(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】光走査装置、物体検出装置及びセンシング装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/10 20060101AFI20240416BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G02B26/10 Z
G02B26/08 E
(21)【出願番号】P 2023122085
(22)【出願日】2023-07-27
(62)【分割の表示】P 2019125650の分割
【原出願日】2019-07-05
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(72)【発明者】
【氏名】仲村 忠司
(72)【発明者】
【氏名】中村 健翔
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-083626(JP,A)
【文献】特開2014-235075(JP,A)
【文献】特開平11-326752(JP,A)
【文献】特開2000-147407(JP,A)
【文献】特開2005-189231(JP,A)
【文献】特開平05-119051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10-26/12
G01S 7/48-7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の角度で発散する光ビームを出射する光源部と、
前記光源部からの前記光ビームを成形する投光光学素子と、
前記投光光学素子からの前記光ビームを偏向走査する偏向面を有する光偏向器と、
を有し、
前記所定の角度の半角をθ、前記偏向面のサイズの半幅をa、前記投光光学素子の焦点距離をf、前記偏向面に対する前記光ビームの入射角をαと定義したとき、次の条件式を満足し、
前記光源部からの前記光ビームの中心光線の進行方向と直交する面内において、互いに直交する第1、第2の方向が規定されており、
前記第1、第2の方向における前記投光光学素子の焦点距離が異なっており、
前記第1、第2の方向のうち前記投光光学素子の焦点距離が短い方向における前記投光光学素子としてのシリンドリカルレンズのレンズ面の形状が非円弧形状であることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
所定の角度で発散する光ビームを出射する光源部と、
前記光源部からの前記光ビームを成形する投光光学素子と、
前記投光光学素子からの前記光ビームを偏向走査する偏向面を有する光偏向器と、
を有し、
前記所定の角度の半角をθ、前記偏向面のサイズの半幅をa、前記投光光学素子の焦点距離をf、前記偏向面に対する前記光ビームの入射角をαと定義したとき、次の条件式を満足し、
前記光源部からの前記光ビームの中心光線の進行方向と直交する面内において、互いに直交する第1、第2の方向が規定されており、
前記第1、第2の方向における前記投光光学素子の焦点距離が異なっており、
前記第1、第2の方向のうち前記投光光学素子の焦点距離が短い方向における前記投光光学素子が3面以上の構成であることを特徴とする光走査装置。
【請求項3】
前記光源部の発光領域のサイズの半幅をd、前記投光光学素子の主平面から前記偏向面までの光路長をLと定義したとき、次の条件式を満足することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記光源部からの前記光ビームの中心光線の進行方向と直交する面内において、互いに直交する第1、第2の方向が規定されており、
前記第1、第2の方向において、前記所定の角度の半角をθ
1、θ
2、前記偏向面のサイズの半幅をa
1、a
2、前記投光光学素子の焦点距離をf
1、f
2、前記偏向面に対する前記光ビームの入射角をα
1、α
2、前記光源部の発光領域のサイズの半幅をd
1、d
2、前記投光光学素子の主平面から前記偏向面までの光路長をL
1、L
2と定義したとき、次の条件式を満足することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光走査装置。
【請求項5】
前記所定の角度は、前記光源部からの前記光ビームのプロファイルにおいてピーク強度の1/e
2で表される強度となる角度で規定されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の光走査装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の光走査装置と、
