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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-15
(45)【発行日】2024-04-23
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の施工方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240416BHJP
   E02D 27/32 20060101ALI20240416BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20240416BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
B28B1/30
E02D27/32 A
E04G21/02 103B
E04G21/12 105A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020035597
(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公開番号】P2021137992
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小倉 大季
(72)【発明者】
【氏名】和田 健介
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
(72)【発明者】
【氏名】野澤 剛二郎
(72)【発明者】
【氏名】国枝 稔
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕介
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-118824(JP,A)
【文献】実開平07-026436(JP,U)
【文献】特開平05-059733(JP,A)
【文献】特開平09-071941(JP,A)
【文献】特開昭62-006043(JP,A)
【文献】実開昭60-077602(JP,U)
【文献】特開2017-014706(JP,A)
【文献】特開昭57-021667(JP,A)
【文献】特開2015-190146(JP,A)
【文献】特開平05-340003(JP,A)
【文献】特開平05-052001(JP,A)
【文献】特開平08-158650(JP,A)
【文献】特開平06-240681(JP,A)
【文献】特開平11-077628(JP,A)
【文献】特開2021-102868(JP,A)
【文献】特開2012-177229(JP,A)
【文献】実開昭57-040519(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
E02D 27/32
E04G 21/02
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造装置の噴射ノズルからコンクリート流動物を定着部材に噴射し、前記定着部材に前記コンクリート流動物が定着して積層された積層体を形成する積層体形成工程と、
前記噴射ノズルからコンクリート流動物を前記積層体に噴射して前記定着部材とは異なる位置に設けられた補強部材で補強しつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体にさらに積層されたコンクリート構造物を形成するコンクリート構造物形成工程と、
を備え、
前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の線状補強材で形成し、
前記定着部材を、前記複数の線状補強材同士の隙間の面積より小さい面積の孔が形成された網状体で形成し、
前記コンクリート構造物形成工程において、前記コンクリート流動物で前記補強部材を埋めつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体及び前記補強部材に積層された前記コンクリート構造物を形成し、
前記定着部材は、前記補強部材で囲まれた領域において平面視で湾曲して配置されているコンクリート構造物の施工方法。
【請求項2】
付加製造装置の噴射ノズルからコンクリート流動物を定着部材に噴射し、前記定着部材に前記コンクリート流動物が定着して積層された積層体を形成する積層体形成工程と、
前記噴射ノズルからコンクリート流動物を前記積層体に噴射して前記定着部材とは異なる位置に設けられた補強部材で補強しつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体にさらに積層されたコンクリート構造物を形成するコンクリート構造物形成工程と、
を備え、
前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の線状補強材で形成し、
