(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ポリアミド系多孔質フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20240416BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240416BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20240416BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C08J9/00 A CFG
B01D71/56
B01D71/28
B01D69/02
(21)【出願番号】P 2019227678
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100146(JP,A)
【文献】特開2007-100056(JP,A)
【文献】特開2018-006258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00
B01D 71/56
B01D 71/28
B01D 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性脂肪族ポリアミド(A)
を50質量%以上80質量%以下、及び極性基未変性であるビニル芳香族エラストマー(B)を
20質量%以上50質量%以下含有する樹脂組成物からなる、ポリアミド系多孔質フィルム。
【請求項2】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量が200,000以上である、請求項1に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
【請求項3】
結晶性脂肪族ポリアミド(A)が、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1
又は2に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
【請求項4】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)が、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
【請求項5】
透気度が5000秒/dL以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
【請求項6】
静的接触角が100°以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
【請求項7】
結晶性脂肪族ポリアミド(A)及び極性基未変性であるビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物から未延伸フィルムを作製し、延伸することを含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルムを備える分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系多孔質フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数の微細な空孔を有する多孔質フィルムは、衣類、衛生材料などに使用する透湿防水性フィルム、電子機器や住宅、建材などに使用する断熱性フィルム、あるいは電池などに使用する電池用セパレータなど各種の分野で利用されている。なかでも超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜は、流体がフィルム内を通過することで濾過を行うため、内部に空間を有する多孔質フィルムや不織布が好適に使用される。
【0003】
精密濾過膜や限外濾過膜等の多孔膜による濾過操作は、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬、食品産業(除菌、酵素精製)などの多方面にわたって実用化されている。特に近年は河川水等を除濁して飲料水や工業用水を製造するための手法としても多用されつつある。膜の素材としては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系等多種多様のものが用いられている。中でもポリオレフィン系重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等)は、優れた疎水性により耐水性が高いため、水系濾過膜の素材として多用されている。
しかしながら、ポリオレフィン系重合体は疎水性が高いため、水を代表とする極性溶媒の分離膜に使用するには、意図的に圧力を高めて濾過作業を行う必要がある。このような濾過作業時の圧力を下げるために、各種親水化処方(コーティング、フッ素化処理等)があるが、追加加工に伴う手間や、追加のコストが必要となる場合がある。
【0004】
このような問題に対し、ポリマー鎖中に極性基を有するポリアミドを主材料とした多孔質フィルムが提案されている。例えば、特許文献1では、ポリアミドとポリオレフィン及びこれらに相溶性がある樹脂を混合し、延伸することで多孔質フィルムを得ている。特許文献2では、ポリアミド樹脂に対してポリエステル組成物を混合し、有機溶剤でポリエステル組成物を抽出することで多孔質フィルムを得ている。
【0005】
また、液体の濾過を主目的としたポリアミドからなる中空糸膜も提案されている。特許文献3では、ポリアミドに対して有機溶剤を混合し、その後ポリアミド中に分散して存在する有機溶剤を抽出することでポリアミド系中空糸膜を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭60-065040号公報
【文献】特開2000-001612号公報
【文献】特開2017-051951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のポリアミド系多孔質フィルムではフィルム厚み方向に十分な連通性が得られない場合があり、さらなる改良が求められている。
