(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20240416BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
C03C27/12 N
C03C27/12 R
B32B17/10
(21)【出願番号】P 2021131437
(22)【出願日】2021-08-11
(62)【分割の表示】P 2021502025の分割
【原出願日】2020-02-18
【審査請求日】2023-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2019028813
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】儀間 裕平
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-036967(JP,A)
【文献】特開2018-141891(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019925(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/099167(WO,A1)
【文献】特開2007-326763(JP,A)
【文献】国際公開第2019/026849(WO,A1)
【文献】特表2018-524254(JP,A)
【文献】特開2018-002567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率を有する一対のガラス板と、
前記一対のガラス板の間に位置する中間膜と、
前記中間膜に封入された調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
第1樹脂層及び第2樹脂層と、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とに挟まれた調光層と、を含み、
前記第1樹脂層の主面
に1つ以上のスリットを有し、
少なくとも1つの前記スリットは、前記調光素子の外縁部と接していない、又は平面視で前記調光素子の外縁部から内側に向かって延在する合わせガラス。
【請求項2】
少なくとも1つの前記スリット
が、平面視で前記調光素子の外縁部から内側に向かって延在する
場合、少なくとも1つの前記スリットは、平面視で前記調光素子の外縁部から略垂直に内側に向かって延在する請求項
1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記スリットは、前記調光素子の何れかの辺に対し、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaと該辺の長さLpとの関係が、0.55×Lp<Lsa、を満たす請求項1
又は2に記載の合わせガラス。但し、前記スリットが複数存在する場合は、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaの合計値と該辺との関係が上記式を満たせばよい。
【請求項4】
前記スリットは、前記調光素子の何れかの辺に対し、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaと該辺の長さLpとの関係が、0.7×Lp<Lsa、を満たす請求項1
又は2に記載の合わせガラス。但し、前記スリットが複数存在する場合は、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaの合計値と該辺との関係が上記式を満たせばよい。
【請求項5】
前記スリットと同軸上の前記調光素子の幅をLpとしたときに、前記スリットの長さLsが、0.3×Lp<Ls<0.95Lpを満たす請求項1
又は2に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーの群から選択される何れかである請求項1乃至
5の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記調光素子の厚さは、0.1mm以上0.5mm以下である請求項1乃至
6の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記調光層は、懸濁粒子デバイス、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク型液晶、ゲストホスト型液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティック、の群から選択される何れか一つ以上である請求項1乃至
7の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項9】
前記一対のガラス板の少なくとも一方に遮蔽層が形成され、
少なくとも1つの前記スリットは、平面視で前記遮蔽層と重複する請求項1乃至
8の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項10】
平面視で前記遮蔽層と重複する前記スリットの外縁部は、前記遮蔽層の外縁部から10mm以上離間している請求項
9に記載の合わせガラス。
【請求項11】
平面視で前記遮蔽層と重複する前記スリットの外縁部は、前記遮蔽層の外縁部から15mm以上離間している請求項
10に記載の合わせガラス。
【請求項12】
前記スリットと同軸上の曲げ深さは60mm~80mmである、請求項1乃至
11の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項13】
曲率を有する一対のガラス板と、
前記一対のガラス板の間に位置する中間膜と、
前記中間膜に封入された調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
第1樹脂層及び第2樹脂層と、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とに挟まれた調光層と、を含み、
前記第1樹脂層の主面
に1つ以上のスリットを有し、
前記スリットは、前記調光素子の何れかの辺に対し、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaと該辺の長さLpとの関係が、0.55×Lp<Lsa、を満たす合わせガラス。
但し、前記スリットが複数存在する場合は、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaの合計値と該辺との関係が上記式を満たせばよい。