前記定着部材を、前記複数の線状補強材同士の隙間の面積より小さい面積の孔が形成された網状体で形成し、
前記コンクリート構造物形成工程において、前記コンクリート流動物で前記補強部材を埋めつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体及び前記補強部材に積層された前記コンクリート構造物を形成し、
前記定着部材は、前記補強部材で囲まれた領域において平面視で所定の中心位置から放射状に延びているコンクリート構造物の施工方法。
【請求項3】
付加製造装置の噴射ノズルからコンクリート流動物を定着部材に噴射し、前記定着部材に前記コンクリート流動物が定着して積層された積層体を形成する積層体形成工程と、
前記噴射ノズルからコンクリート流動物を前記積層体に噴射して前記定着部材とは異なる位置に設けられた補強部材で補強しつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体にさらに積層されたコンクリート構造物を形成するコンクリート構造物形成工程と、
を備え、
前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の線状補強材で形成し、
前記定着部材を、前記複数の線状補強材同士の隙間の面積より小さい面積の孔が形成された網状体で形成し、
前記コンクリート構造物形成工程において、前記コンクリート流動物で前記補強部材を埋めつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体及び前記補強部材に積層された前記コンクリート構造物を形成し、
前記定着部材は、前記補強部材で囲まれた領域において平面視で一直線上に延びているコンクリート構造物の施工方法。
【請求項4】
付加製造装置の噴射ノズルからコンクリート流動物を定着部材に噴射し、前記定着部材に前記コンクリート流動物が定着して積層された積層体を形成する積層体形成工程と、
前記噴射ノズルからコンクリート流動物を前記積層体に噴射して前記定着部材とは異なる位置に設けられた補強部材で補強しつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体にさらに積層されたコンクリート構造物を形成するコンクリート構造物形成工程と、
を備え、
前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の線状補強材で形成し、
前記定着部材を、前記複数の線状補強材同士の隙間の面積より小さい面積の孔が形成された網状体で形成し、
前記コンクリート構造物形成工程において、前記コンクリート流動物で前記補強部材を埋めつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体及び前記補強部材に積層された前記コンクリート構造物を形成し、
前記定着部材は、平面視で前記補強部材の径方向の外側で枠状に配置されており、
前記積層体形成工程において、前記定着部材及び前記補強部材が前記コンクリート流動物で埋まった枠状の積層体を形成し、
前記枠状の積層体の硬化後に、該枠状の積層体の内部に前記コンクリート流動物を流入させて、前記コンクリート構造物を形成するコンクリート構造物の施工方法。
【請求項5】
付加製造装置の噴射ノズルからコンクリート流動物を定着部材に噴射し、前記定着部材に前記コンクリート流動物が定着して積層された積層体を形成する積層体形成工程と、
前記噴射ノズルからコンクリート流動物を前記積層体に噴射して前記定着部材とは異なる位置に設けられた補強部材で補強しつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体にさらに積層されたコンクリート構造物を形成するコンクリート構造物形成工程と、
を備え、
前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の鉄筋で形成し、
前記定着部材を、前記コンクリート構造物の外形に沿って配置される積層面を有するとともに、平面視で一直線上に延びる部分を有する板状の埋設型枠で形成し、
前記積層体形成工程において、前記コンクリート流動物を前記積層面に当てつつ、前記コンクリート流動物が前記積層面に積層された前記積層体を前記埋設型枠と一体に形成するコンクリート構造物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば橋脚等のコンクリート構造物を建築する際には、先ず、足場を組み立てる。その後、基礎に鉄筋を組み立て、鉄筋を囲むように型枠を組み立て、型枠内にコンクリートを打ち込む。コンクリートの養生、硬化後に、型枠を解体する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-214290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コンクリート構造物を施工する際の足場の組み立て及び解体は、煩雑な作業であり、コンクリート構造物の建築方法の生産性の向上を妨げる一因であった。