前記光源部からの前記光ビームが検出領域に存在する物体にて反射又は散乱された光を検知し、その物体検知タイミングを決定する物体検知部と、
を有し、
前記光源部の発光タイミングと前記物体検知タイミングに基づいて、前記物体の情報を検出することを特徴とする物体検出装置。
【請求項7】
前記光源部からの前記光ビームのうち前記投光光学素子に入射しない光を遮光する遮光部材を有することを特徴とする請求項6に記載の物体検出装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の物体検出装置と、
前記物体検出装置の出力に基づいて、前記物体の有無、前記物体の移動方向及び前記物体の移動速度の少なくとも1つを含む情報を取得する監視制御装置と、
を有することを特徴とするセンシング装置。
【請求項9】
前記センシング装置は、車両に搭載されており、
前記監視制御装置は、前記物体の位置情報と移動情報の少なくとも1つに基づいて、前記車両の走行に関する制御を行うことを特徴とする請求項8に記載のセンシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置、物体検出装置及びセンシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ビームを照射領域に偏向走査する光走査装置、並びに、照射した光ビームを用いて物体の有無や物体までの距離等を検出する物体検出装置及びこれを用いたセンシング装置が知られている。このような装置は、特に、レーザレーダ及びLIDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれることがある。
【0003】
LIDARは、例えば、走行中の車両(移動体)の前方における物体の有無や物体までの距離等を検出する。LIDARは、光源から出射したレーザ光を物体に照射・投光し、その物体から反射又は散乱された光を受光器で検出することで、所望の範囲における物体の有無や物体までの距離等を検出する。
【0004】
特許文献1には、対象物に向けて出射されたレーザ光の戻り光を受光部が受光することにより対象物までの距離を計測する計測装置が開示されている。計測装置は、レーザ光を出射する出射部と、出射されたレーザ光を透過し、当該レーザ光の光路を含む所定領域を通過する戻り光を反射して受光部に受光させる光学素子とを有している。また計測装置は、出射部が出射するレーザ光を光走査部(MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー)へ反射し、かつ、光走査部から入射した戻り光を光学素子へ集光させるように配置された凹面鏡を有している。
【0005】
特許文献1では、レーザ光を光走査部(MEMSミラー)で走査し、物体で反射又は散乱された光を、再度光走査部を介して受光部で受光することで、所望の範囲における物体の有無や物体までの距離等を検出する。このように、レーザ光と検出器で検出できる検出可能領域の両方を走査する走査型LIDARは、検出が必要な部分のみにレーザ光を集中できるので、検出精度や検出距離の点で有利である。また、検出器による検出可能領域を最小限にすることができるため、検出器のサイズを小型にしやすく、コスト的にも有利である。
【0006】
特許文献1では、所望の角度範囲(有効走査領域)で光ビームを走査する方式として、MEMSミラーを用いている。MEMSミラーの他にも、ポリゴンミラーなど種々の走査機構があるが、その偏向性能に鑑みると、ミラーのサイズは小さい方が好ましい。例えば、MEMSミラーでいうと、ミラーのサイズは共振周波数や振幅とのトレードオフがあり、高い共振周波数や大きい振幅がシステムとしては望まれるが、これを達成するためにミラーのサイズを小さくすると、ミラーの大口径化との両立が困難となる。また、ポリゴンミラーでは、偏向面のサイズが小さいと、偏向面を含むロータの重量を軽減でき、モータの負荷トルクが下がるので、低消費電力化、風切り音の静音化、振動や衝撃などの外乱時の回転特性の安定化などを図ることができる。
【0007】
特許文献1では、MEMSミラーのサイズを規定するために、MEMSミラーへの入射光束径を投光光学系のアパーチャなどの光学素子で規制している。また、MEMSミラーのサイズを最大限に活かすために、他分野の装置においても、MEMSミラーへ入射するビームの光束幅を規制するアパーチャを調整することにより、入射ビームの中心とMEMSミラーの中心を合わせることが提案されている(例えば特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-151278号公報