【請求項14】
前記スリットは、前記調光素子の何れかの辺に対し、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaと該辺の長さLpとの関係が、0.7×Lp<Lsa、を満たす請求項
13に記載の合わせガラス。但し、前記スリットが複数存在する場合は、前記スリットの長さLsの該辺に対し平行な成分の長さLsaの合計値と該辺との関係が上記式を満たせばよい。
【請求項15】
前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーの群から選択される何れかである請求項
13又は14に記載の合わせガラス。
【請求項16】
前記調光素子の厚さは、0.1mm以上0.5mm以下である請求項
13乃至
15の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項17】
前記調光層は、懸濁粒子デバイス、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク型液晶、ゲストホスト型液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティック、の群から選択される何れか一つ以上である請求項
13乃至
16の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項18】
前記一対のガラス板の少なくとも一方に遮蔽層が形成され、
少なくとも1つの前記スリットは、平面視で前記遮蔽層と重複する請求項
13乃至
17の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項19】
平面視で前記遮蔽層と重複する前記スリットの外縁部は、前記遮蔽層の外縁部から10mm以上離間している請求項
18に記載の合わせガラス。
【請求項20】
平面視で前記遮蔽層と重複する前記スリットの外縁部は、前記遮蔽層の外縁部から15mm以上離間している請求項
19に記載の合わせガラス。
【請求項21】
前記スリットと同軸上の曲げ深さは60mm~80mmである、請求項
13乃至
20の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項22】
曲率を有する一対のガラス板と、
前記一対のガラス板の間に位置する中間膜と、
前記中間膜に封入された調光素子と、を有し、
前記調光素子は、
第1樹脂層及び第2樹脂層と、
前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とに挟まれた調光層と、を含み、
前記第1樹脂層の主面
に1つ以上のスリットを有し、
前記一対のガラス板の少なくとも一方に遮蔽層が形成され、
少なくとも1つの前記スリットは、平面視で前記遮蔽層と重複する合わせガラス。
【請求項23】
平面視で前記遮蔽層と重複する前記スリットの外縁部は、前記遮蔽層の外縁部から10mm以上離間している請求項
22に記載の合わせガラス。
【請求項24】
平面視で前記遮蔽層と重複する前記スリットの外縁部は、前記遮蔽層の外縁部から15mm以上離間している請求項
23に記載の合わせガラス。
【請求項25】
前記スリットと同軸上の前記調光素子の幅をLpとしたときに、前記スリットの長さLsが、0.3×Lp<Ls<0.95Lpを満たす請求項
22乃至24の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項26】
前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーの群から選択される何れかである請求項
22乃至
25の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項27】
前記調光素子の厚さは、0.1mm以上0.5mm以下である請求項
22乃至
26の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項28】
前記調光層は、懸濁粒子デバイス、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク型液晶、ゲストホスト型液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティック、の群から選択される何れか一つ以上である請求項
22乃至
27の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項29】
前記スリットと同軸上の曲げ深さは60mm~80mmである、請求項
22乃至
28の何れか一項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道の窓ガラスでは、湾曲した曲面状の合わせガラスが使用される場合がある。このような合わせガラスにおいて、例えば、機能性フィルムを封入して種々の機能を持たせることがある。機能性フィルムの一例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のフィルム状の樹脂層を支持層とし、これに熱線反射等の機能を有する薄膜をコーティングした熱線反射フィルムが挙げられる。
【0003】
又、機能性フィルムの他の例としては、電圧をかけると可視光透過率が変化するフィルム状の調光素子(調光フィルム)が挙げられる。調光素子は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の2枚のフィルム状の樹脂層に調光層が挟持された構造である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、これらの機能性フィルムを湾曲した合わせガラスに封入すると、支持層である樹脂層が曲面に追従できずに皺になり、外観を損ねるおそれがある。そこで、湾曲した合わせガラスに封入される樹脂層の皺を軽減する方法として、樹脂層の大きさを合わせガラスの外周に対して小さくする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/075772号