そこで、本発明は、フィルム厚み方向に十分な連通性を有し、透気特性と親水性に優れたポリアミド系多孔質フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様における要旨は、以下の[1]~[9]のとおりである。
[1]結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる、ポリアミド系多孔質フィルム。
[2]前記ビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量が200,000以上である、上記[1]に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
[3]前記樹脂組成物における、前記ビニル芳香族エラストマー(B)の含有量が20質量%以上50質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
[4]結晶性脂肪族ポリアミド(A)が、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
[5]前記ビニル芳香族エラストマー(B)が、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
[6]透気度が5000秒/dL以下である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
[7]静的接触角が100°以下である、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルム。
[8]結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物から未延伸フィルムを作製し、延伸することを含む、上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルムの製造方法。
[9]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のポリアミド系多孔質フィルムを備える分離膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド系多孔質フィルムは、フィルム厚み方向に十分な連通性を有し、透気特性及び親水性に優れる。そのため本発明のポリアミド系多孔質フィルムは、各種分離膜への使用に適する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。ただし、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
<ポリアミド系多孔質フィルム>
本発明の一実施形態に係るポリアミド系多孔質フィルム(以下、「本フィルム」と称することがある)は、結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなる。
【0012】
1.本フィルムの物性
(1)厚さ
本フィルムの厚さは特に制限されるものではないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。一方で本フィルムの厚さは、上限に関して200μm以下が好ましく、175μm以下がより好ましく、150μm以下が特に好ましい。
厚さが5μm以上、特に10μm以上であれば、フィルムとして十分な強度を保持することができる。また、厚さが200μm以下、特に150μm以下であれば、フィルム内部に十分な多孔構造を有し、連通性を確保できる。
【0013】
(2)空孔率
本フィルムの空孔率は、多孔質フィルムの空間部分の割合を示す数値であり、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。一方で空孔率は、上限に関して、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
空孔率が30%以上であれば、フィルム内部に連通性を確保することができる。また、空孔率が90%以下、特に80%以下であれば、フィルムの強度を保持することができる。
空孔率の測定方法は以下のとおりである。
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出する。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0014】
(3)透気度
本フィルムの透気度は、5000秒/dL以下であることが好ましく、4000秒/dL以下であることがより好ましく、3000秒/dL以下であることが特に好ましい。ポリアミド系多孔質フィルムの透気度を5000秒/dL以下である場合に、フィルム厚み方向に十分な連通性を有すると判断することができる。
透気度は、ポリアミド系多孔質フィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が当該多孔質フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さいほど空気が通り抜け易く、数値が大きいほど空気が通り抜け難いことを意味する。すなわち、透気度が小さいほど当該多孔質フィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、透気度が大きいほど当該多孔質フィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは当該多孔質フィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。
透気度(秒/dL)は、JIS P 8117に準拠して測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0015】
(4)静的接触角
本フィルムの水に対する静的接触角は100°以下が好ましく、95°以下がより好ましく、90°以下が特に好ましい。
静的接触角が100°以下であれば、過度な撥水性を示さないため、親水性が良好で濾過溶媒が水であっても本フィルムを濾過膜として用いることができる。
