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特許7472900細胞培養担体、並びにその製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】細胞培養担体、並びにその製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240416BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240416BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12N5/071
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2021507349
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011554
(87)【国際公開番号】W WO2020189645
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2019053871
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019186411
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019217131
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼沼 秀和
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 知行
(72)【発明者】
【氏名】塩野入 桃子
(72)【発明者】
【氏名】岩下 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 達哉
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 健広
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/070775(WO,A1)
【文献】特開2019-017255(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147147(WO,A1)
【文献】特開2017-121307(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養担体の製造方法であって、
ポリエチレングリコールを骨格とし、側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基又は求電子性官能基のいずれか一方の官能基を有する多分岐型ポリマーを含む第1溶液を保持させる保持工程、及び
ポリエチレングリコールを骨格とし、側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基又は求電子性官能基の他方の官能基を有する多分岐型ポリマーを含む第2溶液を前記保持された第1溶液と接触するように液滴吐出装置で吐出した液滴を着弾させてなる1以上のハイドロゲルを形成するゲル形成工程
を含み、
前記第1溶液及び/又は第2溶液は細胞作用添加物を含む細胞培養担体の製造方法。
【請求項2】
前記第1溶液が支持体上に保持される、請求項1に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項3】
前記液滴の量が9pL以上900pL以下である、請求項1又は2に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項4】
1着弾あたりで形成される前記ハイドロゲルの体積は9pL以上900pL以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項5】
前記ハイドロゲルは、全部又は一部が互いに接触していることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項6】
前記ハイドロゲルは、2つ以上のハイドロゲルの全部、及び一部が互いに重なるように積層されてなる立体構造を有する、請求項5に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル形成工程後の未反応の第1溶液及び第2溶液を除去する除去工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項8】
前記第1溶液及び第2溶液を積層して前記ハイドロゲル表面の平面性を向上させる平面形成工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項9】
前記ハイドロゲルに細胞を播種する細胞播種工程を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項10】
前記細胞播種工程を液滴吐出装置によって行う、請求項9に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項11】
細胞作用添加物を含む細胞作用ゲルを前記ハイドロゲルに積層させる細胞作用ゲル形成工程を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項12】
前記細胞作用添加物が細胞外基質タンパク質及び/又は成長因子である、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項13】
前記第1溶液、第2溶液、及び細胞作用ゲルのいずれか一以上が分散媒を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項14】
前記分散媒が細胞培養用培地である、請求項13に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項15】
前記ハイドロゲル又は前記細胞作用ゲルに、前記第1溶液を積層させる溶液積層工程、 前記積層した第1溶液と接触するように前記第2溶液を液滴吐出装置で着弾させてなる新たなハイドロゲルを積層形成させてなるゲル積層形成工程
を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項16】
前記溶液積層工程と前記ゲル積層形成工程を複数回繰り返す反復工程を含む、請求項15に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項17】
前記第1溶液、前記第2溶液、及び細胞作用ゲルのいずれか一以上が細胞を含んでいる、請求項1~16のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項18】
前記細胞を培養する培養工程を含む、請求項17に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項19】
前記第2溶液が少なくとも2種類以上の細胞を含む、請求項17又は18に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項20】
前記液滴吐出装置の液滴吐出方法がインクジェット方法である、請求項1~19のいずれか一項に記載の細胞培養担体の製造方法。
【請求項21】
多分岐型ポリマーからなる1つ以上のハイドロゲルを含んでなる細胞培養担体であって、
前記多分岐型ポリマーは、ポリエチレングリコールを骨格とし、側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基及び求電子性官能基を有し、
前記ハイドロゲルは、細胞作用添加物を含み、かつ点状、線状、及び膜状からなる群から選択される少なくとも一つの構造を有する、前記細胞培養担体。
【請求項22】
前記ハイドロゲルを支持する支持体を含む、請求項21に記載の細胞培養担体。
【請求項23】
前記ハイドロゲルの形状維持率が、前記ハイドロゲルの作製3日経過後に75%以上である、請求項21又は22に記載の細胞培養担体。
【請求項24】
同一のハイドロゲル内に同一の又は2種類以上の細胞が含まれている、請求項21~23のいずれか一項に記載の細胞培養担体。
【請求項25】
前記ハイドロゲルは、2つ以上のハイドロゲルの全部、及び一部が互いに重なるように積層されてなる立体構造を有する、請求項21~24のいずれか一項に記載の細胞培養担体。
【請求項26】
前記ハイドロゲルの体積が9pL以上900pL以下である、請求項21~25のいずれか一項に記載の細胞培養担体。
【請求項27】
前記細胞作用添加物が細胞外基質タンパク質及び/又は成長因子である、請求項21~26のいずれか一項に記載の細胞培養担体。
【請求項28】
前記ハイドロゲルが分散媒を包含する、請求項21~27のいずれか一項に記載の細胞培養担体。
【請求項29】
前記分散媒が細胞培養用培地である、請求項28に記載の細胞培養担体。
【請求項30】
細胞培養担体製造装置であって、
基板を固定するステージ手段、
側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基を有するポリエチレングリコール又は求電子性官能基を有するポリエチレングリコールのいずれか一方を骨格とする多分岐型ポリマー及び分散媒を含む第1溶液を保持する保持手段、
ステージ手段上に配置された基板に第1溶液を吐出する第1溶液吐出手段、
他方の官能基を有するポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマー及び分散媒を含む第2溶液を保持する保持手段、
ステージ手段上に配置された基板に第2溶液を吐出する第2溶液吐出手段、
前記第1及び第2溶液吐出手段において各溶液の吐出を制御する溶液吐出制御手段、
前記第1及び第2溶液吐出手段、
ステージとの相対位置を算出して各溶液の吐出位置を制御する吐出位置制御手段、及び 前記第1及び第2溶液吐出手段の吐出順序を制御する吐出順序制御手段
を少なくとも備えることを特徴とする
細胞培養担体製造装置。
【請求項31】
前記基板上に存在する未ゲル化のポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーを除去する手段をさらに有する、請求項30に記載の細胞培養担体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養担体、及びその製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞技術と組織工学の進展に伴い、近年、複数の細胞からなる組織を人工的に形成させた三次元構造体の開発が進められている。三次元構造体を形成するには細胞形成技術として細胞シート法(特許文献1)、スフェロイド積層法(特許文献2)、ゲル押し出し法(特許文献3)、インクジェット法(特許文献4)等が知られている。中でもゲル押し出し法やインクジェット法等のバイオプリンター法は、細胞を培養容器底面やゲル上に迅速に固定することができるため、三次元構造体の構築において注目されている。
【0003】
「ゲル押し出し法」は、細胞を含むゲルを連続的にノズルから押出して細胞を積層することによって三次元構造体を作製する方法である。ゲルの積層が容易な反面、細胞の配置単位が数百μm以上となるため解像度の高い細胞配置ができないという問題があった。細胞配置の解像度はノズル径に依存するため、ノズル径の減少により解像度を向上させることはできるが、逆に細胞に加わる剪断ダメージが増加してしまうという新たな問題が発生する。
【0004】
一方、「インクジェット法」は、インクジェットヘッドからの吐出によって細胞を含むインクを高精度に配置することで高解像度な三次元構造体を作製することが可能である。しかし、使用するインクがインクジェットヘッドの目詰まりを回避するために低粘度である必要がある。例えば、特許文献4では塩化カルシウム水溶液に対して細胞を含むアルギン酸ナトリウム水溶液をインクジェットで吐出することによりゲル化させたゲル三次元構造体を製造する方法が開示されている。アルギン酸ナトリウム水溶液は粘度が低く、ゲル化時間も短く設計できることから細胞の三次元配置が可能かつ容易である。しかし、特許文献4に開示のゲル三次元構造体は、液中で製造されるためスライドガラスや培養容器等の支持体にゲルが固定されておらず、作製したゲル三次元構造体の用途が制限される他、細胞配置の再現性が困難という問題があった。これに対して、例えば、特許文献5では、細胞を含むアルギン酸ナトリウム水溶液をスライドガラス上の塩化カルシウム水溶液に対して吐出することで、三次元配置された三次元構造体を有するゲルを製造する方法が開示されている。アルギン酸ナトリウム水溶液は低分子量材料で構成されており、原材料を選定することにより、粘度を低く且つ、ゲル化時間も短く設定できることから、高精度な三次元配置が可能である。しかし、アルギン酸と塩化物とのイオン架橋でゲル化することから、細胞用緩衝液又は培地に浸漬することでゲル中の塩化物が徐々に脱離されてゲルが分解し、形状維持が困難である。また、アルギン酸ゲルに内包された細胞はゲル内で長期間生存できないことが知られている。EDTA等でゲルを分解させることも考えられるが、瞬間的にゲルが分解されて細胞の配置が崩壊する上に、細胞への影響も懸念される。
【0005】
特許文献6では、ゼラチンやフィブリノーゲンを含有する液を吐出することで、ゲル三次元構造体を製造する方法が開示されている。ゼラチンやフィブリノーゲンは低濃度に調整すればインクジェットヘッドから吐出可能であるが、低濃度に調整したゼラチンやフィブリノーゲンはゲル化時間が長く、三次元に細胞を配置しても自重で細胞が沈降してしまうため、細胞を任意に配置することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5322333号
【文献】特開2017-101015
【文献】特表2014-531204
【文献】特許第4974144号
【文献】特開2019-17255
【文献】特開2017-209103
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の細胞培養担体製造方法のフロー図である。
図2】本発明の吐出手段である溶液吐出ヘッドの概略図である。
図3】第2溶液吐出ヘッドへの入力波形例である。
図4】複数の溶液吐出ヘッドを備えた本発明の細胞培養担体製造装置の概略図である。
図5】本発明の細胞培養担体製造装置により、支持体上に様々な形状で細胞培養担体を形成させた概略図である。
図6】本発明の細胞培養担体製造方法の一例を示す図である。
図7】ドット状ハイドロゲルを吐出速度を調整した溶液吐出ヘッドで連結制御して形成されたハイドロゲルの例を示す。(a)ドット状ハイドロゲル間のピッチを徐々に狭めて、連結した線状ドット状ハイドロゲルのパターニングを示す。(b)同心円周上にドットを連結して形成されたカーブ形状の線状ハイドロゲルのパターニングを示す。
図8】本発明の除去手段の一例である。
図9】積層したハイドロゲルの一例である。(a)は積層された2層全てを示したハイドロゲルの斜視図、(b)は2層中、2層目のみを示したハイドロゲルの斜視図、図9(c)は2層中、1層目のみを示したハイドロゲルの斜視図を示す。図中の各点が染色された細胞を示し、破線円が細胞包含第2溶液の液滴が400μmピッチで1滴ずつ滴下された範囲を示している。したがって、(a)で、破線円外の各点は1層目の細胞を、破線円内の各点は2層目の細胞を示している。
図10】積層したハイドロゲルの一例である。(a)は、積層された4層全てを示したハイドロゲルの断面図、(b)は4層中、2層目と4層目のみを示したハイドロゲルの断面図、(c)は4層中、1層目と3層目のみ示したハイドロゲルの断面図である。
図11】積層したハイドロゲルの一例である。(a)は、積層された10層全てを示したハイドロゲルの断面図、(b)は10層中、1層目から9層目の奇数の層を示したハイドロゲルの断面図、(c)は10層中、2層目から10層目の偶数の層を示したハイドロゲルの断面図である。
