(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材およびその用途
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240416BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240416BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2022526677
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2021020497
(87)【国際公開番号】W WO2021241748
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020093159
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021005094
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021005095
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-534720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0355971(US,A1)
【文献】特開2016-132608(JP,A)
【文献】特開2015-050050(JP,A)
【文献】特表2014-511322(JP,A)
【文献】特開2009-049236(JP,A)
【文献】特表2014-523468(JP,A)
【文献】特表2015-513570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素(A)とSi含有化合物(B)とを含む複合体(C)を含み、前記多孔質炭素(A)および前記Si含有化合物(B)が、以下であるリチウムイオン二次電池用負極材;
前記多孔質炭素(A)が、窒素吸着試験において、
相対圧P/P
0が最大値のときの全細孔容積をV
0(P
0は飽和蒸気圧)、
相対圧P/P
0=0.1のときの累計細孔容積をV
1、
相対圧P/P
0=10
-7のときの累計細孔容積をV
2
、
相対圧P/P
0
=10
-2
のときの累計細孔容積をV
3
としたとき、
V
1/V
0>0.80
、V
2/V
0<0.10
かつ、V
3
/V
0
>0.50であり、
BET比表面積が800m
2/g以上であり、
前記Si含有化合物(B)は前記多孔質炭素(A)の細孔内に含まれてなる。
【請求項2】
前記多孔質炭素(A)は、窒素吸着試験における全細孔容積V
0が、0.4cm
3/g以上1.0cm
3/g未満である、請求項
1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
前記複合体(C)はレーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%粒子径(D
V50)が2.0μm以上30.0μm以下であり、10%粒子径(D
V10)が1.0μm以上であり、BET比表面積が0.5m
2/g以上40.0m
2/g以下である、請求項1
または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記複合体(C)は、平均アスペクト比が1.00以上2.50以下である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記Si含有化合物(B)は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭化物から選択される一種以上である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記複合体(C)におけるSi含有率が、15質量%以上85質量%以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記多孔質炭素(A)の全細孔容積V
0に対し、Siの真密度が2.32g/cm
3としたとき、前記多孔質炭素(A)の全細孔をSiが占有したときのSi含有率の理論値(理論Si含有率)を
理論Si含有率(%)=(V
0[cm
3/g]×1[g]×2.32[g/cm
3])/
((V
0[cm
3/g]×1[g]×2.32[g/cm
3])+1[g])×100
から求めたとき、
前記複合体(C)におけるSi含有率が、当該理論値に対して、15%以上95%以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
前記複合体(C)のラマン分光分析法によって測定される470cm
-1付近のピーク強度(I
Si)と1580cm
-1付近のピーク強度(I
G)に関して、(I
Si/I
G)が0.30未満である、請求項1~
7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項9】
前記複合体(C)のラマン分光分析法によって測定される1580cm
-1付近のピーク強度(I
G)と1350cm
-1付近のピーク強度(I
D)に関して、(I
D/I
G)が0.50以上1.50未満である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項10】
前記複合体(C)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、Siの111面のピークの半値幅が3.00°以上である、請求項1~
9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項11】
前記複合体(C)の表面の一部または全体に、さらに無機粒子およびポリマーが存在し、無機粒子が黒鉛とカーボンブラックから選択される1種以上を含み、ポリマーの含有率が0.1~10.0質量%である、請求項1~
10のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項12】
シート状集電体および前記集電体を被覆する負極層を有し、前記負極層はバインダーおよび請求項1~
11のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む、負極シート。
【請求項13】
請求項
12に記載の負極シートから構成されてなる負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なリチウムイオン二次電池用負極材および該リチウムイオン二次電池用電極材料を含む負極シート、ならびに、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートホンやタブレットPCなどのIT機器、掃除機、電動工具、電気自転車、ドローン、自動車に使用されるリチウムイオン二次電池には、高容量および高出力を兼ね備えた負極活物質が必要とされる。負極活物質として、現在使用されている黒鉛(理論比容量:372mAh/g)よりも高い理論比容量を有するシリコン(理論比容量:4200mAh/g)が注目されている。
【0003】
しかし、シリコン(Si)は電気化学的なリチウム挿入・脱離に伴って、最大で約3~4倍まで体積が膨張・収縮する。これによりSi粒子が自壊したり、電極から剥離したりするため、Siを用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性が著しく低いことが知られている。このため、Siを単に黒鉛から置き換えて使うのではなく、負極材全体として膨張・収縮の程度を低減させた構造にして用いることが、現在盛んに研究されている。中でも炭素質材料との複合化が多く試みられている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池用負極材として、米国特許10424786号(特許文献1)には、複数の複合粒子を含む粒子状材料であって、前記複合粒子は以下の特徴を有することが開示されている。
(a)ミクロ孔とメソ孔を含んでいる多孔質炭素構造体と(b)前記多孔質炭素構造体の前記ミクロ孔および/またはメソ孔の内側に位置した複数のナノスケールの元素状シリコンドメインを有し、
(i)前記ミクロ孔とメソ孔はP1cm3/gという、ガス吸着によって測定される合計細孔容積を有し、ここで、P1は少なくとも0.6で、2を超えない
(ii)ミクロ孔の体積分率(φa)は、ミクロ孔とメソ孔のトータルの体積に基づいて0.5から0.9までの範囲内にある
(iii)10nmよりも小さい細孔直径を有する細孔の体積分率(φ10)は、ミクロ孔とメソ孔のトータルの体積に基づき、少なくとも0.75であり、そして
(iv)前記多孔質炭素構造体は20μmよりも少ないというD50粒子径を有し、
前記複合粒子における、シリコンの前記多孔質炭素構造体に対する質量比は、[1×P1~1.9×P1]:1の範囲内である。
【0005】
また、特表2018-534720号公報(特許文献2)には、多孔質炭素足場およびケイ素を含んでなる複合体であって、当該複合体は、重量で15~85%のケイ素、および0.05~0.5cm3/gの範囲の窒素アクセス不能な容積を有し、ヘリウムピクノメトリーによって測定して、1.5~2.2g/cm3の範囲の粒子骨格密度を有する複数の粒子を含んでなると開示されている。また特許文献2には、40~60%のミクロ細孔、40~60%のメソ細孔、1%未満のマクロ細孔、および0.1~0.5cm3/g未満の総細孔容積を有する多孔質炭素足場が開示されており、ケイ素含有量が25%~65%の範囲である複合体も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許10424786号
【文献】特表2018-534720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2において開示された多孔質炭素は、メソ孔を含んでいるため、メソ孔にSiの塊が生じやすい。Siの塊はリチウムイオン二次電池の負極材としては劣化が激しい。また、特許文献1において開示された多孔質炭素は、マイクロ孔の中でも細孔径が非常に小さい細孔を含んでいる。このような細孔にはSiが入り込めないため、高容量の負極材が得られない。
【0008】
このように、多孔質炭素にメソ孔や非常に小さい細孔が多いと、高容量が得られないという問題があるが、これらを解決しうる、新たなリチウムイオン二次電池用負極材を提供することが、本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討した結果、所定の要件を満たすことで、上記課題を十分に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の構成は以下のとおりである。
[1]多孔質炭素(A)とSi含有化合物(B)とを含む複合体(C)を含み、前記多孔質炭素(A)および前記Si含有化合物(B)が、以下であるリチウムイオン二次電池用負極材;
前記多孔質炭素(A)が、窒素吸着試験において、
相対圧P/P0が最大値のときの全細孔容積をV0(P0は飽和蒸気圧)、
相対圧P/P0=0.1のときの累計細孔容積をV1、
相対圧P/P0=10-7のときの累計細孔容積をV2としたとき、
V1/V0>0.80かつ、V2/V0<0.10であり、
BET比表面積が800m2/g以上であり、
前記Si含有化合物(B)は前記多孔質炭素(A)の細孔内に含まれてなる。
[2]前記多孔質炭素(A)は、窒素吸着試験において、
相対圧P/P0=10-2のときの累計細孔容積をV3としたとき、V3/V0>0.50である[1]のリチウムイオン二次電池用負極材。