【文献】特開2000-247691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の方法では、皺を抑制する効果が不十分であった。特に、調光素子は、2枚の樹脂層を使用しているため、樹脂層が厚くなり、皺がより顕著に観測されるという問題があり、上記の方法では、調光素子に生じる皺を抑制できなかった。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、樹脂層を有する調光素子を封入した合わせガラスにおいて、調光素子に生じる皺を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本合わせガラスは、曲率を有する一対のガラス板と、前記一対のガラス板の間に位置する中間膜と、前記中間膜に封入された調光素子と、を有し、前記調光素子は、第1樹脂層及び第2樹脂層と、前記第1樹脂層と前記第2樹脂層とに挟まれた調光層と、を含み、前記第1樹脂層の主面に1つ以上のスリットを有し、少なくとも1つの前記スリットは、前記調光素子の外縁部と接していない、又は平面視で前記調光素子の外縁部から内側に向かって延在する。
【発明の効果】
【0009】
開示の一実施態様によれば、樹脂層を有する調光素子を封入した合わせガラスにおいて、調光素子に生じる皺を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る車両用のルーフガラスを例示する図である。
【
図2】第1実施形態に係る車両用のルーフガラスを例示する斜視図である。
【
図3】スリットと同軸上にある調光素子の幅について説明する図である。
【
図4】ルーフガラスの最大曲げ深さについて説明する図である。
【
図5】第1実施形態の変形例1に係る車両用のルーフガラスを例示する図である。
【
図6】第1実施形態の変形例2に係る車両用のルーフガラスを例示する図(その1)である。
【
図7】第1実施形態の変形例2に係る車両用のルーフガラスを例示する図(その2)である。
【
図8】第1実施形態の変形例3に係る車両用のルーフガラスを例示する図である。
【
図9】第1実施形態の変形例4に係る車両用のルーフガラスを例示する図である。
【
図10】実施例及び比較例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、各図面において、本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0012】
なお、ここでは、車両用のルーフガラスを例にして説明するが、これには限定されず、実施形態に係るガラスは、車両用のルーフガラス以外に、例えばフロントガラス、リヤガラス、サイドガラス等にも適用可能である。又、曲率を有する建築用ガラスにも適用可能である。又、車両とは、代表的には自動車であるが、電車、船舶、航空機等を含むガラスを有する移動体を指すものとする。
【0013】
又、平面視とはルーフガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視ることを指し、平面形状とはルーフガラスの所定領域を所定領域の法線方向から視た形状を指すものとする。
【0014】
又、平面視で合わせガラスの内側とは合わせガラスの中心方向を指す。
【0015】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係る車両用のルーフガラスを例示する図であり、
図1(a)は平面図、
図1(b)は
図1(a)のA-A線に沿う断面図である。
図2は、第1実施形態に係る車両用のルーフガラスを例示する斜視図である。ここでは、平面視において、ルーフガラス20の短手方向をX方向、長手方向をY方向、厚さ方向をZ方向としている。
図1及び
図2は模式図であるため、
図1と
図2とで寸法関係が整合していない場合がある。
【0016】
図1及び
図2に示すように、ルーフガラス20は、X方向及びY方向に湾曲した車両用の合わせガラスである。ルーフガラス20は、車内側ガラス板であるガラス板21と、車外側ガラス板であるガラス板22と、中間膜23と、遮蔽層24と、調光素子25とを有する。中間膜23は、例えば、中間膜231及び232の2層から形成できる。
【0017】
ガラス板21は、ルーフガラス20を車両に取り付けたときに車内側となる車内側ガラス板である。又、ガラス板22は、ルーフガラス20を車両に取り付けたときに車外側となる車外側ガラス板である。ガラス板21及び22は、所定の曲率を有している。
【0018】
ガラス板21とガラス板22は互いに対向する一対のガラス板であり、中間膜23及び調光素子25は一対のガラス板の間に位置している。ガラス板21とガラス板22とは、中間膜23及び調光素子25を挟持した状態で固着されている。ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23の詳細については後述する。
【0019】
遮蔽層24は、不透明な層であり、例えば、ルーフガラス20の周縁部に沿って帯状に設けることができる。
図1及び
図2の例では、遮蔽層24は、ガラス板21の車内側の面21aに設けられている。但し、遮蔽層24は、必要に応じ、ガラス板22の車内側の面22aに設けられてもよいし、ガラス板21の車内側の面21a及びガラス板22の車内側の面22aの両方に設けられてもよい。
【0020】
ルーフガラス20の周縁部に不透明な遮蔽層24が存在することで、ルーフガラス20の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂の紫外線による劣化を抑制できる。又、バスバーや電極を車外側、車内側から視認しにくいように隠蔽できる。
【0021】
調光素子25は、ルーフガラス20の光の透過率を切り替え可能な素子である。調光素子25は、必要に応じて、ルーフガラス20の略全体に配置してもよいし、一部のみに配置してもよい。調光素子25の平面形状は、例えば、ルーフガラス20の平面形状よりも小さな矩形である。
図1及び
図2の例では、調光素子25の外縁部25Rは遮蔽層24と平面視で重複する位置にある。
【0022】
調光素子25は、基材251と、導電性薄膜252と、調光層253と、導電性薄膜254と、基材255と、一対の調光用バスバー256とを備えており、中間膜23に封入されている、すなわち中間膜23によって周囲を覆われている。調光素子25の厚さは、例えば、0.1mm以上0.5mm以下であり、0.1mm以上0.4mm以下が好ましい。
【0023】
基材251及び255は、透明な樹脂層である。基材251及び255の厚さは、例えば、5μm以上500μm以下であるが、好ましくは10μm以上200μm以下であり、更に好ましくは50μm以上150μm以下である。
【0024】
基材251及び255は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、アラミド、ポリブチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーの群から選択される何れかにより形成できる。
【0025】
