(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子、エレクトロクロミック調光素子、及びエレクトロクロミック装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/161 20060101AFI20240416BHJP
G02F 1/15 20190101ALI20240416BHJP
【FI】
G02F1/161
G02F1/15 503
(21)【出願番号】P 2020127956
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】油谷 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】八代 徹
(72)【発明者】
【氏名】金子 史育
(72)【発明者】
【氏名】福田 智男
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132635(JP,A)
【文献】特開2018-132650(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020945(WO,A1)
【文献】特表平10-500225(JP,A)
【文献】特開昭61-129626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
G09G 3/00-3/08,3/12
G09G 3/16,3/19-3/26
G09G 3/34,3/38
G09F 13/00-13/46
G09F 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と
前記支持体上の電極と、
前記電極上にエレクトロクロミック層及び電解質層と、
前記電極、前記エレクトロクロミック層の長さ方向における端部、及び前記電解質層に接触する封止樹脂層と、
を有するエレクトロクロミック素子であって、
前記エレクトロクロミック層の長さ方向における端部の厚みが、前記長さ方向
の端部に向かって小さくなり、
前記エレクトロクロミック層が、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物を含有し、
前記電解質層が、ゲル電解質を含み、
前記封止樹脂層が、熱硬化性材料を含有することを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記熱硬化性材料がエポキシ樹脂を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記封止樹脂層の剥離強度が1kgf/cm以上である、請求項1から2のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記支持体及び前記電極の長さは、前記エレクトロクロミック層の長さよりも大きく、
前記エレクトロクロミック層の長さは、前記電解質層の長さよりも大きい、請求項1から3のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記支持体が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から4のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記支持体が所望の曲率を有し、かつ少なくとも一方の表面に光学レンズを有する、請求項1から5のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子を有することを特徴とするエレクトロクロミック調光素子。
【請求項8】
請求項6に記載のエレクトロクロミック素子を有することを特徴とするエレクトロクロミック調光レンズ。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子又は請求項7に記載のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とするエレクトロクロミック装置。
【請求項10】
前記エレクトロクロミック装置が、調光眼鏡、双眼鏡、オペラグラス、自転車用ゴーグル、時計、電子ペーパー、電子アルバム、又は電子広告板である、請求項9に記載のエレクトロクロミック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミック素子、エレクトロクロミック調光素子、及びエレクトロクロミック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に透過率が変化する現象であるエレクトロクロミズムを利用した素子がエレクトロクロミック素子である。前記エレクトロクロミック素子は、透明性が高く、発色すれば濃い発色濃度が実現できるという特徴があり、駆動システムと合わせたエレクトロクロミック装置としての応用が期待されている。
【0003】
このようなエレクトロクロミック素子は、層構成の点から大きく2つの種別に分けることができる。一つは、エレクトロクロミック材料及び電解質材料が混合した層構成である。他方は、エレクトロクロミック材料及び電解質材料を各々層とし形成した層構成である。後者のエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック材料が固定化されているため、エレクトロクロミック層に注入された電荷は、外部回路を通して逆反応を行う。そのため、一度発色させると消色駆動を行うまで発色状態が保持される特徴を有しており、消費電力を少なくすることができる。
【0004】
また、樹脂製の支持体を用いることによって、フィルム状のエレクトロクロミック素子を作製できる。それによって、曲げることや立体的な形状を有するエレクトロクロミック素子を作製することができる。
このようなエレクトロクロミック素子の応用が特に期待される分野の一つとして、眼鏡用の調光レンズがある。従来の眼鏡用の調光レンズは、紫外線にて着色を呈するフォトクロミックレンズが一般的であるが、光によって色が変わるため、ユーザーが調色することができない、紫外線がカットされる自動車の車内では着色効果が低下する、応答時間が長くなってしまうという問題がある。
【0005】
そこで、上記問題点を解決するため、例えば、メガネレンズ上にエレクトロクロミック素子を直接形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、平面状に作製したエレクトロクロミック素子を熱成形によって所望の曲面を形成し、一方の面に光学レンズを有することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エレクトロクロミック層の発色欠陥を低減でき、封止樹脂層の剥離を防止できるエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としての本発明のエレクトロクロミック素子は、支持体と、該支持体上にエレクトロクロミック層及び電解質層を有するエレクトロクロミック素子であって、前記エレクトロクロミック層が、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物を含有し、前記エレクトロクロミック層の長さ方向端部で積層方向に接触する封止樹脂層を有し、前記封止樹脂層が熱硬化性材料を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、エレクトロクロミック層の発色欠陥を低減でき、封止樹脂層の剥離を防止できるエレクトロクロミック素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、従来のエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、従来のエレクトロクロミック素子の他の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、熱成形後の3D球面形状を有するエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、光学レンズを一体成形した3D球面形状を有するエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
【
図6A】
図6Aは、エレクトロクロミック調光レンズの製造方法の一例を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、製造されたエレクトロクロミック調光レンズの一例を示す概略図である。
【
図7】
図7は、比較例4及び5のエレクトロクロミック素子の一例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、
図7のエレクトロクロミック素子を熱成形し、3D球面形状とした状態を示す概略図である。
【
図9】
図9は、エレクトロクロミック調光眼鏡の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(エレクトロクロミック素子)
本発明のエレクトロクロミック素子は、支持体と、該支持体上にエレクトロクロミック層及び電解質層を有するエレクトロクロミック素子であって、前記エレクトロクロミック層が、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物を含有し、前記エレクトロクロミック層の長さ方向端部で積層方向に接触する封止樹脂層を有し、前記封止樹脂層が熱硬化性材料を含有し、更に必要に応じてその他の層を有する。
【0011】
前記エレクトロクロミック素子は、上述したように、支持体と、電圧電流を印加するための電極と、電荷の授受に伴って酸化還元反応を起こし可逆的に透過率が変化するエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層と、イオン電導のための電解質材料を含む電解質層と、前記支持体同士を接着しかつ素子外部の酸素及び水分がエレクトロクロミック材料及び電解質材料と接触するのを抑制するための封止樹脂層とを備えている。
【0012】
上記特許文献1及び2(特開平7-175090号公報及び特開2018-10106号公報)に記載の従来技術では、エレクトロクロミック素子が動作中に、空気中の酸素や水分の影響を受けて劣化してしまうことがある。あるいは製造工程での熱成形やレンズ化において、エレクトロクロミック素子が熱や圧力などの影響により接着した支持体の剥離が発生してしまうなどの問題が挙げられる。特に、封止樹脂層は実用上ではなるべく狭い幅で機能を維持することが商品性を高めることにつながるが、封止樹脂層の支持体端部からの距離(封止幅)を、狭くするほど接着機能やバリア性が低下するため、上記課題はより顕著になる。また、対向する2つの電極に形成されたエレクトロクロミック層の位置がずれると、動作時に発色品質が低下してしまうという課題がある。更に、エレクトロクロミック層の長さ方向端部は一定の厚みに形成することが困難である。このため、エレクトロクロミック層の長さ方向端部の発色性が不安定であるという問題がある。
また、