【文献】特許第4965284号公報
【文献】国際公開第2015/33494号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のようなアパーチャにより入射光束の一部をカットすることで偏向器への入射位置を調整する技術は、多くの光量を必要とする物体検出装置(レーザレーダ、LIDAR)に用いるには必ずしも適切とは言えない場合があり、この点で改良の余地があった。
【0010】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、光偏向器の小型化を図りつつ光量を確保することができる光走査装置、物体検出装置及びセンシング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態の光走査装置は、所定の角度で発散する光ビームを出射する光源部と、前記光源部からの前記光ビームを成形する投光光学素子と、前記投光光学素子からの前記光ビームを偏向走査する偏向面を有する光偏向器と、を有し、前記所定の角度の半角をθ、前記偏向面のサイズの半幅をa、前記投光光学素子の焦点距離をf、前記偏向面に対する前記光ビームの入射角をαと定義したとき、次の条件式を満足し、前記光源部からの前記光ビームの中心光線の進行方向と直交する面内において、互いに直交する第1、第2の方向が規定されており、前記第1、第2の方向における前記投光光学素子の焦点距離が異なっており、前記第1、第2の方向のうち前記投光光学素子の焦点距離が短い方向における前記投光光学素子としてのシリンドリカルレンズのレンズ面の形状が非円弧形状であることを特徴とする。
【0012】
本実施形態の光走査装置は、所定の角度で発散する光ビームを出射する光源部と、前記光源部からの前記光ビームを成形する投光光学素子と、前記投光光学素子からの前記光ビームを偏向走査する偏向面を有する光偏向器と、を有し、前記所定の角度の半角をθ、前記偏向面のサイズの半幅をa、前記投光光学素子の焦点距離をf、前記偏向面に対する前記光ビームの入射角をαと定義したとき、次の条件式を満足し、前記光源部からの前記光ビームの中心光線の進行方向と直交する面内において、互いに直交する第1、第2の方向が規定されており、前記第1、第2の方向における前記投光光学素子の焦点距離が異なっており、前記第1、第2の方向のうち前記投光光学素子の焦点距離が短い方向における前記投光光学素子が3面以上の構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光偏向器の小型化を図りつつ光量を確保することができる光走査装置、物体検出装置及びセンシング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態による光走査装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態による光走査装置における各種パラメータを示す図である。
【
図3】投光光学素子からの光ビームのZ方向の角度に対する角度強度分布を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態による物体検出装置の構成の一例を示す図である。
【
図5】TOF方式による距離計測を実現する物体検出装置の機能ブロック図である。
【
図6】遮光部材を設けた走査光学装置の一例を示す図である。
【
図7】第2実施形態による光走査装置の構成及び作用効果を示す第1の図である。
【
図8】第2実施形態による光走査装置の構成及び作用効果を示す第2の図である。
【
図9】第3実施形態による光走査装置の構成及び作用効果を示す図である。
【
図10】第5実施形態において投光光学素子を複数面のレンズ面で構成した場合の一例を示す図である。
【
図11】第6実施形態によるセンシング装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪第1実施形態≫
図1~
図6を参照しながら、第1実施形態による光走査装置1について詳細に説明する。以下の説明におけるX軸方向とY軸方向とZ軸方向は、図中に示す矢線方向を基準とする。X軸方向とY軸方向とZ軸方向は互いに直交する三次元空間を構成する。
【0016】
図1は、第1実施形態による光走査装置1の構成の一例を示す図である。
【0017】
光走査装置1は、光源部10と、投光光学素子20と、光偏向器(走査ミラー)30とを有している。
【0018】