導電性薄膜252は、基材251のガラス板22側の面に形成されており、調光層253のガラス板21側の面に接している。導電性薄膜254は、基材255のガラス板21側の面に形成されており、調光層253のガラス板22側の面に接している。すなわち、導電性薄膜252及び254は、調光層253を挟む一対の導電性薄膜である。
【0026】
導電性薄膜252及び254としては、例えば、透明導電性酸化物(TCO:transparent conductive oxide)を用いることができる。TCOとしては、例えば、スズ添加酸化インジウム(ITO:tin-doped indium oxide)、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO:aluminum doped zinc oxide)、インジウム添加酸化カドミウム等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0027】
導電性薄膜252及び254として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)又はポリ(4,4-ジオクチルシクロペンタジチオフェン)等の透明導電性ポリマーも好適に使用できる。又、導電性薄膜252及び254として、金属層と誘電体層との積層膜、銀ナノワイヤー、銀や銅のメタルメッシュ等も好適に使用できる。
【0028】
導電性薄膜252及び254は、例えば、スパッタ法や真空蒸着法やイオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)を用いて形成できる。導電性薄膜252及び254は、化学蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)やウェットコーティング法を用いて形成してもよい。
【0029】
調光層253は、導電性薄膜252が形成された基材251と導電性薄膜254が形成された基材255との間に挟まれている。調光層253としては、例えば、懸濁粒子デバイス(Suspended Particle Device:SPD)、高分子分散型液晶、高分子ネットワーク型液晶(PNLC)、ゲストホスト型液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティック、の群から選択される何れか一つ以上を選択できる。
【0030】
懸濁粒子デバイスフィルムとしては、電圧の印加により配向可能な懸濁粒子を含有するポリマー層を、導電性薄膜を内側にコートした2枚の基材で挟み込むようにして構成された、一般的なSPDフィルムが使用可能である。このようなSPDフィルムは、電源スイッチをオンにして透明導電膜間に電圧を印加することにより、ポリマー層中の懸濁粒子が配向することで可視光透過率が高く、透明性が高い状態になる。電源スイッチがオフの状態では、ポリマー層中の懸濁粒子が配向することがなく可視光透過率が低く、透明性が低い状態となる。
【0031】
SPDフィルムとしては、例えば、LCF-1103DHA(商品名、日立化成社製)、等の市販品を用いることができる。なお、このような市販品は、所定の大きさで供給されるため、所望の大きさに切断して使用する。なお、SPDフィルムの厚みとしては、特に制限されないが、取り扱い性及び入手容易性の観点から0.1mm以上0.4mm以下が好ましい。
【0032】
調光層253として、高分子分散型液晶(PDLC)を用いる場合、PDLCフィルムは、プレポリマー、ネマチック液晶、及びスペーサ材料を特定の比率で混合して作製し、その後2つの導電性薄膜を有する基材間に配置できる。動作原理には、以下のものが含まれる。電界が印加されていない場合、液晶滴は、その配向子が自由に配向された状態でポリマー材料中にランダムに分布できる。このような場合、通常光に対する液晶の屈折率はポリマー材料のそれと一致せず、光に対して相対的に強い散乱効果を引き起こし、その結果PDLCフィルムの外観は半透明又は不透明の「乳白色」となる。電界下では、液晶滴は、その正の誘電率異方特性のため、その配向子を外部電界の方向に沿って配列させることができる。通常光に対する液晶の屈折率がポリマー材料のそれと一致する場合、光はPDLCフィルムを通過でき、したがってPDLCフィルムは透明の外観を有することになる。具体的には、PDLCフィルムに供給される電圧が高いほど、PDLCフィルムはより透明となる。PDLCフィルムの厚みとしては、特に制限されないが、取り扱い性及び入手容易性の観点から0.1mm以上0.4mm以下が好ましい。
【0033】
一対の調光用バスバー256は、例えば、平面視で遮蔽層24と重複する位置に配置される。一対の調光用バスバー256の一方は導電性薄膜252と電気的に接続され、他方は導電性薄膜254と電気的に接続されており、導電性薄膜252及び254に通電して調光層253を駆動する。
【0034】
一対の調光用バスバー256の一方の極は例えば正極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の正側と接続される。又、一対の調光用バスバー256の他方の極は例えば負極であり、リード線等を介して、車両に搭載されたバッテリー等の電源の負側と接続される。
【0035】
バッテリー等の電源から一対の調光用バスバー256を介して調光層253に電圧が供給されると、電圧に応じて調光層253の透過率が切り替わる。
【0036】
調光用バスバー256としては、銀ペーストが好適に用いられる。銀ペーストは、例えば、スクリーン印刷等の印刷方式や、人の手作業により塗布できる。又、調光用バスバー256として、銅リボンや平編み銅線、導電性粘着剤を有する銅テープを用いてもよい。
【0037】
調光素子25には、Y軸方向を長手方向とする2つのスリット30が、互いに対向するように調光素子25のX軸方向の略中央部に形成されている。平面視において、調光素子25は略H型に視認される。
【0038】
但し、これには限定されず、調光素子25に形成されるスリット30は1つでもよいし、3つ以上でもよい。すなわち、調光素子25には、1つ以上のスリット30が形成されていればよい。又、スリット30は、調光素子25の任意の位置に形成してよい。調光素子25に1つ以上のスリット30を形成することで、調光素子25に生じる皺を抑制できる。
【0039】
各々のスリット30は、基材251の主面251aに形成されたスリット301と、基材255の主面255aに形成されたスリット305とを有する。スリット301は基材251及び導電性薄膜252を貫通し、スリット305は基材255及び導電性薄膜252を貫通している。又、スリット301は基材251及び導電性薄膜252から調光層253に延伸し、調光層253を貫通してスリット305と連通し、調光素子25を貫通するスリット30を形成している。