図12】積層したハイドロゲルの一例である。(a)は、積層された3層全てを示したハイドロゲルの断面図、(b)は1種目の細胞を含む3層全てを示したハイドロゲルの断面図、(c)は2種目の細胞を含む3層中、2層目のみ示したハイドロゲルの断面図である。
図13】積層したハイドロゲルの一例である。(a)は、積層された20層全てを示したハイドロゲルの断面図、(b)は20層中、1層目から19層目の奇数の層を示したハイドロゲルの断面図、(c)は20層中、2層目から20層目の偶数の層を示したハイドロゲルの断面図である。
図14】2層構造のハイドロゲルで、1層目と2層目にTetra-PEGゲルを形成・積層させた場合の模式図である。(a)は上方図であり、(b)は(a)で示す1ドットの側方図である。
図15】2層構造のハイドロゲルで、1層目にTetra-PEGゲルを、そして2層目にアルギン酸ゲルやフィブリンゲルを積層させた場合の模式図である。(a)は上方図であり、(b)は(a)で示す1ドットの側方図である。
図16】様々な条件でハイドロゲルを積層させた場合のゲル形状維持を示した図表である。ゲルの成分(PEGとアルギン酸)、吐出方法(インクジェット方法;ディスペンサ方法)、ゲル形状(ドット状;線状)、及びゲル形成後の経過時間(吐出時;3日経過後)をそれぞれ示している。XYは上方から見た図で、X及びYは、それぞれ横軸、縦軸を示す。YZは側方から見た図で、Zは奥行きを示す。
図17】細胞作用添加物として第1溶液及び第2溶液に、それぞれフィブリノーゲンとトロンビンを添加して作製した細胞培養担体の断面を示す図である。第1溶液及び第2溶液の分散媒にはPBSを用いた。図中、白い部分がハイドロゲル中に存在するフィブリンである。また、「top」は細胞培養担体の上部を、「bottom」は下部を示す。
図18】細胞作用添加物として第1溶液及び第2溶液に、それぞれトロンビンとフィブリノーゲンを添加して作製した細胞培養担体の断面を示す図である。第1溶液の分散媒にはDEMEを用いた。図中、白い部分がハイドロゲル中に存在するフィブリンである。また、「top」は細胞培養担体の上部を、「bottom」は下部を示す。
図19】ハイドロゲルにおける透過性の時間依存性(経時変化)を示す図である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、形状維持性が高いハイドロゲルにより構成される細胞培養担体の製造方法、及び細胞培養担体製造装置を開発し、それらを用いて製造される細胞培養担体からなる構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の発明を提供するに至った。
(1)ポリエチレングリコールを骨格とし、側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基又は求電子性官能基のいずれか一方の官能基を有する多分岐型ポリマーを含む第1溶液を保持させる保持工程、及びポリエチレングリコールを骨格とし、側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基又は求電子性官能基の他方の官能基を有する多分岐型ポリマーを含む第2溶液を前記第1溶液と接触するように液滴吐出装置で着弾させてなる1以上のハイドロゲルを形成するゲル形成工程を含む細胞培養担体の製造方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-053871号、2019-186411号、2019-217131号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、形状維持性が高いハイドロゲルにより構成される細胞培養担体、並びにその製造方法及び製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.細胞培養担体製造方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は、細胞培養担体の製造方法である。本発明の製造方法は、接触反応によりゲル化する、側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基を有するポリエチレングリコール又は求電子性官能基を有するポリエチレングリコールのいずれか一方を骨格とする多分岐型ポリマーと他方の官能基を有するポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーを用いて、一方のポリマーを含む溶液と接触するように他方のポリマーを含む溶液を液滴吐出装置で着弾させてゲル化させることで、厚みのある細胞培養担体を形成させる方法である。本発明の製造方法によれば、ハイドロゲルを高解像度かつ高精度に三次元配置することが可能なためハイドロゲルを細胞支持材とする再現性及び造形性の高い細胞培養担体を製造することができる。
【0012】
1-2.用語の定義
本明細書で頻用する以下の用語について定義する。
(1)ポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマー
本明細書において「ポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマー」(本明細書では、しばしば単に「多分岐型ポリマー」又は「Multi-Arm PEG」と表記する)は、ゲル化材として用いられるポリマーである。複数のポリエチレングリコール(PEG)分岐の末端に、求核性官能基と求電子性官能基をそれぞれ有する2種類のMulti-Arm PEGが、互いに架橋し合うことで、網目構造ネットワークを有するゲル(Multi-Arm PEGゲル)を形成することができる。例えば、4つのPEG分岐の末端に求核性官能基と求電子性官能基をそれぞれ有する2種類の四分岐型ポリマー(本明細書では、しばしば「Tetra-PEG」と表記する)の場合であれば、均一な網目構造ネットワークを有する「Tetra-PEGゲル」と称されるゲルを形成できる。多分岐型ポリマーの分岐数は特に限定はされない。通常は求電子末端と求核末端を含む3分岐以上のPEGであれば問題はなく、必要に応じて適宜選択することができる。求核性官能基と求電子性官能基をそれぞれ有していれば、Multi-Arm PEGを構成する2以上のPEGは、それぞれ異なる分岐数を有していてもよい。
【0013】
限定はしないが、Multi-Arm PEGの中でも、Tetra-PEGゲルは、理想的な均一網目構造を有することが報告されている(Matsunagaら, Macromolecules, Vol.42, No.4, pp.1344-1351, 2009)。また、Tetra-PEGゲルは、2種類のTetra-PEG(本発明の第1溶液及び第2溶液に含まれる)の単純な混合によって、その場で簡便かつ短時間で形成可能であり、さらに各Tetra-PEGのpHや濃度を調節することで、ゲル化時間を制御することもできる。加えて、PEGを主成分とするため、生体適合性にも優れている。細胞とTetra-PEGを含む溶液を液滴吐出装置で吐出し、2種類のTetra-PEGを反応させて、Tetra-PEGゲルを造形することで、細胞を三次元に配置することが可能になる。
【0014】
本発明のTetra-PEGは、一実施形態として、以下の一般式(I)で表される構造を有する化合物である。
【0015】
【化1】
【0016】
上記式(I)中のmは、それぞれ同一でも又は異なってもよい。mの値が近いほど 均一な立体構造をとることができ、ゲルが高強度となる。このため、高強度のゲルを得るためには、同一であることが好ましい。mの値が高すぎるとゲルの強度が弱くなり、各mの値が低すぎると化合物の立体障害によりゲルが形成されにくい。そのため、各mは、25~250の整数値が挙げられ、35~180が好ましく、50~115がさらに好ましく、50~60が特に好ましい。そして、その分子量としては、5×103~5×104 Daが挙げられ、7.5×103~3×104 Daが好ましく、1×104~2×104 Daがより好ましい。
【0017】
上記式(I)中、X1は、官能基とコア部分を繋ぐリンカー部位である。各X1は、それぞれ同一でも異なってもよいが、均一な立体構造を有する高強度なゲルを製造するためには同一であることが好ましい。X1は、C1-C7アルキレン基、C2-C7アルケニレン基、-NH-Ra-、-CO-Ra-、-Rb-O-Rc-、-Rb-NH-Rc-、-Rb-CO2-Rc-、-Rb-CO2-NH-Rc-、-Rb-CO-Rc-、又は-Rb-CO-NH-Rc-を示す。ここで、RaはC1-C7アルキレン基を示し、RbはC1-C3アルキレン基を示し、RcはC1-C5アルキレン基を示す。
【0018】
「C1-C7アルキレン基」とは、分岐を有してもよい炭素数が1以上7以下のアルキレン基であって、直鎖C1-C7アルキレン基、又は1又は2以上の分岐を有するC2-C7アルキレン基(分岐を含めた炭素数が2以上7以下)を含む。C1-C7アルキレン基の例は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基である。C1-C7アルキレン基の例は、-CH2-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-CH(CH3)-、-(CH(CH3))2-、-(CH2)2-CH(CH3)-、-(CH2)3-CH(CH3)-、-(CH2)2-CH(C2H5)-、-(CH2)6-、-(CH2)2-C(C2H5)2-、及び-(CH2)3C(CH3)2CH2-等が挙げられる。
【0019】
「C2-C7アルケニレン基」とは、鎖中に1個若しくは2個以上の二重結合を有する直鎖状又は分枝鎖状の炭素原子数2~7個のアルケニレン基である。例えば、アルキレン基から隣り合った炭素原子の水素原子の2~5個を除いてできる二重結合を有する2価基が挙げられる。
【0020】
上記式(I)中、Y1は、上述のように、共有結合による架橋反応であるクロスエンドカップリング反応によって網目構造ネットワークを形成させるための官能基であって、求核性官能基又は求電子性官能基から選択される。
【0021】
「求核性官能基」には、限定はしないが、例えば、ゲル化時間を短くできるチオール基が好ましい。当該官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、架橋反応の対象となる求核性官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。本明細書では求核性官能基を有するTetra-PEGを「求核性Tetra-PEG」と表記する。
【0022】
「求電子性官能基」には、限定はしないが、例えば、ゲル化時間を短くできるマレイミジル基が好ましい。当該官能基は、それぞれ同一であっても、異なってもよいが、同一である方が好ましい。官能基が同一であることによって、架橋反応の対象となる求核性官能基との反応性が均一になり、均一な立体構造を有する高強度のゲルを得やすくなる。本明細書では求電子性官能基を有するTetra-PEGを「求電子性Tetra-PEG」と表記する。
【0023】
求核性官能基と求電子性官能基のモル比は、0.5:1~1.5:1となるように求核性Tetra-PEGと求電子性Tetra-PEGを混合すればよい。当該官能基はそれぞれ1:1で反応して架橋し得るので、混合モル比は1:1に近いほど好ましいが、高い強度のハイドロゲルを形成させるには0.8:1~1.2:1が好ましい。また、第1又は第2溶液中の分散媒のpHが5~10のとき各溶液に含有されるTetra-PEGの濃度は0.3~20%の範囲であればよく、pH6~10のときは1.7~20%の範囲が好ましい。
【0024】
本発明では、第1溶液が求核性Tetra-PEG又は求電子性Tetra-PEGのいずれか一方のTetra-PEGで構成され、第2溶液が他方のTetra-PEGで構成されていてもよい。
【0025】
(2)第1溶液
「第1溶液」とは、少なくとも側鎖及び/又は末端に1以上の、求核性官能基を有するポリエチレングリコール又は求電子性官能基を有するポリエチレングリコールのいずれか一方を骨格とする多分岐型ポリマー、及び分散媒を構成要素として包含する水溶液であって必要に応じて細胞や細胞作用添加物を含むことができる。
【0026】
本発明の製造方法において、第1溶液は複数種存在してもよい。その場合、各第1溶液に含まれる側鎖及び/又は末端に1以上の、求核性官能基を有するポリエチレングリコール又は求電子性官能基を有するポリエチレングリコールのいずれか一方を骨格とする多分岐型ポリマー、分散媒、細胞、及び細胞作用添加物は、その全部又は一部が異なっていてもよい。例えば、第1溶液aに含まれる分散媒と第1溶液bに含まれる分散媒は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。第1溶液が複数種存在する場合、例えば、ハイドロゲルを積層形成させる際に、各層において分散媒を任意に変更することができる。
【0027】
(3)第2溶液
「第2溶液」とは、ポリエチレングリコールを骨格とし、その側鎖及び/又は末端に1以上の第1溶液とは異なる方の官能基(求核性官能基又は求電子性官能基)を有する多分岐型ポリマー、及び分散媒を必須の構成要素として包含する水溶液であって、必要に応じて、細胞や細胞作用添加物を含むことができる。本明細書では、実施例で示した、細胞を含む第2溶液をしばしば「細胞含有第2溶液」と表記する。
【0028】
本発明の製造方法において、第2溶液は複数種存在してもよい。その場合、各第2溶液に含まれる側鎖及び/又は末端に1以上の求核性官能基又は求電子性官能基を有するポリエチレングリコールを骨格とする第1溶液とは異なる官能基の多分岐型ポリマー、分散媒、細胞、及び細胞作用添加物は、その全部又は一部が異なっていてもよい。例えば、第2溶液aに含まれる細胞と第2溶液bに含まれる細胞は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。第2溶液が複数種存在する場合、例えば、後述するゲル形成工程(S0102)又はゲル積層形成工程(S0108)に、着弾させる第2溶液中の細胞種を任意に変更することができる。
【0029】
(4)ハイドロゲル
「ハイドロゲル」とは、三次元網目構造を有し、その網目構造の空間内部に多量の水を保持するゲルをいい、含水ゲルとも呼ばれる。例えば、寒天のような多糖類ゲルやゼリーのようなタンパク質ゲル、及びアクリル酸重合体のような高吸水性高分子ゲルなどは、その好例である。一般に、ハイドロゲルは、包含する水を介して様々な物質をゲル内に取り込ませることができる。本明細書におけるハイドロゲルは、第1及び/又は第2溶液にそれぞれ含まれるポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマー同士の架橋反応により形成される。また、本明細書のハイドロゲルには細胞を含むものと含まないものがある。本明細書では、細胞を含むハイドロゲルをしばしば「細胞含有ハイドロゲル」と表記し、また細胞を含まないハイドロゲルをしばしば「無細胞ハイドロゲル」と表記する。
【0030】
(5)細胞培養担体
本明細書において「細胞培養担体」とは、ハイドロゲルを主成分とし、包含する細胞を三次元的に培養することができる担体をいう。細胞培養担体は、ハイドロゲルに加え、細胞作用ゲル等の他成分を含むこともできる。本明細書における細胞培養担体の形状やサイズについての限定はない。形状は、三次元構造体であっても、また二次元構造体であってもよい。三次元構造体の場合、立方形、略立方形、円柱形、略立方形、円錐形、略円錐形、球形、紡錘形、不定形、組織や器官を模した形状、又はそれらの組み合わせ等、いずれの形状であってもよく、二次元構造体の場合にも、多角形、略多角形、円形、略円形、楕円形、略楕円形、不定形、又はそれらの組み合わせ等、いずれの形状であってもよい。
【0031】
(6)細胞作用ゲル
本明細書において「細胞作用ゲル」とは、前述のハイドロゲルに包含される多分岐型ポリマーに代えて、細胞作用添加物を含むゲルをいう。