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされ、生産性の高いコンクリート構造物の施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリート構造物の施工方法は、付加製造装置の噴射ノズルからコンクリート流動物を定着部材に噴射し、前記定着部材に前記コンクリート流動物が定着して積層された積層体を形成する積層体形成工程と、前記噴射ノズルからコンクリート流動物を前記積層体に噴射して前記定着部材とは異なる位置に設けられた補強部材で補強しつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体にさらに積層されたコンクリート構造物を形成するコンクリート構造物形成工程と、を備える。
【0007】
上述のコンクリート構造物の施工方法によれば、付加製造装置の吹付け方式を用いて、コンクリート流動物を定着部材に定着させて積層体を形成し、積層体を基にして、積層体にコンクリート流動物をさらに積層することでコンクリート構造物を自動的に製造できる。このような施工方法によれば、足場を組まずに済み、コンクリート構造物の生産性が高まる。
【0008】
本発明に係るコンクリート構造物の施工方法では、前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の線状補強材で形成し、前記定着部材を、前記複数の鉄筋同士の隙間の面積より小さい面積の孔が形成された網状体で形成し、前記コンクリート構造物形成工程において、前記コンクリート流動物で前記鉄筋を埋めつつ、前記コンクリート流動物が前記積層体及び前記補強部材に積層された前記コンクリート構造物を形成してもよい。
【0009】
上述のコンクリート構造物の施工方法によれば、補強部材として複数の鉄筋を用いることができる。上述のコンクリート構造物の施工方法によれば、定着部材として特殊な部材等を用いずに網状体を用いて簡易に準備できる。
【0010】
本発明に係るコンクリート構造物の施工方法では、前記補強部材を、互いに異なる方向に延びる複数の鉄筋で形成し、前記定着部材を、前記コンクリート構造物の外形に沿って配置される積層面を有する型枠で形成し、前記積層体形成工程において、前記コンクリート流動物を前記積層面に当てつつ、前記コンクリート流動物が前記積層面に積層された前記積層体を形成してもよい。
【0011】
上述のコンクリート構造物の施工方法によれば、補強部材として複数の鉄筋を用いることができる。上述のコンクリート構造物の施工方法によれば、定着部材として特殊な部材等を用いずに型枠を用い、容易に準備できる。コンクリート流動物が硬化した後に型枠を除去する場合は、コンクリート構造物の軽量化を図ることができる。
【0012】
本発明に係るコンクリート構造物は、付加製造装置の噴射ノズルから噴射されたコンクリート流動物が積層されて硬化したコンクリート本体と、前記コンクリート本体の内部に埋まっている補強部材と、を備える。
【0013】
本発明に係るコンクリート構造物では、前記補強部材とは異なる位置に配置され、且つ前記噴射ノズルから噴射された前記コンクリート流動物を自身に定着させる定着部材をさらに備えてもよい。
【0014】
本発明に係るコンクリート構造物では、前記補強部材は、互いに異なる方向に延びる複数の鉄筋で構成され、前記定着部材は、前記複数の鉄筋同士の隙間の面積より小さい面積の孔が形成された網状体であってもよい。
【0015】
本発明に係るコンクリート構造物では、前記補強部材は、互いに異なる方向に延びる複数の鉄筋で構成され、前記定着部材は、前記コンクリート構造物の外形に沿って配置される積層面を有する型枠であってもよい。
【0016】
上述のコンクリート構造物の各々によれば、付加製造装置の吹き付け方式を用いて、自動的に製造可能になり、生産性が高まる。
【0017】
本発明に係るコンクリート構造物では、前記定着部材は、前記補強部材で囲まれた領域において平面視で一直線上に延びていてもよい。
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物では、前記定着部材は、前記補強部材で囲まれた領域において平面視で湾曲していてもよい。
【0019】
本発明に係るコンクリート構造物では、前記定着部材は、前記補強部材で囲まれた領域において平面視で所定の中心位置から放射状に延びていてもよい。
【0020】
本発明に係るコンクリート構造物では、平面視で前記補強部材の径方向の外側で枠状に配置されていてもよい。
【0021】