【0040】
スリット301及び305は、平面視で調光素子25の外縁部25Rから内側に向かって形成されている。
図1及び
図2では、スリット301とスリット305とは同一寸法であり、平面視で重複する位置にある。
【0041】
スリット30を平面視で調光素子25の外縁部25Rから内側に向かって形成する場合、調光素子25内でスリット30が島状に孤立せず、合わせガラス製造時にスリット30内に空気が残り難いため、発泡やエア残り等の不具合の発生を抑制できる。スリット30が複数存在する場合、少なくとも1つのスリット30は、平面視で調光素子の外縁部から内側に向かって略垂直に内側に向かって延在することが好ましく、全てのスリット30が平面視で調光素子の外縁部から内側に向かって略垂直に内側に向かって延在することがより好ましい。なお、略垂直とは、垂直方向に対する傾斜が±10度以下の場合を指す。
【0042】
図1及び
図2ではスリット30の平面形状は略矩形状であるが、これには限定されない。スリット30の平面形状は、調光素子25に生じる皺の改善の程度と、合わせガラス製造時の脱気性や作業性とを総合的に勘案して適宜決定できる。スリット30の形状は、例えば、直線状や略三角形状や楕円状等でもよい。なお、本明細書では、矩形状のスリットにおいて、幅(
図1のWs)が1mm以下のものを特に直線状と称する。
【0043】
スリット30の長さLsは、調光素子25の何れかの辺に対し、スリット30の長さLsのその辺に対し平行な成分の長さLsaとその辺の長さLpとの関係が、0.55×Lp<Lsaを満たすことが好ましく、0.7×Lp<Lsaを満たすことがさらに好ましい。スリットLsの長さが上記関係を満たすことで、調光素子25に生じる皺を抑制する効果が十分に得られる。
【0044】
例えば、
図3(a)のように、調光素子25が長方形であって、スリット30が調光素子25の長辺端部から垂直方向に内側に延在している場合は、短辺の長さLpとの関係が、0.55×Lp<Lsaであれば好ましく、0.7×Lp<Lsa(=Ls)であればさらに好ましい。
【0045】
例えば、調光素子25が四辺形であり、スリット30が調光素子25の辺端部から斜め方法に内側に延在している場合には、スリット30の各辺に平行な成分の長さLsaとその辺の長さLpとの関係の何れかが0.55×Lp<Lsaの関係を満たすことが好ましく、0.7×Lp<Lsaの関係を満たせばさらに好ましい。具体的には、
図3(b)上側において0.7×Lp1<Lsa又は0.7×Lp2<Lsaの関係を満たすか、或いは、
図3(b)下側において0.7×Lp1<Lsa1又は0.7×Lp2<Lsa2の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0046】
例えば、調光素子25が四辺形であり、スリット30を複数設ける場合には、各スリット30の各辺に平行な成分の長さの合計Lsaとその辺の長さLpとの関係の何れかが0.55×Lp<Lsaの関係を満たすことが好ましく、0.7×Lp<Lsaの関係を満たすことがさらに好ましい。具体的には、
図3(c)上側において0.7×Lp1<Lsa3+Lsa4又は0.7×Lp2<Lsa3+Lsa4の関係を満たすか、或いは、
図3(c)下側において0.7×Lp1<Lsa5又は0.7×Lp2<Lsa6の関係を満たすことがさらに好ましい。
【0047】
又、0.72×Lp<Lsaの関係を満たすことがより好ましく、0.75×Lp<Lsaの関係を満たすことが更に好ましい。
【0048】
スリット30の長さLsが長くなるほど、調光素子25に生じる皺を抑制する効果が更に高くなる。
【0049】
又、スリット30の長さLsが長くなるほど、合わせガラス製造時の調光素子25のハンドリングが難しくなるため、Ls<0.95Lp、を満たすことが望ましい。Ls<0.95Lpであれば合わせガラス製造時に問題なく調光素子25を扱うことができる。
【0050】
図1及び
図2に戻り、スリット30の幅Wsは、例えば、0.1mm以上50mm以下であり、1mm以上40mm以下が好ましく、10mm以上40mm以下がより好ましい。スリット30の幅Wsが0.1mm以上であると、調光素子25に生じる皺を抑制できる。又、スリット30の幅Wsが50mm以下であると、合わせガラス製造時にスリット30内に空気が残り難いため、発泡やエア残り等の不具合の発生を抑制できる。
【0051】
スリット30は、調光素子25の何れかの辺に対して略直角な方向に伸びていることが好ましい。
図1及び
図2の例では、スリット30は、調光素子25のX軸方向に平行な対向する2つの短辺に対して直角なY軸方向に伸びている。このような配置により、調光素子25の何れかの辺に対して斜め方向にスリット30が伸びている場合と比べて、調光素子25に生じる皺を更に抑制できる。これは、斜め方向にスリットが伸びている場合、スリットの長さLsを効率的に得られないためである。
【0052】
スリット30の加工は、調光素子25の作製時又は調光素子25の作製後の何れで行ってもよい。何れの場合も、カッティングプロッター加工機、打ち抜き加工機、レーザーカッター、はさみ、カッターナイフ、彫刻刀等を好適に利用できる。
【0053】
調光素子25の作製時にスリット30を加工する場合は、まず、導電性薄膜252が形成された基材251にスリット301を、導電性薄膜254が形成された基材255にスリット305を加工する。そして、スリット301を有する基材251と、スリット305を有する基材255との間に例えば液状の調光層253を流し込んで硬化させ、調光素子25を作製する。このとき、必要に応じ、スリット301及び305の周縁部を封止材でシールしてもよい。
【0054】
調光素子25の作製後にスリット30を加工する場合は、導電性薄膜252が形成された基材251、調光層253、及び導電性薄膜254が形成された基材255を一度に加工し、スリット301及び305を含むスリット30を形成する。この場合、スリット301及び305を含むスリット30を一度に加工できるので、生産性が高い点で好ましい。このとき、必要に応じ、スリット301及び305の周縁部を封止材でシールしてもよい。
【0055】
図4は、ルーフガラスの最大曲げ深さについて説明する図である。
図4に示すように、最大曲げ深さDは、ルーフガラス20の凹面20xを下向きに配置し、ルーフガラス20の一対の対向する辺同士を結ぶ直線Laを引いたとき、凹面20xの最も深い点から直線Laに引いた垂線の長さを例えばmm単位で表したものである。最大曲げ深さDは、ルーフガラス20の湾曲の程度を示す値である。最大曲げ深さDの値が大きいほど、調光素子25に皺が生じ易くなるため、調光素子25にスリット30を形成して皺を抑制する意義が大きくなる。