【0032】
(7)細胞
本明細書において「細胞」は、本発明の細胞培養担体に包含され得る構成成分の一つである。本明細書で使用する細胞の種類については特に制限はなく、目的に応じて適宜任意の種類の細胞を選択することができる。
【0033】
細胞は、分類学的に、例えば、真核細胞、及び原核細胞、又は多細胞生物細胞、及び単細胞生物細胞に分類できるが、本明細書に記載の発明では、いずれの細胞も使用することができる。
【0034】
「真核細胞」には、例えば、動物細胞(脊椎動物細胞、節足動物細胞を含む)、植物細胞、真菌細胞等が挙げられる。これらは、同一種の細胞を単独で使用してもよく、2種以上の異なる細胞を併用してもよい。好ましくは動物細胞であり、脊椎動物細胞がより好ましく、哺乳動物細胞はさらに好ましい。細胞に細胞集合体を形成させる場合、接着性細胞のように、細胞どうしが互いに細胞間接着により強固に結合し、物理化学的な処理を行わなければ容易に単離しない細胞接着性を有する細胞がより好ましい。
【0035】
接着性細胞には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、分化細胞、未分化細胞等が挙げられる。
【0036】
分化細胞には、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、星細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞、類道内皮細胞や角膜内皮細胞等の内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞等の表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞等の上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞等の筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞等の神経細胞、軟骨細胞、骨細胞などが挙げられる。
【0037】
分化細胞は、個体、器官、又は組織から直接採取した初代培養細胞でもよく、又はそれらを何世代か継代させた継代培養細胞でもよい。
【0038】
未分化の細胞は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や間葉系幹細胞(MCS細胞)等の多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞等の単能性幹細胞、及びiPS細胞等が挙げられる。
【0039】
「原核細胞」としては、例えば、真正細菌由来の細胞、古細菌由来の細胞等が挙げられる。
【0040】
細胞は、第1溶液、第2溶液、及び細胞作用ゲルのいずれか一つ、又は二つ以上に包含され得る。いずれに含まれる場合も、調製時における環境温度は、4~40℃の範囲とし、15~37℃の範囲が特に好ましい。37℃を超えても細胞は直ちに死滅しないが、37℃を著しく超えたり、37℃強であっても長時間曝されると、熱による細胞へのダメージが懸念される。また、環境温度が4℃を下回った場合、細胞の高温側に比べ生死への影響は小さいものの細胞の活性が低下する傾向がみられる。
【0041】
(8)分散媒
「分散媒」とは、第1溶液、第2溶液、又は細胞作用ゲル等において、それらに含まれる細胞や細胞作用添加物を分散又は溶解させる媒質である。細胞を分散可能な、又は細胞作用添加物を分散又は溶解できる媒質であれば特に限定されない。例えば、後述する緩衝液や細胞培養用培地は好適であり、特に細胞培養用培地は好ましい。また、第1溶液、第2溶液、及び細胞作用ゲル等に含まれる分散媒は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、細胞培養用培地は、細胞を含む溶液やゲルの分散媒として用いてもよいし、細胞を含まない溶液やゲルに用いてもよい。
【0042】
(9)緩衝液
「緩衝液」は、細胞や目的に合わせpHを調整されたものであり、公知のものを適宜選択して良い。例えば、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBS(-)と表記する)、HEPESバッファ、NaHCO3/CO2バッファ等が挙げられる。
【0043】
(10)細胞培養用培地
「細胞培養用培地」(本明細書では、しばしば単に「培地」と表記する)は、細胞の維持と組織体の形成に必要な成分を少なくとも含み、本明細書では、細胞培養用培地は、第1又は第2溶液に包含される他に、形成後の細胞培養担体における細胞の維持や組織体の形成用、又は細胞培養担体の洗浄用にも使用される。
【0044】
一般に培地は、組成により天然培地、半合成培地、合成培地等に分類される他、形状又は状態により半固形培地、液体培地、粉末培地(以下、「粉培地」とも表記する)等の形状により分類されるが、本明細書で使用する培地の種類は、使用する細胞に必要な成分を含んでいれば、いずれであってもよく、特に制限はない。
【0045】
溶液又はゲルに包含される細胞種、及び細胞培養担体の使用目的に応じて、当該分野で公知のものを適宜選択すればよい。例えばダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham's Nutrient Mixture F12)、D-MEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy's 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle's Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle's Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640(Roswell Park Memorial Institute-1640)培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer's培地、M199培地、高性能改良199培地(Hight Performance Medium 199)、StemPro34(Thermo Fisher Scientific社製)、X-VIVO 10(Chembrex社製)、X-VIVO 15(Chembrex社製)、HPGM(Chembrex社製)、StemSpan H3000(STEMCELL Technologies社製)、StemSpanSFEM(STEMCELL Technologies社製)、StemlineII(Sigma-Aldrich社製)、QBSF-60(Quality Biological社製)、StemProhESCSFM(Thermo Fisher Scientific社製)、Essential8(登録商標)培地(Thermo Fisher Scientific社製)、mTeSR1又はmTeSR2培地(STEMCELL Technologies社製)、ReproFF又はReproFF2(Reprocell社製)、PSGro hESC/iPSC培地(System Biosciences社製)、NutriStem(登録商標)培地(Biological Industries社製)、CSTI-7培地(細胞科学研究所社製)、MesenPRO RS培地(Thermo Fisher Scientific社製)、MF-Medium(登録商標)間葉系幹細胞増殖培地(東洋紡株式会社製)、Sf-900II(Thermo Fisher Scientific社製)、Opti-Pro(Thermo Fisher Scientific社製)等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特にDMEM/F12培地の場合、その混合比率は特に制限されないが、構成成分の重量濃度比でDMEMとF12を6:4~4:6の範囲で混合するのが好ましい。各培地の具体的な組成については、当該分野で公知であり、適当な文献(例えば、Kaech S. and Banker G., 2006, Nat. Protoc., 1(5): 2406-15)に記載の組成に基づいて調製すればよい。また、各メーカーが市販する培地については、購入により入手できる。細胞培養中の培地中の二酸化炭素濃度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。通常は、2%以上5%以下が好ましく、3%以上4%以下がより好ましい。
【0046】
(11)細胞作用添加物
本明細書において「細胞作用添加物」とは、細胞に直接的に、又は間接的に作用する物質である。その作用や性質には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、フィブリン等の細胞外基質タンパク質や神経成長因子などの成長因子を細胞の接着や増殖、分化を促すために用いても良い。これらは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて併用してもよい。細胞作用添加物を細胞作用ゲルのゲル構成成分とする場合、細胞作用添加物は細胞外基質タンパク質等のゲル化する性質を有する物質が好ましい。例えば、前述の細胞外基質タンパク質は好適である。
【0047】
(12)支持体
「支持体」とは、第1溶液を保持する部材である。支持体の材質、細胞の活性や増殖を阻害しないものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。好ましくは細胞が固着可能な材質、又は細胞接着性材料が吸着しやすい材質である。
【0048】
支持体は、有機材料、無機材料に大別できる。有機材料には、例えば、合成樹脂、シリコーン系材料、天然樹脂、セルロース構造体(木材、紙等)、キチン質構造体、天然繊維(絹、毛、木綿、海綿質繊維等)等が挙げられる。また、基板上等に固着した細胞層も有機材料系の支持体となり得る。合成樹脂には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、TAC(トリアセチルセルロース)、ポリイミド(PI)、ナイロン(Ny)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、又はウレタンアクリレート等のアクリル系材料等が、また、シリコーン系材料には、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)等が含まれる。無機材料には、例えば、ガラス(グラスファイバーを含む)、陶器(セラミックス、ホーロー等)、金属、炭素繊維、リン酸カルシウム構造体(骨、歯、貝殻等)等が挙げられる。
【0049】
上記材料は、単独で使用してもよく、2種以上の、有機材料、無機又は有機材料と無機材料を組み合わせて併用してもよい。例えば、炭素繊維若しくはグラスファイバーと合成樹脂とを組み合わせた繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。
【0050】
支持体の大きさについては特に制限はない。目的に応じて適宜選択することができる。支持体の形状については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、ディッシュ、マルチプレート、フラスコ、メンブレン、セルインサート等の立体形状であってもよいし、ガラスプレート、スライドグラス、カバーグラス等の平板状又は平膜状であってもよい。
【0051】
支持体の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多孔質構造、メッシュ構造、凹凸構造、ハニカム構造などが挙げられる。多孔質構造、メッシュ構造等は、多量の溶液を保持することができるため、支持体として特に好ましい。
【0052】
1-3.製造方法
本発明の製造方法における工程フローを図1に、また製造工程における一例の概念図を図6に示す。
【0053】
図1で示すように、本発明の製造方法は、必須工程として、保持工程(S0101)、ゲル形成工程(S0102)を、また選択工程として、除去工程(S0103)、平面形成工程(S0104)、細胞播種工程(S0105)、細胞作用ゲル形成工程(S0106)、溶液積層工程(S0107)、ゲル積層形成工程(S0108)、反復工程(S0109)、及び培養工程(S0110)を含む。
【0054】
また、図6において、(a)~(d)は、支持体(0601)上に細胞(0607)を含むハイドロゲル(0606)が形成されるまでを時系列で示している。(a)は支持体(0601)のみを示し、(b)は支持体(0601)が第1溶液(0602)を保持した状態を示し、本発明の製造方法における保持工程(S0101)後に相当する。(c)は第2溶液吐出ヘッド(0603)から細胞を含む第2溶液(0604)を液滴(0605)で(b)の支持体(0601)に吐出し、支持体状に着弾させる状態を示し、(d)は第2溶液の着弾によって支持体(0601)上に、ハイドロゲル(0606)が形成された状態を示し、本発明のゲル形成工程(S0102)に相当する。
【0055】
本発明の製造方法における各工程について、以下で具体的に説明をする。
【0056】
(1)保持工程
「保持工程」(S0101)は、第1溶液を保持させる工程である。保持させる場所は限定しない。例えば、支持体上やハイドロゲル上であればよい。第1溶液を保持させる方法も特に制限はない。例えば、第1溶液中に支持体を浸漬する等により、第1溶液を支持体に含浸させて、その表面全体及び/又は内部に第1溶液を保持させても良いし、次工程で詳述するインクジェット法等の液滴吐出装置による吐出方法で第1溶液を吐出して、支持体表面やハイドロゲル表面の特定の位置に第1溶液を固着保持させても良い。また、前述のように細胞層を支持体として用いて第1溶液を保持させても良い。
【0057】
細胞層を支持体として用いる場合、第1溶液保持時の支持体上の細胞密度に特に制限はなく、細胞培養担体の用途又は目的に応じて適宜決定できる。例えば、1000cells/cm2以上、1500cells/cm2以上、2000cells/cm2以上、2500cells/cm2以上、又は3000cells/cm2以上で、10000cells/cm2以下、9500cells/cm2以下、9000cells/cm2以下、8500cells/cm2以下、8000cells/cm2以下、7500cells/cm2以下、又は7000cells/cm2以下の範囲が挙げられる。
【0058】
(2)ゲル形成工程
「ゲル形成工程」(S0103)とは、保持工程(S0101)において保持された第1溶液と接触するように第2溶液を液滴吐出装置で着弾させることで、第1溶液と第2溶液が混合することにより、それぞれに含まれるポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーが反応して、ハイドロゲルが形成される工程である。
【0059】
「接触するように」とは、第1溶液と第2溶液が接触を介して混合させることを意味する。
【0060】
「液滴吐出装置」とは、液室中に収納された溶液を液滴にして射出し、対象部位に着弾させる手段である。吐出装置の吐出方法としてはインクジェット法、ゲル押し出し法のディスペンサ法などが挙げられる。インクジェット法では、溶液が吐出孔(ノズル)から射出される。吐出方法は、吐出孔からの微小な溶液(液滴と称すことがある)を吐出することが可能なため、高精度な三次元構造体を作製することができる。この際、液的吐出装置より吐出される液滴には、細胞を含んでも含まなくてもよい。
【0061】
吐出される液滴の量は、任意の液量とすることができる。好ましくは、9pL以上、15pL以上、20pL以上、30pL以上、40pL以上、50以上、60pL以上、70pL以上、80pL以上、90pL以上、又は100pL以上、そして900pL以下、800pL以下、700pL以下、600pL以下、500pL以下、400pL以下、300pL以下である。
【0062】