光源部10は、所定の角度で発散する光ビームを出射する。光源部10は、例えば、半導体レーザ(LD:Laser Diode)から構成することができる。あるいは、光源部10は、面発光レーザ(VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER))又はLED(Light Emitting Diode)等から構成することができる。このように、光源部10をどのように構成するかには自由度があり、種々の設計変更(代用)が可能である。
【0019】
投光光学素子20は、光源部10からの光ビームを成形する。具体的に、投光光学素子20は、所定の角度で発散しながら入射する光ビームを略平行光に成形する。詳細は後述するが、投光光学素子20は、例えば、発散光である光ビームをカップリングして略平行光に成形する共軸非球面レンズから構成することができる。なお、
図1では、投光光学素子20を1枚のレンズで描いているが、投光光学素子20を複数枚のレンズから構成してもよい。
【0020】
光偏向器30は、投光光学素子20からの光ビームを偏向走査する偏向面31を有している。具体的に、光偏向器30は、光源部10と投光光学素子20によりX軸方向に出射された光ビームをX軸方向とZ軸方向を含むXZ平面の所定の走査範囲に偏向走査する。光偏向器30による走査範囲は、例えば、偏向面31の角度を振動や回転で変えることにより設定される。
図1では、上記の走査範囲における光偏向器30(偏向面31)の基準位置を実線で描いており、光偏向器30(偏向面31)の走査位置(例えば走査両端位置)を破線で描いている。
【0021】
図2は、第1実施形態による光走査装置1における各種パラメータを示す図である。
図2は、
図1の走査範囲のうちのある画角を走査している瞬間の状態を描いている。
【0022】
図2において、θは、光源部10からの光ビームの所定の角度(発散角)の半角を示している。光源部10からの光ビームの所定の角度(発散角)とその半角θは、光源部10からの光ビームのプロファイルにおいてピーク強度の1/e
2で表される強度となる角度(中心方向とピーク強度の1/e
2の強度となる方向がなす角度)で規定されている。光源部10からの光ビームの強度がガウス型の角度分布である場合、θまたは2θの中には、光源部10が出力する全光量の95%の光量が含まれている。このため、光源部10からの光量の損失を抑えるとともに、投光光学素子20の小型化を図ることができる。
【0023】
図2において、aは、光偏向器30の偏向面31のサイズの半幅を示している。ここで、光偏向器30の偏向面31は、例えば、正方形、長方形、円形、楕円形とすることができる。光偏向器30の偏向面31が正方形の場合、偏向面31のサイズは正方形の一辺の長さであり、その半分の長さが偏向面31のサイズの半幅aとなる。光偏向器30の偏向面31が長方形の場合、偏向面31のサイズは長方形の長辺又は短辺の長さであり、その半分の長さが偏向面31のサイズの半幅aとなる。光偏向器30の偏向面31が円形の場合、偏向面31のサイズは円形の直径であり、その半分の長さが偏向面31のサイズの半幅aとなる。光偏向器30の偏向面31が楕円形の場合、偏向面31のサイズは楕円形の長径又は短径であり、その半分の長さが偏向面31のサイズの半幅aとなる。
【0024】
図2において、fは、投光光学素子20の焦点距離を示している。
図2に示すように、光源部10の発光点と投光光学素子20の主平面の間隔は、投光光学素子20の焦点距離fと等しくなるように配置されている。これにより、光源部10からの光ビームが投光光学素子20で略平行光になるように成形される。
【0025】
図2において、αは、光偏向器30の偏向面31に対する光ビームの入射角を示している。αは、別言すると、光偏向器30の偏向面31の法線と、光偏向器30の偏向面31に入射する前の光ビームの中心光線(光軸)とのなす角度である。
【0026】
図2において、投光光学素子20で成形された光ビームの光束径hは、以下の数式で表される。
【0027】
上記の光ビームが光偏向器30の偏向面31に入射角αで入射しているが、このとき、光偏向器30の偏向面31における光ビームの光束径は、以下の数式で表される。
【0028】
上記の光ビームが光偏向器30の偏向面31でけられないように光偏向器30の偏向面31のサイズ2a(半幅a)を、以下の条件式で規定する。
【0029】
上記の数式を整理すると、第1実施形態の光走査装置1が満足するべき以下の条件式が導かれる。
【0030】