【0056】
ここで、ガラス板21、ガラス板22、及び中間膜23について詳述する。
【0057】
ルーフガラス20において、ガラス板21の車内側の面21a(ルーフガラス20の内面)と、ガラス板22の車外側の面22a(ルーフガラス20の外面)とは、湾曲面である。
【0058】
ガラス板21及び22としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケート等の無機ガラス、有機ガラス等を用いることができる。ガラス板21及び22が無機ガラスである場合、例えば、フロート法によって製造できる。
【0059】
ルーフガラス20の外側に位置するガラス板22の板厚は、最薄部が1.3mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板22の板厚が1.3mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板22の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましい。
【0060】
ルーフガラス20の内側に位置するガラス板21の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板21の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることによりルーフガラス20の質量が大きくなり過ぎない。
【0061】
ガラス板21及び22は、例えば、フロート法等による成形の後、中間膜23による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0062】
ガラス板21とガラス板22とを接着する中間膜23としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0063】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0064】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。但し、中間膜23を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。又、中間膜23は、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、発光剤等の機能性粒子を含んでもよい。
【0065】
中間膜23の膜厚は、最薄部で0.3mm以上であることが好ましい。中間膜23の膜厚が0.3mm以上であるとルーフガラスとして必要な耐衝撃性が十分となる。又、中間膜23の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜23の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜23の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
【0066】
なお、中間膜23は、3層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を3層から構成し、真ん中の層の硬度を可塑剤の調整等により両側の層の硬度よりも低くすることにより、合わせガラスの遮音性を向上できる。この場合、両側の層の硬度は同じでもよいし、異なってもよい。
【0067】
又、中間膜23として調光素子25の外周部分を覆う額縁構造の中間膜を別途使用してもよい。
【0068】
中間膜23を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、ルーフガラス20のデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜23が完成する。
【0069】
合わせガラスを作製するには、ガラス板21とガラス板22との間に、中間膜23、調光素子25を挟んで積層体とする。そして、例えば、この積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。加熱条件、温度条件、積層方法は調光素子の性質に配慮して、例えば積層中に劣化しないように適宜選択される。
【0070】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラスを得ることができる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0071】
ガラス板21とガラス板22との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜23及び調光素子25の他に、発光、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有していてもよい。上記機能性フィルム及びデバイスは、ガラス板21、ガラス板22の主面上に直接形成されてもよい。
【0072】
このように、ルーフガラス20は湾曲した合わせガラスである。そして、中間膜23に封入された調光素子25には、1つ以上のスリット30が形成されている。又、スリット30は、基材251の主面251aに形成されたスリット301と、基材255の主面255aに形成されたスリット305とを有する。調光素子25に1つ以上のスリット30を形成することで、調光素子25に生じる皺を抑制できる。
【0073】
特に、スリット30と同軸上の調光素子25の幅をLpとしたときに、スリット30の長さLsが、0.3×Lp<Ls<0.95Lp、を満たすことが好ましい。この要件を満たすことで、調光素子25に生じる皺を抑制する効果が十分に得られると共に、調光素子25に給電するための導電パスが断線し難い高品質のルーフガラス20を実現できる。
【0074】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、調光素子の外縁部と接していないスリットの例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0075】
図5は、第1実施形態の変形例1に係る車両用のルーフガラスを例示する図であり、
図5(a)は平面図、
図5(b)は
図5(a)のB-B線に沿う断面図である。
【0076】
図5に示すように、ルーフガラス20Aは、スリット30がスリット30Aに置換された点が、ルーフガラス20(
図1参照)と相違する。
【0077】