上述のコンクリート構造物の各々によれば、コンクリート構造物の形状やコンクリート流動物の組成等に合わせて定着部材の形状や配置を選択し、少なくとも補強部材を備えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コンクリート構造物の生産性を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態のコンクリート構造物の側面図である。
図2図1に示すコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図である。
図3図1に示すコンクリート構造物の補強部材及び定着部材の側面図である。
図4図1に示すコンクリート構造物の施工方法を説明するための側面図である。
図5図1に示すコンクリート構造物の施工方法を説明するための側面図である。
図6】本発明の第1実施形態の第1変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図7】本発明の第1実施形態の第2変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図8】本発明の第1実施形態の第3変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図9】本発明の第1実施形態の第4変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図10】本発明の第1実施形態の第5変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図11】本発明の第2実施形態のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図12】本発明の第2実施形態の第1変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図13】本発明の第2実施形態の第2変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
図14】本発明の第2実施形態の第3変形例のコンクリート構造物の断面図であり、図1に示すZ-Z線で矢視した断面図に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るコンクリート構造物の施工方法及びコンクリート構造物の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0025】
(第1実施形態)
先ず、本発明に係る第1実施形態のコンクリート構造物10の構成及びコンクリート構造物10の施工方法について説明する。
【0026】
[コンクリート構造物の構成]
図1から図3に示すように、コンクリート構造物10は、コンクリート本体21と、補強部材30と、定着部材40と、を備える。第1実施形態のコンクリート構造物10は、不図示の土木構造物、建築物等に用いられる柱状体であり、例えば地面や基礎の表面等の基礎面5に対して略垂直なD1方向に沿って延びている。コンクリート構造物10は、略角柱状に形成されている。
【0027】
コンクリート本体21は、付加製造装置の噴射ノズル(図4参照)から噴射されたコンクリート流動物が積層されて硬化した物である。コンクリート本体21には、例えば水硬性混合物が用いられ、例えばセメントペースト、モルタル、コンクリート等の種々のセメント系材料と、ジオポリマー組成物等を含んでいる。
【0028】
補強部材30は、コンクリート本体21の内部に埋まっており、コンクリート本体21の芯材の役割を担っている。第1実施形態では、補強部材30は、例えば複数の鉄筋(線状補強材)で形成され、具体的には複数の主筋(鉄筋、線状補強材)33と、複数の帯筋(鉄筋、線状補強材)34と、を備える。
【0029】
複数の主筋33の各々の一部は、基礎面5に埋まっている。複数の主筋33の各々の他部は、基礎面5からD1方向に延びている。D1方向に沿って平面視すると、複数の主筋33は、互いに所定の間隔をあけて、コンクリート構造物10の輪郭よりも内側に、コンクリート構造物10の輪郭をなぞるように配置されている。以下、D1方向に沿って見る場合を単に「平面視」と記載し、例えばD2方向やD3方向から見る場合等のようにZ方向に交差する方向から見る場合を単に「側面視」と記載する場合がある。
【0030】
複数の帯筋34の各々は、D1方向の互いに異なる位置で複数の主筋33を接続して支持するように配置されている。複数の帯筋34は、D1方向において互いに所定の間隔をあけて配置されている(図3参照)。即ち、複数の帯筋34の各々は、複数の主筋33の各々と互いに異なる方向に延び、複数の主筋33の各々と交差している。
【0031】
定着部材40は、少なくとも補強部材30とは異なる位置に配置され、第1実施形態では平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域内に配置されている。図2に示すように、定着部材40は、D2方向に沿って一直線上に延びており、さらに基礎面5からZ方向に延びている。定着部材40が自立して基礎面5に立つのが困難である場合は、不図示の拘束部材等で主筋33又は帯筋34に支持されていてもよい。