図1に示す従来のエレクトロクロミック素子10は、エレクトロクロミック層3,5を印刷法で形成する場合にはその端部に厚み不良領域が発生するため、レーザー加工などによりエレクトロクロミック層の端部を除去したものである。このため、製造工程が増えコストが増大すると共に、エレクトロクロミック層が形成された基板同士の貼り合わせに精度の高い位置決めが必要になり、タクトが長くなるという問題がある。
【0013】
本発明においては、剥離強度の高い熱硬化性材料を含む封止樹脂層がエレクトロクロミック層の長さ方向端部で積層方向に接する構造を有しているため(
図3参照)、封止樹脂層の剥離を低減することが可能となる。また、封止樹脂層が接するエレクトロクロミック層の端部が発色しないため、エレクトロクロミック層の端部の位置ずれ、膜厚ズレなどによる発色濃度異常を抑制することが可能となる。また、封止樹脂層に熱硬化性樹脂と熱硬化剤を含む熱硬化性材料を含有するため、封止樹脂層がエレクトロクロミック層の長さ方向端部で接触しても発色欠陥が生じることを低減でき、エレクトロクロミック素子の剥離などの課題を抑制することが可能となる。これは、
図2に示すように、光重合開始剤と光硬化性樹脂を含む光硬化性材料を含有する封止樹脂層8は、光重合開始剤に紫外線が照射することによって生じたラジカルが、エレクトロクロミック層に含まれるエレクトロクロミック材料とエレクトロクロミック層の端部において容易に反応してしまう(
図2中Y領域)が、熱硬化性材料に含まれる熱硬化剤はこのような反応を起こさないため、封止樹脂層が熱硬化性材料を含有することによって、エレクトロクロミック層端部の発色欠陥を低減できる。またその結果、エレクトロクロミック素子の剥離などの課題を抑制することが可能となる。
【0014】
本発明の一態様において、支持体と、該支持体上に第1の電極及び第2の電極を有し、前記第1の電極と前記第2の電極との間にエレクトロクロミック層及び電解質層を有するエレクトロクロミック素子であって、第1の電極と第2の電極の間に前記封止樹脂層が侵入した状態で配置され、前記エレクトロクロミック素子の長さ方向端部で、前記封止樹脂層と接していることが好ましい。これによって、発色が不安定なエレクトロクロミック層の端部が発色しなくできると共に、エレクトロクロミック素子の剥離をより効果的に防止できる。
封止樹脂層の侵入量は、第1の電極又は第2の電極の端面から封止樹脂層が最大侵入した位置までの距離(長さ)を意味し、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上1mm以下がより好ましい。
【0015】
本発明の一態様において、前記エレクトロクロミック層が、第1の電極上に第1のエレクトロクロミック層と、第2の電極上に第2のエレクトロクロミック層とを有し、前記第1のエレクトロクロミック層と前記第2のエレクトロクロミック層の間に前記電解質層を有し、前記第1のエレクトロクロミック層と前記第2のエレクトロクロミック層の間に前記封止樹脂層が侵入して配置されていることが好ましい。これによって、発色が不安定なエレクトロクロミック層の端部が発色しなくできると共に、エレクトロクロミック素子の剥離をより効果的に防止できる。
封止樹脂層の侵入量については、上記と同じである。
【0016】
本発明の一態様において、前記封止樹脂層における熱硬化性材料がエポキシ樹脂を含む。熱硬化性材料としてエポキシ樹脂を用いることによって、エレクトロクロミック層の発色欠陥を低減できると共に、エレクトロクロミック素子の剥離を防止できる。
【0017】
本発明の一態様において、封止樹脂層の剥離強度が1kgf/cm以上である。剥離強度の高い熱硬化性材料を含む封止樹脂層がエレクトロクロミック層と接する構造を有しているため、封止樹脂層の剥離を防止することが可能となる。
【0018】
本発明の一態様において、電解質層がゲル電解質を含むことが好ましい。硬化前の熱硬化性材料に含まれる熱硬化剤は液体電解質の存在下では、エレクトロクロミック層の発色に作用することがある。そのため、電解質をゲル電解質とすることによって、熱硬化剤が電解質中へ拡散することを抑制でき、エレクトロクロミック層への発色欠陥の影響を更に低減することができる。
【0019】
本発明の一態様において、支持体が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂から選択される少なくとも1種を含む。これによって、エレクトロクロミック素子が軽くなり、曲げることが可能になる。また、熱成形によって所望の形状に加工することが可能となる。
【0020】
本発明の一態様において、支持体が所望の曲率を有し、かつ少なくとも一方の表面に光学レンズを有する。これによって、電気信号によって透過率の制御が可能な、エレクトロクロミック調光レンズを得ることが可能となる。
【0021】
ここで、図面を参照して、本発明の実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部品には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
図3は本発明の実施形態に係るエレクトロクロミック素子10の概略図である。
図3のエレクトロクロミック素子10は、第1の支持体1上に、順次積層された第1の電極2、第1のエレクトロクロミック層3、及び、第2の支持体7上に順次積層された第2の電極6、第2のエレクトロクロミック層5、対向する電極間に形成された電解質層4、これらの層の外周部を封止した封止樹脂層8を有する。
【0022】
図3に示すように、封止樹脂層8は、エレクトロクロミック層の長さ方向端部で積層方向に接触するように形成されていることによって、電解質層4が第1、第2の電極2,6と接する面積を少なくする、あるいは接触しないようにすることができる。電解質層は電極に対する剥離強度が極めて低いため、剥離強度が低下し、素子の剥離による故障が発生しやすいので、エレクトロクロミック素子を曲げたり、あるいは熱成形する際の熱や応力によって剥離が発生しやすい。これに対して、封止樹脂層は電解質層よりも剥離強度が高いために、素子の剥離による故障を抑制することが可能となる。
【0023】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、封止樹脂層がエレクトロクロミック層の長さ方向端部に積層方向で接することで、接している領域の近傍においてエレクトロクロミック層の発色性能を低下させることを知見した。具体的には、封止樹脂層は、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含む熱硬化性材料、又は光硬化性樹脂及び光重合開始剤を含む光硬化性材料などから構成される。これらの中でも、光硬化性材料に含まれる光重合開始剤が紫外線照射時に発生するラジカルが発色状態のエレクトロクロミック材料と接することで反応し、消色作用やエレクトロクロミック材料の劣化を引き起こすことがわかった。
一方、熱硬化性材料に含まれる熱硬化剤はラジカルを発生しないのでエレクトロクロミック材料の発色に悪影響を及ぼさない。また、熱硬化性樹脂は光硬化性樹脂に比べて剥離強度が高いため、エレクトロクロミック素子の剥離性や耐久性を改善することができるので、本発明では封止樹脂層中に熱硬化性材料を含むことを特徴としている。
しかし、熱硬化性材料に含まれる熱硬化剤も液体電解質中では、拡散してエレクトロクロミック材料の発色不良を起こすことがある。そのため、本発明では電解質層がゲル電解質を含むことが好ましい。これによって、熱硬化性材料に含まれる熱硬化剤が電解質層に拡散するのを抑制でき、エレクトロクロミック材料の発色不良を防止することが可能となる。
【0024】
以下、本発明の実施形態に係るエレクトロクロミック素子10を構成する各構成要素について詳細に説明する。
【0025】
<<第1の支持体及び第2の支持体>>
第1の支持体1及び第2の支持体7は、第1の電極2、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5、第2の電極6、及び封止樹脂層8を支持する機能を有する。
第1の支持体1及び第2の支持体7としては、これらの各層を支持することができれば特に制限はなく、周知の熱成形可能な樹脂材料をそのまま用いることができる。
前記樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。
【0026】
なお、エレクトロクロミック素子10が第2の電極6側から視認する反射型表示装置である場合は、第1の支持体1及び第2の支持体7のどちらかの透明性は不要である。また、第1の支持体1及び第2の支持体7の表面に、水蒸気バリア性、ガスバリア性、及び視認性を高めるために透明絶縁層、反射防止層等がコーティングされていてもよい。
第1の支持体1及び第2の支持体7の平均厚みは、熱成形を容易に行える点から、0.2mm以上1.0mm以下が好ましい。
【0027】
<<第1の電極及び第2の電極>>
第1の電極2及び第2の電極6の材料としては、透明導電性酸化物材料が好適であり、例えば、スズをドープした酸化インジウム(以下、「ITO」と称する)、フッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と称する)、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、「ATO」と称する)などが挙げられる。これらの中でも、真空成膜により形成されたインジウム酸化物(以下、「In酸化物」と称する)、スズ酸化物(以下、「Sn酸化物」と称する)、及び亜鉛酸化物(以下、「Zn酸化物」と称する)のいずれか1つを含む無機材料が好ましい。
前記In酸化物、Sn酸化物、及びZn酸化物は、スパッタ法により、容易に成膜が可能な材料であると共に、良好な透明性と電気伝導度が得られる材料である。これらの中でも、InSnO、GaZnO、SnO、In2O3、ZnO、InZnOが特に好ましい。更に、前記電極は結晶性が低いほど好ましい。結晶性が高いと熱成形により電極が分断されやすいためである。この点から、アモルファス膜で高い導電性を示すIZO、AZOが好ましい。これらの電極材料を用いる場合は、熱成形後における積層体の曲面での支持体の最大長軸長さが、熱成形前における積層体の平面での支持体の最大長軸長さに対して120%以下になるように熱成形することが好ましく、103%以下になるように熱成形することがより好ましい。
また、透明性を有する銀、金、銅、アルミニウムを含有する導電性金属薄膜、カーボンナノチューブ、グラフェンなどのカーボン膜、更に、導電性金属、導電性カーボン、導電性酸化物等のネットワーク電極、又はこれらの複合層も有用である。前記ネットワーク電極とは、カーボンナノチューブや他の高導電性の非透過性材料等を微細なネットワーク状に形成して透過率を持たせたネットワーク電極である。前記ネットワーク電極は熱成形時に分断されにくいので、好ましい。
更に、電極をネットワーク電極と前記導電性酸化物の積層構成、又は前記導電性金属薄膜と前記導電性酸化物の積層構成とすることがより好ましい。積層構成にすることにより、エレクトロクロミック層をムラなく発消色させることができる。なお、導電性酸化物層はナノ粒子インクとして塗布形成することもできる。前記導電性金属薄膜と前記導電性酸化物の積層構成とは、具体的には、ITO/Ag/ITOなどの薄膜積層構成にて導電性と透明性を両立させた電極である。
【0028】
