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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂製品の製造方法およびコア
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/46 20060101AFI20240416BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20240416BHJP
   B29C 43/36 20060101ALI20240416BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20240416BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20240416BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20240416BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20240416BHJP
【FI】
B29C70/46
B29C43/34
B29C43/36
B29C33/38
B29K101:10
B29K105:08
B29L22:00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023005007
(22)【出願日】2023-01-17
(62)【分割の表示】P 2022510477の分割
【原出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2023033471
(43)【公開日】2023-03-10
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020056726
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】高野 恒男
(72)【発明者】
【氏名】加地 暁
(72)【発明者】
【氏名】本間 孝志
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079824(WO,A1)
【文献】特開2020-032535(JP,A)
【文献】特開2019-188707(JP,A)
【文献】特開2007-307853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 43/00-43/58
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリプレグ予備成形体を、ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなるコアと共に金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記ワックスを除去するワックス除去工程とを有し、前記成形工程では前記プリプレグ予備成形体の少なくとも一部が前記コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂製品の製造方法であって、
前記成形工程における成形温度が140℃以上であり、前記プリプレグ予備成形体が少なくとも一部で1mm以上の厚さを有し、前記可融部が融点80℃未満の第一ワックスからなる第一可融部を有し、
前記可融部が、前記第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、製造方法。
【請求項2】
前記成形工程では、複数の前記プリプレグ予備成形体を、その各々がひとつの前記コアを内側に包むように前記金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧してひとつの硬化物とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金型が、下型と上型とスライドコアとにより形成されるキャビティを備える、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなるコアがプリプレグシートで包まれたコア内包部を有するプリプレグ予備成形体を、金型内で加熱および加圧して、中空部を有する硬化物とする成形工程と、前記中空部の内部から前記ワックスを除去するワックス除去工程とを有する、繊維強化樹脂製品の製造方法であって、
前記コア内包部において前記プリプレグ予備成形体の少なくとも一部が1mm以上の厚さを有し、前記可融部が融点80℃未満の第一ワックスからなる第一可融部を有し、前記成形工程における成形温度が140℃以上であり、
前記プリプレグ予備成形体が前記コア内包部に形成された貫通孔を有し、前記貫通孔にエラストマー栓が挿入されている、製造方法。
【請求項5】
前記エラストマー栓の少なくとも一部に、前記貫通孔への挿入方向に沿ってテーパーがつけられている、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記エラストマー栓は、前記貫通孔への挿入方向に直交する断面の径が大きい側を前記コアに向けて前記貫通孔に挿入されている、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記エラストマー栓は、側面に突起または窪みを有する、請求項4~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ワックス除去工程では、金属チューブの一方端を前記エラストマー栓に突き刺して貫通させ、前記金属チューブを通して前記ワックスの全部または一部を前記中空部から排出させる、請求項4~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記ワックス除去工程では、前記金属チューブの少なくとも一部を加熱する、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属チューブの他方端が回収容器に接続されている、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第一可融部が前記外皮と接している、請求項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記第一ワックスと前記第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、請求項1~11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記プリプレグ予備成形体がSMCを含む、請求項1~12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、繊維強化樹脂製品の製造方法および繊維強化樹脂製品の製造に用いられるコアに関する。