【0032】
定着部材40は、付加製造装置の噴射ノズルから噴射されたコンクリート流動物を自身に定着させる部材である。「自身に定着させる」とは、付加製造装置の噴射ノズルから定着部材40に向けて噴射されたコンクリート流動物の少なくとも一部が先ず定着部材40の表面等に付着し、表面等に付着したコンクリート流動物に対してその後に噴射ノズルから噴射されたコンクリート流動物が積層され得ることを意味する。
【0033】
定着部材40は、例えば板状に形成された網状体41で形成されている。図3に示すように、網状体41には、複数の孔Hが形成されている。孔Hは、互いに接する複数の主筋33と複数の帯筋34との隙間(鉄筋同士の隙間)Sの面積より小さい面積を有する。D3方向から見て、孔Hの面積は、隙間Sの面積よりかなり小さく、網状体41に対して付加製造装置の噴射ノズルから噴射されたコンクリート流動物の大部分が網状体41自身に定着するように適宜設定される。
【0034】
網状体41は、任意の材料からなる糸状の素材が孔Hをなすように粗く編まれた部材であり、例えば金網、連続繊維シート、繊維補強プラスティック製のメッシュ素材等である。補強部材30の鉄筋は互いに異なる部材である複数の主筋33と帯筋34とが接するように組み合わされた部材であるのに対し、網状体41は編まれた複数の糸状の素材が一体となっている部材である。
【0035】
[コンクリート構造物の施工方法]
第1実施形態のコンクリート構造物の施工方法は、上述のコンクリート構造物10を施工する方法であり、少なくとも積層体形成工程と、コンクリート構造物形成工程と、を備える。
【0036】
先ず、図3に示すように、基礎面5に複数の主筋33をD2方向又はD3方向で互いに所定の間隔をあけて、且つコンクリート構造物10の形状に合わせて配置する。複数の主筋33をD1方向の所定の複数の位置の各々で接続するように、複数の帯筋34を配置する。続いて、網状体41を、平面視で複数の主筋33に囲まれた領域内でD2方向に延び、且つD3方向から見て基礎面5に対してZ方向に延びるように、配置する。網状体41の自立が難しい場合は、必要に応じて、網状体41のD2方向の端部を不図示の拘束部材等で主筋33又は帯筋34と接続する。
【0037】
次に、図4に示すように、積層体形成工程にて、付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を網状体(定着部材)41に噴射し、図5に示す積層体130を形成する。噴射ノズル111は、例えば遠隔操作による移動や自動走行が可能なロボットアーム110に装着されている。図4を含む図面では、付加製造装置101の噴射ノズル111及びロボットアーム110のみが示されている。なお、付加製造装置101の構成は、特に限定されない。また、付加製造装置101及びロボットアーム110の少なくとも一方が遠隔操作による移動や自動走行が可能であってもよく、付加製造装置101及びロボットアーム110の双方が遠隔操作による移動や自動走行が可能であってもよい。
【0038】
噴射ノズル111によって、所謂吹付け方式でコンクリート流動物121が所定の方向に噴射される。噴射ノズル111には、例えば複数の噴射孔(図示略)が形成されている。複数の噴射孔からは、所謂積層方式で積層されるコンクリート流動物よりも細粒状のコンクリート流動物121が噴射される。
【0039】
噴射ノズル111から噴射されたコンクリート流動物121は複数の主筋33及び複数の帯筋34を概ね通過する。複数の主筋33及び複数の帯筋34を通過したコンクリート流動物121の一部が網状体41の糸状の素材の表面に付着し、残りは網状体41の孔Hを通過する。網状体41のある領域に対する噴射時間が経過する程、網状体41に付着したコンクリート流動物に積層されるコンクリート流動物121の量が増え、孔Hを通過するコンクリート流動物121の量が減る。このようにして、噴射ノズル111から噴射されたコンクリート流動物121が網状体41に定着する。図4に例示する積層体130及び図5に例示する積層体132は、網状体41にコンクリート流動物121が定着して積層された物体である。
【0040】
次に、コンクリート構造物形成工程にて、噴射ノズル111からコンクリート流動物121を積層体130に噴射し、主筋33及び帯筋34で補強しつつ、コンクリート構造物10を形成する。具体的には、噴射ノズル111から噴射されたコンクリート流動物121を積層体130に積層しつつ、網状体41において別の領域にコンクリート流動物121を吹付けて積層体130を成長させる。積層体130を成長させる際に、主筋33及び帯筋34を内包させる。このことによって、図5に示すように、主筋33及び帯筋34は積層体130が成長した積層体132に埋まり、積層体132が補強される。
【0041】