優れた偏向性能という観点からは、光偏向器30の偏向面31のサイズ2a(半幅a)は小さいことが望ましい。また光源部10からの光ビームの所定の角度(発散角)とその半角θは制御することが難しいため、投光光学素子20の焦点距離fを短く設計することによって、光偏向器30(偏向面31)の小型化を図りつつ光量を確保することができる。さらに、光走査装置1を物体検出装置2及びセンシング装置3に適用した場合には、より長距離の物体を精度よく検出することができる。その際、上述した特許文献2、3のようにアパーチャにより入射光束の一部をカットするのではなく、焦点距離が短い投光光学素子20によるカップリング状態で光束径を設定するので、光偏向器30(偏向面31)を小さくしながら十分な光量を確保することができる。この作用効果は、光偏向器30の任意の走査範囲(画角)において得ることができる。
【0031】
ところで、投光光学素子20の焦点距離fを短くした場合、投光光学素子20のレンズ面の曲率が強くなり、収差の影響が大きくなってくる。このため、第1実施形態では、投光光学素子20を共軸非球面レンズから構成することにより、球面収差を極力抑えた設計としている。
【0032】
図3は、投光光学素子20からの光ビームのZ方向の角度に対する角度強度分布(走査方向角度と角度強度の関係性)を示すグラフである。
図3において、実線は、投光光学素子20を共軸非球面レンズから構成した第1実施形態(実施例)のプロファイルを示しており、破線は、投光光学素子を球面レンズから構成した比較例のプロファイルを示している。比較例では、収差によってビームプロファイルの裾野が大きく広がってしまっており、ガウス分布とは大きくかけ離れて、受光画角より外の角度に、全光量の20%が含まれてしまっており、これがそのまま光量のロスとなってしまう。これに対して、第1実施形態(実施例)では、投光光学素子20を共軸非球面レンズから構成することで収差を良好に補正し、所望の受光画角に略100%の光量が入るように設計しており、受光素子上でのけられがない状態を実現できている。
【0033】
図4は、第1実施形態による物体検出装置2の構成の一例を示す図である。物体検出装置2は、光走査装置1の光源部10と投光光学素子20と光偏向器30に加えて、受光光学系40と、受光光学素子50と、駆動基板60とを有している。
【0034】
光偏向器30によって光ビームを走査する領域内に物体がある場合、光ビームが物体によって反射又は散乱する。物体によって反射又は散乱した光ビームは、受光光学系40を通って、受光光学素子50で受光される。受光光学素子50は、光源部10からの光ビームが検出領域に存在する物体にて反射又は散乱された光を検知し、その物体検知タイミングを決定する「物体検知部」として機能する。駆動基板60は、光源部10及び受光光学素子50を駆動制御する。
【0035】
受光光学系40は、例えば、レンズ系、ミラー系及びその他の受光光学素子50に光を集められる種々の構成の1つを採用することができる(受光光学系40の構成には自由度があり特定の構成に限定されない)。
【0036】
受光光学素子50は、例えば、PD(Photo Diode)、APD(Avalanche Photo Diode)、ガイガーモードAPDであるSPAD(Single Photon Avalanche Diode)、TOF(Time of Flight)演算機能を画素毎に有するCMOS撮像素子(TOFセンサ)から構成することができる。
【0037】
図5は、TOF方式による距離計測を実現する物体検出装置2の機能ブロック図である。
図5に示すように、光源部10と受光光学素子50とを接続する構成要素として、波形処理回路70と、時間計測回路80と、測定制御部90と、光源駆動回路100とが設けられている。
【0038】
波形処理回路70は、受光光学素子50が受光した光ビームに所定の波形処理を施して検出信号を出力する。時間計測回路80は、波形処理回路70からの検出信号に基づいて、光源部10の発光タイミングから受光光学素子50の物体検知タイミングまでの時間を計測し、その時間計測結果を出力する。測定制御部90は、時間計測回路80から入力した光源部10の発光タイミングから受光光学素子50の物体検知タイミングまでの時間計測結果(光源部10の発光タイミングと受光光学素子50の物体検知タイミング)に基づいて、検出領域に存在する物体の情報を検出する。また、測定制御部90は、検出した物体の情報に基づいて、光源駆動信号を出力する。光源駆動回路100は、測定制御部90からの光源駆動信号に基づいて、光源部10の発光を制御する。
【0039】
光源部10をパルス発光させたタイミングから、物体を経由して返ってきた光ビームが受光光学素子50に到達するまでの時間を波形処理回路70、時間計測回路80を介して測定し、その値を光速と掛け合わせると、光が物体検出装置2から物体まで往復する距離が算出される。投光系と受光系は物体に対してほとんど同距離にあり、光源部10から物体までの距離と、物体から受光光学素子50までの距離とが略同一とみなせることを利用して、求めた往復の距離の半分を、物体検出装置2から物体までの距離として算出する。