本願は、2020年03月26日に、日本国特許庁に出願された特願2020-056726号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂(FRP; Fiber Reinforced Plastic)製品は、自動車用の補強部材(reinforcement)を含む様々な用途で使用されている。
中空部や断面U字形部を有するFRP製品の成形方法として、プリプレグ予備成形体(prepreg preform)をワックスからなるコアと共に金型内に配置し、該金型内で該コアを膨張させることにより、加圧しながら硬化させる方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/079824号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ワックスからなるコアを用いてプリプレグ予備成形体を加圧しながら硬化させることを含む繊維強化樹脂製品の製造方法に関する、有益な改良を提供することを主たる目的とする。
本発明の各実施形態により解決される課題は、本明細書中に明示的または黙示的に開示される場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は以下を含むが、これらに限定されるものではない。
[1]プリプレグ予備成形体を、ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなるコアと共に金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記ワックスを除去するワックス除去工程とを有し、前記成形工程では前記プリプレグ予備成形体の少なくとも一部が前記コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂製品の製造方法であって、前記成形工程における成形温度が140℃以上であり、前記プリプレグ予備成形体が少なくとも一部で1mm以上の厚さを有し、前記可融部が融点80℃未満の第一ワックスからなる第一可融部を有する、製造方法。
[2]前記第一可融部が前記外皮と接している、[1]に記載の製造方法。
[3]前記成形工程の前に前記コアを予備加熱する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部が含有し、前記予備加熱が誘導加熱により行われる、[3]に記載の製造方法。
[5]マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部が含有し、前記予備加熱がマイクロ波加熱により行われる、[3]に記載の製造方法。
[6]前記可融部が前記第一可融部のみからなる、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記可融部が、前記第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[8]前記第一ワックスと前記第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、[7]に記載の製造方法。
[9]前記プリプレグ予備成形体がSMCを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]前記成形工程では、複数の前記プリプレグ予備成形体を、その各々がひとつの前記コアを内側に包むように前記金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧してひとつの硬化物とする、[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記金型が、下型と上型とスライドコアとにより形成されるキャビティを備える、[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]プリプレグを金型内で加熱および加圧して硬化させることにより繊維強化樹脂製品を製造するときに、前記プリプレグと共に前記金型内に配置されるコアであって、ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなり、前記可融部が融点80℃未満の第一ワックスからなる第一可融部を有する、コア。
[13]前記第一可融部が前記外皮と接している、[12]に記載のコア。
[14]高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部に含有する、[12]または[13]に記載のコア。
[15]マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部に含有する、[12]または[13]に記載のコア。
[16]前記可融部が前記第一可融部のみからなる、[12]~[15]のいずれかに記載のコア。
[17]前記可融部が、前記第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、[12]~[15]のいずれかに記載のコア。
[18]前記第一ワックスと第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、[17]に記載のコア。
[19]プリプレグを金型内で加熱および加圧して硬化させることにより繊維強化樹脂製品を製造するときに、前記プリプレグと共に前記金型内に配置されるコアであって、ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなり、高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部に含有する、コア。
[20]前記可融部が、第一ワックスからなる第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、[19]に記載のコア。
[21]前記第一可融部が前記外皮と接している、[20]に記載のコア。
[22]前記第一ワックスと第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、[20]または[21]に記載のコア。