「着弾」とは、図6(c)で示すように、溶液を標的部位に接触させることをいう。これは、吐出方法により標的部位に対して液滴を吐出することで達成される。
【0063】
第2溶液が細胞を含む場合、細胞の含有量は、5×105cell/mL~1×108cell/mLが好ましく、1×106cell/mL~5×107cell/mLはより好ましい。この含有量よりも細胞密度が低いと適切な細胞数を含むハイドロゲルが形成しづらく、また逆に高いとインクジェット法等の吐出方法による溶液吐出が困難になる。
【0064】
溶液を吐出する位置は、特に制限はしない。所望の標的位置に溶液が着弾するように吐出すればよい。また、それぞれの着弾部位は離れていてもよいし、一部が接触又は重なっていてもよい。
【0065】
ゲル形成は、求核性官能基と求電子性官能基を有するポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーの反応によるため、第2溶液が第1溶液に着弾することでハイドロゲルが形成される。第2溶液を液滴吐出装置で吐出させた場合、1度の着弾で、ハイドロゲルは、限定はしないが、通常、ドット状ハイドロゲルとして形成され得る。本明細書において「ドット(形)状」とは、点状の形状を言う。したがって、真円形状や半球形状に限られず、略円形状や略半球形状の他、多角形状、略多角形状、不定形、又はそれらの組み合わせ等、いずれの形状であってもよい。また、ドット(形)状は、三次元構造的には、所定の長さと厚みを有していればよい。第2溶液が複数回吐出される場合は、ドット状ハイドロゲルを最小単位とする多彩な形状のハイドロゲルが形成される。
【0066】
1回の着弾による架橋反応で形成されるハイドロゲル、すなわちドット状ハイドロゲルの体積は、第2溶液の同一箇所への吐出回数に依存する。また、吐出孔径が大きいほど、同一箇所への吐出回数が増えるほどドット状ハイドロゲルの体積は大きくなる。したがって、同一箇所への吐出回数、吐出孔径を変えることで、ドット状ハイドロゲルの体積を調製することができる。限定はしないが、本明細書におけるドット状ハイドロゲルの体積は、9pL以上、15pL以上、20pL以上、30pL以上、40pL以上、50以上、60pL以上、70pL以上、80pL以上、90pL以上、又は100pL以上、そして900pL以下、800pL以下、700pL以下、600pL以下、500pL以下、400pL以下、300pL以下が好ましい。ドット状ハイドロゲルの直径は、限定はしないが、10μm以上300μm以下、厚さは5μm以上150μM以下の範囲であればよい。
【0067】
本工程では、1度の工程で第2溶液が任意回数吐出されるため、複数個のドット状ハイドロゲルが形成されることがある。ドット状ハイドロゲルは、全部又は一部が接触していてもよい。複数のドット状ハイドロゲルが連なって配置されることで、点状のみならず、任意形状のハイドロゲルを形成できる。形状は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、1軸方向にドットを並べることで、線状ハイドロゲルを形成することができる。また、線状ハイドロゲルを隙間なく同一平面状に並べることで膜状(面状)ハイドロゲルを形成することもできる。ドット状ハイドロゲル同士の融合や隔離を制御することで、線状や膜状のハイドロゲルになると、各ドット状ハイドロゲル中に含まれる細胞の移動、伸展を制御、抑制することができる。更に、膜状ハイドロゲルを形成することにより、ゲルを容易に積層できるようになる。
【0068】
また、溶液に細胞を含有させた場合、ドット状ハイドロゲル内に含まれる細胞の数は含有させた濃度に依存するため、ドット状ハイドロゲルを形成する回数で細胞密度を制御することができる。
【0069】
(3)除去工程
「除去工程」(S0103)は、後述する溶液積層工程(S0106)前に、前記ゲル形成工程(S0103)後、例えば、支持体上やハイドロゲル上に存在する未反応、すなわち未架橋の前記多分岐型ポリマーを除去する工程である。本工程は、選択工程(S0111)であり、必要に応じて行えばよい。
【0070】
除去方法は、特に制限はしない。形成されたハイドロゲルに物理的、生物学的、又は化学的影響を与えない方法であれば、公知のいかなる除去方法を使用することもできる。通常行われる簡便な除去方法は、支持体又はハイドロゲルを適当な洗浄液で洗浄する方法である。
【0071】
洗浄方法で使用する洗浄液は、ハイドロゲル及び細胞に影響を与えない溶液であれば、特に制限はない。pH、浸透圧等を考慮して、適宜定めればよい。好ましくは緩衝液又は培地などがあげられる。
【0072】
洗浄方法は、支持体又はハイドロゲル上に洗浄液を掛け流してもよく、ハイドロゲルに対する物理的なダメージを軽減するために洗浄液中に浸漬する方法でもよい。洗浄は1度の工程で複数回行ってもよい。
【0073】
(4)平面形成工程
「平面形成工程」(S0104)は、ゲル形成工程(S0102)又は後述のゲル積層形成工程(S0108)で形成されたハイドロゲル、及び/又は支持体、又は後述する細胞作用ゲル形成工程(S0106)で形成された細胞作用ゲルに第1溶液及び第2溶液を積層してハイドロゲル層を形成させる工程である。本工程は、選択工程(S0112)であり、必要に応じて行えばよい。
【0074】
ゲル形成工程(S0102)又はゲル積層形成工程(S0108)で形成されるハイドロゲル、又は細胞作用ゲル形成工程(S0106)で形成された細胞作用ゲルは、構成単位のドット状ハイドロゲル又はドット状細胞作用ゲルが任意の厚さを有することから、それらのゲルとその周辺部とで高低差が生じ得る。本工程では、ハイドロゲルをドット状ハイドロゲル又は細胞作用ゲルの周辺に充填することで、それらのゲルと周辺部との高低差を軽減する。またゲルを積層する場合、積層基盤となる直下のゲル層の平面性を向上させることを目的とする。また層間での混合がなくなり、隣接する層での細胞や材料のコンタミがなくなる。
【0075】
本工程の基本操作は、保持工程(S0101)、ゲル形成工程(S0102)と同じでよい。ただし、本工程で使用する第1溶液及び第2溶液には細胞を含んでも含まなくてもよい。
【0076】
(5)細胞播種工程
「細胞播種工程」(S0104)は、形成されたハイドロゲル上に細胞を播種する工程である。本工程は、選択工程(S0113)であり、必要に応じて実施すればよい。また、本工程と、前記除去工程(S0103)及び前記平面形成工程(S0105)は、前記ゲル形成工程(S0102)後に行う限り、その順序は問わない。前記除去工程(S0103)及び前記平面形成工程(S0105)後に細胞播種工程(S0104)を行ってもよいし、細胞播種工程(S0104)後に前記除去工程(S0103)及び前記平面形成工程(S0105)を行ってもよい。
【0077】
本製造方法で作製されるハイドロゲルは、必要に応じて細胞作用添加物を含む。細胞作用添加物を含んだハイドロゲルに対して細胞を播種することで、ハイドロゲルに細胞を接着させることができる。また、後述する細胞作用ゲルに対して播種することで、ゲル外への細胞パターニングを行うことができる。
【0078】
細胞播種方法は特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記液滴吐出装置を用いて、細胞を含む溶液を吐出して、ハイドロゲル上の、又は細胞作用ゲル上の特定の位置に細胞を固着保持させる方法が挙げられる。このとき溶液あたりの細胞の含有量は、5×105cell/mL~1×108cell/mLが好ましく、1×106cell/mL~5×107cell/mLはより好ましい。
【0079】
(6)細胞作用ゲル形成工程
「細胞作用ゲル形成工程」(S0106)は、支持体上又は前記ハイドロゲル上に細胞作用ゲルを積層させる工程である。本工程は、選択工程(S0114)であり、必要に応じて実施すればよい。細胞作用ゲルは、多分岐型ポリマーに代えて、主要なゲル構成成分として細胞作用添加物を含む。その他にも、前記多分岐型ポリマー以外の様々な構成成分を含み得る。例えば、分散媒、細胞、又はその組み合わせを包含していてもよい。
【0080】
本工程は、前記ゲル形成工程(S0102)後に行うことができる。好ましくは平面形成工程(S0105)、又は細胞播種工程(S0104)後である。
【0081】
細胞作用ゲル形成工程(S0106)におけるゲル形成方法は、限定はしないが、液滴吐出装置で細胞作用ゲルを吐出させる方法が好ましい。この場合、具体的な方法は、前述のゲル形成工程(S0102)に準ずる。1回の吐出によって形成される細胞作用ゲルは、ドット状ハイドロゲルと同様にドット形状を呈し得る。本明細書では、そのような細胞作用ゲルを「ドット状細胞作用ゲル」と表記する。
【0082】
(7)溶液積層工程
「溶液積層工程」(S0107)とは、形成されたハイドロゲル上又は細胞作用ゲル上に、再度第1溶液を積層させる工程である。本工程は、選択工程(S0115)であるが、ハイドロゲルを積層形成する場合には、必須工程となる。
【0083】
本工程、後述するゲル積層形成工程(S0108)は、既に形成されたハイドロゲル層の上に新たなハイドロゲルを積層させることを目的とする。
【0084】
本工程の基本操作は、保持工程(S0101)に準ずる。本工程では、形成された全部又は一部のハイドロゲル上又は細胞作用ゲル上に第1溶液が保持されるように、第1溶液を積層すればよい。この時、例えば、ハイドロゲルの形成されていない支持体上に再度第1溶液を保持させてもよい。
【0085】
ハイドロゲルを保持させる方法は、特に制限はなく、公知の方法を目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前述の第1溶液を保持させる方法と同様に、ハイドロゲルが形成された支持体を第1溶液に浸漬することで、ハイドロゲルの表面に第1溶液を含浸させる方法や、液滴吐出装置で第1溶液を吐出して、ハイドロゲル上の特定の位置に第1溶液を固着保持させる方法などが挙げられる。
【0086】
本工程で使用する第1溶液は、本発明の製造方法において、当該工程前に使用した第1溶液と同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、既に形成されたハイドロゲルで使用した分散媒と異なる種類の分散媒を含んでいてもよい。
【0087】
(8)ゲル積層形成工程
「ゲル積層形成工程」(S0108)とは、溶液積層工程(S0107)でハイドロゲル上又は細胞作用ゲル上に積層された第1溶液と接触するように第2溶液を吐出して着弾させることで、ハイドロゲル上又は細胞作用ゲル上に新たなハイドロゲルを積層形成させる工程である。本工程は、選択工程であるが、ハイドロゲルを積層形成する場合には必須工程となる。
【0088】
本工程は、ゲル形成工程(S0102)に準ずる。本工程では、第2溶液を吐出する位置は、特に制限はない。吐出される第2溶液の少なくとも一部が、ハイドロゲル上又は細胞作用ゲル上の全部、及び一部に着弾するようにすればよい。吐出回数を複数回行った場合、ゲル形成工程(S0102)と同様、ハイドロゲル上又は細胞作用ゲル上で形成される各ドット状ハイドロゲルは、その全部又は一部が接触していてもよい。ハイドロゲル細胞組成物上で複数のドット状ハイドロゲルが連なって配置されることで、厚みのある複層ハイドロゲルを形成できる。
【0089】
本工程で使用する第2溶液は、本発明の製造方法において、当該工程前に使用した第2溶液と同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、既に形成されたハイドロゲルで使用した細胞と異なる種類の細胞を含んでいてもよい。
【0090】
(9)反復工程
「反復工程」(S0109)は、前述の除去工程(S0103)からゲル積層形成工程(S0108)までを複数回繰り返す工程である。本工程は、選択工程(S0116)であるが、十分な高さを有する立体形状のハイドロゲルを形成する場合には、実施することが好ましい。
【0091】
本工程の実施では、必要に応じて除去工程(S0103)及び細胞播種工程(S0105)及び平面形成工程(S0104)を実施することができる。
【0092】
本工程は、多層化したハイドロゲルの形成を目的とする。本工程によって、立体的(三次元的)ハイドロゲルを作製することができる。
【0093】
(10)培養工程
「培養工程」(S0110)は、形成されたハイドロゲルに含まれる、及び/又はハイドロゲル及び/又は細胞作用ゲルに接触している細胞を培養する培養工程である。本工程は、選択工程(S0117)であり、必要に応じて実施すればよい。
【0094】
本製造方法で作製されるハイドロゲルは、目的に応じて任意にゲル中に生きた細胞を含む。ハイドロゲルが分散媒として培地を包含する場合、ゲル内の細胞を一定期間維持することができる。しかし、ハイドロゲルを保存する場合やゲル内の細胞を成育又は伸展させる場合、細胞をゲル内で長期にわたって維持する必要がある。この場合、細胞への追加の栄養供給、ガス交換、及び老廃物除去等の管理などが必要となる。この問題は、本工程で本発明の製造方法により形成されたハイドロゲルに含まれる及び/又は接触している細胞を培養することで達成することができる。細胞の培養方法は、ハイドロゲルに含まれる及び/又は接触している細胞を培養可能な方法であれば限定はしない。例えば、ハイドロゲルを培地に浸漬して培養する方法が挙げられる。
【0095】
培地は「1-2.用語の定義」に記載した当該分野で公知の培地を目的や細胞の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0096】
培養方法は、通常の細胞培養方法に準じて行えばよく、特に制限はない。例えば、培地を入れた培養槽にハイドロゲルを浸漬し、37℃、5体積%CO2の環境下で培養してもよい。また、培地は細胞の増殖状況等に応じて、数日間隔で適宜交換してもよく、各細胞に十分な酸素と栄養を供給するため、培地を流動させてもよい。培地の流動は、撹拌子や撹拌棒を用いた撹拌、培養槽の振盪、ぺリスターポンプ等を用いた送液などにより実施することができる。ただし、流水圧等によってハイドロゲルを物理的に破壊しないように、培地の流動は穏やかに行うことが望ましい。
【0097】
培養期間は、特に制限しない。必要に応じて適切な期間培養すればよい。通常は、1日~30日で足りる。1日~7日が好ましい。
【0098】
2.細胞培養担体
2-1.概要
本発明の第2の態様は、細胞培養担体である。本発明の細胞培養担体は、多分岐型ポリマーからなるハイドロゲルで構成され、点状、線状、膜状、又は立体形状等の任意の形状を形成し得る。本発明の細胞培養担体によれば造形再現性や形状維持性が高い三次元構造体を提供することができる。また、ゲル内及びゲル表面の細胞を長期培養可能な人工的に形成された三次元構造体を提供することができる。本発明の細胞培養担体は、第1態様に記載の細胞培養担体製造方法によって作製することができる。
【0099】
2-2.構成
本発明の細胞培養担体を構成するハイドロゲルは、1つ以上のドット状ハイドロゲルからなる。「ドット状ハイドロゲル」とは、本態様の細胞培養担体におけるハイドロゲルの構成単位である。第1態様に記載のように、吐出方法によって第2溶液を第1溶液上に着弾させた時に、1回の吐出により形成されるハイドロゲルをドット状ハイドロゲルという。
【0100】
本態様の細胞培養担体を構成するドット状ハイドロゲルの形状、大きさ、厚さ等については、第1態様に準ずる。
【0101】
ドット状ハイドロゲルは、細胞、分散媒、及び添加物(例えば、細胞作用添加物等)を含み得る。この場合、各ドット状ハイドロゲルが含む細胞、分散媒、及び添加物は、同一又は異なる種類であってもよい。
【0102】
本発明の細胞培養担体では、単体のドット状ハイドロゲル又は複数のドット状ハイドロゲルが互いに独立して成る点状、及び/又は互いに接触して成る線状及び/又は膜状構造を有する。また、点状及び/又は線状及び/又は膜状構造のドット状ハイドロゲル上に、複数のドット状ハイドロゲルの全部及び/又は一部が重なるように積層して成る立体構造も有し得る。図7にドット状ハイドロゲルを吐出速度を調整した溶液吐出ヘッドで連結制御して形成されたハイドロゲルの例を示す。(a)ドット状ハイドロゲル間のピッチを徐々に狭めて、連結した線状ドット状ハイドロゲルのパターニングを示す。(b)同心円周上にドットを連結して形成されたカーブ形状の線状ドット状ハイドロゲルのパターニングを示す。