[3]前記多孔質炭素(A)は、窒素吸着試験における全細孔容積V0が、0.4cm3/g以上1.0cm3/g未満である、[1]または[2]のリチウムイオン二次電池用負極材。
[4]前記複合体(C)はレーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%粒子径(DV50)が2.0μm以上30.0μm以下であり、10%粒子径(DV10)が1.0μm以上であり、BET比表面積が0.5m2/g以上40.0m2/g以下である、前項[1]~[3]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[5]前記複合体(C)は、平均アスペクト比が1.00以上2.50以下である、前項[1]~[4]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[6]前記Si含有化合物(B)は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭化物から選択される一種以上である、前項[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[7]前記複合体(C)におけるSi含有率が、15質量%以上85質量%以下である、前項[1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[8]前記多孔質炭素(A)の全細孔容積V0に対し、Siの真密度が2.32g/cm3としたとき、前記多孔質炭素(A)の全細孔をSiが占有したときのSi含有率の理論値(理論Si含有率)を
理論Si含有率(%)=(V0[cm3/g]×1[g]×2.32[g/cm3])/((V0[cm3/g]×1[g]×2.32[g/cm3])+1[g])×100
から求めたとき、
前記複合体(C)におけるSi含有率が、当該理論値に対して、15%以上95%以下である、前項[1]~[7]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[9]前記複合体(C)のラマン分光分析法によって測定される470cm-1付近のピーク強度(ISi)と1580cm-1付近のピーク強度(IG)に関して、(ISi/IG)が0.30未満である、前項[1]~[8]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[10]前記複合体(C)のラマン分光分析法によって測定される1580cm-1付近のピーク強度(IG)と1350cm-1付近のピーク強度(ID)に関して、(ID/IG)が0.50以上1.50未満である、前項[1]~[9]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[11]前記複合体(C)のCu-Kα線を用いたXRDパターンにおいて、Siの111面のピークの半値幅が3.00°以上である、前項[1]~[10]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[12]前記複合体(C)の表面の一部または全体に、さらに無機粒子およびポリマーが存在し、無機粒子が黒鉛とカーボンブラックから選択される1種以上を含み、ポリマーの含有率が0.1~10.0質量%であるポリマーコート複合体粒子を含む、[1]~[11]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
[13]シート状集電体および前記集電体を被覆する負極層を有し、前記負極層はバインダー、および前項[1]~[12]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む、負極シート。
[14]前項[13]に記載の負極シートから構成されてなる負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材によれば、Siが複合体(C)中に均一かつ高濃度に分布し、Siの塊がなく、Siが入り込めない細孔が少ないので、高容量なリチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材のSEM-EDXの評価結果を示す図である。
【
図2】実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材のSEM-EDXの評価結果を示す図である。
【
図3】比較例1のリチウムイオン二次電池用負極材のSEM-EDXの評価結果を示す図である。
【
図4】比較例2のリチウムイオン二次電池用負極材のSEM-EDXの評価結果を示す図である。
【
図5】実施例3および4の多孔質炭素(A)の吸着等温線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の一実施形態について具体的に説明する。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、特定の多孔質炭素(A)とSi含有化合物(B)とを含む複合体(C)を含み、かつSi含有化合物(B)は多孔質炭素(A)の細孔内に含まれてなる。
【0013】
<1>多孔質炭素(A)
多孔質炭素(A)は窒素吸着試験において、
相対圧P/P0が最大値のときの全細孔容積をV0(P0は飽和蒸気圧)、
相対圧P/P0=0.1のときの累積細孔容積をV1、
相対圧P/P0=10-7のときの累積細孔容積をV2としたとき、
V1/V0>0.80かつ、V2/V0<0.10であり、
BET比表面積が800m2/g以上である。
【0014】
炭素質材料の細孔分布を調べるには、例えばガス吸着法による吸着等温線を公知の方法で解析する。測定における吸着ガスは、本実施形態では窒素ガスである。すなわち窒素吸着試験を行う。
【0015】
窒素吸着試験によって得られる吸着等温線は、横軸に相対圧、縦軸に吸着ガスの吸着量を示した曲線である。より低い相対圧においては、より小さい直径を有する細孔に吸着ガスが吸着する。本明細書においては、P/P0≦0.1の範囲での窒素吸着体積に対応する細孔をマイクロ孔、0.1<P/P0≦0.96の範囲での窒素吸着体積に対応する細孔をメソ孔、0.96<P/P0の範囲での窒素吸着体積に対応する細孔をマクロ孔と定義する。吸着等温線から一義的に細孔径を決定することは難しいが、一般的な定義によれば、『メソ孔』は、約2nm~約50nmの直径を有する細孔であり、『マイクロ孔』は、約2nm未満の直径を有する細孔であり、『マクロ孔』とは約50nmよりも大きい直径を有する細孔である。
【0016】
相対圧P/P0の最大値とは、窒素吸着試験に用いる測定装置、条件において、到達しうる最大の窒素ガスの圧力と当該条件下での窒素ガスの飽和蒸気圧P0との比である。相対圧P/P0の最大値は、理論的には1であるが、測定装置の制約等により、1に到達できない場合もあるので、相対圧P/P0の最大値は、0.985以上、1以下であればよい。
【0017】
前記V0は標準状態(0℃、1atm)における全細孔容積[cm3/g]を表し、前記V1は、標準状態(0℃、1atm)におけるマイクロ孔の体積[cm3/g]の総和を表し、V2は、標準状態(0℃、1atm)における非常に小さいマイクロ孔の体積[cm3/g]を表している。したがって、V1/V0が0.80よりも大きいことは、全細孔に占めるマイクロ孔の比率が大きいことを意味し、同時にメソ孔やマクロ孔の比率は小さいことを意味する。メソ孔やマクロ孔の比率が小さいことにより、Si含有化合物(B)を細孔内に析出させる際に、メソ孔やマクロ孔の大きさを持つSi含有化合物(B)が複合体(C)中に形成される割合が減る。すなわち、Si含有化合物(B)の塊を少なくできる。この観点から、V1/V0は0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。
【0018】
V2/V0が0.10よりも小さいことは、Si含有ガスが入り込めないほどの、非常に小さいマイクロ孔の存在比率が小さいことを意味する。このため、Si含有化合物(B)が析出していない細孔が多数あることにより、電池容量が低いという事態を防ぐことができる。なお『非常に小さいマイクロ孔』はHorvath-Kawazoe法(HK法)によるところの、0.41nm程度以下の直径を有する細孔を意味する。この観点から、V2/V0は0.095以下であることが好ましく、0.09以下であることがより好ましい。
【0019】
また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材では、多孔質炭素(A)は窒素吸着試験において、相対圧P/P0=10-2のときの累計細孔容積をV3としたとき、V3/V0>0.50であることが好ましい。より好ましくは、V3/V0≧0.60、更に好ましくはV3/V0≧0.70である。
【0020】
V3は、相対圧P/P0が10-2以下の範囲での窒素吸着体積に対応する直径を持つ細孔の、標準状態(0℃、1atm)における容積の総和[cm3/g]を表している。ここで、この細孔の直径よりも小さい直径を持つ細孔には、Si含有化合物(B)は析出しにくいと考えられる。V3/V0が上記の範囲内であると、複合体(C)はSi含有化合物(B)が析出していない細孔を一定割合で含むことができる。これにより、リチウムが挿入・脱離した際に、前記Siが析出していない細孔がSi含有化合物(B)の膨張・収縮による体積変化を吸収するので、複合体(C)全体としての膨張・収縮が抑制され、ひいては電極の膨張も抑えられる。このため、リチウムイオン二次電池の長期使用による耐久性を向上できる。
【0021】
一方で、V3/V0が大きくなりすぎると、Siがより析出しにくくなる。そのため、好ましくは、V3/V0<0.90である。
本実施形態では、前記多孔質炭素(A)は、窒素吸着試験における全細孔容積V0が、0.4cm3/g以上1.0cm3/g未満であることが好ましく、0.7cm3/g以上1.0cm3/g未満であることがより好ましい。このような範囲内のV0を持つ多孔質炭素(A)を用いると、Si含有率を高くすることができるため、複合体(C)へのリチウムの挿入量を多くすることができる。なお、全細孔容積V0は、窒素吸着試験において、0.985以上1.000以下の範囲で得られた最大のP/P0のときの、多孔質炭素(A)に吸着された窒素ガスの累計体積に、0℃、1atm、1cm3の窒素ガスの、77Kの液体状態での体積[cm3/cm3]を乗じることで算出される値である。
【0022】
前記多孔質炭素(A)はBET比表面積が800m2/g以上である。このようなBET比表面積であることにより、前記多孔質炭素(A)の内部表面および外部表面にSiを多量に析出させることができるので、負極材として十分に高い比容量を得ることができる。この観点から、前記多孔質炭素(A)のBET比表面積は900m2/g以上が好ましく、1000m2/g以上がより好ましい。
【0023】
BET比表面積は前述した吸着等温線からBET法を用いて算出される値を用いる。なお、算出する際に使用する吸着等温線のデータ範囲の設定は公知の方法に従う。
複合体(C)を得た後であっても、適切な条件を選定することにより、Si化合物(B)を複合体(C)の細孔内および表面から溶出させ、担体である多孔質炭素(A)を複合化前と同じ不純物濃度、および細孔分布、比表面積の状態で回収することができる。これにより、複合体(C)の状態からでも、多孔質炭素(A)の物性値を調べることができる。例えば、窒素吸着試験により、上記V0、V1、V2、V3、およびBET比表面積を調べることができる。
【0024】
上記適切な条件の例としては、50℃の温度で0.5mol/LのKOH水溶液中で1~5日間、複合体(C)を攪拌し、1日おきに真空引きを実施し、その後、ろ過、洗浄、乾燥することが挙げられる。
【0025】