[23][19]~[22]のいずれかに記載のコアと共にプリプレグを金型内に配置し、該金型内で加熱および加圧して硬化物とする成形工程と、該コアの可融部をなすワックスを該硬化物から除去するワックス除去工程とを有し、該成形工程の前に該コアが誘導加熱により予備加熱され、該成形工程では該コアの可融部が少なくとも一部融解するととともに、該プリプレグの少なくとも一部が該コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂製品の製造方法。
[24]プリプレグを金型内で加熱および加圧して硬化させることにより繊維強化樹脂製品を製造するときに、前記プリプレグと共に前記金型内に配置されるコアであって、ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなり、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部に含有する、コア。
[25]前記可融部が、第一ワックスからなる第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、[24]に記載のコア。
[26]前記第一可融部が前記外皮と接している、[25]に記載のコア。
[27]前記第一ワックスと第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、[25]または[26]に記載のコア。
[28][24]~[27]のいずれかに記載のコアと共にプリプレグを金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化物とする成形工程と、前記コアの可融部をなすワックスを前記硬化物から除去するワックス除去工程とを有し、前記成形工程の前に前記コアがマイクロ波加熱により予備加熱され、前記成形工程では前記コアの可融部が少なくとも一部融解するととともに、前記プリプレグの少なくとも一部が前記コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂製品の製造方法。
[29][12]~[22]および[24]~[27]のいずれかに記載のコアと共にプリプレグを金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化させることを含む、繊維強化樹脂製品の製造方法。
[30]コアと共にプリプレグを金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化させることを含む繊維強化樹脂製品の製造方法における、[12]~[22]および[24]~[27]のいずれかに記載のコアの使用。
[31]ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなるコアがプリプレグシートで包まれたコア内包部を有するプリプレグ予備成形体を、金型内で加熱および加圧して、中空部を有する硬化物とする成形工程と、前記中空部の内部から前記ワックスを除去するワックス除去工程とを有する、繊維強化樹脂製品の製造方法であって、前記プリプレグ予備成形体が前記コア内包部に形成された貫通孔を有し、前記貫通孔にエラストマー栓が挿入されている、製造方法。
[32]前記エラストマー栓の少なくとも一部に、前記貫通孔への挿入方向に沿ってテーパーがつけられている、[31]に記載の製造方法。
[33]前記エラストマー栓は、前記貫通孔への挿入方向に直交する断面の径が大きい側を前記コアに向けて前記貫通孔に挿入されている、[32]に記載の製造方法。
[34]前記エラストマー栓は、側面に突起または窪みを有する、[31]~[33]のいずれかに記載の製造方法。
[35]前記ワックス除去工程では、金属チューブの一方端を前記エラストマー栓に突き刺して貫通させ、前記金属チューブを通して前記ワックスの全部または一部を前記中空部から排出させる、[31]~[34]のいずれかに記載の製造方法。
[36]前記ワックス除去工程では、前記金属チューブの少なくとも一部を加熱する、[35]に記載の製造方法。
[37]前記金属チューブの他方端が回収容器に接続されている、[35]または[36]に記載の製造方法。
[38]前記成形工程の前に前記コアを予備加熱する、[31]~[37]のいずれかに記載の製造方法。
[39]高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部が含有しており、前記予備加熱が誘導加熱により行われる、[38]に記載の製造方法。
[40]マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子を前記可融部が含有しており、前記予備加熱がマイクロ波加熱により行われる、[38]に記載の製造方法。
[41]前記コア内包部において前記プリプレグ予備成形体の少なくとも一部が1mm以上の厚さを有し、前記可融部が融点80℃未満の第一ワックスからなる第一可融部を有し、前記成形工程における成形温度が140℃以上である、[31]~[40]のいずれかに記載の製造方法。
[42]前記第一可融部が前記外皮と接している、[41]に記載の製造方法。
[43]前記可融部が前記第一可融部のみからなる、[41]または[42]に記載の製造方法。
[44]前記可融部が、前記第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、[41]または[42]に記載の製造方法。
[45]前記第一ワックスと前記第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、[44]に記載の製造方法。
[46]前記プリプレグ予備成形体がSMCを含む、[41]~[45]のいずれかに記載の製造方法。
[47]プリプレグ予備成形体を、ワックスからなる可融部と前記可融部を覆う外皮とからなるコアと共に金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化物とする成形工程と、前記硬化物から前記ワックスを除去するワックス除去工程とを有し、前記成形工程では前記プリプレグ予備成形体の少なくとも一部が前記コアの膨張により加圧される、繊維強化樹脂製品の製造方法であって、前記成形工程の前に前記コアを予備加熱する製造方法。
[48]前記可融部が融点80℃未満の第一ワックスからなる第一可融部を有する、[47]に記載の製造方法。
[49]前記第一可融部が前記外皮と接している、[48]に記載の製造方法。