【0103】
ゲル形成後、支持体はそのまま包含していてもよく、また除去してもよい。後者の場合、細胞培養担体のみで各種評価をおこなっても良い。
【0104】
本発明において「形状維持性」とは、経時的変化に対する形状の性質をいう。ある物質の形状維持性が高い場合、その物質の経時的な変化は小さく、作製時の形状が維持されやすいことを意味する。本発明の細胞培養担体は、ハイドロゲルからなるが、このハイドロゲルは、高い形状維持率を有する。本明細書における「形状維持率」とは、ハイドロゲル作製直後インキュベーターに入れてから3日培養した時のドット状ハイドロゲルの直径及び厚さの変化率であって、本明細書の細胞培養担体であれば、ハイドロゲルの直径及び厚さの形状維持率は少なくとも75%以上となる。また、線状ハイドロゲルでは線幅と厚み、膜状ハイドロゲルでは膜の厚みで同様に評価する。
【0105】
3.細胞培養担体の製造装置
3-1.概要
本発明の第3の態様は、細胞培養担体の製造装置である。本発明の製造装置は、第1態様に記載の細胞培養担体の製造方法を具現化した装置であって、造形再現性や形状維持性が高いハイドロゲルから構成される細胞培養担体を製造することができる。また、ゲル内の細胞を長期培養可能な任意の形状のハイドロゲルから構成される細胞培養担体を製造することができる。
【0106】
3-2.構成
本発明の細胞培養担体の製造装置は、基板を固定するステージ手段と、第1溶液を保持する保持手段と、ステージ手段上に配置された基板に第1溶液を吐出する第1溶液吐出手段と、第2溶液を保持する保持手段と、ステージ手段上に配置された基板に第2溶液を吐出する第2溶液吐出手段と、第1及び第2溶液吐出手段において、各溶液の吐出を制御する溶液吐出制御手段と、第1及び第2溶液吐出手段とステージ手段との相対位置を算出して各溶液の吐出位置を制御する吐出位置制御手段、第1及び第2溶液吐出手段の吐出順序を制御する吐出順序制御手段を少なくも備え、さらに、ゲル形成された基板表面上に残る未反応のポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーを除去する手段を備えてもよい。以下、各部、及び各手段について説明をする。
【0107】
(1)ステージ手段
「ステージ手段」は、細胞培養担体の製造装置において、基板を固定する部である。ステージ手段は、基板を固定し、その位置決めが可能となるように構成されている。
【0108】
本態様の製造装置において「基板」とは、ステージ手段上に配置され、第1溶液吐出手段及び第2溶液吐出手段から吐出される溶液をその表面の所定の位置で捕捉し、ハイドロゲルを形成できる部材である。例えば、支持体やハイドロゲル等が挙げられる。本態様の製造装置でハイドロゲルを積層する場合には、ゲル化材を含む溶液を基板となるハイドロゲル上に正確に配置する必要があるため基板の位置決めを行うのが好ましい。
【0109】
基板の固定は、ステージ手段上に基板を固定可能な方法であれば特に制限はなく、公知の方法を用いても良い。例えば、ステージ手段上に固定されたバネクリップのような固定手段を用いて、基板を上部からステージ手段上に押さえつけて、又は側部から挟み込んで固定してもよい。
【0110】
(2)保持手段
「第1溶液保持手段」及び「第2溶液保持手段」は、「第1溶液吐出手段」及び「第2溶液吐出手段」に各溶液を供給、吐出可能なように構成された手段である。第1溶液保持手段及び第2溶液保持手段は、前者が第1溶液を保持し、後者が第2溶液を保持する点を除けば、基本的な構成は同じである。第1溶液及び第2溶液を保持可能であれば、材質・形状に制限はなく公知の方法を用いてもよい。例えば、図2に溶液吐出用インクジェットヘッド(本明細書では、しばしば「溶液吐出ヘッド」と表記する)の概略図では、溶液吐出ヘッド(0201)は、液体(0202)を収容する液室(0203)を備えていることで、液体を保持することができる。
【0111】
(3)第1及び第2溶液吐出手段
「第1溶液吐出手段」及び「第2溶液吐出手段」(以下2つの部をまとめて、しばしば「溶液吐出手段」と表記する)は、ステージ手段上に配置された基板上に各溶液を吐出可能なように構成された手段である。
【0112】
第1溶液吐出手段及び第2溶液吐出手段は、前者が第1溶液を吐出し、後者が第2溶液を吐出する点を除けば、基本的な構成は同じである。
【0113】
溶液吐出手段の具体的な構成例としては、インクジェットヘッドが挙げられる。図2に溶液吐出用インクジェットヘッドの概略図を示す。この図に示すように、溶液吐出ヘッド(0201)は、液体(0202)を収容する液室(0203)、吐出孔(ノズル)(0204)が形成されたメンブレン(0205)、及び加振装置(0206)を備える。この図では、さらに加振装置(0206)に特定の駆動信号として電圧を与える駆動手段(0207)が示されており、これは後述する溶液吐出制御手段に相当する。
【0114】
本発明の製造装置は、第1溶液吐出手段及び第2溶液吐出手段をそれぞれ複数備えていてもよい。その場合、それぞれの溶液吐出手段は同一の又は異なる溶液を保持することができる。例えば、図4では、第2溶液吐出手段(第2溶液吐出ヘッド)を2つ備えた製造装置が例示されている。このときに、第2溶液吐出ヘッド1(0401)と第2溶液吐出ヘッド2(0402)がそれぞれ異なる細胞を含む場合が挙げられる。なお、図4において、0403はステージを、0404は液室部を、0405は加振部を、0406は膜状部材を、0407は駆動部を、0408は大気解放部を、0409はステージ駆動手段を、そして0410は信号制御手段を示す。
【0115】
(4)溶液吐出制御手段
「溶液吐出制御手段」は、溶液吐出手段において、各溶液の吐出を制御する手段である。溶液吐出制御手段では、それぞれの溶液吐出手段に対して溶液吐出信号を送信し、溶液の吐出時期、吐出回数、又は吐出量を制御している。溶液吐出制御手段の具体的な構成例として、前述の図2で示される駆動手段(0207)が挙げられる。
【0116】
図3に、駆動手段(0207)から溶液吐出ヘッドへの入力波形の例を示す。駆動手段(0207)は、駆動信号として図3(a)で示す吐出波形(Pj)を図2で示すインクジェットヘッドの加振装置(0206)に送信し、加振装置(0206)を介してメンブレン(0205)の振動状態を制御することで、液室(0203)に保持された液体(0202)、すなわち溶液を液滴状に吐出できるように構成されている。吐出波形(Pj)は、メンブレンを共振させて、より少ない電圧で液体を吐出させるために、図3(b)で示すメンブレンの固有振動周期(To)を含む駆動信号に設定することが好ましい。吐出波形(Pj)は、三角波、正弦波のみでなく、ローパスフィルタにかけてエッジを緩やかにした三角波も用いることができる。
【0117】
さらに、駆動手段(0207)は、駆動信号として図3(a)で示す免振波形(Ps)を加振装置(0206)に送信できるように構成されている。この駆動信号によって、液滴形成後のメンブレン残留振動が早期に抑制され、より高周波な連続吐出が可能となる。加えて、サテライトやミストが減少するため、より微小な液量制御も可能になる。免振波形(Ps)は、三角波、正弦波のみでなく、ローパスフィルタにかけてエッジを緩やかにした三角波も用いることができる。
【0118】
溶液吐出ヘッド(0201)において、液室(0203)に保持される溶各溶液の量は特に限定はされないが、典型的には1μL~1mL程度の量を保持できるように構成されている。特に、細胞を分散させた細胞懸濁液のように溶液自体が高コストの場合、少量の液量で液滴形成が可能なように構成されていることが好ましく、液室(0203)に保持される液量も1μL~200μL程度となるように構成することができる。
【0119】
メンブレン(0205)を平面視したときの形状は、特に制限しない。例えば、円形、楕円形、方形等、いずれの形状のものも使用できる。液室(0203)底部の形状に応じたものが好ましい。また、メンブレン(0205)の材質も特に限定はしないが、柔らか過ぎる材質は、溶液を吐出しない場合もメンブレンが容易に振動するため、振動の抑制が困難となる。したがって、ある程度の硬さのある材質が好ましい。一般的には、金属、セラミック、ある程度の硬度を有するプラスチックのような高分子材料等が使用されている。金属の場合は、限定はしないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム等が使用できる。また、セラミックの場合は、限定はしないが、例えば、二酸化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等が使用できる。
【0120】
吐出孔(0204)は、メンブレン(0205)の中心に実質的に真円状の貫通孔として形成されていることが望ましい。
【0121】
加振装置(0206)の具体例として、圧電素子が挙げられる。圧電素子は、電圧を印加することによって紙面横方向に圧縮応力が加わり、メンブレンを変形させることが出来る。圧電素子の材料(圧電材料)には、当該分野で最も一般的に使用されているジルコン酸チタン酸鉛を用いることができる。圧電材料には、この他、ビスマス鉄酸化物、ニオブ酸金属物、チタン酸バリウム、又はこれらの材料に金属や異なる酸化物を加えたもの等を用いることができる。圧電素子の他にも、例えば、メンブレンとは異なる線膨張係数を有する材料をメンブレン上に貼付した素子が挙げられる。この素子は、加熱による線膨張係数の差を利用してメンブレンを変形することができる。線膨張係数の異なる材料にヒーターを設置することで、通電でヒーターをすることにより、メンブレンが変形し、液滴を吐出できるように構成されていることが望ましい。
【0122】
(5)吐出位置制御手段
「吐出位置制御手段」は、各溶液の吐出位置を制御する手段である。本手段では、ステージ上に固定された基板上の特定の位置に溶液を着弾させるために、溶液吐出手段とステージとの相対位置を算出して、溶液吐出手段からの溶液の吐出位置を制御できるように構成されている。吐出位置制御手段からの信号により、基板上の溶液を吐出すべき所定の位置に吐出孔が配置されるように溶液吐出手段、又はステージが移動する。吐出孔の方向を制御できるように構成されていてもよい。吐出位置制御手段の具体的な構成例として、前述の図4で示されるステージ駆動手段(0409)が挙げられる。
【0123】
基板上でハイドロゲルを形成させる位置を本手段に指示することで、任意形状のハイドロゲルを基板上に形成させることができる。図5は、本手段により、支持体上に様々な形状でハイドロゲルを形成させた概略図である。図5(a)ではドット状ハイドロゲルがピッチ(S)を有するように形成されている。図5(b)ではドット状ハイドロゲルが互いに接触し連続して重なり合うことにより、線状連続体(線状ハイドロゲル)が形成されている。図5(c)ではドット状ハイドロゲルがカーブしながら同様にして重なり合うことでカーブした線状連続体(線状ハイドロゲル)が形成されている。なお、ドット状ハイドロゲルの連結による融合は、溶液吐出制御手段による溶液の吐出速度などを調整することで達成し得る。例えば、第2溶液の吐出後に、第1溶液と第2溶液によるゲル化が完了する前に、次の所定の位置に第2溶液を吐出することで、図5(b)及び(c)の右側に示すドット状ハイドロゲル融合線状連続体(線状ハイドロゲル)を得ることができる。
【0124】
(6)吐出順序制御手段
「吐出順序制御手段」は、第1及び第2溶液吐出手段からの溶液の吐出順序を制御する手段である。本手段は、溶液吐出制御手段に制御信号を送信して、それぞれの溶液吐出手段からの溶液吐出の順序を制御する。本手段によって第1態様に記載の製造方法における工程を実行することができる。吐出順序制御手段の具体的な構成例として、前述の図4で示される信号制御手段(0410)が挙げられる。
【0125】
(7)除去手段
「除去手段」はゲル形成された支持体上及びハイドロゲル上に残る未反応のポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーを除去する手段であり、本手段によって第1態様に記載の製造方法における除去工程を実行することができる。
【0126】
一具体例として図8に除去手段の概略図を示す。ステージ(0801)上の未反応のポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマー(0802)が残る支持体(0803)に形成されたドット状ハイドロゲル(0804)をステージ駆動手段(0805)によって、内部に洗浄液(0806)を保持する洗浄槽(0807)として構成された除去手段へと配置する。図8(b)に示すように、支持体を洗浄槽内の洗浄液に浸漬して洗浄し、図8(c)に示す、未反応のポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーが除去された細胞培養担体を得ることができる。
【0127】
4.細胞培養担体の使用方法
本発明の第4の態様は、細胞培養担体の使用方法である。第1態様に記載の細胞培養担体の製造方法によって製造された細胞培養担体を用いて細胞を培養することにより、細胞培養物を得ることができる。「培養される細胞」は、第1態様に記載の製造方法によって製造された細胞培養担体に対して、播種ないし包埋される細胞であってもよい。また、第1態様に記載の製造方法よって製造された細胞培養担体に包含される細胞がフィーダ細胞等の補助細胞であって、「培養される細胞」は、補助細胞が包含された細胞培養担体に対して播種される細胞でもよい。また、「培養される細胞」は、第1態様に記載の(2)ゲル形成工程において液滴吐出装置により吐出される液滴に含まれている細胞や第1態様に記載の(5)細胞播種工程により播種される細胞であって、細胞培養担体の製造工程の中で包含される細胞であってもよい。
【実施例
【0128】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0129】
(方法)
<実施例1>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上にドット状ハイドロゲルが形成された細胞培養担体を作製した。
【0130】
(1)第1溶液の調製
Tetra-PEG-SH(商品名:SUNBRIGHT PTE-100SH、油化産業式会社製)をPBS(-)(Thermo Fisher Scientific社)に溶解後、平均口径0.2μmフィルター(商品名:Minisart Syringe Filter 175497K、sartorius社製)で濾過し、2% Tetra-PEG-SHを含む第1溶液を調製した。
【0131】
(2)第2溶液の調製
Tetra-PEG-マレイミジル(商品名:SUNBRIGHT PTE-100MA、油化産業式会社製)0.1gをPBS(-)に溶解後、平均孔径0.2μmフィルターで濾過し、2%Tetra-PEG-マレイミジルを含む第2溶液を調製した。
【0132】
(3)支持体の作製
35mmディッシュ内に直径13mmのポリエステル製多孔質培養メンブレン(商品名:ipCELLCULTURE Track Etched Membrane pore size:0.45μm pore density:4E6cm-2thickness:12 μm、it4ip社製)を入れて第1溶液を2mL加え、メンブレンに第1溶液を含浸させた。18mm角カバーグラス(商品名:No.1 Thickness 0.13~0.17mm、松波硝子製)中央付近に、第2溶液を3μL添加し、第1溶液を含浸させたメンブレンを第2溶液の部分に積載することでハイドロゲルによる接着を行い、Tetra-PEG-SHとTetra-PEG-マレイミジルによって形成されるハイドロゲルを形成させ、カバーグラスにメンブレンを固定した。このメンブレン固定カバーグラスを、第1溶液を入れたディッシュに入れて、再びメンブレンに第1溶液を含浸させた。その後、ディッシュから取り出して、第1溶液を保持した支持体を得た。