前記多孔質炭素(A)は、体積基準累積粒度分布における50%粒子径、DV50が2.0μm以上であることが好ましい。DV50はレーザー回折法によって測定することができる。前記多孔質炭素(A)のDV50が2.0μm以上であれば、炭素被覆Si-C複合粒子の粉体がハンドリング性に優れ、塗工に適した粘度や密度のスラリーを調製しやすく、また電極とした際の密度が上げやすい。この観点から、DV50は3.0μm以上であることがより好ましく、5.0μm以上であることがさらに好ましい。
【0026】
前記多孔質炭素(A)のDV50は30.0μm以下であれば、1つ1つの粒子におけるリチウムの拡散長が短くなるためリチウムイオン電池のレート特性が優れるほか、スラリーとして集電体に塗工する際に筋引きや異常な凹凸を発生しない。この観点から、DV50は25.0μm以下がより好ましく、20.0μm以下がさらに好ましい。
【0027】
前記多孔質炭素(A)は、平均アスペクト比が1.00以上であり、2.50以下であることが好ましい。平均アスペクト比が1.00に近いと、前記多孔質炭素(A)はより球状に近くなる。
【0028】
前記多孔質炭素(A)の平均アスペクト比が前記範囲にあればSiのリチウム挿入・脱離に伴う膨張・収縮によりリチウムイオン二次電池用負極材が膨張・収縮しても、その方向が等方的になるため、サイクル特性がよくなり、シリコン源のシランガスが多孔質カーボン内部に効率的に入り込みやすくなるとともに、多孔質炭素(A)自体のハンドリング性もよい。
【0029】
本実施形態では、アスペクト比は、前記多孔質炭素(A)の走査型電子顕微鏡(SEM)による像を画像解析ソフトで解析し、前記多孔質炭素(A)の形状を、最も相関係数の高い楕円形に近似した際の長径と短径の比と定義する。このような解析をSEM写真からランダムに選び出した100個の多孔質炭素(A)の粒子に対して行い、それぞれ得られたアスペクト比を平均したものを、平均アスペクト比と定義する。画像解析ソフトとしては、例えばImage J(アメリカ国際衛生研究所製)などがある。
【0030】
多孔質炭素(A)の形状は特に制限されず、球状、円柱状、角柱状、多面体状などいずれの形状でも採用できる。
【0031】
<2>Si含有化合物(B)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極材は、Si含有化合物(B)を含む。前記Si含有化合物(B)はシリコンを含んでいれば特に制限されないが、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭化物から選択される一種以上である。好ましくは、シリコン単体、シリコン酸化物から選択される一種以上である。シリコン酸化物の例としては、SiOx(0<x≦2)が挙げられる。
【0032】
前記Si含有化合物(B)が上記のような化合物を含んでいることは、例えば複合体(C)の断面のSEM-EDX測定などから明らかにすることができる。
【0033】
<3>複合体(C)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極材は、複合体(C)を含む。前記複合体(C)は前記多孔質炭素(A)と前記Si含有化合物(B)を含む。前記複合体(C)は、前記多孔質炭素(A)の所定の細孔内に前記Si含有化合物(B)を含むという構造をとる。このような構造をとることにより、前記負極材は、リチウムイオン二次電池用負極材として優れたサイクル特性を有することができる。
【0034】
前記Si含有化合物(B)は、前記複合体(C)の表面に存在していてもよい。
複合体(C)の断面のSEM-EDX測定を行えば、複合体(C)の細孔内にSi元素が存在しているかどうか、や複合体(C)の表面にSi元素が存在しているかどうか、を確認することができる。
【0035】
前記複合体(C)におけるSi含有率は、15質量%以上であることが好ましい。Si含有率が15質量%以上であることにより、複合体(C)は高い比容量を持つことができる。この観点から、Si含有率は20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
比容量とは、活物質がやり取りした電気量を活物質の質量で除したものである。通常はハーフセルにおいて得られる容量を、用いた活物質の質量で除することによって求めることができる。
【0037】
前記複合体(C)におけるSi含有率は85質量%以下であることが好ましい。85質量%以下にすることにより、担体となっている多孔質炭素(A)によってその膨張・収縮による体積変化を十分に吸収させることができる。この観点から、前記Si含有率は80質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
本明細書において、『Si含有率』とは、前記複合体(C)の質量に占めるシリコン元素の質量を百分率で表したものである。前記複合体(C)におけるSi含有率は、前記複合体(C)を、ファンダメンタル・パラメーター法(FP法)等を用いた蛍光X線分析によって測定することができる。
【0039】
前記多孔質炭素(A)1g当たりの細孔容積の総和は、全細孔容積V0を用いて、V0 cm3と表される。これが全てSiで占有されたとすると、V0 cm3分の質量のSiが複合体(C)には含まれることになる。この場合、多孔質炭素(A)1gに対する理論的なSiの最大担持量は、Siの真密度を2.32g/cm3とすると、V0×1×2.32gとなる。
【0040】
したがって、このときのSi含有率を『理論Si含有率』と呼ぶことにすると、
理論Si含有率(%)=(V0[cm3/g]×1[g]×2.32[g/cm3])/((V0[cm3/g]×1[g]×2.32[g/cm3])+1[g])×100
となる。
【0041】
本実施形態に係る複合体(C)におけるSi含有率は、当該理論値に対して、15%以上95%以下であることが好ましい。前記Si含有率が前記理論値に対してこのような範囲の値であることにより、前記複合体(C)は十分な比容量を有し、かつ、Siの膨張・収縮を吸収するための空隙を有するため、サイクル特性に優れる。
【0042】
Siは、ラマン分光分析法によって測定されるラマンスペクトルにおいて、それによるピークが460~490cm-1に存在する。本明細書では、このピークの強度をISiと表記する。好ましくは460~490cm-1にピークが存在することが好ましく、510~530cm-1にピークが存在しないことがさらに好ましい。1350cm-1付近のピーク強度をID、1590cm-1付近にピーク強度をIGとする。ピーク強度はベースラインを補正した後に、ベースラインからピーク頂点までの高さとする。1350cm-1付近のピークと1590cm-1付近のピークは炭素由来である。
【0043】
本実施形態に係る前記複合体(C)は、ピーク強度(ISi)とピーク強度(IG)の比(ISi/IG)が0.30未満であることが好ましい。ラマンスペクトルにおいてSiのピークが現れていることは、複合体(C)の表面近傍にSiが堆積していることを示すが、前記(ISi/IG)が0.30未満であれば、Siは多孔質炭素(A)の細孔内部に主に堆積し、多孔質炭素(A)の粒子の表面にはほとんど析出していないことになり、このことは、Siが電解液と直接接触しないという点、Siの膨張・収縮を多孔質炭素(A)が吸収するという点で、サイクル特性の向上につながる。同様の観点からISi/IGは0.25以下であることがより好ましく、0.20以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態に係る複合体(C)は、体積基準の累積粒度分布における50%粒子径DV50は2.0μm以上であることが好ましい。2.0μm以上であれば、粉体がハンドリング性に優れ、塗工に適した粘度や密度のスラリーを調製しやすく、また電極とした際の密度が上げやすい。この観点から、DV50は3.0μmがより好ましく、4.0μm以上がさらに好ましい。
【0045】
本実施形態に係る複合体(C)のDV50は、30.0μm以下であることが好ましい。30.0μm以下であれば、1つ1つの粒子におけるリチウムの拡散長が短くなるためリチウムイオン電池のレート特性が優れるほか、スラリーとして集電体に塗工する際に筋引きや異常な凹凸を発生しない。この観点から、DV50は27.5μm以下がより好ましく、25.0μm以下がさらに好ましい。
【0046】
本実施形態に係る複合体(C)のDV10は、1.0μm以上であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることがさらに好ましい。1.0μm以上であれば複合体(C)の凝集が起こりにくく、スラリーとして集電体に塗工する際に筋引きや異常な凹凸を発生しない。
【0047】
DV50、DV10はレーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%粒子径(DV50)および10%粒子径(DV10)を示す。
本実施形態に係る複合体(C)は、BET比表面積が40.0m2/g以下であることが好ましい。40.0m2/g以下であれば、副反応である電解液の分解反応が起こりづらく、クーロン効率を高くできる。この観点から、BET比表面積が35.0m2/g以下であることがより好ましく、30.0m2/g以下であることがさらに好ましい。
【0048】
BET比表面積は0.5m2/g以上であることが好ましい。0.5m2/g以上であれば、リチウムの挿入・脱離が容易になりサイクル特性を高くできる。この観点から、BET比表面積は1.0m2/g以上であることがより好ましく、1.5m2/g以上であることがさらに好ましい。BET比表面積の測定方法は実施例に記載の方法で行うことができる。
【0049】
本実施形態に係る複合体(C)は、平均アスペクト比が1.00以上であり、2.50以下であることが好ましい。
複合体(C)の平均アスペクト比が前記範囲にあれば、Siのリチウム挿入・脱離に伴う膨張・収縮によりリチウムイオン二次電池用負極材が膨張・収縮しても、その方向が等方的になるため、サイクル特性がよくなり、シリコン源のシランガスが多孔質カーボン内部に効率的に入り込みやすくなるとともに、複合体(C)自体のハンドリング性もよい。
【0050】
本明細書においてアスペクト比は、前記複合体(C)の走査型電子顕微鏡(SEM)による像を画像解析ソフトで解析し、前記複合体(C)の形状を、最も相関係数の高い楕円形に近似した際の長径と短径の比と定義する。このような解析をSEM写真からランダムに選び出した100個の複合体(C)の粒子に対して行い、それぞれ得られたアスペクト比を平均したものを、平均アスペクト比と定義する。画像解析ソフトとしては、例えばImage J(アメリカ国際衛生研究所製)などがある。
【0051】
本実施形態に係る複合体(C)は、ラマンスペクトルにおける1350cm-1付近のピーク強度(ID)と1580cm-1付近のピーク強度(IG)の比であるR値(ID/IG)が、0.50以上であることが好ましい。R値が0.50以上であると、反応抵抗が十分に低いので、電池のクーロン効率の向上につながる。この観点から、R値は0.60以上であることがより好ましく、0.70以上であることがさらに好ましい。
【0052】
R値は1.50未満であることが好ましい。R値が1.50未満であることは、複合体(C)表面に欠陥が少ないことを意味し、副反応が低減されるため初回クーロン効率が向上する。この観点から、R値は1.40以下であることがより好ましく、1.30以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本実施形態に係る複合体(C)は、Cu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、Siの111面のピークの半値幅が3.00°以上であることが好ましい。前記半値幅が3.00°以上であると結晶子の大きさが小さくアモルファス性が高いことになり、充放電に伴うSi粒子の割れの抑制につながるため、サイクル特性を良好にすることができる。この観点から、Siの111面のピークの半値幅は3.50°以上であることがより好ましく、4.00°以上であることがさらに好ましい。