[50]前記可融部が前記第一可融部のみからなる、[48]または[49]に記載の製造方法。
[51]前記可融部が、前記第一可融部と、融点が前記第一ワックスより高く前記第一ワックスと相溶しない第二ワックスからなる第二可融部とからなる、[48]または[49]に記載の製造方法。
[52]前記第一ワックスと前記第二ワックスの一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである、[51]に記載の製造方法。
[53]前記プリプレグ予備成形体が少なくとも一部で1mm以上の厚さを有する、[47]~[52]のいずれかに記載の製造方法。
[54]前記プリプレグ予備成形体がSMCを含む、[53]に記載の製造方法。
[55]前記成形工程における成形温度が140℃以上である、[47]~[54]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
ワックスからなるコアを用いてプリプレグ予備成形体を加圧しながら硬化させることを含む繊維強化樹脂製品の製造方法に関する、有益な改良が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係るFRP製品製造方法のフロー図である。
図2図2は、実施形態に係るFRP製品製造方法で使用され得るコアの構造を示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係るFRP製品製造方法で使用され得るコアの構造を示す断面図である。
図4図4は、実施形態に係るFRP製品製造方法で使用され得るコアの構造を示す断面図である。
図5図5は、ほぼ正味形状を有するプリプレグ予備成形体がコアの周囲に配置されたところを示す断面図である。
図6図6は、プリプレグ予備成形体が、その内側に包まれたコアと共に金型のキャビティ内に配置されたところを示す断面図である。
図7図7は、プリプレグシートの端部同士間の突き合わせ接合部を示す断面図である。
図8図8は、プリプレグシートの端部同士間のオーバーラップ接合部を示す断面図である。
図9図9は、2つの部分的プリプレグ予備成形体が、それぞれ、その内側に包まれたコアと共に金型のキャビティ内に配置されたところを示す断面図である。
図10図10は、図9に示す2つの部分的プリプレグ予備成形体から成形されるFRP物品を示す断面図である。
図11図11は、プリプレグ予備成形体が、その内側に包まれたコアと共に金型のキャビティ内に配置されたところを示す断面図である。
図12図12は、ほぼ正味形状を有するプリプレグ予備成形体がコアの周囲に配置されたところを示す断面図である。
図13図13は、金属チューブの一方端をエラストマー栓に突き刺して貫通させることで、FRP製品の空洞内のワックスを、該金属チューブを通して回収容器内に排出させているところを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
プリプレグ(prepreg: pre-impregnated composite material)は、FRP製品の製造で中間材料として使用される、繊維と熱硬化性樹脂とからなる複合体である。FRP製品は、プリプレグを予備成形したうえ、金型内で硬化させることにより製造される。
プリプレグにおける繊維の形態は、長繊維、織物、不織布、ノンクリンプファブリック、短繊維など様々である。ひとつの平面内で一方向に引き揃えた長繊維束を樹脂で含浸させたシート状のプリプレグは一方向プリプレグ(UDプリプレグ)と呼ばれる。長繊維束で織られた織物を樹脂で含浸させたものはクロスプリプレグと呼ばれる。チョップされた短繊維束からなるマットを樹脂で含浸させたプリプレグはSMC(sheet molding compound)と呼ばれる。単一の長繊維束を樹脂で含浸させたプリプレグは、トウプリプレグと呼ばれる。
プリプレグに使用される繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維である。2種以上の繊維が併用されることもある。
【0009】
プリプレグに用いられる熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ビニルエステル樹脂(エポキシアクリレート樹脂とも呼ばれる)、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂である。2種以上の熱硬化性樹脂が混合されて用いられることもある。
プリプレグにおける熱硬化性樹脂の含有量は、限定するものではないが、多くの場合15~50質量%である。該含有量は、15~20質量%、20~25質量%、25~40質量%、40~45質量%または45~50質量%であり得る。
プリプレグには、様々な添加剤が添加され得る。例えば、反応性希釈剤、低収縮剤、難燃剤、消泡剤、脱泡剤、離型剤、粒子状充填剤、着色剤、シランカップリング剤等である。
【0010】
1.FRP製品の製造方法
本発明の実施形態のひとつはFRP製品の製造方法に関する。
以下では、本実施形態に係るFRP製品製造方法を、説明の便宜上、図1にフローを示すように、次の3つの工程に分ける。
(i)ワックスからなる可融部と該可融部を覆う外皮とからなるコアを準備するコア準備工程。
(ii)プリプレグ予備成形体を前記コアと共に金型内に配置し、前記金型内で加熱および加圧して硬化物(FRP製品)とする成形工程。
(iii)前記ワックスを前記硬化物から除去するワックス除去工程。
【0011】
本実施形態に係るFRP製品製造方法は、屈曲または湾曲した壁面を含む構造を備えるFRP製品の製造に好ましく用いられるものである。屈曲または湾曲した壁面を含む構造の典型例が、中空構造、筒状構造、断面U字形構造および断面L字形構造である。各種のアンダーカット部も、構造中に屈曲または湾曲した壁面を含むことが多い。
以下、FRP製品として中空の直方体物品を製造する場合を例に、図面を参照しつつ、上記(i)~(iii)の各工程を詳細に説明する。中空の直方体は、90度の角度で屈曲した壁面を有している。
【0012】
(1)コア準備工程
図2は、コア準備工程(i)で準備されるコアの構造を示す断面図である。
コア3はワックスからなる可融部1と該可融部を覆う外皮2とからなり、可融部1は、更に、第一ワックスからなる第一可融部1aと第二ワックスからなる第二可融部1bとからなる。
第一ワックスと第二ワックスは融点が互いに異なっており、第一ワックスの融点は第二ワックスの融点より低い。
第一ワックスの融点と第二ワックスの融点は、いずれも室温(25℃)より高く、好ましくは50℃以上である。第一ワックスと第二ワックスが有すべき融点の上限については後述する。