静的接触角はフィルム材料の影響と、フィルム表面状態の影響を受ける。一般に多孔質フィルムは多孔化に伴いフィルム表面状態が荒れるため、静的接触角の値が上昇し、100°以上の撥水性を示す傾向にあるが、本フィルムは、主成分である結晶性脂肪族ポリアミド(A)のアミド結合によって、親水性が良好となり、静的接触角が100°以下となる。静的接触角は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0016】
(5)熱収縮率
本フィルムの熱収縮率は、150℃下にて1時間フィルムを放置した際の流れ方向(MD)と、流れ方向に対する垂直方向(TD)の熱収縮率がいずれも15%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましく、10%以下であることが特に好ましい。150℃下での熱収縮率が15%以下であることで、高温化の状況でも寸法安定性に優れ、多孔構造が収縮により潰れることを抑制する。熱収縮率は、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0017】
本発明のポリアミド系多孔質フィルムの層構成は特に制限されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、2層、3層、4層、5層又はそれ以上の多層構成としてもよい。この場合、各層は、結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物からなるとよい。
また、結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)の少なくとも一方を含有しない樹脂組成物からなる他の層がさらに積層されてもよい。
【0018】
2.樹脂組成物の成分
以下、本フィルムを構成する樹脂組成物の成分について説明する。
【0019】
(1)結晶性脂肪族ポリアミド(A)
本発明における結晶性脂肪族ポリアミド(A)としては、公知の種々のものを挙げることができ、例えば、ラクタムなどの環状アミドの重合物、アミノカルボン酸の重合物、ジカルボン酸とジアミンの重合物、あるいは、ラクタム及びアミノカルボン酸から選択される少なくとも1種と、ジカルボン酸及びジアミンとから得られる重合物などが挙げられる。結晶性脂肪族ポリアミド(A)は1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0020】
前記ラクタムとしては、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ドデカラクタム、2-ピロリドンなどの炭素数4~20の脂肪族ラクタムなどを挙げることができ、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数8以上、さらに好ましくは炭素数10以上、特に好ましくは炭素数11以上の脂肪族ラクタムを用いることができる。また、特に限定されないが、炭素数16以下の脂肪族ラクタムが好ましく、炭素数12以下の脂肪族ラクタムがより好ましい。
【0021】
前記アミノカルボン酸としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などの炭素数4~20の脂肪族ω-アミノカルボン酸などを挙げることができ、好ましくは炭素数5以上、より好ましくは炭素数8以上、さらに好ましくは炭素数10以上、特に好ましくは炭素数11以上のω-脂肪族アミノカルボン酸を用いることができる。また、特に限定されないが、炭素数16以下のω-脂肪族アミノカルボン酸が好ましく、炭素数12以下のω-脂肪族アミノカルボン酸がより好ましい。
【0022】
前記ジカルボン酸としては、蓚酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン酸などの脂肪族ジカルボン酸及びこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0023】
前記ジアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンなどを挙げることができる。
【0024】
また、結晶性脂肪族ポリアミド(A)においては、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、キシリレンジアミンなどの芳香環含有ジアミンなどの芳香環を有する成分を、共重合成分として使用してもよい。結晶性脂肪族ポリアミド(A)において、芳香環を有する成分由来の構成単位の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、例えば10質量%以上であるとよく、また、例えば30質量%以下であるとよく、好ましくは20質量%以下である。
【0025】
結晶性脂肪族ポリアミド(A)としては、ポリアミド8、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12などのポリアミド、及び、ポリアミド6/12、ポリアミド6/66/12などの共重合ポリアミドを用いることもできる。
【0026】
上記のなかでも、本発明の結晶性脂肪族ポリアミド(A)として、融点が200℃未満の結晶性脂肪族ポリアミド又は低吸水率の結晶性脂肪族ポリアミドを用いることが好ましく、ポリアミド11及びポリアミド12の一方又は両方を用いることがより好ましい。
【0027】
結晶性脂肪族ポリアミド(A)のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、温度190℃、荷重2.16kgにおけるMFRは0.03g/10分以上30g/10分以下であることが好ましく、0.3g/10分以上15g/10分以下であることがより好ましい。
MFRが上記範囲であれば、成形加工時に押出機の背圧が高くなりすぎることが無く生産性に優れる。MFRはJIS K 7210-1(2014年)に基づき測定される。
【0028】
結晶性脂肪族ポリアミド(A)の融点は、構成される単量体比率に応じて決定され得るものであるが、高温使用時の耐熱性の観点から、140℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。一方で上限として、特に制限はないが結晶性脂肪族ポリアミド(A)の融点は300℃以下が好ましい。融点は示差熱走査熱量計(DSC)より求めることができる。
