の移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を更に補正してもよい。
【0066】
治具Tと基板Wでは質量等が異なることからハンド6の搬送位置も異なるのが一般的である。そのため治具Tを用いた計測とは別に基板Wを使って検知ユニット12による計測を行いその差に応じてハンド6の移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を更に補正する。これにより基板Wの搬送精度を更に向上できる。
【0067】
<第三実施形態>
第一実施形態、第二実施形態では、大気圧環境下で計測を行いハンド6の移動経路の設定を行ったが、大気圧環境下で計測を行った後、成膜時と同様の減圧環境下(真空環境下)において計測を行い、ハンド6の移動経路の設定を行ってもよい。
図15は制御装置1のプロセッサが実行する処理例を示すフローチャートである。
【0068】
S21では、大気圧下での計測・移動経路の設定を行う。これは
図8や
図12の処理と同じである。S22では減圧環境下での計測のための準備を行う。ここでは成膜室101及び搬送室102を減圧して真空にする。なお、その前に作業者の作業として、治具Tから、計測ユニット83X~83Zを取り外す。市販される計測ユニットの多くは内部で樹脂部品や接着材等真空中でアウトガスを発生する部材を使っていたり、真空中ではその動作が保証されない場合がある。本実施形態では治具Tから、計測ユニット83X~83Zを取り外し、計測には用いないことを前提としている。
【0069】
S23では、現在設定されている移動経路Zth3にてハンド6を計測位置に移動する。本実施形態の場合、計測位置として基板ホルダ11に対する基板の受け渡し位置(検知ユニット12の検知範囲内の位置)までハンド6を移動する。S24では検知ユニット12によって基準マークTを検知し、その撮影画像からハンド6の位置の変化を計測する。
図16(A)は撮影画像の例を示しており、基準マークTが基準位置Cからずれている例を示している。この位置ずれが大気圧下と減圧下でのハンド6の位置のずれとなる。
【0070】
X、Y方向の位置ずれに加えて、以下の方法によりZ方向の位置ずれも計測できる。位置調整部15によって検知ユニット12のZ方向の位置を変えながら、その撮影画像を比較することにより行う。
【0071】
図17(B)は、
図17(A)のA-A’線において、検知ユニット12のZ方向の位置を変えながら撮影を行った場合の画素の輝度変化の例を示している。図示の例は検知ユニット12と基準マークT1との距離がベストフォーカスの場合(実線)とデフォーカスした場合(破線)を模式的に説明している。減圧下における基準マークT1の像が、大気圧下での像と同様の見え方をするZ方向の位置を特定すると、そのZ方向の位置の差が、減圧下におけるハンド6の高さの変化量となる。
【0072】
なお、このような減圧下におけるZ方向のハンド6の位置の変化を計測するために、検知ユニット12に加えて、レーザ変位計のような距離計を併用してもよい。距離計は検知ユニット12と同様、外壁部101aの外部に配置し、外壁部101aに設けた窓部を介して基準マークT1又は治具Tを測距するようにしてもよい。検知ユニット12の撮影画像によりX、Y方向の補正を行い、距離計の計測結果によりZ方向の補正を行ってもよい。
【0073】
<第四実施形態>
大気圧下、減圧下、治具、基板、基板の搬送速度の組み合わせで計測を行い、ハンド6の移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を設定してもよい。
図17はその概念図である。治具Tを使った測定では、大気中における測定結果と真空中の測定結果を比較演算して大気中と真空中の差を演算する。
【0074】
基板Wを使った測定では、大気中における測定結果と真空中における測定結果およびその際の搬送速度から基板搬送における大気と真空の雰囲気の差への依存性、搬送速度による依存性である、大気~真空~基板搬送速度依存性を演算する。
【0075】
特に基板Wを使った搬送はハンド6の搬送速度や使用するパッド24の種類あるいは使用する基板の種類による摩擦の影響の違いが出る場合があり、水平方向の搬送位置は影響を受ける場合がある。そして、これらから、ハンド6の移動経路及びそのための搬送用ロボット4の動作を設定する。
【0076】
<第五実施形態>
計測ユニット83X~83Xの計測対象は、外壁部101aに限られず、成膜室101の内部に配置されている構成を計測対象としてもよい。
図18はその一例を示す模式図である。図示の例では基板ホルダ11を計測対象としている。計測ユニット83Zによりハンド6と基板ホルダ11のZ方向の距離が測距される。計測ユニット83Yによりハンド6と基板ホルダ11のY方向の距離が測距される。基板ホルダ11の位置を基準としてハンド6の移動経路を設定することができる。
【0077】
<第六実施形態>
次に、電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。ここでは複数の成膜室101によって順次成膜を行う場合を想定している。
【0078】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図19(A)は有機EL表示装置50の全体図、
図19(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0079】
図19(A)に示すように、有機EL表示装置50の表示領域51には、発光素子を複数備える画素52がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0080】
なお、ここでいう画素とは、表示領域51において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子52R、第2発光素子52G、第3発光素子52Bの複数の副画素の組み合わせにより画素52が構成されている。画素52は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素52は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素52を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0081】
図19(B)は、
図19(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素52は、基板53上に、第1の電極(陽極)54と、正孔輸送層55と、赤色層56R・緑色層56G・青色層56Bのいずれかと、電子輸送層57と、第2の電極(陰極)58と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層55、赤色層56R、緑色層56G、青色層56B、電子輸送層57が有機層に当たる。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0082】