【0133】
(4)ハイドロゲルの形成
第2溶液を第2溶液吐出用インクジェットヘッド(第2溶液吐出ヘッド)の液室に充填した後、上記支持体上に20×20の400μmピッチの間隔で1滴ずつ滴下して第1溶液に第2溶液を着弾させ、第1溶液と第2溶液の反応によって、Tetra-PEGゲルからなるハイドロゲルを形成した。形成後、35mmディッシュに移して10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含むDMEMを静かに加え、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0134】
<実施例2>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むドット状ハイドロゲルが形成された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例1と同様に実施した。ただし、本実施例では第2溶液が細胞を含む細胞含有第2溶液を用いた点で実施例1とは異なる。
【0135】
(1)細胞の培養
インキュベーター(商品名:KM-CC17RU2、パナソニック株式会社製、37℃、5体積%CO2環境)内において、10質量%ウシ胎児血清(以下、「FBS」と表記する)及び1質量%抗生物質(Antibiotic-Antimycoti c Mixed Stock Solution(100x)、ナカライテスク株式会社製)を含むDulbecco’s Modified Eagle's Medium(商品名:DMEM(1X)、Thermo Fisher Scientific社製、以下、「DMEM」と表記する)を用い、100mmディッシュにて正常ヒト皮膚線維芽細胞(商品名:CC2507、Lonza社製;以下「NHDF細胞」と表記する)を72時間培養した。
【0136】
(2)細胞懸濁液の調製
NHDF細胞を72時間培養後、アスピレータを用いてディッシュ内のDMEMを除去した。ディッシュにPBS(-)を5mL加え、アスピレータでPBS(-)を吸引除去し、表面を洗浄した。PBS(-)による洗浄作業を2回繰り返した後、0.05質量%トリプシン/0.05質量%EDTA溶液(Thermo Fisher Scientific社製)をディッシュに2mL加え、インキュベーター内にて5分間加温し、ディッシュから細胞を剥離した。位相差顕微鏡(装置名:CKX41、オリンパス株式会社製)により細胞の剥離を確認後、FBS含有DMEMをディッシュに4mL加えて、トリプシンを失活させた。ディッシュの細胞懸濁液を15mL遠沈管1本に移し、遠心分離(商品名:H-19FM、KOKUSAN社製、1.2×103rpm、5分間、5℃)を行い、アスピレータを用いて上清を除去した。除去後、遠沈管にFBS含有DMEMを2mL添加し、穏やかにピペッティングを行って細胞を分散させ、細胞懸濁液を得た。その細胞懸濁液から20μLをエッペンドルフチューブに取り出し、0.4質量%トリパンブルー染色液20μLを加えてピペッティングを行った。染色した細胞懸濁液から20μL取り出してPMMA製プラスチックスライドに乗せ、Countess(商品名:Countess Automated Cell Counter、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて細胞数を計測し、溶液の細胞数を算出した。
【0137】
(3)細胞懸濁した第2溶液の調製
(2)で得られた細胞懸濁液の一部をエッペンドルフチューブに移し、遠心分離(装置名:miniS pin、エッペンドルフ社製、2.5×103rpm、1分間)を行い、続いて、ピペットを用いて上清を除去した。除去後、「実施例1-(2)」で調製した第2溶液を添加し、Tetra-PEG-マレイミジルを含み、細胞濃度が1×107個/mLの細胞懸濁液からなる細胞含有第2溶液を得た。
【0138】
<実施例3>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むドット状ハイドロゲルが形成された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例2に準じた。ただし、本実施例では、製造方法において溶液積層工程及びゲル積層形成工程を実施してハイドロゲルを積層化させた点で実施例2とは異なる。
【0139】
(1)ゲル形成工程及び溶液積層工程及びゲル積層形成工程
ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に100μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで10mm×20mmのハイドロゲルを形成した。
【0140】
次に、溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。その後、溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。
【0141】
続いて、ゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドでハイドロゲルを上に400μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、2層目のハイドロゲルを形成した。
【0142】
最後に、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0143】
また、1層目の細胞を緑色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Green、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて染色し、2層目の細胞を橙色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Orange、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて染色した。それぞれを第2溶液吐出ヘッドの液室へ充填して第2溶液吐出ヘッドから吐出し、ハイドロゲルを形成した。ハイドロゲルを作製してから1時間後、ハイドロゲルを共焦点顕微鏡FV10(前述)で観察した。観察結果を図9に示す。
【0144】
<実施例4>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例3に準じた。ただし、本実施例では形成するハイドロゲルの形状が実施例3とは異なる。すなわち、実施例3では2層目がドット状ハイドロゲルであるのに対して、本実施例では2層目に線状ハイドロゲルを形成した。
【0145】
(1)ゲル形成工程及び溶液積層工程及びゲル積層形成工程
ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に100μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを形成した。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。
【0146】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドでハイドロゲルを上に50μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンのハイドロゲルを400μm間隔で25本形成することで、2層目のハイドロゲルを形成した。
【0147】
最後に、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0148】
<実施例5>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例4に準じた。ただし、本実施例では、製造方法において溶液積層工程とゲル積層形成工程を複数回繰り返す反復工程を実施し、ハイドロゲル層を複数積層させた点で、実施例4と異なる。
【0149】
(1)ゲル形成工程、反復工程を含む溶液積層工程及びゲル積層形成工程
ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に100μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを形成した。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。
【0150】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドで上記ハイドロゲルを上に50μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンのハイドロゲルを400μm間隔で25本形成することで、2層目のハイドロゲルを形成した。
【0151】
その後反復工程として、上記と同様に第1溶液を含浸させて、吐出位置を制御しながら第2溶液吐出ヘッドで同様の作業を繰り返すことで、3層目、及び4層目のハイドロゲルを形成させて、最終的に4層のハイドロゲルからなる三次元ハイドロゲルを得た。
【0152】
最後に、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0153】
<実施例6>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例5に準じた。ただし、本実施例では、ゲル形成工程後とゲル積層形成後に除去工程を実施し、余分な反応液を除去することでハイドロゲルを薄く積層させた点で、実施例5と異なる。薄く積層させてハイドロゲルのピッチが狭まることで、ハイドロゲル内の細胞間の距離が縮まる。その結果、細胞間相互作用が容易となる、生体内の構造をより正確に再現できる。
(1)除去工程を実施するゲル形成工程、及び除去工程を実施する反復工程を含む溶液積層工程及びゲル積層形成工程
ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に100μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを形成した。
【0154】
形成後、除去工程としてハイドロゲルをPBS(-)が充填された35mmディッシュに静かに浸して洗浄した。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュに入れることで、ハイドロゲルに第1溶液を含浸させた。
【0155】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドでハイドロゲルを上に50μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンのハイドロゲルを400μm間隔で25本形成することで、2層目のハイドロゲルを形成した。
【0156】
反復工程として、上記と同様に除去工程を実施した後、上記と同様に第1溶液を含浸させて、第2溶液吐出ヘッドで吐出位置制御しながら同様の作業を繰り返・BR>キことで、3層目、及び4層目のハイドロゲルを形成させて、最終的に4層のハイドロゲルからなる三次元ハイドロゲルを得た。
【0157】
最後に、PBS(-)が充填された35mmディッシュに静かに浸して除去工程を実施した後、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0158】
<実施例7>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例4に準じた。ただし、本実施例では、ゲル形成工程後とゲル積層形成後に平面形成工程を実施した点で、実施例5と異なる。
【0159】
(1)平面形成工程を実施するゲル形成工程、及び平面形成工程を実施する反復工程を含む溶液積層工程及びゲル積層形成工程
細胞包含第2溶液と細胞を含まない第2溶液のそれぞれを第2溶液吐出ヘッドの液室へ充填した。ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に100μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを形成した。次に細胞を含まない第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで1層目の10mm×20mmの上記ハイドロゲル上に同様に100μmピッチで液滴を1滴滴下することで、1層目のゲル層の平面性を向上させた。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュに入れることで、ハイドロゲルに第1溶液を含浸させた。
【0160】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドでハイドロゲルを上に50μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンのハイドロゲルを400μm間隔で25本形成することで、2層目のハイドロゲルを形成した。
【0161】
反復工程として、上記と同様に平面形成工程を実施した後、上記と同様に第1溶液を含浸させて、第2溶液吐出ヘッドを吐出位置を制御して変えながら同様の作業を繰り返すことで、3層目、及び4層目以降のハイドロゲルを形成させて、最終的に10層のハイドロゲルからなる三次元ハイドロゲルを得た。
【0162】
最後に、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0163】
<実施例8>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むドット状ハイドロゲルが形成された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例1と同様に実施した。ただし、本実施例では溶液1及び/又は2に細胞が含まれておらず、細胞播種工程を実施した点が実施例1とは異なる。
【0164】
(1)細胞播種工程
10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移しされた細胞培養担体に対して、実施例2と同様に作製したNHDF細胞懸濁液で20000cells播種し、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0165】
<実施例9>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。基本的な手順は、実施例5に準じた。ただし、本実施例では、積層された各ハイドロゲルが異なる細胞種を含む点、具体的には2層目と4層目のゲル積層形成工程において、1層目と3層目に含まれるNHDF細胞ではなくヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell;以下「HUVEC」又は「HUVEC細胞」と表記する)を含んだ第2溶液を用いた点で実施例4と異なる。
【0166】
(1)HUVEC細胞の培養
HUVEC細胞を内皮細胞基本培地(Culture system containing EBMTM-2 Basal Medium(CC-3156)、EGMTM-2 SingleQuotsTM Supplements(CC-4176)、Lonza社製)を用いて、100mmディッシュにて、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内で72時間培養した。
【0167】
(2)HUVEC細胞包含第2溶液の作製
NHDF細胞と同様にして得られた細胞懸濁液の一部をエッペンドルフチューブに移し、遠心分離(装置名:miniS pin、エッペンドルフ社製、2.5×103rpm、1分間)を行い、次に、ピペットを用いて上清を除去した。除去後、HUVEC細胞用第2溶液を添加し、Tetra-PEG-マレイミジルを含み、細胞濃度が1×107個/mLの細胞懸濁液からなるHUVEC細胞含有第2溶液を得た。