第1の電極2及び第2の電極6の各々の厚みは、第1のエレクトロクロミック層3及び第2のエレクトロクロミック層5の酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整される。
第1の電極2及び第2の電極6の材料としてITO膜を用いた場合、第1の電極2及び第2の電極6の各々の厚みは、20nm以上500nm以下が好ましく、50nm以上200nm以下がより好ましい。
前記導電性酸化物層はナノ粒子インクとして塗布形成する場合の厚みは、0.2μm以上5μm以下が好ましい。また、前記ネットワーク電極の場合の厚みは0.2μm以上5μm以下が好ましい。
更に、調光ミラーとして利用する場合には、第1の電極2及び第2の電極6のいずれかが反射機能を有する構造であってもよい。その場合には、第1の電極2及び第2の電極6の材料として金属材料を含むことができる。前記金属材料としては、例えば、Pt、Ag、Au、Cr、ロジウム、Al又はこれらの合金、あるいはこれらの積層構成などが挙げられる。
第1の電極2及び第2の電極6の各々の作製方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法などが挙げられる。また、第1の電極2及び第2の電極6の各々の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法などが挙げられる。
【0029】
<<第1のエレクトロクロミック層及び第2のエレクトロクロミック層>>
第1のエレクトロクロミック層3及び第2のエレクトロクロミック層5は、エレクトロクロミック材料を含む層である。
前記エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物及び有機エレクトロクロミック化合物のいずれであっても構わない。また、エレクトロクロミズムを示すことで知られる導電性ポリマーを用いてもよい。
第1のエレクトロクロミック層3と第2のエレクトロクロミック層5には、これらエレクトロクロミック材料から適宜選択することが可能であるが、一方が酸化発色性を有するエレクトロクロミック材料を用いた場合には、他方は還元発色性を有するエレクトロクロミック材料を用いることが好ましい。
酸化発色性を有するエレクトロクロミック材料としては、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物が好ましく、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有するエレクトロクロミック組成物が特に好ましい。
【0030】
<トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有するエレクトロクロミック組成物>
トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有するエレクトロクロミック組成物は、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有し、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物以外の他のラジカル重合性化合物及びフィラーを含有することが好ましく、重合開始剤を含有することがより好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0031】
-トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物-
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物は、電極の表面において酸化還元反応を有するエレクトロクロミック機能を付与するために重要である。
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物としては、下記一般式1で表される化合物が挙げられる。
【0032】
[一般式1]
An-Bm
ただし、n=2のときにはmは0であり、2つあるAは互いに異なる置換基を有してよく、n=1のときmは0又は1である。A及びBの少なくとも1つはラジカル重合性官能基を有する。前記Aは下記一般式2で示される構造であり、R1からR15のいずれかの位置で前記Bと結合している。前記Bは下記一般式3で示される構造であり、R16からR21のいずれかの位置で前記Aと結合している。
【0033】
【0034】
[一般式3]
【化2】
ただし、前記一般式2及び3中、R
1からR
21は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、前記一価の有機基のうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。
【0035】
-一価の有機基-
前記一般式2及び前記一般式3における前記一価の有機基としては、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールカルボニル基、アミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノカルボニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノカルボニル基、スルホン酸基、置換基を有していてもよいアルコキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシスルホニル基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、スルホンアミド基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいモノアリールアミノスルホニル基、置換基を有していてもよいジアリールアミノスルホニル基、アミノ基、置換基を有していてもよいモノアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいジアルキルアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルチオ基、置換基を有していてもよいアリールチオ基、置換基を有していてもよい複素環基などが挙げられる。
これらの中でも、安定動作及び光耐久性の点から、アルキル基、アルコキシ基、水素原子、アリール基、アリールオキシ基、ハロゲン基、アルケニル基、アルキニル基が特に好ましい。
【0036】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
前記アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、1-ナフチルオキシ基、2-ナフチルオキシ基、4-メトキシフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基などが挙げられる。
前記複素環基としては、例えば、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、チアジアゾールなどが挙げられる。
【0037】
前記置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0038】
前記ラジカル重合性官能基とは、炭素-炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であればいずれでもよい。
前記ラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1-置換エチレン官能基、1,1-置換エチレン官能基等が挙げられる。
【0039】
(1)1-置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(i)で表される官能基が挙げられる。
【化3】
ただし、前記一般式(i)中、X
1は、置換基を有してもよいアリーレン基、置換基を有してもよいアルケニレン基、-CO-基、-COO-基、-CON(R
100)-基〔R
100は、水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基を表す。〕、又は-S-基を表す。
【0040】
前記一般式(i)のアリーレン基としては、例えば、置換基を有してもよいフェニレン基、ナフチレン基などが挙げられる。
前記アルケニレン基としては、例えば、エテニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられる。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0041】
前記一般式(i)で表されるラジカル重合性官能基の具体例としては、ビニル基、スチリル基、2-メチル-1,3-ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基などが挙げられる。
【0042】
(2)1,1-置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(ii)で表される官能基が挙げられる。
【化4】
ただし、前記一般式(ii)中、Yは、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、-COOR
101基〔R
101は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又はCONR
102R
103(R
102及びR
103は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、又は置換基を有してもよいアリール基を表し、互いに同一又は異なっていてもよい。)〕を表す。また、X
2は、前記一般式(i)のX
1と同一の置換基及び単結合、アルキレン基を表す。ただし、Y及びX
2の少なくともいずれか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、芳香族環である。
【0043】
前記一般式(ii)のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などが挙げられる。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0044】
前記一般式(ii)で表されるラジカル重合性官能基の具体例としては、α-塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、α-シアノエチレン基、α-シアノアクリロイルオキシ基、α-シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基などが挙げられる。
【0045】
なお、これらX1、X2、Yについての置換基に更に置換される置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
【0046】
前記ラジカル重合性官能基の中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0047】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物としては、以下の一般式(1-1)から(1-3)で表される化合物のいずれかが好適に挙げられる。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