【0040】
物体検出装置2は、物体による反射光又は散乱光の一部を受光するので、遠距離であるほど、物体から返ってくる光量は小さくなる。よって、遠距離の物体まで検出するためには、より大きな光量を投光することが必要となるが、前述の投光光学系(条件式を満足するように投光光学素子20の焦点距離fを短く設定したもの)を用いることで、光偏向器30を小型に保ちつつ、遠距離の物体の情報を高精度に検出することができる。
【0041】
ところで、第1実施形態では投光光学系にアパーチャなどを設けていないため、投光光学素子20でカップリングされずに発散する角度が大きい光が、光源部10と投光光学素子20の間から漏れる場合がある。この漏れ光が受光光学系40に入射すると、検出領域に物体がなくても受光信号が発生するため、誤検知が起こるおそれがある。
【0042】
そこで、第1実施形態では、
図6に示すように、光源部10と投光光学素子20の間を鏡筒部材110で囲って漏れ光が受光光学素子50に導光されないようにしている。すなわち、鏡筒部材110は、光源部10からの光ビームのうち投光光学素子20に入射しない光を遮光する「遮光部材」として機能する。なお、ここでは鏡筒部材110を「遮光部材」とした場合を例示したが、「遮光部材」を実現するための構成はこれに限定されない。例えば、光源部10と投光光学素子20の位置関係を調整する構成とするために、単純に投光光学系と受光光学系の間に遮光壁を立てるなど、種々の構成が考えられる。
【0043】
≪第2実施形態≫
図7、
図8を参照して、第2実施形態による光走査装置1について詳細に説明する。
図7、
図8は、第2実施形態による光走査装置1の構成及び作用効果を示す第1、第2の図である。
【0044】
第1実施形態は、光源部10の発光領域のサイズを考慮することなく条件式を規定している。これに対して、第2実施形態は、光源部10の発光領域のサイズを考慮して条件式をより最適化している。
【0045】
図7Aに示すように、光源部を点光源として捉えた場合、光源部の発光点から投光光学素子の主平面までの光路長を投光光学素子の焦点距離fとすると、光源部から出力されて投光光学素子で成形される光ビームは略平行光となる。
【0046】
これに対して、より遠距離の物体を検出するためにより高出力な光源部を用いる場合、光源部の発光領域の面積を大きくして出力を上げることが一般的に行われる。このとき、
図7Bに示すように、光源部の発光領域から投光光学素子の主平面までの光路長を投光光学素子の焦点距離fに配置しても、光源部の発光領域の面積の影響を受けて、光源部から出力されて投光光学素子で成形される光ビームは平行光とはならない。
【0047】
図7Bでは、光源部の発光領域の中心部から出る光ビームを実線で描き、光源部の発光領域の一端部(図中の上端部)から出る光ビームを破線で描き、光源部の発光領域の他端部(図中の下端部)から出る光ビームを二点鎖線で描いている。
図7Bに示すように、光源部の発光領域の中心部から出る光ビーム(実線)は、
図7Aと同じ挙動(振る舞い)で、投光光学素子で略平行光に成形される。一方、光源部の発光領域の一端部と他端部から出る光ビームは、投光光学素子を出た後に光束径が広がる成分を持つ。光源部の発光領域の一端部と他端部から出る光線(破線、二点鎖線)の一成分は、投光光学素子の主平面でその光軸を通過すると直進する。この光ビームは、投光光学素子のカップリングで略平行光となるので、投光光学素子の端部に入射した光線も同様の角度で出射する。このため、光ビームは、
図7Bにφ又はφ/2で示す角度で広がることになる。以上の性質上、光源部の発光領域のサイズ(面積)が大きいほど、光ビームの広がり角度φ又はφ/2が大きくなる(無視できなくなってくる)。
【0048】
図8において、dは、光源部10の発光領域のサイズの半幅を示している。ここで、光源部10の発光領域は、例えば、正方形、長方形、円形、楕円形とすることができる。光源部10の発光領域が正方形の場合、光源部10の発光領域のサイズは正方形の一辺の長さであり、その半分の長さが光源部10の発光領域のサイズの半幅dとなる。光源部10の発光領域が長方形の場合、光源部10の発光領域のサイズは長方形の長辺又は短辺の長さであり、その半分の長さが光源部10の発光領域のサイズの半幅dとなる。光源部10の発光領域が円形の場合、光源部10の発光領域のサイズは円形の直径であり、その半分の長さが光源部10の発光領域のサイズの半幅dとなる。光源部10の発光領域が楕円形の場合、光源部10の発光領域のサイズは楕円形の長径又は短径であり、その半分の長さが光源部10の発光領域のサイズの半幅dとなる。