【0029】
また、本発明のポリアミド系多孔質フィルムを構成する樹脂組成物は、結晶性脂肪族ポリアミド(A)を主成分として含むことが好ましい。結晶性脂肪族ポリアミド(A)を主成分とすることで分離膜として多用されるポリオレフィンと同様の粘弾性挙動を有しながら、親水性及び耐熱性を優れたものにできる。耐熱性が優れたものとなると、上記の熱収縮率も低くしやすくなる。
具体的な樹脂組成物中の結晶性脂肪族ポリアミド(A)の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは50質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは55質量%以上75質量%以下である。
上記含有量が50質量%以上であることによって、多孔質フィルムの親水性及び耐熱性などが良好になる。
また、80質量%以下であることによって、後述するビニル芳香族エラストマー(B)を一定量以上配合できることで、多孔化が生じやすくなり、多孔質フィルムの連通性向上が望める。
【0030】
(2)ビニル芳香族エラストマー(B)
本発明におけるビニル芳香族エラストマー(B)とは、スチレン等のビニル芳香族化合物に由来する構成単位を含む熱可塑性エラストマーであり、軟質成分(例えばブタジエン、イソプレンなどの不飽和脂肪族炭化水素由来の構成単位)と、硬質成分(例えばスチレン等のビニル芳香族化合物由来の構成単位)との連続体からなる共重合体である。なお、ビニル芳香族エラストマー(B)は、極性基を有さず、極性基未変性であるとよい。
【0031】
前記共重合体の種類について、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。一般にブロック共重合体としては、線状ブロック構造や放射状枝分かれブロック構造等種々のものが知られている。本発明においてはいずれの構造のものを用いてもよい。
樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、結晶性脂肪族ポリアミド(A)をマトリックス、ビニル芳香族エラストマー(B)をドメインとする海島構造を有するとよい。
【0032】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)は、GPCで測定した数平均分子量(Mn)が200,000以上であることが好ましく、210,000以上であることがより好ましく、220,000以上であることがさらに好ましい。
ビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量が200,000以上であることにより、樹脂組成物中でビニル芳香族エラストマー(B)が粒子状で存在しやすくなり、延伸時に多孔構造を形成しやすい。これは、ドメインが球状で存在していることにより、応力を受ける界面の断面積が大きいためである。
一方で、ビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量は、上限が特に制限されるものではないが、600,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましく、400,000以下であることが特に好ましい。
数平均分子量が600,000以下であることにより、フィルム中でのビニル芳香族エラストマー(B)の粗大な分散状態を抑制できる。
【0033】
なお、本発明において、ビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量(Mn)は、JIS K 7252-1(2008年)に基づき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、ポリスチレン標準サンプルの分子量を検量線に用いて算出することができる。
【0034】
一般に、マトリックス/ドメインの海島構造を有する樹脂組成物を溶融押出し、冷却固化させる場合、口金、若しくはノズル等の賦形設備より押し出されて流れる樹脂組成物を、キャストロール(冷却ロール)や空冷、水冷等の冷却固化設備により冷却固化する。
その際、賦形設備と冷却固化設備の間のギャップ(間隙)において樹脂組成物が溶融して伸長するため、ドメインであるビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量(Mn)が小さい場合、ドメインが流れ方向(押出方向)に伸長した樹脂組成物が得られやすい。
このドメインが流れ方向に伸長した樹脂組成物を延伸すると、変形により付与される応力が樹脂組成物全体に均一に加わり、マトリックス/ドメイン界面への応力集中を妨げやすくなるため、厚み方向に連通性を有する多孔構造が得られない。これは、ドメインが予め伸長していることにより、応力を受ける界面の断面積が小さい為である。
そのため、ビニル芳香族エラストマー(B)の数平均分子量(Mn)は、上記下限値以上とすることが好ましい。
【0035】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分以下であることが好ましい。
樹脂組成物中に分散したビニル芳香族エラストマー(B)は、結晶性脂肪族ポリアミド(A)との粘度差によってその形状が変化するが、該ビニル芳香族エラストマー(B)のMFRが前記範囲内のものであるならば、流動性が低いためにその形状が球状になり易い。球状に分散したドメインは、アスペクト比が大きなドメインとは異なり、その後の延伸工程において多孔構造を形成しやすくなり、フィルムの均一性が高まるので好ましい。これは、ドメインが球状で存在していることにより、応力を受ける界面の断面積が大きい為である。
ビニル芳香族エラストマー(B)の上記MFRは、より好ましくは0.8g/10分以下、さらに好ましくは0.5g/10分以下、特に好ましくは0.2g/10分以下である。なお、温度230℃、荷重2.16kgにおいてMFRを測定した際にサンプルが流動しない場合、MFRは0g/10分とする。ビニル芳香族エラストマー(B)の上記MFRは、0g/10分以上であるとよい。
【0036】