前記一般式(1-1)から(1-3)中、R27からR88は、いずれも一価の有機基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、前記一価の有機基のうち少なくとも1つはラジカル重合性官能基である。
前記一価の有機基及び前記ラジカル重合性官能基としては、前記一般式(1)と同じものが挙げられる。
【0052】
前記一般式(1)、及び前記一般式(1-1)から(1-3)で表される例示化合物としては、以下に示すものが挙げられる。前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物としては、これらに限定されるものではない。
【0053】
<例示化合物1>
【化8】
ただし、Meはメチル基を表す。
【0054】
【0055】
【0056】
<<他のラジカル重合性化合物>>
前記他のラジカル重合性化合物は、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なり、少なくとも1つのラジカル重合性官能基を有する化合物である。
前記他のラジカル重合性化合物としては、例えば、1官能のラジカル重合性化合物、2官能のラジカル重合性化合物、3官能以上のラジカル重合性化合物、機能性モノマー、ラジカル重合性オリゴマーなどが挙げられる。これらの中でも、2官能以上のラジカル重合性化合物が特に好ましい。
前記他のラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性官能基としては、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物におけるラジカル重合性官能基と同様であり、これらの中でも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0057】
前記1官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソブチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、セチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
前記2官能のラジカル重合性化合物としては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、EO変性ビスフェノールFジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
前記3官能以上のラジカル重合性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5-テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、上記において、EO変性はエチレンオキシ変性を指し、PO変性はプロピレンオキシ変性を指す。
【0060】
前記機能性モノマーとしては、例えば、オクタフルオロペンチルアクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルアクリレート、2-パーフルオロオクチルエチルメタクリレート、2-パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどのフッ素原子を置換したもの、特公平5-60503号公報、特公平6-45770号公報に記載のシロキサン繰り返し単位が20~70のアクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、メタクリロイルポリジメチルシロキサンエチル、アクリロイルポリジメチルシロキサンプロピル、アクリロイルポリジメチルシロキサンブチル、ジアクリロイルポリジメチルシロキサンジエチルなどのポリシロキサン基を有するビニルモノマー、アクリレート及びメタクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記ラジカル重合性オリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリエステルアクリレート系オリゴマーなどが挙げられる。
【0062】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物及び前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物の少なくともいずれか一方がラジカル重合性官能基を2つ以上有していることが、架橋物を形成する点から好ましい。
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物の含有量は、エレクトロクロミック組成物の全量に対して、10質量%以上100質量%以下が好ましく、30質量%以上90質量%以下がより好ましい。
前記含有量が、10質量%以上であると、エレクトロクロミック層のエレクトロクロミック機能が充分に発現でき、加電圧による繰り返しの使用で耐久性が良好であり、発色感度が良好である。
前記含有量が、100質量%でもエレクトロクロミック機能が可能であり、この場合、最も厚みに対する発色感度が高い。それに相反して電荷の授受に必要であるイオン液体との相溶性が低くなる場合があるため、加電圧による繰り返しの使用で耐久性の低下などによる電気的特性の劣化が現れる。使用されるプロセスによって要求される電気的特性が異なるため一概には言えないが、発色感度と繰り返し耐久性の両特性のバランスを考慮すると30質量%以上90質量%以下がより好ましい。
【0063】
<<重合開始剤>>
前記エレクトロクロミック組成物は、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物と、前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物との架橋反応を効率よく進行させるため、必要に応じて重合開始剤を含有することが好ましい。
前記重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらの中でも、重合効率の点から、光重合開始剤が好ましい。
【0064】
前記熱重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(パーオキシベンゾイル)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルベルオキサイド、t-ブチルヒドロベルオキサイド、クメンヒドロベルオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物系開始剤;アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、4,4’-アゾビス-4-シアノ吉草酸等のアゾ系開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
前記光重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-メチル-2-モルフォリノ(4-メチルチオフェニル)プロパン-1-オン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム等のアセトフェノン系又はケタール系光重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤;ベンゾフェノン、4-ヒドロキシベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、2-ベンゾイルナフタレン、4-ベンゾイルビフェニル、4-ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4-ベンゾイルベンゼン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0066】
その他の光重合開始剤としては、例えば、エチルアントラキノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10-フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、光重合促進効果を有するものを単独又は前記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0067】
前記重合開始剤の含有量は、前記ラジカル重合性化合物の全量100質量部に対して、0.5質量部以上40質量部以下が好ましく、1質量部以上20質量部以下がより好ましい。
【0068】
前記トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を第1の電極に形成した場合、第2の電極には還元反応発色性のエレクトロクロミック材料を形成するのが好ましい。還元反応発色性のエレクトロクロミック材料としては、特に限定されず、無機材料、有機材料から適宜選択することができる。
前記無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタンなどが挙げられる。
また、金属錯体系及び金属酸化物系のエレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化インジウム、酸化イリジウム、酸化ニッケル、プルシアンブルー等の無機エレクトロクロミック化合物を用いることができる。
前記有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、ビオロゲン化合物、希土類フタロシアニン化合物、スチリル化合物などが挙げられる。
前記導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、又はそれらの誘導体などが挙げられる。あるいは、以下のエレクトロクロミック化合物のモノマー分子に重合性官能基を付し、紫外線照射によって重合膜とすることも可能である。
【0069】
ポリマー系及び色素系のエレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、ベンジジン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
第2のエレクトロクロミック層としては、導電性又は半導体性微粒子に有機エレクトロクロミック化合物を担持した構造を用いることが好ましい。具体的には、電極表面に粒径5nm以上50nm以下の微粒子を結着し、前記微粒子の表面にホスホン酸やカルボキシル基、シラノール基等の極性基を有する有機エレクトロクロミック化合物を吸着した構造である。
前記構造は、微粒子の大きな表面効果を利用して、効率よく有機エレクトロクロミック化合物に電子が注入されるため、従来のエレクトロクロミック表示素子と比較して高速応答が可能となる。更に、微粒子を用いることで表示層として透明な膜を形成することができるため、エレクトロクロミック化合物の高い発色濃度を得ることができる。また、複数種類の有機エレクトロクロミック化合物を導電性又は半導体性微粒子に担持することもできる。更に導電性粒子は電極としての導電性を兼ねることができる。