コンクリート構造物10は、積層体130、132にコンクリート流動物121がさらに積層された物体である。但し、コンクリート流動物121のみを積層すると、コンクリート構造物10の表面が荒くなる可能性がある。そこで、第1実施形態では、噴射ノズル111からコンクリート流動物121を吹付けた部分を追って、噴射ノズル111とは互いに異なる噴射ノズル102からコンクリート流動物122を噴射する。
【0042】
噴射ノズル102には、噴射ノズル111の噴射孔よりも細かい複数の噴射孔(図示略)が形成されている。そのため、コンクリート流動物122は、コンクリート流動物121よりも細粒状になっている。積層体132の外側に、コンクリート流動物122を吹付けつつ、主筋33と帯筋34と網状体41を全て内包するように積層体132を形成し、コンクリート構造物10の外形と同様の形状の積層体132を形成する。噴射ノズル102を用いた場合は、平面視で積層体132及びコンクリート構造物10の外周部のコンクリートは、内周部のコンクリートよりも細粒状になる。
【0043】
続いて、コンクリート流動物121、122を所定の時間放置し、硬化させることで、コンクリート構造物10とする。
【0044】
以上説明した第1実施形態のコンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法によれば、遠隔操作による移動や自動走行が可能な付加製造装置101の吹き付け方式を用いて、コンクリート構造物10を自動的に製造可能になる。第1実施形態のコンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法では、従来のコンクリート構造物の施工時のように、事前に足場を組み立てる必要もコンクリート構造物10の完成後に足場を解体する必要もない。さらに、作業者が休む夜間や、作業者が作業し難い場所、環境等でもコンクリート構造物10を施工可能にし、コンクリート構造物10の生産性を高めることができる。
【0045】
第1実施形態のコンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法では、補強部材30を複数の主筋33と複数の帯筋34で形成する。第1実施形態のコンクリート構造物の施工方法のコンクリート構造物形成工程では、コンクリート流動物121で複数の主筋33と複数の帯筋34を埋めつつ、コンクリート構造物10を形成する。したがって、コンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法によれば、補強部材30として特殊な部材等を用いずに複数の鉄筋を用いて簡易に準備できる。
【0046】
第1実施形態のコンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法では、定着部材40を網状体41で形成する。第1実施形態のコンクリート構造物の施工方法の積層体形成工程では、付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を網状体41に噴射し、積層体130、132を形成する。したがって、コンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法によれば、先ず積層体130を形成し、積層体130を礎としてコンクリート構造物10を効率良く形成できる。また、コンクリート構造物10及びコンクリート構造物の施工方法によれば、定着部材40として特殊な部材等を用いずに網状体41を用いて簡易に準備できる。
【0047】
なお、図2には、網状体41が平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域内でD2方向に沿って一直線上に延びていることを示したが、網状体41の形状及び配置は適宜変更可能である。また、網状体41は、D3方向において複数の主筋33より低い領域のみに配置されていてもよく、積層体130を形成可能な最低限の大きさを有していればよい。
【0048】
例えば、第1実施形態の第1変形例として、図6に示すように、網状体41が平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域内でD2方向及びD3方向の双方に対して傾斜する方向に沿って一直線上に延びていてもよい。網状体41をこのように配置した場合も、第1実施形態と同様の作用効果が得られ、平面視での網状体41の長さを確保できる。
【0049】
例えば、第1実施形態の第2変形例として、図7に示すように、網状体41が平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域内で湾曲し、D2方向に対して蛇行していてもよい。網状体41をこのように配置した場合も、第1実施形態と同様の作用効果が得られ、平面視での網状体41の長さを確保できる。網状体41が湾曲している場合、凸となる部分に向かって付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を噴射した際に、コンクリート流動物121の飛散を抑えると共に、コンクリート流動物121の定着度を高めることができる。