【0168】
(3)ハイドロゲル形成とゲル積層
NHDF細胞包含第2溶液とHUVEC細胞包含第2溶液を、図4に記載の溶液吐出ヘッドの液室に充填した。NHDF細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッド1(0401)で実施例4と同様の1層目と3層目を形成し、HUVEC細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッド2(0402)で実施例4と同様の2層目と4層目を形成することでハイドロゲルを形成した。最後に10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含むDMEMと内皮細胞基本培地が1mLずつ入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0169】
<実施例10>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。基本的な手順は、実施例5に準じた。ただし、本実施例では、図2に示す溶液吐出ヘッドの吐出孔(0204)を小孔にして、滴下する液滴を小滴化した点が実施例5と異なる。
【0170】
(1)ゲル形成工程、反復工程を含む溶液積層工程及びゲル積層形成工程
ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に50μmピッチで液滴を1滴滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを形成した。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。
【0171】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドでハイドロゲル上に25μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンのハイドロゲルを400μm間隔で25本形成することで、2層目のハイドロゲルを形成した。
【0172】
その後反復工程として、上記と同様に第1溶液を含浸させて、第2溶液吐出ヘッドで吐出位置を制御しながら同様の作業を繰り返すことで、3層目、及び4層目のハイドロゲルを形成させて、最終的に4層のハイドロゲルからなる三次元ハイドロゲルを得た。
【0173】
最後に、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0174】
<実施例11>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。基本的な手順は、実施例5に準じた。ただし、本実施例では、第1溶液及び第2溶液に細胞作用添加物としてフィブリノーゲンを添加した点が異なる。
【0175】
(1)フィブリノーゲン含有第1溶液の調製
Tetra-PEG-SH(前述)0.04gをPBS(-)2mLに溶解後、平均孔径0.2μmフィルター(前述)で濾過し、2%Tetra-PEG-SHを含む第1溶液を調製した。さらに、0.02gのフィブリノーゲン(商品名:Fibrinogen from bovine plasma、Sigma-Aldrich社製)を第1溶液に添加し、マイクロチューブローテーター(型番:MTR-103、アイリス株式会社製)で溶解させ、1%のフィブリノーゲン含有第1溶液を調製した。
【0176】
(2)トロンビン含有NHDF細胞用第2溶液の調製
Tetra-PEG-マレイミジル(前述)0.04gをPBS(-)2mLに溶解後、平均孔径0.2μmフィルター(前述)で濾過し、2%Tetra-PEG-マレイミジルを含む第2溶液を調製した。さらに、トロンビン(商品名:Thrombin from bovine Plasma、Sigma-Aldrich社製)を20U/mLになるように上記第2溶液で希釈して、トロンビン含有第2溶液を調製した。
【0177】
図17に本実施例で調製したハイドロゲル中のフィブリンの状態を示す。フィブリンは、第1溶液中のフィブリノーゲンと第2溶液中のトロンビンが反応して形成される。2つの溶液の接触によりハイドロゲル中で目的のフィブリンは形成されたが、フィブリンがやや上部に偏在する傾向が見られた。
【0178】
<実施例12>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。基本的な手順は実施例11に準じた。ただし、実施例11とは異なり、細胞作用添加物としてマトリゲル(型番:354234、Corning製)を濃度0.1質量%となるように第1溶液及び第2溶液に添加して実施した。
【0179】
<実施例13>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むドット状ハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。基本的な手順は実施例11に準じた。ただし、本実施例では形成するハイドロゲルの形状が実施例11とは異なり、一層目に線状ハイドロゲルを形成し、二層目にドット状ハイドロゲルを積層した。
【0180】
(1)ゲル形成工程及び溶液積層工程及びゲル積層形成工程
ゲル形成工程として、細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで支持体上に50μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状ハイドロゲルを400μm間隔で20本形成した。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。
【0181】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドでハイドロゲルの各線状のドット状ハイドロゲルに対して300μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、30個の点状ドット状ハイドロゲルが各線状ドット状ハイドロゲルの2層目に形成されたハイドロゲルを形成した。
【0182】
最後に、10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含む2mLのDMEMが入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0183】
<実施例14>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含む膜状ハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。基本的な手順は、実施例9に準じた。ただし、本実施例では、積層させるハイドロゲルの形状が実施例9とは異なり、1層目から4層目までの全てを膜状ハイドロゲルで積層させた。
【0184】
(1)ハイドロゲル形成とゲル積層
NHDF細胞包含第2溶液とHUVEC細胞包含第2溶液を、図4に記載の溶液吐出ヘッドの液室に充填した。NHDF細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッド1(0401)で支持体上及びハイドロゲル上に50μmピッチで液滴を1滴ずつ滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを1層目と3層目に形成した。HUVEC細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッド2(0402)でハイドロゲル上に50μmピッチで液滴を1滴、滴下することで、10mm×20mmのハイドロゲルを2層目と4層目に形成した。最後に10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含むDMEMと内皮細胞基本培地が1mLずつ入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0185】
なお、本実施例では、1層目から膜状ハイドロゲルを形成したため、ドット状ハイドロゲルの形成有無は確認していない。
【0186】
また、NHDF細胞を緑色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Green、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて染色し、HUVEC細胞を橙色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Orange、Thermo Fisher Scientific社製)して実施して作製1時間後、ハイドロゲルを共焦点顕微鏡FV10(前述)で観察した。観察結果を図10に示す。
【0187】
<実施例15>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本操作は、実施例5に記載の方法に準じた。ただし、本実施例では、実施例5に記載のインクジェット法の液滴形成装置に代えて、ゲル押し出し法のディスペンサで実施した。
【0188】
<実施例16>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例7に準じた。ただし、細胞はNIH/3T3細胞(Clone 5611, JCRB Cell Bank, 以下「3T3」とも称することがある)を使用しており、本実施例では、平面形成工程を実施せず、積層数を10層、及び20層の高積層ケースにした点、及び溶液の調製にPBSではなく培地(DMEM)を使用した点が実施例7とは異なる。
【0189】
奇数層目の細胞を緑色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Green、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて染色し、偶数層目の細胞を橙色蛍光染料(商品名:Cell Tracker Orange、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて染色した。作製1時間後、細胞培養担体を共焦点顕微鏡FV10(前述)で観察した。10層積層した観察結果を図11に、また20層積層した観察結果を図13に示す。
【0190】
(1)トロンビン含有第1溶液の調製
Tetra-PEG-SH(前述)0.04gをDMEM 2mLに溶解後、平均孔径0.2μmフィルター(前述)で濾過し、2% Tetra-PEG-SHを含む第1溶液を調製した。さらに、トロンビン(商品名:Thrombin from bovine Plasma、Sigma-Aldrich社製)を20U/mLになるように上記第2溶液で希釈して、トロンビン含有第1溶液を調製した。
【0191】
(2)フィブリノーゲン含有3T3細胞用第2溶液の調製
0.02gのフィブリノーゲン(商品名:Fibrinogen from bovine plasma、Sigma-Aldrich社製)を1mLのDMEMに添加し、マイクロチューブローテーター(型番:MTR-103、アイリス株式会社製)で溶解させ、1%のフィブリノーゲン溶液を調製した。その後、Tetra-PEG-マレイミジル(前述)を添加して緩やかに撹拌し、溶解させることで1%のフィブリノーゲン含有第2溶液を調製した。
【0192】
図18に本実施例で調製したハイドロゲル中のフィブリンの状態を示す。2つの溶液の接触によりハイドロゲル中で目的のフィブリンは形成された。分散媒にDMEMを使用すると、フィブリンが均一に分散され、また細胞生存率も高い値が得られた。
【0193】
<実施例17>
本実施例では、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが積層された細胞培養担体を作製した。第1溶液と第2溶液の調整は実施例16に準じ、基本的な手順は実施例9に準じた。ただし、本実施例では細胞培養担体の構造が異なる。具体的には、1、3層目がNHDF細胞を含んだ膜状ハイドロゲルであり、2層目は線状ハイドロゲルである。2層目ではNHDF細胞を含んだ線状ハイドロゲルの間にHUVEC細胞を含んだフィブリンゲルの線状ゲルを形成する細胞作用ゲル形成工程を実施した。作製1時間後、細胞培養担体を共焦点顕微鏡FV10(前述)で観察した。観察結果を図12に示す。
【0194】
(1)HUVEC細胞含有細胞作用ゲル用溶液の調製
PBS(-)2mLに0.02gのフィブリノーゲンを第1溶液に添加し、マイクロチューブローテーターで溶解させ、1%のフィブリノーゲン溶液を調製した。
【0195】
(2)HUVEC細胞含有細胞作用ゲル用溶液の作製
NHDF細胞と同様にして得られた細胞懸濁液の一部をエッペンドルフチューブに移し、遠心分離を行い、次に、ピペットを用いて上清を除去した。除去後、前記1%のフィブリノーゲン溶液を添加し、細胞濃度が3×106個/mLの細胞懸濁液からなるHUVEC細胞含有細胞作用ゲル用溶液を得た。
【0196】
(3)ハイドロゲル形成・細胞作用ゲル形成とゲル積層
NHDF細胞包含第2溶液とHUVEC細胞含有細胞作用ゲル用溶液を、溶液吐出ヘッドの液室にそれぞれ充填した。NHDF細胞含有第2溶液が充填された第2溶液吐出ヘッドで実施例4と同様の1層目を形成した。その後溶液積層工程として、第1溶液の入ったディッシュにハイドロゲルを入れて、第1溶液を含浸させた。
【0197】
続いてゲル積層形成工程として、細胞包含第2溶液の充填された第2溶液吐出ヘッドで上記ハイドロゲルを上に90μmピッチで液滴を1滴滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンのハイドロゲル組成物を400μm間隔で25本形成することで、2層目のハイドロゲル組成物を形成した。さらに、HUVEC細胞含有細胞作用ゲル用溶液が充填された溶液吐出ヘッドで上記2層目の線状パターンのハイドロゲル組成物の間を90μmピッチで液滴を1滴滴下することで、形成される幅200μm長さ20mmの線状パターンの細胞作用ゲルを形成することで2層目を形成した。3層目は1層目と同様に形成し、最後に10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含むDMEMと内皮細胞基本培地が1mLずつ入った35mmディッシュに移して、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内に入れた。
【0198】
<実施例18>
本実施例では、実施例16と同様に、本発明の細胞培養担体の製造方法を用いて、支持体上に細胞を含むハイドロゲルが10層積層された細胞培養担体を作製した。本実施例の基本的な手順は、実施例16に準じた。ただし、本実施例では、細胞に3T3細胞ではなく、HepG2細胞(JCRB Cell Bank, 以下「HepG2」とも称することがある)を使用した点が実施例16と異なる。
異なる細胞であるHepG2でも実施例16と同様に高い細胞生存率が得られた。
【0199】
<比較例1>
基本的な手順は、実施例2と同様に実施した。ただし、比較例1ではポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーではなく以下の材料で第1溶液と第2溶液を調液し、Tetra-PEGゲルではなく、アルギン酸ゲルを形成した点で実施例2とは異なる。
(1)第1溶液の調製
塩化カルシウム(型番:192-13925、和光純薬工業株式会社製)(以下、「CaCl2」と表記する)0.584gを超純水100mLに溶解後、平均孔径0.2μmフィルター(前述)で濾過し、100mmol/LのCaCl2水溶液からなる第1溶液を調製した。
(2)第2溶液の調製
アルギン酸ナトリウム(商品名:キミカアルギンSKAT-ONE、株式会社キミカ製)20mgを超純水2mLに溶解後、平均孔径0.2μmフィルター(前述)で濾過し、濃度1.0%のアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0200】