【0071】
前記エレクトロクロミック化合物を担持する導電性又は半導体性微粒子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属酸化物を用いることが好ましい。
前記金属酸化物の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ホウ素、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化カルシウム、フェライト、酸化ハフニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、アルミノケイ酸、リン酸カルシウム、アルミノシリケート等を主成分とする金属酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、電気伝導性等の電気的特性や光学的性質等の物理的特性の点から、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化インジウム、及び酸化タングステンから選択される少なくとも1種が好ましく、より発消色の応答速度に優れた色表示が可能である点から、酸化チタン又は酸化スズが特に好ましい。
【0072】
また、導電性又は半導体性微粒子の形状は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、エレクトロクロミック化合物を効率よく担持するために、単位体積当たりの表面積(以下、比表面積という)が大きい形状が用いられる。例えば、微粒子が、ナノ粒子の集合体であるときは、大きな比表面積を有するため、より効率的にエレクトロクロミック化合物が担持され、発消色の表示コントラスト比が優れる。
エレクトロクロミック層及び導電性又は半導体性微粒子層は真空成膜により形成することも可能であるが、生産性の点で粒子分散ペーストとして塗布形成することが好ましい。
【0073】
上記還元反応発色性のエレクトロクロミック材料として、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物が好ましく、例えば、下記一般式(I)で表される化合物(ビオロゲン化合物)を含むことがより好ましい。
【0074】
<一般式(I)>
【化11】
上記一般式(I)中、R
1、R
2は各々水素原子、炭素数14までのアリール基、ヘテロアリール基、炭素数10までの分岐アルキル基、アルケニル基、或いはシクロアルキル基又は水酸基に対して結合することができる官能基を表す。
n、mは、各々0或いは1~10の整数を表す。
X
-は、荷電を中和するイオンを表す。
【0075】
より好ましい形態としては、R1又はR2のいずれかが水酸基に対して結合することができる官能基である。
これにより、透明電極(例えば、ITO)などへの吸着、固定化が可能となる。
また、透明電極上に金属酸化物による担持粒子を設けた際にも同様に吸着、固定化が可能となるため有利である。
更に好ましい形態としては、R1及びR2の両方が前記水酸基に対して結合することができる官能基である。
【0076】
前記水酸基に対して結合することができる官能基としては、例えば、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、スルホニル基、シリル基、シラノール基などが挙げられる。
これらの中でも、合成の簡便さ、担持粒子への吸着性、及び化合物の安定性の点から、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。
【0077】
前記ホスホン酸基としては、例えば、メチルホスホン酸基、エチルホスホン酸基、プロピルホスホン酸基、ヘキシルホスホン酸基、オクチルホスホン酸基、デシルホスホン酸基、ドデシルホスホン酸基、オクタデシルホスホン酸基、ベンジルホスホン酸基、フェニルエチルホスホン酸基、フェニルプロピルホスホン酸基、ビフェニルホスホン酸基などが挙げられる。
前記リン酸基としては、例えば、メチルリン酸基、エチルリン酸基、プロピルリン酸基、ヘキシルリン酸基、オクチルリン酸基、デシルリン酸基、ドデシルリン酸基、オクタデシルリン酸基、ベンジルリン酸基、フェニルエチルリン酸基、フェニルプロピルリン酸基、ビフェニルリン酸基などが挙げられる。
前記カルボン酸基としては、例えば、メチルカルボン酸基、エチルカルボン酸基、プロピルカルボン酸基、ヘキシルカルボン酸基、オクチルカルボン酸基、デシルカルボン酸基、ドデシルカルボン酸基、オクタデシルカルボン酸基、ベンジルカルボン酸基、フェニルエチルカルボン酸基、フェニルプロピルカルボン酸基、ビフェニルカルボン酸基、4-プロピルフェニルカルボン酸基、4-プロピルビフェニルカルボン酸基などが挙げられる。
【0078】
前記スルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ヘキシルスルホニル基、オクチルスルホニル基、デシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基、オクタデシルスルホニル基、ベンジルスルホニル基、フェニルエチルスルホニル基、フェニルプロピルスルホニル基、ビフェニルスルホニル基などが挙げられる。
前記シリル基としては、例えば、メチルシリル基、エチルシリル基、プロピルシリル基、ヘキシルシリル基、オクチルシリル基、デシルシリル基、ドデシルシリル基、オクタデシルシリル基、ベンジルシリル基、フェニルエチルシリル基、フェニルプロピルシリル基、ビフェニルシリル基などが挙げられる。
前記シラノール基としては、例えば、メチルシラノール基、エチルシラノール基、プロピルシラノール基、ヘキシルシラノール基、オクチルシラノール基、デシルシラノール基、ドデシルシラノール基、オクタデシルシラノール基、ベンジルシラノール基、フェニルエチルシラノール基、フェニルプロピルシラノール基、ビフェニルシラノール基などが挙げられる。
【0079】
荷電を中和するイオンX-はそれぞれ1価のアニオンを表し、カチオン部と安定に対を成すものであれば特に限定されるものではないが、Brイオン(Br-)、Clイオン(Cl-)、Iイオン(I-)、OTf(トリフラート)イオン(OTf-)、ClO4イオン(ClO4
-)、PF6イオン(PF6
-)、BF4イオン(BF4
-)が好ましい。
【0080】
前記ビオロゲン化合物は、一定長のアルキル鎖を有した対称系であることが好ましく、このとき前記一般式(I)において、m及びnがいずれも4以上10以下であることが好ましく、mとnが等しい整数であることが好ましい。
前記ビオロゲン化合物の具体的な例示化合物としては、以下に示すものが挙げられる。なお、前記ビオロゲン化合物はこれらに限定されるものではない。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
前記エレクトロクロミック層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等を用いることができる。また、前記エレクトロクロミック層の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法を用いることができる。
【0093】
前記エレクトロクロミック層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm以上5.0μm以下が好ましい。前記平均厚みが、0.2μm以上5.0μm以下であると、優れた発色濃度が得られ、着色によって視認性が低下することがなく、良好である。
【0094】
<電解質層>
電解質層は、イオン電導性を示す電解質を含んでいれば特に制限されないが、ゲル電解質を用いるのが好ましい。ゲル電解質を用いることで、液体状の電解質を用いる場合と比較して、封止樹脂層に含まれる熱硬化性材料が電解質層中に溶出しにくく、エレクトロクロミック層の発色作用に影響することを抑制することができる。ゲル電解質は、バインダー樹脂と、電解質とを含有し、更に必要に応じて、溶媒、重合開始剤を含有する。
【0095】
前記バインダー樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが限定されないが、重合膜としての相分離温度、膜強度の点で、ウレタン樹脂ユニットを含むことが好ましい。またポリエチレンオキシド(PEO)鎖を含む樹脂を加えることで、電解質との相溶性が向上し、相分離温度を高めることができる。また、ポリメチレンルメタリクレート(PMMA)鎖を含む樹脂を加えることで、PEO鎖を含む樹脂を加えるのと同様に、電解質との相溶性が向上し、相分離温度を高めることができる。
前記ゲル電解質としては、特に制限されないが、目的に応じて適宜選択することができるが、イオン液体等の液体電解質、又は固体電解質を溶媒に溶解した溶液が用いられる。
前記イオン液体は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、使用温度付近で液体状態であるものが挙げられる。なお、前記イオン液体とは、塩が溶解し、常温で液体状態を示す液体を意味する。
【0096】
前記イオン液体としては、カチオン、及びアニオンを含む。
前記カチオンとしては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩、N,N-メチルブチルイミダゾール塩、N,N-アリルブチルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体;N,N-ジメチルピロリジニウム塩、N-エチル-N-メチルピロリジニウム塩、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム塩、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム塩、N-メチル-N-ペンチルピロリジニウム塩、N-ヘキシル-N-メチルピロリジニウム塩等のピロリジニウム誘導体;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム系塩に由来するカチオンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記アニオンとしては、例えば、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオン、BF4
-、BF3CF3
-、BF3C2F5
-、PF6
-、NO3
-、CF3CO2
-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(FSO2)2N-、(CF3SO2)(FSO2)N-、(CN)2N-、(CN)3C-、(CN)4B-、(CF3SO2)3C-、(C2F5SO2)2N-、(C2F5)3PF3
-、AlCl4
-、Al2Cl7
-などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