【0054】
本実施形態に係る複合体(C)は、Cu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)が0.01以下であることが好ましい。これにより、複合体(C)中にはSiC(炭化ケイ素)が含まれていない、あるいはSiCの含有量が極めて低いことになるため、Siの電池活物質としての利用率が向上し、初回放電容量を高くできる。なお、前記(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)を、ISiC111/ISi111とも表記する。ISiC111/ISi111の下限は0である。すなわち、SiCのピークが観察されないことがより好ましい。ここで、用語『ピーク強度』は、ベースラインを補正した後の、ベースラインからピーク頂上までの高さのことを指す。
【0055】
<4>複合体(C)の製造方法
本実施形態に係る複合体(C)は、例えば下記工程(1)および(2)により製造することができる。
【0056】
工程(1):窒素吸着試験において、
相対圧P/P0が最大値のときの全細孔容積をV0、
相対圧P/P0=0.1のときの累計細孔容積をV1、
相対圧P/P0=10-7のときの累計細孔容積をV2としたとき、
V1/V0>0.8かつ、V2/V0<0.1であり、
BET比表面積が800m2/g以上である
多孔質炭素(A)を用意する工程。
【0057】
工程(2):加熱した前記多孔質炭素にシランガスなどのSi含有ガスを作用させて、多孔質炭素の表面および細孔内にSi含有化合物(B)を析出させ、多孔質炭素とSiを含む複合体(C)を得る工程。
【0058】
(工程(1))
上記の多孔質炭素(A)の製造方法は、例えば前記V0、V1、V2、V3、BET比表面積の変化を調べながら、樹脂や有機物を熱分解する条件を調整することや、カーボンブラックなどの炭素質材料に酸化処理や賦活処理等を施し、前記特徴を持つように調製することが挙げられる。炭素前駆体としては、特許文献2に挙げられているものを自由に用いることができるが、好ましくはフェノール樹脂や、レゾルシノールとホルムアルデヒドの共重合体である。炭化に先立ち、前記樹脂を150℃~300℃で1~6時間熱処理し、硬化させてもよい。また硬化の後、樹脂を解砕し、0.5~5.0mm程度の粒子径にしてもよい。
【0059】
好ましくは、上記の樹脂を、400℃~1100℃の温度で、1~20時間、不活性雰囲気中で保持することにより、炭化を行うことで製造できる。
賦活処理は、得られた炭化物に対して窒素吸着試験を行い、細孔分布やBET比表面積の値が望ましいものでない場合、必要に応じて行う。前記炭化物を不活性雰囲気下で昇温し、800℃~1100℃にし、その後CO2ガスに切り替え、1~20時間その温度を保持する。この処理により、炭化物には細孔がより発達する。
【0060】
得られた賦活物の細孔分布やBET比表面積を調べ、これを調整するために、さらにArなどの不活性ガス中で熱処理を行ってもよい。温度は1000℃~2000℃で、1~20時間保持する。この処理により、細孔が小さくなり、所望のV0、V1、V2、V3、BET比表面積を持った多孔質炭素(A)が得られる。
【0061】
あるいは、所望の物性値を持った市販の活性炭を購入してもよい。
(工程(2))
工程(2)は、加熱した多孔質炭素(A)にSi含有ガス、好ましくはシランガスを作用させて、前記多孔質炭素(A)の表面および細孔内で前記Si含有ガスの熱分解が起きることでSi含有化合物(B)を前記多孔質炭素(A)の表面および細孔内に析出させ、前記複合体(C)を得る、CVD工程である。
【0062】
例えば多孔質炭素をCVD装置のチャンバー内に置き、加熱した状態で多孔質炭素にシランガスを作用させると、多孔質炭素の細孔の内部にシランが入り込み、これがさらに熱分解することにより、多孔質炭素の細孔内にSiを析出させることができる。このための方法として、例えば特許文献1に示された装置や方法を用いることができる。
【0063】
多孔質炭素(A)の表面においてもシランの分解は起き、Siは析出する。一般に、多孔質炭素(A)の細孔の表面積は外部の面積よりもはるかに大きいため、多孔質炭素(A)の細孔内に析出するSiが圧倒的に多いが、Siの担持量を上げたときや、より高温での処理においては、多孔質炭素(A)の表面での析出が顕著になることがある。
【0064】
用いられるSi含有ガスとしては、上に挙げたシラン以外に、例えばジシラン、トリシラン等が挙げられる。また、Si含有ガスにはその他のガスが含まれていてもよく、例えばキャリアガスとして、窒素ガス、アルゴン、ヘリウム、水素ガスといったガスを混合してもよい。ガス組成比、ガス流量、温度プログラム、固定床/流動床の選定といったCVDの諸条件については、生成物の性情を見ながら、適宜調整される。
【0065】
シランガスを用いた場合については、処理温度は360℃~450℃、より好ましくは370℃~420℃、さらにより好ましくは380℃~400℃で処理を行う。この温度範囲とすることで、多孔質炭素(A)の細孔内に効率的にSiを析出させることができ、複合体(C)を得ることができる。
【0066】
また、多孔質炭素の細孔内にSi含有化合物(B)を析出させ、前記複合体(C)を得た後に、酸素を含む不活性ガス雰囲気に接触させて、Si含有化合物(B)の表面を酸化してもよい。特に純Siは活性が高いため、表面を酸化することによって、複合体(C)の急激な変質を抑制できる。そのようなSi含有化合物(B)の表面の酸化に必要な酸素の量は、好ましくは、複合体(C)中のSi1モルに対し0.01~0.18モル程度である。
【0067】
上記、Si析出後または酸化後、複合体(C)粒子表面に別途コート層を形成してもよい。具体的には、炭素コートや無機酸化物コート、ポリマーコートが挙げられる。炭素コートの手法としては、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)や物理気相成長法(PVD:Physical Vapor Deposition)等が挙げられる。無機酸化物コートの手法としては、CVD、PVD、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)や湿式法等が挙げられる。湿式法は、無機酸化物の前駆体(金属のカルボン酸塩やアルコキシド)を溶媒に溶解や分散させた液体を用いて複合体(C)にコートし、熱処理等で溶媒を除去する方法を含む。ポリマーコートの種類としては、ポリマー溶液を用いてコートする方法や、モノマーを含むポリマー前駆体を用いてコートし、温度や光などを作用させてポリマー化する方法やそれらの組み合わせを用いてもよい。
無機酸化物は、Al、 Ti、 V、 Cr、 Mn、 Fe、 Co、 Ni、 Y、 Zr、 Mo、 Nb、 La、 Ce、 Ta、 Wの酸化物およびLi含有酸化物からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。
【0068】
コート層は単独であっても良いが、複数種の組み合わせでもよい。
複合体(C)粒子中のシリコンが炭素と反応して炭化ケイ素が生成するのを避けるために、コート時に温度を上げる場合は、800℃未満で処理することが好ましい。
【0069】
複合体(C)粒子の表面に設けたコート層は、粒子表面の分析を行うことによって調べるができる。例えば、SEM-EDS、オージェ電子分光法、X線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、顕微赤外分光法、顕微ラマン分光法などが挙げられる。
【0070】
コーティングの効果としては、例えば、以下に示すように、(1)前記複合体(C)内部のSi含有化合物(B)の経時酸化の抑制、(2)リチウムイオン二次電池における初回クーロン効率の増大、(3)同電池におけるサイクル特性の改善が挙げられる。
(1)前記複合体(C)内部のSi含有化合物(B)の経時酸化の抑制
前記複合体(C)を空気や酸素含有ガス雰囲気に曝した際には、時間の経過と共にSi含有化合物(B)が酸化していく。前記複合体(C)表面に前記コート層が存在することにより、前記複合体(C)内部への空気や酸素含有ガスの侵入を抑制することができる。
【0071】
(2)リチウムイオン二次電池における初回クーロン効率の増大
リチウムイオン電池内部において、前記複合体(C)内部に最初にリチウムイオンが挿入された後、前記複合体(C)表面、あるいは前記複合体(C)へのリチウムイオン侵入口に電解液分解物被膜(SEI<Solid Electrolyte Interface>被膜)が形成されると、前記複合体(C)中の閉塞した細孔から脱離できないリチウムイオンが存在するため、初回クーロン効率が低下する。2回目以降のリチウムイオン挿入時にはSEI被膜が存在するので、前記複合体(C)にトラップされるリチウムイオンの比率は大きく低下する。ここで、前記複合体(C)表面にコート層が存在すると、SEI被膜で閉塞しやすい細孔へのリチウムイオン挿入が防げられることにより、初回クーロン効率が改善する。
【0072】
(3)リチウムイオン二次電池におけるサイクル特性の改善
リチウムイオン電池において、充放電を繰り返すと、前記複合体(C)中のSi含有化合物(B)は電解液の成分元素であるフッ素と反応し、シリコンフッ化物として溶出すると考えられる。Si含有化合物(B)が溶出すると前記複合体(C)の比容量が低下してしまう。前記複合体(C)表面にコート層が存在すると、Si含有化合物(B)の溶出が抑制され、複合体(C)の容量低下が抑制されるため、サイクル特性が改善される。
【0073】
<5>ポリマーコート複合体
本実施形態では、前記複合体(C)の表面の少なくとも一部に、無機粒子およびポリマーが存在していてもよい。このような複合体(C)を本明細書では「ポリマーコート複合体」と呼ぶことがある。
【0074】
<5-1>無機粒子
無機粒子としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化イットリウム、酸化アルミニウムなどの金属酸化物や、チタン酸リチウムなどのリチウム含有酸化物、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックなどの炭素を主成分とする導電性粒子が挙げられる。これらは二種類以上を選択して使用することができる。無機粒子は、サイクル特性を向上させる点から、複合体(C)表面に存在していればよく、存在の有無は走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したときに、突起状物の付着で確認できる。無機粒子の含有率は複合体(C)全体の1.0質量%~10.0質量%であることが好ましく、2.0質量%~9.0質量%であることがより好ましく、3.0質量%~8.0質量%であることがさらに好ましい。
【0075】
無機粒子の粒子径はポリマーコート複合体粒子の粒子径より小さいことが好ましく、1/2以下であることがより好ましい。無機粒子が複合体(C)の表面に存在しやすくなるためである。
【0076】
無機粒子としては、炭素を主成分とする導電性粒子がさらに好ましく、複合体(C)の電気伝導性を高めることができる。
導電性粒子の種類は、特に制限されない。例えば、粒状黒鉛及びカーボンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、サイクル特性向上の観点からは粒状黒鉛が好ましい。粒状黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛、MC(メソフェーズカーボン)等の粒子が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等が挙げられ、導電性の観点からはアセチレンブラックが好ましい。