また、本発明におけるビニル芳香族エラストマー(B)は、スチレン含有量が10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上38質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
ビニル芳香族エラストマー(B)中のスチレン含有量が10質量%以上であることにより、樹脂組成物中にドメインを効果的に形成することができる。また、ビニル芳香族エラストマー(B)中のスチレン含有量が40質量%以下であることにより、過度に大きなドメイン形成を抑制することができる。
【0037】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)の具体的な種類については特に限定しないが、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体(SIR)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
なかでも、樹脂組成物中に効率的にビニル芳香族エラストマー(B)を分散させるためには、前記ビニル芳香族エラストマー(B)の中でも、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)が好ましく、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)がより好ましい。
これらビニル芳香族エラストマー(B)は、1種単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0038】
本発明における樹脂組成物中のビニル芳香族エラストマー(B)の含有量は、好ましくは20質量%以上50質量%以下、より好ましくは、25質量%以上40質量%以下である。
前記樹脂組成物中のビニル芳香族エラストマー(B)の含有量が20質量%以上であることによって、延伸による多孔化が生じやすくなり、ポリアミド系多孔質フィルムの連通性向上が望める。一方、前記樹脂組成物中のビニル芳香族エラストマー(B)の含有量が50質量%以下であることにより、多孔質フィルムの機械特性を維持できる。
【0039】
前記樹脂組成物中の結晶性脂肪族ポリアミド(A)とビニル芳香族エラストマー(B)の合計含有量は、本発明の効果を得る観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0040】
(3)その他の成分
前記樹脂組成物には、その性質を損なわない程度に結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)以外の成分を含有させてもよく、例えば極性基変性エラストマー(C)を含有させてもよい。
【0041】
樹脂組成物に極性基変性エラストマー(C)を含有させることで、ビニル芳香族エラストマー(B)の結晶性脂肪族ポリアミド(A)に対する相溶性を向上させる。
したがって、樹脂組成物におけるビニル芳香族エラストマー(B)よりなるドメインの分散性を向上させて、透気特性及び耐熱性などの各種物性を良好にできる。
極性基変性エラストマー(C)は、極性基により変性されたエラストマーであればよいが、極性基変性ビニル芳香族エラストマーが好ましい。極性基変性ビニル芳香族エラストマーを使用することで、相溶性が一層向上しやすくなる。
【0042】
極性基変性ビニル芳香族エラストマーは、スチレン等のビニル芳香族化合物に由来する構成単位を含み、極性基により変性された熱可塑性エラストマーである。より具体的には、軟質成分(例えばブタジエン、イソプレンなどの不飽和脂肪族炭化水素由来の構成単位)と、硬質成分(例えばスチレン等のビニル芳香族化合物由来の構成単位)とから構成され、さらに極性基により変性されたものである。
極性基変性ビニル芳香族エラストマーは、スチレン含有量が10質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上38質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
極性基変性ビニル芳香族エラストマーは、アルカリ変性、酸変性のいずれでもよいが、無水マレイン酸変性などの酸変性が好ましい。
また、極性基変性ビニル芳香族エラストマーは、上記したビニル芳香族エラストマー(B)の具体的な種類として列挙された各種の共重合体を極性基で変性されたものであればよいが、好ましくは酸変性スチレン‐エチレン‐ブチレン‐スチレン共重合体(酸変性SEBS)などが挙げられる。
また、市販品としては、JSR株式会社製の「ダイナロン8660P」などが挙げられる。
【0044】
極性基変性エラストマー(C)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)がビニル芳香族エラストマー(B)より高いほうがよく、例えば、1.0g/10分より高いほうがよい。極性基変性エラストマー(C)のMFRは、相溶性の観点から、好ましくは3g/10分以上20g/10分以下、より好ましく5g/10分以上15g/10分以下である。
極性基変性エラストマー(C)を使用する場合、ビニル芳香族エラストマー(B)に対する、極性基変性エラストマー(C)の質量比(C/B)は、好ましくは5/95以上50/50以下、より好ましくは10/90以上40/60以下、さらに好ましくは20/80以上30/70以下である。質量比(C/B)を5/95以上50/50以下とすることで、透気特性及び耐熱性などの各種物性を良好にしやすくなる。
【0045】
また、前記樹脂組成物は、その性質を損なわない程度に上記(A)~(C)成分以外の樹脂をさらに含有してもよい。そのような樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、結晶性脂肪族ポリアミド(A)以外のポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0046】