また、第1の電極54は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層55と電子輸送層57と第2の電極58は、複数の発光素子52R、52G、52Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図19(B)に示すように正孔輸送層55が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層57と第2の電極58が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0083】
なお、近接した第1の電極54の間でのショートを防ぐために、第1の電極54間に絶縁層59が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層60が設けられている。
【0084】
図19(B)では正孔輸送層55や電子輸送層57が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極54と正孔輸送層55との間には第1の電極54から正孔輸送層55への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極58と電子輸送層57の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0085】
赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層56Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0086】
なお、ここでは赤色層56Rの例を示したが、緑色層56Gや青色層56Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0087】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層56Rが下側層56R1と上側層56R2の2層からなり、緑色層56Gと青色層56Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0088】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極54が形成された基板53を準備する。なお、基板53の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板53として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0089】
第1の電極54が形成された基板53の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極54が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層59を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0090】
絶縁層59がパターニングされた基板53を第1の成膜室101に搬入し、正孔輸送層55を、表示領域の第1電極54の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層55は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域51ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0091】
次に、正孔輸送層55までが形成された基板53を第2の成膜室101に搬入する。基板53とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層55の上の、基板53の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層56Rを成膜する。ここで、第2の成膜室101で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板53上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層56Rは、基板53上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0092】
赤色層56Rの成膜と同様に、第3の成膜室101において緑色層56Gを成膜し、さらに第4の成膜室101において青色層56Bを成膜する。赤色層56R、緑色層56G、青色層56Bの成膜が完了した後、第5の成膜室101において表示領域51の全体に電子輸送層57を成膜する。電子輸送層57は、3色の層56R、56G、56Bに共通の層として形成される。
【0093】
電子輸送層57までが形成された基板を第6の成膜室101に移動し、第2電極58を成膜する。本実施形態では、第1の成膜室101~第6の成膜室101では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜室101における第2電極58の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2電極68までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層60を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置50が完成する。なお、ここでは保護層60をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0094】
ここで、第1の成膜室101~第6の成膜室101での成膜は、形成されるそれぞれの層のパターンに対応した開口が形成されたマスクを用いて成膜される。成膜の際には、基板53とマスクとの相対的な位置調整(アライメント)を行った後に、マスクの上に基板53を載置して成膜が行われる。
【0095】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0096】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0097】
1 制御装置、4 搬送用ロボット、6 ハンド、101 成膜室、T 治具、83X~83Z 計測ユニット