調光素子25には、Y軸方向を長手方向とするスリット30Aが、調光素子25のX軸方向の略中央部に形成されている。平面視において、スリット30Aは調光素子25の各層に囲まれており、調光素子25の外縁部25Rと接していない。
【0078】
図5では、調光素子25の外縁部25Rと接していないスリット30Aが調光素子25に1つ形成されているが、これには限定されず、調光素子25の外縁部25Rと接していないスリット30Aは、調光素子25に2つ以上形成されてもよい。すなわち、調光素子25には、調光素子25の外縁部25Rと接していないスリット30Aが1つ以上形成されていればよい。又、スリット30Aは、調光素子25の外縁部25Rと接していなければ、調光素子25の任意の位置に形成してよい。
【0079】
このように、調光素子25に、調光素子25の外縁部25Rと接していない1つ以上のスリット30Aを形成することで、調光素子25に生じる皺を抑制できる。又、スリット30Aは、調光素子25の外縁部25Rから内側に向かって切り込む部分がないため、調光素子25のハンドリングが容易である。
【0080】
〈第1実施形態の変形例2〉
第1実施形態の変形例2では、調光素子を貫通しないスリットの例を示す。なお、第1実施形態の変形例2において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0081】
図6は、第1実施形態の変形例2に係る車両用のルーフガラスを例示する図(その1)であり、
図6(a)は平面図、
図6(b)は
図6(a)のC-C線に沿う断面図である。
【0082】
図6に示すように、ルーフガラス20Bは、スリット301及び305が調光層253を貫通していない点が、ルーフガラス20Aのスリット30A(
図5参照)と相違する。
【0083】
調光素子25において、基材251の主面251aにはY軸方向を長手方向とする1つのスリット301が、基材255の主面255aにはY軸方向を長手方向とする1つのスリット305が、調光素子25のX軸方向の略中央部に形成されている。
【0084】
平面視において、スリット301及び305は調光素子25の各層に囲まれており、調光素子25の外縁部25Rと接していない。但し、
図1に示すスリット30のように、スリット301及び305は、平面視で調光素子25の外縁部25Rから内側に向かって形成されてもよい。
【0085】
スリット301は基材251及び導電性薄膜252を貫通しているが、調光層253は貫通していない。又、スリット305は基材255及び導電性薄膜254を貫通しているが、調光層253は貫通していない。すなわち、調光層253には、スリットは形成されておらず、スリット301内には調光層253の一方の主面が露出し、スリット305内には調光層253の他方の主面が露出している。
【0086】
図6では、調光層253を貫通していないスリット301及び305が調光素子25に1つずつ形成されているが、これには限定されず、調光層253を貫通していないスリット301及び305は、調光素子25に2つ以上形成されてもよい。すなわち、調光素子25には、調光層253を貫通していないスリット301及び305が1つ以上形成されていればよい。又、スリット301及び305は、調光層253を貫通していなければ、調光素子25の任意の位置に形成してよい。
【0087】
調光層253を貫通していないスリット301及び305は、例えば、調光素子25の作製後に、カッティングプロッター加工機、打ち抜き加工機、レーザーカッター、はさみ、カッターナイフ、彫刻刀等を用いて形成できる。
【0088】
このように、基材251の主面251aに調光層253を貫通していない1つ以上のスリット301を形成し、基材255の主面255aに調光層253を貫通していない1つ以上のスリット305を形成してもよい。これにより、調光素子25に生じる皺を抑制できる。
【0089】
又、スリット301は基材251及び導電性薄膜252のみを切断し、スリット305は基材255及び導電性薄膜254のみを切断しているため、調光層253は切断されずに繋がっている。調光層253に途切れる領域がなく、スリット301及び305が目立たないため、調光層253を貫通するスリットを設けた場合よりも外観上好ましい。
【0090】
なお、
図7(a)に示すように、基材251の主面251aに調光層253を貫通していない1つ以上のスリット301を形成し、基材255の主面255aにはスリットを形成しなくてもよい。これにより、主に調光素子25に生じる皺を抑制できる。又、調光層253に、貫通しない程度にスリットが入っていてもよい。
【0091】
又、
図7(b)に示すように、基材255の主面255aに調光層253を貫通していない1つ以上のスリット305を形成し、基材251の主面251aにはスリットを形成しなくてもよい。これにより、主に調光素子25に生じる皺を抑制できる。又、調光層253に、貫通しない程度にスリットが入っていてもよい。
【0092】
又、
図7(c)に示すように、基材251の主面251aに調光層253を貫通していない1つ以上のスリット301を形成し、基材255の主面255aに調光層253を貫通していない1つ以上のスリット305を形成する場合、両者の位置をずらしてもよい。これにより、
図6の場合よりも、調光素子25のスリット301及び305近傍の機械的強度を向上できる。又、調光層253に、貫通しない程度にスリットが入っていてもよい。
【0093】
〈第1実施形態の変形例3〉
第1実施形態の変形例3では、調光素子を貫通しないスリットの他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例3において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0094】
図8は、第1実施形態の変形例3に係る車両用のルーフガラスを例示する図であり、
図8(a)は平面図、
図8(b)は
図8(a)のD-D線に沿う断面図である。
【0095】
図8に示すように、ルーフガラス20Cは、スリット301及び305がスリット301C及び305Cに置換された点が、ルーフガラス20B(
図6参照)と相違する。
【0096】
調光素子25において、基材251の主面251aには、Y軸方向を長手方向とする環状の1つのスリット301Cが調光素子25のX軸方向の略中央部に形成されている。又、基材255の主面255aには、Y軸方向を長手方向とする環状の1つのスリット305Cが調光素子25のX軸方向の略中央部に形成されている。
【0097】
平面視において、スリット301C及び305Cの外側は調光素子25の各層に囲まれており、調光素子25の外縁部25Rと接していない。又、スリット301C及び305Cの内側には調光素子25の各層が残存している。但し、