また、本発明における樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、一般的に配合される添加剤を適宜添加できる。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔質フィルムの諸物性を改良又は調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、シリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、結晶核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、加水分解防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0047】
3.ポリアミド系多孔質フィルムの製造方法
以下、本発明のポリアミド系多孔質フィルムの製造方法について説明する。以下の説明は、本発明のポリアミド系多孔質フィルムを製造する方法の一例であり、本発明のポリアミド系多孔質フィルムはかかる製造方法により製造されるポリアミド系多孔質フィルムに限定されるものではない。
【0048】
本発明の一実施形態に係るポリアミド系多孔質フィルムの製造方法(以下、本フィルム製造方法と称することがある)は、結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物から未延伸フィルムを作製し、その後延伸することを特徴とする。
本製造方法では、延伸に伴う多孔化により微細な空孔を形成する。そのため、各種有機溶剤による抽出工程を行ったり、ガス等の発泡剤を用いたりする必要がないので、環境適合性が高い。
【0049】
以下、未延伸フィルムを作製する製膜工程、及びその後の延伸工程について順次説明する。ただし、本フィルムの製造方法は上記工程を備えていればよく、他の工程や処理をさらに備えていてもよい。
【0050】
(1)製膜工程
当該製膜工程では、結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有する樹脂組成物を混練し、加熱溶融して製膜し、未延伸フィルムを得る。
【0051】
樹脂組成物の混練に用いる機械は特に限定されない。例えば、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機など、公知の押出機を用いることができる。また、設備構造および必要性に応じて、ベント口に減圧機を接続し、水分や低分子量物質を除去してもよい。
【0052】
また、樹脂組成物を加熱溶融する方法としては、例えばTダイ法、インフレーション法などを挙げることができ、中でもTダイ法を採用するのが好ましい。実用的には、Tダイから樹脂組成物を溶融押出してキャストロールによりキャスト成形するのが好ましい。樹脂組成物を溶融押出する温度は、特に限定されず、例えば結晶性脂肪族ポリアミド(A)の融点以上であればよく、例えば160℃以上300℃以下、好ましくは200℃以上260℃以下である。
【0053】
フィルム状に製膜する具体的方法としては、Tダイから押出されたシート状の溶融した樹脂組成物を、回転するキャストロール(チルロール、キャストドラム)上に密着させながら引き取り、フィルム状に成形する方法を挙げることができる。
【0054】
当該製膜工程において、キャストロールにフィルム状物を密着させるために、タッチロール、エアナイフ、電気密着装置などをキャストロールに付けてもよい。
混練した樹脂組成物を冷却しながらフィルムに成形する際、キャストロールの温度は90℃以上が好ましい。より好ましくは95℃以上で、更に好ましくは100℃以上である。また、キャストロールの温度の上限は、特に限定されないが、例えば130℃である。
本発明ではフィルム中の結晶性脂肪族ポリアミドの結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、空孔率の調整が可能であるため、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の無孔膜状物を得ることが特に好ましい。
【0055】
当該製膜工程で得られる未延伸フィルムにおいて、両端部を除いた有効部分の厚さは10μm以上500μm以下であるのが好ましく、中でもより好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上であり、また、より好ましくは400μm以下、その中でも300μm以下であるのがさらに好ましい。
未延伸フィルムの厚さが10μm以上、中でも30μm以上であれば、フィルムが薄すぎるために延伸時に破断が生じるのを防ぐことができる。また、未延伸フィルムの厚さが500μm以下、中でも300μm以下であれば、フィルムが剛直になり過ぎて延伸を行い難くなるのを防ぐことができる。
【0056】
(2)延伸工程
当該延伸工程では、上記製膜工程で得られた未延伸フィルムを一軸延伸又は二軸延伸する。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。
本発明のポリアミド系多孔質フィルムを作製する場合には、各延伸工程で延伸条件を選択できるが、各延伸プロセスにて条件調整が可能な逐次二軸延伸がより好ましい。
なお、以下において膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0057】
縦延伸での延伸温度は概ね10℃以上140℃以下が好ましく、より好ましくは15℃以上130℃以下、さらに好ましくは20℃以上120℃以下の範囲である。
縦延伸における延伸温度が10℃以上であれば、延伸時の破断が抑制され、均一な延伸が行われるため好ましい。一方、縦延伸における延伸温度が140℃以下であれば、効率よく空孔形成を行うことができる。また、縦延伸は、比較的低い温度で行い、その後、温度を上げて行ってもよい。その際の温度は、いずれも上記範囲内とするとよい。
【0058】
縦延伸倍率は任意に選択できるが、1.1倍以上10倍以下が好ましく、より好ましくは1.5倍以上8.0倍以下であり、さらに好ましくは1.5倍以上6.0倍以下である。
縦延伸倍率を1.1倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が生じる。また、一軸延伸あたりの延伸倍率を10倍以下とすることで、破断を生じることなく多孔化を実施することができる。
【0059】