【0050】
例えば、第1実施形態の第3変形例として、図8に示すように、網状体41が平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域内で所定の中心位置Cから放射状に延びていてもよく、一例として中心位置CからD2方向及びD2方向とは反対の方向とD3方向及びD3方向とは反対の方向の計4方向に延びていてもよい。網状体41をこのように配置した場合も、第1実施形態と同様の作用効果が得られ、平面視での網状体41の積層面50を広く確保できる。また、網状体41をこのように配置した場合も、Z方向から見て周方向で互いに隣り合う網状体41で挟まれる領域に向かって付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を噴射した際に、コンクリート流動物121の飛散を抑えると共に、コンクリート流動物121の定着度を高めることができる。
【0051】
例えば、第1実施形態の第4変形例として、図9に示すように、図8に示す網状体41の平面視の配置の角度を回転させ、網状体41が中心位置CからD2方向及びD3方向の双方に対して傾斜する計4方向に延びていてもよい。網状体41をこのように配置した場合も、第3変形例と同様の作用効果が得られる。
【0052】
さらに、第1実施形態の第5変形例として、図10に示すように、網状体41が平面視で複数の主筋33及び複数の帯筋34の径方向の外側で枠状に配置されていてもよい。網状体41をこのように配置した場合も、第1実施形態と同様の作用効果が得られ、網状体41の積層面50を広く確保できる。網状体41をこのように配置した場合には、例えば積層体形成工程にて、平面視で複数の主筋33及び複数の帯筋34の外側に枠状の積層体が形成される。そのため、積層体の硬化後に、図10の二点鎖線で示す領域にコンクリート流動物121を流入させて、コンクリート構造物10を形成してもよい。
【0053】
また、第1実施形態及び各変形例において、主筋33及び帯筋34の各々の数や配置は、コンクリート構造物10の形状に応じて適宜変更可能である。補強部材30は、主筋33や帯筋34を含む鉄筋に限定されず、各種金属材料、連続繊維、繊維補強プラスティック(FRP)等で形成されてもよい。
【0054】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態のコンクリート構造物の構成及びコンクリート構造物の施工方法について説明する。なお、以下の第2実施形態のコンクリート構造物の構成及びコンクリート構造物の施工方法の説明では、第1実施形態のコンクリート構造物10の構成及びコンクリート構造物の施工方法とは異なる内容について説明し、第1実施形態のコンクリート構造物10の構成及びコンクリート構造物の施工方法と重複する内容は省略する。
【0055】
図11に示すように、第2実施形態のコンクリート構造物12は、第1実施形態のコンクリート構造物10と同様に、コンクリート本体21と、補強部材30と、定着部材40と、を備える。但し、第2実施形態では、定着部材40は、コンクリート構造物12の外形に沿って配置される積層面50を有する埋設型枠(型枠)45で形成されている。埋設型枠45は、平面視で例えばD1方向に沿って延びている。埋設型枠45は建築時に使用可能なものであればよく、埋設型枠45の種類や素材は特に限定されない。
【0056】
第2実施形態のコンクリート構造物の施工方法は、コンクリート構造物12を施工する方法であり、第1実施形態で説明した積層体形成工程と、コンクリート構造物形成工程と、を備える。図示していないが、第2実施形態のコンクリート構造物の施工方法の積層体形成工程では、付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を埋設型枠45の積層面50に当てるように噴射する。このことによって、コンクリート流動物121が積層面50に積層された積層体を形成する。なお、コンクリート流動物121の積層方向は、D3方向のみではなく、第2実施形態のように積層面50に交差するD2方向を始め任意の方向を含む。
【0057】
以上説明した第2実施形態のコンクリート構造物12及びコンクリート構造物の施工方法によれば、第1実施形態と同様に、コンクリート構造物12を自動的に製造可能になる。第2実施形態のコンクリート構造物12及びコンクリート構造物の施工方法では、従来のコンクリート構造物の施工時のように、事前に足場を組み立てる必要もコンクリート構造物12の完成後に足場を解体する必要もない。さらに、作業者が休む夜間や、作業者が作業し難い場所、環境等でもコンクリート構造物12を施工可能にし、コンクリート構造物12の生産性を高めることができる。
【0058】