第一ワックスと第二ワックスは互いに相溶しない。そのため、第一ワックスの融解物が第二ワックスを溶解させることはなく、また、第一ワックスの融解物と第二ワックスの融解物をひとつの容器に入れたとき、両者は二相に分離する。
【0013】
第一可融部1aは外皮2と接するように配置されており、このことは、成形工程(ii)における第一可融部1aの融解を促進するうえで有利である。この効果は、図3に示すように、可融部1のうち外皮2に接する部分が全て第一可融部1aであるとき、顕著となる。
一例では、図4に示すように、可融部1が第一可融部1aのみで構成されてもよい。
図2の例から分かるように、第一可融部1aは複数の部分に分かれていてもよい。
図2図4のいずれに示す例においても、第一可融部1aのそれぞれが単一のピースからなる必要はない。例えば、図4において、第一可融部1aは、第一ワックスからなる板が2枚以上積層されることにより構成されていてもよい。
第二可融部1bも同様で、単一のピースからなっていてもよいし、複数のピースからなっていてもよい。
【0014】
本発明者等が調べたところでは、極性基を有する有機化合物を含有するワックスと、炭化水素を主成分とするワックスは、互いに相溶し難い傾向がある。従って、好適例において、第一ワックスと第二ワックスは、一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスである。すなわち、第一ワックスが極性基を有する有機化合物を含有するワックスであるときは、第二ワックスが炭化水素を主成分とするワックスであり、また、第一ワックスが炭化水素を主成分とするワックスであるときは、第二ワックスが極性基を有する有機化合物を含有するワックスである。
【0015】
極性基とは、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基のような、炭素と酸素の結合または炭素と窒素の結合を含む官能基(エーテル基を除く)である。主要成分としてヒドロキシ脂肪酸アミド、脂肪酸アミド、ヒドロキシ脂肪酸エステルまたは脂肪酸エステルを含有するワックスは、極性基を有する有機化合物を含有するワックスの典型例である。
炭化水素を主成分とするワックスには、パラフィンワックスおよびマイクロクリスタリンワックスのような石油ワックスの他、合成ワックスであるフィッシャー・トロプシュ・ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどがある。
【0016】
図2図4にそれぞれ示すコア3の可融部1には、必要に応じて各種の添加物を添加することができる。添加物は、第一可融部1aと第二可融部1bの両方に添加してもよいし、いずれか一方のみに添加してもよい。
一例では、ワックスの比重よりも小さい粒子比重(個々の粒子の比重)を有する中空粒子を可融部1に添加することで、コア3を軽量化することができる。
【0017】
他の一例では、高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子を可融部1に添加することで、コア3を誘導加熱可能とし得る。かかる材料の例は、強磁性材料、フェリ磁性材料および導電性材料である。強磁性材料の例として、鉄、ニッケル、コバルト、鉄合金、ニッケル合金、コバルト合金、パーマロイ、多くの鋼が挙げられる。フェリ磁性材料の例として、マグネタイト、ニッケル-亜鉛フェライト、マンガン-亜鉛フェライト、銅-亜鉛フェライトが挙げられる。導電性材料の例として、銅、アルミニウム、黄銅が挙げられる。
更に他の一例では、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子を可融部1に添加することで、コア3をマイクロ波加熱可能とし得る。かかる材料の例として、炭化ケイ素、フェライト、チタン酸バリウム、アナターゼ形酸化チタン、黒鉛、カーボンブラックが挙げられる。
上記の粒子は、いずれも、中空であってもよいし、コア-シェル構造を備えてもよい。
コアの誘導加熱またはマイクロ波加熱は、成形工程(ii)にて行い得る他、成形工程(ii)の前に金型の外でコアを予備加熱するときに行い得る。
【0018】
成形工程(ii)における可融部1の変形および膨張によって外皮2が破断しないために、外皮2の材料は成形温度において伸び変形が可能でなくてはならない。この伸び変形は、弾性的であっても、塑性的であっても、その両方の性質を有してもよい。
従って、外皮2の好ましい材料は、限定するものではないが、有機材料であり、特に樹脂材料である。外皮2の好ましい材料には、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン、フッ素ゴムのような合成ポリマーが含まれ、更には、これらのポリマーからなるエラストマーが含まれる。
【0019】
コア3を製造するときは、例えば、第一可融部1a用に準備した第一のワックス片と、第二可融部1b用に準備した第二のワックス片を、外皮2用に準備したポリマーフィルムで包み、接着または融着により密封する。第一のワックス片と第二のワックス片は、作製すべきコアと後の工程で作製するプリプレグ予備成形体との間にできるだけ空隙が生じないよう、形状が整えられる。
外皮2は、上記ポリマーからなるシュリンクチューブを用いて形成することもできる。可融部用のワックス片を入れたシュリンクチューブを熱収縮させ、更に該シュリンクチューブの両端をヒートシールすればよい。
【0020】
外皮2は、上記ポリマーからなる低温硬化型の液状ゴムを用いて形成することもできる。可融部用のワックスの表面に液状ゴムを塗布し、該ワックスが融解しない温度で硬化させればよい。変形法では、液状ゴムを可融部用のワックスの表面に塗布した後、塗布面に補強材として合成樹脂製の伸び変形可能な不織布を貼り付け、さらにその上に液状ゴムを塗布したうえで、液状ゴムを硬化させてもよい。
外皮2は、UV硬化型エラストマーで形成することもできる。UV硬化型エラストマーは、硬化物がゴムのような弾性体となるUV硬化型樹脂であり、その一例はUV硬化型シリコーンゴムやUV硬化型ウレタンアクリレートである。UV硬化型エラストマーは、室温でも短時間で硬化させることができる点で、外皮2の材料に好適である。
【0021】
(2)成形工程
成形工程(ii)では、まず、1枚または2枚以上のプリプレグシートから、ほぼ正味形状(near net shape)を有するプリプレグ予備成形体4を作製し、これを図5に示すように、コア3の周囲に配置する。一例では、プリプレグ予備成形体4を別途工程で作製してからコア3と組み合わせるのではなく、最初からコア3を内包した状態、すなわち図5に示す状態となるように、プリプレグ予備成形体4を作製してもよい。