前記イオン液体としては、例えば、エチルメチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMIMTCB、メルク社製)、エチルメチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(EMIMTFSI、関東化学株式会社製)、エチルメチルイミダゾリウムトリペンタフルホロエチルトリフロオロホスフェート(EMIMFAP、メルク社製)、アリルブチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(ABIMBF4、関東化学株式会社製)、メチルプロピルピロリジニウムビスフルオロスルホンイミド(P13FSI、関東化学株式会社製)等を溶解した液体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記イオン液体の含有量としては、ゲル電解質の全量に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上が特に好ましい。前記含有量が、50質量%以上であると、イオン伝導度を向上できる。
【0098】
前記固体電解質の材料としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩を用いることができる。具体的には、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3COO、KCl、NaClO3、NaCl、NaBF4、NaSCN、KBF4、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2などが挙げられる。
【0099】
<ゲル電解質の製造方法>
ゲル電解質としては、まず、組成物溶液を作製し、作製した組成物溶液を型やフィルムに挟んで重合させるキャスト重合法等を用いた重合反応により製造することができる。
前記組成物溶液は、前記イオン液体あるいは固体電解質を溶媒と混合した電解液と、重合性材料とウレタンアクリレートモノマー、及び必要に応じて、PEO鎖を有するアクリレートモノマー、及び必要に応じて、PMMA鎖を有するアクリレートモノマーを所望の比率で混合し、必要に応じて、前記重合開始剤、及びその他の成分を混合することができる。
前記重合性材料としては、例えば、ウレタンアクリレートモノマー、PEO鎖を有するアクリレートモノマー、PMMA鎖を有するアクリレートモノマーが挙げられる。
前記型としては、ガラス、樹脂製等の容器、離型剤付のフィルムなどが挙げられる。電気化学デバイスの空セルを型として組成物溶液を充填して、デバイス中で直接重合させることもできる。
前記重合反応としては、ラジカル重合反応が好ましく、熱ラジカル重合反応、光ラジカル重合反応がより好ましい。また、ラジカル重合を行う際には予め組成物溶液を脱酸素しておくことが好ましい。
【0100】
前記溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、又はそれらの混合溶媒などが挙げられる。
前記重合開始剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
前記熱重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等のアゾ化合物;2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のケタール系光重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン系光重合開始剤、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル系光重合開始剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0102】
前記重合開始剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、全モノマー成分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下が好ましく、0.01質量部以上2質量部以下がより好ましく、0.01質量部以上1質量部以下が特に好ましい。
【0103】
前記ゲル電解質のその他の作製方法としては、重合前の組成物溶液を、前記エレクトロクロミック層上に塗布し、紫外線照射や加熱によって重合させる方法も用いることができる。また、前記エレクトロクロミック層を形成した前記支持体を5μm以上150μm以下のギャップを保持した状態で対向させ、組成物溶液を充填した後で紫外線照射や加熱によって重合させる方法も用いることができる。
【0104】
<封止樹脂層>
封止樹脂層8は、支持体同士を接着し、空気中の酸素及び水分がエレクトロクロミック層と接触するのを抑制する役割を有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、熱硬化性材料を含有し、無機フィラーを含有することが好ましい。
【0105】
前記熱硬化性材料としては、熱硬化性樹脂及び熱硬化剤を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、封止樹脂層の剥離強度の点から、エポキシ樹脂が好ましい。
【0106】
-エポキシ樹脂-
エポキシ樹脂としては、エポキシモノマーを重合させたものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、2,2’-ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0107】
-熱硬化剤-
前記熱硬化剤としては、エポキシモノマーを硬化させることができれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、90℃以上150℃以下の温度にてエポキシモノマーを硬化させうる熱硬化剤が好ましい。
前記熱硬化剤は、低温反応性に優れるアミン基及び/又はチオール基を含有することがより好ましい。このような熱硬化剤としては、例えば、1,3-ビス[ヒドラジノカルボノエチル-5-イソプロピルヒダントイン]、アジピン酸ジヒドラジド等のヒドラジド化合物;ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、N-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]尿素、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、N,N’-ビス(2-メチル-1-イミダゾリルエチル)尿素、N,N’-(2-メチル-1-イミダゾリルエチル)-アジポアミド、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-イミダゾリン-2-チオール、2,2’-チオジエタンチオール、各種アミンとエポキシ樹脂との付加生成物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記熱硬化剤の含有量は、エポキシモノマー100質量部に対して、0.1質量部以上60質量部以下が好ましい。
【0108】
熱硬化性材料におけるその他の成分としては、例えば、吸湿剤、(メタ)アクリロイル基を有する硬化性樹脂などが挙げられる。
【0109】
-無機フィラー-
無機フィラーを含有することで、酸素や水分のバリア性を向上することが可能となる。
前記無機フィラーとしては、絶縁性、透明性、耐久性が高い材料が好ましく、例えば、シリコン、アルミニウム、ジルコニア、又はこれらの混合物などが挙げられる。
【0110】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、熱重合開始剤、重合促進剤、接着助剤、吸湿剤などを必要に応じて含むことができる。接着助剤を含むことで、高い生産性と化学的な密着安定性を実現し、低コストで高信頼性のエレクトロクロミック素子を得ることが可能となる。
【0111】
封止樹脂層の剥離強度は、被着面の幅1cmあたり、1kgf/cm以上が好ましく、1.5kgf/cm以上がより好ましく、1.8kgf/cm以上が更に好ましい。
前記剥離強度は、例えば、90度剥離試験により測定することができる。
【0112】
封止樹脂層の透湿度は、60℃で90%RHにおいて、200g/m2/24時間以下が好ましく、100g/m2/24時間以下がより好ましい。
【0113】
封止樹脂層の透過率は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。封止樹脂層がある領域は、発消色が得られない。その領域の透過率を高くすることで、目立ちにくくすることが可能となり、エレクトロクロミック素子との美観への悪影響を抑制したものが得られる。
【0114】
封止樹脂層の平均厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25μm以上150μm以下が好ましい。
【0115】
<光学レンズ>
本発明のエレクトロクロミック素子においては、前記支持体が所望の曲率を有し、少なくとも一方の表面に光学レンズを有することで、調光機能を備えたエレクトロクロミック調光レンズを作製することができる。
エレクトロクロミック調光レンズは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、以下の特性を有することが好ましい。
前記支持体の屈折率n1と、前記光学レンズの屈折率n2と、前記接着層の屈折率n3とが、次式、n1≦n3≦n2、を満たすことが、接着界面での反射の低減、ひいては透明性の点から好ましい。
あるいは、前記支持体の屈折率n1と、前記光学レンズの屈折率n2と、前記接着層の屈折率n3とが、次式、n2≦n3≦n1、を満たすことが、接着界面での反射の低減、ひいては透明性の点から好ましい。
前記屈折率は、例えば、多波長アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、DR-M2)により測定することができる。
前記支持体の線膨張係数α1と、前記光学レンズの線膨張係数α2と、前記接着層の線膨張係数α3とが、次式、α1≦α3≦α2、を満たすことが、熱的安定性及び機械的安定性の点から好ましい。
前記支持体の線膨張係数α1と、前記光学レンズの線膨張係数α2と、前記接着層の線膨張係数α3とが、次式、α2≦α3≦α1、を満たすことが、熱的安定性及び機械的安定性の点から好ましい。
前記線膨張係数は、例えば、TMA装置(株式会社コベルコ科研製)により測定することができる。
前記支持体のアッベ数ν1と、前記光学レンズのアッベ数ν2とが、次式、ν1≦ν2、を満たすことが、色収差低減の点から好ましい。
前記アッベ数は、例えば、多波長アッベ屈折計(株式会社アタゴ製、DR-M2)により測定することができる。
【0116】
ここで、
図5は、光学レンズを接着後の第1の実施の形態のエレクトロクロミック素子20の一例を示す概略図である。
図5の光学レンズを設けたエレクトロクロミック素子20は、積層体(エレクトロクロミック素子10)の一方の外側表面に光学レンズ9が接着されており、かつ他方の外側表面に第2の支持体7を有している。
【0117】