横延伸温度は、好ましくは90℃以上160℃以下であり、より好ましくは100℃以上155℃以下である。前記横延伸温度が規定された範囲内であることによって、過度な空孔形成を生じずに多孔層を形成することができる。
【0060】
横延伸倍率は、任意に選択できるが、好ましくは1.0倍以上10倍以下であり、より好ましくは2.0倍以上9.0倍以下、更に好ましくは3.0倍以上8.0倍以下である。規定した横延伸倍率で延伸することによって、均一に多孔化したポリアミド系多孔質フィルムを得ることができる。
【0061】
さらに、本発明のポリアミド系多孔質フィルムには、本発明を損なわない範囲で必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、更にはミシン目加工などを施すことができ、用途に応じて本発明のポリアミド系多孔質フィルムを数枚重ねることも可能である。
【0062】
<分離膜>
本発明の一実施形態に係る分離膜は、上記した本発明の一実施形態に係るポリアミド系多孔質フィルムを有する。分離膜は、多孔質フィルム単体から構成されてもよいが、上記多孔質フィルム以外の樹脂フィルムが積層された多層フィルムであってもよい。
分離膜は、特に限定されないが、濾過溶媒が水などの極性溶媒である用途で使用することが好ましい。分離膜は、より具体的には、超純水の製造、各種薬液の精製、水処理などに使用するとよい。上記したポリアミド系多孔質フィルムが透気特性と親水性に優れるため、本発明の一実施形態に係る分離膜は、透過時の圧力を高めなくても、水などの極性溶媒を適切に濾過することができる。
また、本発明のポリアミド系多孔質フィルムは、分離膜以外に使用してもよく、衣類、衛生材料などに含有される透湿防水性フィルムなどとして使用してもよい。
【0063】
<語句の説明など>
本発明においては、文言上両者を区別する必要がないので、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例】
【0064】
以下に実施例、参考例及び比較例を示し、本発明のポリアミド系多孔質フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。
【0065】
(結晶性脂肪族ポリアミド(A))
・A-1;ポリアミド11(RILSAN BESN TL、融点186℃、アルケマ社製)
・A-2;ポリアミド11(RILSAN BESN P20TL、融点182℃、アルケマ社製)
(ビニル芳香族エラストマー(B))
・B-1;スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPTON2005、数平均分子量:248,000、スチレン含有量:20質量%、MFR:流動せず[230℃、2.16kg荷重]、クラレ社製)
・B-2;スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPTON2006、数平均分子量:248,000、スチレン含有量:35質量%、MFR:流動せず[230℃、2.16kg荷重]、クラレ社製)
・B-3;スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEPTON8006、数平均分子量:257,000、スチレン含有量:33質量%、MFR:流動せず[230℃、2.16kg荷重]、クラレ社製)
(極性基変性エラストマー(C))
・C-1;酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(ダイナロン8660P、スチレン含有量:25質量%、MFR:10g/10分[230℃、2.16kg荷重]、JSR社製)
(無機フィラー(D))
・D-1;硫酸バリウム(B55、堺化学社製、平均粒径0.66μm)
【0066】
(実施例1)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-1)30質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物1を得た。リップ開度1mmのTダイで押出機に前記混合物1を用いて成形を行い、キャストロールに導かれて無孔膜状物を得た。その後、無孔膜状物は縦延伸機を用いて、20℃に設定したロール間において、延伸倍率3.0倍、120℃に設定したロール間において1.3倍の延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、フィルムテンター設備(京都機械社製)にて、予熱温度155℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度155℃で横方向に2.5倍延伸した後、155℃で熱処理を行い、ポリアミド系多孔質フィルムを得た。得られたポリアミド系多孔質フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0067】
(実施例2)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-1)60質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-1)30質量部、極性基変性エラストマー(C-1)10質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物2を得て、その後実施例1と同様の方法で無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物は、実施例1と同様の方法にて縦延伸を行い、横延伸は同様の温度条件下で延伸倍率を2.0倍にして行った。得られたポリアミド系多孔質フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0068】
(実施例3)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-1)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-2)30質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物3を得て、その後実施例1と同様の方法で無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物は、実施例1と同様の方法にて縦延伸を行い、横延伸は同様の温度条件下で延伸倍率を3.0倍にして行った。得られたポリアミド系多孔質フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0069】