<比較例2>
基本的な手順は、実施例2及び比較例1と同様に実施した。ただし、比較例2ではポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーではなく以下の材料で第1溶液と第2溶液を調液し、Tetra-PEGゲルではなく、フィブリンゲルを形成した点で実施例2とは異なる。
(1)第1溶液の調製
PBS(-)1.98mLに0.02gのフィブリノーゲン(商品名:Fibrinogen from bovine plasma、Sigma-Aldrich社製)を添加し、マイクロチューブローテーター(型番:MTR-103、アイリス株式会社製)で溶解させ、1%のフィブリノーゲン含有第1溶液を調製した。
(2)第2溶液の調製
PBS(-)2mLでトロンビン(商品名:Thrombin from bovine Plasma、Sigma-Aldrich社製)を20U/mLになるように希釈して、トロンビン含有第2溶液を調製した。
【0201】
<参考例1>
基本操作は、実施例5に記載の方法に準じた。参考例1では、インクジェット法の液滴形成装置に代えて手技で実施した。
【0202】
(結果)
≪評価方法≫
実施例、及び比較例の方法により形成したハイドロゲルを以下で説明する方法で評価し、その結果を表1-1及び表1-2にまとめた(本明細書では、表1-1及び表1-2をまとめて、しばしば「表1」と表記する) 。
【0203】
【表1-1】
【0204】
【表1-2】
表中、IJはインクジェットを示す。
【0205】
(形状維持)
ハイドロゲルの製造工程において、最後の反応液が着弾してハイドロゲルが作製された後、直ちに35mmディッシュに移して10質量%FBS及び1質量%抗生物質を含むDMEMを静かに加え、37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター内に入れ、インキュベーターに入れた直後とインキュベーターに入れて3日経過後に、顕微鏡(CKX41、オリンパス製)を用いてハイドロゲルの直径及び厚さを測定した。測定したハイドロゲルの直径及び厚さが、インキュベーターに入れた直後の75%未満の場合は×、75%以上の場合は〇とした。また、ドット状ハイドロゲルによる線状連続体(線状ハイドロゲル)では線幅と厚み、膜状連続体(膜状ハイドロゲル)では膜の厚みにより同様に評価をした。結果を「形状維持率」として表1に示す。
【0206】
(平面配置:ドット状、線状、膜状)
実施例、及び比較例において、ハイドロゲルが作製された後、上記形状維持と同様に培地を追加して、37℃、5体積%CO2環境下でインキュベートし、培養1時間後に、ハイドロゲルを共焦点顕微鏡(FV10、オリンパス社製)で観察した。ドット状ハイドロゲルが指定したピッチで配置されているか、線状ハイドロゲル及び膜(ベタ)状ハイドロゲルが形成されているか否かを確認した。以降の評価方法でも、これと同様の観察方法を用いた。なお、ここでいう「ピッチ」とは、隣り合うドット状ハイドロゲル間における各ドット状ハイドロゲルの中心からの長さをいう。
【0207】
評価方法として、ドット状ハイドロゲルが、400μmピッチで配置されていれば〇、されていなければ×とした。線状ハイドロゲルはドット状ハイドロゲルが連続していることが確認されていれば〇、確認されていなければ×とした。膜は平面XY10mm×10mmの領域でドット状ハイドロゲルが連続していることが確認されれば〇、確認されなければ×とした。結果を表1に示す。表中、「ドット」はドット状ハイドロゲルを、「ライン」は線状ハイドロゲルを、そして「ベタ」は膜状ハイドロゲルを示す。
【0208】
(積層)
実施例、及び比較例において、ハイドロゲルを作製した後、上記形状維持と同様に培地を追加して、37℃、5体積%CO2環境下で培養し、1時間後に、ハイドロゲルを共焦点顕微鏡(FV10、オリンパス社製)で観察した。ドット状ハイドロゲル、線状ハイドロゲル、及び膜状ハイドロゲルが表2で指定した厚さ及び積層数で形成されているか否かを確認した。なお、表2でいう積層数とは、形成した層の数を示す。
【0209】
評価方法として、表2の数値以下の厚さ(ピッチ)で配置、又は表2の数値以上の積層数で積層されていれば〇若しくは◎、されていなければ×とした。結果を「積層」として表1に示す。
【0210】
【表2】
【0211】
(生存率)
・生存率評価液の調製
各サンプルに対応する培地60mLにPI(P1304MP、Thermo Fisher Scientific社製)を30μL、Hoechst33342(H3570、Thermo Fisher Scientific製)を12μL添加し、生存率評価液を作製した。
・細胞の観察
ハイドロゲルが作製された後、上記形状維持と同様に培地を追加して、37℃、5体積%CO2環境下で培養し、培養3日後、3.5cmディッシュの中の培地3mLを上記の生存率評価液3mLと置換し、再び37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内で1時間培養した。培養1時間後、ハイドロゲルの細胞を共焦点顕微鏡で観察し、その三次元画像を得た。
・生存率の算出
三次元画像をもとにPIで染色された細胞を死細胞、Hoechst33342で染色された細胞を全細胞として、生存率(%)は(全細胞数-死細胞数)×100/(全細胞数)で算出した。3T3細胞の結果を表3-1に、HepG2の結果を表3-2に示す。
また、ハイドロゲルの前記培養4日後、細胞生存率が60%以上の場合○、80%以上の場合◎、60%以下の場合×とした。結果を「生存率」として表1に示す。
【0212】
(長期生存率)
・細胞の観察
ハイドロゲルが作製された後、上記形状維持と同様に培地を追加して、37℃、5体積%CO2環境下で培養し、7日後に3.5cmディッシュの中の培地3mLを上記の生存率評価液3mLと置換し、再び37℃、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内で1時間培養した。培養1時間後、ハイドロゲルの細胞を共焦点顕微鏡で観察し、その三次元画像を得た。
・生存率の算出
三次元画像をもとにPIで染色された細胞を死細胞、Hoechst33342で染色された細胞を全細胞として、生存率(%)は(全細胞数-死細胞数)×100/(全細胞数)で算出した。3T3細胞の結果を表3-1に、HepG2の結果を表3-2に示す。
ハイドロゲルを作製後、培地を加えて、37℃、5体積%CO2環境下で培養7日後、細胞生存率が50%以上の場合○、80%以上の場合◎、50%以下の場合×とした。結果を「長期生存率」として表1に示す。
【0213】
【表3-1】
【表3-2】
【0214】
(形態)
細胞作用添加物を添加したハイドロゲルに対して、実施例、及び比較例において、最後の反応液の着弾によりハイドロゲルが作製された後、上記形状維持と同様に培地を追加して、37℃、5体積%CO2環境下で培養し、7日後のハイドロゲル内の細胞の形態を、細胞が伸展しているかどうかで評価した。
・形態観察用液の調製
各サンプルに対応する培地60mLにCalceinAM(型番:L3224、Thermo Fisher Scientific社製)を12μL添加し、形態観察用液を作製した。
・細胞の観察
上記の生存率評価後に3.5cmディッシュの中の生存率評価液3mLを上記の形態観察用液3mLに置換し、再び37、5体積%CO2環境のインキュベーター(前述)内で1時間培養した。培養1時間後、ゲル内の細胞の形態を共焦点顕微鏡で観察した。
細胞の形態から、細胞が伸展していた場合〇、伸展していなかった場合×とした。細胞の伸展の有無は、細胞の仮足が見えていれば伸展していると判断した。結果を「形態」として表1に示す。
【0215】
(透過性)
また、それぞれの実施例に対応した調製例のハイドロゲルの物質透過性を以下で説明する方法で評価し、それぞれの調製例に対応する実施例と共に、その結果を表4にまとめた。
【0216】
【表4】
【0217】
・透過性評価用ゲルの作製
本評価では24ウェルプレート(Falcon;353047)に対応したインサート(Falcon;353097)内に設置した、厚み1mmのハイドロゲルの透過性を蛍光溶液の浸透量で評価した。染色液には蛍光タンパク質:Dextran Fluorescein Anionic 500kDa(Invitrogen;D1823)を2mLのPBS(-)で溶解した溶液を原液とし、各種分散媒で1%に希釈して使用した。
・透過性評価
インサート内のゲル上に上記蛍光溶液を充填後、24ウェルプレートに蛍光溶液と同様の分散媒を充填し、37℃インキュベーターで静置した。その後、インサートを取り出し、24ウェルプレート中の溶液を蛍光測定用の96wellプレート(Corning;3694)に50μL×4wellずつ分注し、プレートリーダー(Biotek;Cytation5)で蛍光強度を測定した。測定結果は透過物質量をモル濃度nM(nmol/m3)で示し、0.5nM以上を○、測定不能を×として判定し、表4にまとめた。
【0218】
(物質透過量の経時変化)
本評価では、24ウェルプレートと24ウェルプレートに対応したインサートを用いた。インサートのポアサイズは8μmとした。24ウェルプレートのウェル内にインサートを配置し、インサート上にゲルを作製した。ゲルはDMEMを分散媒とし、細胞作用添加物としてフィブリンを含むPEGゲル(実施例16、17、及び18で用いたゲルと同質で、細胞を含まないもの)を使用した。ゲルの厚みは、インサートの底面積から容量を決定し、1~4 mmで形成した。ゲルの作製後、ゲル上に0.3mLの蛍光溶液を充填した。蛍光溶液にはDextran Fluorescein Anionic 500kDaを2 mLのPBS(-)で溶解した溶液を原液とし、DMEMで1%に希釈して使用した。蛍光溶液の充填後、24ウェルプレート中に無血清培地を1mL充填した。37℃インキュベーターで静置して2時間後、5時間後、及び24時間後に、ゲル上の蛍光溶液の流出に注意して24ウェルプレートからインサートを取り出し、プレートリーダーを用いてウェル中の培地の蛍光強度を測定した。物質透過量は、既知の物質量及び計測された蛍光強度から検量線を作成して得られた検量線の係数を用いて算出した。
図19にハイドロゲルのタンパク質透過における時間依存性の結果を示す。2時間経過時点で、透過量が約0.95nMであり、0.5nMを大きく上回っていた。また、時間経過と共に物質透過量が増加した。
【0219】
≪評価≫
実施例1~18の結果からTetra-PEGゲルではゲルの形状維持が可能であるのに対し、比較例1の結果からアルギン酸ゲルでは、ハイドロゲルの剥離や崩壊によりゲルの形状維持が困難であることが明らかとなった。
【0220】
また、実施例1~14の結果からTetra-PEGゲルではドット状ハイドロゲルの形成が可能であるのに対して、フィブリンゲルではゲル化時間が遅いためドット状ハイドロゲルの形成ができないことが明らかとなった。
【0221】
実施例3における2層構造のハイドロゲルの蛍光染色像の斜視図を図9に示した。この図のハイドロゲルは、1層目に膜状ハイドロゲルが形成され、その上の2層目にドット状ハイドロゲルが積層されたハイドロゲルを示している。(c)に示す1層目の膜状ハイドロゲルの上に(b)に示す2層目のドット状ハイドロゲルが積層されていることが、(a)からわかる。また、この結果から、少なくとも400μmのピッチで細胞含有ドット状ハイドロゲルを形成できることが明らかとなった。
【0222】
実施例14における4層が積層されたハイドロゲルの蛍光染色像の断面図を図10に示した。図10から、少なくとも60μmの厚みがあれば細胞含有ハイドロゲルを積層可能なことが確認できた。
【0223】
図14は、1層目と2層目にTetra-PEGゲルを形成、積層させた場合の模式図である。本発明のように、形状維持の可能なドット状ハイドロゲルを形成できると、図14に示すように、細かいドット状や細い線状のハイドロゲルを形成できる。それ故、細胞培養用のハイドロゲルを高解像で所望の形状に形成、積層することが可能となる。つまり、細胞を高精度に三次元配置することが可能となり、生体内の構造をより正確に再現できるようになる。
【0224】
一方、図15は、1層目にTetra-PEGゲルを、2層目にアルギン酸ゲルやフィブリンゲルを積層させた場合の模式図である。比較例1のアルギン酸ゲルでは、ゲルの形状を維持できず、形状崩壊してしまう。また、比較例2のフィブリンゲルでは、ゲル化時間が長く、任意の形状にゲルを形成、積層できないため、高解像度なハイドロゲルを形成することはできない。
【0225】
実施例6、及び実施例7の結果から、除去工程や平面形成工程を実施することで、小さなピッチでハイドロゲル積層できることが確認された。さらに、実施例9から吐出孔が小さいヘッドを用いた場合でも小さなピッチで積層できることが確認された。実施例6、実施例7、及び実施例9のように、厚み方向に小さなピッチで積層できると、細胞培養用のハイドロゲルを高解像で積層することができ、生体内の構造をより正確に再現することができる。また、実施例7から平面形成工程を実施したときに10層積層可能であり、Tetra-PEGゲルの形状維持効果が高いことが確認された。
【0226】
実施例8から、細胞を第2容器に混合させる場合だけでなく、細胞を播種させた場合でも、細胞が生存可能であることが確認された。
【0227】
実施例9から、複数種類の細胞を積層可能であることが確認された。
【0228】
実施例11、実施例12、及び実施例13から、細胞作用添加物を添加することにより、細胞が伸展することが確認された。
【0229】
実施例15、参考例1の結果から、ゲル押し出し法のディスペンサ及び手技ではドット状ハイドロゲルを造形することが困難であり、ドット状ハイドロゲルを連なって配置させることもできないため、ドット状ハイドロゲルが接触してなる任意の構造を作製することはできなかった。
【0230】
実施例16及び実施例18の結果から、細胞を含む膜状ハイドロゲルを10層、及び20層に積層した細胞培養担体においても、三次元配置されたゲルの各層に乱れはなく、その形状が維持されることが確認された。また、ハイドロゲル形成に用いる第1及び/又は第2溶液の分散媒を細胞培養用培地にすることで、ハイドロゲル中に存在する細胞作用添加物が均一に分散され、またハイドロゲルが細胞を含む場合、その細胞生存率も高くなることが明らかとなった。
【0231】
実施例1~18の結果からTetra-PEGゲルやフィブリンゲルではゲルの透過性が良好であるのに対し、比較例1の結果からアルギン酸ゲルではゲルの透過性が悪く、細胞培養担体として不利であることが明らかとなった。
【0232】
物質透過量の経時変化を示す図19の結果から、本発明のハイドロゲルであれば、細胞培養担体として好ましい物質透過性を有しており、培地等と共に細胞を培養する場合であっても栄養成分等の伝達を阻害しないことが明らかとなった。
【0233】
(発明の効果)
本発明によれば、ハイドロゲルを含んでなる細胞培養担体であって、任意の直径及び厚さを有するドット状ハイドロゲルにより構成され、ハイドロゲルゲルが形成されてから3日経過後の形状維持率が少なくとも75%以上ある細胞培養担体を得ることができる。
【0234】
本発明によれば、ポリエチレングリコールを骨格とする多分岐型ポリマーを含むハイドロゲルにより構成され、ハイドロゲルが形成されてから3日経過後の形状維持率が少なくとも75%以上である細胞培養担体を得ることができる。
【0235】
以上の結果から、本発明によれば、従来の三次元組織モデル構築技術の課題であった、形状維持率の高い細胞培養担体の製造方法、細胞培養担体、及び細胞培養担体の製造装置を得ることが可能となる。加えて、細胞生存率、解像度、細胞密度、細胞種制御からなる要素を成立させることができるので、細胞を含むゲルを高精度に三次元配置可能で、ゲル内で細胞が生存可能な再現性のある細胞培養担体の製造方法、及び細胞培養担体、及び細胞培養担体の製造装置を得ることが可能となる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19