光学レンズ9の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリカーボネート樹脂、アリルジグリコールカーボネート樹脂、ジアリルカーボネート樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン系樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、メタクリレート樹脂、シクロオレフィン樹脂等の透明材料が好適に用いられる。
前記透明材料を、一方の外側表面に接するようにして、溶融後、再硬化させるか、光又は熱を加えることにより硬化させることで、光学レンズ9を接着形成している。ただし、光学レンズ9を接着形成する方法については、これらの方法に限定されるものではない。
硬化後の曲率半径を硬化収縮などよる変形を考慮しつつ設定することで、光学レンズ9の入射面の曲率及び出射面の曲率の少なくともいずれかを調整することにより、エレクトロクロミック装置に任意の度数を持たせることが可能である。
また、光学レンズ9を形成後、切削加工にて所望の曲面形状を形成することで、ユーザー固有の条件に合わせたレンズ加工(度数加工など)が可能になる。即ち、製品形状ごとに金型や部材を準備することが不要となり、高精度な製品を多品種少量生産することが容易になる。
【0118】
(エレクトロクロミック調光素子)
本発明のエレクトロクロミック調光素子は、本発明の前記エレクトロクロミック素子を有し、更に必要に応じてその他の部材を有してなる。
前記エレクトロクロミック調光素子は、例えば、エレクトロクロミック調光眼鏡、防眩ミラー、調光ガラスなどに好適に用いられる。これらの中でも、エレクトロクロミック調光眼鏡が好ましい。
前記その他の部材としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、眼鏡フレーム、電源、スイッチなどが挙げられる。
【0119】
ここで、
図9は、エレクトロクロミック調光眼鏡の一例を示す斜視図である。
図9を参照するに、エレクトロクロミック調光眼鏡150は、エレクトロクロミック調光装置51と、眼鏡フレーム52と、スイッチ53と、電源54とを有する。エレクトロクロミック調光装置51は、本発明のエレクトロクロミック調光装置を所望の形状に加工したものである。
2つのエレクトロクロミック調光装置51は、眼鏡フレーム52に組み込まれている。眼鏡フレーム52には、スイッチ53及び電源54が設けられている。電源54は、スイッチ53を介して、図示しない配線により、第1の電極及び第2の電極と電気的に接続されている。
スイッチ53を切り替えることにより、例えば、第1の電極と第2の電極との間にプラス電圧を印加する状態、マイナス電圧を印加する状態、電圧を印加しない状態の中から1つの状態を選択可能である。
スイッチ53としては、例えば、スライドスイッチやプッシュスイッチ等の任意のスイッチを用いることができる。ただし、少なくとも前述の3つの状態を切り替え可能なスイッチに限る。
電源54としては、例えば、ボタン電池、太陽電池等の任意の直流電源を用いることができる。電源54は、第1の電極と第2の電極との間にプラスマイナス数V程度の電圧を印加可能である。
例えば、第1の電極と第2の電極との間にプラス電圧を印加することにより、2つのエレクトロクロミック調光装置51が所定の色に発色する。また、第1の電極と第2の電極との間にマイナス電圧を印加することにより、2つのエレクトロクロミック調光装置51が消色し透明となる。
ただし、エレクトロクロミック層に使用する材料の特性により、第1の電極と第2の電極との間にマイナス電圧を印加することにより発色し、プラス電圧を印加することにより消色し透明となる場合もある。なお、一度発色した後は、第1の電極と第2の電極との間に電圧を印加しなくても発色は継続する。
【実施例】
【0120】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0121】
(実施例1)
<エレクトロクロミック素子の作製>
実施例1は、
図3に示すようなエレクトロクロミック素子を作製する例を示す。
【0122】
-第1のエレクトロクロミック層の形成-
次に、酸化チタン(石原産業株式会社製、ST-21)3g、アセチルアセトン0.2g、界面活性剤(和光純薬工業株式会社製、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)0.3gを、水5.5g、エタノール1.0gと共に12時間ビーズミル処理した。 得られた分散液にポリエチレングリコール(#20,000、日油株式会社製)1.2gを加えてペーストを作製した。
得られたペーストを、厚みが2μmになるようにスクリーン印刷法によって塗布し、80℃で乾燥させた後、UVオゾン処理90℃で20分間実施し、多孔質酸化チタン膜からなる電子輸送層を形成した。
続いて、例示化合物Aの還元発色性のエレクトロクロミック化合物を1.5質量%含む2,2,3,3-テトラフロロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布した後、80℃で10分間アニール処理を行うことにより、前記酸化チタン粒子膜に担持(吸着)させて、第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0123】
-第2の電極の形成-
第2の支持体として前記第1の支持体と同形状及び同厚みのポリカーボネート樹脂基板を準備した。第2の支持体上に、ITO膜をスパッタ法により厚み約100nmに製膜して、第2の電極を形成した。
【0124】
-第2のエレクトロクロミック層の形成-
第2の電極であるITO上に、ポリエチレングリコールジアクリレート(日本化薬株式会社製、PEG400DA)と、光開始剤(BASF社製、IRGACURE 184)と、酸化発色性のエレクトロクロミック材料である例示化合物1と、2-ブタノンとを質量比(57:3:140:800)で混合した溶液を調製した。その後、調製した溶液をITOガラス基板上にスピンコート法により塗布した。
次に、窒素雰囲気下で、Cr層のパターンがついた石英基板を介して、UV硬化させて第2の電極上に例示化合物1で表される化合物を含む厚み1.2μmのパターン化された第2のエレクトロクロミック層を選択形成した。
【0125】
-ゲル電解質の作製-
離型処理したPETフィルム(NP75C、パナック株式会社製)表面に、重合性材料(V3877、大同化成工業株式会社製)と、電解質(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMIMTCB))とを質量比(20:80)で混合し、光重合開始剤(irgacure184、日本化薬株式会社製)を前記重合性材料に対して0.5質量%混合した溶液を塗布し、離型処理したPETフィルム(NP75A、パナック株式会社製)と貼り合わせて、紫外線(UV)硬化させてゲル電解質を作製した。
【0126】
-貼合プロセス-
作製したゲル電解質について、離型フィルムを剥離し、前記第1のエレクトロクロミック層の表面に貼合処理した。その際、ゲル電解質の形状はエレクトロクロミック層のパターンより外周から0.5mmほど内側になるように、やや小さめに加工した。続いて、第1のエレクトロクロミック層の周辺にエレクトロクロミック層と一部重複するように基板外周部まで封止樹脂層を塗布した。封止樹脂層としては、熱硬化性材料1(エポキシ樹脂、フォトレックS、積水マテリアルソリューションズ株式会社製)を用い、ディスペンサ方式により塗布した。
その後、第2の支持体の第2の電極表面とゲル電解質の表面とを合わせて貼合し、紫外線を3J/cm
2照射(仮硬化)し、100℃で1時間の熱硬化処理(本硬化)を行い、実施例1のエレクトロクロミック素子を作製した。
得られた実施例1のエレクトロクロミック素子の封止樹脂層の形成領域を顕微鏡で観察したところ、
図3に示すように、前記エレクトロクロミック層の長さ方向両端部で、封止樹脂層と接していた。
【0127】
次に、得られた実施例1のエレクトロクロミック素子について、以下のようにして、耐久性、及び封止樹脂層の剥離強度を評価した。結果を表2に示した。
【0128】
<耐久性の評価>
得られた実施例1のエレクトロクロミック素子について、50℃の環境下、第1の電極と第2の電極間に1.2Vの電圧を印加して発色した。発色状態の透過率は約15%であった。その状態で50時間連続動作試験を行い、逆電圧として0.6Vを印加して消色した。
試験後に再度デバイスを1.2Vで発色させ、発色状態を目視確認し、以下の基準で評価したところ、「〇」の評価結果が得られた。
[評価基準]
〇:発色不良がない
×:封止樹脂層近傍から発色不良が見られる
【0129】
<封止樹脂層の剥離強度>
熱硬化性材料1を用いて、ITO層を形成した2枚のPETフィルム(平均厚み127μm)同士を貼合し、上記実施例1と同様の手順で紫外線照射及び熱硬化処理を実施し、幅10mm、長さ100mmの試験片を作製した。株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージを用いて、この試験片における一方のPETフィルムを剛性のあるステージに固定し、他方のPETフィルムを90°の角度で引張り、剥離する際の強度を実測した。そのようにして評価したサンプルの剥離強度は、4kgf/cmであった。
【0130】
(実施例2)
実施例1において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、例示化合物2に代えた以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0131】
(実施例3)
実施例1において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、例示化合物3に代えた以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0132】
(実施例4)
実施例1において、封止樹脂層に熱硬化性材料2(エポキシ樹脂、ストラクトボンド、三井化学株式会社製)を用いた外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0133】
(実施例5)
実施例4において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、例示化合物2に代えた以外は、実施例4と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0134】
(実施例6)
実施例4において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、例示化合物3を用いた以外は、実施例4と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0135】
<性能評価>
次に、実施例2~6のエレクトロクロミック素子について、実施例1と同様にして、耐久を評価したところ、いずれも発色欠陥は見られず、「〇」の評価結果が得られた。また、実施例1と同様にして、封止樹脂層の剥離強度を測定した。結果を表2に示した。
【0136】
(比較例1)
実施例1において、封止樹脂層として光硬化性材料1(TB3035B、株式会社スリーボンド製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0137】
(比較例2)