【0049】
図8において、Lは、投光光学素子20の主平面から光偏向器30の偏向面31までの光路長を示している。
【0050】
図8におけるθとfは、
図2で説明した通りである。すなわち、θは、光源部10からの光ビームの所定の角度(発散角)の半角を示している。fは、投光光学素子20の焦点距離を示している。
【0051】
図8において、光偏向器30の偏向面31における光束幅(半幅)は、以下の数式で表される。
【0052】
そして、光偏向器30の偏向面31への光ビームの入射角を考慮して、光偏向器30の偏向面31のサイズ2a(半幅a)を、以下の条件式で規定する。この条件式が、第2実施形態の光走査装置1が満足するべき条件式となる。
【0053】
あるいは、光源部10の発光領域のサイズの半幅dが他のパラメータのスケールオーダに比べてはるかに小さいことから、dを削除した次の条件式を適用してもよい。
【0054】
≪第3実施形態≫
図9を参照して、第3実施形態による光走査装置1について詳細に説明する。
図9は、第3実施形態による光走査装置1の構成及び作用効果を示す図である。
【0055】
第3実施形態では、光源部10からの光ビームの中心光線の進行方向と直交する面内において、互いに直交する第1、第2の方向を規定している。ここでは、第1の方向をZ軸方向とX軸方向を含むZX平面における方向とし、第2の方向をX軸方向とY軸方向を含むXY平面における方向とした場合を例示して説明する。第1の方向(ZX平面)と第2の方向(XY平面)では、光源10の発光領域のサイズや光ビームの発散角度が異なり、それに応じて、投光光学素子20を第1、第2の方向に対応した異なる焦点距離のシリンドリカルレンズとして構成することができる。
【0056】
図9では、第1の方向(ZX平面)における光線の様子を実線で描き、第2の方向(XY平面)における光線の様子を破線で描いている。また、投光光学素子20のシリンドリカルレンズのうち、第1の方向にパワーを持つものを「投光光学素子1」として説明し、第2の方向にパワーを持つものを「投光光学素子2」として説明している。また、
図9では、作図の便宜上の理由により、第1、第2の方向における光源部10の発光領域径は図示していない(後述する条件式では光源部10の発光領域径を考慮している)。また、
図9では、理解の容易化を図るために、第1、第2の方向にかかる異なる平面における光線の振る舞いを重ねて描画している。
【0057】
光源部10は、活性層に水平な方向と垂直な方向で発光領域径が異なり、発光領域径が小さい方向が、発光領域径が大きい方向よりも発散する角度が大きい。第1の方向(ZX平面)は、光偏向器30による走査平面である。第2の方向(XY平面)は、光偏向器30による非走査平面である。
図9の例では、第1の方向が、第2の方向に比べて、光源部10の発光領域径が小さく、このため発散する角度が大きい。また、第1の方向は、投光光学素子1でのカップリング後、光線の広がる角度が小さくなりやすい。
【0058】
特に、投光光学素子群(投光光学素子1、2)から光偏向器30の偏向面31までの間隔L
1、L
2は、実際にはその他の光学素子などが入ることで、
図9に示すよりも長くなることが多い。この場合、光偏向器30の偏向面31での光束幅は、第1の方向のものの方が小さくなりやすい。光偏向器30の偏向面31の角度が変わり、特に、光源部10と反対側の画角端では、光偏向器30の偏向面31への入射ビームの入射角が大きくなり、
図2に示したcosαの影響で、光偏向器30の偏向面31での光束径が大きくなる要素が入ってくる。そこで、光偏向器30の偏向面31で光ビームがけられないようにするため、光源部10の発光領域が小さい方を第1の方向とすることが望ましい。
【0059】
図9において、θ
1、θ
2は、第1、第2の方向における光源部10からの光ビームの所定の角度(発散角)の半角を示している。
【0060】
図9には図示していないが、後述の条件式で登場するa
1、a
2は、第1、第2の方向における光偏向器30の偏向面31のサイズの半幅を示している。
【0061】
図9において、f
1、f
2は、第1、第2の方向における投光光学素子20の焦点距離を示している。
【0062】
図9には図示していないが、後述の条件式で登場するα
1、α
2は、第1、第2の方向における光偏向器30の偏向面31に対する光ビームの入射角を示している。
【0063】
図9において、d
1、d
2は、第1、第2の方向における光源部10の発光領域のサイズの半幅を示している。
【0064】
図9において、L
1、L