プリプレグ予備成形体4は、異種のプリプレグを組み合わせて作製してもよい。好ましい一例では、SMCを、一方向プリプレグ、クロスプリプレグおよびトウプリプレグから選ばれる一種以上のプリプレグと組み合わせて、プリプレグ予備成形体4を作製することができる。
【0022】
プリプレグ予備成形体4の作製後、図6に示すように、プリプレグ予備成形体4をその内側に包まれたコア3と共に、下型12と上型14とからなる金型10のキャビティ内に配置する。通常、この時点で金型10は成形温度と同じ温度に加熱されている。金型10は、好ましくは、真空機構を有する。
次いで、金型10を型締めして、プリプレグ予備成形体4を硬化させる。金型10の温度は、限定するものではないが、通常120℃~180℃の範囲内であり、好ましくは140℃以上である。金型10の温度が高い程、成形に要する時間は短縮される。
【0023】
金型10からプリプレグ予備成形体4を通して伝わる熱を吸収してコア3は膨張し、プリプレグ予備成形体4は金型10の内面に押し付けられる。換言すれば、金型10の型締め力に抗してコア3が膨張しようとすることで発生する内圧が、プリプレグ予備成形体4に印加される。
型締め直後は、コア3の体積が熱膨張により緩やかに増加するだけなので、プリプレグ予備成形体4に加わる圧力は弱いが、コア3の表面近傍の温度が第一ワックスの融点に達し、第一可融部1aが融解し始めると、プリプレグ予備成形体4に加わる圧力は急激に上昇する。ワックスが融解するとき、その体積は大きく増加するからである。
【0024】
融解した第一ワックスは流動して、可融部1の未融解部分と外皮12の間のスペース全体に万遍なく行き渡る。融解した第一ワックスが圧力媒体として作用することにより、プリプレグ予備成形体4の全ての部分が、実質的に同じ圧力で金型10の内面に押し付けられる。
成形工程(ii)において、第一可融部1aは全部が融解しなくてもよい。第一可融部1aが全部融解するまで、第一ワックスの温度はその融点に保たれるので、第二可融部1bの融解は始まらない。第二ワックスの融点Tm2が第一ワックスの融点Tm1より十分に高ければ、成形工程(ii)では第一可融部1aだけが融解する。従って、可融部1に占める第一可融部1aの体積比を調節することにより、成形工程(ii)におけるコア3の膨張の程度を制御できる。換言すれば、コア3の膨張によりプリプレグ予備成形体4に印加される圧力を制御できる。
【0025】
可融部1の融解に伴うコア3の大きな膨張を利用してプリプレグ予備成形体4を加圧するには、第一可融部1aをなす第一ワックスの融点Tm1が成形温度T、すなわち成形時の金型10の温度よりも低いことが必要である。
しかし、プリプレグ予備成形体4が厚い場合には、それだけでは不十分な場合がある。
プリプレグ予備成形体4が厚過ぎると、熱が金型10からコア3に伝わるのが遅いために、第一ワックスの融点Tm1が成形温度Tより低いにも拘わらず、第一可融部1aの融解前にプリプレグ予備成形体4が金型10と接する部分で硬化し始めることがあり得る。
【0026】
第一可融部1aが融解するまでは、コア3がプリプレグ予備成形体4を金型10の内面に押し付ける力が弱いので、この段階で硬化したFRPは外観が悪く、ボイドを含有することもある。
従って、プリプレグ予備成形体4が厚い場合には、第一ワックスの融点Tm1を下げて、第一可融部1aを早く融解させることが望ましい。
具体的には、プリプレグ予備成形体4の厚さが少なくとも部分的に1mm以上であるときは、第一ワックスの融点Tm1が80℃未満であることが好ましい。例えば、第一ワックスの融点Tm1が70℃未満のとき、約4mmの厚さを有するプリプレグ予備成形体4が第一可融部1aの融解前に硬化し始めることを防止できる。
プリプレグの中でも、一方向プリプレグ、クロスプリプレグ、トウプリプレグなどは0.2mm程度の厚さしか有さないのに対し、SMCは1枚でも約2mmという厚さを有するのが普通である。従って、第一ワックスの融点Tm1を下げることによる効果は、プリプレグ予備成形体4がSMCを含むときに、特に顕著となる。
【0027】
第二ワックスの融点Tm2が成形温度T以上であるとき、成形中の第二ワックスの融解を確実に防止できるが、その反面、ワックス除去工程において全量を融解させるのに要する時間が長くなる。成形温度と成形時間にもよるが、第二ワックスの融点Tm2は必ずしも成形温度T以上でなくてもよい。第二ワックスの融点Tm2が成形温度Tより低いとき、第二ワックスの融点Tm2と成形温度Tの差は、限定するものではないが、好ましくは40℃以下であり、30℃以下、25℃以下、あるいは20℃以下であってもよい。
【0028】
一例では、第一可融部1aの融解を十分に早めるために、第一ワックスの融点Tm1を下げることに加えて、または、第一ワックスの融点Tm1を下げることに代えて、成形工程(ii)の前にコア3を予備加熱してもよい。
この予備加熱は、コア3の温度が第一ワックスの融点Tm1に達しないように行う必要がある。なぜならば、予備加熱の段階で第一可融部1aを融解させてしまうと、成形工程(ii)において、第一可融部1aの融解に伴うコア3の大きな膨張を利用したプリプレグ予備成形体4の加圧ができないからである。
コア3を予備加熱するタイミングに限定はなく、コア3の周囲にプリプレグ予備成形体4を配置する前であってもよいし後であってもよく、前と後の両方であってもよい。周囲にプリプレグ予備成形体4を配置した後にコア3を予備加熱するときには、プリプレグ予備成形体4が同時に加熱されてもよい。
【0029】
コア3の予備加熱には熱風循環炉を好ましく用い得るが、追加手段または代替手段として誘電加熱またはマイクロ波加熱を利用すれば、より短時間でコア3の予備加熱を行うことができる。
誘電加熱を利用するには、高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子を、コア3の可融部1に予め添加しておけばよい。
マイクロ波加熱を利用するには、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子を、コア3の可融部1に予め添加しておけばよい。
【0030】
プリプレグ予備成形体4はプリプレグシートから作られているため、図7に示すようなプリプレグシート5同士間の突き合わせ接合部、および、図8に示すようなプリプレグシート5同士間のオーバーラップ接合部の、少なくともいずれかを有している。