第2実施形態のコンクリート構造物12及びコンクリート構造物の施工方法では、定着部材40を埋設型枠45で形成する。第2実施形態のコンクリート構造物の施工方法の積層体形成工程では、付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を埋設型枠45の積層面50に当て、積層体を形成する。第1実施形態と同様に、コンクリート構造物12及びコンクリート構造物の施工方法によれば、先ず積層体を形成し、積層体を礎としてコンクリート構造物12を効率良く形成できる。また、コンクリート構造物12及びコンクリート構造物の施工方法によれば、定着部材40として特殊な部材等を用いずに埋設型枠45を用いて簡易に準備できる。
【0059】
なお、図11には、埋設型枠45が平面視で複数の主筋33及び帯筋34で囲まれた領域外でD3方向に沿って一直線上に延びていることを示したが、埋設型枠45の形状及び配置は適宜変更可能である。また、埋設型枠45は、D3方向において複数の主筋33より低い領域のみに配置されていてもよく、積層体を形成可能な最低限の大きさを有していればよい。
【0060】
例えば、第2実施形態の第1変形例として、図12に示すように、埋設型枠45が平面視でD3方向に延びる部分と、その部分のD3方向の両端からD2方向とは反対方向に延びる部分と、をさらに有していてもよい。埋設型枠45をこのように配置した場合も、第2実施形態と同様の作用効果が得られ、積層面50を広く確保できる。平面視で埋設型枠45の角部48に向かって付加製造装置101の噴射ノズル111からコンクリート流動物121を噴射した際に、コンクリート流動物121の飛散を抑えると共に、コンクリート流動物121の定着度を高めることができる。
【0061】
例えば、第2実施形態の第2変形例として、図13に示すように、埋設型枠45が中心位置Cを接続位置としてD2方向とは反対方向とD3方向とは反対方向とに延びていてもよい。埋設型枠45をこのように配置した場合も、第1変形例と同様の作用効果が得られる。
【0062】
さらに、第2実施形態の第3変形例として、図14に示すように、埋設型枠45が2つの角部48を接続位置としてD2方向とは反対方向とD3方向とは反対方向とに延びていてもよい。第2実施形態の第3変形例の埋設型枠45は、第2実施形態の第1変形例の埋設型枠45のD2方向とは反対方向に延びる部分をコンクリート本体21の端部まで延ばしたものと同じである。このように配置した場合も、第2実施形態の第1変形例と同様の作用効果が得られ、積層面50を第2実施形態の第1変形例よりもさらに広く確保できる。
【0063】
なお、第2実施形態では、埋設型枠45に替えて建築で一般に用いられる型枠を用い、コンクリート構造物12の施工時にコンクリート流動物121が完全に硬化した後に型枠を除去してもよい。
【0064】
以上、本発明に係る実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されない。特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、本発明の種々の変更が可能である。
【0065】
本発明に係るコンクリート構造物の形状は、コンクリート構造物10のように四角柱状(角柱状)に限定されず、三角柱状、六角柱状や円柱状でもよく、付加製造技術で造形し得る複雑曲面や任意の非平面等を有する複雑な形状であってもよい。
【0066】
また、本発明に係るコンクリート構造物の補強部材は、補強部材30のような鉄筋に限定されず、各種金属材料、連続繊維或いは繊維補強プラスチック(FRP)等からなる線状補強材で形成されてもよい。線状補強材の材料は、線状補強材として所定の強度を有する等の好適な条件を満たせば、特に限定されない。また、補強部材を上述の付加製造装置で造形してもよい。
【0067】
また、上述の噴射ノズル111は、ロボットアーム110に装着されている場合に限らず、例えば門形クレーン、バックホウや各種建設機械のアタッチメントに装着されてもよい。
【0068】
また、本発明に係るコンクリート構造物では、定着部材が補強部材で囲まれた領域において平面視で所定の中心位置から放射状に延びている場合、所定の中心位置から延びる定着部材の数は特に限定されない。所定の中心位置から延びる定着部材の数は、上述の各実施形態で例示したような4つや2つに限定されず、3つや5以上であってもよく、コンクリート構造物の形状に合わせて自由に適宜設定される。
【0069】
また、本発明に係るコンクリート構造物は、柱状体に限定されず、例えば梁や壁部材であってもよく、コンクリートで形成可能な構造物を広く含む。
【符号の説明】
【0070】
10、12 コンクリート構造物
30 補強部材
40 定着部材
33 主筋(鉄筋、線状補強材)
34 帯筋(鉄筋、線状補強材)
41 網状体
45 埋設型枠
101 付加製造装置
111 噴射ノズル
121 コンクリート流動物
130、132 積層体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14