2は、第1、第2の方向における投光光学素子20の主平面から光偏向器30の偏向面31までの光路長を示している。
【0065】
第3実施形態では、第1の方向(ZX平面)と第2の方向(XY平面)で、光源10の発光領域のサイズや光ビームの発散角度が異なることを考慮して、第2実施形態の条件式をさらに最適化している。具体的には、第1、第2の方向における光偏向器30の偏向面31のサイズの半幅a
1、a
2を以下の条件式で規定する。この条件式が、第3実施形態の光走査装置1が満足するべき条件式となる。
【0066】
あるいは、光源部10の発光領域のサイズの半幅d
1、d
2が他のパラメータのスケールオーダに比べてはるかに小さいことから、d
1、d
2を削除した次の条件式を適用してもよい。
【0067】
≪第4実施形態≫
第3実施形態では、投光光学素子1の焦点距離f1が、投光光学素子2の焦点距離f2より短く、より収差の影響が出やすい構成となっている。このため、第4実施形態では、少なくとも、投光光学素子1の第1の方向にパワーを持つシリンドリカルレンズを非円弧形状で構成する。あるいは、これを一般化して、第1、第2の方向における投光光学素子1、2の焦点距離が異なっている場合に、第1、第2の方向のうち投光光学素子1、2の焦点距離が短い方向における投光光学素子1、2の形状を非円弧形状とする。これにより、狙った広がり角に光ビームの光量を束ねる(光量の散りを抑える)ことができ、光量を確保し、より遠距離の物体も検知できるようになる。一方、焦点距離が長い方の投光光学素子(投光光学素子2)の形状には自由度があるが、例えば、光量の確保を優先する場合は非円弧形状とし、成形性と組付性とコストを優先する場合は円弧形状とすることができる。なお、第4実施形態では、光偏向器30として一軸走査ミラーを想定しているが、二軸走査ミラーなどとしてもよく、種々の変形が可能である。
【0068】
≪第5実施形態≫
第3実施形態では、投光光学素子1の焦点距離f1が、投光光学素子2の焦点距離f2より短く、より収差の影響が出やすい構成となっている。このため、第5実施形態では、少なくとも、投光光学素子1の第1の方向にパワーを持つシリンドリカルレンズを3面以上の構成とする。あるいは、これを一般化して、第1、第2の方向における投光光学素子1、2の焦点距離が異なっている場合に、第1、第2の方向のうち投光光学素子1、2の焦点距離が短い方向における投光光学素子1、2の形状を3面以上の構成とする。これにより、狙った広がり角に光ビームの光量を束ねる(光量の散りを抑える)ことができ、光量を確保し、より遠距離の物体も検知できるようになる。一方、焦点距離が長い方の投光光学素子(投光光学素子2)の形状には自由度があるが、例えば、光量の確保を優先する場合は非円弧形状とし、成形性と組付性とコストを優先する場合は円弧形状とすることができる。
図10は、投光光学素子(非円弧形状シリンドリカルレンズ)をダブレット等の複数面のレンズ面で構成することによって収差を補正する場合の一例を示す図である。
【0069】
≪第6実施形態≫
図11は、第6実施形態によるセンシング装置3の構成の一例を示す図である。センシング装置3は、上述した物体検出装置2と、監視制御装置4とを有している。物体検出装置2と監視制御装置4は、電気的に接続されている。
【0070】
センシング装置3は、例えば、車両に搭載される(車両のバンパー付近やバックミラー近傍に取り付けられる)。なお、
図11では、監視制御装置4がセンシング装置3の内部に設けられているように描いているが、監視制御装置4をセンシング装置3とは別に車両に設けることも可能である。
【0071】
監視制御装置4は、物体検出装置2の出力に基づいて、物体の有無、物体の移動方向及び物体の移動速度の少なくとも1つを含む情報を取得する。また、監視制御装置4は、物体検出装置2の出力に基づいて、物体の形状や大きさの決定、物体の位置情報の算出、移動情報の算出、物体の種類の認識等の処理を行う。そして、監視制御装置4は、物体の位置情報と移動情報の少なくとも1つに基づいて、車両の走行に関する制御を行う。例えば、車両の前方に障害物があると判断された場合には、自動運転技術によって自動ブレーキを掛けるほか、アラームを出したり、ハンドルを切ったり、ブレーキを踏んだりするための指令を出す。
【符号の説明】
【0072】
1 光走査装置
2 物体検出装置
3 センシング装置
4 監視制御装置
10 光源部
20 投光光学素子
30 光偏向器(走査ミラー)
31 偏向面
40 受光光学系
50 受光光学素子(物体検知部)
60 駆動基板
70 波形処理回路
80 時間計測回路
90 測定制御部
100 光源駆動回路
110 鏡筒部材(遮光部材)