【0077】
粒状黒鉛は、電池容量及び充放電効率がともに向上する点から結晶性が高いことが好ましい。具体的には、粒状黒鉛は、学振法に基づいて測定して得られる平均面間隔(d002)の値が0.335nm~0.347nmであることが好ましく、0.335nm~0.345nmであることがより好ましく、0.335nm~0.340nmであることがさらに好ましく、0.335nm~0.337nmであることが特に好ましい。粒状黒鉛の平均面間隔を0.347nm以下とすると、粒状黒鉛の結晶性が高く、電池容量及び充放電効率がともに向上する傾向がある。一方、黒鉛結晶の理論値は0.335nmであることから、粒状黒鉛の平均面間隔がこの値に近いと、電池容量及び充放電効率がともに向上する傾向がある。
【0078】
粒状黒鉛の形状は特に制限されず、扁平状黒鉛であっても球状黒鉛であってもよい。サイクル特性向上の観点からは、扁平状黒鉛が好ましい。
本開示において扁平状黒鉛とは、平均アスペクト比が1ではない、すなわち短軸と長軸が存在する黒鉛を意味する。扁平状黒鉛としては、鱗状、鱗片状、塊状等の形状を有する黒鉛が挙げられる。
【0079】
導電性粒子の平均アスペクト比は特に制限されないが、導電性粒子間の導通の確保しやすさ及びサイクル特性向上の観点からは、平均アスペクト比が3.3以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。導電性粒子の平均アスペクト比は、1000以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましい。
【0080】
導電性粒子の平均アスペクト比の定義は、複合体(C)に対するものと同じである。
導電性粒子は、一次粒子(単数粒子)であっても、複数の一次粒子から形成された二次粒子(造粒粒子)のいずれであってもよい。また、扁平状黒鉛は、多孔質状の黒鉛粒子であってもよい。
<5-2>ポリマー
ポリマーを含むことにより、複合体(C)の比表面積が低下し、電解液との反応が抑制されるため、充放電後の回復率が向上すると考えられる。
【0081】
ポリマーの含有率は、複合体(C)全体中に0.1質量%~10.0質量%であることが好ましい。前記の範囲内であると、導電性の低下を抑制しつつ充放電後の回復率の向上の効果が充分得られる傾向にある。複合体(C)中のポリマーの含有率は、0.2質量%~7質量%であることが好ましく、0.2質量%~5.0質量%であることがより好ましい。
【0082】
複合体(C)のポリマーの含有量は、例えば、充分に乾燥させたポリマーコート複合体を、ポリマーが分解する温度以上で、かつ複合体(C)及び無機粒子が分解する温度よりも低い温度(例えば300℃)に加熱して、ポリマーが分解した後の複合体(C)の質量を測定することで確認することができる。具体的には、加熱前の複合体(C)の質量をAg、加熱後の複合体(C)の質量をBgとした場合に(A-B)がポリマーの含有量である。含有率は{(A-B)/A}×100で算出できる。
【0083】
上記測定は熱重量測定(TG:Thermogravimetry)を用いても実施できる。測定に必要なサンプルが少量でよく、また高精度に測定できるので好ましい。
ポリマーの種類は、特に制限されない。例えば、多糖類、セルロース誘導体、動物性水溶性ポリマー、リグニンの誘導体及び水溶性合成ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0084】
多糖として具体的には、酢酸デンプン、リン酸デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン等のヒドロキシアルキルデンプン類などのデンプンの誘導体、デキストリン、デキストリンの誘導体、シクロデキストリン、アルギン酸、アルギン酸の誘導体、アルギン酸ナトリウム、アガロース、カラギーナン、キシログルカン、グリコーゲン、タマリンドシードガム、プルラン、ペクチン等が挙げられる。
【0085】
セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
動物性水溶性ポリマーとして、カゼイン、ゼラチン等が挙げられる。
【0086】
水溶性合成ポリマーとしては、水溶性アクリルポリマー、水溶性エポキシポリマー、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリエーテル等が挙げられ、より具体的には、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルスルホン酸塩、ポリ4-ビニルフェノール、ポリ4-ビニルフェノール塩、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアニリンスルホン酸、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。ポリマーは金属塩、アルキレングリコールエステル等の状態で使用してもよい。
【0087】
本実施形態では、ポリマーは、第一成分として多糖、セルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン及び水溶性ポリエーテルからなる群より選ばれる1つ以上と、第二成分として単糖、二糖、オリゴ糖、アミノ酸、没食子(もっしょくし)酸、タンニン、サッカリン、サッカリンの塩及びブチンジオールからなる群より選ばれる1つ以上とを含むことが好ましい。本実施形態において多糖は単糖分子が10個以上結合した構造を有する化合物を意味し、オリゴ糖は単糖分子が3個~10個結合した構造を有する化合物を意味する。
【0088】
多糖類として具体的には、前述した多糖類が挙げられる
セルロース誘導体として具体的には、前述したセルロース誘導体が挙げられる。
水溶性ポリエーテルとして具体的には、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0089】
単糖として具体的には、アラビノース、グルコース、マンノース、ガラクトース等を挙げることができる。
二糖として具体的には、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロース等を挙げることができる。
【0090】
オリゴ糖として具体的には、ラフィノース、スタキオース、マルトトリオース等を挙げることができる。
アミノ酸として具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン、グリシルグリシン等を挙げることができる。
【0091】
タンニンとして具体的には、茶カテキン、柿カテキン等を挙げることができる。
第一成分は多糖の少なくとも1種を含むことが好ましく、デンプン、デキストリン及びプルランからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。第一成分は、複合体(C)の表面の一部又は全部を被覆するように存在することでその比表面積を低下させると考えられる。その結果、複合体(C)と電解液との反応が抑制されサイクル性能を向上できる。
【0092】
第二成分は二糖及び単糖からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、マルトース、ラクトース、トレハロース及びグルコースからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。第二成分は、第一成分中に取り込まれ、第一成分から形成される沈殿膜の水又は電解液への溶解性を抑制すると考えられる。第二成分を併用することにより、複合体(C)の表面に強くコートすることができ、また、無機粒子の結着力も向上できる。そのため、サイクル特性を向上させることができる。
【0093】
同じ観点で、ポリマーが第一成分と第二成分とを含む場合、その質量比(第一成分:第二成分)は1:1~25:1であることが好ましく、3:1~20:1であることがより好ましく、5:1~15:1であることがさらに好ましい。
【0094】
複合体(C)の表面の一部又は全部にポリマーを存在させる方法は特に制限されない。例えば、ポリマーを溶解又は分散させた液体に、無機粒子を分散させ、複合体(C)を入れ、必要に応じて撹拌することにより、ポリマーを複合体(C)に付着させることができる。その後、ポリマーが付着した複合体(C)を液体から取り出し、必要に応じて乾燥することで、ポリマーが表面に付着した複合体(C)を得ることができる。
【0095】
撹拌時の溶液の温度は特に制限されず、例えば5℃~95℃から選択することができる。溶液を加温する場合は、溶液に用いる溶媒が留去することにより、溶液濃度が変化する可能性がある。それを避けるためには、閉鎖系の容器内で前記溶液を調製するか、または溶媒を還流する必要がある。均一にポリマーを複合体(C)の表面の一部又は全部に存在させることができれば、溶媒を留去しながら処理してもよい。複合体(C)の性能を損なわない限り、撹拌雰囲気は特に制限されない。
【0096】
乾燥時の温度は、ポリマーが分解して留去しない限り特に制限されず、例えば50℃~200℃から選択することができる。不活性雰囲気での乾燥や、真空下での乾燥を実施してもよい。
【0097】
溶液中のポリマーの含有率は特に制限されず、例えば0.1質量%~20質量%から選択することができる。
溶液に用いる溶媒は、ポリマー及びポリマーの前駆体を溶解、分散可能な溶媒であれば用いることができる。例えば、水、アセトニトリルやメタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル類など溶媒として使用されるものが挙げられ、これらのうちの2種以上を混合して使用してもよい。また、必要に応じて、酸や塩基を加えて溶液のpHを調整してもよい。酸や塩基は公知の物を選択して使用することができる。
<6>リチウムイオン二次電池用負極材
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、前記複合体(C)を含む。また、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材は、前記複合体(C)を以外の成分を含んでもよい。例えば、複合体(C)を被覆する炭素質層や金属酸化物層が挙げられる。
【0098】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材として、本実施形態の複合体(C)を単独で使用してもよいが、他の負極材を一緒に用いてもよい。他の負極材を一緒に用いる場合には、通常は複合体(C)と、他の負極材を混合して用いる。他の負極材としては、リチウムイオン二次電池の負極材として一般的に用いられるものが挙げられる。例えば黒鉛、ハードカーボン、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)や、シリコン(Si)、スズ(Sn)などの合金系負極活物質およびその複合材料等が挙げられる。これらの負極材は通常粒子状のものが用いられる。複合体(C)以外の負極材としては、一種を用いても、二種以上を用いてもよい。その中でも特に黒鉛やハードカーボンが好ましく用いられる。本明細書において『負極材』とは、負極活物質、あるいは、負極活物質とその他の材料との複合化物を指す。
<7>負極層、負極シート、負極
本発明に係る一実施形態の負極層は、前記<5>で述べたリチウムイオン二次電池用負極材とバインダーを含む。負極層において、前記複合体(C)は、負極材として機能する。特に、本実施形態の負極層は、リチウムイオン二次電池用の負極層として好ましく用いることができる。
【0099】