コア3の外皮2には、このような接合部にあるプリプレグシート5同士間の隙間をシールして、融解したワックスがプリプレグ予備成形体4と金型10の間に入り込むことを防止する役割がある。そのために、外皮2の材料は成形温度において柔軟で変形可能でなくてはならない。
【0031】
サイズが大きいFRP製品、あるいは、高い強度が要求されるFRP製品の場合は、2つ以上の部分的プリプレグ予備成形体から成形してもよい。
例えば、図9に示すように、2つの部分的プリプレグ予備成形体4aを、それぞれ、その内側に包まれたコア3と共に金型10のキャビティ内に配置して硬化させたとき、得られるFRP製品6は図10に示すように、2つの空洞7の間に位置する隔壁8により補強された構造を有する。
第一可融部1aが融解するとき2つのコア3が大きく膨張するので、隔壁8は十分に加圧された状態で硬化し、ボイドフリーとなる。
【0032】
変形実施形態においては、図11に示すように、下型12と上型14とスライドコア16とにより形成されるキャビティを備える金型10を用いて、プリプレグ予備成形体4からFRP製品を成形してもよい。スライドコア16の移動は油圧等を用いた圧力制御機構(図示せず)により制御されており、コア3が膨張してもキャビティ内の圧力が所定値に達するまではスライドコア16は動かない。キャビティ内の圧力が所定値を超えようとすると、スライドコア16が水平方向に移動して圧力が緩和される。かかる金型を用いて成形圧力を一定に管理することは、FRP製品の品質を安定化させるうえで好都合である。
【0033】
(3)ワックス除去工程
ワックス除去工程(iii)では、成形工程(ii)でプリプレグ予備成形体4を硬化させてなるFRP製品を金型10から取り出し、内部の空洞を満たしているコア3から、可融部1をなすワックスを除去する。外皮2は、FRP製品の内面に固着していてFRP製品の機能と外観に影響しなければ、除去する必要はない。
可融部1をなすワックスは、例えばオーブン中で加熱することにより融解させ、ドリルやホールソーを用いてFRP製品に設けられる排出孔から排出させる。加熱の際は、FRP製品の温度が熱変形温度(荷重たわみ温度)に達しないようにする。
【0034】
好ましい実施形態では、図12に示すように、プリプレグ予備成形体4に貫通孔Hを設け、その貫通孔Hにエラストマー栓20を挿入してFRP製品を成形してもよい。貫通孔Hとエラストマー栓20の間の隙間は、成形中にプリプレグが流動変形することによって塞がれる。
成形が終了して上型を持ち上げたら直ちに、図13に示すように、金属チューブ30の一方端をエラストマー栓20に突き刺して貫通させることで、FRP製品6の空洞内の融解したワックス8a,8bの一部または全部が、金属チューブ30を通して、その他方端に接続された回収容器34内に排出される。
この方法によれば、FRP製品に穿孔したときに融解したワックスが噴き出すことがないので、安全にワックスを除去できるだけでなく、金型からの取り出し後に空洞内圧によって生じるFRP製品の変形を防止することができる。
この方法を変形して、金型に金属チューブを通すための挿通孔を設けておき、上型を持ち上げる前に、この挿通孔を通して金型内のFRP製品に金属チューブを突き刺すことにより、ワックスの一部または全部を排出させてもよい。この変形態様において、ワックスを排出させるタイミングは型開きの後であってもよいし、型開きの前であってもよい。
【0035】
図12に示す例において、エラストマー栓20に貫通孔Hへの挿入方向に沿ってテーパーがつけられている理由は、成形後、ワックスを排出させる前に空洞内圧によってエラストマー栓20が抜けるのを防ぐためであり、それ故に、エラストマー栓20は挿入方向に直交する断面の径が大きい側をコア3に向けて貫通孔Hに挿入されている。
一例では、エラストマー栓の少なくとも一部にテーパーをつけることに加えて、または、それに代えて、エラストマー栓の側面に突起または窪みを設けてもよい。
エラストマー栓の材質は、限定するものではないが、例えばアクリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ニトリルゴムまたはブチルゴムであり得る。
金属チューブの先端は、テーパー栓に突き刺し易いように尖らせてもよい。ワックスを排出させるときは、金属チューブ内におけるワックスの凝固を防止するために、金属チューブの少なくとも一部を加熱することが好ましい。
【0036】
第二ワックスがFRP製品から速やかに除去できるよう、第二ワックスの融点Tm2はFRP製品の熱変形温度より20℃以上低いことが好ましい。
他の実施形態において、中空でなく、かつアンダーカットを有さないFRP製品を製造するときには、コアを除去するのに必ずしも可融部を融解させなくてもよい。
【0037】
第一ワックスと第二ワックスは互いに非相溶であるため、分離させて再利用することが容易である。
一例では、融点の差を利用して第一ワックスのみを融解させ、第二ワックスから分離させることができる。
融解した第一ワックスの比重と融解した第二ワックスの比重が異なるときは、比重差を理由して第一ワックスと第二ワックスを分離させることもできる。
【0038】
以上、中空の直方体であるFRP物品を製造する場合を例に、本実施形態に係るFRP製品製造方法を説明したが、この製造方法で製造し得るFRP製品の外形は直方体に限定されるものではない。この製造方法は、屈曲または湾曲した壁面を含む構造を備える、各種のFRP製品の製造に適用することができる。
本実施形態に係るFRP製品製造方法は、FRPのみからなる構造体の製造だけではなく、FRPが金属部品と一体的に成形された構造体の製造や、熱硬化性樹脂からなるFRPと熱可塑性樹脂からなるFRPとが一体的に成形された構造体の製造にも使用できる。
【0039】
2.コア
本発明の実施形態の他のひとつは、FRP製品の製造に用いられるコアに関する。
より具体的には、本実施形態のコアは、プリプレグを金型内で加熱および加圧して硬化させることにより、屈曲または湾曲した壁面を含む構造を備えるFRP製品を製造するときに、該プリプレグと共に金型内に配置され得るコアである。
このコアは、ワックスからなる可融部と該可融部を覆う外皮とからなる。
一例において、該可融部は融点80℃未満のワックスからなる部分を有していてもよく、該部分は好ましくは外皮と接している。
一例において、該可融部は、該融点80℃未満のワックスからなる部分のみからなっていてもよい。
【0040】
他の一例において、該可融部は、該融点80℃未満のワックスからなる部分に加え、融点が該ワックスより高くかつ該ワックスと相溶しない別のワックスからなる別の部分を有していてもよい。
該融点80℃未満のワックスと該別のワックスは、一方が極性基を有する有機化合物を含有するワックスであり、他方が炭化水素を主成分とするワックスであり得る。