図1に示すスリット30のように、スリット301C及び305Cは、平面視で調光素子25の外縁部25Rから内側に向かって形成されてもよい。
【0098】
スリット301Cは基材251及び導電性薄膜252を貫通しているが、調光層253は貫通していない。又、スリット305Cは基材255及び導電性薄膜254を貫通しているが、調光層253は貫通していない。すなわち、調光層253には、スリットは形成されておらず、スリット301C内には調光層253の一方の主面が露出し、スリット305C内には調光層253の他方の主面が露出している。
【0099】
図8では、調光層253を貫通していない環状のスリット301C及び305Cが調光素子25に1つずつ形成されているが、これには限定されず、調光層253を貫通していない環状のスリット301C及び305Cは、調光素子25に2つ以上形成されてもよい。すなわち、調光素子25には、調光層253を貫通していない環状のスリット301C及び305Cが1つ以上形成されていればよい。又、環状のスリット301C及び305Cは、調光層253を貫通していなければ、調光素子25の任意の位置に形成してよい。
【0100】
調光層253を貫通していない環状のスリット301C及び305Cは、例えば、調光素子25の作製後に、カッティングプロッター加工機、打ち抜き加工機、レーザーカッター、はさみ、カッターナイフ、彫刻刀等を用いて形成できる。
【0101】
このように、基材251の主面251aに調光層253を貫通していない環状の1つ以上のスリット301Cを形成し、基材255の主面255aに調光層253を貫通していない環状の1つ以上のスリット305Cを形成してもよい。この場合にも、第1実施形態の変形例2と同様の効果を奏し、かつスリットが島状に孤立しないため合わせガラス製造時の脱気性がよい。
【0102】
〈第1実施形態の変形例4〉
第1実施形態の変形例4では、スリットの位置に遮蔽層が存在する例を示す。なお、第1実施形態の変形例4において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0103】
図9は、第1実施形態の変形例4に係る車両用のルーフガラスを例示する図であり、
図9(a)は平面図、
図9(b)は
図9(a)のE-E線に沿う断面図である。
【0104】
図9に示すように、ルーフガラス20Dは、遮蔽層24が遮蔽層24Dに置換された点が、ルーフガラス20(
図1参照)と相違する。
【0105】
遮蔽層24Dは、ルーフガラス20Dの周縁部に沿って帯状に設けられた周縁領域241と、平面視で周縁領域241から内側に突出する突出部242とを備えている。そして、スリット30は、平面視で遮蔽層Dの突出部242と重複する位置に形成されている。言い換えれば、スリット30を隠蔽するために、周縁領域241から延伸する突出部242を設けている。
【0106】
このように、スリット30を平面視で遮蔽層Dの突出部242と重複する位置に形成することで、スリット30を隠蔽できるので外観上好ましい。この際、スリット30の外縁部が、平面視でスリット30と重複する突出部242の外縁部から10mm以上離間していることが好ましく、15mm以上であることが更に好ましい。すなわち、
図9におけるスリット30の外縁部と突出部242の外縁部との距離Lbが10mm以上であることが好ましい。距離Lbが10mm以上であると、合わせガラス製造時に調光素子の位置ずれに対して許容範囲が広く、生産性が低下しないので望ましい。
【0107】
〈実施例、比較例〉
以下、実施例及び比較例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載において、例1は比較例であり、例2~例9は実施例である。
【0108】
まず、ガラス板21及び22、中間膜23、調光素子25を準備した。具体的な仕様は、次の通りである。ガラス板21及び22のサイズは、1120mm×1320mm×2mmとした。中間膜23としては、厚み0.38mmのPVBフィルム(ソルーシア・ジャパン社製)を用いた。調光素子25としては、SPDフィルム(LCF-1103DHA(商品名、日立化成社製、調光層の厚さ90μm)を用いた。調光素子25のサイズは、850mm×1100mm×0.35mmとした。
【0109】
次に、上記のガラス板21及び22、中間膜23、調光素子25を用い、例1~例9の合わせガラスを作製した。具体的には、ガラス板21とガラス板22との間に、中間膜23と調光素子25とを挟んで積層体を作製した。そして、積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着し、例1~例9の合わせガラスを作製した。なお、ガラス板21及び22の外周から100mm(調光素子25の外周から40mm)の略環状の黒セラミックによる遮蔽層を設けた。
【0110】
但し、例1では調光素子25にスリットを形成せず、例2~例9では
図10に示す短辺長さ及び長辺長さの矩形状の2つのスリットを
図1の位置に形成した。又、例1~例9において、合わせガラスのスリットと同軸上の合わせガラスの曲げ深さは、
図10の通りとした。なお、
図10に示すスリット長辺長さLsaは、2つのスリットの長辺長さの合計の値である。
【0111】
次に、例1~例9の合わせガラスについて、調光素子25の皺の発生を目視により観察し、◎、〇、×の3段階で評価した。皺の評価では、皺の発生が全く認められなかったものを◎、調光素子25の4辺のうち1辺~3辺に皺の発生が認められたものを〇、調光素子25の全ての辺に皺の発生が認められたものを×とした。評価結果を
図10に示す。
【0112】
図10に示すように、調光素子25がスリットを有することで、調光素子25に生じる皺を抑制できることが確認できた。特に、Lsa/Lp(スリット長辺長さ/スリット長辺の向きと平行な調光素子25の辺の長さ)が0.7以上であると、調光素子25に生じる皺を抑制する効果が更に高くなることが確認できた。調光素子25に生じる皺を抑制する効果は、スリットの幅には依らなかった。
【0113】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0114】
20、20A、20B、20C、20D ルーフガラス
21 ガラス板
21a、22a 面
22 ガラス板
23、231、232 中間膜
24、24D 遮蔽層
25 調光素子
25R 外縁部
30、30A、301、301C、305、305C スリット
241 周縁領域
242 突出部
251、255 基材
251a、255a 主面
252、254 導電性薄膜
253 調光層
256 調光用バスバー