負極層の製造方法は、例えば以下に示すような公知の方法を用いることができる。負極材、バインダーおよび、溶媒を用い、負極合剤形成用のスラリーを調製する。スラリーを銅箔などのシート状集電体に塗工し、乾燥させる。これをさらに真空乾燥させた後、ロールプレスする。ロールプレスの際の圧力は通常は100~500MPaである。これにより得られたものは、シート状集電体および前記集電体を被覆する負極層を有し、本明細書では負極シートと呼ぶ。
【0100】
本実施形態に係る負極シートは、負極層とシート状集電体からなる。その後必要な形状および大きさに裁断し、あるいは打ち抜く。
リチウムイオン二次電池に組み入れる大きさや形状に整えられ、さらに必要に応じて、集電体に集電タブを取り付けた状態の負極シートを、本明細書では負極と呼ぶ。
【0101】
バインダーとしては、リチウムイオン二次電池の負極層において一般的に用いられるバインダーであれば自由に選択して用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。バインダーは一種を用いても、二種以上を混合して用いてもよい。バインダーの量は、負極材100質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部である。
【0102】
電極塗工用のスラリーを調製する際の溶媒としては、特に制限はなく、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、イソプロパノール(IPA)、テトラヒドロフラン(THF)、水などが挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することも好ましい。溶媒の量はスラリーが集電体に塗工しやすい粘度となるように調整することができる。
【0103】
本発明では、必要に応じて負極層中に導電助剤を含んでいてもよい。
導電助剤は、電極に対し電子伝導性や寸法安定性(リチウムの挿入・脱離に伴う体積変化を吸収する作用)を付与する役目を果たすものであれば特に限定されない。通常、導電性の炭素材料からなるものが使用され、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維(例えば、「VGCF(登録商標)-H」昭和電工株式会社製)、カーボンブラック(例えば、「デンカブラック(登録商標)」デンカ株式会社製、「SUPER C65」イメリス・グラファイト&カーボン社製、「SUPER C45」イメリス・グラファイト&カーボン社製、黒鉛(例えば、「KS6L」イメリス・グラファイト&カーボン社製、「SFG6L」イメリス・グラファイト&カーボン社製)などが挙げられる。これらは2種以上混合して使用してもよい。導電助剤の量は、負極料100質量部に対して、1~30質量部であることが望ましい。
【0104】
本実施形態では、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維を含むことが好ましく、これら導電助剤の繊維長は複合体粒子のDV50の1/2の長さ以上であることが好ましい。この長さであると複合体(C)あるいはポリマーコート複合体を含む負極材間にこれらの導電助剤が橋掛けし、サイクル特性を向上することができる。繊維径が15nm以下のシングルウォールタイプやマルチウォールタイプのカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーは、それよりも太いものに比べて、同量の添加量でより橋掛けの数が増えるために好ましい。また、これらはより柔軟であるため、電極密度を向上する観点からもより好ましい。
【0105】
<8>リチウムイオン二次電池
本発明に係る一実施形態のリチウムイオン二次電池は、前記負極層を含む。前記リチウムイオン二次電池は、通常は前記負極層および集電体からなる負極と、正極層および集電体からなる正極、その間に存在する非水系電解液および非水系ポリマー電解質の少なくとも一方、並びにセパレータ、そしてこれらを収容する電池ケースを含む。前記リチウムイオン二次電池は、前記負極を含んでいればよく、それ以外の構成としては、従来公知の構成を含め、特に制限なく採用することができる。
【0106】
正極層は通常、正極材、バインダーからなる。前記リチウムイオン二次電池における正極は、通常のリチウムイオン二次電池における一般的な構成を用いることができる。また、必要に応じて、正極層に導電助剤が含まれていてもよい。
【0107】
正極材としては、電気化学的なリチウム挿入・脱離が可逆的に行えて、これらの反応が負極反応の標準酸化還元電位よりも十分に高い材料であれば特に制限されない。例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiCo1/3Mn1/3Ni1/3O2、LiCo0.2Mn0.2Ni0.6O2、LiCo0.2Mn0.1Ni0.8O2、炭素被覆されたLiFePO4、またはこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0108】
本明細書において、『正極材』とは、正極活物質、あるいは、正極活物質とその他の材料の複合化物を指す。
導電助剤、バインダー、スラリー調製用の溶媒、導電助剤としては、前記<6>負極の項で挙げたものが用いられる。集電体としては、アルミニウム箔が好適に用いられる。
【0109】
リチウムイオン二次電池に用いられる非水系電解液および非水系ポリマー電解質は特に制限されない。例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、CH3SO3Liなどのリチウム塩を、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトンなどの非水系溶媒に溶かしてなる有機電解液が挙げられる。
【0110】
非水系ポリマー電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリメチルメタクリレートなどを含有するゲル状のポリマー電解質;エチレンオキシド結合を有するポリマーなどを含有する固体状のポリマー電解質が挙げられる。
【0111】
また、前記非水系電解液には、リチウムイオン二次電池の動作を補助する添加剤を加えてもよい。該物質としては、例えば分解反応が起こる、ビニレンカーボネート(VC)、ビフェニール、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルトン(ES)などが挙げられる。好ましくはVCおよびFECが挙げられる。添加量としては、前記非水電解液100質量%に対して、0.01~20質量%が好ましい。
【0112】
セパレータとしては、一般的リチウムイオン二次電池において用いることのできる物から、その組み合わせも含めて自由に選択することができ、ポリエチレンあるいはポリプロピレン製の微多孔フィルム等が挙げられる。またこのようなセパレータに、SiO2やAl2O3などの粒子をフィラーとして混ぜたもの、表面に付着させたセパレータも用いることができる。
【0113】
電池ケースとしては、正極および負極、そしてセパレータおよび電解液を収容できるものであれば、特に制限されない。通常市販されている電池パックや18650型の円筒型セル、コイン型セル等、業界において規格化されているもののほか、アルミ包材でパックされた形態のもの等、自由に設計して用いることができる。
【0114】
各電極は積層した上でパックして用いることができる。また、単セルを直列につなぎ、バッテリーやモジュールとして用いることができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、スマートホン、タブレットPC、携帯情報端末などの電子機器の電源;電動工具、掃除機、電動自転車、ドローン、電気自動車などの電動機の電源;燃料電池、太陽光発電、風力発電などによって得られる電力の貯蔵などに用いることができる。
【実施例】
【0115】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。物性値の測定および電池評価は下記のように行った。
[窒素吸着試験]
実施例、比較例で得た粒子の窒素吸着試験を、マイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-maxII(登録商標)により実施した。
吸着ガス:窒素ガス
前処理:真空下、400℃、3時間
測定相対圧(P/P0)下限:10-8オーダー
測定相対圧(P/P0)上限:0.990以上
BET比表面積は、相対圧0.005、0.007、0.010、0.020、0.050のBET多点法により計算した。
P/P0の最大値は0.993~0.999であった。
【0116】
[走査型電子顕微鏡(SEM)観察およびエネルギー分散型X線分析(EDX)による複合体(C)中のSi位置]
Siウエハにカーボン両面テープを貼り付け、複合体(C)をカーボンテープ上に担持した。カーボンテープ端面に担持した複合体(C)をクロスセッションポリッシャ(登録商標;日本電子株式会社製)にて粉末断面を研磨した。複合体(C)を研磨した面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(Regulus(登録商標)8220;株式会社日立ハイテク製)にて500~1,000倍で観察した。当該倍率にてエネルギー分散型X線分析(EDX)を実施した(SEM-EDX分析)。
【0117】
[粒度分布測定]
実施例、比較例で得た複合体(C)を極小型スパーテル1杯分、および、非イオン性界面活性剤(SIRAYA ヤシの実洗剤ハイパワー)原液(32質量%)の100倍希釈液2滴を水15mLに添加し、3分間超音波分散させた。この分散液をセイシン企業社製レーザー回折式粒度分布測定器(LMS-2000e)に投入し、体積基準累積粒度分布を測定し、10%粒子径DV10、50%粒子径DV50を決定した。
【0118】
[平均アスペクト比の測定、導電性粒子有無確認]
原料である多孔質炭素(A)あるいは実施例、比較例で得た複合体(C)を導電性ペースト、またはカーボンテープ上に担持し、以下のような条件で粉体形状観察を行った。
走査型電子顕微鏡装置:Regulas(登録商標)8200(株式会社日立ハイテク製)
加速電圧:1~10kV
倍率は1000~30000倍
SEM写真からランダムに選び出した1つ粒子に対し画像解析ソフトImage J(アメリカ国際衛生研究所製)を用いて、粒子の形状を最も相関係数の高い楕円形に近似した。この楕円の長径と短径の比からアスペクト比(長径/短径)を算出した。このような解析を、同様に選び出した100個の粒子に対して行い、それぞれ得られたアスペクト比を平均したものを、平均アスペクト比とした。
【0119】
導電性粒子を含有していない複合体のSEM像と、導電性粒子を含有している複合体のSEM像を比較し、前者には見られない表面の突起構造の有無で、導電性粒子の有無を判断した。
[ISi/IG、R値(ID/IG)]
実施例、比較例で得た複合体(C)に対し、顕微レーザーラマン分光装置として日本分光株式会社NRS-5100を用い、励起波長532.36nmで測定を行った。
【0120】
ラマンスペクトルにおける460~495cm-1のピーク強度(ISi)と1580cm-1付近のピーク強度(IG)の比を(ISi/IG)とする。
ランダムに30点測定を行い、得られた値の平均値をISi/IGとした。
【0121】
ラマンスペクトルにおける1350cm-1付近のピーク強度(ID)と1580cm-1付近のピーク強度(IG)の比を(R値(ID/IG))とする。
ランダムに30点測定を行い、得られた値の平均値をR値(ID/IG)とした。
【0122】
[XRD測定]
サンプルをガラス製試料板(窓部縦×横:18mm×20mm、深さ:0.2mm)に充填し、以下のような条件で測定を行った。
【0123】
XRD装置:株式会社リガク製 SmartLab(登録商標)
X線源:Cu-Kα線
Kβ線除去方法:Niフィルター
X線出力:45kV、200mA
測定範囲:10.0~80.0°.