(実施例4)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-2)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-2)30質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物4を得て、その後実施例1と同様の方法で無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物は、実施例3と同様の方法にて縦延伸、横延伸を行った。得られたポリアミド系多孔質フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0070】
(実施例5)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-2)70質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-3)30質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物5を得て、その後実施例1と同様の方法で無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物は、実施例3と同様の方法にて縦延伸、横延伸を行った。得られたフィルムの評価結果を表1に纏める。
【0071】
(参考例1)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-1)85質量部、ビニル芳香族エラストマー(B-1)15質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物6を得て、その後実施例1と同様の方法で無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物は、実施例3と同様の方法にて縦延伸、横延伸を行った。得られたフィルムの評価結果を表1に纏める。
【0072】
(比較例1)
結晶性脂肪族ポリアミド(A-2)50質量部、無機フィラー(D-1)50質量部を混合して、二軸押出機にて240℃で溶融押出することで混合物7を得て、その後実施例1と同様の方法で無孔膜状物を得た。次いで、得られた無孔膜状物は、20℃に設定したロール間において、延伸倍率1.5倍、120℃に設定したロール間において2.0倍の延伸を行った。縦延伸後のフィルムは、実施例1と同様の方法にて3.0倍横延伸した後、ポリアミド系多孔質フィルムを得た。得られたポリアミド系多孔質フィルムの評価結果を表1に纏める。
【0073】
実施例、参考例及び比較例で得られたフィルムに関して、フィルム厚さ、空孔率、透気度、静的接触角、熱収縮率について以下の方法で測定した。
【0074】
(1)フィルム厚さ
1/1000mmのダイアルゲージを用いてフィルムの厚さを無作為に10点測定して、その平均値を測定した。
【0075】
(2)空孔率
測定試料の実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度に基づいて空孔率が0%の場合の質量W0を計算し、これらの値から下記式に基づいて空孔率を算出した。
空孔率(%)={(W0-W1)/W0}×100
【0076】
(3)25℃での透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P 8117に準拠して透気度を測定した。測定機器として、デジタル型王研式透気度専用機(旭精工社製)を用いた。
【0077】
(4)静的接触角
溶媒として水を用いて、ポリアミド系多孔質フィルムの静的接触角測定を行った。接触角測定は、接触角測定装置「DropMaster500」(協和界面科学株式会社製)、及び、評価解析ソフトウェア「FAMAS」(協和界面科学株式会社製)を用いた。実施例、参考例、及び比較例にて得られたポリアミド系多孔質フィルムを、MD5cm×TD5cmで切りだし、DropMaster500上のステージに、切り出したポリアミド系多孔質フィルムが平坦となるように、テープで固定した。その後、口径1.8mmのシリンジから、液滴量1μLの水をポリアミド系多孔質フィルムに滴下し、滴下3秒後の接触角を測定した。接触角はθ/2法にて算出した。
【0078】
(5)熱収縮率
ポリアミド系多孔質フィルムを測定方向に150mm、測定方向に対して垂直方向に15mmの大きさに切り、測定方向に沿って100mmの間隔で標線を引き、あらかじめ150℃に予熱したベーキング試験装置(大栄科学精器製作所製、DK-1M)の中に吊るした。1時間後サンプルを取出し、室温まで放冷した後、サンプルの標線間隔L(mm)を金属スケールで測定し、以下の式にて流れ方向(MD)、幅方向(TD)の収縮率をそれぞれ算出した。
熱収縮率(%)={(100(mm)-L(mm))/100(mm)}×100(%)
【0079】
表1に実施例、参考例及び比較例に関する評価結果を示した。
【0080】
【0081】
実施例1~5のポリアミド系多孔質フィルムは、結晶性脂肪族ポリアミド(A)及びビニル芳香族エラストマー(B)を含有するものであり、透気度及び静的接触角が良好であった。
また、実施例1~5と参考例1から、ビニル芳香族エラストマー(B)の含有量が20%以上である場合に、透気度が特に良好となることが示唆された。
一方で、比較例1ではビニル芳香族エラストマー(B)の代わりに無機フィラー(C)を用いて多孔化を行ったが、厚み方向の孔の連通性が悪く、透気度が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のポリアミド系多孔質フィルムは、衣類、衛生材料などに使用する透湿防水性フィルムや超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜用途に好適に使用することができる。