比較例1において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、例示化合物2に代えた以外は、比較例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0138】
(比較例3)
比較例1において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、例示化合物3に代えた以外は、比較例1と同様にして、エレクトロクロミック素子を作製した。
【0139】
<性能評価>
次に、比較例1~3のエレクトロクロミック素子について、実施例1と同様にして、耐久性を評価したところ、いずれも発色欠陥が確認され、「×」の評価結果であった。また、実施例1と同様にして、封止樹脂層の剥離強度を測定した。結果を表2に示した。
【0140】
(実施例7)
<エレクトロクロミック調光素子の作製>
-3D熱成形-
実施例1と同様の手順で作製したエレクトロクロミック素子を曲率半径が約130mmの凸金型と凹 金型に135℃で加熱しながら挟み込むことによって、
図4に示すような3D球面形状を有する熱成形後のエレクトロクロミック素子を作製した。金型の温度は146℃に設定した。なお、金型温度は各支持体材料の軟化温度に近い温度に設定する必要があり、それより低いと十分な賦形ができない。また高すぎると、冷却までの温度に時間がかかり、生産性が低下する。
【0141】
-光学レンズの形成-
熱成形後のエレクトロクロミック素子に接着する光学レンズの材料として、ポリカーボネート樹脂(ユーピロンCLS3400、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)を用い、前記熱成形後のエレクトロクロミック素子をモールド内にインサートし、射出成形によりレンズ形状に一体成形した(
図5、
図6A、
図6B参照)。
その後、エレクトロクロミック素子に接着して形成した光学レンズ部の表面を切削加工して、曲率をもたせることができた。更に、エレクトロクロミック素子と光学レンズを共に切削加工し、メガネフレームに収まる大きさに加工することができた。切削加工後の封止樹脂層形成領域は、支持体の端部から2mmであった。
【0142】
次に、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子について、以下のようにして、剥離性及び耐久性を評価したところ、剥離は確認されず、耐久性評価で発色不良は確認されなかった。また、実施例1と同様にして、封止樹脂層の剥離強度を測定した。結果を表2に示した。
【0143】
<剥離性>
光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子に対し、剥離の有無を目視観察し、下記の基準により、剥離性を評価した。
[評価基準]
〇:視認できる剥離が発生しない
×:視認できる剥離が発生する
【0144】
<耐久性の評価>
光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子に対し、50℃の環境において、第1の電極及び第2の電極間に1.2Vの電圧を印加して発色した。発色状態の透過率は約15%であった。その状態で50時間連続動作試験を行い、逆電圧として0.6Vを印加して消色した。
試験後に再度デバイスを1.2Vで発色させ、発色状態を目視確認し、下記の基準により、耐久性を評価した。
[評価基準]
〇:発色不良がない
×:封止樹脂層近傍から発色不良が見られる
【0145】
(実施例8)
実施例7において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、上記例示化合物2に代えた以外は、実施例7と同様にして、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子を作製した。
【0146】
(実施例9)
実施例7において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、上記例示化合物3に代えた以外は、実施例7と同様にして、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子を作製した。
【0147】
(実施例10)
実施例7において、封止樹脂層として、熱硬化性材料2(エポキシ樹脂、ストラクトボンド、三井化学株式会社製)を用いた以外は、実施例7と同様にして、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子を作製した。
【0148】
(実施例11)
実施例10において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、上記例示化合物2に代えた以外は、実施例10と同様にして、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子を作製した。
【0149】
(実施例12)
実施例10において、第2のエレクトロクロミック層における例示化合物1を、上記例示化合物3に代えた以外は、実施例10と同様にして、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子を作製した。
【0150】
<性能評価>
次に、実施例8~12のエレクトロクロミック素子において、実施例7と同様にして耐久性を評価したところ、いずれも発色欠陥は見られず、「〇」の評価結果であった。また、実施例7と同様にして、剥離性を評価し、封止樹脂層の剥離強度を測定した。結果を表2に示した。
【0151】
(比較例4)
実施例7において、
図7に示すように、封止樹脂層をエレクトロクロミック層と接しないように形成した以外は、実施例7と同様にして、光学レンズが接着されたエレクトロクロミック素子を作製した。
作製した比較例4のエレクトロクロミック素子に対し、3D熱成形工程を実施し、
図8に示すように加工したところ、剥離が発生した。
また、発色させたところ、封止樹脂層形成領域の近傍で発色欠陥が見られた。封止樹脂層がエレクトロクロミック層と重複していないため、エレクトロクロミック層の印刷膜端部が発色してしまった。エレクトロクロミック層の端部は、第一及び第2のエレクトロクロミック層の重ね合わせのズレや、端部の膜厚が不均一となる影響で発色不良が発生した。また、実施例7と同様にして、封止樹脂層の剥離強度を測定した。結果を表2に示した。
【0152】
(比較例5)
実施例10において、
図7に示すように、封止樹脂層をエレクトロクロミック層と接しないように形成した以外は、実施例10と同様にして、光学レンズが接着された比較例5のエレクトロクロミック素子を作製した。
作製したエレクトロクロミック素子に対し、3D熱成形工程を実施し、
図8に示すように加工したところ、剥離が発生した。
また、発色させたところ、封止樹脂層形成領域の近傍で発色欠陥が見られた。封止樹脂層がエレクトロクロミック層と重複していないため、エレクトロクロミック層の印刷膜端部が発色してしまった。エレクトロクロミック層の端部は、第一及び第2のエレクトロクロミック層の重ね合わせのズレや、端部の膜厚が不均一となる影響で発色不良が発生した。また、実施例7と同様にして、剥離性を評価し、封止樹脂層の剥離強度を測定した。結果を表2に示した。
【0153】
次に、以上の層構成及び評価結果をまとめて、表1及び表2に示した。なお、総合評価については、以下のようにして、評価した。
【0154】
<総合評価>
〇:実施例1~6及び比較例1~3については、耐久性が〇であるものを総合評価〇とした。実施例7~12及び比較例4~5については、耐久性が〇でありかつ剥離性が〇であるものを総合評価〇とした
×:実施例1~6及び比較例1~3については、耐久性が×であるものを総合評価×とした。実施例7~12及び比較例4~5については、耐久性又は剥離性が×であるものを総合評価×とした
【0155】
【0156】
【表2】
*表2中の実施例1~6及び比較例1~3における剥離性の評価結果「-」は、剥離性の評価を行っていないことを示す。
【0157】
本発明の態様としては、例えば以下のとおりである。
<1> 支持体と、該支持体上にエレクトロクロミック層及び電解質層を有するエレクトロクロミック素子であって、
前記エレクトロクロミック層が、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物を含有し、
前記エレクトロクロミック層の長さ方向端部で積層方向に接触する封止樹脂層を有し、
前記封止樹脂層が熱硬化性材料を含有することを特徴とするエレクトロクロミック素子である。
<2> 前記熱硬化性材料がエポキシ樹脂を含む、前記<1>に記載のエレクトロクロミック素子である。
<3> 前記封止樹脂層の剥離強度が1kgf/cm以上である、前記<1>から<2>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<4> 前記電解質層がゲル電解質を含む、前記<1>から<3>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<5> 前記支持体が、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂から選択される少なくとも1種を含む、前記<1>から<4>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<6> 前記支持体が所望の曲率を有し、かつ少なくとも一方の表面に光学レンズを有する、前記<1>から<5>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子を有することを特徴とするエレクトロクロミック調光素子である。
<8> 前記<7>に記載のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とするエレクトロクロミック調光レンズである。
<9> 前記<1>から<6>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子又は前記<7>記載のエレクトロクロミック調光素子を有することを特徴とするエレクトロクロミック装置である。
<10> 前記エレクトロクロミック装置が、調光眼鏡、双眼鏡、オペラグラス、自転車用ゴーグル、時計、電子ペーパー、電子アルバム、又は電子広告板である、前記<9>に記載のエレクトロクロミック装置である。
【0158】
前記<1>から<6>のいずれかに記載のエレクトロクロミック素子、前記<7>に記載のエレクトロクロミック調光素子、前記<8>に記載のエレクトロクロミック調光レンズ、及び前記<9>から<10>のいずれかに記載のエレクトロクロミック装置によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0159】
1 第1の支持体
2 第1の電極
3 第1のエレクトロクロミック層
4 電解質層
5 第2のエレクトロクロミック層
6 第2の電極
7 第2の支持体
8 封止樹脂層
9 光学レンズ
10 エレクトロクロミック素子
20 光学レンズを設けたエレクトロクロミック素子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0160】
【文献】特開平7-175090号公報
【文献】特開2018-10106号公報