スキャンスピード:10.0°/min
得られたXRDパターンに対し、解析ソフト(PDXL2、株式会社リガク製)を用い、バックグラウンド除去、スムージングを行った後に、ピークフィットを行い、ピーク位置と強度を求めた。また、得られたXRDパターンから、Siの111面のピークの半値幅、(SiCの111面のピーク強度)/(Siの111面のピーク強度)を求めた。
【0124】
[Si含有率の測定]
以下の条件で実施例、比較例で得た複合体(C)のSi含有率の測定を行った。
蛍光X線装置:株式会社リガク製 NEX CG
管電圧:50kV
管電流:1.00mA
サンプルカップ:Φ32 12mL CH1530
サンプル重量:3g
サンプル高さ:11mm
サンプルカップに実施例、比較例で得た複合体(C)を導入し、FP法を用いてSi含有率を質量%という単位で算出した。
【0125】
[ポリマー含有量]
以下の条件で実施例、比較例で得た複合体(C)のポリマー含有量測定を行った。
TG-DTA用装置:(NETZSCH JAPAN製 TG-DTA2000SE)
サンプル重量:10~20mg
サンプルパン:アルミナパン
リファレンス:アルミナパン
ガス雰囲気:Ar
ガス流量:100ml/min
昇温測度:10℃/min
測定温度範囲:室温~1000℃
300℃前後でポリマーの分解による重量減少が生じる。加熱前の複合体(C)の質量をAg、加熱後の複合体(C)の質量をBgとした場合に(A-B)がポリマーの含有量である。ポリマーの含有率は{(A-B)/A}×100で算出できる。
【0126】
[負極シートの作製]
バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。
【0127】
具体的には、SBRの40質量%水分散液、およびCMCの2質量%水溶液を用いた。
混合導電助剤として、カーボンブラック(SUPER C 45、イメリス・グラファイト&カーボン社製)および気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)-H、昭和電工株式会社製)を3:2の質量比で混合したものを調製した。
【0128】
後述の実施例および比較例で製造した負極材を90質量部、混合導電助剤を5質量部、CMC固形分が2.5質量部となるように上記CMC水溶液、そしてSBR固形分が2.5質量部となるように上記SBR水分散液を混合し、これに粘度調整のための水を適量加え、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製)にて混練し、負極層形成用スラリーを得た。
【0129】
前記の負極層形成用スラリーを厚み20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて厚さ150μmとなるよう均一に塗布し、ホットプレートにて乾燥後、真空乾燥させて負極シートを得た。乾燥した負極シートを300MPaの圧力で一軸プレス機によりプレスして電池評価用負極シートを得た。得られた負極シートの厚みは、銅箔の厚みを含めて62μmであった。
【0130】
[電極密度の測定]
プレス後の負極シート(集電体+負極層)を直径16mmの円形状に打ち抜き、その質量と厚さを測定した。これらの値から、別途測定しておいた集電体(直径16mmの円形状)の質量と厚さを差し引いて負極層の質量と厚さを求め、負極層の質量と厚さ、および直径(16mm)から、目付、電極密度(負極層密度)を算出した。電極密度は特に制限はないが、0.7g/cm3以上が好ましく、1.8g/cm3以下が好ましい。
【0131】
ポリプロピレン製のねじ込み式フタつきのセル(内径約18mm)内において、上記負極と16mmφに打ち抜いた金属リチウム箔をセパレータ(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム)で挟み込んで積層し、電解液を加えて試験用セル(リチウム対極セル)とした。ここで、リチウム対極セルでは、上記負極を試料極、リチウム極を対極と呼ぶ。
【0132】
なお、リチウム対極セルにおける電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネートが体積比で3:5:2の割合で混合した溶媒にビニレンカーボネート(VC)を1質量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を10質量%混合し、さらにこれに電解質LiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解させて得られた液である。
【0133】
本実施例、比較例においては、セルの電圧が増大する(電位差が増える)ことを充電、セル電圧が減少する(電位差が減る)ことを放電と呼ぶ。金属リチウム箔を対極としたリチウム対極セルの場合、金属リチウムは上記作用極よりも低い酸化還元電位を有する。そのため、作用極にLiが挿入される際には、電圧が減少する(電位差が減る)ので放電となる。逆に、作用極からLiが放出される際には、電圧が増大する(電位差が増える)ので充電となる。なお、実際のリチウムイオン二次電池においては、上記作用極よりも高い酸化還元電位を有する材料(たとえば、コバルト酸リチウムやニッケルマンガンコバルト酸リチウム等)を対向させるため、上記作用極は負極となる。
【0134】
[初回Li脱離比容量の測定試験]
リチウム対極セルを用いて試験を行った。OCVから0.005Vまで、0.1C相当の電流値で定電流(コンスタントカレント:CC)放電を行った。0.005Vに到達した時点で定電圧(コンスタントボルテージ:CV)放電に切り替えた。カットオフ条件は、電流値が0.005C相当まで減衰した時点とした。このときの比容量を初回Li挿入比容量とする。次に、上限電圧1.5Vとして0.1C相当の電流値で定電流充電を行った。このときの比容量を初回Li脱離比容量とする。
【0135】
試験は25℃に設定した恒温槽内で行った。この際、比容量とは容量を負極材の質量で除した値である。また、本試験において『1C相当の電流値』とは、試料極に含まれる負極材中のSiと黒鉛の質量、および理論比容量(それぞれ、4200mAh/gと372mAh/g)から見積もられる試料極の容量を、1時間で放電し終えることのできる電流の大きさである。
【0136】
以下に、負極材の原料(多孔質炭素(A)、複合体(C))について、調製方法および入手先、物性値を示す。
[多孔質炭素(A)]
100~200μm程度のDv50を持つカーボンモレキュラーシーブ1~5を、実施例1および2、また比較例1~3における多孔質炭素(A)として使用した。また、実施例3~8、比較例4は市販のフェノール樹脂を炭化、賦活したものを多孔質炭素(A)として使用した。
【0137】
物性値を表1にまとめた。なお、上記カーボンモレキュラーシーブ1~5に関しては、負極シート作製に支障がでないよう粉砕を行い、10μm程度のDV50を持つように粒度調整した。
[複合体(C)]
各実施例および比較例では、多孔質炭素(A)に対して、窒素ガスと混合された1.3体積%のシランガス流を有する管状炉で、設定温度400℃、圧力760torr、流量100sccm、1~8時間処理を行い、多孔質炭素の内部にSiを析出させ、複合体(C)を得た。
【0138】
[負極材]
得られた複合体(C)を、電池評価用の負極材とした。
[実施例1]
多孔質炭素(A)として、カーボンモレキュラーシーブ1(Merck製、Carbosieve(登録商標)-G 粉砕品)を用いた。カーボンモレキュラーシーブ1の物性は、V0が0.450cm3/g、V1が0.419cm3/g、V2が0.032cm3/g、V3が0.320cm3/g、V1/V0が0.93、V2/V0は0.07、V3/V0は0.71であった。BET比表面積は950m2/gであった。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0139】
得られた複合体(C)中のSi含有率は21質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。
リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1033mAh/gであった。
【0140】
[実施例2]
多孔質炭素(A)として、カーボンモレキュラーシーブ2(Merck製、Carboxen(登録商標)-1012 粉砕品)を用いた。カーボンモレキュラーシーブ2の物性は、V0が0.820cm3/g、V1が0.752cm3/g、V2が0.021cm3/g、V3が0.585cm3/g、V1/V0が0.92、V2/V0は0.03、V3/V0は0.71であった。BET比表面積は1830m2/gであった。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0141】
得られた複合体(C)中のSi含有率は20質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1001mAh/gであった。
【0142】
実施例1および2で得られた複合体(C)の走査型電子顕微鏡像およびEDX像をそれぞれ
図1および2に示す。
図1および2の、粒子の断面には色のコントラストがなく、単調であることから分かるように、複合体(C)内部全体に均一にSiが析出して、複合体(C)一粒子あたりの容量が高いことを示唆している。
【0143】
[実施例3]
多孔質炭素(A)として、市販の球状フェノール樹脂(D
V50=7.0μm)に対して、900℃焼成を行い炭化させた後、CO
2にて1000℃で1時間賦活処理を実施し、V
0が0.780cm
3/g、V
1が0.703cm
3/g、V
2が0.067cm
3/g、V
3が0.594cm
3/g、V
1/V
0が0.90、V
2/V
0は0.09、V
3/V