一例において、本実施形態のコアでは、高周波電磁界下で発熱する性質を有する材料の粒子が、可融部に添加されていてもよい。
他の一例において、本実施形態のコアでは、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する材料の粒子が、可融部に添加されていてもよい。
【0041】
本実施形態のコアは、前記1.項で説明したFRP製品の製造方法に好ましく用いることができる。前記1.項におけるFRP製品製造方法の説明中に例示されたコアは、いずれも本実施形態に係るコアの一例である。
【0042】
3.実験結果
3.1.実験1
以下の手順にて、FRPからなる100mm×50mm×22mmの中空直方体を試作した。
チョップド炭素繊維マットをエポキシアクリレート樹脂で含浸させてなる、繊維含有率53質量%で厚さ約2mmのSMC(三菱ケミカル株式会社製 STR120N131)を、2枚重ねたうえで所定形状に裁断し、折り曲げることにより、ほぼ正味形状のプリプレグ予備成形体を作製した。
プリプレグ予備成形体を作製するとき、その内部には、別途工程で準備したコアを配置した。
該コアは、12-ヒドロキシステアリン酸メチルを含有する融点50℃の合成ワックス(伊藤製油株式会社製ITOWAX E-210)からなる可融部を、15μm厚のポリオレフィン製シュリンクチューブを用いて形成した外皮で覆ったもので、上記プリプレグ予備成形体の内部にちょうど収まる大きさの直方体となるように作製した。
【0043】
上記プリプレグ予備成形体を、その内側に包まれたコアとともに、予め成形温度と同じ温度に加熱した金型内に入れ、加熱および加圧して硬化させた。成形温度は140℃、成形時間は15分間とした。ここでいう成形時間は、型締めから型開きまでの時間である。
金型から取り出した成形品にドリルで直径10mmの孔をあけ、この孔から該成形品の内部のワックス全部を130℃に加熱して融解させたうえで排出させた。
得られた中空直方体の外観は良好で、角の欠けも壁面のシワも観察されなかった。
【0044】
3.2.実験2
12-ヒドロキシステアリン酸メチルを含有する融点50℃の合成ワックスに代えて、高級脂肪酸エステルを含有する融点68℃の合成ワックス(伊藤製油株式会社製ITOWAX E-70G)でコアの可融部を形成したこと以外は実験1と同様にして、FRPからなる中空直方体を試作した。
得られた中空直方体の外観は良好で、角の欠けも壁面のシワも観察されなかった。
【0045】
3.3.実験3
コアの可融部を1種類のワックスで形成しないで、実験2でコアに用いた融点68℃の合成ワックス(伊藤製油株式会社製ITOWAX E-70G)と、この合成ワックスと相溶しない融点117℃のポリエチレンワックス(Freeman Manufacturing & Supply Company製 File-A-Wax Green)とで形成したこと以外は実験1と同様にして、FRPからなる中空直方体を試作した。
2種類のワックスを用いたコアは、融点117℃のポリエチレンワックス片の周囲に、融点68℃の合成ワックス片を配置することにより構成した。すなわち、外皮と接する部分に、より低い融点を有するワックス片を配置した。2種類のワックスの使用量は体積比で1:1とした。
得られた中空直方体の外観は良好で、角の欠けも壁面のシワも観察されなかった。
【0046】
3.4.実験4
12-ヒドロキシステアリン酸メチルを含有する融点50℃の合成ワックスに代えて、融点117℃のポリエチレンワックス(Freeman Manufacturing & Supply Company製 File-A-Wax Green)でコアの可融部を形成したこと以外は実験1と同様にして、FRPからなる中空直方体を試作した。
得られた中空直方体は、前述の実験1~3で得られたものと比べ外観が劣っており、一部の角が欠けていた他、壁面の一部にシワが観察された。
【0047】
3.5.実験5
以下の手順にて、FRPからなる72mm×36mm×20mmの中空直方体を試作した。
厚さ2mmのSMC(三菱ケミカル株式会社製 STR120N131)を1枚所定形状に裁断するとともに、その一部に内径6mmの円筒形貫通孔を形成し、折り曲げることにより、ほぼ正味形状のプリプレグ予備成形体を作製した。
プリプレグ予備成形体を作製するとき、その内部には、別工程で準備したコアを配置した。
該コアは、高級脂肪酸エステルを含有する融点68℃の合成ワックス(伊藤製油株式会社製ITOHWAX E-70G)からなる可融部を、7μm厚のナイロン6製フィルムを用いて形成した外皮で覆ったもので、上記プリプレグ予備成形体の内部にちょうど収まる大きさの直方体となるように作製した。
SMCに設けた貫通孔には、シリコーンゴム栓を挿入した。このシリコーンゴム栓は上底面の直径6mm、下底面の直径10mm、高さ4mmの円錐台形のテーパー栓で、下底面がコアに面するように貫通孔に挿入した。
【0048】
上記プリプレグ予備成形体を、貫通孔が設けられた面が上になるようにして、その内側に包まれたコアとともに、予め成形温度と同じ温度に加熱した金型内に入れ、加熱及び加圧して硬化させた。成形温度140℃、成形時間は10分間とした。成形完了後、上型を持ち上げたら直ぐに外径2mm、内径1mmのステンレスチューブの一方端をシリコーンゴム栓に突き刺したところ、成形品の内部から、溶融したワックスがステンレスチューブを通して、ステンレスチューブの他方端に接続した容器に流れ込んだ。
【0049】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本明細書に開示された発明は、屈曲または湾曲した壁面を含む構造を備えるFRP製品の製造に好ましく用いることができる。
本明細書に開示された発明は、限定するものではないが、自動車、船舶、鉄道車両、航空機その他の輸送機器のための部品(構造部品を含む)や、自転車のフレーム、テニスラケットおよびゴルフシャフトを含む各種のスポーツ用品を、繊維強化樹脂で製造するときに好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 可融部
1a 第一可融部
1b 第二可融部
2 外皮
3 コア
4 プリプレグ予備成形体
5 プリプレグシート
6 FRP製品
7 空洞
8a 第一ワックスの融解物
8b 第二ワックスの融解物
10 金型
12 下型
14 上型
16 スライドコア
20 エラストマー栓
30 金属チューブ
34 回収容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13