0は0.76、BET比表面積1810m
2/gの球状活性炭を得た。
図5に実施例3で得られた多孔質炭素(A)の吸着等温線を示す。
【0144】
当該球状活性炭に対して、実施例1と同様にシランガス流にあてることで、Si含有複合体(C)を得た。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0145】
得られた複合体(C)中のSi含有率は45質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1603mAh/gであった。
[実施例4]
市販の球状フェノール樹脂(D
V50=7.0μm)に対して、900℃焼成を行い炭化させた後、CO
2にて900℃で6時間賦活処理を実施し、V
0が0.710cm
3/g、V
1が0.658cm
3/g、V
2が0.056cm
3/g、V
3が0.540cm
3/g、V
1/V
0が0.93、V
2/V
0が0.08、V
3/V
0は0.76、BET比表面積1700m
2/gの球状活性炭を得た。
図5に実施例4で得られた多孔質炭素(A)の吸着等温線を示す。
【0146】
当該球状活性炭に対して、実施例1と同様にシランガス流に当てることで、複合体(C)を得た。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
得られた複合体(C)中のSi含有率は42質量%であった。
【0147】
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1521mAh/gであった。
【0148】
[実施例5]
市販の球状フェノール樹脂(DV50=19.0)μm)を900℃焼成を行い炭化させた後、CO2にて、950℃で3.5時間賦活処理を実施し、V0が0.777cm3/g、V1が0.690cm3/g、V2が0.053cm3/g、V3が0.573cm3/g、V1/V0が0.89、V2/V0が0.07、V3/V0は0.74であり、BET比表面積:1790m2/g)の球状活性炭を得た。当該の球状活性炭に対して、実施例1と同様にシランガス流に当てることで、複合体(C)を得た。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0149】
得られた複合体(C)中のSi含有率は44質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1502mAh/gであった。
【0150】
[実施例6]
水800gに対して、鱗片状黒鉛(KS-6、Timcal)を156g、アセチレンブラック(HS-100、電気化学工業株式会社)を40g、カルボキシメチルセルロースを4g入れ、ビーズミルで分散及び混合し、導電性粒子分散液(固形分25質量%)を得た。
【0151】
自転・公転ミキサー(株式会社シンキ―製)用のバッチ容器内に、水0.500g、プルラン4.5質量%水溶液1.067gを秤量し、自転1000rpm、2分間混合した。ついで実施例3で作製した複合体(C)を2.668g加えて、自転1000rpm、2分間混合した。ついで、上記導電性粒子分散液を0.6072g加えて、自転1000rpm、2分間混合した。ついで、トレハロース4.8質量%水溶液を0.111g加えて、自転1000rpm、2分間混合することで、混合スラリーを得た。110℃に保温されたホットプレート上にテフロン(登録商標)シートを敷き、上記混合スラリーをテフロン(登録商標)シート状にスラリーを敷き、5時間乾燥させた。乾燥により得られた固形物を乳鉢で解砕し、複合体(C)を得た。
【0152】
得られた複合体(C)中のSi含有率は42質量%であった。SEM観察より、複合体(C)表面に導電性粒子に相当する突起部分を確認した。また、TG-DTA測定より、約2質量%のポリマー含有率を確認した。
【0153】
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1702mAh/gであった。Si含有率は実施例3に比べて低くなっているものの、初回Li脱離比容量は増大した結果となった。これは、複合体(C)の外周部に存在する導電性粒子分散液由来の、導電性粒子に由来して電子伝導性が改善されたためであると、本発明者らは考察している。
[実施例7]
プルランをタマリンドシードガム、トレハロースをソルビトールに置き換えた以外は実施例6と同様の方法で、複合体(C)を得た。
【0154】
得られた複合体(C)中のSi含有率は42質量%であった。SEM観察より、複合体(C)表面に導電性粒子に相当する突起部分を確認した。また、TG-DTA測定より、約2質量%のポリマー含有率を確認した。
【0155】
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1689mAh/gであった。Si含有率は実施例3に比べて低くなっているものの、初回Li脱離比容量は増大した結果となった。これは、複合体(C)の外周部に存在する導電性粒子分散液由来の、導電性粒子に由来して電子伝導性が改善されたためであると、本発明者らは考察している。
【0156】
[実施例8]
プルランをペクチン、トレハロースをソルビトールに置き換えた以外は実施例6と同様の方法で、複合体(C)を得た。
【0157】
得られた複合体(C)中のSi含有率は42質量%であった。SEM観察より、複合体(C)表面に導電性粒子に相当する突起部分を確認した。また、TG-DTA測定より、約2質量%のポリマー含有率を確認した。
【0158】
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は1695mAh/gであった。Si含有率は実施例3に比べて低くなっているものの、初回Li脱離比容量は増大した結果となった。これは、複合体(C)の外周部に存在する導電性粒子分散液由来の、導電性粒子に由来して電子伝導性が改善されたためであると、本発明者らは考察している。
【0159】
[比較例1]
多孔質炭素(A)として、カーボンモレキュラーシーブ3(Merck製、Carbosieve(登録商標)S-III 粉砕品)を用いた。カーボンモレキュラーシーブ3の物性は、V0が0.390cm3/g、V1が0.380cm3/g、V2が0.054cm3/g、V3が0.350cm3/g、V1/V0が0.97、V2/V0は0.14、V3/V0は0.90であった。BET比表面積は830m2/gであった。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0160】
得られた複合体(C)中のSi含有率は9質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は632mAh/gと実施例に比較して低かった。
【0161】
[比較例2]
多孔質炭素(A)として、カーボンモレキュラーシーブ4(Merck製、Carboxen(登録商標)-1021 粉砕品)を用いた。カーボンモレキュラーシーブ4の物性は、V0が0.340cm3/g、V1が0.061cm3/g、V2は0.000cm3/g、V3は0.030cm3/g、V1/V0が0.18、V2/V0は0.00、V3/V0は0.09、BET比表面積は280m2/gであった。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0162】
得られた複合体(C)中のSi含有率は4質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は462mAh/gと実施例に比較して低かった。
【0163】
比較例1および2で得られた複合体(C)の走査型電子顕微鏡像およびEDX像をそれぞれ
図3および4に示す。
図3および4から分かるように、表面や表面近傍にSiが析出しており、複合体(C)一粒子あたりの容量が高くならないことを示唆している。
【0164】
[比較例3]
多孔質炭素(A)として、カーボンモレキュラーシーブ5(Merck製、Carboxen(登録商標)-1000 粉砕品))を用いた。カーボンモレキュラーシーブ5の物性は、V0が0.990cm3/g、V1が0.576cm3/g、V2は0.090cm3/g、V3は0.532cm3/g、V1/V0が0.58、V2/V0は0.09、V3/V0は0.54、BET比表面積は1200m2/gであった。これに、シランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
【0165】
得られた複合体(C)中のSi含有率は59質量%であった。
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は711mAh/gであり、含有しているSi量から想定される容量や、実施例の容量に比較して低い結果であった。これは、V1/V0が小さくなったことで、Si塊が存在するようになり、Li+が拡散しにくい、つまり反応に寄与しにくいSiが増大したためと本発明者らは推測している。
【0166】
[比較例4]
多孔質炭素(A)として、市販の球状フェノール樹脂(DV50=7.0μm)に対して、900℃焼成を行い炭化させ、V0が0.275cm3/g、V1が0.117cm3/g、V2が0.000cm3/g、V3が0.214cm3/g、V1/V0が0.83、V2/V0は0.00、V3/V0は0.78、BET比表面積598m2/gの球状活性炭を得た。
【0167】
当該球状活性炭に対して、実施例1と同様にシランガスを用いたSi-CVDによりSiを細孔内に析出させた。
得られた複合体(C)中のSi含有率は4質量%であった。
【0168】
この複合体(C)を単独で負極材とした。リチウム対極セルを用いた試験により、この負極材の初回Li脱離比容量は312mAh/gと実施例に比較して低かった。
得られた結果を表1にまとめた。
【0169】